説明

水晶発振器

【課題】実装スペースとコストの更なる低減のため、電子機器内の水晶部品を1つに集約するためには、消費電流や周波数精度の問題があった。
【解決手段】本発明の水晶発振器は、音叉型水晶振動体と、この振動体の温度による発振周波数の変化を、時間領域で連続的に補正するための温度補償回路を含んだ発振回路とを備え、この発振回路の出力を源振として高周波クロック信号を出力する、複数のPLL(フェイズロックループ)回路を備える。このような構成にすることにより、電子機器内で必要とされる全てのクロック信号を、精度良く提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音叉型水晶振動体を源振として、複数のクロック信号を出力する水晶発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子回路を駆動するためのクロック信号源として、共振のピークが先鋭で、温度安定度に優れる水晶振動体が広く用いられている。水晶振動体を工業製品化した形態として、水晶振動体のみをパッケージした水晶振動子と、水晶振動体および発振回路を単一のパッケージ内に納めた水晶発振器と、の2種類がある。
【0003】
携帯電話やコンピュータ等の電子機器には、通常それぞれの用途に合わせて複数の周波数のクロック信号が要求される。このうちいずれのシステムでも必ず用いられているのが、32.768kHzのクロック信号である。
【0004】
この信号は15回分周すると周期が1秒のクロック信号になることから、古くから計時用の基準信号として用いられている。また機器内で使用される他のクロック信号と比べ周波数が低いため、システムの電力を低減する目的でシステムを休止状態にした際に、電子機器を低速で、または間欠的に駆動して、通常状態復帰の合図を待つレジューム用の信号としても多く用いられている。
【0005】
この32.768kHzのクロック信号用の水晶振動体は、一般に水晶を音叉型に加工したものが用いられ、高周波数用に用いられるATカット型水晶振動体と区別して、音叉型水晶振動体と呼ばれている。
【0006】
電子機器には、32.768kHzのクロック信号以外に、複数の高周波クロック信号が必要とされる場合が多い。高速で演算する処理回路や外部の電子機器の動作速度に同調して動作する必要があるインターフェイス回路などが搭載されているからである。
【0007】
しかしながら、複数の高周波クロック信号ごとにATカット型水晶振動体を用いた発振回路を用意するのは、実装スペースを圧迫するばかりか、コストアップにもなり好ましくない。そこで、所定の周波数を有する単一のクロック信号からフェイズロックループ回路(以下PLL回路と記載)を用いて複数の周波数をもったクロック信号を生成する構成が近年多く使用されるようになっている。
【0008】
ここで、PLL回路の基本構成を図8のブロック図を用いて説明する。
【0009】
源振801から出力された基準クロック信号CKSTは、第1の分周回路802に入力している。第1の分周回路802によって分周した信号CKDV1は、位相比較回路803に入力している。
【0010】
位相比較回路803の出力はローパスフィルタ804を介して電圧制御発振回路(VCO)805に入力している。
【0011】
電圧制御発振回路805の出力CKVCは、出力バッファ806に入力すると共に、第2の分周回路807に入力され、分周した信号CKDV2が、位相比較回路803に入力している。
【0012】
出力バッファ806の出力は、このPLL回路の出力信号CKOUTとして出力される。
【0013】
位相比較回路803は、信号CKDV1と信号CKDV2とを比較し両者の周波数が一致するように負帰還がかけられる。出力信号CKOUTの周波数は、基準クロック信号CKSTの周波数に対して、「第2の分周回路807の分周比/第1の分周回路802の分周比」になるので、両方の分周回路の分周比を適切に設定することにより、所定の周波数のクロック信号を得ることができる。
【0014】
分周比の異なるPLL回路を複数設けることで、単一の源信から複数の周波数のクロック信号を得ることができる。
【0015】
このようなPLL回路を用いることにより、電子機器中に使われる高周波クロック信号は、単一のATカット型水晶振動体でまかなうことが可能になる。もちろん、計時用の基準信号またはレジューム用の信号として、32.768kHzのクロック信号は依然として必要である。
【0016】
