説明

半導体装置の製造方法

【課題】ゲート電極を形成する際に、ゲート絶縁膜に金属原子が注入されることを抑制し、ゲートリーク電流の増加や閾値電圧の不安定化等を防止する。
【解決手段】MOSトランジスタを備える半導体装置の製造方法である。半導体基板11上にゲート絶縁膜12を形成する。ゲート絶縁膜12上に金属原子を複数個含むクラスタのイオン13を堆積させ、ゲート電極14の少なくとも最下層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMOSトランジスタを備える半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータや通信機器の重要部分には、多数のトランジスタや抵抗等を電気回路として結びつけ、1チップ上に集積化して形成した大規模集積回路(LSI)が多用されている。このため、機器全体の性能はLSI単体の性能と大きく結びついている。LSI単体の性能向上は集積度を高めること、すなわち素子の微細化により実現できる。素子の微細化は、例えばMOS電界効果トランジスタ(MOSFET)であればゲート長の短縮化やソース・ドレイン領域の薄層化により実現することができる。
【0003】
浅いソース・ドレイン領域を形成する方法としては、低加速イオン注入法が広く用いられている。この方法を適用することによって、0.1μm以下の浅いソース・ドレイン領域を形成することができる。しかし、低加速イオン注入法で形成される不純物拡散層はシート抵抗が100Ω/□以上という高い値になるため、このままでは微細化による高速化が期待できない。そこで、LOGIC−LSIのように高速性を要求される半導体デバイスにおいては、ソース・ドレイン・ゲートの抵抗を低減するために、ソース・ドレイン拡散層およびゲート電極(n+またはp+多結晶Si)の表面に自己整合的に低抵抗のシリサイド膜を形成するサリサイド技術が用いられている。
【0004】
デュアルゲート構造(同一層内でシリサイド層の下地としてn+多結晶Siとp+多結晶Siを用いた構造)を採用する場合、サリサイド構造は単にゲート電極を低抵抗化するだけでなく、工程の簡略化に有効である。その理由は、ソース・ドレインへの不純物ドーピングの際に、同時にゲート電極を構成する多結晶Siにドーピングすることが可能であるためである。ただし、Wポリサイド等をゲート電極として用いた場合には、ゲート電極の底部の多結晶Siをn+/p+にドーピング分けする工程と、ソース・ドレインをn+/p+にドーピング分けする工程とを別のタイミングで行う必要があり、リソグラフィ工程が2回、イオン注入工程が2回、レジスト除去工程が2回増加する。
【0005】
このような問題を解決するために、ゲート材料に多結晶Siのような半導体材料ではなく、金属材料を直接ゲート絶縁膜上に設けた、いわゆるメタルゲートが提案されている。メタルゲートは半導体材料を用いた場合に起こる不純物原子の電気的不活性化や不純物のSi基板への拡散による閾値電圧の変動等を抑制することができる。しかし、精密なゲート加工が難しく、またソース・ドレインへのドーピング後の活性化熱工程等の高温工程で薄いゲート絶縁膜との界面が不安定になる等の問題がある。
【0006】
メタルゲートはゲート空乏化層を薄膜化または無くすのに有効であるが、CMOSFETで低い閾値電圧を得るためには、通常のSiチャネル上でnMOS用として4.0〜4.1eV、pMOS用として5.1〜5.2eVの仕事関数の金属を成膜する必要がある。このため、工程数が多くなると共に、nMOSまたはpMOSの片方の金属を剥離することで、ゲート絶縁膜にダメージが生じる等の問題がある。このように、2種類の仕事関数のメタルゲート電極をCMOSインテグレーションすることは非常に困難である。
【0007】
さらに、金属膜(メタルゲート)を従来のスパッタ法で成膜すると、スパッタされた金属原子のエネルギー分布が最大で数100eV以上になるため、金属原子がゲート絶縁膜に注入されるおそれがある。その結果として、ゲートリーク電流を増加させたり、閾値電圧を不安定にするという問題がある。近年、スパッタ法の中でもECR放電を用いて放電部と半導体基板との距離を離し、高エネルギー粒子の衝突を避けることが試みられているが、その場合においても100eVを超える金属粒子が存在するため、SiO換算の膜厚で1.3nm以下の極薄のゲート絶縁膜(SiON膜、HfSiON膜、HfO膜等)中に金属原子が注入され、リーク電流を増加させる要因となっている。
