説明

車両の駆動力制御装置

【課題】自動変速機の変速時に放出されるイナーシャトルクを電動モータで効率よく回生すると共に、回生トルクによって変速ショックを緩和するようにする。
【解決手段】運転者が変速機7の変速モードを手動変速モードにセットした後、アップシフト操作を行うと、駆動力制御ユニット14は、変速機7の入力軸7aに作用するエンジン1からのイナーシャトルクTMiを求め、このイナーシャトルクTMiを所定に配分されたモータトルク指示値TMから減算して目標モータトルクTMtrを設定する。変速機制御ユニット13はエンジン1の出力軸1aと変速機7の入力軸7aとの間に介装されている電動モータ4のトルクが目標モータトルクTMtrとなるように制御する。目標モータトルクTMtrからはエンジン1から放出されるイナーシャトルクTMi分のトルクが減算されているため、イナーシャトルクTMiが減衰されて変速ショックが緩和される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回生機能を有するモータをエンジンの出力軸と変速機の入力軸との間に配設し、変速機をアップシフトさせる際にモータを回生動作させてエンジンから放出されるイナーシャトルクを吸収する車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動変速装置では、セレクトレバーを例えばD(ドライブ)レンジにセットした状態での走行では、車速とスロットル開度等の車両の走行状態を示すデータをパラメータとして予め設定されているシフトスケジュールに従い、現在の走行条件に最適な変速段が自動的に設定される。又、最近の自動変速装置には、上述したような、いわゆる自動変速モードと、運転者が自己の意思により変速操作(アップシフト操作とダウンシフト操作)を行うことができる手動変速モードとを併設するものも知られている。
【0003】
ところで、手動変速モードにおいて、変速機をアップシフトさせると、変速機の出力軸に印加されている駆動輪からの回転駆動力が変速されて変速機の入力軸に伝達されるため、入力軸回転速度が急激に低下される。一方、この入力軸にはエンジン1から放出されたイナーシャトルクが印加されているため、出力軸の回転数を上昇させようとし、変速ショック(アップシフトショック)や飛び出し感が発生する。
【0004】
アップシフトの際に発生する変速ショックや飛び出し感を緩和させる手段として、例えば無段変速機では、手動変速によりアップシフトを行う際の変速速度を緩やかにすることで、エンジンから放出されるイナーシャトルクの影響を受け難くすることが考えられる。
【0005】
しかし、アップシフト時の変速速度を緩やかにすると、運転者の期待する速やかな変速動作が実行されず、シフトフィーリングが悪化する不都合がある。更に、手動変速モードによる頻繁なアップシフト/ダウンシフトの繰り返しは、変速による回転速度の変動を招くため、無段変速機のような回転慣性の大きい部材を有する装置では、走行エネルギのロスが大きく燃費悪化を招く不都合がある。
【0006】
又、自動変速モードであっても、運転者がアクセルペダルを踏み込んで、発進走行、或いは加速走行している状態から定速走行へ移行すべく、一旦アクセルペタルを開放すると、予め設定されたシフトスケジュールに従いアップシフト側へ変速動作が行われる。その際、変速機の入力軸にはエンジンから放出されたイナーシャトルクが印加されているため、運転者の期待感に反して、車両が飛び出す方向(加速方向)への変速ショックが発生し易く、運転者に違和感を与えてしまう。
【0007】
この対策として、特許文献1(特開2009−35255号公報)には、ツインクラッチ式自動変速機の両クラッチ軸間に電動機を挿入し、電動機のトルクと回転数を制御し、電動機でトルクダウンさせてからクラッチを掛替える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−35255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、運転者がアクセルペダルを踏み込んだ状態からアクセルペダルを開放したとき、運転者は速やかなエンジンブレーキの作動(減速作動)を期待している。従って、アクセルペダルを急開放させる等、運転者が速やかな減速意思を表明した場合、できるだけ早いタイミングで、より強いエンジンブレーキ力(減速)を発生させることが望ましい。
