車両の制御装置
【課題】回生コースト変速期間にブレーキオン操作がなされた場合におけるドライバビリティの低下を抑制する。
【解決手段】入力軸(600)との間でトルクの入出力が可能な回転電機(MG2)と、当該入力軸と車軸に連結された出力軸(700)との間に少なくとも一つの係合装置を備え、入力軸と出力軸との間でトルクを伝達すると共に当該係合装置の係合状態に応じて入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との比たる変速比を変化させることが可能な変速装置(400)とを備えた車両(1)を制御する装置(100)は、制動操作を検出可能な検出手段と、車両のコースト回生時に変速装置のダウンシフトがなされるコースト回生変速期間において上記制動操作としてブレーキオン操作が検出された場合に、コースト回生変速期間における回転電機の回生トルクの増加を抑制する回生制御手段とを具備する。
【解決手段】入力軸(600)との間でトルクの入出力が可能な回転電機(MG2)と、当該入力軸と車軸に連結された出力軸(700)との間に少なくとも一つの係合装置を備え、入力軸と出力軸との間でトルクを伝達すると共に当該係合装置の係合状態に応じて入力軸の回転速度と出力軸の回転速度との比たる変速比を変化させることが可能な変速装置(400)とを備えた車両(1)を制御する装置(100)は、制動操作を検出可能な検出手段と、車両のコースト回生時に変速装置のダウンシフトがなされるコースト回生変速期間において上記制動操作としてブレーキオン操作が検出された場合に、コースト回生変速期間における回転電機の回生トルクの増加を抑制する回生制御手段とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として機能し得る回転電機と車軸との間に変速装置を備えた車両を制御する車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、コーストダウン変速時における出力軸トルクの変動を抑制するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された車両用駆動装置の制御装置によれば、コーストダウン変速時におけるイナーシャ相において、モータの回生トルクを低減させることにより出力軸トルクの変動が抑制可能であるとされている。
【0003】
尚、コーストダウン変速におけるイナーシャ相中に回生ブレーキ要求がある場合、変速部の係合側要素のトルク容量のスイープ率を上昇させる装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、コーストダウン変速中に運転者の減速意図を判定した場合、コーストダウン変速を進行させないようにする装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−207690号公報
【特許文献2】特開2009−061988号公報
【特許文献3】特開2007−278445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクセルペダルの全閉操作或いはそれに類する操作を伴う惰性減速がなされるコースト減速期間においては、回転電機の回生トルクによる電力回生、所謂コースト回生が実行され得る。このコースト回生は、ドライバの制動操作(端的には、ブレーキペダルの操作)の有無によらず実行され得るが、当該制動操作を、ドライバの積極的な制動意思を反映したものとして扱えば、当該制動操作が有る場合としてのブレーキオン時と、当該制動操作が無い場合としてのブレーキオフ時とでは、回転電機の回生トルクが異なるのが一般的である。
【0007】
より具体的には、ブレーキオン時の回生トルクは、ブレーキオフ時よりも大きな制動力を付与する必要から、ブレーキオフ時の回生トルクよりも大きく設定されるのが一般的である。尚、回生トルクは負トルクであるから、「大きい」とは、正負の符合まで勘案した絶対的なトルク値としては「小さい」ことを意味する。
【0008】
従って、コースト回生が実行される期間としてのコースト回生期間においてブレーキオン操作(ブレーキオフ状態からブレーキオン状態への制動状態の移行を促す操作であって、端的には、ブレーキペダルから足を離した状態又はそれに類する状態からブレーキペダルを踏み込む操作を意味する)が生じると、回生トルクは増加することになる。
【0009】
ところで、コースト回生期間においては、車両の減速状態に応じて、好適には車速の低下に応じて、入力軸の回転速度を上昇させる側への変速比の切り替え、即ち所謂ダウンシフトが生じ得る。この際、変速比の切り替え(以下、適宜「変速」と称する)前後においては、入力軸の回転速度(一義的に回転電機の回転速度)が、変速前の変速比に対応する同期回転速度から変速後の変速比に対応する同期回転速度へと変化する。
【0010】
一方、上述したブレーキオン操作は、ドライバによる人為行為であるから、コースト回生期間に上記ダウンシフトが生じる期間としてのコースト回生変速期間においても、上記ダウンシフトの進捗とは無関係に生じ得る。コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合、出力軸のトルクは、変速装置の入力側のトルクを与える上述の回生トルクの増加によって減少する(即ち、負トルク側に絶対値が増加する)。
【0011】
他方、このように回生トルクが増加すると、回転電機を含む変速装置の入力慣性系のイナーシャが大きくなるため、回転電機の回転速度が上記変速後の変速比に対応する同期回転速度へ変化するための負荷が大きくなる。その結果、回転電機の回転速度、即ち、変速装置の入力軸の回転速度が変速後の変速比に対応する同期回転速度に到達するための時間が長くなり、変速期間が長大化しかねない。変速期間の長大化は、変速装置を構成する各種摩擦材の磨耗を促進し、またドライバの不要な運転操作を誘発し得る。このため、実践的運用面においては、コースト回生変速期間におけるブレーキオン操作に対し、変速装置を構成する各種係合装置の係合油圧を相対的に高め、変速時間を短縮化する必要が生じ得る。
【0012】
ところが、このように回生トルクの増加と係合油圧の増加とが干渉すると、変速装置の出力軸には、過渡的にドライバに知覚され得る程度のトルク変動が生じる可能性が高くなる。このようなトルク変動は、ドライバビリティを低下させる要因となる。
【0013】
ここで特に、上述した特許文献1に開示される装置では、コースト回生変速期間におけるブレーキオン操作が変速時間の長大化を招き得る点についても、出力軸のトルク変動を招き得る点についても一切考慮されていないため、この種の出力軸のトルクの変動に起因するドライバビリティの低下が抑制され難い。即ち、上記特許文献1に開示される装置には、コースト回生変速期間にブレーキオン操作が生じた場合に、ドライバビリティが低下しかねないという技術的問題点がある。
【0014】
また、特許文献2に開示されるように、係合側要素のトルク容量のスイープ率を上昇させた場合、上述したように変速時間の短縮化を図り得ても、出力軸のトルク変動が回避され難い。
【0015】
また、変速とは、本来、車両の動力源を望ましい動作領域で稼動させるためになされる措置であるから、特許文献3に開示されるようにブレーキオン操作に対しコーストダウン変速を禁止してしまっては、動力源の効率的な動作が阻害される結果となり、燃費の悪化等、他の問題点を顕在化させる。即ち、特許文献2及び3の開示内容を参酌しても、上述の技術的問題点が解決されないことは明らかである。
【0016】
本発明は、係る問題点に鑑みてなされたものであって、回生コースト変速期間にブレーキオン操作がなされた場合におけるドライバビリティの低下を抑制可能な車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両の制御装置は、入力軸との間でトルクの入出力が可能な回転電機と、前記入力軸と車軸に連結された出力軸との間に複数の係合装置を備えて設置され、前記入力軸と前記出力軸との間でトルクを伝達すると共に、前記複数の係合装置の各々の係合状態に応じて前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との比たる変速比を変化させることが可能な変速装置とを備えた車両を制御する装置であって、ブレーキオン操作を検出可能な検出手段と、前記車両のコースト回生時に前記変速装置のダウンシフトがなされるコースト回生変速期間において前記ブレーキオン操作が検出された場合に、前記コースト回生変速期間における前記回転電機の回生トルクの増加を抑制する回生制御手段とを具備することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る回転電機は、例えばモータジェネレータ等の実践的態様を採り得る装置であり、蓄電手段や発電機等の電力供給源から供給される電力(即ち、放電電力)を利用した、入力軸に対するトルクの出力と、入力軸を介したトルクの入力とを可能とする装置である。尚、入力軸が後述の変速装置を介して出力軸に連結される点と、出力軸が車軸に連結される点とに鑑みれば、前者は車軸に対する駆動トルクの供給を意味し、後者は電力回生(発電)を意味する。
【0019】
本発明に係る変速装置は、入力軸と出力軸との間のトルク伝達経路に、複数の係合装置(例えば、油圧係合湿式多板型のクラッチ機構やブレーキ機構等)を備えて設置された、例えば、各種ECT(Electronic Controlled Transmission:電子制御式変速装置)等の実践的態様を採り得る装置である。変速装置は、これら複数対の係合装置の各々の係合状態に応じて、変速比を複数段階に或いは連続的に変化させることが可能である。
【0020】
本発明に係る車両は、上記の回転電機と変速装置とを備える限りにおいて、その採り得る実践的態様は多様である。例えば、本発明に係る車両は、その動力源として、上記回転電機としてのモータジェネレータのみを動力源として備える所謂EV(Electric Vehicle:電気自動車)であってもよいし、上記回転電機に加えて他の動力源(例えば、内燃機関)を備えたHV(Hybrid Vehicle:ハイブリッド車両)であってもよい。また、車両が、内燃機関と上記回転電機を含む複数の回転電機とを備えたハイブリッド車両として構成される場合、上記回転電機と異なる回転電機から内燃機関に反力を与える差動機構を備えていてもよい。この場合、この差動機構が一種の電気的CVT(Continuously Variable Transmission:無段変速装置)として機能してもよい。
【0021】
本発明に係る車両の制御装置は、このような車両を制御する装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、ECU(Electronic Controlled Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ等の実践的態様を採り得る。尚、これらには必要に応じて更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等が内蔵又は付帯されていてもよい。
【0022】
本発明に係る車両の制御装置は、ブレーキオン操作を検出可能な検出手段を備える。
【0023】
ここで、本発明に係る「ブレーキオン操作」とは、制動力を要求する旨を表す操作であって、ブレーキペダルの踏下量(ストローク)で言えば、ゼロより大きい又は不感帯領域の境界値よりも大きいことと実質的に等価である。本発明に係る検出手段は、ブレーキオン操作を検出可能な手段であるが、好適には無論、ブレーキオフ操作の検出も可能であり、また、要求される制動力又は減速度の大小と相関するブレーキオン操作の度合い(端的には、ブレーキペダルの踏下量)も検出可能である。
【0024】
尚、このようなブレーキオン操作の検出は、直接的になされても(即ち、一次的な検出がなされても)、間接的になされても(即ち、二次的な検出がなされても)よい。尚、直接的な検出とは、例えば、ブレーキペダルのストローク量の検出等を意味し、検出手段の実践的態様として、例えば、ブレーキペダルセンサ等の形態を採ることを意味する。また、間接的な検出とは、ブレーキペダル操作量と一対一、一対多、多対一又は多対多に対応するブレーキペダル操作量相当値を各種信号、情報又はデータ等として各種伝達経路(制御バス等)を介して取得すること、或いはこのように取得された信号、情報又はデータ等に基づいて、演算処理を伴う推定又はマップ等を介した数値選択を行うこと等を意味する。
【0025】
本発明に係る車両の制御装置によれば、上述のコースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合に、回生制御手段によって、当該コースト回生変速期間における回転電機の回生トルクの増加が抑制される。尚、「増加の抑制」とは、増加量や増加率等が、本来生じるべき度合い(即ち、増加抑制措置が講じられない場合に適用される制御に準拠した度合い)よりも低いことを包括する概念であって、必ずしも、回生トルクがブレーキオン操作検出時点の値から増加することを禁止するものではない。
【0026】
出力軸のトルク変動は、回生トルクの増加(何らの制限も与えられない増加である)による変速装置における入力慣性系のイナーシャの増加と、それに伴う変速期間の長大化を回避すべく変速装置側でなされる係合圧の上昇制御とによってもたらされる。
【0027】
ここで、回転電機における電力回生は、定常的に見れば、回転電機の電力供給源としての各種バッテリ或いは各種キャパシタ等におけるSOC(State Of Charge:充電状態或いは充電状態を規定する指標値)を所望の範囲に維持するために必要な措置であるものの、コースト回生変速期間におけるブレーキオン操作時といった、不定期に訪れる一種の過渡的期間においては、必ずしも車両運行制御上の必須要件ではない。このため、回生トルクの増加をコースト回生変速期間において抑制したところで、車両の運行制御上然したる問題は顕在化しない。
【0028】
本発明に係る車両の制御装置は、コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合に出力軸のトルク変動が生じ得る点を見出し、且つこのように過渡的には回生トルクの増加を抑制することが許容される点に着眼することによって、車両のドライバビリティの低下を好適に抑制することができるのである。
【0029】
また、回生トルクの増加が抑制された場合、変速装置における係合装置の係合圧を上昇させる必然性が消滅する。従って、回生トルクの増加抑制に係る措置は、実は、係合装置の係合圧の時間推移をブレーキオフ時相当に緩和させる措置を極めて合理的に招来し得る。即ち、本発明によれば、出力軸のトルク変動を招く一方の要因たる回転電機側に対策を講じることによって、出力軸のトルク変動を招く他方の要因たる変速装置側においても合理的な対策を講じることを可能とする。従って、変速時間の長大化を回避しつつ出力軸のトルク変動を抑制するといった、実践上極めて高い利益を提供し得る。
【0030】
補足すると、出力軸のトルク変動を抑制すべく、例えば変速装置側で対策を講じる場合、係合圧の上昇を抑制することが必要となるが、このような措置は、取りも直さず変速期間の長大化或いは摩擦材の磨耗等、他の問題を惹起し得る。即ち、実践上全く得策ではない。また、回生トルクの増加抑制措置から係合装置の係合圧低減措置は合理的に導き得ても、係合圧低減措置から回生トルクの増加抑制措置を合理的に導くことは出来ないのである。
【0031】
尚、回生トルクの増加は、抑制されることによって幾らかなり出力軸のトルク変動を抑制し得るから、回生制御手段は、先述したように必ずしも回生トルクの増加そのものを禁じる必要はない。但し、回生トルクの抑制の度合いが大きい程(必ずしもリニアでなくてよい)、出力軸のトルク変動抑制に係る効果は大きくなり得る。従って、回生トルクの過渡的な増加抑制が車両運行制御上許容される点に鑑みれば、回生制御手段は、好適な一形態として、回生トルクをブレーキオン操作時点に相当する値に維持するか、或いはブレーキオン操作時点に相当する値から更に低減してもよい。
【0032】
本発明に係る車両の制御装置の一の態様では、前記回生制御手段は、前記コースト回生変速期間における回生トルクを維持又は低減する。
【0033】
回生トルクは、先述したようにその増加が抑制される限りにおいて出力軸のトルク変動抑制に効果があるが、この態様によれば、特に、コースト回生変速期間における回生トルクが維持又は低減されるため、出力軸のトルク変動抑制に係る高い利益を享受することが可能となる。補足すると、コースト回生変速期間は有限な期間であり、回転電機による電力回生が一時的な停止されたところで、実践的に見て電力収支に過度な影響を与えないのである。
【0034】
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記車両の減速度の大小に応じて変速後の変速比に対応する前記係合装置の係合圧が夫々小大に変化するように前記変速装置を制御する変速制御手段を更に具備する。
【0035】
先述したように、回生トルクの増加が抑制された場合、少なくとも係合装置の係合圧を増加させる必然性は消滅するが、車両の減速度が大きい場合、単に係合圧の増加を取り止めるだけでは、出力軸のトルク変動がドライバビリティの低下として顕在化する可能性がある。
【0036】
この態様によれば、変速後の変速比に対応する(即ち、変速前において解放状態あって、変速後に締結させる必要がある)係合装置の係合圧が、車両の減速度の大小に応じて夫々二値的に、段階的に又は連続的に小大に変化する。従って、車両の減速度に応じた出力軸のトルク変動が、良好に抑制され、より好適にドライバビリティの低下を抑制することが可能となる。
【0037】
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記車両は、車輪に対し物理的な制動力を付与可能な制動装置を備え、前記車両の制御装置は、前記回生制御手段により前記回生トルクの増加が抑制される期間において、前記回生トルクにより付与されるべき回生制動力の少なくとも一部が前記物理的な制動力により補われるように前記制動装置を制御する制動制御手段を更に具備する。
【0038】
既に述べたように、コースト回生期間における回転電機の回生トルクは、一種の制動力であるから、回生トルクの増加が抑制されることにより、車両に本来付与されるべき制動力の一部が不足することとなる。このような制動力の不足に起因する要求減速度に対する実際の減速度の不足は、例えばブレーキペダルの踏み増し等、ドライバ側での不要な行動を招き得、ドライバビリティを低下させる要因となることがある。
【0039】
この態様によれば、車輪に物理的な制動力、端的には摩擦制動力を付与する公知の各種制動装置等から、この回生トルクの増加抑制分に対応する制動力が付与される。このため、車両の実際の減速度と要求値との乖離が緩和され、ドライバビリティの低下が好適に抑制される。
【0040】
尚、制動装置から付与される制動力の大きさは、回生トルクの増加抑制による制動力の不足分と真に一対一に対応する必要はなく、減速度の過不足がドライバビリティの低下として顕在化しない範囲で、係る不足分に一対一、一対多、多対一又は多対多に適宜対応してよい趣旨である。
【0041】
本発明に係る車両の制御装置の態様では、前記車両は、内燃機関と、前記内燃機関に反力トルクを付与可能な反力要素としての前記回転電機とは異なる他の回転電機と、前記内燃機関、前記回転電機及び前記他の回転電機に夫々連結される回転要素を含む複数の回転要素を備え、前記内燃機関の回転速度と前記回転電機の回転速度との比を無段階に変化させることが可能な差動機構とを具備する。
【0042】
この態様によれば、車両は、所謂ハイブリッド車両の一例を構成することとなり、差動機構による無段変速機能により、内燃機関を、例えば燃料消費率が最小となる最適燃費動作線に沿って駆動すること等が可能となるため、本発明に係る車両の制御装置に係る実践上の利益とあいまって、車両全体のエネルギ効率が良好に担保され得る。尚、無段変速機能に係る「回転電機の回転速度」とは、変速装置の入力回転速度と一義的であるが、変速装置の入力軸と回転電機の出力軸とが直結されている必要はなく、両者の間に回転電機の回転速度を適宜減速可能な減速機構が介在していてもよい。
【0043】
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記変速装置は、前記係合装置の係合状態に応じて前記変速比が相互に異なる複数の変速段を構築可能な有段変速装置である。
