説明

車両の回生制動制御装置

【課題】 車両重心位置がずれる状況において、必要以上の回生制動量の制限を抑えながら、車両挙動安定性を維持する回生制動制御を達成することができる車両の回生制動制御装置を提供すること。
【解決手段】 減速要求操作に基づき前後輪のうち一方の左右輪のみで回生制動を行う回生制動制御手段を備えた車両において、車両重心位置を推定する重心位置推定手段(ステップS2)を設け、前記回生制動制御手段は、推定される重心位置が基準重心位置からずれている状況を検知したら、重心位置ずれによる車両挙動特性変化を抑制する回生制動量の制限を行う手段とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速要求操作に基づき前後輪のうち一方の左右輪のみで回生制動を行う回生制動制御手段を備えた車両(ハイブリッド車や電気自動車等)の回生制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制動時、車両の挙動安定性の低下を抑制しつつ、エネルギ効率の低下を抑制することを目的とし、前後回転速度差に応じた相対スリップの増加勾配が大きい場合には小さい場合より回生制動トルクが小さくされる。それによって、回生制動トルクと液圧制動トルクにより前後総制動トルク配分を理想配分に近づけるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−344078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の回生制動制御装置にあっては、前後回転速度差に応じた相対スリップの増加勾配による回生制動制御であるが、車両重心位置が基準位置からずれ無いことを前提とするものであるため、乗員搭乗状態や荷物積載状態や走行路面勾配状態や旋回状態等に応じて車両重心位置が基準位置からずれた場合、重心位置のずれに対応できず最適な回生制動制御とはならない、という問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、車両重心位置がずれる状況において、必要以上の回生制動量の制限を抑えながら、車両挙動安定性を維持する回生制動制御を達成することができる車両の回生制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明における車両の回生制動制御装置では、減速要求操作に基づき前後輪のうち一方の左右輪のみで回生制動を行う回生制動制御手段を備えた車両において、
車両重心位置を推定する重心位置推定手段を設け、
前記回生制動制御手段は、推定される重心位置が基準重心位置からずれている状況を検知したら、重心位置ずれによる車両挙動特性変化を抑制する回生制動量の制限を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明の車両の回生制動制御装置にあっては、回生制動制御手段において、推定される重心位置が基準重心位置からずれている状況を検知したら、重心位置ずれによる車両挙動特性変化を抑制する回生制動量の制限が行われる。例えば、前輪を回生制動輪とする前輪駆動車での降坂路走行時、路面勾配により前輪への輪荷重が過多となることを原因とし、車両はアンダーステア傾向になる。この場合、重心位置が路面勾配により基準重心位置から前輪側へずれている状況を検知すると、前輪の回生制動量を制限することで、制動力配分の片寄りが軽減され、アンダーステア傾向が抑制される。一方、登坂路走行時で重心位置が路面勾配により基準重心位置から後輪側へずれている状況では、車両はアンダーステア傾向とならないことで、例えば、前輪の回生制動量を制限しない。この結果、車両重心位置がずれる状況(旋回走行・勾配走行・積載状態変化等)において、必要以上の回生制動量の制限を抑えながら、車両挙動安定性を維持する回生制動制御を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の車両の回生制動制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、ハイブリッド車の駆動系構成を説明する。
図1は実施例1の回生制動制御装置が適用されたハイブリッド車の駆動系を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1モータジェネレータMG1と、第2モータジェネレータMG2と、出力スプロケットOS、動力分割機構TMと、を有する。
【0009】
前記エンジンEは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。
【0010】
前記第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2は、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、パワーコントロールユニット3により作り出された三相交流を印加することによりそれぞれ独立に制御される。
前記両モータジェネレータMG1,MG2は、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。
【0011】
前記動力分割機構TMは、サンギヤSと、ピニオンPと、リングギヤRと、ピニオンキャリアPCと、を有する単純遊星歯車により構成されている。そして、単純遊星歯車の3つの回転要素(サンギヤS、リングギヤR、ピニオンキャリアPC)に対する入出力部材の連結関係について説明する。前記サンギヤSには、第1モータジェネレータMG1が連結されている。前記リングギヤRには、第2モータジェネレータMG2と出力スプロケットOSとが連結されている。前記ピニオンキャリアPCには、エンジンダンパEDを介してエンジンEが連結されている。なお、前記出力スプロケットOSは、チェーンベルトCBや図外のディファレンシャルやドライブシャフトを介して左右前輪に連結されている。
【0012】
上記連結関係により、図4に示す共線図上において、第1モータジェネレータMG1(サンギヤS)、エンジンE(プラネットキャリアPC)、第2モータジェネレータMG2及び出力スプロケットOS(リングギヤR)の順に配列され、単純遊星歯車の動的な動作を簡易的に表せる剛体レバーモデル(3つの回転数が必ず直線で結ばれる関係)を導入することができる。
