説明

多結晶シリコン、多結晶シリコン基体およびその製造方法、ならびに多結晶シリコン基体を用いた光電変換素子

【解決手段】窒素ドープされた多結晶シリコンおよび該多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体。好ましくは、赤外吸収スペクトルにおいて、963±5cm-1および/または938±5cm-1の波数位置にピークを有する。ならびに、窒素含有シリコン融液を調製する工程を含む多結晶シリコン基体の製造方法、および上記基体を用いた光電変換素子。
【効果】窒素ドープされた多結晶シリコン基体を用いた光電変換素子は、従来と比較して変換効率が高く、コストパフォーマンスが高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池等の光電変換素子などに好適に用いられる多結晶シリコン、多結晶シリコン基体およびその製造方法に関する。また本発明は、多結晶シリコン基体を用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、光電変換素子の一種である太陽電池はクリーンエネルギーとして期待されている。中でも多結晶シリコンを用いた太陽電池は、数種類ある太陽電池の中で最もコストパフォーマンスに優れていることから、最も大きな比率を占めている。
【0003】
多結晶シリコン太陽電池は、B(ホウ素)、Ga(ガリウム)などのIII族元素が少量添加されたp型シリコンの表面に、拡散等によりn型層を形成させたpn接合タイプが最も一般的であるが、その他にも、P(リン)などのV族元素が少量添加されたn型シリコンの表面にp型層を形成させたもの、pあるいはn基板上に薄膜成長によりn、p型層をそれぞれ成長させたもの(ヘテロ接合、pin構造なども含む)、およびMIS(Metal−Insulator−Semiconductor)構造などがある。
【0004】
太陽電池等の光電変換素子に用いられる多結晶シリコン基体の作製方法としては、たとえば次のような方法が挙げられる。
(1)キャスト法、(2)電磁キャストEMC(Electro−Magnetic Casting)法、(3)HEM(Heat Exchange Method)法、などの、シリコン融液を凝固させて大きなインゴットまたはブロックを作製し、ウェハを作製する際にはスライスなどの工程を経て作製する方法。
(4)シリコン融液から直接ウェハ形状のSiを引き上げるEFG(Edge−defined Film Growth)法、ストリングリボン(String Ribbon)法、デンドライトウェブ法(Dendritic Web法)、HRG(Horizontal Ribbon Growth)法等のリボン成長法。
(5)シリコン融液にシリコン成長用基板を接触させて基板上に成長させるRGS(Ribbon Growth on Substrate)法、RST(Ribbon on Sacrificial Carbon Template)法、特許文献1に記載の方法などのシリコン融液にシリコン成長用基板を接触させて基板上に成長させる方法。
(6)シリコン融液を不活性ガス中などに滴下して落下中に凝固させたり、小さな鋳型で直径数mm以下の粒状シリコンを得る方法。この場合には、中には単結晶粒となるものも存在している。
【0005】
一方、近年、例えば非特許文献1にあるように、単結晶シリコンを用いる半導体大規模集積回路においては、集積回路の微細化・高集積化とともに、回路の歩留や性能を制限する結晶欠陥をなくす技術として、窒素のドーピングが注目されている。このような窒素ドーピングは、半導体集積回路のデバイス活性領域にあたるシリコン表面近傍の欠陥を減少させ、活性層の下にゲッタリング層を形成する効果をもたらすが、このような効果は、ほぼ基板の表面近傍(μmオーダー)しか使用しない半導体集積回路では有効であると考えられる。しかしながら、光電変換素子の分野においては、半導体集積回路とは異なり、基板の表面から深い領域(数100μmオーダー)まで使うため、このような窒素ドーピングが光電変換素子、太陽電池の特性に与える影響については、単結晶シリコン、多結晶シリコンを問わず、研究された例はないのが現状である。
【0006】
前記キャスト法で作製した多結晶シリコンウェハなどでは、石英坩堝の内面にシリコンが固着しないようにSi34の離型剤を用いており、結晶中にSi34の粒が混入することがある。このような多結晶シリコンは窒素を含有はするものの、窒素ドーピングとはいえない。このようにして作製された多結晶シリコンが窒素ドーピングされない理由は、石英坩堝の軟化点が1700℃程度であるのに対し、Si34の融点は1900℃程度とさらに高く、実質的にはNがシリコン融液中に溶け出さないためであると考えられる。