【0044】
この態様によれば、変速装置が、複数の回転要素とクラッチ機構及びブレーキ機構等から構成される複数の係合装置との組み合わせにより、変速比の異なる複数の変速段を構築可能な有段変速装置の形態を採るから、変速装置の機械的信頼性が好適に確保される。
【0045】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車両におけるハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】図2のハイブリッド駆動装置におけるECTの各係合要素の係合状態と変速段との関係を例示する係合表である。
【図4】図2のハイブリッド駆動装置における動力分割機構の一動作状態を例示する動作共線図である。
【図5】図2のハイブリッド駆動装置の一動作状態を例示する動作共線図である。
【図6】図1のハイブリッド車両においてECUにより実行されるドライバビリティ補償制御のフローチャートである。
【図7】図2のハイブリッド駆動装置におけるECTの変速条件を規定する変速マップの模式図である。
【図8】図6のドライバビリティ補償制御の効果に係り、回生トルクの増加抑制がなされない比較例におけるECT各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。
【図9】図6のドライバビリティ補償制御の効果に係り、回生トルクの増加抑制がなされた場合のECT各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。
【図10】本発明の第2実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両1の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両1の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0048】
図1において、ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、ブレーキペダルセンサ15、シフト位置センサ16、SOCセンサ17及び制動装置18並びにハイブリッド駆動装置10を備えた、本発明に係る「車両」の一例たるハイブリッド車両である。
【0049】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するドライバビリティ補償制御を実行可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る「検出手段」、「回生制御手段」、「制動制御手段」及び「変速制御手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0050】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動する、ハイブリッド車両1のパワートレインユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。尚、各車軸は、最終減速機構としてのデファレンシャルD/Gを介してハイブリッド駆動装置10の動力出力軸である出力軸700に連結されている。
【0051】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能に構成された不図示のインバータを含み、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御することが可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0052】
バッテリ12は、複数のリチウムイオン電池セルを直列接続した構成を有し、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な電池ユニットである。尚、バッテリ12は、本発明に係る回転電機に対し電力を供給可能な蓄電手段の一例に過ぎず、例えば、ハイブリッド車両1は、バッテリ12に代えて、ニッケル水素電池を構成要素とする電池ユニットを搭載していてもよい。或いは、例えば電気二重層キャパシタ等の各種キャパシタ装置を搭載していてもよい。
【0053】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0054】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vhを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vhは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0055】
ブレーキペダルセンサ15は、ハイブリッド車両1の各車輪に対し個別に制動力を付与可能なECB(Electronic Controlled Braking system:電子制御式制動装置)の作動、或いはモータジェネレータMG2を利用した回生制動の作動を促す運転者の制動操作量を検出可能に構成されたセンサである。この制動操作は、不図示のブレーキペダルを介して与えられる構成となっており、ブレーキペダルセンサ15は、このブレーキペダルの踏下量Tbを係る制動操作量として検出する構成となっている。ブレーキペダルセンサ15は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたブレーキペダル踏下量Tbは、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0056】
シフト位置センサ16は、後述するECT400の動作モードを規定するシフト位置を検出可能に構成されたセンサである。シフト位置センサ16は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたシフト位置は、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0057】
SOCセンサ17は、バッテリ12のSOC(State Of Charge:充電状態)を検出可能に構成されたセンサである。SOCセンサ17は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたバッテリ12のSOCは、ECU100により適宜参照される構成となっている。尚、本実施形態では、「SOC」なる文言を、バッテリ12の充電状態を表す定量的指標値としても使用することとする。
【0058】
制動装置18は、ECBアクチュエータ18A及びホイールシリンダ18Bを備え、車輪FL及びFRに対し、物理的な制動力たる摩擦制動力を付与可能に構成された、本発明に係る「制動装置」の一例たる公知のECB(電子制御式制動装置)である。
【0059】
ECBアクチュエータ18Aは、各輪に備わるホールシリンダ18Bに作動油を供給するための油路と、当該油路に設置された複数のソレノイドバルブと、当該油路への作動油の供給圧を制御する電動オイルポンプとを備えた、制動力制御装置である。当該油路に供給される油圧は、各ソレノイドバルブの開閉状態と、電動オイルポンプの駆動状態とに応じて可変に制御される。ECBアクチュエータ18Aは、ECU100と電気的に接続されており、その動作状態がECU100により上位に制御される構成となっている。
【0060】
ホイールシリンダ18Bは、車両1の車輪各々に対し設置され、各車輪に制動力としての摩擦力を付与する制動部材に対し駆動力を付与可能な油圧駆動装置である。ホイールシリンダ18Bには、先述したように、ECBアクチュエータ18Aを介して適切な油圧が供給されており、各制動部材は、ホイールシリンダ18Bを介して供給される駆動力に応じた摩擦力を対象車輪に付与することによって、車両1を制動することが可能である。
【0061】
次に、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0062】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、機関出力軸SFTeg、ECT400、駆動軸500、入力軸600及び出力軸700を備える。
【0063】
エンジン200は、ハイブリッド車両1の一動力源として機能するように構成された、本発明に係る「内燃機関」の一例たるV型6気筒ガソリンエンジンである。エンジン200は、公知のガソリンエンジンであり、ここでは、その詳細な構成を割愛するが、エンジン200の出力動力たるエンジントルクTeは、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の機関入力軸SFTegに連結されている。尚、エンジン200は、本発明に係る内燃機関の採り得る実践的態様の一例に過ぎず、本発明に係る内燃機関の実践的態様としては、エンジン200に限らず、公知の各種エンジンを採用可能である。
【0064】
モータジェネレータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた電動発電機であり、本発明に係る「他の回転電機」の一例である。
【0065】
モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1よりも体格の大きい、本発明に係る「回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。
【0066】
尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、無論他の構成を有していてもよい。
【0067】
動力分割機構300は、本発明に係る「差動機構」の一例たる遊星歯車機構である。
【0068】
動力分割機構300は、中心部に設けられた、本発明に係る「回転要素」の一例たるサンギアSg0と、サンギアSg0の外周に同心円状に設けられた、本発明に係る「回転要素」の他の一例たるリングギアRg0と、サンギアSg0とリングギアRg0との間に配置されてサンギアSg0の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支する、本発明に係る「回転要素」の更に他の一例たるキャリアCr0とを備える。
【0069】
サンギアSg0は、モータジェネレータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転速度はMG1の回転速度たるMG1回転速度Nmg1と等価である。
【0070】
一方、リングギアRg0は、駆動軸500に連結されており、この駆動軸500は、モータジェネレータMG2のロータに、その回転軸を共有する形で連結されている。従って、MG2は、駆動軸500との間でトルクの入出力が可能である。尚、駆動軸500を介してトルクが入力された場合、モータジェネレータMG2は、負トルクたる回生トルクを出力することによって、その入力トルクを回収し、電力回生、即ち発電を行うことが可能である。
【0071】
また、この駆動軸500は、ECT400の動力入力軸たる入力軸600に接続されている。従って、モータジェネレータMG2から、その出力トルクたるMG2トルクTmg2が駆動軸500に対し供給された場合、この供給されたMG2トルクTmg2は、ハイブリッド駆動装置10の出力軸トルクToutの少なくとも一部として利用される。ハイブリッド車両1は、このMG2トルクTmg2のみによって所謂EV走行を行うことも、このMG2トルクTmg2をエンジントルクTeの不足分をアシストするアシストトルクとして利用して所謂HV走行を行うことも可能である。
【0072】
他方、キャリアCr0は、エンジン200のクランク軸に連結された機関入力軸SFTegと連結されている。キャリアCr0の回転速度は、エンジン200の機関回転速度NEと等価である。
【0073】
ECT400は、複数の油圧駆動式の摩擦係合装置(即ち、各々が本発明に係る「係合装置」の一例である)を備え、各係合装置の係合状態に応じて変速比γの異なる複数の変速段を構築可能に構成された、本発明に係る「変速装置」の一例たる電子制御式有段変速装置である。
【0074】
尚、変速比γとは、入力軸600の回転速度たる入力軸回転速度Ninと出力軸700の回転速度たる出力軸回転速度Noutとの比(γ=Nin/Nout)である。先に述べたように、入力軸600は、動力分割機構300の動力出力軸たる駆動軸500に接続されているから、入力軸回転速度Ninは、駆動軸500の回転速度、即ち、モータジェネレータMG2の回転速度たるMG2回転速度Nmg2g2と等価である。また、同様に入力軸600に作用するトルクである入力軸トルクTinは、駆動軸500に作用するトルクと等価である。
【0075】
ECT400は、二種類の差動機構を組み合わせて得られる複合型プラネタリギアユニットと、CL1、CL2及びCL3の各湿式多板型クラッチ機構と、ワンウェイクラッチF1と、BR1及びBR2の各湿式多板型ブレーキ機構とから構成されている。このうち、係合装置たる各湿式多板型クラッチ機構、ワンウェイクラッチF1及び各湿式多板型ブレーキ機構は、各々における係合要素同士が、不図示の油圧アクチュエータ(不図示)の作用により、締結状態と解放状態との間で係合状態が選択的に切り替えられる構成となっている。
【0076】
ここで、これら摩擦係合装置たるクラッチ機構及びブレーキ機構の係合力を規定する係合油圧を制御する油圧アクチュエータは、ECU100と電気的に接続されており、ECU100は、油圧アクチュエータの動作制御を介して、ECT400の変速段を自由に切り替えることができる構成となっている。ECT400による変速の詳細については後述する。
【0077】
ECT400において、入力軸600は、クラッチCL1、CL2及びCL3の夫々における一方の係合要素(即ち、クラッチ板である)に固定されている。
【0078】
一方、クラッチCL1の他方の係合要素(これもまたクラッチ板である)は、差動機構を構成する一方のプラネタリギアユニット(図右側のプラネタリギアユニットであり、これ以降、適宜「第2差動機構」と称する)の一回転要素であるサンギアSg2に連結されている。また、クラッチCL2の他方の係合要素は、差動機構を構成する他方のプラネタリギアユニット(図左側のプラネタリギアユニットであり、これ以降、適宜「第1差動機構」と称する)の一回転要素であるキャリアCr1に連結されている。更に、クラッチCL3の他方の係合要素は、第1差動機構の他の回転要素であるサンギアSg1と、ブレーキBR1の一方の係合要素とに連結されている。尚、ブレーキBR1の他方の係合要素は、固定要素である。
【0079】
ブレーキBR2は、一方の係合要素が、第2差動機構のリングギアRg2と第1差動機構のキャリアCr1とに連結されており、他方の係合要素が固定要素となっている。
【0080】
ワンウェイクラッチF1は、正回転方向の動力のみ伝達し、負回転方向の動力に対しては空転する一方向クラッチである。ワンウェイクラッチF1の一方の係合要素は、第1差動機構のキャリアCr1に連結されている。
【0081】
第1差動機構は、サンギアSg1と、サンギアSg1の外周に同心円状に設けられたリングギアRg1と、サンギアSg1とリングギアRg1との間に配置されてサンギアSg1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアCr1とを備えた、シングルピニオン型のプラネタリギアユニットである。
【0082】
第2差動機構は、サンギアSg2と、サンギアSg2の外周に同心円状に設けられたリングギアRg2と、サンギアSg2とリングギアRg2との間に配置されてサンギアSg2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアCr2とを備えた、シングルピニオン型のプラネタリギアユニットである。
【0083】
第1及び第2差動機構は、第1差動機構のキャリアCr1が第2差動機構のリングギアRg2に連結され、また第2差動機構のキャリアCr2が第2差動機構のリングギアRg1に連結されることによって、複合型プラネタリギアユニットを構成している。また第2差動機構のキャリアCr2は、ECT400の出力軸たる出力軸700に連結されている。
【0084】
このような構成において、ECT400は、各係合装置の係合状態を切り替えることにより、変速段として変速比γ1(γ1≒3.2)の1速段、変速比γ2(γ2≒1.7程度)の2速段、変速比γ3(γ3≒1.0程度)の3速段及び変速比γ4(γ4≒0.67程度)の4速段(即ち、オーバードライブ段である)の合計四種類の前進用変速段を構築することが可能である。
【0085】
尚、ECT400には動作モードが各種設定されており、不図示のシフトレバーを介して運転者により一の動作モードが選択される構成となっている。ここで、動作モードには、「P」、「R」、「N」、「D」、「3」、「2」及び「1」の各シフトレンジ(シフト位置)が対応しており、例えば、Dレンジが選択されている場合、ECU100は、上記4種類の変速段のうちその時点のハイブリッド車両1の運転条件に最適な一の変速段を選択し、適宜変速段を切り替えつつハイブリッド車両1を走行させる構成となっている。尚、各シフトレンジに対応するECT400の動作モードについては、公知であり、説明の煩雑化を防ぐ目的から、ここでは、その詳細については触れないこととする。
【0086】
ここで、図3を参照し、ECT400の各係合装置の係合状態と構築される変速段との関係について説明する。ここに、図3は、ECT400における係合装置の係合状態と変速段との関係を例示する表である。
【0087】
図3において、「○」は締結状態を、無印は解放状態を意味し、「◎」は、電気的無段変速状態を作り出す際には解放状態、固定段走行を行う場合には締結状態を採ることを意味する。
【0088】
図3において、前進用変速段についてのみ簡略的に説明すると、クラッチCL1は低速用クラッチ、クラッチCL2が高速用のクラッチとなっている。クラッチCL1が締結状態を採り、クラッチCL2が解放状態を採ると、変速段は相対的に変速比の大きい低速用変速段たる1速段又は2速段となる。この際、ブレーキBR1を解放状態とすれば1速段、締結状態とすれば2速段となる。
【0089】
一方、クラッチCL1を解放状態とし、クラッチCL2を締結状態とすると共にブレーキBR2を締結状態とすると、変速段は相対的に変速比の小さい高速用の4速段となる。
【0090】
また、クラッチCL1及びクラッチCL2を両方締結状態とすると、第1差動機構のキャリアCr1に連結された第2差動機構のリングギアRg2の回転速度と、第2差動機構のサンギアSg2の回転速度とが、共に入力軸回転速度Ninで等しくなる。第1及び第2差動機構は、各々を構成する回転要素のうち2要素の回転速度が定まれた残余の回転速度が決定される回転二自由度の差動機構であるから、リングギアRg2の回転速度とサンギアSg2の回転速度とが一致すると、必然的にキャリアCr2の回転速度もこれらと一致する。その結果、キャリアCr2の回転速度と等価な出力軸回転速度Noutが、入力軸回転速度Ninと等しくなり、変速比γ3(≒1)の三速段が構築される。
【0091】
尚、ECT400を構成する各回転要素のギア比は、得ようとする変速段の変速比に応じて適宜変更される性質のものであり、本発明の本質部分から外れるため、本実施形態においては、その詳細な値については触れないこととする。但し、各変速段の変速比については、上述の如くに例示されており、図2の構成において、各変速段の変速比を実現するための各回転要素のギア比は、自ずと明らかであろう。
【0092】
図2に戻り、ハイブリッド駆動装置10は、レゾルバRV1、RV2及びRV3を備える。
【0093】
レゾルバRV1は、MG1の回転速度たるMG1回転速度Nmg1を検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV1は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたMG1回転速度Nmg1は、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0094】