【0008】
なお、特許文献1にはソース・ドレインおよびゲートのシリコン領域上にシリサイドを形成する際に、非シリサイド金属(第1の金属)からなる金属クラスタ層を形成する工程と、金属クラスタ層上にシリサイド化金属(第2の金属)の層を堆積する工程と、第2の金属とシリコン領域とを反応させて金属シリサイドを形成する工程とを含む半導体装置の製造方法が記載されている。ここでは金属クラスタが存在する部位と存在しない部位とを混在させるために、CVDを適用して金属クラスタを堆積させており、スパッタ時における金属原子当たりのエネルギーについては何等考慮されていない。
【特許文献1】特開2005−123626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ゲート電極を形成する際のゲート絶縁膜への金属原子の注入を抑えることによって、ゲートリーク電流の増加や閾値電圧の不安定化を抑制することを可能にした半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る半導体装置の製造方法は、MOSトランジスタを備える半導体装置の製造方法であって、半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜上に複数個の金属原子を含むクラスタのイオンを堆積させ、ゲート電極の少なくとも最下層を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【0011】
本発明の他の態様に係る半導体装置の製造方法は、CMOSトランジスタを備える半導体装置の製造方法であって、半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程と、前記半導体基板のpMOS領域またはnMOS領域の一方の領域の少なくとも一部を覆うように、前記ゲート絶縁膜上に第1のマスク材料層を形成する工程と、前記第1のマスク材料層で覆われた部分を含めて前記ゲート絶縁膜上に、複数個の金属原子を含むクラスタのイオンを堆積させ、第1のゲート電極を形成する工程と、前記第1のマスク材料層を除去した後、前記半導体基板の前記pMOS領域またはnMOS領域の他方の領域の少なくとも一部を覆うように、前記第1のゲート電極上に第2のマスク材料層を形成する工程と、前記第2のマスク材料層で覆われた部分を含めて前記ゲート絶縁膜上に、複数個の金属原子を含むクラスタのイオンを堆積させ、第2のゲート電極を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【0012】
本発明のさらに他の態様に係る半導体装置の製造方法は、CMOSトランジスタを備える半導体装置の製造方法であって、半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜上に複数個の金属原子を含むクラスタのイオンを堆積させて導電膜を形成する工程と、pMOS領域およびnMOS領域に応じて前記導電膜に異なる物質を導入し、pMOS用ゲート電極およびnMOS用ゲート電極を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の態様に係る半導体装置の製造方法によれば、ゲート電極を形成する際のゲート絶縁膜への金属原子の注入が抑制される。従って、ゲートリーク電流の増加や閾値電圧の不安定化を防ぐことができ、MOS(CMOSを含む)トランジスタを備える半導体装置の信頼性や製造歩留りを向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。まず、本発明の半導体装置の製造方法の第1の実施形態について、図1を参照して述べる。第1の実施形態においては、クラスタイオンを用いたゲート電極の基本的な形成工程について述べる。
【0015】
図1に示すように、Si基板11上にゲート絶縁膜12を形成する。ゲート絶縁膜12にはSi酸化物、Si窒化酸化物、金属酸化物、金属窒化酸化物、金属Si酸化物、金属Si窒化酸化物等が適用される。ゲート絶縁膜12は実効酸化膜厚が1.3nm以下のSiON膜、HfSiON膜、HfO膜等であることが好ましい。このようなゲート絶縁膜12に、金属原子を複数個、例えば10個以上含むクラスタのイオン13を照射する。クラスタイオン13はゲート絶縁膜12上を移動しながら堆積する。クラスタイオン13の堆積によって、ゲート電極14となる導電膜が形成される。
