説明

磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、情報記憶装置、および磁気メモリ

【課題】更なる高記録密度化が実現可能な磁気抵抗効果素子を得る。
【解決手段】CoFeAlSiに第5元素としてGe及び/又はCuを添加した膜でで形成され、内部の磁化の向きが固定されているリファレンス層143cと、リファレンス層143c上に非磁性材料で形成された非磁性層144と、この非磁性層144上に、CoFeAlSiに第5元素としてGe及び/又はCuを添加した膜で形成され、磁化の向きが、外部の磁界の向きに応じた向きに変化する自由磁化層145とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、周辺磁界の向きによって電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果素子、磁気抵抗効果素子を使って情報再生を行う磁気ヘッド、磁気ヘッドが搭載された情報記憶装置、および上記の磁気抵抗効果素子を使って情報を記憶する磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記憶装置の磁気ヘッドには、磁気記憶媒体に記録された情報を再生するための再生用素子として、磁気抵抗効果素子が用いられている。磁気抵抗効果素子は、磁気記憶媒体から漏洩する信号磁界の向きの変化を電気抵抗の変化に変換する磁気抵抗効果を利用して、磁気記憶媒体に記録された情報を再生する。磁気記憶装置の高記録密度化に伴って、磁気抵抗効果素子はスピンバルブ膜を備えたものが主流となっている。スピンバルブ膜は、反強磁性層の上に磁化が所定の方向に固定されたピンド層と非磁性結合層とリファレンス層からなる所謂積層フェリ構造とその上に積層される非磁性層と、磁気記憶媒体からの漏洩磁界の方向や強度に応じて磁化の方向が変わる自由磁化層が積層して構成されている。スピンバルブ膜は、リファレンス層の磁化と自由磁化層の磁化とがなす角に応じて電気抵抗値が変化する。この電気抵抗値の変化を、スピンバルブ膜に一定値のセンス電流を流して電圧変化として検出することで、磁気抵抗効果素子が磁気記憶媒体に記録されたビットを再生する。
【0003】
現在、磁気ヘッドには、磁気抵抗効果膜の積層方向に電流を流すCPP(Current−Perpendicular−to−Plane)型の磁気ヘッドが適用されている。
【0004】
CPP型のスピンバルブ膜の出力は、スピンバルブ膜に外部磁界を一方向からその逆の方向に磁界を掃引して印加した際の単位面積の磁気抵抗変化量で決まってくる。単位面積の磁気抵抗変化量は、スピンバルブ膜の磁気抵抗変化量(ΔR)とスピンバルブ膜の膜面の面積(A)を乗じたものである(以降磁気抵抗変化量をΔRAとする)。単位面積の磁気抵抗変化量を増加させるためには、自由磁化層やリファレンス層にスピン依存バルク散乱係数と比抵抗との積が大きな材料を用いる必要がある。スピン依存バルク散乱とは、伝導電子が持つスピンの向きに依存して自由磁化層や固定磁化層の磁性層内で伝導電子が散乱する度合いが異なる現象であり、スピン依存バルク散乱係数が大きいほど、磁気抵抗変化量が大きくなる。スピン依存バルク散乱係数が大きく且つ比抵抗が大きな材料としては、組成を限定したCoFeAl(特許文献1参照)やCoFeAlSi材料を用いた磁気抵抗効果素子が提案されている。
【特許文献1】特開2007−88415
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年では、ハードディスク装置等に対する高記録密度化の要求は増すばかりであり、リファレンス層や自由磁化層にCoFeAlSiを使用しても、CPP型の磁気抵抗効果素子における更なる高感度化が困難となってきている。
【0006】
本件は、上記事情に鑑み、更に高感度の磁気抵抗効果素子、そのような高感度で情報再生を行う磁気ヘッド、そのような磁気ヘッドが搭載された情報記憶装置、および上記の磁気抵抗効果素子を使って情報を記憶する磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する磁気抵抗効果素子の基本形態は、CoFeAlSi合金に第5元素としてGe及び/又はCuを含む膜とを有し、磁化の向きが固定されているリファレンス層と、CoFeAlSi合金に第5元素としてGe及び/又はCuを含む磁化の向きが外部からの作用に応じた向きに変化する自由磁化層と、上記リファレンス層と上記自由磁化層との間に非磁性材料で形成された非磁性層とを備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、上記にいう「外部からの作用」とは、上記自由磁化層に対して磁界を印加することや、あるいは、電子が取り得る2つのスピンの向きのうち何れか一方の向きのスピンを持った電子のみからなる電子流である偏極スピン電流を上記自由磁化層に流すこと等を意味する。
【0009】
この磁気抵抗効果素子の基本形態は、リファレンス層と非磁性層と自由磁化層とを備えたCPP型の磁気抵抗効果素子である。ここで、本件の開発者は、CoFeAlSi合金に第5元素としてGe及び/又はCuを含む膜において大きな比抵抗が得られることを見出した。CPP型の磁気抵抗効果素子の感度を高めるためには、自由磁化層やリファレンス層を、いわゆるスピン依存バルク散乱係数と比抵抗との積が大きな材料で形成する必要がある。上記の磁気抵抗効果素子の基本形態によれば、上記積層膜において比抵抗の更なる増加が図られた材料で自由磁化層やリファレンス層が形成されることから、更に高感度の磁気抵抗効果素子が実現される。
【0010】
また、上記目的を達成する磁気ヘッドの基本形態は、CoFeAlSi合金に第5元素としてGe及び/又はCuを含む磁化の向きが固定されているリファレンス層と、CoFeAlSi合金に第5元素としてGe及び/又はCuを含む磁化の向きが外部からの作用に応じた向きに変化する自由磁化層と、上記リファレンス層と上記自由磁化層との間に非磁性材料で形成された非磁性層と、積層方向に電流を流すための一対の電極とを備えたことを特徴とする。
【0011】
この磁気ヘッドの基本形態は、比抵抗の増加が図られた材料で形成された自由磁化層やリファレンス層を備えた上述の磁気抵抗効果素子を、上記磁気記憶媒体に対する情報再生のための磁気ヘッドに適用したものであり、更なる高感度での情報再生が可能となっている。
【0012】
また、上記目的を達成する情報記憶装置の基本形態は、磁気記憶媒体および、
CoFeAlSi合金に第5元素としてGe及び/又はCuを含む磁化の向きが固定されているリファレンス層と、CoFeAlSi合金に第5元素としてGe及び/又はCuを含む磁化の向きが外部からの作用に応じた向きに変化する自由磁化層と、上記リファレンス層と上記自由磁化層との間に非磁性材料で形成された非磁性層と、積層方向に電流を流すための一対の電極とを備えた磁気ヘッドを備えたことを特徴とする。
【0013】
この情報記憶装置の基本形態によれば、更なる高記録密度化が実現可能な上述の磁気ヘッドが搭載されていることから、更に大容量での情報記録が可能となっている。
【0014】
また、上記目的を達成する磁気メモリの基本形態は、
CoFeAlSi合金に第5元素としてGe及び/又はCuを含む磁化の向きが固定されているリファレンス層と、CoFeAlSi合金に第5元素としてGe及び/又はCuを含む磁化の向きが外部からの作用に応じた向きに変化する自由磁化層と、上記リファレンス層と上記自由磁化層との間に非磁性材料で形成された非磁性層とを備えた磁気抵抗効果素子および、上記磁気抵抗効果素子の上記自由磁化層に情報に応じた作用を与えることでその自由磁化層内の磁化の向きをその情報に応じた向きに向かせて、その情報をその自由磁化層に磁化の向きとして書き込む書込み部を備えたことを特徴とする。
【0015】
ここで、この磁気メモリの基本形態においても、上記にいう「外部からの作用」とは、上記自由磁化層に対して磁界を印加することや、あるいは、電子が取り得る2つのスピンの向きのうち何れか一方の向きのスピンを持った電子のみからなる電子流である偏極スピン電流を上記自由磁化層に流すこと等を意味する。
【0016】
