分周回路及び半導体装置
【課題】回路動作の安定性の向上と、消費電力の低減とを両立できるようにした分周回路及び半導体装置を提供する。
【解決手段】発振回路に近い前段の側にあって高い周波数で動作するFF回路10と、発振回路から遠い後段の側にあって低い周波数で動作するFF回路10と、を備え、前段と後段の各FF回路10は、分周回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すFB−SOI−MOSFET11〜14、21、25をそれぞれ有し、前段の各FF回路10が有するMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を│Vth1│とし、後段の各FF回路10が有するMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を│Vth2│としたとき、│Vth1│<│Vth2│に設定されている。
【解決手段】発振回路に近い前段の側にあって高い周波数で動作するFF回路10と、発振回路から遠い後段の側にあって低い周波数で動作するFF回路10と、を備え、前段と後段の各FF回路10は、分周回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すFB−SOI−MOSFET11〜14、21、25をそれぞれ有し、前段の各FF回路10が有するMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を│Vth1│とし、後段の各FF回路10が有するMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を│Vth2│としたとき、│Vth1│<│Vth2│に設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分周回路及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、SOI構造(Silicon on Insulator)を有するMOSFETが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。ここで、SOI構造とは、絶縁膜上にシリコン薄膜(SOI層)を積層した構造であり、SOI構造を有するMOSFET(以下、SOI−MOSFETともいう。)とは、このSOI層に形成されたMOSFETのことである。SOI−MOSFETは、接合容量の低減と、低閾値電圧による動作電圧の低下とを可能にするという特徴を有し、低消費電力による動作が要求される各種回路を実現する技術として注目されている。このようなSOI−MOSFETには、チャネルに相当する領域として、シリコン層からなるボディ領域が形成されている。このボディ領域に、多数キャリアが存在する中性領域があるか否かによって、SOI−MOSFETの特性は異なったものとなる。ここで、ボディ領域に中性領域が存在するものは部分空乏型(PD:Partially Depleted)と呼ばれ、中性領域が存在しないものは完全空乏型(FD:Fully Depleted)と呼ばれている。
【0003】
完全空乏型のSOI−MOSFET(以下、FD−SOI−MOSFETともいう。)は、バルク型と比べてS値が小さいため、オフリーク電流(漏れ電流)を増加させずに閾値電圧を低く設定することができ、低消費電力化に適している。その反面、SOI層に要求される薄膜化が厳しく、膜厚の均一化が難しいため、閾値電圧がばらつき易いというデメリットがある。これに対して、部分空乏型のSOI−MOSFET(以下、PD−SOI−MOSFETともいう。)は、SOI層の膜厚に関して製造上のマージンを容易に確保することができ、バルク型と同じプロセスを用いて形成することができる、という大きな利点がある。また、完全空乏型と同様、接合容量も低いため、高速動作、低消費電力が可能である。
【0004】
さらに、PD−SOI−MOSFETには、ボディ領域をソース領域に電気的に接続してその電位を固定したもの(いわゆる、ボディタイ型)と、ボディ領域を他の領域と電気的に接続しないでその電位を浮遊させたもの(いわゆる、フローティングボディ型)とがある。ボディタイ型はキャリアの逃げ場があるので空乏層が拡がりやすく、その特性はバルク型に近いものとなる。一方、フローティングボディ型(以下、FB型ともいう。)はキャリアの逃げ場がないので空乏層は拡がりにくく、その特性は完全空乏型に近いものとなる。さらに、FB型は、素子端子数が少なく、占有面積が小さくて済むため、MOSFETの小型化と低コスト化が可能である。
【0005】
また、FB型のPD−SOI−MOSFET(以下、FB−PD−SOI−MOSFETともいう。)を、分周回路を含むデジタル回路に適用することが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。ここで、分周回路とは、周波数を分周する回路のことであり、例えば発振回路で生成した高い周波数のクロック信号を整数で分割し、低い周波数のクロック信号に変換する回路のことである。このような分周回路では、通常、複数個のフリップフロップ回路(以下、FF回路ともいう。)を使用して周波数を低くする。
【0006】
例えば、ウォッチ用ICでは、水晶発振器から32kHzのクロック信号が発生し、分周回路においては、1個のFF回路で周波数を1/2にする。この場合、FF回路を15段に亘って連ねることにより、32kHzのクロック信号から1Hzのクロック信号を得ることができ、1秒の時間刻みを作っている(例えば、特許文献3参照。)。ここで、ウォッチのような携帯機器では、直接交流電源に接続することができないため、ICは、ボタン電池や自然エネルギーで動作する。そのため、長時間の動作を維持するためには、消費電力を極力削減することが重要になる。なお、分周回路では、発振回路に近い前段のFF回路は高い周波数(例えば、32kHz)で動作し、後段のFF回路や、秒針の時間制御を行う制御回路は、低い周波数(例えば、1〜8Hz)で動作する。
【0007】
このような分周回路において、FB−PD−SOI−MOSFETを採用すれば、デザインルール上最小のMOSFETを実現することができ、接合容量の低減を理想的に行うことができる。即ち、FB−PD−SOI−MOSFETは、素子端子が少なく、MOSFET面積が小さく、低コスト製造が可能になり、また、駆動電流のオン/オフ比が大きく、拡散容量が小さい。このため、集積回路の高速化と、低パワー化に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−111005号公報
【特許文献2】特開2002−111006号公報
【特許文献3】特開2001−235567号公報
【特許文献4】特開2001−44440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、FB−PD−SOI−MOSFETは、SOI層の基板浮遊効果のため、その電気的特性に不安定性がある。即ち、PD−SOI−MOSFETのうち、ボディタイ型のId−Vg特性はヒステリシスを示さないが、フローティングボディ型のId−Vg特性はヒステリシスを示す。ここで、Idとはソース領域とドレイン領域との間に流れる電流(即ち、ドレイン電流)のことであり、Vgとはゲート電極に印加される電圧(即ち、ゲート電圧)のことである。Id−Vg特性は、電流−電圧特性、又は、伝達特性とも呼ばれている。また、ヒステリシス(即ち、ヒストリー効果)とは、MOSFETの状態が、現在印加されている電圧だけでなく、過去に印加された電圧に依存して変化する性質のことである。
【0010】
このように、ヒステリシスを示すFB−PD−SOI−MOSFETは、従来、分周回路などのロジック回路に適用されてはいたものの、回路を構成する個々のFB−PD−SOI−MOSFETにおいて、個々のSOI層基盤浮遊状態の違いを考慮した回路設計はなされていなかった。言い方を代えると、FF回路が複数段に亘って連なる分周回路において、全てのFB−PD−SOI−MOSFETは、Pチャネル毎、Nチャネル毎に各々、同一条件で且つ同一パターンに設計されており、FB−PD−SOI−MOSFETの電気的特性の不安定性は、その分周回路内での位置付けに依らず、全て同じであることを前提として、回路設計がなされていた。
【0011】
例えば、分周回路において高い周波数で動作する前段のFF回路でも、低い周波数で動作する後段のFF回路でも、秒針の時間制御を行う制御回路でも、これらに含まれるFB−PD−SOI−MOSFETは、Pチャネル型、Nチャネル型毎に各々、同一条件で且つ同一パターンに設計されていた。
そして、従来の技術では、例えば分周回路に含まれる全てのFB−PD−SOI−MOSFETにおいて、ボディ電位が不安定になること前提に、そのヒステリシス特性が最悪のケースとなるときに合わせて、回路を設計し、駆動電圧と消費電流マージンを大きく確保していた(例えば、特許文献4参照。)。例えば、分周回路のスタンドバイ電流を低減したいときは、最悪のケース、即ち、オフリーク電流が想定し得る範囲で最大となるときのI−V特性を前提に、分周回路を構成する全てのFB−PD−SOI−MOSFETの閾値電圧の絶対値を高めの値に設定していた。
【0012】
しかしながら、この場合、発振開始までの初期値設定時と、その後の発振継続時とでは、個々のSOI層基盤浮遊状態が異なってくることにより、同一条件で且つ同一パターンに形成されたFB−PD−SOI−MOSFETであっても、その電気特性はそれぞれ異なる値を示す。このため、消費電力の低減等を目的に駆動電圧を下げておくと、分周回路の動作マージンが不足し、特に高い周波数で動作するFF回路においては、発振開始時や発振継続時における分周抜け等が発生してしまう可能性があった。一方、低電圧でも動作できるように、分周回路を構成するFB−PD−SOI−MOSFETの閾値電圧の絶対値を低めの値に設定すると、オフリーク電流が増え、分周回路全体の消費電流が増大してしまう可能性があった。
そこで、本発明の幾つかの態様はこのような事情に鑑みてなされたものであって、回路動作の安定性を向上と、消費電力の低減とを両立できるようにした分周回路及び半導体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る分周回路は、発振回路に対して複数個のフリップフロップ回路が複数段に亘って連なる分周回路であって、前記発振回路に近い前段の側にあって高い周波数で動作する第1のフリップフロップ回路と、前記発振回路から遠い後段の側にあって低い周波数で動作する第2のフリップフロップ回路と、を備え、前記第1のフリップフロップ回路は、絶縁層上の半導体層に形成された第1のトランジスターを有し、前記第1のトランジスターは、フローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、前記第2のフリップフロップ回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第2のトランジスターを有し、前記第2のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、前記第1のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth1│とし、前記第2のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth2│としたとき、│Vth1│<│Vth2│に設定されていることを特徴とするものである。
【0014】
ここで、「絶縁層」は例えばBOX層、「半導体層」は例えばSOI層とも呼ばれる。また、「フローティングボディ型の部分空乏型トランジスター」とは、ゲート電極直下の領域の半導体層(即ち、ボディ領域)が電気的に浮遊し、且つゲート電極に閾値電圧が印加されたときに前記ボディ領域が部分的に空乏化する(つまり、空乏層が絶縁層まで達せずに中性領域が残る)トランジスターのことである。また、トランジスターの閾値電圧の設定(調整)は、例えばボディ領域への不純物の導入により行われる。このような不純物の導入は、例えばチャネルドープとも呼ばれる。
【0015】
このような構成であれば、発振回路に近い前段の側にある第1のフリップフロップ回路では、第1のトランジスターの閾値電圧の絶対値│Vth1│が低いため、低電圧でも大きなオン(On)電流を得ることができる。これにより、第1のフリップフロップ回路では、例えばインバーターの動作速度を高める(即ち、遅延時間を減らす)ことができるため、分周抜けなどの動作不良を回避することができ、回路動作の安定性を高めることができる。また、第2のフリップフロップ回路では、発振回路から遠い後段の側にある第2のトランジスターの閾値電圧の絶対値│Vth2│が高いため、オフリーク電流を低減することができる。ここで、第2のフリップフロップ回路では、オフリーク電流だけでなくオン電流も低減されてしまうが、第2のフリップフロップ回路は低い周波数で動作するため、高い周波数で動作する場合と比べて、分周抜けなどの動作不良は生じ難い。従って、回路動作の安定性を向上させると共に、消費電力を低減することが可能である。
【0016】
また、上記の分周回路において、前記第1のトランジスターは、第1のN型トランジスターと、第1のP型トランジスターと、を含み、前記第1のN型トランジスターのゲート長をL1(N)とし、前記第1のN型トランジスターのゲート幅をW1(N)とし、前記第1のN型トランジスターの閾値電圧をVth1(N)と、一方、前記第1のP型トランジスターのゲート長をL1(P)とし、前記第1のP型トランジスターのゲート幅をW1(P)とし、前記第1のP型トランジスターの閾値電圧をVth1(P)としたとき、L1(N)=L1(P)、W1(N)=W1(P)、Vth1(N)=−Vth1(P)に設定されていることを特徴とするものである。
【0017】
また、上記の分周回路において、前記第2のトランジスターは、第2のN型トランジスターと、第2のP型トランジスターと、を含み、前記第2のN型トランジスターのゲート長をL2(N)とし、前記第2のN型トランジスターのゲート幅をW2(N)とし、前記第2のN型トランジスターの閾値電圧をVth2(N)とし、一方、前記第2のP型トランジスターのゲート長をL2(P)とし、前記第2のP型トランジスターのゲート幅をW2(P)とし、前記第2のP型トランジスターの閾値電圧をVth2(P)としたとき、L2(N)=L2(P)、W2(N)=W2(P)、Vth2(N)=−Vth2(P)に設定されていることを特徴とするものである。
【0018】
また、上記の分周回路において、前記第1のフリップフロップ回路又は前記第2のフリップフロップ回路の少なくとも一方は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第3のトランジスター、を有し、前記第3のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常オフのトランジスターであり、前記第3のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth3│としたとき、│Vth2│≦│Vth3│に設定されていることを特徴とするものである。このような構成であれば、第1のフリップフロップ回路又は第2のフリップフロップ回路において、第3のトランジスターの抵抗成分を高めることができる。これにより、フリップフロップ内でのオフリーク電流をさらに低減することができるので、分周回路の消費電力をさらに低減することが可能となる。
【0019】
また、上記の分周回路において、前記第1のフリップフロップ回路又は前記第2のフリップフロップ回路の少なくとも一方は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第4のトランジスター、を有し、前記第4のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常オンのトランジスターであり、前記第4のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth4│としたとき、│Vth4│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とするものである。このような構成であれば、第1のフリップフロップ回路又は第2のフリップフロップ回路において、第4のトランジスターの抵抗成分を低くすることができる。これにより、フリップフロップ内でのオン電流をさらに増やすことができるので、分周回路の動作安定性をさらに高めることが可能となる。
【0020】
本発明の別の態様に係る半導体装置は、上記の分周回路と、前記発振回路と前記分周回路との間に配置され、前記発振回路から出力される振幅電圧を波形整形して前記分周回路に供給する波形整形回路と、を具備し、前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第5のトランジスター、を有し、前記第5のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、前記第5のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth5│としたとき、│Vth5│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とするものである。
