説明

電子デバイス及びその製造方法

【課題】転写プロセスを用いずに、所期のグラフェンを制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細な電子デバイスを実現する。
【解決手段】基板1上に絶縁層2を形成し、絶縁層2に空隙2Aを形成し、空隙2Aに触媒材料4を充填し、絶縁層2における触媒材料4の露出面4aにグラフェン5を形成し、絶縁層2上でグラフェン5の両端部に接続するように一対の電極5,6を形成し、グラフェン5を一部除去してグラフェンリボン8を形成し、グラフェンリボン8の除去された部位である間隙2A1,2A2を通じて触媒材料4を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、電子デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンを用いた半導体デバイスは、微細化により速度、消費電力の面などで性能向上が図られてきた。しかしながら、トランジスタのゲート長が数十ナノメートルになるに至り、微細化の弊害が現れ、微細化の恩恵が次第に享受できない状況となってきている。更に、トランジスタのゲート長は10nm程度が物理的な限界ではないかと考えられている。このような状況に鑑み、微細化に頼らず性能向上を図るため、トランジスタのチャネル材料としてシリコンより移動度が高いゲルマニウム、化合物半導体などの採用が検討されている。
【0003】
上記のような新規のチャネル材料として、炭素原子からなる材料であるカーボンナノチューブ(CNT:Carbon NanoTube)やグラフェン(Graphene)の利用が提案されている。グラフェンは、層状の結晶であるグラファイト(Graphite)の1層であって、炭素(C)原子が六角形に結合した理想的な2次元結晶である。CNTはそのグラフェンを筒状にしたものである。CNT、グラフェンは共に優れた性質を持つが、グラフェンはその平面的形状から半導体プロセスとより親和性が高いと考えられている。グラフェンは極めて高い移動度(例えば、非特許文献1を参照)とともに、高い熱伝導性を有する。
【0004】
実際、グラファイト結晶から剥離したグラフェンを基板に貼付してチャネルとしたトランジスタの動作が確認されている。基板上にグラフェンを用意する他の手法も提案されている。例えば、炭化シリコン(SiC)を加熱し、Siを昇華させてグラフェンを形成する方法がある。また、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などの金属薄膜を成膜した基板を加熱しながら炭化水素系のガスを導入してグラフェンを形成する方法(化学気相堆積法(CVD法))も有望視されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K. S. Novoselov, et al., "Electronic Field Effect in Atomically Thin Carbon Films", Science, 306, 2004, 666
【非特許文献2】D. Kondo, et al., "Low-Temperature Synthesis of Graphene and Fabrication of Top-Gated Field Effect Transistors without Using Transfer Processes", Appl. Phys. Express, 3, 2010, 025102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記で紹介したグラフェンの堆積法のうち、CVD法は、大面積の基板にも容易に適用できるため非常に有力な方法であり、世界中で研究開発が行われている。通常、CVD法では、グラフェンは触媒金属上に形成されるため、そのままではトランジスタには応用できない。そこで、グラフェンを別個の絶縁基板上に転写してトランジスタを作製する試みが行われている。しかしながら、この方法では、一般的にグラフェンに皺や破損が見られ、大面積の基板の全面にトランジスタを作製する際には問題となると思われる。そこで、非特許文献2のような転写プロセスを用いない方法が開発された。この方法は極めて有効であると考えられる。しかしながら、チャンネル形状に加工したグラフェンの側壁及び角の部分でグラフェンの形成の様子が変わること、側壁に形成されたグラフェンが触媒金属のエッチングを阻害する場合があること等、安定的な半導体デバイスの作製には未だ大きな改善の必要性がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、転写プロセスを用いずに、所期のグラフェンを制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細な電子デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
電子デバイスの一態様は、基板と、前記基板上に形成され、空隙を有する絶縁層と、前記空隙の両側に形成された一対の電極と、前記空隙上を介して前記一対の電極間を架橋するグラフェンとを含む。
【0009】
電子デバイスの製造方法の一態様は、基板上に絶縁層を形成する第1の工程と、前記絶縁層に空隙を形成する第2の工程と、前記空隙に触媒材料を充填する第3の工程と、前記絶縁層における前記触媒材料の露出面にグラフェンを形成する第4の工程と、前記絶縁層上で前記グラフェンの両端部に接続するように一対の電極を形成する第5の工程と、前記グラフェンを一部除去する第6の工程と、前記グラフェンの除去された部位を通じて前記触媒材料を除去する第7の工程とを含む。
【発明の効果】
【0010】
上記の各態様によれば、転写プロセスを用いずに、所期のグラフェンを制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細な電子デバイスが実現する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態によるトランジスタの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図2】図1に引き続き、第1の実施形態によるトランジスタの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図3】図2に引き続き、第1の実施形態によるトランジスタの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図4】図1〜図3のうちの所定の工程を示す概略平面図である。
【図5】図1〜図3のうちの所定の工程を示す概略平面図である。
【図6】第2の実施形態により作製されたトランジスタを示す概略断面図である。
【図7】第3の実施形態により形成されたグラフェンリボンを示す概略断面図である。
【図8】第4の実施形態により形成されたグラフェンメッシュを示す概略断面図である。
【図9】第5の実施形態によるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略断面図である。
【図10】第6の実施形態によるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略断面図である。
【図11】図10(b)の工程を示す概略平面図である。
