説明

磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気抵抗効果素子の製造方法

【課題】磁気抵抗効果素子の特性劣化を抑制する。
【解決手段】本実施形態の磁気抵抗効果素子は、膜面に対して垂直方向に磁気異方性と不変な磁化方向とを有する第1の磁性体30と、膜面に対して垂直方向に磁気異方性と可変な磁化方向とを有する第2の磁性体10と、磁性層10,30の間の非磁性体20とを、含む。第1及び第2の磁性体のうち少なくとも一方は、ボロン(B)及び希土類金属及び遷移金属を含む磁性層301を備え、磁性層301において、希土類金属の含有量は、20at.%以上であり、遷移金属の含有量は、30at.%以上であり、ボロンの含有量が、1at.%以上、50at.%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気抵抗効果素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)及び磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetoresistive RAM)のように、磁気を利用したメモリデバイスが、開発されている。
【0003】
メモリの記憶密度を増大させるため、メモリデバイスに用いられる磁性体の微細化が推進されている。磁性体の微細化に伴って、メモリの動作に用いられる磁場を、微細な磁性体に印加する必要がある。しかし、磁場は空間に広がる性質を有するため、磁場を局所的に発生させることは難しい。局所的な磁場を形成するために磁場の発生源が小さくされると、磁性体の磁化の方向を制御するために十分な大きさの磁場が、形成できない可能性がある。
【0004】
MRAMにおけるこの問題を解決する技術の1つとして、磁性体に電流を流すことによって磁性体の磁化の向きを反転させる「スピン注入磁化反転方式(Spin transfer Switching)」が、MRAMのデータ書き込み方式の1つとして、研究されている。このスピン注入磁化反転方式は、磁気抵抗効果素子内に書き込み電流を流し、そこで発生するスピン偏極された電子を用いて、磁気抵抗効果素子内の磁性体(磁性層)の磁化の向きを反転させる技術である。
【0005】
このようなスピン注入磁化反転方式が用いられることによって、ナノスケールの磁性体内の磁化状態を局所的な磁場によって制御しやすくなり、さらに、磁性体の微細化に応じて磁化を反転させるための電流の値も小さくすることができる。
【0006】
近年では、磁化の方向が膜面に対して垂直方向を向く垂直磁化膜を、MRAMの磁気抵抗効果素子の参照層及び記憶層に用いることが、検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−205931号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0080239号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】応用磁気学会誌,vol.9, No.2, 96, (1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
磁気抵抗効果素子の特性劣化を抑制する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の磁気抵抗効果素子は、膜面に対して垂直方向に磁気異方性と不変な磁化方向とを有する第1の磁性体と、膜面に対して垂直方向に磁気異方性と可変な磁化方向とを有する第2の磁性体と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間の非磁性体とを、具備し、前記第1及び第2の磁性体のうち少なくとも一方は、第1の非磁性元素としてのボロン(B)及び希土類金属及び遷移金属を含む磁性層を、備え、前記磁性層において、前記希土類金属の含有量は、20at.%以上であり、前記遷移金属の含有量は、30at.%以上であり、前記第1の非磁性元素としてのボロンの含有量が、1at.%以上、50at.%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】基本形態の磁気抵抗効果素子の構造を説明するための断面図。
【図2】第1の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造例を示す断面図。
【図3】第1の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を示す断面工程図。
【図4】第1の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を示す断面工程図。
【図5】第1の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を示す断面工程図。
【図6】第1の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を示す断面工程図。
【図7】第1の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造例を示す断面図。
【図8】磁性層内の組成比と磁気特性との関係を示す図。
【図9】第2の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造例を示す断面図。
【図10】第2の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造例を示す断面図。
【図11】第2の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造例を示す断面図。
【図12】第2の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造例を示す断面図。
【図13】第2の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を示す断面工程図。
【図14】第2の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を示す断面工程図。
【図15】第2の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を示す断面工程図。
【図16】第2の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造例を示す断面図。
【図17】第2の実施形態の磁気抵抗効果素子を説明するための図。
【図18】第3の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造例を示す断面図。
【図19】第3の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造例を示す平面図。
【図20】第3の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を示す断面工程図。
【図21】第3の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を示す断面工程図。
【図22】第3の実施形態の磁気抵抗効果素子の構造例を示す断面図。
【図23】第3の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を示す断面工程図。
【図24】第3の実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法例を説明するための図。
【図25】実施形態の磁気抵抗効果素子の適用例を示す図。
【図26】実施形態の磁気抵抗効果素子の適用例を示す図。
【図27】実施形態の磁気抵抗効果素子の適用例を示す図。
【図28】実施形態の磁気抵抗効果素子の適用例を示す図。
【図29】実施形態の磁気抵抗効果素子の適用例を示す図。
【図30】実施形態の磁気抵抗効果素子の適用例を示す図。
【図31】実施形態の磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図32】実施形態の磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態]
以下、図面を参照しながら、本実施形態について詳細に説明する。以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複する説明は必要に応じて行う。
【0013】
[0] 基本形態
図1を参照して、実施形態に係る磁気抵抗効果素子について、説明する。
【0014】
図1は、本実施形態の磁気抵抗効果素子の基本的な構造を説明するための断面模式図である。
【0015】
本実施形態の磁気抵抗効果素子1は、下部電極を含む下地層40と、第1及び第2の磁性層10,30と、非磁性層20と、上部電極45とを含む積層構造を有する。
【0016】
図1に示されるように、本実施形態の磁気抵抗効果素子1において、基板(図示せず)上に、下地層40が設けられる。第1の磁性層10は、下地層40上に、積層される。非磁性層20は、第1の磁性層10上に積層される。第2の磁性層30は、非磁性層20上に積層される。上部電極45は、第2の磁性層30上に積層される。
【0017】
本実施形態(基本形態)の磁気抵抗効果素子1において、第1及び第2の磁性層10,30のうち、一方の磁性層の磁化の向きは、可変に設定され、他方の磁性層の磁化の向きは、不変に設定される。本実施形態において、第1の磁性層10は、磁化の向きが可変である。第2の磁性層30は、磁化の向きが不変である。本実施形態において、磁化の向きが可変な磁性層(磁性体)のことを、記憶層(磁化自由層、自由層又は記録層)とよび、磁化の向きが不変な磁性層(磁性体)のことを、参照層(磁化不変層又は固定層)とよぶ。
【0018】
本実施形態の磁気抵抗効果素子1は、例えば、スピン注入磁化反転方式によって、記憶層10と参照層30との相対的な磁化の向きを反転させる。スピン注入磁化反転方式において、磁気抵抗効果素子1の記憶層10と参照層30との磁化配列状態は、磁気抵抗効果素子1内に電流Iwを流すことによって、変化される。
【0019】
磁気抵抗効果素子1の磁性層の膜面に対して垂直方向(膜の積層方向)に電流Iwを流した際に発生するスピン偏極電子の角運動量が記憶層10内の電子に伝達されることによって、記憶層10の磁化(スピン)の向きは、反転する。磁気抵抗効果素子1に流す電流Iwの向きに応じて、記憶層10の磁化の向きは、変化する。
【0020】
これに対して、参照層30は磁化の向きは、電流Iwが供給されても、不変である。
ここで、「参照層30の磁化の向きが不変である」或いは「参照層30の磁化の向きが固定されている」とは、記憶層10の磁化方向を反転させるための磁化反転しきい値以上の電流(反転しきい値電流)Iwを、参照層30に流した場合に、参照層30の磁化の向きが変化しないことを意味する。したがって、磁気抵抗効果素子1において、反転しきい値の大きな磁性層を参照層30として用い、参照層30よりも反転しきい値の小さい磁性層を記憶層10として用いることによって、磁化の向きが可変な記憶層10と磁化の向きが不変な参照層30とを含む磁気抵抗効果素子1が形成される。
【0021】
磁性層(記憶層)10の磁化反転がスピン偏極された電子によって引き起こされる場合、磁性層の磁化反転電流(反転しきい値電流)Iwは、磁性層の減衰定数、異方性磁界及び体積に比例する。そのため、磁性層の物性値を適切に調整して、記憶層10の磁化反転しきい値と参照層30の磁化反転しきい値との間に差を設けることができる。
【0022】
スピン注入磁化反転方式において、記憶層10の磁化の向きと参照層30の磁化の向きとを平行状態にする場合、つまり、記憶層10の磁化の向きを参照層30の磁化の向きと同じにする場合、記憶層10から参照層30に向かって流れる電流が、磁気抵抗効果素子1に供給される。この場合において、電子は、非磁性層20を経由して、参照層30から記憶層10に向かって移動する。参照層30及び非磁性層20を通過した電子のうち、マジョリティーな電子(スピン偏極した電子)は、参照層30の磁化(スピン)の向きと同じ向きを有している。このスピン偏極した電子のスピン角運動量(スピントルク)が、記憶層10の磁化に印加され、記憶層10の磁化の向きが、参照層30の磁化の向きと同じ向きに反転する。この平行配列のとき、磁気抵抗効果素子1の抵抗値は最も小さくなる。
【0023】
スピン注入磁化反転方式において、記憶層10の磁化の向きと参照層30の磁化の向きとを反平行状態にする場合、つまり、記憶層10の磁化の向きを参照層30の磁化の向きに対して反対にする場合、参照層30から記憶層10に向かって流れる電流が、磁気抵抗効果素子1に供給される。この場合において、電子は、記憶層10から参照層30に向かって移動する。参照層30の磁化の向きと反平行のスピンをもつ電子は、参照層30によって反射される。反射された電子は、スピン偏極した電子として、記憶層10に注入される。このスピン偏極した電子(反射された電子)のスピン角運動量が、記憶層10の磁化に印加され、記憶層10の磁化の向きは、参照層30の磁化の向きと反対になる。反平行配列のとき、磁気抵抗効果素子1の抵抗値は最も大きくなる。
【0024】
本実施形態の磁気抵抗効果素子1は、スピン偏極トンネル効果による磁気抵抗の変化を利用したMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子である。以下では、磁気抵抗効果素子のことを、MTJ素子1とよぶ。
【0025】
記憶層10及び参照層30は、それぞれ膜面に垂直方向の磁気異方性を有している。
【0026】
記憶層10及び参照層30の容易磁化方向は、膜面(或いは積層面)に対して垂直である。すなわち、本実施形態のMTJ素子1は、記憶層10及び参照層30の磁化がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向いている垂直磁化型の磁気抵抗効果素子である。以下では、膜面に対して垂直方向の磁気異方性を有する磁性体のことを、垂直磁化膜ともよぶ。
【0027】
尚、容易磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定した場合、外部磁界の無い状態において、磁性体の自発磁化が、その方向を向くと最も内部エネルギーが低くなる磁化の方向である。これに対して、困難磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定した場合、外部磁界のない状態において、磁性体の自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが大きくなる方向である。
【0028】
以下において、部材Aと部材Bとの多層構造(又は積層構造)を示す場合に、“A/B”と表記する。これは、“/”の左側の部材“A”が、“/”の右側の部材“B”上に積層されていることを示している。
【0029】
上述した下地層40は、下部電極としての厚い金属層401と、垂直磁化の磁性層(垂直磁化膜)を平坦に成長させるためのバッファ層としての金属層402とを含む。下地層40として、タンタル(Ta)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)等の金属層の少なくとも1つを含む積層構造が例示される。
【0030】