【0021】
このような構成であれば、半導体装置の回路動作の安定性を向上させると共に、消費電力を低減することが可能である。また特に、波形整形回路では、第5のトランジスターの閾値電圧の絶対値│Vth5│が低いため、低電圧でも大きなオン電流を得ることができる。これにより、波形整形回路でも、例えばインバーターの動作速度を高める(即ち、遅延時間を減らす)ことができる。
【0022】
また、上記の半導体装置において、前記第5のトランジスターは、第5のN型トランジスターと、第5のP型トランジスターと、を含み、前記第5のN型トランジスターのゲート長をL5(N)とし、前記第5のN型トランジスターのゲート幅をW5(N)とし、前記第5のN型トランジスターの閾値電圧の絶対値をVth5(N)とし、一方、前記第5のP型トランジスターのゲート長をL5(P)とし、前記第5のP型トランジスターのゲート幅をW5(P)とし、前記第5のP型トランジスターの閾値電圧をVth5(P)としたとき、L5(N)=L5(P)、W5(N)=W5(P)、Vth5(N)=−Vth5(P)に設定されていることを特徴とするものである。
【0023】
また、上記の半導体装置において、前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第6のトランジスター、を有し、前記第6のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常オフのトランジスターであり、前記第6のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth6│としたとき、│Vth2│≦│Vth6│に設定されていることを特徴とするものである。
このような構成であれば、波形整形回路において、第6のトランジスターの抵抗成分を高めることができる。これにより、波形整形回路のオフリーク電流をさらに低減することができるので、半導体装置の消費電力をさらに低減することが可能となる。
【0024】
また、上記の半導体装置において、前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第7のトランジスター、を有し、前記第7のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常オンのトランジスターであり、前記第7のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth7│としたとき、│Vth7│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とするものである。このような構成であれば、波形整形回路において、第7のトランジスターの抵抗成分を低くすることができる。これにより、波形形成回路内でのオン電流をさらに増やすことができるので、半導体装置の動作安定性をさらに高めることが可能となる。
なお、上記の分周回路又は半導体装置は、例えば、小型・軽量のバッテリで長時間の動作が要求される時計(ウォッチ)、携帯電話、モバイルパソコン等の携帯型電子機器に適用して極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る分周回路50の構成例を示す図。
【図2】第1実施形態に係るFF回路10の構成例と動作例を示す図。
【図3】FF回路10を論理回路の符号を用いて示した図。
【図4】クロックドインバーター1の構成例とその動作例を示す図。
【図5】インバーター2の構成例を示す図。
【図6】インバーター2の他の構成例を示す図。
【図7】第2実施形態に係る半導体装置100の構成例を示す図。
【図8】発振回路40の構成例を示す図。
【図9】NAND回路90の構成例を示す図。
【図10】第1〜第3実施形態に係る閾値電圧の絶対値の大小関係を示す図。
【図11】ボディ領域66の状態変化を示す図(その1)。
【図12】ボディ領域66の状態変化を示す図(その2)。
【図13】MOSFET21をオン/オフさせたときの実測結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その重複する説明は省略する。
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係るに係る分周回路50の構成例を示す図である。
図1に示すように、分周回路50は、n個のフリップフロップ回路10がn段に亘って連なる構造(即ち、n個のフリップフロップ回路10が直列にn段接続された構造)を有する。フリップフロップ回路10は、例えば、準スタティック型Tフリップフロップ回路である。この分周回路50では、1段目のフリップフロップ回路(FF回路)10の入力端子C1が例えば発振回路に接続され、1段目のFF回路10の出力端子Q1が2段目のFF回路10の入力端子C2に接続されている。同様に、nが3以上の場合は、n−1段目のFF回路10の出力端子Qn−1がn番目のFF回路10の入力端子Cnに接続され、n−1段目のFF回路10の出力端子XQn−1が、n番目のFF回路10の出力端子XQnにそれぞれ接続されている。
【0027】
これにより、例えば発振回路から与えられるクロック信号に同期して、分周回路50の出力端子QnからQn出力信号が出力されると共に、出力端子XQnからXQn出力信号が出力される。ここで、Qn出力信号は、クロック信号であるC1入力信号と比べて周期が2n倍(即ち、周波数が1/2)の信号であり、XQn出力信号はQn出力信号のハイ(High:以下、単にHともいう。)とロウ(Low:以下、単にLともいう。)とを反転させた信号である。
【0028】
図2(a)及び(b)は、本発明の第1実施形態に係るFF回路10の構成例を示す回路図と、その動作例を示すタイミングチャートである。
図2(a)に示すように、このFF回路10は、クロックドインバーター1、3、4、5と、インバーター2、6とを有する。クロックドインバーター1、3、4、5には、それぞれC入力端子又はXC入力端子の一方、又は両方が設けられている。ここで、C入力端子に入力される信号(即ち、C入力信号ともいう。)は、クロック信号であり、一定の間隔でHとLとを繰り返す信号である。また、XC入力端子に入力される信号(即ち、XC入力信号)は、C入力信号のHとLとを反転させた信号である。また、インバーター2、6には、セット端子とリセット端子(図示せず)とがそれぞれ設けられている。
【0029】
クロックドインバーター1、3、4、5と、インバーター2、6との接続関係を説明すると、図2(a)に示すように、クロックドインバーター1の出力端子は、インバーター2の入力端子と、クロックドインバーター3の出力端子とに接続されている。また、インバーター2の出力端子と、クロックドインバーター3の入力端子は、クロックドインバーター4の入力端子に接続されている。さらに、クロックドインバーター4の出力端子は、クロックドインバーター5の出力端子と、インバーター6の入力端子と、クロックドインバーター1の入力端子と、Q出力端子とに接続されている。また、クロックドインバーター5の入力端子とインバーター6の出力端子は、XQ出力端子に接続されている。
【0030】
これにより、C入力信号に同期して、Q出力端子からQ出力信号が出力されると共に、XQ出力端子からXQ出力信号が出力される。図2(b)に示すように、Q出力信号はC入力信号と比べて周期が2倍(即ち、周波数が1/2)の信号であり、XQ出力信号はQ出力信号のHとLとを反転させた信号である。
図3は、図2(a)及び(b)に示したFF回路10を論理回路の符号を用いて示した図である。図3に示すように、このFF回路10は、例えば、クロックドインバーター1、3、4、5と、インバーター2、6とを含む。これらの中で、インバーター2、6は、例えば、1つのAND回路と1つのNOR回路との組み合わせによりそれぞれ構成され、AND回路の入力端子にはリセット(XR)端子が接続され、NOR回路の入力端子にはセット(S)端子が接続されている。本発明において、これらインバーター1〜6を構成している各トランジスターは、フローティングボディ型の部分空乏型のSOI−MOSFET(即ち、FB−PD−SOI−MOSFET)からなる。
【0031】
ところで、図2(a)及び(b)に示したように、分周回路50は、高い周波数のクロック信号を各段のFF回路10で順次分周して、低い周波数の信号に変換する。 このため、発振回路からみて近い側(即ち、前段)のFF回路10に含まれるFB−PD−SOI−MOSFETは高い周波数のクロック信号で動作し、発振回路からみて遠い側(即ち、後段)のFF回路10に含まれるFB−PD−SOI−MOSFETは低い周波数のクロック信号で動作する。
【0032】
例えば、発振回路から32kHzの入力信号が供給され、各FF回路10は入力信号を2分周(つまり、周波数を1/2に変換)して出力する。FF回路10を例えば15段接続すると、32kHzの信号は最終的に1Hzとなる。このとき、1段目のFF回路10を構成するFB−PD−SOI−MOSFETは例えば32KHzの信号で動作し、15段目のFF回路10を構成するFB−PD−SOI−MOSFETは例えば1Hzの信号で動作する。
【0033】
図4(a)及び(b)は、クロックドインバーター1の構成例を示す回路図と、その動作例を示すタイミングチャートである。図4(a)に示すように、クロックドインバーター1は、Nチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFET11、12と、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFET13、14と、を有する。これらの中で、MOSFET11、13はインバーター本体を構成しており、MOSFET11のソースは例えば接地電位(又は、レギュレータ電位Vreg)に接続され、MOSFET13のドレインは例えば電源電位Vddに接続されている。また、これらMOSFET11、13のゲートはそれぞれクロックドインバーター1の入力端子Aに接続されている。さらに、MOSFET12はMOSFET11と出力端子Bとの間に接続され、MOSFET14はMOSFET13と出力端子Bとの間に接続されている。また、MOSFET12のゲートはC入力端子に接続され、MOSFET14のゲートはXC入力端子に接続されている。
【0034】
図4(a)及び(b)に示すように、このクロックドインバーター1では、C入力信号がH(即ち、XC入力信号がL)のときは、MOSFET12、14が共にオンするため、クロックドインバーター1は、その名のとおりインバーター(即ち、入力信号がHであればLを出力し、入力信号がLであればHを出力する素子)として機能する。一方、C入力信号がL(即ち、XC入力信号がH)のときは、MOSFET12、14が共にオフするため、MOSFET11のドレインと出力端子Bとの間が電気的に分離される共に、MOSFET13のソースと出力端子Bとの間が電気的に分離される。従って、出力端子Bの電位はそのままの状態に保持される。
【0035】
ここで、分周回路50の動作時は通常、前段のFF回路10では、MOSFET11〜14が高い周波数で動作(即ち、高い周波数に同期してオン、オフ)する。また、後段のFF回路10では、MOSFET11〜14が低い周波数で動作する。なお、図1に示した他のクロックドインバーター3、4、5も、例えば、図4(a)及び(b)に示したクロックドインバーター1と同じ構成を有する。
【0036】
図5は、インバーター2の構成例を示す回路図である。図5に示すように、このインバーター2は、Nチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFET21〜23と、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFET24〜26と、を有する。これらの中で、MOSFET21、25はインバーター本体を構成しており、MOSFET21のソースは例えば接地電位(又は、Vreg)に接続され、MOSFET25のドレインは例えば電源電位Vddに接続されている。また、これらMOSFET21、25のゲートはそれぞれインバーター2の入力端子Aに接続されている。さらに、MOSFET22はMOSFET21と出力端子Bとの間に接続され、MOSFET24はMOSFET25と出力端子Bとの間に接続されている。また、MOSFET22のゲートはリセット(XR)端子に接続され、MOSFET24のゲートはセット(S)端子に接続されている。さらに、MOSFET23は接地電位(又は、Vreg)と出力端子Bとの間に接続され、MOSFET26は電源電位VddとMOSFET24との間に接続されている(即ち、MOSFET25と並列に接続されている。)。また、MOSFET23のゲートはS入力端子に接続され、MOSFET26のゲートはXR入力端子に接続されている。
【0037】
図5に示すように、このインバーター2では、S入力端子に入力される信号がLで、且つ、XR入力端子に入力される信号がHのときは、MOSFET22、24がオンし、MOSFET23、26がオフするため、インバーター2は、その名のとおりインバーターとして機能する。一方、S入力端子に入力される信号がHで、且つ、XR入力端子に入力される信号がLのときは、MOSFET22、24がオフし、MOSFET23、26がオンするため、出力端子Bの電位は入力端子Aに入力される信号のH、Lに依存せずに、接地電位(又は、Vreg)となる。従って、B電位の初期設定が可能になる。
【0038】
ここで、分周回路50の動作時は通常、前段のFF回路10では、MOSFET21、25が高い周波数で動作(即ち、高い周波数に同期してオン、オフ)し、MOSFET22、24はオンになり、MOSFET23、26はオフになる。後段のFF回路10では、MOSFET21、25が低い周波数で動作し、MOSFET22、24はオンになり、MOSFET23、26はオフになる。
【0039】
即ち、図示しない発振回路がその発振動作を開始した後、この発振回路に接続された分周回路50内のFF回路10では、インバーター2に繋がるセット(S)端子の電位がLに固定され、リセット(XR)端子の電位がHに固定される。これにより、図5に示したNチャネル型のMOSFET23と、Pチャネル型のMOSFET26がオフになり、Nチャネル型のMOSFET22と、Pチャネル型のMOSFET24がオンになる。また、Nチャネル型のMOSFET21と、Pチャネル型のMOSFET25とにより、インバーター本体が構成される。前段のFF回路10では、これらMOSFET21、25が高い周波数でオン/オフを繰り返し、後段のFF回路10では、これらMOSFET21、25が低い周波数でオン/オフを繰り返す。
【0040】
ところで、FB−PD−SOI―MOSFETのゲート電極に、一定の間隔でHとLとが入れ替わる入力信号(即ち、振幅電圧)を繰り返し印加すると、数秒後には、オン電流とオフリーク電流は、その動作周波数に依らず安定した値を取る。つまり、分周回路50を構成する個々のMOSFETのボディ電位にはそれぞれ安定状態がある。
この点について、図5に示したインバーター2を例に説明する。図5において、セット(S)端子の電位がLに固定され、リセット(XR)端子の電位がHに固定されると、MOSFET22、23、24、26の各ボディ領域(中性領域)の電位(即ち、ボディ電位)は、各々のソース領域の電位(以下、ソース電位ともいう。)で安定するようになる(例えば、後述の図11(b)の過程I、IIを参照。)。即ち、Nチャネル型のMOSFET22、23ボディ電位はLに固定され、Pチャネル型のMOSFET24、26のボディ電位はHに固定され、それぞれ安定する。
【0041】
一方、インバーターを構成するNチャネル型のMOSFET21と、Pチャネル型のMOSFET25のそれぞれのボディ電位は、入力端子Aに印加される入力信号(振幅電圧)の振幅に伴い振動はするものの、Nチャネル型のMOSFET21のボディ電位は、ソース電位(L)とソース電位から閾値電圧分だけ低い電位との間で安定振動し、Pチャネル型のMOSFET25のボディ電位はソース電位(H)とソース電位から閾値電圧分だけ高い電位との間で安定して振動する(例えば、後述の図12(b)の過程III、IVを参照)。即ち、Nチャネル型のMOSFET21のボディ電位は、そのソース電位よりも低い領域で固定電位差間を安定して振動し、Pチャネル型のMOSFET25のボディ電位は、そのソース電位よりも高い領域で固定電位差間を安定して振動する。
【0042】
このように、同じチャネル型のMOSFETであっても、MOSFET21のボディ電位は振動し、MOSFET22、23のボディ電位は固定されるため、MOSFET21と、MOSFET22、23とでは異なる電気的特性を示す。同様に、Pチャネル型でも、MOSFET25のボディ電位は振動し、MOSFET24、26のボディ電位は固定されるため、MOSFET25と、MOSFET24、26とでは異なる電気的特性を示す。
【0043】
