車両制御装置
【課題】車両制御装置において、目標加速度に対する実加速度の応答遅れを低減すること。
【解決手段】ブレーキフィードバック制御部は、ブレーキフィードバック利用状態であれば、PID制御モデルを用いてブレーキフィードバックトルクTfb_BKを演算し(S330,S340)、ブレーキフィードバック制限状態であれば、PID制御モデルを用いたブレーキフィードバックトルクTfb_PTの演算を停止し、ブレーキ制限開始タイミング時に出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKを出力値として保持する(S360)。そして、ブレーキ制限解除タイミングとなると、保持していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKを初期値として、フィードバック制御を再開する。これにより、ブレーキ制御解除タイミング直後のブレーキ機構では、0[N・m]よりも大きい特定制動トルクを発生する。
【解決手段】ブレーキフィードバック制御部は、ブレーキフィードバック利用状態であれば、PID制御モデルを用いてブレーキフィードバックトルクTfb_BKを演算し(S330,S340)、ブレーキフィードバック制限状態であれば、PID制御モデルを用いたブレーキフィードバックトルクTfb_PTの演算を停止し、ブレーキ制限開始タイミング時に出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKを出力値として保持する(S360)。そして、ブレーキ制限解除タイミングとなると、保持していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKを初期値として、フィードバック制御を再開する。これにより、ブレーキ制御解除タイミング直後のブレーキ機構では、0[N・m]よりも大きい特定制動トルクを発生する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行状況に応じて要求される加速度に、実加速度が一致するように車両を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載され、自車両の速度を設定速度(即ち、目標速度)に維持するクルーズ制御や、先行車両と自車両との車間距離を設定車間距離(即ち、目標車間)に維持するアダプティブクルーズ制御等を実行する走行支援システムが知られている。
【0003】
この走行支援システムは、パワートレイン制御値に応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを、内燃機関及びトランスミッションからなるパワートレイン機構に発生させるパワートレイン制御装置と、ブレーキ制御値に応じた大きさの制動トルクを、油圧ブレーキ機構に発生させる油圧ブレーキ制御装置とを備えている。さらに、走行支援システムは、目標速度もしくは目標車間を達成するために必要な加速度(以下、目標加速度とする)を、自車両の走行状況に応じて導出するための処理(以下、目標加速度導出処理とする)を実行すると共に、その目標加速度導出処理の実行によって導出される目標加速度に、自車両に加わる加速度(即ち、実加速度)を一致させるように、パワートレイン制御値及びブレーキ制御値を導出して、パワートレイン制御装置及び油圧ブレーキ制御装置に出力する(即ち、フィードバック制御を実行する)車両制御装置とを備えている(特許文献1,2参照)。
【0004】
そして、目標加速度が自車両を加速させる方向(即ち、正)の加速度である場合、この種の車両制御装置では、目標加速度に実加速度を一致させるようにパワートレイン制御値を導出して、パワートレイン制御装置に対して出力し、パワートレイン機構にて駆動トルクを発生させる。
【0005】
一方、目標加速度が自車両を減速させる方向(即ち、負)の加速度(以下、目標減速度とする)である場合、この種の車両制御装置では、まず、目標減速度に実減速度を一致させるようにパワートレイン制御値を導出して、パワートレイン制御装置に対して出力し、パワートレイン機構にて制動トルクを発生させる。
【0006】
特に、パワートレイン機構にて発生させた制動トルクのみで目標減速度を達成できる場合には、パワートレイン制御値のみを繰り返し導出してパワートレイン機構に対して出力する(以下、ブレーキ制限制御とする)。しかし、パワートレイン機構にて発生させた制動トルクのみで目標減速度を達成できない場合には、パワートレイン機構に対してパワートレイン制御値を出力して、パワートレイン機構にて制動トルクを発生させることに加えて、ブレーキ制御値を繰り返し導出して油圧ブレーキ制御装置に出力し(以下、ブレーキ利用制御とする)、油圧ブレーキ機構にて制動トルクを発生させることがなされる。
【0007】
すなわち、目標加速度導出処理の実行によって導出される目標加速度が減速度(負の加速度)である場合(即ち、目標減速度である場合)、目標減速度を達成するために(即ち、目標減速度の大きさに応じて)パワートレイン機構で発生されるべき制動トルク(以下、出力要求制動トルクとする)が、パワートレイン機構で発生可能な最大制動トルクよりも小さければ、パワートレイン機構のみで制動トルクを発生させ、出力要求制動トルクが最大制動トルクよりも大きければ、パワートレイン機構に加えて油圧ブレーキ機構でも制動トルクを発生させる。
【0008】
なお、この種の車両制御装置においては、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替え、油圧ブレーキ機構にて制動トルクを発生を開始させる場合、その切り替え直後に油圧ブレーキ機構にて発生させる制動トルクが0[N・m]となるように、ブレーキ制御値が予め設定されている。また、以下では、実加速度が目標加速度と一致するように、上述した制御を実行する車両制御装置を従来装置と称す。
【特許文献1】特表2006−506270号公報
【特許文献2】特開平7−81463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、図11は、従来装置における制御状態の一例を示すタイムチャートである。
この図11に示す例では、目標加速度導出処理の実行によって導出される目標加速度は、時刻t1から減少し始め、時刻t2にて最大制動トルクに対応する負の加速度(減速度)と一致する場合を想定する。なお、図11中のt1',t2’は、フィードバック制御によるパワートレイン制御値及びブレーキ制御値の出力遅れを表したものである。
【0010】
このように想定した場合、従来装置では、時刻t1から時刻t2までの間、出力要求制動トルクが最大制動トルクよりも小さいため、ブレーキ制限制御を実行する。
そして、従来装置では、時刻t2となり、出力要求制動トルクが最大制動トルク以上となると、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替える。
【0011】
従来装置において、このようにブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替えられると、切り替えられた直後にブレーキ機構にて発生する制動トルクが0[N・m]であるため、車両に加わる加速度(減速度)に影響を及ぼすような制動トルクが発生するまで、ひいては目標加速度を達成可能な制動トルクを発生するまでに時間を要する。
【0012】
つまり、従来装置では、ブレーキ機構にて0[N・m]から車両に加わる加速度(減速度)に影響を及ぼすような制動トルクが発生するまでの間は、自車両に加わる減速度(実減速度)が一定となり(図11中、円で囲った部分)、目標加速度(減速度)が自車両にて達成されるまでに遅れが生じるという問題があった。
【0013】
このため、従来装置では、目標加速度に対する実加速度の応答遅れにより、自車両の乗り心地が悪化するという問題があった。
そこで、本発明は、車両制御装置において、目標加速度に対する実加速度の応答遅れを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するためになされた本発明は、入力されたパワートレイン制御値に応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを発生するパワートレイン機構、及び、入力されたブレーキ制御値に応じた大きさの制動トルクを発生するブレーキ機構を有した車両に適用される車両制御装置である。
【0015】
その本発明の車両制御装置では、目標値導出手段が、自車両の走行状況に応じた目標加速度を繰り返し導出し、加速度取得手段が、自車両に加わる加速度(即ち、実加速度)を取得する。
【0016】
そして、パワートレイン制御手段が、目標加速度に実加速度が一致するようにパワートレイン制御値を導出して、パワートレイン機構へと出力すると共に、ブレーキ制御手段が、目標加速度に実加速度が一致するようにブレーキ制御値を導出して、ブレーキ機構へと出力する。
【0017】
さらに、状態判定切替手段が、パワートレイン制御手段にて導出されたパワートレイン制御値により、パワートレイン機構が発生すべき駆動トルクもしくは制動トルクである出力要求トルクが、制動トルクでありかつ最大制動トルク未満、または駆動トルクであれば、ブレーキ制御手段からブレーキ機構へのブレーキ制御値の出力を停止するブレーキ制限制御を実行し、出力要求トルクが、制動トルクでありかつ最大制動トルク以上であれば、ブレーキ制御手段からブレーキ機構へのブレーキ制御値の出力を許可するブレーキ利用制御を実行する。そして、その状態判定切替手段により、実行される制御が、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替えられると、第一切替時制御手段が、0よりも大きく設定された特定制動トルクを発生させるための特定制御値をブレーキ制御値の初期値として、ブレーキ制御手段にブレーキ機構へと出力させる。
【0018】
ここで、図10は、本発明の車両制御装置における制御状態の一例を示すタイムチャートである。この図10に示す例では、目標値導出手段から導出される目標加速度は、時刻t1から減少し始め、時刻t2にて最大制動トルクに対応する負の加速度(減速度)と一致する場合を想定する。なお、図10中のt1',t2’は、フィードバック制御によるパワートレイン制御値及びブレーキ制御値の出力遅れを表したものである。
【0019】
この場合、本発明の車両制御装置では、時刻t1から時刻t2までの間、ブレーキ制限制御が実行され、実加速度が目標加速度と一致するようにパワートレイン制御値を導出してパワートレイン機構に入力する。つまり、パワートレイン機構にて発生する制動トルクは、最大制動トルクとなるまでは増加される。
【0020】
さらに、本発明の車両制御装置では、時刻t2となり、出力要求トルクが最大制動トルク以上となると、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替えられ、0[N・m]よりも大きく設定された特定制動トルクを発生させるための特定制御値(即ち、ブレーキ制御値)をブレーキ機構に入力する。すると、ブレーキ機構では特定制動トルクを発生し、その後、本発明の車両制御装置は、特定制動トルクが発生した状態から、実加速度が目標加速度に一致するようにフィードバック制御を実行して、ブレーキ機構にて発生される制動トルクが、目標加速度に対応する制動トルクとなるまで増加させる。
【0021】
つまり、本発明の車両制御装置では、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御への切り替え直後に、ブレーキ機構で発生させる制動トルクが0[N・m]である従来装置に比べて、ブレーキ機構で発生される制動トルクが自車両に影響を及ぼすまでに要する時間、ひいては、ブレーキ機構による制動力が自車両に加わるまでに要する時間が短縮される。
【0022】
したがって、本発明の車両制御装置によれば、目標加速度に対する実加速度の応答遅れを低減させる(即ち、目標加速度への追従性を向上させる)ことができ、この結果、当該車両制御装置が適用された車両において、車両が減速する際の乗り心地を向上させることができる。
【0023】
ただし、ここでいう「ブレーキ制御値の出力を停止」とは、ブレーキ制御値そのものの出力を停止することの他に、出力するブレーキ制御値を0(即ち、ブレーキ機構にて発生させる制動トルクを0[N・m])とすることを含むものである。
【0024】
ところで、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り変わった直後から、ブレーキ機構によりある程度の制動トルクが発生されると、ブレーキ機構による制動力が自車両に加わるまでに要する時間をより確実に短縮できる。しかも、パワートレイン機構で発生している制動トルクからブレーキ機構で発生させる制動トルクへの変化を滑らかに切り替えることができる。
【0025】
そして、本発明に車両制御装置において、0よりも大きい特定制御値を、ブレーキ制御値の初期値としてブレーキ制御手段から出力させる方法としては、請求項2に記載のように、ブレーキ制御値保持手段が、状態判定切替手段により、実行される制御が、ブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと切り替えられた時点で、ブレーキ制御手段により導出されていたブレーキ制御値を、次にブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替えられた時に出力させる特定制御値として保持するように構成することが考えられる。
【0026】
つまり、本発明の車両制御装置では、ブレーキ制御値の初期値として、ブレーキ制御手段からブレーキ制御部へと出力される特定制御値は、ブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと、前回切り替えられた時点でブレーキ制御手段から出力されていたブレーキ制御値であっても良い。
【0027】
また、本発明の車両制御装置は、請求項3に記載のように、状態判定切替手段により、実行される制御が、ブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと切り替えられると、第二切替時制御手段が、最大制動トルク未満の大きさに設定された規定トルクを発生させるための規定制御値をパワートレイン制御値の初期値として、パワートレイン制御手段からパワートレイン機構へと出力させるように構成されていても良い。
【0028】
このように構成された車両制御装置によれば、ブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと切り替わった直後から、パワートレイン機構にて規定トルクを発生させるため、自車両が加速する際の目標加速度に対する実加速度の遅れを低減することができる。
【0029】
この結果、本発明の車両制御装置によれば、当該車両制御装置が適用された車両において、車両が加速する際の乗り心地を向上させることができる。
そして、本発明に車両制御装置において、規定トルクを発生させるための規定制御値をパワートレイン制御値の初期値としてパワートレイン制御手段から出力させる方法としては、請求項4に記載のように、パワートレイン制御値保持手段が、状態判定切替手段により、実行される制御がブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替えられた時点で、パワートレイン制御手段により導出されていたパワートレイン制御値を、次にブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと切り替えられた時に出力させる規定制御値として保持するように構成することが考えられる。
【0030】
つまり、本発明の車両制御装置においては、第二制御切替手段によって、パワートレイン制御手段からパワートレイン機構へと出力される規定制御値は、ブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと前回切り替わった時点で出力されていたパワートレイン制御値であっても良い。
【0031】
なお、本発明の車両制御装置におけるパワートレイン制御手段、及びブレーキ制御手段それぞれは、請求項5に記載のように、目標加速度と、実加速度との偏差の比例値に基づく値を、パワートレイン制御値、及びブレーキ制御値として導出するように構成されていても良い。
【0032】
つまり、パワートレイン制御手段、及びブレーキ制御手段それぞれは、いわゆる比例制御を少なくとも実行するように構成されていてもよい。
さらに、パワートレイン制御手段、及びブレーキ制御手段それぞれは、目標加速度と実加速度との偏差(以下、加速度偏差とする)の時間積分に比例した積分項、もしくは加速度偏差の時間微分に比例した値である微分項の少なくとも一方を、比例項に加えた値をパワートレイン制御値、及びブレーキ制御値として導出するようにしても良い。
【0033】