したがって、電子機器中の水晶部品は、ATカット型水晶振動体と音叉型水晶振動体の2つに集約される。これら2種類の水晶振動体を用いた発振回路は、多くの提案を見るものである(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004−120073号公報(第6頁、第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1に示した従来技術は、ATカット型水晶振動体と音叉型水晶振動体との2つの水晶振動体を搭載しており、所定の周波数のクロック信号を出力することができる。しかしながら、実装スペースとコストの更なる低減のためには、これら2つの水晶振動体を更に単一の部品に集約することが望ましい。
【0019】
そのための手段としては、2つの方法が考えられる。
【0020】
第1の方法は、ATカット型水晶振動体を源振とするPLL回路で、32.768kHzのクロック信号を作成する方法である。このようにすれば、時計用の低周波クロック信号として用いることができる。
【0021】
しかしこの構成では、システムが休止状態となったときのレジューム用の信号として用いると、以下に示すような問題が生じる。
【0022】
すなわち、この構成では、電子機器が低速または間欠的に駆動して、通常状態への復帰の合図を待っている(レジューム用の信号を待っている)状態であっても、高周波数のATカット型水晶振動体を発振させ続け、またそれを源振としてPLL回路を動作させ続けなくてはならない。
【0023】
このため、多大な電力を消費していまい、低電力化のためにシステムを休止状態にする意味がなくなってしまう。
【0024】
第2の方法は、音叉型水晶振動体を源振とするPLL回路で、高周波数のクロック信号
を生成する方法である。しかしこの構成では、以下に示すような温度による周波数偏差が大きくなってしまうという問題がある。
【0025】
ATカット型水晶振動体の周波数温度係数は、温度に対して3次式で表され、その1次項成分は水晶の結晶軸に対するカット角によって調整が可能なことが広く知られている。この1次項成分を最適に調整することで、温度による周波数偏差を小さく抑えることが可能である。
【0026】
ATカット型水晶振動子や発振器の周波数精度は、例えば、マイナス30℃からプラス80℃といった広い温度範囲においても、規定周波数に対してプラスマイナス20ppmから50ppm程度に抑えられているのが一般的であり、電子機器側の回路もこの周波数精度を前提に設計されているものが多い。
【0027】
一方、音叉型水晶振動体の周波数温度係数は、温度に対して常温を頂点とした下向きの2次式で表されるが、2次項成分を小さく抑えることが難しいため、低温や高温における周波数偏差が、ATカット型水晶振動体に比べて非常に大きくなってしまう。
【0028】
したがって、音叉型水晶振動体を源振として、PLL回路で高周波数のクロック信号を生成した場合、生成されたクロック信号の周波数精度が、電子機器側の要求を満たさなくなってしまう場合がある。
【0029】
このような事情から、ATカット型水晶振動体または音叉型水晶振動体のどちらか1つの水晶振動体だけを用いた発振回路は、実装スペースとコストの低減のため強く望まれるものであるが、いまだ実用に耐えるものがないのである。
【0030】
本発明は上記課題を解決し、システム内で必要とされるすべてのクロック信号を、高精度で供給可能な水晶発振器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するため、本発明の水晶発振器は、以下に示す構成を採用するものである。
【0032】
音叉型水晶振動体と、発振回路と、少なくとも1つのフェイズロックループ回路を備え、 発振回路は、温度による発振周波数の変化を時間領域で連続的に補償する温度補償回路を備えており、音叉型水晶振動体と発振回路とによって発振された第1のクロック信号と、この第1のクロック信号を源振としてフェイズロックループ回路によって周波数変換された第2のクロック信号と、を出力することができることを特徴とする。
【0033】
このようにすることで、温度による周波数偏差がない水晶発振器を構成することができる。
【0034】
フェイズロックループ回路は、外部からの制御信号によって、その動作を停止する機構を備えるようにしてもよい。
【0035】
このようにすることで、水晶発振器の余分な動作がなくなり、低消費電力化することができる。
【0036】
フェイズロックループ回路は、外部からの調整により、発振周波数を変更できる機構を備えるようにしてもよい。
【0037】
このようにすることで、発振周波数を容易に変更することができる。
【0038】