例えば、後述の図13(a)及び(b)に示すように、Nチャネル型のMOSFET21では、ゲート電極の電位(以下、ゲート電位ともいう。)が振幅してオン/オフ駆動を開始すると、オン電流/オフリーク電流は徐々に小さくなるが、数秒後には、オン電流/オフリーク電流がそれぞれ安定した値となり、安定した伝達特性が示されるようになる。一方、Nチャネル型のMOSFET22では、ゲート電位が固定されているため、ボディ電位がソース電位と一致した状態で安定する。このとき、ボディ電位の違いから、MOSFET22の閾値電圧は、MOSFET21の閾値電圧よりも見かけ上小さくなり、MOSFET22のオン電流値は、MOSFET21のオン電流値と比べて増加する。同様に、Pチャネル型でも、ボディ電位の違いから、MOSFET24の閾値電圧の絶対値は、MOSFET25の閾値電圧の絶対値よりも見かけ上小さくなり、MOSFET24のオン電流値は、MOSFET25のオン電流値と比べて増加する。
【0044】
そこで、本発明では、このようなボディ電位の安定状態の違いを考慮すると共に、分周回路50における各MOSFETの位置付けを考慮して、分周回路50に含まれる各MOSFETの閾値電圧を最適化した回路設計を行う。
具体的には、発振回路に近い前段(少なくとも1段目を含む。)のFF回路10に含まれるMOSFETのうち、高い周波数でオン、オフを繰り返すMOSFET11〜14、21、25を閾値電圧の絶対値が低いFB−PD−SOI−MOSFETで構成する。また、後段のFF回路10に含まれるMOSFETのうち、低い周波数でオン、オフを繰り返すMOSFET11〜14、21、25を閾値電圧の絶対値が高いFB−PD−SOI−MOSFETで構成する。即ち、前段のFF回路10に含まれるMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を│Vth1│とし、後段のFF回路10に含まれるMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を│Vth2│としたとき、│Vth1│<│Vth2│に設定する。│Vth1│と│Vth2│の差は、例えば0.05〜0.1V程度にする。
【0045】
即ち、高い周波数で動作する前段のFF回路10に含まれるNチャネル型のMOSFET11、12、21の閾値電圧をVth1(N)とし、前段のFF回路10に含まれるPチャネル型のMOSFET13、14、26の閾値電圧をVth1(P)とする。また、低い周波数で動作する後段のFF回路10に含まれるNチャネル型のMOSFET11、12、21の閾値電圧をVth2(N)とし、後段のFF回路10に含まれるPチャネル型のMOSFET13、14、26の閾値電圧をVth2(P)とする。このとき、Vth1(N)<Vth2(N)に設定すると共に、│Vth1(P)│<│Vth2(P)│に設定する。これにより、前段のFF回路10ではオン電流を増やすことができ、後段のFF回路10ではオフリーク電流を減らすことができる。
【0046】
また、初期値セット・リセットの役割を担い、通常オフの固定ゲート電圧を有するMOSFET23、26の閾値電圧の絶対値を、前段及び後段のFF回路10において(つまり、分周回路50に含まれる全てのFF回路10において)全て同じ値に揃え、これを│Vth3│とする。このとき、│Vth2│≦│Vth3│に設定することが好ましい。これにより、前段及び後段のFF回路10において、通常オフであるMOSFET23、26の抵抗成分を高めることができ、オフリーク電流をさらに低減することができる。同様に、初期値セット・リセットの役割をし、通常オンの固定ゲート電圧を有するMOSFET22、24の閾値電圧の絶対値を、前段及び後段のFF回路10において全て同じ値に揃え、これを│Vth4│とする。このとき、│Vth4│≦│Vth1│に設定することが好ましい。これにより、前段及び後段のFF回路10において、通常オンであるMOSFET22、24の抵抗成分を低くすることができ、オン電流をさらに増大させることができる。
【0047】
また、前段及び後段のFF回路10において、MOSFET23、26の閾値電圧の絶対値が│Vth3│に揃えられ、MOSFET22、24の閾値電圧の絶対値が│Vth4│に揃えられることにより、前段のFF回路10と後段のFF回路10とを、同じ条件(例えば、同じ電圧値)でセット・リセットすることができる。
また、本発明では上記の設定に加えて、各段のFF回路10において、同一の役割を担うNチャネル型のMOSFETと、Pチャネル型のMOSFETの各閾値電圧の絶対値を、同一の値に設定することが好ましい。例えば、Vth1(N)=−Vth1(P)に設定することが好ましく、また、Vth2(N)=−Vth2(P)に設定することが好ましい。これにより、各FF回路10において、Nチャネル型のMOSFET21と、Pチャネル型のMOSFET25とを同じ条件(例えば、同じ電圧値)で、同じタイミングで、オン、オフさせることができる。
【0048】
さらに、本発明では上記の設定に加えて、各段のFF回路10において、同一の役割を担うNチャネル型のMOSFETと、Pチャネル型のMOSFETの各サイズを、同一の値に設定することが好ましい。例えば、高い周波数で動作する前段のFF回路10に含まれるNチャネル型のMOSFET21のゲート長をL1(N)、ゲート幅をW1(N)とし、Pチャネル型のMOSFET13、14、26のゲート長をL1(P)、ゲート幅をW1(P)としたとき、L1(N)=L1(P)、W1(N)=W1(P)であることが好ましい。同様に、低い周波数で動作する後段のFF回路10に含まれるNチャネル型のMOSFET21のゲート長をL2(N)、ゲート幅をW2(N)とし、Pチャネル型のMOSFET26のゲート長をL2(P)、ゲート幅をW2(P)としたとき、L2(N)=L2(P)で、W2(N)=W2(P)であることが好ましい。これにより、閾値電圧あるいは閾値電圧以下のサブスレショルド電流を用いる回路において、PチャネルとNチャネルの各トランジスターのOn/Off電流のバランスが良くなる。なぜなら、サブスレショルド領域のスイングS値は、PチャネルとNチャネルの各トランジスターがともに理想値に近い同程度の値を取り、PチャネルとNチャネルの各トランジスターのOn/Off電流比がほぼ等しくなるからである。また、PチャネルとNチャネルの各トランジスターの寸法を、同じ最小寸法に取れば、回路を縮小化・素子を高集積化することができる。
【0049】
このように、本発明の第1実施形態によれば、前段のFF回路10のMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値が、後段のFF回路10のMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値よりも低い値に設定されている。これにより、前段のFF回路10では低電圧でも大きなオン電流を得ることができ、例えばインバーター1〜6の動作速度を高める(即ち、遅延時間を減らす)ことができる。
【0050】
このため、高周波で動作する前段のFF回路10において、分周抜けなどの動作不良を回避することができ、回路動作の安定性を高めることができる。また、前段のFF回路10では、オン電流の増大とトレードオフで、オフリーク電流が増大してしまうものの、例えばウォッチ等においては、発振回路に接続される1〜5段目のFF回路10のMOSFET数は数個〜数十個と少ない。それゆえ、前段のFF回路10に含まれるMOSFET11〜14、21〜26として、例えばオフリーク電流が0.01〜0.1nAのFB−PD−SOI−MOSFETを使用したとしても、充放電電流以外の静止電流を1〜10nA以内に抑制することができる。従って、消費電流をほとんど増加させること無く、前段のFF回路10を安定動作させることが可能である。
【0051】
一方、後段のFF回路10では、MOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値が(前段と比べて)高い値に設定されるため、オフリーク電流を例えば0.001〜0.01nA以下に抑えることができる。このため、例えば、後段のFF回路10が十数段に亘って連なる場合や、後段のFF回路10の後に制御回路が連なる場合など、数千以上の多数のMOSFETからなる回路においてさえ、充放電電流以外の静止電流を1〜10nA以内に抑制することができる。また、後段のFF回路10では、オフリーク電流の抑制とトレードオフで、オン電流が低くなってしまうが、後段は動作周波数が低いため、FF回路10の動作不良を回避することができる。これにより、例えば、0.5V以下の超低電圧駆動が可能になる。
【0052】
この第1実施形態では、前段のFF回路10に含まれMOSFET11〜14、21、25が本発明の「第1のトランジスター」に対応し、後段のFF回路10に含まれMOSFET11〜14、21、25が本発明の「第2のトランジスター」に対応している。また、MOSFET23、26が本発明の「第3のトランジスター」に対応し、MOSFET22、24が本発明の「第4のトランジスター」に対応している。また、前段のFF回路10が本発明の「第1のフリップフロップ回路」に対応し、後段のFF回路10が本発明の「第2のフリップフロップ回路」に対応している。
【0053】
なお、この第1実施形態では、インバーター2、6がセット(S)端子とリセット(XR)端子の両方を有する場合について説明したが、本発明はこれに限られることはない。例えば、図6に示すように、インバーター2は、FB−PD−SOI−MOSFET21、22、25、26と、リセット(XR)端子と、入力端子A、Bのみを有する構成であっても良い。即ち、セット(S)端子は無くても良い。インバーター6についても同様である。このような構成であっても、前段のFF回路10に含まれるMOSFET21、25の閾値電圧の絶対値を、後段のFF回路10に含まれるMOSFET21、25の閾値電圧の絶対値よりも低くすることにより、上記の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
(2)第2実施形態
図7は、本発明の第2実施形態に係る半導体装置100の構成例を示すブロック図である。図7に示す半導体装置100は、例えばウォッチに内蔵される半導体装置100であり、発振回路40と、分周回路50と、制御回路60と、検出回路70と、電源回路80と、を有する。発振回路40と、電源回路80と、検出回路70はアナログ回路であり、分周回路50と、制御回路60はデジタル回路である。
【0055】
図8は、発振回路40の構成例を示す回路図である。図8に示すように、この発振回路40は、発振インバーター41と、水晶発振子42と、抵抗器43と、キャパシタ44〜46と、を含む。この発振回路40では、水晶発振子42とキャパシタ44、45とにより共振回路が構成されており、この共振回路に発振インバーター41が接続されることにより、特定の周波数(例えば、32kHz)を発振するようになっている。また、この発振回路40の出力端子には、波形整形用のNAND回路90が接続されている。
【0056】
図9は、NAND回路90の構成例を示す回路図である。
図9に示すように、このNAND回路90は、例えば、Nチャネル型のMOSFET91、92と、Pチャネル型のMOSFET93、94と、を有する。例えば、MOSFET91のソースは例えば接地電位(又は、Vreg)に接続され、MOSFET91のドレインはMOSFET92のソースに接続されている。また、MOSFET92〜94の各ドレインは出力端子Yに接続されている。さらに、MOSFET93、94の各ソースは電源電位VDDに接続されている。また、MOSFET91、94の各ゲートは入力端子Aに接続され、MOSFET92、93の各ゲートは入力端子Bに接続されている。
【0057】
このNAND回路90では、例えば入力端子Aが図8に示した発振回路40の出力端子に接続されており、入力端子Aに特定の周波数(例えば、32kHz)の振幅電圧が印加されるようになっている。これにより、入力端子Aにゲートが接続されたMOSFET91、94は、高い周波数で動作(即ち、高い周波数に同期してオン、オフ)する。また、入力端子Bには、例えば信号TとしてHが印加され、MOSFET92がオンし、MOSFET93がオフする。つまり、MOSFET92が通常オンであり、MOSFET93が通常オフである。
【0058】
ところで、この第2実施形態では、NAND回路90に含まれる全てのMOSFET91〜94は、FB−PD−SOI−MOSFETからなる。そして、高い周波数で動作するMOSFET91、94の閾値電圧の絶対値を│Vth5│とし、通常オフのMOSFET93の閾値電圧の絶対値を│Vth6│とし、通常オンのMOSFET92の閾値電圧の絶対値を│Vth7│としたとき、各値を例えば、│Vth5│≦│Vth1│、│Vth6│=│Vth3│、│Vth7│=│Vth4│に設定する。これにより、NAND回路90において、オン電流を増やすことができ、オフリーク電流を減らすことができる。
【0059】
また、本発明では上記の設定に加えて、高い周波数で動作するNチャネル型のMOSFET91の閾値電圧と、Pチャネル型のMOSFET94の閾値電圧の絶対値とを、同一の値に設定することが好ましい。即ち、Nチャネル型のMOSFET91の閾値電圧をVth5(N)とし、Pチャネル型のMOSFET94の閾値電圧をVth5(P)としたとき、Vth5(N)=−Vth5(P)に設定することが好ましい。これにより、Nチャネル型のMOSFET91と、Pチャネル型のMOSFET94とを同じ条件(例えば、同じ電圧値)で、同じタイミングで、オン、オフさせることができる。
【0060】
さらに、本発明では上記の設定に加えて、MOSFET91、94の各サイズを、同一の値に設定することが好ましい。即ち、Nチャネル型のMOSFET91のゲート長をL5(N)、ゲート幅をW5(N)とし、Pチャネル型のMOSFET94のゲート長をL5(P)、ゲート幅をW5(P)としたとき、L1(N)=L5(P)、W1(N)=W1(P)であることが好ましい。これにより、閾値電圧あるいは閾値電圧以下のサブスレショルド電流を用いる回路において、PチャネルとNチャネルの各トランジスターのOn/Off電流のバランスが良くなる。なぜなら、サブスレショルド領域のスイングS値は、PチャネルとNチャネルの各トランジスターがともに理想値に近い同程度の値を取り、PチャネルとNチャネルの各トランジスターのOn/Off電流比がほぼ等しくなるからである。また、PチャネルとNチャネルの各トランジスターの寸法を、同じ最小寸法に取れば、回路を縮小化・素子を高集積化することができる。
【0061】
このように、本発明の第2実施形態によれば、発振回路40に最も近いNAND回路90では、高い周波数で動作するMOSFET91、94の閾値電圧の絶対値が、前段のFF回路10に含まれるMOSFET11〜14、21、25と少なくとも同じ、又はそれよりも低い値に設定されるため、低電圧でも大きなオン電流を得ることができ、MOSFET91、94からなるインバーターの動作速度を高める(即ち、遅延時間を減らす)ことができる。これにより、半導体装置において、分周抜けなどの動作不良を回避することができ、回路動作の安定性を高めることができる。また、低スタンドバイ電流と例えば0.5V以下の超低電圧駆動を両立することができる。
この第2実施形態では、MOSFET91、94が本発明の「第5のトランジスター」に対応し、MOSFET93が本発明の「第6のトランジスター」に対応し、MOSFET92が本発明の「第7のトランジスター」に対応している。また、NAND回路90が本発明の「波形整形回路」に対応している。その他の対応関係は、第1実施形態と同じである。
【0062】
(3)第3実施形態
上記の第1、第2実施形態では、例えば、図10(a)に示すように、分周回路50を前段と後段とに区分し、分周回路50が動作している通常時に、オン、オフを繰り返すFB−SOI−MOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を、NAND回路90と、前段のFF回路10と、後段のFF回路10とで差別化することについて説明した。しかしながら、本発明はこれに限られることはない。
【0063】
例えば図10(b)に示すように、分周回路50を前段と、中段と、後段と、に区分し、この区分に従って閾値電圧の絶対値を差別化しても良い。ここで、中段とは、発振回路40からの距離が、前段より遠く且つ後段よりも近い位置のことであり、前段と後段の間の位置のことである。中断のFF回路10において、分周回路50が動作している通常時に、オン、オフを繰り返すMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を│Vth8│としたとき、この値を│Vth1│<│Vth8│<│Vth2│に設定する。
或いは、分周回路50を前段と、中段と、後段の3段ではなく、4段又はそれ以上の段数にさらに細かく区分し、発振回路40から離れるほどMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値が高くなるように設定しても良い。これにより、分周回路50における回路動作の安定性と、省電力性をより細かに調整することができる。
【0064】
(4)FB−PD−SOI−MOSFETについて
次に、FB−PD−SOI−MOSFETの電気的特性について説明する。
