説明

車載用電動機制御装置

【課題】
従来検討がなされていなかった車載用電動機制御装置を構成する個々の部品の劣化に起因する自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下を検知、自己診断する。
【解決手段】
電力変換器と電動機制御ユニットとからなる車載用電動機制御装置において、上記電動機制御ユニットは、制御演算部と、電動機制御装置としての最低限の機能を満たさなくなる異常を検知する異常検知手段と、所定の劣化判定基準値に基づいて車載電動機制御装置の構成部品の劣化を判定する劣化判定手段と、上記異常検出手段と劣化判定手段の出力情報に基づき、当該車載用電動機制御装置を構成する部品の異常ならびに当該車載用電動機制御装置が組みつけられた自動車が所定の性能範囲内での動作を維持できない状態を自己診断し、劣化異常状態情報を伝送する自己診断部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動車搭載の交流電動機を制御する車載用電動機制御装置に関し、特に自動車の性能を低下させる構成部品の劣化を自己診断する車載用電動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車載用電動機制御装置においては、その構成部品の故障を異常として検知し動作を停止させるものが良く用いられている。この例として特開平7-87602号公報(特許文献1)に開示されているものがある。これは電動機制御装置を電気自動車に適用したものであって、制御ユニットに伝達している電動機電流(相電流)の検出信号が途絶える異常が発生した場合にモータへの通電を停止し、車両が慣性力によって走行する状態へと移行させるものである。
【0003】
また、従来の電動機制御装置の構成部品の劣化判定を行うものとして特開平7-222436号公報(特許文献2)で開示されているものがある。これは構成部品の内、平滑用コンデンサの劣化判定を行いその寿命を検出するものである。特許文献2においては二種の劣化判定方法が提示されている。第一例のリップル電圧検出方式は平滑用コンデンサの端子間電位差を測定し、電圧変動(リップル)を捉えて所定の基準電圧特性を下回る頻度が多い場合に静電容量が減少し劣化していると判定する。第二例のリップル電流検出方式は平滑用コンデンサの充放電電流を測定し、電流変動(リップル)を捉えて所定の振幅を超過する場合に静電容量が減少し劣化していると判定する。ただし、劣化に基づく寿命判断は行うが、劣化による性能低下については関知していない。
【0004】
すなわち、上述した従来の車載用電動機制御装置では、構成部品の故障(異常発生)を検知して動作を停止するものの、当該車載用電動機制御装置が組みつけられた自動車の性能がどの程度低下するのかという観点に基づき、この性能低下の状態を検出し外部に通知するというものではなかった。換言すると、故障の発生により正常な性能を維持できなくなったことは検出するものの、自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下を漏らさないようにとの視点からは検出、通知をしていなかった。しかしながら、車載用電動機制御装置を構成する個々の部品の中には、故障とは言えないまでもその劣化によって自動車のシステムとして見過ごせない性能の低下が生じ得るものがある。
【0005】
例えば構成部品の劣化によっては、内燃機関動力と電動機動力を自動車動力として併用するハイブリッド自動車に適用される場合に、所定の指定の電動機出力目標量に対して実際の電動機出力を一致させるための制御が十分に機能せず、燃費、乗り心地の悪化や内燃機関排出ガスの各成分の悪化、電磁ノイズの増加、騒音の増加などを引き起こすことがある。また、パワーステアリング装置の油圧ポンプ駆動源や車載空気調和機のコンプレッサ駆動源に適用される場合には、電動機の動作効率が低下して所定の動力量を得るための電力が増加し、燃費の悪化やバッテリの消耗などを引き起こし、また副次的には排出ガスの各成分の悪化にもつながりかねない。
【0006】
これら自動車システムとして不適切な状態にあることは、車載用電動機制御装置の構成部品の劣化がさらに進行して故障として検知されない限り、外部から察知し改善することは非常に困難である。このため、故障までには至らない劣化の状態にあったとしても、自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下を検知し、さらにこれを通知するなどして改善することは重要な課題である。また、内燃機関の排出ガス各成分の悪化への影響を速やかに検知、自己診断してこの状態を回避し、また、適切に警告を発することは法律による規制の下で必須となる。
【0007】
ここで、自動車のシステムとして有意な性能の低下をもたらし得る車載用電動機制御装置の構成部品の劣化としては次のものが挙げられる。
(1)まず、電力変換半導体であるパワー素子にあっては、パワー素子が動作することによる発熱や動作停止することによる放熱により膨張、収縮を繰り返すこととなる。この時、半導体そのものであるパワーチップとパワーチップを支える支持部材との熱膨張率の差によりパワーチップが割れてしまい、部分的に使用不能領域が生じて特性が劣化してしまう場合がある。さらに、パワーチップを接合する半田にひびが入ることによって放熱特性が悪化してパワー素子の電気特性が劣化してしまうこともある。
【0008】
(2)また、平滑用コンデンサとしては、アルミ電解コンデンサやフィルムコンデンサなどがある。アルミ電解コンデンサは、酸化アルミニウムの誘電体皮膜を形成した陽極箔と陰極箔を対向させ、その間に電解液(電解質とその溶媒)で浸した電解紙を挟み込んだ構造となっている。 またフィルムコンデンサは誘電体であるポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)のフィルムに電極となる亜鉛やアルミなどの金属を蒸着したものを陽極、陰極一対の組み合わせとした構造となっている。
【0009】
平滑用コンデンサは、その役割が電力変換器のパワー素子のスイッチングに起因する直流側電力の変動を平滑化することであるが、スイッチングによって電力の充放電が繰り返されるため平滑用コンデンサには交流電流が流れることとなる。この時、交流電圧に対し交流電流が90度位相進みとなる理想的特性に比べ、誘電余効の影響により電流の位相が少し遅れるため誘導損失が生じて電力が消費される。この誘導損失によって平滑用コンデンサは内部発熱し、電解質の特性劣化、静電容量の減少、漏れ電流の増加、耐電圧性低下といった劣化を引き起こす。
【0010】
また、電極の抵抗成分、誘電体の抵抗成分等による等価直列抵抗(Equivalent Series Resistance)によっても平滑用コンデンサの特性は変化する。例えば電極の酸化進行、誘電体の経年変質などの抵抗値変化によって電気特性が変動するため平滑用コンデンサとしての性能が劣化することとなる。
以上例示したように、車載用電動機制御装置は故障に立ち至る迄にもその構成部品の劣化によって特性が変動し、自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下を引き起こし得る。
【0011】
(3)電流検出器としては、電流経路に値が既知の抵抗分を挿入し、該抵抗の両端の電位差を測定して電流量を測定するシャント抵抗方式や、電流経路に電流が流れることによって発生する磁束を捉えてその磁束量に基づいて電流量を測定するホール素子方式などがある。ここで、シャント抵抗方式にあっては、自身に電流が流れて発熱することによる特性変動を避けるため、比較的小さな抵抗値で設定する分、相対的に微小な検出電圧を増幅して実用的な電流検出信号となすことから、信号の増幅過程のインタフェース回路での電子部品特性変動が生じ易い。
