説明

薄膜トランジスタ装置及びその製造方法

【課題】
薄膜トランジスタの性能のばらつきの低減を図ることができる薄膜トランジスタ装置及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
本発明にかかる薄膜トランジスタ装置は、絶縁基板上1にソース領域2a、ドレイン領域2b及びチャネル領域2cを含むシリコン層2と、ゲート絶縁層3と、ゲート電極4とを有する薄膜トランジスタと、薄膜トランジスタを覆う層間絶縁層5と、層間絶縁層5に設けられたコンタクトホール6を介して、ソース領域2a、ドレイン領域2b及びゲート電極4に電気的に接続された配線7とを備えた薄膜トランジスタ装置である。配線7及び層間絶縁層5を覆い、配線7及び層間絶縁層5の表面凹凸を緩和する第一の上部絶縁層8aと、第一の上部絶縁層8aを覆う第二の上部絶縁層8bとを備え、第二の上部絶縁層8bの水素拡散係数が第一の上部絶縁層8aの水素拡散係数より小さいことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会の本格的な進展やマルチメディアシステムの急速な普及に伴い、液晶表示装置(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electro Luminescence)表示装置などの重要性はますます増大している。これらの表示装置の画素や周辺回路駆動用のトランジスタとしては、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が多く使用されている。
【0003】
このTFTには、大別して、アモルファスシリコンTFTと多結晶シリコンTFTの2種類がある。多結晶シリコンはアモルファスシリコンに比べ、キャリア移動度が2桁程度も大きいため、TFTの性能を向上させることができる。他方、多結晶シリコンの製造には、約1000℃もの高温を要し、絶縁基板としてガラス基板でなく石英ガラス基板を使用する必要があるため、製造コストに難点があった。しかし、低温プロセスの開発により、上記問題を解決した低温多結晶シリコンTFTが登場し、表示装置の大型化や高精細化に大きく寄与している。
【0004】
低温多結晶シリコンTFTは、一般に、絶縁基板上にソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域を含むシリコン層、シリコン層上にゲート絶縁層、ゲート絶縁層上にゲート電極を備えている。また、ゲート電極上にはゲート電極及びゲート絶縁層を覆う層間絶縁層があり、層間絶縁層及びその下層のゲート絶縁層を貫くコンタクトホールを介してソース領域、ドレイン領域およびゲート電極に接続する配線が設けられている。さらに、この配線上には配線及び層間絶縁層を覆う上部絶縁層が設けられている。
【0005】
上記の絶縁基板として一般的に使用されるのはガラスであり、この制約から低温多結晶シリコンTFTの形成はガラスの歪点である約600℃以下の低温で行う必要がある。しかし、このような低温のプロセスでは、シリコン層内部や、シリコン層とゲート絶縁層や絶縁基板との界面にシリコン結合の欠陥であるダングリングボンドを生じやすい。このダングリングボンドは、特許文献1〜3に示されるように、水素の拡散を抑止する膜が上層に存在する状態で、比較的高温の熱処理いわゆる水素化処理を行うことにより、TFTを構成する膜中の水素と結合し、解消される。
【特許文献1】特開昭60−136259号公報
【特許文献2】特開昭61−46069号公報
【特許文献3】特開平7−78997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の上部絶縁層は、水素の拡散を抑止する膜としての役割も担っている。そのため、上部絶縁層には、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によるシリコン窒化膜等が使用されている。ところで、このプラズマCVD膜は、配線の段差及び層間絶縁層の表面に存在する多くの凹凸をカバーしているため、これらの段差・凹凸部において、応力集中による亀裂及びカバレッジ不良を起こしやすい。この亀裂やカバレッジ不良が発生すると、熱処理時に、そこから水素が散逸し、その周辺の水素濃度が局部的に低下する。