ここで、「共線図」とは、差動歯車のギヤ比を考える場合、式により求める方法に代え、より簡単で分かりやすい作図により求める方法で用いられる速度線図であり、縦軸に各回転要素の回転数(回転速度)をとり、横軸に各回転要素をとり、各回転要素の間隔をサンギヤSとリングギヤRの歯数比λに基づく共線図レバー比(1:λ)になるように配置したものである。
【0013】
次に、ハイブリッド車の制御系を説明する。
実施例1におけるハイブリッド車の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、パワーコントロールユニット3と、バッテリ4と、ブレーキコントローラ5(機械制動力制御手段)と、統合コントローラ6と、を有して構成されている。なお、バッテリ4(強電バッテリ)には、バッテリ4を電源とする図外のDC/DCコンバータを介して補助バッテリが接続され、この補助バッテリを、各コントローラ1,2,5,6の動作電源とする。
【0014】
前記統合コントローラ6には、アクセル開度センサ7と、車速センサ8と、エンジン回転数センサ9と、第1モータジェネレータ回転数センサ10と、第2モータジェネレータ回転数センサ11と、前左車輪荷重センサ27(輪荷重検出手段)と、前右車輪荷重センサ28(輪荷重検出手段)と、後左車輪荷重センサ29(輪荷重検出手段)と、後右車輪荷重センサ30(輪荷重検出手段)と、から入力情報がもたらされる。各車輪荷重センサ27,28,29,30は、4輪の各サスペンションと車体との間の位置に設けられ、それぞれの検出値をモニタし、荷重バランス及び総重量の把握、重心位置推定を行う。
【0015】
前記ブレーキコントローラ5には、前左車輪速センサ12と、前右車輪速センサ13と、後左車輪速センサ14と、後右車輪速センサ15と、操舵角センサ16と、マスタシリンダ圧センサ17と、ブレーキストロークセンサ18と、から入力情報がもたらされる。
【0016】
前記エンジンコントローラ1は、アクセル開度センサ7からのアクセル開度APとエンジン回転数センサ9からのエンジン回転数Neを入力する統合コントローラ6からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。
【0017】
前記モータコントローラ2は、レゾルバによる両モータジェネレータ回転数センサ10,11からのモータジェネレータ回転数N1,N2を入力する統合コントローラ6からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、第1モータジェネレータMG1のモータ動作点(N1,T1)と、第2モータジェネレータMG2のモータ動作点(N2,T2)と、をそれぞれ独立に制御する指令をパワーコントロールユニット3へ出力する。なお、このモータコントローラ2は、バッテリ4の充電状態をあらわすバッテリS.O.Cの情報を用いる。
【0018】
前記パワーコントロールユニット3は、図外のジョイントボックスと昇圧コンバータと駆動モータ用インバータと発電ジェネレータ用インバータとを有し、損失を抑えたより少ない電流で両モータジェネレータMG1,MG2への電力供給が可能な電源系高電圧システムを構成する。前記第2モータジェネレータMG2のステータコイルには、駆動モータ用インバータが接続され、前記第1モータジェネレータMG1のステータコイルには、発電ジェネレータ用インバータが接続される。また、前記ジョイントボックスには、力行時に放電し回生時に充電するバッテリ4が接続される。
【0019】
前記ブレーキコントローラ5は、低μ路制動時や急制動時等において、4輪のブレーキ液圧を独立に制御するブレーキ液圧ユニット19への制御指令によりABS制御を行い、また、ブレーキ踏み込み操作やアクセル足離し操作等による減速要求操作時、統合コントローラ6への制御指令とブレーキ液圧ユニット19への制御指令を出すことで回生協調ブレーキ制御を行う。このブレーキコントローラ5には、各車輪速センサ12,13,14,15からの車輪速情報や、操舵角センサ16からの操舵角情報や、マスタシリンダ圧センサ17やブレーキストロークセンサ18からの制動操作量情報が入力される。そして、これらの入力情報に基づいて、所定の演算処理を実行し、その処理結果による制御指令を統合コントローラ6とブレーキ液圧ユニット19へ出力する。なお、前記ブレーキ液圧ユニット19には、前左車輪ホイールシリンダ20と、前右車輪ホイールシリンダ21と、後左車輪ホイールシリンダ22と、後右車輪ホイールシリンダ23と、が接続されている。なお、ブレーキ液圧ユニット19及び各ホイールシリンダ20,21,22,23は、機械制動手段に相当する。
【0020】
前記統合コントローラ6は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、加速走行時等において、エンジンコントローラ1への制御指令によりエンジン動作点制御を行い、また、停止時や走行時や制動時等において、モータコントローラ2への制御指令によりモータジェネレータ動作点制御を行う。この統合コントローラ6には、各センサ7,8,9,10,11からのアクセル開度APと車速VSPとエンジン回転数Neと第1モータジェネレータ回転数N1と第2モータジェネレータ回転数N2とが入力される。そして、これらの入力情報に基づいて、所定の演算処理を実行し、その処理結果による制御指令をエンジンコントローラ1とモータコントローラ2へ出力する。なお、統合コントローラ6とエンジンコントローラ1、統合コントローラ6とモータコントローラ2、統合コントローラ6とブレーキコントローラ5は、情報交換のためにそれぞれ双方向通信線24,25,26により接続されている。
【0021】
次に、駆動力性能について説明する。
実施例1のハイブリッド車の駆動力は、図2(b)に示すように、エンジン直接駆動力(エンジン総駆動力から発電機駆動分を差し引いた駆動力)とモータ駆動力(両モータジェネレータMG1,MG2の総和による駆動力)との合計で示される。その最大駆動力の構成は、図2(a)に示すように、低い車速ほどモータ駆動力が多くを占める。このように、変速機を持たず、エンジンEの直接駆動力と電気変換したモータ駆動力を加えて走行させることから、低速から高速まで、定常運転のパワーの少ない状態からアクセルペダル全開のフルパワーまで、ドライバの要求に対しシームレスに応答良く駆動力をコントロールすることができる(トルク・オン・デマンド)。