【0012】
一方、ホール素子方式にあっては、ホール素子を磁束が貫通する際のホール効果によって発生するホール電圧をもって電流量を表す信号としている。ここで、電流経路を流れる電流量に起因して変化する磁束量に応じて、ホール素子を貫通する磁束が変化することから電流を測定できるものの、電流量以外の要因によっても貫通磁束量は増減してしまう。この要因としてはホール素子と電流経路の相対位置関係や、また、鉄芯などの集磁材を用いる場合は集磁材にホール素子を介挿する際の空隙(ギャップ)の長さなどがある。
【0013】
ホール素子と電流経路の相対位置関係は機械的取り付け位置が振動などにより経年変化してしまう場合が想定され、また、集磁材の空隙長は、集磁材そのものあるいは集磁材の支持構造の膨張収縮により変動し得る。さらに、微小なホール電圧信号を増幅して安定した信号とするためのインタフェース回路での電子部品特性変動によっても特性変動が生じ得る。これら電流検出器の劣化としては、電流量対出力電圧の比であるゲイン成分や電流がゼロにおいて発生する出力電圧であるオフセット成分の変動などが挙げられる。
【0014】
(4)パワー素子温度検出器としては、パワー素子の近傍にサーミスタを装着するサーミスタ形式や、パワーチップ内部、パワーチップ周縁部などにPN接合のダイオードを形成するサーマルダイオード形式のものがある。サーミスタ形式では、サーミスタ装着部の温度を略パワー素子温度とし、温度によってサーミスタの抵抗値が変化することを利用してパワー素子温度を検出する。ここでサーミスタの抵抗値変化を、温度として認識可能な電圧信号として変換するインタフェース回路を設けることとなるが、このインタフェース回路部品の特性変動によって温度検出性能の変化、すなわちパワー素子温度検出器としての劣化が生じ得る。
【0015】
また、サーマルダイオード形式は該ダイオードに所定の電流を流した上でダイオードの陽極(アノード)、陰極(カソード)間の電位差(ダイオードの順方向電圧降下)を検出してパワー素子温度となすものである。これはPN接合部の抵抗値が温度の関数となることから、所定の電流を流した際の順方向電圧降下量から温度を逆算できることを利用したものである。ここで所定の電流(望ましくは一定値)が、想定通りに流れず誤差を持つ場合に温度検出性能が変化することとなる。また、このダイオード順方向電圧降下は微小な非線形電圧信号であるため温度として認識可能な電圧信号として変換するインタフェース回路を設けることとなるが、サーミスタ形式と同様にインタフェース回路部品の特性変動によってパワー素子温度検出器としての劣化が生じ得る。
【0016】
【特許文献1】特開平7−87602号公報
【特許文献2】特開平7−222436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は従来検討がなされていなかった車載用電動機制御装置を構成する個々の部品の劣化に起因する自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下を検知、自己診断し、さらにこれを通知するなどして改善されるよう作用する車載用電動機制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、この発明になる車載用電動機制御装置の主たる構成は、直流電源に接続されパワー素子のスイッチングにより電力変換を行う電力変換器と、交流電動機の制御演算を行う電動機制御ユニットとからなる車載用電動機制御装置において、上記電動機制御ユニットは、上記パワー素子のスイッチング信号を出力する制御演算部と、
上記車載用電動機制御装置を構成する部品であって、電動機制御装置としての最低限の機能を満たさなくなる異常を検知する異常検知手段と、
当該車載用電動機制御装置が組みつけられた自動車が所定の性能低下をもたらすか否かによって設定される劣化判定基準値に基づいて車載電動機制御装置の構成部品の劣化を判定する劣化判定手段と、
上記異常検出手段と劣化判定手段の出力情報に基づき、当該車載用電動機制御装置を構成する部品の異常ならびに当該車載用電動機制御装置が組みつけられた自動車が予め定められた所定の性能範囲内での動作を維持できない状態を自己診断し、劣化異常状態情報を伝送する自己診断部と
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車載用電動機制御装置によれば、自動車システムとして所定の性能低下をもたらすか否かによって設定される劣化判定基準値に基づいて構成部品の劣化判定を行うため、故障まで至らないものの燃費、乗り心地、内燃機関排出ガス各成分、電磁ノイズ、騒音、バッテリ消耗などの性能低下状態であることを速やかに検出、自己診断し、この状態から回避すべく通知、警告して改善を促す車載用電動機制御装置が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による車載用電動機制御装置の全体構成図を示すもので、以下その詳細構成を図1について説明する。先ず、車載用電動機制御装置1はバッテリ等の直流電源3により電力が供給されており、その出力側には負荷となる交流電動機2が接続されている。車載用電動機制御装置1は大きくは電力変換器4と電動機制御ユニット5とからなり、上記電力変換器4はさらに直流電源3に並列接続された平滑用コンデンサ6と、トランジスタ7a〜7f及びフライホイールダイオード8a〜8fからなる三相インバータとからなっている。
【0021】
一方、上記電動機制御ユニット5は制御演算部9、保護回路10、劣化判定手段11、異常検知手段12、自己診断部13から構成されている。なお、14a〜14cは交流電動機2の電流量を検出する電流検出器、15a〜15cはサーマルダイオード、16a〜16cは定電流回路、17a〜17cはVf検出部である。パワー素子温度検出器は上記サーマルダイオード15a〜15c、定電流回路16a〜16c及びVf検出部17a〜17cからなっている。20a〜20fはパワー素子情報入力器、21は平滑用コンデンサ電流検出器、22は直流母線電流検出器、23はサーミスタである。直流電源3は電力変換器4を介して三相の交流電動機2に接続されている。
【0022】
動作形態の一例として、電力変換器4は内部のパワー素子を構成する計6個のトランジスタ7a〜7fをスイッチングすることにより直流電力と交流電力を相互に変換して交流電動機2を駆動または制動する。電動機制御ユニット5内に制御演算部9が備わっており、図示しない外部からの装置からの制御指示信号に従って、例えば公知のベクトル制御法などの制御演算を行う。制御演算の結果、スイッチング信号が生成され、このスイッチング信号によりトランジスタ7a〜7fがON(短絡)、OFF(開放)のスイッチング動作を行う。スイッチング動作によって交流電動機2の電力線に印加する電圧を操作することで、電動機制御が行われる。
【0023】
制御演算部9で電動機制御演算を行う際の入力情報として電動機電流量、パワー素子温度を用いる。電動機電流量は電流検出器14a〜14cにより検出されて電動機制御ユニット5へ取り込まれる。パワー素子温度はパワー素子温度検出器により検出される。図1にはパワー素子温度検出器としてサーマルダイオード形式のものを図示している。前記したようにサーマルダイオード15a〜15c、定電流回路16a〜16c、Vf検出部17a〜17cを一組として構成され、サーマルダイオード15a〜15cに所定電流を流した際のVf(順方向電圧)を検知して、ダイオードのPN接合部の温度に依存してVfが変化することに基づき温度を検出する仕組みである。