すなわち、パワートレイン制御手段、及びブレーキ制御手段それぞれは、比例制御に、積分制御、もしくは微分制御を組み合わせても良いし、それら全ての制御を組み合わせた、いわゆるPID制御を実行するように構成されていても良い。
【0034】
ただし、パワートレイン制御手段、及びブレーキ制御手段それぞれがPID制御を実行するように構成されている場合、請求項2に記載のブレーキ制御値保持手段や、請求項4に記載のパワートレイン制御値保持手段は、それらの保持手段が保持するブレーキ制御値やパワートレイン制御値のうち、積分項、及び微分項それぞれを初期化(即ち、0とした上で保持)するように構成されている必要がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
〈全体構成〉
図1は、本発明の車両制御装置に相当する走行支援電子制御装置を用いて構成された走行支援システムを搭載した自動車の概略構成を示した構成図であり、図2は、走行支援システムの概略構成を示したブロック図である。なお、以下では、走行支援システム1が搭載された自動車を自車両と称す。
【0036】
図1に示すように、自車両には、自車両を駆動するための駆動トルクもしくは自車両を制動するための制動トルクを発生するパワートレイン機構(以下、パワトレ機構とも称す)5と、自車両を制動するための制動トルクを発生するブレーキ機構10と、自車両の走行を支援するために、パワトレ機構5及びブレーキ機構10を制御する走行支援システム1とが少なくとも搭載されている。
【0037】
このうち、パワトレ機構5は、自車両の動力源である内燃機関6(本実施形態では、周知のガソリンエンジンとする)と、内燃機関6のクランク軸8に接続されたクラッチ及び複数のギアをからなる変速機構7(本実施形態では、周知の遊星歯車式自動変速装置とする)とを備えた周知のものである。つまり、パワトレ機構5は、内燃機関6の回転数及び変速機構7での変速比(即ち、係合するギアの組合せ)に応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを駆動輪3へと伝達する。
【0038】
また、ブレーキ機構10は、自車両の各車輪(即ち、駆動輪3,従動輪4)に取り付けられたホイルシリンダ12と、それらのホイルシリンダ12に作動流体(本実施形態では、ブレーキオイルとする)を供給するブレーキ油圧回路に設けられた増圧制御弁・減圧制御弁を開閉するブレーキアクチュエータ11とを備えた周知のものである。つまり、ブレーキ機構10は、ブレーキアクチュエータ11からホイルシリンダ12に供給される作動流体の圧力に応じた大きさの制動トルクを発生する。
【0039】
ところで、走行支援システム1は、自車両の乗員らによって予め設定された設定速度(即ち、目標速度)に、自車両の走行速度を維持するようにパワトレ機構5やブレーキ機構10を制御するクルーズ制御や、自車両の乗員らによって予め設定された設定車間距離(即ち、目標車間)に、自車両の前方に位置する先行車両と自車両との車間距離を維持するようにパワトレ機構5やブレーキ機構10を制御するアダプティブクルーズ制御(いわゆるACC)を実行するものである。さらに、走行支援システム1は、自車両の進行路上に位置する物標(たとえば、先行車両やガードレール等)と自車両との衝突の可能性が規定値以上であれば、自車両に加わる制動トルク(即ち、制動力)を増加するプリクラッシュセーフティ制御(いわゆるPCS)を実行するものである。
【0040】
このため、図2に示すように、走行支援システム1は、自車両の周辺(例えば、前方)に存在する物体を検出する周辺監視装置15を備えている。その周辺監視装置15は、走行支援電子制御装置(以下、「走行支援ECU」と称す)20に接続され、さらに、走行支援ECU20は、LAN通信バスを介して、ブレーキ電子制御装置(以下、「ブレーキECU」と称す)16と、パワートレイン電子制御装置(以下、「パワトレECU」とも称す)17と、ステアリング電子制御装置(以下、「ステアリングECU」と称す)18とに、少なくとも接続されている。
【0041】
なお、各ECU16,17,18,20は、電源が切断されても内容を保持する必要のあるデータや処理プログラムを記憶するROMと、処理途中で一時的に生じたデータを格納するRAMと、ROMやRAMに記憶された処理プログラムを実行するCPUとを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、少なくともLAN通信バスを介して通信を実施するためのバスコントローラを備えている。
【0042】
このうち、周辺監視装置15は、FMCW方式のいわゆるミリ波レーダ装置として構成され、現時点での自車両の車速(以下、現車速とする)を走行支援ECU20から少なくとも受信するように構成されている。さらに、周辺監視装置15は、周波数変調されたミリ波帯の連続波(以下、レーダ波とする)を送受信することにより、先行車両や路側物(例えば、ガードレールや信号機等)などの物標を認識し、これら認識した物標に関する物標情報を作成して、走行支援ECU20に送出するように構成されている。なお、物標情報には、物標との相対速度、及び物標の位置(距離,方位)が少なくとも含まれている。
【0043】
ブレーキECU16は、実加速度aactを検出する加速度センサ42と、図示しない車速センサ、ヨーレートセンサからの状態情報(即ち、車速、ヨーレート)に加え、マスタシリンダ(M/C)圧センサからの検出情報に基づいて判断したブレーキペダル操作状態を、走行支援ECU20に送出するように構成されている。さらに、ブレーキECU16は、ブレーキ機構10にて発生させるべき制動トルクの大きさを表すブレーキ要求トルクTwBKを走行支援ECU20から受信し、このブレーキ要求トルクTwBKに従って、ブレーキ機構10に設けられたブレーキアクチュエータ11を駆動するように構成されている。つまり、ブレーキECU16は、走行支援ECU20からのブレーキ要求トルクTwBKに応じた大きさの制動トルクを、ブレーキ機構10に発生させるものである。
【0044】
また、パワトレECU17は、図示しないスロットル開度センサ、アクセルペダル開度センサからの状態情報(即ち、現車速、エンジン制御状態、アクセルペダル操作状態)、及び現時点で選択されているギアの段数(即ち、ギア比)に応じて、パワトレ機構5にて発生可能な最大制動トルク(もしくは最小駆動トルク、以下、推定出力可能トルクとする)Tminを推定し、その推定した推定出力可能トルクTminを走行支援ECU20に送出するように構成されている。さらに、パワトレECU17は、パワトレ機構5にて発生させるべき駆動トルクもしくは制動トルクの大きさを表すパワトレ要求トルクTwPTを走行支援ECU20から受信し、このパワトレ要求トルクTwPTに応じて、内燃機関6のスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータに対して駆動指令Te(図3参照)や、変速機構7に対してギアの変更指令Gr(図3参照)を出力するように構成されている。つまり、パワトレECU17は、走行支援ECU20からのパワトレ要求トルクTwPTに応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを、パワトレ機構5に発生させるものである。
【0045】
また、ステアリングECU18は、操舵角を検出するステア角センサ(図示せず)からの検出信号(即ち、操舵角)を取得して、その操舵角を走行支援ECU20へと出力すると共に、操舵輪の舵角変更時にアシスト力を発生させるパワーステアリング制御を実行するように構成されている。
【0046】
ところで、走行支援ECU20は、自車両の走行状態に応じて、目標速度や目標車間等に自車両を維持するために自車両にて達成されるべき(即ち、維持するために必要な)加速度(以下、目標加速度areq(図3参照)とする)を求めるものである。さらに、走行支援ECU20は、求められた目標加速度areqに、自車両に加わる加速度(以下、実加速度aactとする)が一致するように、パワトレ要求トルクTwPT及びブレーキ要求トルクTwBK(即ち、パワトレ機構5及びブレーキ機構10の制御量)を導出して、それぞれをパワトレECU17及びブレーキECU16へと出力するものである。
【0047】
このため、走行支援ECU20には、少なくとも目標速度や目標車間を入力するためのクルーズ制御スイッチ41が接続されている。これと共に、走行支援ECU20は、周辺監視装置15から物標情報、パワトレECU17から現車速,エンジン制御状態,アクセルペダル操作状態,推定出力可能トルクTmin、ブレーキECU16から操舵角,ヨーレート,ブレーキペダル操作状態等を受信するように構成されている。
【0048】
そして、クルーズ制御スイッチ41は、図示しないが、各種制御(本実施形態では、PCSとクルーズ制御もしくはACC)を開始させるためのセットスイッチと、各種制御を終了させるためのキャンセルスイッチと、目標速度を入力するための目標速度入力部と、目標車間を入力するための目標車間入力部とを少なくとも備えた、いわゆるインターフェース部として構成されている。
〈走行支援ECU〉
次に、走行支援ECUについて説明する。
【0049】
ここで、図3は、走行支援ECUの構成を機能的に示すと共に、走行支援ECUの周辺の構成を示したブロック図である。
図3に示すように、走行支援ECU20は、予め規定された規定タイミング毎に、目標加速度areqを繰り返し導出する目標加速度演算器21と、目標加速度演算器21で導出された目標加速度areqに従って、パワトレ要求トルクTwPT及びブレーキ要求トルクTwBKを導出する加速度制御器22として機能する。
【0050】
このうち、目標加速度演算器21は、セットスイッチが操作されたことを表す信号が入力されると、クルーズ制御,アダプティブクルーズ制御、もしくはプリクラッシュセーフティ制御の実行に必要なアプリケーションプログラム(処理プログラムの一種)を規定タイミング間隔で繰り返し実行して、各種入力情報に基づき、目標加速度areqを導出する。これと共に、目標加速度演算器21は、規定タイミング毎に導出される目標加速度areq(即ち、目標加速度areq同士の差分)が、予め規定された規定量以上の変化することを防止(制限)するための制限値(以下、要求ジャーク制限値Jerkreqとする)を導出する。
【0051】
つまり、目標加速度演算器21は、規定タイミング間隔で繰り返しアプリケーションプログラムを実行することにより、目標加速度areq及び要求ジャーク制限値Jerkreqを規定タイミング毎に導出して、加速度制御器22へと出力する。
〈加速度制御器〉
次に、加速度制御器について説明する。
【0052】
この加速度制御器22は、規定タイミングよりも短い間隔に設定された設定タイミング(以下設定タイミングの周期を設定周期Tdと称す)毎に、処理プログラムに基づく処理を実行することにより、パワトレ要求トルクTwPT及びブレーキ要求トルクTwBKを導出して出力するものである。
【0053】
このため、加速度制御器22は、目標加速度演算器21から規定タイミング毎に出力される目標加速度areqの変化量を規定範囲内に抑制したジャーク制限後目標加速度ajlmtを算出するジャーク制限部25と、図5に示す様な一次遅れモデルからなる規範モデルに対して、ジャーク制限部25からのジャーク制限後目標加速度ajlmtを入力することで、パワトレ規範応答加速度aref_PT、及びブレーキ規範応答加速度aref_BKそれぞれを生成するパワトレ規範モデル設定部26,及びブレーキ規範モデル設定部27とを有している。なお、パワトレ規範応答加速度aref_PTとは、理想状態(即ち、外乱などを無視した状態)において、ジャーク制限後目標加速度ajlmtをパワトレ機構5にて達成するために必要な加速度であり、ブレーキ規範応答加速度aref_BKとは、理想状態において、ジャーク制限後目標加速度ajlmtをブレーキ機構10にて達成するために必要な加速度である。
【0054】
さらに、加速度制御器22は、パワトレ規範モデル設定部26にて生成したパワトレ規範応答加速度aref_PTと加速度センサ42からの実加速度aactとの偏差(以下、パワトレ加速度偏差err_pとする)を導出するパワトレ偏差演算部28と、パワトレ偏差演算部28にて導出したパワトレ加速度偏差err_pに基づき、パワトレ機構5に対するフィードバック制御量(即ち、駆動もしくは制動トルク)であるパワトレフィードバックトルクTfb_PTを導出するパワトレフィードバック制御部29とを有している。
【0055】
また、加速度制御器22は、ブレーキ規範モデル設定部27にて生成したブレーキ規範応答加速度aref_BKと加速度センサ42からの実加速度aactとの偏差(以下、ブレーキ加速度偏差err_bとする)を導出するブレーキ偏差演算部31と、ブレーキ偏差演算部31にて導出したブレーキ加速度偏差err_bに基づき、ブレーキ機構10に対するフィードバック制御量であるブレーキフィードバックトルクTfb_PTを導出するブレーキフィードバック制御部32とを有している。
【0056】
そして、加速度制御器22は、自車両の走行抵抗による駆動トルクの減少分(または、制動トルクの増加分)を補償するためのフィードフォワード制御量(即ち、駆動もしくは制動トルク)であるフィードフォワードトルクTffを導出するフィードフォワード制御部35と、パワトレフィードバック制御部29にて導出したパワトレフィードバックトルクTfb_PTと、フィードフォワード制御部35にて導出したフィードフォワードトルクTffとに基づき、パワトレ要求トルクTwPTを導出するパワトレ制御量演算部30と、ブレーキフィードバック制御部32にて導出したブレーキフィードバックトルクTfb_PTと、フィードフォワードトルクTffとに基づき、要求ブレーキトルクTwBKを導出するブレーキ制御量演算部33とを有している。
【0057】
さらに、加速度制御器22は、パワトレフィードバック制御部29から出力するパワトレフィードバックトルクTfb_PT、またはブレーキフィードバック制御部32から出力するブレーキフィードバックトルクTfb_BKを、自車両の走行状態に応じて制限するフィードバック量制限制御部38とを有している。
〈ジャーク制限部〉
次に、走行支援ECU20をジャーク制限部25として機能させるためのジャーク制限処理について説明する。
【0058】
ここで、図4は、ジャーク制限処理の処理手順を示すフローチャートである。
このジャーク制限処理は、設定タイミング毎に繰り返し起動されるものであり、起動されると、まず、S110にて、目標加速度演算器21からの目標加速度areq、要求ジャーク制限値Jerkreq、及びこのS110へと進んだ時点でジャーク制限部25から出力しているジャーク制限後目標加速度ajlmtを取得する。
【0059】
そして、S120では、S110で取得したジャーク制限後目標加速度ajlmtを、前回ジャーク制限処理が実行された際の出力値(以下、前回値aj0とする)として設定し、S130へと進む。
【0060】
そのS130では、第一演算値と、目標加速度areqとのうち、値の小さいものを最小ジャーク値aj1として設定し、続くS140では、第二演算値と、最小ジャーク値aj1とのうち、値の大きいものを最大ジャーク値aj2として設定する。
【0061】
なお、本実施形態における第一演算値は、具体的に、要求ジャーク制限値Jerkreqに設定周期Tdを乗じた値に前回値aj0を加算したもの(第一演算値=前回値aj0+要求ジャーク制限値Jerkreq×設定周期Td)である。また、本実施形態における第二演算値は、具体的に、要求ジャーク制限値Jerkreqに設定周期Tdを乗じた値を前回値aj0から減算したもの(第二演算値=前回値aj0−要求ジャーク制限値Jerkreq×設定周期Td)である。
【0062】
さらに、S150では、S140で設定した最大ジャーク値aj2をジャーク制限後目標加速度ajlmtとして設定して、後段に出力し、その後、本ジャーク制限処理を終了する。
【0063】
つまり、設定周期Td毎に取得される目標加速度areqの変化(即ち、目標加速度areq同士の差分)が大きくなり、自車両が急加速、急制動することを防止するため、ジャーク制限処理では、目標加速度areqの変化を規定範囲内としたジャーク制限後目標加速度ajlmtを算出する。
〈フィードフォワード制御部〉
次に、フィードフォワード制御部について説明する。
【0064】
このフィードフォワード制御部35では、空気抵抗に対するフィードフォワード制御量(以下、空気抵抗分補償トルクと称す)、路面抵抗(転がり抵抗)に対するフィードフォワード制御量(以下、転がり抵抗分補償トルクと称す)、重力(加速抵抗)に対するフィードフォワード制御量(以下、加速抵抗分補償トルクと称す)をそれぞれ導出し、それら全てのフィードフォワード制御量の和をフィードフォワードトルクTffとして導出する。
【0065】
