説明

動力伝達装置

【課題】 非円形歯車の回転にともない、歯車式無段変速機の変速比が変化した場合に、歯車式無段変速機から駆動部材に伝達されるトルクの変化を抑制する。
【解決手段】 動力源と駆動部材との間に、非円形歯車を備えた歯車式無段変速機が設けられており、所定の非円形歯車の回転中心を、他の非円形歯車の回転中心に対して変位させることにより、歯車式無段変速機の変速比を制御するアクチュエータが設けられている動力伝達装置において、歯車式無段変速機と駆動部材との間にモータ・ジェネレータが設けられており、非円形歯車の回転にともなう歯車式無段変速機の変速比の変化を検知し、かつ、出力トルクの変化を検知する出力トルク検知手段(ステップS1)と、出力トルクの変化に基づいてモータ・ジェネレータを制御することにより、駆動部材に伝達されるトルクの変化を抑制するモータ・ジェネレータ制御手段(ステップS2)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力源から駆動部材に至る動力伝達経路に、非円形歯車を使用した歯車式無段変速機が設けられている構成の動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、動力源から駆動部材に至る動力伝達経路に配置される無段変速機としては、歯車式無段変速機、ベルト式無段変速機、トロイダル式無段変速機などが知られており、歯車式無段変速機の例が、特許文献1に記載されている。その構成を簡単に説明すると、特許文献1に記載された無段変速機は、第1の回転軸および第2の回転軸および第3の回転軸を有しており、第2の回転軸には入力軸がトルク伝達可能に連結され、第3の回転軸には出力軸がトルク伝達可能に連結されている。前記第1の回転軸には、第1組の第1の非円形歯車および第2組の第1の非円形歯車が、位相を互いにずらして固定されている。また、第2の回転軸には、第1組の第2の非円形歯車および第2組の第2の非円形歯車が、位相を互いにずらして取り付けられている。第1組の第2の非円形歯車は第2の回転軸に固定されており、第2組の第2の非円形歯車と第2の回転軸との間には軸受が介在されている。さらに、第3の回転軸には、第1組の第3の非円形歯車および第2組の第3の非円形歯車が、位相を互いにずらして取り付けられている。そして、第1組の第2の非円形歯車が、第1組の第1の非円形歯車および第1組の第3の非円形歯車に噛合されている。また、第2組の第2の非円形歯車が、第1組の第2の非円形歯車および第2組の第3の非円形歯車に噛合されている。
【0003】
一方、固定フレームとして第1のフレームが設けられており、第1の回転軸は第1のフレームに取り付けられた軸受により支持されている。また、第2の回転軸も、第1のフレームに取り付けられた軸受により支持されている。さらに可動フレームとして第2のフレームが設けられており、第2のフレームは第2の回転軸に取り付けられた軸受により回動可能に支持されている。そして、第3の回転軸は第2のフレームに取り付けられた軸受により支持されている。さらにまた、第3の回転軸と、第1組の第3の非円形歯車との間には一方向クラッチが介在され、第3の回転軸と、第2組の第3の非円形歯車との間にも一方向クラッチが介在されている。
【0004】
その一方向クラッチは、第3の非円形歯車が、第3の回転軸より低速で回転する場合(第3の非円形歯車が第3の回転軸に対して相対的に逆回転する場合)には解放状態となり、これとは反対に第3の非円形歯車が第3の回転軸より速く回転しようとする場合には係合して両者一体となるように構成されている。すなわち、第3の非円形歯車から第3の回転軸にトルクを伝達するように構成されている。
【0005】
この特許文献1に記載された無段変速機においては、歯の噛み合い箇所の回転中心からの距離が連続的に変化する。したがって、入力軸から第2の回転軸にトルクが伝達された場合に、第1組の第2の非円形歯車が一定回転数で回転しても、第1組の第1の非円形歯車の回転数が連続的に変化し、さらに第1組の第3の非円形歯車の回転数がその歯車の形状に従って連続的に変化する。また、第2組の第2の非円形歯車が一定回転数で回転しても、第2組の第1の非円形歯車の回転数が連続的に変化し、さらに、第2組の第3の非円形歯車の回転数がその歯車の形状に従って連続的に変化する。すると、第1組の第3の非円形歯車と、第2組の第3の非円形歯車とでは、第3の回転軸に対する相対回転数が逐次変化するので、各非円形歯車と第3の回転軸との相対回転数の変化に応じて、2つの一方向クラッチが、順次、かつ、交互に係合・解放を繰り返す。その結果、第3の回転軸は、2つの第3の非円形歯車のうち、最も回転速度の速い第3の非円形歯車と一体となって回転する。
【0006】
これら互いに噛み合っている非円形歯車同士の間の回転速度比は、非円形歯車のピッチ円形状から定まる所定の関数で表される。その関係は、第1の非円形歯車と第3の非円形歯車との間でも成立するが、第2のフレームを回動させることにより、第3の回転軸と共に第3の非円形歯車を、第1の非円形歯車の回転中心軸線を中心にして公転させると、第1の非円形歯車と第3の非円形歯車との相対的な位相が、第1の非円形歯車と第2の非円形歯車との位相に対して変化し、その位相同士の変位が、第2の回転軸と第3の回転軸との間における変速比に現れる。したがって、第2の回転軸と第3の回転軸との間における変速比は、第2のフレームの回動角度に応じて、連続的に(無段階に)変化することになる。なお、非円形歯車式無段変速機は、特許文献2、特許文献3にも記載されている。
【特許文献1】特公平5−78705号公報
【特許文献2】特開平2−271143号公報
【特許文献3】特公平6−63555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載された歯車式無段変速機においては、第2のフレームが固定されている場合でも、各非円形歯車の回転にともない、非円形歯車の回転中心から、非円形歯車同士の噛み合い箇所までの距離が変化する。その結果、第2の回転軸と第3の回転軸との間における変速比が変化するとともに、各非円形歯車のイナーシャが変化し、第3の回転軸から出力されるトルクが変化する問題があった。