そして、実施例1のハイブリッド車では、動力分割機構TMを介し、エンジンEと両モータジェネレータMG1,MG2と左右前輪のタイヤとがクラッチ無しで繋がっている。また、上記のように、エンジンパワーの大部分を発電機で電気エネルギに変換し、高出力かつ高応答のモータで車両を走らせている。このため、例えば、アイスバーン等の滑りやすい路面での走行時において、タイヤのスリップやブレーキ時のタイヤのロック等で車両の駆動力が急変する場合、過剰電流からのパワーコントロールユニット3の保護、あるいは、動力分割機構TMのピニオン過回転からの部品保護を行う必要がある。これに対し、高出力・高応答のモータ特性を活かし、部品保護の機能から発展させて、タイヤのスリップを瞬時に検出し、そのグリップを回復させ、車両を安全に走らせるためのモータトラクションコントロールを採用している。
【0022】
次に、制動力性能について説明する。
実施例1のハイブリッド車では、ブレーキ踏み込み操作やアクセル足離し操作等による減速要求操作時には、モータとして作動している第2モータジェネレータMG2を発電機として作動させることにより、車両の運動エネルギを電気エネルギに変換してバッテリ4に回収し、再利用する回生ブレーキシステムを採用している。
この回生ブレーキシステムでの一般的な回生ブレーキ協調制御は、図3(a)に示すように、ブレーキペダル踏み込み量に対し要求制動力を算出し、要求制動力に大きさにかかわらず、算出された要求制動力を回生分と油圧分とで分担することで行われる。
これに対し、実施例1のハイブリッド車で採用している回生ブレーキ協調制御は、図3(b)に示すように、ブレーキペダル踏み込み量に対し要求制動力を算出し、算出された要求制動力に対し回生ブレーキを優先し、回生分で賄える限りは油圧分を用いることなく、最大限まで回生分の領域を拡大している。これにより、特に加減速を繰り返す走行パターンにおいて、エネルギ回収効率が高く、より低い車速まで回生制動によるエネルギの回収を実現している。
【0023】
次に、車両モードについて説明する。
実施例1のハイブリッド車での車両モードとしては、図4の共線図に示すように、「停車モード」、「発進モード」、「エンジン始動モード」、「定常走行モード」、「加速モード」を有する。
「停車モード」では、図4(a)に示すように、エンジンEと発電機MG1とモータMG2は止まっている。「発進モード」では、図4(b)に示すように、モータMG2鑿の駆動で発進する。「エンジン始動モード」では、図4(c)に示すように、エンジンスタータとしての機能を持つ発電機MG1によって、サンギヤSが回ってエンジンEを始動する。「定常走行モード」では、図4(d)に示すように、主にエンジンEにて走行し、効率を高めるために発電を最小にする。「加速モード」では、図4(e)に示すように、エンジンEの回転数を上げると共に、発電機MG1による発電を開始し、その電力とバッテリ4の電力を使ってモータMG2の駆動力を加え、加速する。
なお、後退走行は、図4(d)に示す「定常走行モード」において、エンジンEの回転数上昇を抑えたままで、発電機MG1の回転数を上げると、モータMG2の回転数が負側に移行し、後退走行を達成することができる。
【0024】
始動時には、イグニッションキーを回すことでエンジンEを始動させるが、エンジンEが暖機すると、直ぐにエンジンEを停止する。発進時やごく低速で走行する緩やかな坂を下る軽負荷時などは、エンジン効率の悪い領域は燃料をカットし、エンジンEは停止してモータMG2により走行する。通常走行時において、エンジンEの駆動力は、動力分割機構TMにより一方は左右前輪を直接駆動し、他方は発電機MG1を駆動し、モータMG2をアシストする。全開加速時は、バッテリ4からパワーが供給され、さらに駆動力を追加する。減速要求操作時には、左右前輪がモータMG2を駆動し、発電機として作用することで回生発電を行う。回収した電気エネルギはバッテリ4に蓄えられる。バッテリ4の充電量が少なくなると、発電機MG1をエンジンEにより駆動し、充電を開始する。車両停止時には、エアコン使用時やバッテリ充電時等を除き、エンジンEを自動的に停止する。
【0025】
次に、作用を説明する。
[旋回時の回生制動制御処理]
図5は実施例1の統合コントローラ6にて実行される旋回時の回生制動制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する(回生制動制御手段)。
【0026】
ステップS1では、各車輪荷重センサ27,28,29,30からの検出値を把握確認し、ステップS2へ移行する。
【0027】
ステップS2では、ステップS1での輪荷重センサ検出値確認に続き、左前輪と右前輪と左後輪と右後輪との各輪荷重検出値のバランスにより重心位置を推定し、ステップS3へ移行する(重心位置推定手段)。
ここでの「重心位置推定」は、左右前輪と左右後輪の輪荷重検出値のバランスによる車両前後方向(X方向)の位置と、左前後輪と右前後輪の輪荷重検出値のバランスによる車両幅方向(Y方向)の位置と、により規定される二次元平面での重心位置を推定する。
【0028】
ステップS3では、ステップS2での重心位置推定に続き、図7に示す「車両前後方向への重心変動に対する回生量設定マップ」と、図8に示す「車両幅方向への重心変動に対する回生量設定マップ」を参照し、旋回時回生量を設定する。
ここで、「車両前後方向への重心変動に対する回生量設定マップ」は、図7に示すように、基準重心位置(横軸0位置)と推定重心位置との車両前後方向偏差が車両前方側にずれているほど回生量を制限し、最大制限値は回生制動力と液圧制動力による前後輪の制動力配分比が理想配分比となるように規定している。これは、左右前輪のみで回生制動(回生100%)を行う場合、重心位置が車両前方側にずれるほどステア特性がアンダーステア傾向を示すことによる。よって、基準重心位置と推定重心位置との車両前後方向偏差が車両後方側にずれる場合は回生量を制限しない。