レゾルバRV2は、MG2の回転速度たるMG2回転速度Nmg2g2を検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV2は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたMG2回転速度Nmg2g2は、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。尚、MG2回転速度Nmg2g2は、既に述べたように、ECT400の入力軸回転速度Ninと等価である。
【0095】
レゾルバRV3は、出力軸700の回転速度たる出力軸回転速度Noutを検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV3は、ECU100と電気的に接続されており、検出された出力軸回転速度Noutは、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
<実施形態の動作>
<動力分割機構300による無段変速機能>
動力分割機構300は、上述した構成の下で、エンジン200から機関出力軸SFTegに供給されるエンジントルクTeを、キャリアCr0によってサンギアSg0及びリングギアRg0に所定の比率(各ギア相互間のギア比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。この際、動力分割機構300の動作を分かり易くするため、リングギアRg0の歯数に対するサンギアSg0の歯数としてのギア比ρを定義すると、エンジン200からキャリアCr0に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギアSg0に作用するトルクTesは下記(1)式により、また駆動軸500に現れるエンジン直達トルクTerは下記(2)式により、夫々表される。
【0096】
Tes=−Te×ρ/(1+ρ)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+ρ)・・・(2)
ここで、図4を参照し、動力分割機構300による電気的無段変速機能について説明する。ここに、図4は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0097】
図4において、縦軸は回転速度を表しており、横軸には、左から順にモータジェネレータMG1(一義的にサンギアSg0)、エンジン200(一義的にキャリアCr0)及びモータジェネレータMG2(一義的にリングギアRg0)が表されている。
【0098】
ここで、先に述べたECT400の各差動機構と同様、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素により構成された回転二自由度のプラネタリギアユニットであり、サンギアSg0、キャリアCr0及びリングギアRg0のうち二要素の回転速度が定まった場合に、残余の一回転要素の回転速度が必然的に定まる構成となっている。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表すことができる。
【0099】
図4において、駆動軸500及び入力軸600と一義的な回転関係にあるモータジェネレータMG2の動作点が、図示動作点m1であるとする。この場合、モータジェネレータMG1の動作点が図示動作点m2であれば、残余の一回転要素たるキャリアCr0に連結されたエンジン200の動作点は、動作点m3となる。ここで、例えば、分かり易く駆動軸500の回転速度たる入力軸回転速度Ninが維持された状態でモータジェネレータMG1の動作点を図示動作点m4及び図示動作点m5に変化させれば、エンジン200の動作点は、夫々図示動作点m6及び図示動作点m7へと変化する。
【0100】
即ち、この場合、モータジェネレータMG1を回転速度制御機構として機能させることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させることが可能となる。このように、動力分割機構300は、ハイブリッド駆動装置10において電気的無段変速機能を実現する部分となっており、本発明に係る「差動機構」の一例を構成している。
【0101】
尚、このような電気的無段変速機能の下では、エンジン200の動作点(この場合の動作点とは、機関回転速度NEとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン200の一動作条件を意味する)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となる最適燃費動作点に制御される。
【0102】
<ECT400による変速>
次に、図5を参照し、ECT400による有段変速機能について説明する。ここに、図5は、ハイブリッド駆動装置10の他の動作状態を例示する動作共線図である。尚、同図において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0103】
図5において、左側は図2に例示した動力分割機構300の動作に係る動作共線図であり、右側はECT400の動作に係る動作共線図である。
【0104】
図5において、動力分割機構300の動作状態が、MG1回転速度Nmg1=0且つMG2回転速度Nmg2g2=Aに対応する一動作共線L_PG1によって表される状況であるとする。ECT400の変速作用によれば、この動力分割機構300の一動作状態に対し、変速段の数だけ異なる動作共線を描くことができる。
【0105】
例えば、変速段として1速段が選択されている場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、1速段においては、ワンウェイクラッチF1の作用によってキャリアCr1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、1速段における動作共線は、図示L_ECT1となる。既に述べたように、1速段の変速比γ1は1より大きいから、1速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも低くなる。
【0106】
また、変速段として2速段が選択された場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、2速段においては、ブレーキBR1の作用によってサンギアSg1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、2速段における動作共線は、図示L_ECT2となる。既に述べたように、2速段の変速比γ2は1より大きくγ1より小さいから、2速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも低くなり、且つ1速段選択時の回転速度よりも高くなる。
【0107】
また、変速段として3速段が選択された場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、3速段においては、クラッチCL2の作用によってキャリアCr1(即ち、リングギアRg2)もまたリングギアRg0と固定される。従って、3速段における動作共線は、図示L_ECT3となる。即ち、入力軸回転速度Ninは出力回転速度Nouと等しくなり、既に述べたように変速比γ3=1の3速段が構築されるのである。
【0108】
更に、変速段として4速段が選択された場合、クラッチCL2の作用によってキャリアCr1(即ち、リングギアRg2)とリングギアRg0とが固定されるため、リングギアRg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、4速段においては、ブレーキBR1の作用によってサンギアSg1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、4速段における動作共線は、図示L_ECT4となる。既に述べたように、4速段の変速比γ4は1より小さいから、4速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも高くなり、所謂オーバードライブ状態が実現される。
【0109】
動力分割機構300の電気的な伝達効率ηeは、MG1回転速度Nmg1=0である場合に最大となる。従って、動力分割機構300は、理想的には、Nmg1=0の状態で駆動されるのが望ましい。ここで、ECT400の作用によれば、上述のように、動力分割機構300の一動作状態に対して、出力軸回転速度Noutを4段階に変化させることができる。従って、ECT400によれば、電気的な伝達効率ηeを最大とし得る動作点でエンジン200を動作させる機会を増やすことが可能となり、ハイブリッド駆動装置10全体としてのシステム伝達効率ηsysを良好に維持することができる。尚、実践的運用面においては、システム伝達効率ηsysは、電気的な伝達効率ηeと機械的伝達効率ηtとの積に相当し、ECT400のように、複数の係合要素を備える構成においては、これらによる機械的伝達効率の低下が、電気的伝達効率の増加によるシステム伝達効率の向上を妨げ得る。従って、ECT400による効果は、比較的大容量のエンジンを動力源として備えるハイブリッド駆動装置において顕著に奏される。
【0110】
<ドライバビリティ補償制御の詳細>
ハイブリッド車両1では、コースト回生変速中におけるドライバビリティの低下を抑制するために、ECU100によりドライバビリティ補償制御が実行される。ここで、図6を参照し、ドライバビリティ補償制御の詳細について説明する。ここに、図6は、ドライバビリティ補償制御のフローチャートである。
【0111】
図6において、ECU100は、ハイブリッド車両1がコースト回生中であるか否かを判別する(ステップS101)。
【0112】
ここで、「コースト回生」とは、コーストダウン(即ち、惰性減速)走行中になされる電力回生を意味する。ハイブリッド車両1においては、コーストダウン走行中に、モータジェネレータMG2による電力回生が行われる。即ち、モータジェネレータMG2から、MG2トルクTmg2として負トルクたる回生トルクが出力され、車軸、出力軸700、入力軸600及び駆動軸500を介して入力される駆動輪の運動エネルギの一部を電力として回生する発電が行われる。この回生トルクは、その大小がハイブリッド車両1の減速度の大小に夫々対応する一種の制動力であり、コーストダウン走行中においては、この電力回生による所謂回生制動が実現される。コースト回生とは、この回生制動と意味合い的には等価である。
【0113】
ここで特に、上述したように回生トルクは一種の制動力として機能するから、ブレーキペダルの踏下量Tbが予め設定された基準値よりも大きいブレーキオン時において、回生トルクは、ドライバの制動意思を反映するブレーキペダル踏下量Tbの大小に応じて夫々連続的に又は段階的に大小に制御され、ドライバに違和感を与えない回生制動が実現される構成となっている。
【0114】
尚、本実施形態において、踏下量Tbに係る「基準値」は、ゼロ又はゼロ近傍の不感帯領域(減速要求とみなされない領域であり、ドライバの感覚としては、ブレーキペダルから足を離しているのと変わらない領域)を規定する値に設定されている。他方で、ブレーキペダルの踏下量Tbが上記基準値以下であるブレーキオフ時において、回生トルクは、ドライバに積極的な制動意思が無いことを勘案して、エンジンブレーキ相当の比較的小さい制動力に対応する値に設定される。
【0115】
尚、MG2の回生トルクによる回生制動と、制動装置18による油圧制動とは、相互に協調制御されてもよい。例えば、コースト回生期間において車両1の要求制動力の一部が油圧制動により与えられてもよい。或いは、例えば車速や要求制動力相当値(例えば、ブレーキペダル踏下量Tb)に応じて、回生制動と油圧制動とが二値的に切り替えられてもよい。
【0116】
ステップS101において、ECU100は、ハイブリッド車両1の車速Vhが基準値より高く(基準値がゼロであれば、即ち、車両が走行中であるか否かの判別と等価である)、且つアクセル開度センサ13により検出されるアクセル開度Taが基準値以下である場合に、コースト回生中であると判別する。尚、アクセル開度Taに係る「基準値」とは、ゼロ又はゼロ近傍の不感帯領域(駆動要求とみなされない領域であり、ドライバの感覚としては、アクセルペダルから足を離しているのと変わらない領域)を規定する値に設定されている。但し、コースト回生中であるか否かに係る判別要件は、ここに例示されたものに限定されない。ハイブリッド車両1がコースト回生中でない場合(ステップS101:NO)、ECU100は、ステップS101を繰り返し実行する。即ち、処理は実質的に待機状態に制御される。
【0117】
ハイブリッド車両1がコースト回生中である場合(ステップS101:YES)、ECU100は、ECT400がダウンシフト中であるか否かを判別する(ステップS102)。
【0118】
ECT400における変速は、変速比が小さくなる側の変速たるアップシフトも、変速比が大きくなる側の変速たるダウンシフトも、予め設定された変速マップに基づいて実行される。ここで、図7を参照し、ECT400の変速条件について説明する。ここに、図7は、ECT400の変速条件を規定する変速マップの模式図である。
【0119】
図7において、縦軸及び横軸には、夫々出力軸トルクTout及び車速Vhが表されている。係るマップ中において、ECT400の変速条件は、図示する21ダウン変速線L_21、12アップ変速線L_12、32ダウン変速線L_32、23アップ変速線L_23、43ダウン変速線L_43及び34アップ変速線L_34によって規定される。より具体的には、その時点のハイブリッド車両1の運転条件が、アップシフトについては各アップ変速線を跨ぐ際に、ダウンシフトについては各ダウンシフト変速線を跨ぐ際に、各変速線によって規定される変速が実現される。
【0120】
例えば、ハイブリッド車両1の運転条件が、32ダウン変速線の右側の運転領域から32ダウン変速線を跨ぐ場合、ECU100は、ECT400を制御して、3速段から2速段への変速(ダウンシフト)を実行する。或いは、例えば、ハイブリッド車両1の運転条件が、12アップ変速線の左側の運転領域から12アップ変速線を跨ぐ場合、ECU100は、ECT400を制御して、1速段から2速段への変速(アップシフト)を実行する。ECU100のROMには、予め図7に例示される変速マップを数値的に規定してなる変速マップが格納されており、ECU100は、ドライバビリティ補償制御と並列的に別途実行される変速制御において、必要に応じて適宜変速を実行する構成となっている。
【0121】
図6に戻り、ECT400がダウンシフト中でない場合(ステップS102:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻し、一連の処理を繰り返す。
【0122】
一方、ECT400がダウンシフト中である場合(ステップS102:YES)、ECU100は、ブレーキオン操作が生じたか否かを判別する(ステップS103)。この際、ECU100は、ブレーキペダルセンサ15により検出されるブレーキペダル踏下量Tbが上述の基準値以下の領域から当該基準値より大きい領域まで上昇した場合、即ち、ブレーキペダルの踏下状態が、ブレーキオフ状態からブレーキオン状態に切り替わった場合に、ブレーキオン操作が生じたと判別する。尚、ステップS102における「YES」側への分岐時点から変速完了時点までの時間領域は、本発明に係る「コースト回生変速期間」の一例であり、これ以降適宜、「コースト回生変速期間」なる文言を用いてこの期間を表すこととする。
【0123】
ブレーキオン操作が生じていない場合(ステップS103:NO)、即ち、ハイブリッド車両1が、ブレーキペダル踏下量Tbが基準値以下である状態としてのブレーキオフ状態、又はブレーキペダル踏下量Tbが基準値よりも大きい状態としてのブレーキオン状態を維持している状況下でダウンシフトがなされている場合、ECU100は、ダウンシフトが完了したか否かを判別する(ステップS104)。
【0124】
ダウンシフトが完了したか否かは、ECT400の入力軸回転速度Nin(即ち、MG2回転速度Nmg2)に基づいて判別される。即ち、入力軸回転速度Ninが、変速前の変速段に対応する同期回転速度から変速後の変速段に対応する同期回転速度に到達した場合に、ダウンシフトが完了したものと判別される。尚、変速後の変速段に対応する同期回転速度は、変速後の変速段に係る変速比γと、ECT400の出力軸回転速度Noutとに基づいて算出可能である。ダウンシフトが完了していない場合(ステップS104:NO)、ECU100は、処理をステップS103に戻し、ブレーキオン操作が生じたか否かの判別を繰り返す。即ち、コースト回生変速期間中は、一定の周期でブレーキオン操作の発生の有無が判別される。
【0125】
コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じないまま、即ち、ハイブリッド車両1の状態が、ブレーキオフ状態又はブレーキオン状態を維持したままダウンシフトが完了した場合(ステップS104:YES)、処理はステップS101に戻され、一連の処理が繰り返される。
【0126】
一方、コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合(ステップS103:YES)、ECU100は、MG2の回生トルクの増加を抑制する(ステップS105)
先に述べたように、ブレーキオン時とブレーキオフ時とでは、モータジェネレータMG2の回生トルクは異なり、他の条件が同じであれば、前者の方が回生トルクは大きく(正負の符合まで勘案した絶対的トルク値で言えば小さく)なる。従って、ブレーキオン操作が生じた場合、回生トルクは、ブレーキペダル踏下量Tbに応じた制動力に相当する回生トルクを目標値として増加制御される。ECU100は、ステップS105において、この目標値へ向けた回生トルクの増加を、コースト回生期間において抑制する。本実施形態では特に、ECU100は、回生トルクを、ブレーキオン操作が生じないと仮定した場合の値であるブレーキオフ相当値に維持する。尚、変速に伴ってMG2回転速度Nmg2が上昇するため、ブレーキオフ相当値に維持するとは言っても、回生トルクは変速開始前に対し減少する。
【0127】
尚、ステップS105に係る動作は、回生トルクの増加を抑制する旨の本発明に係る「回生制御手段」の動作の一例であるが、回生制御手段の採り得る実践的動作態様は、ステップS105のものに限定されない。例えば、ECU100は、回生トルクの増加率(時間変化量)を、本来の目標値へ向けた回生トルクの増加率に対し低く(傾きが小さくなることを意味する)設定することによって回生トルクの増加を抑制してもよい。
【0128】
回生トルクの増加抑制措置が講じられると、ECU100は、回生トルクの増加抑制分に相当する制動力或いは減速度の不足を、制動装置18からの油圧制動力によって補償する(ステップS106)。この際、ECU100は、抑制措置が講じられた回生トルクの時間推移と、抑制措置が講じられない場合の回生トルクの時間推移の予測値とを比較し、回生トルク値の抑制量を算出する。抑制量が算出されると、予めROMに格納された、当該抑制量と制動装置18の制御量(例えば、ホイールシリンダ18Bへの供給油圧)とを対応付けた制御マップを参照し、ECBアクチュエータ18Aを介して油圧制動力を制御する。即ち、ステップS106に係る動作は、本発明に係る「制動制御手段」の動作の一例である。尚、ハイブリッド車両1が、車両運行制御上許容される減速状態を保ち得る限りにおいて、ステップS106においては、必ずしも不足する制動力或いは減速度と制動装置18から供給される油圧制動力とが一対一に対応しておらずともよい。
【0129】
油圧制動による制動力補償を実行すると、ECU100は、ハイブリッド車両1の減速度が基準値以上であるか否かを判別する(ステップS107)。ハイブリッド車両1の減速度は、予め車速Vh、回生トルク値及びホイールシリンダ18Bの供給油圧値等に対応付けられてマップ化されROMに格納されており、ECU100は、当該マップを参照してハイブリッド車両1の減速度を推定する。尚、ここでは、ハイブリッド車両1の実際の減速度を推定するとしたが、ステップS107において参照される値は、ドライバの減速要求の度合いに対応するブレーキペダル踏下量Tbであってもよい。車両の減速度が基準値未満である場合(ステップS108:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻し一連の処理を繰り返す。
【0130】