【0008】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、歯車式無段変速機における各非円形歯車の回転にともない、入力部材と出力部材との間における変速比が変化した場合でも、歯車式無段変速機から駆動部材に伝達されるトルクの変化を抑制することの可能な動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、動力源から駆動部材に至る動力伝達経路に歯車式無段変速機が設けられており、この歯車式無段変速機の入力部材から出力部材に至る動力伝達経路に、相互に噛み合わされた複数の非円形歯車が設けられており、各非円形歯車の回転にともない、各非円形歯車の回転中心から、各非円形歯車同士の噛み合い箇所までの距離が変化して、前記歯車式無段変速機の入力部材と出力部材との間における変速比が変化する構成を有しているとともに、所定の非円形歯車の回転中心を、他の非円形歯車の回転中心に対して変位させることにより、前記歯車式無段変速機の入力部材と出力部材との間における変速比を制御するアクチュエータが設けられている動力伝達装置において、前記歯車式無段変速機から前記駆動部材に至る動力伝達経路にモータ・ジェネレータが設けられているとともに、前記非円形歯車の回転にともなう前記歯車式無段変速機の変速比の変化を検知するとともに、この変速比の変化にともなう前記歯車式無段変速機の出力トルクの変化を検知する出力トルク検知手段と、
【0010】
この出力トルク検知手段により検知される前記歯車式無段変速機の出力トルクの変化に基づいて、前記モータ・ジェネレータで力行制御および回生制御を実行することにより、前記駆動部材に伝達されるトルクの変化を抑制するモータ・ジェネレータ制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記出力トルク検知手段は、前記アクチュエータにより制御される前記歯車式無段変速機の変速比の変化に基づいて、前記出力トルクの変化振幅を検知する手段と、前記入力部材または出力部材の回転方向における位相に対する出力トルクの変化位相を検知する手段とを含み、前記モータ・ジェネレータ制御手段は、前記モータ・ジェネレータの力行トルクおよび回生トルクの振幅を決定する第1の制御、または、前記入力部材または出力部材の回転方向における位相に対する前記モータ・ジェネレータの力行制御および回生制御の実行時期を決定する第2の制御のうち、少なくとも一方の制御を実行する手段を含むことを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成に加えて、前記出力トルク検知手段は、前記歯車式無段変速機への入力トルクの大きさに基づいて、前記歯車式無段変速機の出力トルクの変化振幅を検知する手段を含むことを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの構成に加えて、前記出力トルク検知手段は、前記入力部材または前記出力部材の回転数に基づいて、前記出力トルクの変化周期を検知する手段を含むことを特徴とするものである。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1の構成に加えて、前記出力トルク検知手段は、前記入力部材または前記出力部材の回転方向における位相に基づいて、前記歯車式無段変速機の出力トルクの変化を検知する手段を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明で対象とする動力伝達装置においては、動力源のトルクが歯車式無段変速機を経由して駆動部材に伝達される。また、所定の非円形歯車の回転中心を、他の非円形歯車の回転中心に対して変位させることにより、歯車式無段変速機の入力部材と出力部材との間における変速比が制御される。さらに、所定の非円形歯車の回転中心と、他の非円形歯車の回転中心との相対位置が固定されている場合でも、各非円形歯車は、回転にともない各非円形歯車の回転中心から、非円形歯車同士の噛み合い箇所までの距離が変化し、歯車式無段変速機の変速比が変化するとともに、各非円形歯車のイナーシャが変化する。このため、歯車式無段変速機から出力されるトルクが、非円形歯車の回転にともない変化する。そこで、請求項1の発明では、非円形歯車の回転にともない変化する歯車式無段変速機の変速比に基づいて、歯車式無段変速機の出力トルクを判断し、その判断結果に基づいて、モータ・ジェネレータで力行制御および回生制御を実行することにより、歯車式無段変速機から駆動部材に伝達されるトルクの変化を抑制することが可能である。
【0016】
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、アクチュエータにより制御される歯車式無段変速機の変速比に基づいて、歯車式無段変速機の出力トルクの変化振幅と、入力部材または出力部材の回転方向の位相に対する歯車式無段変速機の出力トルクの変化位相とが検知される。これらの検知結果に基づいて、モータ・ジェネレータの力行トルクおよび回生トルクの振幅を決定する第1の制御、または、入力部材または出力部材の回転方向における位相に対するモータ・ジェネレータの力行制御および回生制御の実行時期を決定する第2の制御のうち、少なくとも一方の制御が実行される。したがって、歯車式無段変速機から駆動部材に伝達されるトルクの変化を一層確実に抑制することができる。
【0017】
さらに、請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、歯車式無段変速機への入力トルクの大きさに基づいて、歯車式無段変速機の出力トルクの変化振幅を検知し、その検知結果に基づいて、モータ・ジェネレータを制御することが可能である。したがって、歯車式無段変速機から駆動部材に伝達されるトルクの変化を一層確実に抑制することができる。
【0018】
さらに、請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、入力部材または出力部材の回転数に基づいて、歯車式無段変速機の出力トルクの変化周期を検知することが可能である。したがって、出力トルクの変化周期に基づいて、モータ・ジェネレータを制御することにより、歯車式無段変速機から駆動部材に伝達されるトルクの変化を一層確実に抑制することができる。
【0019】