発振回路とフェイズロックループ回路との間に、第1のクロック信号を源振として予備クロック信号を出力する予備フェイズロックループ回路を備え、フェイズロックループ回路は、予備クロック信号を源振として第2のクロック信号を出力し、予備クロック信号の周波数は、第1のクロック信号と第2のクロック信号との間の値であるようにしてもよい。
【0039】
このようにすることで、第1のクロック信号が低い場合であっても、動作が不安定になったり、ジッタが発生しない第2のクロック信号を生成することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、システム内で必要とされるすべてのクロック信号を、精度よく供給できる水晶発振器を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の水晶発振器の第1の実施形態を説明するためのブロック図である。
【図2】本発明の水晶発振器を構成する発振回路の回路例である。
【図3】本発明の水晶発振器を構成する発振回路の別の回路例である。
【図4】本発明の水晶発振器の第2の実施形態を説明するためのブロック図である。
【図5】本発明の水晶発振器の第2の実施形態におけるクロック信号の切り替えを説明するブロック図である。
【図6】本発明の水晶発振器の第3の実施形態を説明するためのブロック図である。
【図7】本発明の水晶発振器の第4の実施形態を説明するためのブロック図である。
【図8】PLL回路の基本構成図を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて具体的に説明する。なお、説明に際しては、フェイズロックループ回路(PLL回路)を3つ設ける場合を例にして説明する。
【実施例1】
【0043】
[第1の実施形態の全体説明:図1]
図1は、第1の実施形態を説明するためのブロック図である。図1において、100は水晶発振器、101は音叉型水晶振動体、102は発振回路、102aは発振部、102bは温度補償回路部、103,104,105はPLL回路である。106は時計用クロック信号出力端子、107,108,109は高周波クロック信号出力端子である。
【0044】
記号CKLFは、発振回路102から出力される低周波クロック信号であり、第1のクロック信号である。記号CKP1は、PLL回路103から出力される高周波クロック信号である。同様に、CKP2,CKP3は、PLL回路104、PLL回路105からそれぞれ出力される高周波クロック信号である。第1の実施形態では、PLL回路が3つあるから、CKP1〜CKP3が第2のクロック信号となる。記号VTCは、温度制御信号である。記号XIN,XOUTは、音叉型水晶振動体101を接続する端子の名称である。
【0045】
低周波クロック信号CKLFは、図示しない時計回路に用いる、いわゆる時計用の低周波クロック信号であり、通常32.768kHzの周波数を有している。また、図示しないシステムが休止状態となったときに用いるレジューム用の信号として用いられることもある。
【0046】
低周波クロック信号CKLFは、時計用クロック信号出力端子106から出力されると共に、PLL回路103,104,105の基準信号(源振)となる。PLL回路103,104,105は、低周波クロック信号CKLFを元にして、予め設定された分周比の周波数を持つ高周波クロック信号CKP1,CKP2,CKP3を生成する。これらの高周波クロック信号は、高周波クロック信号出力端子107,108,109から出力される。
【0047】
例えば、低周波クロック信号CKLFは、32.768kHzである。高周波クロック信号CKP1,CKP2,CKP3は、例えば、それぞれ13.000MHz、27.456MHz、38.4000MHzである。
【0048】
図示はしないが、時計用クロック信号出力端子106に接続される外部負荷が大きい場合や、PLL回路の個数が多い場合等には、発振回路102と時計用クロック信号出力端子106との間や、発振回路102とPLL回路103,104,105との間に出力バッファを設けてもよい。
【0049】
本発明の水晶発振器の特徴的な部分は、このように低周波クロック信号CKLFと、高周波クロック信号CKP1,CKP2,CKP3と、を同時に出力することができ、システム内で必要とされるクロック信号を、精度よく供給できることにある。
【0050】
発振回路102は、発振部102aと、温度による発振周波数の変化を時間領域で連続的に補償する温度補償回路部102bとを備えている。発振部102aは、音叉型水晶振動体101とXIN,XOUTで接続されており、音叉型水晶振動体101を駆動して共振周波数で励起させ、その周波数のクロック信号CKLFを出力する回路である。