【0016】
ゲート電極14は金属や金属化合物から選ばれる少なくとも1種の導電性材料で構成される。ゲート電極14に適用される金属化合物としては、導電性を有する金属珪化物、金属窒化物、金属炭化物、金属硼化物、金属ジャーマナイド、金属酸化物等が挙げられる。金属や金属的導電特性を示す金属化合物からなるゲート電極14は、多結晶Siやそのサリサイドからなるゲート電極とは区別されることから、メタルゲートと呼ばれるものである。CMOSトランジスタを作製する場合には、金属や金属化合物からなる導電性材料の仕事関数に基づいて、pMOS用ゲート材料およびnMOS用ゲート材料を選択する。
【0017】
pMOS用ゲート材料の代表例としては、タングステン(W)が挙げられる。W以外にも、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、および炭素(C)から選ばれる少なくとも1種は、pMOS用の仕事関数が4.6eV以上のゲート材料として適用することができる。ただし、pMOS用ゲート材料はこれらに限られるものではなく、仕事関数が4.6eV以上の金属や金属化合物が適用可能である。
【0018】
ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、およびランタン(La)から選ばれる少なくとも1種と、炭素(C)、窒素(N)、硼素(B)、珪素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、および酸素(O)から選ばれる少なくとも1種とを組合せた導電性の金属化合物は、nMOS用の仕事関数が4.6eV未満のゲート材料として適用することができる。ただし、nMOS用ゲート材料はこれらに限られるものではなく、仕事関数が4.6eV未満の金属や金属化合物が適用可能である。
【0019】
例えば、10個以上のW原子を含むクラスタイオン13は、以下のようにして形成される。まず、1×10−5Pa程度の高真空中に先端が1mm以下に加工されたノズルを通し、約10気圧程度のHeで希釈されたW(CO)ガスを高真空中に放出する。このときに起こる断熱膨張でガス分子が冷却され、1000個から5000個のクラスタが形成される。このようなクラスタを低エネルギーの電子や電気陰性度の異なる低エネルギーの原子と衝突させてイオン化してクラスタイオン13を形成する。
【0020】
図2はクラスタイオンを用いた成膜装置の一例を示している。図2に示す成膜装置20は主要構成部として、クラスタイオンの発生部21とイオンビームの加速部22と成膜室23とを具備している。クラスタイオンの発生部21は、1気圧以上10気圧未満のガスを導入するガス導入部24と、ガスの出口を1mm程度に細く絞ったオリフィス部25とを有する。オリフィス部25でクラスタはイオン化される。ガス導入部24には、金属原子を含む気体を導入する部分26と、不活性ガスまたはクリーニングガスを導入する部分27とが構成要素として組み込まれている。
【0021】
オリフィス部25でイオン化されたクラスタイオン13は、イオンビームの加速部22で静電レンズや磁界レンズ等によりイオンの方向性を調節されながら加速される。加速されたクラスタイオン(イオンビーム)13は、成膜室23内のウエハサセプタ28上に載置された半導体ウエハ29に照射されて堆積する。ウエハサセプタ28はイオンビーム13と垂直方向の面で少なくとも2つの方向(X方向とY方向)に移動可能とされている。図2ではX方向しか図示していないが、X方向とクラスタイオン13の移動方向とに垂直なY方向にも移動可能とされている。成膜する膜厚がウエハ面内で均一になるように、半導体ウエハ29を移動させながら成膜させることが可能とされている。
【0022】
成膜室23は、イオンビーム電流をモニターするファラデーカップ30と、クリーニングガス導入機構31とを備える。クラスタイオン(イオンビーム)13を用いて成膜する場合、クリーニングを行わないと最悪の場合にはウエハ5枚から10枚くらいで、装置内のパーティクル数が増大し、0.12μm以上のパーティクルの数がウエハ面内で100個以上になる。これは微細な素子形成に悪影響を与えるため、定期的に装置内のクリーニングを実施することが好ましい。クリーニングガスとしては、NF、F、HF、SF、ClF、XeF、KrF等を用いることができ、使用する金属や金属化合物の種類に応じて適宜選択する。この実施形態では主としてNFやFが使用される。