この磁気メモリの基本形態によれば、上述の更に高感度の磁気抵抗効果素子を使って情報を記録することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上、説明したように、本件によれば、更に高感度の磁気抵抗効果素子、そのような高感度で情報再生を行う磁気ヘッド、そのような磁気ヘッドが搭載された情報記憶装置、および上記の磁気抵抗効果素子を使って情報を記憶する磁気メモリを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、上記に基本形態について説明した磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、情報記憶装置、および磁気メモリの具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
まず、第1実施形態について説明する。この第1実施形態は、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、および情報記憶装置の具体的な実施形態である。
【0020】
図1は、基本形態について説明した情報記憶装置の具体的な一実施形態に相当するハードディスク装置を示す図である。
【0021】
この図1に示すハードディスク装置10はハウジング11と、そのハウジング11内に備えられた次のような構成要素からなる。
【0022】
ハウジング11内には、スピンドル(図示されず)により駆動されるハブ12、ハブ12に固定されスピンドルにより回転される磁気ディスク13、アクチュエータユニット14、アクチュエータユニット14に支持され、磁気ディスク13の径方向に駆動されるアーム15およびサスペンション16、サスペンション16に支持された磁気ヘッド100が備えられている。また、本実施形態の磁気ディスク13は、ディスク面に対して垂直な方向の磁化によって情報が記録される垂直磁気記録方式の磁気記憶媒体であり、磁気ヘッド100は、後述するように、情報再生用の磁気抵抗効果素子と、情報記録用の誘導型記録素子とで構成されている。この誘導型記録素子は、垂直磁気記録方式に対応した単磁極型の素子である。さらに、図1のハウジング11内には、この磁気ヘッド100における磁気抵抗効果素子での情報再生と、誘導型記録素子での情報記録とを制御する制御回路17も備えられている。
【0023】
ここで、磁気ディスク13は、上述の基本形態における磁気記憶媒体の一例に相当する。尚、上述の基本形態における磁気記憶媒体は、本実施形態の磁気ディスク13のような垂直磁気記録方式の磁気ディスク装置に限るものではなく、例えば、面内磁気記録方式の磁気ディスク装置や、斜め異方性を有する磁気ディスクや、磁気ディスク以外の、例えば磁気テープ等といった磁気記憶媒体であっても良い。
【0024】
また、磁気ヘッド100は、基本形態について説明した磁気ヘッドの具体的な一実施形態に相当する。尚、基本形態について上述した磁気ヘッドは、本実施形態の磁気ヘッド100のような垂直磁気記録用の磁気ヘッドに限るものではなく、面内記録用の磁気ヘッドであっても良い。
【0025】
また、基本形態について上述した情報記憶装置は、図1に示す基本構成を有したハードディスク装置に限るものでは無く、一般に知られている他の構成のハードディスク装置や、例えば磁気テープに情報を記録する装置等であっても良い。
【0026】
次に、基本形態について説明した磁気ヘッドの具体的な一実施形態である、図1の磁気ヘッド100の詳細について説明する。
【0027】
図2は、基本形態について説明した磁気ヘッドの具体的な一実施形態である、図1の磁気ヘッドの詳細を示す図である。
【0028】
この図2には、図1の磁気ヘッド100が、磁気ディスク13側から見た模式的な平面図で示されている。
【0029】
この図2に示すように、磁気ヘッド10は、大略して、Al−TiC等のセラミックからなるヘッドスライダの基体101の上に形成された磁気抵抗効果素子120と、その上に形成された誘導型記録素子130から構成される。この図2中、矢印Xの方向は、磁気抵抗効果素子130に対向する磁気ディスク13(図1参照)の移動方向を示す。ここで、上記の磁気抵抗効果素子120が、上述の基本形態における磁気抵抗効果素子の一例に相当する。
【0030】
誘導型記録素子130は、磁気記憶媒体のトラック幅に相当する幅を、図2中の矢印Yの方向に有する上部磁極131と、非磁性材料からなる記録ギャップ層132を挟んで上部磁極131に対向する下部磁極133と、上部磁極131と下部磁極133とを接続するヨーク(図示されず)と、記録電流により記録磁界を誘起するコイル(図示されず)等からなる。上部磁極131、下部磁極133、およびヨークは軟磁性材料より構成される。この軟磁性材料としては、記録磁界を確保するために飽和磁束密度の大きな材料、例えば、Ni80Fe20、CoZrNb、FeN、FeSiN、FeCo、CoNiFe等が挙げられる。尚、基本形態について上述した磁気ヘッドは、本実施形態の誘導型記録素子130を備えた形態に限定されるものではなく、一般に知られた他の構造の誘導型記録素子を備えたものであっても良い。
【0031】
情報記録時には、図1の制御回路17によって、誘導型記録素子130における上記のコイルに、情報に応じて極性が順次に変化する記録電流が流される。その結果、このコイルによって情報に応じて向きが変化する記録磁界が誘起される。記録磁界は、上記のヨークを通って、上部磁極131から、図1の磁気ディスク13の表面に印加される。記録磁界の印加を受けた磁気ディスク13では、磁化が、その印加された記録磁界の向きに応じて、磁気ディスク13の表裏何れかの向きを向くこととなる。
【0032】
ここで、情報再生時には、磁気ディスク13が回転され、磁気ヘッド100の直下を、磁気ディスク13が通過する。その結果、この磁気ディスク13に、各々が記録対象の情報に応じて表裏何れかの向きを向いた複数の磁化の配列として、情報が記録されることとなる。
【0033】
磁気抵抗効果素子120は、基体101の表面に形成されたアルミナ膜102上に、下部電極121、磁気抵抗効果膜140、アルミナ膜125、上部電極122が積層された構成となっている。磁気抵抗効果膜140は、下部電極121および上部電極122とそれぞれ電気的に接続されている。
【0034】
ここで、上記の下部電極121と上部電極122とのそれぞれが、上述の磁気ヘッドや情報記憶装置の基本形態における電極の一例に相当する。
【0035】
磁気抵抗効果膜140の両側には、絶縁膜123を介して磁区制御膜124が設けられている。磁区制御膜124は、例えば、Cr膜と強磁性のCoCrPt膜との積層体からなる。磁区制御膜124は、磁気抵抗効果膜140を構成する後述の自由磁化層の単磁区化を図り、バルクハウゼンノイズの発生を防止する。下部電極121および上部電極122はセンス電流Isの流路としての機能に加え、磁気シールドとしての機能も兼ねる。そのため、下部電極121および上部電極122は、軟磁性合金、例えばNiFe、CoFe等から構成される。さらに、上述したように、本実施形態では、磁気抵抗効果膜140は、下部電極121と電気的に直に接続されているが、磁気抵抗効果膜140と下部電極121との界面に導電膜、例えば、Cu膜、Ta膜、Ti膜等を設けてもよい。
【0036】
また、この図2の磁気ヘッド100では、図示は省略されているが、磁気抵抗効果素子120および誘導型記録素子13は、腐食等を防止するためアルミナ膜等により覆われている。
【0037】
情報再生時には、磁気ディスク13が回転され、磁気ヘッド100の直下を、各々が情報に応じた向きを向いた磁化の配列が通過し、磁気抵抗効果膜140では、媒体磁界の向きに応じて電気抵抗値が変化する。以下では、この媒体磁界の向きに応じて変化する電気抵抗値を磁気抵抗値と呼ぶ。情報再生時には、磁気抵抗効果膜140において、磁気ヘッド100の直下を順次に通過する各磁化からの磁界の向きに応じた、即ち、各磁化が担持している情報に応じた磁気抵抗値の変化が発生する。
【0038】
ここで、情報再生時には、図1の制御回路17によって、磁気抵抗効果素子120には、上部電極122から、磁気抵抗効果膜140通り下部電極121に達するセンス電流Isが流される。そして、この制御回路17において、磁気抵抗効果膜140の磁気抵抗値の変化が、センス電流Isが流れたときの電圧変化として検出される。つまり、制御回路17において、磁気ディスク13に記録されている情報に応じた磁気抵抗値の変化が、この電圧変化として検出される。本実施形態では、磁気抵抗効果素子120を用いた情報再生が、このように実行される。なお、センス電流Isの流れる方向は図2に示す方向に限定されず、逆向きでもよい。また、磁気ディスク13の移動方向も、図2に示す矢印Xの方向と逆向きでもよい。
【0039】
図3は、図2に示す磁気抵抗効果膜の断面図である。
【0040】