「車両幅方向への重心変動に対する回生量設定マップ」は、図8に示すように、基準重心位置(横軸0位置)と推定重心位置との車両幅方向偏差が旋回方向とは反対側方向にずれているほど回生量を制限し、最大制限値は回生制動力と液圧制動力による前後輪の制動力配分比が理想配分比となるように規定している。これは、左右前輪のみで回生制動(回生100%)を行う場合、重心位置が旋回方向とは反対側方向にずれるほど旋回外輪側の制動力が高まり、その分、旋回外輪の横力が減少気味になり、ステア特性がアンダーステア傾向を示すことによる。よって、基準重心位置と推定重心位置との車両幅方向偏差が旋回方向と同方向側にずれる場合は回生量を制限しない。
前記「基準重心位置」は、車両生産時、基準体重のドライバが平坦路で搭乗し、且つ、積載物が無い状態での重心位置とする。
【0029】
ステップS4では、ステップS3での旋回時回生量設定に続き、左前輪と右前輪と左後輪と右後輪との輪荷重センサ検出値総和と、図6に示す「車両上下方向重心位置推定マップ」とにより車両上下方向重心位置を推定し、基準重心位置に対する推定した車両上下方向重心位置の比をとり、その比によりステップS3にて求められた回生量を補正し、ステップS5へ移行する。
ここで、「車両上下方向重心位置推定マップ」は、図6に示すように、輪荷重センサ検出値総和が設定値TA(基準重心位置相当)までの領域では、推定される車両上下方向重心位置は基準重心位置まで徐々に低下し、輪荷重センサ検出値総和が設定値TAを超えて最大積載時の輪荷重センサ検出値総和となるまでは、基準重心位置からより大きな勾配にて下降する特性にて与えられる。これは、乗員数や積載荷重により、車両上下方向の重心位置が変わってきた場合、旋回によるロール量、制動によるノーズダイブ量への影響を加味する必要があることによる。
そして、基準重心位置に対する推定した車両上下方向重心位置の比とステップS3にて求められた回生量とを乗じることにより、車両前後方向への重心変動に対する回生量と、車両幅方向への重心変動に対する回生量と、を補正する。つまり、輪荷重センサ検出値総和が設定値TAまでは推定した車両上下方向重心位置が基準重心位置から上側に大きいほど回生量の制限を強める。これは、車体重心が高くなった場合、旋回時にロール量及びダイブ量が大きくなることによる。また、輪荷重センサ検出値総和が設定値TAを超えると回生量の制限を逆に緩和するようにしている。これは、車体重心が低くなれば、旋回時にロール量及びダイブ量が低減されることによる。
【0030】
ステップS5では、ステップS4での車両上下方向重心位置推定結果による回生量補正に続き、車両システム終了フローへ移行するか否かが判断され、YESの場合には終了へ移行し、NOの場合にはステップS1へ戻る。すなわち、ドライバーが車両システムを遮断する(例えば、イグニッションOFF信号を検出)場合、本制御を終了させ、システム起動を継続するならばステップS1へとフィードバックする。
【0031】
[車両旋回制動時における回生制限作用]
従来、旋回時の回生量設定は、ヨーモーメント発生方向によらず、発生量に応じて設定されていたが、車両重心は積載状態により異なり、例えば、右回りモーメント発生時に重心が車両左寄りにある場合と同右寄りにある場合とでは、コーナリングパワーの発生程度に差が出るはずである。すなわち、必要以上に回生量を制限する可能性がある。
【0032】
これに対し、実施例1では、車両前後方向の重心位置ずれ(積載状態の偏在)と、車両幅方向の重心位置ずれ(ヨーモーメント発生方向)とを考慮することにより、旋回時に適切な回生量制限の設定が可能となる。すなわち、旋回時には、図5のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進む流れとなり、ステップS2での重心位置推定に基づき、ステップS3では、図7に示す「車両前後方向への重心変動に対する回生量設定マップ」と、図8に示す「車両幅方向への重心変動に対する回生量設定マップ」を参照し、旋回時回生量が設定される。
【0033】
例えば、左右前輪のみで回生制動(回生100%)を行う場合、重心位置が車両前方側にずれるほどステア特性がアンダーステア傾向を示すため、基準重心位置と推定重心位置との車両前後方向偏差が車両前方側にずれているほど回生量を制限し(図7)、回生制動力の前輪片寄りによるアンダーステア傾向を緩和するようにしている。しかし、基準重心位置と推定重心位置との車両前後方向偏差が車両後方側にずれる場合は回生量を制限しないことで、「必要以上の回生量制限することがなくなる」→「エネルギー回収効率向上」→「燃費向上」を実現している。
【0034】
また、左右前輪のみで回生制動(回生100%)を行う場合、重心位置が旋回方向とは反対側方向にずれるほど旋回外輪側の制動力が高まり、その分、旋回外輪の横力が減少気味になり、ステア特性がアンダーステア傾向を示すため、基準重心位置と推定重心位置との車両幅方向偏差が旋回方向とは反対側方向にずれているほど回生量を制限し(図8)、回生制動力の前輪片寄りによるアンダーステア傾向を緩和するようにしている。しかし、基準重心位置と推定重心位置との車両幅方向偏差が旋回方向と同方向側にずれる場合は回生量を制限しないことで、「必要以上の回生量制限することがなくなる」→「エネルギー回収効率向上」→「燃費向上」を実現している。
【0035】
さらに、車両前後方向への重心変動に対して回生量を制限する場合、及び、車両幅方向への重心変動に対して回生量を制限する場合、図7及び図8に示すように、最大制限値は回生制動力と液圧制動力による前後輪の制動力配分比が理想配分比となるように規定している。これによって、最大制限値は、前輪先ロックが無く、前後輪がほぼ同時にロックして停止する最大効率の制動性能が発揮されることになる。
【0036】
以上は車両の重心位置が車両前方と車両幅方向へずれる場合についての説明であるが、積載重量により、車両上下方向の重心位置が変わってくるため、旋回によるロール量や制動によるノーズダイブ量への影響を加味する必要がある。実施例1では、図5のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進み、ステップS3での旋回時回生量設定に続き、ステップS4では、左前輪と右前輪と左後輪と右後輪との輪荷重センサ検出値の総和と、図6に示す「車両上下方向重心位置推定マップ」とにより、車両上下方向の重心位置を推定し、基準重心位置に対して推定した車両上下方向重心位置の比により、ステップS3にて求められた回生量を補正するようにしている。このことは、ステップS3にて求められた回生量を推定した車両上下方向重心位置にて補正することで、車両前後方向重心位置と車両幅方向重心位置と車両上下方向重心位置との3次元での重心推定を行うのと同義である。
