説明

フォトレジスト用化合物、フォトレジスト液、およびこれを用いるエッチング方法

【課題】フォトリソグラフィを利用した微細加工を行うために使用される、新規なフォトレジスト用化合物、上記フォトレジスト用化合物を用いたフォトレジスト液、および上記フォトレジスト液を使用して、所望の表面をエッチングするエッチング方法の提供。
【解決手段】メロシアニン色素骨格を有するフォトレジスト用化合物。前記フォトレジスト用化合物を含むフォトレジスト液。前記フォトレジスト液を使用する被加工表面のエッチング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細なパターンを形成可能なフォトレジスト用化合物およびフォトレジスト液に関する。更に本発明は、上記フォトレジスト液を用いる被加工表面のエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子、磁気バブルメモリ、集積回路等の電子部品を製造工程において、微細パターンを形成し、これをエッチングマスクとして、その下層にある表面をエッチングする技術が広く用いられている。
更に近年、LEDのような発光素子が種々の用途に活用されている。このLEDは、基板上に発光層を含む半導体多層膜を積層した半導体素子(以下、これを「チップ」とも言う。)を樹脂等でパッケージしたものであるが、当該チップの光取出し口の最上層(または最外層)とパッケージの樹脂との屈折率が相違するので、これら両者の界面で反射が起こり発光効率が低下してしまう。そのため、このような界面での反射を防止して、その発光効率を改善する目的で、上記チップの光取出し口の表面に微細な凹凸構造を設けることが提案されている(例えば特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開2003−174191号公報
【特許文献2】特開2003−209283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、その第5の実施態様において、上記発光ダイオードの光取出し口を構成する最上層として反射防止膜を設け、その反射防止膜の表面に微細な凹凸形状を形成するために、予め微細な凹凸形状を形成した金型を製造しておき、この金型で上記反射防止膜の表面をプレス成形して、光取出し口の表面に凹凸形状を形成する方法、またはその変形例として、金型を使用したプレス成形に代えて反射防止膜の表面をグラインダーでランダム方向に荒らす方法が開示されている。しかし、前者の方法は金型を作成するという面倒なプロセスを必要とする上に、金型作成のコストがかかる欠点があり、後者の方法では、常に均一な粗面とすることが困難で、製品に性能上のバラつきが生じるという問題があった。
他方、特許文献2では、ブレード加工で半導体素子の光取出し口の最上層を構成する電流拡散層に断面三角形状のラインアンドスペースパターンを形成し、さらに高温の塩酸処理をして電流拡散層の表面にサブミクロンの凹凸を形成する方法と、電流拡散層上にフォトレジストを使ってラインアンドスペースパターンを形成し、さらにリアクティブ・イオン・エッチング(RIE)により上記と同様の微小な凹凸を電流拡散層の表面に形成する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法でも煩雑なプロセスを必要とするという問題があった。
【0004】
微細な凹凸構造の作製、半導体装置の作製等に使用される技術として、従来からフォトリソグラフィが知られている。フォトリソグラフィでは、感光性化合物を含有するレジスト組成物を基板等の表面に塗布した後、フォトマスクを介してパターン露光し、次いで現像することにより露光部または非露光部のいずれか一方を選択的に除去してレジストパターンを形成する。その後、このレジストパターンをエッチングマスクとして使用することにより、基板等の表面に微細な凹凸パターンまたは半導体素子を形成することができる。
【0005】
しかし、従来の感光性化合物を含有するフォトレジスト液を使用したフォトリソグラフィーでは、パターン露光後に現像する工程が必須であり、その分だけ工程が増えてしまう。
【0006】
そこで本発明の目的は、フォトリソグラフィを利用した微細加工を行うために使用される、新規なフォトレジスト用化合物、より詳しくは、パターン露光後の現像工程を省略することができる、新規なフォトレジスト用化合物を提供することにある。
本発明のもう一つの別の目的は、上記のフォトレジスト用化合物を用いたフォトレジスト液を提供することにある。
本発明の更に別の目的は、上記のフォトレジスト液を使用して、所望の表面をエッチングするエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、メロシアニン色素を含有する色素膜へパターン露光すると、色素の発熱により光照射部分に化学的および/または物理的な物性変化が生じ、このパターン露光後の色素膜がエッチング用マスクとして使用することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]メロシアニン色素骨格を有することを特徴とするフォトレジスト用化合物。
[2]下記一般式(I)で表される化合物である[1]に記載のフォトレジスト用化合物。
【化1】