【図12】第7の実施形態によるによるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略平面図である。
【図13】図12に引き続き、第7の実施形態によるによるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略平面図である。
【図14】図13に引き続き、第7の実施形態によるによるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略平面図である。
【図15】第8の実施形態によるによるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略平面図である。
【図16】図15に引き続き、第8の実施形態によるによるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略平面図である。
【図17】図16に引き続き、第8の実施形態によるによるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、諸実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の諸実施形態では、電子デバイスの構成について、その製造方法と共に説明する。本実施形態では、電子デバイスとして半導体デバイスであるトランジスタを例示する。
なお、以下の図面において、図示の便宜上、相対的に正確な大きさ及び厚みに示していない構成部材がある。
【0013】
(第1の実施形態)
図1〜図3は、第1の実施形態によるトランジスタの製造方法を工程順に示す概略断面図である。図4,図5は、図1〜図3のうちの所定の工程を示す概略平面図である。
【0014】
先ず、図1(a)に示すように、シリコン基板1上に絶縁層2を形成する。
基板として、例えばシリコン基板1を用意する。シリコン基板1は、Siの(111)面を上面として配置する。
シリコン基板1の上面を熱酸化し、当該上面にシリコン酸化物(SiO2)を500nm程度の厚みに形成して、絶縁層2とする。
【0015】
続いて、図1(b)及び図4(a)に示すように、絶縁層2に開口2a,2bを形成する。
詳細には、絶縁層2における、トランジスタのチャネルの形成予定部位を、リソグラフィー及びリアクティブ・イオン・エッチング(RIE)により加工する。RIEでは、プロセスガスとしてCF4及び酸素(O2)の混合ガスを用いる。これにより、絶縁層2に、シリコン基板1の表面の一部を露出する、触媒金属を形成するための開口2a,2bが形成される。なお、以降の図1(c)〜図3(c)では、図1(b)中で矩形状の破線Aで囲まれた領域を拡大して示し、開口2aに関してのみ言及し、開口2bに関する説明を省略する。
【0016】
続いて、図1(c)に示すように、触媒金属3を堆積する。
詳細には、スパッタ法又は蒸着法により、開口2aを埋め込むように絶縁層2上に触媒金属3を堆積する。触媒金属3としては、銅(Cu),ニッケル(Ni),コバルト(Co),鉄(Fe)、又はこれらの合金を用いることが好ましい。ここでは、Cuを例示するが、CuとNiの合金を用いても、優れた触媒金属として機能する。
【0017】
続いて、図1(d)に示すように、触媒金属層4を形成する。
詳細には、絶縁層2の表面を研磨ストッパーとして、触媒金属3を化学機械研磨(CMP)する。これにより、開口2aのみを触媒金属3で充填してなる触媒金属層4が形成される。触媒金属層4は、絶縁層2の開口2aから露出する表面(上面)のみが、後述するグラフェンの形成面4aとなり、他の面は絶縁層2で覆われているためにグラフェンは形成されない。
【0018】
続いて、図2(a)に示すように、触媒金属層4を単結晶化する。
詳細には、シリコン基板1をCVD装置に導入する。CVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、ホットフィラメントCVD法等があるが、ここでは、コールドウォール型の熱CVD法を選択する。シリコン基板1をロードロックを介して、ベース真空が10-5Pa程度とされた合成室に設置された加熱ステージ上に搬送する。
【0019】
CVD装置の合成室に水素(H2)・アルゴン(Ar)混合ガスを導入し、圧力を1kPa程度に調整した後、30分間程度の時間をかけて900℃程度まで昇温する。その後、この条件で20分間程度アニール処理し、触媒金属層4の表面に形成された薄い酸化膜を除去すると共に、銅グレインの成長を促す。このアニール処理により、触媒金属層4のCuは、(111)面の表面を有する単結晶状態(或いは単結晶に近い状態)のものとなる。
【0020】
続いて、図2(b)に示すように、グラフェン5を形成する。
詳細には、CVD装置の合成室に原料ガスを導入する。原料ガスとしては、エチレン(C24)、H2、Arの混合ガスを用いる。C24ガスの流量を0.65sccm程度、H2ガスの流量を100sccm程度、Arガスの流量を1000sccm程度とする。全圧を1kPa程度とした場合に、C24ガスの分圧を0.05Pa〜10Pa程度、より好ましくは0.08Pa〜2Pa程度、ここでは0.6Pa程度とする。ここで、C24ガスの分圧を0.05Paよりも小さくすると、グラフェンの成長が不足する懸念がある。C24ガスの分圧を10Paよりも大きくすると、グラフェンが成長過多となってグラフェンのグレインサイズが小さくなる懸念がある。C24ガスの分圧を0.05Pa〜10Pa程度の範囲内に設定することにより、所望の大きなグレインサイズ(2μm〜3μm程度、或いはそれ以上)のグラフェンが形成可能となる。
【0021】
上記の成長条件で、4分間程度、グラフェンを堆積する。なお、好適な合成時間は、C24ガスの分圧によって変化し、一般的に分圧が低いほど長い合成時間が必要になる。通常、1分間〜120分間の範囲となる。例えば、C24ガスの分圧が0.08Paのときには、60分間程度の合成時間で良質なグラフェンが得られることが判っている。以上により、シリコン基板1において、触媒金属層4の露出する形成面4a上のみに、単層のグラフェン5が形成される。形成面4aでは、Cuの結晶方向が揃っているため、グラフェンの層数等の制御性にも優れている。グラフェン5は、そのグレインサイズが十分大きく、触媒金属層4の露出面にほぼ単結晶且つ単層(単原子層)として形成される。ここで、成長条件を適宜制御する(例えば成長時間を長く設定する等)ことにより、2層乃至3層、或いはそれ以上の層数に形成することもできる。
【0022】
続いて、図2(c)及び図4(b)に示すように、グラフェン5の両端部にソース電極6及びドレイン電極7を形成する。
詳細には、リソグラフィー及び蒸着法を用いたリフトオフプロセスにより、グラフェン5の両端部上と重畳するソース電極6及びドレイン電極7を形成する。ソース電極6及びドレイン電極7の電極材料としては、ここではチタン(Ti)/金(Au)の積層膜を選択するが、パラジウム(Pd),プラチナ(Pt),Ni,Co等、他のものでも構わない。但し、後述する触媒金属層4のエッチングにおいて、触媒金属層4とのエッチング選択比を取ることのできる材料であることが望ましい。
【0023】
続いて、図2(d)及び図5(a)に示すように、グラフェンリボン8を形成する。