この図3に示すように、磁気抵抗効果膜140は、下地層141、反強磁性層142、固定磁化積層体143、非磁性層144、自由磁化層145、保護層146が順次に積層された構成からなる、いわゆるシングルスピンバルブ構造を有する。
【0041】
ここで、自由磁化層145が、上述の基本形態における自由磁化層の一例に相当し、非磁性層144が、この基本形態における非磁性層の一例に相当する。
【0042】
下地層141は、図2に示す下部電極121の表面にスパッタ法等により形成される。また、この下地層141は、例えば、NiCrやRuの層であっても良く、あるいは、Ta膜(例えば膜厚5nm)とNiFe膜(例えば膜厚5nm),Ta膜と(例えば膜厚5nm)とRu膜(例えば膜厚5nm)との積層体等であっても良い。また、下地層141がTa膜とNiFe膜との積層体である場合、その積層体におけるNiFe膜は、Feの含有量が17原子%〜25原子%の範囲内であることが好ましい。このような組成のNiFe膜を用いることにより、NiFe膜の結晶成長面である(111)結晶面上に反強磁性層142がエピタキシャル成長する。これにより、反強磁性層142の結晶性を向上させることができる。
【0043】
反強磁性層142は、4nm〜30nm(好ましくは4nm〜10nm)の範囲内の膜厚を有し、Mn−TM合金(TMは、Pt、Pd、Ni、IrおよびRhのうち少なくとも1種を含む。)から構成された層である。Mn−TM合金としては、例えば、PtMn、PdMn、NiMn、IrMn、PtPdMnが挙げられる。反強磁性層142は、後述の固定磁化積層体143のピンド層143aに交換相互作用を及ぼしてピンド層143a内の磁化を所定の向きに固定する役割を担っている。
【0044】
固定磁化積層体143は、ピンド層143a、非磁性結合層143b、リファレンス層143cが、反強磁性層142側からこの記載順に積層された、いわゆる積層フェリ構造を有する。ここで、本実施形態の磁気抵抗効果素子120は、磁気抵抗効果膜140においてリファレンス層143cが、自由磁化層145に対して基体101側、即ち、自由磁化層145の下層側に配置されている、いわゆるボトム型のスピンバルブ構造を有した磁気抵抗効果素子となっている。
【0045】
固定磁化積層体143では、ピンド層143aとリファレンス層143cとが反強磁性的に交換結合されており、その結果、各層の磁化の向きが互いに反平行となっている。これにより、リファレンス層143cの磁化が発する磁界が、ピンド層143aの磁化が発する磁界によって打ち消されて、フリー層にかかる磁場が抑制され磁気抵抗効果が上昇することとなる。
【0046】
このことは、上述の基本形態に対し、
「上記リファレンス層の上記非磁性層側とは反対側に磁性材料で形成された、磁化の向きが、上記リファレンス層の磁化が固定されるべき第1の向きとは反対の第2の向きに固定されているピンド層と、
上記ピンド層と上記リファレンス層との間に形成された、上記ピンド層の磁化と上記リファレンス層内の磁化とを反強磁性的に結合させることで上記リファレンス層内の磁化を上記第1の向きに固定させる、非磁性材料からなる非磁性結合層とを備えた積層フェリ構造を備えた」という応用形態が好適であることを意味している。
【0047】
上記のピンド層143aは、この応用形態におけるピンド層の一例に相当し、非磁性結合層143bは、この応用形態における非磁性結合層の一例に相当する。
【0048】
上記の反強磁性層142は、この応用形態における反強磁性層の一例に相当する。
【0049】
ピンド層143aは、軟磁性材料で形成されている。ピンド層143aの形成に好適な軟磁性材料としては、比抵抗が低い点で、Co60Fe40やNiFeが挙げられる。本実施形態では、ピンド層143aとリファレンス層143cとは上記のように反強磁性的に交換結合される。その結果、ピンド層143aの磁化は、リファレンス層143cの磁化の向きに対して逆向きとなるので、ピンド層143aが、この磁気抵抗効果膜140における磁気抵抗変化量ΔRAを低下させる方向に働く。このため、ピンド層143aを上記のような比抵抗の低い軟磁性材料で形成することで、この磁気抵抗変化量ΔRAの低下を抑制することができる。
【0050】
リファレンス層143cは、1〜10nmの範囲内の何れかの膜厚を有するCoFeAlSi(ここで50≦a≦70,10≦b≦25,15≦c≦35,0<d<35(at%))に第5元素としてGe又はCuを(CoFeAlSi)(100-X)の組成範囲で作製された膜である。ここでMはGe及び/又はCuを示し、組成Xは0<X<20(at%)を添加した合金とする。また、CoFeAlSiに添加する元素はGe、Cu、またはGeとCuとの合金であっても良い。
【0051】
尚、上述の基本形態におけるリファレンス層は、本実施形態のリファレンス層143cのような5元の合金層のみで構成されたものに限るものではなく、例えば、上記の膜と、Co,Ni,Fe等の他の磁性元素のうちの2種類以上の磁性元素からなる合金で形成された層との積層膜であっても良い。また、このような積層膜の場合、後者の層については、上記の磁性元素の種類や組成比が異なっていても良く、リファレンス層143cの上下どちらか一方に積層させるばかりでなく、上下両方に積層させてもいい。また、本件の5元合金(CoFeAlSi)(100-X)(ここで50≦a≦70,10≦b≦25,15≦c≦35,0<d<35,0<X<20(at%),M=Ge,Cu)の作製方法は5種類の金属の合金からなる一つのターゲットをスパッタしてもよく、各々の元素別のターゲットを5個同時スパッタ成膜及び積層成膜してもよく、5種類の元素を2つ、あるいは3つ、4つ組み合わせた合金ターゲットの同時成膜及び積層成膜でもよい。
【0052】
非磁性結合層143bは、ピンド層143aとリファレンス層143cとが反強磁性的に交換結合する範囲の膜厚となっている。その範囲は、0.4nm〜1.5nm(好ましくは0.4nm〜0.9nm)である。非磁性結合層143bは、Ru、Rh、Ir、Ru系合金、Rh系合金、Ir系合金等の非磁性材料から構成される。Ru系合金としては、Ruに、Co、Cr、Fe、Ni、およびMnのうち何れか一つが添加された合金、あるいは、Ruに、これらの合金が添加された合金等が好適である。
【0053】
非磁性層144は、1.5nm〜10nmの範囲内の何れかの膜厚を有する非磁性の層となっている。非磁性層144に好適な材料としては、Cu、Al、Cr、TiO、MgO、ZnO等が挙げられる。
【0054】
自由磁化層145は、上記のリファレンス層143cと同様に、1〜10nmの範囲内の何れかの膜厚を有する(CoFeAlSi)(100-X)の組成範囲で作製された膜である。ここでMはGe及び/又はCuを示し、組成Xは0<X<20(at%)を添加した合金とする。また、CoFeAlSiに添加する元素はGe、Cu、またはGeとCuとの合金の膜であっても良い。
【0055】
尚、上述の基本形態における自由磁化層は、本実施形態の自由磁化層145のような5元の合金層のみで構成されたものに限るものではなく、例えば、上記の膜と、Co,Ni,Fe等の他の磁性元素のうちの2種類以上の磁性元素からなる合金で形成された層との積層膜であっても良い。また、このような積層膜の場合、後者の層については、上記の磁性元素の種類や組成比が異なっていても良く、リファレンス層143cの上下どちらか一方に積層させるばかりでなく、上下両方に積層させてもいい。また、リファレンス層と同様に、本件の5元合金(CoFeAlSi)(100-X)(ここで50≦a≦70,10≦b≦25,15≦c≦35,0<d<35,0<X<20(at%),M=Ge,Cu)の作製方法は5種類の金属の合金からなる一つのターゲットをスパッタしてもよく、各々の元素別のターゲットを5個同時スパッタ成膜及び積層成膜してもよく、5種類の元素を2つ、あるいは3つ、4つ組み合わせた合金ターゲットの同時成膜及び積層成膜でもよい。
【0056】
ここで、リファレンス層143c及び自由磁化層145の形成に、上記のようにCoFeAlSi合金に第5元素としてGe又はCuを添加させた膜が用いられているのは以下の理由による。
【0057】
本件の開発者は、このような 合金膜において、以下の図に示すように、従来よりも大きな比抵抗が得られることを見出した。
【0058】
図4は、SiO基板上にCoFeAlSi合金に第5元素としてGeを添加した際の単膜での比抵抗を表わすグラフである。
【0059】