【0023】
クラスタイオン13を形成するにあたっては、不活性ガスとしてHeに代えてNe、Ar、Xe等を使用することができる。ただし、Ne、Ar、Xeを用いた場合に比べてHeを使用した場合にはクラスタの質量が小さくなるため、クラスタがビームラインやエンドステーションの壁、構成部品等に衝突した際に、スパッタリング現象により生じるパーティクルの発生数を減少させることができる。Arを用いた場合には、直径300mmのSiウエハ上で検出される0.12μm以上の大きさのパーティクル数が100個以上であるのに対し、Heの場合には10個程度以下まで減少させることができる。
【0024】
さらに、メタルゲート電極14の成膜後に、ソース・ドレイン領域への不純物ドーピングおよび活性化熱処理を実施するが、その後においてもHeの残存量が問題ないレベル、具体的には1×1013cm−2以下とすることができる。一方、Neの場合の残存量は1×1013cm−2以上、Arの場合の残存量は1×1014cm−2以上となる。ただし、後述する高純度化熱処理等により不純物量を低減することができる。不活性ガスとしてHeを用いた場合にも、高純度化熱処理は有効である。
【0025】
上記したような条件で形成したクラスタイオン13中の原子比は、He原子が10に対してW原子が3〜5個、COが5〜8個程度である。このようなクラスタイオン13を加速し、ゲート絶縁膜12を有するSi基板11に衝突させて堆積させる。この際、Si基板11を100〜300℃に加熱することによって、COやHeがSi基板11上から脱離するため、Wを90%(原子比)以上含むゲート電極14が得られる。
【0026】
例えば、10個以上のW原子を含むクラスタイオン13において、W原子の運動エネルギーは図3に示すように1個当たりの平均値で10eV程度、最大でも20eVである。金属原子1個当たりの運動エネルギーの最大値は100eV未満であることが好ましい。このような運動エネルギーが小さい金属原子を含むクラスタイオン13を用いて、ゲート電極14を形成することによって、ゲート絶縁膜12中への金属原子の注入を抑制することができる。特に、実効酸化膜厚が1.3nm以下というような極薄のゲート絶縁膜12中への金属原子の注入が抑制される。従って、金属原子の注入に起因するゲートリーク電流の増加、またMOSFETの閾値電圧の不安定化を防止することが可能となる。
【0027】
ここで、図4に従来の一般的なスパッタ法によるスパッタ粒子(金属原子)のエネルギー分布(スパッタ1)とECR放電を用いた低電圧スパッタによるスパッタ粒子(金属原子)のエネルギー分布(スパッタ2)とを示す。低電圧スパッタは、ECR放電を用いて放電部と半導体基板との距離を離し、高エネルギー粒子の衝突を避ける方法である。従来の低電圧スパッタでも100eVを超える金属原子が存在するため、極薄のゲート絶縁膜中には金属原子が注入されるおそれが大きい。クラスタイオン13を用いた成膜方法においては、1個当たりの最大エネルギーが100eV以上の金属原子が存在しないため、ゲート絶縁膜12中への金属原子の注入を抑制することが可能となる。
【0028】
ゲート電極14は、複数個の金属原子を含むクラスタイオン13を用いた成膜方法で所定の膜厚まで形成してもよいし、クラスタイオン13を用いた成膜方法でゲート電極14の最下層(ゲート絶縁膜12と接する部分)のみを形成してもよい。ゲート絶縁膜12中への金属原子の注入は、ゲート絶縁膜12と接する層領域(最下層)を形成するときに問題となるため、この層領域を上記成膜方法で形成し、その上に通常のスパッタ法等で所定の膜厚までゲート電極14を形成してもよい。このように、クラスタイオン13を用いた成膜方法は、ゲート電極14の少なくとも最下層の形成に適用される。
【0029】
ゲート電極14の成膜後には高純度化のための熱処理を施すことが好ましい。成膜した金属膜や金属化合物膜から不活性ガスや余分な不純物(C、H、O等)を減少させることによって、ゲート電極14の仕事関数を安定化させることができる。高純度化のための熱処理は、800℃以上の温度で10msec以下の加熱条件下で行うことが有効である。例えば、ハロゲンランプやフラッシュランプによる加熱、レーザ光の照射等を適用して、ゲート電極14を形成したSi基板11をアニール処理することによって、ゲート電極14を高純度化して仕事関数を安定化させることができる。