【特許文献1】特開2001−223172号公報
【非特許文献1】井上直久著,「バルクシリコン結晶における分析・評価技術」,応用物理,第72巻,第5号(2003),p550−556
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光電変換素子の一種である太陽電池は、クリーンエネルギーとして期待され、その導入量は着実に増加しているものの、今後さらに普及し、地球環境の保全に役立つためには、さらにコストパフォーマンスを上げることが必要である。本発明は、このような現状に鑑みなされたものであって、窒素ドープされた多結晶シリコンおよび多結晶シリコン基体を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的は、当該多結晶シリコン基体を製造する方法を提供することである。さらに、本発明の別の目的は、当該多結晶シリコン基体を用いた、従来と比較して変換効率の高い光電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、窒素がドーピングされた多結晶シリコンを作製することに成功し、当該窒素ドープされた多結晶シリコンを用いることにより、従来と比較して変換効率の高い、ひいてはコストパフォーマンスの高い光電変換素子が提供されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0009】
本発明は、窒素によりドープされていることを特徴とする多結晶シリコンを提供する。ここで、本発明の多結晶シリコンは、赤外吸収スペクトルにおいて、963±5cm-1および/または938±5cm-1の波数位置にピークを有することが好ましい。
【0010】
また、本発明の窒素ドープされた多結晶シリコンは、格子間窒素対を形成した窒素を含有することが好ましい。
【0011】
また本発明は、上記多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体を提供する。本発明の多結晶シリコン基体は、光電変換素子に好適に用いることができる。
【0012】
さらに本発明は、窒素含有シリコン融液を調製する、融液調製工程を含むことを特徴とする上記多結晶シリコン基体を製造する方法を提供する。
【0013】
ここで、上記窒素含有シリコン融液は、シリコン融液を、窒素を含むガスにより窒化することにより調製されてもよく、またはシリコン融液に窒化シリコンを含有させることにより調製されてもよい。また、本発明の多結晶シリコン基体の製造方法は、上記窒素含有シリコン融液に、基板を接触させて該基板表面上に多結晶シリコンを成長させる、結晶成長工程をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の窒素ドープされた多結晶シリコンおよび窒素ドープされた多結晶シリコン基体によれば、従来と比較して変換効率が高く、コストパフォーマンスが高い光電変換素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<多結晶シリコン>
本発明の多結晶シリコンは、窒素によりドープされていることを特徴とする。多結晶シリコン自体は、B(ホウ素)、Ga(ガリウム)などのIII族元素が少量添加されたp型であってもよく、あるいはP(リン)などのV族元素が少量添加されたn型であってもよい。または窒素を除いて、ドーパントが添加されていない多結晶シリコンであってもよい。このような窒素ドープされた多結晶シリコンは、光電変換素子用の半導体材料として好適に用いることができ、本発明の多結晶シリコンを用いた光電変換素子は、従来と比較して高い変換効率を有する。
【0016】
本発明の多結晶シリコンは、好ましくは赤外吸収スペクトルにおいて、963±5cm-1および/または938±5cm-1の波数位置にピークを有する。このような波数位置にピークを有する窒素ドープされた多結晶シリコンを用いることにより、光電変換素子の変換効率を向上させることが可能となる。これらの特徴的なピークは、図1に示すような格子間窒素対に由来するものと考えられる。したがって、本発明の多結晶シリコンは、好ましくは格子間窒素対を形成した窒素を含有する。ここで、図1は、格子間窒素対を模式的に示す立体構造図であり、11は窒素原子を、12はSi原子を示している。図1に示されるように、格子間窒素対は、2つの窒素原子11がSi原子の格子位置を置換し、Si−N結合を形成してなる。