【0010】
しかし、上述した文献に開示されている技術では、電動モータの回生制御の具体的手段については明確に記載せず、単に電動モータの回生動作のみで変速ショックを吸収することを提案しているが、どのように回生トルクを与えると変速ショックを有効に吸収できるかについて明らかにしていない。更に、電動モータの単なる回生動作のみでは、早いタイミングでの変速操作、及び強いエンジンブレーキ力を、運転者に違和感を与えることなく得るようにすることは困難である。
【0011】
又、電動モータで回生できるイナーシャトルクの大きさ、及び回生抵抗で減衰させることのできる変速速度(無段変速機の場合)には限界があり、この限界を超えて変速ショックを吸収することはできない。上述した文献に開示されている技術では、単に電動モータによりアップシフト時のイナーシャトルクを吸収しているに過ぎないため、イナーシャトルクの大きさ等によっては、変速速度との関係でモータの回生トルクの限界を超えてしまう場合がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、アップシフト時に放出されるイナーシャトルクをモータで効率よく回生することができると共に、変速ショックが緩和されて運転者に与える違和感を軽減すると共に、良好なシフトフィーリングを得ることのできる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明の第一は、エンジンと、該エンジンの回転速度を変速して出力する変速機と、該エンジンの出力軸と該変速機の入力軸との間に介装されると共に回生機能を有するモータと、運転状態に基づいて車両の駆動力を設定すると共に該エンジンと該モータとに対する駆動力配分と前記変速機の変速を制御する駆動力制御手段とを備える車両の駆動力制御装置において、前記駆動力制御手段は、前記変速機の入力軸回転速度を低下させる方向への変速指示値に従い、該変速指示値に到達するまでの変速指示速度を設定し、前記モータの回生トルクを該変速指示速度に応じて設定することを特徴とする。
【0014】
本発明の第二は、エンジンと、該エンジンの回転速度を変速して出力する変速機と、該エンジンの出力軸と該変速機の入力軸との間に介装されると共に回生機能を有するモータと、運転状態に基づいて車両の駆動力を設定すると共に該エンジンと該モータとに対する駆動力配分と前記変速機の変速を制御する駆動力制御手段とを備える車両の駆動力制御装置において、前記駆動力制御手段は、前記モータの回生トルクをバッテリに充電可能な前記モータの回生電力に基づいて設定し、前記変速機の入力軸回転速度を低下させる方向への変速指示値に従い、該変速指示値に到達するまでの前記変速指示速度を該回生トルクに対応して設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、変速機の入力軸回転速度を低下させる方向への変速指示値が入力された場合、それに従って、変速指示値に到達するまでの変速指示速度を設定し、モータの回生トルクを変速指示速度に応じて設定するようにしたので、エンジンから放出されるイナーシャトルクをモータで効率よく回生することができ、変速ショックが緩和されて運転者に与える違和感が軽減される。その結果、良好なシフトフィーリングを得ることができると共に、エネルギを有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態による無段変速機を備える車両駆動系のシステム構成図
【図2】同、駆動力制御ユニットの機能ブロック図
【図3】同、駆動力配分設定部の機能ブロック図
【図4】第2実施形態による駆動力配分設定部の機能ブロック図
【図5】第3実施形態による駆動力配分設定部の機能ブロック図
【図6】同、モータトルク調整値演算ルーチンを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
【0018】
[第1実施形態]