【0051】
温度補償回路部102bは、温度による音叉型水晶振動体101の共振周波数の偏差を補正するために、周囲温度を検知し、この温度における予め設定された温度制御信号VTCを発振部102aに印加することで、発振部102aの発振周波数を調整する回路である。
【0052】
温度補償回路部102bの働きによって、出力される低周波クロック信号CKLFの周波数偏差は、電子機器が要求する周波数精度内に保たれる。
【0053】
温度補償が時間領域で連続的に行わなくてはならない理由は、発振回路102の出力の低周波クロック信号CKLFが、PLL回路103,104,105の基準信号となるからである。前述したようにPLL回路は、基準信号の分周信号と、電圧制御発振回路の分周信号の位相差に対して負帰還をかけることで、両者の周波数を同一に保つので、基準信号の周波数が不連続に変化した場合、負帰還が正常に働かず、正常なクロック信号を出力することが不可能になってしまう。
【0054】
温度補償を時間領域で連続的に行うためには、温度補償のための制御信号が連続的なアナログ信号であり、かつこの制御信号による発振周波数の制御が連続的に行われる必要がある。このような場合は、例えば、電圧可変容量の容量値を変化させるような場合である。
【0055】
逆に、時間領域で不連続な温度補償は、温度補償のための制御信号がデジタル的に変化する不連続な信号であるか、あるいは周波数の制御が不連続的に行われる場合である。このような場合は、例えば、アレイ状に並べた固定容量の接続と非接続をスイッチで切り替えるような場合である。
[発振回路の説明:図2]
次に、周波数補償が連続的に行われる温度補償回路を含んだ発振回路102の回路例を図2を用いて説明する。
【0056】
発振部102aは、XIN,XOUTで接続された音叉型水晶振動体101と並列に、発振用インバータ201と帰還抵抗202とを接続し、両端を負荷容量を介して接地した構成である。波形整形用インバータ203は、出力波形を整形する働きをすると共に、外部負荷の影響が発振部102aに及ばないようにするために設けられている。
【0057】
負荷容量は、固定容量204と電圧可変容量205とを組み合わせた構成にして、両者の接続点に温度制御信号VTCを印加することによって、電圧可変容量205の容量値を変化させ、周波数を制御することが可能である。
【0058】
固定容量204は、温度制御信号VTCの直流成分が、発振用インバータ201のバイアス電圧に影響を与えることを防止するために直流電圧遮断用に設けられている。図2に示す発振部102aでは、発振用インバータ201の入出力両側に可変容量205を設けているが、どちらか片側のみの構成でもよい。また、特に限定するものではないが、電圧可変容量205としては、バリキャップダイオードやMOS型容量等の素子を用いることができる。
【0059】
温度補償回路部102bは、ダイオード210および211を温度センサとして用い、トランジスタ214および215の電圧−電流特性を用いて、周波数補償のための2次曲線の温度制御信号VTCを作成する。
【0060】
ダイオード210,211は、温度によって閾値電圧が変化する(温度が上がるにつれ閾値電圧が低下する)ので、その低電位側または高電位側に抵抗212,213を直列に接続することによって、出力電圧が温度に対して右上がりまたは右下がりとなる温度検知信号VHTおよびVLTが生成される。
【0061】
なお、温度検知信号を生成するための素子としては、この他に、トランジスタと抵抗との組み合わせや、抵抗値の温度による変化の係数が大きく異なる抵抗同士の組み合わせ等がある。
【0062】
トランジスタ214,215は、ゲート電圧が閾値電圧を超えるとゲート電圧の変化に対して2次で近似される量の電流がソース−ドレイン間に流れ、バイアス抵抗218を流れる電流との比によって、温度に対して近似2次カーブを持った温度制御信号VTCを生成する。なお、抵抗219は、温度制御信号VTCの出力インピーダンスを高くして、直流電圧である温度制御信号VTCが発振部102aの交流信号へ影響を与えることを防止するために設けている。
【0063】
温度検知信号VLT,VHTの傾きの大きさや、トランジスタ214,215の大きさ、ソース抵抗216,217の値等を適切に選ぶことによって、温度制御信号VTCの2次曲線を音叉型水晶振動体101の周波数温度特性に合致させることが可能である。
【0064】
以上説明した温度補償回路部102bの構成は、一例である。2次の補償信号である温度制御信号VTCを作る構成は、この他にもいろいろなものが考えられる。例えば、低温