一方、ハイブリッド車両1の減速度が基準値以上である場合(ステップS107:YES)、ECU100は、ECT400において、変速前後で解放状態から締結状態へと状態が切り替わる係合装置(例えば、3速段から2速段へのダウンシフトであれば、ブレーキBR1)の係合油圧を低減する(ステップS108)。係合油圧を低減すると、処理はステップS101に戻され、一連の処理が繰り返される。ドライバビリティ補償制御は、以上のように実行される。
【0131】
<ドライバビリティ補償制御の効果>
次に、図8及び図9を参照し、ドライバビリティ補償制御の効果について説明する。ここに、図8は、ドライバビリティ補償制御における回生トルク抑制措置(ステップS105に相当する措置)が講じられない場合の、ECT400各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。また、図9は、同様に回生トルク抑制措置が講じられた場合の、ECT400の各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。尚、これらの図において相互に重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。また、図8及び図9は、夫々3速段から2速段への変速がなされる場合を示したものである。
【0132】
図8において、縦軸は、上段から順に、ECT400の入力軸回転速度Nin、ECT400の入力軸トルクTin(即ち、MG2トルクTmg2)、出力軸トルクTout、ブレーキフラグF_brk及びECT400における上述の変速前係合装置及び変速後係合装置の各係合油圧Pectが表されており、横軸は時刻で統一されている。尚、ブレーキフラグF_brkは、ブレーキペダルの踏下量Tbが上記基準値よりも大きい場合(即ち、ブレーキオン時)に「1」に、上記基準値以下である場合(即ち、ブレーキオフ時)に「0」に設定されるフラグであり、ECU100がブレーキペダルセンサ15のセンサ出力に基づいて設定するフラグである。即ち、図6のステップS103が「YES」側に分岐する場合とは、このブレーキフラグF_brkが「0」から「1」に変化する場合を意味する。
【0133】
また、図中実線で示される時間推移のうち、PRF_cmp2、PRF_cmp4及びPRF_cmp6は、本実施形態との比較に供されるべき比較例としての、回生トルク抑制措置が講じられない場合の時間推移であり、図中破線で示される時間推移(図示PRF_cmp1、PRF_cmp3及びPRF_cmp5)は、コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じない場合の時間推移である。
【0134】
先ず、ブレーキオン操作が生じない通常のコースト回生変速について説明する。
【0135】
図8において、時刻T1にECT400の変速(ダウンシフト)条件が満たされたとする。この場合、ECU100は、時刻T1において、変速前係合装置の係合油圧を、締結状態維持用の油圧P0から解放状態維持用のゼロ油圧まで図示鎖線の如くに低下させ、且つ変速後係合装置の係合油圧を解放状態維持用のゼロ油圧から締結状態維持用の油圧P0まで図示破線(PRF_cmp5)の如くに増加させる。入力軸回転速度Ninが変速後の変速段たる2速段に対応する2速同期回転速度N2まで上昇し、変速が終了した時刻T5の時点において、ブレーキBR1の係合油圧はP0に到達する。
【0136】
尚、変速後係合装置とは、ECT400を構成する係合装置のうち、変速前の変速段において解放状態にあり且つ変速後の変速段において締結状態を採る係合装置であり、本実施形態では、ブレーキBR1を意味する。また、変速前係合装置とは、変速前の変速段において締結状態にあり且つ変速後の変速段において解放状態を採る係合装置であり、本実施形態では、クラッチCL2を意味する。
【0137】
変速条件が満たされたことに伴い、これら変速に関連する係合装置の各々に対する係合油圧の制御が開始されると、変速期間の一過程としてのトルク相が開始される。トルク相とは、変速後係合装置(ここでは、ブレーキBR1)の係合油圧Pectを上昇させることによって、MG2を含むECT400の入力慣性系の回転上昇を促すトルクの移譲がなされる期間を意味する。
【0138】
トルク相において、入力慣性系の回転速度を引き上げるためのトルク移譲が完了した時点たる時刻T2において、この変速後係合装置の係合トルクによって当該入力慣性系の回転速度が実際に上昇するイナーシャ相が開始される。イナーシャ相においては、入力軸回転速度Ninが3速同期回転速度N3から2速同期回転速度N2へ上昇することに伴って、回生トルクが減少する(入力軸トルクTinが上昇することを意味する)。また、このイナーシャ相において、入力軸回転速度Ninが2速同期回転速度N2に対し所定の割合にまで達した時刻T4において、ECU100は、変速終期である旨の判定を行い、イナーシャ相は、当該変速終期判定後の時刻T5において終了する。本実施形態では、イナーシャ相の終了を変速の終了と等価に扱うこととする。
【0139】
ここで、コースト回生変速期間(即ち、この場合、時刻T1から時刻T5に至る期間)においてブレーキオン操作が生じない場合、入力軸トルクTinの時間推移は、図示PRF_cmp1(破線参照)のようになる。即ち、入力軸トルクTinは、イナーシャ相において、図示Tr0からTr1まで上昇する。即ち、回生トルクが減少する。
【0140】
また、このブレーキオン操作が生じない場合の入力軸トルクTinの時間推移に対応する出力軸トルクToutの時間推移は、図示PRF_cmp3(破線参照)として示される。即ち、この場合、出力軸トルクToutは、イナーシャ相において入力慣性系の回転上昇に出力軸トルクの一部が消費されることにより一時的に低下するが、出力軸700のトルク変動は生じない。
【0141】
次に、比較例(回生トルク抑制措置が講じられない場合)について説明する。
【0142】
コースト回生変速期間において(ここでは、イナーシャ相開始時点(時刻T2)以後の時刻T3とする)、ブレーキオン操作が生じたとする。この場合、回生トルク抑制措置が講じられない比較例においては、図示PRF_cmp2(実線参照)に示されるように、MG2の回生トルクが増加する(MG2トルクTmg2が減少する)。これは、ドライバの制動意思を反映した回生制動力の制御としては合理的である。即ち、変速終了後の回生トルクを見れば、ブレーキオフ時の値(Tr1)に対しブレーキオン時の値は十分に大きい。回生トルクの大小は、即ち制動力の大小であり、ブレーキオフ時とブレーキオン時とで制動力が切り替わること自体については、車両運行制御上極めて合理的なのである。
【0143】
一方、回生トルクの増加は、入力慣性系のイナーシャの増加を招く。このため、変速後係合装置の係合油圧Pectに対し何らの対策も講じられない場合(即ち、ブレーキオフ時(図示PRF_cmp5)と同等の制御がなされる場合)、変速後係合装置の係合トルクが不足して、イナーシャ相における入力慣性系の回転上昇が緩慢となる。その結果、変速時間が長大化する。このような変速時間の長大化は、無論ドライバビリティを低下させるのみならず、係合装置の磨耗を促進する可能性がある。このような事態を回避する目的から、通常、ブレーキオン時においては、変速後係合装置における係合油圧Pectが増圧補正される。その様子が、図示PRF_cmp6(破線)として表される。
【0144】
ところが、このように、変速期間が終了する以前に回生トルクの増加と係合油圧の増加とが共に生じ且つこれらが相互に干渉すると、出力軸トルクToutの時間推移は、図示PRF_cmp4(実線参照)のように、変速終了直後の相応の期間にわたって乱高下する。このようなトルク変動(所謂「係合ショック」である)は、ドライバビリティの低下としてドライバに知覚されてしまう。本実施形態に係るドライバビリティ補償制御では、この種のドライバビリティの低下が好適に抑制されるのである。
【0145】
ここで、図9を参照し、本実施形態に係る各部の時間推移について説明する。尚、図中実線で示される時間推移のうち、図示PRF_Tin、PRF_Tout及びPRF_Pectは、本実施形態に係る回生トルク抑制措置が講じられた場合の時間推移であり、図中破線で示される時間推移(図示PRF_cmp2、PRF_cmp4及びPRF_cmp6)は、図8と同様に、回生トルク抑制措置が講じられない場合の時間推移である。
【0146】
本実施形態においては、時刻T3において生じたブレーキオン操作に対して、先に述べたステップS105により、コースト回生変速期間において、回生トルクがブレーキオフ相当値(即ち、図8におけるPRF_cmp1に相当する値)に維持される。即ち、入力軸トルクTinは、あたかもブレーキオン操作が生じていないかの如く推移し、変速終了時点たるT5(尚、必ずしも変速終了時点である必要はない)まで上昇し続ける。
【0147】
一方、入力軸トルクTinが比較例の如くに低下(回生トルクが上昇)しないため、本実施形態においては、入力慣性系のイナーシャは増加しない。従って、比較例の如き、ECT400の変速後係合装置に対する係合油圧の増圧補正も不要となる。その結果、当該係合油圧の時間推移は、図示PRF_Pectに示される如く、ブレーキオフ時の時間推移(図8におけるPRF_cmp5)と同等となる。
【0148】
このように回生トルクの抑制とそれに伴う係合油圧の増圧回避がなされることによって、ブレーキオン以降のコースト回生変速期間(即ち、時刻T3から時刻T5に至る期間)における出力軸トルクToutの時間推移は、図示PRF_Toutのようになる。即ち、この期間については、出力軸トルクToutの時間推移は、図8に示したブレーキオフ時の時間推移(PRF_cmp3)と同等となる。このように、本実施形態においては、ブレーキオン操作に対し、回生トルクの増加が抑制される(ここでは、特に回生トルクが低減される)ため、変速期間が終了する以前における、回生トルクの増加と係合トルクの増加との干渉が生じずに済み、出力軸トルクToutが変速終了前後において変動する事態が防止される。その結果、コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合のドライバビリティの低下が好適に抑制されるのである。
【0149】
尚、本実施形態では、変速終了時点以降、回生トルクの抑制が解除され、ECU100が回生トルクを本来の目標値へ向けて増大させる(PRF_Tin参照)。変速終了時点以降であれば、ECT400における係合装置の切り替えも終了しているため、回生トルクが増加したところで、出力軸700にドライバビリティを低下させるトルク変動が生じることはない。一方で、このように回生トルクを増加させれば、回生トルクが抑制されることによる回生電力不足が解消され、バッテリ12のSOCの低下を好適に抑制することが可能となる。
【0150】
また、回生トルクを抑制すれば、車両の制動力は、本来生じるべき制動力に対し小さくなる。このため、場合によっては、車両の減速度が不足することがある。そのため、図9における時刻T3から時刻T5に至る、回生トルク抑制措置が講じられる期間においては、図6のステップS106に示したように、油圧制動力による制動力補償がなされる。本実施形態においては特に、制動装置18によって補償される制動力が、図示PRF_Tinに準拠した回生トルクと図示PRF_cmp2に準拠した回生トルクとの偏差(任意の時刻における両者の偏差)に応じたものとされる。そのため、回生トルク抑制措置が講じられる期間において、制動力又は減速度が不足するといった事態の発生が好適に防止される。
【0151】
ところで、コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合のハイブリッド車両1の減速度は多様である。ところが、車両の減速度を何ら勘案することなくECT400の係合油圧を制御すると、例えば、減速度が基準値以上となる等、比較的減速度が大きい場合において、係合ショックが顕在化しかねない。そこで、ECU100は、ハイブリッド車両1の減速度の大小に応じて、変速後係合装置の係合油圧Pectを、夫々、基準となる値(即ち、図示PRF_Pect)未満の値と当該基準となる値との間で二値的に切り替える。従って、車両の減速度に応じて生じかねない係合ショックが好適に抑制される。即ち、ECU100は、本発明に係る「変速制御手段」の一例としても機能する。
【0152】
尚、ここでは係合油圧Pectが二値的に切り替わるとしたが、ECU100は、減速度に応じて多段階に或いは連続的に、係合油圧を制御してもよい。また、係合油圧Pectの低減の度合いは、好適には、変速時間の長大化がドライバビリティの低下として顕在化しない範囲で決定される。
【0153】
また、本実施形態においては、バッテリ12の充電制限の有無とは無関係に回生トルク抑制措置が講じられる。然るに、バッテリ12が充電制限状態にあれば、コースト回生期間における回生トルク値が小さく、またブレーキオン時における回生トルクも小さい。従って、ブレーキオン時において回生トルク抑制措置を講じずとも、出力軸700のトルク変動を抑制することが可能な場合がある。その点に鑑みれば、ECU100は、図6のステップS103が「YES」側に分岐した後、更に、バッテリが充電制限状態にあるか否かの判別を行い、バッテリが充電制限状態にない場合に限って回生トルク抑制措置を講じてもよい。
【0154】
尚、「充電制限状態」について補足すると、バッテリ12は、充電可能な蓄電池であるが、単位時間当たりに入出力可能な電力には予め制限値(即ち、入力側については充電制限値Winであり、出力側については、放電制限値Woutである)が存在する。充電制限状態とは、入力側に制限が設けられた状態を意味する。無論、バッテリ12は、通常の状態においても、その充放電に一定の制限が与えられるが、充電制限状態とは、通常時の充電制限値Winに対し制限が与えられた状態を意味する。即ち、端的には、充電制限値Winが基準値よりも小さい場合に相当する。このような充電制限は、例えば、バッテリ12のSOCが公知のSOCフィードバック制御の上限値(例えば、満充電を100%として80〜90%程度)近傍である場合等に生じ得る。バッテリ12のSOCが良好であれば、元より電力回生の必要は生じないのである。
<第2実施形態>
ハイブリッド駆動装置の構成は、第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置10のものに限定されない。ここで、図10を参照し、本発明の第2実施形態に係るハイブリッド駆動装置20の構成について説明する。ここに、図10は、ハイブリッド駆動装置20の構成を概念的に例示してなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0155】
図10において、ハイブリッド駆動装置20は、駆動軸500と入力軸600とがクラッチ900によって選択的に係合又は解放状態に制御される構成となっている。また、モータジェネレータMG2と入力軸600との間には、MG2回転速度Nmg2を二段階に減速することが可能なMG2リダクション機構800が介装されている。
【0156】
MG2リダクション機構800は、湿式多板係合装置としてのブレーキ機構801及び802と、これらブレーキ機構に夫々連結された回転要素を含む差動機構803から構成される。MG2リダクション機構800は、ブレーキ機構としてブレーキ機構801が選択された場合とブレーキ機構802が選択された場合とで、MG2回転速度Nmg2の減速比が異なる構成を有しており、ECT400による変速に加え、MG2をその時点でより効率的な動作領域で動作させることが可能となっている。このような構成においても無論、上述の変速制御を適用することが可能である。
【0157】
また、クラッチ900が解放側に制御された状態においては、ハイブリッド駆動装置20の動力源はMG2のみとなる。この状態は、所謂電気自動車と同等である。即ち、本発明が適用対象とする車両は、ハイブリッド車両に限定されず、モータのみを動力源とする電気自動車も含まれる。
<第3実施形態>
ハイブリッド駆動装置の構成は、第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置10のものに限定されない。ここで、図11を参照し、本発明の第3実施形態にハイブリッド駆動装置30の構成について説明する。ここに、図11は、ハイブリッド駆動装置30の構成を概念的に例示してなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0158】
図11において、ハイブリッド駆動装置30は、無段変速部1000と有段変速部1100を有する。無段変速部1000は、ハイブリッド駆動装置10における動力分割機構300と概念的には同等のプラネタリギアユニットと、MG2回転速度Nmg2を減速する減速ギアとからなり、動力分割機構300と同様に回転二自由度の差動機構として機能する。
【0159】
一方、有段変速部1100は、クラッチC1、C2、C3及びC4と二組の差動機構からなり、これらの係合状態に応じて複数の変速段を実現する構成となっている。
【0160】
ここで、ハイブリッド駆動装置30によれば、この有段変速部1100の機能により、駆動要素と反力要素とを切り替えることが可能である。例えば、クラッチC1を締結状態とし、クラッチC2を解放状態とすれば、変速装置の入力軸は、図示入力軸600aとなり、上記実施形態と同様に、MG2が駆動要素(出力軸700との間でトルクの入出力を行う要素)となり、MG1が反力要素となる。その逆に、クラッチC2を締結状態とし、クラッチC1を解放状態とすれば、変速装置の入力軸は、図示入力軸600bとなり、上記実施形態とは異なり、MG1が駆動要素(この場合、MG1が本発明に係る「回転電機」として機能する)となり、MG2が反力要素となる。このように、変速部の係合状態によって、駆動要素と反力要素とを選択的に切り替えつつ走行可能なハイブリッド車両に対しても本発明は適用可能である。
【0161】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は、力行及び回生が可能な回転電機と車軸との間に有段の変速装置を備えた車両に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0163】
1…ハイブリッド車両、10…ハイブリッド駆動装置、100…ECU、200…エンジン、300…動力分割機構、400…変速装置、500…駆動軸、600…入力軸、700…出力軸。
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として機能し得る回転電機と車軸との間に変速装置を備えた車両を制御する車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、コーストダウン変速時における出力軸トルクの変動を抑制するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された車両用駆動装置の制御装置によれば、コーストダウン変速時におけるイナーシャ相において、モータの回生トルクを低減させることにより出力軸トルクの変動が抑制可能であるとされている。
【0003】
尚、コーストダウン変速におけるイナーシャ相中に回生ブレーキ要求がある場合、変速部の係合側要素のトルク容量のスイープ率を上昇させる装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、コーストダウン変速中に運転者の減速意図を判定した場合、コーストダウン変速を進行させないようにする装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−207690号公報
【特許文献2】特開2009−061988号公報
【特許文献3】特開2007−278445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクセルペダルの全閉操作或いはそれに類する操作を伴う惰性減速がなされるコースト減速期間においては、回転電機の回生トルクによる電力回生、所謂コースト回生が実行され得る。このコースト回生は、ドライバの制動操作(端的には、ブレーキペダルの操作)の有無によらず実行され得るが、当該制動操作を、ドライバの積極的な制動意思を反映したものとして扱えば、当該制動操作が有る場合としてのブレーキオン時と、当該制動操作が無い場合としてのブレーキオフ時とでは、回転電機の回生トルクが異なるのが一般的である。
【0007】