例えば、下地層40内の下部電極401は、Ta/Cu/Taを含む多層構造を有する。下地層40内のバッファ層402の上面(磁性層10との接触面)は、磁性層10に用いられる材料に応じて、原子稠密面を有することが好ましい。これによって、大きな垂直磁気異方性の磁性層(ここでは記憶層)10が、下地層40上に形成される。例えば、バッファ層402は、Pd/Ir/Ruを含む多層構造を有する。Ru膜は、Ir膜及びPd膜の結晶配向を制御するために、例えば、hcp(0001)面(c軸方向)に結晶配向している。Ir膜及びPd膜は、記憶層10に対して、記憶層10の垂直磁気異方性を向上させる効果を有する。Ir膜及びPd膜の膜厚を調整することによって、記憶層10の垂直磁気異方性の大きさを変化させることができる。尚、下地層40のPd膜は、記憶層10の一部とみなされる場合もある。また、バッファ層402はPd膜を含まなくともよい。
【0031】
結晶配向用の下地層40において、下地層40は、下部電極401と引き出し線とを兼ねた1つの導電層を含む場合がある。下地層(バッファ層)402と下部電極401とが別々の層で形成されてもよい。バッファ層402と下部電極401とが1つの層から形成され、引き出し線が別途に設けてもよい。
【0032】
記憶層10は、下地層40上に設けられている。下地層40上の記憶層10において、記憶層10の材料として、強磁性材料、軟磁性材料又は人工格子などが用いられる。強磁性材料として、L1構造又はL1構造の磁性材料が用いられ、より具体的な例としては、鉄−パラジウム(FePd)、鉄−白金(FePt)、コバルト−パラジウム(CoPt)、コバルト−白金(CoPt)等が用いられる。軟磁性材料としては、コバルト−鉄−ボロン(CoFeB)等が用いられる。人工格子として、NiFe、Fe又はCo等の磁性材料とCu、Pd又はPt等の非磁性材料との積層構造が例示される。また、フェリ磁性材料が、記憶層10に用いられてもよい。
【0033】
非磁性層20は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)膜である。MgO膜のような絶縁膜が用いられた非磁性層20は、トンネルバリア層とよばれる。以下では、非磁性層のことを、トンネルバリア層20とよぶ。トンネルバリア層20としてのMgO膜は、例えば、10Å(1nm)の膜厚を有する。
【0034】
例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化チタン(TiO)、酸化バナジウム(VO)、酸化ニオブ(NbO)及び酸化アルミニウム(Al)が、非磁性層に用いられてもよい。Mg窒化物やAl窒化物が、非磁性層に用いられてもよい。また、これらの酸化物及び窒化物の単層膜に限らず、これらの絶縁体の積層膜が、非磁性層20に用いられてもよい。
【0035】
MgOは、塩化ナトリウム(NaCl)構造の結晶構造を有する。MgOのようにNaCl構造を有する材料が、非磁性層(トンネルバリア層)20として用いられる場合、非磁性層20としてのMgO膜は、結晶配向している、例えば、bcc(001)面(又は方位)及びそれに等価な面(又は方位)に優先配向している、ことが好ましい。
【0036】
トンネルバリア層20上に、参照層30が設けられている。トンネルバリア層20は、記憶層10と参照層30との間に設けられている。
【0037】
上部電極45は、参照層30上に設けられている。上部電極45は、例えば、MTJ素子1の電極としての機能とともに、MTJ素子1を加工する際のハードマスクとしての機能を有する。上部電極(ハードマスク層)45の材料として、タンタル(Ta)、タングステン(W)等の金属、或いは窒化チタン(TiN)、窒化チタンシリコン(TiSiN)、窒化タンタルシリコン(TaSiN)等の導電性化合物が、用いられる。
【0038】
例えば、本実施形態のMTJ素子1において、参照層30の保磁力Hcを大きくするために、参照層30は、記憶層10の膜厚よりも大きい膜厚を有する。そのため、参照層30から発生する磁場分布が大きくなり、参照層30からの漏れ磁場(漏洩磁界)が、記憶層10に不均一に印加される。記憶層10に印加される参照層からの漏れ磁場は、記憶層の磁化の向きを参照層の磁化の向きと平行にする向きに作用する。記憶層10に印加される参照層30からの漏れ磁場は、記憶層10の磁化反転磁場を変化させ、記憶層10の熱擾乱耐性を劣化させる。参照層30からの漏れ磁場の影響で、記憶層10の保磁力Hcがシフトし、参照層30と記憶層10との磁化の向きの関係が平行状態である場合と反平行状態である場合とで、それら磁化配列状態の熱安定性が変化する可能性がある。このように、参照層30の漏れ磁場に起因してMTJ素子1の動作が不安になる可能性があるため、参照層30の飽和磁化Msは小さいことが好ましい。
【0039】
希土類金属−遷移金属を用いた磁性層(以下、希土類金属−遷移金属磁性層又はフェリ磁性層とよぶ)は、希土類金属の磁化の向きと遷移金属の磁化の向きとが互いに反対である。そのため、希土類金属−遷移金属磁性層は、飽和磁化Msが小さく、且つ、異方性磁界が大きい。例えば、希土類金属−遷移金属磁性層は、基板表面に対して水平方向における直径が40nm以下の極微細サイズの磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の磁性層、特に、参照層30に用いられることが好ましい。
【0040】
例えば、本実施形態のMTJ素子1の参照層30において、希土類金属−遷移金属磁性層(フェリ磁性層)には、テルビウム(Tb)を含む磁性層(以下、Tb系磁性層とよぶ)が用いられる。但し、Tbの代わりに、ガドリニウム(Gd)又はジスプロシウム(Dy)が、用いられてもよい。磁性層30内のTbの一部が、Gd又はDyに置換されてもよい。
以下では、本実施形態のMTJ素子1におけるTb系磁性層を用いた参照層30について、説明する。
【0041】
希土類金属−遷移金属磁性層において、Tb系磁性層は、遷移金属として、コバルト(Co)及び鉄(Fe)の両方又は少なくとも一方を含む。Tb系磁性層が、Co及びFeの両方を含む場合、TbCoFe層と表記する。
【0042】
本実施形態のMTJ素子1において、MTJ素子1の参照層30内の希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFe層)301は、ボロン(B)を含んでいる。
【0043】
Bを含むTbCoFe層(以下、TbCoFeB層とも表記する)301は、膜面に対して垂直な磁気異方性を有する垂直磁化膜である。
【0044】
希土類金属を含む磁性層において、磁性層中の希土類元素が磁性層外部の酸素に触れた場合、希土類金属の酸化物が、磁性層の表面に形成されやすい。そのため、希土類金属を含む磁性層は、耐蝕性(耐酸化性)に問題がある。
【0045】
例えば、MTJ素子が所定の形状に加工(パターニング)された後において、保護膜や層間絶縁膜などの絶縁層がMTJ素子を覆うように真空中で形成される前に、酸素を含む雰囲気中(例えば、大気中)に、MTJ素子がさらされる場合がある。
【0046】
この場合において、希土類金属を含む磁性層の酸化が進行し、磁性層の磁気特性、例えば、保磁力Hcが低下する可能性がある。この結果として、MTJ素子の特性が劣化する可能性がある。
【0047】
希土類金属(例えば、Tb)−遷移金属磁性層を大気中に曝露した後、その磁性層の表面をXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy:X線光電子分光法)によって計測すると、Tb酸化物が磁性層表面に優先的に形成されていることが示される。そのTb酸化物の形成が原因で、MTJ素子が含む磁性層(例えば、参照層)の磁気特性の劣化及び飽和磁化Msの増大が引き起こされる可能性がある。
【0048】
実際に形成されたMTJ素子に対して、イオンミリングによる素子の表面(加工面)の再付着層が除去された後、MTJ素子が大気中に曝露されると、そのMTJ素子が含む希土類金属−遷移金属磁性層の保磁力Hcの低下が観測された。
【0049】
そのため、素子の加工後に、酸素を含む雰囲気中(例えば、大気中)に素子がさらされないように、素子の加工から絶縁層(保護膜、層間絶縁膜)の成膜まで真空中で一貫して実行するなどの製法上の工夫が必要となる。ただし、これらの工夫は、MTJ素子及びMTJ素子を含むデバイス(例えば、MRAM)の製造コストを上昇させる可能性がある。
【0050】
また、上述の酸素を含む雰囲気中に曝露された希土類金属−遷移金属磁性層(TbFeCo層)のXPS測定において、磁性層におけるTb酸化物の深さ分布をXPSデプスプロファイルによって測定すると、5nm程度の厚さのTb酸化物が、極めて短い期間(例えば、数秒)の曝露でも形成されることが観測された。
【0051】
それゆえ、スピン注入磁化反転方式のMRAMのように、均一に電流を流すことが好ましい素子において、例えば、加工時に直径50nmのサイズの素子に、大気中への曝露に起因して5nmの厚さのTb酸化物が形成された場合、素子の実効的な直径は、40nmとなる。すなわち、Tb酸化物が形成された素子の実効的な面積は、Tb酸化物が形成されない場合の面積の約60%になってしまう。
【0052】
そのため、微細化の推進により直径が50nm以下のサイズになったMTJ素子において、Tb系磁性層(希土類金属−遷移金属磁性層)におけるTb酸化物の形成の抑制は、重要である。
【0053】
本実施形態のMTJ素子1の希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFe層)301は、ボロン(B)を含む。Bは、酸化しやすい(酸化されやすい)傾向を示す元素であり、MTJ素子1の磁性層(例えば、参照層)30としてのBが添加されたTb系磁性層301において、TbとともにBも酸化される。これによって、BドープされたTb系磁性層301において、磁性層の表層付近でBが酸素と結合し、下層(内部側、中央部側)に存在するTb成分(Tb元素)はほとんど酸化されずに磁性層30内に存在し、Tbによる磁性層の磁化が、維持される。BドープされたTb系磁性層301内のB成分が酸化されることで、酸素が取り込まれる。そして、Bによって磁性層の酸化の進行が食い止められ、さらに内側のTb成分の酸化が低減される。これによって、その磁性層301の耐蝕性が向上され、酸化による磁性層301の磁気特性の劣化は、抑制される。また、Bの添加は、希土類金属−遷移金属磁性層の磁気特性を劣化させない。
【0054】
本実施形態のように、Bドープされた希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFeB層)によって、耐蝕性が向上され、飽和磁化Msが小さく、且つ、保磁力Hcが大きい磁性層を形成できる。
【0055】
尚、本実施形態において、ボロン(B)ドープされた希土類金属−遷移金属磁性層301が、MTJ素子1の参照層30に用いられた例が示されているが、Bドープされた希土類金属−遷移金属磁性層301は、MTJ素子1の記憶層10に用いられてもよい。
【0056】
以上のように、本実施形態の磁気抵抗効果素子は、素子特性の劣化を抑制できる。
【0057】
[1] 第1の実施形態
(1) 構成例1
図2乃至図6を参照して、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子の構成例1について、説明する。
【0058】
(a) 構造
図2を用いて、第1の実施形態における構成例1の磁気抵抗効果素子(例えば、MTJ素子)の構造について、説明する。
【0059】
図2は、第1の実施形態の構成例1のMTJ素子1Aの断面構造を示している。尚、図2において、MTJ素子1Aを覆う絶縁膜の図示は省略する。
【0060】
図2において、トップピン構造のMTJ素子1Aが、示されている。トップピン型の磁気抵抗効果素子は、記憶層10が、磁気抵抗効果素子を形成するための基板100側に設けられ、その記憶層10上に、非磁性層(トンネルバリア層)20及び参照層30Aが積層される構造を有する。これとは反対に、ボトムピン構造のMTJ素子は、参照層が、MTJ素子を形成するための基板100側に、設けられ、その参照層上に、非磁性層及び記憶層が積層される構造を有する。
【0061】
図2に示されるMTJ素子1Aにおいて、下部電極/バッファ層としての下地層40Aのすくなくとも最上層は、例えば、Ta膜である。ここでは、下地層40AをTa膜40Aと表記する。尚、Ta膜と基板100との間に、上述の下部電極/バッファ層の材料として例示された材料が、設けられてもよい。また、Ta膜と記憶層10との間に他の層が設けられてもよい。
【0062】
記憶層10は、Ta膜40A上に設けられている。記憶層10は、人工格子101を含む。例えば、人工格子101は、コバルト(Co)と白金(Pt)との積層構造(周期構造)を有する。人工格子101において、CoとPtとから、1つの積層膜(格子)が、形成される。6周期分の積層膜(Pt/Co膜)が、人工格子([Pt/Co]膜)を形成している。人工格子101において、例えば、Co膜が、Ta膜に接触する。尚、記憶層10は、人工格子に限定されず、垂直磁気異方性を有する磁性層であれば、他の材料/構造の磁性層でもよい。
【0063】
MTJ素子1Aにおいて、磁性層(記憶層及び参照層)10,30Aにおけるトンネルバリア層20の近傍の部分(層)は、界面層とよばれる。本構成例1のMTJ素子1Aの記憶層10内において、人工格子101とトンネルバリア層20との間に、界面層102が設けられている。記憶層10側の界面層102は、CoFeB膜である。尚、記憶層10側の界面層102は、Co、Fe及びBのうち少なくとも2つの元素(成分)を含んでいれば、CoFeB膜に限定されない。
【0064】
人工格子101及び界面層102は、垂直磁気異方性を有し、人工格子101及び界面層102の磁化の向きは、膜面に対して垂直になっている。
【0065】
トンネルバリア層20は、例えば、MgO膜である。例えば、トンネルバリア層20としてのMgO膜20は、MTJ素子1Aの特性(例えば、MR比)の向上のために、(100)面(又はそれに等価な面)に優先配向していることが好ましい。
【0066】
参照層30Aは、希土類金属−遷移金属磁性層として、TbCoFe層301を含む。TbCoFe層には、B(ボロン)がドープされ、TbCoFeB層が、形成されている。
【0067】
本構成例1において、例えば、TbCoFeB層301Aは、合金層である。TbCoFeB層301Aは、微結晶層(マイクロスケール又はナノスケールの結晶を含む層)でもよいし、アモルファス層でもよいし、微結晶とアモルファスとの両方を含む層でもよい。
【0068】
参照層30A内において、トンネルバリア層20の近傍の部分に、界面層302が設けられている。界面層302は、TbCoFeB層301Aとトンネルバリア層20との間に、挟まれている。参照層30A内の界面層302は、例えば、多層膜である。多層膜の界面層302は、CoFeB/Ta/CoFeB構造を有する。界面層302のことを
TbCoFeB層301及び界面層302は、垂直磁気異方性を有し、TbCoFeB層301及び界面層302の磁化の向きは、膜面に対して垂直になっている。
【0069】
界面層102,302が、記憶層10内及び参照層30A内に設けられることによって、記憶層10及び参照層30Aの垂直磁気異方性の大きさが、向上される。但し、記憶層10内の界面層102の膜厚を厚くすると、記憶層10に対するスピン注入による磁化反転電流(磁化反転しきい値)が大きくなる。そのため、記憶層10内の界面層102の膜厚は、1.0nm(10Å)以下であることが好ましい。
【0070】
記憶層10内の界面層102は、トンネルバリア層20と格子整合する材料が用いられることが好ましい。これによって、トンネルバリア層20の結晶性が改善され、MTJ素子1AのMR比が向上する。例えば、トンネルバリア層がMgO膜である場合、MgO膜は、bcc(001)面又はbcc(001)面と等価な面に格子整合する材料が、界面層102,302に用いられることが好ましい。また、参照層30A内の界面層302も、結晶性の向上のため、トンネルバリア層20と格子整合する材料であることが好ましい。