【0017】
本発明の多結晶シリコンにおいて、ドープされる窒素は、質量数14の14Nであってもよく、同位体である質量数15の15Nであってもよい。あるいは、これらの組み合わせであってもよい。窒素ドープされる限り、同位体の組成比にかかわらず同等の効果を得ることができる。ただし、これら同位体の天然存在比が14N/15N=99.634%/0.366%であることから、コスト面を考慮すると、14Nのみであるか、または14Nと15Nとを同位体存在比で含む窒素であることが好ましい。
【0018】
ドープされる窒素が質量数14の14Nのみである場合には、格子間14N−14N窒素対に由来する963±5cm-1および764±5cm-1の波数位置にピークが現れる。ドープされる窒素が質量数15の15Nのみである場合には、963±5cm-1のピークは、格子間15N−15N窒素対に由来する938±5cm-1にシフトし、764±5cm-1のピークもまた低波数側にシフトする。また、14Nと15Nの両方をドープした場合には、963±5cm-1および938±5cm-1のピークに加えて、格子間14N−15N窒素対に由来するピークが948cm-1付近に現れるとともに、低波数側にももう一つのピークが現れる。なお、これら本発明の多結晶シリコンに特徴的なピークのうち、低波数側のピーク(たとえばドープされる窒素が14Nのみである場合、764±5cm-1)は、感度が低いため、実際上は高波数側のピークが現れていることでその存在を確認することができる。
【0019】
本発明の多結晶シリコンにおいて、ドープされた窒素の濃度は、特に限定されるものではないが、後述する本発明の多結晶シリコン基体の製造方法によれば、多結晶シリコン中の窒素濃度(1cm3あたりの窒素原子数)を6×1018cm-3程度以下の範囲で適宜調整することが可能である。一般に、シリコン中の窒素の固溶限界は5×1015cm-3程度といわれているため、これ以上の窒素濃度を有する場合、一部の窒素は、粒界部分や欠陥部分に入り込んでいると考えられる。
【0020】
ここで、赤外吸収スペクトル測定における上記特徴的なピークの検出は、多結晶シリコン中の窒素濃度が比較的高い(たとえば、3×1016cm-3程度以上)場合には、室温の測定でも十分可能である。一方、窒素濃度が比較的低い場合には、測定の感度を上げるために、液体ヘリウム温度での測定または試料の厚さ調整等が必要となることが多い。このような高感度化により、1×1014cm-3程度までの低い窒素濃度においても、上記特徴的なピークの検出が可能となる。さらに窒素濃度が低い場合には、放射光等の高輝度赤外線源などを用いる必要がある。
【0021】
なお、多結晶シリコン中の窒素濃度の化学分析方法としては、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry、二次イオン質量分析法)やCPAA(荷電粒子放射化分析)を挙げることができ、これらがもっとも高感度である。
【0022】
上記のような本発明の多結晶シリコンが光電変換素子に用いられた場合に、高い変換効率を示すのは、上記格子間窒素対は酸素などと比較して3桁程度大きな拡散係数を有するため、格子間窒素対が光電変換素子作製プロセス中の熱処理過程においてシリコン結晶中を動き回り、欠陥部分に留まって、欠陥をパッシベートしたり、不純物のゲッタリングを助長するためであると考えられる。
【0023】
また、ドープされた窒素がシリコン結晶中において格子間窒素対を形成することの有利性は、単体の窒素と比較した場合においても明らかである。すなわち、格子間窒素対の拡散係数は、単体の窒素よりも4〜5桁大きいことから、格子間窒素対が欠陥をパッシベートしたり、不純物のゲッタリングを助長する能力は、単体の窒素と比較して極めて高いと考えられる。したがって、ドープされた窒素は、シリコン結晶中で単体として存在するよりも、格子間窒素対として存在することがより好ましい。格子間窒素対として存在することにより、光電変換素子においてより高い変換効率をもたらすことが可能となる。ここで、ドープされた窒素のうち、格子間窒素対を形成する窒素の割合は特に制限されるものではないが、この割合が高いほど、変換効率向上の効果は高い。なお、前述のキャスト法で作製した多結晶シリコンウェハにおいてみられるような離型剤(Si34)由来のSi34粒子が混入するような場合、混入したSi34粒子は、多結晶シリコンとの混合物として存在し、シリコン結晶中を自由に動き回ることができないため、上記のように欠陥をパッシベートしたり、不純物のゲッタリングを助長するような効果はみられないものと考えられる。