なお、空気抵抗分補償トルク、転がり抵抗分補償トルク、加速抵抗分補償トルクは、それぞれ次の式(1)〜式(3)により求められる。ただし、式(1)〜式(3)おいて、ρは空気密度[kg/m3],Cdは空気抵抗係数,Aは自車両の前面投影面積[m2],vは現車速[m/s],μは転がり抵抗係数,Mは自車両の質量[kg],gは重力加速度[m/s2],aactは実加速度[m/s2],rは駆動輪の半径[m]である。
【0066】
【数1】
なお、フィードフォワード制御部35は、ジャーク制限後目標加速度ajlmtが負の加速度である場合(即ち、自車両を減速させる際)には、パワトレ機構5が制動トルクを発生するようなパワトレ要求トルクTwPTをパワトレ制御量演算部30が出力するように、フィードフォワードトルクTffを導出する。
【0067】
また、フィードフォワード制御部35は、ジャーク制限後目標加速度ajlmtが正の加速度もしくは一定である場合(即ち、自車両を加速させる、もしくは定速で走行させる)には、パワトレ機構5が駆動トルク(あるいは0[N・m]のトルク)を発生するようなパワトレ要求トルクTwPTをパワトレ制御量演算部30が出力するように、フィードフォワードトルクTffを導出する。
〈フィードバック量制限制御部〉
次に、フィードバック量制限制御部について説明する。
【0068】
このフィードバック量制限制御部38は、パワトレフィードバック制御部29から出力するパワトレフィードバックトルクTfb_PTを制限したブレーキフィードバック利用状態(本発明のブレーキ利用制御に相当)と、ブレーキフィードバック制御部32から出力するブレーキフィードバックトルクTfb_BKを制限したブレーキフィードバック制限状態(本発明のブレーキ制限制御に相当)とを、自車両の走行状況に応じて切り替える。
【0069】
具体的に、本実施形態のフィードバック量制限制御部38では、図6に示すように、パワトレ要求トルクTwPTが駆動トルクである場合、ブレーキフィードバック制限状態に設定する。さらに、フィードバック量制限制御部38では、パワトレ要求トルクTwPTが制動トルクであれば、パワトレ要求トルクTwPTが推定出力可能トルクTmin(ただし、推定出力可能トルクTminも制動トルクとする)未満である場合、ブレーキフィードバック制限状態に設定する。
【0070】
このブレーキフィードバック制限状態では、パワトレフィードバックフラグFfb_PTをオフとし(即ち、ローレベルに設定し)、ブレーキフィードバックフラグFfb_BKをオンとする(即ち、ハイレベルに設定する)。
【0071】
また、フィードバック量制限制御部38では、パワトレ要求トルクTwPTが制動トルクであれば、パワトレ要求トルクTwPTが推定出力可能トルクTmin(ただし、推定出力可能トルクTminも制動トルクとする)以上であり、かつブレーキ要求トルクTwBKが0[N・m]よりも大きい場合、ブレーキフィードバック利用状態に設定する。
【0072】
このブレーキフィードバック利用状態では、パワトレフィードバックフラグFfb_PTをオンとし(即ち、ハイレベルに設定し)、ブレーキフィードバックフラグFfb_BKをオフとする(即ち、ローレベルに設定する)。
【0073】
つまり、フィードバック量制限制御部38は、目標加速度areqを達成するために必要な駆動もしくは制動トルクを、パワトレ機構5のみで発生可能であれば、ブレーキフィードバック制限状態に設定し、目標加速度areqを達成するために必要な制動トルクをパワトレ機構5のみで発生不可能であり、かつパワトレ機構5に加えてブレーキ機構10で発生させる必要があれば、ブレーキフィードバック利用状態に設定する。
【0074】
なお、フィードバック量制限制御部38は、ブレーキフィードバック制限状態及びブレーキフィードバック利用状態の何れにも該当しない場合、パワトレフィードバック制御部29から出力するパワトレフィードバックトルクTfb_PTと、ブレーキフィードバック制御部32から出力するブレーキフィードバックトルクTfb_BKとの両方を制限したフィードバック制限状態に設定する。
【0075】
このフィードバック制限状態では、パワトレフィードバックフラグFfb_PT、ブレーキフィードバックフラグFfb_BK共にオンとする(即ち、ハイレベルに設定する)。
そのブレーキフィードバック制限状態及びブレーキフィードバック利用状態の何れにも該当しない場合の条件としては、例えば、パワトレ要求トルクTwPTが駆動トルクであり、かつブレーキ要求トルクTwBKが0[N・m]よりも大きい場合などが考えられる。
【0076】
なお、以下では、ブレーキフィードバック制限状態からブレーキフィードバック利用状態への切り替えタイミングをブレーキ制限解除タイミングと称し、ブレーキフィードバック利用状態からブレーキフィードバック制限状態への切り替えタイミングをブレーキ制限開始タイミングと称す。
〈パワトレフィードバック制御部〉
次に、走行支援ECU20をパワトレフィードバック制御部29として機能させるためのパワトレフィードバック制御処理について説明する。
【0077】
ここで、図7は、パワトレフィードバック制御処理の処理手順を示したフローチャートである。
このパワトレフィードバック制御処理は、設定タイミング毎に繰り返し起動されるものであり、起動されると、まず、S210にて、パワトレフィードバックフラグFfb_PTがオン(ハイレベル)であるか否かを判定し、判定の結果、パワトレフィードバックフラグFfb_PTがローレベルであれば、ブレーキフィードバック制限状態であるものとしてS230へと進む。
【0078】
さらに、S230では、パワトレ偏差演算部28からのパワトレ加速度偏差err_Pに基づき、今回実行されたパワトレフィードバック制御処理におけるパワトレ加速度偏差err_Pの微分値Ierr_Pと、積分値Derr_Pとを算出する。なお、以下では、今回実行されたパワトレフィードバック制御処理のサイクルを今処理サイクルと称し、前回実行されたパワトレフィードバック制御処理のサイクルを前処理サイクルと称す。
【0079】
本実施形態では、今処理サイクルでの微分値Ierr_Pを、今処理サイクルにおいてパワトレ偏差演算部28にて導出したパワトレ加速度偏差err_Pに設定周期Tdを乗じた値を、前処理サイクルにおけるS230により導出された微分値Ierr_POに加算する(即ち、微分値Ierr_P=微分値Ierr_PO+パワトレ加速度偏差err_P×設定周期Td)ことで求める。また、今処理サイクルでの積分値Derr_Pを、今処理サイクルにおいてパワトレ偏差演算部28にて導出したパワトレ加速度偏差err_Pから、前処理サイクルにおけるパワトレ偏差演算部28により導出されたパワトレ加速度偏差err_POを引いた差を、設定周期Tdで除する(即ち、積分値Derr_P=(パワトレ加速度偏差err_P−パワトレ加速度偏差err_PO)/設定周期Td)ことで求める。なお、ここでの添え字Oは、前処理サイクルで導出されたものであることを示すものである。
【0080】
続くS240では、今処理サイクルでのパワトレフィードバックトルクTfb_PTを算出して出力する。
具体的に、本実施形態では、比例項と、微分項と、積分項との和を今処理サイクルでのパワトレフィードバックトルクTfb_PTとして求める。
【0081】
なお、比例項は、今処理サイクルにおいてパワトレ偏差演算部28にて導出したパワトレ加速度偏差err_Pと、予め設定された比例ゲインKPPとを乗算する(即ち、比例項=パワトレ加速度偏差err_P×比例ゲインKPP)ことで求める。微分項は、今処理サイクルにおける微分値Ierr_Pと、予め設定された微分ゲインKIPとを乗算する(即ち、微分項=微分値Ierr_P×微分ゲインKIP)ことで求める。積分項は、今処理サイクルにおける積分値Derr_Pと、予め設定された積分ゲインKDPとを乗算する(即ち、積分項=積分値Derr_P×積分ゲインKDP)ことで求める。
【0082】
そして、S250では、今処理サイクルにおいてパワトレ偏差演算部28にて導出したパワトレ加速度偏差err_Pと、今処理サイクルでのS230で算出した微分値Ierr_Pと、今サイクルにS240で算出したパワトレフィードバックトルクTfb_PTとを記憶する。
【0083】
すなわち、これらのパワトレ加速度偏差err_P、微分値Ierr_P、パワトレフィードバックトルクTfb_PTは、次にパワトレフィードバック制御処理が実行される際に、前処理サイクルでのパワトレ加速度偏差err_PO、微分値Ierr_PO、パワトレフィードバックトルクTfb_PT_Oとなるように記憶される。
【0084】
そして、その後、今処理サイクルでのパワトレフィードバック制御処理を終了する。
つまり、本実施形態のパワトレフィードバック制御処理では、ブレーキフィードバック制限状態であれば、PID制御モデルを用いてパワトレフィードバックトルクTfb_PTを演算して出力する。
【0085】
ところで、S210での判定の結果、パワトレフィードバックフラグFfb_PTがハイレベルであれば、ブレーキフィードバック利用状態もしくはフィードバック制限状態であるものとしてS260へと進む。
【0086】
そのS260では、先のS250で記憶したパワトレフィードバックトルクTfb_PT_Oを、今処理サイクルでのパワトレフィードバックトルクTfb_PTとして出力する。これと共に、出力したパワトレフィードバックトルクTfb_PTが、次にパワトレフィードバック制御処理が実行された時に、前処理サイクルにて出力したパワトレフィードバックトルクTfb_PT_Okとなるように記憶する(以下、このS260で出力したパワトレフィードバックトルクには、添え字_Okを付加する)。
【0087】
なお、パワトレ要求トルクTwPT(ただし制動トルク)が推定出力可能トルクTmin以上かつブレーキ要求トルクが0[N・m]よりも大きくなると、ブレーキフィードバック制限状態からブレーキフィードバック利用状態へと移行することから、このS260で出力されるパワトレフィードバックトルクTfb_PTは、通常、推定出力可能トルクTmin(ただし制動トルク)よりも小さくなる(もしくは、駆動トルクである)。
【0088】
これは、パワトレ制御量演算部30が、自車両を減速させる際には、パワトレ機構5が制動トルクを発生するように、自車両が加速する際や定速で走行する際には、パワトレ機構5が駆動トルクを発生するように、パワトレフィードバックトルクTfb_PTとフィードフォワードトルクTffとに基づき、駆動トルクとなるようにパワトレ要求トルクTwPTを求めるように構成されているためである。
【0089】
また、このS260では、パワトレフィードバックトルクTfb_PT中の微分項,及び積分項を初期化(例えば、0)する。これは、次にブレーキ制限開始タイミングとなった際に、パワトレフィードバックトルクTfb_PTが、ジャーク制限後目標加速度ajlmtを達成するために必要な駆動もしくは制動トルクよりも大きくなることを防止するためである。
【0090】
以上説明したように、本実施形態のパワトレフィードバック処理では、ブレーキフィードバック利用状態(もしくはフィードバック制限状態)であれば、PID制御モデルを用いたパワトレフィードバックトルクTfb_PTの演算を停止し、前回のブレーキ制限解除タイミング時(ただし、フィードバック制限状態であれば、その状態への移行時)に出力していたパワトレフィードバックトルクTfb_PTを、パワトレフィードバック制御部29からの出力値として保持する。
【0091】
そして、ブレーキ制限開始タイミングとなると、ブレーキフィードバック利用状態もしくはフィードバック制限状態である時に出力していたパワトレフィードバックトルクTfb_PT_Okを、パワトレフィードバック制御部29からの出力値として出力すると共に、パワトレフィードバックトルクTfb_PT_Okを初期値として、PID制御モデルを用いたパワトレフィードバックトルクTfb_PTの演算を再開する。
【0092】
これにより、ブレーキ制限開始タイミング直後のパワトレ機構5では、推定出力可能トルクTmin未満の大きさに設定された規定トルクを発生する。
〈ブレーキフィードバック制御部〉
次に、走行支援ECU20をブレーキフィードバック制御部32として機能させるためのブレーキフィードバック制御処理について説明する。
【0093】
ここで、図8は、ブレーキフィードバック制御処理の処理手順を示したフローチャートである。
このブレーキフィードバック制御処理は、設定タイミング毎に繰り返し起動されるものであり、起動されると、まず、S310にて、ブレーキフィードバックフラグFfb_BKがオン(ハイレベル)であるか否かを判定し、判定の結果、ブレーキフィードバックフラグFfb_BKがローレベルであれば、ブレーキフィードバック利用状態であるものとしてS330へと進む。
【0094】
さらに、S330では、ブレーキ偏差演算部31からのブレーキ加速度偏差err_Bに基づき、今回実行されたブレーキフィードバック制御処理におけるブレーキ加速度偏差err_Bの微分値Ierr_Bと、積分値Derr_Bを算出する。なお、以下では、今回実行されたブレーキフィードバック制御処理のサイクルを今サイクルと称し、前回実行されたブレーキフィードバック制御処理のサイクルを前サイクルと称す。
【0095】
本実施形態では、今サイクルでの微分値Ierr_Bを、今サイクルにおいてブレーキ偏差演算部31にて導出したブレーキ加速度偏差err_Bに設定周期Tdを乗じた値を、前サイクルにおけるS330にて導出した微分値Ierr_BOに加算する(即ち、微分値Ierr_B=微分値Ierr_BO+ブレーキ加速度偏差err_B×設定周期Td)ことで求める。また、今サイクルにて導出した積分値Derr_Bを、今サイクルにおいてブレーキ偏差演算部31にて導出したブレーキ加速度偏差err_Bから前サイクルにおいてブレーキ偏差演算部31に導出されたブレーキ加速度偏差err_BOを引いた差を、設定周期Tdで除する(即ち、積分値Derr_B=(ブレーキ加速度偏差err_B−ブレーキ加速度偏差err_BO)/設定周期Td)ことで求める。なお、ここでの添え字Oは、前サイクルで導出されたものであることを示すものである。
【0096】
続くS340では、今サイクルでのブレーキフィードバックトルクTfb_BKを算出して出力する。
具体的に、本実施形態では、比例項と、微分項と、積分項との和を、今サイクルにおけるブレーキフィードバックトルクTfb_BKとして求める。
【0097】
なお、比例項は、今サイクルにおいてブレーキ偏差演算部31にて導出したブレーキ加速度偏差err_bと、予め設定された比例ゲインKPBとを乗算する(即ち、比例項=ブレーキ加速度偏差err_b×比例ゲインKPB)ことで求める。微分項は、今サイクルでの微分値Ierr_Bと、予め設定された微分ゲインKIBとを乗算する(即ち、微分項=微分値Ierr_B×微分ゲインKIB)ことで求める。積分項は、今サイクルでの積分値Derr_Bと、予め設定された積分ゲインKDBとを乗算する(即ち、積分項=積分値Derr_B×積分ゲインKDB)ことで求める。
【0098】
そして、S350では、今サイクルにおいてブレーキ偏差演算部31にて導出したブレーキ加速度偏差err_Bと、今サイクルにおけるS330で算出した微分値Ierr_Bと、今サイクルにおけるS340で算出したブレーキフィードバックトルクTfb_BKとを記憶する。
【0099】
すなわち、これらのブレーキ加速度偏差err_B、微分値Ierr_B、ブレーキフィードバックトルクTfb_BKは、次にブレーキフィードバック制御処理が実行される際に、前サイクルでのブレーキ加速度偏差err_BO、微分値Ierr_BO、ブレーキフィードバックトルクTfb_BK_Oとなるように記憶される。
【0100】
そして、その後、今サイクルでのブレーキフィードバック制御処理を終了する。
つまり、本実施形態のブレーキフィードバックトルク制御処理では、ブレーキフィードバック利用状態であれば、PID制御モデルを用いてブレーキフィードバックトルクTfb#BKを演算し出力する。
【0101】
ところで、S310での判定の結果、ブレーキフィードバックフラグFfb_BKがハイレベルであれば、ブレーキフィードバック制限状態もしくはフィードバック制限状態であるものとしてS360へと進む。
【0102】
そのS360では、先のS350で記憶したブレーキフィードバックトルクTfb_BK_Oを、今サイクルにおけるブレーキフィードバックトルクTfb_BKとして出力する。これと共に、その出力したブレーキフィードバックトルクTfb_BKを、次にブレーキフィードバック制御処理の実行時に、前サイクルブレーキフィードバックトルクTfb_BK_Okとするように記憶する(以下、このS360で出力したブレーキフィードバックトルクには、添え字_Okを付加する)。
【0103】
なお、パワトレ要求トルクTwPT(ただし制動トルク)が推定出力可能トルクTmin未満となると、ブレーキフィードバック利用状態からブレーキフィードバック制限状態へと移行することから、このS360が実行されると、通常、ブレーキECU16に入力されるブレーキ要求トルクTwBKは0[N・m]となる。
【0104】