そのため、熱処理後の薄膜トランジスタ構造内のダングリングボンド密度が不均一になり、薄膜トランジスタの閾値電圧やキャリア移動度等の性能がばらつくという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、薄膜トランジスタの性能のばらつきの低減を図ることができる薄膜トランジスタ装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる薄膜トランジスタ装置は、絶縁基板上にソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域を含むシリコン層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極とを有する薄膜トランジスタと、前記薄膜トランジスタを覆う層間絶縁層と、前記層間絶縁層に設けられたコンタクトホールを介して、前記ソース領域、ドレイン領域及び前記ゲート電極に電気的に接続された配線とを備えた薄膜トランジスタ装置であって、前記配線及び層間絶縁層を覆い、前記配線の段差及び層間絶縁層の表面凹凸を緩和する第一の上部絶縁層と、前記第一の上部絶縁層を覆う第二の上部絶縁層とを備え、第二の上部絶縁層の水素拡散係数が第一の上部絶縁層の水素拡散係数より小さいことを特徴とするものである。
【0009】
本発明にかかる薄膜トランジスタ装置の製造方法は、絶縁基板上にソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域を含むシリコン層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極とを有する薄膜トランジスタを形成する工程と、前記薄膜トランジスタ上に層間絶縁層を形成する工程と、前記層間絶縁層にコンタクトホールを開口して、前記ソース領域、ドレイン領域及び前記ゲート電極に接続する配線を形成する工程と、前記配線及び層間絶縁層上に第一の上部絶縁層を形成し、前記配線の段差及び層間絶縁層の表面凹凸を緩和するように平坦化処理する工程と、前記第一の上部絶縁層上に前記第一の上部絶縁層より水素拡散係数が小さい第二の上部絶縁層を形成する工程とを備えたものである。
【0010】
本発明にかかる他の薄膜トランジスタ装置は、絶縁基板上にソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域を含むシリコン層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極とを有する薄膜トランジスタを備える薄膜トランジスタ装置であって、前記薄膜トランジスタを覆い、前記薄膜トランジスタの表面凹凸を緩和する第一の層間絶縁層と、前記第一の層間絶縁層を覆う第二の層間絶縁層とを備え、第二の層間絶縁層の水素拡散係数が第一の層間絶縁層の水素拡散係数より小さいことを特徴とするものである。
【0011】
本発明にかかる他の薄膜トランジスタ装置の製造方法は、絶縁基板上にソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域を含むシリコン層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極とを有する薄膜トランジスタを形成する工程と、前記薄膜トランジスタ上に第一の層間絶縁層を形成し、前記薄膜トランジスタの表面凹凸を緩和するように平坦化処理する工程と、前記第一の層間絶縁層上に前記第一の層間絶縁層より水素拡散係数が小さい第二の層間絶縁層を形成する工程とを備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、薄膜トランジスタの性能のばらつきの低減を図ることができる薄膜トランジスタ装置及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化されている。
【0014】
発明の実施の形態1.
図1を用いて、本発明の実施の形態1にかかる薄膜トランジスタ装置及びその製造方法について説明する。図1(c)は実施の形態1にかかる薄膜トランジスタ装置の断面図である。実施の形態1にかかる薄膜トランジスタは、液晶表示装置、有機EL表示装置等のアクティブマトリクス型表示装置に用いることができる。
【0015】