、常温、高温のそれぞれの補償用に3つの1次の補償電圧をつくり、それらを組み合わせて近似的に2次の補償信号を作る構成である。
[周波数温度補正を行う発振回路の他の構成の説明:図3]
また、時間的に連続な周波数温度補正を行う発振回路として、図2に示した制御電圧によって周波数を制御する構成の他に、水晶発振回路ループ内に温度によって値が大きく変化するサーミスタ等の素子を入れることによって周波数を補正するような構成とすることもできる。
【0065】
この構成を使った発振回路の例を図3に示す。図3に示す回路では、音叉型水晶振動体101と直列に、容量303とサーミスタ304および抵抗305を組み合わせた素子網を挿入している。それぞれの素子網の等価抵抗や等価容量が、温度によって変化することにより発振周波数が補正される。
【0066】
図3に示すような構成では、外部から制御電圧信号(図1,図2でいえば温度制御信号VTC)が印加されるわけではないので、電圧可変容量は不要で、負荷容量301および302は固定容量で良い。
【0067】
図3に示す例では、素子網が2つ設けてある。その理由は、低温補正用および高温補正用の素子網が必要だからである。これらの素子網のそれぞれパラメータを適切に選ぶことにより、音叉型水晶振動体101の温度による周波数偏差を補正することが可能である。
【0068】
以上説明した本発明の発振器を構成する発振部102a、温度補償回路部102b、PLL回路103、104、105等の電子回路は、単一の集積回路にまとめることで、小型化、低価格化を図ることが可能である。
【実施例2】
【0069】
[第2の実施形態の全体説明:図4]
次に、第2の実施形態を図4のブロック図を用いて説明する。説明にあたっては、第1の実施形態と重複する部分は省略する。
【0070】
図4に示す水晶発振器400では、内蔵する3つのPLL回路は、それぞれ動作停止機構を備えている。動作停止機構を備えているPLL回路113,114,115は、制御信号VST1,VST2,VST3を入力することで、その動作停止機構を作動させることができる。この制御信号VST1,VST2,VST3は、制御信号入力端子410,411,412を介して外部から入力されている。
【0071】
この動作停止機構により、電子機器の回路やシステムが高周波クロック信号CKP1,CKP2,CKP3を必要としていない状態(高周波クロック信号が使われない状態)では、PLL回路113,114,115の動作を停止させ、消費電力の低減を図ることができる。
【0072】
各PLL回路の動作を停止させる構成としては色々なものが考えられるが、電力の消費を最小化するためには、基準クロックである低周波クロック信号CKLFの入力を半導体スイッチ等により遮断してしまう構成が効果的である。このとき、その半導体スイッチは、制御信号VST1,VST2,VST3をゲートに入力する構成が一般的である。
【0073】
PLL回路は負帰還によって周波数を合わせ込む原理なので、停止後動作を再開させる場合には、周波数が安定するまでにある程度の時間を要するが、電子機器の回路やシステムの中には、こうした待ち時間を許容できないものも存在する。こうした要求がある場合、PLL回路113,114,115の動作を停止してしまうのではなく、高周波クロッ
ク信号CKP1,CKP2,CKP3の出力だけを停止する出力停止機構を設けて、PLL回路113,114,115自体は連続して動作させておくことで対応が可能である。このとき、高周波クロック信号CKP1,CKP2,CKP3の出力を半導体スイッチ等により開閉制御する構成が効果的である。
【0074】
もちろん、図示はしないが、動作停止機構と出力停止機構との両方の機構を設けてもよい。そのとき、電子機器の回路やシステムが高周波クロック信号CKP1,CKP2,CKP3を必要としていない状態と判断したならば、すぐに出力停止機構を動作させてPLL回路の出力を停止させ、高周波クロック信号が用いられていない時間を計測して、その時間が所定の時間を越えたとき、動作停止機構を動作させるように制御を行うようにしてもよい。
[クロック切り替え制御についての説明:図5]
電子機器の中には、休止モードに移行した際、回路を駆動するクロック信号を高周波クロック信号から低周波クロック信号に切り替える制御を行うものもある。こうした電子機器に対応するための回路を備える例を図5を用いて説明する。図5は、水晶発振器400の内部を説明するブロック図である。図5においては、説明に必要な部分のみを示している。
【0075】