FB−PD−SOI−MOSFETでは、例えば交流電圧又はパルス電圧のように、一定の間隔でHとLとが入れ替わる入力信号(即ち、振幅電圧)が印加されるとき、その起動初期の数秒間、閾値電圧の絶対値が低く、時間の経過と共に、閾値電圧の絶対値が高くなる傾向がある。このような閾値電圧の変動は、起動初期の数秒間は、ボディ領域のうちの中性領域とソース領域との間に順方向のバイアスが働き、ソース領域の多数キャリアが中性領域に移動して、ボディ中性領域の多数キャリアを消滅させるため、ボディ領域全体の電位が不安定となることに起因している。この点について、例えば、Nチャネル型のMOSFET21を例に用いて説明する。
【0065】
図11(a)〜図12(b)はボディ領域66の状態変化を示す図であり、これらのうちの各図(a)は空乏層66aと中性領域66bの広がり具合を示す概念図であり、各図(b)はボディ領域66をソース端表面から深さ方向に切断したときの切断面におけるポテンシャルエネルギー分布を深さ方向に沿って示した図である。図11(b)及び図12(b)において、横軸はポテンシャルエネルギーを示し、縦軸はボディ領域66の表面からの深さを示している。φ0は電圧が加わっていない初期のMOSFET21の表面ポテンシャルである。φfはボディ領域のフェルミレベルEfの関数で、q・Φf=Ef−Eiである。ここでEiはイントリンジックシリコンフェルミレベル、qは電子の電荷量である。2φfは閾値電圧に相当する。
【0066】
まず、図11(a)において、ゲート電極63にゲート電圧Vgを印加すると共に、ソース領域64とドレイン領域65との間にドレイン電圧Vdを印加する。ゲート電圧Vgとドレイン電圧Vdは共に、直流電圧(即ち、周期的に方向が変化しない電圧)である。一例として、ソース領域64とドレイン領域65との間にドレイン電圧Vd=0.4[V]を印加し、この状態でゲート電圧Vgを例えば0[V]から0.4[V]にする。なお、ドレイン電圧Vdは、図5に示した電源電位Vddと、接地電位(又は、Vreg)の差に相当する。また、閾値電圧がゲート印加電圧0.4Vより小さい場合について説明する。
【0067】
すると、図11(a)に示すように、ボディ領域66において空乏層66aは徐々に大きく下方へ広がり、その分だけ中性領域66bは(破線の領域から実線の領域まで)小さくなる。これを図11(b)に示す。Vgを0Vから0.4Vに上げると、空乏層はすぐには広がらないため、ボディ領域66のポテンシャルエネルギー(即ち、電位)も全体的に上昇する(過程I)。
【0068】
また、この過程Iでは、ボディ領域66の電位はソース領域64の電位よりも高い。このため、図11(a)及び(b)において、P型であるボディ領域66とN型であるソース領域64との間には順方向のバイアスが働き、ソース領域64から中性領域66bに電子eが流れ込む。その結果、中性領域66bにおいて多数キャリアであるホールhと電子eとが再結合してホールhが減少し、中性領域66bが小さくなる(即ち、空乏層66aが拡がる)ため、中性領域66bの電位が徐々に下がる(過程II)。この中性領域66bへの電子eの流れ込みは、中性領域66bの電位がソース領域64の電位とほぼ同じ大きさになるまで続く。中性領域66bの電位とソース領域64の電位がほぼ同じ大きさになると、順方向のバイアスが働かなくなるので電子eの流れ込みが止まり、中性領域66bの縮小も止まる。つまり、ソース領域64とボディ領域(空乏層66aと中性領域66b)とが平衡状態となり、ボディ領域66の電位(多数キャリア数)が安定する。起動初期の数秒間において、Nチャネル型のMOSFET21がオンしている間は、過程Iと過程IIとが並行して進む。
【0069】
そして、中性領域66bの多数キャリア数が安定すると、図12(a)及び(b)に示すように、MOSFET21のオン/オフ駆動に合わせてボディ領域66の電位は全体的にシフトするようになる(過程III、IV)。これらの過程III、IVでは、中性領域66bの電位はソース領域64の電位よりも低くなり、ボディ領域66とソース領域64との間には逆方向のバイアスが働くので、ソース領域64と中性領域66bとの間で電荷の移動は生じにくい。そのため、中性領域66bの大きさ(すなわち、多数キャリア数)はほとんど変化しない。空乏層66aと中性領域66bとが平衡状態を維持したまま、MOSFET21のオン/オフ駆動に合わせて、ボディ領域66の電位は全体的に下降、上昇を繰り返す。
【0070】
図13(a)及び(b)は、MOSFET21を連続してオン/オフさせたときのオン電流とオフリーク電流を実際に測定した結果を示す図である。図13(a)の横軸は時間を示し、縦軸はオン電流を示す。また、図13(b)の横軸は時間を示し、縦軸はオフリーク電流を示す。ここでは、ゲート電極63とドレイン領域65とを電気的に接続(即ち、短絡)すると共に、ゲート・ソース間に電圧Vgs=0.4Vを500msec間隔で印加した。
【0071】
図13(a)に示すように、電圧Vgsのパルスの印加を開始すると、オン電流はパルスに合わせて徐々に減少していき、約10秒が経過した後はその値が安定したものとなった。また、オン電流に見られるヒステリシスも約10秒が経過した後はほとんど見られなくなった。同様に、図13(b)に示すように、電圧Vgsのパルスの印加を開始すると、オフリーク電流はパルスに合わせて徐々に減少していき、約10秒が経過した後はその値が安定したものとなった。つまり、MOSFET21のオン/オフ駆動を開始してから約10秒が経過すると、ヒステリシスが無くなり、そのオン/オフ比はFD−SOI−MOSFETの理想特性に近いものとなった。
【0072】
このように、Nチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFET21は、起動時の方が安定時よりも、同じゲート電圧Vgでより大きなドレイン電流(即ち、オン電流、オフリーク電流)Idを流すことができ、より大きな電力を供給することができる。同時にリーク電流が増加する。その理由は、起動時においては、中性領域66bの電位はソース領域64の電位よりも高く、見かけ上の閾値電圧の絶対値が小さくなるからである。また、安定時においては、中性領域66bの電位はソース領域64の電位よりも小さくなり、見かけ上の閾値電圧の絶対値は大きくなる。また、ソースとボディ間では逆方向のバイアスが加わり、ソース領域64から中性領域66bに電子eが流れ込みにくくなり、中性領域66b及び空乏層66aの大きさがほとんど変化しなくなる。このため、ゲート電位は、空乏層を広げることなく、ソースとチャネル間の電位障壁にほとんど100%作用し、急峻なサブスレショルド電流特性を示す。
【0073】
また、このような特性は、Nチャネル型だけでなく、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFETでも見られる。即ち、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFETは、起動時の方が安定時よりも、同じゲート電圧Vgでより大きなドレイン電流(即ち、オン電流、オフリーク電流)Idを流すことができ、より大きな電力を供給することができる。同時にリーク電流が増加する。図示しないが、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFETの起動時は、中性領域の電位はソース領域の電位よりも低く、順方向のバイアスによって、ソース領域から中性領域にホールhが流れ込んで中性領域が小さくなる。また、安定時においては、中性領域の電位はソース領域の電位よりも大きくなり、逆方向のバイアスによって、ソース領域から中性領域にホールhが流れ込みにくくなっている。これにより、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFETにおいては、起動時の閾値電圧の絶対値は、安定時の閾値電圧の絶対値よりも低い値となっている。
【0074】
なお、FB−PD−SOI−MOSFETでは、ゲート電圧Vgの絶対値、ドレイン電圧Vdの絶対値、又は、ゲート・ソース間電圧Vgsの絶対値、がそれぞれ0.8[V]以下、より望ましくは0.6[V]以下に設定されていることが好ましい。即ち、上記のMOSFET11〜14、21〜26では、その駆動電圧の絶対値が0.8[V]以下、より望ましくは0.6[V]以下であることが好ましい。これにより、ボディ領域において、インパクトイオナイゼーションによるペアクリエーション(即ち、電子−ホール対の生成)をそれぞれ抑制することができ、各ボディ領域の電位が意図しない方向にそれぞれ変動してしまうことを防ぐことができるので、分周回路の特性の安定化に寄与することができる。なお、駆動電圧の絶対値が0.8[V]を超えると、ボディ領域においてペアクリエーションが発生しやすくなる。
【0075】
なお、フローティングボディ型のPD−SOI−MOSFETの閾値電圧は、その測定方法に依存して変化する。このため、閾値電圧の大小を比較する際は、その測定方法を定義する必要がある。つまり、Nチャネル型、Pチャネル型毎に、その測定方法を一通りに決めておく必要がある。例えば、Nチャネル型のMOSFETの閾値電圧は、ゲート・ソース間に使用(駆動)電圧以上の電圧を印加した後で、この印加電圧を徐々に減らして電流−電圧(DC−I−V)特性を評価することにより決定することができる。例えば、ゲート電圧Vg=0.4[V]を数〜十数秒間保持した後でゲート電圧を0.4[V]から0[V]まで下降させ、この下降の際に測定される伝達特性に基づいて、Nチャネル型のMOSFETの閾値電圧を決定することができる。この時、ソースとドレイン間の電圧は、インパクトイオナイゼーションが発生しない低電圧に設定する。また、Pチャネル型のMOSFETの閾値電圧は、ゲート・ソース間に使用(駆動)電圧の絶対値以上の電圧を印加した後で、この印加電圧の絶対値を徐々に減らして電流−電圧(DC−I−V)特性を評価することにより決定することができる。例えば、ゲート電圧Vg=−0.4[V]を数〜十数秒間保持した後でゲート電圧を−0.4[V]から0[V]まで上昇させ、この上昇の際に測定される伝達特性に基づいて、Pチャネル型のMOSFETの閾値電圧を決定することができる。
【符号の説明】
【0076】
1、3、4、5 クロックドインバーター、2、6 インバーター、10 準スタティック型Tフリップフロップ回路(FF回路)、11〜14、21〜26、91〜94 FB−PD−SOI−MOSFET、40 発振回路、41 発振インバーター、42 水晶発振子、43 抵抗器、44〜46 キャパシタ、50 分周回路、60 制御回路、63 ゲート電極、64 ソース領域、65 ドレイン領域、66 ボディ領域、66a 空乏層、66b 中性領域、70 検出回路、80 電源回路、90 NAND回路、100 分周回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、分周回路及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、SOI構造(Silicon on Insulator)を有するMOSFETが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。ここで、SOI構造とは、絶縁膜上にシリコン薄膜(SOI層)を積層した構造であり、SOI構造を有するMOSFET(以下、SOI−MOSFETともいう。)とは、このSOI層に形成されたMOSFETのことである。SOI−MOSFETは、接合容量の低減と、低閾値電圧による動作電圧の低下とを可能にするという特徴を有し、低消費電力による動作が要求される各種回路を実現する技術として注目されている。このようなSOI−MOSFETには、チャネルに相当する領域として、シリコン層からなるボディ領域が形成されている。このボディ領域に、多数キャリアが存在する中性領域があるか否かによって、SOI−MOSFETの特性は異なったものとなる。ここで、ボディ領域に中性領域が存在するものは部分空乏型(PD:Partially Depleted)と呼ばれ、中性領域が存在しないものは完全空乏型(FD:Fully Depleted)と呼ばれている。
【0003】
完全空乏型のSOI−MOSFET(以下、FD−SOI−MOSFETともいう。)は、バルク型と比べてS値が小さいため、オフリーク電流(漏れ電流)を増加させずに閾値電圧を低く設定することができ、低消費電力化に適している。その反面、SOI層に要求される薄膜化が厳しく、膜厚の均一化が難しいため、閾値電圧がばらつき易いというデメリットがある。これに対して、部分空乏型のSOI−MOSFET(以下、PD−SOI−MOSFETともいう。)は、SOI層の膜厚に関して製造上のマージンを容易に確保することができ、バルク型と同じプロセスを用いて形成することができる、という大きな利点がある。また、完全空乏型と同様、接合容量も低いため、高速動作、低消費電力が可能である。
【0004】
さらに、PD−SOI−MOSFETには、ボディ領域をソース領域に電気的に接続してその電位を固定したもの(いわゆる、ボディタイ型)と、ボディ領域を他の領域と電気的に接続しないでその電位を浮遊させたもの(いわゆる、フローティングボディ型)とがある。ボディタイ型はキャリアの逃げ場があるので空乏層が拡がりやすく、その特性はバルク型に近いものとなる。一方、フローティングボディ型(以下、FB型ともいう。)はキャリアの逃げ場がないので空乏層は拡がりにくく、その特性は完全空乏型に近いものとなる。さらに、FB型は、素子端子数が少なく、占有面積が小さくて済むため、MOSFETの小型化と低コスト化が可能である。
【0005】
また、FB型のPD−SOI−MOSFET(以下、FB−PD−SOI−MOSFETともいう。)を、分周回路を含むデジタル回路に適用することが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。ここで、分周回路とは、周波数を分周する回路のことであり、例えば発振回路で生成した高い周波数のクロック信号を整数で分割し、低い周波数のクロック信号に変換する回路のことである。このような分周回路では、通常、複数個のフリップフロップ回路(以下、FF回路ともいう。)を使用して周波数を低くする。
【0006】
例えば、ウォッチ用ICでは、水晶発振器から32kHzのクロック信号が発生し、分周回路においては、1個のFF回路で周波数を1/2にする。この場合、FF回路を15段に亘って連ねることにより、32kHzのクロック信号から1Hzのクロック信号を得ることができ、1秒の時間刻みを作っている(例えば、特許文献3参照。)。ここで、ウォッチのような携帯機器では、直接交流電源に接続することができないため、ICは、ボタン電池や自然エネルギーで動作する。そのため、長時間の動作を維持するためには、消費電力を極力削減することが重要になる。なお、分周回路では、発振回路に近い前段のFF回路は高い周波数(例えば、32kHz)で動作し、後段のFF回路や、秒針の時間制御を行う制御回路は、低い周波数(例えば、1〜8Hz)で動作する。
【0007】
このような分周回路において、FB−PD−SOI−MOSFETを採用すれば、デザインルール上最小のMOSFETを実現することができ、接合容量の低減を理想的に行うことができる。即ち、FB−PD−SOI−MOSFETは、素子端子が少なく、MOSFET面積が小さく、低コスト製造が可能になり、また、駆動電流のオン/オフ比が大きく、拡散容量が小さい。このため、集積回路の高速化と、低パワー化に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−111005号公報
【特許文献2】特開2002−111006号公報
【特許文献3】特開2001−235567号公報
【特許文献4】特開2001−44440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、FB−PD−SOI−MOSFETは、SOI層の基板浮遊効果のため、その電気的特性に不安定性がある。即ち、PD−SOI−MOSFETのうち、ボディタイ型のId−Vg特性はヒステリシスを示さないが、フローティングボディ型のId−Vg特性はヒステリシスを示す。ここで、Idとはソース領域とドレイン領域との間に流れる電流(即ち、ドレイン電流)のことであり、Vgとはゲート電極に印加される電圧(即ち、ゲート電圧)のことである。Id−Vg特性は、電流−電圧特性、又は、伝達特性とも呼ばれている。また、ヒステリシス(即ち、ヒストリー効果)とは、MOSFETの状態が、現在印加されている電圧だけでなく、過去に印加された電圧に依存して変化する性質のことである。
【0010】
このように、ヒステリシスを示すFB−PD−SOI−MOSFETは、従来、分周回路などのロジック回路に適用されてはいたものの、回路を構成する個々のFB−PD−SOI−MOSFETにおいて、個々のSOI層基盤浮遊状態の違いを考慮した回路設計はなされていなかった。言い方を代えると、FF回路が複数段に亘って連なる分周回路において、全てのFB−PD−SOI−MOSFETは、Pチャネル毎、Nチャネル毎に各々、同一条件で且つ同一パターンに設計されており、FB−PD−SOI−MOSFETの電気的特性の不安定性は、その分周回路内での位置付けに依らず、全て同じであることを前提として、回路設計がなされていた。