実施の形態1にかかる薄膜トランジスタ装置は、図1(c)に示すように、絶縁基板1、シリコン層2、ゲート絶縁層3、ゲート電極4、層間絶縁層5、コンタクトホール6、配線7、第一の上部絶縁層8a、第二の上部絶縁層8bを有している。
【0016】
絶縁基板1としては、一般に、ガラス基板が用いられるが、石英ガラス基板及びこれらの基板上に一層以上の保護絶縁層を有する基板も用いることができる。さらに、金属基板上に一層以上の保護絶縁層を有する基板を用いることもできる。
【0017】
絶縁基板1上には、ソース領域2a、ドレイン領域2b及びチャネル領域2cを含むシリコン層2が形成されている。絶縁基板1とシリコン層2との段差を緩和するために、このシリコン膜2の端面はテーパー形状であることが望ましい。シリコン層2としては、多結晶シリコンの他、アモルファスシリコンを用いることもできる。
【0018】
シリコン層2上には、ゲート絶縁層3が形成されている。ゲート絶縁層3には、シリコン層2との界面で、電子や正孔のトラップ準位をつくらないことが要求される。また、いわゆる水素化処理の際に、できる限り多くのダングリングボンドを解消するために、このゲート絶縁層3は、水素を多く含んでいることが望ましい。具体的には、CVD法によるシリコン酸化膜やシリコン層2の熱酸化膜を用いることができる。
【0019】
ゲート絶縁層3上には、ゲート電極4が形成されている。このゲート絶縁層3上とゲート電極4との段差を緩和するために、ゲート電極4の端面もテーパー形状を持たせることが望ましい。ゲート電極4には、当然のことながら、低抵抗であることが要求される。そのため、ゲート電極4としては、Al、Cu、Mo、Cr、Ta、Ti等が考えられる。また、ゲート電極4が水素の拡散を抑制できれば、いわゆる水素化処理時に、水素がゲート電極4から散逸することを防止できるため、ダングリングボンドを効果的に解消することができる。従って、ゲート電極4は、水素の拡散係数がゲート絶縁層3よりも小さいバリアメタルTiN、TaN、MoN、NbN、WN、VN、ZrN、HfN膜の少なくとも一つを備える多層膜であることが望ましい。
【0020】
ゲート電極4上には、ゲート電極4及びゲート絶縁層3を覆う層間絶縁層5が形成されている。この層間絶縁層5には、その上に形成されている配線7との間の電気的絶縁性、配線7とゲート電極4との間の寄生容量の低減などが要求される。また、いわゆる水素化処理時の水素の供給源としての役割も期待される。従って、層間絶縁層5としては、水素含有量の多いシリコン酸化膜等が望ましい。
【0021】
層間絶縁層5及びその下のゲート絶縁層3を貫くコンタクトホール6を介して、ソース領域2a、ドレイン領域2b及びゲート電極4に接続する配線7が形成されている。この配線7としては、Al、Cu、Mo、Cr、Ta、Ti等が考えられる。また、配線7は、ゲート電極4と同様の理由から、水素の拡散を抑制する効果のあるバリアメタルTiN、TaN、MoN、NbN、WN、VN、ZrN、HfN膜の少なくとも一つを備える多層膜であることが望ましい。
【0022】
配線7及び層間絶縁層5上には、第一の上部絶縁層8aが形成されている。この第一の上部絶縁層8aは配線7及び層間絶縁層5の表面凹凸の勾配を緩和し、この第一の上部絶縁層8aの表面上に形成される第二の上部絶縁層8bの亀裂やカバレッジ不良を解消するための膜である。ここで、表面凹凸の勾配は、絶縁基板1の主面を基準とする。また、緩和するとは、第一の上部絶縁層8aの表面凹凸の勾配が、対応する配線7及び層間絶縁層5の表面凹凸の勾配より小さくなることをいう。また、別の観点からすると、第一の上部絶縁層8aの表面凹凸の勾配は、少なくとも90度以下、好ましくは45度以下になるように平坦化されている。第一の上部絶縁層8aは、配線7及び層間絶縁層5の表面凹凸の勾配を緩和する機能を有する限り、単層膜であるか多層膜であるかを問わない。また、いわゆる水素化処理時の水素の供給源としての役割も期待される。従って、第一の上部絶縁層8aとしては水素含有量の多いシリコン酸化膜系等が望ましい。
【0023】
第一の上部絶縁層8a上には、第二の上部絶縁層8bが形成されている。この第二の上部絶縁層8bには、水素の拡散を抑止する効果が要求される。従って、第二の上部絶縁層8bとしては、シリコン窒化膜又はシリコン酸化窒化膜が望ましい。なお、第二の上部絶縁層8bは、水素の拡散を抑止する効果を有する限り、単層膜であるか多層膜であるかを問わない。
