説明

配線層構造及びその製造方法

【課題】半導体基板又はガラス基板の下地基板に対する密着性が高く、下地基板への拡散バリア性に優れ、かつ水素プラズマ耐性に優れた低抵抗な配線層構造、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体又はガラス基板の下地基板1と、下地基板1上に形成された酸素含有Cu合金層2と、酸素含有Cu合金層2上に形成された、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有する酸化物層3と、酸化物層3上に形成された、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有するCu合金層4と、Cu合金層4上に形成された、Cu導電層5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配線層構造の分野に関し、特にトランジスタ等の半導体装置に使用される配線層構造とその配線層構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速駆動及び低コスト化の観点から、TFTパネル用の配線層として現在主流のAl系配線層よりも抵抗率が低いCu系配線層に期待が集まっている。
【0003】
しかし、CuはAl等の配線材料と比べて、ガラスやSi等の下地基板材料との密着性が悪く、Cuが下地基板に拡散してしまうという問題がある。
【0004】
このような問題を克服するため、Cu合金を酸素雰囲気下でスパッタリングする方法を用いて、ガラス基板又はアモルファスSi基板の上に、Cu合金層の酸化物層を形成し、その上にCu単体又はCu合金層を形成したCu配線が開発された(例えば、非特許文献1参照)。この配線層では、Cu単体又はCu合金層が低抵抗を確保し、Cu合金の酸化物層がCu配線と下地基板との界面の密着性を高めると共にCuの下地基板への拡散を防止するバリア層の役目を果たす。
【0005】
Cu合金を用いた配線層について種々の添加元素を含有するものが提案されている(特許文献1(国際公開第2008/081805号)及び特許文献2(国際公開第2008/081806号))。
【0006】
これらの特許文献には、酸素ガスを導入しつつ純銅ターゲット(またはMg、Al、Si、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dyのうち少なくとも一種類が添加されたもの)をスパッタリングして酸素を含有し銅を主成分とするバリア層を成膜した後、酸素ガスの導入を停止して上記ターゲットをスパッタリングし、純銅の低抵抗層を成膜する技術が開示されている。上記のような酸素を含有し銅を主成分とするバリア層は、シリコンやガラスに対する密着性が高く、低抵抗であると共に、バリア層によってシリコン基板への銅拡散も防止される。
【0007】
上記のようにして形成された配線層においては、レジスト膜に所定のパターンに沿って開口部が形成され、その開口部に露出した配線層の材料を乾式または湿式エッチングで除去することにより、配線層パターンが形成される。これにより、下地層の一部が露出した状態となる。
【0008】
非晶質シリコン薄膜あるいは多結晶シリコン薄膜等の非単結晶半導体薄膜上に上記のようなCu配線層パターンを形成して半導体薄膜の一部を露出させた場合、その露出された半導体薄膜表面にはダングリングボンド(結合の手が空いた状態)が多数存在することが知られている。ダングリングボンドは不安定であるため、一般に、非単結晶半導体薄膜からなる半導体素子(TFTなど)の作製工程において、配線層パターン(ソース・ドレイン電極など)の形成後に水素プラズマ処理を行ってダングリングボンドを終端し、安定化する。
【0009】
この水素プラズマ処理の際には、水素イオンが容易に配線層に侵入、貫通してしまい、Cu合金の酸化物層が還元され、還元された酸素が水素と結合して水(水蒸気)が生成され、それによって界面の剥離が起こり、密着性が劣化する現象が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0010】
従って、上記のような水素プラズマ処理後に密着性劣化等の不具合を生じさせない、高い水素プラズマ耐性を備えたCu配線層の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2008/081805号
【特許文献2】国際公開第2008/081806号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日経エレクトロニクス、日経BP社、平成21年1月、2009年2月9日号、p52-56
【非特許文献2】大西順雄、“[FPDIプレビュー]大型FPDのTFT配線用新Cu合金、アルバックと三菱マテリアルが協業して課題を克服”[online]、平成20年10月27日、Tech−On、[平成21年2月12日検索]、インターネット<URL(http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20081027/160184/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、半導体又はガラス基板の下地層に対する密着性が高く、下地層への拡散バリア性に優れ、かつ水素プラズマ耐性に優れた低抵抗な配線層構造、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明の配線層構造は、半導体基板又はガラス基板の下地基板と、該下地基板上に形成された酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層と、該酸素含有Cu層又は該酸素含有Cu合金層上に形成された、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有する酸化物層と、該酸化物層上に形成された、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有するCu合金層と、を備えたことを特徴とする。ここで、「半導体基板又はガラス基板」には半導体層又はシリカ層を一方の面に備えた基板も含む。
【0015】
