説明

金属酸化物膜の形成方法及び成膜装置

【課題】 セルフリミットを発生させるような金属酸化物であっても、その膜厚を制御することが可能となる金属酸化物膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】 下地の温度が金属酸化物膜の成膜温度に達する前に、金属原料ガスを下地の表面に供給する工程(1)と、下地の温度を成膜温度以上とし、下地の表面に供給された金属原料ガスと下地の表面の残留水分とを反応させて、下地上に金属酸化物膜を形成する工程(2)と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属酸化物膜の形成方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の内部金属配線からの金属、例えば、銅(Cu)の拡散を防ぐ拡散防止膜(以下バリア層という)の材料として金属酸化物、例えば、酸化マンガンが注目されている。例えば、特許文献1には、熱CVD法を用いて形成した酸化マンガン膜を、銅配線のバリア層に使用した半導体装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−300568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属酸化物膜の一種である酸化マンガン膜には、CVDプロセスにおいてある膜厚に達するとマンガン原料ガスを流し続けてもそれ以上はほとんど成長しない、という、いわゆるセルフリミットと呼ばれる現象がみられる。
【0005】
このように、金属酸化物膜のCVDプロセスにおいて所望の膜厚を得ることは難しく、金属酸化物膜の成膜膜厚を制御する技術が求められている。
【0006】
この発明は、上記事情に鑑みて為されたもので、膜厚の制御が可能な金属酸化物膜の形成方法及び成膜装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明の第1の態様に係る金属酸化物膜の形成方法は、下地上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の形成方法であって、(1)前記下地の温度が前記金属酸化物膜の成膜温度に達する前に、金属原料ガスを前記下地の表面に供給する工程と、(2)前記下地の温度を前記成膜温度以上とし、前記下地の表面に供給された前記金属原料ガスと前記下地の表面の残留水分及び/又は前記下地の表面のOH基とを反応させて、前記下地上に前記金属酸化物膜を形成する工程と、を具備する。
【0008】
この発明の第2の態様に係る金属酸化物膜の形成方法は、下地上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の形成方法であって、(3)前記下地の温度が金属原料ガスの凝集温度以下で、前記金属原料ガスを前記下地の表面に供給し、前記金属原料ガスを金属原料に凝集させ、前記金属原料を前記下地の表面に吸着させる工程と、(4)前記下地の温度を前記金属酸化物膜の成膜温度以上とし、前記下地の表面に吸着された前記金属原料と前記下地の表面の水分及び/又はヒドロキシ基を含む残留水分とを反応させて、前記下地上に前記金属酸化物膜を形成する工程と、を具備する。
【0009】
この発明の第3の態様に係る成膜装置は、下地上に金属酸化物膜を成膜する成膜装置であって、前記金属酸化物膜が形成される下地を有した被処理体を収容する処理室と、前記処理室内に、処理に使用するガスを供給する処理ガス供給機構と、前記処理室内に収容された前記被処理体を加熱する加熱装置と、前記処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御するコントローラと、を具備し、前記コントローラが、第1の態様に係る金属酸化物膜の形成方法の(1)工程及び(2)工程が実施されるように前記処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御する。
【0010】
この発明の第4の態様に係る成膜装置は、下地上に金属酸化物膜を成膜する成膜装置であって、前記金属酸化物膜が形成される下地を有した被処理体を収容する処理室と、前記処理室内に、処理に使用するガスを供給する処理ガス供給機構と、前記処理室内に収容された前記被処理体を加熱する加熱装置と、前記処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御するコントローラと、を具備し、前記コントローラが、第1の態様に係る金属酸化物膜の形成方法の(3)工程及び(4)工程が実施されるように前記処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御する。
【0011】
この発明の第5の態様に係る成膜装置は、下地上に金属酸化物膜を成膜する成膜装置であって、前記金属酸化物膜が形成される下地を有した被処理体を収容する第1、第2の処理室と、前記第1の処理室内に処理に使用するガスを供給する第1の処理ガス供給機構と、前記第2の処理室内に処理に使用するガスを供給する第2の処理ガス供給機構と、前記第2処理室内に収容された前記被処理体を加熱する加熱装置と、前記第1の処理ガス供給機構、前記第2の処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御するコントローラと、を具備し、前記コントローラが、請求項4に記載された(3)工程が実施されるように前記第1の処理ガス供給機構を制御するとともに、請求項4に記載された(4)工程が実施されるように前記第2の処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御する。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、膜厚の制御が可能な金属酸化物膜の形成方法及び成膜装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法を実施することが可能な成膜装置の一例を概略的に示す断面図
【図2】試料の断面例を示す断面図
【図3】この発明の第1の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法の制御例を示すタイミングチャート
【図4】この発明の第1の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法における成膜メカニズムを示す断面図
【図5】比較例に係る金属酸化物膜の形成方法の制御例を示すタイミングチャート
【図6】比較例に係る金属酸化物膜の形成方法における成膜メカニズムを示す断面図
【図7】第1の下地温度制御例を示すタイミングチャート
【図8】金属酸化物膜の膜厚の金属原料ガス供給前の昇温時間依存性を示す図
【図9】第2の下地温度制御例を示すタイミングチャート
【図10A】第3の下地温度制御例を示す断面図
【図10B】第3の下地温度制御例を示す断面図
【図10C】第3の下地温度制御例を示す断面図
【図11】ウエハと載置台との距離とウエハの昇温速度との関係を示す図
【図12】この発明の第2の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法の制御例を示すタイミングチャート
【図13】この発明の第3の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法の制御例を示すタイミングチャート
【図14】この発明の第3の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法を実施することが可能な成膜システムの一例を概略的に示す平面図
【図15】この発明の第3の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法を実施することが可能な熱処理装置の一例を概略的に示す断面図
【図16】この発明の第4の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法を実施することが可能な成膜システムの一例を概略的に示す平面図
【図17】この発明の第4の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法を実施することが可能な熱処理装置の一例を概略的に示す断面図
【図18】この発明の第4の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法の制御例を示すタイミングチャート
【図19】この発明の第4の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法における成膜メカニズムを示す断面図
【図20】金属酸化物膜の金属原料ガス供給前の昇温時間依存性を示す図
【図21】プレアニール温度と金属酸化物膜の膜厚との関係を示す図
【図22】プレアニール時間と金属酸化物膜の膜厚との関係を示す図
【図23】この発明の第4の実施形態の変形例1に係る金属酸化物膜の形成方法の制御例を示すタイミングチャート
【図24】この発明の第4の実施形態の変形例2に係る金属酸化物膜の形成方法の制御例を示すタイミングチャート
【図25】ウエハの表面温度と蒸発する水分量との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、全図にわたり、共通の部分には共通の参照符号を付す。
【0015】
(第1の実施形態)
(装置構成)
図1は、この発明の第1の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法を実施することが可能な成膜装置の一例を、概略的に示す断面図である。本例では、成膜装置の一例として、被処理基板、例えば、半導体ウエハ(以下ウエハという)上に、金属酸化物、例えば、酸化マンガンを成膜する熱CVD装置を例示するが、被処理基板は、半導体ウエハに限られるものではないし、熱CVD装置に限られるものでもない。
【0016】
図1に示すように、熱CVD装置10は処理容器(処理室)11を有する。処理容器11内にはウエハWを水平に載置する載置台12が設けられている。載置台12内にはウエハWの温調手段となるヒータ12aが設けられている。ヒータ12aには、その温度を制御するため、図示しない温度測定手段(例えば、熱電対)が設置されている。また、載置台12には昇降機構12bにより昇降自在な3本のリフターピン12c(便宜上2本のみ図示)が設けられており、このリフターピン12cによりウエハWを昇降させ、図示せぬウエハ搬送手段と載置台12との間でウエハWの受け渡しを行う。
【0017】
処理容器11の底部には排気管13の一端が接続され、排気管13の他端には排気装置14が接続されている。処理容器11の側壁には、ゲートバルブGにより開閉される搬送口15が形成されている。
【0018】
処理容器11の天井部には載置台12に対向するガスシャワーヘッド16が設けられている。ガスシャワーヘッド16はガス室16aを備え、ガス室16aに供給されたガスは複数のガス吐出孔16bから処理容器11内に供給される。ガスシャワーヘッド16には、金属原料ガス、例えば、有機金属化合物を含むガスを、ガス室16aに導入する金属原料ガス供給配管系17が接続される。
【0019】
Mn原料ガス供給配管系17は、原料ガス供給路17aを備え、原料ガス供給路17aの上流に、原料貯留部18が接続されている。原料貯留部18には金属原料、例えば、有機金属化合物が貯留されている。本例では、有機金属化合物としてシクロペンタジエニル系の有機金属化合物、例えば、金属としてマンガン(Mn)を含む(EtCp)Mn(ビスエチルシクロペンタジエニルマンガン)が液体の状態で貯留されている。(EtCp)Mnは、マンガンプリカーサーである。原料貯留部18にはバブリング機構19が接続されている。