【0024】
ここで、車載用電動機制御装置を構成する部品において、電動機制御装置単体のみならず、自動車システムとしてみた場合に有意な性能低下をもたらし得るものとして、トランジスタ7a〜7f及びフライホイールダイオード8a〜8fからなるパワー素子、平滑用コンデンサ6、電流検出器14a〜14c、サーマルダイオード15a〜15c、定電流回路16a〜16c及びVf検出部17a〜17cからなるパワー素子温度検出器のそれぞれの特性変動がある。
【0025】
この特性変動は、前記した各部品の劣化によって発生する。すなわち、パワー素子の劣化として具体的には、例えばパワーチップ(トランジスタ7a〜7f、フライホイールダイオード8a〜8f)の割れ、パワーチップを接合する半田のひびによってパワーチップに部分的使用不能領域が発生してパワーチップのON抵抗が増加し、劣化が進行したパワーチップと劣化していないパワーチップとで電気的特性が異なることで電気供給経路の平衡性が損われたり、ON抵抗の増加により発熱量が増加して放熱、冷却性能の許容値を超え、劣化進行度合いが加速するといった性能悪化が挙げられる。
【0026】
これらパワー素子の劣化によって、電動機の回転が滑らかに行われず出力トルク変動が発生したり、大電流時にこれを検知してパワーチップのスイッチングを遮断する過電流保護が所定の設定値から誤差をもって動作してしまったり、あるいは局所的な温度上昇によって過熱保護のための電動機出力制限動作が頻発して当初設計通りの連続的な運転を満足できないといった問題が発生する。
【0027】
また、平滑用コンデンサの劣化として具体的には、電解質の特性劣化、静電容量の減少、漏れ電流の増加、耐電圧性の低下といった特性変動が生じる。これら平滑用コンデンサの劣化によって、平滑能力が低下して直流の電圧、電流リップルが増加し、電動機制御の安定性が損われたり、直流側電力供給経路の電磁ノイズの増加、すなわち電磁妨害性(EMI)の悪化、バッテリなど直流電源へ電圧、電流リップルが伝わることによる直流電源そのものの劣化を引き起こす。また、耐電圧性能の低下は絶縁破壊に対する余裕の減少となる。一般的に予め耐電圧性能の低下を見越してマージンを持たせるよう電力変換器の直流動作電圧(系電圧)の設定が行われるが、マージン設定は、装置の容積、コストとのトレードオフ関係となるため、可能な限りマージンを削減することが望まれる。
【0028】
また、電流検出器の劣化として、具体的には例えば振動によりホール素子の機械的取り付け位置が変化してしまうことでの電流経路との相対位置関係の変動や、集磁材そのものあるいは集磁材の支持構造の膨張収縮による集磁材空隙長の変動、信号の増幅過程のインタフェース回路での電子部品特性変動といったものが挙げられる。これら電流検出器の劣化によって、電流量対出力電圧の比であるゲイン成分や電流がゼロにおいて発生する出力電圧であるオフセット成分の変動が発生する。電流検出器は電動機の制御性能に関して重要な役割を果たしており、ゲイン成分やオフセット成分の変動によって動作の平衡性が失われて出力トルク変動を発生したり、電流波形の乱れが大きくなり大電流を検知してパワーチップのスイッチングを遮断する過電流保護が頻発したり、また所定の電動機出力目標量に対して実際の電動機出力が一致しないといった問題を起こす。
【0029】
更に、パワー素子温度検出器の劣化として、具体的には例えばインタフェース回路部品の特性変動といったものが挙げられる。パワー素子温度検出器が劣化することで温度検出結果に誤差が生じ、実際のパワー素子温度に比べて温度検出結果が高く出力される場合には過熱保護のための電動機出力制限動作が頻発して当初設計通りの連続的な運転を満足できないという問題が発生し得る。一方、実際のパワー素子温度に比べて温度検出結果が低く出力される場合には、本来過熱保護が動作すべきパワー素子温度に達していても保護が行われず、パワー素子の劣化が進行したり、場合によっては破壊に至るおそれがある。また、パワー素子温度検出結果に基づいてパワー素子のON抵抗をテーブル参照するなどして算出して高精度の電動機制御に適用している場合などでは、温度検出結果の誤差によって制御精度が悪化することとなる。
【0030】
これら車載用電動機制御装置を構成する部品の劣化は、劣化判定手段11にて判定する。また劣化がさらに進行したり、故障によって機能を満たさなくなった場合などの異常は、異常検知手段12にて検知する。すなわち、従来から電動機制御装置に備えられていた「電動機制御装置としての最低限の機能を満たさなくなることを検知」する役割を異常検知手段12が担い、本発明の特徴的要素である「自動車システムとしてみた場合に有意な性能低下をもたらし得る特性変動(劣化)を判定」する役割を劣化判定手段11が担うこととなる。
【0031】
また、保護回路10はパワー素子の過電流(OC-Over Current)や短絡電流(SC-Short Current)、過熱(OT-Over Temperature)を検知してパワー素子のスイッチングを停止し保護を行う機能を有しており、公知の電力変換器とその制御回路からなる電力変換モジュールが備えるものと同じである。保護回路10のスイッチング停止動作信号は制御演算部9の演算過程での情報として、また、制御演算結果に依らず直接にスイッチング信号をスイッチング停止状態とするための情報として使用される。
【0032】
劣化判定手段11の動作は次のようになる。図2は劣化判定手段の構成を模式的に示す構成図である。劣化判定手段11は、劣化判定基準テーブル110、パワー素子劣化判定部111、平滑用コンデンサ劣化判定部112、電流検出器劣化判定部113、パワー素子温度検出器劣化判定部114を有している。それぞれの劣化判定部での判定は、パワー素子情報、平滑用コンデンサ情報、電動機電流情報、パワー素子温度情報、及び、保護回路10からの過電流(OC)・短絡電流(SC)保護発生情報、過熱(OT)保護発生情報に基づいて行われる。
【0033】
ここで、パワー素子情報はパワー素子(トランジスタ7a〜7f、フライホイールダイオード8a〜8f))の端子間電位差や過電流(OC)・短絡電流(SC)保護などにも使用されるパワーチップ通過電流分流量を指し、図1に示すパワー素子ごとに備えられるパワー素子情報入力器(20a〜20f)を介して電動機制御ユニット5へ伝送される。また、平滑用コンデンサ情報は平滑用コンデンサ電流検出器21からの平滑用コンデンサ通過電流量、直流母線電流検出器22からの直流母線電流量、サーミスタ23からの平滑用コンデンサ温度などを指す。
【0034】
また、各劣化判定部での判定は劣化判定基準テーブル110に設定される劣化判定基準を基準として行われる。図3は劣化判定基準テーブル110の構成例を示す図である。劣化判定基準は判定対象であるパワー素子、平滑用コンデンサ、電流検出器、パワー素子温度検出器の各部品毎に2段階〜4段階に設定され、また、各部品におけるそれぞれの劣化判定毎に、当該車載用電動機制御装置が組み付けられた自動車がシステムとして所定の性能劣化をもたらすか否かに基づいて設定される。次に、パワー素子、平滑用コンデンサ、電流検出器、パワー素子温度検出器の各部品における劣化判定方法について説明する。
【0035】
[パワー素子劣化判定]
パワー素子劣化判定部111での劣化判定は次のように行われる。まず、パワー素子情報入力器20a〜20fにより、パワー素子を構成するトランジスタ7a〜7fのそれぞれのコレクタ-エミッタ間電圧Vce、ゲート-エミッタ間電圧Vge、コレクタ電流分流Ic’が検出されパワー素子劣化判定部111へ入力される。また、同様にスイッチング信号、保護回路10からの過電流(OC)・短絡電流(SC)保護発生情報、過熱(OT)保護発生情報もパワー素子劣化判定部111へ入力される。