【0037】
つまり、本提案では、輪荷重センサ検出値総和(=車両重量)から基準重心位置との差異を推定する。言い換えると、基準重心位置とメーカが申請する最大積載量を搭載時の車両重心位置(車両上下方向)との間を、輪荷重センサ検出値総和に基づき補正する、となる(図6参照)。
この図6の「車両上下方向重心位置推定マップ」にて、輪荷重センサ検出値総和が設定値TAまでは、推定される車両上下方向重心位置は基準重心位置まで徐々に低下する特性で与えるのは(補正値>1)、車両上下方向偏差が上側に大きいほど旋回時にロール量やダイブ量が出やすくなることによる。しかし、輪荷重センサ検出値総和が設定値TAを超えて最大積載時の輪荷重センサ検出値総和となるまでは、基準重心位置から大きな勾配にて低下する特性にて与えるのは(補正量<1)、重心が低くなれば、ロール量及びノーズダイブ量が低減されることで車両挙動としては安定方向に移行することによる。
【0038】
これにより、車両上下方向重心位置の変動によるロール量やダイブ量の影響を考慮して適切に回生量を補正しながら、上下方向重心位置が基準重心位置より低くなる領域では回生量の制限緩和により、「重心が低くなればロール量及びノーズダイブ量が低減される」→「必要以上の回生量制限することがなくなる」→「エネルギー回収効率向上」→「燃費向上」を実現している。
【0039】
図9は車両旋回制動時における旋回量・勾配量・前後方向重心・幅方向重心・上下方向重心・設定回生量の各特性を示すタームチャートである。このタイムチャートによると、旋回量に応じて幅方向重心が変化し、路面の勾配量に応じて前後方向重心が変化し、途中での荷物減量に応じて上下方向重心が変化している。そして、前後方向重心と幅方向重心とにより決められた設定回生量を上下方向重心により補正することで、最終的な設定回生量を得ている。
【0040】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の回生制動制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0041】
(1) 減速要求操作に基づき前後輪のうち一方の左右輪のみで回生制動を行う回生制動制御手段を備えた車両において、車両重心位置を推定する重心位置推定手段(ステップS2)を設け、前記回生制動制御手段は、推定される重心位置が基準重心位置からずれている状況を検知したら、重心位置ずれによる車両挙動特性変化を抑制する回生制動量の制限を行うため、車両重心位置がずれる状況において、必要以上の回生制動量の制限を抑えながら、車両挙動安定性を維持する回生制動制御を達成することができる。
【0042】
(2) 前記回生制動制御手段は、推定重心位置と基準重心位置の車両前後方向偏差と、推定重心位置と基準重心位置の車両幅方向偏差とに分けて回生制動量の制限を行うため、旋回時に重心移動を二次元平面内にてベクトル化して表現することにより、車両前後方向偏差や車両幅方向偏差により生じるステア特性の変化を回避する回生制動量の制限量を容易に設定することができる。
【0043】
(3) 前記回生制動制御手段は、車両前後方向偏差が回生制動輪側に大きいほど回生制動量を制限し、且つ、旋回方向とは逆方向の車両幅方向偏差が大きいほど回生制動量を制限するため、車両重心位置が前後方向と幅方向にずれる状況において、アンダーステアが発生する可能性が低い場合に回生制動量の制限を抑えながら、アンダーステア傾向の抑制により車両挙動安定性を維持することができる。
例えば、降坂の場合、前輪への荷重過多になることが原因でアンダーステア傾向となる。このとき、車両前後方向偏差が回生制動輪側に大きいほど回生制動量を制限することで、制動力配分の前輪寄りが緩和され、アンダーステア傾向を抑制できる。一方、登坂中等、後輪側に荷重がかかっている状態出旋回する場合、アンダーステアが発生する可能性が低くなることで、前輪回生量を100%に維持することで回生量をアップすることができる。このように、従来は車両中央に重心があると一義的に設定していたが、旋回中に荷重がかかっている側と、旋回方向との関係を考慮することにより、必要以上に回生量を制限する必要が無くなり、結果的に回生量をアップさせることが可能となる。
【0044】
(4) 前記回生制動制御手段は、推定重心位置と基準重心位置の車両上下方向偏差が上側に大きいほど回生制動量の制限を行うため、車体重心が高くなった場合、旋回時にロールやノーズダイブ量が大きくなるが、これを考慮して回生量を設定することにより、上下方向の重心位置に変化にかかわらず、アンダーステアの発生を確実に回避することができる。また、全パラメータを同時に確認するため、複数のパラメータ(車両前後方向に対する回生量、車両幅方向に対する回生量)を同時に精度高く設定することが可能となる。
【0045】
(5) 各車輪毎に設けられる輪荷重センサ27,28,29,30を設け、前記重心位置推定手段は、4輪の輪荷重バランスにより車両前後方向(X方向)位置及び車両幅方向(Y方向)位置を仮推定し、4輪の総輪荷重により車両上下方向(Z方向)位置を推定し、推定した車両上下方向位置により前記仮推定した車両前後方向位置及び車両幅方向位置を補正することで、3次元での重心位置推定を行うため、輪荷重センサ27,28,29,30を採用するだけで、新規センサ追加が不要で本制御を適用することが可能となる。また、精度高く重心位置を推定できるX方向及びY方向を仮設定し、その後、Z方向成分を補正する手法により、簡単ではありながらも3次元での重心推定が可能となる。
【0046】
(6) 前記回生制動制御手段は、基準重心位置は、車両生産時、基準体重のドライバが平坦路で搭乗し、且つ、積載物が無い状態での重心位置とするため、重心位置の基準を持ち、法規規定積載量を搭載した場合の重心変動範囲(特に上下方向)を推定することにより、簡単に回生量設定マップを設定することが可能となる。
【0047】