本発明においては、半導体及びガラス基板などの下地基板との密着性を向上させるために設けた、酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層と、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有するCu合金層との間に、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有する酸化物層が形成される。この酸化物層の存在により、さらに水素プラズマ処理を行ったとしても、水素イオンが酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層中に進入しにくくなり(水素プラズマ耐性が向上し)、酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層中の酸素の還元が起こりにくくなって、界面の剥離がしにくくなり、一層の密着性の向上を図ることができる。
【0016】
上記酸素含有Cu合金層は、Ca、Mg、Li、Al、Zr、Ti、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含んでいてよい。また、上記酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層に含まれる添加元素は、20原子%以下、望ましくは15原子%以下含まれていてよい。Ca、Mg、Li、Al、Zr、Ti、Si、Mn、Cr、希土類等の添加元素を含むことが望ましい理由は、これらの添加元素が、Cu合金層と酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層との界面での酸化物層の形成をより容易にするからであり、また、酸素含有Cu合金層と下地基板との密着性を強める効果もあるからである。上記添加元素が20原子%以下であると、酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層中に生成される酸化物や金属間化合物の量が制限されることから、電気抵抗値が著しく増大することがなく、配線層としての利用に支障を来たすことがない。
【0017】
上記酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層に含まれる酸素は、1原子%以上30原子%以下含まれているのが望ましい。酸素が1原子%以上であると、下地基板材料との密着性や拡散バリア性が十分なものとなり、酸素が30原子%以下であると、酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層中に生成される酸化物の量が制限されることから、電気抵抗値が著しく増大することがなく、配線層としての利用に支障を来たすことがない。
【0018】
上記酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層及び酸化物層より上にあるCu合金層は、さらにCa、Mg、Li、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含んでいてよい。上記Cu合金層に含まれるAl、Zr、Tiの合計の添加元素は、1原子%以上15原子%以下、望ましくは4原子%以上10原子%以下含まれていてよい。上記添加元素が1原子%以上であると、Cu合金層と酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層との界面への酸化物層の形成が十分となり、界面の耐剥離性、従って密着性の向上が十分となり、上記添加元素が15原子%以下であるとCu合金層の電気抵抗値が著しく増大することがなく、配線層としての利用に支障を来たすことがない。上記Ca、Mg、Li、Si、Mn、Cr、希土類の含有量は5原子%以下が望ましい。5原子%以下であれば、抵抗値が著しく増大することがない。
【0019】
本発明においては、上記Cu合金層上に形成されたCu導電層をさらに備えることが望ましい。上記Cu導電層は、99原子%以上のCuを含有することが望ましい。これにより、低抵抗な配線層を提供することができる。
【0020】
上記酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層は10nm〜100nmの厚みを有することが望ましく、さらに望ましくは30nm〜50nm程度の厚みを有する。また、上記酸化物層は、優れた水素プラズマ耐性を得るためには1nm〜20nmの厚みを有することが望ましく、さらに5nm程度であることが望ましい。上記酸化物層の厚みが1nm以上であると、均一な層となり、水素イオンの進入防止の効果が十分得られて優れた水素プラズマ耐性を得ることができ、上記酸化物層の厚みが20nm以下であると、電気抵抗値が著しく増大することがなく、配線層としての利用に支障を来たすことがない。上記Cu合金層は10nm〜100nmの厚みを有することが望ましく、さらに望ましくは30nm〜50nm程度の厚みを有する。上記Cu導電層は200nm〜10μmの厚みを有することが望ましく、さらに望ましくは300nm〜500nm程度の厚みを有する。
【0021】
本発明の配線層構造の製造方法は、半導体基板又はガラス基板からなる下地基板上に、少なくともCuを含有するターゲットを利用してO雰囲気にてスパッタする工程(a)と、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有するCu合金をターゲットとして不活性ガス雰囲気にてスパッタする工程(b)と、前記工程(a)及び前記工程(b)によって形成された層にエッチングにより配線層パターンを形成して、前記下地基板の一部を露出させる工程(c)と、水素プラズマ処理を施して露出した前記下地基板表面に存在するダングリングボンドを終端させる工程(d)と、をこの順に備え、前記工程(b)の後で前記工程(d)の前に、水素雰囲気中にてアニールを行う工程(e)を、さらに備えることを特徴とする。
【0022】