さらに、請求項5の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、入力部材または出力部材の回転方向における位相に基づいて、歯車式無段変速機の出力トルクの変化を検知することが可能である。したがって、歯車式無段変速機から駆動部材に伝達されるトルクの変化を一層確実に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。図2は、車両のパワートレーンを示す模式図であり、エンジン50のトルクが、歯車式無段変速機100およびモータ・ジェネレータ51およびデファレンシャル52を経由して車輪53に伝達されるように構成されている。図3は、歯車式無段変速機100の一例を模式的に示す正面断面図、図4は、図3のII−II線における略示的な側面断面図である。ここに示す歯車式無段変速機100は、3つの非円形歯車を噛み合わせた歯車列を使用して1組の無段変速ユニットとし、全部で4組の無段変速ユニット1,2,3,4を有している。この4組の無段変速ユニット1,2,3,4は、入力軸5と出力軸6との間の動力伝達経路に並列に配置されている。入力軸5にはシャフト59が連結され、出力軸6にはシャフト60が連結されている。シャフト60は、デファレンシャル52に連結されている。
【0021】
無段変速ユニット1,2,3,4を構成する非円形歯車は、指数関数歯車や楕円歯車などであって、ピッチ円の形状が円形となっていない歯車である。図1および図2に示す例では、楕円歯車を使用した例を示してあり、かつ、図4においては、ピッチ円の形状で各歯車を示しており、歯は省略してある。
【0022】
前記無段変速ユニット1,2,3,4および入力軸5および中間軸7および出力軸6を保持する固定フレーム8が設けられており、固定フレーム8に取り付けられた軸受9により、入力軸5が回転可能に保持されている。この固定フレーム8は、ケーシングあるいは機台部もしくは機枠となっている。また、固定フレーム8には相互に平行な壁部10,11が形成されており、壁部10,11に軸受9が取り付けられている。また、壁部10,11には軸受12が取り付けられており、この軸受12により出力軸6が回転可能に保持されている。さらに、出力軸6にはキャリヤ13が取り付けられている。このキャリヤ13は、壁部10と壁部11との間に配置されており、キャリヤ13は相互に平行な壁部14,15を有している。この壁部14,15に取り付けた軸受16により、中間軸7が回転可能に保持されている。さらにまた、出力軸6とキャリヤ13とが軸受17により連結されている。上記の構成により、入力軸5の回転軸線A1と、出力軸6の回転軸線B1と、中間軸7の回転軸線C1とが相互に平行に配置されているとともに、キャリヤ13が回転軸線B1を中心として回転可能となっている。
【0023】
つぎに、無段変速ユニット1,2,3,4の構成について説明する。まず、入力軸5に、複数(具体的には4つ)の非円形第1歯車である入力歯車18,19,20,21が取り付けられている。これらの入力歯車18,19,20,21は、入力軸5に対して、回転軸線方向の異なる位置に配置されている。各入力歯車18,19,20,21は、歯数やピッチ円などの諸元が同一の楕円歯車である。各入力歯車18,19,20,21は、それぞれ一方向クラッチ22を介して入力軸5に取り付けられている。一方向クラッチ22は、入力軸5と一体回転する内輪23と、各入力歯車18,19,20,21と一体回転する外輪24と、内輪23と外輪24との間に配置された係合体25と、ニードルベアリング26とを有する公知のものである。この一方向クラッチ22は、スプラグタイプまたはローラタイプのいずれでもよい。そして、内輪23と入力軸5とがスプライン結合されており、外輪24の外周に歯が形成されている。
【0024】
また、この一方向クラッチ22にはスラストベアリング(図示せず)が取り付けられている。上記構成の一方向クラッチ22は、入力軸5が、入力歯車18,19,20,21に対して、例えば図4の矢印で示す時計方向に回転しようとする場合には係合して、入力軸5と入力歯車18,19,20,21との間でトルクが伝達される一方、入力軸5が、入力歯車18,19,20,21に対して、図4で反時計方向に回転しようとする場合に解放されて、入力軸5と入力歯車18,19,20,21との間でトルクが伝達されないように構成されている。
【0025】
一方、各入力歯車18,19,20,21に対応し、かつ、それぞれの入力歯車に噛み合う複数の非円形第2歯車である中間歯車27,28,29,30が、出力軸6によって保持されている。これらの中間歯車27,28,29,30同士は、諸元が同じ非円形歯車であって、上記の入力歯車18,19,20,21が楕円歯車であれば、それに合わせて楕円歯車が使用される。そして、これらの中間歯車27,28,29,30は、軸受31を介して出力軸6に対して回転可能に保持されている。なお、入力歯車18,19,20,21と、中間歯車27,28,29,30とを楕円歯車で構成した場合は、入力軸5の回転軸線A1と、出力軸6の回転軸線B1との距離は、楕円の長軸方向の半径と、短軸方向の半径とを加算した距離に設定される。
【0026】
上記の中間歯車27,28,29,30に対応し、かつ、それぞれの中間歯車に噛み合う複数の非円形第3歯車である可動歯車32,33,34,35が、前記中間軸7によって保持されている。これらの可動歯車32,33,34,35は、歯数やピッチ円などの諸元が同一の楕円歯車である。これらの可動歯車32,33,34,35と、中間軸7とが一体回転するように、スプライン結合されている。また、中間歯車27,28,29,30と、可動歯車32,33,34,35とを楕円歯車で構成した場合は、中間軸7の回転軸線C1と、出力軸6の回転軸線B1との距離は、楕円の長軸方向の半径と短軸方向の半径とを加算した距離に設定される。
【0027】
上記の入力歯車18および中間歯車27および可動歯車32の歯車列により、無段変速ユニット1が構成され、入力歯車19および中間歯車28および可動歯車33の歯車列により、無段変速ユニット2が構成され、入力歯車20および中間歯車29および可動歯車34の歯車列により、無段変速ユニット3が構成され、入力歯車21および中間歯車30および可動歯車35の歯車列により、無段変速ユニット4が構成されている。上記のように各無段変速ユニット1,2,3,4は、それぞれ3つの楕円歯車で構成されている。また、無段変速ユニット1においては、入力歯車18と中間歯車27とが噛合された状態で、入力歯車18の取り付け角度に対して、中間歯車27の取り付け角度がπ/2ずれている。さらに、無段変速ユニット2においては、入力歯車19と中間歯車28とが噛合された状態で、入力歯車19の取り付け角度に対して、中間歯車28の取り付け角度がπ/2ずれている。さらに、無段変速ユニット3においては、入力歯車20と中間歯車29とが噛合された状態で、入力歯車20の取り付け角度に対して、中間歯車29の取り付け角度がπ/2ずれている。さらに、無段変速ユニット4においては、入力歯車21と中間歯車30とが噛合された状態で、入力歯車21の取り付け角度に対して、中間歯車30の取り付け角度がπ/2ずれている。