図5に示すように、制御信号VSW(図4に示す例では、VST1に相当する制御信号)によって、PLL回路113を停止した際に、高周波クロック信号CKP1を発振回路102から出力される低周波クロック信号CKLFに切り替える機構を水晶発振器400内に付加している。
【0076】
このクロック信号を切り替える機構は、図5に示す例では、4つのAND回路と1つのNOT回路で構成している。
【0077】
これらの機構は、従来は、水晶発振器400ではなく、この発振回路が搭載される電子機器側に設ける場合が知られているが、水晶発振器400内に作り込むことで、水晶発振器としてはスペース、コストともほとんどアップせずに、電子機器側の回路を簡便化することができる。特に、水晶発振器400のうち、音叉型水晶振動体101を除く素子を半導体基板上に構成する場合は、効果的である。
【実施例3】
【0078】
[第3の実施形態の全体説明:図6]
次に、第3の実施形態を図6のブロック図を用いて説明する。説明にあたっては、すでに説明した実施形態と重複する部分は省略する。
【0079】
ところで、電子機器の回路やシステムで必要とされるクロック信号の周波数が、他の多くの電子機器で同じとき、本発明の水晶発振器を多くの電子機器で共通に使用することができる。一方、電子機器の種類や、その電子機器を製造する製造メーカーによっては、内部の回路やシステムに必要なクロック信号の周波数がそれぞれ異なる場合が多く、そのようなときには、本発明の水晶発振器は、それらすべてに対応するため、さまざまな周波数のクロック信号を出力するものを用意しなければならない。つまり、電子機器や製造メーカーごとに特化した水晶発振器を用意する必要がある。
【0080】
このようなとき、製造した後の水晶発振器であっても、後から出力するクロック信号の周波数を変更できるようにすると便利である。第3の実施形態では、そのような構成を備えるものである。
【0081】
第3の実施形態のPLL回路の構成を図6に示す。源振601、第1の分周回路602
、位相比較回路603、ローパスフィルタ604、電圧制御発振回路(VCO)605、出力バッファ606、第2の分周回路607の各構成と接続とは、すでに図8を用いて説明したPLL回路の基本構成と同様であるため、適宜参照されたい。図8に示す構成と異なる点は、メモリ610を備えている点である。
【0082】
第1の分周回路602および第2の分周回路607の分周比を、メモリ610の内容によって切り替えられる構成になっており、メモリ610は、メモリ読み書き端子611を介してメモリ610内の分周比情報を書き換えることができる。メモリ読み書き端子611は、メモリ610のアドレスを選択する端子、データを書き込む端子、データを読み出す端子などの知られている端子構成となっており、図示しない回路等を用いて、メモリ610の内の分周比情報を書き替える。メモリ610内の分周比情報によって、分周回路602および607に入力されたクロック信号CKSTおよびCKVCが通過する回路素子が変更され、メモリ610内の分周比情報に合致するように分周比が切り替わる。
【0083】
このような構成にすることにより、出力クロック信号CKOUTの周波数を変更することが可能である。第1の分周回路602および第2の分周回路607が選択できる分周比をなるべく多くすることで、周波数の精度をより高めることが可能である。
【実施例4】
【0084】
[第4の実施形態の全体説明:図7]
次に、第4の実施形態を図7のブロック図を用いて説明する。説明にあたっては、すでに説明した実施形態と重複する部分は省略する。なお、第4の実施形態の各PLL回路は、第1の実施形態の各PLL回路と同様なものとする。
【0085】
図7に示す水晶発振器500は、第1の実施形態に予備のPLL回路を付加した点が異なる。図7に示すように、PLL回路103,104,105に入力されるクロック信号は、発振回路102から出力される低周波クロック信号CKLFではなく、予備PLL回路701から出力されるクロック信号CLMFが入力される。
【0086】
予備PLL回路701は、低周波数クロック信号CKLFを入力して、この低周波クロック信号と、PLL回路103,104,105から出力される高周波クロック信号CKP1,CKP2,CKP3と、の中間周波数帯のクロック信号CLMFを出力する。
【0087】
各PLL回路から外部に出力される高周波クロック信号CKP1,CKP2,CKP3の周波数が非常に高く、源振の低周波クロック信号CKLFとの周波数比が非常に大きい場合、各PLL回路が正常に働かず、動作が不安定になったり、高周波クロック信号CKP1,CKP2,CKP3のジッタが非常に大きくなる等の不具合が発生する恐れが多くなる。