これは、ブレーキ制御量演算部33が、自車両を減速させる際には、ブレーキ機構10が制動トルクを発生するように、自車両が加速する際や、定速で走行する際には、ブレーキ機構10が発生するトルクが0[N・m]となるように、ブレーキフィードバックトルクTfb_BKとフィードフォワードトルクTffとに基づき、ブレーキ要求トルクTwBKを求めるように構成されているためである。
【0105】
また、このS360で出力されるブレーキフィードバックトルクTfb_BK中の微分項,及び積分項を初期化(例えば、0)する。これは、次のブレーキ制限解除タイミング時に、ブレーキフィードバックトルクTfb_BKが、ジャーク制限後目標加速度ajlmtを達成するために必要な駆動もしくは制動トルクよりも大きくなることを防止するためである。
【0106】
以上説明したように、本実施形態のブレーキフィードバック制御処理では、ブレーキフィードバック制限状態(もしくはフィードバック制限状態)であれば、PID制御モデルを用いたブレーキフィードバックトルクTfb_PTの演算を停止し、ブレーキ制限開始タイミング時(ただし、フィードバック制限状態であれば、その状態への移行時)に出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKを、ブレーキフィードバック制御部32からの出力値として保持する。
【0107】
そして、ブレーキ制限解除タイミングとなると、ブレーキフィードバック制限状態もしくはフィードバック制限状態である時に出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BK_Okをそのまま、ブレーキフィードバック制御部32からの出力値として出力すると共に、ブレーキフィードバックトルクTfb_BK_Okを初期値として、PID制御モデルを用いたブレーキフィードバックトルクTfb_BKの演算を再開する。
【0108】
これにより、ブレーキ制御解除タイミング直後のブレーキ機構10では、0[N・m]よりも大きく設定された特定制動トルクを発生する。
〈動作例〉
次に、本実施形態の走行支援ECU20の動作例について説明する。
【0109】
ここで、図9は、本実施形態の加速度制御器における制御状態の一例を示すタイムチャートである。この図9に示す例では、目標加速度演算器21にて導出される目標加速度areqが、時刻t1から減少し始め、時刻t2にて推定出力可能トルクTminによって達成可能な負の加速度(減速度)と一致し、さらに、時刻T3にて目標加速度areqが一定となる状況を想定する。
【0110】
このような状況を想定した場合、加速度制御器22では、時刻t2までは、目標加速度areqを達成するために必要な制動トルクをパワトレ機構5のみで発生可能なため、ブレーキフィードバック制限状態に設定する。
【0111】
このため、ブレーキフィードバック制御部32では、PID制御モデルを用いたブレーキフィードバックトルクTfb_PTの演算を停止して、ブレーキ制限開始タイミングに出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKを出力値として保持する。これと共に、パワトレフィードバック制御部29では、PID制御モデルを用いてパワトレフィードバックトルクTfb_PTを、目標加速度areq(より正確には、ジャーク制限後目標加速度ajlmt)に実加速度aactを一致させるように演算して出力する。
【0112】
このようにして出力されたブレーキフィードバックトルクTfb_BK、パワトレフィードバックトルクTfb_PTそれぞれと、フィードフォワードトルクTffとに基づいて導出されたブレーキ要求トルクTwBK及びパワトレ要求トルクTwPTそれぞれを、ブレーキECU16、パワトレECU17に出力する。
【0113】
これにより、パワトレ機構5にて発生する制動トルクは、推定出力可能トルクTminとなるまでは増加される。なお、ブレーキフィードバック制限状態においては、ブレーキ機構10にて発生する制動トルクは、フィードフォワードトルクTffによって、例えば、0[N・m]に維持される。
【0114】
さらに、時刻t2となり、パワトレ要求トルクTwPTが推定出力可能トルクTmin(ただし、共に制動トルク)以上となると、ブレーキフィードバック制限解除タイミングとなる。
【0115】
この時、パワトレフィードバック制御部29は、ブレーキ制限開始タイミングから出力していたパワトレフィードバックトルクTfb_PTを出力値として保持し、ブレーキフィードバック制御部32は、ブレーキ制限解除タイミング時に出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKをそのまま出力値として出力する。
【0116】
このようにして出力されたブレーキフィードバックトルクTfb_BK、パワトレフィードバックトルクTfb_PTそれぞれと、フィードフォワードトルクTffとに基づいて導出されたブレーキ要求トルクTwBK及びパワトレ要求トルクTwPTそれぞれを、ブレーキECU16、パワトレECU17に出力する。
【0117】
これにより、ブレーキ機構10にて発生する制動トルクは、ブレーキ制限解除タイミングの直後から、0[N・m]よりも大きく設定されたものとなり、目標加速度areqに実加速度aactが一致するまで増加される。なお、ブレーキフィードバック利用状態においては、パワトレ機構5にて発生する制動トルクは、フィードフォワードトルクTffによって、例えば、推定出力可能トルクTminに維持される。
[実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態の加速度制御器22では、ブレーキ機構10にて発生する制動トルクが、ブレーキ制限解除タイミングの直後から、0[N・m]よりも大きく設定されたものとなる。
【0118】
このため、本実施形態の加速度制御器22を用いることで、従来装置に比べて、ブレーキフィードバック制限状態からブレーキフィードバック利用状態へと切り替えられた際に、ブレーキ機構10にて発生した制動トルクが自車両に影響を与えるまでに要する時間が短縮される。
【0119】
これにより、本実施形態の走行支援ECU20によれば、ブレーキ制限解除タイミングにおける目標加速度areqへの追従性を向上させる、即ち、目標加速度areqに対する実加速度aactの応答遅れを低減させることができる。
【0120】
しかも、本実施形態の加速度制御器22によれば、パワトレ機構5で発生している制動トルクからブレーキ機構10で発生させる制動トルクへの変化を滑らかに切り替えることができる。
【0121】
これらの結果、当該走行支援ECU20が適用された車両において、車両が減速する際の乗り心地を確実に向上させることができる。
また、本実施形態の加速度制御器22によれば、ブレーキ制限開始タイミングにおいて、推定出力可能トルクTminをパワトレ機構5に発生させるため、車両が加速する際の乗り心地を向上させることができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限るものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0122】
例えば、上記実施形形態のブレーキフィードバック制御処理では、ブレーキ制限解除タイミングの直後に、ブレーキフィードバック制限状態時に出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKを出力していたが、ブレーキ制限解除タイミングの直後に出力するブレーキフィードバックトルクTfb_BKは、これに限るものではない。つまり、ブレーキ制限解除タイミングの直後から、ブレーキ機構10にて、0[N・m]よりも大きい制動トルクを発生可能であれば、どのような出力値であっても良い。
【0123】
また、上記実施形形態のパワトレフィードバック制御処理では、ブレーキ制限開始タイミングの直後に、ブレーキフィードバック利用状態時に出力していたパワトレフィードバックトルクTfb_PTを出力していたが、ブレーキ制限開始タイミングの直後に出力するパワトレフィードバックトルクTfb_PTは、これに限るものではない。つまり、ブレーキ制限開始タイミングの直後から、パワトレ機構5にて、推定出力可能トルク(即ち、最大制動トルク)よりも小さい制動トルクを発生可能であれば、どのような出力値であっても良い。
【0124】
ところで、上記実施形態におけるブレーキフィードバック制御処理では、ブレーキ利用状態時に、PID制御によって(即ち、PIDモデルを用いて)ブレーキフィードバックトルクTfb_BKを算出していたが、ブレーキフィードバックトルクTfb_BKは、PI制御のみによって(即ち、PI制御モデルのみを用いて)算出しても良いし、比例制御のみによって算出しても良い。なお、パワトレフィードバック制御処理においても、ブレーキフィードバック制御処理と同様、パワトレフィードバックトルクTfb_PTを、PI制御のみによって(即ち、PI制御モデルのみを用いて)算出しても良いし、比例制御のみによって算出しても良い。
【0125】
そして、上記実施形態では、走行支援ECU20がアプリケーションプログラムを実行することによって、加速度制御器22を実現していたが、加速度制御器22は、電子回路を組み合わせること(ハードウェア)によって、実現された装置であっても良い。
【0126】
このようなハードウェアによって加速度制御器22が実現される場合、その加速度制御器は、走行支援ECU20とは別の制御装置として構成されたものでも良い。
また、上記実施形態では、ブレーキECU16が制御するブレーキ機構10は、油圧ブレーキであったが、制御されるブレーキ機構10は、これに限るものではなく、回生ブレーキなどでも良い。つまり、走行支援ECU20からのブレーキ要求トルクTwBKに応じた大きさの制動トルクを発生するものであれば、どのようなものでも良い。
【0127】
さらに、上記実施形態では、パワトレECU17が制御する内燃機関6をガソリンエンジンとしたが、パワトレECU17が制御する内燃機関6は、これに限るものではなく、例えば、ディーゼルエンジンであっても良い。また、上記実施形態では、パワトレECU17が制御する変速機構7を遊星歯車式自動変速装置としたが、パワトレECU17が制御する変速機構7は、これに限るものではなく、例えば、周知のマニュアルトランスミッション装置や、無段変速装置(いわゆるCVT)、セミオートマチックトランスミッション装置(いわゆるDCT)であっても良い。つまり、走行支援ECU20からのパワトレ要求トルクTwPTに応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを発生するものであれば、内燃機関6や変速機構7は、どのようなものでも良い。
【0128】
なお、上記実施形態における周辺監視装置15は、ミリ波レーダ装置を中心に構成したものであったが、周辺監視装置15は、これに限るものではなく、例えば、自車両の進行方向を撮影するように配置され、撮影画像に基づいて物標情報を取得する車載カメラや、レーザ光を送受信することで、先行車両等の物標を検出し、物標情報を取得するレーザレーダ装置を中心に構成されていても良いし、これら(即ち、ミリ波レーダ装置、車載カメラ、及びレーザレーダ装置)を、組み合わせて構成されていても良い。
[本発明と実施形態との対応]
本実施形態における目標加速度演算器21が、本発明の目標値導出手段に相当し、本実施形態において走行支援ECU20が加速度センサ42から実加速度aactを取得する機能が、本発明の加速度取得手段に相当する。さらに、本実施形態において加速度制御器22のパワトレ偏差演算部28,パワトレフィードバック制御部29,パワトレ制御量演算部30,フィードフォワード制御部35が本発明のパワートレイン制御手段に相当し、本実施形態において加速度制御器22のブレーキ偏差演算部31,ブレーキフィードバック制御部32,ブレーキ制御量演算部33,フィードフォワード制御部35が、本発明のブレーキ制御手段に相当する。
【0129】
また、本実施形態におけるフィードバック量制限制御部38が、本発明の状態判定切替手段に相当し、本実施形態においてブレーキ制限解除タイミングに実行されるブレーキフィードバック制御処理が、本発明の第一切替手段に相当する。そして、本実施形態においてブレーキ制限開始タイミングに実行されるパワトレフィードバック制御処理が、本発明の第二切替手段に相当し、本実施形態のブレーキフィードバック制御処理におけるS360が、本発明のブレーキ制御値保持手段に相当し、本実施形態のパワトレフィードバック制御処理におけるS260が、本発明のパワートレイン制御値保持手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】走行支援システムを搭載した車両の概略図である。
【図2】走行支援システムの概略構成を示したブロック図である。
【図3】走行支援ECUの機能的構成、及び走行支援ECUの周辺の概略構成を示したブロック図である。
【図4】ジャーク制限処理の処理手順を示したフローチャートである。
【図5】規範モデルについて例示した説明図である。
【図6】フィードバック量制限制御部の制御状態切り替えの様子を示した説明図である。
【図7】パワトレフィードバック制御処理の処理手順を示した説明図である。
【図8】ブレーキフィードバック制御処理の処理手順を示した説明図である。
【図9】本実施形態における動作例を示すタイムチャートである。
【図10】本発明の車両制御装置における制御状態の一例を示すタイムチャートである。
【図11】従来装置における制御状態の一例を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0131】
1…走行支援システム 5…パワトレ機構 10…ブレーキ機構 15…周辺監視装置 16…ブレーキECU 17…パワトレECU 18…ステアリングECU 20…走行支援ECU 21…目標加速度演算器 22…加速度制御器 25…ジャーク制限部 26…パワトレ規範モデル設定部 27…ブレーキ規範モデル設定部 28…パワトレ偏差演算部 29…パワトレフィードバック制御部 30…パワトレ制御量演算部 31…ブレーキ偏差演算部 32…ブレーキフィードバック制御部 33…ブレーキ制御量演算部 35…フィードフォワード制御部 38…フィードバック量制限制御部 41…クルーズ制御スイッチ 42…加速度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行状況に応じて要求される加速度に、実加速度が一致するように車両を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載され、自車両の速度を設定速度(即ち、目標速度)に維持するクルーズ制御や、先行車両と自車両との車間距離を設定車間距離(即ち、目標車間)に維持するアダプティブクルーズ制御等を実行する走行支援システムが知られている。
【0003】
この走行支援システムは、パワートレイン制御値に応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを、内燃機関及びトランスミッションからなるパワートレイン機構に発生させるパワートレイン制御装置と、ブレーキ制御値に応じた大きさの制動トルクを、油圧ブレーキ機構に発生させる油圧ブレーキ制御装置とを備えている。さらに、走行支援システムは、目標速度もしくは目標車間を達成するために必要な加速度(以下、目標加速度とする)を、自車両の走行状況に応じて導出するための処理(以下、目標加速度導出処理とする)を実行すると共に、その目標加速度導出処理の実行によって導出される目標加速度に、自車両に加わる加速度(即ち、実加速度)を一致させるように、パワートレイン制御値及びブレーキ制御値を導出して、パワートレイン制御装置及び油圧ブレーキ制御装置に出力する(即ち、フィードバック制御を実行する)車両制御装置とを備えている(特許文献1,2参照)。
【0004】
そして、目標加速度が自車両を加速させる方向(即ち、正)の加速度である場合、この種の車両制御装置では、目標加速度に実加速度を一致させるようにパワートレイン制御値を導出して、パワートレイン制御装置に対して出力し、パワートレイン機構にて駆動トルクを発生させる。
【0005】
一方、目標加速度が自車両を減速させる方向(即ち、負)の加速度(以下、目標減速度とする)である場合、この種の車両制御装置では、まず、目標減速度に実減速度を一致させるようにパワートレイン制御値を導出して、パワートレイン制御装置に対して出力し、パワートレイン機構にて制動トルクを発生させる。
【0006】
特に、パワートレイン機構にて発生させた制動トルクのみで目標減速度を達成できる場合には、パワートレイン制御値のみを繰り返し導出してパワートレイン機構に対して出力する(以下、ブレーキ制限制御とする)。しかし、パワートレイン機構にて発生させた制動トルクのみで目標減速度を達成できない場合には、パワートレイン機構に対してパワートレイン制御値を出力して、パワートレイン機構にて制動トルクを発生させることに加えて、ブレーキ制御値を繰り返し導出して油圧ブレーキ制御装置に出力し(以下、ブレーキ利用制御とする)、油圧ブレーキ機構にて制動トルクを発生させることがなされる。