(7) 回生制動を行わない左右後輪にて液圧制動力を発生するブレーキ液圧ユニット19及び各ホイールシリンダ22,23を設け、前記回生制動制御手段は、前輪の回生制動量を制限するとき、この制限量に応じて後輪の液圧制動力を増加させ、且つ、回生制動量の最大制限量を、回生制動力と液圧制動力による前後輪の制動力配分比が理想配分比となるように規定する回生協調制御を行うため、回生制動量の制限時に要求制動力を満足する総制動力を得ることができると共に、回生制動量の最大制限時には高い制動性能により安定した車両挙動で制動することができる。
【実施例2】
【0048】
実施例2は、勾配走行時の回生制動制御の例である。なお、構成的には実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0049】
次に、作用を説明する。
[勾配走行時の回生制動制御処理]
図10は実施例2の統合コントローラ6にて実行される勾配走行時の回生制動制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する(回生制動制御手段)。
【0050】
ステップS21では、各車輪荷重センサ27,28,29,30からの検出値を把握確認し、ステップS22へ移行する。
【0051】
ステップS22では、ステップS21での輪荷重センサ検出値確認に続き、左前輪と右前輪と左後輪と右後輪との各輪荷重検出値のバランスにより重心位置を推定し、ステップS23へ移行する(重心位置推定手段)。
【0052】
ステップS23では、ステップS22での重心位置推定に続き、図11に示す「車両前後方向への重心変動に対する回生量設定マップ(勾配走行時)」を参照し、旋回時回生量を設定する。
ここで、「車両前後方向への重心変動に対する回生量設定マップ」は、図11に示すように、基準重心位置(横軸0位置)と推定重心位置との車両前後方向偏差が車両前方側にΔSずれるまでは、前輪側回生100%を維持し、車両前後方向偏差が車両前方側にΔS以上ずれると、ずれ量に応じて回生量を制限し、最大制限値は回生制動力と液圧制動力による前後輪の制動力配分比が理想配分比となるように規定している。図7との差異は、エネルギー回収量を増加させることに注力した点である。勾配走行中は直進であり、旋回時のようにアンダーステア傾向を確実に回避するために制限側へ設定する必要性が低いことによる。なお、前記「基準重心位置」は、車両生産時、基準体重のドライバが平坦路で搭乗し、且つ、積載物が無い状態での重心位置とする。
【0053】
ステップS24では、ステップS23での勾配走行時回生量設定に続き、左前輪と右前輪と左後輪と右後輪との輪荷重センサ検出値総和と、図6に示す「車両上下方向重心位置推定マップ」とにより車両上下方向重心位置を推定し、基準重心位置に対する推定した車両上下方向重心位置の比をとり、その比によりステップS23にて求められた回生量を補正し、ステップS25へ移行する。
ここで、「車両上下方向重心位置推定マップ」は、図6に示すように、輪荷重センサ検出値総和が設定値TA(基準重心位置相当)までの領域では、推定される車両上下方向重心位置は基準重心位置まで徐々に低下し、輪荷重センサ検出値総和が設定値TAを超えて最大積載時の輪荷重センサ検出値総和となるまでは、基準重心位置からより大きな勾配にて下降する特性にて与えられる。これは、路面勾配により、車両上下方向の重心位置が変わってきた場合、制動によるノーズダイブ量への影響を加味する必要があることによる。
そして、基準重心位置に対する推定した車両上下方向重心位置の比とステップS23にて求められた回生量とを乗じることにより、車両前後方向への重心変動に対する回生量を補正する。つまり、輪荷重センサ検出値総和が設定値TAまでは推定した車両上下方向重心位置が基準重心位置から上側に大きいほど回生量の制限を強める。これは、車体重心が高くなった場合、制動時にノーズダイブ量が大きくなることによる。また、輪荷重センサ検出値総和が設定値TAを超えると回生量の制限を逆に緩和するようにしている。これは、車体重心が低くなれば、制動時にノーズダイブ量が低減されることによる。
【0054】
ステップS25では、ステップS24での車両上下方向重心位置推定結果による回生量補正に続き、車両システム終了フローへ移行するか否かが判断され、YESの場合には終了へ移行し、NOの場合にはステップS21へ戻る。すなわち、ドライバーが車両システムを遮断する(例えば、イグニッションOFF信号を検出)場合、本制御を終了させ、システム起動を継続するならばステップS21へとフィードバックする。
【0055】
[勾配走行時における回生制限作用]
勾配走行時には、図10のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23へと進む流れとなり、ステップS22での重心位置推定に基づき、ステップS23では、図11に示す「車両前後方向への重心変動に対する回生量設定マップ(勾配走行時)」を参照し、旋回時回生量が設定される。
【0056】
例えば、左右前輪のみで回生制動(回生100%)を行う場合、重心位置が車両前方側にずれるほどステア特性がアンダーステア傾向を示すため、旋回時には基準重心位置と推定重心位置との車両前後方向偏差が車両前方側にずれているほど回生量を制限し、回生制動力の前輪片寄りによるアンダーステア傾向を緩和するようにしている(図7)。しかし、勾配走行中は直進であり、旋回時のようにアンダーステア傾向を確実に回避するために制限側へ設定する必要性が低い。よって、基準重心位置と推定重心位置との車両前後方向偏差が車両前方側にΔSずれるまでは、前輪側回生100%を維持している。これによって、旋回時に比べて回生量の制限を緩和することで、「必要以上の回生量制限することがなくなる」→「エネルギー回収効率向上」→「燃費向上」を実現している。
【0057】
そして、積載重量により、車両上下方向の重心位置が変わってくるため、制動によるノーズダイブ量への影響を加味する必要がある。実施例2では、図10のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24へと進み、ステップS23での勾配走行時回生量設定に続き、ステップS24では、輪荷重センサ検出値総和と、図6に示す「車両上下方向重心位置推定マップ」とにより、車両上下方向の重心位置を推定し、基準重心位置に対して推定した車両上下方向重心位置の比により、ステップS23にて求められた回生量を補正するようにしている。
【0058】