本実施形態で採用する車両はパラレル方式のハイブリッド車両であり、図1に示すように、車両駆動系は、エンジン1の出力軸(クランク軸)1aに、トルクコンバータ(トルコン)2、前後進切換装置3を介して電動モータ4が連設され、この電動モータ4に自動変速機としての無段変速機(CVT)7の入力軸(CVT入力軸)7aが連設され、更に、CVT7の出力軸7bがデファレンシャル装置9を介して駆動輪10に連設されている。
【0019】
電動モータ4は、ジェネレータモータであり、電気エネルギを機械エネルギに変換する力行機能と、機械エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備している。この電動モータ4はインバータ5を介してバッテリ6に接続されており、エンジン1をアシストする力行走行時はバッテリ6の電圧をインバータ5で交流電圧に変換して電動モータ4を駆動させ、回生制動時は電動モータ4にて発生した回生電力をインバータ5で直流電圧に変換した後、バッテリ6に充電させる。
【0020】
前後進切換装置3は、トルコン出力軸2aの回転を、前進走行時は正転、後進走行時は逆転させてCVT7に伝達するものである。前後進切換装置3としては、例えば遊星歯車機構を用い、前進走行時は図示しないフォワードクラッチを締結動作させて遊星歯車機構を一体回転させ、トルコン出力軸2aの回転をCVT入力軸7aにそのまま正転状態で伝達する。又、後進走行時は、図示しないリバースブレーキを締結動作させて遊星歯車機構を逆転させ、トルコン出力軸2aの回転を逆転させると共に減速させてCVT入力軸7aに伝達する。
【0021】
CVT7は、エンジン1から伝達された回転速度を変速機構によって変速して出力するもので、変速機構は、前後進切換装置3からの駆動力で回転するCVT入力軸7aに軸装されているプライマリプーリ8aと、このプライマリプーリ8aに対して一定間隔を開けて配設されていると共に、出力軸7bに軸着されているセカンダリプーリ8bと、両プーリ8a,8b間を連設するベルト或いはチェーン等の巻き掛け式駆動力伝達部材8cとを有している。
【0022】
又、CVT7は、変速モードとして自動変速モードと手動変速モードとが設定されている。自動変速モードは、運転状態に応じて予め設定されるシフトスケジュールに従って変速比が連続的に変化するものである。手動変速モードは、CVT7の変速比を予め設定した複数段(例えば第1速〜第6速)の固定変速比とし、この固定変速比間を、運転者のシフト操作により任意にアップシフト或いはダウンシフトさせるものである。
【0023】
尚、CVT7は、ベルト式或いはチェーン式に限らず、トロイダル式であっても良い。又、自動変速機の一例として本実施形態ではCVT7をかかげているが、自動変速機はCVT7に限らず多段変速機であっても良く、更にDCT(Dual Clutch Transmission)を備える多段変速機であっても良い。
【0024】
エンジン1、電動モータ4、CVT7は、エンジン制御ユニット(E/G_ECU)11、モータ制御ユニット(モータ_ECU)12、変速機制御ユニット(CVT_ECU)13によって、それぞれ独立に制御され、駆動力は駆動力制御手段としての駆動力制御ユニット(D/F_ECU)14によって統合的に制御される。
【0025】
この各ECU11〜14は、周知のCPU、ROM、RAM等を備えたマイクロコンピュータを中心として各種インターフェースや周辺回路等を備えて構成されている。更に、これら各ECU11〜14は、CAN(Controller Area Network)等の通信ラインを介して双方向通信可能に接続されている。
【0026】
E/G_ECU11は、エンジントルクが後述するD/F_ECU14で設定された目標エンジントルクTE/Gtrとなるように、燃料噴射量、点火時期等を制御する。モータ_ECU12は、モータトルクが後述するD/F_ECU14で設定されたモータトルク指示値TMとなるようにインバータ5を制御して、電動モータ4を力行、或いは回生動作させる。CVT_ECU13は、CVT7の変速比が、後述するD/F_ECU14で設定した目標変速比εtrになるように制御すると共に、目標変速比εtrに到達するまでの変速指示速度Scvtを制御する。