【0011】
例えば、分周回路において高い周波数で動作する前段のFF回路でも、低い周波数で動作する後段のFF回路でも、秒針の時間制御を行う制御回路でも、これらに含まれるFB−PD−SOI−MOSFETは、Pチャネル型、Nチャネル型毎に各々、同一条件で且つ同一パターンに設計されていた。
そして、従来の技術では、例えば分周回路に含まれる全てのFB−PD−SOI−MOSFETにおいて、ボディ電位が不安定になること前提に、そのヒステリシス特性が最悪のケースとなるときに合わせて、回路を設計し、駆動電圧と消費電流マージンを大きく確保していた(例えば、特許文献4参照。)。例えば、分周回路のスタンドバイ電流を低減したいときは、最悪のケース、即ち、オフリーク電流が想定し得る範囲で最大となるときのI−V特性を前提に、分周回路を構成する全てのFB−PD−SOI−MOSFETの閾値電圧の絶対値を高めの値に設定していた。
【0012】
しかしながら、この場合、発振開始までの初期値設定時と、その後の発振継続時とでは、個々のSOI層基盤浮遊状態が異なってくることにより、同一条件で且つ同一パターンに形成されたFB−PD−SOI−MOSFETであっても、その電気特性はそれぞれ異なる値を示す。このため、消費電力の低減等を目的に駆動電圧を下げておくと、分周回路の動作マージンが不足し、特に高い周波数で動作するFF回路においては、発振開始時や発振継続時における分周抜け等が発生してしまう可能性があった。一方、低電圧でも動作できるように、分周回路を構成するFB−PD−SOI−MOSFETの閾値電圧の絶対値を低めの値に設定すると、オフリーク電流が増え、分周回路全体の消費電流が増大してしまう可能性があった。
そこで、本発明の幾つかの態様はこのような事情に鑑みてなされたものであって、回路動作の安定性を向上と、消費電力の低減とを両立できるようにした分周回路及び半導体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る分周回路は、発振回路に対して複数個のフリップフロップ回路が複数段に亘って連なる分周回路であって、前記発振回路に近い前段の側にあって高い周波数で動作する第1のフリップフロップ回路と、前記発振回路から遠い後段の側にあって低い周波数で動作する第2のフリップフロップ回路と、を備え、前記第1のフリップフロップ回路は、絶縁層上の半導体層に形成された第1のトランジスターを有し、前記第1のトランジスターは、フローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、前記第2のフリップフロップ回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第2のトランジスターを有し、前記第2のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、前記第1のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth1│とし、前記第2のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth2│としたとき、│Vth1│<│Vth2│に設定されていることを特徴とするものである。
【0014】
ここで、「絶縁層」は例えばBOX層、「半導体層」は例えばSOI層とも呼ばれる。また、「フローティングボディ型の部分空乏型トランジスター」とは、ゲート電極直下の領域の半導体層(即ち、ボディ領域)が電気的に浮遊し、且つゲート電極に閾値電圧が印加されたときに前記ボディ領域が部分的に空乏化する(つまり、空乏層が絶縁層まで達せずに中性領域が残る)トランジスターのことである。また、トランジスターの閾値電圧の設定(調整)は、例えばボディ領域への不純物の導入により行われる。このような不純物の導入は、例えばチャネルドープとも呼ばれる。
【0015】
このような構成であれば、発振回路に近い前段の側にある第1のフリップフロップ回路では、第1のトランジスターの閾値電圧の絶対値│Vth1│が低いため、低電圧でも大きなオン(On)電流を得ることができる。これにより、第1のフリップフロップ回路では、例えばインバーターの動作速度を高める(即ち、遅延時間を減らす)ことができるため、分周抜けなどの動作不良を回避することができ、回路動作の安定性を高めることができる。また、第2のフリップフロップ回路では、発振回路から遠い後段の側にある第2のトランジスターの閾値電圧の絶対値│Vth2│が高いため、オフリーク電流を低減することができる。ここで、第2のフリップフロップ回路では、オフリーク電流だけでなくオン電流も低減されてしまうが、第2のフリップフロップ回路は低い周波数で動作するため、高い周波数で動作する場合と比べて、分周抜けなどの動作不良は生じ難い。従って、回路動作の安定性を向上させると共に、消費電力を低減することが可能である。
【0016】
また、上記の分周回路において、前記第1のトランジスターは、第1のN型トランジスターと、第1のP型トランジスターと、を含み、前記第1のN型トランジスターのゲート長をL1(N)とし、前記第1のN型トランジスターのゲート幅をW1(N)とし、前記第1のN型トランジスターの閾値電圧をVth1(N)と、一方、前記第1のP型トランジスターのゲート長をL1(P)とし、前記第1のP型トランジスターのゲート幅をW1(P)とし、前記第1のP型トランジスターの閾値電圧をVth1(P)としたとき、L1(N)=L1(P)、W1(N)=W1(P)、Vth1(N)=−Vth1(P)に設定されていることを特徴とするものである。
【0017】
また、上記の分周回路において、前記第2のトランジスターは、第2のN型トランジスターと、第2のP型トランジスターと、を含み、前記第2のN型トランジスターのゲート長をL2(N)とし、前記第2のN型トランジスターのゲート幅をW2(N)とし、前記第2のN型トランジスターの閾値電圧をVth2(N)とし、一方、前記第2のP型トランジスターのゲート長をL2(P)とし、前記第2のP型トランジスターのゲート幅をW2(P)とし、前記第2のP型トランジスターの閾値電圧をVth2(P)としたとき、L2(N)=L2(P)、W2(N)=W2(P)、Vth2(N)=−Vth2(P)に設定されていることを特徴とするものである。
【0018】
また、上記の分周回路において、前記第1のフリップフロップ回路又は前記第2のフリップフロップ回路の少なくとも一方は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第3のトランジスター、を有し、前記第3のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常オフのトランジスターであり、前記第3のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth3│としたとき、│Vth2│≦│Vth3│に設定されていることを特徴とするものである。このような構成であれば、第1のフリップフロップ回路又は第2のフリップフロップ回路において、第3のトランジスターの抵抗成分を高めることができる。これにより、フリップフロップ内でのオフリーク電流をさらに低減することができるので、分周回路の消費電力をさらに低減することが可能となる。
【0019】
また、上記の分周回路において、前記第1のフリップフロップ回路又は前記第2のフリップフロップ回路の少なくとも一方は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第4のトランジスター、を有し、前記第4のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常オンのトランジスターであり、前記第4のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth4│としたとき、│Vth4│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とするものである。このような構成であれば、第1のフリップフロップ回路又は第2のフリップフロップ回路において、第4のトランジスターの抵抗成分を低くすることができる。これにより、フリップフロップ内でのオン電流をさらに増やすことができるので、分周回路の動作安定性をさらに高めることが可能となる。
【0020】
本発明の別の態様に係る半導体装置は、上記の分周回路と、前記発振回路と前記分周回路との間に配置され、前記発振回路から出力される振幅電圧を波形整形して前記分周回路に供給する波形整形回路と、を具備し、前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第5のトランジスター、を有し、前記第5のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、前記第5のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth5│としたとき、│Vth5│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とするものである。
【0021】
このような構成であれば、半導体装置の回路動作の安定性を向上させると共に、消費電力を低減することが可能である。また特に、波形整形回路では、第5のトランジスターの閾値電圧の絶対値│Vth5│が低いため、低電圧でも大きなオン電流を得ることができる。これにより、波形整形回路でも、例えばインバーターの動作速度を高める(即ち、遅延時間を減らす)ことができる。
【0022】
また、上記の半導体装置において、前記第5のトランジスターは、第5のN型トランジスターと、第5のP型トランジスターと、を含み、前記第5のN型トランジスターのゲート長をL5(N)とし、前記第5のN型トランジスターのゲート幅をW5(N)とし、前記第5のN型トランジスターの閾値電圧の絶対値をVth5(N)とし、一方、前記第5のP型トランジスターのゲート長をL5(P)とし、前記第5のP型トランジスターのゲート幅をW5(P)とし、前記第5のP型トランジスターの閾値電圧をVth5(P)としたとき、L5(N)=L5(P)、W5(N)=W5(P)、Vth5(N)=−Vth5(P)に設定されていることを特徴とするものである。
【0023】
また、上記の半導体装置において、前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第6のトランジスター、を有し、前記第6のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常オフのトランジスターであり、前記第6のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth6│としたとき、│Vth2│≦│Vth6│に設定されていることを特徴とするものである。
このような構成であれば、波形整形回路において、第6のトランジスターの抵抗成分を高めることができる。これにより、波形整形回路のオフリーク電流をさらに低減することができるので、半導体装置の消費電力をさらに低減することが可能となる。
【0024】
また、上記の半導体装置において、前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第7のトランジスター、を有し、前記第7のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常オンのトランジスターであり、前記第7のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth7│としたとき、│Vth7│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とするものである。このような構成であれば、波形整形回路において、第7のトランジスターの抵抗成分を低くすることができる。これにより、波形形成回路内でのオン電流をさらに増やすことができるので、半導体装置の動作安定性をさらに高めることが可能となる。
なお、上記の分周回路又は半導体装置は、例えば、小型・軽量のバッテリで長時間の動作が要求される時計(ウォッチ)、携帯電話、モバイルパソコン等の携帯型電子機器に適用して極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る分周回路50の構成例を示す図。
【図2】第1実施形態に係るFF回路10の構成例と動作例を示す図。
【図3】FF回路10を論理回路の符号を用いて示した図。
【図4】クロックドインバーター1の構成例とその動作例を示す図。
【図5】インバーター2の構成例を示す図。
【図6】インバーター2の他の構成例を示す図。
【図7】第2実施形態に係る半導体装置100の構成例を示す図。
【図8】発振回路40の構成例を示す図。
【図9】NAND回路90の構成例を示す図。
【図10】第1〜第3実施形態に係る閾値電圧の絶対値の大小関係を示す図。
【図11】ボディ領域66の状態変化を示す図(その1)。
【図12】ボディ領域66の状態変化を示す図(その2)。
【図13】MOSFET21をオン/オフさせたときの実測結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その重複する説明は省略する。
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係るに係る分周回路50の構成例を示す図である。
図1に示すように、分周回路50は、n個のフリップフロップ回路10がn段に亘って連なる構造(即ち、n個のフリップフロップ回路10が直列にn段接続された構造)を有する。フリップフロップ回路10は、例えば、準スタティック型Tフリップフロップ回路である。この分周回路50では、1段目のフリップフロップ回路(FF回路)10の入力端子C1が例えば発振回路に接続され、1段目のFF回路10の出力端子Q1が2段目のFF回路10の入力端子C2に接続されている。同様に、nが3以上の場合は、n−1段目のFF回路10の出力端子Qn−1がn番目のFF回路10の入力端子Cnに接続され、n−1段目のFF回路10の出力端子XQn−1が、n番目のFF回路10の出力端子XQnにそれぞれ接続されている。
【0027】
これにより、例えば発振回路から与えられるクロック信号に同期して、分周回路50の出力端子QnからQn出力信号が出力されると共に、出力端子XQnからXQn出力信号が出力される。ここで、Qn出力信号は、クロック信号であるC1入力信号と比べて周期が2n倍(即ち、周波数が1/2)の信号であり、XQn出力信号はQn出力信号のハイ(High:以下、単にHともいう。)とロウ(Low:以下、単にLともいう。)とを反転させた信号である。
【0028】
図2(a)及び(b)は、本発明の第1実施形態に係るFF回路10の構成例を示す回路図と、その動作例を示すタイミングチャートである。
図2(a)に示すように、このFF回路10は、クロックドインバーター1、3、4、5と、インバーター2、6とを有する。クロックドインバーター1、3、4、5には、それぞれC入力端子又はXC入力端子の一方、又は両方が設けられている。ここで、C入力端子に入力される信号(即ち、C入力信号ともいう。)は、クロック信号であり、一定の間隔でHとLとを繰り返す信号である。また、XC入力端子に入力される信号(即ち、XC入力信号)は、C入力信号のHとLとを反転させた信号である。また、インバーター2、6には、セット端子とリセット端子(図示せず)とがそれぞれ設けられている。
【0029】
クロックドインバーター1、3、4、5と、インバーター2、6との接続関係を説明すると、図2(a)に示すように、クロックドインバーター1の出力端子は、インバーター2の入力端子と、クロックドインバーター3の出力端子とに接続されている。また、インバーター2の出力端子と、クロックドインバーター3の入力端子は、クロックドインバーター4の入力端子に接続されている。さらに、クロックドインバーター4の出力端子は、クロックドインバーター5の出力端子と、インバーター6の入力端子と、クロックドインバーター1の入力端子と、Q出力端子とに接続されている。また、クロックドインバーター5の入力端子とインバーター6の出力端子は、XQ出力端子に接続されている。
【0030】
これにより、C入力信号に同期して、Q出力端子からQ出力信号が出力されると共に、XQ出力端子からXQ出力信号が出力される。図2(b)に示すように、Q出力信号はC入力信号と比べて周期が2倍(即ち、周波数が1/2)の信号であり、XQ出力信号はQ出力信号のHとLとを反転させた信号である。
図3は、図2(a)及び(b)に示したFF回路10を論理回路の符号を用いて示した図である。図3に示すように、このFF回路10は、例えば、クロックドインバーター1、3、4、5と、インバーター2、6とを含む。これらの中で、インバーター2、6は、例えば、1つのAND回路と1つのNOR回路との組み合わせによりそれぞれ構成され、AND回路の入力端子にはリセット(XR)端子が接続され、NOR回路の入力端子にはセット(S)端子が接続されている。本発明において、これらインバーター1〜6を構成している各トランジスターは、フローティングボディ型の部分空乏型のSOI−MOSFET(即ち、FB−PD−SOI−MOSFET)からなる。