つまり、本提案では、輪荷重センサ検出値総和(=車両重量)から基準重心位置との差異を推定する。言い換えると、基準重心位置とメーカが申請する最大積載量を搭載時の車両重心位置(車両上下方向)との間を、輪荷重センサ検出値総和に基づき補正する、となる(図6参照)。
この図6の「車両上下方向重心位置推定マップ」にて、輪荷重センサ検出値総和が設定値TAまでは、推定される車両上下方向重心位置は基準重心位置まで徐々に低下する特性で与えるのは(補正値>1)、車両上下方向偏差が上側に大きいほど制動時にノーズダイブ量が出やすくなることによる。しかし、輪荷重センサ検出値総和が設定値TAを超えて最大積載時の輪荷重センサ検出値総和となるまでは、基準重心位置から大きな勾配にて低下する特性にて与えるのは、重心が低くなれば、ノーズダイブ量が低減されることで車両挙動としては安定方向に移行することによる。
【0059】
これにより、車両上下方向重心位置の変動によるノーズダイブ量の影響を考慮して適切に回生量を補正しながら、上下方向重心位置が基準重心位置より低くなる領域では回生量の制限緩和により、「重心が低くなればノーズダイブ量が低減される」→「必要以上の回生量制限することがなくなる」→「エネルギー回収効率向上」→「燃費向上」を実現している。
【0060】
図12は勾配走行時における勾配量・前後方向重心・上下方向重心・設定回生量の各特性を示すタームチャートである。このタイムチャートによると、路面の勾配量に応じて前後方向重心が変化し、途中での荷物減量に応じて上下方向重心が変化している。そして、前後方向重心により決められた設定回生量を上下方向重心により補正することで、最終的な設定回生量を得ている。なお、他の作用は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0061】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両の回生制動制御装置にあっては、実施例1の効果(但し、車両幅方向の重心変動による効果を除く)に加え、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0062】
(8) 前記回生制動制御手段は、車両幅方向偏差が所定値以下で、車両前後方向偏差が発生しているとき、車両前後方向偏差が回生制動輪側に大きい場合の回生制動量の制限を旋回時に比べて緩和するため、勾配走行時には旋回時に比べ、エネルギー回収効率が向上し、その結果、燃費向上を実現することができる。
【0063】
(9) 前記回生制動制御手段は、推定重心位置と基準重心位置の車両上下方向偏差が上側に大きいほど回生制動量の制限を行うため、車体重心が高くなった場合、勾配走行時にノーズダイブ量が大きくなるが、これを考慮して回生量を設定することにより、上下方向の重心位置の変化にかかわらず、アンダーステアの発生を確実に回避することができる。
【0064】
以上、本発明の車両の回生制動制御装置を実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0065】
実施例1,2では、前輪駆動ベースの車両(FF車)への適用例を示したが、後輪駆動ベース車両(例えば、FR車)にも本発明の回生制動制御装置を適用することができる。このFR車の場合、旋回時に後輪の回生量を制限することで、オーバステア傾向を抑制することができる。
【0066】
実施例1,2では、回生制動制御手段として、各輪の車輪速センサ値により推定される重心位置が基準重心位置からずれている状況を検知したら、重心位置ずれによるアンダーステア傾向やロール変化やノーズダイブを抑制する回生制動量の制限を行なう例を示したが、例えば、重心位置が基準重心位置からずれている状況を検知は、荷物積載や乗員数により予め重心位置のずれが明かな場合、ドライバーの設定により行っても良い。また、重心位置ずれにより車両挙動特性変化する場合、車両挙動特性変化を抑制する回生制動量の制限を行なうと共に、車両挙動特性変化を積極的に回避する制動力差によるヨーモーメント制御(VDC制御)を採用するようにしても良い。要するに、回生制動制御手段は、推定される重心位置が基準重心位置からずれている状況を検知したら、重心位置ずれによる車両挙動特性変化を抑制する回生制動量の制限を行うものであれば本発明に含まれる。
【0067】
実施例1,2では、重心ずれに対する回生モードとして、図6,図7,図8,図11に示すように、回生100%モードから理想配分モードまでを重心ずれ量の大きさに応じて無段階に変更させる例を示したが、例えば、回生100%モードと理想配分モードとを所定の重心ずれ量を境にして2段階にて切り替える例としても良いし、さらに、回生100%モードから理想配分モードまでを重心ずれ量の大きさに応じて複数段階に切り替えるようにしても良い。
【0068】
実施例1,2では、機械制動手段として、ブレーキ油圧により油圧制動力を得る手段の例を示したが、電気モータ式ブレーキ(EMB)等の回生制動力以外により機械制動力を得るものであっても含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
実施例1,2では、1つのエンジンと2つのモータジェネレータと動力分割機構を備えた前輪駆動のハイブリッド車への適用例を示したが、本発明の回生制動制御装置は、他のパワーユニット構造を備えた前輪駆動あるいは後輪駆動によるハイブリッド車や電気自動車や燃料電池車等、要するに、減速要求操作に基づき前後輪のうち一方の左右輪のみで回生制動を行う回生制動制御手段を備えた車両であれば適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1の回生制動制御装置が適用されたハイブリッド車を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の回生制動制御装置が適用されたハイブリッド車における駆動力性能特性図と駆動力概念図である。
【図3】実施例1の回生制動制御装置が適用されたハイブリッド車における回生協調による制動力性能をあらわす対比特性図である。
【図4】実施例1の回生制動制御装置が適用されたハイブリッド車における各車両モードを示す共線図である。
【図5】実施例1の統合コントローラにて実行される旋回時の回生制動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1の車両上下方向重心位置推定マップを示す図である。