【0028】
一方、上記のように構成された中間歯車27,28,29,30および可動歯車32,33,34,35の幅は、一方向クラッチ22を有する入力歯車18,19,20,21の幅よりも狭く設定されている。ここで、各歯車の幅とは、少なくともボス部の幅を意味する。これは、一方向クラッチ22が、前述したような各種の部品から構成されているためである。さらに、入力歯車18,19,20,21に対応する全ての一方向クラッチ22を係合させた場合に、入力軸5に対する入力歯車18,19,20,21同士の円周方向の位相が、同方向に順次π/4ずつずれるように、入力軸5に入力歯車18,19,20,21が取り付けられている。さらに、中間軸7に対する可動歯車32,33,34,35同士の円周方向の位相が、同方向に順次π/4ずつずれるように、中間軸7に可動歯車32,33,34,35が取り付けられている。
【0029】
さらに、中間軸7と一体回転するカウンタドライブギヤ36が設けられており、出力軸6と一体回転するカウンタドリブンギヤ37が設けられている。このカウンタドリブンギヤ37とカウンタドライブギヤ36とが噛合されている。また、カウンタドライブギヤ36およびカウンタドリブンギヤ37は、共に円形歯車により構成されている。
【0030】
上記のキャリヤ13と共に中間軸7および可動歯車32,33,34,35およびカウンタドライブギヤ36を、出力軸6の周りで所定の角度範囲内で回動させるための回動機構について説明すると、出力軸6に軸受38を介して従動ギヤ39が取り付けられるとともに、アクチュエータであるモータ40で回転させられる駆動ギヤ41が、その従動ギヤ39に噛み合っている。また、駆動ギヤ39とキャリヤ13とが、回転軸線B1を中心として一体回転するように連結されている。さらに、モータ40としてはステッピングモータが用いられており、モータ40を駆動して駆動ギヤ41を所定角度範囲内で回動することにより、キャリヤ13および中間軸7が、回転軸線B1を中心として回転する。その結果、出力軸6を中心とする各中間歯車27,28,29,30のピッチ円上で、可動歯車32,33,34,35と中間歯車27,28,29,30との噛み合い位置が、図4に示すように、円周方向に変位する。
【0031】
一方、前記エンジン50を始動するスタータ54が設けられており、エンジン50のクランクシャフト(図示せず)と、シャフト59とが動力伝達可能に連結されている。また、モータ・ジェネレータ51は、ケーシング(図示せず)に固定されたステータ55と、回転可能なロータ61とを有しており、ロータ61はシャフト60に連結されている。また、モータ・ジェネレータ51にはインバータ56を介して蓄電装置57が接続されている。さらに、車両全体を制御するコントローラとしての電子制御装置58が設けられており、電子制御装置58には、歯車式無段変速機100に入力されるトルクを示す信号、エンジン回転数を示す信号、入力軸5の回転数を示す信号、出力軸6の回転数を示す信号、出力軸6の回転角度(位相)を検知する位相検知センサ62の信号などが入力される。入力軸5の回転数を示す信号および出力軸6の回転数を示す信号に基づいて、歯車式無段変速機100の変速比が判断される。これに対して、電子制御装置58からは、インバータ56を制御する信号、モータ40を制御する信号、エンジン50を制御する信号などが出力される。エンジン50を制御する信号には、燃料噴射量を制御する信号、点火時期を制御する信号、吸入空気量を制御する信号が含まれる。
【0032】
上述した歯車式無段変速機100の作用について説明する。エンジントルクが歯車式無段変速機100の入力軸5に伝達されると、そのトルクが各無段変速ユニット1,2,3,4および中間軸7を経由して出力軸6に伝達される。具体的に説明すると、各無段変速ユニット1,2,3,4においては、各入力歯車と各中間歯車との間で変速が生じ、かつ、各中間歯車と各可動歯車との間で変速が生じる。したがって、入力軸5と出力軸6との間における変速比は、入力歯車と中間歯車との間における変速比と、中間歯車と可動歯車との間における変速比との比で表される。
【0033】
入力軸5と出力軸6との間における変速の原理を、無段変速ユニット1を例として説明する。まず、入力歯車18の回転速度をω1とし、入力歯車18に噛み合っている中間歯車27の回転速度をω2とした場合、速度比ω2/ω1は、回転軸線A1,B1と、各歯車18,27の接触点(噛み合い位置)との距離の連続的な変化に対応して変化する。同様に、可動歯車32の回転速度をω3とし、可動歯車32に噛み合っている中間歯車27の速度比をω2とした場合、速度比ω3/ω2は、回転軸線B1,C1と、各歯車27,32の接触点との距離の連続的な変化に対応して変化する。
【0034】
図4においては、回転軸線A1,B1,C1が直線D1に位置している状態(この状態を基準状態と呼ぶ)に対応して、各歯車およびキャリヤ13が実線で示されている。図4においては、各入力歯車および各可動歯車および各中間歯車が、便宜上、それぞれ同一の位相として示されている。この基準状態においては、入力歯車18および可動歯車32の長軸(図示せず)が、直線D1上に位置し、中間歯車27の短軸(図示せず)が直線D1上に位置する。この基準状態においては、前記の速度比ω2/ω1は、最も小さく(増速側に)なる。また、前記速度比ω3/ω2は、最も大きく(減速側に)なる。図5には、各歯車を楕円歯車で構成した場合における各速度比ω2/ω1,ω3/ω2と、各歯車の回転角度(位相)との関係を線図で示してある。上記のように入力歯車18と中間歯車27との間の速度比ω2/ω1が最小の時に、中間歯車27と可動歯車32との間の速度比ω3/ω2が最大となるから、速度比ω2/ω1と、速度比ω3/ω2とは、その位相がπ/2ずれる。したがって、前記の基準状態においては、入力歯車18と可動歯車32との間の速度比ω3/ω1は、“1”となる。すなわち、増減速が生じない。
【0035】
一方、モータ40を駆動させて、図4において、キャリヤ13および中間軸7を回転軸線B1を中心として反時計方向に回動させることにより、回転軸線C1を、直線D1とは異なる直線D2上に変位させることが可能である。ここで、直線D1と直線D2の間には、回転軸線B1を基準として所定の角度(零度を越える値)αが存在する。例えば、前記キャリヤ13を、図4で反時計方向に所定角度α回転させると、入力歯車18と中間歯車27との間の速度比が最増速比となっていても、中間歯車27と可動歯車32との間の速度比は、最減速比よりも小さい減速比となる。その結果、入力歯車18と可動歯車32との間の速度比ω3/ω1は、“1”より小さくなる。