本発明においては、下地基板上に、少なくともCuを含有するターゲットを利用してO雰囲気にてスパッタし(工程(a))、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有するCu合金をターゲットとして不活性ガス雰囲気にてスパッタし(工程(b))、前記工程(a)及び前記工程(b)によって形成された層にエッチングによって配線層パターンを形成することにより、下地基板の一部が露出される(工程(c))。そして、この状態で、水素プラズマ処理を施して露出した前記下地基板にあるダングリングボンドを終端させ(工程(d))、安定化を行う。また、工程(b)の後で工程(d)の前に、水素雰囲気中にてアニールをさらに行う(工程(e))。この水素雰囲気中にてアニールを施すことによって、工程(a)によって形成された酸素含有Cu層(又はCu合金層)と、工程(b)によって形成されたCu合金層との間に、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有する酸化物層が形成される。詳細には、酸素原子(O)が、工程(b)によって形成されたCu合金層の方に拡散し、当該Cu合金層と酸素含有Cu層(又はCu合金層)との界面に酸化物層を形成する。また、水素雰囲気中にてアニールを行う条件によって、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有する酸化物層の厚みを十分に得ることができる。この酸化物層の存在により、さらに水素プラズマ処理を行ったとしても、水素イオンが酸素含有Cu層(又は酸素含有Cu合金層)中に進入しにくくなり(水素プラズマ耐性)、酸素含有Cu層(又は酸素含有Cu合金層)中の酸素の還元が起こりにくくなって、界面の剥離がしにくくなり、一層の密着性の向上を図ることができる。
【0023】
上記工程(a)で使用される前記少なくともCuを含有するターゲットは、さらに、Ca、Mg、Li、Al、Zr、Ti、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含んでいてよい。また、上記添加元素は、20原子%以下、望ましくは15原子%以下含まれていてよい。Ca、Mg、Li、Al、Zr、Ti、Si、Mn、Cr、希土類等の添加元素を含むことが望ましい理由は、これらの添加元素が、Cu合金層と酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層との界面での酸化物層の形成をより容易にするからであり、また、酸素含有Cu合金層と下地基板との密着性を強める効果もあるからである。上記添加元素が20原子%以下であると、酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層中に生成される酸化物や金属間化合物の量が制限されることから、電気抵抗値が著しく増大することがなく、配線層としての利用に支障を来たすことがない。
【0024】
上記工程(a)のスパッタで使用されるO雰囲気は、体積分率で1%以上30%以下であることが望ましい。これにより、工程(a)のスパッタで生成される酸素含有Cu層(又は酸素含有Cu合金層)に含まれる酸素の含有量を、1原子%以上30原子%以下程度にすることができる。
【0025】
上記Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有するCu合金ターゲットは、さらにCa、Mg、Li、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含んでいてよい。上記Al、Zr、Tiの合計の添加元素は、1原子%以上15原子%以下、望ましくは4原子%以上10原子%以下含まれていてよい。上記添加元素が1原子%以上であると、Cu合金層と酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層との界面への酸化物層の形成が十分となり、界面の耐剥離性、従って密着性の向上が十分となり、上記添加元素が15原子%以下であるとCu合金層の電気抵抗値が著しく増大することがなく、配線層としての利用に支障を来たすことがない。上記Ca、Mg、Li、Si、Mn、Cr、希土類の含有量は5原子%以下が望ましい。5原子%以下であれば、抵抗値が著しく増大することがない。
【0026】
また、工程(b)の後に、少なくともCuを含有するターゲットを利用して不活性ガス雰囲気にてスパッタする工程(f)を、さらに有していてもよい。
【0027】
上記工程(f)で使用される少なくともCuを含有するターゲットは、99原子%以上のCuを含有することが望ましい。これにより、低抵抗な配線層を提供することができる。
【0028】
さらに、本発明によれば、半導体基板又はガラス基板の下地基板と、前記下地基板上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極を覆うゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層上に形成された半導体層と、前記半導体層上に形成されたソース領域およびドレイン領域と、前記ソース領域および前記ドレイン領域にそれぞれ接触して形成されたソース電極層およびドレイン電極層と、を有する薄膜トランジスタであって、前記ゲート電極、前記ソース電極層、及び前記ドレイン電極層の少なくとも1つが上記で説明した配線層構造から形成されていることを特徴とする薄膜トランジスタが提供される。
【0029】
さらに、本発明によれば、半導体基板又はガラス基板の下地基板上にゲート電極を形成する工程と、前記ゲート電極を覆ってゲート絶縁層を形成する工程と、前記ゲート絶縁層上に半導体層を形成する工程と、前記半導体層上に不純物を高濃度に添加した半導体層を形成する工程と、前記不純物を高濃度に添加した半導体層上に金属配線層を形成する工程と、前記金属配線層、前記不純物を高濃度に添加した半導体層、および前記半導体層をパターンニングする工程とを有し、上記で説明した配線層構造の製造方法によって前記金属配線層を製造する薄膜トランジスタの製造方法であって、前記金属配線層を形成する工程は前記工程(a)および(b)であり、前記パターンニングする工程は前記工程(c)であることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によれば、Cu合金層と酸素含有Cu層又はCu合金層との界面にAl、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有する酸化物層を形成することにより、下地基板に対する密着性が高く、下地基板への拡散バリア性に優れるだけでなく、さらに水素プラズマ耐性にも優れた低抵抗な配線層構造、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態による配線層の基本的な構成を示す概略断面図である。
【図2】図1に示した配線層の製造方法を説明する概略断面図であって、(a)は下地基板の上にCu−O層を形成する工程を説明する図、(b)はCu−O層の表面にCu−Al合金層を形成する工程を説明する図、(c)はCu−Al合金層の表面にCu導電層(低抵抗層)を形成する工程を説明する図、(d)は積層膜をパターニングする工程を説明する図、(e)は水素アニール処理を施してCu−Al合金層とCu−O層との界面に酸化物層を形成する工程を説明する図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による配線層の基本的な構成を示す概略断面図である。