より具体的には、ブレーキオン時の回生トルクは、ブレーキオフ時よりも大きな制動力を付与する必要から、ブレーキオフ時の回生トルクよりも大きく設定されるのが一般的である。尚、回生トルクは負トルクであるから、「大きい」とは、正負の符合まで勘案した絶対的なトルク値としては「小さい」ことを意味する。
【0008】
従って、コースト回生が実行される期間としてのコースト回生期間においてブレーキオン操作(ブレーキオフ状態からブレーキオン状態への制動状態の移行を促す操作であって、端的には、ブレーキペダルから足を離した状態又はそれに類する状態からブレーキペダルを踏み込む操作を意味する)が生じると、回生トルクは増加することになる。
【0009】
ところで、コースト回生期間においては、車両の減速状態に応じて、好適には車速の低下に応じて、入力軸の回転速度を上昇させる側への変速比の切り替え、即ち所謂ダウンシフトが生じ得る。この際、変速比の切り替え(以下、適宜「変速」と称する)前後においては、入力軸の回転速度(一義的に回転電機の回転速度)が、変速前の変速比に対応する同期回転速度から変速後の変速比に対応する同期回転速度へと変化する。
【0010】
一方、上述したブレーキオン操作は、ドライバによる人為行為であるから、コースト回生期間に上記ダウンシフトが生じる期間としてのコースト回生変速期間においても、上記ダウンシフトの進捗とは無関係に生じ得る。コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合、出力軸のトルクは、変速装置の入力側のトルクを与える上述の回生トルクの増加によって減少する(即ち、負トルク側に絶対値が増加する)。
【0011】
他方、このように回生トルクが増加すると、回転電機を含む変速装置の入力慣性系のイナーシャが大きくなるため、回転電機の回転速度が上記変速後の変速比に対応する同期回転速度へ変化するための負荷が大きくなる。その結果、回転電機の回転速度、即ち、変速装置の入力軸の回転速度が変速後の変速比に対応する同期回転速度に到達するための時間が長くなり、変速期間が長大化しかねない。変速期間の長大化は、変速装置を構成する各種摩擦材の磨耗を促進し、またドライバの不要な運転操作を誘発し得る。このため、実践的運用面においては、コースト回生変速期間におけるブレーキオン操作に対し、変速装置を構成する各種係合装置の係合油圧を相対的に高め、変速時間を短縮化する必要が生じ得る。
【0012】
ところが、このように回生トルクの増加と係合油圧の増加とが干渉すると、変速装置の出力軸には、過渡的にドライバに知覚され得る程度のトルク変動が生じる可能性が高くなる。このようなトルク変動は、ドライバビリティを低下させる要因となる。
【0013】
ここで特に、上述した特許文献1に開示される装置では、コースト回生変速期間におけるブレーキオン操作が変速時間の長大化を招き得る点についても、出力軸のトルク変動を招き得る点についても一切考慮されていないため、この種の出力軸のトルクの変動に起因するドライバビリティの低下が抑制され難い。即ち、上記特許文献1に開示される装置には、コースト回生変速期間にブレーキオン操作が生じた場合に、ドライバビリティが低下しかねないという技術的問題点がある。
【0014】
また、特許文献2に開示されるように、係合側要素のトルク容量のスイープ率を上昇させた場合、上述したように変速時間の短縮化を図り得ても、出力軸のトルク変動が回避され難い。
【0015】
また、変速とは、本来、車両の動力源を望ましい動作領域で稼動させるためになされる措置であるから、特許文献3に開示されるようにブレーキオン操作に対しコーストダウン変速を禁止してしまっては、動力源の効率的な動作が阻害される結果となり、燃費の悪化等、他の問題点を顕在化させる。即ち、特許文献2及び3の開示内容を参酌しても、上述の技術的問題点が解決されないことは明らかである。
【0016】
本発明は、係る問題点に鑑みてなされたものであって、回生コースト変速期間にブレーキオン操作がなされた場合におけるドライバビリティの低下を抑制可能な車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両の制御装置は、入力軸との間でトルクの入出力が可能な回転電機と、前記入力軸と車軸に連結された出力軸との間に複数の係合装置を備えて設置され、前記入力軸と前記出力軸との間でトルクを伝達すると共に、前記複数の係合装置の各々の係合状態に応じて前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との比たる変速比を変化させることが可能な変速装置とを備えた車両を制御する装置であって、ブレーキオン操作を検出可能な検出手段と、前記車両のコースト回生時に前記変速装置のダウンシフトがなされるコースト回生変速期間において前記ブレーキオン操作が検出された場合に、前記コースト回生変速期間における前記回転電機の回生トルクの増加を抑制する回生制御手段とを具備することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る回転電機は、例えばモータジェネレータ等の実践的態様を採り得る装置であり、蓄電手段や発電機等の電力供給源から供給される電力(即ち、放電電力)を利用した、入力軸に対するトルクの出力と、入力軸を介したトルクの入力とを可能とする装置である。尚、入力軸が後述の変速装置を介して出力軸に連結される点と、出力軸が車軸に連結される点とに鑑みれば、前者は車軸に対する駆動トルクの供給を意味し、後者は電力回生(発電)を意味する。
【0019】
本発明に係る変速装置は、入力軸と出力軸との間のトルク伝達経路に、複数の係合装置(例えば、油圧係合湿式多板型のクラッチ機構やブレーキ機構等)を備えて設置された、例えば、各種ECT(Electronic Controlled Transmission:電子制御式変速装置)等の実践的態様を採り得る装置である。変速装置は、これら複数対の係合装置の各々の係合状態に応じて、変速比を複数段階に或いは連続的に変化させることが可能である。
【0020】
本発明に係る車両は、上記の回転電機と変速装置とを備える限りにおいて、その採り得る実践的態様は多様である。例えば、本発明に係る車両は、その動力源として、上記回転電機としてのモータジェネレータのみを動力源として備える所謂EV(Electric Vehicle:電気自動車)であってもよいし、上記回転電機に加えて他の動力源(例えば、内燃機関)を備えたHV(Hybrid Vehicle:ハイブリッド車両)であってもよい。また、車両が、内燃機関と上記回転電機を含む複数の回転電機とを備えたハイブリッド車両として構成される場合、上記回転電機と異なる回転電機から内燃機関に反力を与える差動機構を備えていてもよい。この場合、この差動機構が一種の電気的CVT(Continuously Variable Transmission:無段変速装置)として機能してもよい。
【0021】
本発明に係る車両の制御装置は、このような車両を制御する装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、ECU(Electronic Controlled Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ等の実践的態様を採り得る。尚、これらには必要に応じて更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等が内蔵又は付帯されていてもよい。
【0022】
本発明に係る車両の制御装置は、ブレーキオン操作を検出可能な検出手段を備える。
【0023】
ここで、本発明に係る「ブレーキオン操作」とは、制動力を要求する旨を表す操作であって、ブレーキペダルの踏下量(ストローク)で言えば、ゼロより大きい又は不感帯領域の境界値よりも大きいことと実質的に等価である。本発明に係る検出手段は、ブレーキオン操作を検出可能な手段であるが、好適には無論、ブレーキオフ操作の検出も可能であり、また、要求される制動力又は減速度の大小と相関するブレーキオン操作の度合い(端的には、ブレーキペダルの踏下量)も検出可能である。
【0024】
尚、このようなブレーキオン操作の検出は、直接的になされても(即ち、一次的な検出がなされても)、間接的になされても(即ち、二次的な検出がなされても)よい。尚、直接的な検出とは、例えば、ブレーキペダルのストローク量の検出等を意味し、検出手段の実践的態様として、例えば、ブレーキペダルセンサ等の形態を採ることを意味する。また、間接的な検出とは、ブレーキペダル操作量と一対一、一対多、多対一又は多対多に対応するブレーキペダル操作量相当値を各種信号、情報又はデータ等として各種伝達経路(制御バス等)を介して取得すること、或いはこのように取得された信号、情報又はデータ等に基づいて、演算処理を伴う推定又はマップ等を介した数値選択を行うこと等を意味する。
【0025】
本発明に係る車両の制御装置によれば、上述のコースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合に、回生制御手段によって、当該コースト回生変速期間における回転電機の回生トルクの増加が抑制される。尚、「増加の抑制」とは、増加量や増加率等が、本来生じるべき度合い(即ち、増加抑制措置が講じられない場合に適用される制御に準拠した度合い)よりも低いことを包括する概念であって、必ずしも、回生トルクがブレーキオン操作検出時点の値から増加することを禁止するものではない。
【0026】
出力軸のトルク変動は、回生トルクの増加(何らの制限も与えられない増加である)による変速装置における入力慣性系のイナーシャの増加と、それに伴う変速期間の長大化を回避すべく変速装置側でなされる係合圧の上昇制御とによってもたらされる。
【0027】
ここで、回転電機における電力回生は、定常的に見れば、回転電機の電力供給源としての各種バッテリ或いは各種キャパシタ等におけるSOC(State Of Charge:充電状態或いは充電状態を規定する指標値)を所望の範囲に維持するために必要な措置であるものの、コースト回生変速期間におけるブレーキオン操作時といった、不定期に訪れる一種の過渡的期間においては、必ずしも車両運行制御上の必須要件ではない。このため、回生トルクの増加をコースト回生変速期間において抑制したところで、車両の運行制御上然したる問題は顕在化しない。
【0028】
本発明に係る車両の制御装置は、コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合に出力軸のトルク変動が生じ得る点を見出し、且つこのように過渡的には回生トルクの増加を抑制することが許容される点に着眼することによって、車両のドライバビリティの低下を好適に抑制することができるのである。
【0029】
また、回生トルクの増加が抑制された場合、変速装置における係合装置の係合圧を上昇させる必然性が消滅する。従って、回生トルクの増加抑制に係る措置は、実は、係合装置の係合圧の時間推移をブレーキオフ時相当に緩和させる措置を極めて合理的に招来し得る。即ち、本発明によれば、出力軸のトルク変動を招く一方の要因たる回転電機側に対策を講じることによって、出力軸のトルク変動を招く他方の要因たる変速装置側においても合理的な対策を講じることを可能とする。従って、変速時間の長大化を回避しつつ出力軸のトルク変動を抑制するといった、実践上極めて高い利益を提供し得る。
【0030】
補足すると、出力軸のトルク変動を抑制すべく、例えば変速装置側で対策を講じる場合、係合圧の上昇を抑制することが必要となるが、このような措置は、取りも直さず変速期間の長大化或いは摩擦材の磨耗等、他の問題を惹起し得る。即ち、実践上全く得策ではない。また、回生トルクの増加抑制措置から係合装置の係合圧低減措置は合理的に導き得ても、係合圧低減措置から回生トルクの増加抑制措置を合理的に導くことは出来ないのである。
【0031】
尚、回生トルクの増加は、抑制されることによって幾らかなり出力軸のトルク変動を抑制し得るから、回生制御手段は、先述したように必ずしも回生トルクの増加そのものを禁じる必要はない。但し、回生トルクの抑制の度合いが大きい程(必ずしもリニアでなくてよい)、出力軸のトルク変動抑制に係る効果は大きくなり得る。従って、回生トルクの過渡的な増加抑制が車両運行制御上許容される点に鑑みれば、回生制御手段は、好適な一形態として、回生トルクをブレーキオン操作時点に相当する値に維持するか、或いはブレーキオン操作時点に相当する値から更に低減してもよい。
【0032】
本発明に係る車両の制御装置の一の態様では、前記回生制御手段は、前記コースト回生変速期間における回生トルクを維持又は低減する。
【0033】
回生トルクは、先述したようにその増加が抑制される限りにおいて出力軸のトルク変動抑制に効果があるが、この態様によれば、特に、コースト回生変速期間における回生トルクが維持又は低減されるため、出力軸のトルク変動抑制に係る高い利益を享受することが可能となる。補足すると、コースト回生変速期間は有限な期間であり、回転電機による電力回生が一時的な停止されたところで、実践的に見て電力収支に過度な影響を与えないのである。
【0034】
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記車両の減速度の大小に応じて変速後の変速比に対応する前記係合装置の係合圧が夫々小大に変化するように前記変速装置を制御する変速制御手段を更に具備する。
【0035】
先述したように、回生トルクの増加が抑制された場合、少なくとも係合装置の係合圧を増加させる必然性は消滅するが、車両の減速度が大きい場合、単に係合圧の増加を取り止めるだけでは、出力軸のトルク変動がドライバビリティの低下として顕在化する可能性がある。
【0036】
この態様によれば、変速後の変速比に対応する(即ち、変速前において解放状態あって、変速後に締結させる必要がある)係合装置の係合圧が、車両の減速度の大小に応じて夫々二値的に、段階的に又は連続的に小大に変化する。従って、車両の減速度に応じた出力軸のトルク変動が、良好に抑制され、より好適にドライバビリティの低下を抑制することが可能となる。
【0037】
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記車両は、車輪に対し物理的な制動力を付与可能な制動装置を備え、前記車両の制御装置は、前記回生制御手段により前記回生トルクの増加が抑制される期間において、前記回生トルクにより付与されるべき回生制動力の少なくとも一部が前記物理的な制動力により補われるように前記制動装置を制御する制動制御手段を更に具備する。
【0038】
既に述べたように、コースト回生期間における回転電機の回生トルクは、一種の制動力であるから、回生トルクの増加が抑制されることにより、車両に本来付与されるべき制動力の一部が不足することとなる。このような制動力の不足に起因する要求減速度に対する実際の減速度の不足は、例えばブレーキペダルの踏み増し等、ドライバ側での不要な行動を招き得、ドライバビリティを低下させる要因となることがある。
【0039】
この態様によれば、車輪に物理的な制動力、端的には摩擦制動力を付与する公知の各種制動装置等から、この回生トルクの増加抑制分に対応する制動力が付与される。このため、車両の実際の減速度と要求値との乖離が緩和され、ドライバビリティの低下が好適に抑制される。
【0040】
尚、制動装置から付与される制動力の大きさは、回生トルクの増加抑制による制動力の不足分と真に一対一に対応する必要はなく、減速度の過不足がドライバビリティの低下として顕在化しない範囲で、係る不足分に一対一、一対多、多対一又は多対多に適宜対応してよい趣旨である。
【0041】
本発明に係る車両の制御装置の態様では、前記車両は、内燃機関と、前記内燃機関に反力トルクを付与可能な反力要素としての前記回転電機とは異なる他の回転電機と、前記内燃機関、前記回転電機及び前記他の回転電機に夫々連結される回転要素を含む複数の回転要素を備え、前記内燃機関の回転速度と前記回転電機の回転速度との比を無段階に変化させることが可能な差動機構とを具備する。
【0042】
この態様によれば、車両は、所謂ハイブリッド車両の一例を構成することとなり、差動機構による無段変速機能により、内燃機関を、例えば燃料消費率が最小となる最適燃費動作線に沿って駆動すること等が可能となるため、本発明に係る車両の制御装置に係る実践上の利益とあいまって、車両全体のエネルギ効率が良好に担保され得る。尚、無段変速機能に係る「回転電機の回転速度」とは、変速装置の入力回転速度と一義的であるが、変速装置の入力軸と回転電機の出力軸とが直結されている必要はなく、両者の間に回転電機の回転速度を適宜減速可能な減速機構が介在していてもよい。
【0043】
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記変速装置は、前記係合装置の係合状態に応じて前記変速比が相互に異なる複数の変速段を構築可能な有段変速装置である。
【0044】
この態様によれば、変速装置が、複数の回転要素とクラッチ機構及びブレーキ機構等から構成される複数の係合装置との組み合わせにより、変速比の異なる複数の変速段を構築可能な有段変速装置の形態を採るから、変速装置の機械的信頼性が好適に確保される。
【0045】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車両におけるハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】図2のハイブリッド駆動装置におけるECTの各係合要素の係合状態と変速段との関係を例示する係合表である。
【図4】図2のハイブリッド駆動装置における動力分割機構の一動作状態を例示する動作共線図である。
【図5】図2のハイブリッド駆動装置の一動作状態を例示する動作共線図である。
【図6】図1のハイブリッド車両においてECUにより実行されるドライバビリティ補償制御のフローチャートである。
【図7】図2のハイブリッド駆動装置におけるECTの変速条件を規定する変速マップの模式図である。
【図8】図6のドライバビリティ補償制御の効果に係り、回生トルクの増加抑制がなされない比較例におけるECT各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。
【図9】図6のドライバビリティ補償制御の効果に係り、回生トルクの増加抑制がなされた場合のECT各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。
【図10】本発明の第2実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係るハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両1の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両1の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0048】
図1において、ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、ブレーキペダルセンサ15、シフト位置センサ16、SOCセンサ17及び制動装置18並びにハイブリッド駆動装置10を備えた、本発明に係る「車両」の一例たるハイブリッド車両である。
【0049】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するドライバビリティ補償制御を実行可能に構成されている。尚、ECU100は、本発明に係る「検出手段」、「回生制御手段」、「制動制御手段」及び「変速制御手段」の夫々一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0050】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動する、ハイブリッド車両1のパワートレインユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。尚、各車軸は、最終減速機構としてのデファレンシャルD/Gを介してハイブリッド駆動装置10の動力出力軸である出力軸700に連結されている。
【0051】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能に構成された不図示のインバータを含み、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御することが可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0052】