詳細には、グラフェン5をリソグラフィー及びエッチングによりパターニングする。このエッチングは、酸素プラズマを用いた灰化処理で行う。エッチング条件は、酸素の分圧を100Pa、投入電力を200Wでエッチング時間を1分間程度とする。これにより、両端がソース電極6及びドレイン電極7と接続されたリボン形状(帯形状)のグラフェンリボン8が形成される。グラフェンリボン8は、ソース電極6及びドレイン電極7との間でトランジスタのチャネルとして機能することになる。グラフェン5のパターニングには、例えばヘリウムイオン顕微鏡を利用した微細加工を行うようにしても良い。
【0024】
グラフェンリボン8の形成により、グラフェンリボン8と絶縁層2における開口2aの一端との間に、触媒金属層4の一部を露出する間隙2A1が形成される。同様に、グラフェンリボン8と絶縁層2における開口2aの他端との間に、触媒金属層4の一部を露出する間隙2A2が形成される。
【0025】
続いて、図3(a)及び図5(b)に示すように、グラフェンリボン8下に空隙2Aを形成する。
詳細には、触媒金属層4をウェットエッチングして除去する。具体的には、エッチング液として塩化鉄溶液を用い、塩化鉄溶液にシリコン基板1を浸漬する。このとき、開口2a内の触媒金属層4は、間隙2A1,2A2を通してエッチングで除去される。これにより、開口2a内は空洞化し、グラフェンリボン8の裏面を露出させる空隙2Aが形成される。空隙2Aの形成により、グラフェンリボン8は、絶縁層2の空隙2Aにおける両端部でソース電極6及びドレイン電極7により支持され、空隙2A上を介してソース電極6とドレイン電極7とを架橋する一部浮遊状態とされる。
【0026】
続いて、図3(b)に示すように、絶縁膜9を形成する。
詳細には、先ず、グラフェンリボン8の上面に不図示のSiO2を蒸着により1nm〜2nm程度の厚みに堆積する。SiO2の代わりにAlを1nm〜2nm程度の厚みに堆積しても良い。この層は、次に堆積する絶縁膜とグラフェンリボン8との間でバッファ層として機能するが、形成しなくても良い場合もある。
【0027】
シリコン基板1に、原子層堆積法(ALD法)により絶縁物、例えばHfO2を2nm〜20nm程度、ここでは10nm程度の厚みに堆積する。ALDの条件として、前駆体としてTetrakis (DiMethyl) Amino Hafnium(TDMAH)及び水を使用し、堆積温度は250℃程度とする。絶縁物としては、HfO2の代わりに、Al23又はTiO2、或いはこれらを積層してもよい。ALD法による堆積は方向に依存しないため、グラフェンリボン8の全体を包含するように、グラフェンリボン8の上面、ソース電極6及びドレイン電極7上を含む絶縁層2上と、グラフェンリボン8の下面を含む空隙2Aの内壁面とを覆うように、絶縁膜9が形成される。絶縁膜9では、そのグラフェンリボン8の上面上の部分がゲート絶縁膜9aとなる。
【0028】
絶縁膜9を適宜の厚みに形成することにより、グラフェンリボン8と絶縁層2との間の間隙2A1,2A2を絶縁膜9で閉塞することができる。間隙2A1,2A2の幅が大きいと、後述するゲート電極の形成時における電極材料の堆積に問題が生じる懸念がある。本実施形態では、上記のようにALD法で絶縁膜9を形成するため、間隙2A1,2A2は絶縁膜9によってある程度塞がれるので、さほどの問題はないものと考えられる。ここでは、電極材料の堆積を確実に行うべく、上記のバッファ層及び絶縁膜9を、これらの合計膜厚が間隙2A1,2A2の幅の1/2以上の厚みとなるように形成することが好ましい。なお、上記のバッファ層を形成しない場合には、絶縁膜9を間隙2A1,2A2の幅の1/2以上の厚みとなるように形成することが好ましい。これにより、間隙2A1,2A2は絶縁膜9で閉塞され、ゲート電極の電極材料の堆積時に懸念される問題は解消する。
【0029】
上記のように絶縁膜9の厚みを制御する代わりに(或いは当該制御と共に)、空隙2A内を絶縁材料、例えば所定の絶縁樹脂で埋め込むようにしても良い。
【0030】
続いて、図3(c)に示すように、ゲート電極11を形成する。
詳細には、リソグラフィー及び蒸着法を用いたリフトオフプロセスにより、絶縁膜9のグラフェンリボン8の上面上の部分、即ちゲート絶縁膜9a上にゲート電極11を形成する。ゲート電極11の電極材料としては、例えばチタン(Ti)/金(Au)の積層膜を選択するが、パラジウム(Pd),プラチナ(Pt),Ni,Co等、その他のものでも構わない。
【0031】
しかる後、ソース電極6、ドレイン電極7、ゲート電極11と接続される配線の形成、保護膜の形成等の諸工程を経て、トランジスタが形成される。
【0032】
以上説明したように、本実施形態によれば、転写プロセスを用いずに、所期のグラフェンリボン8を制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細なトランジスタが実現する。
【0033】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様にグラフェンをチャネルとして用いるトランジスタを開示するが、トリプルゲート構造とされている点で相違する。
図6は、第2の実施形態により作製されたトランジスタを示す概略断面図である。
【0034】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図3(b)の諸工程を実行する。
そして、図6に示すように、3つのゲート電極12,13,14を形成する。
詳細には、リソグラフィー及び蒸着法を用いたリフトオフプロセスにより、絶縁膜9のグラフェンリボン8の上面上の部分、即ちゲート絶縁膜9a上で並列するように、ゲート電極12,13,14を形成する。ゲート電極12,13,14の電極材料としては、例えばチタン(Ti)/金(Au)の積層膜を選択するが、パラジウム(Pd),プラチナ(Pt),Ni,Co等、その他のものでも構わない。
【0035】
しかる後、ソース電極6、ドレイン電極7、ゲート電極12,13,14と接続される配線の形成、保護膜の形成等の諸工程を経て、トランジスタが形成される。
【0036】
本実施形態のトランジスタでは、外側に位置するゲート電極12,14を同一の正電位とすることにより、グラフェンリボン8をn型と同様に機能させることができる。また、ゲート電極12,14を同一の負電位とすることにより、グラフェンリボン8をp型と同様に機能させることができる。従って、本実施形態のトランジスタを適宜組み合わせて用いることにより、CMOSトランジスタを実現することが可能となる。一般に、グラフェンへの不純物導入(ドーピング)による極性の制御は難しく、また不純物の導入によるグラフェンの特性の劣化も著しいと考えられている。本実施形態の手法は、グラフェンの優れた特性を維持しながら極性制御ができるという点で、グラフェンを用いたCMOSトランジスタには必須の技術である。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、転写プロセスを用いずに、所期のグラフェンリボン8を制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細なトランジスタが実現する。複数の当該トランジスタを適宜組み合わせることにより、所期のCMOSトランジスタが得られる。
【0038】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様にグラフェンをチャネルとして用いるトランジスタを開示するが、グラフェンの形状が異なる点で相違する。
図7は、第3の実施形態により形成されたグラフェンリボンを示す概略断面図である。