【0024】
本発明の多結晶シリコンの形状は、特に限定されるものではなく、適用する部材に応じた適宜の形状とすることができる。たとえば、インゴット状、塊状、棒状、板状、シート状、膜状、粒状などを挙げることができる。
【0025】
本発明の多結晶シリコンは、たとえば太陽電池等の光電変換素子の半導体材料として好適に用いることができる。典型的には、本発明の多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体を用いて光電変換素子を作製する。このような多結晶シリコン基体もまた、本発明の範囲に属する。本発明の多結晶シリコン基体とは、本発明の多結晶シリコンを主成分とするものであり、その形状は特に制限されるものではない。光電変換素子に用いられる多結晶シリコン基体の形状としては、たとえばインゴット状、塊状、棒状、板状、シート状、膜状、粒状などを挙げることができる。ここで、粒状の多結晶シリコンは、たとえば前述した、シリコン融液を不活性ガス中などに滴下して落下中に凝固させる方法等により作製することが可能であり、太陽電池用材料として利用可能である。
【0026】
本発明の多結晶シリコン基体を製造するための方法に特に制限はなく、たとえば、(i)キャスト法や電磁キャスト法等によりインゴットを作製した後、これをスライスする方法、(ii)窒素含有シリコン融液から、成長用基板を使わずに、直接ウェハ形状のリボンを引き上げる方法、(iii)窒素含有シリコン融液に成長用基板を接触させ、該基板表面上に多結晶シリコン基体を形成する方法、(iv)窒素含有シリコン融液から、粒状のシリコンを直接作製する方法などを挙げることができるが、以下に示す方法を好適に用いることができる。以下は本発明の多結晶シリコン基体を製造するための好適な一例であるに過ぎず、他の方法を用いて製造することも勿論可能である。
【0027】
<多結晶シリコン基体の製造方法>
本発明の多結晶シリコン基体の製造方法は、窒素含有シリコン融液を調製する融液調製工程を含むことを特徴とする。得られた窒素含有シリコン融液を用いて、多結晶シリコン基体を製造する方法としては、前述のように、(1)キャスト法、(2)電磁キャストEMC法、(3)HEM法、などシリコン融液を凝固させて大きなインゴットまたはブロックを作製し、ウェハを作製する際にはスライスなどの工程を経て作製する方法、(4)シリコン融液から直接ウェハ形状の結晶Siを引き上げるリボン成長法、(5)シリコン融液にシリコン成長用基板を接触させて基板上にSiを成長させる方法、(6)シリコン融液から粒状シリコンを得る方法、などがある。以下では好適な一例として、上記(5)の方法に属する結晶成長方法を用いた例を示すが、いずれの方法によっても、窒素含有シリコン融液を用意することで容易に多結晶シリコン基体を作製することが可能である。
【0028】
(1)融液調製工程
本工程において、窒素含有シリコン融液を調製する。窒素含有シリコン融液の調製は、従来公知の方法を適宜用いて調製されたシリコン融液に窒素を含有させることによりなされる。なお、シリコン融液は、作製する多結晶シリコンをp型またはn型とするために、それぞれB(ホウ素)、Ga(ガリウム)などのIII族元素や、P(リン)などのV族元素などを含んでいてもよい。
【0029】
シリコン融液に窒素を含有させる方法は特に制限されるものではないが、好適な方法として、シリコン融液を、窒素を含むガスにより窒化する方法を挙げることができる。窒素を含むガスとしては、たとえば窒素ガス、NOx、NH3などを用いることができる。なかでも、窒素ガスがコスト面、環境面などを考慮してもっとも望ましいものと考えられる。このような窒素を含むガスを、たとえば1600℃程度の温度条件下、シリコン融液に接触させることによりシリコン融液を窒化するが、接触させる手段としては、特に限定されないが、たとえば、単に融液液面に吹き込むようにしてもよく、あるいはもっと積極的に融液中でバブリングするようにしてもよい。また、窒素を含むガスをシリコン融液に接触させるにあたっては、窒素を含むガスのみを接触させてもよく、Arガス等の不活性ガスとの混合ガスを接触させるようにするなどしてもよい。後者の場合、その混合比は適宜調整されるものであり、特に制限されない。また、ガスの導入は連続的であってもよく、断続的であってもよい。なお、窒素を含むガスの流量およびガスの導入時間は、特に制限されるものではなく、シリコン結晶中にドープされる窒素量を考慮して適宜調整される。