【図4】本発明による配線層を使用する半導体装置の一例としての、薄膜トランジスタ(TFT)の製造工程を示す概略断面図であって、(a)は透明基板上にゲート電極、ゲート絶縁層、シリコン層、n型シリコン層を形成する状況を示す図、(b)は本発明による金属配線層を形成する状況を示す図、(c)は金属配線層の表面にレジスト膜を配置してエッチングする状況を示す図である。
【図5】本発明による配線層を使用する半導体装置の一例としての、薄膜トランジスタ(TFT)の製造工程を示す概略断面図であって、(a)は金属配線層上にパターンニングしたレジスト膜を配置する状況を示す図、(b)は金属配線層の露出部分をエッチングしてパターンニングする状況を示す図である。
【図6】本発明による配線層を使用する半導体装置の一例としての、薄膜トランジスタ(TFT)の製造工程を示す概略断面図であって、(a)はn型シリコン層をエッチングして開口部124によってソース領域とドレイン領域を分離する状況を示す図、(b)は水素プラズマの処理を行なった後にパッシベーション層を形成する状況を示す図、(c)は透明電極層を形成する状況を示す図である。
【図7】図4(b)の金属配線層における酸素含有Cu合金層とCu合金層を示す図である。
【図8】オージェ電子分光分析により試料の深さ方向分析、および試料断面をTEM(透過電子顕微鏡)により観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、以下の説明で使用する図面においては、説明をわかり易くするために、各層の厚みを実際の縮尺通りには示していない。
【0033】
図1は本発明の第1の実施形態による配線層構造の基本的な構成を示す概略断面図である。図1に示すように、半導体基板又はガラス基板からなる下地基板1の上に、酸素を含有するCu−O層2が形成されている。Cu−O層2は下地基板1との密着性を向上させるために設けられるものである。Cu−O層2の上には、Alを含有する酸化物層3(多くの場合、Alの形態にある)が形成され、Alを含有する酸化物層3の上に、Alを含有するCu合金層(Cu―Al合金層)4が形成され、Cu−Al合金層4の上にCu導電層5が形成されている。ここで、「半導体基板又はガラス基板」には半導体層又はシリカ層を一方の面に備えた基板も含む。
【0034】
次に、図1のような基本的な構成を有する配線層構造の製造方法について、以下で説明する。
まず、下地基板1として半導体基板またはガラス基板を準備し、その表面に銅を含有するターゲットを利用してO雰囲気内でスパッタを行う。この時使用する銅を含有するターゲットは、Ca、Mg、Li、Al、Zr、Ti、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含んでいてもよい。
【0035】
このスパッタ工程は、真空槽を真空排気系によって真空排気した後、スパッタリングガス(Ar等の不活性ガス)とOを導入してO雰囲気にした状態で成膜対象物である半導体またはガラス基板を真空槽内に搬入し、酸素ガスを流量制御しながら銅を含有するターゲットに接続されたスパッタ電源を印加することにより行う。プラズマによって銅を含有するターゲットがスパッタリングされると、銅及び添加元素の原子または原子団から成る微粒子が下地1の方向に放出され、酸素と反応し、下地1の表面に、図2(a)に示すように、銅(及び添加元素)とその酸化物から成るCu−O層2(バリア層)が形成される。
【0036】
銅を含有するターゲットのスパッタリングを続けてCu−O層2を成長させ、Cu−O層2が所定の膜厚に形成されたところでOガスの導入を停止し、ターゲットをCu−Al合金に切り換え、スパッタリングガス(Ar等の不活性ガス)の導入を続けつつ上記Cu−Al合金ターゲットをスパッタリングすることにより、Cu−O層2の表面にCu−Al合金層4が形成される(図2(b))。
【0037】
さらに、Cu−Al合金のスパッタリングを続けてCu−Al合金層4を成長させ、Cu−Al合金層4が所定の膜厚に形成されたところでターゲットターゲットを純銅(Cu)ターゲットに切り換え、スパッタリングガス(Ar等の不活性ガス)の導入を続けつつ上記純銅ターゲットをスパッタリングすることにより、Cu−Al合金層4の表面にCu導電層(低抵抗層)5が形成される。そして、純銅ターゲットのスパッタリングを続けてCu導電層5を成長させ、Cu導電層5が所定の膜厚に形成されたところでスパッタリングを停止し、結果物をスパッタリング装置から搬出する(図2(c))。
【0038】
スパッタリングターゲット中の銅と添加元素の含有割合と、そのスパッタリングターゲットを用いて成膜された金属層中の銅と添加元素の含有割合は、スパッタガスだけ導入された真空雰囲気で成膜した場合も、酸素ガスとスパッタガスの両方が導入された真空雰囲気で成膜した場合も同じになり、また、酸素ガスの導入量を変化させても、その含有割合は変わらない。従って、例えば、銅と添加元素の合計量に対する添加元素の割合が15原子%以下のスパッタリングターゲットをスパッタリングすると、銅と添加元素の合計量に対する添加元素の割合が15原子%以下の金属層が得られることになる。
【0039】
次に、積層された積層膜11の表面にレジスト膜を配置し、露光、現像等の通常のパターニングを行って積層膜11表面を露出し、その状態で積層膜11をエッチング液(湿式エッチング)またはエッチングガス(乾式エッチング)に曝すことにより、積層膜11がパターニングされる(図2(d))。そして、不要となったレジスト膜を通常の方法により除去して、配線層12を形成する。
【0040】
非晶質シリコン薄膜あるいは多結晶シリコン薄膜等の非単結晶半導体薄膜上に上記のようにして配線層パターンを形成し、半導体の一部を露出させた場合、その露出された半導体薄膜表面13にはダングリングボンド(結合の手が空いた状態)が多数存在し、このダングリングボンドは不安定であるため、非単結晶半導体薄膜からなる半導体素子の作製工程においては、配線層パターン形成後に、水素プラズマ処理を行って上記のようなダングリングボンドを終端させて、安定化を行う。
【0041】