【0036】
非円形歯車からなる歯車を噛み合わせてなる歯車列において、非円形歯車からなる入力歯車と非円形歯車からなる中間歯車との間の速度比ω2/ω1を、(1+Csin2θ)(Cは絶対値が1より小さい定数)で表すと、中間歯車と可動歯車との間の速度比ω3/ω2は(1+Csin2(θ+α))で表され、結局、入力歯車と可動歯車との間における速度比ω3/ω1は、
(1+Csin2(θ+α))/(1+Csin2θ)
となる。無段変速ユニット全体としての変速比は、無段変速ユニットを構成する歯車が、楕円歯車である場合、指数関数歯車である場合など、その歯車の形状に応じて演算可能である。
【0037】
この実施例のように、3個の楕円歯車を用いた無段変速ユニット1において、入力歯車と中間歯車との速度比ω2/ω1=は、
ω2/ω1=(1−ε2)/(1+ε2+2・ε・cos(2θ1)) ・・・(1)
で表される。
また、中間歯車と可動歯車との間の速度比ω3/ω2は、
ω3/ω2=(1−ε2)/(1+ε2+2・ε・cos(2θ2)) ・・・(2)
で表される。上記の式(1)および式(2)において、εは、離心率である。離心率とは、歯車の中心から、歯車同士の噛み合い点までの距離の変化を示すものであり、離心率は、
0<ε<1
で表される。上記の式(1)および式(2)から、無段変速ユニット1としての速度比ω3/ω1を算出可能であり、キャリヤ13の角度αを変化させることにより、無段変速ユニット1としての変速比が連続的に(無段階に)変化することが判明している。
【0038】
図5においては、回転軸線C1を直線D1上から変位させた場合における速度比ω2/ω1が線E1で示され、速度比ω3/ω2が線E2で示されている。なお、他の無段変速ユニット2,3,4における変速の原理は、無段変速ユニット1と同様である。さらに、回転軸線C1を直線D1上から変位させた場合において、無段変速ユニット2における速度比ω2/ω1は線E3で示され、速度比ω3/ω2は線E4で示され、無段変速ユニット3における速度比ω2/ω1は線E5で示され、速度比ω3/ω2は線E6で示され、無段変速ユニット4における速度比ω2/ω1は線E7で示され、速度比ω3/ω2は線E8で示されている。
【0039】
上述したように、各無段変速ユニット1,2,3,4には、それぞれ一方向クラッチ22が介装されている。このため、前述の基準状態においては、全ての入力歯車18,19,20,21の回転速度が同一となり、4つの一方向クラッチ22が共に係合される。したがって、入力軸5のトルクは、全ての無段変速ユニット1,2,3,4を経由して中間軸7に伝達される。これに対して、キャリヤ13および中間軸7を回動させて、回転軸線C1を直線D1とは異なる位置に変位させると、入力軸5に対して中間軸7を増速させるように機能するいずれかの無段変速ユニットを経由して、トルクの伝達がおこなわれる。より具体的には、入力歯車の回転速度が最高速となる無段変速ユニットを順次経由して、トルクが伝達される。つまり、歯車式無段変速機100全体としての変速比は、図5に示すように、各無段変速ユニット1,2,3,4における速度比のピーク付近を接続した線F1で表される。すなわち、前記基準状態以外では、角度αを一定に維持(固定)した場合でも、変速比は微小幅G1の範囲で変化する。
【0040】
そして、キャリヤ13および中間軸7の位置を制御することにより、歯車式無段変速機100全体としての変速比を“1”以下の領域で大小に制御することが可能である。ちなみに、角度αは、90度の範囲で調整可能であり、図4に示すように、角度αを90度に設定して回転軸線C1を直線D上に移動させた場合は、変速比が最も小さくなる。
【0041】
上記のようにして、入力軸5から各無段変速ユニット1,2,3,4を経由して中間軸7にトルクが伝達されるとともに、そのトルクはカウンタドライブギヤ36およびカウンタドリブンギヤ37を経由して出力軸6に伝達される。この出力軸6のトルクは、シャフト60を経由してデファレンシャル52に伝達され、デファレンシャル52のトルクが車輪53に伝達されて、駆動力が発生する。一方、蓄電装置57の電力をインバータ56を経由させてモータ・ジェネレータ51に供給して、モータ・ジェネレータ51を力行制御することにより、モータ・ジェネレータ51のトルクを車輪53に伝達することも可能である。つまり、図2に示す車両は、エンジン50またはモータ・ジェネレータ51の少なくとも一方を駆動力源とすることのできるハイブリッド車である。
【0042】
ところで、前述したように、歯車式無段変速機100においては、キャリヤ13が固定されて、角度αが一定に維持されている場合でも、各歯車の回転にともない、歯車の中心から、歯車同士の噛み合い点までの距離が変化する。その結果、図5に示すように、歯車式無段変速機100における入力軸5と出力軸6との間における変速比が変化するとともに、各歯車のイナーシャが変化する。したがって、エンジントルクが略一定であっても、線分H1のように出力軸6のトルクが変化する。図6は、この出力トルクの経時変化を波形で示した線図である。より具体的には、図5に示す微小幅G1の範囲で変化する変速比と相似する特性で、経時変化に応じて出力トルクが増減を繰り返す。
【0043】
そこで、図6に示すような出力トルクの変動が生じた場合に、車輪53に伝達されるトルクの変動を抑制するための制御例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。図1の制御例は、請求項1および5の発明に対応するものである。まず、各歯車の回転にともなう歯車式無段変速機100の変速比の変化が判断されるとともに、その変速比の経時変化と、歯車式無段変速機100に入力されるトルクとに基づいて、歯車式無段変速機100における出力トルクの経時変化が判断される(ステップS1)。ここで、歯車式無段変速機100の出力トルクの経時変化は、出力回転軸6の回転角度の変化に対応して判断すればよい。また、歯車式無段変速機100に入力されるトルクは、吸入空気量、燃料噴射量、点火時期などにより判断される。また、歯車式無段変速機100の変速比は、入力軸5の回転数と出力軸6の回転数とに基づいて判断される。ついで、ステップS1の判断結果に基づいて、車輪53に伝達されるトルクを抑制するように、モータ・ジェネレータ51を制御し(ステップS2)、リターンする。