【0007】
すなわち、目標加速度導出処理の実行によって導出される目標加速度が減速度(負の加速度)である場合(即ち、目標減速度である場合)、目標減速度を達成するために(即ち、目標減速度の大きさに応じて)パワートレイン機構で発生されるべき制動トルク(以下、出力要求制動トルクとする)が、パワートレイン機構で発生可能な最大制動トルクよりも小さければ、パワートレイン機構のみで制動トルクを発生させ、出力要求制動トルクが最大制動トルクよりも大きければ、パワートレイン機構に加えて油圧ブレーキ機構でも制動トルクを発生させる。
【0008】
なお、この種の車両制御装置においては、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替え、油圧ブレーキ機構にて制動トルクを発生を開始させる場合、その切り替え直後に油圧ブレーキ機構にて発生させる制動トルクが0[N・m]となるように、ブレーキ制御値が予め設定されている。また、以下では、実加速度が目標加速度と一致するように、上述した制御を実行する車両制御装置を従来装置と称す。
【特許文献1】特表2006−506270号公報
【特許文献2】特開平7−81463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、図11は、従来装置における制御状態の一例を示すタイムチャートである。
この図11に示す例では、目標加速度導出処理の実行によって導出される目標加速度は、時刻t1から減少し始め、時刻t2にて最大制動トルクに対応する負の加速度(減速度)と一致する場合を想定する。なお、図11中のt1',t2’は、フィードバック制御によるパワートレイン制御値及びブレーキ制御値の出力遅れを表したものである。
【0010】
このように想定した場合、従来装置では、時刻t1から時刻t2までの間、出力要求制動トルクが最大制動トルクよりも小さいため、ブレーキ制限制御を実行する。
そして、従来装置では、時刻t2となり、出力要求制動トルクが最大制動トルク以上となると、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替える。
【0011】
従来装置において、このようにブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替えられると、切り替えられた直後にブレーキ機構にて発生する制動トルクが0[N・m]であるため、車両に加わる加速度(減速度)に影響を及ぼすような制動トルクが発生するまで、ひいては目標加速度を達成可能な制動トルクを発生するまでに時間を要する。
【0012】
つまり、従来装置では、ブレーキ機構にて0[N・m]から車両に加わる加速度(減速度)に影響を及ぼすような制動トルクが発生するまでの間は、自車両に加わる減速度(実減速度)が一定となり(図11中、円で囲った部分)、目標加速度(減速度)が自車両にて達成されるまでに遅れが生じるという問題があった。
【0013】
このため、従来装置では、目標加速度に対する実加速度の応答遅れにより、自車両の乗り心地が悪化するという問題があった。
そこで、本発明は、車両制御装置において、目標加速度に対する実加速度の応答遅れを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するためになされた本発明は、入力されたパワートレイン制御値に応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを発生するパワートレイン機構、及び、入力されたブレーキ制御値に応じた大きさの制動トルクを発生するブレーキ機構を有した車両に適用される車両制御装置である。
【0015】
その本発明の車両制御装置では、目標値導出手段が、自車両の走行状況に応じた目標加速度を繰り返し導出し、加速度取得手段が、自車両に加わる加速度(即ち、実加速度)を取得する。
【0016】
そして、パワートレイン制御手段が、目標加速度に実加速度が一致するようにパワートレイン制御値を導出して、パワートレイン機構へと出力すると共に、ブレーキ制御手段が、目標加速度に実加速度が一致するようにブレーキ制御値を導出して、ブレーキ機構へと出力する。
【0017】
さらに、状態判定切替手段が、パワートレイン制御手段にて導出されたパワートレイン制御値により、パワートレイン機構が発生すべき駆動トルクもしくは制動トルクである出力要求トルクが、制動トルクでありかつ最大制動トルク未満、または駆動トルクであれば、ブレーキ制御手段からブレーキ機構へのブレーキ制御値の出力を停止するブレーキ制限制御を実行し、出力要求トルクが、制動トルクでありかつ最大制動トルク以上であれば、ブレーキ制御手段からブレーキ機構へのブレーキ制御値の出力を許可するブレーキ利用制御を実行する。そして、その状態判定切替手段により、実行される制御が、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替えられると、第一切替時制御手段が、0よりも大きく設定された特定制動トルクを発生させるための特定制御値をブレーキ制御値の初期値として、ブレーキ制御手段にブレーキ機構へと出力させる。
【0018】
ここで、図10は、本発明の車両制御装置における制御状態の一例を示すタイムチャートである。この図10に示す例では、目標値導出手段から導出される目標加速度は、時刻t1から減少し始め、時刻t2にて最大制動トルクに対応する負の加速度(減速度)と一致する場合を想定する。なお、図10中のt1',t2’は、フィードバック制御によるパワートレイン制御値及びブレーキ制御値の出力遅れを表したものである。
【0019】
この場合、本発明の車両制御装置では、時刻t1から時刻t2までの間、ブレーキ制限制御が実行され、実加速度が目標加速度と一致するようにパワートレイン制御値を導出してパワートレイン機構に入力する。つまり、パワートレイン機構にて発生する制動トルクは、最大制動トルクとなるまでは増加される。
【0020】
さらに、本発明の車両制御装置では、時刻t2となり、出力要求トルクが最大制動トルク以上となると、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替えられ、0[N・m]よりも大きく設定された特定制動トルクを発生させるための特定制御値(即ち、ブレーキ制御値)をブレーキ機構に入力する。すると、ブレーキ機構では特定制動トルクを発生し、その後、本発明の車両制御装置は、特定制動トルクが発生した状態から、実加速度が目標加速度に一致するようにフィードバック制御を実行して、ブレーキ機構にて発生される制動トルクが、目標加速度に対応する制動トルクとなるまで増加させる。
【0021】
つまり、本発明の車両制御装置では、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御への切り替え直後に、ブレーキ機構で発生させる制動トルクが0[N・m]である従来装置に比べて、ブレーキ機構で発生される制動トルクが自車両に影響を及ぼすまでに要する時間、ひいては、ブレーキ機構による制動力が自車両に加わるまでに要する時間が短縮される。
【0022】
したがって、本発明の車両制御装置によれば、目標加速度に対する実加速度の応答遅れを低減させる(即ち、目標加速度への追従性を向上させる)ことができ、この結果、当該車両制御装置が適用された車両において、車両が減速する際の乗り心地を向上させることができる。
【0023】
ただし、ここでいう「ブレーキ制御値の出力を停止」とは、ブレーキ制御値そのものの出力を停止することの他に、出力するブレーキ制御値を0(即ち、ブレーキ機構にて発生させる制動トルクを0[N・m])とすることを含むものである。
【0024】
ところで、ブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り変わった直後から、ブレーキ機構によりある程度の制動トルクが発生されると、ブレーキ機構による制動力が自車両に加わるまでに要する時間をより確実に短縮できる。しかも、パワートレイン機構で発生している制動トルクからブレーキ機構で発生させる制動トルクへの変化を滑らかに切り替えることができる。
【0025】
そして、本発明に車両制御装置において、0よりも大きい特定制御値を、ブレーキ制御値の初期値としてブレーキ制御手段から出力させる方法としては、請求項2に記載のように、ブレーキ制御値保持手段が、状態判定切替手段により、実行される制御が、ブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと切り替えられた時点で、ブレーキ制御手段により導出されていたブレーキ制御値を、次にブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替えられた時に出力させる特定制御値として保持するように構成することが考えられる。
【0026】
つまり、本発明の車両制御装置では、ブレーキ制御値の初期値として、ブレーキ制御手段からブレーキ制御部へと出力される特定制御値は、ブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと、前回切り替えられた時点でブレーキ制御手段から出力されていたブレーキ制御値であっても良い。
【0027】
また、本発明の車両制御装置は、請求項3に記載のように、状態判定切替手段により、実行される制御が、ブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと切り替えられると、第二切替時制御手段が、最大制動トルク未満の大きさに設定された規定トルクを発生させるための規定制御値をパワートレイン制御値の初期値として、パワートレイン制御手段からパワートレイン機構へと出力させるように構成されていても良い。
【0028】
このように構成された車両制御装置によれば、ブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと切り替わった直後から、パワートレイン機構にて規定トルクを発生させるため、自車両が加速する際の目標加速度に対する実加速度の遅れを低減することができる。
【0029】
この結果、本発明の車両制御装置によれば、当該車両制御装置が適用された車両において、車両が加速する際の乗り心地を向上させることができる。
そして、本発明に車両制御装置において、規定トルクを発生させるための規定制御値をパワートレイン制御値の初期値としてパワートレイン制御手段から出力させる方法としては、請求項4に記載のように、パワートレイン制御値保持手段が、状態判定切替手段により、実行される制御がブレーキ制限制御からブレーキ利用制御へと切り替えられた時点で、パワートレイン制御手段により導出されていたパワートレイン制御値を、次にブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと切り替えられた時に出力させる規定制御値として保持するように構成することが考えられる。
【0030】
つまり、本発明の車両制御装置においては、第二制御切替手段によって、パワートレイン制御手段からパワートレイン機構へと出力される規定制御値は、ブレーキ利用制御からブレーキ制限制御へと前回切り替わった時点で出力されていたパワートレイン制御値であっても良い。
【0031】
なお、本発明の車両制御装置におけるパワートレイン制御手段、及びブレーキ制御手段それぞれは、請求項5に記載のように、目標加速度と、実加速度との偏差の比例値に基づく値を、パワートレイン制御値、及びブレーキ制御値として導出するように構成されていても良い。
【0032】
つまり、パワートレイン制御手段、及びブレーキ制御手段それぞれは、いわゆる比例制御を少なくとも実行するように構成されていてもよい。
さらに、パワートレイン制御手段、及びブレーキ制御手段それぞれは、目標加速度と実加速度との偏差(以下、加速度偏差とする)の時間積分に比例した積分項、もしくは加速度偏差の時間微分に比例した値である微分項の少なくとも一方を、比例項に加えた値をパワートレイン制御値、及びブレーキ制御値として導出するようにしても良い。
【0033】
すなわち、パワートレイン制御手段、及びブレーキ制御手段それぞれは、比例制御に、積分制御、もしくは微分制御を組み合わせても良いし、それら全ての制御を組み合わせた、いわゆるPID制御を実行するように構成されていても良い。
【0034】
ただし、パワートレイン制御手段、及びブレーキ制御手段それぞれがPID制御を実行するように構成されている場合、請求項2に記載のブレーキ制御値保持手段や、請求項4に記載のパワートレイン制御値保持手段は、それらの保持手段が保持するブレーキ制御値やパワートレイン制御値のうち、積分項、及び微分項それぞれを初期化(即ち、0とした上で保持)するように構成されている必要がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
〈全体構成〉
図1は、本発明の車両制御装置に相当する走行支援電子制御装置を用いて構成された走行支援システムを搭載した自動車の概略構成を示した構成図であり、図2は、走行支援システムの概略構成を示したブロック図である。なお、以下では、走行支援システム1が搭載された自動車を自車両と称す。
【0036】
図1に示すように、自車両には、自車両を駆動するための駆動トルクもしくは自車両を制動するための制動トルクを発生するパワートレイン機構(以下、パワトレ機構とも称す)5と、自車両を制動するための制動トルクを発生するブレーキ機構10と、自車両の走行を支援するために、パワトレ機構5及びブレーキ機構10を制御する走行支援システム1とが少なくとも搭載されている。
【0037】
このうち、パワトレ機構5は、自車両の動力源である内燃機関6(本実施形態では、周知のガソリンエンジンとする)と、内燃機関6のクランク軸8に接続されたクラッチ及び複数のギアをからなる変速機構7(本実施形態では、周知の遊星歯車式自動変速装置とする)とを備えた周知のものである。つまり、パワトレ機構5は、内燃機関6の回転数及び変速機構7での変速比(即ち、係合するギアの組合せ)に応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを駆動輪3へと伝達する。
【0038】
また、ブレーキ機構10は、自車両の各車輪(即ち、駆動輪3,従動輪4)に取り付けられたホイルシリンダ12と、それらのホイルシリンダ12に作動流体(本実施形態では、ブレーキオイルとする)を供給するブレーキ油圧回路に設けられた増圧制御弁・減圧制御弁を開閉するブレーキアクチュエータ11とを備えた周知のものである。つまり、ブレーキ機構10は、ブレーキアクチュエータ11からホイルシリンダ12に供給される作動流体の圧力に応じた大きさの制動トルクを発生する。
【0039】
ところで、走行支援システム1は、自車両の乗員らによって予め設定された設定速度(即ち、目標速度)に、自車両の走行速度を維持するようにパワトレ機構5やブレーキ機構10を制御するクルーズ制御や、自車両の乗員らによって予め設定された設定車間距離(即ち、目標車間)に、自車両の前方に位置する先行車両と自車両との車間距離を維持するようにパワトレ機構5やブレーキ機構10を制御するアダプティブクルーズ制御(いわゆるACC)を実行するものである。さらに、走行支援システム1は、自車両の進行路上に位置する物標(たとえば、先行車両やガードレール等)と自車両との衝突の可能性が規定値以上であれば、自車両に加わる制動トルク(即ち、制動力)を増加するプリクラッシュセーフティ制御(いわゆるPCS)を実行するものである。
【0040】
このため、図2に示すように、走行支援システム1は、自車両の周辺(例えば、前方)に存在する物体を検出する周辺監視装置15を備えている。その周辺監視装置15は、走行支援電子制御装置(以下、「走行支援ECU」と称す)20に接続され、さらに、走行支援ECU20は、LAN通信バスを介して、ブレーキ電子制御装置(以下、「ブレーキECU」と称す)16と、パワートレイン電子制御装置(以下、「パワトレECU」とも称す)17と、ステアリング電子制御装置(以下、「ステアリングECU」と称す)18とに、少なくとも接続されている。
【0041】
なお、各ECU16,17,18,20は、電源が切断されても内容を保持する必要のあるデータや処理プログラムを記憶するROMと、処理途中で一時的に生じたデータを格納するRAMと、ROMやRAMに記憶された処理プログラムを実行するCPUとを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、少なくともLAN通信バスを介して通信を実施するためのバスコントローラを備えている。
【0042】