【0024】
次に、図1(a)〜(c)を用いて、実施の形態1にかかる薄膜トランジスタ装置の製造方法について説明する。図1(a)〜(c)は、各工程における薄膜トランジスタ装置の断面図である。図1(a)に示すように、絶縁基板1上に、減圧CVD又はプラズマCVDにより、シリコン層2を堆積する。このとき、シリコン層2はアモルファスであるため、レーザーアニール又は熱アニールにより多結晶化する。必要であれば、アニール前に脱水素処理を行う。シリコン層2上には、CVD又は熱酸化を用い、シリコン酸化膜のゲート絶縁層3を形成する。ゲート絶縁層3上には、Al、Mo等の金属スパッタリングによりゲート電極4を形成する。上述の通り、ゲート電極4は水素の拡散係数がゲート絶縁層3よりも小さいバリアメタルTiN、TaN、MoN等の少なくとも一つを備える多層膜であることが望ましい。
【0025】
図1(b)に示すように、ゲート電極4及びゲート絶縁層3上に、プラズマCVDにより、シリコン酸化膜等の層間絶縁層5を形成する。層間絶縁層5及びその下のゲート絶縁層3を貫くコンタクトホール6を開口後、Al、Mo等の金属スパッタリングにより配線7を形成する。上述の通り、配線7は水素の拡散を抑えるバリアメタルTiN、TaN、MoN等の少なくとも一つを備える多層膜であることが望ましい。
【0026】
図1(c)に示すように、配線7及び層間絶縁層5上には、第一の上部絶縁層8aが形成されている。第一の上部絶縁層8aとしては、いわゆる水素化処理時の水素供給源としての役割も期待される水素含有量の多いシリコン酸化膜系等が望ましい。この第一の上部絶縁層8aの製造方法としては、スピンコーティングやスリットコーティング等を用いる方法が考えられる。コーティングは層間絶縁層5の凹凸や配線7の段差の平坦化に特に効果的である。以下に、コーティングの代表的な4つの方法について説明する。
【0027】
第一の方法は、プラズマCVD等の低温CVD膜を形成後、表面に有機SOD又は有機SOG膜をコーティングして表面を平坦化し、エッチバックにより、平坦な表面形状をCVD膜に転写する方法である。このCVD膜としては、TEOS(Tetra Ethoxy Ortho Silicate)を材料ガスとして用いるCVDシリコン酸化膜が望ましい。
【0028】
第二の方法は、有機SOD又は有機SOG膜をコーティングして、エッチバックせずに使用する方法である。この有機SOD又は有機SOGの材料として、メチルシルセスキオサン(MSQ)系が望ましい。このMSQ系の材料としてはOCDT−9、OCDT−39(東京応化工業社)及びHSG−R7、HSG−RZ25(日立化成工業社)が挙げられる。
【0029】
第三の方法は、無機SOD又は無機SOG膜をコーティングする方法である。この無機SOD又は無機SOGの材料として、ハイドロジェンシルセスキオサン(HSQ)系が望ましい。このHSQ系としてはFOx−12〜15(ダウコーニング社)及びOCDT−12、OCDT−32(東京応化工業社)が挙げられる。
【0030】
第四の方法は、後の工程であるいわゆる水素化処理に耐え得る400℃以上の高耐熱性を有する有機樹脂をコーティングする方法である。この高耐熱性の有機樹脂材料としては、SiLK(ダウ・ケミカル杜)及びFLARE(ハネウエルエレクトロニックマテリアルズ社)が挙げられる。
【0031】
第一の上部絶縁層8a上には、プラズマCVDにより、シリコン窒化膜又はシリコン酸化窒化膜の第二の上部絶縁層8bを形成する。この第二の上部絶縁層8bは、平坦な第一の上部絶縁層8aの表面上に形成されるため、亀裂やカバレッジ不良の無い層となる。また、第二の上部絶縁層8bの水素拡散係数が第一の上部絶縁層8aよりも小さいため、いわゆる水素化処理時に、下層膜中に含まれる水素がTFT構造外へ散逸することを効果的に抑止でき、シリコン層2内部及びシリコン層2とゲート絶縁層3の界面及びシリコン層2と絶縁基板1の界面に存在するダングリングボンドを、従来よりも均一かつ効果的に消滅させることができる。いわゆる水素化処理は、200℃〜600℃で行うことができるが、特に、350℃〜500℃で行うことが望ましい。200℃以下では水素の拡散が不十分であり、他方、ガラスの歪点が約600℃だからである。
【0032】
発明の実施の形態2.