【0030】
Si基板11のアニール処理には、Xeガスを封入したXeフラッシュランプ、Arガスを封入したArフラッシュランプ、COガスを用いた赤外レーザ光、GaAs系の半導体を用いた可視光領域のレーザ光、ArFエキシマレーザやKrFエキシマレーザを用いた紫外レーザ光等が用いられる。これらを用いたアニール処理によれば、不純物原子の存在を10%(原子比)程度から1%(原子比)以下まで減少させることができる。さらに、加熱条件を最適化することによって、不純物原子量を0.1%以下まで減少させることが可能である。これらによって、ゲート長が30nmのMOSFETにおける閾値電圧のバラツキは+/−50mV程度から+/−15mV程度に減少する。
【0031】
図5にゲート長を変化させた場合のMOSFETの閾値電圧のバラツキ(ΔVth)を示す。Ru膜はpMOSFET用のゲート電極、TaC膜はnMOSFET用のゲート電極として形成したものである。図5において、実施例は上述したクラスタイオンを用いた成膜方法を適用して形成したRu膜およびTaC膜を有するMOSFETの測定結果である。比較例は従来の低電圧スパッタ法(低ダメージスパッタ法)を適用して形成したRu膜およびTaC膜を有するMOSFETの測定結果である。
【0032】
図5の実施例において、Ru膜の成膜にはRu(EtCp)(EtCp:シクロペンタジエニル)とHeとの混合ガスを用いた。そして、He原子10個に対してRu原子が10個程度のクラスタを形成してRu膜を成膜した。TaC膜の成膜には、Ta用としてTa[N(CCH)](PEMAT)を用いると共に、C用としてCHまたはCを用い、これらをHeガスで2〜3倍に希釈した。そして、He原子10個に対してTa原子が5個、C原子が5個程度のクラスタを形成してTaC膜を成膜した。
【0033】
比較例のMOSFETではゲート長が30nm以下の領域で閾値電圧のバラツキ(ΔVth)が50mV以上であるのに対して、実施例のMOSFETは閾値電圧のバラツキ(ΔVth)が15mV以下となっており、Vth=0.2V+/−15mVというバラツキの小さい結果が得られている。その理由は不純物元素が少ないことに加えて、クラスタイオンがSi基板の表面に入射する際に、クラスタイオンの入射角が+/−5度以内に揃っているため、Ru膜やTaC膜を構成する結晶粒の面方位が一様に揃うためである。
【0034】
図6および図7にゲート構造を示す。これらの図において、符号41はクラスタイオンを用いた成膜方法を適用して形成した金属膜または金属化合物膜、符号42低抵抗性が要求されるゲート電極用として金属膜または金属化合物膜より抵抗率の小さい金属層である。メタルゲートとしての仕事関数は金属膜または金属化合物膜により決定される。図6はゲート電極をRIE等で加工し、その後にソース・ドレインを形成する場合のゲート構造を示している。図7はダミーゲートを用いてソース・ドレインを形成し、次いでダミーゲートを除去した後、溝内にゲート電極を成膜する場合の形状を示している。
【0035】
次に、本発明の半導体装置の製造方法の第2の実施形態について、図8を参照して説明する。第2の実施形態においては、クラスタイオンを用いた成膜方法を適用して、デュアルゲート構造を有するCMOSFETを作製する工程について述べる。なお、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明を一部省略する。
【0036】
まず、図8(a)に示すように、Si基板11のnMOS領域を覆うように、ゲート絶縁膜12上にフォトレジストマスク51を形成する。ゲート絶縁膜12は第1の実施形態と同様な材料で構成されており、例えば実効酸化膜厚が1.3nm以下のSiON膜、HfSiON膜、HfO膜等が用いられる。フォトレジストマスク51はnMOS領域の少なくとも一部を覆うように設けられる。フォトレジストマスク51に代えて、Si基板11上から選択的に除去可能なマスク材料を用いてもよい。Si基板11のpMOS領域はフォトレジストマスク51のパターンに基づいて露出している。
【0037】