このうち、周辺監視装置15は、FMCW方式のいわゆるミリ波レーダ装置として構成され、現時点での自車両の車速(以下、現車速とする)を走行支援ECU20から少なくとも受信するように構成されている。さらに、周辺監視装置15は、周波数変調されたミリ波帯の連続波(以下、レーダ波とする)を送受信することにより、先行車両や路側物(例えば、ガードレールや信号機等)などの物標を認識し、これら認識した物標に関する物標情報を作成して、走行支援ECU20に送出するように構成されている。なお、物標情報には、物標との相対速度、及び物標の位置(距離,方位)が少なくとも含まれている。
【0043】
ブレーキECU16は、実加速度aactを検出する加速度センサ42と、図示しない車速センサ、ヨーレートセンサからの状態情報(即ち、車速、ヨーレート)に加え、マスタシリンダ(M/C)圧センサからの検出情報に基づいて判断したブレーキペダル操作状態を、走行支援ECU20に送出するように構成されている。さらに、ブレーキECU16は、ブレーキ機構10にて発生させるべき制動トルクの大きさを表すブレーキ要求トルクTwBKを走行支援ECU20から受信し、このブレーキ要求トルクTwBKに従って、ブレーキ機構10に設けられたブレーキアクチュエータ11を駆動するように構成されている。つまり、ブレーキECU16は、走行支援ECU20からのブレーキ要求トルクTwBKに応じた大きさの制動トルクを、ブレーキ機構10に発生させるものである。
【0044】
また、パワトレECU17は、図示しないスロットル開度センサ、アクセルペダル開度センサからの状態情報(即ち、現車速、エンジン制御状態、アクセルペダル操作状態)、及び現時点で選択されているギアの段数(即ち、ギア比)に応じて、パワトレ機構5にて発生可能な最大制動トルク(もしくは最小駆動トルク、以下、推定出力可能トルクとする)Tminを推定し、その推定した推定出力可能トルクTminを走行支援ECU20に送出するように構成されている。さらに、パワトレECU17は、パワトレ機構5にて発生させるべき駆動トルクもしくは制動トルクの大きさを表すパワトレ要求トルクTwPTを走行支援ECU20から受信し、このパワトレ要求トルクTwPTに応じて、内燃機関6のスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータに対して駆動指令Te(図3参照)や、変速機構7に対してギアの変更指令Gr(図3参照)を出力するように構成されている。つまり、パワトレECU17は、走行支援ECU20からのパワトレ要求トルクTwPTに応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを、パワトレ機構5に発生させるものである。
【0045】
また、ステアリングECU18は、操舵角を検出するステア角センサ(図示せず)からの検出信号(即ち、操舵角)を取得して、その操舵角を走行支援ECU20へと出力すると共に、操舵輪の舵角変更時にアシスト力を発生させるパワーステアリング制御を実行するように構成されている。
【0046】
ところで、走行支援ECU20は、自車両の走行状態に応じて、目標速度や目標車間等に自車両を維持するために自車両にて達成されるべき(即ち、維持するために必要な)加速度(以下、目標加速度areq(図3参照)とする)を求めるものである。さらに、走行支援ECU20は、求められた目標加速度areqに、自車両に加わる加速度(以下、実加速度aactとする)が一致するように、パワトレ要求トルクTwPT及びブレーキ要求トルクTwBK(即ち、パワトレ機構5及びブレーキ機構10の制御量)を導出して、それぞれをパワトレECU17及びブレーキECU16へと出力するものである。
【0047】
このため、走行支援ECU20には、少なくとも目標速度や目標車間を入力するためのクルーズ制御スイッチ41が接続されている。これと共に、走行支援ECU20は、周辺監視装置15から物標情報、パワトレECU17から現車速,エンジン制御状態,アクセルペダル操作状態,推定出力可能トルクTmin、ブレーキECU16から操舵角,ヨーレート,ブレーキペダル操作状態等を受信するように構成されている。
【0048】
そして、クルーズ制御スイッチ41は、図示しないが、各種制御(本実施形態では、PCSとクルーズ制御もしくはACC)を開始させるためのセットスイッチと、各種制御を終了させるためのキャンセルスイッチと、目標速度を入力するための目標速度入力部と、目標車間を入力するための目標車間入力部とを少なくとも備えた、いわゆるインターフェース部として構成されている。
〈走行支援ECU〉
次に、走行支援ECUについて説明する。
【0049】
ここで、図3は、走行支援ECUの構成を機能的に示すと共に、走行支援ECUの周辺の構成を示したブロック図である。
図3に示すように、走行支援ECU20は、予め規定された規定タイミング毎に、目標加速度areqを繰り返し導出する目標加速度演算器21と、目標加速度演算器21で導出された目標加速度areqに従って、パワトレ要求トルクTwPT及びブレーキ要求トルクTwBKを導出する加速度制御器22として機能する。
【0050】
このうち、目標加速度演算器21は、セットスイッチが操作されたことを表す信号が入力されると、クルーズ制御,アダプティブクルーズ制御、もしくはプリクラッシュセーフティ制御の実行に必要なアプリケーションプログラム(処理プログラムの一種)を規定タイミング間隔で繰り返し実行して、各種入力情報に基づき、目標加速度areqを導出する。これと共に、目標加速度演算器21は、規定タイミング毎に導出される目標加速度areq(即ち、目標加速度areq同士の差分)が、予め規定された規定量以上の変化することを防止(制限)するための制限値(以下、要求ジャーク制限値Jerkreqとする)を導出する。
【0051】
つまり、目標加速度演算器21は、規定タイミング間隔で繰り返しアプリケーションプログラムを実行することにより、目標加速度areq及び要求ジャーク制限値Jerkreqを規定タイミング毎に導出して、加速度制御器22へと出力する。
〈加速度制御器〉
次に、加速度制御器について説明する。
【0052】
この加速度制御器22は、規定タイミングよりも短い間隔に設定された設定タイミング(以下設定タイミングの周期を設定周期Tdと称す)毎に、処理プログラムに基づく処理を実行することにより、パワトレ要求トルクTwPT及びブレーキ要求トルクTwBKを導出して出力するものである。
【0053】
このため、加速度制御器22は、目標加速度演算器21から規定タイミング毎に出力される目標加速度areqの変化量を規定範囲内に抑制したジャーク制限後目標加速度ajlmtを算出するジャーク制限部25と、図5に示す様な一次遅れモデルからなる規範モデルに対して、ジャーク制限部25からのジャーク制限後目標加速度ajlmtを入力することで、パワトレ規範応答加速度aref_PT、及びブレーキ規範応答加速度aref_BKそれぞれを生成するパワトレ規範モデル設定部26,及びブレーキ規範モデル設定部27とを有している。なお、パワトレ規範応答加速度aref_PTとは、理想状態(即ち、外乱などを無視した状態)において、ジャーク制限後目標加速度ajlmtをパワトレ機構5にて達成するために必要な加速度であり、ブレーキ規範応答加速度aref_BKとは、理想状態において、ジャーク制限後目標加速度ajlmtをブレーキ機構10にて達成するために必要な加速度である。
【0054】
さらに、加速度制御器22は、パワトレ規範モデル設定部26にて生成したパワトレ規範応答加速度aref_PTと加速度センサ42からの実加速度aactとの偏差(以下、パワトレ加速度偏差err_pとする)を導出するパワトレ偏差演算部28と、パワトレ偏差演算部28にて導出したパワトレ加速度偏差err_pに基づき、パワトレ機構5に対するフィードバック制御量(即ち、駆動もしくは制動トルク)であるパワトレフィードバックトルクTfb_PTを導出するパワトレフィードバック制御部29とを有している。
【0055】
また、加速度制御器22は、ブレーキ規範モデル設定部27にて生成したブレーキ規範応答加速度aref_BKと加速度センサ42からの実加速度aactとの偏差(以下、ブレーキ加速度偏差err_bとする)を導出するブレーキ偏差演算部31と、ブレーキ偏差演算部31にて導出したブレーキ加速度偏差err_bに基づき、ブレーキ機構10に対するフィードバック制御量であるブレーキフィードバックトルクTfb_PTを導出するブレーキフィードバック制御部32とを有している。
【0056】
そして、加速度制御器22は、自車両の走行抵抗による駆動トルクの減少分(または、制動トルクの増加分)を補償するためのフィードフォワード制御量(即ち、駆動もしくは制動トルク)であるフィードフォワードトルクTffを導出するフィードフォワード制御部35と、パワトレフィードバック制御部29にて導出したパワトレフィードバックトルクTfb_PTと、フィードフォワード制御部35にて導出したフィードフォワードトルクTffとに基づき、パワトレ要求トルクTwPTを導出するパワトレ制御量演算部30と、ブレーキフィードバック制御部32にて導出したブレーキフィードバックトルクTfb_PTと、フィードフォワードトルクTffとに基づき、要求ブレーキトルクTwBKを導出するブレーキ制御量演算部33とを有している。
【0057】
さらに、加速度制御器22は、パワトレフィードバック制御部29から出力するパワトレフィードバックトルクTfb_PT、またはブレーキフィードバック制御部32から出力するブレーキフィードバックトルクTfb_BKを、自車両の走行状態に応じて制限するフィードバック量制限制御部38とを有している。
〈ジャーク制限部〉
次に、走行支援ECU20をジャーク制限部25として機能させるためのジャーク制限処理について説明する。
【0058】
ここで、図4は、ジャーク制限処理の処理手順を示すフローチャートである。
このジャーク制限処理は、設定タイミング毎に繰り返し起動されるものであり、起動されると、まず、S110にて、目標加速度演算器21からの目標加速度areq、要求ジャーク制限値Jerkreq、及びこのS110へと進んだ時点でジャーク制限部25から出力しているジャーク制限後目標加速度ajlmtを取得する。
【0059】
そして、S120では、S110で取得したジャーク制限後目標加速度ajlmtを、前回ジャーク制限処理が実行された際の出力値(以下、前回値aj0とする)として設定し、S130へと進む。
【0060】
そのS130では、第一演算値と、目標加速度areqとのうち、値の小さいものを最小ジャーク値aj1として設定し、続くS140では、第二演算値と、最小ジャーク値aj1とのうち、値の大きいものを最大ジャーク値aj2として設定する。
【0061】
なお、本実施形態における第一演算値は、具体的に、要求ジャーク制限値Jerkreqに設定周期Tdを乗じた値に前回値aj0を加算したもの(第一演算値=前回値aj0+要求ジャーク制限値Jerkreq×設定周期Td)である。また、本実施形態における第二演算値は、具体的に、要求ジャーク制限値Jerkreqに設定周期Tdを乗じた値を前回値aj0から減算したもの(第二演算値=前回値aj0−要求ジャーク制限値Jerkreq×設定周期Td)である。
【0062】
さらに、S150では、S140で設定した最大ジャーク値aj2をジャーク制限後目標加速度ajlmtとして設定して、後段に出力し、その後、本ジャーク制限処理を終了する。
【0063】
つまり、設定周期Td毎に取得される目標加速度areqの変化(即ち、目標加速度areq同士の差分)が大きくなり、自車両が急加速、急制動することを防止するため、ジャーク制限処理では、目標加速度areqの変化を規定範囲内としたジャーク制限後目標加速度ajlmtを算出する。
〈フィードフォワード制御部〉
次に、フィードフォワード制御部について説明する。
【0064】
このフィードフォワード制御部35では、空気抵抗に対するフィードフォワード制御量(以下、空気抵抗分補償トルクと称す)、路面抵抗(転がり抵抗)に対するフィードフォワード制御量(以下、転がり抵抗分補償トルクと称す)、重力(加速抵抗)に対するフィードフォワード制御量(以下、加速抵抗分補償トルクと称す)をそれぞれ導出し、それら全てのフィードフォワード制御量の和をフィードフォワードトルクTffとして導出する。
【0065】
なお、空気抵抗分補償トルク、転がり抵抗分補償トルク、加速抵抗分補償トルクは、それぞれ次の式(1)〜式(3)により求められる。ただし、式(1)〜式(3)おいて、ρは空気密度[kg/m3],Cdは空気抵抗係数,Aは自車両の前面投影面積[m2],vは現車速[m/s],μは転がり抵抗係数,Mは自車両の質量[kg],gは重力加速度[m/s2],aactは実加速度[m/s2],rは駆動輪の半径[m]である。
【0066】
【数1】
なお、フィードフォワード制御部35は、ジャーク制限後目標加速度ajlmtが負の加速度である場合(即ち、自車両を減速させる際)には、パワトレ機構5が制動トルクを発生するようなパワトレ要求トルクTwPTをパワトレ制御量演算部30が出力するように、フィードフォワードトルクTffを導出する。
【0067】
また、フィードフォワード制御部35は、ジャーク制限後目標加速度ajlmtが正の加速度もしくは一定である場合(即ち、自車両を加速させる、もしくは定速で走行させる)には、パワトレ機構5が駆動トルク(あるいは0[N・m]のトルク)を発生するようなパワトレ要求トルクTwPTをパワトレ制御量演算部30が出力するように、フィードフォワードトルクTffを導出する。
〈フィードバック量制限制御部〉
次に、フィードバック量制限制御部について説明する。
【0068】
このフィードバック量制限制御部38は、パワトレフィードバック制御部29から出力するパワトレフィードバックトルクTfb_PTを制限したブレーキフィードバック利用状態(本発明のブレーキ利用制御に相当)と、ブレーキフィードバック制御部32から出力するブレーキフィードバックトルクTfb_BKを制限したブレーキフィードバック制限状態(本発明のブレーキ制限制御に相当)とを、自車両の走行状況に応じて切り替える。
【0069】
具体的に、本実施形態のフィードバック量制限制御部38では、図6に示すように、パワトレ要求トルクTwPTが駆動トルクである場合、ブレーキフィードバック制限状態に設定する。さらに、フィードバック量制限制御部38では、パワトレ要求トルクTwPTが制動トルクであれば、パワトレ要求トルクTwPTが推定出力可能トルクTmin(ただし、推定出力可能トルクTminも制動トルクとする)未満である場合、ブレーキフィードバック制限状態に設定する。
【0070】
このブレーキフィードバック制限状態では、パワトレフィードバックフラグFfb_PTをオフとし(即ち、ローレベルに設定し)、ブレーキフィードバックフラグFfb_BKをオンとする(即ち、ハイレベルに設定する)。
【0071】
また、フィードバック量制限制御部38では、パワトレ要求トルクTwPTが制動トルクであれば、パワトレ要求トルクTwPTが推定出力可能トルクTmin(ただし、推定出力可能トルクTminも制動トルクとする)以上であり、かつブレーキ要求トルクTwBKが0[N・m]よりも大きい場合、ブレーキフィードバック利用状態に設定する。
【0072】
このブレーキフィードバック利用状態では、パワトレフィードバックフラグFfb_PTをオンとし(即ち、ハイレベルに設定し)、ブレーキフィードバックフラグFfb_BKをオフとする(即ち、ローレベルに設定する)。
【0073】
つまり、フィードバック量制限制御部38は、目標加速度areqを達成するために必要な駆動もしくは制動トルクを、パワトレ機構5のみで発生可能であれば、ブレーキフィードバック制限状態に設定し、目標加速度areqを達成するために必要な制動トルクをパワトレ機構5のみで発生不可能であり、かつパワトレ機構5に加えてブレーキ機構10で発生させる必要があれば、ブレーキフィードバック利用状態に設定する。
【0074】
なお、フィードバック量制限制御部38は、ブレーキフィードバック制限状態及びブレーキフィードバック利用状態の何れにも該当しない場合、パワトレフィードバック制御部29から出力するパワトレフィードバックトルクTfb_PTと、ブレーキフィードバック制御部32から出力するブレーキフィードバックトルクTfb_BKとの両方を制限したフィードバック制限状態に設定する。
【0075】
このフィードバック制限状態では、パワトレフィードバックフラグFfb_PT、ブレーキフィードバックフラグFfb_BK共にオンとする(即ち、ハイレベルに設定する)。
そのブレーキフィードバック制限状態及びブレーキフィードバック利用状態の何れにも該当しない場合の条件としては、例えば、パワトレ要求トルクTwPTが駆動トルクであり、かつブレーキ要求トルクTwBKが0[N・m]よりも大きい場合などが考えられる。
【0076】
なお、以下では、ブレーキフィードバック制限状態からブレーキフィードバック利用状態への切り替えタイミングをブレーキ制限解除タイミングと称し、ブレーキフィードバック利用状態からブレーキフィードバック制限状態への切り替えタイミングをブレーキ制限開始タイミングと称す。
〈パワトレフィードバック制御部〉
次に、走行支援ECU20をパワトレフィードバック制御部29として機能させるためのパワトレフィードバック制御処理について説明する。