【0031】
ところで、図2(a)及び(b)に示したように、分周回路50は、高い周波数のクロック信号を各段のFF回路10で順次分周して、低い周波数の信号に変換する。 このため、発振回路からみて近い側(即ち、前段)のFF回路10に含まれるFB−PD−SOI−MOSFETは高い周波数のクロック信号で動作し、発振回路からみて遠い側(即ち、後段)のFF回路10に含まれるFB−PD−SOI−MOSFETは低い周波数のクロック信号で動作する。
【0032】
例えば、発振回路から32kHzの入力信号が供給され、各FF回路10は入力信号を2分周(つまり、周波数を1/2に変換)して出力する。FF回路10を例えば15段接続すると、32kHzの信号は最終的に1Hzとなる。このとき、1段目のFF回路10を構成するFB−PD−SOI−MOSFETは例えば32KHzの信号で動作し、15段目のFF回路10を構成するFB−PD−SOI−MOSFETは例えば1Hzの信号で動作する。
【0033】
図4(a)及び(b)は、クロックドインバーター1の構成例を示す回路図と、その動作例を示すタイミングチャートである。図4(a)に示すように、クロックドインバーター1は、Nチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFET11、12と、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFET13、14と、を有する。これらの中で、MOSFET11、13はインバーター本体を構成しており、MOSFET11のソースは例えば接地電位(又は、レギュレータ電位Vreg)に接続され、MOSFET13のドレインは例えば電源電位Vddに接続されている。また、これらMOSFET11、13のゲートはそれぞれクロックドインバーター1の入力端子Aに接続されている。さらに、MOSFET12はMOSFET11と出力端子Bとの間に接続され、MOSFET14はMOSFET13と出力端子Bとの間に接続されている。また、MOSFET12のゲートはC入力端子に接続され、MOSFET14のゲートはXC入力端子に接続されている。
【0034】
図4(a)及び(b)に示すように、このクロックドインバーター1では、C入力信号がH(即ち、XC入力信号がL)のときは、MOSFET12、14が共にオンするため、クロックドインバーター1は、その名のとおりインバーター(即ち、入力信号がHであればLを出力し、入力信号がLであればHを出力する素子)として機能する。一方、C入力信号がL(即ち、XC入力信号がH)のときは、MOSFET12、14が共にオフするため、MOSFET11のドレインと出力端子Bとの間が電気的に分離される共に、MOSFET13のソースと出力端子Bとの間が電気的に分離される。従って、出力端子Bの電位はそのままの状態に保持される。
【0035】
ここで、分周回路50の動作時は通常、前段のFF回路10では、MOSFET11〜14が高い周波数で動作(即ち、高い周波数に同期してオン、オフ)する。また、後段のFF回路10では、MOSFET11〜14が低い周波数で動作する。なお、図1に示した他のクロックドインバーター3、4、5も、例えば、図4(a)及び(b)に示したクロックドインバーター1と同じ構成を有する。
【0036】
図5は、インバーター2の構成例を示す回路図である。図5に示すように、このインバーター2は、Nチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFET21〜23と、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFET24〜26と、を有する。これらの中で、MOSFET21、25はインバーター本体を構成しており、MOSFET21のソースは例えば接地電位(又は、Vreg)に接続され、MOSFET25のドレインは例えば電源電位Vddに接続されている。また、これらMOSFET21、25のゲートはそれぞれインバーター2の入力端子Aに接続されている。さらに、MOSFET22はMOSFET21と出力端子Bとの間に接続され、MOSFET24はMOSFET25と出力端子Bとの間に接続されている。また、MOSFET22のゲートはリセット(XR)端子に接続され、MOSFET24のゲートはセット(S)端子に接続されている。さらに、MOSFET23は接地電位(又は、Vreg)と出力端子Bとの間に接続され、MOSFET26は電源電位VddとMOSFET24との間に接続されている(即ち、MOSFET25と並列に接続されている。)。また、MOSFET23のゲートはS入力端子に接続され、MOSFET26のゲートはXR入力端子に接続されている。
【0037】
図5に示すように、このインバーター2では、S入力端子に入力される信号がLで、且つ、XR入力端子に入力される信号がHのときは、MOSFET22、24がオンし、MOSFET23、26がオフするため、インバーター2は、その名のとおりインバーターとして機能する。一方、S入力端子に入力される信号がHで、且つ、XR入力端子に入力される信号がLのときは、MOSFET22、24がオフし、MOSFET23、26がオンするため、出力端子Bの電位は入力端子Aに入力される信号のH、Lに依存せずに、接地電位(又は、Vreg)となる。従って、B電位の初期設定が可能になる。
【0038】
ここで、分周回路50の動作時は通常、前段のFF回路10では、MOSFET21、25が高い周波数で動作(即ち、高い周波数に同期してオン、オフ)し、MOSFET22、24はオンになり、MOSFET23、26はオフになる。後段のFF回路10では、MOSFET21、25が低い周波数で動作し、MOSFET22、24はオンになり、MOSFET23、26はオフになる。
【0039】
即ち、図示しない発振回路がその発振動作を開始した後、この発振回路に接続された分周回路50内のFF回路10では、インバーター2に繋がるセット(S)端子の電位がLに固定され、リセット(XR)端子の電位がHに固定される。これにより、図5に示したNチャネル型のMOSFET23と、Pチャネル型のMOSFET26がオフになり、Nチャネル型のMOSFET22と、Pチャネル型のMOSFET24がオンになる。また、Nチャネル型のMOSFET21と、Pチャネル型のMOSFET25とにより、インバーター本体が構成される。前段のFF回路10では、これらMOSFET21、25が高い周波数でオン/オフを繰り返し、後段のFF回路10では、これらMOSFET21、25が低い周波数でオン/オフを繰り返す。
【0040】
ところで、FB−PD−SOI―MOSFETのゲート電極に、一定の間隔でHとLとが入れ替わる入力信号(即ち、振幅電圧)を繰り返し印加すると、数秒後には、オン電流とオフリーク電流は、その動作周波数に依らず安定した値を取る。つまり、分周回路50を構成する個々のMOSFETのボディ電位にはそれぞれ安定状態がある。
この点について、図5に示したインバーター2を例に説明する。図5において、セット(S)端子の電位がLに固定され、リセット(XR)端子の電位がHに固定されると、MOSFET22、23、24、26の各ボディ領域(中性領域)の電位(即ち、ボディ電位)は、各々のソース領域の電位(以下、ソース電位ともいう。)で安定するようになる(例えば、後述の図11(b)の過程I、IIを参照。)。即ち、Nチャネル型のMOSFET22、23ボディ電位はLに固定され、Pチャネル型のMOSFET24、26のボディ電位はHに固定され、それぞれ安定する。
【0041】
一方、インバーターを構成するNチャネル型のMOSFET21と、Pチャネル型のMOSFET25のそれぞれのボディ電位は、入力端子Aに印加される入力信号(振幅電圧)の振幅に伴い振動はするものの、Nチャネル型のMOSFET21のボディ電位は、ソース電位(L)とソース電位から閾値電圧分だけ低い電位との間で安定振動し、Pチャネル型のMOSFET25のボディ電位はソース電位(H)とソース電位から閾値電圧分だけ高い電位との間で安定して振動する(例えば、後述の図12(b)の過程III、IVを参照)。即ち、Nチャネル型のMOSFET21のボディ電位は、そのソース電位よりも低い領域で固定電位差間を安定して振動し、Pチャネル型のMOSFET25のボディ電位は、そのソース電位よりも高い領域で固定電位差間を安定して振動する。
【0042】
このように、同じチャネル型のMOSFETであっても、MOSFET21のボディ電位は振動し、MOSFET22、23のボディ電位は固定されるため、MOSFET21と、MOSFET22、23とでは異なる電気的特性を示す。同様に、Pチャネル型でも、MOSFET25のボディ電位は振動し、MOSFET24、26のボディ電位は固定されるため、MOSFET25と、MOSFET24、26とでは異なる電気的特性を示す。
【0043】
例えば、後述の図13(a)及び(b)に示すように、Nチャネル型のMOSFET21では、ゲート電極の電位(以下、ゲート電位ともいう。)が振幅してオン/オフ駆動を開始すると、オン電流/オフリーク電流は徐々に小さくなるが、数秒後には、オン電流/オフリーク電流がそれぞれ安定した値となり、安定した伝達特性が示されるようになる。一方、Nチャネル型のMOSFET22では、ゲート電位が固定されているため、ボディ電位がソース電位と一致した状態で安定する。このとき、ボディ電位の違いから、MOSFET22の閾値電圧は、MOSFET21の閾値電圧よりも見かけ上小さくなり、MOSFET22のオン電流値は、MOSFET21のオン電流値と比べて増加する。同様に、Pチャネル型でも、ボディ電位の違いから、MOSFET24の閾値電圧の絶対値は、MOSFET25の閾値電圧の絶対値よりも見かけ上小さくなり、MOSFET24のオン電流値は、MOSFET25のオン電流値と比べて増加する。
【0044】
そこで、本発明では、このようなボディ電位の安定状態の違いを考慮すると共に、分周回路50における各MOSFETの位置付けを考慮して、分周回路50に含まれる各MOSFETの閾値電圧を最適化した回路設計を行う。
具体的には、発振回路に近い前段(少なくとも1段目を含む。)のFF回路10に含まれるMOSFETのうち、高い周波数でオン、オフを繰り返すMOSFET11〜14、21、25を閾値電圧の絶対値が低いFB−PD−SOI−MOSFETで構成する。また、後段のFF回路10に含まれるMOSFETのうち、低い周波数でオン、オフを繰り返すMOSFET11〜14、21、25を閾値電圧の絶対値が高いFB−PD−SOI−MOSFETで構成する。即ち、前段のFF回路10に含まれるMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を│Vth1│とし、後段のFF回路10に含まれるMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を│Vth2│としたとき、│Vth1│<│Vth2│に設定する。│Vth1│と│Vth2│の差は、例えば0.05〜0.1V程度にする。
【0045】
即ち、高い周波数で動作する前段のFF回路10に含まれるNチャネル型のMOSFET11、12、21の閾値電圧をVth1(N)とし、前段のFF回路10に含まれるPチャネル型のMOSFET13、14、26の閾値電圧をVth1(P)とする。また、低い周波数で動作する後段のFF回路10に含まれるNチャネル型のMOSFET11、12、21の閾値電圧をVth2(N)とし、後段のFF回路10に含まれるPチャネル型のMOSFET13、14、26の閾値電圧をVth2(P)とする。このとき、Vth1(N)<Vth2(N)に設定すると共に、│Vth1(P)│<│Vth2(P)│に設定する。これにより、前段のFF回路10ではオン電流を増やすことができ、後段のFF回路10ではオフリーク電流を減らすことができる。
【0046】
また、初期値セット・リセットの役割を担い、通常オフの固定ゲート電圧を有するMOSFET23、26の閾値電圧の絶対値を、前段及び後段のFF回路10において(つまり、分周回路50に含まれる全てのFF回路10において)全て同じ値に揃え、これを│Vth3│とする。このとき、│Vth2│≦│Vth3│に設定することが好ましい。これにより、前段及び後段のFF回路10において、通常オフであるMOSFET23、26の抵抗成分を高めることができ、オフリーク電流をさらに低減することができる。同様に、初期値セット・リセットの役割をし、通常オンの固定ゲート電圧を有するMOSFET22、24の閾値電圧の絶対値を、前段及び後段のFF回路10において全て同じ値に揃え、これを│Vth4│とする。このとき、│Vth4│≦│Vth1│に設定することが好ましい。これにより、前段及び後段のFF回路10において、通常オンであるMOSFET22、24の抵抗成分を低くすることができ、オン電流をさらに増大させることができる。
【0047】
また、前段及び後段のFF回路10において、MOSFET23、26の閾値電圧の絶対値が│Vth3│に揃えられ、MOSFET22、24の閾値電圧の絶対値が│Vth4│に揃えられることにより、前段のFF回路10と後段のFF回路10とを、同じ条件(例えば、同じ電圧値)でセット・リセットすることができる。
また、本発明では上記の設定に加えて、各段のFF回路10において、同一の役割を担うNチャネル型のMOSFETと、Pチャネル型のMOSFETの各閾値電圧の絶対値を、同一の値に設定することが好ましい。例えば、Vth1(N)=−Vth1(P)に設定することが好ましく、また、Vth2(N)=−Vth2(P)に設定することが好ましい。これにより、各FF回路10において、Nチャネル型のMOSFET21と、Pチャネル型のMOSFET25とを同じ条件(例えば、同じ電圧値)で、同じタイミングで、オン、オフさせることができる。
【0048】
さらに、本発明では上記の設定に加えて、各段のFF回路10において、同一の役割を担うNチャネル型のMOSFETと、Pチャネル型のMOSFETの各サイズを、同一の値に設定することが好ましい。例えば、高い周波数で動作する前段のFF回路10に含まれるNチャネル型のMOSFET21のゲート長をL1(N)、ゲート幅をW1(N)とし、Pチャネル型のMOSFET13、14、26のゲート長をL1(P)、ゲート幅をW1(P)としたとき、L1(N)=L1(P)、W1(N)=W1(P)であることが好ましい。同様に、低い周波数で動作する後段のFF回路10に含まれるNチャネル型のMOSFET21のゲート長をL2(N)、ゲート幅をW2(N)とし、Pチャネル型のMOSFET26のゲート長をL2(P)、ゲート幅をW2(P)としたとき、L2(N)=L2(P)で、W2(N)=W2(P)であることが好ましい。これにより、閾値電圧あるいは閾値電圧以下のサブスレショルド電流を用いる回路において、PチャネルとNチャネルの各トランジスターのOn/Off電流のバランスが良くなる。なぜなら、サブスレショルド領域のスイングS値は、PチャネルとNチャネルの各トランジスターがともに理想値に近い同程度の値を取り、PチャネルとNチャネルの各トランジスターのOn/Off電流比がほぼ等しくなるからである。また、PチャネルとNチャネルの各トランジスターの寸法を、同じ最小寸法に取れば、回路を縮小化・素子を高集積化することができる。
【0049】
このように、本発明の第1実施形態によれば、前段のFF回路10のMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値が、後段のFF回路10のMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値よりも低い値に設定されている。これにより、前段のFF回路10では低電圧でも大きなオン電流を得ることができ、例えばインバーター1〜6の動作速度を高める(即ち、遅延時間を減らす)ことができる。
【0050】
このため、高周波で動作する前段のFF回路10において、分周抜けなどの動作不良を回避することができ、回路動作の安定性を高めることができる。また、前段のFF回路10では、オン電流の増大とトレードオフで、オフリーク電流が増大してしまうものの、例えばウォッチ等においては、発振回路に接続される1〜5段目のFF回路10のMOSFET数は数個〜数十個と少ない。それゆえ、前段のFF回路10に含まれるMOSFET11〜14、21〜26として、例えばオフリーク電流が0.01〜0.1nAのFB−PD−SOI−MOSFETを使用したとしても、充放電電流以外の静止電流を1〜10nA以内に抑制することができる。従って、消費電流をほとんど増加させること無く、前段のFF回路10を安定動作させることが可能である。
【0051】
一方、後段のFF回路10では、MOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値が(前段と比べて)高い値に設定されるため、オフリーク電流を例えば0.001〜0.01nA以下に抑えることができる。このため、例えば、後段のFF回路10が十数段に亘って連なる場合や、後段のFF回路10の後に制御回路が連なる場合など、数千以上の多数のMOSFETからなる回路においてさえ、充放電電流以外の静止電流を1〜10nA以内に抑制することができる。また、後段のFF回路10では、オフリーク電流の抑制とトレードオフで、オン電流が低くなってしまうが、後段は動作周波数が低いため、FF回路10の動作不良を回避することができる。これにより、例えば、0.5V以下の超低電圧駆動が可能になる。