【0044】
このステップS2においては、例えば、車輪53に伝達されるトルクが、線分h1で示すような略一定のトルクになるように、モータ・ジェネレータ51の力行制御と回生制御とを交互に繰り返す。つまり、出力トルクが線分h1よりも高い位相または領域では、モータ・ジェネレータ51で回生制御を実行し、出力トルクが線分h1よりも低い位相または領域では、モータ・ジェネレータ51で力行制御を実行すれば、車輪53に伝達されるトルクを、時間の経過、つまり、出力軸6の回転角度に関わりなく、線分h1で示すような略一定のトルクに制御することが可能である。ここで、モータ・ジェネレータ51の力行トルクおよび回生トルクの大きさ(量)は、線分h1に相当するトルクと、出力トルクH1との差に基づいて決定される。
【0045】
図1のフローチャートに示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1が、この発明の出力トルク検知手段に相当し、ステップS2が、この発明のモータ・ジェネレータ制御手段に相当する。
【0046】
つぎに、歯車式無段変速機100で実行可能な他の制御例を、図7のフローチャートに基づいて説明する。図7の制御例は、請求項2の発明に対応するものである。前述したように、キャリア13を回転させて角度αを変更すると、歯車式無段変速機100の変速比が変化し、出力トルクが変化する。この図7のフローチャートは、キャリア13の角度αの変化に対応させて、モータ・ジェネレータ51を制御するものである。まず、キャリヤ13の角度αの調整による歯車式無段変速機100の変速比が検知され、かつ、この歯車式無段変速機100の変速比において、各歯車の回転にともなう出力トルクの変化が検知される(ステップS11)。このステップS11の検知結果に基づいて、モータ・ジェネレータ12の制御を実行し(ステップS12)、リターンされる。
【0047】
この図7の制御を具体的に説明すると、図8の線図に示すように、キャリヤ13の角度αが小さい場合(変速比大)と、キャリヤ13の角度αが大きい場合(変速比小)とでは、出力トルクの変化状態が異なる。まず、変速比大の場合の方が、変速比小の場合よりも、出力トルクの変化する振幅が小さくなる。また、変速比大の場合と、変速比小の場合とでは、出力回転角の変化に応じた出力トルクの変化位相が異なる。例えば、出力トルクの位相変化φは、次式により求められる。
φ=f(α)
上記の式において、fは、回転中心を基準とする歯車のピッチ円の形状、歯車の葉数などに応じた関数である。なお、歯車の葉数については後述する。このよな条件に基づいて、ステップS11の処理がおこなわれる。なお、ステップS12の制御において、出力トルクH1の変化に応じて、車輪53に伝達されるトルクが線分h1となるように、モータ・ジェネレータ12の回生トルクおよび力行トルクの大きさを制御することは、図1の制御と同じである。
【0048】
このように、図7の制御によれば、キャリア13の回転角度の変化にともなう歯車式無段変速機100の変速比の変化に応じて、出力トルクの変化振幅および出力トルクの変化位相を検知することが可能である。したがって、前輪53に伝達されるトルクの変化を一層確実に抑制することができる。なお、ステップS12の処理では、モータ・ジェネレータ51の回生制御と力行制御との間の振幅、または回生制御と力行制御とを含む位相のうち、少なくとも一方を制御することが可能である。
【0049】
ここで、図7に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS11が、この発明の出力トルク検知手段に相当し、ステップS12が、この発明のモータ・ジェネレータ制御手段に相当する。また、キャリア13の角度αに応じて出力トルクの振幅を判断し、その判断結果に基づいて、モータ・ジェネレータ12の力行トルクおよび回生トルクを決定する制御が、この発明の「第1の制御」に相当する。さらに、キャリア13の角度αに応じて出力トルクの位相変化を判断し、その判断結果に基づいて、モータ・ジェネレータ12の力行トルクおよび回生トルクを制御することが、この発明の「第2の制御」に相当する。
【0050】
つぎに、歯車式無段変速機100で実行可能な他の制御例を、図9のフローチャートに基づいて説明する。この図9の制御例は、請求項3の発明に対応するものである。まず、歯車式無段変速機100に入力されるトルクが検知され、その検知結果に基づいて、出力軸6の回転角度に応じた出力トルクの変化およびその振幅が判断される(ステップS21)。ここで、歯車式無段変速機100に入力されるトルクは、燃焼噴射量、点火時期、吸入空気量などに基づいて判断される。
【0051】
歯車式無段変速機100に入力されるトルクと、出力トルクとの関係の一例が、図10に示されている。図10の線図に示すように、入力トルク大である場合の方が、入力トルク小である場合に比べて、出力トルクの変化振幅が大きくなる。そして、ステップS21の判断結果に基づいて、モータ・ジェネレータ51の回生トルクおよび力行トルクを制御し(ステップS22)、リターンされる。
【0052】
なお、ステップS22の制御において、出力トルクH1の変化に応じて、車輪53に伝達されるトルクが線分h1となるように、モータ・ジェネレータ12の回生トルクおよび力行トルクの大きさを制御することは、図1の制御と同じである。このように、図9の制御例を実行すれば、入力トルクの変化に応じて出力トルクの変化振幅を高精度に判断することができ、車輪53に伝達されるトルクの変化を、一層確実に抑制することができる。ここで、図9に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS21が、この発明の出力トルク検知手段に相当し、ステップS22が、この発明のモータ・ジェネレータ制御手段に相当する。
【0053】
つぎに、車輪53に伝達されるトルクの変動を抑制するための他の制御例を、図11のフローチャートに基づいて説明する。図11の制御例は、請求項4の発明に対応するものである。まず、出力軸6の回転数に基づいて、出力トルクの変化および出力トルクの変化周期が検知され(ステップS31)、ステップS31の検知結果に基づいてモータ・ジェネレータ51の制御を実行し(ステップS32)、リターンされる。すなわち、図12の線図に示すように、出力トルクの変化周期Tは、歯車式無段変速機100の出力回転数に基づいて変化する。
【0054】