次いで、フォトレジストマスク51で覆われた部分を含めてゲート絶縁膜12上に、10個以上のPt原子を含むクラスタイオン(Pt原子1個当たりの運動エネルギーの平均値=10eV)13を照射する。ゲート絶縁膜12上にPt原子を含むクラスタイオン13を堆積させることによって、膜厚が10nm以上のPt膜52を形成する。この後、フォトレジストマスク51を例えば硫酸と過酸化水素水との混合液で除去することによって、図8(b)に示すようにpMOS領域のみに形成されたPt膜52を得る。Pt膜52はpMOS用メタルゲート(第1のゲート電極)の形成に用いられる。
【0038】
nMOS用メタルゲートの形成については図示を省略したが、pMOS用メタルゲートと同様にして形成される。すなわち、Si基板11のpMOS領域の少なくとも一部を覆うように、Pt膜52上に(必要に応じてゲート絶縁膜12上にも)フォトレジストマスクを形成する。その上からEr原子とN原子の数が10個以上のクラスタイオン(Er原子1個当たりの運動エネルギーの平均値=10eV)を照射して、膜厚が10nm以上のErN膜を形成する。そして、フォトレジストマスクを硫酸と過酸化水素水との混合液で除去することによって、nMOS領域のみに形成されたErN膜を得る。ErN膜はnMOS用メタルゲート(第2のゲート電極)の形成に用いられる。
【0039】
図8(b)はpMOS用メタルゲートとしてのPt膜52しか示していないが、上記したような後工程でnMOS用メタルゲートとしてErN膜が形成される。すなわち、ゲート絶縁膜12上のpMOS領域のみに形成されたPt膜とnMOS領域のみに形成されたErN膜とが得られる。この後、Pt膜およびErN膜をゲート電極パターンに加工し、さらに通常のMOSFETの形成工程を経ることによって、2種類のメタルゲートを有する低閾値電圧のCMOSトランジスタを作製する。なお、ここではpMOS用メタルゲートとしてPt膜、nMOS用メタルゲートとしてErN膜を用いたが、これらに限定されるものではなく、第1の実施形態に示した各種材料を適用することができる。
【0040】
また、ここではpMOS用メタルゲートを先に形成する工程を示しているため、nMOS領域を覆うようにフォトレジストマスク(第1のマスク材料層)51を形成しているが、nMOS用メタルゲートを先に形成してもよい。その場合には、フォトレジストマスク(第1のマスク材料層)51はpMOS領域を覆うように形成される。第1のマスク材料層はpMOS領域またはnMOS領域の一方の領域を覆うように形成され、第2のマスク材料層はpMOS領域またはnMOS領域の他方の領域を覆うように形成される。
【0041】
上述したように、pMOS用およびnMOS用のメタルゲートを、クラスタイオンを用いた成膜方法を適用して形成することによって、ゲート絶縁膜中への金属原子の注入を抑制することができる。従って、金属原子の注入に起因するゲートリーク電流の増加、また閾値電圧の不安定化を防ぐことが可能となる。さらに、クラスタイオンはSi基板の表面に入射する際の角度(入射角)が揃っているため、フォトレジストマスクの除去と同時に不要な金属膜等を確実に取り除くことができる。従って、CMOSトランジスタの形成精度や製造歩留りを向上させることが可能となる。
【0042】
従来の成膜技術では図9(a)に示すように、半導体基板61に設けられたゲート絶縁膜62上にフォトレジストマスク63を形成し、その上からスパッタ法やCVD法でErN膜64を成膜した場合、フォトレジストマスク63の側面にもErN膜64が形成される。このため、硫酸と過酸化水素水との混合液でフォトレジストマスク63を除去する際に、ErN膜64の堆積量が多い部分、すなわちフォトレジストマスク63の側壁に堆積したErN膜64が厚い部分は、フォトレジストマスク63が上記混合液に露出せず、リフトオフが不完全になる。図9(b)はフォトレジストマスク63のリフトオフが不完全な状態、すなわち不要なErN膜64Aが残留した状態を示している。
【0043】
次に、本発明の半導体装置の製造方法の第3の実施形態について、図10を参照して説明する。第3の実施形態においては、ゲート絶縁膜上にTiN膜を全面に成膜した後に、nMOS領域とpMOS領域とで異なる物質を導入または反応させて、2種類の仕事関数を有するメタルゲートを作製する例について述べる。
【0044】