【0071】
参照層30A内の界面層302において、Ta膜322が、2つのCoFeB膜321,323間に挟まれている。Ta膜322は、TbCoFe膜301のTb成分が、MTJ素子1Aの製造工程時の熱によって、トンネルバリア層20の近傍又はトンネルバリア層20の内部に拡散するのを、抑制する。これによって、Tb成分の拡散に起因したトンネルバリア層20の結晶性の劣化が低減され、MTJ素子1Aの特性(例えば、MR比)の劣化が抑制される。
【0072】
また、TbCoFeB層302がアモルファス層であることが好ましい場合、界面層302内のTa膜322は、MgO膜の結晶情報がアモルファスのTbCoFeB層に伝播するのを、防止する。これによって、アモルファスのTbCoFeB層が、結晶配向したMgO膜に起因して結晶化するのを抑制できる。
【0073】
界面層内のTa膜322の代わりに、タングステン(W)膜、ニオブ(Nb)膜又はモリブデン(Mo)膜のいずれかの1つの膜が、CoFeB膜321,323間に挿入されてもよい。記憶層10内の界面層101内に、Ta膜が挿入されてもよい。
【0074】
また、参照層30A内の界面層302において、TbCoFeB層側のCoFeB膜323の組成比及び膜厚は、トンネルバリア層側のCoFeB層321の組成比及び膜厚と、互いに異なってもよい。
【0075】
参照層30A内の界面層302の膜厚は、例えば、1nm〜3nm(10Å〜30Å)程度の膜厚に設定される。
【0076】
参照層30A内のBドープTbCoFe層301A上に、上部電極45Aが設けられている。上部電極45Aは、Ru膜451とTa膜452との積層膜である。上部電極45のRu膜451は、BドープTbCoFe層の上面に接触する。Ta膜452は、Ru膜451上に積層されている。
【0077】
本構成例1のMTJ素子1Aにおいて、参照層30Aは、BドープされたTbCoFe層301Aを含む。
【0078】
例えば、TbCoFeB層301Aにおいて、Tbの組成比(平均含有量、濃度)は、20at.%(原子量%)以上に設定され、Co及びFeの組成比(平均含有量、濃度)の和は、30at.%以上に設定される。尚、Coのみが希土類金属−遷移金属磁性層内に添加される場合(Feを含まない場合)、Coの組成比が30at.%以上であればよい。これとは反対に、Feのみが希土類金属−遷移金属磁性層内に添加される場合(Coを含まない場合)、Feの組成比が30.at%以上であればよい。また、このTbCoFeB層301において、Tb、Co及びFeの組成比が上記の値に設定された場合、Bの組成比(平均含有量、濃度)は、1at.%以上、50at.%以下に設定される。
【0079】
これによって、TbCoFeB膜301は、垂直磁気異方性を有し、小さい飽和磁化Ms及び大きい保磁力Hcを実現できる。尚、TbCoFeB層における各成分の組成比に関しては、後述する。
【0080】
ここで、本実施形態において、平均含有量とは、各成分が磁性層内に均一に分布しているとみなした場合の濃度/組成比を示す。また、TbCoFrB層が界面層302と組み合わせて用いられた場合、MgO等の絶縁体のトンネルバリア層に接するCoFeB膜等で構成される界面層を含めないで、含有量の計算が行われる。磁性層内の組成は、電子ビーム径が約1nmに設定された状態で、断面透過型電子顕微鏡(XTEM)によりトンネルバリア層及び界面層の位置を求め、電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いた組成分析を行うことによって、定義する。その際、Tbなど希土類材料が検知される領域を参照層301n(但し、n=A,B,C・・・)とする。磁性層の膜厚方向に5点、磁性層の半径方向(水平方向)に5点で測定し、それらの平均値を、磁性層(TbCoFeB層)内の平均含有量とする。本実施形態で述べるTbCoFeB層が、記憶層として用いられる場合に関しても、界面層を含めないで、記憶層としてのTbCoFeB層の組成比を定義する。この場合は、XTEMから界面層の体積の割合を求め、得られたEELSの信号に対して、界面層からの信号量を差し引く計算を行う。
【0081】
本構成例1のMTJ素子1AのBドープTbCoFe層(TbCoFeB層)301Aの各成分の具体的な組成比は、以下のとおりである。
【0082】
本構成例1のMTJ素子1AのTbCoFeB層301Aにおいて、Tbの組成は35at.%、Coの組成は15at.%、Feの組成は40at.%、及び、Bの組成は10at.%に設定されている。TbCoFeB層301Aの膜厚は、12nm(120Å)に設定されている。
【0083】
この組成比のTbCoFeB層301Aを含むMTJ素子1Aの形成時において、TbCoFeB層301Aを含む積層構造を所定の素子形状に加工した後、加工された積層体を、酸素を含む雰囲気中(例えば、大気中)にさらしてから、加工された積層体を覆うように、絶縁膜が形成される。
【0084】
このように形成されたMTJ素子1Aにおいて、TbCoFeB層301Aを含む参照層30Aの保磁力Hcは、約8kOeを示す。これに対して、TbCoFe層にBが添加されない場合、参照層の保磁力Hcは、約4kOeである。
【0085】
このように、TbCoFe層301A内にボロン(B)が添加されることによって、TbCoFeB層301Aの保磁力Hcが、Bが添加されないTbCoFeB層の保磁力Hcの2倍程度に、増加する。
【0086】
このように、希土類金属−遷移金属磁性層としてのTbCoFeB層301Aが高い保磁力Hcを維持できるのは、TbCoFeB層301A内のB成分が優先的に酸化し、B成分がTb成分の酸化を抑制させる結果として、TbCoFeB層301Aの耐酸化性が向上するためである。
【0087】
スピン注入型MRAMにおいて、1011A/mレベルの電流密度の電流が、メモリ素子としてのMTJ素子に対するデータの書き込みのために、用いられる。MTJ素子の直径が30nmである場合、MTJ素子は10kΩより大きい電気抵抗を有すると想定される。それゆえ、上記の電流密度の電流がMTJ素子を流れる場合、10〜20μW程度の発熱がMTJ素子に生じると考えられる。電界に加え、熱が印加された状態におけるMTJ素子の構成部材のエレクトロマイグレーションの抑制は、MRAM及びMTJ素子の信頼性の向上の観点の1つとして、重要である。
【0088】
エレクトロマイグレーションの抑制の一手法として、高融点材料の適用が有効である。ボロン(B)の融点は、約2200℃である。一方、テルビウム(Tb)の融点は、約1350℃、コバルト(Co)及び鉄(Fe)の融点は、約1500℃である。それゆえ、TbCoFe層に対する高融点材料としてのBの添加は、Bが添加されないTbCoFe層よりも、耐熱性を向上できる。
そのため、TbCoFe膜(希土類金属−遷移金属磁性層)に対するBの添加は、耐蝕性の向上に加え、MTJ素子1Aに生じるエレクトロマイグレーションの対策としても、望ましい。
【0089】
上述のように、参照層30Aは体積が大きく、その磁界強度が高い。そのため、参照層の磁化の分布に対する酸化の影響は、参照層から記憶層に印加される磁界分布にも現れる。それに伴って、MTJ素子の特性及び動作に対する信頼性にも、影響が及ぼされる。それゆえ、素子の微細化が進行し、直径が30nm以下のMTJ素子に含まれる磁性層(たとえば、参照層)において、本実施形態のMTJ素子のように、Bをフェリ磁性層(希土類金属−遷移金属磁性層)内に添加することによって、磁性層の酸化を抑制し、磁性層の磁化を均一化することは、有効である。
【0090】
尚、TbCoFeB層301Aにおいて、Tbの一部また全体が、Dy又はGd又はその両方に置換された場合であっても、同様の効果が得られる。
【0091】
以上のように、第1の実施形態の構成例1の磁気抵抗効果素子1Aによれば、磁気抵抗効果素子の特性劣化を抑制できる。
【0092】
(b) 製造方法
図3乃至図6を用いて、第1の実施形態における構成例1の磁気抵抗効果素子(例えば、MTJ素子)の製造方法について、説明する。
【0093】
図3乃至図6は、本実施形態の磁気抵抗効果素子(例えば、MTJ素子)1Aの製造工程の一工程をそれぞれ示す断面工程図である。
【0094】
図3に示されるように、下部電極を含む下地層40、記憶層を形成するための磁性層10X、トンネルバリア層を形成するための非磁性層20X、参照層を形成するための磁性層30X、上部電極及びハードマスクを形成するための導電層45Xが、例えば、スパッタ法によって、基板100上に、順次積層される。
【0095】
下地層40Xは、平坦な垂直磁化膜を成長させるためのバッファ層としての機能を有する。下地層40Xは、上述した材料(例えば、Ta)を用いて形成される。
【0096】
記憶層を形成するための第1の磁性層(磁性体)10Xの材料として、例えば、6周期のCo/Pt膜([Pt/Co]膜)101Xが堆積される。但し、FePd、FePt、CoPd又はCoPt等のL1構造或いはL1構造を持つ強磁性材料、TbCoFe等の希土類金属−遷移金属磁性材料(フェリ磁性材料)、NiFe等の磁性材料とCu、Pd等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子が、MTJ素子の記憶層を形成する磁性層101Xとして、堆積されてもよい。
【0097】
また、記憶層10X内に界面層102Xが形成される場合、人工格子101X上に、例えば、CoFeB膜102Xが、堆積される。
【0098】
MgO膜20Xが、トンネルバリア層を形成するための非磁性層として、磁性層10X上に、堆積される。
【0099】
参照層を形成するための第2の磁性層30Xは、MgO膜20X上に、堆積される。参照層30X内に界面層が形成される場合、MgO膜20X上に、例えば、CoFeB/Ta/CoFeB膜302Xが、堆積される。尚、界面層が形成されない場合、第2の磁性層30Xが、MgO膜20X上に直接堆積される。
【0100】
本実施形態において、第2の磁性層30Xが含んでいる垂直磁化膜301Xとして、ボロン(B)が添加された希土類金属−遷移金属磁性層(磁性体)301Xが、用いられている。例えば、Bが添加されたTbCoFe層(TbCoFeB層)301Xが、CoFeB/Ta/CoFeB膜3012X上に、堆積される。
【0101】
TbCoFeB膜301Xは、例えば、Tbターゲット、Coターゲット、FeBターゲット及びFeターゲットを同時にスパッタすることによって、形成される。これによって、合金状のTbCoFeB層301Xが、界面層302X上(又は、MgO膜20X上)に堆積される。尚、TbCoFeB合金ターゲットをスパッタすることによって、TbCoFeB層301Xを形成してもよい。
【0102】
ここで、TbCoFeB層301Xの各成分の組成比において、Tbの組成比(平均含有量、濃度)は、20at.%以上に設定され、Co及びFeの組成比(平均含有量、濃度)の和は、30at.%以上に設定される。また、このTbCoFeB層301において、Tb、Co及びFeの組成比が上記の値に設定された場合、Bの組成比(平均含有量、濃度)は、1at.%以上、50at.%以下に設定される。尚、Coのみが希土類金属−遷移金属磁性層内に添加される場合(Feを含まない場合)、Coの組成比が30at.%以上であればよい。これとは反対に、Feのみが希土類金属−遷移金属磁性層内に添加される場合(Coを含まない場合)、Feの組成比が30.at%以上であればよい。
【0103】
TbCoFeB層301X上に、ハードマスクとしての導電層45Xが、堆積される。導電層45Xには、例えば、Ta/Ru積層膜が用いられる。
【0104】
このように、MTJ素子を形成するための積層構造1Xが、基板100上に形成される。
【0105】
尚、導電層45XとTbCoFeB層301Xとの間に、参照層からの漏れ磁場(漏洩磁界)を打ち消す(相殺する)ためのバイアス層(シフト調整層)が、形成されてもよい。バイアス層は、磁性層からなる。また、下地層40X内にバイアス層が形成されてもよい。さらに、バイアス層とTbCoFeB層との間に、交換バイアスを増強するための非磁性層(例えば、金属層)が、形成されてもよい。
【0106】
図4に示されるように、所定の形状(例えば、円形状の平面形状)のレジストマスク90が、ハードマスクとしての導電層45A上に、例えば、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて、形成される。パターニングされたレジストマスク90に基づいて、基板100上の積層構造を形成する各層が、例えば、RIE(Reactive Ion Etching)やイオンミリングなどの異方性エッチングによって、マスク側から順次加工(パターニング)される。尚、ガスクラスターイオンビーム(GCIB:Gas Cluster Ion Beam)を用いて、MTJ素子(積層構造)の構成部材が加工されてもよい。
【0107】
これによって、所定の形状の積層構造(MTJ素子)1Aが、基板100上に形成される。加工された積層構造1Aは、下地層(下部電極)40A、記憶層10、トンネルバリア層20、参照層30A及びハードマスク(上部電極)45Aを含む。
【0108】
図5に示されるように、ハードマスク45A上のレジストマスクが除去された後、加工された積層構造1Aの表面を覆うように、薄い絶縁膜(以下、側壁絶縁膜とよぶ)47が、積層構造1A上に堆積される。
【0109】
側壁絶縁膜47が形成された後、例えば、層間絶縁膜79が、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法や塗布法を用いて、基板100上に、堆積される。層間絶縁膜79は、酸化シリコン(SiO)又はSiNからなる。
【0110】
例えば、側壁絶縁膜47は、ALD(Atomic Layer Deposition)法によってコンフォーマルに形成された密な窒化シリコン(SiN)であることが好ましい。このようにコンフォーマルなSiN膜47が形成されることによって、積層構造1Aと絶縁膜79との間に隙間が形成されなくなる。
【0111】
ここで、側壁絶縁膜47の膜質に起因して、酸化物からなる層間絶縁層79が含む酸素が、絶縁膜47を貫通して、参照層30A側に浸透する場合がある。
【0112】
本実施形態のように、Tbなどの希土類金属から形成される磁性層30Aに、Bが添加されることによって、磁性層30A中のB成分(元素)が浸透した酸素と反応する。この結果として、Bによって磁性層の内部のTbの酸化の進行が抑制され、磁性層30Aの磁化に寄与するTbの酸化はごく表面に限られ、Tbはほとんど酸化されずに、磁性層30A内に残留する。例えば、磁性層30A,301AのBは、磁性層30A,301Aの表面(加工面)側へ拡散(マイグレート)する。
【0113】
このように、MTJ素子の製造プロセス中の酸素が、希土類金属−遷移金属磁性層30Aの近傍に存在した場合において、本実施形態のように、その磁性層30Aにボロン(B)が添加されることによって、ボロン酸化物が磁性層30A,301Aの表面(加工面)上に形成され、磁性層30Aの磁化に寄与する希土類金属(例えば、Tb)の酸化物は、磁性層30A内にほとんど形成されない。
【0114】
それゆえ、真空中で膜の堆積及び加工が実行される製造工程においても、MTJ素子の希土類金属−遷移金属磁性層に対してボロンを添加し、磁性層の耐蝕性をあらかじめ向上させることによって、酸素による磁性層(素子)表面の侵食を抑制できる。
【0115】
図6に示すように、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法により、層間絶縁層79の上面の平坦化が実行され、層間絶縁膜79、絶縁膜47が研削される。MTJ素子1Aのハードマスク層(上部電極)45Aの上面が、露出する。露出した上部電極45A上に、例えば、CuやAlからなる配線が、周知の技術を用いて、形成される。
【0116】