[一般式(I)中、Z1は、X1およびX2とともに5員または6員のヘテロ環を形成する原子団を表し、X1およびX2は、それぞれ独立に炭素原子またはヘテロ原子を表し、但し、X1およびX2の少なくとも一方はヘテロ原子を表し、Y1およびY2は、それぞれ独立に置換基を表し、但し、Y1およびY2の少なくとも一方はシアノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アルキルスルホン基、アリールスルホン基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基またはアミノスルホニル基を表し、Y1とY2は互いに結合して環を形成してもよく、L1およびL2は、それぞれ独立にメチン基を表し、nは0〜2の範囲の整数を表す。]
[3]熱分解温度が150℃以上500℃以下である[1]または[2]に記載のフォトレジスト用化合物。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載のフォトレジスト用化合物を含むフォトレジスト液。
[5]前記フォトレジスト用化合物を、前記フォトレジスト液に含まれる全固形分を基準として50質量%以上含有する[4]に記載のフォトレジスト液。
[6][4]または[5]に記載のフォトレジスト液を被加工表面に塗布してフォトレジスト膜を形成すること、
上記フォトレジスト膜にパターン露光すること、および、
上記パターン露光後のフォトレジスト膜を有する被加工表面の少なくとも一部にエッチング処理を施し、上記パターン露光において露光された部分に対応する領域における被加工表面の少なくとも一部をエッチングすること
を含む被加工表面のエッチング方法。
[7]前記パターン露光に使用される光は、λnmの波長を有するレーザー光であり、前記フォトレジスト膜に含まれる前記フォトレジスト用化合物の最大吸収波長λmaxはλ±150nmの範囲にある[6]に記載の被加工表面のエッチング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パターン露光するだけで、換言すれば現像液による現像工程を経ることなく、エッチング用マスクを形成することができるので、各種の半導体装置を作製するプロセスで複数回行われるフォトリソグラフィ工程の各現像工程を除くことができ、これにより大幅な簡便化を達成できる。更に本発明によれば、微細な凹凸を被加工表面に形成することができ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[フォトレジスト用化合物]
本発明のフォトレジスト用化合物は、メロシアニン色素骨格を有する。
本発明者らは、メロシアニン色素骨格を有する化合物(以下、「メロシアニン色素」ともいう)を含有する色素膜は、部分的に光照射されると光照射部分が局所的に物性変化し、光照射前の色素膜に比べて耐エッチング性が低下することを見出し、更に、この色素膜がエッチング用マスクとして機能し得ることを新たに見出した。この現象について、本発明者らは以下のように推定している。
メロシアニン色素を含有する色素膜へ、例えばレーザービームでスポット状に光を照射すると、光照射部分においてメロシアニン色素が発熱する。この発熱によってメロシアニン色素が熱分解などの物性変化を起こす結果、色素膜では光照射部分が局所的に物理的および/または化学的に変化し、ピット(開口)や局所的に耐久性が低下した部分(低耐久性部)が形成されるものと考えられる。ピットが形成された色素膜は、エッチング用マスクとして機能することはもちろんのこと、低耐久性部はエッチング工程でより容易に食刻されるため、パターン露光で低耐久性部を形成した色素膜もエッチング用マスクとして機能し得る。また、メロシアニン色素を含む色素膜それ自体は耐エッチング性に優れ、エッチングに対する耐久性膜として良好に機能し得ることも判明した。ここで、エッチングの方法は、ドライエッチングでもウェットエッチングでもかまわない。特にドライエッチングに適用すると、ウェットエッチング液の洗浄工程が不要なため好ましい。
特に、本発明者らがメロシアニン色素を含有する色素膜のレーザー光による照射中の挙動を観察したところ、レーザービームの光照射部分の中心部での温度上昇とともに周辺部分で温度低下する現象が確認された。この周辺部分の温度低下の理由は定かではないが、この周辺部の温度低下によって、レーザー光照射部の中心部では熱分解によるピット形成や低耐久性部形成が起こるものの周辺部への物性変化の広がりが抑えられるため、レーザー光でパターン露光するとレーザービームのビーム径よりも小径のパターンが色素膜に形成できるものと考えられる。従って、色素膜へのレーザー光によるパターン露光により、そのレーザービーム径が照射した領域よりも一段と狭い小径の露光領域のみが低耐久性部となり、結果的にレーザー光のビーム径よりも細いビームでパターン露光した場合と同様の微細なパターン露光が達成できる。
更に、メロシアニン色素を含む色素膜は、パターン露光によりその照射部にピットまたは低耐久性部が形成されるので、パターン露光後の現像処理が不要であり、パターン露光の次にエッチング工程を行うことができる。
本発明における「フォトレジスト」とは、このようなパターン露光によって生ずる熱によってレジストパターンを形成する態様も含むものである。
以下に、本発明のフォトレジスト用化合物について更に詳細に説明する。
【0011】
本発明のフォトレジスト用化合物は、メロシアニン色素骨格を有する。本発明において、「メロシアニン色素骨格」とは、電気的に中性なメチン系発色団を有する色素骨格を意味する。
【0012】
メロシアニン色素骨格を有する化合物の中でも、吸光特性、熱分解特性等の観点から好ましいメロシアニン色素としては、下記一般式(I)で表されるメロシアニン色素を挙げることができる。
【0013】
【化2】

【0014】
一般式(I)中、Z1は、X1およびX2とともに5員または6員のヘテロ環を形成する原子団を表し、X1およびX2は、それぞれ独立に炭素原子またはヘテロ原子を表し、但し、X1およびX2の少なくとも一方はヘテロ原子を表す。ヘテロ原子としては、窒素原子または硫黄原子が好ましい。
【0015】
1、X1およびX2により形成されるヘテロ環としては、チアゾリン環、オキサゾリン環、ジチオール環、イミダゾリン環、もしくはこれらのベンゾ縮環体、または以下に示す構造のものなどが挙げられる。
【0016】
【化3】