【0077】
ここで、図7は、パワトレフィードバック制御処理の処理手順を示したフローチャートである。
このパワトレフィードバック制御処理は、設定タイミング毎に繰り返し起動されるものであり、起動されると、まず、S210にて、パワトレフィードバックフラグFfb_PTがオン(ハイレベル)であるか否かを判定し、判定の結果、パワトレフィードバックフラグFfb_PTがローレベルであれば、ブレーキフィードバック制限状態であるものとしてS230へと進む。
【0078】
さらに、S230では、パワトレ偏差演算部28からのパワトレ加速度偏差err_Pに基づき、今回実行されたパワトレフィードバック制御処理におけるパワトレ加速度偏差err_Pの微分値Ierr_Pと、積分値Derr_Pとを算出する。なお、以下では、今回実行されたパワトレフィードバック制御処理のサイクルを今処理サイクルと称し、前回実行されたパワトレフィードバック制御処理のサイクルを前処理サイクルと称す。
【0079】
本実施形態では、今処理サイクルでの微分値Ierr_Pを、今処理サイクルにおいてパワトレ偏差演算部28にて導出したパワトレ加速度偏差err_Pに設定周期Tdを乗じた値を、前処理サイクルにおけるS230により導出された微分値Ierr_POに加算する(即ち、微分値Ierr_P=微分値Ierr_PO+パワトレ加速度偏差err_P×設定周期Td)ことで求める。また、今処理サイクルでの積分値Derr_Pを、今処理サイクルにおいてパワトレ偏差演算部28にて導出したパワトレ加速度偏差err_Pから、前処理サイクルにおけるパワトレ偏差演算部28により導出されたパワトレ加速度偏差err_POを引いた差を、設定周期Tdで除する(即ち、積分値Derr_P=(パワトレ加速度偏差err_P−パワトレ加速度偏差err_PO)/設定周期Td)ことで求める。なお、ここでの添え字Oは、前処理サイクルで導出されたものであることを示すものである。
【0080】
続くS240では、今処理サイクルでのパワトレフィードバックトルクTfb_PTを算出して出力する。
具体的に、本実施形態では、比例項と、微分項と、積分項との和を今処理サイクルでのパワトレフィードバックトルクTfb_PTとして求める。
【0081】
なお、比例項は、今処理サイクルにおいてパワトレ偏差演算部28にて導出したパワトレ加速度偏差err_Pと、予め設定された比例ゲインKPPとを乗算する(即ち、比例項=パワトレ加速度偏差err_P×比例ゲインKPP)ことで求める。微分項は、今処理サイクルにおける微分値Ierr_Pと、予め設定された微分ゲインKIPとを乗算する(即ち、微分項=微分値Ierr_P×微分ゲインKIP)ことで求める。積分項は、今処理サイクルにおける積分値Derr_Pと、予め設定された積分ゲインKDPとを乗算する(即ち、積分項=積分値Derr_P×積分ゲインKDP)ことで求める。
【0082】
そして、S250では、今処理サイクルにおいてパワトレ偏差演算部28にて導出したパワトレ加速度偏差err_Pと、今処理サイクルでのS230で算出した微分値Ierr_Pと、今サイクルにS240で算出したパワトレフィードバックトルクTfb_PTとを記憶する。
【0083】
すなわち、これらのパワトレ加速度偏差err_P、微分値Ierr_P、パワトレフィードバックトルクTfb_PTは、次にパワトレフィードバック制御処理が実行される際に、前処理サイクルでのパワトレ加速度偏差err_PO、微分値Ierr_PO、パワトレフィードバックトルクTfb_PT_Oとなるように記憶される。
【0084】
そして、その後、今処理サイクルでのパワトレフィードバック制御処理を終了する。
つまり、本実施形態のパワトレフィードバック制御処理では、ブレーキフィードバック制限状態であれば、PID制御モデルを用いてパワトレフィードバックトルクTfb_PTを演算して出力する。
【0085】
ところで、S210での判定の結果、パワトレフィードバックフラグFfb_PTがハイレベルであれば、ブレーキフィードバック利用状態もしくはフィードバック制限状態であるものとしてS260へと進む。
【0086】
そのS260では、先のS250で記憶したパワトレフィードバックトルクTfb_PT_Oを、今処理サイクルでのパワトレフィードバックトルクTfb_PTとして出力する。これと共に、出力したパワトレフィードバックトルクTfb_PTが、次にパワトレフィードバック制御処理が実行された時に、前処理サイクルにて出力したパワトレフィードバックトルクTfb_PT_Okとなるように記憶する(以下、このS260で出力したパワトレフィードバックトルクには、添え字_Okを付加する)。
【0087】
なお、パワトレ要求トルクTwPT(ただし制動トルク)が推定出力可能トルクTmin以上かつブレーキ要求トルクが0[N・m]よりも大きくなると、ブレーキフィードバック制限状態からブレーキフィードバック利用状態へと移行することから、このS260で出力されるパワトレフィードバックトルクTfb_PTは、通常、推定出力可能トルクTmin(ただし制動トルク)よりも小さくなる(もしくは、駆動トルクである)。
【0088】
これは、パワトレ制御量演算部30が、自車両を減速させる際には、パワトレ機構5が制動トルクを発生するように、自車両が加速する際や定速で走行する際には、パワトレ機構5が駆動トルクを発生するように、パワトレフィードバックトルクTfb_PTとフィードフォワードトルクTffとに基づき、駆動トルクとなるようにパワトレ要求トルクTwPTを求めるように構成されているためである。
【0089】
また、このS260では、パワトレフィードバックトルクTfb_PT中の微分項,及び積分項を初期化(例えば、0)する。これは、次にブレーキ制限開始タイミングとなった際に、パワトレフィードバックトルクTfb_PTが、ジャーク制限後目標加速度ajlmtを達成するために必要な駆動もしくは制動トルクよりも大きくなることを防止するためである。
【0090】
以上説明したように、本実施形態のパワトレフィードバック処理では、ブレーキフィードバック利用状態(もしくはフィードバック制限状態)であれば、PID制御モデルを用いたパワトレフィードバックトルクTfb_PTの演算を停止し、前回のブレーキ制限解除タイミング時(ただし、フィードバック制限状態であれば、その状態への移行時)に出力していたパワトレフィードバックトルクTfb_PTを、パワトレフィードバック制御部29からの出力値として保持する。
【0091】
そして、ブレーキ制限開始タイミングとなると、ブレーキフィードバック利用状態もしくはフィードバック制限状態である時に出力していたパワトレフィードバックトルクTfb_PT_Okを、パワトレフィードバック制御部29からの出力値として出力すると共に、パワトレフィードバックトルクTfb_PT_Okを初期値として、PID制御モデルを用いたパワトレフィードバックトルクTfb_PTの演算を再開する。
【0092】
これにより、ブレーキ制限開始タイミング直後のパワトレ機構5では、推定出力可能トルクTmin未満の大きさに設定された規定トルクを発生する。
〈ブレーキフィードバック制御部〉
次に、走行支援ECU20をブレーキフィードバック制御部32として機能させるためのブレーキフィードバック制御処理について説明する。
【0093】
ここで、図8は、ブレーキフィードバック制御処理の処理手順を示したフローチャートである。
このブレーキフィードバック制御処理は、設定タイミング毎に繰り返し起動されるものであり、起動されると、まず、S310にて、ブレーキフィードバックフラグFfb_BKがオン(ハイレベル)であるか否かを判定し、判定の結果、ブレーキフィードバックフラグFfb_BKがローレベルであれば、ブレーキフィードバック利用状態であるものとしてS330へと進む。
【0094】
さらに、S330では、ブレーキ偏差演算部31からのブレーキ加速度偏差err_Bに基づき、今回実行されたブレーキフィードバック制御処理におけるブレーキ加速度偏差err_Bの微分値Ierr_Bと、積分値Derr_Bを算出する。なお、以下では、今回実行されたブレーキフィードバック制御処理のサイクルを今サイクルと称し、前回実行されたブレーキフィードバック制御処理のサイクルを前サイクルと称す。
【0095】
本実施形態では、今サイクルでの微分値Ierr_Bを、今サイクルにおいてブレーキ偏差演算部31にて導出したブレーキ加速度偏差err_Bに設定周期Tdを乗じた値を、前サイクルにおけるS330にて導出した微分値Ierr_BOに加算する(即ち、微分値Ierr_B=微分値Ierr_BO+ブレーキ加速度偏差err_B×設定周期Td)ことで求める。また、今サイクルにて導出した積分値Derr_Bを、今サイクルにおいてブレーキ偏差演算部31にて導出したブレーキ加速度偏差err_Bから前サイクルにおいてブレーキ偏差演算部31に導出されたブレーキ加速度偏差err_BOを引いた差を、設定周期Tdで除する(即ち、積分値Derr_B=(ブレーキ加速度偏差err_B−ブレーキ加速度偏差err_BO)/設定周期Td)ことで求める。なお、ここでの添え字Oは、前サイクルで導出されたものであることを示すものである。
【0096】
続くS340では、今サイクルでのブレーキフィードバックトルクTfb_BKを算出して出力する。
具体的に、本実施形態では、比例項と、微分項と、積分項との和を、今サイクルにおけるブレーキフィードバックトルクTfb_BKとして求める。
【0097】
なお、比例項は、今サイクルにおいてブレーキ偏差演算部31にて導出したブレーキ加速度偏差err_bと、予め設定された比例ゲインKPBとを乗算する(即ち、比例項=ブレーキ加速度偏差err_b×比例ゲインKPB)ことで求める。微分項は、今サイクルでの微分値Ierr_Bと、予め設定された微分ゲインKIBとを乗算する(即ち、微分項=微分値Ierr_B×微分ゲインKIB)ことで求める。積分項は、今サイクルでの積分値Derr_Bと、予め設定された積分ゲインKDBとを乗算する(即ち、積分項=積分値Derr_B×積分ゲインKDB)ことで求める。
【0098】
そして、S350では、今サイクルにおいてブレーキ偏差演算部31にて導出したブレーキ加速度偏差err_Bと、今サイクルにおけるS330で算出した微分値Ierr_Bと、今サイクルにおけるS340で算出したブレーキフィードバックトルクTfb_BKとを記憶する。
【0099】
すなわち、これらのブレーキ加速度偏差err_B、微分値Ierr_B、ブレーキフィードバックトルクTfb_BKは、次にブレーキフィードバック制御処理が実行される際に、前サイクルでのブレーキ加速度偏差err_BO、微分値Ierr_BO、ブレーキフィードバックトルクTfb_BK_Oとなるように記憶される。
【0100】
そして、その後、今サイクルでのブレーキフィードバック制御処理を終了する。
つまり、本実施形態のブレーキフィードバックトルク制御処理では、ブレーキフィードバック利用状態であれば、PID制御モデルを用いてブレーキフィードバックトルクTfb#BKを演算し出力する。
【0101】
ところで、S310での判定の結果、ブレーキフィードバックフラグFfb_BKがハイレベルであれば、ブレーキフィードバック制限状態もしくはフィードバック制限状態であるものとしてS360へと進む。
【0102】
そのS360では、先のS350で記憶したブレーキフィードバックトルクTfb_BK_Oを、今サイクルにおけるブレーキフィードバックトルクTfb_BKとして出力する。これと共に、その出力したブレーキフィードバックトルクTfb_BKを、次にブレーキフィードバック制御処理の実行時に、前サイクルブレーキフィードバックトルクTfb_BK_Okとするように記憶する(以下、このS360で出力したブレーキフィードバックトルクには、添え字_Okを付加する)。
【0103】
なお、パワトレ要求トルクTwPT(ただし制動トルク)が推定出力可能トルクTmin未満となると、ブレーキフィードバック利用状態からブレーキフィードバック制限状態へと移行することから、このS360が実行されると、通常、ブレーキECU16に入力されるブレーキ要求トルクTwBKは0[N・m]となる。
【0104】
これは、ブレーキ制御量演算部33が、自車両を減速させる際には、ブレーキ機構10が制動トルクを発生するように、自車両が加速する際や、定速で走行する際には、ブレーキ機構10が発生するトルクが0[N・m]となるように、ブレーキフィードバックトルクTfb_BKとフィードフォワードトルクTffとに基づき、ブレーキ要求トルクTwBKを求めるように構成されているためである。
【0105】
また、このS360で出力されるブレーキフィードバックトルクTfb_BK中の微分項,及び積分項を初期化(例えば、0)する。これは、次のブレーキ制限解除タイミング時に、ブレーキフィードバックトルクTfb_BKが、ジャーク制限後目標加速度ajlmtを達成するために必要な駆動もしくは制動トルクよりも大きくなることを防止するためである。
【0106】
以上説明したように、本実施形態のブレーキフィードバック制御処理では、ブレーキフィードバック制限状態(もしくはフィードバック制限状態)であれば、PID制御モデルを用いたブレーキフィードバックトルクTfb_PTの演算を停止し、ブレーキ制限開始タイミング時(ただし、フィードバック制限状態であれば、その状態への移行時)に出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKを、ブレーキフィードバック制御部32からの出力値として保持する。
【0107】
そして、ブレーキ制限解除タイミングとなると、ブレーキフィードバック制限状態もしくはフィードバック制限状態である時に出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BK_Okをそのまま、ブレーキフィードバック制御部32からの出力値として出力すると共に、ブレーキフィードバックトルクTfb_BK_Okを初期値として、PID制御モデルを用いたブレーキフィードバックトルクTfb_BKの演算を再開する。
【0108】
これにより、ブレーキ制御解除タイミング直後のブレーキ機構10では、0[N・m]よりも大きく設定された特定制動トルクを発生する。
〈動作例〉
次に、本実施形態の走行支援ECU20の動作例について説明する。
【0109】
ここで、図9は、本実施形態の加速度制御器における制御状態の一例を示すタイムチャートである。この図9に示す例では、目標加速度演算器21にて導出される目標加速度areqが、時刻t1から減少し始め、時刻t2にて推定出力可能トルクTminによって達成可能な負の加速度(減速度)と一致し、さらに、時刻T3にて目標加速度areqが一定となる状況を想定する。
【0110】
このような状況を想定した場合、加速度制御器22では、時刻t2までは、目標加速度areqを達成するために必要な制動トルクをパワトレ機構5のみで発生可能なため、ブレーキフィードバック制限状態に設定する。
【0111】
このため、ブレーキフィードバック制御部32では、PID制御モデルを用いたブレーキフィードバックトルクTfb_PTの演算を停止して、ブレーキ制限開始タイミングに出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKを出力値として保持する。これと共に、パワトレフィードバック制御部29では、PID制御モデルを用いてパワトレフィードバックトルクTfb_PTを、目標加速度areq(より正確には、ジャーク制限後目標加速度ajlmt)に実加速度aactを一致させるように演算して出力する。
【0112】
このようにして出力されたブレーキフィードバックトルクTfb_BK、パワトレフィードバックトルクTfb_PTそれぞれと、フィードフォワードトルクTffとに基づいて導出されたブレーキ要求トルクTwBK及びパワトレ要求トルクTwPTそれぞれを、ブレーキECU16、パワトレECU17に出力する。
【0113】
これにより、パワトレ機構5にて発生する制動トルクは、推定出力可能トルクTminとなるまでは増加される。なお、ブレーキフィードバック制限状態においては、ブレーキ機構10にて発生する制動トルクは、フィードフォワードトルクTffによって、例えば、0[N・m]に維持される。
【0114】
さらに、時刻t2となり、パワトレ要求トルクTwPTが推定出力可能トルクTmin(ただし、共に制動トルク)以上となると、ブレーキフィードバック制限解除タイミングとなる。
【0115】
この時、パワトレフィードバック制御部29は、ブレーキ制限開始タイミングから出力していたパワトレフィードバックトルクTfb_PTを出力値として保持し、ブレーキフィードバック制御部32は、ブレーキ制限解除タイミング時に出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKをそのまま出力値として出力する。
【0116】
このようにして出力されたブレーキフィードバックトルクTfb_BK、パワトレフィードバックトルクTfb_PTそれぞれと、フィードフォワードトルクTffとに基づいて導出されたブレーキ要求トルクTwBK及びパワトレ要求トルクTwPTそれぞれを、ブレーキECU16、パワトレECU17に出力する。