【0030】
シリコン融液に窒素を含有させる別の好適な方法として、シリコン融液に窒化シリコンを含有させる方法を挙げることができる。窒化シリコンは、シリコンと窒素と少量の不純物を除いては、シリコンと窒素しか含まないため、窒素ドープ用材料として非常に好適である。当該窒化シリコンを含有させる方法を用いる場合、シリコンの融点が1410℃程度であるのに対し、窒化シリコンの融点は1900℃程度と高温であることから、窒化シリコンがシリコン融液中で融解するよう、シリコン融液の温度を窒化シリコンの融点近くまで上げる必要がある場合が多い。そのためには、必要に応じて、装置構成や材質などを変更することが好ましい。使用する窒化シリコンに特に制限はないが、たとえばプラズマCVD法等によりシリコン上に成膜した窒化シリコン膜を好適に用いることができる。なかでも、光電変換素子の反射防止膜として使用されている窒化シリコン膜のような材料は、水素を多く含んでおり、結晶性がさほど高くないことから、結晶性窒化シリコンほど融点が高くないため、窒素ドーピング用材料としてより好適に用いることができる。プラズマCVD法等によりシリコン上に成膜した窒化シリコン膜を窒素ドープ用材料として使用する場合、窒化シリコン膜のみをシリコン融液に投入してもよく、あるいは窒化シリコン膜が形成されたシリコンウェハごと投入するようにしてもよい。シリコン融液に対する窒化シリコンの量は特に制限されないが、結晶中にドーピングしたい窒素濃度の数倍程度の窒素濃度のシリコン融液となるようにすることが好ましい。なお、窒化シリコン以外でも、シリコンに対して悪影響を及ぼさず、かつ窒素を含有する材料であれば窒素ドープ用材料として使用することができる。また、シリコン融液に窒素を含有させる別の好適な方法として、窒素を含む単結晶シリコンインゴットの端材などを原料として用いることも考えられる。
【0031】
上記いずれの方法においても、窒素を含むガスの流量あるいは導入時間、または窒化シリコン、窒素含有シリコン等の窒素ドープ用材料の量を適宜調整することにより、多結晶シリコン中の窒素濃度を6×1018cm-3以下の範囲内で適宜調整することができる。
【0032】
(2)結晶成長工程
本工程において、当該窒素含有シリコン融液に、基板を接触させて該基板表面上に多結晶シリコンを成長させ、多結晶シリコン基体を形成する。本工程に用いる装置に特に制限はないが、図2に示される装置を好適に用いることができる。以下、図2に示される装置を用いて本工程を行なう場合について説明する。
【0033】
図2において、軸29は、図中の矢印で示すように、その一端に取り付けられた結晶成長用の基板22の表面が窒素含有シリコン融液24中に浸漬された後、該窒素含有シリコン融液24から引き上げられるように動作可能となっている。窒素含有シリコン融液24の液面の調整は、坩堝台26に取り付けられた坩堝昇降用台28によってなされる。坩堝台26の下面には、断熱材27で被覆されている。なお、図2に示される装置は、真空排気ができるようチャンバ内に設置されることが好ましい。また、図示されていないが、図2に示される装置には、たとえば軸29を上記のように動作させる手段、加熱用ヒータ25を制御する手段およびシリコンを追加投入する手段が付設されている。
【0034】
上記図2に示される装置を用いた多結晶シリコン基体の形成方法は概略次のとおりである。まず、窒素含有シリコン融液24の温度を、たとえば1420〜1440℃程度に調整する。ついで、軸29を動作させ、基板22の表面を窒素含有シリコン融液24中に浸漬させる。浸漬時間は、所望する多結晶シリコン基体21の厚みに応じて適宜の時間を採り得るが、たとえば厚み300μmの多結晶シリコン基体を得るための浸漬時間はおよそ3〜4秒程度である。このような基板22の窒素含有シリコン融液24への浸漬により、基板22の表面上に多結晶シリコン基体21が形成される。
【0035】
<光電変換素子>
本発明は、たとえば上述のような方法で作製した多結晶シリコン基体を用いた光電変換素子を提供する。光電変換素子としては、太陽電池の他、フォトダイオード等を挙げることができる。本発明の光電変換素子は、多結晶シリコンの窒素ドーピングにより、窒素ドーピングされていない場合と比較して変換効率が高い。同一プロセスで変換効率の高い光電変換素子を作製することができるため、本発明の光電変換素子はコストパフォーマンスにも優れる。