【0027】
又、図2に示すように、D/F_ECU14は、駆動力を統合的に制御する機能として、目標駆動力設定手段としての目標駆動力設定部26及び駆動力配分設定手段としての駆動力配分設定部27を備えている。
【0028】
目標駆動力設定部26は、アクセル開度センサ21で検出したアクセルペダルの踏込み量を示すアクセル開度θaccと車速センサ22で検出した車速Sとを読込み、この両パラメータθacc,Sに基づき、目標駆動力マップ(図示せず)を参照して、車両の目標駆動力Ftrを設定する。尚、アクセル開度θaccは運転者の加減速等の運転意思が表わされるパラメータの一例である。
【0029】
この目標駆動力マップは固定値であり、ROM等の記憶手段に記憶されている。この目標駆動力マップには、アクセル開度θaccと車速Sとの関係から、車速Sに対してアクセル開度θaccが大きな値となるほど大きな値の目標駆動力Ftrが予め実験などから求めて記憶されている。尚、アクセル開度θaccは、アクセルペダル開放の0[%]からアクセルペダル全踏の100[%]の間で、運転者のアクセルペダルの踏込み状態に対応する値が出力される。
【0030】
駆動力配分設定部27は、目標駆動力設定部26で設定した目標駆動力Ftrを、エンジン1、電動モータ4、CVT7に配分するための比率を設定し、この配分比率に基づいて、目標エンジントルクTE/Gtr、目標モータトルクTMtr、目標変速比εtrをそれぞれ求める。尚、電動モータ4は、目標モータトルクTMtrが正値で力行動作、負値で回生制動される。
【0031】
以下、運転態様毎の駆動力配分について簡単に説明する。
【0032】
(発進・低速走行)
例えば運転者がノーマル変速モードを選択している状態で、発進加速、或いは低速走行で且つアクセルペダル踏込み量が少なくアクセル開度θaccが小さいときは、目標エンジントルクTE/Gtrを配分比率20〜30[%]で設定し、モータトルク指示値TMを配分比率70〜80[%]で設定する。
【0033】
従って、目標エンジントルクTE/Gtrは、主にアイドル状態を維持するトルクを分担することになり、走行は主に電動モータ4によって行われる(モータ走行)。
【0034】
(通常走行)
通常走行では、目標エンジントルクTE/Gtrを配分比率100[%]で設定し、目標モータトルクTMtrを配分比率0[%]で設定して、エンジン1による走行とする(エンジン走行)。
【0035】
(高負荷運転)
登坂路走行時において、目標駆動力Ftrがエンジン1の最大出力を越えている場合、目標エンジントルクTE/Gtrを最大トルクとなる比率に設定し、目標モータトルクTMtrは、エンジントルク指示値TE/Gの不足分を補う配分比率に設定する。
【0036】
(減速運転)
車速Sが設定車速以上で且つアクセル開度θaccが0[%]の減速時においては、車速SとCVT7の変速比とに基づいて制動トルクを求め、この制動トルクをエンジンブレーキによる制動トルクと電動モータ4による回生トルクとに配分し、モータ_ECU12からインバータ5に対し、所定配分比率の回生トルクを発生させる回生用目標モータトルクTMtrを設定し、CVT_ECU13へ出力し電動モータ4を回生動作させる。
【0037】
(アップシフト時)
例えば変速モードとして手動変速モードが設定されている場合、CVT7の変速比が多段変速に固定され、運転者がアップシフト操作を行うと、CVT_ECU13はCVT7の変速段を現在の変速段から1段アップシフトさせる変速指示値としての変速比指示値(CVT7の入力軸7aの回転速度が低下する方向への変速比指示値、すなわちアップシフト変速比指示値)が入力され、CVT7がアップシフトされる。CVT7がアップシフトされるとCVT入力軸7aの回転速度を低下させようとするため、エンジン1、モータ4、プライマリプーリ8a等のCVT入力軸7aに連なる回転体によるイナーシャトルクを受けて逆にCVT出力軸7bの回転速度が上昇してしまう。
【0038】
従って、アップシフト時は、D/F_ECU14が電動モータ4を回生動作させ、エンジン1、その他CVT入力軸7aに連なる回転体のイナーシャトルクを吸収する回生トルクを発生させて、CVT入力軸7aの回転速度を低下させる。