バッテリ12は、複数のリチウムイオン電池セルを直列接続した構成を有し、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な電池ユニットである。尚、バッテリ12は、本発明に係る回転電機に対し電力を供給可能な蓄電手段の一例に過ぎず、例えば、ハイブリッド車両1は、バッテリ12に代えて、ニッケル水素電池を構成要素とする電池ユニットを搭載していてもよい。或いは、例えば電気二重層キャパシタ等の各種キャパシタ装置を搭載していてもよい。
【0053】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0054】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vhを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vhは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0055】
ブレーキペダルセンサ15は、ハイブリッド車両1の各車輪に対し個別に制動力を付与可能なECB(Electronic Controlled Braking system:電子制御式制動装置)の作動、或いはモータジェネレータMG2を利用した回生制動の作動を促す運転者の制動操作量を検出可能に構成されたセンサである。この制動操作は、不図示のブレーキペダルを介して与えられる構成となっており、ブレーキペダルセンサ15は、このブレーキペダルの踏下量Tbを係る制動操作量として検出する構成となっている。ブレーキペダルセンサ15は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたブレーキペダル踏下量Tbは、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0056】
シフト位置センサ16は、後述するECT400の動作モードを規定するシフト位置を検出可能に構成されたセンサである。シフト位置センサ16は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたシフト位置は、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0057】
SOCセンサ17は、バッテリ12のSOC(State Of Charge:充電状態)を検出可能に構成されたセンサである。SOCセンサ17は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたバッテリ12のSOCは、ECU100により適宜参照される構成となっている。尚、本実施形態では、「SOC」なる文言を、バッテリ12の充電状態を表す定量的指標値としても使用することとする。
【0058】
制動装置18は、ECBアクチュエータ18A及びホイールシリンダ18Bを備え、車輪FL及びFRに対し、物理的な制動力たる摩擦制動力を付与可能に構成された、本発明に係る「制動装置」の一例たる公知のECB(電子制御式制動装置)である。
【0059】
ECBアクチュエータ18Aは、各輪に備わるホールシリンダ18Bに作動油を供給するための油路と、当該油路に設置された複数のソレノイドバルブと、当該油路への作動油の供給圧を制御する電動オイルポンプとを備えた、制動力制御装置である。当該油路に供給される油圧は、各ソレノイドバルブの開閉状態と、電動オイルポンプの駆動状態とに応じて可変に制御される。ECBアクチュエータ18Aは、ECU100と電気的に接続されており、その動作状態がECU100により上位に制御される構成となっている。
【0060】
ホイールシリンダ18Bは、車両1の車輪各々に対し設置され、各車輪に制動力としての摩擦力を付与する制動部材に対し駆動力を付与可能な油圧駆動装置である。ホイールシリンダ18Bには、先述したように、ECBアクチュエータ18Aを介して適切な油圧が供給されており、各制動部材は、ホイールシリンダ18Bを介して供給される駆動力に応じた摩擦力を対象車輪に付与することによって、車両1を制動することが可能である。
【0061】
次に、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0062】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、機関出力軸SFTeg、ECT400、駆動軸500、入力軸600及び出力軸700を備える。
【0063】
エンジン200は、ハイブリッド車両1の一動力源として機能するように構成された、本発明に係る「内燃機関」の一例たるV型6気筒ガソリンエンジンである。エンジン200は、公知のガソリンエンジンであり、ここでは、その詳細な構成を割愛するが、エンジン200の出力動力たるエンジントルクTeは、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の機関入力軸SFTegに連結されている。尚、エンジン200は、本発明に係る内燃機関の採り得る実践的態様の一例に過ぎず、本発明に係る内燃機関の実践的態様としては、エンジン200に限らず、公知の各種エンジンを採用可能である。
【0064】
モータジェネレータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた電動発電機であり、本発明に係る「他の回転電機」の一例である。
【0065】
モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1よりも体格の大きい、本発明に係る「回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。
【0066】
尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、無論他の構成を有していてもよい。
【0067】
動力分割機構300は、本発明に係る「差動機構」の一例たる遊星歯車機構である。
【0068】
動力分割機構300は、中心部に設けられた、本発明に係る「回転要素」の一例たるサンギアSg0と、サンギアSg0の外周に同心円状に設けられた、本発明に係る「回転要素」の他の一例たるリングギアRg0と、サンギアSg0とリングギアRg0との間に配置されてサンギアSg0の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支する、本発明に係る「回転要素」の更に他の一例たるキャリアCr0とを備える。
【0069】
サンギアSg0は、モータジェネレータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転速度はMG1の回転速度たるMG1回転速度Nmg1と等価である。
【0070】
一方、リングギアRg0は、駆動軸500に連結されており、この駆動軸500は、モータジェネレータMG2のロータに、その回転軸を共有する形で連結されている。従って、MG2は、駆動軸500との間でトルクの入出力が可能である。尚、駆動軸500を介してトルクが入力された場合、モータジェネレータMG2は、負トルクたる回生トルクを出力することによって、その入力トルクを回収し、電力回生、即ち発電を行うことが可能である。
【0071】
また、この駆動軸500は、ECT400の動力入力軸たる入力軸600に接続されている。従って、モータジェネレータMG2から、その出力トルクたるMG2トルクTmg2が駆動軸500に対し供給された場合、この供給されたMG2トルクTmg2は、ハイブリッド駆動装置10の出力軸トルクToutの少なくとも一部として利用される。ハイブリッド車両1は、このMG2トルクTmg2のみによって所謂EV走行を行うことも、このMG2トルクTmg2をエンジントルクTeの不足分をアシストするアシストトルクとして利用して所謂HV走行を行うことも可能である。
【0072】
他方、キャリアCr0は、エンジン200のクランク軸に連結された機関入力軸SFTegと連結されている。キャリアCr0の回転速度は、エンジン200の機関回転速度NEと等価である。
【0073】
ECT400は、複数の油圧駆動式の摩擦係合装置(即ち、各々が本発明に係る「係合装置」の一例である)を備え、各係合装置の係合状態に応じて変速比γの異なる複数の変速段を構築可能に構成された、本発明に係る「変速装置」の一例たる電子制御式有段変速装置である。
【0074】
尚、変速比γとは、入力軸600の回転速度たる入力軸回転速度Ninと出力軸700の回転速度たる出力軸回転速度Noutとの比(γ=Nin/Nout)である。先に述べたように、入力軸600は、動力分割機構300の動力出力軸たる駆動軸500に接続されているから、入力軸回転速度Ninは、駆動軸500の回転速度、即ち、モータジェネレータMG2の回転速度たるMG2回転速度Nmg2g2と等価である。また、同様に入力軸600に作用するトルクである入力軸トルクTinは、駆動軸500に作用するトルクと等価である。
【0075】
ECT400は、二種類の差動機構を組み合わせて得られる複合型プラネタリギアユニットと、CL1、CL2及びCL3の各湿式多板型クラッチ機構と、ワンウェイクラッチF1と、BR1及びBR2の各湿式多板型ブレーキ機構とから構成されている。このうち、係合装置たる各湿式多板型クラッチ機構、ワンウェイクラッチF1及び各湿式多板型ブレーキ機構は、各々における係合要素同士が、不図示の油圧アクチュエータ(不図示)の作用により、締結状態と解放状態との間で係合状態が選択的に切り替えられる構成となっている。
【0076】
ここで、これら摩擦係合装置たるクラッチ機構及びブレーキ機構の係合力を規定する係合油圧を制御する油圧アクチュエータは、ECU100と電気的に接続されており、ECU100は、油圧アクチュエータの動作制御を介して、ECT400の変速段を自由に切り替えることができる構成となっている。ECT400による変速の詳細については後述する。
【0077】
ECT400において、入力軸600は、クラッチCL1、CL2及びCL3の夫々における一方の係合要素(即ち、クラッチ板である)に固定されている。
【0078】
一方、クラッチCL1の他方の係合要素(これもまたクラッチ板である)は、差動機構を構成する一方のプラネタリギアユニット(図右側のプラネタリギアユニットであり、これ以降、適宜「第2差動機構」と称する)の一回転要素であるサンギアSg2に連結されている。また、クラッチCL2の他方の係合要素は、差動機構を構成する他方のプラネタリギアユニット(図左側のプラネタリギアユニットであり、これ以降、適宜「第1差動機構」と称する)の一回転要素であるキャリアCr1に連結されている。更に、クラッチCL3の他方の係合要素は、第1差動機構の他の回転要素であるサンギアSg1と、ブレーキBR1の一方の係合要素とに連結されている。尚、ブレーキBR1の他方の係合要素は、固定要素である。
【0079】
ブレーキBR2は、一方の係合要素が、第2差動機構のリングギアRg2と第1差動機構のキャリアCr1とに連結されており、他方の係合要素が固定要素となっている。
【0080】
ワンウェイクラッチF1は、正回転方向の動力のみ伝達し、負回転方向の動力に対しては空転する一方向クラッチである。ワンウェイクラッチF1の一方の係合要素は、第1差動機構のキャリアCr1に連結されている。
【0081】
第1差動機構は、サンギアSg1と、サンギアSg1の外周に同心円状に設けられたリングギアRg1と、サンギアSg1とリングギアRg1との間に配置されてサンギアSg1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアCr1とを備えた、シングルピニオン型のプラネタリギアユニットである。
【0082】
第2差動機構は、サンギアSg2と、サンギアSg2の外周に同心円状に設けられたリングギアRg2と、サンギアSg2とリングギアRg2との間に配置されてサンギアSg2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア(不図示)と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するキャリアCr2とを備えた、シングルピニオン型のプラネタリギアユニットである。
【0083】
第1及び第2差動機構は、第1差動機構のキャリアCr1が第2差動機構のリングギアRg2に連結され、また第2差動機構のキャリアCr2が第2差動機構のリングギアRg1に連結されることによって、複合型プラネタリギアユニットを構成している。また第2差動機構のキャリアCr2は、ECT400の出力軸たる出力軸700に連結されている。
【0084】
このような構成において、ECT400は、各係合装置の係合状態を切り替えることにより、変速段として変速比γ1(γ1≒3.2)の1速段、変速比γ2(γ2≒1.7程度)の2速段、変速比γ3(γ3≒1.0程度)の3速段及び変速比γ4(γ4≒0.67程度)の4速段(即ち、オーバードライブ段である)の合計四種類の前進用変速段を構築することが可能である。
【0085】
尚、ECT400には動作モードが各種設定されており、不図示のシフトレバーを介して運転者により一の動作モードが選択される構成となっている。ここで、動作モードには、「P」、「R」、「N」、「D」、「3」、「2」及び「1」の各シフトレンジ(シフト位置)が対応しており、例えば、Dレンジが選択されている場合、ECU100は、上記4種類の変速段のうちその時点のハイブリッド車両1の運転条件に最適な一の変速段を選択し、適宜変速段を切り替えつつハイブリッド車両1を走行させる構成となっている。尚、各シフトレンジに対応するECT400の動作モードについては、公知であり、説明の煩雑化を防ぐ目的から、ここでは、その詳細については触れないこととする。
【0086】
ここで、図3を参照し、ECT400の各係合装置の係合状態と構築される変速段との関係について説明する。ここに、図3は、ECT400における係合装置の係合状態と変速段との関係を例示する表である。
【0087】
図3において、「○」は締結状態を、無印は解放状態を意味し、「◎」は、電気的無段変速状態を作り出す際には解放状態、固定段走行を行う場合には締結状態を採ることを意味する。
【0088】
図3において、前進用変速段についてのみ簡略的に説明すると、クラッチCL1は低速用クラッチ、クラッチCL2が高速用のクラッチとなっている。クラッチCL1が締結状態を採り、クラッチCL2が解放状態を採ると、変速段は相対的に変速比の大きい低速用変速段たる1速段又は2速段となる。この際、ブレーキBR1を解放状態とすれば1速段、締結状態とすれば2速段となる。
【0089】
一方、クラッチCL1を解放状態とし、クラッチCL2を締結状態とすると共にブレーキBR2を締結状態とすると、変速段は相対的に変速比の小さい高速用の4速段となる。
【0090】
また、クラッチCL1及びクラッチCL2を両方締結状態とすると、第1差動機構のキャリアCr1に連結された第2差動機構のリングギアRg2の回転速度と、第2差動機構のサンギアSg2の回転速度とが、共に入力軸回転速度Ninで等しくなる。第1及び第2差動機構は、各々を構成する回転要素のうち2要素の回転速度が定まれた残余の回転速度が決定される回転二自由度の差動機構であるから、リングギアRg2の回転速度とサンギアSg2の回転速度とが一致すると、必然的にキャリアCr2の回転速度もこれらと一致する。その結果、キャリアCr2の回転速度と等価な出力軸回転速度Noutが、入力軸回転速度Ninと等しくなり、変速比γ3(≒1)の三速段が構築される。
【0091】
尚、ECT400を構成する各回転要素のギア比は、得ようとする変速段の変速比に応じて適宜変更される性質のものであり、本発明の本質部分から外れるため、本実施形態においては、その詳細な値については触れないこととする。但し、各変速段の変速比については、上述の如くに例示されており、図2の構成において、各変速段の変速比を実現するための各回転要素のギア比は、自ずと明らかであろう。
【0092】
図2に戻り、ハイブリッド駆動装置10は、レゾルバRV1、RV2及びRV3を備える。
【0093】
レゾルバRV1は、MG1の回転速度たるMG1回転速度Nmg1を検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV1は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたMG1回転速度Nmg1は、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0094】
レゾルバRV2は、MG2の回転速度たるMG2回転速度Nmg2g2を検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV2は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたMG2回転速度Nmg2g2は、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。尚、MG2回転速度Nmg2g2は、既に述べたように、ECT400の入力軸回転速度Ninと等価である。
【0095】
レゾルバRV3は、出力軸700の回転速度たる出力軸回転速度Noutを検出可能に構成された回転速度センサである。レゾルバRV3は、ECU100と電気的に接続されており、検出された出力軸回転速度Noutは、ECU100により、一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
<実施形態の動作>
<動力分割機構300による無段変速機能>
動力分割機構300は、上述した構成の下で、エンジン200から機関出力軸SFTegに供給されるエンジントルクTeを、キャリアCr0によってサンギアSg0及びリングギアRg0に所定の比率(各ギア相互間のギア比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。この際、動力分割機構300の動作を分かり易くするため、リングギアRg0の歯数に対するサンギアSg0の歯数としてのギア比ρを定義すると、エンジン200からキャリアCr0に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギアSg0に作用するトルクTesは下記(1)式により、また駆動軸500に現れるエンジン直達トルクTerは下記(2)式により、夫々表される。
【0096】
Tes=−Te×ρ/(1+ρ)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+ρ)・・・(2)
ここで、図4を参照し、動力分割機構300による電気的無段変速機能について説明する。ここに、図4は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0097】
図4において、縦軸は回転速度を表しており、横軸には、左から順にモータジェネレータMG1(一義的にサンギアSg0)、エンジン200(一義的にキャリアCr0)及びモータジェネレータMG2(一義的にリングギアRg0)が表されている。
【0098】
ここで、先に述べたECT400の各差動機構と同様、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素により構成された回転二自由度のプラネタリギアユニットであり、サンギアSg0、キャリアCr0及びリングギアRg0のうち二要素の回転速度が定まった場合に、残余の一回転要素の回転速度が必然的に定まる構成となっている。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表すことができる。
【0099】
図4において、駆動軸500及び入力軸600と一義的な回転関係にあるモータジェネレータMG2の動作点が、図示動作点m1であるとする。この場合、モータジェネレータMG1の動作点が図示動作点m2であれば、残余の一回転要素たるキャリアCr0に連結されたエンジン200の動作点は、動作点m3となる。ここで、例えば、分かり易く駆動軸500の回転速度たる入力軸回転速度Ninが維持された状態でモータジェネレータMG1の動作点を図示動作点m4及び図示動作点m5に変化させれば、エンジン200の動作点は、夫々図示動作点m6及び図示動作点m7へと変化する。