ここで、この図4の例では、CoFeAlSi合金の膜として、Coが50at%、Feが25at%、Alが12.5at%、Siが12.5%という組成の合金からなり、横軸は組成で(Co50Fe25Al12.5Si12.5)(100-X)Geとした時のGeの組成を示している。この図4のグラフから、CoFeAlSi合金の単層膜に対して、CoFeAlSi合金にGeを添加した合金膜の比抵抗は、Geの組成が増加するにつれて大きくなっている。この図4のグラフでは、Ge膜の組成Xが約15%の時にCoFeAlSi合金の単層膜の比抵抗のおよそ3倍となっている。
【0060】
一般的に、磁気抵抗効果膜における磁気抵抗変化量ΔRAは、自由磁化層やリファレンス層において伝導電子が散乱する度合いを表わすスピン依存バルク散乱係数と比抵抗との積に依存する。
【0061】
本実施形態では、上記のような積層膜で自由磁化層145やリファレンス層143cを形成して比抵抗を増加させることで、磁気抵抗効果膜140における大きな磁気抵抗変化量ΔRAが実現されている。情報再生時において、磁気抵抗効果素子120にセンス電流Isが流れたときの、記録情報に応じた電圧変化は、磁気抵抗効果膜140の磁気抵抗変化量ΔRAに依存する。本実施形態では、自由磁化層145やリファレンス層143cでの比抵抗の増加によって、情報再生における再生感度の向上が図られている。
【0062】
保護層146は、磁気抵抗効果膜140の形成時に、反強磁性層142の反強磁性を出現させるための後述の熱処理の際に自由磁化層145の酸化を防止する役割を担っており、非磁性の導電性材料で形成されている。この非磁性の導電性材料としては、例えばRu、Cu、Ta、Au、Al、およびWの何れかを含む金属が挙げられる。また、本実施形態では、保護層146は、このような金属の単層膜であるが、上記のような酸化を防止する役割を果たす保護層は単層膜に限るものではなく、上記の金属の膜が積層された積層膜であっても良い。
【0063】
次に、この図3に示す磁気抵抗効果膜140の形成方法について説明する。
【0064】
最初に、スパッタ法、蒸着法、CVD法等により、下地層141から保護層146までの各々の層を上述した材料を用いて形成する。
【0065】
次いで、このようにして得られた積層物を磁界中で熱処理する。熱処理は、真空雰囲気で、例えば加熱温度250℃〜320℃、加熱時間約2〜4時間、印加磁界1592kA/mという条件下において行われる。この熱処理により、上述したMn−TM合金のうちの一部が規則合金化して、反強磁性層142に反強磁性が出現する。また、熱処理の際に所定の方向に磁界を印加することで、反強磁性層142の磁化の向きがその方向に設定され、その結果、反強磁性層142とピンド層143aとの交換相互作用により、ピンド層143aの磁化が所定の向きに固定される。
【0066】
次いで、下地層141から保護層146までの積層物を図2に示すような形状にパターニングして磁気抵抗効果膜140を得る。
【0067】
このように形成された磁気抵抗効果膜140は上述したように磁気抵抗変化量ΔRAが大きく、その結果、磁気ヘッド100における再生感度の向上が図られている。そして、図1に示す本実施形態のハードディスク装置10では、この再生感度の高い磁気ヘッド100を用いることで、更なる高記録密度化が実現されており、大容量での情報記録および情報再生が可能となっている。
【0068】
以下、上述の第1実施形態に対応した実施例に基づいて本件を更に具体的に説明するが、本件は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
[第1実施例]
図3に示す磁気抵抗効果膜の構成を有し、リファレンス層と自由磁化層とが、CoFeAlSi合金にGeを添加した合金で形成されている磁気抵抗効果素子を以下の方法で作製した。
【0070】
まず、熱酸化膜が形成されたシリコン基板上に、下部電極として、シリコン基板側からCu(250nm)/NiFe(50nm)の積層膜を形成し、次いで下記の組成および膜厚を有する下地層〜保護層までの積層物の各層を超高真空(真空度:2×10−6Pa以下)雰囲気でスパッタ装置を用いて室温で成膜した。
【0071】
次いで、反強磁性層の反強磁性を出現させるための熱処理を行った。熱処理の条件は、加熱温度300℃、処理時間3時間、印加磁界1952kA/mとした。
【0072】
次いで、このようにして得られた積層物をフォトリソグラフィーとイオンミリングによる微細加工を行って、0.1μm〜0.6μmの範囲の6種類の接合面積を有するCPP−GMR素子を各々の面積で40個作製した。
【0073】
以下に、第1実施例の磁気抵抗効果膜の具体的構成を示す。なお、括弧内の数値は膜厚を表している。
【0074】
下地層:Ru(4nm)
反強磁性層:IrMn(5nm)
ピンド層:Co60Fe40(4nm)
非磁性結合層:Ru(0.7nm)
リファレンス層:(Co50Fe25Al12.5Si12.5)(100-X)Ge(0≦X≦20at%)(3.0nm)
非磁性層:Cu(3.5nm)
自由磁化層:(Co50Fe25Al12.5Si12.5)(100-X)Ge(0≦X≦20at%)(4.0nm)
保護層:Ru(5nm)
そして、組成を変えたサンプルについて、磁気抵抗変化量ΔRAを測定し、磁気抵抗変化率であるMR比(ΔRA/RA)の40個の素子平均を求めた。
【0075】
なお、磁気抵抗変化量ΔRAの測定は、次のように行なった。
【0076】
まず、センス電流の電流値を2mAに設定し、外部磁界を、リファレンス層の磁化方向と平行に印加し、その外部磁界の強度を−79kA/m〜79kA/mの範囲で変化させ、下部電極と上部電極との間の電圧をデジタルボルトメータにより測定して磁気抵抗曲線を得た。そして、磁気抵抗曲線の最大値と最小値との差から磁気抵抗変化量ΔRAを求めた。
【0077】
また、後述のHinやHcは、外部磁界を上記と同じ方向に印加し、強度を−7.9kA/m〜7.9kA/mの範囲で変化させて得られる磁気抵抗曲線のヒステリシスから求めた。
【0078】
図5は、磁気抵抗曲線を示す図である。
【0079】
Hinは、この図5に示すように外部磁界の向きが変わった時の抵抗値変化の応答する磁界のシフト量を表す。リファレンス層と自由磁化層の磁気的な結合力が切れている時は、Hinが表わすシフト量が小さくなり、自由磁化層の磁化が外部の磁界の変化に感度良く反応でき、外部磁界の向きの変化が、直ちに抵抗値の変化として検出されることとなる。即ち、磁気抵抗効果素子の感度の観点からは、このHinが小さい方が好ましい。
【0080】
このHinは、主に非磁性層の膜厚とラフネスによって決まり、非磁性層の膜厚が薄いほど、あるいは、ラフネスが大きいほど、リファレンス層と自由磁化層が部分的に磁気的に結合してしまいHinが大きくなる。一般に、非磁性層の形成時にラフネスを制御することは困難であることが多く、Hinの低減は、非磁性層の膜厚を厚くすることで行われる。一方で、磁気抵抗効果素子では、この非磁性層の膜厚の増加は、上部端子と下部端子の間の距離の増加を招き、結果的に、ビット方向の効率を低下させてしまう。このビット方向の効率の観点からは、非磁性層の膜厚は、3.5nm以下の膜厚が望ましい。また、磁気抵抗効果素子として正常に作用するためには、Hinは、少なくともHin≦10Oeとなることが要求される。
【0081】
また、Hcは保磁力であり、図5に示すようにヒステリシスループの幅を示している。外部磁界に対して感度良く自由磁化層内の磁化が反転するためには、このHcは小さいほど良く、Hcが、Hc≦10Oeとなることが望ましい。
【0082】
[第2実施例]
リファレンス層と自由磁化層とが、CoFeAlSi合金に第5元素としてCuを添加して形成されている他は、上述の第1実施例と同じ条件で、磁気抵抗効果素子の作成を行い、上記の磁気抵抗値変化率MR比、Hin、およびHcを求めた。
【0083】
図6は、第1および第2実施例についての磁気抵抗値変化率MR比を示すグラフであり、図7は、第1および第2実施例についてのHinを示すグラフであり、図8は、第1および第2実施例についてのHcを示すグラフである。
【0084】
図6のグラフでは、横軸にGeおよびCuの組成がとられ、縦軸にMR比がとられており、図7のグラフでは、横軸にGeおよびCuの組成がとられ、縦軸にHinがとられており、図8のグラフでは、横軸にGeおよびCuの組成がとられ、縦軸にHcがとられている。また、各グラフとも、第1実施例は、四角印のプロット点を結ぶ実線で示されており、第2実施例は、菱形印のプロット点を結ぶ実線で示されている。
【0085】