【0052】
この第1実施形態では、前段のFF回路10に含まれMOSFET11〜14、21、25が本発明の「第1のトランジスター」に対応し、後段のFF回路10に含まれMOSFET11〜14、21、25が本発明の「第2のトランジスター」に対応している。また、MOSFET23、26が本発明の「第3のトランジスター」に対応し、MOSFET22、24が本発明の「第4のトランジスター」に対応している。また、前段のFF回路10が本発明の「第1のフリップフロップ回路」に対応し、後段のFF回路10が本発明の「第2のフリップフロップ回路」に対応している。
【0053】
なお、この第1実施形態では、インバーター2、6がセット(S)端子とリセット(XR)端子の両方を有する場合について説明したが、本発明はこれに限られることはない。例えば、図6に示すように、インバーター2は、FB−PD−SOI−MOSFET21、22、25、26と、リセット(XR)端子と、入力端子A、Bのみを有する構成であっても良い。即ち、セット(S)端子は無くても良い。インバーター6についても同様である。このような構成であっても、前段のFF回路10に含まれるMOSFET21、25の閾値電圧の絶対値を、後段のFF回路10に含まれるMOSFET21、25の閾値電圧の絶対値よりも低くすることにより、上記の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
(2)第2実施形態
図7は、本発明の第2実施形態に係る半導体装置100の構成例を示すブロック図である。図7に示す半導体装置100は、例えばウォッチに内蔵される半導体装置100であり、発振回路40と、分周回路50と、制御回路60と、検出回路70と、電源回路80と、を有する。発振回路40と、電源回路80と、検出回路70はアナログ回路であり、分周回路50と、制御回路60はデジタル回路である。
【0055】
図8は、発振回路40の構成例を示す回路図である。図8に示すように、この発振回路40は、発振インバーター41と、水晶発振子42と、抵抗器43と、キャパシタ44〜46と、を含む。この発振回路40では、水晶発振子42とキャパシタ44、45とにより共振回路が構成されており、この共振回路に発振インバーター41が接続されることにより、特定の周波数(例えば、32kHz)を発振するようになっている。また、この発振回路40の出力端子には、波形整形用のNAND回路90が接続されている。
【0056】
図9は、NAND回路90の構成例を示す回路図である。
図9に示すように、このNAND回路90は、例えば、Nチャネル型のMOSFET91、92と、Pチャネル型のMOSFET93、94と、を有する。例えば、MOSFET91のソースは例えば接地電位(又は、Vreg)に接続され、MOSFET91のドレインはMOSFET92のソースに接続されている。また、MOSFET92〜94の各ドレインは出力端子Yに接続されている。さらに、MOSFET93、94の各ソースは電源電位VDDに接続されている。また、MOSFET91、94の各ゲートは入力端子Aに接続され、MOSFET92、93の各ゲートは入力端子Bに接続されている。
【0057】
このNAND回路90では、例えば入力端子Aが図8に示した発振回路40の出力端子に接続されており、入力端子Aに特定の周波数(例えば、32kHz)の振幅電圧が印加されるようになっている。これにより、入力端子Aにゲートが接続されたMOSFET91、94は、高い周波数で動作(即ち、高い周波数に同期してオン、オフ)する。また、入力端子Bには、例えば信号TとしてHが印加され、MOSFET92がオンし、MOSFET93がオフする。つまり、MOSFET92が通常オンであり、MOSFET93が通常オフである。
【0058】
ところで、この第2実施形態では、NAND回路90に含まれる全てのMOSFET91〜94は、FB−PD−SOI−MOSFETからなる。そして、高い周波数で動作するMOSFET91、94の閾値電圧の絶対値を│Vth5│とし、通常オフのMOSFET93の閾値電圧の絶対値を│Vth6│とし、通常オンのMOSFET92の閾値電圧の絶対値を│Vth7│としたとき、各値を例えば、│Vth5│≦│Vth1│、│Vth6│=│Vth3│、│Vth7│=│Vth4│に設定する。これにより、NAND回路90において、オン電流を増やすことができ、オフリーク電流を減らすことができる。
【0059】
また、本発明では上記の設定に加えて、高い周波数で動作するNチャネル型のMOSFET91の閾値電圧と、Pチャネル型のMOSFET94の閾値電圧の絶対値とを、同一の値に設定することが好ましい。即ち、Nチャネル型のMOSFET91の閾値電圧をVth5(N)とし、Pチャネル型のMOSFET94の閾値電圧をVth5(P)としたとき、Vth5(N)=−Vth5(P)に設定することが好ましい。これにより、Nチャネル型のMOSFET91と、Pチャネル型のMOSFET94とを同じ条件(例えば、同じ電圧値)で、同じタイミングで、オン、オフさせることができる。
【0060】
さらに、本発明では上記の設定に加えて、MOSFET91、94の各サイズを、同一の値に設定することが好ましい。即ち、Nチャネル型のMOSFET91のゲート長をL5(N)、ゲート幅をW5(N)とし、Pチャネル型のMOSFET94のゲート長をL5(P)、ゲート幅をW5(P)としたとき、L1(N)=L5(P)、W1(N)=W1(P)であることが好ましい。これにより、閾値電圧あるいは閾値電圧以下のサブスレショルド電流を用いる回路において、PチャネルとNチャネルの各トランジスターのOn/Off電流のバランスが良くなる。なぜなら、サブスレショルド領域のスイングS値は、PチャネルとNチャネルの各トランジスターがともに理想値に近い同程度の値を取り、PチャネルとNチャネルの各トランジスターのOn/Off電流比がほぼ等しくなるからである。また、PチャネルとNチャネルの各トランジスターの寸法を、同じ最小寸法に取れば、回路を縮小化・素子を高集積化することができる。
【0061】
このように、本発明の第2実施形態によれば、発振回路40に最も近いNAND回路90では、高い周波数で動作するMOSFET91、94の閾値電圧の絶対値が、前段のFF回路10に含まれるMOSFET11〜14、21、25と少なくとも同じ、又はそれよりも低い値に設定されるため、低電圧でも大きなオン電流を得ることができ、MOSFET91、94からなるインバーターの動作速度を高める(即ち、遅延時間を減らす)ことができる。これにより、半導体装置において、分周抜けなどの動作不良を回避することができ、回路動作の安定性を高めることができる。また、低スタンドバイ電流と例えば0.5V以下の超低電圧駆動を両立することができる。
この第2実施形態では、MOSFET91、94が本発明の「第5のトランジスター」に対応し、MOSFET93が本発明の「第6のトランジスター」に対応し、MOSFET92が本発明の「第7のトランジスター」に対応している。また、NAND回路90が本発明の「波形整形回路」に対応している。その他の対応関係は、第1実施形態と同じである。
【0062】
(3)第3実施形態
上記の第1、第2実施形態では、例えば、図10(a)に示すように、分周回路50を前段と後段とに区分し、分周回路50が動作している通常時に、オン、オフを繰り返すFB−SOI−MOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を、NAND回路90と、前段のFF回路10と、後段のFF回路10とで差別化することについて説明した。しかしながら、本発明はこれに限られることはない。
【0063】
例えば図10(b)に示すように、分周回路50を前段と、中段と、後段と、に区分し、この区分に従って閾値電圧の絶対値を差別化しても良い。ここで、中段とは、発振回路40からの距離が、前段より遠く且つ後段よりも近い位置のことであり、前段と後段の間の位置のことである。中断のFF回路10において、分周回路50が動作している通常時に、オン、オフを繰り返すMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値を│Vth8│としたとき、この値を│Vth1│<│Vth8│<│Vth2│に設定する。
或いは、分周回路50を前段と、中段と、後段の3段ではなく、4段又はそれ以上の段数にさらに細かく区分し、発振回路40から離れるほどMOSFET11〜14、21、25の閾値電圧の絶対値が高くなるように設定しても良い。これにより、分周回路50における回路動作の安定性と、省電力性をより細かに調整することができる。
【0064】
(4)FB−PD−SOI−MOSFETについて
次に、FB−PD−SOI−MOSFETの電気的特性について説明する。
FB−PD−SOI−MOSFETでは、例えば交流電圧又はパルス電圧のように、一定の間隔でHとLとが入れ替わる入力信号(即ち、振幅電圧)が印加されるとき、その起動初期の数秒間、閾値電圧の絶対値が低く、時間の経過と共に、閾値電圧の絶対値が高くなる傾向がある。このような閾値電圧の変動は、起動初期の数秒間は、ボディ領域のうちの中性領域とソース領域との間に順方向のバイアスが働き、ソース領域の多数キャリアが中性領域に移動して、ボディ中性領域の多数キャリアを消滅させるため、ボディ領域全体の電位が不安定となることに起因している。この点について、例えば、Nチャネル型のMOSFET21を例に用いて説明する。
【0065】
図11(a)〜図12(b)はボディ領域66の状態変化を示す図であり、これらのうちの各図(a)は空乏層66aと中性領域66bの広がり具合を示す概念図であり、各図(b)はボディ領域66をソース端表面から深さ方向に切断したときの切断面におけるポテンシャルエネルギー分布を深さ方向に沿って示した図である。図11(b)及び図12(b)において、横軸はポテンシャルエネルギーを示し、縦軸はボディ領域66の表面からの深さを示している。φ0は電圧が加わっていない初期のMOSFET21の表面ポテンシャルである。φfはボディ領域のフェルミレベルEfの関数で、q・Φf=Ef−Eiである。ここでEiはイントリンジックシリコンフェルミレベル、qは電子の電荷量である。2φfは閾値電圧に相当する。
【0066】
まず、図11(a)において、ゲート電極63にゲート電圧Vgを印加すると共に、ソース領域64とドレイン領域65との間にドレイン電圧Vdを印加する。ゲート電圧Vgとドレイン電圧Vdは共に、直流電圧(即ち、周期的に方向が変化しない電圧)である。一例として、ソース領域64とドレイン領域65との間にドレイン電圧Vd=0.4[V]を印加し、この状態でゲート電圧Vgを例えば0[V]から0.4[V]にする。なお、ドレイン電圧Vdは、図5に示した電源電位Vddと、接地電位(又は、Vreg)の差に相当する。また、閾値電圧がゲート印加電圧0.4Vより小さい場合について説明する。
【0067】
すると、図11(a)に示すように、ボディ領域66において空乏層66aは徐々に大きく下方へ広がり、その分だけ中性領域66bは(破線の領域から実線の領域まで)小さくなる。これを図11(b)に示す。Vgを0Vから0.4Vに上げると、空乏層はすぐには広がらないため、ボディ領域66のポテンシャルエネルギー(即ち、電位)も全体的に上昇する(過程I)。
【0068】
また、この過程Iでは、ボディ領域66の電位はソース領域64の電位よりも高い。このため、図11(a)及び(b)において、P型であるボディ領域66とN型であるソース領域64との間には順方向のバイアスが働き、ソース領域64から中性領域66bに電子eが流れ込む。その結果、中性領域66bにおいて多数キャリアであるホールhと電子eとが再結合してホールhが減少し、中性領域66bが小さくなる(即ち、空乏層66aが拡がる)ため、中性領域66bの電位が徐々に下がる(過程II)。この中性領域66bへの電子eの流れ込みは、中性領域66bの電位がソース領域64の電位とほぼ同じ大きさになるまで続く。中性領域66bの電位とソース領域64の電位がほぼ同じ大きさになると、順方向のバイアスが働かなくなるので電子eの流れ込みが止まり、中性領域66bの縮小も止まる。つまり、ソース領域64とボディ領域(空乏層66aと中性領域66b)とが平衡状態となり、ボディ領域66の電位(多数キャリア数)が安定する。起動初期の数秒間において、Nチャネル型のMOSFET21がオンしている間は、過程Iと過程IIとが並行して進む。
【0069】
そして、中性領域66bの多数キャリア数が安定すると、図12(a)及び(b)に示すように、MOSFET21のオン/オフ駆動に合わせてボディ領域66の電位は全体的にシフトするようになる(過程III、IV)。これらの過程III、IVでは、中性領域66bの電位はソース領域64の電位よりも低くなり、ボディ領域66とソース領域64との間には逆方向のバイアスが働くので、ソース領域64と中性領域66bとの間で電荷の移動は生じにくい。そのため、中性領域66bの大きさ(すなわち、多数キャリア数)はほとんど変化しない。空乏層66aと中性領域66bとが平衡状態を維持したまま、MOSFET21のオン/オフ駆動に合わせて、ボディ領域66の電位は全体的に下降、上昇を繰り返す。
【0070】
図13(a)及び(b)は、MOSFET21を連続してオン/オフさせたときのオン電流とオフリーク電流を実際に測定した結果を示す図である。図13(a)の横軸は時間を示し、縦軸はオン電流を示す。また、図13(b)の横軸は時間を示し、縦軸はオフリーク電流を示す。ここでは、ゲート電極63とドレイン領域65とを電気的に接続(即ち、短絡)すると共に、ゲート・ソース間に電圧Vgs=0.4Vを500msec間隔で印加した。
【0071】
図13(a)に示すように、電圧Vgsのパルスの印加を開始すると、オン電流はパルスに合わせて徐々に減少していき、約10秒が経過した後はその値が安定したものとなった。また、オン電流に見られるヒステリシスも約10秒が経過した後はほとんど見られなくなった。同様に、図13(b)に示すように、電圧Vgsのパルスの印加を開始すると、オフリーク電流はパルスに合わせて徐々に減少していき、約10秒が経過した後はその値が安定したものとなった。つまり、MOSFET21のオン/オフ駆動を開始してから約10秒が経過すると、ヒステリシスが無くなり、そのオン/オフ比はFD−SOI−MOSFETの理想特性に近いものとなった。
【0072】
このように、Nチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFET21は、起動時の方が安定時よりも、同じゲート電圧Vgでより大きなドレイン電流(即ち、オン電流、オフリーク電流)Idを流すことができ、より大きな電力を供給することができる。同時にリーク電流が増加する。その理由は、起動時においては、中性領域66bの電位はソース領域64の電位よりも高く、見かけ上の閾値電圧の絶対値が小さくなるからである。また、安定時においては、中性領域66bの電位はソース領域64の電位よりも小さくなり、見かけ上の閾値電圧の絶対値は大きくなる。また、ソースとボディ間では逆方向のバイアスが加わり、ソース領域64から中性領域66bに電子eが流れ込みにくくなり、中性領域66b及び空乏層66aの大きさがほとんど変化しなくなる。このため、ゲート電位は、空乏層を広げることなく、ソースとチャネル間の電位障壁にほとんど100%作用し、急峻なサブスレショルド電流特性を示す。
【0073】
また、このような特性は、Nチャネル型だけでなく、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFETでも見られる。即ち、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFETは、起動時の方が安定時よりも、同じゲート電圧Vgでより大きなドレイン電流(即ち、オン電流、オフリーク電流)Idを流すことができ、より大きな電力を供給することができる。同時にリーク電流が増加する。図示しないが、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFETの起動時は、中性領域の電位はソース領域の電位よりも低く、順方向のバイアスによって、ソース領域から中性領域にホールhが流れ込んで中性領域が小さくなる。また、安定時においては、中性領域の電位はソース領域の電位よりも大きくなり、逆方向のバイアスによって、ソース領域から中性領域にホールhが流れ込みにくくなっている。これにより、Pチャネル型のFB−PD−SOI−MOSFETにおいては、起動時の閾値電圧の絶対値は、安定時の閾値電圧の絶対値よりも低い値となっている。
【0074】
なお、FB−PD−SOI−MOSFETでは、ゲート電圧Vgの絶対値、ドレイン電圧Vdの絶対値、又は、ゲート・ソース間電圧Vgsの絶対値、がそれぞれ0.8[V]以下、より望ましくは0.6[V]以下に設定されていることが好ましい。即ち、上記のMOSFET11〜14、21〜26では、その駆動電圧の絶対値が0.8[V]以下、より望ましくは0.6[V]以下であることが好ましい。これにより、ボディ領域において、インパクトイオナイゼーションによるペアクリエーション(即ち、電子−ホール対の生成)をそれぞれ抑制することができ、各ボディ領域の電位が意図しない方向にそれぞれ変動してしまうことを防ぐことができるので、分周回路の特性の安定化に寄与することができる。なお、駆動電圧の絶対値が0.8[V]を超えると、ボディ領域においてペアクリエーションが発生しやすくなる。