図2を用いて、本発明の実施の形態2にかかる薄膜トランジスタ装置及びその製造方法について説明する。図2(c)は実施の形態2にかかる薄膜トランジスタ装置の断面図である。図2においては、図1と同一の構成要素には同一の符号を付している。図2は図1と同一の構成要素のみからなるため、構成についての説明は省略する。実施の形態1との相違点は、第一の上部絶縁層8a及び第二の上部絶縁層8bの表面全体が、絶縁基板1と並行となるように、平坦かつ平滑である点である。実施の形態2にかかる薄膜トランジスタも、液晶表示装置、有機EL表示装置等のアクティブマトリクス型表示装置に用いることができる。
【0033】
図2(a)〜(c)は実施の形態2にかかる薄膜トランジスタ装置の製造方法の工程図であり、各工程における薄膜トランジスタ装置の断面図である。配線7までの工程は実施の形態1と同じである。従って、図2(a)、2(b)は図1(a)、1(b)と同じであり、説明を省略する。
【0034】
図2(c)に示すように、配線7上には、プラズマCVD等の低温CVDにより、第一の上部絶縁層8aを形成する。第一の上部絶縁層8aとしては、いわゆる水素化処理時の水素供給源としての役割も期待される水素含有量の多いシリコン酸化膜系等が望ましい。もちろん、第一の上部絶縁層8aを実施の形態1と同様に形成してもよい。そのため、第一の上部絶縁層8aとしてMSQ系有機膜、HSQ系無機膜等を用いることもできる。
【0035】
この第一の上部絶縁層8aは、化学的機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)により、表面全体が絶縁基板1と並行となるように、平坦かつ平滑にされる。CMP処理を行う場合、この第一の上部絶縁層8aの材質に最適なスラリー(砥粒)を選択することに留意する。層間絶縁層5の凹凸及び配線7の段差に対し、この第一の上部絶縁層8aの表面全体を平坦かつ平滑にすることにより、その上の第二の上部絶縁層8bの表面も平坦かつ平滑な膜とすることができる。
【0036】
本発明にかかる薄膜トランジスタ装置をアクティブマトリクス型表示装置に利用するとき、第二の上部絶縁層8bの表面を平坦かつ平滑にすることが、その上に形成する画素電極の表面を平坦かつ平滑にするために極めて重要となる。従って、第一の上部絶縁層8aの表面粗さは100μm領域のRMS(Root Mean Square)値で50nm以下とすることが望ましい。なお、この第二の上部絶縁層8bの表面を平坦かつ平滑にするためには、この第二の上部絶縁層8bをCMP処理することもできる。このとき、第一の上部絶縁層8aは図1の実施例で示すような膜であっても良い。
【0037】
第一の上部絶縁層8a上には、プラズマCVDにより、シリコン窒化膜又はシリコン酸化窒化膜の第二の上部絶縁層8bを形成する。この第二の上部絶縁層8bは、平坦な第一の上部絶縁層8aの表面上に形成されるため、亀裂やカバレッジ不良の無い層となる。また、第二の上部絶縁層8bの水素拡散係数が第一の上部絶縁層8aよりも小さいため、いわゆる水素化処理時に、下層膜中に含まれる水素がTFT構造外へ散逸することを効果的に抑止でき、シリコン層2内部及びシリコン層2とゲート絶縁層3の界面及びシリコン層2と絶縁基板1の界面に存在するダングリングボンドを、従来よりも均一かつ効果的に消滅させることができる。いわゆる水素化処理は、200℃〜600℃で行うことができるが、特に、350℃〜500℃で行うことが望ましい。200℃以下では水素の拡散が不十分であり、他方、ガラスの歪点が約600℃だからである。
【0038】
発明の実施の形態3.