以上の工程によって、本実施形態の構成例1のMTJ素子1Aが形成される。
【0117】
本実施形態のMTJ素子の製造方法において、MTJ素子を形成するための磁性層(ここでは、参照層)として、Bが添加された希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFeB層)301Aが、形成される。
【0118】
ボロン(B)がTbCoFe層に添加されることによって、その磁性層が含むTbの酸化が抑制される。その結果として、耐蝕性(例えば、耐酸化性)を有し、飽和磁化Msが小さく、且つ、保磁力Hcが大きい垂直磁化膜を、Bがドープされた希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFeB層)を用いて、形成できる。
【0119】
それゆえ、酸化による希土類金属−遷移金属磁性層の磁気特性の劣化を抑制でき、MTJ素子の素子特性の劣化を抑制できる。
【0120】
したがって、本実施形態の磁気抵抗効果素子の製造方法によれば、素子特性の劣化を抑制した磁気抵抗効果素子を提供できる。
【0121】
(2) 構成例2
図7を用いて、第1の実施形態における構成例2の磁気抵抗効果素子(例えば、MTJ素子)の構造について、説明する。
【0122】
図7は、第1の実施形態の構成例1のMTJ素子1Bの断面構造を示している。尚、図7において、MTJ素子1Bを覆う絶縁膜の図示は省略する。
【0123】
構成例1のMTJ素子1Aにおいて、参照層内のTbCoFeB層は、合金であった。ただし、本構成例2のMTJ素子1Bのように、参照層30B内のTbCoFeB層301Bは、人工格子であってもよい。
【0124】
以下では、説明の明確化のため、人工格子のTbCoFeB層のことを、TbCOFeB人工格子とよび、合金状のTbCoFeB層のことを、TbCoFeB合金とよぶ。
【0125】
参照層30B内のTbCoFeB人工格子301Bは、TbCo膜311とFeB膜312との積層構造から形成される。1層のTbCo膜と1層のFeB膜とが人工格子301Bの1周期を形成する。人工格子301Bにおける1周期の積層構造を、FeB/TbCo層(又は、TbCo/FeB層)と表記する。FeB/TbCo層がn周期の人工格子は、[FeB/TbCo]と表記する。本構成例2において、参照層30B内の人工格子301Bの周期は、15周期である。
【0126】
人工格子301Bの各TbCo膜311において、Tbの組成比(平均含有量、濃度)は約70at.%に設定され、Coの組成比は約30at.%に設定されている。このTbCo膜(Tb70Co30膜)は、0.5nm(5Å)程度の膜厚を有する。
【0127】
人工格子301Bの各FeB膜312において、Feの組成比は、約80at.%に設定され、Bの組成比は、約20at.%に設定されている。このFeB膜(Fe8020膜)は、0.3nm(5Å)程度の膜厚を有する。
【0128】
尚、以下では、各膜の組成比に言及する必要がない場合には、単に、TbCo膜及びFeB膜と表記する。
【0129】
本構成例2のMTJ素子1Bの参照層30Bにおいて、[Fe8020/Tb70Co3015構造の人工格子301Bが界面層302上に設けられる。
【0130】
尚、TbCoFeB合金が参照層に用いられている場合と同様に、TbCoFeB人工格子301全体における各成分の組成比は、Tbの組成比(平均含有量、濃度)は、20at.%以上に設定され、Co及びFeの組成比(平均含有量、濃度)の和は、30at.%以上に設定される。また、このTbCoFeB層301において、Tb、Co及びFeの組成比が上記の値に設定された場合、Bの組成比は、1at.%以上、50at.%以下に設定される。
【0131】
尚、TbCoFeB人工格子301Bにおいて、人工格子の構成及び組成比は、上記の例に限定されず、希土類金属、遷移金属及びボロンを含んでいれば、上記の積層構造、周期及び組成比に限定されない。例えば、TbFe膜とCoB膜とを用いた人工格子でもよい。例えば、0.5nmの膜厚を有するTb70Co30膜と0.24nmの膜厚のFe膜と0.6nmの膜厚のB膜とを15周期、積層させた人工格子でもよい。
【0132】
TbCoFeB人工格子301Bを含むMTJ素子1Bの製造方法は、TbCoFeB層301Bを形成する際のスパッタリング工程が、TbCoFeB合金301Aを含むMTJ素子1Aと異なるのみで、他の製造工程は、実質的に同じである。
【0133】
本構成例2において、参照層30B内のTbCoFeB人工格子が形成される場合、TbターゲットとCoターゲットとが同時にスパッタされ、人工格子のTbCo膜が堆積される。FeBターゲットとFeターゲットとが同時にスパッタされ、人工格子のFeB膜が、形成されたTbCo層上に堆積される。このように、TbCo膜とFeB膜とが所定の積層数(周期)に達するまで交互に堆積され、TbCoFeB人工格子301Bが形成される。
【0134】
例えば、構成例1と同様に、TbCoFeB人工格子301Bを含む積層構造は、所定の素子形状に加工された後、加工された積層体を、酸素を含む雰囲気中(例えば、大気中)に曝露する。大気中に曝露されたTbCoFeB人工格子301Bを含む参照層30Bの保磁力Hcは、構成例1のMTJ素子1AのTbCoFeB合金301の保磁力Hcとほぼ同様に、約8kOeを示す。
【0135】
このように、多層構造の人工格子状のTbCoFeB層301Bであっても、B(ボロン)をTbCoFe人工格子中に添加することよって、単層構造の合金状のTbCoFeB層301と同様に、TbCoFeB人工格子301B中のTb成分の酸化を抑制できる。
【0136】
尚、本構成例2のMTJ素子1Bの参照層30BのTbCoFeB人工格子301Bにおいて、Fe膜にBが添加される例が示されているが、これに限定されない。例えば、BがドープされたTb膜が、人工格子の1つの膜を形成する場合、又は、BがドープされたCo膜が、人工格子の1つの膜を形成する場合のように、TbCoFeB人工格子の各膜(格子)の組成の組み合わせが適宜変更された場合においても、上述のように、酸化によるTbCoFeB人工格子301Bの磁気特性の劣化を抑制できる。
【0137】
以上のように、第1の実施形態の構成例2の磁気抵抗効果素子1Bによれば、磁気抵抗効果素子の特性劣化を抑制できる。
【0138】
(3) 希土類金属−遷移金属磁性層の組成比と磁気特性の関係
図8を用いて、本実施形態の磁気抵抗効果素子に用いられる希土類金属−遷移金属磁性層の組成比と磁気特性との関係について、説明する。
【0139】
上述のように、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子は、ボロン(B)がドープされた希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFeB層)を、含む。TbCoFeB層は、MTJ素子の参照層内に設けられる。
【0140】
TbCoFe層内に、Bが添加されることによって、TbCoFe層を含む磁性層の耐蝕(耐酸化)特性が向上し、TbCoFe層を含む磁性層の磁気特性を向上できる。
【0141】
ここで、ボロンがドープされた希土類金属−遷移金属磁性層の組成比とその磁性層の磁気特性の関係について、説明する。
【0142】
図8は、ボロンドープ希土類金属−遷移金属磁性層としてのTbCoFeB層における各元素の組成比と保磁力との関係を示している。図8に示される磁性層(TbCoFeB層)の保磁力Hc(単位:kOe)は、磁性層が酸素を含む雰囲気中に曝露された後の磁性層の保磁力が示されている。尚、図8のTbCoFeB層は、人工格子である。
【0143】
図8に示されるサンプル1において、TbCoFeB層におけるTbの組成比は44at.%、Coの組成比は18at.%、Feの組成比は38at.%、及び、Bの組成比は0at.%にそれぞれ設定されている。すなわち、サンプル1の希土類金属−遷移金属磁性層は、BがドープされないTbCoFe層である。酸素雰囲気中への曝露後におけるこのTbCoFe層の保磁力Hcは、4kOe程度である。
【0144】
図8に示されるサンプル2において、Bの組成比は、0.5at.%に設定され、Coの組成比は、18.5at.%に設定され、Feの組成比は、37at.%に設定さている。図8のサンプル1〜8おいて、TbCoFeB層中のTbの組成比は、44at.%に固定されている。サンプル2のTbCoFeB層に示されるように、Bの添加量が微量(0.5at.%)であっても、酸素雰囲気中へ曝露されたTbCoFeB層の保磁力は、Bが添加されないTbCoFe層よりも向上する。
【0145】
図8に示されるサンプル3のTbCoFeB層において、Tbの組成比は44at.%、Coの組成比は18.5at.%、Feの組成比は36.5at.%、及び、Bの組成比は1at.%に設定されている。この場合、サンプル3のTbCoFeB層(B:1at.%)の保磁力Hcは、5.5kOeとなり、サンプル1及び2に比較して、サンプル3の保磁力Hcが改善される。さらに、図8に示されるサンプル4及び5に示されるように、TbCoFeB層中のBの組成比が、2.5at.%、5at.%と増加させるとともに、TbCoFeB層の保磁力Hcは6〜7kOe程度に向上する。
【0146】
図8のサンプル6及び7に示されるように、TbCoFeB層におけるBの組成比が10〜20at.%になると、磁性層の保磁力Hcは、8kOe程度に飽和し、サンプル8に示されるように、Bの組成比が、25at.%になると、保磁力Hcは急激に低下する。サンプル8のTbCoFeB層の保磁力Hcは、約3kO程度になる。
【0147】
図8のサンプル9、10、11及び12は、TbCoFeB層内のBの組成比が、10at.%に固定され、そのTbCoFeB層内のTb、Co及びFeの組成比が、変化されている。
【0148】
サンプル9のTbCoFeB層において、Tbの組成比は40.5at.%に設定され、サンプル10の磁性層において、Tbの組成比は37.5at.%に設定されている。この場合において、サンプル9の磁性層の保磁力Hcは、約7kOeを示し、サンプル12の磁性層の保磁力Hcは、約6kOeを示す。このように、サンプル9及び10のTbCoFeB層の保磁力Hcは、例えば、サンプル6のTbCoFeB層(Tb:44at.%)の保磁力やサンプル7の磁性層に比較して、低下する。
【0149】
サンプル11及びサンプル12のTbCoFeB層におけるTbの組成比は、サンプル1〜8のTbCoFeB層のTbの組成比(44at.%)より高くされている。
【0150】
サンプル11のTbCoFeB層は、Tbの組成比が50at.%に設定されている。この場合、サンプル11のTbCoFeB層の保磁力Hcは、8kOeを示す。この値は、サンプル6及び7のTbCoFeB層と同程度である。
【0151】
サンプル12のTbCoFeB層において、Tbの組成比は54at.%に設定されている。この場合、サンプル12のTbCoFeB層の保磁力Hcは、約6kOeを示し、サンプル5、6、7、9及び11のTbCoFeB層の保磁力Hcより低下する。
【0152】
このように、Bが添加された希土類金属−遷移金属磁性層(ここでは、TbCoFeB層)が含む各元素の組成比を変化することによって、Bが添加された希土類金属−遷移金属磁性層の磁気特性(例えば、保磁力)を調整できる。
【0153】
例えば、TbCoFeB層におけるBの組成比は、0より大きく、25at.%未満であることが好ましい。例えば、Bの組成比が10at.%程度に設定される場合、TbCoFeB層におけるTbの組成比は、40at.%から50at.%程度の範囲であることが好ましい。
【0154】
[2] 第2の実施形態
図9乃至図17を参照して、第2の実施形態の磁気抵抗効果素子について、説明する。
【0155】
尚、第2の実施形態の磁気抵抗効果素子において、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子と同じ構成/同じ機能を有する部材に関する説明は、必要に応じて行う。
【0156】
本実施形態の磁気抵抗効果素子は、ボロン(B)が添加された希土類金属−遷移金属磁性層内に、界面が設けられる。希土類金属−遷移金属磁性層内の界面によって、Bの拡散及び偏析が抑制される。
【0157】
(1) 構成例1
図9及び図10を用いて、第2の実施形態の構成例1のMTJ素子の構造について、説明する。
【0158】
図9は、本構成例1におけるMTJ素子1Cの断面構造を示している。
図9のMTJ素子1Cにおいて、参照層30Cの希土類金属−遷移金属磁性層301Cは、例えば、TbCoFeB人工格子から形成される。例えば、図7に示される例と同様に、人工格子を形成するための2種類の膜は、0.5nmの膜厚のTb70Co30膜と0.3nmの膜厚のFe8020膜とである。
【0159】
1つのTbCo膜と1つのFeB膜との積層膜(FeB/TbCo膜)315が、人工格子301C内の1つの層(格子、周期)を形成している。
【0160】
本構成例1のMTJ素子1Cにおいて、3周期のFeB/TbCo膜(つまり、3×[FeB/TbCo])ごとにTa膜が挿入される。この3周期のFeB/TbCo([FeB/TbCo])積層構造(格子構造)331毎に、0.1nm(1Å)程度のTa膜が設けられる構造が、5回繰り返される。Ta膜316は、2つの[FeB/TbCo]構造に挟まれている。
【0161】
TbCoFeB人工格子301C内に挿入されたTa膜は、TbCoFeB人工格子301C内の各成分に対して、Tb、Co及びFeよりも、Bと結合しやすい性質を有する。
【0162】
第2の実施形態の構成例1のMTJ素子1Cにおいて、参照層30C内の垂直磁化膜としてのTbCoFeB人工格子301Cは、5×(Ta/[FeB/TbCo])の積層構造を有する。
【0163】
尚、積層構造331が含むFeB/TbCo膜315の数(周期)又はTbCoFeB人工格子301C中の積層構造331の数は、上記の数に限定されない。
【0164】
例えば、Ta膜316は、スパッタリングによって、人工格子の形成中に、所定の積層数(例えば、3層のFeB/TbCo膜)毎に、挿入される。
【0165】
Ta膜316がTbCoFeB人工格子内に挿入されることによって、人工格子301Cを形成するTbCo膜及びFeB膜は、Ta膜316が挿入された位置で非連続になる。すなわち、TbCoFe人工格子301内の所定の周期のFeB/TbCo膜331は、挿入されたTa膜316によって、人工格子301内で物理的に分断されている。
【0166】
本構成例1のMTJ素子1Cにおいて、TbCoFeB人工格子301Cは、Ta膜316に起因する界面をその内部に有する。以下では、TbCoFeB層301C内部の界面としてのTa膜316のことを、挿入膜ともよぶ。
【0167】
Ta膜316からなる界面を有するTbCoFeB人工格子301Cを含む磁性層30Cに対して、280℃のアニール処理が30分間施された場合、TbCoFeB人工格子301Cの保磁力Hcは、約17kOeとなる。
【0168】
アニール処理後、界面としてのTa膜316を有するTbCoFeB人工格子301Cを含む積層構造が所定の素子形状に加工された場合、加工されたTbCoFeB人工格子301Cの保磁力Hcは、約10kOeとなる。
【0169】
このように、界面としてのTa膜316を有するTbCoFeB人工格子301Cを含む参照層30Cの保磁力Hcは、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子の参照層のように界面を含まないTbCoFeB層(合金又は人工格子)の保磁力Hc(8kOe程度)に比較して、大きい値を示す。
【0170】
界面としてのTa膜316を有するTbCoFeB人工格子301Cに対して、アニール処理及び加工が施されない場合、TbCoFeB人工格子301Cは、約20kOeの保磁力を有する。
【0171】