【0039】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(c)の諸工程を実行する。このとき、グラフェン5の両端部にソース電極6及びドレイン電極7が形成される。
【0040】
続いて、図7に示すように、グラフェンリボン8a,8b,8c,8d,8eを形成する。
詳細には、グラフェン5をリソグラフィー及びエッチングによりパターニングする。このエッチングは、酸素プラズマを用いた灰化処理で行う。エッチング条件は、酸素の分圧を100Pa、投入電力を200Wでエッチング時間を1分間程度とする。これにより、両端がソース電極6及びドレイン電極7と接続されたリボン形状(帯形状)の複数のグラフェンリボン、ここでは5本のグラフェンリボン8a,8b,8c,8d,8eが並列して形成される。グラフェンリボン8a,8b,8c,8d,8eは、ソース電極6及びドレイン電極7との間でトランジスタのチャネルとして機能することになる。グラフェン5のパターニングには、例えばヘリウムイオン顕微鏡を利用した微細加工を行うようにしても良い。
【0041】
グラフェンリボン8a,8b,8c,8d,8eの形成により、触媒金属層4の一部を露出する複数の間隙が形成される。具体的には、グラフェンリボン8a,8b間には間隙2B1が、グラフェンリボン8b,8c間には間隙2B2が、グラフェンリボン8c,8d間には間隙2B3が、グラフェンリボン8d,8e間には間隙2B4がそれぞれ形成される。
【0042】
続いて、第1の実施形態の図3(a)と同様に、各グラフェンリボン8a,8b,8c,8d,8e下に空隙2Aを形成する。
詳細には、触媒金属層4をウェットエッチングして除去する。具体的には、エッチング液として塩化鉄溶液を用い、塩化鉄溶液にシリコン基板1を浸漬する。このとき、開口2a内の触媒金属層4は、間隙2B1,2B2,2B3,2B4を通してエッチングで除去される。これにより、開口2a内は空洞化し、各グラフェンリボン8a,8b,8c,8d,8eの裏面を露出させる空隙2Aが形成される。空隙2Aの形成により、各グラフェンリボン8a,8b,8c,8d,8eは、絶縁層2の空隙2Aにおける両端部でソース電極6及びドレイン電極7により支持され、空隙2A上を介してソース電極6とドレイン電極7とを架橋する一部浮遊状態とされる。
【0043】
その後、第1の実施形態と同様に、図3(b),(c)の諸工程を経る。
しかる後、ソース電極6、ドレイン電極7、ゲート電極11と接続される配線の形成、保護膜の形成等の諸工程を経て、トランジスタが形成される。
【0044】
以上説明したように、本実施形態によれば、転写プロセスを用いずに、所期の各グラフェンリボン8a,8b,8c,8d,8eを制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細なトランジスタが実現する。ここで、トランジスタのチャネルを並列する複数のグラフェンリボン8a,8b,8c,8d,8eで構成するため、バンドギャップを開きながら、電流量を増加させることができる。なお、本実施形態では、グラフェンリボンの数は5本としているが、所望のトランジスタ特性を得るために本数は適宜増減することができる。
【0045】
(第4の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様にグラフェンをチャネルとして用いるトランジスタを開示するが、グラフェンの形状が異なる点で相違する。
図8は、第4の実施形態により形成されたグラフェンメッシュを示す概略断面図である。
【0046】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(c)の諸工程を実行する。このとき、グラフェン5の両端部にソース電極6及びドレイン電極7が形成される。
【0047】
続いて、図8に示すように、グラフェンメッシュ15を形成する。
詳細には、グラフェン5をリソグラフィー及びエッチングによりパターニングし、グラフェン5に複数の穿孔15aを形成する。このエッチングは、酸素プラズマを用いた灰化処理で行う。エッチング条件は、酸素の分圧を100Pa、投入電力を200Wでエッチング時間を1分間程度とする。これにより、両端がソース電極6及びドレイン電極7と接続されたグラフェンメッシュ15が形成される。グラフェンメッシュ15は、ソース電極6及びドレイン電極7との間でトランジスタのチャネルとして機能することになる。グラフェン5のパターニングには、例えばヘリウムイオン顕微鏡を利用した微細加工を行うようにしても良い。
【0048】
続いて、第1の実施形態の図3(a)と同様に、グラフェンメッシュ15下に空隙2Aを形成する。
詳細には、触媒金属層4をウェットエッチングして除去する。具体的には、エッチング液として塩化鉄溶液を用い、塩化鉄溶液にシリコン基板1を浸漬する。このとき、開口2a内の触媒金属層4は、グラフェンメッシュ15に形成された複数の穿孔15aを通してエッチングで除去される。これにより、開口2a内は空洞化し、グラフェンメッシュ15の裏面を露出させる空隙2Aが形成される。空隙2Aの形成により、グラフェンメッシュ15は、絶縁層2の空隙2Aにおける両端部をソース電極6及びドレイン電極7により支持され、空隙2A上を介してソース電極6とドレイン電極7とを架橋する一部浮遊状態とされる。
【0049】
その後、第1の実施形態と同様に、図3(b),(c)の諸工程を経る。
しかる後、ソース電極6、ドレイン電極7、ゲート電極11と接続される配線の形成、保護膜の形成等の諸工程を経て、トランジスタが形成される。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、転写プロセスを用いずに、所期のグラフェンリボン15を制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細なトランジスタが実現する。
【0051】
(第5の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様にグラフェンをチャネルとして用いるトランジスタを開示するが、ゲート絶縁膜として機能する部分を有する絶縁膜の材料が異なる点で相違する。
図9は、第5の実施形態によるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略断面図である。
【0052】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図3(a)の諸工程を実行する。このとき、グラフェンリボン8下に空隙2Aが形成される。
【0053】
続いて、図9(a)に示すように、絶縁膜16を形成する。
詳細には、シリコン基板1に、原子層堆積法(ALD法)により窒化ホウ素(BN)を堆積する。厚みは3層〜30層程度が望ましいが、これに限定されるわけではない。程ALDの条件として、前駆体としてBCl3及びNH3を使用し、堆積温度は280℃程度、圧力は200Pa程度である。ALD法による堆積は方向に依存しないため、グラフェンリボン8の全体を包含するように、グラフェンリボン8の上面、ソース電極6及びドレイン電極7上を含む絶縁層2上と、グラフェンリボン8の下面を含む空隙2Aの内壁面とを覆うように、BNの絶縁膜16が形成される。絶縁膜16では、そのグラフェンリボン8の上面上の部分がゲート絶縁膜16aとなる。また、このBN膜をバッファ層のように扱い、前述の第1の実施形態のように他の絶縁膜、例えばHfO2、Al22、TiO2、SiO2等を絶縁膜16としても良い。なお、本実施形態では、BN膜の堆積にALD法を用いたが、CVD法等を利用することもできる。