【0020】
バブリング機構19は、例えば、バブリング用ガスが貯留されたバブリング用ガス貯留部19aと、バブリング用ガスを原料貯留部18に導く供給管19bと、供給管19b中を流れるバブリング用ガスの流量を調節するマスフローコントローラ(MFC)19c及びバルブ19dとを含んで構成される。バブリング用ガスの例は、アルゴン(Ar)ガス、水素(H)ガス、及び窒素(N)ガス等である。供給管19bの一端は、原料貯留部18に貯留された金属原料液体、本例では、(EtCp)Mn中に配置される。供給管19bからバブリング用ガスを噴出させることで金属原料液体はバブリングされ、気化される。気化された金属原料ガス、本例では気化された(EtCp)Mnは、原料ガス供給路17a、及び原料ガス供給路17aを開閉するバルブ17bを介してガスシャワーヘッド16のガス室16aに供給される。
【0021】
また、バルブ17bと原料貯留部18との間には、排気装置14に接続されるプリフローライン20が接続されている。プリフローライン20にはバルブ20aが設けられている。金属原料ガスのバブリング流量が安定するまでは、バルブ17bを閉じ、バルブ20aを開けることで、金属原料ガスをプリフローライン20に流す。バブリング流量が安定し、かつ、金属原料ガスの供給タイミングになったとき、反対にバルブ20aを閉じ、バルブ17bを開けることで、金属原料ガスを原料ガス供給路17aに流す。
【0022】
また、バルブ17bとガスシャワーヘッド16のガス室16aとの間には、パージ機構21が接続されている。パージ機構21は、例えば、パージ用ガスが貯留されたパージ用ガス貯留部21aと、パージ用ガスを原料ガス供給路17aに導く供給管21bと、供給管21b中を流れるバブリング用ガスの流量を調節するマスフローコントローラ(MFC)21c、バルブ21d及び21eとを含んで構成される。バルブ21dは、パージ用ガス貯留部21aとマスフローコントローラ21cとの間に設けられ、バルブ21eは、原料ガス供給路17aとマスフローコントローラ21cとの間に設けられる。パージ用ガスの例は、アルゴン(Ar)ガス、水素(H)ガス、及び窒素(N)ガス等である。原料ガス供給路17aの内部、ガス室16aの内部、及び処理容器11の内部をパージする際には、バルブ17bを閉じ、バルブ21d、21eを開けることで、パージガスを、原料ガス供給路17aに供給管21bを介して流す。また、パージ用ガスは、金属原料ガスのバブリング用ガスとしても使用することができる。つまり、バブリング用ガス貯留部19aとパージ用ガス貯留部21aは共通の構成としてもよい。また、以後はパージ用ガスとバブリング用ガスと後述の圧力調整用ガスとを含めて、キャリアガスと表記する。
【0023】
処理容器11、排気管13、ゲートバルブG、ガスシャワーヘッド16、金属原料ガス供給配管系17(17a、17bを含む)、原料貯留部18、プリフローライン20(20aを含む)、供給管21b、バルブ21eは、金属原料ガスの凝集を防止するため、室温から150℃の範囲内で任意の温度に制御可能となっている。今回は、後述するように、使用した金属原料が(EtCp)Mnであり、50〜70℃程度で凝集する恐れがあったため、これらの温度設定を80℃とした。
【0024】
尚、圧力制御のため、処理容器11には圧力計を設置すると共に、排気管13には圧力制御弁が設けられるが、ここでは図示を省略している。
【0025】
制御部22は、熱CVD装置10を制御する。制御部22は、プロセスコントローラ23、ユーザーインターフェース24、及び記憶部25を含んで構成される。ユーザーインターフェース24は、工程管理者が、熱CVD装置10を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボード、熱CVD装置10の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を含む。記憶部25には、熱CVD装置10による処理を、コントローラ23の制御にて実現するための制御プログラムや駆動条件データ等が記録されたレシピが格納される。レシピは、必要に応じてユーザーインターフェース24からの指示により記憶部25から呼び出され、コントローラ23に実行させることで熱CVD装置10が制御される。レシピは、例えば、CD−ROM、ハードディスク、フラッシュメモリなどのコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納された状態のものを利用したり、あるいは、他の装置から、例えば専用回線を介して随時伝送させて利用したりすることも可能である。
【0026】
本例では、コントローラ23の制御のもと、以下に説明する金属酸化物膜の形成方法に従った処理が順次実施される。
【0027】
(金属酸化物膜の形成方法)
次に、この発明の第1の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法の一例を説明する。
【0028】
本例においては、金属酸化物膜として、例えば、酸化マンガン膜をウエハW(例えば、シリコンウエハ)上に形成されているTEOS膜上に形成する例を示す。
【0029】
図2は試料の断面例を示す断面図である。
【0030】
図2に示すように、試料は、ウエハW上にTEOS膜101を形成したものである。試料のTEOS膜101を下地とし、酸化マンガン膜をTEOS膜101の上に形成する。本例では次のように行う。
【0031】
図3はウエハ温度、キャリアガス流量、処理容器内圧力、及び金属原料ガス流量の制御例を示すタイミングチャートである。
【0032】
図3に示すように、本例においては、ウエハWの温度が酸化マンガン膜の成膜温度に達する前に、金属原料ガス、例えば、マンガンプリカーサーである(EtCp)MnガスをTEOS膜101の表面に供給する工程(1)と、ウエハWの温度を酸化マンガン膜の成膜温度以上とし、TEOS膜101の表面に供給された(EtCp)MnガスとTEOS膜101の表面の残留水分とを反応させて、TEOS膜101上に酸化マンガン膜を形成する工程(2)と、を具備する。
【0033】
尚、成膜温度は、金属原料ガスの凝集温度以上金属原料ガスの分解温度未満の範囲内で任意に設定することが可能である。例えば、金属原料ガスが(EtCp)Mnガスであるとき、(EtCp)Mnガスの凝集温度である70℃以上、(EtCp)Mnガスの熱分解温度400℃未満の範囲内で任意に設定可能である。
【0034】
具体的には、TEOS膜101が形成されたウエハWを処理容器11内に搬入し、ウエハWを載置台12に載置する(時刻t1)。次いで、ヒータ12aを用いてウエハWを、成膜温度、本例では、200℃まで昇温する。実際には、ヒータ12aの設定温度は一定に維持されており、室温程度のウエハWが載置台12に載置されると、載置台12からウエハWへの熱伝導により、ウエハWの温度は時間と共に上昇する。第1の実施形態においては、昇温中から、金属原料ガス、本例では(EtCp)Mnガスをキャリアガス、本例では、アルゴン(Ar)ガスとともに、処理容器11の内部に供給する(時刻t2)。また、処理容器11の内部の圧力は、本例では、昇温開始、及び金属原料ガスの供給開始と同時に133Paに昇圧する。ウエハWへの伝熱効率を上げるためである。ウエハWの温度が成膜温度に達したら(時刻t3)、成膜温度を維持し、所定の成膜時間を経過させる。成膜時間が経過したら(時刻t4)、ウエハWの加熱、及び金属原料ガスの供給を止めるとともに、キャリアガスの流量、及び圧力を、本例では段階的に下げる。処理容器11の内部の圧力が、ウエハWの搬出が可能な圧力まで下がったら、ウエハWを載置台12から離脱させ、ウエハWを処理容器11から外部へ搬出する(時刻t5)。
【0035】
なお、成膜時間を6秒から60分まで変化させておこなった別の成膜実験に拠れば、僅かな増加がみられるものの酸化マンガン膜の膜厚は、成膜時間6秒のものと成膜時間60分のものとで顕著な差はみられなかった。本例では成膜時間:工程(2)の時間を10分としたが、上述の実験結果から、成膜時間は10秒以下でも十分であり、金属原料のコスト低減や、スループット向上、処理容器内壁の汚染防止、等の観点から、成膜時間を短くすることが可能であり、むしろそれが望ましい。
【0036】
(成膜メカニズム)
第1の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法における成膜メカニズムを図4A〜図4Cに示す。
【0037】
図4Aは、搬入直後のウエハWの状態を示している。
【0038】
図4Aに示すように、搬入直後においては、TEOS膜101の表面に水分及び/又はヒドロキシ基(−OH)が残留している。以後、膜表面に残留した、水分及び/又はヒドロキシ基(−OH)を含めて残留水分と表記する(残留水分102)。また、水分及び/又はヒドロキシ基(−OH)を含む残留水分は、物理吸着水、及び/又は化学吸着水と言いかえることもできる。
【0039】
第1の実施形態では、図4Bに示すように、ウエハWの温度が成膜温度に達する前から金属原料ガス、例えば、(EtCp)MnガスをTEOS膜101の表面に供給する。このため、TEOS膜101の表面の残留水分102と金属原料ガスとがウエハWの温度が成膜温度に達する前に接触して反応する。残留水分102と金属原料ガスとが反応している状態で、ウエハWの温度を成膜温度とすることで、図4Cに示すように、TEOS膜101の上に、金属酸化物膜、本例では、酸化マンガン膜103が形成される。
【0040】
また、酸化マンガン膜103の成膜反応式は、以下と考えられる。
【0041】
(水との反応の場合)
(EtCp)Mn + H
→ MnO + 2H(EtCp)
(ヒドロキシ基との反応の場合)
(EtCp)Mn + OH → MnO
+ H(EtCp) + (EtCp)
(比較例)
参考として、比較例に係る金属酸化物膜の形成方法の制御例のタイミングチャートを図5に、成膜メカニズムを図6A〜図6Dに示す。
【0042】
比較例に係る金属酸化物膜の形成方法が第1の実施形態と異なるところは、金属原料ガスを、ウエハWの温度が成膜温度、例えば、200℃に達してから処理容器11内に供給することである。
【0043】
比較例に係る酸化マンガン膜の形成方法においては、図6Aに示すように、搬入直後においては、TEOS膜101の表面に水分が残留している(残留水分102)。しかしながら、昇温工程においてウエハWが、例えば、200℃まで昇温される。このため、図6Bに示すように、残留水分102がTEOS膜101の表面上から蒸発する。この結果、図6Cに示すように、TEOS膜101の表面に残留水分102がほとんど無い状態で、金属原料ガス、例えば、(EtCp)MnガスをTEOS膜101の表面に供給することになる。
【0044】
このような比較例においては、金属原料ガスは残留水分102と反応することがほとんどなく、図6Dに示すように、TEOS膜101の上には、金属酸化物膜、本例では、酸化マンガン膜が形成されないか、もしくは形成されたとしてもセルフリミットがかかった薄い酸化マンガン膜しか形成されない。比較例においては、金属酸化物膜の膜厚を制御することもできない。
【0045】
対して、第1の実施形態に係る形成方法によれば、ウエハWの温度が成膜温度に達する前から、TEOS膜101の表面の残留水分102と金属原料ガスとを接触させるので、金属酸化物膜の膜厚を制御することが可能となる。詳しくは以下のように行われる。
【0046】
(金属酸化物膜の膜厚制御)
まず、金属酸化物膜の膜厚は、金属原料ガスを供給し始めた時点における下地の表面の残留水分102の量に基づいて制御することができる。
【0047】
残留水分102の量は、例えば、金属原料ガスを供給し始めた時点における下地の温度に基づいて制御することができる。