【0036】
図4はスイッチング信号によってトランジスタがスイッチON、スイッチOFFする際の動作波形を模式的に表した図であり、(a)はスイッチング信号、(b)はゲート−エミッタ間電圧Vge、(c)はコレクタ−エミッタ間電圧Vce、(d)はコレクタ電流Icの波形である。いずれも横軸は共通の時間軸である。ここでパワー素子が劣化している場合、スイッチON時コレクタ-エミッタ間飽和電圧Vce(sat)の増加、パワー素子のスイッチング反応時間の指標であるターンオン時間(ton)の増加、ターンオフ時間(toff)の増加という現象として現れる。ターンオン時間(ton)はスイッチON動作の際にVgeが最大振幅の10%に達した(○印)時間からVceがスイッチON移行初期電圧の10%に達する(○印)までの時間である。また、ターンオフ時間(toff)はスイッチOFF動作の際にVgeが最大振幅の90%に達した(○印)時間からIcが減衰してスイッチOFF移行初期量の10%に達する(○印)までの時間である。
【0037】
これらのことから、次の方法により劣化判定を行うことができる。
(1)スイッチング信号ON動作移行後またはゲート−エミッタ間電圧Vge最大振幅到達後所定時間(トランジスタが既にONしているであろう時間)経過時点でのコレクタ-エミッタ間飽和電圧Vce(sat)を判定基準値[Ref_Vce(sat)]と比較。
(2)スイッチON動作にてゲート−エミッタ間電圧Vgeが立ち上がりゼロクロス時点から所定時間(ターンオン定格時間)経過時点でのコレクタ-エミッタ間電圧Vceを判定基準値[Ref_Vce(ton)]と比較。
【0038】
(3)スイッチOFF動作にてゲート−エミッタ間電圧Vgeが減衰開始時点から所定時間(ターンオフ定格時間)経過時点でのコレクタ電流分流Ic’を判定基準値[Ref_Ic’(toff)]と比較。また、
(4)過電流(OC)・短絡電流(SC)保護発生回数カウント値を判定基準値[Num_OCSC]と比較、過熱(OT)保護発生回数カウント値を判定基準値[Num_OT]と比較。
という方法によっても、瞬間的異常の発生頻度増加から劣化判定を行うこともできる。
以上のようにパワー素子劣化判定部111はコレクタ-エミッタ間電圧Vce、ゲート-エミッタ間電圧Vge、コレクタ電流分流Ic’、スイッチング信号、過電流(OC)・短絡電流(SC)保護発生情報、過熱(OT)保護発生情報に基づいて、パワー素子劣化判定を行い、判定結果を出力するので、パワー素子の劣化に起因する自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下を検知することができる。
【0039】
[平滑用コンデンサ劣化判定]
平滑用コンデンサ劣化判定部112での劣化判定は、例えば特許文献2(特開平7-222436号公報)にて公知の技術に基づいて次のように行われる。まず図1に示される平滑用コンデンサ電流検出器21により平滑用コンデンサ通過電流量ic_rplが検出され、直流母線電流検出器22により直流母線電流量idcが検出される。また、サーミスタ23から平滑用コンデンサ6の温度tem_Cが検出される。
【0040】
図5(a)は平滑用コンデンサ劣化判定部112の詳細な構成を示すブロック図である。
図中、31は実効値演算器、32は低域通過フィルタ(LPF)、33は振幅比演算器、34は補正ゲインテーブル、35は乗算器、36は比較器である。
まず、実効値演算器31は上記平滑用コンデンサ通過電流量idc_rplを入力して、その実効値を算出する。また、低域通過フィルタ(LPF)32は上記直流母線電流量idcを入力して、その低周波数域成分を算出する。つづいて、振幅比演算器33は上記平滑用コンデンサ通過電流量実効値と直流母線電流量低周波数域成分を入力して、その比を算出する。
【0041】
また、補正ゲインテーブル34は上記平滑用コンデンサ温度tem_Cを入力してテーブル参照により補正ゲインを出力する。乗算器35はこの補正ゲインと上記振幅比演算器33の出力を掛け合わせて出力する。
次に、比較器36にて乗算器35の出力と平滑用コンデンサ劣化判定基準値の間の大小関係比較により劣化判定が行われ、劣化判定基準値が乗算器35の出力より小さい場合に劣化状態であると判定される。すなわち、直流母線電流量と平滑用コンデンサのリップル電流量の比を平滑用コンデンサの温度により補正した後、劣化判定基準値と比較して判定する態様である。
【0042】
図5(b)は平滑用コンデンサ劣化判定部112の別な様態での詳細な構成を示すブロック図である。図中、37はリップル抽出器、38は減算器であり、また、図4(a)に示したブロックとと同じ働きをするものは同一の符号を付している。
まず、リップル抽出器37は直流母線電流量idcを入力する。リップル抽出器37は低域通過フィルタ(LPF)32、減算器38、実効値演算器31から構成される。低域通過フィルタ(LPF)32は直流母線電流量idcを入力して、その低周波数域成分を算出する。減算器38は直流母線電流量から直流母線電流量低周波数域成分を減算し直流母線電流リップル成分となす。
【0043】
実効値演算器31はこの直流母線電流リップル成分を入力して、その実効値を算出する。つづいて、振幅比演算器33は上記直流母線電流リップル成分実効値と直流母線電流量低周波数域成分を入力して、その比を算出する。また、補正ゲインテーブル34は平滑用コンデンサ温度tem_Cを入力しテーブル参照により補正ゲインを出力する。以降、乗算器35、比較器36の動作は、図5(a)での例と同じであるため説明を省略する。これら図5(b)での例は直流母線電流量の低周波数域成分とリップル成分の比を平滑用コンデンサの温度により補正した後、劣化判定基準値と比較して判定する態様である。
【0044】
以上のように平滑用コンデンサ劣化判定部112は平滑用コンデンサ通過電流量、直流母線電流量、平滑用コンデンサ温度に基づいて、平滑用コンデンサ劣化判定を行い、判定結果を出力するので、平滑用コンデンサの劣化に起因する自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下を検知することができる。
尚、平滑用コンデンサの劣化判定の方法として公知の他の方法を用いてもよく、本発明において劣化判定方法が例示した方式に限定されるわけではない。
【0045】
[電流検出器劣化判定]
電流検出器劣化判定部113での劣化判定は、例えば次の原理に基づいて行われる。
(1)交流電動機巻線電気特性の平衡性利用
電動機多相巻線の電気特性が平衡(抵抗、自己インダクタンス、相互インダクタンス各成分が各相とも同量)しており、何れの相にも同等振幅の電流が流れる場合に、電流検出器からの各相電流量検出値の振幅が同等であるか否かに基づいて劣化判定を行う。スイッチング信号を、公知の矩形波1パルススイッチング法またはすべてOFF(フライホイールダイオード8a〜8fのみに電流が流れる全波整流状態)とすれば安定した平衡電流が流れるため劣化判定の精度が高まる。
【0046】
(2)単一電流経路での複数電流検出器同時検出
交流電動機が低回転速度で速度起電力が小さい場合(停止時など)に電流検出器が備えられた複数の経路に単一電流が流れるようパワー素子のスイッチングを組み合わせ、複数の電流検出器で同一電流量を検出し、その検出値の差異に基づいて劣化判定を行う。