【0017】
上記において、R1〜R5は、それぞれ独立に置換基を表す。置換基としては特に限定されるものではないが、例えば、ヘテロ環が有し得る置換基として後述する置換基を挙げることができる。
【0018】
このような中でも、上記ヘテロ環として好ましくは、チアゾリン環、オキサゾリン環、ジチオール環、イミダゾリン環、またはこれらのベンゾ縮環体であり、最も好ましくはベンゾチアゾリン環、ベンゾオキサゾリン環、ベンゾジチオール環またはベンゾイミダゾリン環である。これらはさらに他の芳香環によって縮環してもよい。
【0019】
上記へテロ環は、水素原子以外の置換基を有していてもよい。好ましい置換基の例としては、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜14のアリール基、炭素原子数7〜15のアラルキル基、炭素原子数1〜10のヘテロ環基、炭素原子数1〜20のアルコキシ基、炭素原子数6〜14のアリールオキシ基、炭素原子数1〜20のアルキルスルフェニル基、炭素原子数6〜14のアリールスルフェニル基、炭素原子数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素原子数6〜14のアリールスルホニル基、炭素原子数2〜21のアシル基、炭素原子数1〜25のカルバモイル基、炭素原子数0〜32のスルファモイル基、炭素原子数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素原子数7〜15のアリールオキシカルボニル基、炭素原子数2〜21のアシルアミノ基、炭素原子数1〜20のスルホニルアミノ基、炭素原子数0〜32のアミノ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基およびハロゲン原子を挙げることができ、更に好ましい例としては、炭素原子数3〜16のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数3〜16のアルコキシ基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基を挙げることができる。
【0020】
一般式(I)中、Y1およびY2は、それぞれ独立に置換基を表し、Y1およびY2の少なくとも一方はシアノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アルキルスルホン基、アリールスルホン基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基またはアミノスルホニル基を表す。上記以外の置換基としては、先にヘテロ環が有し得る置換基として例示したものを挙げることがきる。
【0021】
1およびY2は、両方がそれぞれ独立にシアノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アルキルスルホン基、アリールスルホン基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基またはアミノスルホニル基を表すことが好ましい。Y1、Y2として好ましくはシアノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基またはアミノカルボニル基である。Y1、Y2がアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基またはアミノカルボニル基、アルキルスルホン基、アリールスルホン基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基またはアミノスルホニル基の場合、さらに置換基を有し得るが、この置換基の例としては、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜14のアリール基、炭素原子数7〜15のアラルキル基、炭素原子数1〜10のヘテロ環基、炭素原子数1〜20のアルコキシ基、炭素原子数6〜14のアリールオキシ基、炭素原子数1〜20のアルキルスルフェニル基、炭素原子数6〜14のアリールスルフェニル基、炭素原子数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素原子数6〜14のアリールスルホニル基、炭素原子数2〜21のアシル基、炭素原子数1〜25のカルバモイル基、炭素原子数0〜32のスルファモイル基、炭素原子数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素原子数7〜15のアリールオキシカルボニル基、炭素原子数2〜21のアシルアミノ基、炭素原子数1〜20のスルホニルアミノ基、炭素原子数0〜32のアミノ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基およびハロゲン原子を挙げることができ、好ましいものは、炭素原子数3〜16のアルキル基または炭素原子数6〜10のアリール基である。
【0022】
1とY2は互いに結合して環を形成してもよい。形成される環としては、以下の環構造を挙げることができる。なお、下記例示構造中、Ra、RbおよびRcは、各々独立に、水素原子または置換基を表す。
【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
【化12】

【0032】
上記中、好ましい環は、A−8、A−9、A−10、A−11、A−12、A−13、A−14、A−16、A−17,A−36、A−39、A−41、A−54、およびA−57で示されるものである。更に好ましい環は、A−2、A−8、A−9、A−10、A−13、A−14、A−16、A−17およびA−57で示されるものである。最も好ましい環は、A−2、A−9で示されるものである。
【0033】
一般式(I)中、L1およびL2は、それぞれ独立にメチン基を表す。メチン基は、置換基を有していてもよく、置換基の例としてはヘテロ環が有し得る置換基として前述した置換基を挙げることができる。
【0034】
一般式(I)中、nは0〜2の範囲の整数を表す。波長適性の観点から0または1であることが好ましく、最も好ましくは0である。
【0035】
一般式(I)で表される化合物は、任意の位置で結合して多量体を形成していてもよく、この場合の各単位は互いに同一でも異なっていてもよく、またポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリビニルアルコール、セルロース等のポリマー鎖に結合していてもよい。
【0036】
一般式(I)で表される化合物は電荷を有していても中性でもよい。一般式(I)で表される化合物が陽イオン、陰イオンであるか、または正味のイオン電荷を持つかどうかは、その助色団および置換基に依存する。置換基が解離性基を有する場合、解離して負電荷を持ってもよく、この場合にも分子全体の電荷は任意の対イオンによって中和される。対イオンとして典型的な陽イオンは無機または有機のアンモニウムイオン(例えばテトラアルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン)およびアルカリ金属イオンである。一方、陰イオンは無機陰イオン、有機陰イオンのいずれであってもよく、例えば、ハロゲン陰イオン、(例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)、置換アリールスルホン酸イオン(例えば、p−トルエンスルホン酸イオン、p−クロロベンゼンスルホン酸イオン)、アリールジスルホン酸イオン(例えば、1,3−ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5−ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6−ナフタレンジスルホン酸イオン)、アルキル硫酸イオン(例えば、メチル硫酸イオン)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが挙げられる。
さらに電荷均衡対イオンとしてイオン性ポリマーまたは色素と逆電荷を有する他の色素を用いてもよいし、金属錯イオン(例えば、ビスベンゼン−1,2−ジチオラトニッケル(III) )も可能である。
【0037】
以下に、一般式(I)で表される化合物の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
【化13】