【0048】
さらに、下地の温度は、例えば、以下の第1〜第4の下地温度制御例のようにして制御することができる。
【0049】
(第1の下地温度制御例)
図7は第1の下地温度制御例を示すタイミングチャートである。
【0050】
図7中の曲線Iは、処理容器11内の圧力を133Pa(=1Torr)とし、ウエハWを200℃まで上昇させる際のウエハWの昇温曲線である。
【0051】
図7に示すように、昇温前のウエハWの温度は、例えば、室温である。ウエハWの温度は、昇温曲線Iに示すように、室温から成膜温度、例えば、200℃に向かって上昇していく。ウエハWの温度が上昇するとともに、下地の温度、本例ではTEOS膜101の温度も上昇する。TEOS膜101の表面の残留水分102は、TEOS膜101の温度の上昇とともに気化し、減っていく。このように、残留水分102の量は、ウエハWの昇温時間に応じて変えることができる。
【0052】
例えば、金属原料ガスを供給し始める時刻を、昇温開始と同時(時刻t11)とすれば、金属原料ガス、本例では(EtCp)Mnガスは、より多くの残留水分と接触する。結果として、膜厚の厚い金属酸化物膜、本例では、酸化マンガン膜を形成することができる。反対に、金属原料ガスを供給し始める時刻を、昇温開始から時刻t12、t13、t14と遅らせていくと、残留水分102が減っていくので、膜厚の薄い酸化マンガン膜を形成することができる。
【0053】
図8は金属酸化物膜の金属原料ガス供給前の昇温時間依存性を示す図である。
【0054】
図8に示すように、金属原料ガス供給前の昇温時間が長くなるにつれて、酸化マンガン膜の膜厚は、約4.0nmから薄くなり、約300secを超えると、昇温時間に係わらず膜厚は約0.8nmでほぼ一定となる(セルフリミット膜厚)。
【0055】
なお、酸化マンガン膜厚は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、及び蛍光X線分析装置(X-Ray Fluorescence
Spectrometer:XRF)で測定している。
【0056】
このように、下地の温度は、金属原料ガスを供給し始めるまでの下地の加熱時間に基づいて制御することができる。そして、金属原料ガスを供給し始めるまでの下地の加熱時間を制御することで、下地の表面の残留水分の量を制御することができ、金属酸化物膜の膜厚を制御することができる。
【0057】
(第2の下地温度制御例)
図9は第2の下地温度制御例を示すタイミングチャートである。
【0058】
図9に示すように、第2の下地温度制御例が、第1の下地温度制御例と異なるところは、処理容器11内の圧力である。第1の下地温度制御例においては、処理容器11内の圧力を133Pa(=1Torr)としたが、第2の下地温度制御例においては、処理容器11内の圧力を13.3Pa(=0.1Torr)としている。
【0059】
即ち、第2の下地温度制御例は、下地の周囲の圧力、本例では処理容器11内の圧力を変えることで、下地、本例ではTEOS膜101への熱伝導率を変化させて、ウエハWの温度を制御する。
【0060】
処理容器11内の圧力が変わると、加熱装置、例えば、ヒータ12aから下地、例えば、ウエハW上に形成されたTEOS膜101への熱伝導率が変わる。具体的には圧力が高いと熱伝導率が上がり、圧力が低いと熱伝導率が下がる。このような現象を利用して、ウエハWの昇温速度を制御する。本例では、処理容器11内の圧力を13.3Paとすることで、昇温曲線IIに示すように、処理容器11内の圧力が133Paの場合に比較して、ウエハWの昇温速度を下げている。ウエハWの昇温速度が下がると、急激なウエハWの温度変化を抑制できるので、例えば、精度の高い残留水分の量の制御を必要とする場合等に有利である。
【0061】
このように、下地の温度は、金属原料ガスを供給し始めるまでの下地の周囲の圧力に基づいて制御することもできる。この結果、第1の下地温度制御例と同様に、下地の表面の残留水分の量を制御することができ、金属酸化物膜の膜厚を制御することができる。
【0062】
ただし、最終的な到達ウエハ温度は処理容器内圧力を変更することで変化してしまう(例えば、133Paのときにはウエハ温度は200℃まで到達したとしても、13Paのときにはウエハ温度は190℃までしか到達しないことが起こる)ため、適宜ヒータ12aの設定温度を補正する必要がある。
【0063】
(第3の下地温度制御例)
また、下地の温度は、下地を加熱する加熱装置と下地との距離に基づいて制御することができる。
【0064】
図10A〜図10Cは第3の下地温度制御例を示す断面図である。
【0065】
図10AはウエハWが、加熱装置、本例ではヒータ12aが設けられている載置台12に接触している状態を、図10Bはリフターピン12cを上昇させ、ウエハWを載置台12から僅かな距離d1離した状態を、図10Cはリフターピン12cをさらに上昇させ、ウエハWを載置台12から距離d1よりも大きな距離d2離した状態を示している。
【0066】
図11は、ウエハWと載置台12との距離とウエハWの昇温速度との関係を示す図である。
【0067】
図11に示す昇温曲線IIIは図10Aに示す場合を、昇温曲線IVは図10Bに示す場合を、昇温曲線Vは図10Cに示す場合を、それぞれ示している。昇温曲線III〜IVに示すように、ウエハWと載置台12との距離が拡がるほど、ウエハWの昇温速度を遅くすることができる。
【0068】
このように、ウエハWと載置台12との距離を変えることでも、ウエハWの温度、即ち、下地であるTEOS膜101の温度を制御することができる。
【0069】
ただし、最終的な到達ウエハ温度はウエハWと載置台12との距離を変えることで変化してしまう(例えば、図10Aのときにはウエハ温度は200℃まで到達したとしても、図10Bのときにはウエハ温度は190℃までしか到達しないことが起こる)ため、適宜ヒータ12aの設定温度を補正する必要がある。
【0070】
(第4の下地温度制御例)
また、下地の温度は、下地の周囲のガス種を変更することでも制御することができる。表1に、ガス種と100℃における熱伝導率との関係を示す。
【0071】
【表1】

表1に示すように、熱伝導率は、ガス種により異なる。例えば、100℃における熱伝導率は、Hガス、Heガスが高く、Nガス、Arガスは低い。このようにガス種によって異なっている熱伝導率を利用して下地の周囲のガス種、即ち、処理容器内に導入するガス種を変更することでも、下地の温度、例えば、ウエハWの温度や、ウエハWの昇温速度を制御することができる。
【0072】
例えば、Hガス、Heガスの熱伝導率はNガス、Arガスに比較して高いので、ウエハWの温度上昇を早めたい場合には、処理容器内にHガス、Heガスを導入し、逆にウエハWの温度上昇を緩やかにしたい場合には、処理容器内にNガス、Arガスを導入する。このように、下地の周囲のガス種を変更することでも、下地の温度を制御することができる。
【0073】
また、ガス種、例えば、表1に示した4種のガスにあっては単独で使用されても良いが、4種のガスのうちの少なくとも2種を混合して使用することもできる。
【0074】
さらに、ガス種の混合比率を変えれば、表1に示した熱伝導率以外の熱伝導率とすることもできる。ガス種を混合し、下地の周囲のガス種の熱伝導率を変えるようにすれば、ウエハWの温度や、ウエハWの昇温速度に様々な幅を与えることができる。
【0075】
本実施形態においては、下地温度制御例として4つの制御例を示したが、これらの制御例以外にも、ヒータ12aへの電力供給量を増減させてウエハWの昇温速度を変化させることや、載置台12の表面粗さを変更することでも、下地の温度を制御することができる。
【0076】
(残留水分量の別の制御例)
(別の制御例1)
下地の残留水分量は、上述した金属原料ガスを供給し始めた時点における下地の温度に基づいて制御する以外に、下地の厚さに基づいて制御することもできる。
【0077】
下地、例えば、TEOS膜101の内部には水分が取り込まれている。ウエハWを昇温、即ち、TEOS膜101を昇温すると、TEOS膜101の内部に取り込まれていた水分が表面に出てくる。TEOS膜101の内部に取り込まれている水分の絶対量は、TEOS膜101の膜厚に依存する。
【0078】
特に、図示しないが、厚い膜厚を持つTEOS膜101に取り込まれている水分の絶対量は、薄い膜厚を持つTEOS膜101に取り込まれている水分の絶対量よりも多い。このため、例えば、ウエハWを昇温している際に、TEOS膜101の表面に出てくる水分量は、厚い膜厚を持つTEOS膜101の方が多くなる。TEOS膜101の膜厚を、表面に出てくる水分量を勘案して設定することで、水分量の制御が可能である。
【0079】
このように、下地の残留水分の量は、下地の厚さ、本例ではTEOS膜101の厚さに基づいて制御することができる。
【0080】
(別の制御例2)
また、下地の残留水分の量は、下地の厚さの他、下地の露出面積に基づいて制御することもできる。
【0081】
金属酸化物膜を形成する際、金属原料ガスは、下地、例えば、TEOS膜101の露出面に接触する。この露出面の露出面積の大小によっても、下地の残留水分量を制御することができる。露出面積が大きければ、金属原料ガスと残留水分との接触量は多くなり、露出面積が小さければ、金属原料ガスと残留水分との接触量が少なくなる。
【0082】
露出面積の大小に応じた残留水分量の制御の一例は、特に、図示しないが、例えば、TEOS膜101に形成されたパターンの粗密である。例えば、TEOS膜101が層間絶縁膜であったときには、この層間絶縁膜に形成される溝、又は孔、又は溝と孔との粗密を考慮して残留水分量の制御をすることができる。例えば、溝が密に形成されている場合には、溝が粗に形成されている場合に比較してTEOS膜101の露出面積は大きくなる。また、孔が密に形成されていれば、孔の側面の面積、及び孔の底に露呈したTEOS膜以外の膜の露出面積、例えば、配線又は電極用導電体の露出面積のどちらが大きいかでTEOS膜101の露出面積の大小が決まる。もちろん、溝の粗密と孔の粗密との双方を考慮してTEOS膜101の露出面積の大小を決めることができる。TEOS膜101に形成される溝、及び孔の例は、配線用溝、電極用溝、ヴィア孔、及びコンタクト孔を挙げることができる。
【0083】
このように、下地の残留水分の量は、下地の露出面積、本例ではTEOS膜101の露出面積に基づいて制御することができる。
【0084】
(別の制御例3)
さらに、下地の残留水分の量は、下地の周囲にある水分の量に基づいて制御することもできる。
【0085】
金属酸化物膜を形成する際、下地、例えば、ウエハW上に形成されたTEOS膜101は、処理容器11の中に収容される。この処理容器11内の水分量の大小、即ち、処理容器11内の水分分圧の高低によっても、TEOS膜101の表面の残留水分量は変わる。処理容器11内の水分量が多ければ、TEOS膜101の表面の残留水分量は多くなり(もしくは残留水分量の減少度合いは少なくなり)、処理容器11内の水分量が少なければ、TEOS膜101の表面の残留水分量は少なくなる(もしくは残留水分量の減少度合いは多くなる)。
【0086】
処理容器11内の水分量の大小に応じた残留水分量の制御の一例は、特に、図示しないが、処理容器11に、処理容器11の水分量を測定する質量分析計を備えれば良い。質量分析計の一例は、四重極型質量分析計(以下QMASSという)である。質量分析計以外にも、例えば、波長可変半導体レーザー吸収分光法を用いることができる。
【0087】
例えば、下地の周囲にある水分の量に応じた制御によれば、例えば、QMASSを用いて処理容器11内の水分量を分析し、分析した水分量を制御部22にフィードバックし、昇温時間等を調節し、金属原料ガスと残留水分との接触量が、設計通りの接触量となるように制御することもできる。