【0039】
図3に示すように、上述した駆動力配分設定部27には、アップシフト時の駆動力配分制御を行う機能として、駆動力目標配分設定部31、変速速度調整部32、変速機入力軸上イナーシャトルク算出部33、モータトルク調整部34を備えている。
【0040】
駆動力目標配分設定部31は、目標駆動力設定部26で設定した目標駆動力Ftrを、エンジントルク指示値TE/Gと、モータトルク指示値TMと、必要な変速比指示値εcvtとに、予め運転状態に応じて設定されている配分比率に基づいて配分する。この目標駆動力Ftrの配分比率は、運転者が選択した変速モード(燃費優先の変速モード、ノーマルな変速モード、スポーツ走行優先の変速モード等)によって変化する。
【0041】
変速速度調整部32は、駆動力目標配分設定部31から配分された変速比指示値εcvtを読込み、現在の変速比εから変速比指示値εcvtに到達させるまでの変速指示速度Scvtを設定し、この変速指示速度Scvtに基づき目標変速比εtrを演算周期毎に設定する。この変速指示速度Scvtは、例えばCVT7の機械的な限界速度、更にはモータにより回生可能な最大トルクから求められた限界速度と比較され、限界速度を超えている場合は限界速度を変速指示速度Scvtとして設定される。更に、変速指示速度Scvtが限界速度以内の場合には、変速指示速度Scvtを運転状態に応じて速めることで、変速フィーリングを向上させる。
【0042】
変速機入力軸上イナーシャトルク算出部33は、変速速度調整部32で設定した変速指示速度Scvtに基づきCVT入力軸7a上に作用するイナーシャトルクを算出する。すなわち、アップシフト時のCVT入力軸7aの回転速度を一定とした場合、実際のCVT入力軸7aに対して駆動輪10側から伝達される回転速度は、演算周期毎に変化する目標変速比εtrに応じて低下し、この間に差が生じる。前回の演算周期において求めた変速比と今回の演算周期において求めた変速比との差分からCVT入力軸7a上に作用するイナーシャトルク(変速機入力軸上イナーシャトルク)TMiを算出する。
【0043】
モータトルク調整部34は、駆動力目標配分設定部31で設定したモータトルク指示値TMから変速機入力軸上イナーシャトルクTMiを減算して、目標モータトルクTMtrを設定する(TMtr←TM−TMi)。この変速機入力軸上イナーシャトルクTMiは回生トルクとして作用するため、例えば通常走行において、モータトルク指示値TMの配分比率が0[%]の場合、目標モータトルクTMtrは負の値となり、電動モータ4は回生動作される。
【0044】
このように、本実施形態では、アップシフト時においては、CVT入力軸7a上に設けた電動モータ4のモータトルク指示値TMから、CVT入力軸7aに作用するエンジン1からの変速機入力軸上イナーシャトルクTMiを減算して、目標モータトルクTMtrを設定したので、アップシフト時において、エンジン1からのイナーシャトルクが電動モータ4の回生制動により吸収されて減衰される。その結果、変速ショックアップシフトショックが緩和されて運転者に違和感を与えることなく、良好なシフトフィーリングを得ることができるばかりでなく、アップシフト時におけるエンジン1から放出されるイナーシャトルクが、電動モータによって効率よく回生され、アップシフト毎に電動モータ4が回生動作するため、エネルギが有効利用され、その分燃費を向上させることができる。又、電動モータ4により回生可能な最大トルクをバッテリに充電可能なモータの回生電力に基づき決定することで、より効率的に回生動作を行うことができる。
【0045】
[第2実施形態]
図4に本発明の第2実施形態による駆動力配分設定部27の機能構成を示す。上述した第1実施形態では、エンジン1から放出されるイナーシャトルクを吸収して減衰させる変速機入力軸上イナーシャトルクTMiを設定し、この変速機入力軸上イナーシャトルクTMiでモータトルク指示値TMを補正(減算)するようにしたが、本実施形態では、アップシフト時におけるエンジン1から放出されるイナーシャトルクを電動モータ4の回生制動で吸収できるように、CVT7の変速指示速度Scvtを制御するものである。
【0046】