例えば、三相交流電動機の制御を三相インバータで行う場合、三相を構成するU、V、W相の内、U相高電位(P)側トランジスタ7aとV相低電位(P)側トランジスタ7dをスイッチONし、その他のトランジスタ7b、7c、7e、7fをスイッチOFFすれば、電流は高電位(P)側からトランジスタ7aを経てU相巻線を正方向に流れ入り、V相巻線を負方向に流れ出てトランジスタ7dを経て低電位(N)側へ帰還する。このとき電流検出器14aと14bは極性が異なる同一電流量を検出することとなるので、この時の検出結果に相違があればいずれか、あるいは両方の電流検出器に特性変動が生じていることとなる。
【0047】
上記の(1)の場合は各相検出電流の振幅の同等性を所定基準値と比較することで、(2)の場合はスイッチングの組み合わせによる各相電流検出値同士の差異に基づいて所定基準値と比較することで劣化判定を行う。ここで、所定基準値は電流検出器同士のバラツキ許容値にあたるが、交流電動機巻線の電気定数(抵抗、インダクタンス、誘起電圧定数)が既知であれば電流検出器特性変動を物理的絶対量として算出することも可能であり、基準値を物理的絶対量として個々の電流検出器の特性と比較して劣化判定を行うこともできる。以上のように電流検出器劣化判定部113は劣化判定を行い、判定結果を出力するので、電流検出器の劣化に起因する自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下を検知することができる。
【0048】
[パワー素子温度検出器劣化判定]
パワー素子温度検出器劣化判定部114での劣化判定は、例えば次のようにして行われる。
(1)車載用電動機制御装置1が充分放熱されパワー素子温度が周囲温度相当となった際の各パワー素子温度検出器同士の検出結果の差異(バラツキ)を基準値と比較する。
(2)多相平衡状態運転時でパワー素子間のスイッチング頻度、通過電流量が平衡している場合での各パワー素子温度検出器同士の検出結果の差異(バラツキ)を基準値と比較する。
(3)所定基準時点(例えばパワー素子のスイッチング開始時点)からのパワー素子温度検出器の検出結果変化特性を、予め定められたパワー素子発熱放熱特性テーブルと比較してその差異を基準値と比較する。
【0049】
上記の(1)、(2)の場合での所定基準値はパワー素子温度検出器のバラツキ許容値にあたるが、複数のパワー素子温度検出器からの検出値の多数決やその他統計的手法によって、検出結果の差異を物理的な(真の)温度からの誤差として算出することも可能である。このため、劣化判定基準値を温度誤差として判定することも可能である。
以上のようにパワー素子温度検出器劣化判定部114は劣化判定を行い、判定結果を出力するので、パワー素子温度検出器の劣化に起因する自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下を検知することができる。
【0050】
また、異常検知手段12は従来から電動機制御装置に備えられていた公知の故障状態検知を行い、検知結果を出力する。例えば、パワー素子の異常検知としては短絡故障、開放故障を、平滑用コンデンサの異常検知としては端子間電圧の低下や平滑用コンデンサの漏れ電流増加を検知する。電流検出器、パワー素子温度検出器の異常検知としてはそれぞれ電流検出信号経路、パワー素子温度検出信号経路の天絡、地絡、信号量不変などを検知する。
【0051】
つづいて、自己診断部13は劣化判定手段11の劣化判定結果及び異常検知手段12の異常検知結果を入力する。劣化判定結果は劣化判定手段11が行う各判定項目に対する劣化の有無を識別できる情報であり、異常検知結果は異常検知手段12が行う各検知項目に対する異常の有無を識別できる情報である。
自己診断部13では自動車が予め定められた所定の性能範囲内での動作を維持できない状態を警告するために、劣化判定結果、異常検知結果の各入力に基づいて劣化、異常の有無を分類し、重要性による段階付けを行う。その後、所定の方法に従って劣化異常状態情報を情報伝送すべく情報の符号化(コーディング)、情報伝送部分の制御を行い、劣化異常状態情報を出力する。
【0052】
尚、本実施例において、パワー素子、平滑用コンデンサ、電流検出器、パワー素子温度検出器の劣化判定方法を例示したが、各劣化判定部での劣化判定方法としてはこれらに限定されるものではない。例えば、各要素の動作特性を表す数理モデルにより非劣化時の特性(規範特性)と実特性を突き合わせて、その特性の偏差と劣化判定基準値を比較して劣化判定を行うものであってもよい。
【0053】
実施の形態2.
以下、この発明の実施の形態2による車載用電動機制御装置について説明する。図6はハイブリッド自動車に適用した例を示す車載用電動機制御装置1の全体構成を示すブロック図であり、図中、図1と同一の符号を付したものは、同一または相当部分を示しており、同一部分の動作説明は適宜省略する。
図6において、40は内燃機関、41は変速機、42は減速機、43はドライブシャフト、44は駆動輪、45は内燃機関制御ユニット、46はハイブリッドシステム制御ユニット、47は有線通信ネットワークである。
【0054】
交流電動機2の動力と内燃機関40の回転動力は共に変速機41に伝達されて、双方の合計回転動力が減速器42へ出力される。さらに回転動力は減速機42にて減速され、ドライブシャフト43を介して、駆動輪44へ伝達し、駆動輪の回転によって自動車が前進動作、あるいは後退動作することとなる。すなわち、交流電動機1はハイブリッド自動車の駆動力源として働いている。
【0055】
ここで、内燃機関40は内燃機関制御ユニット45の制御演算結果に従って動作しており、変速機41はハイブリッドシステム制御ユニット46の制御演算結果に従って動作している。また、ハイブリッド制御ユニット46は自動車が燃費や排出ガス、乗り心地に関してハイブリッド自動車が適切に動作するように内燃機関制御ユニット45と電動機制御ユニット5へ制御指示を出力する。電動機制御ユニット5はこの制御指示に従って電力変換器4内のパワー素子をスイッチングし交流電動機2を駆動、制動することとなる。
【0056】
上記のように、ハイブリッド自動車はその構成的特長から、内燃機関、電動機、変速機が正しく連携することで所望の性能を発揮できる仕組みとなっている。ここで、車載用電動機制御装置1を構成する部品が劣化し特性変動が生じると、上記連携が崩れて有意な性能低下が生じてしまう。性能低下の例として、燃費、トルク変動、乗り心地、内燃機関排出ガス各成分、電磁ノイズ、騒音などが挙げられる。また、ハイブリッド自動車は使用地域によっては、排出ガスや燃費が法律や政策目標で定められた所定のレベルを満たす車両であることに着目して、導入が促進されている場合がある。このため、上記の有意な性能低下が発生する場合に、この状態を検出して直ちに改善可能とすることが重要である。
【0057】
図7は上記のようなハイブリッド自動車における車載用電動機制御装置構成部品の劣化判定基準の設定手法を模式的に表した説明図である。上述した観点から劣化判定手段11内の劣化判定基準テーブル110の劣化判定基準は、上記の燃費、トルク変動、乗り心地、内燃機関排出ガス各成分、電磁ノイズ、騒音の特性悪化と、車載用電動機装置1の構成部品であるパワー素子7、8、平滑用コンデンサ6、電流検出器14、パワー素子温度検出器15の劣化との相関に基づいて設定する。ここで、燃費やトルク変動などの評価・診断レベルは、自動車の使用地域によって規定される場合もあり、これに適応した設定とする。
【0058】
図8は自動車システムの性能低下レベルに基づき劣化判定基準の設定値を定める際の一例を示しており、乗り心地の悪化に影響する電動機の出力トルク変動、及び、電磁ノイズに対して電流検出器のゲイン変動の劣化判定基準値を定めている。まずS101でトルク変動に関して性能低下許容値ΔB[Nm]未満と指定される。次にS102にてΔB[Nm]未満に相当する電流検出誤差は±10[%]未満と見積もられS103にてこの電流検出誤差に適合する電流検出器ゲイン(CTU_G)の特性変動範囲が±5[%]未満と見積もられる。