【0088】
このように、下地の残留水分の量は、下地の周囲にある水分の量に基づいて制御することができる。
【0089】
(別の制御例4)
さらに、下地の残留水分の量は、外部からの水分供給によっても制御することができる。例えば、下地の周囲にある水分の量、例えば、処理容器11内の水分量を制御するために、処理容器11に水のバブリング供給系を設け、あるいは接続し、微量な水の量を制御しながら処理容器11内に供給するようにしても良い。
【0090】
また、処理容器11内の水分量を制御する他にも、下地に、外部からの水分供給、例えば、水及び/又はOH基を含有するガスを予め接触させることでも、下地の残留水分の量を制御することができる。具体的な例としては、下地、例えば、TEOS膜101が形成されたウエハWを、飽和水蒸気雰囲気とされた処理室内に短時間入れて取り出すこと、上記ウエハWを、水蒸気及び/又はOH基を含有するガスを吐出するガスシャワー下を通過させ、下地、例えばTEOS膜101に上記ガスを接触させる等を挙げることができる。
【0091】
(第2の実施形態)
(金属酸化物膜の形成方法)
図12は、第2の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法によるウエハ温度、キャリアガス流量、処理容器内圧力、及び金属原料ガス流量の制御例を示すタイミングチャートである。尚、本例において使用される試料は、図2に示した試料と同様である。
【0092】
図12に示すように、第2の実施形態においては、下地、本例ではウエハWの温度が金属原料ガス、例えば、(EtCp)Mnガスの凝集温度以下で、(EtCp)MnガスをウエハWの表面、本例ではTEOS膜101に供給し、(EtCp)Mnガスを(EtCp)Mnに凝集させ、(EtCp)MnをTEOS膜101の表面に吸着させる工程(3)と、ウエハWの温度を酸化マンガン膜の成膜温度とし、TEOS膜101の表面に吸着された(EtCp)MnとTEOS膜101の表面の残留水分と反応させて、TEOS膜101上に酸化マンガン膜を形成する工程(4)と、を具備する。
【0093】
上述のように、第2の実施形態が第1の実施形態と、特に、異なるところは、金属原料、本例では(EtCp)MnをTEOS膜101の表面に吸着させること、金属原料を吸着させた後、吸着された金属原料と、下地、本例ではTEOS膜101の表面の残留水分とを反応させて金属酸化物膜、本例では酸化マンガン膜を形成する。金属原料の吸着は、下地、本例ではウエハWの温度を金属原料ガスの凝集温度以下、本例では(EtCp)Mnガスの凝集温度以下で行う。金属酸化物膜の形成は、下地、本例ではウエハWの温度を金属酸化物膜の成膜温度以上、本例では酸化マンガン膜の成膜温度以上で行う。
【0094】
このような金属酸化物膜の形成方法は、図1に示した熱CVD装置10を用いて実施することができる。
【0095】
図1に示した熱CVD装置10を用いた場合には、例えば、TEOS膜101が形成されたウエハWを処理容器11内に搬入し、ウエハWを載置台12に載置する(時刻t21)。次いで、本例では、ウエハWを昇温せずに金属原料ガス、本例では(EtCp)Mnガスをキャリアガス、本例ではアルゴン(Ar)ガスとともに、処理容器11の内部に供給する。また、処理容器11の内部の圧力は、本例では、金属原料ガスの供給開始と同時に40Paへの昇圧制御をスタートする(時刻t22)。ただし、ウエハWを昇温しないのであれば、処理容器11の内部の圧力は、昇圧しなくても良いが、金属原料ガスの供給均一性を向上させるために、処理容器11の内部を所定の圧力に保持することとしても良い。金属原料ガスとキャリアガスとの供給を、所定の時間続ける。所定の時間が経過したら(時刻t23)、金属原料ガス及びキャリアガスの供給を止める。これとともに、本例では、圧力を下げる。これで金属原料の吸着工程が終了する。
【0096】
次に、ヒータ12aを用いてウエハWを、成膜温度、本例では、200℃まで昇温する(時刻t24)。これとともに、キャリアガスを圧力調整用ガスとして、本例では、アルゴン(Ar)ガスを処理容器11の内部に供給する。また、処理容器11の内部の圧力は、本例では、圧力調整用ガスの供給開始と同時に133Paへの昇圧制御をスタートする。ウエハWの温度が成膜温度に達したら(時刻t25)、成膜温度を維持し、所定の成膜時間を経過させる。成膜時間が経過したら(時刻t26)、ウエハWの加熱、及び圧力調整用ガスの流量、及び圧力を、本例では段階的に下げる。処理容器11の内部の圧力が、ウエハWの搬出が可能な圧力まで下がったら、ウエハWを載置台12から離脱させ、ウエハWを処理容器11から外部へ搬出する(時刻t27)。これで金属酸化物膜の形成工程が終了する。
【0097】
(第3の実施形態)
図13は、第3の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法によるウエハ温度、キャリアガス流量、処理容器内圧力、及び金属原料ガス流量の制御例を示すタイミングチャートである。尚、本例において使用される試料は、図2に示した試料と同様である。
【0098】
図13に示すように、第3の実施形態が第2の実施形態と異なるところは、金属原料の吸着工程(3)と金属酸化物膜の形成工程(4)とを、別々の処理容器で行うことである。かつ、両工程が下地を大気暴露することなく連続して行われることである。
【0099】
このような金属酸化物膜の形成方法は、例えば、クラスターツール型(マルチチャンバータイプ)の半導体製造装置を用いることができる。
【0100】
図14は、この発明の第3の実施形態に係る酸化マンガン膜の形成方法を実行することが可能な成膜システムの一例を概略的に示す平面図である。本例は、成膜システムの一例として、半導体装置の製造に用いられ、例えば、基板として半導体ウエハ(以下ウエハという)に成膜処理を施す成膜システムを例示する。
【0101】
図14に示すように、成膜システム30は、ウエハWに処理を施す処理部40と、この処理部40にウエハWを搬入出する搬入出部50と、成膜システム30を制御する制御部22とを備えている。
【0102】
処理部40は、本例では、ウエハWに処理を施す処理容器を二つ備えている(処理容器41a、41b)。これらの処理容器41a及び41bはそれぞれ、内部を所定の真空度に減圧可能に構成されている。処理容器41aにおいては、ウエハWへの成膜前処理として、ウエハW上への金属原料の吸着処理が行われ、処理容器41bにおいてはウエハWへの成膜処理として、ウエハW上への金属酸化物膜の成膜処理が行われる。処理容器41a及び41bは、ゲートバルブG1、G2を介して、一つの搬送室(TM)42に接続されている。
【0103】
搬入出部50は、搬入出室(LM)51を備えている。搬入出室51は、内部を大気圧、又はほぼ大気圧、例えば、外部の大気圧に対してわずかに陽圧に調圧可能に構成されている。搬入出室51の平面形状は、本例では、平面から見て長辺、この長辺に直交する短辺を有した矩形である。矩形の長辺は処理部40に隣接する。搬入出室51は、ウエハWが収容されているキャリアCが取り付けられるロードポート(LP)を備えている。本例では、搬入出室51の処理部40に相対した長辺に、三つのロードポート52a、52b、及び52cが設けられている。本例においては、ロードポートの数を三つとしているが、これらに限られるものではなく、数は任意である。ロードポート52a〜52cには各々、図示せぬシャッターが設けられており、ウエハWを格納した、あるいは空のキャリアCがこれらのロードポート52a〜52cに取り付けられると、図示せぬシャッターが外れて外気の侵入を防止しつつ、キャリアCの内部と搬入出室51の内部とが連通される。
【0104】
処理部40と搬入出部50との間にはロードロック室(LLM)、本例では二つのロードロック室60a及び60bが設けられている。ロードロック室60a及び60bは各々、内部を所定の真空度、及び大気圧、もしくはほぼ大気圧に切り換え可能に構成されている。ロードロック室60a及び60bは各々、ゲートバルブG3、G4を介して搬入出室51の、ロードポート52a乃至52cが設けられた一辺に対向する一辺に接続され、ゲートバルブG5、G6を介して搬送室42の、処理容器41a及び41bが接続された二辺以外の辺のうちの二辺に接続される。ロードロック室60a及び60bは、対応するゲートバルブG3又はG4を開放することにより搬入出室51と連通され、対応するゲートバルブG3又はG4を閉じることにより搬入出室51から遮断される。また、対応するゲートバルブG5又はG6を開放することにより搬送室42と連通され、対応するゲートバルブG5、又はG6を閉じることにより搬送室42から遮断される。
【0105】
搬入出室51の内部には搬入出機構55が設けられている。搬入出機構55は、キャリアCに対するウエハWの搬入出と、ロードロック室60a及び60bに対するウエハWの搬入出とを行う。搬入出機構55は、例えば、二つの多関節アーム56a及び56bを有し、搬入出室51の長手方向に沿って延びるレール57上を走行可能に構成されている。多関節アーム56a及び56bの先端には、ハンド58a及び58bが取り付けられている。ウエハWは、ハンド58a又は58bに載せられ、上述したウエハWの搬入出が行われる。
【0106】
搬送室42は真空保持可能な構成、例えば、真空容器として構成されている。このような搬送室42の内部には、処理容器41a及び41b、並びにロードロック室60a及び60b相互間に対してウエハWの搬送を行う搬送機構44が設けられ、大気とは遮断された状態でウエハWが搬送される。搬送機構44は、搬送室42の略中央に配設されている。搬送機構44は、回転及び伸縮可能なトランスファアームを、例えば、複数本有する。本例では、例えば、二つのトランスファアーム44a及び44bを有する。トランスファアーム44a及び44bの先端には、ホルダ45a及び45bが取り付けられている。ウエハWは、ホルダ45a又は45bに保持され、上述したように、処理容器41a及び41b、並びにロードロック室60a、60b相互間に対するウエハWの搬送が行われる。
【0107】
制御部22は、図1に示した装置と同様に、成膜システム30を制御するものであるので、本例ではその説明は省略する。
【0108】
ウエハW上への金属原料の吸着処理を行う処理容器41aとしては、例えば、図1に示した成膜装置10を利用することができる。
【0109】
対して、金属酸化物膜の成膜処理を行う処理容器41bとしては、図1に示した成膜装置10を利用しても良いが、熱処理装置を利用することができる。図15に熱処理装置の一例を示す。
【0110】
図15は、この発明の第3の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法を実施することが可能な熱処理装置の一例を概略的に示す断面図である。
【0111】
図15に示すように、熱処理装置70は処理容器(処理室)41bを有する。処理容器41b内にはウエハWを水平に載置する載置台72が設けられている。載置台72内にはウエハWの温調手段となるヒータ72aが設けられている。また、載置台72には図示せぬ昇降機構により昇降自在な3本のリフターピン72c(便宜上2本のみ図示)が設けられており、このリフターピン72cによりウエハWを昇降させ、図示せぬウエハ搬送手段と載置台72との間でウエハWの受け渡しを行う。
【0112】
処理容器41bの底部には排気管73の一端が接続され、排気管73の他端には排気装置74が接続されている。処理容器41bの側壁には、ゲートバルブG2により開閉される搬送口75が形成されている。
【0113】
処理容器41bの天井部には載置台72に対向するガス吐出孔76が設けられている。ガス吐出孔には、例えば、圧力調整用ガスを処理容器41bに導入する圧力調整用ガス供給配管系77が接続される。