挿入されたTa膜316の膜厚は、0.5nm(5Å)まで大きくしても、Ta膜316が挿入されたTbCoFeB人工格子301C及び参照層30A全体で、スピン注入磁化反転(磁化反転しきい値電流の供給)によって、TbCoFeB人工格子301Cの磁化が一体として反転する。すなわち、複数のTbCo/FeB積層膜331が、Ta膜316によって分断されていても、TbCoFeB人工格子301C内の各膜331の磁化の向きは、同じになっており、連動して(共動して)反転する。界面としてのTa膜316が挿入されたTbCoFeB人工格子301Cの磁化が、一体とした磁化反転を実現するために、TbCoFeB人工格子301C内のTa膜316の膜厚は、1.0nm以下であることが好ましい。
【0172】
第2の実施形態の構成例1の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)1Cにおいて、希土類金属−遷移金属磁性層301C内に、ボロン(B)が添加される場合において、その磁性層301C内に界面を形成(挿入)しながら、ボロンが磁性層301C内に添加される。本構成例1のMTJ素子1Cにおいて、Ta膜のような挿入膜316が、ボロンが添加された希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFeB人工格子)301C内に、界面として形成される。
【0173】
一般に、半導体デバイスの製造工程において、ウェハ工程では、250℃から300℃程度のアニール処理が、実行される。
【0174】
ボロン(B)は、アニール(熱)によって、ボロンを含む層(ここでは、FeB膜)とは別の層に拡散する傾向や、互いに隣接する層の界面に偏析する傾向を、有する。
【0175】
アニール処理によるTbCoFe層の保磁力Hcの劣化は、XPSデプスプロファイルによる測定結果により、Bの移動が主要因であることが、観測された。
【0176】
Bが添加されたTbCoFeB層301C内において、Ta膜316によって、TbCoFeB層301C内におけるボロンの移動が妨げられる。これによって、熱に起因するTbCoFeB層301内またはその外部へのBの拡散及び偏析を抑制できる。
【0177】
この結果として、Bの拡散及び偏析によるTbCoFeB層301Cの磁気特性(例えば、保磁力)の劣化を抑制できる。
【0178】
したがって、本構成例1において、Ta膜のようにBと結合しやすい材料からなる極薄膜を、TbCoFeB層内に挿入することによって、Bの移動による磁性層中の組成の不均一性の発生を抑制し、磁性層及びその磁性層を含むMTJ素子1Cの耐熱性を向上できる。
【0179】
また、TbCoFeB層301C内のTa膜によるBの拡散及び偏析の抑制によって、プロセスマージンを拡大でき、MTJ素子1Cを含むデバイス(例えば、MRAM)の製造コストを低減できる。
【0180】
挿入膜(Ta膜)が設けられることによって、TbCoFeB人工格子301Cにおいて、TbCoFeB人工格子内における挿入膜に起因する元素(非磁性元素)の濃度が局在している層が、形成される。MTJ素子の形成プロセスにおいて、加熱処理が加えられた場合には、Ta自身またBやほかの元素の拡散により、Taの局在性は低くなる。TbCoFeB人工格子301Cにおいて局在している非磁性元素(例えば、Ta)の濃度(組成比)は、例えば、20at.%を超える。人工格子中301CのTaの組成比が、20at.%を超えることで、その非磁性元素(ここでは、Ta)は、磁性層間におけるBの拡散に対して、抑制効果を持つ。
【0181】
例えば、Ta膜に挟まれたFeB/TbCo膜315において、FeB/TbCo膜315のTa膜側のBの濃度が、FeB/TbCo膜315の中心部のBの濃度より高い場合がある。それゆえ、TbCoFeB層301C中のTa膜に挟まれた層は、膜面に対して垂直方向(積層方向)において、Bの濃度が異なっている場合がある。
【0182】
尚、Ta膜の代わりに、W、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、Nb、Mo、バナジウム(V)、クロム(Cr)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)及びこれらの窒化物の少なくとも1つの膜が、TbCoFeB人工格子301C内に挿入された場合においても、加熱プロセス後のTbCoFeB人工格子301Cを含む参照層30Cの磁気特性が向上する。W及びMoのような金属膜やSiなど半導体膜又はそれらの窒化物が、TbCoFeB人工格子301C内の挿入膜(界面)に用いられた場合においても、Ta膜が挿入された場合と同様の効果が得られる。
【0183】
TbCoFeB合金内に界面としてのTa膜が設けられた場合であっても、この人工格子301Cと実質的に同じ効果が得られる。
【0184】
また、図10は、図9に示されるMTJ素子1Cの変形例を示している。
図10に示されるMTJ素子1C’のTbCoFeB層301C’は、挿入膜316を挟む膜331,333において、各層331,333に含まれるボロンの組成比(濃度)が、互いに異なっている。
【0185】
例えば、Ta膜316を挟む2つの膜(ボロンドープ膜ともよぶ)331,333のうち、一方の膜(TbCoFeB積層構造)331内におけるBの組成比は3.8at.%程度に設定され、他方の膜(TbCoFeB積層構造)333内におけるBの組成比は7.5at.%程度に設定されている。
【0186】
図10に示される変形例のMTJ素子1C’において、挿入膜316によるTbCoFeB層内部の界面以外に、層内部の組成濃度の違いに起因した微結晶粒界が、TbCoFeB層301C内に発生する。この微結晶粒界が、熱に起因したTbCoFeB層301C内におけるBの拡散/偏析の抑制に、さらに寄与し、MTJ素子1Cの耐アニール性が向上する.
以上のように、第2の実施形態における構成例1の磁気抵抗効果素子によれば、磁気抵抗効果素子の特性劣化を抑制する。
【0187】
(2) 構成例2
図11乃至図15を参照して、第2の実施形態の構成例2のMTJ素子の構造及び製造方法について、説明する。
【0188】
図11を用いて、第2の実施形態の構成例2のMTJ素子の構造について説明する。
【0189】
図11は、本構成例2におけるMTJ素子1Dの断面構造を示している。
【0190】
図11に示されるように、挿入膜(例えば、Ta膜)の代わりに、エッチングによる非連続面(以下では、スパッタエッチング層又は非連続層ともよぶ)が、参照層30DのTbCoFeb膜301D内に設けられる。
【0191】
本構成例2において、TbCoFeB層301Dは、図9のMTJ素子1と同様に、TbCoFeB人工格子である。
【0192】
例えば、5周期のFeB/TbCo積層膜315からなる積層構造(格子構造)331毎に、エッチングによる非連続層319が界面としてTbCoFeB層(人工格子又は合金)301D内に設けられている。尚、積層構造331が含むFeB/TbCo膜315の数(周期)は、5つに限定されない。例えば、TbCoFeB層301Dは、3つの積層構造331を含むが、この個数に限定されない。
【0193】
尚、図12に示されるMTJ素子1D’ように、図10に示されるMTJ素子1C’と同様に、参照層30D’のTbCoFeB層301D’において、界面としての非連続層319を挟む膜(積層構造)331,333のBの組成比が、異なってもよい。
【0194】
図11及び図12に示されるMTJ素子1Dのように、界面としての非連続層を含むTbCoFeB層は、以下のように、形成される。
【0195】
図13乃至図15は、第2の実施形態の構成例2におけるMTJ素子の製造工程の一工程を示している。
【0196】
図12に示されるように、例えば、8周期のTbCo/FeB積層膜315からなる積層構造331’が、非磁性層20X上の界面層上に形成される。
【0197】
そして、図13に示されるように、3周期のFeB/TbCo積層膜315’が、スパッタリングによって、エッチングされる。これによって、5周期のTbCo/FeB積層膜315からなる積層構造331が、形成される。スパッタエッチングされた積層構造331の上面には、例えば、スパッタリングに起因する荒れが生じる。
【0198】
そして、図15に示されるように、残存した5周期の積層構造331上に、8周期の積層構造331’が、堆積される。これによって、5周期の積層構造331と8周期の積層構造331’は原子層レベルで連続しない層となり、5周期の積層構造331と8周期の積層構造331’との間に、スパッタリングによる非連続面(非連続層)319が界面として形成される。そして、8周期の積層構造331’のうち、3周期分の層が、スパッタエッチングにより除去される。
【0199】
FeB/TbCo積層構造331の周期が、所定の積層数(例えば、3つ)に達するまで、FeB/TbCo積層構造331の形成及びその積層膜の一部に対するスパッタエッチングが、繰り返される。そして、スパッタエッチングによって、TbCoFeB人工格子301D内に、界面としての非連続面319が形成される。
【0200】
尚、ここでは、8周期のTbCo/FeB積層膜を形成し、そのうちの3周期のTbCo/FeB積層膜をスパッタエッチングによって除去し、界面層としての非連続層319を形成する例が示されている。但し、積層膜の周期は、この数に限定されない。例えば、10周期のTbCo/FeB積層膜を形成し、そのうちの5周期のTbCo/FeB積層膜をスパッタエッチングによって除去してもよい。この場合においても、界面としての非連続層319が、TbCoFeB人工格子の積層構造331間に形成される。
【0201】
本構成例2のMTJ素子1Dの参照層30Dにおいて、界面としての非連続面319を有するTbCoFeB人工格子301Dに対して、加工なしで280℃のアニール処理が30分間施された場合、アニール処理された後の非連続面319を有するTbCoFeB人工格子301Dの保磁力Hcは、約15kOeになる。そして、アニール処理後の非連続面を有するTbCoFeB人工格子301Dが、所定の素子形状に加工された場合、加工及びアニール処理されたTbCoFeB人工格子301Dは、約9kOeの保磁力を示す。上述のように、TbCoFe層に界面が形成されないTbCoFeB人工格子は、アニール処理及び加工によって、約8kOeの保磁力を示す。
【0202】
このように、スパッタエッチングによる非連続層319を界面として含むTbCoFeB層301Dは、アニール処理後において、界面が形成されないTbCoFeB層に比較して、界面としての非連続層(スパッタエッチング層)319によってBの拡散/偏析が抑制され、保磁力Hcが向上する。
【0203】
尚、界面としての非連続層(非連続面)319を有するTbCoFeB人工格子301Dに対して、加工及びアニール処理が施されない場合、その人工格子は、約20kOeの保磁力を有する。
【0204】
TbCoFeB層(TbCoFeB人工格子)301D内に、スパッタエッチングによる界面が形成され、非連続な層となった場合であっても、TbCoFeB層301Dの磁化は、スピン注入磁化反転によって、一体として磁化反転する。
【0205】
以上のように、エッチングによる非連続面319がTbCoFeB層301D内に形成され、TbCoFeB層301D内に界面としての非連続層319が設けられた場合においても、挿入膜がTbCoFeB層内に設けられる場合と同様に、エッチングによる非連続面が界面となって、Bの拡散及び偏析が抑制される。
【0206】
このように、Ta膜のような挿入膜によって、TbCoFeB人工格子内の積層膜を物理的に分断するのとは異なって、エッチングなどの製造工程によって、TbCOFeB層301Dの内部に、その層301Dを非連続にする界面を形成できる。
【0207】
本構成例2のMTJ素子1Dの参照層30Dにおいても、TbCoFeB層301D内のBの拡散及び偏析を、スパッタエッチングによる界面によって抑制でき、Bの拡散及び偏析によるTbCoFeB層301Dの磁気特性の劣化を抑制できる。
【0208】
以上のように、第2の実施形態における構成例2の磁気抵抗効果素子によれば、本構成例2においても、図9及び図11に示されるMTJ素子1Cと同様に、磁気抵抗効果素子の特性劣化を抑制できる。
【0209】
(3) 構成例3
図16を参照して、第2の実施形態の構成例3のMTJ素子の構造及び製造方法について、説明する。
【0210】
図16は、本構成例3のMTJ素子1Eの断面構造を示している。
【0211】
参照層30E内のTbCoFeB層(例えば、TbCoFeB人工格子)301Eにおいて、Bの組成比(濃度)が異なる膜が、積層されている。Bの組成比が異なる膜334,336間において、界面が形成される。
【0212】
ここで、0.5nmのTb70Co30膜と0.3nmのFe8020膜との積層膜317Aを、“A−ML層317A”と表記する。また、0.5nmのTb70Co30膜と0.3nmのFe6040膜との積層膜317Bを、“B−ML層317B”と表記する。
【0213】
この場合、B−ML層317B内におけるBの濃度は、A−ML層317A内におけるBの濃度より高くなる。例えば、B−ML層317B内の全体におけるBの濃度は、15at.%程度になり、A−ML層317A層内の全体におけるBの濃度は、3.8at.%程度になる。
【0214】
例えば、3周期のA−ML膜317Aと2周期のB−ML膜317Bとが積層されて、積層構造([3×A−ML+2×B−BL]構造)334を形成し、さらにその積層構造334が、3回繰り返される。この構造のTbCoFeB人工格子301Eは、[3×A−ML+2×B−BL]と表記される。
【0215】
このように、本構成例3のMTJ素子1Eの参照層30E内に含まれているTbCoFeB層(人工格子)301Eにおいて、あるボロンの組成比(濃度)のA−ML層317AとA−ML層317Aとボロンの組成比(濃度)が異なるB−ML層317Bとが、積層される。これによって、ボロンの組成比が異なる層317A,317B間において、組成濃度の差による微結晶粒界に起因する界面が形成される。
【0216】
尚、本構成例3のMTJ素子1Eが含むTbCoFeB人工格子301Eにおいて、ボロンの濃度が異なる複数の層の積層構造であれば、各膜/層の組成比及び積層数は、上記の値に限定されない。また、本構成例3のMTJ素子1Eが含むTbCoFeB層301は、人工格子に限定されず、合金でもよい。
【0217】
本構成例3において、Bの組成比が異なる複数の層からなるTbCoFeB人工格子301Eに対して、加工なしで280℃のアニール処理が30分間施された場合、アニール処理された後のTbCoFeB人工格子301Eの保磁力Hcは、約15kOeになる。そして、アニール処理後のTbCoFeB人工格子301Eが、所定の素子形状に加工された場合、加工及びアニール処理されたTbCoFeB人工格子301Eは、約9kOeの保磁力を示す。尚、TbCoFeB人工格子301Eに対して、加工及びアニール処理が施されない場合、その人工格子は、約20kOeの保磁力を有する。
【0218】
上述のように、TbCoFe層に界面が形成されないTbCoFeB人工格子は、アニール処理及び加工によって、約8kOeの保磁力を示す。
【0219】
このように、Bの組成比の違いによって形成された界面を含むTbCoFeB人工格子は、界面を含まないTbCoFeB人工格子によりも、保磁力が向上する。
【0220】
本構成例3におけるTbCoFeB人工格子301E内の組成(濃度)の分析は、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)に電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy-Loss Spectroscopy)とを組み合わせたTEM−EELSにおいて、スポット径を1nm程度に絞り込むことによって、測定できる.