本実施形態においては、この水素プラズマ処理を行う前に、水素アニール処理を施すことによって、Cu−O層2における酸素原子(O)が、Alを含有するCu−Al合金層4の方に拡散し、Cu−Al合金層4とCu−O層2との界面にAlを含有する酸化物層3(多くの場合、Alの形態にある)が形成される(図2(e))。この酸化物層3の存在により、さらに水素プラズマ処理を行ったとしても、水素イオンがCu−O層2中に進入しにくくなり、Cu−O層2中の酸素の還元が起こりにくくなって、界面の剥離がしにくくなり、一層の密着性の向上を図ることができる。本実施形態の場合、水素プラズマ処理を施す前に水素アニール処理を行って、酸化物層3の厚みをある程度確保することにより、水素イオンがCu−O層2中に進入しにくくなる水素プラズマ耐性を一層強化することができる。この水素アニール処理は、酸化物層3の厚みを十分に得るために望ましい処理である。
【0042】
本実施形態において、Cu−O層2は、さらにCa、Mg、Li、Al、Zr、Ti、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含んでいてもよい。図1においては、この添加元素を括弧内で“X”と表している。また、Cu−O層2に含まれる添加元素(Ca、Mg、Li、Al、Zr、Ti、Si、Mn、Cr、希土類のうち一種類以上)は、20原子%以下、望ましくは15原子%以下含まれていてもよい。Ca、Mg、Li、Al、Zr、Ti、Si、Mn、Cr、希土類等の添加元素を含むことが望ましい理由は、これらの添加元素が、Cu合金層と酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層との界面での酸化物層の形成をより容易にするからであり、また、酸素含有Cu合金層と下地基板との密着性を強める効果もあるからである。上記添加元素が20原子%以下であると、Cu−O層中に生成される酸化物や金属間化合物の量が制限されることから、電気抵抗値が著しく増大することがなく、配線層としての利用に支障を来たすことがない。上記添加元素の割合は、前述の通り、スパッタリングターゲット中の銅と添加元素の含有割合により調節することができる。
【0043】
また、Cu−O層2に含まれる酸素は、1原子%以上30原子%以下含まれているのが望ましい。酸素が1原子%以上であると、下地基板材料との密着性や拡散バリア性が十分なものとなり、酸素が30原子%以下であると、Cu−O層中に生成される酸化物の量が制限されることから、電気抵抗値が著しく増大することがなく、配線層としての利用に支障を来たすことがない。上記Cu−O層2に含まれる酸素割合は、スパッタで使用されるO雰囲気により調節することができ、体積分率で1%以上30%以下であることが望ましい。
【0044】
また本実施形態において、Cu合金層4がAlを含有するものとしているが、これに限らず、ZrやTiを単独で、あるいはAl、Zr、Tiのうち一種類以上含んでいてもよい。Cu合金層4は、さらにCa、Mg、Li、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含んでいてよい。上記Cu合金層4に含まれる添加元素(Al、Zr、Tiのうち一種類以上の添加元素)は、1原子%以上15原子%以下、望ましくは4原子%以上10原子%以下含まれていてもよい。上記添加元素が1原子%以上であると、Cu合金層とCu−O層との界面への酸化物層の形成が十分となり、界面の耐剥離性、従って密着性の向上が十分となり、上記添加元素が15原子%以下であるとCu合金層の電気抵抗値が著しく増大することがなく、配線層としての利用に支障を来たすことがない。上記添加元素の割合は、前述の通り、スパッタリングターゲット中の銅と添加元素の含有割合により調節することができる。上記Ca、Mg、Li、Si、Mn、Cr、希土類の含有量は5原子%以下が望ましい。5原子%以下であれば、抵抗値が著しく増大することがない。
【0045】
Cu導電層5は、99原子%以上のCuを含有することが望ましい。これにより、低抵抗な配線層を提供することができる。このようなCu導電層5は、図2(d)で説明した純銅ターゲットを99原子%以上の純銅とすることにより得ることができる。
【0046】
Cu−O層2の厚みdは10nm〜100nmであることが望ましく、30nm〜50nm程度であることがさらに望ましい。また、酸化物層3の厚みdは、優れた水素プラズマ耐性を得るためには1nm〜20nmの厚みを有することが望ましく、5nm程度であることがさらに望ましい。酸化物層3の厚みが1nm以上であると、均一な膜となり、酸化物層3による水素イオンの進入防止の効果が十分得られて優れた水素プラズマ耐性を得ることができ、酸化物層3の厚みが20nm以下であると、電気抵抗値が著しく増大することがなく、配線層としての利用に支障を来たすことがない。Cu−Al合金層4の厚みdは10nm〜100nmであることが望ましく、30nm〜50nm程度であることがさらに望ましい。Cu導電層5の厚みdは200nm〜10μmであることが望ましく、300nm〜500nm程度であることがさらに望ましい。
【0047】
以上のように本実施形態によれば、Cu−Al合金層4とCu−O層2との界面にAlを含有する酸化物層3を形成することにより、下地基板1に対する密着性が高く、下地基板1への拡散バリア性に優れるだけでなく、さらに水素プラズマ耐性にも優れた低抵抗な配線層、及びその製造方法を提供することができる。
【0048】
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。図3は本発明の第2の実施形態による配線層の基本的な構成を示す概略断面図である。本発明の第2の実施形態が第1の実施形態と構造的に異なる点は、本実施形態においてはCu導電層が形成されない点であり、それ以外の構成は第1の実施形態と同様である。図3において、図1と同様の層には同一の符号を付してある。
【0049】
図3に示すように、半導体基板又はガラス基板からなる下地基板1の上に、酸素を含有するCu−O層2が形成されている。Cu−O層2は第1の実施形態と同様に下地基板1との密着性を向上させるために設けられるものである。Cu−O層2の上には、Alを含有する酸化物層3(多くの場合、Alの形態にある)が形成され、Alを含有する酸化物層3の上に、Alを含有するCu合金層(Cu―Al合金層)4が形成されている。
【0050】
本実施形態においては、Cu導電層を形成することなく、Cu―Al合金層4がCu導電層と同様の機能を果たす。すなわち、本実施形態は、適用される用途に応じて、導電層としてCu―Al合金層4を用いるものである。本実施形態の場合、導電層としてのCu―Al合金層4の厚みを厚くすることが、低い抵抗を得るためには有利である。