【0039】
【化14】

【0040】
【化15】

【0041】
【化16】

【0042】
【化17】

【0043】
【化18】

【0044】
【化19】

【0045】
【化20】

【0046】
本発明のフォトレジスト用化合物は、公知の方法で合成することができ、また市販品として入手可能なものもある。例えば、一般式(I)で表される化合物は、エフ・エム・ハーマー(F.M.Harmer)著「ヘテロサイクリック・コンパウンズーシアニンダイズ・アンド・リレィティド・コンパウンズ(Heterocyclic Compounds-Cyanine Dyes and Related Compounds)」、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)社−ニューヨーク、ロンドン、1964年刊、デー・エム・スターマー(D.M.Sturmer)著「ヘテロサイクリック・コンパウンズースペシャル・トピックス・イン・ヘテロサイクリック・ケミストリー(Heterocyclic Compounds-Special topics in heterocyclic chemistry)」、第18章、第14節、第482から515項、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)社−ニューヨーク、ロンドン、1977年刊、「ロッズ・ケミストリー・オブ・カーボン・コンパウンズ(Rodd's Chemistry of Carbon Compounds)」2nd.Ed.vol.IV,partB,1977刊、第15章、第369から422項、エルセビア・サイエンス・パブリック・カンパニー・インク(Elsevier Science Publishing Company Inc.)社刊、ニューヨーク、英国特許第1、077、611号などに記載、引用もしくはこれらに類似の方法により合成することができる。
【0047】
本発明のフォトレジスト用化合物は、パターン露光に使用される光の波長に応じて最適なものを選択することができる。
例えば、最大吸収波長(λmax)については、一般的な指標としては、使用されるレーザー光の波長がλnmの場合、パターン露光によるフォトレジスト膜が効率よく分解または変性するという理由から、λ±150nmの範囲に、より好ましくはλ±100nmの範囲にλmaxを有するものから選ぶことができる。例えば、波長が650nmの半導体レーザー光を使用する場合には、最大吸収波長が500nm〜800nmの範囲、より好ましくは550nm〜750nmの範囲にあるフォトレジスト用化合物から選択することができる。また、波長が405nmの半導体レーザー光を使用する場合には、最大吸収波長が255nm〜555nmの範囲、より好ましくは305nm〜505nmの範囲にあるフォトレジスト用化合物から選択することができる。
【0048】
更に、レーザーによるパターン露光時の感度の点から、本発明のフォトレジスト用化合物の熱分解温度は、100℃以上600℃以下であることが好ましく、100℃以上600℃以下であることがより好ましく、120℃以上550℃以下であることが更に好ましく、150℃以上500℃以下であることが最も好ましい。
【0049】
本発明における熱分解温度は、TG/DTA測定によって求められる値をいうものとする。具体的には、例えばSeiko Instruments Inc.製EXSTAR6000を用い、N2気流下(流量200ml/min)、30℃〜550℃の範囲において10℃/minで昇温を行い、質量減少率が10%に達した時点の温度として熱分解温度を求めることができる。
【0050】
[フォトレジスト液]
本発明のフォトレジスト液は、本発明のフォトレジスト用化合物を含有し、好ましくは溶剤を含む。本発明のフォトレジスト液は、本発明のフォトレジスト用化合物を1種含んでいてもよく、構造の異なる化合物を2種以上含んでいてもよいが、特定の化合物を1種のみ含むことが好ましい。溶剤としては、本発明のフォトレジスト用化合物の良溶媒を用いることが好ましい。更に本発明のフォトレジスト液は、上記成分に加えて任意に他成分を含むことができる。加工性に優れたレジスト膜を形成するためには、本発明のフォトレジスト液中の上記フォトレジスト用化合物の含有量は、フォトレジスト液に含まれる全固形分を基準として50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。その上限値は、例えば100質量%である。
【0051】
本発明のフォトレジスト液を、処理対象となる表面上に塗布し、溶媒を蒸発させて除くことにより、フォトレジスト膜を形成することができる。塗布方法としては、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。生産性に優れ膜厚のコントロールが容易であるという点でスピンコート法を用いることが好ましい。塗布されたフォトレジスト液から溶媒を除く方法は、従来より知られている方法を使用することができる。例えば、スピンコート法で塗布した場合には、そのままスピンの回転数を上昇させることにより溶媒を蒸発させることができる。その際、塗布面にノズルから気体を吹き付けて溶媒の蒸発を促進させてもよい。更に従来のフォトレジストの塗布プロセスと同様に、スピンコートされたフォトレジスト液膜を加熱(ベーキング)する、所謂プリベークをしてもよい。溶媒を除去する方法としては、フォトレジスト液をスピンコート法で塗布し、そのままスピンの回転数を上昇させて溶媒を除く方法が特に好ましい。この場合、さらに加熱するアニール処理をすることが好ましい。アニール処理は、フォトレジスト膜としての強度や安定性を増す効果がある。その加熱温度下限は、例えば55℃以上、好ましくは65℃以上、更に好ましくは75℃以上であり、その加熱温度上限は、例えば200℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは100℃以下である。時間の下限は、例えば5分以上、好ましくは15分以上、更に好ましくは30分以上であり、上限は、例えば4時間以下、好ましくは2時間以下、更に好ましくは1時間以下である。このような範囲の条件下でアニールすることにより、生産性を低下させることなく、フォトレジスト膜としての強度と安定性を上昇させることができる。
【0052】
本発明のフォトレジスト液中の全固形分の濃度は、塗布性(例えば、塗布および溶媒除去後の膜厚が所望の範囲内に収まること、当該膜厚が被加工表面全体に均一性であること、被加工表面に多少の凹凸があっても当該凹凸に追随して均一な厚みの塗膜が形成されること、等)等を考慮すると、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.4質量%以上5質量%以下であり、更に好ましくは0.7質量%以上2質量%以下である。
【0053】
本発明のフォトレジスト液に使用可能な溶媒は、スピンコート法による塗布性を考慮すると、塗布時に適度な揮発性を有するものであることが好ましく、製造適性上、以下のような物性を有することが更に好ましい。
1.沸点が60℃以上300℃以下であることが好ましく、70℃以上250℃以下であることがより好ましく、80℃以上200℃以下であることが最も好ましい。
2.粘度が0.1cP以上100cP以下であることが好ましく、0.5cP以上50cP以下であることがより好ましく、1cP以上10cP以下であることが最も好ましい。
3.引火点が25℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、35℃以上であることが最も好ましい。
【0054】
上記溶媒の具体的な例としては、炭化水素類(シクロヘキサン、1,1−ジメチルシクロヘキサンなど)、アルコール類(ブタノール、ジアセトンアルコール、テトラフルオロプロパノールなど)、グリコールエーテル類(メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど)、エステル類(酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチルなど)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、ニトリル類(プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、スルホン類(ジメチルスルホキシドなど)カルボン酸類(酢酸など)、アミン類(トリエチルアミンなど)、ハロゲン類(トリクロロメタン、ハイドロフルオロカーボンなど)、芳香属類(トルエン、キシレンなど)などが挙げられる。これらの内、特に好ましいものは、その塗布性から、アルコール類またはグリコールエーテル類である。上記溶媒は、単独で使用してもよく、二種以上を混合して使用してもよい。