【0100】
即ち、この場合、モータジェネレータMG1を回転速度制御機構として機能させることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させることが可能となる。このように、動力分割機構300は、ハイブリッド駆動装置10において電気的無段変速機能を実現する部分となっており、本発明に係る「差動機構」の一例を構成している。
【0101】
尚、このような電気的無段変速機能の下では、エンジン200の動作点(この場合の動作点とは、機関回転速度NEとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン200の一動作条件を意味する)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となる最適燃費動作点に制御される。
【0102】
<ECT400による変速>
次に、図5を参照し、ECT400による有段変速機能について説明する。ここに、図5は、ハイブリッド駆動装置10の他の動作状態を例示する動作共線図である。尚、同図において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0103】
図5において、左側は図2に例示した動力分割機構300の動作に係る動作共線図であり、右側はECT400の動作に係る動作共線図である。
【0104】
図5において、動力分割機構300の動作状態が、MG1回転速度Nmg1=0且つMG2回転速度Nmg2g2=Aに対応する一動作共線L_PG1によって表される状況であるとする。ECT400の変速作用によれば、この動力分割機構300の一動作状態に対し、変速段の数だけ異なる動作共線を描くことができる。
【0105】
例えば、変速段として1速段が選択されている場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、1速段においては、ワンウェイクラッチF1の作用によってキャリアCr1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、1速段における動作共線は、図示L_ECT1となる。既に述べたように、1速段の変速比γ1は1より大きいから、1速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも低くなる。
【0106】
また、変速段として2速段が選択された場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、2速段においては、ブレーキBR1の作用によってサンギアSg1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、2速段における動作共線は、図示L_ECT2となる。既に述べたように、2速段の変速比γ2は1より大きくγ1より小さいから、2速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも低くなり、且つ1速段選択時の回転速度よりも高くなる。
【0107】
また、変速段として3速段が選択された場合、クラッチCL1の作用によってサンギアSg2とリングギアRg0とが固定されるため、図示破線で示されるように、サンギアSg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、3速段においては、クラッチCL2の作用によってキャリアCr1(即ち、リングギアRg2)もまたリングギアRg0と固定される。従って、3速段における動作共線は、図示L_ECT3となる。即ち、入力軸回転速度Ninは出力回転速度Nouと等しくなり、既に述べたように変速比γ3=1の3速段が構築されるのである。
【0108】
更に、変速段として4速段が選択された場合、クラッチCL2の作用によってキャリアCr1(即ち、リングギアRg2)とリングギアRg0とが固定されるため、リングギアRg2の回転速度は、MG2回転速度Nmg2と等しくなる。一方、4速段においては、ブレーキBR1の作用によってサンギアSg1の回転速度がゼロ回転に固定される。従って、4速段における動作共線は、図示L_ECT4となる。既に述べたように、4速段の変速比γ4は1より小さいから、4速段が選択されている状況において、出力軸回転速度Noutは、入力軸回転速度Ninよりも高くなり、所謂オーバードライブ状態が実現される。
【0109】
動力分割機構300の電気的な伝達効率ηeは、MG1回転速度Nmg1=0である場合に最大となる。従って、動力分割機構300は、理想的には、Nmg1=0の状態で駆動されるのが望ましい。ここで、ECT400の作用によれば、上述のように、動力分割機構300の一動作状態に対して、出力軸回転速度Noutを4段階に変化させることができる。従って、ECT400によれば、電気的な伝達効率ηeを最大とし得る動作点でエンジン200を動作させる機会を増やすことが可能となり、ハイブリッド駆動装置10全体としてのシステム伝達効率ηsysを良好に維持することができる。尚、実践的運用面においては、システム伝達効率ηsysは、電気的な伝達効率ηeと機械的伝達効率ηtとの積に相当し、ECT400のように、複数の係合要素を備える構成においては、これらによる機械的伝達効率の低下が、電気的伝達効率の増加によるシステム伝達効率の向上を妨げ得る。従って、ECT400による効果は、比較的大容量のエンジンを動力源として備えるハイブリッド駆動装置において顕著に奏される。
【0110】
<ドライバビリティ補償制御の詳細>
ハイブリッド車両1では、コースト回生変速中におけるドライバビリティの低下を抑制するために、ECU100によりドライバビリティ補償制御が実行される。ここで、図6を参照し、ドライバビリティ補償制御の詳細について説明する。ここに、図6は、ドライバビリティ補償制御のフローチャートである。
【0111】
図6において、ECU100は、ハイブリッド車両1がコースト回生中であるか否かを判別する(ステップS101)。
【0112】
ここで、「コースト回生」とは、コーストダウン(即ち、惰性減速)走行中になされる電力回生を意味する。ハイブリッド車両1においては、コーストダウン走行中に、モータジェネレータMG2による電力回生が行われる。即ち、モータジェネレータMG2から、MG2トルクTmg2として負トルクたる回生トルクが出力され、車軸、出力軸700、入力軸600及び駆動軸500を介して入力される駆動輪の運動エネルギの一部を電力として回生する発電が行われる。この回生トルクは、その大小がハイブリッド車両1の減速度の大小に夫々対応する一種の制動力であり、コーストダウン走行中においては、この電力回生による所謂回生制動が実現される。コースト回生とは、この回生制動と意味合い的には等価である。
【0113】
ここで特に、上述したように回生トルクは一種の制動力として機能するから、ブレーキペダルの踏下量Tbが予め設定された基準値よりも大きいブレーキオン時において、回生トルクは、ドライバの制動意思を反映するブレーキペダル踏下量Tbの大小に応じて夫々連続的に又は段階的に大小に制御され、ドライバに違和感を与えない回生制動が実現される構成となっている。
【0114】
尚、本実施形態において、踏下量Tbに係る「基準値」は、ゼロ又はゼロ近傍の不感帯領域(減速要求とみなされない領域であり、ドライバの感覚としては、ブレーキペダルから足を離しているのと変わらない領域)を規定する値に設定されている。他方で、ブレーキペダルの踏下量Tbが上記基準値以下であるブレーキオフ時において、回生トルクは、ドライバに積極的な制動意思が無いことを勘案して、エンジンブレーキ相当の比較的小さい制動力に対応する値に設定される。
【0115】
尚、MG2の回生トルクによる回生制動と、制動装置18による油圧制動とは、相互に協調制御されてもよい。例えば、コースト回生期間において車両1の要求制動力の一部が油圧制動により与えられてもよい。或いは、例えば車速や要求制動力相当値(例えば、ブレーキペダル踏下量Tb)に応じて、回生制動と油圧制動とが二値的に切り替えられてもよい。
【0116】
ステップS101において、ECU100は、ハイブリッド車両1の車速Vhが基準値より高く(基準値がゼロであれば、即ち、車両が走行中であるか否かの判別と等価である)、且つアクセル開度センサ13により検出されるアクセル開度Taが基準値以下である場合に、コースト回生中であると判別する。尚、アクセル開度Taに係る「基準値」とは、ゼロ又はゼロ近傍の不感帯領域(駆動要求とみなされない領域であり、ドライバの感覚としては、アクセルペダルから足を離しているのと変わらない領域)を規定する値に設定されている。但し、コースト回生中であるか否かに係る判別要件は、ここに例示されたものに限定されない。ハイブリッド車両1がコースト回生中でない場合(ステップS101:NO)、ECU100は、ステップS101を繰り返し実行する。即ち、処理は実質的に待機状態に制御される。
【0117】
ハイブリッド車両1がコースト回生中である場合(ステップS101:YES)、ECU100は、ECT400がダウンシフト中であるか否かを判別する(ステップS102)。
【0118】
ECT400における変速は、変速比が小さくなる側の変速たるアップシフトも、変速比が大きくなる側の変速たるダウンシフトも、予め設定された変速マップに基づいて実行される。ここで、図7を参照し、ECT400の変速条件について説明する。ここに、図7は、ECT400の変速条件を規定する変速マップの模式図である。
【0119】
図7において、縦軸及び横軸には、夫々出力軸トルクTout及び車速Vhが表されている。係るマップ中において、ECT400の変速条件は、図示する21ダウン変速線L_21、12アップ変速線L_12、32ダウン変速線L_32、23アップ変速線L_23、43ダウン変速線L_43及び34アップ変速線L_34によって規定される。より具体的には、その時点のハイブリッド車両1の運転条件が、アップシフトについては各アップ変速線を跨ぐ際に、ダウンシフトについては各ダウンシフト変速線を跨ぐ際に、各変速線によって規定される変速が実現される。
【0120】
例えば、ハイブリッド車両1の運転条件が、32ダウン変速線の右側の運転領域から32ダウン変速線を跨ぐ場合、ECU100は、ECT400を制御して、3速段から2速段への変速(ダウンシフト)を実行する。或いは、例えば、ハイブリッド車両1の運転条件が、12アップ変速線の左側の運転領域から12アップ変速線を跨ぐ場合、ECU100は、ECT400を制御して、1速段から2速段への変速(アップシフト)を実行する。ECU100のROMには、予め図7に例示される変速マップを数値的に規定してなる変速マップが格納されており、ECU100は、ドライバビリティ補償制御と並列的に別途実行される変速制御において、必要に応じて適宜変速を実行する構成となっている。
【0121】
図6に戻り、ECT400がダウンシフト中でない場合(ステップS102:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻し、一連の処理を繰り返す。
【0122】
一方、ECT400がダウンシフト中である場合(ステップS102:YES)、ECU100は、ブレーキオン操作が生じたか否かを判別する(ステップS103)。この際、ECU100は、ブレーキペダルセンサ15により検出されるブレーキペダル踏下量Tbが上述の基準値以下の領域から当該基準値より大きい領域まで上昇した場合、即ち、ブレーキペダルの踏下状態が、ブレーキオフ状態からブレーキオン状態に切り替わった場合に、ブレーキオン操作が生じたと判別する。尚、ステップS102における「YES」側への分岐時点から変速完了時点までの時間領域は、本発明に係る「コースト回生変速期間」の一例であり、これ以降適宜、「コースト回生変速期間」なる文言を用いてこの期間を表すこととする。
【0123】
ブレーキオン操作が生じていない場合(ステップS103:NO)、即ち、ハイブリッド車両1が、ブレーキペダル踏下量Tbが基準値以下である状態としてのブレーキオフ状態、又はブレーキペダル踏下量Tbが基準値よりも大きい状態としてのブレーキオン状態を維持している状況下でダウンシフトがなされている場合、ECU100は、ダウンシフトが完了したか否かを判別する(ステップS104)。
【0124】
ダウンシフトが完了したか否かは、ECT400の入力軸回転速度Nin(即ち、MG2回転速度Nmg2)に基づいて判別される。即ち、入力軸回転速度Ninが、変速前の変速段に対応する同期回転速度から変速後の変速段に対応する同期回転速度に到達した場合に、ダウンシフトが完了したものと判別される。尚、変速後の変速段に対応する同期回転速度は、変速後の変速段に係る変速比γと、ECT400の出力軸回転速度Noutとに基づいて算出可能である。ダウンシフトが完了していない場合(ステップS104:NO)、ECU100は、処理をステップS103に戻し、ブレーキオン操作が生じたか否かの判別を繰り返す。即ち、コースト回生変速期間中は、一定の周期でブレーキオン操作の発生の有無が判別される。
【0125】
コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じないまま、即ち、ハイブリッド車両1の状態が、ブレーキオフ状態又はブレーキオン状態を維持したままダウンシフトが完了した場合(ステップS104:YES)、処理はステップS101に戻され、一連の処理が繰り返される。
【0126】
一方、コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合(ステップS103:YES)、ECU100は、MG2の回生トルクの増加を抑制する(ステップS105)
先に述べたように、ブレーキオン時とブレーキオフ時とでは、モータジェネレータMG2の回生トルクは異なり、他の条件が同じであれば、前者の方が回生トルクは大きく(正負の符合まで勘案した絶対的トルク値で言えば小さく)なる。従って、ブレーキオン操作が生じた場合、回生トルクは、ブレーキペダル踏下量Tbに応じた制動力に相当する回生トルクを目標値として増加制御される。ECU100は、ステップS105において、この目標値へ向けた回生トルクの増加を、コースト回生期間において抑制する。本実施形態では特に、ECU100は、回生トルクを、ブレーキオン操作が生じないと仮定した場合の値であるブレーキオフ相当値に維持する。尚、変速に伴ってMG2回転速度Nmg2が上昇するため、ブレーキオフ相当値に維持するとは言っても、回生トルクは変速開始前に対し減少する。
【0127】
尚、ステップS105に係る動作は、回生トルクの増加を抑制する旨の本発明に係る「回生制御手段」の動作の一例であるが、回生制御手段の採り得る実践的動作態様は、ステップS105のものに限定されない。例えば、ECU100は、回生トルクの増加率(時間変化量)を、本来の目標値へ向けた回生トルクの増加率に対し低く(傾きが小さくなることを意味する)設定することによって回生トルクの増加を抑制してもよい。
【0128】
回生トルクの増加抑制措置が講じられると、ECU100は、回生トルクの増加抑制分に相当する制動力或いは減速度の不足を、制動装置18からの油圧制動力によって補償する(ステップS106)。この際、ECU100は、抑制措置が講じられた回生トルクの時間推移と、抑制措置が講じられない場合の回生トルクの時間推移の予測値とを比較し、回生トルク値の抑制量を算出する。抑制量が算出されると、予めROMに格納された、当該抑制量と制動装置18の制御量(例えば、ホイールシリンダ18Bへの供給油圧)とを対応付けた制御マップを参照し、ECBアクチュエータ18Aを介して油圧制動力を制御する。即ち、ステップS106に係る動作は、本発明に係る「制動制御手段」の動作の一例である。尚、ハイブリッド車両1が、車両運行制御上許容される減速状態を保ち得る限りにおいて、ステップS106においては、必ずしも不足する制動力或いは減速度と制動装置18から供給される油圧制動力とが一対一に対応しておらずともよい。
【0129】
油圧制動による制動力補償を実行すると、ECU100は、ハイブリッド車両1の減速度が基準値以上であるか否かを判別する(ステップS107)。ハイブリッド車両1の減速度は、予め車速Vh、回生トルク値及びホイールシリンダ18Bの供給油圧値等に対応付けられてマップ化されROMに格納されており、ECU100は、当該マップを参照してハイブリッド車両1の減速度を推定する。尚、ここでは、ハイブリッド車両1の実際の減速度を推定するとしたが、ステップS107において参照される値は、ドライバの減速要求の度合いに対応するブレーキペダル踏下量Tbであってもよい。車両の減速度が基準値未満である場合(ステップS108:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻し一連の処理を繰り返す。
【0130】
一方、ハイブリッド車両1の減速度が基準値以上である場合(ステップS107:YES)、ECU100は、ECT400において、変速前後で解放状態から締結状態へと状態が切り替わる係合装置(例えば、3速段から2速段へのダウンシフトであれば、ブレーキBR1)の係合油圧を低減する(ステップS108)。係合油圧を低減すると、処理はステップS101に戻され、一連の処理が繰り返される。ドライバビリティ補償制御は、以上のように実行される。
【0131】
<ドライバビリティ補償制御の効果>
次に、図8及び図9を参照し、ドライバビリティ補償制御の効果について説明する。ここに、図8は、ドライバビリティ補償制御における回生トルク抑制措置(ステップS105に相当する措置)が講じられない場合の、ECT400各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。また、図9は、同様に回生トルク抑制措置が講じられた場合の、ECT400の各部の状態の一時間推移を例示するタイミングチャートである。尚、これらの図において相互に重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。また、図8及び図9は、夫々3速段から2速段への変速がなされる場合を示したものである。
【0132】
図8において、縦軸は、上段から順に、ECT400の入力軸回転速度Nin、ECT400の入力軸トルクTin(即ち、MG2トルクTmg2)、出力軸トルクTout、ブレーキフラグF_brk及びECT400における上述の変速前係合装置及び変速後係合装置の各係合油圧Pectが表されており、横軸は時刻で統一されている。尚、ブレーキフラグF_brkは、ブレーキペダルの踏下量Tbが上記基準値よりも大きい場合(即ち、ブレーキオン時)に「1」に、上記基準値以下である場合(即ち、ブレーキオフ時)に「0」に設定されるフラグであり、ECU100がブレーキペダルセンサ15のセンサ出力に基づいて設定するフラグである。即ち、図6のステップS103が「YES」側に分岐する場合とは、このブレーキフラグF_brkが「0」から「1」に変化する場合を意味する。
【0133】
また、図中実線で示される時間推移のうち、PRF_cmp2、PRF_cmp4及びPRF_cmp6は、本実施形態との比較に供されるべき比較例としての、回生トルク抑制措置が講じられない場合の時間推移であり、図中破線で示される時間推移(図示PRF_cmp1、PRF_cmp3及びPRF_cmp5)は、コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じない場合の時間推移である。
【0134】
先ず、ブレーキオン操作が生じない通常のコースト回生変速について説明する。
【0135】
図8において、時刻T1にECT400の変速(ダウンシフト)条件が満たされたとする。この場合、ECU100は、時刻T1において、変速前係合装置の係合油圧を、締結状態維持用の油圧P0から解放状態維持用のゼロ油圧まで図示鎖線の如くに低下させ、且つ変速後係合装置の係合油圧を解放状態維持用のゼロ油圧から締結状態維持用の油圧P0まで図示破線(PRF_cmp5)の如くに増加させる。入力軸回転速度Ninが変速後の変速段たる2速段に対応する2速同期回転速度N2まで上昇し、変速が終了した時刻T5の時点において、ブレーキBR1の係合油圧はP0に到達する。
【0136】
尚、変速後係合装置とは、ECT400を構成する係合装置のうち、変速前の変速段において解放状態にあり且つ変速後の変速段において締結状態を採る係合装置であり、本実施形態では、ブレーキBR1を意味する。また、変速前係合装置とは、変速前の変速段において締結状態にあり且つ変速後の変速段において解放状態を採る係合装置であり、本実施形態では、クラッチCL2を意味する。