以上のように、第2の実施形態における構成例3の磁気抵抗効果素子によれば、本構成例3においても、第2の実施形態の構成例1及び2と同様に、磁気抵抗効果素子の特性劣化を抑制できる。
【0221】
(4) 構成例4
図17を用いて、第2の実施形態の構成例4のMTJ素子について、説明する。
【0222】
例えば、上述の各例のMTJ素子のように、参照層30E内において、トンネルバリア層20とToCoFeB層301Eとの間に、界面層302が設けられている。界面層302は、例えば、CoFeB膜を用いて、形成される。
【0223】
界面層としてのCoFeB膜において、製造工程中のアニール処理によって、界面層302が含むボロン(B)が、TbCoFe層301E側に拡散する場合がある。
【0224】
TbCoFeB層301Eと界面層302との界面近傍に、多量のBが存在していると、界面層302に由来するボロンが拡散せずに、界面層302内に残存したボロンが、MTJ素子のMR比の低下を、引き起こす可能性がある。
【0225】
図17は、磁気抵抗効果素子(MTJ素子)のMR比と界面層近傍のボロンの濃度との関係を示すグラフである。図17の縦軸は、MTJ素子のMR比(単位:%)を示している。図17の横軸は、界面層近傍の2nmの領域におけるボロンの濃度(単位:at.%)を示している。
【0226】
図17において、ボロンの濃度が界面層近傍で高くなると、MTJ素子のMR比は低下する傾向が示されている。
【0227】
したがって、高いMR比のMTJ素子を実現するために、参照層内の界面層が含むボロンの濃度(組成比)又は界面層近傍の領域(例えば、TbCoFeB層と界面層との界面近傍、または、界面層とトンネルバリア層との界面近傍)内のボロンの濃度は、低下させておくことが好ましい。
【0228】
具体的には、界面層としてのCoFeB膜とTbCoFeB層との界面から2nmまでの領域におけるBの濃度が、参照層内における界面層以外の層(例えば、TbCoFeB層)におけるBの濃度よりも低くされることが好ましい。
【0229】
これによって、界面層とTbCoFeB層との界面近傍における高濃度のボロン(B)に起因して、MTJ素子のMR比が低下するのを抑制できる。それゆえ、第2の実施形態の構成例4のMTJ素子によれば、高いMR比のMTJ素子を実現できる。
【0230】
本構成例4におけるTbCoFeB層と界面層との界面近傍の元素濃度の分析は、構成例3と同様に、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)に電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy-Loss Spectroscopy)とを組み合わせたTEM−EELSにおいて、スポット径を1nm程度に絞り込むことによって、測定できる.
以上のように、第2の実施形態における構成例4の磁気抵抗効果素子によれば、本構成例4においても、第2の実施形態の構成例1乃至3と同様に、磁気抵抗効果素子の特性劣化を抑制できる。
【0231】
[3] 第3の実施形態
図18乃至図24を参照して、第3の実施形態の磁気抵抗効果素子について、説明する。尚、第3の実施形態の磁気抵抗効果素子において、第1及び第2の実施形態の磁気抵抗効果素子と同じ構成/同じ機能を有する部材に関する説明は、必要に応じて行う。
【0232】
第1及び第2の実施形態において、磁気抵抗効果素子の参照層としての磁性体を、堆積中に、ボロン(B)を添加する例が、説明されている。但し、参照層としての希土類金属−遷移金属磁性層が堆積された後に、Bが希土類金属−遷移金属磁性層に添加されてもよい。
【0233】
以下では、MTJ素子を形成するための希土類金属−遷移金属磁性層が堆積された後に、Bをその磁性層内に添加する製造方法及びそれによって形成されるMTJ素子の構造について説明する。
【0234】
(1) 構成例1
図18乃至図21を参照して、第3の実施形態の構成例1の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の構造及び製造方法について、説明する。
【0235】
図18は、第3の実施形態における構成例1のMTJ素子1Fの断面構造を示している。図19は、図18のA−A’線に沿う断面を、膜の積層方向から見た場合の平面構造を示している。
【0236】
図18及び図19に示されるMTJ素子1Fにおいて、参照層30F内の垂直磁化膜301Fは、例えば、TbCoFeB層を含む人工格子を用いて形成されている。
【0237】
本実施形態のMTJ素子1Fにおいて、垂直磁化膜301Fの外周部は、Bを含む希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFeB層)342となっている。そして、垂直磁化膜301FにおけるTbCoFeB層342より内側の領域341は、Bをほとんど含まない希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFe人工格子)341となっている。
【0238】
すなわち、図18及び図19に示されるように、本構成例1のMTJ素子の参照層(垂直磁化膜301F)において、TbCoFe人工格子341の側面上に、TbCoFeB層342が設けられている。TbCoFeB層342は、TbCoFe人工格子341の側面を囲んでいる。
【0239】
TbCoFe人工格子341は、0.5nmの膜厚を有するTb70Co30膜と0.3nmの膜厚を有するFe膜とが15周期積層された構造を有している。
TbCoFeB層342は、TbCoFe人工格子341の周期構造に基づいた人工格子(例えば、TbCoB/FeB積層構造)である場合もあるし、合金層である場合もある。
【0240】
TbCoFe層を含む垂直磁化膜301Fにおけるボロン(B)の濃度プロファイルにおいて、Bを含むTbCoFe層301Fの表面側(露出面側又は加工面側)のBの濃度が、TbCoFeB層の内部のBの濃度よりも、高くなる。TbCoFe人工格子341は、Bをほとんど含まない、又は、TbCoFe人工格子341のBの濃度は、その側面上のTbCoFeB層のBの濃度より低い。
【0241】
すなわち、磁性層の膜面に対して水平方向において、BとTbCoFe層とを含む垂直磁化膜301Fにおいて、Bの濃度分布に違いが生じ、磁性層の外周部側に、Bの濃度の最大値が存在する。例えば、磁性層の膜面に対して水平方向において、垂直磁化膜301F中のBの濃度は、外周部側から中央部側へ向かって、徐々に低下する。
【0242】
図20及び図21を用いて、本実施形態の構成例1のMTJ素子の製造方法を説明する。図20及び図21は、本実施形態の構成例1のMTJ素子1Fの製造方法を説明するための断面工程図である。
【0243】
図20に示されるように、参照層の垂直磁化膜として、0.5nmの膜厚を有するTb70Co30膜と0.3nmの膜厚を有するFe膜とが、界面層としての磁性層302X上に、15周期、交互に積層される。これによって、15周期のTbCoFe人工格子340Xが形成される。
【0244】
そして、TbCoFe人工格子340X上に形成されたハードマスク45X上に、素子の形状に対応したパターンを有するレジストマスク(図示せず)が、形成される。本構成例1の製造方法において、そのレジストマスクに基づいて、ハードマスク45X及び垂直磁化膜(TbCoFe人工格子)340Xが、例えば、イオンミリングによって、エッチングされる。この時、TbCoFe人工格子より下層の界面層302X、非磁性層(トンネルバリア層)20X、記憶層を形成するための磁性層10Xは、エッチングされない。それゆえ、参照層の垂直磁化膜(TbCoFe人工格子)が選択的に加工された積層構造1Yは、上向きに凸型の断面形状を有している。
【0245】
図21に示されるように、積層構造1Yが大気中に曝露される前に、積層構造1Yはエッチングチャンバから成膜チャンバへ真空中(又は不活性ガス雰囲気中)を移動され、例えば、2nm程度の膜厚のボロン膜95が、垂直磁化膜としてのTbCoFe人工格子上に形成される。ボロン膜95は、界面層としての磁性層302Xの上面に接触してもよい。また、磁性層302Xの上面とボロン膜95との間に、TbCoFe人工格子が介在していてもよい。尚、ボロン膜95の代わりに、ボロン化合物膜が、TbCoFe人工格子340X上に堆積されてもよい。ボロンをTbCoFe層内に効率よく拡散させるために、ボロン化合物膜内におけるボロンの濃度(組成比、含有量)は、50at.%より大きいことが好ましい。ボロン膜95の膜厚は、ボロン膜が除去される場合を考慮すると、2nm以下であることが好ましい。
【0246】
ボロン膜95がTbCoFe人工格子340Xを覆っている状態で、積層構造1Yがアニールチャンバへ搬送され、250℃から300℃程度のアニール処理が、積層構造1Yに対して30分間実行される。
【0247】
このアニール処理によって、ボロン膜95内のB成分が、TbCoFe人工格子341Xの表面(加工面、露出面)近傍に、熱拡散する。これによって、TbCoFe人工格子341Xの露出面上に、Bを含むTbCoFe層(TbCoFeB層)342Xが形成される。Bの拡散により形成されたTbCoFeB層342Xは、人工格子を維持している場合もあるし、合金層となっている場合もある。
【0248】
この場合、垂直磁化膜301X内におけるBの濃度プロファイルにおいて、垂直磁化膜301X内の表面側(TbCoFeB層342X)のBの濃度が、垂直磁化膜301X内の内部側(TbCoFe層341X)の濃度よりも、高くなる。
【0249】
アニール処理の後、TbCoFeB層342XがTbCoFe人工格子341Xの表面近傍に形成された積層構造1Yが、エッチングチャンバへ移動される。そして、ボロン膜95が除去された後、加工されたハードマスク及び参照層をマスクに用いて、トンネルバリア層20X、記憶層10X及び下地層40Xが、順次エッチングされる。
【0250】
これによって、図18及び図19に示される本構成例1のMTJ素子が形成される。
【0251】
本構成例1において、TbCcFe人工格子341側面上のTbCoFeB層342内のボロン(B)は、垂直磁化膜301F(340X,341X)の表面近傍、及び、モフォロジカルな粒界に優先的に拡散する。
そのため、加工された積層構造が、大気中に曝露されたとき、Bが、垂直磁化膜301F(340X,341X)の表面近くで、磁性層301F内の他の元素(例えば、Tb)よりも優先的に酸素と結合する。それゆえ、Bを含む希土類金属−遷移金属磁性体からなる垂直磁化膜341Xにおいて、希土類酸化物(ここでは、Tb酸化物)の生成が低減される。また、上述のように、垂直磁化膜301F(340X,341X)に対する酸素の粒界拡散も、Bが粒界に偏析することによって、低減される。
【0252】
本構成例1のMTJ素子において、素子形状に加工された場合、TbCoFeB層を含むMTJ素子のHcの低減が抑制され、Bが添加されたTb系磁性層は、耐酸化性が向上する。Bが添加されないTb系磁性層が約4kOeの保磁力Hcを示すのに対して、Bが添加されたTb系磁性層は、8kOeの保磁力Hcを示す。このように、Bの添加の有無に応じて、Tb系磁性層の保磁力Hcは、2倍程度異なる。
【0253】
本実施形態において、MTJ素子が含む磁性層のうち、酸素を含む雰囲気中に曝露された場合に、酸素の悪影響を受けやすい領域に、選択的に高濃度のボロンを含む層を形成する。このように、磁性層の外周部近傍などの磁性層の局所的な領域に制限して、高濃度のボロンを含む層をその領域に集中して形成することによって、ボロンの添加によって磁性層の磁気特性(例えば、保磁力)や素子の特性(例えば、MR比)の劣化が引き起こされる可能性を、低減できる。これによって、素子特性が向上したMTJ素子を形成できる。
【0254】
尚、上述の製造方法では、熱拡散を用いて、TbCoFe層(TbCoFe人工格子)中に、ボロンが拡散されている。イオンビームを照射することによって、ボロンをTbCoFe層中に添加できる。
【0255】
例えば、図21に示される工程において、アニール処理を行わずに、基板表面に垂直方向に対して45℃傾いた角度にイオン照射角を設定して、Krを用いたイオンビームによって、ボロン膜が側面上に形成されたTbCoFe層より下層の界面層302X、非磁性層20X、記憶層10X及び下地層20Xに対する加工処理(エッチング)を実行する。
【0256】
これによって、トンネルバリア層及び記憶層の形成(パターニング)とともに、ボロン膜95内のB元素が、イオンビームによって、TbCoFeB層341X内に、移動する。これによって、TbCoFeB層341Xの加工面上に、TbCoFeB層が形成される。
【0257】
アニール処理とイオンビーム照射の両方を用いて、TbCoFe層中にBを添加してもよい。また、イオン注入によって、BをTbCoFe層中に添加してもよい。尚、イオン照射角度は、上述の値に限定されない。また、Kr以外のイオンビームでもよい。
【0258】
以上のように、第3の実施形態のMTJ素子1Fの構成例1においても、上述の実施形態のMTJ素子と同様に、磁気抵抗効果素子の特性劣化を抑制できる。
【0259】
(2) 構成例2
図22乃至図24を参照して、第3の実施形態の構成例2の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の構造及び製造方法について、説明する。
【0260】
第3の実施形態の構成例1において、希土類金属−遷移金属磁性体の垂直磁化膜の外部からその磁化膜内部へボロン(B)を拡散させている。これに対して、本構成例2は、Bを垂直磁化膜(磁性層)の内部から垂直磁化膜の加工面側に析出させる。
【0261】
図22は、第3の実施形態の構成例2のMTJ素子1Gの断面構造を示している。
【0262】
図22に示される本構成例2のMTJ素子1Gにおいて、参照層30Gの垂直磁化膜301Gは、TbCoFeB人工格子301Gである。
【0263】
TbCoFeB人工格子301Gは、例えば、膜の堆積時に、0.5nmの膜厚を有するTb70Co30膜と0.3nmの膜厚を有するFe8020膜とが15周期積層された構造を用いて、形成されている。
【0264】
TbCoFeB人工格子301Gは、基板表面に対して水平方向(膜面に対して水平方向)において、Bの濃度が異なる領域345,346を含んでいる。TbCoFeB人工格子301Gの外周部(露出面、加工面)側の領域346のBの濃度は、TbCoFeB人工格子301Gの内部(中央部)側の領域346のBの濃度よりも高い。TbCoFeB人工格子301Gは、膜面に対して水平方向において、Bの濃度が変化する濃度プロファイルを有する。
【0265】
尚、図22において、TbCoFeB人工格子301G内のB濃度が2つの異なる領域345,346が設けられている例が示されている。これは、Bの濃度が高い領域346とBの濃度が低い領域345とを模式的に示しているのであって、TbCoFeB人工格子301G内におけるBの濃度プロファイル(濃度分布)は、後述の製造方法に応じて、TbCoFeB人工格子の内部側(中央部)から外周部(露出面、加工面)側へ、段階的に(徐々に)変化する場合もあるし、急峻に変化する場合もある。