【0059】
一方、S111で電磁ノイズに関して性能低下許容値E[dBμV]未満と指定される。次にS112にてE[dBμV]未満に相当する電流検出誤差は±30[%]未満と見積もられ、S113にてこの電流検出誤差に適合する電流検出器ゲイン(CTU_G)の特性変動範囲が±15[%]未満と見積もられる。S121ではS103での電流検出器ゲインの特性変動範囲とS113での電流検出器ゲインの特性変動範囲とを突き合わせて比較し、より厳しい設定値である特性変動範囲±5[%]未満を選択する。次にS122で電流検出器ゲイン(CTU_G)の特性変動劣化判定基準値を±5[%]として劣化判定基準テーブル110に設定する。
【0060】
以上述べたような方法によって劣化判定基準値が定められ、劣化判定基準テーブル110が構成される。劣化判定手段11はこの劣化判定基準値に基づいて劣化判定を行うため、ハイブリッド自動車に適用される場合に、劣化判定基準を、燃費、トルク変動による乗り心地、内燃機関排出ガス各成分、電磁ノイズ、騒音などの評価要素に対する各影響因子に基づいて定めることにより、ハイブリッド自動車として有意な性能の低下と車載用電動機制御装置の劣化、異常の発生とを的確に結びつけることができる。
【0061】
このことから、車載用電動機制御装置の構成部品の劣化、異常に起因して発生するハイブリッド自動車の上記評価要素の有意な性能の低下に対して、これを見逃すことなく自己診断を行い判定、検知することが可能となる。図6の自己診断部13は上記の劣化判定結果を入力して所定の方法に従って分類、処理し、劣化異常状態情報として有線通信ネットワーク47を介して通信伝送する。有線通信ネットワークとしては、例えばCAN(ControlArea Network)やLIN(Local Interconnect Network)といった公知のものがあり自動車用途として広く使用されている。
【0062】
有線通信ネットワーク47には、内燃機関制御ユニット45、ハイブリッドシステム制御ユニット46が信号接続されており、自己診断部13の出力する劣化異常状態情報はこの二つのユニットにて認識、識別することができる。すなわち、車載用電動機制御装置1内の構成部品の劣化によって自動車システムとしての性能低下が発生していることを、連携動作する内燃機関制御ユニット45、ハイブリッドシステム制御ユニット46に通知することができるので、車両を安全に停止させたり、適切な範囲に限定して動作させるなど車両制御の状況に応じて適切な処置を選択して実行することができる。また、車載用電動機制御装置としては同様の劣化、異常の発生であっても、外部装置が担う車両制御の状況に応じて適切な処置を選択して実行することができ、対応に柔軟性を持たすことができる。
【0063】
尚、上記では有線による通信伝送例を示したが、無線によって通信伝送を行うものであっても良い。無線による通信伝送であれば自車両内の電子制御装置だけでなく別の車両の電子制御装置に対しても劣化異常状態情報を通信伝送できるため、例えば走行時に劣化、異常が発生して車両が停止動作に入ることを、周辺を走行中の別の車両に通知することで車両の停止動作による衝突の危険を回避できるなどの応用が見込まれる。
【0064】
実施の形態3.
図9は実施の形態3による車載用電動機制御装置の構成を示すブロック図である。図において、車載用電動機制御装置1の内、電動機制御ユニット5は自己診断部13のみを示している。図9において、50は警告灯、51は画面表示装置、52はブザー、53はスピーカ、54は診断情報処理端末である。なお、図1、図6と同一の符号を付したものは同一または相当部分を示している。
【0065】
図9において、有線通信ネットワーク47には、車載用電動機制御装置1とは別に第一電子制御装置45、第二電子制御装置46、及び、診断情報処理端末54が接続されている。いま、図示しない劣化判定手段11あるいは異常検知手段12により劣化、異常が検出された場合、何らかの方法により劣化、異常の状態を改善する要求が発生する。このため、自動車内の別な電子制御装置と通信線を共有するとともに劣化、異常の情報を効率良く処理する診断情報処理端末54を接続できる態様にすれば、劣化、異常の状態の改善に効果的である。
【0066】
診断情報処理端末54を用いて劣化、異常情報をやり取りするため、車種や電子制御装置に依らず使用地域により共通に定められた自己診断用通信伝送プロトコルを用いる形式がよく、例えば内燃機関自動車の変速機制御ユニットや内燃機関制御ユニットにおいては、北米地域でOBD II(On-BoardDiagnosis II)、欧州地域でISO(International Organization for Standardization)9141-2といった規定に従った通信伝送プロトコルが使用される。このため、自己診断部13についても同様に使用地域に応じて定められる所定の自己診断用通信プロトコルを使用して劣化、異常情報を通信伝送するのが適切である。以上のようにすることにより、当該自動車の自己診断用の有線通信、あるいは無線通信のための装置や信号線を共通化でき、利便性が向上することとなる。
【0067】
また、自己診断部13は上記有線通信ネットワーク47とは別に警告灯50や画面表示装置が接続している。自己診断部13は劣化、異常状態を検出した場合に、警告灯を点灯、点滅したり、画面表示装置に警告表示がなされるように制御して、視覚により警告する。さらに、自己診断部13はブザー52やスピーカ53と接続している。自己診断部13は劣化、異常状態である場合にブザー52やスピーカ53により警告音を発し聴覚により警告する。
【0068】
以上説明した形態によって、自己診断部13による劣化、異常状態は的確に効率良く自動車の乗員や自動車継続検査(車検)における検査担当員、自動車の整備担当員へ通知、警告することができる。車載用電動機制御装置1は装置の構造や取り付け位置の関係上、開封により中身を観察して劣化状態を識別したり寿命を推定することは非常に困難であるため、日常整備時や自動車継続検査(車検)時に劣化、異常状態を知ることは、安全に自動車を使用する上で有意義である。
【0069】
実施の形態4.
次に実施の形態4について説明する。この実施の形態は図示は省略しているが、図1において自己診断部13が出力する劣化、異常状態情報を、劣化、異常状態の事象発生時点を遡った、また事象発生時以降の時系列情報とし、自己診断部13をこの時系列情報を蓄積する機能を有するようにしたものである。これにより、劣化判定、異常検知の自己診断結果が時系列の情報となることから、劣化、異常が複合して発生した場合に、二番目以降に発生した劣化、異常が、その発生時点より先に発生した劣化、異常により従属的に発生したもので有るか否かの識別が容易となり、従属的に発生した事象を改善、補修対象から除くなどの処理判断が行える。このため、劣化、異常状態からの改善を効率良く行うのに好適である。
【0070】
実施の形態5.
更に、同じく図示していないが、図1において車載用電動機制御装置1が、起動時に電動機制御動作を開始するのに先立ち、自己診断処理を行って劣化異常状態情報を伝送する機能を有するようにすることができる。これにより、装置起動時に所定の劣化判定基準値よりも厳しく判定する基準値でもって自己診断を行って劣化異常状態情報を伝送することから、自動車の走行中に劣化、異常状態が進行して自動車システムとして有意な性能低下に至ってしまう危険を事前に防ぐことができる。さらに、装置起動時の車両停車状態であれば、劣化、異常状態の改善を行うための状況が整えられている可能性が高く、好適である。
【0071】
実施の形態6.