【図7】実施例1の車両前後方向への重心移動に対する回生量設定マップ(旋回時)を示す図である。
【図8】実施例1の車両幅方向への重心移動に対する回生量設定マップ(旋回時)を示す図である。
【図9】実施例1の車両旋回制動時における旋回量・勾配量・前後方向重心・幅方向重心・上下方向重心・設定回生量の各特性を示すタームチャートである。
【図10】実施例2の統合コントローラにて実行される勾配走行時の回生制動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】実施例2の車両前後方向への重心移動に対する回生量設定マップ(勾配走行時)を示す図である。
【図12】実施例2の勾配走行時における勾配量・前後方向重心・上下方向重心・設定回生量の各特性を示すタームチャートである。
【符号の説明】
【0071】
E エンジン
MG1 第1モータジェネレータ
MG2 第2モータジェネレータ
OS 出力スプロケット
TM 動力分割機構
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 パワーコントロールユニット
4 バッテリ
5 ブレーキコントローラ
6 統合コントローラ
7 アクセル開度センサ
8 車速センサ
9 エンジン回転数センサ
10 第1モータジェネレータ回転数センサ
11 第2モータジェネレータ回転数センサ
12 前左車輪速センサ
13 前右車輪速センサ
14 後左車輪速センサ
15 後右車輪速センサ
16 操舵角センサ
17 マスタシリンダ圧センサ
18 ブレーキストロークセンサ
19 ブレーキ液圧ユニット
20 前左車輪ホイールシリンダ
21 前右車輪ホイールシリンダ
22 後左車輪ホイールシリンダ
23 後右車輪ホイールシリンダ
24,25,26 双方向通信線
27 前左車輪荷重センサ(輪荷重検出手段)
28 前右車輪荷重センサ(輪荷重検出手段)
29 後左車輪荷重センサ(輪荷重検出手段)
30 後右車輪荷重センサ(輪荷重検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速要求操作に基づき前後輪のうち一方の左右輪のみで回生制動を行う回生制動制御手段を備えた車両において、
車両重心位置を推定する重心位置推定手段を設け、
前記回生制動制御手段は、推定される重心位置が基準重心位置からずれている状況を検知したら、重心位置ずれによる車両挙動特性変化を抑制する回生制動量の制限を行うことを特徴とする車両の回生制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の回生制動制御装置において、
前記回生制動制御手段は、推定重心位置と基準重心位置の車両前後方向偏差と、推定重心位置と基準重心位置の車両幅方向偏差とに分けて回生制動量の制限を行うことを特徴とする車両の回生制動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された車両の回生制動制御装置において、
前記回生制動制御手段は、車両前後方向偏差が回生制動輪側に大きいほど回生制動量を制限し、且つ、旋回方向とは逆方向の車両幅方向偏差が大きいほど回生制動量を制限することを特徴とする車両の回生制動制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載された車両の回生制動制御装置において、
前記回生制動制御手段は、推定重心位置と基準重心位置の車両上下方向偏差が上側に大きいほど回生制動量の制限を行うことを特徴とする車両の回生制動制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載された車両の回生制動制御装置において、
前記回生制動制御手段は、車両幅方向偏差が所定値以下で、車両前後方向偏差が発生しているとき、車両前後方向偏差が回生制動輪側に大きい場合の回生制動量の制限を旋回時に比べて緩和することを特徴とする車両の回生制動制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載された車両の回生制動制御装置において、
前記回生制動制御手段は、推定重心位置と基準重心位置の車両上下方向偏差が上側に大きいほど回生制動量の制限を行うことを特徴とする車両の回生制動制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載された車両の回生制動制御装置において、
各車輪毎に設けられる輪荷重検出手段を設け、
前記重心位置推定手段は、4輪の輪荷重バランスにより車両前後方向(X方向)位置及び車両幅方向(Y方向)位置を仮推定し、4輪の総輪荷重により車両上下方向(Z方向)位置を推定し、推定した車両上下方向位置により前記仮推定した車両前後方向位置及び車両幅方向位置を補正することで、3次元での重心位置推定を行うことを特徴とする車両の回生制動制御装置。
【請求項8】
請求項2乃至7の何れか1項に記載された車両の回生制動制御装置において、
前記回生制動制御手段は、基準重心位置は、車両生産時、基準体重のドライバが平坦路で搭乗し、且つ、積載物が無い状態での重心位置とすることを特徴とする車両の回生制動制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載された車両の回生制動制御装置において、
前後輪のうち少なくとも回生制動を行わない他方の左右輪にて機械制動力を発生する機械制動手段を設け、
前記回生制動制御手段は、前後輪のうち一方の回生制動量を制限するとき、この制限量に応じて前後輪のうち他方の機械制動力を増加させ、且つ、回生制動量の最大制限量を、回生制動力と機械制動力による前後輪の制動力配分比が理想配分比となるように規定する回生協調制御を行うことを特徴とする車両の回生制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−211818(P2006−211818A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20232(P2005−20232)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】