【0055】
本発明のフォトレジスト液は、少なくとも固形分としてメロシアニン色素を含むものであればよいが、必要に応じてその他の成分を含有させてもよい。但し、その他の成分の総量は、メロシアニン色素に対して質量比で1倍量以下とすることが好ましい。
その他の成分の例としては、結合剤、退色防止剤、酸化防止剤、UV吸収剤、可塑剤、潤滑剤等を挙げることができる。結合剤の例としては、ゼラチン、セルロース誘導体、デキストラン、ロジン、ゴム等の天然有機高分子物質;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン等の炭化水素系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル・ポリ酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、塩素化ポリエチレン、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、ゴム誘導体、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等の熱硬化性樹脂の初期縮合物等の合成有機高分子、を挙げることができる。本発明のフォトレジスト液に結合剤を添加する場合、結合剤の添加量は、本発明のフォトレジスト用化合物に対して、質量比で、0.01倍〜1倍量とすることが好ましく、0.1倍量〜0.5倍量とすることが更に好ましい。
【0056】
本発明のフォトレジスト用化合物は、一般的に、通常の室内照明環境下では分解または変性しないので、従来のフォトレジストのような安全灯(例えば、紫外線またはそれよりも短波長の光をカットした照明)の下で使用する必要はない。しかし、このような通常の室内環境の照明下で使用する場合には、フォトレジスト液には、耐光性に優れたレジスト膜を形成するために、種々の褪色防止剤を含有させることができる。
褪色防止剤としては、一般的に一重項酸素クエンチャーが用いられる。一重項酸素クエンチャーとしては、既に公知の特許明細書等の刊行物に記載のものを利用することができる。その具体例としては、特開昭58−175693号公報、同59−81194号公報、同60−18387号公報、同60−19586号公報、同60−19587号公報、同60−35054号公報、同60−36190号公報、同60−36191号公報、同60−44554号公報、同60−44555号公報、同60−44389号公報、同60−44390号公報、同60−54892号公報、同60−47069号公報、同63−209995号公報、特開平4−25492号公報、特公平1−38680号公報、および同6−26028号公報等の各公報、ドイツ特許350399号明細書、そして日本化学会誌1992年10月号第1141頁等に記載のものを挙げることができる。前記一重項酸素クエンチャー等の褪色防止剤の使用量は、本発明のフォトレジスト用化合物の量に対して、例えば0.1〜50質量%の範囲とすることができ、好ましくは、0.5〜45質量%の範囲、更に好ましくは、3〜40質量%の範囲、特に好ましくは5〜25質量%の範囲とすることができる。
【0057】
また、後述するように、本発明のフォトレジスト液によれば、現像工程を経ることなくエッチング用マスクを形成することができる。従って、現像工程を要する通常のフォトポリマータイプのレジスト液に必須成分として含まれるo−ナフトキノンジアジトスルホン酸エステルとノボラック樹脂の組合せ成分、光酸発生剤と酸分解性化合物との組合せ成分、光塩基発生剤と塩基分解性化合物との組合せ成分、光ラジカル発生剤と付加重合成不飽和化合物との組合せ成分は、本発明のフォトレジスト液における必須成分ではなく、本発明のフォトレジスト液は、これら成分を含有しないことが好ましい。
【0058】
本発明のフォトレジスト液は、本発明のフォトレジスト用化合物を、必要に応じて上記成分と混合することにより得ることができる。
【0059】
本発明のフォトレジスト液を処理対象となる被加工表面に塗布し、溶剤を除去することによりフォトレジスト膜を形成することができ、このフォトレジスト膜にレーザー光で所望のパターンで露光することで、所望のパターンのレジストを形成することができる。レジスト膜を形成するためのフォトレジスト液の塗布方法の詳細は、先に説明した通りである。
【0060】
上記フォトレジスト膜は、その機能を本発明のフォトレジスト用化合物が担っているので、前記フォトレジスト用化合物を、フォトレジスト膜の総質量を基準として50質量%以上含有していることが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、90質量%以上含有することが更に好ましい。その上限値は、例えば100質量%である。上記フォトレジスト膜に含まれ得る各種成分については、先に本発明のフォトレジスト組成物について述べた通りである。
【0061】
本発明のフォトレジスト液は、その固形分の全量が前記フォトレジスト用化合物から構成される態様が、スピンコーティング工程で被加工表面の設けられた後の余分なフォトレジスト液(例えば、スピンコート時に被加工表面から振り落とされたフォトレジスト液)を回収して再利用することが容易となるという点で、特に好ましい。
【0062】
本発明のフォトレジスト液は、微細加工が必要とされる用途であれば、どのような用途にも適用することができる。例えば、LSI、LED、CCD、太陽電池などの半導体装置の製造工程、液晶、PDP、ELなどのFPDの製造工程、レンズ、フィルムなどの光学部材の製造工程などの種々の工程において、従来のフォトレジスト液に代えて使用することができる。即ち、従来のフォトレジスト液の塗布および溶媒除去工程、パターン露光工程および現像工程に代えて、本発明のフォトレジスト液の塗布および溶媒除去工程ならびにパターン露光工程を使用することができる。
【0063】
本発明のフォトレジスト液は、ナノインプリント用のマスターの作製する工程においても、使用することができる。
【0064】
更に、本発明のフォトレジスト液は、LED用のチップの表面、裏面(例えば、サファイア基板など)、側面などの面に微細な凹凸を形成して、LEDの光取り出し効率を向上させるために使用することができる。一般に、LED用チップの光取出し口となる最外層(例えば電流拡散層または透明電極など)を構成する材料とパッケージ用の樹脂とは屈折率が相違し、例えば電流拡散層の場合にはその屈折率が3以上あるのに対して、後者のパッケージ用樹脂の屈折率は1.5前後である。このような屈折率の大きな部分から屈折率の小さな部分に光を取り出す場合には、その界面で光が反射してしまい、光の取り出し効率が低下してしまうが、その界面を微細な凹凸とすることにより、光の取り出し効率を向上させることができる。そこで、LED用チップの光取出し口となる層(例えば、電流拡散層)を形成した後に、この層の表面に本発明のフォトレジスト液を塗布し、溶媒を除去してフォトレジスト膜を形成し、このフォトレジスト膜に所望の微細凹凸パターンの凹部に相当する部分のみレーザー光を照射するパターン露光を行い、引き続いてエッチングを行って、上記のレーザー光を照射した部分に対応する取り出し口の表面をエッチングして凹部を形成することにより、取り出し口に微細凹凸を形成することができる。その後、必要なプロセス(例えば電流拡散層の表面に電極を形成するプロセス)を経てLED用チップを完成させることができる。このようして得られたLEDチップの光取出し口は、表面に微細な凹凸を有する。このLED素子をパッケージしてLEDとしたものは、パッケージ用樹脂と光取出し口の界面に微細な凹凸が形成されているので、その界面での反射の少ない、光取り出し効率の良いLEDを作製することができる。このように、屈折率の大きい部分から小さい部分へ取り出す場合、その界面に微細な凹凸を設けることにより光取出し効率を高めることができる。この発光部界面に形成すべき凹部の深さhおよび直径dについては、発光部で発生する光の散乱・回折が生じるサイズであればよく、好ましくは発光波長の4分の1以上であり、散乱理論に基づいて設計することができる。