【0054】
絶縁膜16を適宜の厚みに形成することにより、グラフェンリボン8と絶縁層2との間の間隙2A1,2A2を絶縁膜16で閉塞することができる。間隙2A1,2A2の幅が大きいと、後述するゲート電極の形成時における電極材料の堆積に問題が生じる懸念がある。本実施形態では、上記のようにALD法で絶縁膜16を形成するため、間隙2A1,2A2は絶縁膜16である程度塞がれるので、さほどの問題はないものと考えられる。ここでは、電極材料の堆積を確実に行うべく、間隙2A1,2A2の幅の1/2以上の厚みに絶縁膜16を形成する。これにより、間隙2A1,2A2は絶縁膜16で閉塞され、ゲート電極の電極材料の堆積時に懸念される問題は解消する。
【0055】
上記のように絶縁膜16の厚みを制御する代わりに(或いは当該制御と共に)、空隙2A内を絶縁材料、例えば所定の絶縁樹脂で埋め込むようにしても良い。
【0056】
その後、第1の実施形態と同様に、図3(c)の工程を実行して、図9(b)に示すように、絶縁膜16のグラフェンリボン8の上面上の部分、即ちゲート絶縁膜16a上にゲート電極11を形成する。
しかる後、ソース電極6、ドレイン電極7、ゲート電極11と接続される配線の形成、保護膜の形成等の諸工程を経て、トランジスタが形成される。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によれば、転写プロセスを用いずに、所期のグラフェンリボン8を制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細なトランジスタが実現する。また本実施形態では、ゲート絶縁膜16aを含む絶縁膜16を極めて平坦でグラフェンとの親和性も高いBNを材料として形成しているため、絶縁膜の堆積によるグラフェンの特性の劣化を最小限にでき、良好な特性のトランジスタを作製することができる。
【0058】
(第6の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様にグラフェンをチャネルとして用いるトランジスタを開示するが、基板が異なる点で相違する。
図10は、第6の実施形態によるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略断面図である。図11は、図10(b)の工程を示す概略平面図である。
【0059】
本実施形態では、図10(a)に示すように、サファイア単結晶基板21上に絶縁層22を形成する。
基板として、例えばサファイア単結晶基板21を用意する。サファイア単結晶基板21は、そのC面を上面として配置する。基板としては、サファイア単結晶基板の代わりに、MgO、マイカ、BN、SiC、GaN、AlN等の単結晶或いは多結晶の基板から選ばれた1種を用いても良い。更に、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)基板を用いることも可能である。これらの基板は、拡散を制御しつつ触媒金属を単結晶化することに有用である。
【0060】
サファイア単結晶基板21のC面に、例えばシリコン酸化物(SiO2)をテトラエトキシシラン(TEOS)を利用したCVD法により、500nm程度の厚みに堆積する。これにより、絶縁層22が形成される。絶縁層の材料としては、シリコン酸化物には限定されず、シリコン窒化物、アルミナ、ハフニア、各種の低誘電率材料等も用いることができる。
【0061】
続いて、図10(b)及び図11に示すように、絶縁層22に開口22a,22bを形成する。
詳細には、絶縁層22における、トランジスタのチャネルの形成予定部位を、リソグラフィー及びリアクティブ・イオン・エッチング(RIE)により加工する。RIEでは、プロセスガスとしてCF4及び酸素(O2)の混合ガスを用いる。これにより、絶縁層2に、シリコン基板1の表面の一部を露出する、触媒金属を形成するための開口2a,2bが形成される。
【0062】
続いて本実施形態では、第1の実施形態と同様に、図1(c)〜図3(c)の諸工程を実行する。
しかる後、ソース電極6、ドレイン電極7、ゲート電極11と接続される配線の形成、保護膜の形成等の諸工程を経て、トランジスタが形成される。
【0063】
本実施形態によれば、転写プロセスを用いずに、所期のグラフェンリボン8を制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細なトランジスタが実現する。
更に本実施形態では、基板として触媒金属の銅やNi,Co等と合金化し難い基板、例えばサファイア単結晶基板21を用いるため、触媒金属として高温時でも単結晶且つ(111)面の表面を有するものが得られ易いという利点がある。
【0064】
(第7の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様にグラフェンをチャネルとして用いるトランジスタを開示するが、チャネルが、グラフェンと窒化ホウ素(BN)との複合膜で構成されている点で相違する。
図12〜図14は、第7の実施形態によるによるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略平面図である。
【0065】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(c)の諸工程を実行する。このとき、グラフェン5の両端部にソース電極6及びドレイン電極7が形成される。
【0066】
続いて、図12に示すように、グラフェンリボン23a,23b,23c,23dを形成する。
詳細には、グラフェン5をリソグラフィー及びエッチングによりパターニングする。このエッチングは、酸素プラズマを用いた灰化処理で行う。エッチング条件は、酸素の分圧を100Pa、投入電力を200Wでエッチング時間を1分間程度とする。これにより、両端がソース電極6及びドレイン電極7と接続されたリボン形状(帯形状)の複数のグラフェンリボン、ここでは4本のグラフェンリボン23a,23b,23c,23dが並列して形成される。グラフェン5のパターニングには、例えばヘリウムイオン顕微鏡を利用した微細加工を行うようにしても良い。
【0067】
グラフェンリボン23a,23b,23c,23dの形成により、触媒金属層4の一部を露出する複数の間隙が形成される。具体的には、グラフェンリボン23aの外側には間隙2C1が、グラフェンリボン23a,23b間には間隙2C2が、グラフェンリボン23b,23c間には間隙2C3が、グラフェンリボン23c,23d間には間隙2C4が、グラフェンリボン23dの外側には間隙2C5がそれぞれ形成される。ここで、後のBNのパターニングを考慮して、間隙2C1,2C5を間隙2C2〜2C4よりも幅広に形成しておくことが望ましい。
【0068】
続いて、図13に示すように、BNリボン24a,24b,24c,24dを形成する。
詳細には、未だ触媒金属層4を除去せずに、BN合成プロセスを行う。ここで、合成ガスとしてアンモニアボラン(NH3−BH3)を用い、ArとH2の混合ガス(800sccm/200sccm)をキャリアガスとして利用する。アンモニアボランは、N2キャリアガス(300sccm)中、110℃〜130℃程度で昇華したものを導入する。チャンバー内の圧力は大気圧とするが、減圧下でも構わない。基板温度を1000℃とし、合成時間を30分間とする。このような方法により、BNが触媒金属層4上でグラフェンリボン23a,23b,23c,23dの間隙2C1,2C2,2C3,2C4,2C5を埋めるように堆積され、BNリボン24a,24b,24c,24d,24eが形成される。