【0137】
変速条件が満たされたことに伴い、これら変速に関連する係合装置の各々に対する係合油圧の制御が開始されると、変速期間の一過程としてのトルク相が開始される。トルク相とは、変速後係合装置(ここでは、ブレーキBR1)の係合油圧Pectを上昇させることによって、MG2を含むECT400の入力慣性系の回転上昇を促すトルクの移譲がなされる期間を意味する。
【0138】
トルク相において、入力慣性系の回転速度を引き上げるためのトルク移譲が完了した時点たる時刻T2において、この変速後係合装置の係合トルクによって当該入力慣性系の回転速度が実際に上昇するイナーシャ相が開始される。イナーシャ相においては、入力軸回転速度Ninが3速同期回転速度N3から2速同期回転速度N2へ上昇することに伴って、回生トルクが減少する(入力軸トルクTinが上昇することを意味する)。また、このイナーシャ相において、入力軸回転速度Ninが2速同期回転速度N2に対し所定の割合にまで達した時刻T4において、ECU100は、変速終期である旨の判定を行い、イナーシャ相は、当該変速終期判定後の時刻T5において終了する。本実施形態では、イナーシャ相の終了を変速の終了と等価に扱うこととする。
【0139】
ここで、コースト回生変速期間(即ち、この場合、時刻T1から時刻T5に至る期間)においてブレーキオン操作が生じない場合、入力軸トルクTinの時間推移は、図示PRF_cmp1(破線参照)のようになる。即ち、入力軸トルクTinは、イナーシャ相において、図示Tr0からTr1まで上昇する。即ち、回生トルクが減少する。
【0140】
また、このブレーキオン操作が生じない場合の入力軸トルクTinの時間推移に対応する出力軸トルクToutの時間推移は、図示PRF_cmp3(破線参照)として示される。即ち、この場合、出力軸トルクToutは、イナーシャ相において入力慣性系の回転上昇に出力軸トルクの一部が消費されることにより一時的に低下するが、出力軸700のトルク変動は生じない。
【0141】
次に、比較例(回生トルク抑制措置が講じられない場合)について説明する。
【0142】
コースト回生変速期間において(ここでは、イナーシャ相開始時点(時刻T2)以後の時刻T3とする)、ブレーキオン操作が生じたとする。この場合、回生トルク抑制措置が講じられない比較例においては、図示PRF_cmp2(実線参照)に示されるように、MG2の回生トルクが増加する(MG2トルクTmg2が減少する)。これは、ドライバの制動意思を反映した回生制動力の制御としては合理的である。即ち、変速終了後の回生トルクを見れば、ブレーキオフ時の値(Tr1)に対しブレーキオン時の値は十分に大きい。回生トルクの大小は、即ち制動力の大小であり、ブレーキオフ時とブレーキオン時とで制動力が切り替わること自体については、車両運行制御上極めて合理的なのである。
【0143】
一方、回生トルクの増加は、入力慣性系のイナーシャの増加を招く。このため、変速後係合装置の係合油圧Pectに対し何らの対策も講じられない場合(即ち、ブレーキオフ時(図示PRF_cmp5)と同等の制御がなされる場合)、変速後係合装置の係合トルクが不足して、イナーシャ相における入力慣性系の回転上昇が緩慢となる。その結果、変速時間が長大化する。このような変速時間の長大化は、無論ドライバビリティを低下させるのみならず、係合装置の磨耗を促進する可能性がある。このような事態を回避する目的から、通常、ブレーキオン時においては、変速後係合装置における係合油圧Pectが増圧補正される。その様子が、図示PRF_cmp6(破線)として表される。
【0144】
ところが、このように、変速期間が終了する以前に回生トルクの増加と係合油圧の増加とが共に生じ且つこれらが相互に干渉すると、出力軸トルクToutの時間推移は、図示PRF_cmp4(実線参照)のように、変速終了直後の相応の期間にわたって乱高下する。このようなトルク変動(所謂「係合ショック」である)は、ドライバビリティの低下としてドライバに知覚されてしまう。本実施形態に係るドライバビリティ補償制御では、この種のドライバビリティの低下が好適に抑制されるのである。
【0145】
ここで、図9を参照し、本実施形態に係る各部の時間推移について説明する。尚、図中実線で示される時間推移のうち、図示PRF_Tin、PRF_Tout及びPRF_Pectは、本実施形態に係る回生トルク抑制措置が講じられた場合の時間推移であり、図中破線で示される時間推移(図示PRF_cmp2、PRF_cmp4及びPRF_cmp6)は、図8と同様に、回生トルク抑制措置が講じられない場合の時間推移である。
【0146】
本実施形態においては、時刻T3において生じたブレーキオン操作に対して、先に述べたステップS105により、コースト回生変速期間において、回生トルクがブレーキオフ相当値(即ち、図8におけるPRF_cmp1に相当する値)に維持される。即ち、入力軸トルクTinは、あたかもブレーキオン操作が生じていないかの如く推移し、変速終了時点たるT5(尚、必ずしも変速終了時点である必要はない)まで上昇し続ける。
【0147】
一方、入力軸トルクTinが比較例の如くに低下(回生トルクが上昇)しないため、本実施形態においては、入力慣性系のイナーシャは増加しない。従って、比較例の如き、ECT400の変速後係合装置に対する係合油圧の増圧補正も不要となる。その結果、当該係合油圧の時間推移は、図示PRF_Pectに示される如く、ブレーキオフ時の時間推移(図8におけるPRF_cmp5)と同等となる。
【0148】
このように回生トルクの抑制とそれに伴う係合油圧の増圧回避がなされることによって、ブレーキオン以降のコースト回生変速期間(即ち、時刻T3から時刻T5に至る期間)における出力軸トルクToutの時間推移は、図示PRF_Toutのようになる。即ち、この期間については、出力軸トルクToutの時間推移は、図8に示したブレーキオフ時の時間推移(PRF_cmp3)と同等となる。このように、本実施形態においては、ブレーキオン操作に対し、回生トルクの増加が抑制される(ここでは、特に回生トルクが低減される)ため、変速期間が終了する以前における、回生トルクの増加と係合トルクの増加との干渉が生じずに済み、出力軸トルクToutが変速終了前後において変動する事態が防止される。その結果、コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合のドライバビリティの低下が好適に抑制されるのである。
【0149】
尚、本実施形態では、変速終了時点以降、回生トルクの抑制が解除され、ECU100が回生トルクを本来の目標値へ向けて増大させる(PRF_Tin参照)。変速終了時点以降であれば、ECT400における係合装置の切り替えも終了しているため、回生トルクが増加したところで、出力軸700にドライバビリティを低下させるトルク変動が生じることはない。一方で、このように回生トルクを増加させれば、回生トルクが抑制されることによる回生電力不足が解消され、バッテリ12のSOCの低下を好適に抑制することが可能となる。
【0150】
また、回生トルクを抑制すれば、車両の制動力は、本来生じるべき制動力に対し小さくなる。このため、場合によっては、車両の減速度が不足することがある。そのため、図9における時刻T3から時刻T5に至る、回生トルク抑制措置が講じられる期間においては、図6のステップS106に示したように、油圧制動力による制動力補償がなされる。本実施形態においては特に、制動装置18によって補償される制動力が、図示PRF_Tinに準拠した回生トルクと図示PRF_cmp2に準拠した回生トルクとの偏差(任意の時刻における両者の偏差)に応じたものとされる。そのため、回生トルク抑制措置が講じられる期間において、制動力又は減速度が不足するといった事態の発生が好適に防止される。
【0151】
ところで、コースト回生変速期間においてブレーキオン操作が生じた場合のハイブリッド車両1の減速度は多様である。ところが、車両の減速度を何ら勘案することなくECT400の係合油圧を制御すると、例えば、減速度が基準値以上となる等、比較的減速度が大きい場合において、係合ショックが顕在化しかねない。そこで、ECU100は、ハイブリッド車両1の減速度の大小に応じて、変速後係合装置の係合油圧Pectを、夫々、基準となる値(即ち、図示PRF_Pect)未満の値と当該基準となる値との間で二値的に切り替える。従って、車両の減速度に応じて生じかねない係合ショックが好適に抑制される。即ち、ECU100は、本発明に係る「変速制御手段」の一例としても機能する。
【0152】
尚、ここでは係合油圧Pectが二値的に切り替わるとしたが、ECU100は、減速度に応じて多段階に或いは連続的に、係合油圧を制御してもよい。また、係合油圧Pectの低減の度合いは、好適には、変速時間の長大化がドライバビリティの低下として顕在化しない範囲で決定される。
【0153】
また、本実施形態においては、バッテリ12の充電制限の有無とは無関係に回生トルク抑制措置が講じられる。然るに、バッテリ12が充電制限状態にあれば、コースト回生期間における回生トルク値が小さく、またブレーキオン時における回生トルクも小さい。従って、ブレーキオン時において回生トルク抑制措置を講じずとも、出力軸700のトルク変動を抑制することが可能な場合がある。その点に鑑みれば、ECU100は、図6のステップS103が「YES」側に分岐した後、更に、バッテリが充電制限状態にあるか否かの判別を行い、バッテリが充電制限状態にない場合に限って回生トルク抑制措置を講じてもよい。
【0154】
尚、「充電制限状態」について補足すると、バッテリ12は、充電可能な蓄電池であるが、単位時間当たりに入出力可能な電力には予め制限値(即ち、入力側については充電制限値Winであり、出力側については、放電制限値Woutである)が存在する。充電制限状態とは、入力側に制限が設けられた状態を意味する。無論、バッテリ12は、通常の状態においても、その充放電に一定の制限が与えられるが、充電制限状態とは、通常時の充電制限値Winに対し制限が与えられた状態を意味する。即ち、端的には、充電制限値Winが基準値よりも小さい場合に相当する。このような充電制限は、例えば、バッテリ12のSOCが公知のSOCフィードバック制御の上限値(例えば、満充電を100%として80〜90%程度)近傍である場合等に生じ得る。バッテリ12のSOCが良好であれば、元より電力回生の必要は生じないのである。
<第2実施形態>
ハイブリッド駆動装置の構成は、第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置10のものに限定されない。ここで、図10を参照し、本発明の第2実施形態に係るハイブリッド駆動装置20の構成について説明する。ここに、図10は、ハイブリッド駆動装置20の構成を概念的に例示してなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0155】
図10において、ハイブリッド駆動装置20は、駆動軸500と入力軸600とがクラッチ900によって選択的に係合又は解放状態に制御される構成となっている。また、モータジェネレータMG2と入力軸600との間には、MG2回転速度Nmg2を二段階に減速することが可能なMG2リダクション機構800が介装されている。
【0156】
MG2リダクション機構800は、湿式多板係合装置としてのブレーキ機構801及び802と、これらブレーキ機構に夫々連結された回転要素を含む差動機構803から構成される。MG2リダクション機構800は、ブレーキ機構としてブレーキ機構801が選択された場合とブレーキ機構802が選択された場合とで、MG2回転速度Nmg2の減速比が異なる構成を有しており、ECT400による変速に加え、MG2をその時点でより効率的な動作領域で動作させることが可能となっている。このような構成においても無論、上述の変速制御を適用することが可能である。
【0157】
また、クラッチ900が解放側に制御された状態においては、ハイブリッド駆動装置20の動力源はMG2のみとなる。この状態は、所謂電気自動車と同等である。即ち、本発明が適用対象とする車両は、ハイブリッド車両に限定されず、モータのみを動力源とする電気自動車も含まれる。
<第3実施形態>
ハイブリッド駆動装置の構成は、第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置10のものに限定されない。ここで、図11を参照し、本発明の第3実施形態にハイブリッド駆動装置30の構成について説明する。ここに、図11は、ハイブリッド駆動装置30の構成を概念的に例示してなる概略構成図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には、同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0158】
図11において、ハイブリッド駆動装置30は、無段変速部1000と有段変速部1100を有する。無段変速部1000は、ハイブリッド駆動装置10における動力分割機構300と概念的には同等のプラネタリギアユニットと、MG2回転速度Nmg2を減速する減速ギアとからなり、動力分割機構300と同様に回転二自由度の差動機構として機能する。
【0159】
一方、有段変速部1100は、クラッチC1、C2、C3及びC4と二組の差動機構からなり、これらの係合状態に応じて複数の変速段を実現する構成となっている。
【0160】
ここで、ハイブリッド駆動装置30によれば、この有段変速部1100の機能により、駆動要素と反力要素とを切り替えることが可能である。例えば、クラッチC1を締結状態とし、クラッチC2を解放状態とすれば、変速装置の入力軸は、図示入力軸600aとなり、上記実施形態と同様に、MG2が駆動要素(出力軸700との間でトルクの入出力を行う要素)となり、MG1が反力要素となる。その逆に、クラッチC2を締結状態とし、クラッチC1を解放状態とすれば、変速装置の入力軸は、図示入力軸600bとなり、上記実施形態とは異なり、MG1が駆動要素(この場合、MG1が本発明に係る「回転電機」として機能する)となり、MG2が反力要素となる。このように、変速部の係合状態によって、駆動要素と反力要素とを選択的に切り替えつつ走行可能なハイブリッド車両に対しても本発明は適用可能である。
【0161】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は、力行及び回生が可能な回転電機と車軸との間に有段の変速装置を備えた車両に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0163】
1…ハイブリッド車両、10…ハイブリッド駆動装置、100…ECU、200…エンジン、300…動力分割機構、400…変速装置、500…駆動軸、600…入力軸、700…出力軸。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸との間でトルクの入出力が可能な回転電機と、
前記入力軸と車軸に連結された出力軸との間に複数の係合装置を備えて設置され、前記入力軸と前記出力軸との間でトルクを伝達すると共に、前記複数の係合装置の各々の係合状態に応じて前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との比たる変速比を変化させることが可能な変速装置と
を備えた車両を制御する装置であって、
ブレーキオン操作を検出可能な検出手段と、
前記車両のコースト回生時に前記変速装置のダウンシフトがなされるコースト回生変速期間において前記ブレーキオン操作が検出された場合に、前記コースト回生変速期間における前記回転電機の回生トルクの増加を抑制する回生制御手段と
を具備することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記回生制御手段は、前記コースト回生変速期間における回生トルクを維持又は低減する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記車両の減速度の大小に応じて変速後の変速比に対応する前記係合装置の係合圧が夫々小大に変化するように前記変速装置を制御する変速制御手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両は、
車輪に対し物理的な制動力を付与可能な制動装置を備え、
前記車両の制御装置は、
前記回生制御手段により前記回生トルクの増加が抑制される期間において、前記回生トルクにより付与されるべき回生制動力の少なくとも一部が前記物理的な制動力により補われるように前記制動装置を制御する制動制御手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記車両は、
内燃機関と、
前記内燃機関に反力トルクを付与可能な反力要素としての前記回転電機とは異なる他の回転電機と、
前記内燃機関、前記回転電機及び前記他の回転電機に夫々連結される回転要素を含む複数の回転要素を備え、前記内燃機関の回転速度と前記回転電機の回転速度との比を無段階に変化させることが可能な差動機構と
を具備する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記変速装置は、前記係合装置の係合状態に応じて前記変速比が相互に異なる複数の変速段を構築可能な有段変速装置である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項1】
入力軸との間でトルクの入出力が可能な回転電機と、
前記入力軸と車軸に連結された出力軸との間に複数の係合装置を備えて設置され、前記入力軸と前記出力軸との間でトルクを伝達すると共に、前記複数の係合装置の各々の係合状態に応じて前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との比たる変速比を変化させることが可能な変速装置と
を備えた車両を制御する装置であって、
ブレーキオン操作を検出可能な検出手段と、
前記車両のコースト回生時に前記変速装置のダウンシフトがなされるコースト回生変速期間において前記ブレーキオン操作が検出された場合に、前記コースト回生変速期間における前記回転電機の回生トルクの増加を抑制する回生制御手段と
を具備することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記回生制御手段は、前記コースト回生変速期間における回生トルクを維持又は低減する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記車両の減速度の大小に応じて変速後の変速比に対応する前記係合装置の係合圧が夫々小大に変化するように前記変速装置を制御する変速制御手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両は、
車輪に対し物理的な制動力を付与可能な制動装置を備え、
前記車両の制御装置は、
前記回生制御手段により前記回生トルクの増加が抑制される期間において、前記回生トルクにより付与されるべき回生制動力の少なくとも一部が前記物理的な制動力により補われるように前記制動装置を制御する制動制御手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記車両は、
内燃機関と、
前記内燃機関に反力トルクを付与可能な反力要素としての前記回転電機とは異なる他の回転電機と、
前記内燃機関、前記回転電機及び前記他の回転電機に夫々連結される回転要素を含む複数の回転要素を備え、前記内燃機関の回転速度と前記回転電機の回転速度との比を無段階に変化させることが可能な差動機構と
を具備する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記変速装置は、前記係合装置の係合状態に応じて前記変速比が相互に異なる複数の変速段を構築可能な有段変速装置である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−199959(P2011−199959A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61408(P2010−61408)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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