更に、図1において自己診断部13が出力する劣化異常状態情報に車載用電動機制御装置1の個体を特定可能な製造識別番号を含み含み、当該製造識別記号に基づいて同様な劣化、異常が発生し得る別な車載用電動機制御装置の抽出に利用するようにしたものである。
このようにすることにより、自己診断部が出力する劣化異常状態情報に車載用電動機制御装置の個体を特定可能な製造識別記号が含まれるため、製造識別記号と劣化判定、異常検知の項目を付き合わせることによって、車載用電動機制御装置を構成する各部品の製造過程に起因した劣化、異常に対して同要因を内在する部品を組み込んだために同様な劣化、異常が発生し得る別な車載用電動機制御装置を抽出することができる。
【0072】
このことから、車載用電動機制御装置の劣化、異常に関して別な車載用電動機制御装置にても同様な劣化、異常が発生する前に速やかに交換、改修などの対策を講じることが可能となる。なお、装置製造の際に製造識別番号と共に装置の構成部品のシリアル番号やロット番号を記録していれば、劣化、異常の発生項目と製造識別番号を付き合わせることによって、同様な劣化、異常が発生し得る別な車載用電動機制御装置の抽出、特定をより効率的に行うことができる。
【0073】
実施の形態7.
図10は実施の形態7による車載用電動機制御装置の構成を示すブロック図である。図において、車載用電動機制御装置1の内、電動機制御ユニット5のみを図示しており、図中、図6と同一の符号を付したものは同一または相当部分を示している。図において、自己診断部13は劣化判定手段11の劣化判定結果と異常検知手段12の異常検知結果を入力し、自己診断を行って劣化異常状態情報を通信伝送している。ここで、自己診断の結果、劣化、異常状態を認識した場合に交流電動機2の出力上限量を抑制するように働くものとしている。この時、劣化異常状態情報として電動機の出力上限量を抑制することやその抑制量を含み、別な電子制御装置である第一電子制御装置45や第二電子制御装置46などに通信伝送する。また、制御演算部9に対して出力上限量を抑制するよう指令し、これに応じるべく制御演算部9はスイッチング信号を出力する。
【0074】
また、同様にして自己診断の結果、劣化、異常状態を認識した場合に自動車が停止すべく交流電動機2が動作するよう働くものであってよい。この時、劣化異常状態情報として電動機が車両停止状態での動作モードへ移行することへの警告を含み、別な電子制御装置である第一電子制御装置45や第二電子制御装置46などに通信伝送する。また、制御演算部9に対して交流電動機2が車両停止状態での動作モードで動作するよう指令し、これに応じるべく制御演算部9はスイッチング信号を出力する。
【0075】
以上のように、自己診断部にて劣化、異常状態と診断した場合に、電動機の出力上限量を抑制するように、あるいは当該車載用電動機制御装置が組みつけられた自動車が停止するように制御演算部を動作させ、あるいは警告することができるので、自動車システムとしての有意な性能低下状態から速やかに脱することができ、外部への警告によって自動車システムとして他の電子制御装置と連携して安全に車両を停止させるため、車載用電動機制御装置の劣化、異常によって乗員が危険な状態に置かれるのを回避できる。また、劣化、異常状態に長く在ることで複合的に別な劣化、異常に立ち至る危険を低減することができる。
【0076】
実施の形態8.
図1において劣化判定手段11が用いる劣化判定基準、すなわち、劣化判定基準テーブル110の設定値は、車載用電動機制御装置1の使用開始後に劣化、異常進行状況に応じて適宜補正されるものであってよい。使用開始後に車載用電動機制御装置の構成部品の劣化、異常が並行して進行する場合に、個々の構成部品単位では初期の基準設定値で見ると判定レベルに達していなくとも、劣化、異常の複合により自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下が発生し得る。
この実施形態によれば、当該車載用電動機制御装置の使用開始後に構成部品の劣化、異常が並行して進行する場合であっても、劣化、異常の進行状況に応じて劣化異常基準が適宜補正されるため、自動車のシステムとしてみた場合の有意な性能の低下を自己診断することが可能となる。
【0077】
実施の形態9.
図11は実施の形態9による車載用電動機制御装置の構成を示すブロック図であり、図中、図1と同一の符号を付したものは同一または相当部分を示している。図において、60は昇降圧DC-DCコンバータ、61a、61bはトランジスタ、62a、62bはフライホイールダイオード、63はチョークコイル64はコンデンサである。
【0078】
昇降圧DC-DCコンバータ60は直流電源3に接続し、電力変換器4内の別な回路に対して直流電源3の出力電圧を昇降圧変換し印加する。昇降圧DC-DCコンバータ60の直流電源3側接続端子電圧とトランジスタ61、フライホイールダイオード62を経た反対側の接続端子電圧との比である昇降圧比は、電動機制御ユニット5内の図示していない制御演算部9が出力するスイッチング信号に従って、トランジスタ61a、61bがスイッチON、スイッチOFFを切替えることによって調整される。電力変換器4内の別な回路の直流側電圧を増加、減少して調整することが可能となるため、パルス振幅変調(PulseAmplitude Modulation)の機能を用いた電動機制御を行う車載用電動機制御装置であっても、構成する部品の劣化判定、異常検知により自己診断を行って、自動車システムとしての有意な性能の低下を検出することができる。
【0079】
実施の形態10.
図12は実施の形態10による車載用電動機制御装置のシステムの全体構成を示すブロック図であり、、第一インバータ70に加えて第二インバータ71を備えることを除き、図1に示されるシステムと同じである。図中、図1と同一の符号を付したものは同一または相当部分を示している。図12に示されるように複数の電動機を制御するため、複数のインバータを電力変換器4に集約した車載用電動機制御装置としている。複数の電動機を対象とする車載用電動機制御装置の例として、内燃機関自動車ではパワーステアリング駆動力源用電動機やパワーステアリング用油圧ポンプ動力源と補助動輪(内燃機関では駆動がされないが車両状況に応じて動輪として作動するもの)の駆動力源用電動機を搭載したもの、ハイブリッド自動車では駆動力源用の電動機と発電用の電動機を搭載したものなどがある。
【0080】
このような複数の電動機制御機能を有する装置であって、その自己診断機能を単一に統合することで相互に相関を持って複合的に発生する劣化、異常に対してもその因果関係を切り分け、要因を分析することが容易となる。また、自己診断結果である劣化異常状態情報の通信伝送の機能が集約されるため、車載用電動機制御装置として小型化、低コスト化の効果が得られ、また、自己診断結果の取り扱いに関して自動車の乗員、自動車継続検査(車検)時の検査担当員、あるいは、自動車の整備担当員など使用者の利便性が向上し好適である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】この発明の実施の形態1による車載用電動機制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の劣化判定手段の詳細な構成を示す構成図である。
【図3】この発明の劣化判定基準テーブルの構成例を示す説明図である。
【図4】この発明のパワー素子を構成するトランジスタの動作波形を示す説明図である。
【図5】この発明の平滑用コンデンサ劣化判定部の詳細な構成を示す構成図である。
【図6】この発明の実施の形態2による車載用電動機制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態2の劣化判定基準の設定方法を説明する説明図である。
【図8】この発明の実施の形態2の電流検出器のゲインに関する劣化判定基準の設定方法を説明する説明図である。
【図9】この発明の実施の形態3による車載用電動機制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図10】この発明の実施の形態7による車載用電動機制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態9による車載用電動機制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図12】この発明の実施の形態10による車載用電動機制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0082】
1 車載用電動機制御装置
2 交流電動機
3 直流電源
4 電力変換器
5 電動機制御ユニット
6 平滑用コンデンサ
7a〜7 トランジスタ
8a〜8f フライホイールダイオード
9 制御演算部
10 保護回路
11 劣化判定手段
12 異常検知手段
13 自己診断部
14a〜14c 電流検出器
15a〜15c サーマルダイオード
16a〜16c 定電流回路
17a〜17c Vf検出部
20a〜20f パワー素子情報入力器
21 平滑用コンデンサ電流検出器
22 直流母線電流検出器
23 サーミスタ
31 実効値演算器
32 低域通過フィルタ(LPF)
33 振幅比演算器
34 補正ゲインテーブル
35 乗算器
36 比較器
37 リップル抽出器
38 減算器
40 内燃機関
41 変速機
42 減速機
43 ドライブシャフト
44 駆動輪
45 内燃機関制御ユニット、第一電子制御装置
46 ハイブリッドシステム制御ユニット、第二電子制御装置
47 有線通信ネットワーク
50 警告灯
51 画面表示装置
52 ブザー
53 スピーカ
54 診断情報処理端末
60 昇降圧DC-DCコンバータ
61a、61b トランジスタ
62a、62b フライホイールダイオード
63 チョークコイル
64 コンデンサ
70 第一インバータ
71 第二インバータ
110 劣化判定基準テーブル
111 パワー素子劣化判定部
112 平滑用コンデンサ劣化判定部
113 電流検出器劣化判定部
114 パワー素子温度検出器劣化判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源に接続されパワー素子のスイッチングにより電力変換を行う電力変換器と、交流電動機の制御演算を行う電動機制御ユニットとからなる車載用電動機制御装置において、上記電動機制御ユニットは、