なお、第5の実施形態と同様に、BNの堆積にALD法を用いても良い。
【0069】
続いて、図14に示すように、複合リボン25を形成する。
詳細には、BNリボン24a,24eの外側部分をリソグラフィー及びエッチングにより除去する。エッチングには、汎用されているCF4−O2のRFプラズマを用いる。また、BNリボン24a,24eは非常に薄いので、アルゴンミリング等で物理的に除去しても良い。これにより、両端がソース電極6及びドレイン電極7と接続された、グラフェンリボン23a〜23d及びBNリボン24a〜24eからなるリボン形状(帯形状)の複合リボン25が形成される。複合リボン25の両側はBNリボン24a,24eであるため、グラフェンリボン23a〜23dのエッジはBNで覆われた状態で確保される。複合リボン25は、ソース電極6及びドレイン電極7との間でトランジスタのチャネルとして機能することになる。
【0070】
複合リボン25の形成により、複合リボン25と絶縁層2における開口2aの一端との間に、触媒金属層4の一部を露出する間隙2A1が形成される。同様に、複合リボン25と絶縁層2における開口2aの他端との間に、触媒金属層4の一部を露出する間隙2A2が形成される。
【0071】
通常、グラフェンリボンは、そのエッジの状態により電気伝導特性が変化し得るが、グラフェンリボン23a〜23d間の間隙をBNリボン24a〜24eで埋めることにより、チャネルとして安定した電気特性が得られる。
なお、上記の例では、BNの合成ガスとしてアンモニアボランを用いたが、アンモニア及びジボランの混合ガスを用いても同様にBNの堆積が可能である。
【0072】
その後、第1の実施形態と同様に、図3(a)〜(c)の諸工程を経る。
しかる後、ソース電極6、ドレイン電極7、ゲート電極11と接続される配線の形成、保護膜の形成等の諸工程を経て、トランジスタが形成される。
【0073】
本実施形態によれば、転写プロセスを用いずに、所期のグラフェンリボン8を制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細なトランジスタが実現する。
更に本実施形態では、グラフェンのエッジを覆うようにグラフェンとBNの複合膜からなるチャネルを形成することにより、安定した電気特性を有する信頼性の高いトランジスタが得られる。
【0074】
(第8の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様にグラフェンをチャネルとして用いるトランジスタを開示するが、チャネルが、グラフェンと窒化ホウ素(BN)との複合膜で構成されている点で相違する。
図15〜図17は、第8の実施形態によるによるトランジスタの製造方法の主要工程を示す概略平面図である。
【0075】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、図1(a)〜図2(c)の諸工程を実行する。このとき、グラフェン5の両端部にソース電極6及びドレイン電極7が形成される。
【0076】
続いて、図15に示すように、グラフェンメッシュ31を形成する。
詳細には、グラフェン5をリソグラフィー及びエッチングによりパターニングし、グラフェン5に複数の穿孔31aを形成すると共に、グラフェン5の両端部分を除去する。このエッチングは、酸素プラズマを用いた灰化処理で行う。エッチング条件は、酸素の分圧を100Pa、投入電力を200Wでエッチング時間を1分間程度とする。これにより、両端がソース電極6及びドレイン電極7と接続されたグラフェンメッシュ31が形成される。グラフェン5のパターニングには、例えばヘリウムイオン顕微鏡を利用した微細加工を行うようにしても良い。
【0077】
グラフェンメッシュ31の形成により、グラフェンリボン31と絶縁層2における開口2aの一端との間に、触媒金属層4の一部を露出する間隙2D1が形成される。同様に、グラフェンメッシュ31と絶縁層2における開口2aの他端との間に、触媒金属層4の一部を露出する間隙2D2が形成される。
【0078】
続いて、図16に示すように、BN32,33,34を形成する。
詳細には、未だ触媒金属層4を除去せずに、BN合成プロセスを行う。ここで、合成ガスとしてアンモニアボラン(NH3−BH3)を用い、ArとH2の混合ガス(800sccm/200sccm)をキャリアガスとして利用する。アンモニアボランは、N2キャリアガス(300sccm)中、110℃〜130℃程度で昇華したものを導入する。チャンバー内の圧力は大気圧とするが、減圧下でも構わない。基板温度を1000℃とし、合成時間を30分間とする。このような方法により、触媒金属層4上でグラフェンメッシュ31の複数の穿孔31aを埋めるBN32と、間隙2D1,D2を埋めるBN33,34が形成される。
【0079】
続いて、図17に示すように、複合リボン35を形成する。
BN33,34の外側部分をリソグラフィー及びエッチングにより除去する。エッチングには、汎用されているCF4−O2のRFプラズマを用いる。また、BN33,34は非常に薄いので、アルゴンミリングなどで物理的に除去しても良い。これにより、両端がソース電極6及びドレイン電極7と接続された、グラフェンリボン31及びBN32,33,34からなるリボン形状(帯形状)の複合リボン35が形成される。複合リボン25の両側はBN33,34であるため、グラフェンのエッジはBNで覆われた状態で確保される。複合リボン35は、ソース電極6及びドレイン電極7との間でトランジスタのチャネルとして機能することになる。
【0080】
複合リボン35の形成により、複合リボン35と絶縁層2における開口2aの一端との間に、触媒金属層4の一部を露出する間隙2A1が形成される。同様に、複合リボン35と絶縁層2における開口2aの他端との間に、触媒金属層4の一部を露出する間隙2A2が形成される。
【0081】
通常、グラフェンリボンは、そのエッジの状態により電気伝導特性が変化し得るが、グラフェンの穿孔31aをBN32で埋め込み、グラフェンの両端をBN33,34で覆うことにより、チャネルとして安定した電気特性が得られる。
なお、上記の例では、BNの合成ガスとしてアンモニアボランを用いたが、アンモニア及びジボランの混合ガスを用いても同様にBNの堆積が可能である。
【0082】
その後、第1の実施形態と同様に、図3(a)〜(c)の諸工程を経る。
しかる後、ソース電極6、ドレイン電極7、ゲート電極11と接続される配線の形成、保護膜の形成等の諸工程を経て、トランジスタが形成される。
【0083】
本実施形態によれば、転写プロセスを用いずに、所期のグラフェンリボン8を制御性良く容易且つ確実に安定形成し、信頼性の高い高性能の微細なトランジスタが実現する。
更に本実施形態では、グラフェンのエッジを覆うようにグラフェンとBNの複合膜からなるチャネルを形成することにより、安定した電気特性を有する信頼性の高いトランジスタが得られる。
【0084】
なお、上記の第1〜第5の実施形態では、電子デバイスとしてトランジスタを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば本発明は、一対の電極間におけるグラフェンの電流変化を検知して環境変化を認識する環境センサに適用することも可能である。