【0065】
上記のように、被加工表面に微細な凹凸を形成する場合、その表面上に本発明のフォトレジスト液を用いてフォトレジスト膜を形成し、レーザーにより微細パターンの露光を行い、これをマスクにしてRIEなどにより被加工表面に上記微パターンに相当する細凹凸を形成することができる。また、被加工表面の上にマスク層を設け、その上に本発明のフォトレジスト液を用いてフォトレジスト膜を形成し、これをレーザーで微細加工し、その後RIEによりマスク層に微細穴を形成し、更にこの微細穴が形成されたマスク層を介して被加工表面をICP(誘導結合プラズマ)でより深くエッチングすることも可能である。このようなマスク層を利用するエッチング方法は、被加工表面がサファイアーのような硬くエッチングされにくい場合に有利な方法である。マスク層としては、SiO2、TiO2、SiN、SiON、など無機の酸化膜や窒化膜などが好ましい。
【0066】
更に本発明のフォトレジスト液を用いて形成されるフォトレジスト膜の厚さtと、凹部の直径dとは、本発明のフォトレジスト用化合物の種類、被加工表面の材質、選択比等のエッチング工程の条件に応じて設定することができる。レーザー記録時の光学特性もまた考慮して設定されるべきである。好ましい範囲として、レジスト層の厚みtの上限値は、t<100dを満たす値であり、更に好ましくはt<10dを満たす値であり、また下限値はt>d/100を満たす値が好ましく、t>d/10を満たす値が更に好ましい。
【0067】
[被加工表面のエッチング方法]
更に本発明は、被加工表面のエッチング方法に関する。本発明のエッチング方法は、本発明のフォトレジスト液を被加工表面に塗布してフォトレジスト膜を形成すること、上記フォトレジスト膜にパターン露光すること、および、上記パターン露光後のフォトレジスト膜を有する被加工表面の少なくとも一部にエッチング処理を施し、上記パターン露光において露光された部分に対応する領域における被加工表面の少なくとも一部をエッチングすること、を含む。
【0068】
パターン露光されたフォトレジスト膜には、パターン露光時の露光部分のフォトレジスト膜にピットが形成されるか、または低耐久性部のような局部的な物性変化を起こした部分が形成される。エッチング処理では、フォトレジスト膜のピットおよび/または低耐久性部に相当する被加工表面が優先的にエッチングされ、更にその下にある被加工表面もエッチングされて凹部となる。こうして、パターン露光において露光された部分に対応する領域における被加工表面の少なくとも一部をエッチングし、被加工表面に微細な凹凸を形成することができる。また、被加工表面が複数の薄層を有する場合には、その薄層の少なくとも一層をパターン状に除去することもできる。これを利用して、種々の半導体装置を製造することができる。
【0069】
パターン露光は、公知のステッパーを使用してフォトマスクを介して露光する方法を採用することもできるが、レーザー光のビームをパルス変調し、その変調されたレーザービームをレンズを介して絞り込み、その焦点がフォトレジスト膜となるようにしてパターン露光することが好ましい。そのような光照射を行うためのパターン露光装置としては、光ディスクへの情報記録に使用される記録装置が好適である。但し、必要な大きさに集光できれば、レーザー光のような単色光でなくても構わない。
【0070】
レーザー光の種類としては、ガスレーザー、固体レーザー、半導体レーザーなど、どのようなレーザーであってもよい。ただし、光学系を簡単にするために、固体レーザーや半導体レーザーを採用することが好ましい。レーザー光は、連続光でもパルス光でもよいが、自在に発光間隔が変更可能なレーザー光を採用することが好ましい。そのようなレーザーとしては、半導体レーザーを挙げることができる。また、レーザーを直接オンオフ変調できない場合は外部変調素子によって変調することが好ましい。
【0071】
レーザーパワーは、加工速度を高めるためには高い方が好ましい。ただし、レーザーパワーを高めるにつれ、スキャン速度(レーザー光で塗布膜を走査する速度;例えば、後述する光ディスクドライブの回転速度)を上げなければならない。そのため、レーザーパワーの上限値は、スキャン速度の上限値を考慮して、100Wが好ましく、10Wがより好ましく、5Wが更に好ましく、1Wが最も好ましい。また、レーザーパワーの下限値は、0.1mWが好ましく、0.5mWがより好ましく、1mWが更に好ましい。
【0072】
さらに、レーザー光は、発信波長幅およびコヒーレンシが優れていて、波長並みのスポットサイズに絞ることができるような光であることが好ましい。また、光パルス照射条件は、一般に光ディスクで使われているようなストラテジを採用することが好ましい。すなわち、光ディスクで使われているような、記録速度や照射するレーザー光の波高値、パルス幅などの条件を採用することが好ましい。
【0073】
レーザー光の波長としては、大きなレーザーパワーを得ることができる波長であればよく、例えば、容易に得られるレーザーの波長である、1064±30nm、800±50nm、670±30nm、532±30nm、405nm±50nm、266±30nm、200±30nmが好ましい。中でも半導体レーザーで大出力が可能な、780±30nm、660±20nm、または405±20nmが好ましい。最も好ましくは、405±10nmである。また、使用するフォトレジスト用化合物の最大吸収波長λaと、レーザー光の波長λwは、λa≦λwでもλa≧λwでもかまわない。フォトレジスト膜の厚み方向の表面から裏面まで均一に光を与え全体的に熱を与え、きれいな形状の穴とするためには、薄膜の吸収量は一定範囲内であることが好ましい。吸収が多すぎると表面しか光が届かず、少なすぎると光が熱に変わらず効率が悪くなる。材料の吸収しやすさを表す消衰係数kの上限は、2以下が適しており、1以下が好ましく、0.5以下が特に好ましい。下限は、0.0005以上、0.005以上、0.05以上が好ましい。上記関係にあれば、フォトレジスト用化合物の光吸収量が適切であり、パターン露光により、良好なピットまたは低耐久性部を形成することができる。
【0074】
前記レジスト膜の厚さは、例えば、1〜10000nmの範囲で適宜設定することができる。厚さの下限は、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは30nm以上である。その理由は、厚さが薄すぎるとエッチング効果が得難くなるからである。また、厚さの上限は、好ましくは1000nm以下であり、より好ましくは500nm以下である。その理由は、厚さが厚すぎると、大きなレーザーパワーが必要になるとともに、深い穴を形成することが困難になるからであり、さらには、加工速度が低下するからである。
【0075】
光照射方法としては、例えば、ライトワンス光ディスクや追記型光ディスクなどで公知となっているピットの形成方法を適用することができる。具体的には、例えば、ピットサイズによって変化するレーザーの反射光の強度を検出し、この反射光の強度が一定となるようにレーザーの出力を補正することで、均一なピットを形成するといった、公知のランニングOPC技術(例えば、特許第3096239号公報参照)を適用することができる。なお、本発明のレジスト膜は、光照射によってエッチングにより除去される程度に物性が変化した部分が局所的に存在すれば、その部分がエッチング時に除去されることによりエッチングマスクとして機能し得るため、目視等により認識可能なピット(開口)が形成されていることは必須ではない。また、ピットや物性変化部分のサイズや加工ピッチは、光学系を調整することによって制御することができる。なお、レーザー光は中心付近で光強度が最も強く、外側に向かうにつれて徐々に弱くなるため、レーザー光のスポット径よりも小さな径の微細なピットを塗布膜に形成することができる。また、レーザー光の最小加工形状よりも大きなピットを形成したい場合はレーザースポットを繋げればよい。
【0076】
以下に、加工に使用する光学系の具体的態様について説明する。但し、本発明は以下に示す態様に限定されるものではない。