【0075】
なお、フローティングボディ型のPD−SOI−MOSFETの閾値電圧は、その測定方法に依存して変化する。このため、閾値電圧の大小を比較する際は、その測定方法を定義する必要がある。つまり、Nチャネル型、Pチャネル型毎に、その測定方法を一通りに決めておく必要がある。例えば、Nチャネル型のMOSFETの閾値電圧は、ゲート・ソース間に使用(駆動)電圧以上の電圧を印加した後で、この印加電圧を徐々に減らして電流−電圧(DC−I−V)特性を評価することにより決定することができる。例えば、ゲート電圧Vg=0.4[V]を数〜十数秒間保持した後でゲート電圧を0.4[V]から0[V]まで下降させ、この下降の際に測定される伝達特性に基づいて、Nチャネル型のMOSFETの閾値電圧を決定することができる。この時、ソースとドレイン間の電圧は、インパクトイオナイゼーションが発生しない低電圧に設定する。また、Pチャネル型のMOSFETの閾値電圧は、ゲート・ソース間に使用(駆動)電圧の絶対値以上の電圧を印加した後で、この印加電圧の絶対値を徐々に減らして電流−電圧(DC−I−V)特性を評価することにより決定することができる。例えば、ゲート電圧Vg=−0.4[V]を数〜十数秒間保持した後でゲート電圧を−0.4[V]から0[V]まで上昇させ、この上昇の際に測定される伝達特性に基づいて、Pチャネル型のMOSFETの閾値電圧を決定することができる。
【符号の説明】
【0076】
1、3、4、5 クロックドインバーター、2、6 インバーター、10 準スタティック型Tフリップフロップ回路(FF回路)、11〜14、21〜26、91〜94 FB−PD−SOI−MOSFET、40 発振回路、41 発振インバーター、42 水晶発振子、43 抵抗器、44〜46 キャパシタ、50 分周回路、60 制御回路、63 ゲート電極、64 ソース領域、65 ドレイン領域、66 ボディ領域、66a 空乏層、66b 中性領域、70 検出回路、80 電源回路、90 NAND回路、100 分周回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振回路に対して複数個のフリップフロップ回路が複数段に亘って連なる分周回路であって、
前記発振回路に近い前段の側にあって高い周波数で動作する第1のフリップフロップ回路と、
前記発振回路から遠い後段の側にあって低い周波数で動作する第2のフリップフロップ回路と、を備え、
前記第1のフリップフロップ回路は、絶縁層上の半導体層に形成された第1のトランジスターを有し、
前記第1のトランジスターは、フローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、
前記第2のフリップフロップ回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第2のトランジスターを有し、
前記第2のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、
前記第1のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth1│とし、前記第2のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth2│としたとき、
│Vth1│<│Vth2│に設定されていることを特徴とする分周回路。
【請求項2】
前記第1のトランジスターは、第1のN型トランジスターと、第1のP型トランジスターと、を含み、
前記第1のN型トランジスターのゲート長をL1(N)とし、
前記第1のN型トランジスターのゲート幅をW1(N)とし、
前記第1のN型トランジスターの閾値電圧をVth1(N)と、一方、
前記第1のP型トランジスターのゲート長をL1(P)とし、
前記第1のP型トランジスターのゲート幅をW1(P)とし、
前記第1のP型トランジスターの閾値電圧をVth1(P)としたとき、
L1(N)=L1(P)、
W1(N)=W1(P)、
Vth1(N)=−Vth1(P)に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の分周回路。
【請求項3】
前記第2のトランジスターは、第2のN型トランジスターと、第2のP型トランジスターと、を含み、
前記第2のN型トランジスターのゲート長をL2(N)とし、
前記第2のN型トランジスターのゲート幅をW2(N)とし、
前記第2のN型トランジスターの閾値電圧をVth2(N)とし、一方、
前記第2のP型トランジスターのゲート長をL2(P)とし、
前記第2のP型トランジスターのゲート幅をW2(P)とし、
前記第2のP型トランジスターの閾値電圧をVth2(P)としたとき、
L2(N)=L2(P)、
W2(N)=W2(P)、
Vth2(N)=−Vth2(P)に設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分周回路。
【請求項4】
前記第1のフリップフロップ回路又は前記第2のフリップフロップ回路の少なくとも一方は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第3のトランジスター、を有し、
前記第3のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常オフのトランジスターであり、
前記第3のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth3│としたとき、
│Vth2│≦│Vth3│に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の分周回路。
【請求項5】
前記第1のフリップフロップ回路又は前記第2のフリップフロップ回路の少なくとも一方は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第4のトランジスター、を有し、
前記第4のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常オンのトランジスターであり、
前記第4のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth4│としたとき、
│Vth4│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の分周回路。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の分周回路と、
前記発振回路と前記分周回路との間に配置され、前記発振回路から出力される振幅電圧を波形整形して前記分周回路に供給する波形整形回路と、を具備し、
前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第5のトランジスター、を有し、
前記第5のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、
前記第5のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth5│としたとき、
│Vth5│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
前記第5のトランジスターは、第5のN型トランジスターと、第5のP型トランジスターと、を含み、
前記第5のN型トランジスターのゲート長をL5(N)とし、
前記第5のN型トランジスターのゲート幅をW5(N)とし、
前記第5のN型トランジスターの閾値電圧の絶対値をVth5(N)とし、一方、
前記第5のP型トランジスターのゲート長をL5(P)とし、
前記第5のP型トランジスターのゲート幅をW5(P)とし、
前記第5のP型トランジスターの閾値電圧をVth5(P)としたとき、
L5(N)=L5(P)、
W5(N)=W5(P)、
Vth5(N)=−Vth5(P)に設定されていることを特徴とする請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第6のトランジスター、を有し、
前記第6のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常オフのトランジスターであり、
前記第6のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth6│としたとき、
│Vth2│≦│Vth6│に設定されていることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第7のトランジスター、を有し、
前記第7のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常オンのトランジスターであり、
前記第7のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth7│としたとき、
│Vth7│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とする請求項6から請求項8の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項1】
発振回路に対して複数個のフリップフロップ回路が複数段に亘って連なる分周回路であって、
前記発振回路に近い前段の側にあって高い周波数で動作する第1のフリップフロップ回路と、
前記発振回路から遠い後段の側にあって低い周波数で動作する第2のフリップフロップ回路と、を備え、
前記第1のフリップフロップ回路は、絶縁層上の半導体層に形成された第1のトランジスターを有し、
前記第1のトランジスターは、フローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、
前記第2のフリップフロップ回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第2のトランジスターを有し、
前記第2のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、
前記第1のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth1│とし、前記第2のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth2│としたとき、
│Vth1│<│Vth2│に設定されていることを特徴とする分周回路。
【請求項2】
前記第1のトランジスターは、第1のN型トランジスターと、第1のP型トランジスターと、を含み、
前記第1のN型トランジスターのゲート長をL1(N)とし、
前記第1のN型トランジスターのゲート幅をW1(N)とし、
前記第1のN型トランジスターの閾値電圧をVth1(N)と、一方、
前記第1のP型トランジスターのゲート長をL1(P)とし、
前記第1のP型トランジスターのゲート幅をW1(P)とし、
前記第1のP型トランジスターの閾値電圧をVth1(P)としたとき、
L1(N)=L1(P)、
W1(N)=W1(P)、
Vth1(N)=−Vth1(P)に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の分周回路。
【請求項3】
前記第2のトランジスターは、第2のN型トランジスターと、第2のP型トランジスターと、を含み、
前記第2のN型トランジスターのゲート長をL2(N)とし、
前記第2のN型トランジスターのゲート幅をW2(N)とし、
前記第2のN型トランジスターの閾値電圧をVth2(N)とし、一方、
前記第2のP型トランジスターのゲート長をL2(P)とし、
前記第2のP型トランジスターのゲート幅をW2(P)とし、
前記第2のP型トランジスターの閾値電圧をVth2(P)としたとき、
L2(N)=L2(P)、
W2(N)=W2(P)、
Vth2(N)=−Vth2(P)に設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分周回路。
【請求項4】
前記第1のフリップフロップ回路又は前記第2のフリップフロップ回路の少なくとも一方は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第3のトランジスター、を有し、
前記第3のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常オフのトランジスターであり、
前記第3のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth3│としたとき、
│Vth2│≦│Vth3│に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の分周回路。
【請求項5】
前記第1のフリップフロップ回路又は前記第2のフリップフロップ回路の少なくとも一方は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第4のトランジスター、を有し、
前記第4のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記分周回路の動作時に通常オンのトランジスターであり、
前記第4のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth4│としたとき、
│Vth4│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の分周回路。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の分周回路と、
前記発振回路と前記分周回路との間に配置され、前記発振回路から出力される振幅電圧を波形整形して前記分周回路に供給する波形整形回路と、を具備し、
前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第5のトランジスター、を有し、
前記第5のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常、オン、オフを繰り返すトランジスターであり、
前記第5のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth5│としたとき、
│Vth5│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
前記第5のトランジスターは、第5のN型トランジスターと、第5のP型トランジスターと、を含み、
前記第5のN型トランジスターのゲート長をL5(N)とし、
前記第5のN型トランジスターのゲート幅をW5(N)とし、
前記第5のN型トランジスターの閾値電圧の絶対値をVth5(N)とし、一方、
前記第5のP型トランジスターのゲート長をL5(P)とし、
前記第5のP型トランジスターのゲート幅をW5(P)とし、
前記第5のP型トランジスターの閾値電圧をVth5(P)としたとき、
L5(N)=L5(P)、
W5(N)=W5(P)、
Vth5(N)=−Vth5(P)に設定されていることを特徴とする請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第6のトランジスター、を有し、
前記第6のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常オフのトランジスターであり、
前記第6のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth6│としたとき、
│Vth2│≦│Vth6│に設定されていることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記波形整形回路は、前記絶縁層上の前記半導体層に形成された第7のトランジスター、を有し、
前記第7のトランジスターはフローティングボディ型の部分空乏型トランジスターであって、前記波形整形回路の動作時に通常オンのトランジスターであり、
前記第7のトランジスターの閾値電圧の絶対値を│Vth7│としたとき、
│Vth7│≦│Vth1│に設定されていることを特徴とする請求項6から請求項8の何れか一項に記載の半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−273044(P2010−273044A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122338(P2009−122338)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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