【0051】
本実施形態においても、この水素プラズマ処理を行う前に、水素アニール処理を施すことによって、Cu−O層2における酸素原子(O)がCu−Al合金層4の方に拡散し、Cu−Al合金層4とCu−O層2との界面にAlを含有する酸化物層3(多くの場合、Alの形態にある)が形成される。この酸化物層3の存在により、水素プラズマ処理を行った際に水素イオンがCu−O層2中に進入しにくくなり、Cu−O層2中の酸素の還元が起こりにくくなって、界面の剥離がしにくくなり、一層の密着性の向上を図ることができる。本実施形態の場合も、水素アニール処理は、酸化物層3の厚みを十分に得るために望ましい処理である。
【0052】
本実施形態においても、Cu−O層2、Cu合金層4が、第1の実施形態と同様の添加元素を第1の実施形態と同様の割合だけ含んでいてもよい。また、Cu−O層2に含まれる酸素は、1原子%以上30原子%以下含まれているのが望ましい。
【0053】
また、本実施形態の場合も、Cu−O層2の厚みd、酸化物層3の厚みd、Cu−Al合金層4の厚みdを、第1の実施形態と同様の厚みとすることが望ましい。
【0054】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0055】
次に、本発明による配線層を使用する半導体装置の一例として、薄膜トランジスタ(TFT)の構造と製造工程について図4〜7を参照しながら説明する。
【0056】
図4(a)の符号110は、本発明による薄膜トランジスタとなる処理対象物を示す断面図である。薄膜トランジスタとなる処理対象物110は、ガラス等から成る透明基板111(下地基板)を有しており、透明基板111上にはゲート電極112が配置されている。
【0057】
透明基板111上には、ゲート電極112を覆って、ゲート絶縁層114と、シリコン層116と、n型シリコン層118とが、透明基板111側からこの順序で配置されている。n型シリコン層118は、不純物添加により、シリコン層116よりも抵抗値が低くされたシリコン層である。ここでは、n型シリコン層118とシリコン層116はアモルファスシリコンで構成されているが、単結晶や多結晶であってもよい。ゲート絶縁層114は、窒化シリコン薄膜等の絶縁膜であり、酸窒化シリコン膜や他の絶縁膜でもよい。
【0058】
銅合金ターゲットが、酸化性ガスが混合された雰囲気でスパッタリングされると、処理対象物110との界面には、銅を主成分とし、添加元素と酸素を含有した密着層(酸素含有Cu合金層)が形成される(工程(a))。
【0059】
次に銅合金ターゲットをAr等のスパッタリングガスでスパッタリングすると、処理対象物110の表面に、銅を主成分とし、添加元素を含有したCu合金層が形成される(工程(b))。図4(b)の符号120aは、上記で説明したような本発明による酸素含有Cu合金層とCu合金層で構成される金属配線層を示しており、図7は、それぞれ酸素含有Cu合金層151とCu合金層152を示している。
【0060】
金属配線層120aのゲート電極112上に位置する部分の表面にレジスト膜を配置し、金属配線層120aと、n型シリコン層118と、シリコン層116とから成る積層膜をエッチングし、積層膜のレジスト膜で覆われていない部分を除去する。図4(c)は、積層膜のエッチング後にレジスト膜を除去した状態であり、符号120bはレジスト膜で覆われて残った金属配線層を示している。
【0061】
次に、図5(a)に示すように、金属配線層120b上にパターンニングしたレジスト膜122を配置し、レジスト膜122の開口部124の底面に金属配線層120bの表面を露出させた状態で、エッチング液に浸漬すると、金属配線層120bの露出部分がエッチングされ、金属配線層120bがパターンニングされる。このパターニングによって、ゲート電極112上の部分にn型シリコン層118が露出する開口部124が形成され、金属配線層120aは開口部124によって分離され、図5(b)に示すように、ソース電極層127とドレイン電極層128が形成され、本発明によるトランジスタ105が得られる。次いで、エッチング装置内にこれを搬入して開口部124底面に露出するn型シリコン層118をエッチングガスのプラズマに曝してエッチングし、開口部124の底面にシリコン層116を露出させる。n型シリコン層118に形成された開口部124はゲート電極112の上方に位置しており、開口部124によって、n型シリコン層118はソース領域131とドレイン領域132に分離される(工程(c))。
【0062】
開口部124の底面には、シリコン層116の表面が露出しており、シリコン層116がn型シリコン層118をエッチングする際のエッチングガスプラズマに曝されると、シリコン層116表面から水素原子が失われ、ダングリングボンドが形成されてしまう。このダングリングボンドはリーク電流などのTFTの特性不良の原因となる。ダングリングボンドを水素で再修飾するために、図6(a)に示すように、ソース電極層127とドレイン電極層128とを露出させた状態で、水素を導入して水素プラズマを発生させ、開口部124の底部に露出するシリコン層116を水素ガスプラズマに曝すと、シリコン層116表面のシリコン原子は水素と結合し、ダングリングボンドは消滅する(工程(d))。
【0063】
前記工程(b)の後で、前記工程(d)の前に、水素アニール処理を施して、Cu合金層と、酸素含有Cu層または酸素含有Cu合金層との界面に酸化物層を形成する(工程(e))。
【0064】
水素プラズマの処理を行なった後、図6(b)に示すように、窒化シリコン層(SiN)等のパッシベーション層134を形成し、パッシベーション層134にコンタクトホール137を形成した後、同図(c)に示すように、ソース電極層127またはドレイン電極層128と画素電極等(図示せず)の間を接続する透明電極層136を形成する。これにより、液晶表示パネルが得られる。
【0065】
本発明により形成された配線層構造は、TFTのソース電極、ドレイン電極だけでなく、TFTのゲート電極にも用いることができる。
【0066】
さらに、上記では、半導体装置として薄膜トランジスタ(TFT)を例にとって説明したが、本発明はこれに限らず、薄膜トランジスタ(TFT)以外の半導体装置、ダイオード、キャパシタ、液晶装置などの、様々な電極に適用可能であるということは言うまでもない。
【0067】
[実施例]
以下、本発明に基づいて実際に配線層構造を形成し、その評価を行った結果を説明する。
【0068】