【0036】
本発明の光電変換素子においては、本発明の多結晶シリコン基体を用いること以外は、従来公知の構造を採用することができる。また、光電変換素子の作製方法についても特に限定されるものではなく、従来公知の方法を適用することができる。たとえば、本発明のp型多結晶シリコン基体上にn型層を形成させたタイプ、本発明のn型多結晶シリコン基体上にp型層を形成させたタイプ、薄膜シリコン等とのヘテロ接合を形成したタイプ、MIS(Metal−Insulator−Semiconductor)構造等を挙げることができる。
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(多結晶シリコン基体の作製)
<実施例1>
図2に示される装置を用いて、窒素含有シリコン融液の調製および多結晶シリコン基体の形成を行なった。まず、比抵抗が2Ω・cmになるようにボロン濃度を調整したシリコン原料100kgを高純度黒鉛製坩堝23に入れた後、チャンバ内を十分Arガスで置換し、その後はArガスを常時チャンバー上部から流したままにした。次に、シリコン原料を加熱用ヒータ25により溶融し、1600℃まで昇温し、シリコン原料が完全に溶解したことを確認した後、Arガスとともに少量の窒素ガスを120分間導入した。窒素ガスとArガスとの流量比はおよそ1:2であり、混合ガスの流量は、90L/minであった。その後、坩堝温度を1425℃に保持して安定化を図った。このようにして得られた窒素含有シリコン融液に、黒鉛製の基板22の浸漬時間が5秒となる条件で、図2中左側から基板22の下面を接触させ、多結晶シリコン基体を形成した。当該多結晶シリコン基体の厚みは370μmであった。
【0039】
<比較例1>
窒素ガスを導入しないこと以外は、実施例1と同様にして、窒素ドープされていない多結晶シリコン基体を形成した。当該多結晶シリコン基体の厚みは370μmであった。
【0040】
実施例1で得られた多結晶シリコン基体について、SIMS(二次イオン質量分析法)を用いて測定した窒素濃度(1cm3あたりの窒素原子数)は、面内でばらつきがあるものの、3〜7×1016cm-3程度であった。測定条件は次のとおりである。装置:二次イオン質量分析計(CAMECA社製、IMS−6F)、一次イオン:Cs+、加速電圧:10kV、二次検出イオン:29Si14、二次引出電圧:4.5kV、一次電流:100nA、一次ビームスキャン領域:80μm□、データ取込領域33μmφ、測定時間1秒/ポイント。通常、二次検出イオンとして28Si14を測定した方が検出限界が低いが、本サンプルでは、炭素濃度が高く、28Si14では30Si12が検出限界を上げたため、29Si14を採用した。またバックグラウンドの確認は測定中に、一次ビームのスキャン領域を小さくしたときのデータ挙動から確認した。
【0041】
また、実施例1および比較例1で得られた多結晶シリコン基体について、赤外吸収スペクトルの測定を行なった。結果を図3に示す。測定条件は次のとおりである。装置:Nicolet710赤外分光装置、測定温度:室温、分解能:2cm-1、スキャン回数:1024回。図3に示されるように、実施例1の多結晶シリコン基体においては、格子間窒素対に由来すると考えられる2つのピークが963cm-1および764cm-1の波数位置に認められた。高波数側のピーク(963cm-1)は、ブロードなピークの上にのっているものの、これら2つのピーク自体はシャープであり、容易に判別可能であった。このように、多結晶シリコン中に3〜7×1016cm-3程度の濃度で窒素が含まれているときには、室温での赤外吸収スペクトル測定で十分に本発明の多結晶シリコンに特徴的なピークを検出可能であることがわかる。一方、比較例1の多結晶シリコン基体においては、これらのピークは、認められなかった。なお、実施例1および比較例1の赤外吸収スペクトルにおける600cm-1近傍にみられる大きなピークは、シリコンの格子位置に置換した炭素によるピークである。
【0042】
(太陽電池の作製)
<実施例2>