図3を用いて、本発明の実施の形態3にかかる薄膜トランジスタ装置及びその製造方法について説明する。図3(c)は本発明の形態にかかる薄膜トランジスタ装置の断面図である。図3においては、図1と同一の構成要素には同一の符号を付しているため、説明を省略する。実施の形態1及び2との相違点は、実施の形態1及び2では、配線上の上部絶縁層が担っている機能を、この発明の実施の形態3では、層間絶縁層が担っている点である。すなわち、実施の形態3にかかる薄膜トランジスタ装置は、図3(c)に示すように、図1及び2に示す層間絶縁層5に代わり、第一の層間絶縁層5a及び第二の層間絶縁層5b有す。実施の形態3にかかる薄膜トランジスタも、液晶表示装置、有機EL表示装置等のアクティブマトリクス型表示装置に用いることができる。
【0039】
ゲート電極4及びゲート絶縁層3上には、第一の層間絶縁層5aが形成されている。この第一の上部絶縁層5aはゲート電極4及びゲート絶縁層3の表面凹凸の勾配を緩和し、この第一の層間絶縁層5aの表面上に形成される第二の層間絶縁層5bの亀裂やカバレッジ不良を解消するための膜である。ここで、表面凹凸の勾配は、絶縁基板1の主面を基準とする。また、緩和するとは、第一の層間絶縁層5aの表面凹凸の勾配が、対応するゲート電極4及びゲート絶縁層3の表面凹凸の勾配より小さくなることをいう。なお、第一の層間絶縁層5aは、ゲート電極4及びゲート絶縁層3の表面凹凸の勾配を緩和する機能を有する限り、単層膜であるか多層膜であるかを問わない。また、いわゆる水素化処理時の水素の供給源としての役割も期待される。従って、第一の層間絶縁層5aとしては水素含有量の多いシリコン酸化膜系等が望ましい。
【0040】
第一の層間絶縁層5a上には、第二の層間絶縁層5bが形成されている。この第二の層間絶縁層5bには、水素の拡散を抑止する効果が要求される。従って、第二の層間絶縁層5bとしては、第一の層間絶縁層5aよりも水素拡散係数が小さいシリコン窒化膜又はシリコン酸化窒化膜が望ましい。なお、第二の層間絶縁層5bは、水素の拡散を抑止する効果を有する限り、単層膜であるか多層膜であるかを問わない。
【0041】
図3(a)〜(c)は実施の形態3にかかる薄膜トランジスタ装置の製造方法の工程図であり、各工程における薄膜トランジスタ装置の断面図である。図3(a)に示すゲート電極4形成までの工程は、図1(a)、図2(a)と同じであるため、説明を省略する。次に、図3(b)に示すように、ゲート電極4形成後の基板上に、第一の層間絶縁層5aを形成する。この第一の層間絶縁層5aを平坦な膜にするためには、次の4つの方法が望ましい。
【0042】
第一の方法は、プラズマCVD等の低温CVD膜を形成後、表面に有機SOD又は有機SOG膜をコーティングして表面を平坦化し、エッチバックにより、平坦な表面形状をCVD膜に転写する方法である。このCVD膜としては、TEOSを材料ガスとして用いるCVDシリコン酸化膜が望ましい。
【0043】
第二の方法は、有機SOD又は有機SOG膜をコーティングして、エッチバックせずに使用する方法である。この有機SOD又は有機SOGの材料として、メチルシルセスキオサン(MSQ)系が望ましい。このMSQ系の材料としてはOCDT−9(東京応化工業社)、OCDT−39(東京応化工業社)、HSG−R7(日立化成工業社)、HSG−RZ25(日立化成工業社)が挙げられる。
【0044】
第三の方法は、無機SOD又は無機SOG膜をコーティングする方法である。この無機SOD又は無機SOGの材料として、ハイドロジェンシルセスキオサン(HSQ)系が望ましい。このHSQ系としてはFOx−12〜15(ダウコーニング社)、OCDT−12(東京応化工業社)、OCDT−32(東京応化工業社)が挙げられる。
【0045】
第四の方法は、後の工程であるいわゆる水素化処理に耐え得る400℃以上の高耐熱性を有する有機樹脂をコーティングする方法である。この高耐熱性の有機樹脂材料としては、SiLK(ダウ・ケミカル杜)やFLARE(ハネウエルエレクトロニックマテリアルズ社)が挙げられる。
【0046】
第一の層間絶縁層5a上には、プラズマCVDにより、シリコン窒化膜又はシリコン酸化窒化膜の第二の層間絶縁層5bを形成する。この第二の層間絶縁層5bは、平坦な第一の層間絶縁層5aの表面上に形成されるため、亀裂やカバレッジ不良の無い層となる。また、第二の層間絶縁層5bの水素拡散係数が第一の層間絶縁層5aよりも小さいため、コンタクトホール6を開口するより前の熱処理で、下層膜中に含まれる水素がTFT構造外へ散逸することを効果的に抑止でき、シリコン層2内部及びシリコン層2とゲート絶縁層3の界面及びシリコン層2と絶縁基板1の界面に存在するダングリングボンドを、均一に減少させることができる。