【0114】
圧力調整用ガス供給機構77は、例えば、圧力調整用ガスが貯留された圧力調整用ガス貯留部77aと、圧力調整用ガスを処理容器41bに導く供給管77bと、供給管77b中を流れる圧力調整用ガスの流量を調節するマスフローコントローラ(MFC)77c、バルブ77d及び77eとを含んで構成される。バルブ77dは、圧力調整用ガス貯留部77aとマスフローコントローラ77cとの間に設けられ、バルブ77eは、供給管77bとマスフローコントローラ77cとの間に設けられる。圧力調整用ガスの例は、アルゴン(Ar)ガス、水素(H)ガス、及び窒素(N)ガス等である。尚、圧力制御のため、処理容器41bには圧力計を設置すると共に、排気装置74には圧力制御弁が設けられるが、ここでは図示を省略している。
【0115】
図14に示した成膜システム30を用いた場合には、例えば、TEOS膜101が形成されたウエハWを処理容器41a内に搬入し、ウエハWを載置台72に載置する(時刻t31)。次いで、本例では、ウエハWを昇温せずに金属原料ガス、本例では(EtCp)Mnガスをキャリアガス、本例では、アルゴン(Ar)ガスとともに、処理容器41aの内部に供給する。また、処理容器41aの内部の圧力は、本例では、金属原料ガスの供給開始と同時に40Paへの昇圧制御をスタートする(時刻t32)。ただし、ウエハWを昇温しないのであれば、処理容器41aの内部の圧力は、昇圧しなくても良いが、金属原料ガスの供給均一性を向上させるために、処理容器41aの内部を所定の圧力に保持することとしてもよい。金属原料ガスとキャリアガスの供給を、所定の時間続ける。所定の時間が経過したら(時刻t33)、金属原料ガス及びキャリアガスの供給を止める。これとともに、本例では、圧力を下げる。これで金属原料の吸着工程が終了する。
【0116】
次に、ウエハWを処理容器41aから搬送室42へ搬出し(t34)、次いで、ウエハWを搬送室42から処理容器41bに搬入する(時刻t35)。
【0117】
次に、ヒータ72aを用いてウエハWを、成膜温度、本例では、200℃への昇温を開始する(時刻t36)。これとともに、キャリアガスを圧力調整用ガスとして、本例では、アルゴン(Ar)ガスを処理容器41bの内部に供給する。また、処理容器41bの内部の圧力は、本例では、圧力調整用ガスの供給開始と同時に133Paへの昇圧制御をスタートする。ウエハWの温度が成膜温度に達したら(時刻t37)、成膜温度を維持し、所定の成膜時間を経過させる。成膜時間が経過したら(時刻t38)、ウエハWの加熱、及び圧力調整用ガスの流量、及び圧力を、本例では段階的に下げる。処理容器41bの内部の圧力が、ウエハWの搬出が可能な圧力まで下がったら、ウエハWを載置台72から離脱させ、ウエハWを処理容器41bから搬送室42へ搬出する(時刻t39)。これで金属酸化物膜の形成工程が終了する。
【0118】
これら第2、第3の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法によれば、ウエハWの温度を、成膜温度以上に昇温する前に下地の表面に金属原料を吸着させるので、下地の表面の残留水分と金属原料とを接触させることができる。このため、第1の実施形態と同様に、金属酸化物膜、本例では、酸化マンガン膜103の膜厚を制御することが可能となる。
【0119】
金属酸化物膜の膜厚制御としては、第1の実施形態において説明した金属酸化物膜の膜厚制御が利用されれば良い。例えば、金属酸化物膜の膜厚は、金属原料ガスを供給し始めた時点における下地の表面の残留水分102の量に基づいて制御することができる。
【0120】
残留水分102の量は、例えば、金属原料ガスを供給し始めた時点における下地の温度に基づいて制御することができ、下地の温度の制御例は、第1の実施形態において説明した第1〜第3の下地温度制御例を適用することができる。
【0121】
さらに、残留水分102の量は、第1の実施形態において説明した別の制御例1〜3を利用しても良い。
【0122】
(第4の実施形態)
残留水分の量を制御するために、金属酸化物膜を形成する前に、下地、例えば、TEOS膜101が形成されているウエハWを熱処理しても良い。この熱処理を、本明細書ではプレアニール処理と呼ぶ。
【0123】
(装置構成)
図16は、この発明の第4の実施形態に係る酸化マンガン膜の形成方法を実行することが可能な成膜システムの一例を概略的に示す平面図である。本例は、成膜システムの一例として、半導体装置の製造に用いられ、例えば、基板として半導体ウエハ(以下ウエハという)に成膜処理を施す成膜システムを例示する。
【0124】
図16に示すように、成膜システム80は、クラスターツール型(マルチチャンバータイプ)である。成膜システム80が、図14に示した成膜システム30と異なるところは、処理部40が、ウエハWにプレアニール処理を施す処理容器41cと、ウエハWの下地上に金属酸化物膜の成膜処理を施す処理容器41dを備えていることである。
【0125】
処理容器41cは、熱処理装置であり、ウエハWを加熱可能な構成であれば良く、例えば、例えば、図17に示すような熱処理装置90を利用することができる。
【0126】
図17に示すように、熱処理装置90が、図15に示した熱処理装置70と異なるところは、圧力調整用ガス貯留部77aを、伝熱ガス貯留部77fとしたことである。伝熱ガスは圧力調整用ガスと同じ役割を果たすガスではあるが、本例では、プレアニール処理時に、下地が変質することを抑制するために、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス等の希ガスや、窒素(N)ガス等の不活性ガスを用いる。
【0127】
処理容器41cは、成膜装置であり、例えば、図1に示した熱CVD装置10を利用することができる。
【0128】
(金属酸化物膜の形成方法)
次に、この発明の第4の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法の一例を説明する。
【0129】
本例においては、金属酸化物膜として、例えば、酸化マンガン膜をウエハW(例えば、シリコンウエハ)上に形成されているTEOS膜上に形成する例を示す。
【0130】
図18はウエハ温度、伝熱ガス/キャリアガス流量、処理容器内圧力、及び金属原料ガス流量の制御例を示すタイミングチャートである。
【0131】
図18に示すように、第4の実施形態が第1の実施形態と異なるところは、図3を参照して説明した金属酸化物の形成を行う前に、ウエハW上の下地、本例ではTEOS膜を、プレアニール処理する工程(5)を備えていることである。
【0132】
具体的には、TEOS膜が形成されたウエハWを処理容器41c内に搬入し、ウエハWを載置台72に載置する(時刻t41)。次いで、ヒータ72aを用いてウエハWを、プレアニール温度まで昇温する。プレアニール温度については、詳しくは後述するが成膜温度未満の温度に設定される。また、処理容器41cの内部に伝熱ガスを供給し、処理容器41c内の圧力を、本例では、昇温開始と同時に133Paに昇圧する(時刻t42)。ウエハWの温度がプレアニール温度に達したら(時刻t43)、プレアニール温度を維持し、所定のプレアニール時間を経過させる。プレアニール時間についても、詳しくは後述するが、下地であるTEOS膜の表面の残留水分、及び/又はTEOS膜の内部に含まれている水分の全てが失われない時間内に設定される。プレアニール時間が経過したら(時刻t44)、ウエハWの加熱を止めるとともに、本例では、伝熱ガスの流量、及び処理容器41cの内部の圧力を下げる。処理容器41cの内の圧力が、ウエハWの搬出が可能な圧力まで下がったら、ウエハWを載置台72から離脱させ、ウエハWを処理容器41cから搬送室42へ搬出する(時刻t45)。次いで、プレアニール処理が施されたウエハWを、搬送室42から処理容器41d内に搬入し、ウエハWを載置台に載置する。処理容器41dとして、例えば、図1に示した熱CVD装置10の処理容器11を利用した場合には、ウエハWは載置台12に載置される(時刻t1)。以後、図3を参照して説明した処理と同様の処理を行えば良い。
【0133】
(成膜メカニズム)
第4の実施形態に係る金属酸化物膜の形成方法における成膜メカニズムを図19A〜図19Eに示す。
【0134】
図19Aは、処理容器41c内への搬入直後のウエハWの状態を示している。
【0135】
図19Aに示すように、処理容器41c内への搬入直後においては、下地であるTEOS膜101の表面に残留水分(物理級着水、及び/又は化学吸着水)が残留している。
【0136】
第4の実施形態では、図19Bに示すように、金属原料ガス、例えば、(EtCp)MnガスをTEOS膜101の表面に供給する前に、成膜温度未満の温度でプレアニール処理し、TEOS膜101の表面、及びTEOS膜101の内部から水分脱ガスを緩やかに行う。例えば、成膜温度が200℃ならば、プレアニール温度は170℃のようにする。これにより、図19Cに示すように、下地であるTEOS膜101の表面の残留水分102の量が制御される。残留水分102の量が制御されたTEOS膜101上に、図19Dに示すように、ウエハWの温度が成膜温度に達する前から金属原料ガス、例えば、(EtCp)MnガスをTEOS膜101の表面に供給する。これにより、図19Eに示すように、TEOS膜101の上に、膜厚が制御された金属酸化物膜、本例では、膜厚が制御された酸化マンガン膜103が形成される。
【0137】
(膜厚の昇温時間依存性)
図20は、金属酸化物膜の金属原料ガス供給前の昇温時間依存性を示す図である。
【0138】
図20に示す線Iは、図8に示した昇温時間依存性と同様の結果を示している。即ち、線Iは、プレアニール処理をしない例を示している。
【0139】
対して、線II、III、IVは、それぞれ温度170℃、200℃、230℃でプレアニール処理をした例を示している。なお、プレアニール時間は10分とした。
【0140】
詳しくは、線IIは、TEOS膜101が形成されたウエハWを、図17に示した熱処理装置90を用いて温度170℃でプレアニール処理した後、図1に示した熱CVD装置10を用いて、昇温開始から60秒後に(EtCp)Mnガスを供給した結果、及び昇温開始から240秒後に(EtCp)Mnガスを供給した結果を示している。同様に、線IIIは、TEOS膜101が形成されたウエハWを温度200℃でプレアニール処理した後、昇温開始から60秒後に(EtCp)Mnガスを供給した結果、及び昇温開始から240秒後に(EtCp)Mnガスを供給した結果を、線IVは、TEOS膜101が形成されたウエハWを温度230℃でプレアニール処理した後、昇温開始から60秒後に(EtCp)Mnガスを供給した結果、及び昇温開始から240秒後に(EtCp)Mnガスを供給した結果を、それぞれ示している。
【0141】
また、図20には、TEOS膜101が形成されたウエハWを温度275℃でプレアニール処理した後、昇温開始と同時に(EtCp)Mnガスを供給した結果、昇温開始から60秒後に(EtCp)Mnガスを供給した結果、及び昇温開始から240秒後に(EtCp)Mnガスを供給した結果についても示されている。
【0142】
図20に示すように、金属酸化物膜を形成する前に、下地をプレアニール処理することで、プレアニール処理をしない場合に比較して、図8に示した膜厚の昇温時間依存性を変化させることができる。したがって、金属酸化物膜を形成する前に下地をプレアニール処理することで、金属酸化物膜、例えば、酸化マンガン膜の膜厚を制御することが可能である。
【0143】
(膜厚のプレアニール温度依存性)
図21は、プレアニール温度と金属酸化物膜の膜厚との関係を示す図である。
【0144】