光照射装置は、一般的な光ディスクドライブと同様の構成のものを用いることができる。光ディスクドライブとしては、例えば特開2003−203348号公報に記載されている構成のものを使用することができる。このような光ディスクドライブを用い、塗布膜を形成した加工対象物がディスク形状のものであればそのまま、形状が異なる場合はダミーの光ディスクに貼り付けるなどしてディスクドライブに装填する。そして、適当な出力でレーザー光を塗布膜上に照射する。さらに、この照射のパターンが加工パターンに合うように、レーザー光源にパルス信号または連続信号を入力すればよい。また、光ディスクドライブと同様のフォーカシング技術、例えば、非点収差法などを用いることにより、塗布膜表面にうねりや反りがあったとしても、塗布膜表面に容易に集光することができる。また、光記録ディスクに情報を記録する場合と同様に、加工対象物を回転させながら、光学系を半径方向に移動させることで、塗布膜の全体に周期的な光照射を行うことができる。
【0077】
光照射条件は、例えば、光学系の開口数NAは、下限が0.4以上が好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上である。また、開口数NAの上限は、2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、さらに好ましくは0.9以下である。開口数を大きくする場合、対物レンズとフォトレジスト膜の間に液体を介在させる、所謂液浸法を使用することで、焦点調整がしやすくなるといった利点が得られる。開口数NAが小さすぎると、細かい加工ができず、大きすぎると、光照射時の角度に対するマージンが減るからである。光学系の波長は、例えば405±30nm、532±30nm、650±30nm、780±30nmである。これらは、大きな出力が得やすい波長だからである。なお、波長は短い程、細かい加工ができるので好ましい。
【0078】
光学系の出力は、下限が例えば0.1mW以上であり、好ましくは1mW以上、より好ましくは5mW以上、さらに好ましくは20mW以上である。光学系の出力の上限は、例えば1000mW以下であり、好ましくは500mW以下、より好ましくは200mW以下である。出力が低すぎると加工に時間が掛かり、高すぎると、光学系を構成する部材の耐久性が低くなるからである。
【0079】
光学系を塗布膜表面に対し相対的に移動させる線速は、下限が例えば0.1m/s以上であり、好ましくは1m/s以上、より好ましくは5m/s以上、さらに好ましくは20m/s以上である。線速の上限は、例えば500m/s以下であり、好ましくは200m/s以下、より好ましくは100m/s以下、さらに好ましくは50m/s以下である。線速が高すぎると、加工精度を高くすることが困難であり、遅すぎると加工に時間が掛かる上、良好な形状に加工することが困難になるからである。光学系を含む具体的な光学加工機の一例としては、例えば、パルステック工業株式会社製NE0500を用いることができる。
【0080】
以上説明したフォトレジスト膜は、パターン露光後に現像工程を経ることなくエッチング用マスクとして使用することができる。なお、パターン露光後かつ下記に説明するエッチングの前の工程として、加熱処理を行うポストベークを挿入してもよい。ポストベークを行うことにより、パターン露光後のフォトレジスト膜を被加工表面に強固に固着させ、かつ後続のエッチングに対するマスクとしての機能を向上させることができる。ポストベークの加熱温度の下限は、例えば55℃以上、好ましくは65℃以上、更に好ましくは75℃以上であり、その温度上限は、例えば200℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは100℃以下である。このような範囲で加熱処理することにより、生産性の低下を招くことなく上記の効果を得ることができる。
【0081】
エッチング方法としては、ウェットエッチングやドライエッチング等、種々のエッチング方法を挙げることができ、エッチングする表面の物性に応じた方法を採用すればよい。微細加工を行うためには、エッチングガスの直進性が高く細かなパターニングが可能なRIE(反応性イオンエッチング)を採用することが好ましい。RIEは、被処理体を気密な処理室内に載置し、所定の処理ガスの導入および真空引きにより処理室内を所定の減圧雰囲気にした後、例えば処理室内に形成された電極に対して所定の高周波電力を印加することによりプラズマを励起し、このプラズマ中のエッチャントイオンによって、被処理体に対してエッチング処理を行うものである。このRIEのエッチングガスは、エッチングされる物質に応じて選択することができる。
本発明のフォトレジスト液から形成されるフォトレジスト膜は、通常、エッチング後に除去されるが、用途によっては除去せず残してもよい。フォトレジスト膜の除去は、例えば剥離液(例えばエタノール)を用いた湿式の除去方法によって行うことができる。
【0082】
以上、本発明のフォトレジスト液をエッチングに用いる態様について説明したが、本発明のフォトレジスト液は、被加工表面の所望の領域に所望の物質を堆積するためにも使用することができる。
例えば、LED用チップには、光取出し口(例えば、電流拡散層)の表面の一部に、AuZnまたはAuGeのような電極が設けられる。この場合、光取出し口の表面(例えば、電流拡散層の表面)に本発明のフォトレジスト液を塗布し、溶媒を除去してフォトレジスト膜を形成した後、電極を形成する領域にレーザー光を照射してフォトレジスト膜を除去する。この場合、フォトレジスト膜に照射するレーザー光はフォトレジスト膜に低耐久性部が形成されるに十分な量であってもよく、その場合には引き続いてエッチングして低耐久性部のフォトレジスト膜を除去することにより、電極を形成する領域のフォトレジスト膜を除去することができる。その後、電極となる物質(例えば、AuZnまたはAuGe)を真空下で堆積し、次いでフォトレジスト膜を除去することにより、光取出し口の表面の所望の領域に電極が形成される。
【0083】
以上説明したように、本発明のフォトレジスト用化合物は、微細な凹凸の形成および半導体装置の作製に使用することができる。具体例としては、半導体素子、磁気バブルメモリ、集積回路等の各種電子部品、LEDや蛍光灯、有機EL素子、プラズマディスプレイ等の発光等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例により本発明を説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]
(1)フォトレジスト膜の形成
メロシアニン色素(例示化合物(S−39)、熱分解温度:263℃)2gを、テトラフルオロプロパノール(TFP)100mlに溶解し、ディスク状のシリコン基板(厚さ0.6mm、外径120mm、内径15mm)上にスピンコートし塗布膜を形成した。スピンコートは、塗布開始回転数500rpm、塗布終了回転数100rpmとして塗布液を基板の内周部にディスペンスし、徐々に2200rpmまで回転数を上げて塗布膜を乾燥させた。形成された塗布膜の厚さは100nm、最大吸収波長λmaxは379nmであった。
塗布膜を形成したシリコン基板をパルステック工業株式会社製NEO500(波長:405nm、NA:0.65)に設置し、塗布膜表面に向かってレーザー光を照射した。レーザー光照射条件は、以下の通りとした。塗布膜には、0.5μmピッチでピットが形成された。
レーザー出力:2mW
線速:5m/s
記録信号:5MHzの矩形波
【0086】
(2)凹凸形成
上記(1)で処理したシリコン基板を、塗布膜形成面側から以下の条件でRIEエッチングした後、エタノールを剥離液として塗布膜を除去した。シリコン基板表面の塗布膜除去面は微細な凹凸が形成されていることを目視により確認した。この結果から、上記(1)で処理した塗布膜がエッチングマスクとして機能したことがわかる。
エッチングガス:SF6+CHF3(1:1)
エッチング深さ:50nm
【0087】
[実施例2〜13]
メロシアニン色素(例示化合物S−39)を下記表1に示す例示化合物に変えた以外、実施例1と同様の処理を行ったところ、実施例1と同様の結果が得られた。
【0088】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、微細な表面加工を容易に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メロシアニン色素骨格を有することを特徴とするフォトレジスト用化合物。
【請求項2】
下記一般式(I)で表される化合物である請求項1に記載のフォトレジスト用化合物。
【化1】