【0088】
このような場合においても、図7に示す第4の実施形態のように、予備PLL回路701を設けて、ここで中間周波数のクロック信号CKMFを作成し、この中間周波数クロック信号CKMFをPLL回路103,104,105に供給する構成で解決することができる。
【0089】
例えば、PLL回路103からの高周波クロック信号CKP1の出力周波数が100MHzであった場合、原振である低周波クロック信号CKLFが32.768kHzであるとすると、その周波数の倍率は、3000倍以上にもなる。このため、動作が安定した不具合のないPLL回路103を設計することが非常に困難になるが、予備PLL回路701を設け、その出力クロック信号CKMFの周波数を2MHz近傍に設定することで予備PLL回路701の入出力周波数比、およびPLL回路103の入出力周波数比はいずも
50倍程度に収まり、安定したPLL動作を得ることができる。
【0090】
なお、図7に示す例では、全てのPLL回路103,104,105に対して、予備PLL回路701の出力クロック信号CKMFを供給しているが、もちろんその構成に限定するものではない。PLL回路103,104,105のうちどれかに出力クロック信号CKMFを供給するようにしてもかまわない。これは、電子機器の回路やシステムが要求する高周波クロック信号CKP1,CKP2,CKP3の仕様により適宜決めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の水晶発振器は、これを搭載する電子機器内で必要とされるすべてのクロック信号を、精度よく供給することができる。したがって、精度が要求される電子機器に好適である。
【符号の説明】
【0092】
100,400,500 水晶発振器
101 音叉型水晶振動体
102 発振回路
102a 発振部
102b 温度補償回路部
103,104,105,113,114,115 PLL回路
106 低周波クロック信号出力端子
107,108,109 高周波クロック信号出力端子
201 発振用インバータ
202 帰還抵抗
203 波形整形用インバータ
204 直流遮断容量
205 電圧可変容量
210,211 ダイオード
212,213 抵抗
214,215 トランジスタ
216,217 ソース抵抗
218,219 抵抗
301,303 負荷容量
303 容量
304 サーミスタ
305 抵抗
410,411,412 停止制御信号入力端子
610 メモリ
611 メモリ読み書き端子
701 予備PLL回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音叉型水晶振動体と、発振回路と、少なくとも1つのフェイズロックループ回路を備え、
前記発振回路は、温度による発振周波数の変化を時間領域で連続的に補償する温度補償回路を備えており、
前記音叉型水晶振動体と前記発振回路とによって発振された第1のクロック信号と、該第1のクロック信号を源振として前記フェイズロックループ回路によって周波数変換された第2のクロック信号と、を出力することができることを特徴とする水晶発振器。
【請求項2】
前記フェイズロックループ回路は、外部からの制御信号によって、その動作を停止する機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載の水晶発振器。
【請求項3】
前記フェイズロックループ回路は、外部からの調整により、発振周波数を変更できる機構を備えていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の水晶発振器。
【請求項4】
前記発振回路と前記フェイズロックループ回路との間に、前記第1のクロック信号を源振として予備クロック信号を出力する予備フェイズロックループ回路を備え、
前記フェイズロックループ回路は、前記予備クロック信号を源振として前記第2のクロック信号を出力し、
前記予備クロック信号の周波数は、前記第1のクロック信号と前記第2のクロック信号との間の値であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−206432(P2010−206432A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48759(P2009−48759)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000166948)シチズンファインテックミヨタ株式会社 (438)
【Fターム(参考)】