【0047】
図3(c)に示すように、第一の層間絶縁層5a及び第二の層間絶縁層5b及びその下のゲート絶縁層3を貫くコンタクトホール6を開口後、スパッタリングにより、TiN、TaN、MoN、NbN、WN、VN、ZrN、HfN膜の少なくとも一つを含む多層膜の配線7を形成する。この配線7が水素の拡散を抑制する機能を有し、かつ、水素の拡散を抑制する第二の層間絶縁層5bに亀裂やカバレッジ不良が無いため、いわゆる水素化処理時に、下層膜中に含まれる水素がTFT構造外へ散逸することを効果的に抑止できる。そのため、シリコン層2内部及びシリコン層2とゲート絶縁層3の界面及びシリコン層2と絶縁基板1の界面に存在するダングリングボンドを、従来よりも均一かつ効果的に消滅させることができる。いわゆる水素化処理は、200℃〜600℃で行うことができるが、特に、350℃〜500℃で行うことが望ましい。200℃以下では水素の拡散が不十分であり、他方、ガラスの歪点が約600℃だからである。
【0048】
なお、実施の形態3において、プラズマCVD等の低温CVDにより形成されたシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸化窒化膜又はこれらの積層膜からなる第一の層間絶縁層5aをCMP処理により平坦化することもできる。また、上記実施の形態1〜3ではコプラナ型のTFTを持つ場合の構造について示したが、正及び逆スタガ型TFTを持つ場合も同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】発明の実施の形態1にかかる薄膜トランジスタ装置及びその製造方法の工程を示す断面図である。
【図2】発明の実施の形態2にかかる薄膜トランジスタ装置及びその製造方法の工程を示す断面図である。
【図3】発明の実施の形態3にかかる薄膜トランジスタ装置及びその製造方法の工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 絶縁基板
2 シリコン層
2a ソース領域
2b ドレイン領域
2c チャンネル領域
3 ゲート絶縁層
4 ゲート電極
5 層間絶縁層
5a 第一の層間絶縁層
5b 第二の層間絶縁層
6 コンタクトホール
7 配線
8a 第一の上部絶縁層
8b 第二の上部絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上にソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域を含むシリコン層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極とを有する薄膜トランジスタと、
前記薄膜トランジスタを覆う層間絶縁層と、
前記層間絶縁層に設けられたコンタクトホールを介して、前記ソース領域、ドレイン領域及び前記ゲート電極に電気的に接続された配線とを備えた薄膜トランジスタ装置であって、
前記配線及び層間絶縁層を覆い、前記配線の段差及び層間絶縁層の表面凹凸を緩和する第一の上部絶縁層と、
前記第一の上部絶縁層を覆う第二の上部絶縁層とを備え、第二の上部絶縁層の水素拡散係数が第一の上部絶縁層の水素拡散係数より小さいことを特徴とする薄膜トランジスタ装置。
【請求項2】
前記第一の上部絶縁層が、有機SOD(Spin on Dielectrics)膜、有機SOG(Spin on Grass)膜、無機SOD(Spin on Dielectrics)膜、無機SOG(Spin on Grass)膜、400℃以上の高耐熱性の有機ポリマー膜のうち、いずれか一つ以上を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の薄膜トランジスタ装置。
【請求項3】
前記第一の上部絶縁層の表面粗さが100μm領域のRMS値で50nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタ装置。
【請求項4】