図6のグラフから、上記のような第5元素を添加した合金膜によってリファレンス層や自由磁化層を形成することでMR比が増大し、Geを添加した場合(第1実施例)では、Geの組成が約18at%で、CoFeAlSi合金の単層膜のMR比に比べて4割以上大きいMR比=7.8%が実現でき、Cuを添加した場合(第2実施例)では、Cu組成が約8%でMR比=6.0%が実現できることが確認された。このことから、上記のような積層膜によってMR比の増加が実現できることが分かる。
【0086】
また、図7および図8のグラフから、Geを添加した場合(第1実施例)では、HinとHcとの双方について、上述の10Oe以下という望ましい値が実現できることが確認された。また、Cuを添加した場合(第2実施例)では、まず、Hinについて、上述の10Oe以下という望ましい値が実現できることが確認された。また、Hcについては、Cu組成が12at%で10Oeに達している。ここで、磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに応用する場合、実用上はHcが15Oe以下であれば問題なく使用できることが分かっており、上記の第2実施例におけるHcは、この実用上問題の無い範囲内に収まっている。
【0087】
以上、実施例も挙げて説明したように、図3に示す第1実施形態の磁気抵抗効果膜140によれば、比抵抗の増加に伴う大きな磁気抵抗変化量が実現され、そのような磁気抵抗効果膜140を備えた磁気抵抗効果素子120を再生素子として備える、図2に示す第1実施形態の磁気ヘッド100の高い再生感度が実現される。その結果、図1に示す第1実施形態のハードディスク装置10では、この再生感度の高い磁気ヘッド100を用いることで、更なる高記録密度化が実現され、大容量での情報記録および情報再生が可能となっている。
【0088】
次に、第2実施形態について説明する。この第2実施形態も、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、および情報記憶装置の具体的な実施形態である。ただし、この第2実施形態は、磁気抵抗効果膜の構成が、第1実施形態とは異なっている。以下では、第2実施形態について、上述した第1実施形態との相違点に注目した説明を行う。
【0089】
図9は、第2実施形態の磁気抵抗効果膜の断面図である。
【0090】
尚、この図9では、図3に示す第1実施形態の磁気抵抗効果膜140の構成要素と同等な構成要素は図3と同じ符号が付されており、以下では、これら同等な構成要素についての重複説明を省略する。
【0091】
この図9に示すように、磁気抵抗効果膜150は、下地層141、自由磁化層151、非磁性層152、固定磁化積層体153、反強磁性層154、保護層146が順次に積層された構成からなるシングルスピンバルブ構造を有する。また、固定磁化積層体153は、リファレンス層153c、非磁性結合層153b、ピンド層153aが、非磁性層152側からこの記載順に積層された積層フェリ構造を有する。本実施形態の自由磁化層151は、上述の基本形態における自由磁化層の一例に相当し、本実施形態の非磁性層152は、その基本形態における非磁性層の一例に相当し、本実施形態のリファレンス層153cは、その基本形態におけるリファレンス層の一例に相当する。
【0092】
ここで、この第2実施形態の磁気抵抗効果素子は、図9に示すように、磁気抵抗効果膜150においてリファレンス層153cが、自由磁化層151に対して基体とは反対側、即ち、自由磁化層151の上層側に配置されている、いわゆるトップ型のスピンバルブ構造を有した磁気抵抗効果素子となっている。
【0093】
本実施形態でも、自由磁化層151およびリファレンス層153cは、図3に示す第1実施形態の磁気抵抗効果膜140と同様、CoFeAlSi合金に第5元素としてGe又はCuを添加した膜で形成されており、図9の磁気抵抗効果膜150は、図3の磁気抵抗効果膜140の場合と同様の理由により大きな磁気抵抗変化量ΔRAを有している。
【0094】
尚、磁気抵抗効果膜150の形成方法については、その形成方法が図3の磁気抵抗効果膜140の形成方法とほぼ同様であるので説明を省略する。また、図3の磁気抵抗効果膜140についての上述の実施例に対する評価を、この図8の磁気抵抗効果膜150にも適用できることから、この図8の磁気抵抗効果膜150についての実施例についても説明を省略する。
【0095】
次に、第3実施形態について説明する。この第3実施形態も、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、および情報記憶装置の具体的な実施形態である。ただし、この第3実施形態は、磁気抵抗効果膜の構成が、第1および第2実施形態とは異なっている。以下では、第3実施形態について、この相違点に注目した説明を行う。
【0096】
図10は、第3実施形態の磁気抵抗効果膜の断面図である。
【0097】
尚、この図10では、図3に示す第1実施形態の磁気抵抗効果膜140の構成要素と同等な構成要素は図3と同じ符号が付されており、以下では、これら同等な構成要素についての重複説明を省略する。また、図3の構成要素と実質的には同等であるが、説明の便宜上、図3とは名称を変更した構成要素については、図10では、図3と同じ符号に「’」が付されて示されており、以下では、これら実質的に同等な構成要素についての重複説明も省略する。
【0098】
この図10に示す磁気抵抗効果膜160は、下地層141、下部反強磁性層142’、下部固定磁化積層体143’、下部非磁性層144’、自由磁化層145、上部非磁性層164、上部固定磁化積層体163、上部反強磁性層162、保護層146が順次積層された構成からなる。即ち、磁気抵抗効果膜160は、図3に示す磁気抵抗効果膜140の自由磁化層145と保護層146との間に、上部非磁性層164、上部固定磁化積層体163、上部反強磁性層162を設けた構成を有し、いわゆるデュアルスピンバルブ構造を有している。
【0099】
上部非磁性層164および上部反強磁性層162は、各々、下部非磁性層144’および下部反強磁性層142’と同様の材料で形成され、膜厚も同様の膜厚となっている。
【0100】
また、下部固定磁化積層体143’は、下部ピンド層143a’、下部非磁性結合層143b’、下部リファレンス層143c’が下地層141側からこの記載順に積層された積層フェリ構造を有している。さらに、上部固定磁化積層体163は、上部ピンド層163a、上部非磁性結合層163b、上部リファレンス層163cが、上部反強磁性層162側からこの記載順に積層された積層フェリ構造を有している。上部ピンド層163a、上部非磁性結合層163b、上部リファレンス層163cは、各々、下部ピンド層143a’、下部非磁性結合層143b’、および下部リファレンス層143c’と同様の材料で形成され、膜厚も同様の膜厚となっている。
【0101】
図10の磁気抵抗効果膜160は、上部リファレンス層163c及び下部リファレンス層143c’、自由磁化層145が、図3に示す第1実施形態の磁気抵抗効果膜140と同様、CoFeAlSi合金に第5元素としてGe又はCuを添加した膜で形成されている。これにより、図10の磁気抵抗効果膜160は、図3の磁気抵抗効果膜140の場合と同様の理由から大きな磁気抵抗変化量ΔRAを有している。
【0102】
さらに、磁気抵抗効果膜160は、下部固定磁化積層体143’、下部非磁性層144’、自由磁化層145、からなるスピンバルブ構造と、自由磁化層145、上部非磁性層164、上部固定磁化積層体163からなるスピンバルブ構造との2つのスピンバルブ構造を有している。したがって、磁気抵抗効果膜160は磁気抵抗変化量ΔRAが倍増し、その値は、図3の磁気抵抗効果膜140の磁気抵抗変化量ΔRAの約二倍の値となる。その結果、図10の磁気抵抗効果膜160を磁気抵抗効果素子に用いることで、図3の磁気抵抗効果膜140を用いた場合よりも、いっそう高感度の磁気抵抗効果素子が実現できる。
【0103】
このことは、上述の基本形態に対して上記のようなデュアルスピンバルブ構造を実現する、
「上記自由磁化層の上記非磁性層側とは反対側に非磁性材料で形成された第2の非磁性層と、
上記第2の非磁性層の上記自由磁化層側とは反対側に形成され、磁化の向きが、上記リファレンス層内の磁化の向きと同じ向きに固定されている第2のリファレンス層とを備えた」という応用形態が好適であり、
この応用形態に対し、
「上記第2のリファレンス層の上記第2の非磁性層側とは反対側に磁性材料で形成された、磁化の向きが、その第2のリファレンス層内の磁化が固定されるべき第1の向きとは反対の第2の向きに固定されている第2のピンド層と、