まず、アモルファスSi層をコーティングした、縦320mm×横400mm×厚さ0.7mmの寸法のガラス基板を準備した。
【0069】
(酸素含有Cu合金層の作製)
次に、これをスパッタ装置に挿入し、溶解調整したCu−4原子%Alの成分組成を有するCu合金スパッタリングターゲットを用いて、
雰囲気:Ar+酸素(容量%でAr/酸素=90/10)の酸化雰囲気
雰囲気圧力0.4Pa
基板加熱温度100℃
の条件でスパッタを行い、膜厚50nmの酸素含有Cu合金層を形成した。
【0070】
(Cu合金層の作製)
溶解調整したCu−4原子%Alの成分組成を有するCu合金スパッタリングターゲットを用いて、
雰囲気:Ar
雰囲気圧力0.4Pa
基板加熱温度100℃
の条件でスパッタを行い、膜厚300nmのCu合金層を形成した。
【0071】
(水素アニール)
次に、
雰囲気:H+N(容量%でH/N=50/50)
雰囲気圧力0.1MPa(1気圧)
温度300℃
保持時間30分
の条件で水素アニールを行った。
【0072】
(薄膜構造評価)
オージェ電子分光分析により試料の深さ方向分析、および試料断面をTEM(透過電子顕微鏡)により観察した。その結果を図8に示す。図8の左側がオージェ電子分光分析による配線層構造の深さ方向分析、右側が膜断面の透過型電子顕微鏡像である。図8に示したように、深さ方向分析より、AlとOが、Cu合金層と酸素含有Cu合金層の境界に濃縮していることがわかった(スパッタ時間が50分付近〜60分付近に対応する部分)。また、膜断面のTEM像(倍率:50万倍以上)より、Cu合金層と酸素含有Cu合金層の間にあるAlとOの濃縮層は、Cu合金層や酸素含有Cu合金層と明らかに結晶構造が異なっており、厚さ約4nmの層であることがわかった。そこで、このCu合金層と酸素含有Cu合金層の間に生成した酸素と添加元素(この場合Al)が主成分となる異相の層が酸化物層であると判断した。本願請求項1に記載の「酸化物層」とは、オージェ電子分光分析及びTEM(透過電子顕微鏡)によって特定された、この異相の層を指している。また、四探針試験により、本発明によるCu合金層の比抵抗を測定したところ約5μΩcmであった。
【0073】
(水素プラズマ処理)
以下の条件、
雰囲気:水素ガス
水素ガス流量:500sccm
水素ガス圧250Pa
処理温度:250℃
出力:0.1W/cm
処理時間60秒
で水素プラズマ処理を行った。
【0074】
(碁盤目付着試験)
上記水素プラズマ処理の前後において、以下の碁盤目付着試験を行った。JIS−5400に準じ、上記試料表面にそれぞれ0.5mm、1mm、1.5mmおよび2mmの間隔で縦横にそれぞれ11本の溝を、表面からガラス基板に達する深さで、かつ0.1mmの溝幅で切り込みをカッターで入れ、100個の升目を形成し、この升目全体にわたって3M社製スコッチテープ(登録商標)を密着して貼り付け、次いで一気に引き剥がし、試料表面の100個の升目のうちの剥離した升目の数(個/100)を測定した。その結果、剥離した升目はいずれも0個であった。
【0075】
表1は、本発明による実施例(左側)と比較例(右側)とを比較して示す図である。表1は、各実施例1〜17及び比較例1、2について、酸素含有Cu合金層およびCu合金層の組成(添加元素)と厚さ、並びに純銅層の厚さを示し、水素プラズマ処理の前後における各々の碁盤目付着試験の結果を示した。ここで、ガラス基板の構造は前述と同様である。すなわち、アモルファスSi層をコーティングした縦320mm×横400mm×厚さ0.7mmの寸法のものを使用した。酸素含有Cu合金層のスパッタ条件は前述と同様、すなわち、
雰囲気:Ar+酸素(容量%でAr/酸素=90/10)の酸化雰囲気
雰囲気圧力0.4Pa
基板加熱温度100℃
であり、Cu合金層のスパッタ条件も前述同様、すなわち、
雰囲気:Ar
雰囲気圧力0.4Pa
基板加熱温度100℃
であるが、それぞれ、各層の組成と膜厚を変化させている。また、次工程の純銅層のスパッタ条件は、Cu合金層のスパッタ条件と同様、すなわち、
雰囲気:Ar
雰囲気圧力0.4Pa
基板加熱温度100℃
であるが、純銅スパッタリングターゲット(不可避不純物は1原子%未満)を用いており、膜厚を変化させている。さらに、水素アニールの条件、薄膜構造評価、水素プラズマ処理の条件、碁盤目付着試験の条件は、前述と同様である。
【0076】
【表1】

【0077】
以上の碁盤目付着試験の結果から、水素アニールを行わなかった比較例1、およびCu合金層に実質的に合金元素を含まない比較例2(水素アニール有り)の場合、水素プラズマ処理後の碁盤目付着試験の成績が低く、水素プラズマ処理耐性に劣る。特に比較例2の場合、酸素含有Cu合金層に添加元素を含まないことから、酸素含有Cu合金層と下地基板との密着性が低くなり、水素プラズマ処理前から碁盤目付着試験の成績が低い。本発明による配線層構造(実施例1〜17)は、水素プラズマ処理後の碁盤目付着試験の成績が高く、従って密着性が高く、水素プラズマ処理耐性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0078】
1 下地基板
2 Cu−O層(酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層)
3 Alを含有する酸化物層
4 Cu―Al合金層
5 Cu導電層
11 積層膜
12 配線層
13 半導体薄膜表面
105 トランジスタ
111 透明基板
112 ゲート電極
114 ゲート絶縁層
116 シリコン層
118 n型シリコン層
120a 金属配線層
120b 金属配線層
122 レジスト膜
127 ソース電極層
128 ドレイン電極層
131 ソース領域
132 ドレイン領域
134 パッシベーション層
136 透明電極層
137 コンタクトホール
151 酸素含有Cu合金層
152 Cu合金層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板又はガラス基板の下地基板と、
該下地基板上に形成された酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層と、
該酸素含有Cu層又は該酸素含有Cu合金層上に形成された、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有する酸化物層と、
該酸化物層上に形成された、Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有するCu合金層と、
を備えたことを特徴とする配線層構造。