本実施形態による駆動力配分設定部27は、第1実施形態と同様の機能を有する駆動力目標配分設定部31、回生トルク/変速速度変換部42、及び変速速度調整部43を備えている。尚、本実施形態では、駆動力目標配分設定部31で設定したモータトルク指示値TMを、そのまま目標モータトルクTMtrとして設定している(TMtr←TM)。
【0047】
回生トルク/変速速度変換部42は、駆動力目標配分設定部31で設定したモータトルク指示値TMと、モータ_ECU12から読込んだバッテリ6に対して充電可能な回生電力とに基づき、バッテリ6に充電可能な所定の回生トルクを設定し、この回生トルクに対応するCVT7の変速指示速度Scvt、すなわち、電動モータ4により充電可能な回生トルクを越えない変速指示速度Scvtを設定する。従って、この変速指示速度Scvtは、電動モータ4により充電可能な回生トルクを越えて設定されることがなく、エンジン1から放出されるイナーシャトルクを有効に吸収して回生させることができる。
【0048】
変速速度調整部43は、駆動力配分設定部で設定した現在の変速比εと変速指示速度Scvtとに基づき、演算周期毎の目標変速比εtrを設定する。この目標変速比εtrはCVT_ECU13で読込みまれ、現在の変速比εが目標変速比εtrに収束するようにフィードバック制御する。
【0049】
本実施形態では電動モータ4の回生トルクを最初に設定し、この回生トルクにあわせてCVT7の変速指示速度Scvtを設定するようにしたので、アップシフト時のイナーシャトルクを回生トルクで吸収し減衰させることができ、変速ショックの改善、及び回生動作によるエネルギの有効利用による燃費向上を実現することができる。
【0050】
[第3実施形態]
図5、図6に本発明の第3実施形態を示す。本実施形態は、上述した第1実施形態に示す駆動力配分設定部27の変形例であり、モータトルク調整部34で設定した目標モータトルクTMtrにモータトルク調整値演算部51で設定したモータトルク調整値T(但し、T≦0)を加算部52で加算して最終目標モータトルクTMtr'を算出し、モータ_ECU12は、この最終目標モータトルクTMtr'にて電動モータ4の回生トルクを制御するようにしたものである。
【0051】
このモータトルク調整値演算部51におけるモータトルク調整値Tの演算は、具体的には、図6に示すモータトルク調整値演算ルーチンに従って処理される。
【0052】
このルーチンは、イグニッションスイッチがONされてD/F_ECU14が起動された後、所定演算周期(本実施形態では、100[msec})毎に実行され、先ず、ステップS1で、前回の演算実行時に設定したアクセル急開放フラグFaccの値を調べる。このアクセル急開放フラグFaccは、後述するステップS5でセットされ、ステップS10でクリアされる。そして、Facc=0の場合はステップS2へ進み、又、Facc=1の場合は、ステップS3へジャンプする。
【0053】
ステップS2へ進むと、今回のアクセル開度θaccと前回演算時に求めたアクセル開度θacc(n-1)との差分を求め、この差分と設定値A(負値)とを比較する。そして、θacc−θacc(n-1)≦Aの場合は、アクセル開度が開放方向へ急変動したと判定し、ステップS3へ進み、又、θacc−θacc(n-1)>Aの場合は通常のアクセル操作であると判定してステップS4へ進む。
【0054】
ステップS3へ進むと、アクセルペダルが開放されているか否かを調べる。アクセルペダルが開放状態にあるか否かは、アクセル開度センサ21で検出したアクセル開度θaccが0[%]、或いは0[%]に近い値か否かで判定され、アクセル開放状態と判定された場合は、ステップS5へ進み、又、アクセルペダルが未だ開放状態となっていないときは、ステップS6へ進む。ステップS6へ進むと、モータトルク調整値Tをクリアし(T←0)、その後、ステップS10へ進み、アクセル急開放フラグFaccをクリアして(Facc←0)、ルーチンを抜ける。
【0055】