まず、図10(a)に示すように、Si基板100の素子分離絶縁膜101を介して隣接するnMOS領域102およびpMOS領域103上に、例えば膜厚が2〜3nmのHfSiON膜やHfO膜等からなるゲート絶縁膜104を成膜する。さらに、ゲート絶縁膜104上に膜厚が30nm程度のTiN膜105を成膜する。TiN膜105は前述した実施形態で示したように、複数個の金属原子(ここではTi原子)を含むクラスタイオンを用いた成膜方法を適用して成膜する。
【0045】
次に、図10(b)に示すように、nMOS領域102上のTiN膜105が露出するように、pMOS領域103上のTiN膜105をマスク106で覆う。続いて、nMOS領域102上のTiN膜105に面密度で5×1015cm−2以上のAl107を200eV以下のエネルギーで照射し、TiN膜105中およびTiN膜105上にAlを成膜する。Alの成膜はクラスタイオンを用いた成膜方法を適用して実施する。
【0046】
マスク106を除去した後、図10(c)に示すように、nMOS領域102を覆うマスク108を形成する。続いて、クラスタイオンを用いた成膜方法を適用し、仕事関数が4.8eV以上のPt、Pd、Ni、Co、Ir等を200eV以下のエネルギーで、5×1015cm−2以上の面密度となるように照射し、pMOS領域103のTiN膜105中およびTiN膜105上に成膜する。
【0047】
この後、800℃以上の温度で加熱処理して、不純物原子をTiN膜105とゲート絶縁膜104との界面に偏析させる。加熱処理は処理時間が10msec以下となるように、フラッシュランプ、赤外線レーザ、可視光レーザ、紫外光レーザ等を用いて実施することが好ましい。加熱処理時間(照射時間)が100msec以上になると、TiN膜105とゲート絶縁膜104とが反応し、ゲートリーク電流の増大等を招くおそれがある。
【0048】
上述したような工程を適用することによって、nMOS領域102にはゲート絶縁膜104上にAlが偏析したTiNゲート105Aが形成され、pMOS領域103にはゲート絶縁膜104上にPt、Pd、Ni、Co、Ir等が偏析したTiNゲート105Bが形成される。さらに、通常のMOSFETの形成工程を経ることによって、2種類のメタルゲートを有する低閾値電圧のCMOSトランジスタを作製する。このような場合にも、クラスタイオンを用いた成膜方法を適用することによって、ゲート絶縁膜104中への金属原子の注入を抑制することができる。
【0049】
nMOS用ゲートおよびpMOS用ゲートの作製は、例えばゲート絶縁膜上に厚さ1〜5nmのSi膜を形成し、さらにその上に厚さ5〜10nm程度のAl膜、Pt膜、Ni膜、Pd膜、Ir膜等を、クラスタイオンを用いた成膜方法を適用して形成した後、加熱処理を施して金属リッチの合金やシリサイドを形成することによっても実施可能である。例えば、Al膜をSi膜上に形成した場合にはシリサイドを形成せず、共晶合金になるが、仕事関数はAlの仕事関数に近い4.1〜4.2eVの値が得られる。
【0050】
一方、Pt、Ni、Pd、Ir等の金属膜は、金属リッチのシリサイドを形成する。この際、Siパターンがない領域に存在する未反応の金属膜を選択的に酸で除去するため、シリサイドの形成後にシリサイド表層のSiを酸化し、厚さ1〜3nm程度のSiO膜を形成することが好ましい。この薄いSi酸化膜が硫酸と過酸化水素水との混合液による選択エッチングの際に保護膜として機能し、Siパターンがない領域の金属膜を選択的に除去することが可能になる。
【0051】
なお、本発明の半導体装置の製造方法は上記した実施形態に限定されるものではなく、ゲート絶縁膜とメタルゲート電極とを有するトランジスタを備える各種半導体装置の作製に適用することができる。本発明の製造方法を適用して作製される半導体装置の構造は、本発明の基本構成を満足するものであれば種々に変形が可能であり、それらも本発明に含まれるものである。さらに、実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張または変更することができ、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるメタルゲート電極の形成工程を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に用いられる成膜装置の構成例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態の成膜方法における金属原子のエネルギー分布を示す図である。