【0085】
なお、上述の第1〜第8の実施形態は、これらのうちから複数の実施形態を適宜組み合わせて行うことができる。例えば、第6の実施形態のサファイア単結晶基板等を用いて、第2〜第8の実施形態のいずれかを行うことも好適である。
【0086】
以下、電子デバイス及びその製造方法の諸態様を付記として記載する。
【0087】
(付記1)基板と、
前記基板上に形成され、空隙を有する絶縁層と、
前記空隙の両側に形成された一対の電極と、
前記空隙上を介して前記一対の電極間を架橋するグラフェンと
を含むことを特徴とする電子デバイス。
【0088】
(付記2)前記グラフェンは、BN膜と複合化された構造を有することを特徴とする付記1に記載の電子デバイス。
【0089】
(付記3)前記グラフェンは、前記絶縁層の前記空隙における端部との間に間隙が形成されることを特徴とする付記1又は2に記載の電子デバイス。
【0090】
(付記4)前記グラフェンは、前記一対の電極間でリボン形状とされることを特徴とする付記3に記載の電子デバイス。
【0091】
(付記5)前記グラフェンは、前記一対の電極間で並行する複数のリボン形状とされることを特徴とする付記3に記載の電子デバイス。
【0092】
(付記6)前記グラフェンは、複数の穿孔を有することを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0093】
(付記7)前記グラフェンの少なくとも上面を覆う絶縁膜を更に含むことを特徴とする付記1〜6のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0094】
(付記8)前記絶縁膜は、前記グラフェンの上面及び前記一対の電極上を含む前記絶縁層上と、前記グラフェンの下面を含む前記空隙の内壁面とを覆うように形成されることを特徴とする付記7に記載の電子デバイス。
【0095】
(付記9)前記絶縁膜は、HfO2,Al23,TiO2,SiO2,BNのうちから選択された1種を材料とすることを特徴とする付記8に記載の電子デバイス。
【0096】
(付記10)前記基板の上面が(111)面であることを特徴とする付記1〜9のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0097】
(付記11)前記基板は、Si基板、サファイア基板、MgO基板、マイカ基板、BN基板、SiC基板、GaN基板、AlN基板、SOI基板から選ばれた1種であることを特徴とする付記1〜10のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【0098】
(付記12)基板上に絶縁層を形成する第1の工程と、
前記絶縁層に空隙を形成する第2の工程と、
前記空隙に触媒材料を充填する第3の工程と、
前記絶縁層における前記触媒材料の露出面にグラフェンを形成する第4の工程と、
前記絶縁層上で前記グラフェンの両端部に接続するように一対の電極を形成する第5の工程と、
前記グラフェンを一部除去する第6の工程と、
前記グラフェンの除去された部位を通じて前記触媒材料を除去する第7の工程と
を含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【0099】
(付記13)前記第4の工程において、前記グラフェンを、CVD法により、エチレンを含む原料ガスを用いて形成することを特徴とする付記12に記載の電子デバイスの製造方法。
【0100】
(付記14)前記第4の工程において、CVD法による前記グラフェンの成長条件として、前記原料ガスにおける全圧を1kPaとした場合のエチレンの分圧を0.05Pa〜10Pa、成長時間を1分間〜120分間とすることを特徴とする付記13に記載の電子デバイスの製造方法。
【0101】
(付記15)前記第6の工程において、前記グラフェンをリボン形状に加工して前記グラフェンと前記絶縁層における前記空隙の端部との間に間隙を形成し、
前記第7の工程において、前記間隙を通じて前記触媒材料を除去することを特徴とする付記12〜14のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【0102】
(付記16)前記第6の工程において、前記グラフェンを前記一対の電極間で並行する複数のリボン形状に加工して複数の間隙を形成し、
前記第7の工程において、前記間隙を通じて前記触媒材料を除去することを特徴とする付記12〜14のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【0103】
(付記17)前記第6の工程において、前記グラフェンに複数の穿孔を形成し、
前記第7の工程において、前記穿孔を通じて前記触媒材料を除去することを特徴とする付記12〜14のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【0104】
(付記18)前記グラフェンをBN膜と複合化された構造に形成することを特徴とする付記12〜17のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【0105】
(付記19)前記第5の工程の後、前記第6の工程の前において、前記グラフェンを前記一対の電極間で並行する複数のリボン形状に加工して複数の間隙を形成し、前記間隙を埋めるように前記BN膜を形成する工程を更に含むことを特徴とする付記18に記載の電子デバイスの製造方法。
【0106】
(付記20)前記第5の工程の後、前記第6の工程の前において、前記グラフェンに複数の穿孔を形成し、前記穿孔を埋めるように前記BN膜を形成する工程を更に含むことを特徴とする付記18に記載の電子デバイスの製造方法。
【0107】
(付記21)前記グラフェンの少なくとも上面を覆う絶縁膜を形成することを特徴とする付記12〜20のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【0108】
(付記22)前記第7の工程の後に、前記絶縁膜を、前記グラフェンの上面及び前記一対の電極上を含む前記絶縁層上と、前記グラフェンの下面を含む前記空隙の内壁面とを覆うように形成することを特徴とする付記21に記載の電子デバイスの製造方法。
【0109】
(付記23)前記絶縁膜は、HfO2,Al23,TiO2,SiO2,BNのうちから選択された1種を材料とすることを特徴とする付記21又は22に記載の電子デバイスの製造方法。
【0110】
(付記24)前記基板の上面が(111)面であることを特徴とする付記12〜23のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【0111】
(付記25)前記基板は、Si基板、サファイア基板、MgO基板、マイカ基板、BN基板、SiC基板、GaN基板、AlN基板、SOI基板から選ばれた1種であることを特徴とする付記12〜24のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【符号の説明】
【0112】
1 シリコン基板
2,22 絶縁層
2a,2b,22a,22b 開口
2A 空隙
2A1,2A2,2B1,2B2,2B3,2B4,2C1,2C2,2C3,2C4,2C5,2D1,2D2 間隙
3 触媒金属
4 触媒金属層
4a 形成面
5 グラフェン
6 ソース電極
7 ドレイン電極
8,8a,8b,8c,8d,8e,23a,23b,23c,23d グラフェンリボン