又、ステップS3からステップS5へ進むと、アクセル急開放フラグFaccをセットして(Facc←1)、ステップS7へ進む。ステップS7では、アクセル急開放フラグFaccをセットしたときの車速Sに基づき、アクセル急開放時モータトルク調整値テーブルを補間計算付きで参照して、モータトルク調整値Tを設定する。同ステップ中に示すように、アクセル急開放時モータトルク調整値テーブルには、車速Sをパラメータとしてモータトルク調整値Tが、車速Sが高速側から低速側へ減速されるに従い、次第に負トルク(エンジンブレーキ側に作用するトルク)が高くなる(エンジンブレーキが強くなる)値に設定されている。尚、このアクセル急開放時モータトルク調整値テーブルに格納されているモータトルク調整値Tは、後述する通常時モータトルク調整値テーブル(ステップS9参照)に格納されているモータトルク調整値Tよりも全体的に負トルクが大きい(エンジンブレーキが強い)値に設定されている。
【0056】
アクセルペダルを急開放してアクセルペダルが開放状態となったときのモータトルク調整値T(負値)を、通常時のモータトルク調整値Tよりも高い負値に設定したので、運転者がアクセルペダルに対する踏込みを急に開放して、速やかに減速したいと判断した場合に、強めのエンジンブレーキを作動させることができ、運転者の意思に沿った走行状態を得ることができる。
【0057】
その後、ステップS8へ進むと、アクセル急開放フラグFaccをセットしたときからの経過時間が予め設定されている所定時間Bを越えたか否かが調べられ、所定時間Bが未だ経過していないときはルーチンを抜け、次の演算が開始されるまで待機する。又、当該経過時間が所定時間Bを経過している場合は、ステップS10へ進み、アクセル急開放フラグFaccをクリアして(Facc←0)、ルーチンを抜ける。この所定時間Bは、比較的長い時間強いエンジンブレーキがかかることにより、運転者に逆に与えることとなってしまう違和感を考慮して設定されるもので、予め実験などから求めて設定されている。
【0058】
一方、ステップS2で、θacc−θacc(n-1)>A(負値)と判定されて、ステップS4へ進むと、上述したステップS3と同様、アクセルペダルが開放されているか否かを調べ、アクセル開放状態のときはステップS9へ進む。又、アクセルペダルが踏み込まれている場合は、ステップS6へ進み、モータトルク調整値Tをクリアし(T←0)、その後、ステップS10へ進み、アクセル急開放フラグFaccをクリアして(Facc←0)、ルーチンを抜ける。従って、例えばアクセルペダルを踏み込んだ加速運転においては、モータトルク調整値Tによる補正は行われず、電動モータ4が回生動作することはない。
【0059】
ステップS9へ進むと、車速Sに基づき通常時モータトルク調整値テーブルを補間計算付きで参照して、モータトルク調整値Tを設定し、ステップS10へ進み、アクセル急開放フラグFaccをクリアして(Facc←0)、ルーチンを抜ける。上述したように、通常時モータトルク調整値テーブルには、アクセル急開放時モータトルク調整値テーブルに格納されているモータトルク調整値Tよりも、全体的に負トルクの小さい(エンジンブレーキが弱い)値に設定されている。これにより、通常のアクセル操作におけるアクセル開放状態では、アクセル急開放時よりも弱いエンジンブレーキとなる。その結果、通常運転時におけるアクセル開放状態のときは、緩やかなエンジンブレーキとなり、運転者の意思に沿った走行状態を得ることができる。
【0060】
このモータトルク調整値演算部51で求めたモータトルク調整値Tは、加算部52においてモータトルク調整部34で求めた目標モータトルクTMtrと加算されて、最終目標モータトルクTMtr'が設定される。尚、モータトルク調整値Tが0のときは、目標モータトルクTMtrは補正されないため、TMtr=TMtr'となる。
【0061】
モータ_ECU12(図1参照)は、電動モータ4の回生トルクが、最終目標モータトルクTMtr'に収束するようにフィードバック制御する。
【0062】
このように、本実施形態では、目標モータトルクTMtrを、車速Sとアクセル開度θaccとに基づいて求めたモータトルク調整値Tにて補正して、最終目標モータトルクTMtr'を設定し、モータ_ECU12を介して電動モータ4を回生動作させるようにしたので、運転者がアクセルペダルを急に開放したときは、高い回生トルクによりエンジン1のイナーシャトルクを直ちに吸収して、強いエンジンブレーキが作動され、速やかな変速が可能となり、運転者の意思に沿った走行状態を得ることができる。