上記パワー素子のスイッチング信号を出力する制御演算部と、
上記車載用電動機制御装置を構成する部品であって、電動機制御装置としての最低限の機能を満たさなくなる異常を検知する異常検知手段と、
当該車載用電動機制御装置が組みつけられた自動車が所定の性能低下をもたらすか否かによって設定される劣化判定基準値に基づいて車載電動機制御装置の構成部品の劣化を判定する劣化判定手段と、
上記異常検出手段と劣化判定手段の出力情報に基づき、当該車載用電動機制御装置を構成する部品の異常ならびに当該車載用電動機制御装置が組みつけられた自動車が予め定められた所定の性能範囲内での動作を維持できない状態を自己診断し、劣化異常状態情報を伝送する自己診断部と
を備えたことを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記劣化判定手段は少なくともパワー素子の劣化を判定することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記電力変換器の直流側に平滑用コンデンサを備えており、上記劣化判定手段は少なくとも上記平滑用コンデンサの劣化を判定することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項4】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記電力変換器が、さらに、交流電動機に流れる電流量を検出する電流検出器を備えており、上記劣化判定手段は少なくとも上記電流検出器の劣化を判定することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項5】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記電力変換器が、さらに、パワー素子の温度を検出するパワー素子温度検出器を備えており、上記劣化判定手段は少なくとも上記パワー素子温度検出器の劣化を判定することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項6】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記劣化判定手段にて用いられる劣化判定基準値は、燃費への影響因子、トルク変動による乗り心地への影響因子、内燃機関排出ガス各成分への影響因子、電磁ノイズへの影響因子、騒音への影響因子の少なくとも一つに基づいて定められることを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項7】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記劣化判定手段にて用いられる劣化判定基準値は、当該車載用電動機制御装置が組み付けられる自動車の使用地域に応じて所定の値が設定されることを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項8】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記劣化判定手段は、上記劣化判定基準値を保持する劣化判定基準テーブルと、パワー素子劣化判定部と、平滑用コンデンサ劣化判定部と、電流検出器劣化判定部と、パワー素子温度検出器劣化判定部とから構成されていることを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項9】
請求項8記載の車載用電動機制御装置において、上記劣化判定基準テーブルの劣化判定基準値は、上記燃費への影響因子、トルク変動による乗り心地への影響因子、内燃機関排出ガス各成分への影響因子、電磁ノイズへの影響因子、騒音への影響因子と、車載用電動機装置の構成部品であるパワー素子、平滑用コンデンサ、電流検出器、パワー素子温度検出器の劣化との相関に基いて設定することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項10】
請求項8記載の車載用電動機制御装置において、パワー素子劣化判定部は少なくともコレクタ-エミッタ間電圧Vce、ゲート-エミッタ間電圧Vge、コレクタ電流分流Ic’に基いてパワー素子劣化を判定することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項11】
請求項8記載の車載用電動機制御装置において、平滑用コンデンサ劣化判定部は平滑用コンデンサ通過電流量、直流母線電流量、あるいは平滑用コンデンサ温度に基づいて、平滑用コンデンサ劣化を判定することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項12】
請求項8記載の車載用電動機制御装置において、電流検出器劣化判定部は電流検出器からの各相電流量検出値の振幅同等性あるいは単一電流経路での複数電流検出器同時検出に基づいて劣化を判定することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項13】
請求項8記載の車載用電動機制御装置において、パワー素子温度検出器劣化判定部は、各パワー素子温度検出器同士の検出結果の差異を基準値と比較するか、所定基準時点からのパワー素子温度検出器の検出結果変化特性を予め定められたパワー素子発熱放熱特性テーブルと比較してその差異を基準値と比較することにより劣化を判定することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項14】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、複数個の自動車用電子制御装置にて構成され、これら自動車用電子制御装置間を有線あるいは無線で信号接続して、上記自己診断結果を通信伝送することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項15】
請求項14記載の車載用電動機制御装置において、上記自己診断結果の通信伝送は当該車載用電動機制御装置が組み付けられる自動車の使用地域に応じて定められる所定の自己診断用通信伝送プロトコルで行われることを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項16】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、自己診断部は自己診断結果を表示する警告灯あるいは画面表示装置を備えたことを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項17】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、自己診断部は自己診断結果を音にて警告するブザーあるいはスピーカを備えたことを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項18】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記劣化異常状態情報である自己診断結果は、劣化、異常状態の事象発生時を遡った、また事象発生時以降の時系列情報であり、上記自己診断部は上記時系列情報を蓄積する機能を有することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項19】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、起動時に電動機制御動作を開始するのに先立ち、制御動作中よりも厳しく判定する基準値でもって自己診断を行って劣化異常状態情報を伝送することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項20】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記自己診断部が出力する劣化異常状態情報は上記車載用電動機制御装置の個体を特定可能な製造識別記号を含み、当該製造識別記号に基づいて同様な劣化、異常が発生し得る別な車載用電動機制御装置の抽出に利用されることを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項21】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記自己診断部にて劣化、異常状態と診断した場合に、電動機の出力上限量を抑制するよう上記制御演算部が動作し、上記自己診断部が出力上限量抑制状態であることを警告することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項22】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記自己診断部にて劣化、異常状態と診断した場合に、当該車載用電動機制御装置が組みつけられた自動車を停止すべく、上記自己診断部が警告し、また、上記制御演算部が動作することを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項23】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記劣化判定手段にて用いられる劣化判定基準は、当該車載用電動機制御装置の使用開始後に劣化、異常進行状況に応じて適宜補正されることを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項24】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記電力変換器は上記直流電源の電圧を昇降圧変換するDC-DCコンバータを含むことを特徴とする車載用電動機制御装置。
【請求項25】
請求項1記載の車載用電動機制御装置において、上記電力変換器は複数のインバータを含むことを特徴とする車載用電動機制御装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−60866(P2007−60866A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246081(P2005−246081)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】