9,16 絶縁膜
9a,16a ゲート絶縁膜
11〜14 ゲート電極
15,31 グラフェンメッシュ
15a,31a 穿孔
21 サファイア単結晶基板
24a,24b,24c,24d,24e BNリボン
25,35 複合リボン
32,33,34 BN

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、空隙を有する絶縁層と、
前記空隙の両側に形成された一対の電極と、
前記空隙上を介して前記一対の電極間を架橋するグラフェンと
を含むことを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
前記グラフェンは、BN膜と複合化された構造を有することを特徴とする請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記グラフェンは、前記絶縁層の前記空隙における端部との間に間隙が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記グラフェンは、前記一対の電極間でリボン形状とされることを特徴とする請求項3に記載の電子デバイス。
【請求項5】
前記グラフェンは、前記一対の電極間で並行する複数のリボン形状とされることを特徴とする請求項3に記載の電子デバイス。
【請求項6】
前記グラフェンは、複数の穿孔を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項7】
前記グラフェンの少なくとも上面を覆う絶縁膜を更に含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項8】
前記絶縁膜は、前記グラフェンの上面及び前記一対の電極上を含む前記絶縁層上と、前記グラフェンの下面を含む前記空隙の内壁面とを覆うように形成されることを特徴とする請求項7に記載の電子デバイス。
【請求項9】
前記絶縁膜は、HfO2,Al23,TiO2,SiO2,BNのうちから選択された1種を材料とすることを特徴とする請求項8に記載の電子デバイス。
【請求項10】
前記基板の上面が(111)面であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項11】
前記基板は、Si基板、サファイア基板、MgO基板、マイカ基板、BN基板、SiC基板、GaN基板、AlN基板、SOI基板から選ばれた1種であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項12】
基板上に絶縁層を形成する第1の工程と、
前記絶縁層に空隙を形成する第2の工程と、
前記空隙に触媒材料を充填する第3の工程と、
前記絶縁層における前記触媒材料の露出面にグラフェンを形成する第4の工程と、
前記絶縁層上で前記グラフェンの両端部に接続するように一対の電極を形成する第5の工程と、
前記グラフェンを一部除去する第6の工程と、
前記グラフェンの除去された部位を通じて前記触媒材料を除去する第7の工程と
を含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記第4の工程において、前記グラフェンを、CVD法により、エチレンを含む原料ガスを用いて形成することを特徴とする請求項12に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記第4の工程において、CVD法による前記グラフェンの成長条件として、前記原料ガスにおける全圧を1kPaとした場合のエチレンの分圧を0.05Pa〜10Pa、成長時間を1分間〜120分間とすることを特徴とする請求項13に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記第6の工程において、前記グラフェンをリボン形状に加工して前記グラフェンと前記絶縁層における前記空隙の端部との間に間隙を形成し、
前記第7の工程において、前記間隙を通じて前記触媒材料を除去することを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記第6の工程において、前記グラフェンを前記一対の電極間で並行する複数のリボン形状に加工して複数の間隙を形成し、
前記第7の工程において、前記間隙を通じて前記触媒材料を除去することを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項17】
前記第6の工程において、前記グラフェンに複数の穿孔を形成し、
前記第7の工程において、前記穿孔を通じて前記触媒材料を除去することを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項18】
前記グラフェンをBN膜と複合化された構造に形成することを特徴とする請求項12〜17のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項19】
前記第5の工程の後、前記第6の工程の前において、前記グラフェンを前記一対の電極間で並行する複数のリボン形状に加工して複数の間隙を形成し、前記間隙を埋めるように前記BN膜を形成する工程を更に含むことを特徴とする請求項18に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項20】
前記第5の工程の後、前記第6の工程の前において、前記グラフェンに複数の穿孔を形成し、前記穿孔を埋めるように前記BN膜を形成する工程を更に含むことを特徴とする請求項18に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項21】
前記グラフェンの少なくとも上面を覆う絶縁膜を形成することを特徴とする請求項12〜20のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項22】
前記第7の工程の後に、前記絶縁膜を、前記グラフェンの上面及び前記一対の電極上を含む前記絶縁層上と、前記グラフェンの下面を含む前記空隙の内壁面とを覆うように形成することを特徴とする請求項21に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項23】
前記絶縁膜は、HfO2,Al23,TiO2,SiO2,BNのうちから選択された1種を材料とすることを特徴とする請求項21又は22に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項24】
前記基板の上面が(111)面であることを特徴とする請求項12〜23のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項25】
前記基板は、Si基板、サファイア基板、MgO基板、マイカ基板、BN基板、SiC基板、GaN基板、AlN基板、SOI基板から選ばれた1種であることを特徴とする請求項12〜24のいずれか1項に記載の電子デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−212877(P2012−212877A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−60588(P2012−60588)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】