【請求項2】
前記酸素含有Cu合金層は、Ca、Mg、Li、Al、Zr、Ti、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の配線層構造。
【請求項3】
前記酸素含有Cu合金層に含まれる添加元素は、20原子%以下であることを特徴とする請求項2に記載の配線層構造。
【請求項4】
前記酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層に含まれる酸素は、1原子%以上30原子%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の配線層構造。
【請求項5】
前記Cu合金層は、さらにCa、Mg、Li、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の配線層構造。
【請求項6】
前記Cu合金層に含まれるAl、Zr、Ti合計の添加元素は、1原子%以上15原子%以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の配線層構造。
【請求項7】
前記Cu合金層上に形成されたCu導電層をさらに備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の配線層構造。
【請求項8】
前記Cu導電層が99原子%以上の純銅であることを特徴とする請求項7に記載の配線層構造。
【請求項9】
前記酸素含有Cu層又は酸素含有Cu合金層は10nm〜100nmの厚みを有し、前記酸化物層は1nm〜20nmの厚みを有し、前記Cu合金層は10nm〜100nmの厚みを有し、前記Cu導電層は200nm〜10μmの厚みを有することを特徴とする請求項7または8に記載の配線層構造。
【請求項10】
半導体基板又はガラス基板からなる下地基板上に、少なくともCuを含有するターゲットを利用してO雰囲気にてスパッタする工程(a)と、
Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有するCu合金をターゲットとして不活性ガス雰囲気にてスパッタする工程(b)と、
前記工程(a)及び前記工程(b)によって形成された層にエッチングにより配線層パターンを形成して、前記下地基板の一部を露出させる工程(c)と、
水素プラズマ処理を施して露出した前記下地基板表面に存在するダングリングボンドを終端させる工程(d)と、
をこの順に備え、
前記工程(b)の後で前記工程(d)の前に、水素雰囲気中にてアニールを行う工程(e)を、さらに備えることを特徴とする配線層構造の製造方法。
【請求項11】
前記工程(a)で使用される前記少なくともCuを含有するターゲットは、さらに、Ca、Mg、Li、Al、Zr、Ti、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含むことを特徴とする請求項10に記載の配線層構造の製造方法。
【請求項12】
前記工程(a)で使用される前記少なくともCuを含有するターゲットに含まれる添加元素は、20原子%以下であることを特徴とする請求項11に記載の配線層構造の製造方法。
【請求項13】
前記工程(a)のスパッタで使用されるO雰囲気は、体積分率で1%以上30%以下であることを特徴とする請求項10から12のいずれか一項に記載の配線層構造の製造方法。
【請求項14】
前記Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有するCu合金ターゲットは、さらにCa、Mg、Li、Si、Mn、Cr、希土類からなる群より選択される少なくとも一種類の添加元素を含むことを特徴とする請求項10から13のいずれか一項に記載の配線層構造の製造方法。
【請求項15】
前記Al、Zr、Tiのうち少なくとも一種を含有するCu合金ターゲットに含まれるAl、Zr、Tiの添加元素は、1原子%以上15原子%以下であることを特徴とする請求項10から14のいずれか一項に記載の配線層構造の製造方法。
【請求項16】
前記工程(b)の後に、少なくともCuを含有するターゲットを利用して不活性ガス雰囲気にてスパッタする工程(f)を、さらに有することを特徴とする請求項10から15のいずれか一項に記載の配線層構造の製造方法。
【請求項17】
前記工程(f)で使用される前記少なくともCuを含有するターゲットは、99原子%以上のCuを含有することを特徴とする請求項16に記載の配線層構造の製造方法。
【請求項18】
半導体基板又はガラス基板の下地基板と、前記下地基板上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極を覆うゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層上に形成された半導体層と、前記半導体層上に形成されたソース領域およびドレイン領域と、前記ソース領域および前記ドレイン領域にそれぞれ接触して形成されたソース電極層およびドレイン電極層と、を有する薄膜トランジスタであって、前記ゲート電極、前記ソース電極層、及び前記ドレイン電極層の少なくとも1つが請求項1から9のいずれか一項に記載の配線層構造から形成されていることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項19】
半導体基板又はガラス基板の下地基板上にゲート電極を形成する工程と、前記ゲート電極を覆ってゲート絶縁層を形成する工程と、前記ゲート絶縁層上に半導体層を形成する工程と、前記半導体層上に不純物を高濃度に添加した半導体層を形成する工程と、前記不純物を高濃度に添加した半導体層上に金属配線層を形成する工程と、前記金属配線層、前記不純物を高濃度に添加した半導体層、および前記半導体層をパターンニングする工程とを有し、請求項10から17のいずれか一項に記載の配線層構造の製造方法によって前記金属配線層を製造する薄膜トランジスタの製造方法であって、前記金属配線層を形成する工程は前記工程(a)および(b)であり、前記パターンニングする工程は前記工程(c)であることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−287791(P2010−287791A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141440(P2009−141440)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】