ここで、出力トルクの変化周期Tとは、線分h1を基準として、1つの力行領域と1つの回生領域とが発生する出力トルクの変化を1サイクルとした場合に、その1サイクルの開始から終了までの時間を意味する。この周期Tは、出力回転数に応じて変化する。より具体的には、出力回転数が小さくなるほど、周期Tが長くなる傾向を示す。この周期Tは、次式により求めることが可能である。
T=1/(N・J・k)
【0055】
この式において、Nは出力回転数であり、Jは歯車の葉数であり、kは無段変速ユニットの列数である。ここで、歯車の葉数とは、相互に噛み合う歯車同士の間で、減速1回および増速1回がおこなわれる場合を1サイクルとして、歯車が1回転する間に発生するサイクル数を意味する。また、無段変速ユニットの列数とは、相互に噛み合う複数の歯車を1列として、各歯車の回転方向の位相が異なる歯車列の数を意味する。
【0056】
そして、ステップS32では、ステップS31で検知された出力トルクの変化および出力トルクの変化周期Tに基づいて、モータ・ジェネレータ51の力行トルクおよび回生トルクの大きさが制御され、かつ、力行制御および回生制御の1サイクルを開始してから終了するまでの時間が制御される。なお、ステップS32の制御において、出力トルクH1の変化に応じて、車輪53に伝達されるトルクが線分h1となるように、モータ・ジェネレータ12の回生トルクおよび力行トルクの大きさを制御することは、図1の制御と同じである。
【0057】
この図11の制御例によれば、出力トルクの変化位相と、モータ・ジェネレータ51の制御位相とを一致させることが可能であり、車輪53に伝達されるトルクの変動を、一層抑制することができる。図11のフローチャートに示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS31が、この発明の出力トルク検知手段に相当し、ステップS32が、この発明のモータ・ジェネレータ制御手段に相当する。
【0058】
つぎに、図2に示す歯車式無段変速機100の他の構成例を、図13に基づいて説明する。図13の構成において、図3の構成と同じ構成については、図3と同じ符号を付してある。図13においては、各入力歯車18,19,20,21と入力軸5とが一体回転するようにスプライン結合されている。一方、可動歯車32,33,34,35は、それぞれ一方向クラッチ63を介して中間軸7に取り付けられている。一方向クラッチ63は、中間軸7と一体回転する内輪64と、各可動歯車32,33,34,35と一体回転する外輪65と、内輪64と外輪65との間に配置された係合体66と、ニードルベアリング67とを有する公知のものである。そして、内輪64と中間軸7とがスプライン結合されており、外輪65の外周に歯が形成されている。
【0059】
上記構成の一方向クラッチ63は、可動歯車32,33,34,35が、中間軸7に対して、図4の矢印で示す時計方向に回転する場合に係合して、可動歯車32,33,34,35と中間軸7との間でトルクが伝達される一方、可動歯車32,33,34,35が、中間軸7に対して図4で反時計方向に回転する場合に場合に解放されて、可動歯車32,33,34,35と中間軸7との間でトルクが伝達されなくなるように構成されている。なお、可動歯車32,33,34,35と中間歯車27,28,29,30とが噛合した状態で、可動歯車32,33,34,35同士の円周方向の位相が、同方向に順次π/4ずつずれている構成は、図3の構成と同じである。また、図13の歯車式無段変速機100においては、入力軸5の回転角度(位相)を検知する位相検知センサ68が設けられている。位相検知センサ68の信号は、図2に示す電子制御装置58に入力される。
【0060】
この図13に示された歯車式無段変速機100においては、エンジントルクがシャフト59を経由して入力軸5に伝達されると、入力軸5と各入力歯車18,19,20,21とが一体回転し、入力軸5のトルクが中間歯車27,28,29,30を経由して可動歯車32,33,34,35に伝達される。ここで、可動歯車32,33,34,35同士の円周方向の位相が、同方向に順次π/4ずつずれているため、図3の場合と同様にして、最も回転速度が速い可動歯車に対応する一方向クラッチ63が順次係合し、その他の可動歯車に対応する一方向クラッチが解放される。このようにして、入力軸5のトルクが中間軸7に伝達されるとともに、入力軸5と出力軸6との間における変速比が、図3で説明した変速の原理と同様にして変化する。なお、この図13における歯車式無段変速機140においても、キャリア13の角度を調整することにより、歯車式無段変速機100の変速比を制御可能である。
【0061】
この図13に示す歯車式無段変速機100を有する車両においても、図1、図7、図9、図11の制御を実行して、車輪53に伝達されるトルクの変化を抑制することが可能である。図13の歯車式無段変速機100において、図1、図7、図9の制御を実行する場合、これらの制御で説明した「出力軸6の回転角度(出力回転角度)」を、「入力軸5の回転角度(入力回転角度)」と読み替えればよい。また、図13に示す歯車式無段変速機100で図11の制御を実行する場合、図11の制御および図12の線図で説明した「出力回転数」を、「入力回転数」と読み替えればよい。したがって、図13に示された歯車式無段変速機100においても、図3の歯車式無段変速機100で各制御を実施した場合と同様の効果を得られる。なお、前述した各制御例を組み合わせて実行することも可能である。
【0062】
ところで、図3または図13のいずれに示された歯車式無段変速機100においても、動力伝達経路に一方向クラッチが設けられており、車両の惰力走行による運動エネルギに応じたトルクが、前輪53から出力軸6に伝達された場合、一方向クラッチは解放される。このため、前記のトルクはエンジン50には伝達されず、エンジンブレーキ力は発生しない。そこで、図2に示すパワートレーンにおいては、車両の惰力走行時には、モータ・ジェネレータ51を回生制御することにより、運動エネルギに応じた動力を電力に変換して、その電力を蓄電装置57に充電する際に、回生ブレーキを生じさせることが可能である。さらに、車両の惰力走行時には、運動エネルギに応じたトルクがエンジン50には伝達されないため、モータ・ジェネレータ51で回生制動をおこなう場合に、回生効率の低下を抑制できる。また、運動エネルギに応じた動力の一部がエンジン50に伝達されることを防止するために、歯車式無段変速機100とエンジン50との間の動力伝達を遮断するクラッチを設ける必要もない。