【図4】従来の成膜方法における金属原子のエネルギー分布を示す図である。
【図5】本発明の実施例によるMOSFETのゲート長を変化させた場合の閾値電圧のバラツキを示す図である。
【図6】本発明の実施形態によるメタルゲート電極の構造の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態によるメタルゲート電極の構造の他の例を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態におけるメタルゲート電極の形成工程の一部を示す断面図である。
【図9】従来の成膜方法を適用したメタルゲート電極の形成工程の一部を示す断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態におけるメタルゲート電極の形成工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
11,100…Si基板、12,104…ゲート絶縁膜、13…クラスタイオン、14…ゲート電極、51…フォトレジストマスク、52…pMOS用メタルゲート(Pt膜)、102…nMOS領域、103…pMOS領域、105…TiN膜、105A…Alが偏析したTiNゲート、105B…Pt等が偏析したTiNゲート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOSトランジスタを備える半導体装置の製造方法であって、
半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上に複数個の金属原子を含むクラスタのイオンを堆積させ、ゲート電極の少なくとも最下層を形成する工程と
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
CMOSトランジスタを備える半導体装置の製造方法であって、
半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記半導体基板のpMOS領域またはnMOS領域の一方の領域の少なくとも一部を覆うように、前記ゲート絶縁膜上に第1のマスク材料層を形成する工程と、
前記第1のマスク材料層で覆われた部分を含めて前記ゲート絶縁膜上に、複数個の金属原子を含むクラスタのイオンを堆積させ、第1のゲート電極を形成する工程と、
前記第1のマスク材料層を除去した後、前記半導体基板の前記pMOS領域またはnMOS領域の他方の領域の少なくとも一部を覆うように、前記第1のゲート電極上に第2のマスク材料層を形成する工程と、
前記第2のマスク材料層で覆われた部分を含めて前記ゲート絶縁膜上に、複数個の金属原子を含むクラスタのイオンを堆積させ、第2のゲート電極を形成する工程と
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
CMOSトランジスタを備える半導体装置の製造方法であって、
半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上に複数個の金属原子を含むクラスタのイオンを堆積させて導電膜を形成する工程と、
pMOS領域およびnMOS領域に応じて前記導電膜に異なる物質を導入し、pMOS用ゲート電極およびnMOS用ゲート電極を形成する工程と
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の半導体装置の製造方法において、
前記クラスタに含まれる前記金属原子1個当たりの運動エネルギーの最大値が100eV未満であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の半導体装置の製造方法において、
前記クラスタのイオンを堆積させた後に加熱処理を施し、前記堆積層内の不純物を除去する工程を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−302366(P2009−302366A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156354(P2008−156354)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】