図21に示す“黒丸”は、TEOS膜101が形成されたウエハWをプレアニール処理した後、昇温開始から60秒後に(EtCp)Mnガスを供給することで形成された酸化マンガン膜の膜厚を、“白丸”は同じく昇温開始から240秒後に(EtCp)Mnガスを供給することで形成された酸化マンガン膜の膜厚を示している。プレアニール温度は170℃、200℃、230℃、275℃、プレアニール時間は各10分である。
なお、図21中の左端の“黒丸”及び“白丸”はプレアニール温度が25℃(室温)、つまり、プレアニール処理しない場合の酸化マンガン膜の膜厚を示している。
【0145】
図21に示すように、プレアニール温度を高くすると、酸化マンガン膜の膜厚は、減少する傾向をみせる。膜厚が減少する傾向は、昇温時間(昇温開始から(EtCp)Mnガスを供給するまでの時間)が短いと顕著に現われ、昇温時間が長くなるにつれて緩和される傾向にある。また、膜厚が減少する傾向は、プレアニール時間を10分とした場合、例えば、プレアニール温度が230℃未満まで続く。プレアニール温度が230℃以上となると、昇温時間に関わらずに酸化マンガン膜の膜厚は約0.6nm程度でほぼ一定となる(セルフリミット膜厚)。
【0146】
(膜厚のプレアニール時間依存性)
図22は、プレアニール時間と金属酸化物膜の膜厚との関係を示す図である。
【0147】
図22に示す“黒丸”は、TEOS膜101が形成されたウエハWをプレアニール処理した後、昇温開始から240秒後に(EtCp)Mnガスを供給することで形成された酸化マンガン膜の膜厚を示している。プレアニール時間は1分、5分、10分、プレアニール温度は各230℃である。
なお、図22中の左端の“黒丸”はプレアニール時間がゼロ、つまり、プレアニール処理しない場合の酸化マンガン膜の膜厚を示している。
【0148】
図22に示すように、プレアニール時間を長くすると、酸化マンガン膜の膜厚は、減少する傾向をみせる。膜厚が減少する傾向は、プレアニール温度を230℃、昇温時間を240秒とした場合、例えば、プレアニール時間が5分まで続く。プレアニール時間が5分を超えると、プレアニール時間に関わらずに酸化マンガン膜の膜厚は約0.6nm程度でほぼ一定となる(セルフリミット膜厚)。
【0149】
(プレアニール処理の好ましい条件)
上述した膜厚のプレアニール温度依存性、及び膜厚のプレアニール時間依存性より、下地であるTEOS膜101の表面及び内部の少なくともいずれかには、昇温時間に依存して酸化マンガン膜103を成長させる酸素源αと、昇温時間に依存せずに酸化マンガン膜103を成長させる酸素源βとの二種類が含まれているもの、と考えられる。これらの二種類の酸素源α、βの存在によって、図21及び図22に示すように、酸化マンガン膜103には酸素源βのみ、あるいは酸素源βを主な酸化剤として形成された酸化マンガン膜Aと、酸素源α、βの双方を酸化剤として形成された酸化マンガン膜Bがある、と推測される。
【0150】
この推測から、金属酸化物膜を形成する前に下地をプレアニール処理する場合には、下地であるTEOS膜101の表面及び内部の少なくともいずれかに、昇温時間に依存して酸化マンガン膜を成長させる酸素源αを残した状態で、プレアニール処理を終了させると良い。これは、酸素源αがTEOS膜101の表面及び内部の双方から失われてしまうと、TEOS膜101上に形成される酸化マンガン膜103の膜厚はセルフリミット膜厚とならざるを得ないためである。
【0151】
プレアニール処理において、酸素源αを下地に残すための目安としては、プレアニール温度は低い方が酸素源αを残しやすいので、プレアニール温度は成膜温度未満とすることが良いであろう。
【0152】
後述の図25によると、ウエハWの表面温度が100℃付近と250℃付近に蒸発水分量のピークが見られ、これらは物理吸着水に由来すると言われている。また、ウエハWの表面温度が450〜500℃付近にも蒸発水分量のピークが見られ、これらは化学吸着水に由来すると言われている(論文:N. Hirashita, S. Tokitoh, and H. Uchida: Jpn. J. Appl. Phys. 32
(1993) 1787.を参照)。これらのことから、酸素源αを物理吸着水、酸素源βを化学吸着水と考えると、酸素源αを残すためのプレアニール温度範囲としては、350℃以下が特に望ましい。
【0153】
また、プレアニール時間も短い方が酸素源αを残しやすいので、プレアニール時間は下地の表面の残留水分、及び/又は下地の内部に含まれている水分の全てが失われない時間の範囲内とすることが良いであろう。具体的なプレアニール時間の目安としては、プレアニール温度が200℃以上ならば5分以下、プレアニール温度が200℃未満ならば10分以下が良いであろう。
【0154】
プレアニール温度、及びプレアニール時間を、上述のように設定することで、セルフリミットを発生させるような金属酸化物であっても、その膜厚を制御することが可能となる。
【0155】
(第4の実施形態の変形例1)
図23は、この発明の第4の実施形態の変形例1に係る金属酸化物膜の形成方法の制御例を示すタイミングチャートである。
【0156】
図23に示すように、第4の実施形態は、第1の実施形態と組み合わされるばかりでなく、第2の実施形態と組み合わせることが可能である。
【0157】
即ち、金属原料を下地の表面に吸着させる前に、下地、例えば、TEOS膜101が形成されているウエハWをプレアニール処理しても良い。
【0158】
なお、他の説明については、図23に、図12及び図18と同一の部分については同一の参照符号を付すことで省略する。
【0159】
(第4の実施形態の変形例2)
図24は、この発明の第4の実施形態の変形例2に係る金属酸化物膜の形成方法の制御例を示すタイミングチャートである。
【0160】
図24に示すように、第4の実施形態は、第3の実施形態と組み合わせることが可能である。
【0161】
即ち、プレアニール処理する工程(5)、金属原料を下地の表面に吸着させる工程(3)、及び金属酸化物膜を形成する工程(4)を、それぞれ別々の処理容器で行うことも可能である。また、工程(5)から工程(3)、工程(3)から工程(4)に移る際には、下地、例えば、ウエハW上に形成されたTEOS膜101を大気暴露することなく連続して行う。これには、クラスターツール型の半導体装置を用いれば良く、例えば、図14に示した成膜システム30の搬送室42に、図16に示した成膜システム80の処理容器41cをさらに接続した成膜システムが用いられれば良い。
【0162】
なお、他の説明については、図24に、図13及び図18と同一の部分については同一の参照符号を付すことで省略する。
【0163】
(第4の実施形態の変形例3)
第1の実施形態において、下地の残留水分の量を制御する例を説明した。下地の残留水分の量の制御は、第4の実施形態、即ち、プレアニール処理においても適用することができる。
【0164】
例えば、プレアニール処理を施す処理容器41c内に水蒸気及び/又はOH基を含有するガスを供給し、処理容器41c内の水分分圧を制御する、あるいはプレアニール処理で大半の残留水分を蒸発させた後、改めて下地に水分を、量を制御しながら接触させるようにして、下地の残留水分の量を制御することも可能である。
【0165】
なお、これらの例は、下地の表面の残留水分の量を、外部からの水分供給に基づいて制御することに相当する。
【0166】
(第5の実施形態)
第5の実施形態は、下地の例に関する。
【0167】
第1〜第4の実施形態においては、TEOS膜を下地として使用した。下地としては、TEOS膜のように内部に水分を含む膜であることが良い。内部に含まれている水分を表面に出すことによって、金属原料ガスを表面に出た水分と接触させることができるためである。
【0168】
図25はウエハの表面温度と蒸発する水分量との関係を示す図である。
【0169】
図25には、4つの試料例が示されている。
【0170】
試料1.ウエハWそのものであるシリコン(Bare−Si)
試料2.ウエハWの表面を熱酸化したシリコン熱酸化膜(Th−SiO
試料3.ウエハW上に形成したTEOS膜(TEOS−SiO:図2に示した試料)
試料4.ウエハW上に形成した酸化シリコン系の低誘電率絶縁膜(k=約3.0)
これら4つの試料を加熱し、蒸発する水分量を調べた結果が図25である。
【0171】
図25に示すように、試料3が、最も水分を蒸発させており、特に、ウエハWの表面温度が100℃付近で水分蒸発のピークを迎えている。これは、TEOS膜が、表面及びその内部に多くの水分を含んでいる、との証拠である。
【0172】
また、試料4も、ウエハWの表面温度が250℃付近で水分蒸発のピークを迎えており、Low−k膜も表面及びその内部にある程度の水分を含んでいる、との証拠である。
【0173】
図25に示すように、ウエハWの表面温度が100〜250℃付近で水分蒸発のピークを迎えるような膜であれば、上記第1〜第4の実施形態において使用される下地として好適である。
【0174】
また、水分を含む膜に代わるものとしては、OH基を含む膜であっても良い。特に、OH基を含む膜としては、反応させることでOH基が水分(HO)に変化する膜であることが良い。OH基が変化して生成された水分を表面に出すことによって、金属原料ガスを表面に出た水分と接触させることができるからである。もちろん、後述の親水性表面膜のように、OH基が膜中のみならず、表面に多く存在している膜であってもよい。金属原料ガスを表面のOH基と接触させて反応させることができるからである。
【0175】
近年、低誘電率絶縁膜の誘電率を更に低くするため、膜中に多数のポア(孔)を設ける試みがなされている(ポーラスlow−k膜)。ポアを設けることにより、比誘電率の値(k値)を3.0から例えば2.5に低減することができる。しかしながら、膜にポアが存在するため、ポーラスlow−k膜上にCVDでバリア膜を堆積しようとすると、CVD用プリカーサがポアを通じてポーラスlow−k膜中に入り込み、k値を上昇させるなど膜質を変化させることが起こる。そのため、ポアシールと称する処理をおこない、ポーラスlow−k膜表面のポアを塞ぎ、プリカーサなどがポーラスlow−k膜中に進入することを防ぐと共に、ポーラスlow−k膜中に含まれている水分がポアを通じてバリア膜に到達し、バリア膜やCu配線を酸化させないようにしている。このポアシールに本発明を応用することが可能である。ポーラスlow−k膜を有する下地を加熱すると、ポーラスlow−k膜から水分が出てくる。出てきた水分と外部からのMnプリカーサ(例えば、水と反応し易い(EtCp)2Mnなど)とが出会うと反応してMnOxがポーラスlow−k膜表面に形成されてポアシールの役割を果たす。MnOxでポアシールがなされると水とMnプリカーサとがそれ以上出合うことができなくなり、成膜反応が停止する(セルフリミット)。具体的なプロセスとしては、ウエハ昇温中(つまり、ポーラスlow−k膜表面から水が蒸発し続けている間)にMnプリカーサを供給するのがよい。ただし、ポーラスlow−k膜表面が疎水性だと後述のようにMnOxが堆積しにくくなってしまうため、予め親水性にしておくことが望ましい。LKR(Low-k Recovery)しない、もしくはLKRをひかえめにするなども有効と思われる。
【0176】
さらに、下地としては、下地の表面が親水性、又は親水化処理された膜であることが良く、さらに、このような膜の表面に水分を吸着させた膜であること
が良い。例えば、下地の表面が疎水性、撥水性であると、その表面での水分の滞在が妨げられて、下地表面における水分の存在確率が著しく低下するため、連続した金属酸化物膜の形成が困難になる。対して、下地の表面が親水性、又は親水化処理された膜であると、下地表面における水分の存在確率が高く維持されるため、連続した金属酸化物膜の形成に有利である。
【0177】