【0266】
さらに、膜面に対して水平方向の濃度変化に加えて、TbCoFeB人工格子301Gは、基板表面に対して垂直方向(膜の積層方向)において、Bの濃度が異なる領域を含む場合もある。
【0267】
図23及び図24を用いて、本実施形態の構成例2のMTJ素子の製造方法を説明する。図23は、本実施形態の構成例2のMTJ素子1Fの製造方法を説明するための断面工程図である。図24は、図23の製造工程に対応する基板表面に対して水平方向におけるTbCoFeB層の断面図を示している。
【0268】
図23に示されるように、界面層302X上に、Bを含むTbCoFe層からなる垂直磁化膜344Xが形成される。例えば、垂直磁化膜344Xにおいて、0.5nmの膜厚を有するTb70Co30膜と0.3nmの膜厚を有するFe8020膜とが、15周期、積層されている。このように、垂直磁化膜344Xは、人工格子として形成される。
【0269】
そして、図20に示される工程と同様に、ハードマスク45A及びTbCoFeB人工格子344Xが、エッチングされる。TbCoFeB人工格子344Xの側面が露出した積層構造1Y’が、形成される。
【0270】
そして、2nm程度の膜厚のTa膜96が、TbCoFeB人工格子344Xの露出面を覆うように、TbCoFeB人工格子344X上に、例えば、スパッタ法によって形成される。尚、Ta膜96の代わりに、膜内におけるTaの濃度(組成比、含有量)が50at.%より大きければ、Ta化合物膜が用いられてもよい。また、Ta膜96の膜厚は、2nm以下であることが好ましい。
【0271】
その後、図21に示される工程と同様に、加工された積層構造1Y’はアニールチャンバへ移動され、Ta膜96に接触するTbCoFeB人工格子344Xを含む積層構造1Y’に対して、250〜300℃のアニール処理が、30分程度実行される。
【0272】
TbCoFeB人工格子344X中のBは、人工格子344X中の他の構成元素(例えば、Tb)に比較して、拡散しやすく、且つ、BはTaと反応(結合)しやすい。それゆえ、図24に示されるように、Ta膜96がBを含むTbCoFe層344Xに接触している状態におけるアニール処理によって、TbCoFeB人工格子344X内のボロン(B)が、TbCoFeB人工格子344XとTa膜96との界面近傍に偏析する。
【0273】
これによって、TbCoFeB人工格子344X内において、TbCoFeB人工格子344Xの外周部側(Ta膜96側)において、B濃度の高い領域(B高濃度領域)346が形成され、TbCoFeB人工格子344Xの内部側(中心部側)において、領域346よりもB濃度の低い領域(B低濃度領域)345が、形成される。
【0274】
そして、界面層302X、トンネルバリア層20X、記憶層10X及び下部電極40Xが、イオンミリングによって、順次加工される。
【0275】
TbCoFeB人工格子344Xの側面上に堆積されたTa膜96は、TbCoFeB人工格子344Xより下層の部材の加工のためのエッチングングによって、大部分が除去される。また、エッチングによって除去されなかったTbCoFeB人工格子344X側面上のTa膜96は、層間絶縁膜の堆積時又はチャンバの大気開放時に、十分に酸化されて導電性を失う。そのため、TbCoFeB人工格子344X側面上のTa膜96に起因して、MTJ素子の参照層と記憶層とがトンネルバリア層を挟んで、ショートすることは無い。
【0276】
以上の工程によって、図22に示される本構成例2のMTJ素子が形成される。
【0277】
第3の実施形態において、本構成例2のMTJ素子のTbCoFeB層を含む参照層は、素子形状に加工された場合、構成例1のMTJ素子と実質的に同様に、8kOe程度の保磁力Hcを示す。
【0278】
それゆえ、本構成例2のMTJ素子1Gは、希土類金属−遷移金属磁性層内に添加されたボロンによって耐蝕性が向上し、希土類金属−遷移金属磁性層の磁気特性(例えば、保磁力)が、低減するのを抑制できる。
【0279】
尚、膜内におけるTaの濃度(組成比、含有量)が50at.%より大きい膜であれば、TbCoFeB層344X中のBをTa膜(加工面、接触面)側に比較的容易に引き寄せることができるため、Ta膜96の代わりに、Ta化合物膜が用いられてもよい。また、Ta膜96の膜厚は、Ta膜の除去及び絶縁体化を考慮すると、2nm以下であることが好ましい。
【0280】
また、Bを偏析させるためにTbCoFeB層344Xの側面上に形成する膜96は、Ta膜に限定されない。例えば、W膜、Hf膜、Zr膜、Nb膜、Mo膜、V膜及びCr幕を含むグループから選択される少なくとも1つ膜が用いられてもよい。例えば、保護膜としての窒化物からなる側壁絶縁膜がTbCoFeB層301G側面上に形成されることを考慮すると、Si膜やGe膜がTa膜の代わりに用いられることが好ましい。これらの膜に関しても、化合物膜が用いられてもよい。
【0281】
以上のように、第3の実施形態のMTJ素子1Fの構成例2においても、上述の実施形態のMTJ素子と同様に、磁気抵抗効果素子の特性劣化を抑制できる。
【0282】
[適用例]
図25乃至図30を参照して、第1乃至第3の実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の適用例について、説明する。
【0283】
(1) 適用例1
上述の実施形態の磁気抵抗効果素子は、磁気メモリ、例えば、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)のメモリ素子として、用いられる。本適用例のMRAMとして、スピン注入型MRAM(Spin-torque transfer MRAM)を例示する。
【0284】
(a) 構成
図25は、MRAMのメモリセルアレイ及びその近傍の回路構成を示す図である。
【0285】
図25に示されるように、メモリセルアレイ9は、複数のメモリセルMCを含む。
【0286】
複数のメモリセルMCは、メモリセルアレイ9内にアレイ状に配置される。メモリセルアレイ9内には、複数のビット線BL,bBL及び複数のワード線WLが設けられている。ビット線BL,bBLはカラム方向に延在し、ワード線WLはロウ方向に延在する。2本のビット線BL,bBLは、1組のビット線対を形成している。
【0287】
メモリセルMCは、ビット線BL,bBL及びワード線WLに接続されている。
【0288】
カラム方向に配列されている複数のメモリセルMCは、共通のビット線対BL,bBLに接続されている。ロウ方向に配列されている複数のメモリセルMCは、共通のワード線WLに接続されている。
【0289】
メモリセルMCは、例えば、1つの磁気抵抗効果素子(MTJ素子)1と、1つの選択スイッチ2とを含む。メモリセルMC内のMTJ素子1には、第1乃至第3の実施形態で述べられたMTJ素子が用いられる。以下では、第1の実施形態のMTJ素子がMRAMに用いられた場合について説明するが、第2及び第3の実施形態のMTJ素子がMRAMに用いられてもよいのは、もちろんである。
【0290】
選択スイッチ2は、例えば、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor)である。以下では、選択スイッチ2としての電界効果トランジスタのことを、選択トランジスタ2とよぶ。
【0291】
MTJ素子1の一端は、ビット線BLに接続され、MTJ素子1の他端は、選択トランジスタ2の電流経路の一端(ソース/ドレイン)に接続されている。選択トランジスタ2の電流経路の他端(ドレイン/ソース)は、ビット線bBLに接続されている。選択トランジスタ2の制御端子(ゲート)は、ワード線WLに接続されている。
【0292】
ワード線WLの一端は、ロウ制御回路4に接続される。ロウ制御回路4は、外部からのアドレス信号に基づいて、ワード線の活性化/非活性化を制御する。
【0293】
ビット線BL,bBLの一端及び他端には、カラム制御回路3A,3Bが接続される。カラム制御回路3A,3Bは、外部からのアドレス信号に基づいて、ビット線の活性化/非活性化を制御する。
【0294】
書き込み回路5A,5Bは、カラム制御回路3A,3Bを介して、ビット線の一端及び他端に接続される。書き込み回路5A,5Bは、ソース回路及びシンク回路を有する。ソース回路は、書き込み電流を生成するための電流源または電圧源などを含み、書き込み電流(磁化反転電流)Iwを出力する。シンク回路は、書き込み電流Iwを吸収する。
【0295】
スピン注入型MRAMにおいて、書き込み回路5A,5Bは、データの書き込み時、外部から選択されたメモリセル(以下、選択セル)に対して、書き込み電流Iwを供給する。書き込み回路5A,5Bは、選択セルに書き込むデータに応じて、書き込み電流IwをメモリセルMC内のMTJ素子1に双方向に流す。即ち、書き込むデータに応じて、ビット線BLからビット線bBLに向かう書き込み電流Iw、或いは、ビット線bBLからビット線BLに向かう書き込み電流Iwが、書き込み回路5A,5Bから出力される。
【0296】
読み出し回路6A,6Bは、カラム制御回路3A,3Bを介して、ビット線BL,bBLの一端及び他端に接続される。読み出し回路6A,6Bは、読み出し電流を生成する電圧源又は電流源や、読み出し信号の検知及び増幅のためにセンスアンプ、データを一時的に保持するラッチ回路などを含んでいる。読み出し回路6A,6Bは、データの読み出し時、選択セルに対して、読み出し電流を供給する。読み出し電流の電流値は、読み出し電流によって記憶層の磁化が反転しないように、書き込み電流Iwの電流値(反転しきい値)より小さい。
【0297】
読み出し電流が供給されたMTJ素子1の抵抗値の大きさに応じて、読み出しノードにおける電流値又は電位が異なる。この抵抗値の大きさに応じた変動量に基づいて、MTJ素子1が記憶するデータが判別される。
【0298】
尚、図25に示される例において、読み出し回路6A,6Bは、カラム方向の両端に設けられているが、1つの読み出し回路が、カラム方向の一端にのみ設けられてもよい。
【0299】
図26は、メモリセルアレイ9内に設けられるメモリセルMCの構造の一例を示す断面図である。
【0300】
メモリセルMCは、半導体基板70のアクティブ領域AA内に形成される。アクティブ領域AAは、半導体基板70の素子分離領域に埋め込まれた絶縁膜71によって、区画されている。
【0301】
MTJ素子1の上端は、上部電極45を介してビット線76(BL)に接続される。また、MTJ素子1の下端は、下部電極(下地層)40、コンタクトプラグ72Bを介して、選択トランジスタ2のソース/ドレイン拡散層64に接続される。選択トランジスタ2のソース/ドレイン拡散層63は、コンタクトプラグ72Aを介してビット線75(bBL)に接続される。
【0302】
2つのソース/ドレイン拡散層63,64間のアクティブ領域AA表面上には、ゲート絶縁膜61を介して、ゲート電極62が形成される。ゲート電極62は、ロウ方向に延在し、ワード線WLとして用いられる。
【0303】
尚、MTJ素子1は、プラグ72B直上に設けられているが、中間配線層を用いて、コンタクトプラグ直上からずれた位置(例えば、選択トランジスタのゲート電極上方)に配置されてもよい。
【0304】
図26において、1つのアクティブ領域AA内に1つのメモリセルが設けられた例が示されている。しかし、2つのメモリセルが1つのビット線bBL及びソース/ドレイン拡散層23を共有するように、2つのメモリセルがカラム方向に隣接して1つのアクティブ領域AA内に設けられてもよい。これによって、メモリセルMCのセルサイズが縮小される。
【0305】
図26において、選択トランジスタ2は、プレーナ構造の電界効果トランジスタが示されているが、電界効果トランジスタの構造は、これに限定されない。例えば、RCAT(Recess Channel Array Transistor)やFinFETなどのように、3次元構造の電界効果トランジスタが、選択トランジスタとして用いられてもよい。RCATは、ゲート電極が、半導体領域内の溝(リセス)内にゲート絶縁膜を介して埋め込まれた構造を有する。FinFETは、ゲート電極が、短冊状の半導体領域(フィン)にゲート絶縁膜を介して立体交差した構造を有する。
【0306】
上述のように、各実施形態及び各構成例の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)1は、希土類を含む磁性層に対するボロン(B)の添加により耐蝕性(耐酸化性)及び耐熱性が向上され、MTJ素子の素子特性の劣化を抑制できる。その結果として、酸素を含むプロセス又は高温プロセスを経ても、安定した動作(例えば、データの書き込み)を実現できる。
【0307】
したがって、本実施形態のMTJ素子を用いたMRAMは、MRAMにおける動作の信頼性を向上できる。
【0308】
(b) 製造方法
図26乃至図28を用いて、本適用例のMRAM内のメモリセルの製造方法について説明する。
図27及び図28は、MRAMの各製造工程における、メモリセルMCのカラム方向に沿う断面をそれぞれ示している。
【0309】
図27に示されているように、半導体基板70内に、例えば、STI(Shallow Trench Isolation)構造の素子分離絶縁膜71が埋め込まれ、素子分離領域が形成される。この素子分離領域の形成によって、アクティブ領域AAが、半導体基板70内に区画される。
【0310】
そして、半導体基板70のアクティブ領域AA上に、メモリセルMCの選択トランジスタ2が形成される。選択トランジスタの形成工程について、以下のとおりである。
【0311】
アクティブ領域AA表面上に、ゲート絶縁膜61が形成される。ゲート絶縁膜61は、例えば、熱酸化法によって形成されたシリコン酸化膜である。次に、導電層(例えば、ポリシリコン層)が、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、ゲート絶縁膜21上に形成される。
【0312】
導電層は、例えば、フォトリソグラフィ及びRIE法を用いて、所定のパターンに加工される。これによって、ゲート電極62がゲート絶縁膜61上に形成される。ゲート電極62をワード線として用いるために、ゲート電極62はロウ方向に延在するように形成される。それゆえ、ゲート電極62は、ロウ方向に沿って配列する複数の選択トランジスタで共有される。
【0313】
ソース/ドレイン拡散層63,64が、半導体基板70内に形成される。拡散層63,64は、ゲート電極62をマスクに用いて、例えば、砒素(As)、リン(P)などの不純物をイオン注入法によって、半導体基板70内に注入することによって、形成される。
【0314】
以上の工程によって、半導体基板70上に、選択トランジスタ2が形成される。尚、ゲート電極62及び拡散層63,64上面にシリサイド層を形成する工程が、さらに追加されてもよい。
【0315】
そして、第1の層間絶縁膜79Aが、例えば、CVD法を用いて、選択トランジスタ2を覆うように、半導体基板70上に堆積される。層間絶縁膜33の上面は、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いて、平坦化される。