上記第2のピンド層と上記第2のリファレンス層との間に形成された、上記第2のピンド層内の磁化とその第2のリファレンス層内の磁化とを反強磁性的に結合させることでその第2のリファレンス層内の磁化を上記第1の向きに固定させる、非磁性材料からなる第2の非磁性結合層とを備えた」という応用形態がさらに好適であり、
このさらに好適な応用形態に対し、
「上記第2のピンド層の上記第2の非磁性結合層側とは反対側に反強磁性材料で形成された、その第2のピンド層内の磁化の向きを上記第2の向きに固定する第2の反強磁性層を備えた」という応用形態が一層好適であることを意味している。
【0104】
本実施形態における上部非磁性層164が、上記の応用形態における第2の非磁性層の一例に相当し、上部リファレンス層163cが、この応用形態における第2のリファレンス層の一例に相当し、上部ピンド層163aが、この応用形態における第2のピンド層の一例に相当し、上部非磁性結合層163bが、この応用形態における第2の非磁性結合層の一例に相当し、上部反強磁性層162が、この応用形態における第2の反強磁性層の一例に相当する。
【0105】
尚、磁気抵抗効果膜160の形成方法については、その形成方法が図3の磁気抵抗効果膜140の形成方法とほぼ同様であるので説明を省略する。また、図3の磁気抵抗効果膜140についての上述の実施例に対する評価を、この図10の磁気抵抗効果膜160にも適用できることから、この図10の磁気抵抗効果膜160についての実施例についても説明を省略する。
【0106】
次に、第4実施形態について説明する。この第4実施形態は、基本形態について説明した磁気抵抗効果素子および磁気メモリの具体的な実施形態である。
【0107】
図11は、第4実施形態の磁気メモリを示す図であり、図12は、図11に示す磁気メモリの等価回路を示す図である。
【0108】
本実施形態の磁気メモリ20は、各々1ビット相当の情報が記憶される複数のメモリセル200がマトリクス状に配列されたものである。また、本実施形態の磁気メモリ20では、各メモリセル200での情報の記憶に、図3に示す磁気抵抗効果膜140と同等な磁気抵抗効果膜が使われている。尚、図11および図12では、この磁気抵抗効果膜については、図3での符号と同じ符号である「140」が付されて示されている。また、この磁気抵抗効果膜の構成要素についても、図3と同じ符号が付されて示されており、以下では、これらの構成要素については重複説明を省略する。
【0109】
図11のパート(a)には、1つのメモリセル200に注目した磁気メモリ20の断面図が示されており、パート(b)には、メモリセル200中の磁気抵抗効果膜140周辺の拡大断面図が示されている。また、図12には、磁気メモリ20の等価回路が、1つのメモリセル200に注目して示されている。
【0110】
尚、図11のパート(a)には、3次元の直交座標軸が示されている。このうち、Y軸方向は紙面に垂直な方向であり、Y1の向きは紙面の奥に向かう向き、Y2の向きは紙面の手前に向かう向きである。なお、以下の説明において例えば単にX軸方向という場合は、X1の向きおよびX2の向きのいずれでも良いことを示し、Y軸方向およびZ軸方向についても同様である。
【0111】
本実施形態の磁気メモリ20は、複数のメモリセル200が、上記の直交座標軸におけるXY平面上に、マトリクス状に配列されて構成されたものである。
【0112】
各メモリセル200は、大略して磁気抵抗効果膜140とMOS型電界効果トランジスタ(FET)210からなる。
【0113】
ここで、一般に、MOS型FETには、ホールがキャリアとなるpチャネルMOS型FETと、電子がキャリアとなるnチャネルMOS型FETとがあるが、本実施形態のMOS型FET210はnチャネルMOS型FETである。尚、基本形態について説明した磁気メモリは、nチャネルMOS型FETを用いた形態に限るものではなく、pチャネルMOS型FETを用いた形態であっても良い。
【0114】
MOS型FET210は、シリコン基板211中にp型不純物が注入されて形成されたpウェル領域212と、pウェル領域212の表面の近傍に互いに離隔してn型不純物が注入されて形成された2つの不純物拡散領域213a、213bを有する。ここで、一方の不純物拡散領域213aをソースS、他方の不純物拡散領域213bをドレインDとする。MOS型FET210は、2つの不純物拡散領域213a、213bの間のpウェル領域212の表面にゲート絶縁膜214を介してゲート電極Gが設けられている。
【0115】
MOS型FET210のソースSは、垂直配線201および層内配線202を介して磁気抵抗効果膜140の下地層141に電気的に接続される。また、ドレインDには垂直配線201を介してプレート線203が電気的に接続される。ゲート電極Gには読出用ワード線204に電気的に接続される。なお、ゲート電極Gについては、本実施形態とは異なり、読出用ワード線の一部がゲート電極を兼ねるという形態であっても良い。
【0116】
また、本実施形態のメモリセル200では、ビット線206が、磁気抵抗効果膜140の保護層146に電気的に接続される。磁気抵抗効果膜140の下側には離隔して書込用ワード線205が設けられている。
【0117】
また、このメモリセル200では、磁気抵抗効果膜140の自由磁化層145における磁化容易軸の方向が、図11のパート(a)に示すX軸方向に設定され、磁化困難軸の方向がY軸方向に設定されている。磁化容易軸の形成方法についてここでは特定しないが、熱処理により形成してもよく、形状異方性により形成してもよい。形状異方性により磁化容易軸をX軸方向に形成する場合は、磁気抵抗効果膜140の膜面に平行な断面形状(X−Y平面に平行な断面形状)をY軸方向の辺よりもX軸方向の辺が長い矩形とする。
【0118】
また、磁気メモリ20では、各メモリセル200におけるシリコン基板211の表面やゲート電極Gがシリコン窒化膜やシリコン酸化膜等の層間絶縁膜207に覆われている。
【0119】
また、磁気抵抗効果膜140、プレート線203、読出用ワード線204、ビット線206、書込用ワード線205、垂直配線201、および層内配線202は、上記で説明した電気的な接続以外は層間絶縁膜207により互いに電気的に絶縁されている。
【0120】
磁気メモリ20では、各メモリセル200における磁気抵抗効果膜140に1ビット相当の情報が保持される。情報は、リファレンス層143cの磁化の向きに対して、自由磁化層145の磁化の向きが平行であるか、反平行の状態であるかによって保持される。
【0121】
次に、各メモリセル200に対する書込み動作および読出し動作について説明する。
【0122】
まず、メモリセル200に対する書込み動作について説明する。
【0123】
メモリセル200に対する書込み動作は、磁気抵抗効果膜140の上下に配置されたビット線206と書込用ワード線205とに電流が流されることにより行われる。
【0124】
本実施形態では、ビット線206と書込用ワード線205とを合わせたものが、上述の磁気メモリの基本形態における書込み部の一例に相当する。
【0125】
ビット線206は、磁気抵抗効果膜140の上方に、X軸方向に延在している。このビット線206に電流が流されることにより、ビット線206の周りに誘起される磁界が、磁気抵抗効果膜140にY軸方向に印加される。また、書込用ワード線205は、磁気抵抗効果膜140の下方に、Y軸方向に延在している。そして、書込用ワード線205に電流が流されることにより、書込用ワード線205の周りに誘起される磁界が、磁気抵抗効果膜140にX軸方向に印加される。
【0126】
ここで、磁気抵抗効果膜140の自由磁化層145の磁化は、実質的に磁界が印加されない場合はX軸方向(例えばX2の向き)を向いており、その磁化方向は安定である。
【0127】
メモリセル200に対する書込み動作の際には、ビット線206と書込用ワード線205に同時に電流が流される。例えば、自由磁化層145の磁化をX1の向きに向ける場合には、書込用ワード線205にY1の向きの電流が流される。これにより、磁気抵抗効果膜140に、X1の向きに磁界が印加される。この際、ビット線206には、X1の向きおよびX2の向きの何れかの向きの電流が流される。このビット線206に流される電流によって生じる磁界は、磁気抵抗効果膜140にY1の向きまたはY2の向きに印加され、自由磁化層145の磁化が磁化困難軸の障壁を越えるための磁界の一部として機能する。
【0128】
このような磁界の印加により、自由磁化層145の磁化は、X1の向きの磁界と、Y1の向きまたはY2の向きとに同時に曝される。その結果、磁界の印加前にはX2の向きを向いていた自由磁化層145の磁化が、X1の向きに反転する。そして磁界を取り去った後も自由磁化層145の磁化はX1の向きを向いており、その磁化は、次の書込み動作の磁界あるいは消去用の磁界が印加されない限り安定している。