また、その他にも、下地表面の残留成分と供給された金属原料とが反応を起こして膜を形成する組み合わせであれば本発明を適用可能であり、下地表面の残留成分の一例としては蟻酸や酢酸、シュウ酸、クエン酸などの有機酸やアルコール類、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、シラノール類等を挙げることができる。シラノール類としては、メチルシラノール、エチルシラノール、プロピルシラノール、ブチルシラノール等を挙げることができる。これらの有機酸やアルコール類、シラノール類は、事前に行われた下地の前処理工程において下地に付着し、残留した成分の一部である。あるいは、プレアニール処理を施す処理容器などにて残留水分などを蒸発させた後、上述の有機酸やアルコール類、シラノール類、水のいずれかを供給装置によって制御しながらその微量を処理容器に供給し、下地に付着させるようにしてもよい。水などの供給は、成膜処理を施す処理容器で実施してもよいし、プレアニール処理を施す処理容器などで実施してもよい。これらの有機酸やアルコール類、シラノール類においても、OH基を含むものが特に望ましい。
【0178】
次に、下地の表面を親水化する親水化処理の例のいくつかを説明する。
【0179】
(第1例)
親水化処理の第1例は、下地の表面をプラズマ処理することである。親水化処理のためのプラズマ処理は、アルゴンガス(Ar)等の希ガス雰囲気中、または酸素ガス(O)等の酸素含有雰囲気中、あるいは両ガスの混合ガス雰囲気中でプラズマを発生させ、下地の表面をプラズマに曝すことで下地の表面を親水化する。例えば、下地の表面がメチル基(−CH)で終端していると、その表面は疎水性となる。このような下地は、例えば、Low−k膜、例えば、トリメチルシラン((CHSiH)等の有機材料を用いて形成されたSiOC膜などにみることができる。このように表面がCH基で終端している下地をプラズマに曝すと、表面のCH基が切断され、下地の表面は疎水性から親水性に変わる。このような親水化処理のためのプラズマ処理は、数秒間程度行われれば十分である。また、親水化処理のためのプラズマ処理における実用的なプロセス圧力は10〜10Paの範囲内、同じく実用的な高周波電力は10〜10Wの範囲内である。
【0180】
また、プラズマ処理に酸素ガスを用いた場合には、下地の表面にヒドロキシ基(−OH)の形成が促進されるので、下地の表面に上述の残留水分と同様な水分を新たに形成することもできる。
【0181】
なお、下地の分子構造や構造元素によっては、水素(H)含有雰囲気中、炭素(C)含有雰囲気中、窒素(N)含有雰囲気中、フッ素(F)等のハロゲン含有雰囲気中でプラズマを発生させ、下地の表面を親水化することも可能である。
【0182】
(第2例)
親水化処理の第2例は、下地の表面を紫外線オゾン処理することである。親水化処理のための紫外線オゾン処理は、下地の表面をオゾンガス(O)や酸素ガス(O)等の酸素含有雰囲気中に曝すとともに酸素含有雰囲気に紫外線を照射する。これにより、酸素含有雰囲気中のオゾン及び/又は酸素が酸素ラジカルとなり、この酸素ラジカルが下地の表面を親水性に改質させ、下地の表面が親水化される。
【0183】
親水化処理のための紫外線オゾン処理における紫外線源としては、低圧水銀ランプ(波長:185〜254nm)や、キセノンエキシマランプ(波長:172nm)等を用いることができる。特に、紫外線の波長としては、短波長、例えば、240nm以下を用いることが好ましい。
【0184】
(第3例)
親水化処理の第3例は、下地の表面をガスクラスターイオンビーム(GCIB)処理することである。親水化処理のためのGCIB処理においては、数個から数千個の原子や分子が緩やかに結合したクラスターを正電荷にイオン化させ、これを2.5〜80kVの加速電圧で加速して下地の表面に照射する。親水化処理のためのGCIB処理において用いられるガスは、例えば、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、メタンガス、あるいはアルゴンガス、ヘリウムガス等の希ガスである。又はこれらのガスの混合ガスを用いても良い。このようなガスのガスクラスターイオンビームを下地の表面に照射することで、下地の表面が親水性に改質され、下地の表面を親水化することができる。
【0185】
(第4例)
親水化処理の第4例は、下地の表面を可視光照射処理することである。下地の表面がシリコンを含み、表面がメチル基(−CH)で終端している場合には、425nmの波長の可視光(紫光)を下地の表面に照射する。Si−CH結合の結合エネルギーは、425nmの波長のエネルギーに相当する。そこで、425nmの波長の可視光を下地の表面に照射する。これにより、CH基がシリコンから切断されてヒドロキシ基(−OH)や、Si−O−Si結合に変換されて下地の表面が親水性に改質され、下地の表面を親水化することができる。
【0186】
以上、この発明をいくつかの実施形態に従って説明したが、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲で様々に変形することができる。
【0187】
例えば、上記実施形態においては、有機金属化合物として、例えば、金属としてマンガンを含む(EtCp)Mn[=Mn(C]をマンガンプリカーサーとして用いたが、これに限られるものではなく、他の有機金属化合物を用いることもできる。
【0188】
他の有機金属化合物としては、例えば、
CpMn[=Mn(C
(MeCp)Mn[=Mn(CH
(MeCp)Mn[=Mn((CH
(i−PrCp)Mn[=Mn(C
(t−BuCp)Mn[=Mn(C
MeCpMn(CO)[=(CH)Mn(CO)
MeMn(CO)[=(CH)Mn(CO)
Mn(DPM)[=Mn(C1119
Mn(DPM)[=Mn(C1119
Mn(DMPD)(EtCp)[=Mn(C11)]
Mn(acac)[=Mn(C
Mn(acac)[=Mn(C
Mn(hfac)[=Mn(CHF
Mn(iPr−AMD)[=Mn(CNC(CH)NC
Mn(tBu−AMD)[=Mn(CNC(CH)NC
等を挙げることができるが、水分との高い反応性を有するシクロペンタジエニル系(化学式中にCpが含まれているもの)の有機金属化合物が特に望ましい。
【0189】
また、上記実施形態においては、金属酸化物膜として酸化マンガン膜を形成したが、例えば、水又はヒドロキシ基(−OH)との反応により成膜可能な膜種としては、以下の金属酸化物膜を挙げることができる。
【0190】

Al
SiO
PO
TiO
TiSi
VO
CrO
ZnO
GeO
SnO
Ta
MgO
CaO
Sc
FeO
CoO
NiO
CuO
Ga
SrO

ZrO
Nb
In
Sb
La
PrO
Lu
HfO
WO
BiO
また、上記実施形態においては、熱CVD法を用いて、金属酸化物膜、例えば、酸化マンガン膜を形成したが、金属酸化物膜、例えば、酸化マンガン膜は、ALD法を用いて形成することも可能である。
【0191】
上記実施形態にしたがって、金属酸化物膜、例えば、酸化マンガン膜を、ALD法を用いて形成する場合には、残留水分が残留している下地の表面、例えば、TEOS膜の表面上に、金属原料ガス、例えば、(EtCp)Mnガスをパルス状に供給した後、酸化剤を含むガス、例えば、水蒸気(HO)を、同じくパルス状に供給する。この後、再度、金属原料ガス、例えば、(EtCp)Mnガスを供給すれば良い。酸化剤を含むガスは、1回だけ供給するようにしても良いし、必要に応じて、金属原料ガスと酸化剤を含むガスとを交互に複数回ずつ供給することも可能である。
【0192】
また、上記第4の実施形態においては、プレアニール処理を施す処理容器41c(図16参照)と、金属酸化物の原料ガスを供給し、金属酸化物膜の成膜処理を施す処理容器41d(図16参照)とを別々としたが、上記プレアニール処理と、上記金属酸化物膜の成膜処理とを一つの処理容器で実施することも可能である。この場合、上記プレアニール処理と、上記金属酸化物膜の成膜処理とを一つの処理容器で実施するため、成膜システムのフットプリントの縮小、及び装置コストの削減、といった利点を得ることができる。また、第4の実施形態のように上記プレアニール処理と、上記金属酸化物膜の成膜処理とを別々の処理容器で実施する場合には、プレアニール温度の制御、及び成膜温度の制御が容易、かつ確実なものとなり、金属酸化物膜の膜厚の制御性が向上する、といった利点を得ることができる。
【0193】
ALD法を用いて金属酸化物膜、例えば、酸化マンガン膜を形成する場合においても、下地の表面に残留水分があることにより、1回目の金属原料ガスを下地の表面に供給した際に形成される金属酸化物膜の第1層目の膜厚、本例では酸化マンガン膜の第1層目の膜厚を制御することができる。
【0194】
また、ALD法を用いて金属酸化物膜を形成する場合には、残留水分が残留している下地の表面上に、最初に金属原料ガスを供給することで、金属酸化物の成膜時間を短縮できる、という利点も得ることができる。下地の表面に残留水分、即ち、酸化剤が存在しているので、酸化剤を含むガスを供給する前に、金属酸化物膜の第1層目を形成することが可能となるためである。
【0195】
その他、この発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で様々に変形することができる。
【符号の説明】
【0196】
W…ウエハ、101…TEOS膜、102…残留水分、103…酸化マンガン膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の形成方法であって、
(1)前記下地の温度が前記金属酸化物膜の成膜温度に達する前に、金属原料ガスを前記下地の表面に供給する工程と、
(2)前記下地の温度を前記成膜温度以上とし、前記下地の表面に供給された前記金属原料ガスと前記下地の表面の水分及び/又はヒドロキシ基を含む残留水分とを反応させて、前記下地上に前記金属酸化物膜を形成する工程と、
を具備すること特徴とする金属酸化物膜の形成方法。
【請求項2】
前記(1)の工程の前に、
(5)前記下地を前記成膜温度以下の温度、かつ、前記下地の表面の残留水分及び/又は下地の内部に含まれている水分の全てが失われない時間の範囲内で、前記下地をプレアニール処理する工程を具備することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項3】
前記金属原料ガスを前記下地の表面に供給している最中に、前記下地の内部に含まれている水分を、前記下地の表面へ供給することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項4】
下地上に金属酸化物膜を形成する金属酸化物膜の形成方法であって、
(3)前記下地の温度が金属原料ガスの凝集温度以下で、前記金属原料ガスを前記下地の表面に供給し、前記金属原料ガスを金属原料に凝集させ、前記金属原料を前記下地の表面に吸着させる工程と、
(4)前記下地の温度を前記金属酸化物膜の成膜温度以上とし、前記下地の表面に吸着された前記金属原料と前記下地の表面の水分及び/又はヒドロキシ基を含む残留水分とを反応させて、前記下地上に前記金属酸化物膜を形成する工程と、
を具備することを特徴とする金属酸化物膜の形成方法。
【請求項5】
前記(3)の工程の前に、
(5)前記下地を前記成膜温度以下の温度、かつ、前記下地の表面の残留水分及び/又は下地の内部に含まれている水分の全てが失われない時間の範囲内で、前記下地をプレアニール処理する工程を具備することを特徴とする請求項4に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項6】
前記成膜温度が、前記金属原料ガスの凝集温度以上前記金属原料ガスの分解温度未満であることを特徴とする請求項1から請求項5いずれか一項に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項7】