[一般式(I)中、Z1は、X1およびX2とともに5員または6員のヘテロ環を形成する原子団を表し、X1およびX2は、それぞれ独立に炭素原子またはヘテロ原子を表し、但し、X1およびX2の少なくとも一方はヘテロ原子を表し、Y1およびY2は、それぞれ独立に置換基を表し、但し、Y1およびY2の少なくとも一方はシアノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アルキルスルホン基、アリールスルホン基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基またはアミノスルホニル基を表し、Y1とY2は互いに結合して環を形成してもよく、L1およびL2は、それぞれ独立にメチン基を表し、nは0〜2の範囲の整数を表す。]
【請求項3】
熱分解温度が150℃以上500℃以下である請求項1または2に記載のフォトレジスト用化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフォトレジスト用化合物を含むフォトレジスト液。
【請求項5】
前記フォトレジスト用化合物を、前記フォトレジスト液に含まれる全固形分を基準として50質量%以上含有する請求項4に記載のフォトレジスト液。
【請求項6】
請求項4または5に記載のフォトレジスト液を被加工表面に塗布してフォトレジスト膜を形成すること、
上記フォトレジスト膜にパターン露光すること、および、
上記パターン露光後のフォトレジスト膜を有する被加工表面の少なくとも一部にエッチング処理を施し、上記パターン露光において露光された部分に対応する領域における被加工表面の少なくとも一部をエッチングすること
を含む被加工表面のエッチング方法。
【請求項7】
前記パターン露光に使用される光は、λnmの波長を有するレーザー光であり、前記フォトレジスト膜に含まれる前記フォトレジスト用化合物の最大吸収波長λmaxはλ±150nmの範囲にある請求項6に記載の被加工表面のエッチング方法。

【公開番号】特開2009−203349(P2009−203349A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47130(P2008−47130)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】