【0316】
層間絶縁膜79A内に、ソース/ドレイン拡散層63の上面が露出するように、コンタクトホールが形成される。形成されたコンタクトホール内に、例えば、タングステン(W)又はモリブデン(Mo)が充填され、コンタクトプラグ72Aが形成される。
【0317】
金属膜が、層間絶縁膜79A及びコンタクトプラグ72上に堆積される。堆積された金属膜は、フォトリソグラフィ及びRIE法を用いて、所定の形状に加工される。これによって、選択トランジスタ2の電流経路に接続されるビット線75(bBL)が形成される。
【0318】
この後、第2の層間絶縁膜79Bが、例えば、CVD法によって、層間絶縁膜79A及びビット線75B上に、堆積される。そして、ソース/ドレイン拡散層64の表面が露出するように、層間絶縁膜79A,79B内に、コンタクトホールが形成される。そのコンタクトホール内に、スパッタ法又はVD法によって、コンタクトプラグ72Bが埋め込まれる。
【0319】
層間絶縁膜79B上及びコンタクトプラグ72B上に、上述の各実施形態で述べた製造方法のいずれか1つ又は適宜組み合わせることによって、磁気抵抗効果素子(MTJ素子)1の構成部材が、順次堆積される。層間絶縁膜79B及びコンタクトプラグ72Bが、MTJ素子1を形成するための基板として用いられる。形成されたMTJ素子1は、ボロンが添加された希土類金属−遷移金属磁性層(TbCoFeB合金又はTbCoFeB人工格子)を、参照層及び記憶層のうち少なくとも一方に含む。
【0320】
そして、図28に示されるように、MTJ素子1が加工された後に、側壁絶縁膜(例えば、SiN)が、例えば、ALD法によって形成され、さらに、層間絶縁膜(例えば、SiO)79Cが、例えば、CVD法を用いて形成される。
【0321】
上述のように、酸化物からなる層間絶縁膜79Cの堆積中に、層間絶縁膜79Cに起因する酸素が、側壁絶縁膜を貫通して、TbCoFeB層側に浸透する場合がある。本実施形態のMTJ素子1の磁性層のように、TbCoFe層のような希土類金属−遷移金属磁性層40内に、B(ボロン)がドープされていることによって、BがTbよりも優先的に酸化する。又は、Bが磁性層内の粒界に偏析する。それゆえ、TbCoFeB層40において、Tb酸化物の形成が抑制され、酸化によるTbCoFeB層40の磁気特性(例えば、保磁力)の劣化が抑制される。
【0322】
この後、上部電極45の上面が、例えば、CMP法によって露出され、図26に示されるように、層間絶縁膜79C上に、周知の技術によって、ビット線BLが形成される。
【0323】
以上の製造工程によって、適用例としてMRAMのメモリセルが形成される。
【0324】
図25乃至図28を用いて説明したように、本実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)1は、MRAMに適用できる。上述のように、本実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)1によれば、素子特性の劣化が抑制されたMTJ素子を提供できる。
【0325】
したがって、本適用例のMRAMは、本実施形態の磁気抵抗効果素子を用いることによって、メモリの動作特性及び信頼性を向上できる。
【0326】
(2) 適用例2
上述の各実施形態の磁気抵抗効果素子は、磁気ディスク装置(例えば、HDD)の磁気ヘッド(TMRヘッド)に適用できる。
【0327】
図29は、HDDの構造を示す概略図である。図30は、TMRヘッドを搭載した磁気ヘッドアセンブリ部の構造を示す概略図である。
【0328】
図29及び図30に示されるように、アクチュエータアーム81は、装置内の固定軸80に固定されるための孔を有しアクチュエータアーム81の一端に、サスペンション82が接続されている。サスペンション82の先端に、TMRヘッドが搭載されたヘッドスライダ83が、取り付けられている。サスペンション82に、データの書き込み及び読み出しのためのリード線84が、形成されている。このリード線84の一端は、ヘッドスライダ83内のTMRヘッドの電極に、電気的に接続される。TMRヘッドは、本実施形態のMTJ素子1を含む。リード線84の他端は、電極パッド45に接続される。
【0329】
磁気ディスク86は、スピンドル87に装着され、駆動制御部からの制御信号によって、モータ駆動される。ヘッドスライダ83は、磁気ディスク86の回転により所定量だけ浮上する。この状態において、本実施形態のMTJ素子を含むTMRヘッドを用いて、データの記録/再生が行われる。
【0330】
アクチュエータアーム81は、駆動コイルを保持するボビン部を有する。アクチュエータ81には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ88が接続される。ボイスコイルモータ88は、磁気回路を有する。磁気回路は、アクチュエータアーム81のボビン部に巻き上げられた駆動コイルと、この駆動コイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークとを、有する。アクチュエータアーム81は、固定軸80の上下2箇所に設けられるボールベアリングによって、保持される。アクチュエータアーム81は、ボイスコイルモータ88によって駆動される。
【0331】
磁気抵抗効果素子が磁気ヘッドに用いられた場合においても、特性劣化が抑制される磁気抵抗効果素子を用いたられることによって、磁気ディスク装置の性能を、向上できる。
【0332】
[変形例]
図31及び図32を用いて、本実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の変形例について説明する。
【0333】
上述の各実施形態及び適用例において、MTJ素子の参照層に、ボロン(B)が添加された希土類金属−遷移金属磁性層が用いられた例が示されている。但し、MTJ素子の記憶層10に、Bが添加された希土類金属−遷移金属磁性層が用いられてもよい。上述の各実施形態で示されたBが添加された希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFeB層)を、記憶層10に用いることができる。MTJ素子の記憶層10が、Bを含む希土類金属−遷移金属磁性層であっても、上述の効果が得られる。
【0334】
尚、上述の各例では、ボトムピン型のMTJ素子が示されているが、トップピン型のMTJ素子でも、上述の効果が得られる。
【0335】
図31は、実施形態の磁気抵抗効果素子(MTJ素子)の変形例の断面構造を示している。例えば、図31に示されるように、参照層30からの漏れ磁場(漏洩磁界)を緩和させるために、バイアス層(シフト調整層ともよばれる)42が、MTJ素子1に設けられる場合がある。
【0336】
参照層30から記憶層10に印加される漏れ磁場は、上部電極45と参照層30との間に、参照層30の磁化の向きに対して反平行に磁化が向いている垂直磁化膜(バイアス層)42が挿入されることによって、ゼロにできる。
【0337】
バイアス層42と参照層30との間には、非磁性層41が設けられている。参照層30の底面(第1の面)はトンネルバリア層20に接触し、参照層30の上面(第2の面)は非磁性層41に接触する。
【0338】
バイアス層42は、垂直磁化膜301’を含む。例えば、バイアス層42の磁化の向きは、参照層の磁化の向きと反対になっている。
【0339】
バイアス層42の材料として、参照層30と同じ材料が用いられてもよい。例えば、バイアス層42は、例えば、TbCoFeB層のように、ボロンが添加された希土類金属−遷移金属磁性層が用いられる。
【0340】
参照層30とバイアス層42との間の非磁性層41の材料は、参照層30の磁化の向きとバイアス層42の磁化の向きとが反平行である場合に安定な交換バイアスが形成されるような材料から、選択されることが好ましい。非磁性層41の材料は、非磁性の金属であることが好ましく、例えば、非磁性層41の材料は、Ru、銀(Ag)及びCuから選択される。
【0341】
参照層30と非磁性層41(例えば、Ru)との間に、又は、バイアス層42と非磁性層41との間に、界面層が設けられてもよい。これによって、参照層30とバイアス層42との反平行結合を強化できる。例えば、CoFe、Co、Fe、CoFeB、CoB、FeBなどのうちいずれ1つ膜又はこれらの積層膜が、非磁性層41近傍の界面層として用いられる。
【0342】
尚、下地層40A内に、又は、下地層40内のバッファ層と下部電極との間に、バイアス層が設けられてもよい。
【0343】
図32は、図31とは異なる変形例のMTJ素子の断面構造を示している。
【0344】
上述のように、Bドープされた希土類金属−遷移金属磁性層301において、磁性層301内のBが、酸素と反応する場合がある。それゆえ、図32に示されるように、Bドープされた希土類金属−遷移金属磁性層(例えば、TbCoFeB層)301の表面上に、ボロン酸化膜39が形成される場合がある。
【0345】
このように、TbCoFeB層301の表面上にボロン酸化膜39が形成されることによって、形成されたボロン酸化膜39が、TbCoFeB層301に対する保護膜となって、TbCoFeB層301内のTb成分が酸化するのを抑制する場合がある。これによって、希土類を含む磁性層(例えば、TbCoFe層)の酸化に起因して、MTJ素子の特性が劣化するのを抑制できる。
【0346】
図31及び図32に示される変形例のMTj素子に対して、上述の各実施形態で述べた構成が適用できる。
【0347】
図31及び図32に示される変形例の磁気抵抗効果素子においても、各実施形態及び適用例で述べた効果と同じ効果を得ることができる。
【0348】
[その他]
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0349】
1:磁気抵抗効果素子、10:記憶層、20:非磁性層、30:参照層、301:Bドープ希土類金属−遷移金属非磁性層、2:選択トランジスタ、MC:メモリセル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜面に対して垂直方向に磁気異方性と不変な磁化方向とを有する第1の磁性体と、
膜面に対して垂直方向に磁気異方性と可変な磁化方向とを有する第2の磁性体と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間の非磁性体とを、具備し、
前記第1及び第2の磁性体のうち少なくとも一方は、第1の非磁性元素としてのボロン(B)及び希土類金属及び遷移金属を含む磁性層を、備え、
前記磁性層において、
前記希土類金属の含有量は、20at.%以上であり、前記遷移金属の含有量は、30at.%以上であり、前記第1の非磁性元素としてのボロンの含有量が、1at.%以上、50at.%以下である、ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記希土類金属は、Tb、Gd及びDyを含むグループの中から選択される少なくとも1種類の元素を含み、
前記遷移金属は、Co及びFeを含むグループの中から選択される少なくとも1種類の元素を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記磁性層は、第2の非磁性元素を含み、
前記第2の非磁性元素が局在している層が、前記磁性層内に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記磁性層内における前記第2の非磁性元素の最大濃度は、20at.%より大きいことを特徴とする請求項3に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記第2の非磁性元素は、Ta、W、Hf、Zr、Nb、Mo、V、Cr、Si及びGeを含むグループから選択される少なくとも1つの元素である、ことを特徴とする請求項3又は4に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記磁性層の膜面に対して垂直方向において、ボロンの濃度が異なっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記磁性層と前記非磁性層との間の領域におけるボロンの濃度は、前記磁性層を備える第1又は第2の磁性体の他の領域におけるボロンの濃度よりも低い、ことを特徴とする請求項6に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記磁性層の膜面に対して水平方向において、前記ボロンの濃度が異なり、前記磁性層の外周部側におけるボロンの濃度が、前記磁性層の中心部におけるボロンの濃度より高い、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子を含むメモリセルを具備することを特徴とする磁気メモリ。
【請求項10】
基板上に、希土類金属、遷移金属及びボロン(B)を含む第1の磁性体と、第2の磁性体と、前記第1の磁性体と前記第2の磁性体との間の第1の非磁性体と、を含む積層構造を形成する工程と、
前記積層構造を加工する工程と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1の磁性体を形成する際に、前記第1の磁性体の内部を非連続にする層を、挿入する工程を、さらに具備することを特徴とする請求項10に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項12】
非磁性元素の濃度が50at.%を越える第2の非磁性体を、加工された前記第1の磁性体上に形成する工程と、
前記第2の非磁性体及び加工された前記第1の磁性体に加熱処理を施して、前記第1の磁性体中のボロンを、前記第2の磁性体側の前記第1の磁性体の表面に、析出させる工程と、
さらに具備することを特徴とする請求項10又は11に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項13】
基板上に、希土類金属及び遷移金属を含む第1の磁性体と、第2の磁性体と、前記第1の磁性体と前記第2の磁性体との間の非磁性体と、を含む積層構造を形成する工程と、
前記第1の磁性体を加工する工程と、
ボロンの濃度が50at.%より大きいボロン含有膜を、加工された前記第1の磁性層上に、形成する工程と、
加熱処理及びイオン照射のうち少なくとも一方を前記ボロン含有膜に施して、加工された前記第1の磁性体の外周部におけるボロンの濃度を、加工された前記第1の磁性体の中央部におけるボロンの濃度より高くする工程と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2013−69788(P2013−69788A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206386(P2011−206386)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】