【0129】
このようにして、磁気抵抗効果膜140には自由磁化層145の磁化の向きに応じて、「1」あるいは「0」を記録できる。例えば、リファレンス層143cの磁化の向きがX1の向きの場合に、自由磁化層145の磁化方向がX1の向き(抵抗値が小さい状態)のときは「1」、X2の向き(抵抗値が大きい状態)のときは「0」を表わすと、設計段階で決めておく。
【0130】
なお、書込み動作の際にビット線206および書込用ワード線205に供給される電流の大きさは、ビット線206あるいは書込用ワード線205の何れか一方のみに電流が流れても自由磁化層145の磁化の反転が生じない程度に設定される。これにより、電流を供給したビット線206と電流を供給した書込用ワード線205との交点に相当する、書込み対象のメモリセル200の磁気抵抗効果膜140の自由磁化層145の磁化のみに記録が行われる。また、書込み動作の際には、ビット線206に流された電流が磁気抵抗効果膜140に流れないように、ソースS側がハイインピーダンスに設定される。
【0131】
次に、メモリセル200に対する読出し動作について説明する。
【0132】
メモリセル200に対する読出し動作は、ビット線206を介して、読出し対象のメモリセル200のMOS型FET210におけるソースSに対して負電圧を印加するとともに、読出用ワード線204を介して、そのメモリセル200のMOS型FET210におけるゲート電極Gに、MOS型FET210の閾値電圧よりも大きな電圧(正電圧)を印加することで行われる。
【0133】
このような電圧の印加により、読出し対象のメモリセル200のMOS型FET210のみがオンとなり、電子がビット線206から、磁気抵抗効果膜140、ソースS、およびドレインDを介してプレート線203に流れる。
【0134】
ここで、本実施形態では、図12に示すように、磁気メモリ20のプレート線203に電流計等の電流値検出器25が接続される。この電流値検出器25での、上記のような電圧の印加時における電流値の検出によって、リファレンス層143cの磁化の向きに対する自由磁化層145の磁化の向きに対応する磁気抵抗値が検出される。これにより、磁気メモリ20の各メモリセル200の磁気抵抗効果膜140で保持されている「1」あるいは「0」の情報を読み出すことができる。
【0135】
本実施形態の磁気メモリ20は、各メモリセル200の磁気抵抗効果膜140のリファレンス層143c及び自由磁化層145が、CoFeAlSi合金に第5元素としてGe又はCuが添加された膜で形成されていることから再生出力および感度に優れている。したがって、磁気メモリ20は、情報の読出しの際に、各メモリセル200の磁気抵抗効果膜140で保持された「0」や「1」の情報に対応する磁気抵抗値の差を正確に検出することができる。
【0136】
尚、本実施形態では、基本形態について上述した磁気メモリの一実施形態として、各メモリセルの磁気抵抗効果膜として、図3に示す磁気抵抗効果膜140が採用された形態を例示したが、基本形態について上述した磁気メモリはこれに限るものではなく、例えば、各メモリセルの磁気抵抗効果膜として、図8に示す磁気抵抗効果膜150や図9に示す磁気抵抗効果膜160が採用された形態等であっても良い。
【0137】
また、本実施形態では、情報の読出し時における読出し対象のメモリセル200の選択が、そのメモリセル200のMOS型FET210をオンさせることにより行われる。しかし、基本形態について説明した磁気メモリはこの形態に限るものではなく、読出し対象のメモリセルの選択方法としては、一般に知られている種々の選択方法を適用することができる。
【0138】
以上に説明した本実施形態の磁気メモリ20における、各メモリセル200の磁気抵抗効果膜140の形成方法や実施例についての説明は、上述の第1実施形態の図3の磁気抵抗効果膜140の形成方法や実施例についての説明と重複するので割愛する。
【0139】
次に、第5実施形態について説明する。この第5実施形態も、基本形態について説明した磁気抵抗効果素子および磁気メモリの具体的な実施形態である。
【0140】
図13は、第5実施形態の磁気メモリを示す図である。
【0141】
本実施形態の磁気メモリ30は、各々1ビット相当の情報が記憶される複数のメモリセル300がマトリクス状に配列されたものである。また、本実施形態の磁気メモリ30でも、各メモリセル300での情報の記憶に、上述の第4実施形態と同様に、図3に示す磁気抵抗効果膜140と同等な磁気抵抗効果膜が使われている。そこで、図13では、この磁気抵抗効果膜が、図3での符号と同じ符号である「140」が付されて示されている。
【0142】
この図13に示す磁気メモリ30は、磁気抵抗効果膜140に情報を書込むための機構が第4実施形態の磁気メモリ20と異なる。
【0143】
磁気メモリ30の各メモリセル300は、書込用ワード線205が設けられていない以外は、図11に示すメモリセル200と同様の構成を有する。以下、図11を、この図13とあわせて参照しつつ説明する。
【0144】
本実施形態の磁気メモリ30は、各メモリセル300に対する書込み動作が第4実施形態の磁気メモリ20と異なっている。
【0145】
本実施形態の磁気メモリ30における書込み動作は、第4実施形態の磁気メモリ20とは異なり、ビット線301とMOS型FET210とを使って行われる。
【0146】
本実施形態では、ビット線301とMOS型FET210とを合わせたものが、上述の磁気メモリの基本形態における書込み部の一例に相当する。
【0147】
この書込み動作では、以下に説明する偏極スピン電流Iwが、ビット線301を介して、書込み対象のメモリセル300の磁気抵抗効果膜140に流される。また、このとき、書込み対象のメモリセル300の選択は、そのメモリセル300のMOS型FET210をオン状態にして、ビット線301からプレート線203までの、偏極スピン電流Iwの流路が開かれることで行われる。
【0148】
偏極スピン電流Iwは、電子が取り得る2つのスピンの向きのうち、何れか一方の向きのスピンを持った電子のみからなる電子流である。この偏極スピン電流Iwが、上記の磁気抵抗効果膜140に対し、図中のZ1の向きあるいはZ2の向きに流されると、自由磁化層145の磁化にトルクが発生し、いわゆるスピン注入磁化反転が起きる。このときのスピン注入磁化反転では、自由磁化層145の磁化は、磁気抵抗効果膜140の積層方向を流れる偏極スピン電流Iwの流れの向きに応じて、リファレンス層143cの磁化の向きに対して平行となる向き、あるいは、反平行となる向きを向く。
【0149】
図13の磁気メモリ30における書込み動作では、この偏極スピン電流Iwの流れの向きを、書込み対象の情報に応じた向きに設定することで、各メモリセル300のGMR素子140にその情報が書き込まれることとなる。このとき、偏極スピン電流Iwをなす電子のスピンの向きは、電子が取り得る2つの向きのうちの何れか一方の向きに揃っていれば良く、どの向きに揃っているかは問わないものとする。
【0150】
ここで、偏極スピン電流Iwの電流量は、図11の第4実施形態の磁気メモリ20の書き込み動作の際にビット線206および書込用ワード線205に流す電流量よりも少なく、消費電力を低減できる。
【0151】
尚、本実施形態の磁気メモリ30の各メモリセル300に対する読取り動作は、図11の第4実施形態の磁気メモリ20の各メモリセル200に対する読取り動作と同様であるので説明を割愛する。
【0152】
また、本実施形態の磁気メモリ30における、各メモリセル300の磁気抵抗効果膜140の形成方法や実施例についての説明は、上述の第1実施形態の図3の磁気抵抗効果膜140の形成方法や実施例についての説明と重複するので割愛する。
【0153】
以上に説明した本実施形態の磁気メモリ30は、上述の第4実施形態の磁気メモリ20と同様の効果を有する。さらに、本実施形態の磁気メモリ30は、第4実施形態の磁気メモリ20よりも低消費電力化が可能である。
【0154】
また、本実施形態では、情報の書込み時における書込み対象のメモリセル300の選択が、そのメモリセル300のMOS型FET210をオンさせることにより行われる。しかし、基本形態について説明した磁気メモリはこの形態に限るものではなく、書込み対象のメモリセルの選択方法としては、一般に知られている種々の選択方法を適用することができる。
【0155】