【0063】
なお、この発明の歯車式無段変速機の非円形歯車は楕円歯車に限定されず、各種の形状のものを使用することができる。すなわち、この発明における「非円形歯車」とは、歯車の回転中心から、歯車同士の噛み合い点までの距離が、歯車の回転にともなって変化する構成の歯車を意味する。このため、この発明における非円形歯車には、指数関数歯車、偏心位置を中心に回転する円形歯車などが含まれる。ここで、円形歯車とは、歯先円の形状が円形である構成の歯車を意味する。また、キャリヤ13を回動させるためのアクチュエータとしてモータ以外の回転式のアクチュエータや直動型のアクチュエータを使用してもよい。また、複数の無段変速ユニットは、5組以上でもよいし、2組または3組でもよい。無段変速ユニットの組数に応じて、一方向クラッチが係合された状態における入力歯車同士の位相のずれ量、および可動歯車同士の位相のずれ量が設計されることは当然である。
【0064】
ここで、図2,図3,図13で説明した構成と、入力歯車18,19,20,21および中間歯車27,28,29,30および可動歯車32,33,34,35が、この発明の複数の非円形歯車に相当し、入力軸5が、この発明の入力部材に相当し、出力軸6が、この発明の出力部材に相当し、車輪53が、この発明の駆動部材に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】この発明における動力伝達装置で実行可能な制御例を示すフローチャートである。
【図2】この発明における動力伝達装置を有する車両のパワートレーンおよびその制御系統を示す概念図である。
【図3】この発明で用いる歯車式無段変速機の一例を示す正面断面図である。
【図4】図3のII−II線における模式的な側面断面図である。
【図5】図3に示す歯車式無段変速機において、入力歯車と中間歯車と可動歯車との間の回転速度比を示す線図である。
【図6】歯車式無段変速機の出力トルクの変化波形を示す線図である。
【図7】この発明における動力伝達装置で実行可能な他の制御例を示すフローチャートである。
【図8】図7の制御例に対応し、かつ、歯車式無段変速機の出力トルクの変化波形を示す線図である。
【図9】この発明における動力伝達装置で実行可能な他の制御例を示すフローチャートである。
【図10】図9の制御例に対応し、かつ、歯車式無段変速機の出力トルクの変化波形を示す線図である。
【図11】この発明における動力伝達装置で実行可能な他の制御例を示すフローチャートである。
【図12】図11の制御例に対応し、かつ、歯車式無段変速機の出力トルクの変化波形を示す線図である。
【図13】この発明で用いる歯車式無段変速機の一例を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0066】
5…入力軸、 6…出力軸、 18,19,20,21…入力歯車、 22…一方向クラッチ、 27,28,29,30…中間歯車、 32,33,34,35…可動歯車、 40…アクチュエータ、 50…エンジン、 51…モータ・ジェネレータ、 53…車輪、 100…歯車式無段変速機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源から駆動部材に至る動力伝達経路に歯車式無段変速機が設けられており、この歯車式無段変速機の入力部材から出力部材に至る動力伝達経路に、相互に噛み合わされた複数の非円形歯車が設けられており、各非円形歯車の回転にともない、各非円形歯車の回転中心から、各非円形歯車同士の噛み合い箇所までの距離が変化して、前記歯車式無段変速機の入力部材と出力部材との間における変速比が変化する構成を有しているとともに、所定の非円形歯車の回転中心を、他の非円形歯車の回転中心に対して変位させることにより、前記歯車式無段変速機の入力部材と出力部材との間における変速比を制御するアクチュエータが設けられている動力伝達装置において、
前記歯車式無段変速機から前記駆動部材に至る動力伝達経路にモータ・ジェネレータが設けられているとともに、
前記非円形歯車の回転にともなう前記歯車式無段変速機の変速比の変化を検知するとともに、この変速比の変化にともなう前記歯車式無段変速機の出力トルクの変化を検知する出力トルク検知手段と、
この出力トルク検知手段により検知される前記歯車式無段変速機の出力トルクの変化に基づいて、前記モータ・ジェネレータで力行制御および回生制御を実行することにより、前記駆動部材に伝達されるトルクの変化を抑制するモータ・ジェネレータ制御手段と
を備えていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記出力トルク検知手段は、前記アクチュエータにより制御される前記歯車式無段変速機の変速比の変化に基づいて、前記出力トルクの変化振幅を検知する手段と、前記入力部材または出力部材の回転方向における位相に対する出力トルクの変化位相を検知する手段とを含み、
前記モータ・ジェネレータ制御手段は、前記モータ・ジェネレータの力行トルクおよび回生トルクの振幅を決定する第1の制御、または、前記入力部材または出力部材の回転方向における位相に対する前記モータ・ジェネレータの力行制御および回生制御の実行時期を決定する第2の制御のうち、少なくとも一方の制御を実行する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記出力トルク検知手段は、前記歯車式無段変速機への入力トルクの大きさに基づいて、前記歯車式無段変速機の出力トルクの変化振幅を検知する手段を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記出力トルク検知手段は、前記入力部材または前記出力部材の回転数に基づいて、前記出力トルクの変化周期を検知する手段を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記出力トルク検知手段は、前記入力部材または前記出力部材の回転方向における位相に基づいて、前記歯車式無段変速機の出力トルクの変化を検知する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−112484(P2006−112484A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299028(P2004−299028)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】