前記第二の上部絶縁層が、シリコン窒化膜層又はシリコン酸化窒化膜層を含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ装置を備えたアクティブマトリクス型表示装置。
【請求項6】
絶縁基板上にソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域を含むシリコン層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極とを有する薄膜トランジスタを形成する工程と、
前記薄膜トランジスタ上に層間絶縁層を形成する工程と、
前記層間絶縁層にコンタクトホールを開口して、前記ソース領域、ドレイン領域及び前記ゲート電極に接続する配線を形成する工程と、
前記配線及び層間絶縁層上に第一の上部絶縁層を形成し、前記配線の段差及び層間絶縁層の表面凹凸を緩和するように平坦化処理する工程と、
前記第一の上部絶縁層上に前記第一の上部絶縁層より水素拡散係数が小さい第二の上部絶縁層を形成する工程とを備えた製造方法。
【請求項7】
前記第二の上部絶縁層を形成する工程の後、熱処理を行う工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の薄膜トランジスタ装置の製造方法。
【請求項8】
前記第一の上部絶縁層の平坦化処理として、コーティング処理を含んでいることを特徴とする請求項6又は7に記載の薄膜トランジスタ装置の製造方法。
【請求項9】
前記第一の上部絶縁層の平坦化処理として、化学的機械研磨を含むことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ装置の製造方法。
【請求項10】
絶縁基板上にソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域を含むシリコン層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極とを有する薄膜トランジスタを備える薄膜トランジスタ装置であって、
前記薄膜トランジスタを覆い、前記薄膜トランジスタの表面凹凸を緩和する第一の層間絶縁層と、
前記第一の層間絶縁層を覆う第二の層間絶縁層とを備え、第二の層間絶縁層の水素拡散係数が第一の層間絶縁層の水素拡散係数より小さいことを特徴とする薄膜トランジスタ装置。
【請求項11】
前記第一の層間絶縁層が、有機SOD(Spin on Dielectrics)膜、有機SOG(Spin on Grass)膜、無機SOD(Spin on Dielectrics)膜、無機SOG(Spin on Grass)膜、400℃以上の高耐熱性の有機ポリマー膜のうち、いずれか一つ以上を含んでいることを特徴とする請求項10に記載の薄膜トランジスタ装置。
【請求項12】
前記第二の上部絶縁層が、シリコン窒化膜層又はシリコン酸化窒化膜層を含んでいることを特徴とする請求項10又は11のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ装置。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ装置を備えたアクティブマトリクス表示装置。
【請求項14】
絶縁基板上にソース領域、ドレイン領域及びチャネル領域を含むシリコン層と、ゲート絶縁層と、ゲート電極とを有する薄膜トランジスタを形成する工程と、
前記薄膜トランジスタ上に第一の層間絶縁層を形成し、前記薄膜トランジスタの表面凹凸を緩和するように平坦化処理する工程と、
前記第一の層間絶縁層上に前記第一の層間絶縁層より水素拡散係数が小さい第二の層間絶縁層を形成する工程とを備えた製造方法。
【請求項15】
前記第二の層間絶縁層を形成する工程の後、熱処理を行う工程を含むことを特徴とする請求項14に記載の薄膜トランジスタ装置の製造方法。
【請求項16】
前記第一の層間絶縁層の平坦化処理として、コーティング処理を含んでいることを特徴とする請求項14又は15に記載の薄膜トランジスタ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−242895(P2007−242895A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63368(P2006−63368)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】