前記金属酸化物膜の成膜時間が、10秒以下であることを特徴とする請求項6に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項8】
前記金属酸化物膜の膜厚を、前記金属原料ガスを供給し始めた時点における前記下地の表面の残留水分の量に基づいて制御することを特徴とする請求項1から請求項7いずれか一項に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項9】
前記残留水分の量を、前記金属原料ガスを供給し始めた時点における前記下地の温度に基づいて制御することを特徴とする請求項8に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項10】
前記下地の温度を、前記金属原料ガスを供給し始めるまでの前記下地の加熱時間に基づいて制御することを特徴とする請求項9に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項11】
前記下地の温度を、前記金属原料ガスを供給し始めるまでの前記下地の周囲の圧力に基づいて制御することを特徴とする請求項9に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項12】
前記下地の温度を、前記下地を加熱する加熱装置と前記下地との距離に基づいて制御することを特徴とする請求項9に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項13】
前記下地の温度を、前記下地の周囲のガス種を変更することで制御することを特徴とする請求項9に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項14】
前記残留水分の量を、前記下地の厚さに基づいて制御することを特徴とする請求項8に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項15】
前記残留水分の量を、前記下地の露出面積に基づいて制御することを特徴とする請求項8に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項16】
前記残留水分の量を、前記下地の周囲にある水分の量に基づいて制御することを特徴とする請求項8に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項17】
前記残留水分の量を、外部からの水分供給に基づいて制御することを特徴とする請求項8に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項18】
前記下地が、水分及び/又はOH基の少なくともいずれかを含む膜であることを特徴とする請求項1から請求項17いずれか一項に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項19】
前記下地が、表面が親水性、又は親水化処理した膜であることを特徴とする請求項1から請求項17いずれか一項に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項20】
前記下地が、その表面に水分を吸着させた膜であることを特徴とする請求項19に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項21】
前記金属原料ガスが、有機金属化合物を含むことを特徴とする請求項1から請求項20いずれか一項に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項22】
前記有機金属化合物が、シクロペンタジエニル系の金属プリカーサーであることを特徴とする請求項21に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項23】
前記金属がマンガンであり、前記金属酸化物膜が酸化マンガンであることを特徴とする請求項22に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項24】
前記(1)工程と前記(2)工程が、一つの処理容器内で一貫して行われることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項25】
前記(1)工程と前記(2)工程とが、一つの処理容器内で一貫して行われるとともに、前記(1)工程の前に、前記一つの処理容器とは別の処理容器内で、前記(5)工程が行われ、
前記(5)工程と前記(1)工程及び前記(2)工程とが前記下地を大気暴露することなく連続して行われることを特徴とする請求項2に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項26】
前記(3)工程と前記(4)工程が、一つの処理容器内で一貫して行われることを特徴とする請求項4に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項27】
前記(3)工程と前記(4)工程とが、一つの処理容器内で一貫して行われるとともに、前記(3)工程の前に、前記一つの処理容器とは別の処理容器内で、前記(5)工程が行われ、
前記(5)工程と前記(3)工程及び前記(4)工程とが前記下地を大気暴露することなく連続して行われることを特徴とする請求項5に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項28】
前記(3)工程と前記(4)工程が、別々の処理容器内で行われ、両工程が前記下地を大気暴露することなく連続して行われることを特徴とする請求項4に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項29】
前記(3)工程と前記(4)工程とが、別々の処理容器内で行われるとともに、前記(3)工程の前に、前記別々の処理容器とはさらに別の処理容器内で、前記(5)工程が行われ、
前記(5)工程と前記(3)工程及び前記(4)工程とが前記下地を大気暴露することなく連続して行われることを特徴とする請求項5に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項30】
下地上に金属酸化物膜を成膜する成膜装置であって、
前記金属酸化物膜が形成される下地を有した被処理体を収容する処理室と、
前記処理室内に、処理に使用するガスを供給する処理ガス供給機構と、
前記処理室内に収容された前記被処理体を加熱する加熱装置と、
前記処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御するコントローラと、を具備し、
前記コントローラが、請求項1に記載された(1)工程及び(2)工程が実施されるように前記処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項31】
下地上に金属酸化物膜を成膜する成膜装置であって、
前記金属酸化物膜が形成される下地を有した被処理体を収容する第1、第2の処理室と、
前記第1の処理室内に収容された前記被処理体を加熱する第1の加熱装置と、
前記第2の処理室内に処理に使用するガスを供給する処理ガス供給機構と、
前記第2処理室内に収容された前記被処理体を加熱する第2の加熱装置と、
前記第1の加熱装置、前記処理ガス供給機構、及び前記第2の加熱装置を制御するコントローラと、を具備し、
前記コントローラが、請求項2に記載された(5)工程が実施されるように、前記第1の加熱装置を制御するとともに、請求項1に記載された(1)工程及び(2)工程が実施されるように前記処理ガス供給機構、及び前記第2の加熱装置を制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項32】
下地上に金属酸化物膜を成膜する成膜装置であって、
前記金属酸化物膜が形成される下地を有した被処理体を収容する処理室と、
前記処理室内に、処理に使用するガスを供給する処理ガス供給機構と、
前記処理室内に収容された前記被処理体を加熱する加熱装置と、
前記処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御するコントローラと、を具備し、
前記コントローラが、請求項4に記載された(3)工程及び(4)工程が実施されるように前記処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項33】
下地上に金属酸化物膜を成膜する成膜装置であって、
前記金属酸化物膜が形成される下地を有した被処理体を収容する第1、第2の処理室と、
前記第1の処理室内に収容された前記被処理体を加熱する第1の加熱装置と、
前記第2の処理室内に処理に使用するガスを供給する処理ガス供給機構と、
前記第2処理室内に収容された前記被処理体を加熱する第2の加熱装置と、
前記第1の加熱装置、前記処理ガス供給機構、及び前記第2の加熱装置を制御するコントローラと、を具備し、
前記コントローラが、請求項5に記載された(5)工程が実施されるように、前記第1の加熱装置を制御するとともに、請求項4に記載された(3)工程及び(4)工程が実施されるように前記処理ガス供給機構、及び前記第2の加熱装置を制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項34】
下地上に金属酸化物膜を成膜する成膜装置であって、
前記金属酸化物膜が形成される下地を有した被処理体を収容する第1、第2の処理室と、
前記第1の処理室内に処理に使用するガスを供給する第1の処理ガス供給機構と、
前記第2の処理室内に処理に使用するガスを供給する第2の処理ガス供給機構と、
前記第2処理室内に収容された前記被処理体を加熱する加熱装置と、
前記第1の処理ガス供給機構、前記第2の処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御するコントローラと、を具備し、
前記コントローラが、請求項4に記載された(3)工程が実施されるように前記第1の処理ガス供給機構を制御するとともに、請求項4に記載された(4)工程が実施されるように前記第2の処理ガス供給機構、及び前記加熱装置を制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項35】
下地上に金属酸化物膜を成膜する成膜装置であって、
前記金属酸化物膜が形成される下地を有した被処理体を収容する第1、第2、第3の処理室と、
前記第1の処理室内に収容された前記被処理体を加熱する第1の加熱装置と、
前記第2の処理室内に処理に使用するガスを供給する第1の処理ガス供給機構と、
前記第3の処理室内に処理に使用するガスを供給する第2の処理ガス供給機構と、
前記第2処理室内に収容された前記被処理体を加熱する第2の加熱装置と、
前記第1の加熱装置、前記第1の処理ガス供給機構、前記第2の処理ガス供給機構、及び前記第2の加熱装置を制御するコントローラと、を具備し、
前記コントローラが、請求項5に記載された(5)工程が実施されるように、前記第1の加熱装置を制御するとともに、請求項4に記載された(3)工程が実施されるように前記第1の処理ガス供給機構を制御し、請求項4に記載された(4)工程が実施されるように前記第2の処理ガス供給機構、及び前記第2の加熱装置を制御することを特徴とする成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−23706(P2011−23706A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110828(P2010−110828)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】