尚、上記では、基本形態について説明した情報記憶装置の一実施形態として、磁気ディスクを備えたハードディスク装置を例示したが、基本形態について説明した情報記憶装置はこれに限るものではなく、例えば、磁気テープに対して情報記録や情報再生を行う磁気テープ装置等であっても良い。
【0156】
また、上記では、基本形態について説明した磁気ヘッドの一実施形態として、再生素子としての磁気抵抗効果素子と、記録素子としての誘導型記録素子とを1つづつ備えた磁気ヘッドを例示したが、基本形態について説明した磁気ヘッドはこれに限るものではなく、例えば、再生素子としての磁気抵抗効果素子のみを備えたものであっても良く、再生素子としての磁気抵抗効果素子を複数備えたもの等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】基本形態について説明した情報記憶装置の具体的な一実施形態に相当するハードディスク装置を示す図である。
【図2】基本形態について説明した磁気ヘッドの具体的な一実施形態である、図1の磁気ヘッドの詳細を示す図である。
【図3】図2に示す磁気抵抗効果膜の断面図である。
【図4】SiO基板上に(Co50Fe25Al12.5Si12.5)(100-X)Geを成膜した際のGeの組成と比抵抗との関係を表わすグラフである。
【図5】磁気抵抗曲線を示す図である。
【図6】第1および第2実施例についての磁気抵抗値変化率MR比を示すグラフである。
【図7】第1および第2実施例についてのHinを示すグラフである。
【図8】第1および第2実施例についてのHcを示すグラフである。
【図9】第2実施形態の磁気抵抗効果膜の断面図である。
【図10】第3実施形態の磁気抵抗効果膜の断面図である。
【図11】第4実施形態の磁気メモリを示す図である。
【図12】図11に示す磁気メモリの等価回路を示す図である。
【図13】第5実施形態の磁気メモリを示す図である。
【符号の説明】
【0158】
10 ハードディスク装置
11 ハウジング
12 ハブ
13 磁気ディスク
14 アクチュエータユニット
15 アーム
16 サスペンション
17 制御回路
20,30 磁気メモリ
25 電流値検出器
100 磁気ヘッド
101 基体
102 アルミナ膜
120 磁気抵抗効果素子
121 下部電極
122 上部電極
123 絶縁膜
124 磁区制御膜
125 アルミナ膜
130 誘導型記録素子
131 上部磁極
132 記録ギャップ層
133 下部磁極
140,150,160 磁気抵抗効果膜
141 下地層
142,154 反強磁性層
142’ 下部反強磁性層
143,153 固定磁化積層体
143’ 下部固定磁化積層体
143a,153a ピンド層
143a’ 下部ピンド層
143b,153b 非磁性結合層
143b’ 下部非磁性結合層
143c,153c リファレンス層
143c’ 下部リファレンス層
144,152 非磁性層
144’ 下部非磁性層
145,151 自由磁化層
146 保護層
162 上部反強磁性層
163 上部固定磁化積層体
163a 上部ピンド層
163b 上部非磁性結合層
163c 上部リファレンス層
164 上部非磁性層
200,300 メモリセル
201 垂直配線
202 層内配線
203 プレート線
204 読出用ワード線
205 書込用ワード線
206,301 ビット線
207 層間絶縁膜
210 MOS型FET
211 シリコン基板
212 pウェル領域
213a,213b 不純物拡散領域
214 ゲート絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子を構成する積層膜の膜面に垂直方向にセンス電流を通電するための上下電極端子を有するCPP(Current−Perpendicular−to−Plane)型の磁気抵抗効果素子において、
CoFeAlSi合金にGe及び/又はCuを含む磁化の向きが固定されているリファレンス層と、
CoFeAlSi合金にGe及び/又はCuを含む磁化の向きが外部からの作用に応じた向きに変化する自由磁化層と、
前記リファレンス層と前記自由磁化層との間に非磁性材料で形成された非磁性層とを備えたことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記リファレンス層の前記非磁性層側とは反対側に磁性材料で形成された、磁化の向きが、前記リファレンス層の磁化が固定されるべき第1の向きとは反対の第2の向きに固定されているピンド層と、
前記ピンド層と前記リファレンス層との間に形成された、前記ピンド層の磁化と前記リファレンス層内の磁化とを反強磁性的に結合させることで前記リファレンス層内の磁化を前記第1の向きに固定させる、非磁性材料からなる非磁性結合層とを備えた積層フェリ構造を備えたことを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記ピンド層の前記非磁性結合層側とは反対側に反強磁性材料で形成された、前記ピンド層内の磁化の向きを前記第2の向きに固定する反強磁性層を備えたことを特徴とする請求項2記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記自由磁化層の前記非磁性層側とは反対側に非磁性材料で形成された第2の非磁性層と、
前記第2の非磁性層の前記自由磁化層側とは反対側に形成され、磁化の向きが、前記リファレンス層内の磁化の向きと同じ向きに固定されている第2のリファレンス層とを備えたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記第2のリファレンス層の前記第2の非磁性層側とは反対側に磁性材料で形成された、磁化の向きが、該第2のリファレンス層内の磁化が固定されるべき第1の向きとは反対の第2の向きに固定されている第2のピンド層と、
前記第2のピンド層と前記第2のリファレンス層との間に形成された、前記第2のピンド層内の磁化と該第2のリファレンス層内の磁化とを反強磁性的に結合させることで該第2のリファレンス層内の磁化を前記第1の向きに固定させる、非磁性材料からなる第2の非磁性結合層とを備えたことを特徴とする請求項4記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第2のピンド層の前記第2の非磁性結合層側とは反対側に反強磁性材料で形成された、該第2のピンド層内の磁化の向きを前記第2の向きに固定する第2の反強磁性層を備えたことを特徴とする請求項5記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
素子を構成する積層膜の膜面に垂直方向にセンス電流を通電するための上下電極端子を有するCPP(Current−Perpendicular−to−Plane)型の磁気ヘッドにおいて、
CoFeAlSi合金にGe及び/又はCuを含む磁化の向きが固定されているリファレンス層と、
CoFeAlSi合金にGe及び/又はCuを含む磁化の向きが外部からの作用に応じた向きに変化する自由磁化層と、
前記リファレンス層と前記自由磁化層との間に非磁性材料で形成された非磁性層と、
積層方向に電流を流すための一対の電極とを備えたことを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項8】
磁気記憶媒体および、
素子を構成する積層膜の膜面に垂直方向にセンス電流を通電するための上下電極端子を有するCPP(Current−Perpendicular−to−Plane)型の磁気ヘッドにおいて、
CoFeAlSi合金にGe及び/又はCuを第5元素として含む磁化の向きが固定されているリファレンス層と、
CoFeAlSi合金にGe及び/又はCuを第5元素として含む磁化の向きが外部からの作用に応じた向きに変化する自由磁化層と、
前記リファレンス層と前記自由磁化層との間に非磁性材料で形成された非磁性層と、
積層方向に電流を流すための一対の電極とを備えた磁気ヘッドを備えたことを特徴とする情報記憶装置。
【請求項9】
請求項1から6記載の磁気抵抗効果素子の前記自由磁化層に情報に応じた作用を与えることで自由磁化層内の磁化の向きを情報に応じた向きに向かせて、情報を自由磁化層に磁化の向きとして書き込む書込み部を備えたことを特徴とする磁気メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−98137(P2010−98137A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267805(P2008−267805)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】