【符号の説明】
【0063】
1…エンジン、
1a…出力軸、
4…電動モータ、
6…バッテリ、
7…無段変速機、
7a…入力軸、
10…駆動輪、
11…エンジン制御ユニット、
12…モータ制御ユニット、
13…変速機制御ユニット、
14…駆動力制御ユニット、
21…アクセル開度センサ、
22…車速センサ、
26…目標駆動力設定部、
27…駆動力配分設定部、
31…駆動力目標配分設定部、
32,43…変速速度調整部、
33…変速機入力軸上イナーシャトルク算出部、
34…モータトルク調整部、
42…変速速度変換部
ε…変速比、
εcvt…変速比指示値、
εtr…目標変速比、
θacc…アクセル開度、
Ftr…目標駆動力、
S…車速、
Scvt…変速指示速度、
TE/G…エンジントルク指示値、
TE/Gtr…目標エンジントルク、
TM…モータトルク指示値、
TMtr…目標モータトルク、
TMi…変速機入力軸上イナーシャトルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、該エンジンの回転速度を変速して出力する変速機と、該エンジンの出力軸と該変速機の入力軸との間に介装されると共に回生機能を有するモータと、運転状態に基づいて車両の駆動力を設定すると共に該エンジンと該モータとに対する駆動力配分と前記変速機の変速を制御する駆動力制御手段とを備える車両の駆動力制御装置において、
前記駆動力制御手段は、
前記変速機の入力軸回転速度を低下させる方向への変速指示値に従い、該変速指示値に到達するまでの変速指示速度を設定し、前記モータの回生トルクを該変速指示速度に応じて設定することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記駆動力制御手段は、
前記回生トルクが、所定の回生トルクより大きい時、前記回生トルクを前記所定の回生トルクに設定すると共に前記変速指示速度を前記所定の回生トルクに応じて設定することを特徴とする請求項1記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記所定の回生トルクは、バッテリに充電可能な前記モータの回生電力により設定されることを特徴とする請求項2記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
エンジンと、該エンジンの回転速度を変速して出力する変速機と、該エンジンの出力軸と該変速機の入力軸との間に介装されると共に回生機能を有するモータと、運転状態に基づいて車両の駆動力を設定すると共に該エンジンと該モータとに対する駆動力配分と前記変速機の変速を制御する駆動力制御手段とを備える車両の駆動力制御装置において、
前記駆動力制御手段は、
前記モータの回生トルクをバッテリに充電可能な前記モータの回生電力に基づいて設定し、
前記変速機の入力軸回転速度を低下させる方向への変速指示値に従い、該変速指示値に到達するまでの前記変速指示速度を該回生トルクに対応して設定することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記駆動力制御手段は、前記回生トルクを運転者の運転意思が表れるパラメータに基づいて可変設定することを特徴とする請求項4に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記パラメータはアクセル開度であり、
前記駆動力制御装置は、前記アクセル開度が開放方向へ急変動されたときは前記回生トルクを通常時よりも大きな値に設定することを特徴とする請求項5記載の車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−213221(P2011−213221A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82640(P2010−82640)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】