以下の手順に従い、実施例1の多結晶シリコン基体を用いて光電変換素子の1種である太陽電池の作製を行なった例を示す。まず、実施例1の多結晶シリコン基体(厚み370μm)からレーザー切断により156mm角サイズに切り出した。次に、この多結晶シリコン基体を水酸化ナトリウム溶液中で異方性エッチングを行ない、当該基体の受光面側にテクスチャー構造を形成した。その後、太陽電池の受光面となる面側にPSG(リンガラス)液をスピンコートで塗布し、拡散炉に入れてn+型層を形成した。拡散の際に表面に形成されたPSG(リンガラス)膜をフッ酸で除去後、面のn+型層上に反射防止膜としてプラズマCVD法により窒化シリコン膜を形成した。次いで、太陽電池の裏面側となる面にアルミペーストをスクリーン印刷塗布、焼成することにより、p+型層および裏面電極(アルミ電極)を同時に形成した。次に、銀ペーストを用い、スクリーン印刷により受光面側の電極パターンを形成し焼成することにより、受光面電極(銀電極)を形成すると同時に、当該銀電極とn+型層との導通をとった。最後に、銀電極部分にはんだをディップし太陽電池を作製した。なお、n+型層が周辺部分で裏面電極とショートすると、太陽電池のフィルファクターが下がり変換効率が低くなるため、n+型層と裏面電極との絶縁分離を行なった。得られた太陽電池について、AM1.5、100mW/cmの照射下にて、セル特性の評価を行なった。測定したセル特性(セル変換効率)の結果を図4に示す。図4において、縦軸は太陽電池のセル変換効率(%)を示す。なお、セル変換効率の測定は、AM1.5、100mW/cm2の照射下にて、「結晶系太陽電池セルの出力測定方法(JIS C 8913(1988))」に従ってセル特性の評価を行なった。
【0043】
<比較例2>
比較例1の多結晶シリコン基体を用いたこと以外は、実施例2と同様にして太陽電池を作製し、セル特性の評価を行なった。測定したセル特性(セル変換効率)の結果を図4に示す。
【0044】
図4から明らかなように、窒素によりドープされた本発明の多結晶シリコンを用いることにより、太陽電池の変換効率が大幅に向上することがわかった。
【0045】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】格子間窒素対を模式的に示す立体構造図である。
【図2】本発明の多結晶シリコン基体の製造方法の結晶成長工程において好適に用いられる装置の概略断面図である。
【図3】実施例1および比較例1で得られた多結晶シリコン基体の赤外吸収スペクトルである。
【図4】実施例2および比較例2で得られた太陽電池のセル特性をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0047】
11 窒素原子、12 Si原子、21 多結晶シリコン基体、22 基板、23 坩堝、24 窒素含有シリコン融液、25 加熱用ヒータ、26 坩堝台、27 断熱材、28 坩堝昇降用台、29 軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素によりドープされていることを特徴とする多結晶シリコン。
【請求項2】
赤外吸収スペクトルにおいて、963±5cm-1および/または938±5cm-1の波数位置にピークを有することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン。
【請求項3】
格子間窒素対を形成した窒素を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の多結晶シリコン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の多結晶シリコンからなる多結晶シリコン基体。
【請求項5】
窒素含有シリコン融液を調製する、融液調製工程を含むことを特徴とする、請求項4に記載の多結晶シリコン基体の製造方法。
【請求項6】
前記融液調製工程において、窒素含有シリコン融液は、シリコン融液を、窒素原子を含むガスにより窒化するか、またはシリコン融液に窒化シリコンを含有させることにより調製されることを特徴とする、請求項5に記載の多結晶シリコン基体の製造方法。
【請求項7】
前記窒素含有シリコン融液に、基板を接触させて該基板表面上に多結晶シリコンを成長させる、結晶成長工程をさらに含むことを特徴とする、請求項5または6に記載の多結晶シリコン基体の製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載の多結晶シリコン基体を用いた光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−184376(P2008−184376A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21476(P2007−21476)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】