【0117】
これにより、ブレーキ機構10にて発生する制動トルクは、ブレーキ制限解除タイミングの直後から、0[N・m]よりも大きく設定されたものとなり、目標加速度areqに実加速度aactが一致するまで増加される。なお、ブレーキフィードバック利用状態においては、パワトレ機構5にて発生する制動トルクは、フィードフォワードトルクTffによって、例えば、推定出力可能トルクTminに維持される。
[実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態の加速度制御器22では、ブレーキ機構10にて発生する制動トルクが、ブレーキ制限解除タイミングの直後から、0[N・m]よりも大きく設定されたものとなる。
【0118】
このため、本実施形態の加速度制御器22を用いることで、従来装置に比べて、ブレーキフィードバック制限状態からブレーキフィードバック利用状態へと切り替えられた際に、ブレーキ機構10にて発生した制動トルクが自車両に影響を与えるまでに要する時間が短縮される。
【0119】
これにより、本実施形態の走行支援ECU20によれば、ブレーキ制限解除タイミングにおける目標加速度areqへの追従性を向上させる、即ち、目標加速度areqに対する実加速度aactの応答遅れを低減させることができる。
【0120】
しかも、本実施形態の加速度制御器22によれば、パワトレ機構5で発生している制動トルクからブレーキ機構10で発生させる制動トルクへの変化を滑らかに切り替えることができる。
【0121】
これらの結果、当該走行支援ECU20が適用された車両において、車両が減速する際の乗り心地を確実に向上させることができる。
また、本実施形態の加速度制御器22によれば、ブレーキ制限開始タイミングにおいて、推定出力可能トルクTminをパワトレ機構5に発生させるため、車両が加速する際の乗り心地を向上させることができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限るものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0122】
例えば、上記実施形形態のブレーキフィードバック制御処理では、ブレーキ制限解除タイミングの直後に、ブレーキフィードバック制限状態時に出力していたブレーキフィードバックトルクTfb_BKを出力していたが、ブレーキ制限解除タイミングの直後に出力するブレーキフィードバックトルクTfb_BKは、これに限るものではない。つまり、ブレーキ制限解除タイミングの直後から、ブレーキ機構10にて、0[N・m]よりも大きい制動トルクを発生可能であれば、どのような出力値であっても良い。
【0123】
また、上記実施形形態のパワトレフィードバック制御処理では、ブレーキ制限開始タイミングの直後に、ブレーキフィードバック利用状態時に出力していたパワトレフィードバックトルクTfb_PTを出力していたが、ブレーキ制限開始タイミングの直後に出力するパワトレフィードバックトルクTfb_PTは、これに限るものではない。つまり、ブレーキ制限開始タイミングの直後から、パワトレ機構5にて、推定出力可能トルク(即ち、最大制動トルク)よりも小さい制動トルクを発生可能であれば、どのような出力値であっても良い。
【0124】
ところで、上記実施形態におけるブレーキフィードバック制御処理では、ブレーキ利用状態時に、PID制御によって(即ち、PIDモデルを用いて)ブレーキフィードバックトルクTfb_BKを算出していたが、ブレーキフィードバックトルクTfb_BKは、PI制御のみによって(即ち、PI制御モデルのみを用いて)算出しても良いし、比例制御のみによって算出しても良い。なお、パワトレフィードバック制御処理においても、ブレーキフィードバック制御処理と同様、パワトレフィードバックトルクTfb_PTを、PI制御のみによって(即ち、PI制御モデルのみを用いて)算出しても良いし、比例制御のみによって算出しても良い。
【0125】
そして、上記実施形態では、走行支援ECU20がアプリケーションプログラムを実行することによって、加速度制御器22を実現していたが、加速度制御器22は、電子回路を組み合わせること(ハードウェア)によって、実現された装置であっても良い。
【0126】
このようなハードウェアによって加速度制御器22が実現される場合、その加速度制御器は、走行支援ECU20とは別の制御装置として構成されたものでも良い。
また、上記実施形態では、ブレーキECU16が制御するブレーキ機構10は、油圧ブレーキであったが、制御されるブレーキ機構10は、これに限るものではなく、回生ブレーキなどでも良い。つまり、走行支援ECU20からのブレーキ要求トルクTwBKに応じた大きさの制動トルクを発生するものであれば、どのようなものでも良い。
【0127】
さらに、上記実施形態では、パワトレECU17が制御する内燃機関6をガソリンエンジンとしたが、パワトレECU17が制御する内燃機関6は、これに限るものではなく、例えば、ディーゼルエンジンであっても良い。また、上記実施形態では、パワトレECU17が制御する変速機構7を遊星歯車式自動変速装置としたが、パワトレECU17が制御する変速機構7は、これに限るものではなく、例えば、周知のマニュアルトランスミッション装置や、無段変速装置(いわゆるCVT)、セミオートマチックトランスミッション装置(いわゆるDCT)であっても良い。つまり、走行支援ECU20からのパワトレ要求トルクTwPTに応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを発生するものであれば、内燃機関6や変速機構7は、どのようなものでも良い。
【0128】
なお、上記実施形態における周辺監視装置15は、ミリ波レーダ装置を中心に構成したものであったが、周辺監視装置15は、これに限るものではなく、例えば、自車両の進行方向を撮影するように配置され、撮影画像に基づいて物標情報を取得する車載カメラや、レーザ光を送受信することで、先行車両等の物標を検出し、物標情報を取得するレーザレーダ装置を中心に構成されていても良いし、これら(即ち、ミリ波レーダ装置、車載カメラ、及びレーザレーダ装置)を、組み合わせて構成されていても良い。
[本発明と実施形態との対応]
本実施形態における目標加速度演算器21が、本発明の目標値導出手段に相当し、本実施形態において走行支援ECU20が加速度センサ42から実加速度aactを取得する機能が、本発明の加速度取得手段に相当する。さらに、本実施形態において加速度制御器22のパワトレ偏差演算部28,パワトレフィードバック制御部29,パワトレ制御量演算部30,フィードフォワード制御部35が本発明のパワートレイン制御手段に相当し、本実施形態において加速度制御器22のブレーキ偏差演算部31,ブレーキフィードバック制御部32,ブレーキ制御量演算部33,フィードフォワード制御部35が、本発明のブレーキ制御手段に相当する。
【0129】
また、本実施形態におけるフィードバック量制限制御部38が、本発明の状態判定切替手段に相当し、本実施形態においてブレーキ制限解除タイミングに実行されるブレーキフィードバック制御処理が、本発明の第一切替手段に相当する。そして、本実施形態においてブレーキ制限開始タイミングに実行されるパワトレフィードバック制御処理が、本発明の第二切替手段に相当し、本実施形態のブレーキフィードバック制御処理におけるS360が、本発明のブレーキ制御値保持手段に相当し、本実施形態のパワトレフィードバック制御処理におけるS260が、本発明のパワートレイン制御値保持手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】走行支援システムを搭載した車両の概略図である。
【図2】走行支援システムの概略構成を示したブロック図である。
【図3】走行支援ECUの機能的構成、及び走行支援ECUの周辺の概略構成を示したブロック図である。
【図4】ジャーク制限処理の処理手順を示したフローチャートである。
【図5】規範モデルについて例示した説明図である。
【図6】フィードバック量制限制御部の制御状態切り替えの様子を示した説明図である。
【図7】パワトレフィードバック制御処理の処理手順を示した説明図である。
【図8】ブレーキフィードバック制御処理の処理手順を示した説明図である。
【図9】本実施形態における動作例を示すタイムチャートである。
【図10】本発明の車両制御装置における制御状態の一例を示すタイムチャートである。
【図11】従来装置における制御状態の一例を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0131】
1…走行支援システム 5…パワトレ機構 10…ブレーキ機構 15…周辺監視装置 16…ブレーキECU 17…パワトレECU 18…ステアリングECU 20…走行支援ECU 21…目標加速度演算器 22…加速度制御器 25…ジャーク制限部 26…パワトレ規範モデル設定部 27…ブレーキ規範モデル設定部 28…パワトレ偏差演算部 29…パワトレフィードバック制御部 30…パワトレ制御量演算部 31…ブレーキ偏差演算部 32…ブレーキフィードバック制御部 33…ブレーキ制御量演算部 35…フィードフォワード制御部 38…フィードバック量制限制御部 41…クルーズ制御スイッチ 42…加速度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたパワートレイン制御値に応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを発生するパワートレイン機構、及び、入力されたブレーキ制御値に応じた大きさの制動トルクを発生するブレーキ機構を有した車両に適用される車両制御装置であって、
自車両の走行状況に応じた目標加速度を繰り返し導出する目標値導出手段と、
前記自車両に加わる加速度を取得する加速度取得手段と、
前記目標値導出手段で導出された目標加速度に、前記加速度取得手段で取得した加速度が一致するように前記パワートレイン制御値を導出して、前記パワートレイン機構へと出力するパワートレイン制御手段と、
前記目標値導出手段で導出された目標加速度に、前記加速度取得手段で取得した加速度が一致するように前記ブレーキ制御値を導出して、前記ブレーキ機構へと出力するブレーキ制御手段と、
前記パワートレイン制御手段にて導出された前記パワートレイン制御値により、前記パワートレイン機構が発生すべき駆動トルクもしくは制動トルクである出力要求トルクが、前記制動トルクでありかつ前記最大制動トルク未満、または前記駆動トルクであれば、前記ブレーキ制御手段から前記ブレーキ機構への前記ブレーキ制御値の出力を停止するブレーキ制限制御を実行し、前記出力要求トルクが、前記制動トルクでありかつ前記最大制動トルク以上であれば、前記ブレーキ制御手段から前記ブレーキ機構への前記ブレーキ制御値の出力を許可するブレーキ利用制御を実行する状態判定切替手段と、
前記状態判定切替手段にて実行される制御が、前記ブレーキ制限制御から前記ブレーキ利用制御へと切り替えられると、0よりも大きく設定された特定制動トルクを発生させるための特定制御値を前記ブレーキ制御値の初期値として、前記ブレーキ制御手段に前記ブレーキ機構へと出力させる第一切替時制御手段と
を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記状態判定切替手段にて実行される制御が、前記ブレーキ利用制御から前記ブレーキ制限制御へと切り替えられた時点で、前記ブレーキ制御手段により導出されていたブレーキ制御値を、次に前記ブレーキ制限制御から前記ブレーキ利用制御へと切り替えられた時に前記ブレーキ制御手段から出力させる前記特定制御値として保持するブレーキ制御値保持手段
を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記状態判定切替手段にて実行される制御が、前記ブレーキ利用制御から前記ブレーキ制限制御へと切り替えられると、前記最大制動トルク未満の大きさに設定された規定トルクを発生させるための規定制御値を前記パワートレイン制御値の初期値として、前記パワートレイン制御手段から前記パワートレイン機構へと出力させる第二切替時制御手段
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記状態判定切替手段にて実行される制御が、前記ブレーキ制限制御から前記ブレーキ利用制御へと切り替えられた時点で、前記パワートレイン制御手段により導出されていたパワートレイン制御値を、次に前記ブレーキ利用制御から前記ブレーキ制限制御へと切り替えられた時に前記パワートレイン制御手段から出力させる前記規定制御値として保持するパワートレイン制御値保持手段
を備えることを特徴とする請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記パワートレイン制御手段、及び前記ブレーキ制御手段それぞれは、
前記目標値導出手段で導出された目標加速度と、前記加速度取得手段で取得した加速度との偏差の比例値に基づく値を、前記パワートレイン制御値、及び前記ブレーキ制御値として導出することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両制御装置。
【請求項1】
入力されたパワートレイン制御値に応じた大きさの駆動トルクもしくは制動トルクを発生するパワートレイン機構、及び、入力されたブレーキ制御値に応じた大きさの制動トルクを発生するブレーキ機構を有した車両に適用される車両制御装置であって、
自車両の走行状況に応じた目標加速度を繰り返し導出する目標値導出手段と、
前記自車両に加わる加速度を取得する加速度取得手段と、
前記目標値導出手段で導出された目標加速度に、前記加速度取得手段で取得した加速度が一致するように前記パワートレイン制御値を導出して、前記パワートレイン機構へと出力するパワートレイン制御手段と、
前記目標値導出手段で導出された目標加速度に、前記加速度取得手段で取得した加速度が一致するように前記ブレーキ制御値を導出して、前記ブレーキ機構へと出力するブレーキ制御手段と、
前記パワートレイン制御手段にて導出された前記パワートレイン制御値により、前記パワートレイン機構が発生すべき駆動トルクもしくは制動トルクである出力要求トルクが、前記制動トルクでありかつ前記最大制動トルク未満、または前記駆動トルクであれば、前記ブレーキ制御手段から前記ブレーキ機構への前記ブレーキ制御値の出力を停止するブレーキ制限制御を実行し、前記出力要求トルクが、前記制動トルクでありかつ前記最大制動トルク以上であれば、前記ブレーキ制御手段から前記ブレーキ機構への前記ブレーキ制御値の出力を許可するブレーキ利用制御を実行する状態判定切替手段と、
前記状態判定切替手段にて実行される制御が、前記ブレーキ制限制御から前記ブレーキ利用制御へと切り替えられると、0よりも大きく設定された特定制動トルクを発生させるための特定制御値を前記ブレーキ制御値の初期値として、前記ブレーキ制御手段に前記ブレーキ機構へと出力させる第一切替時制御手段と
を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記状態判定切替手段にて実行される制御が、前記ブレーキ利用制御から前記ブレーキ制限制御へと切り替えられた時点で、前記ブレーキ制御手段により導出されていたブレーキ制御値を、次に前記ブレーキ制限制御から前記ブレーキ利用制御へと切り替えられた時に前記ブレーキ制御手段から出力させる前記特定制御値として保持するブレーキ制御値保持手段
を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記状態判定切替手段にて実行される制御が、前記ブレーキ利用制御から前記ブレーキ制限制御へと切り替えられると、前記最大制動トルク未満の大きさに設定された規定トルクを発生させるための規定制御値を前記パワートレイン制御値の初期値として、前記パワートレイン制御手段から前記パワートレイン機構へと出力させる第二切替時制御手段
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記状態判定切替手段にて実行される制御が、前記ブレーキ制限制御から前記ブレーキ利用制御へと切り替えられた時点で、前記パワートレイン制御手段により導出されていたパワートレイン制御値を、次に前記ブレーキ利用制御から前記ブレーキ制限制御へと切り替えられた時に前記パワートレイン制御手段から出力させる前記規定制御値として保持するパワートレイン制御値保持手段
を備えることを特徴とする請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記パワートレイン制御手段、及び前記ブレーキ制御手段それぞれは、
前記目標値導出手段で導出された目標加速度と、前記加速度取得手段で取得した加速度との偏差の比例値に基づく値を、前記パワートレイン制御値、及び前記ブレーキ制御値として導出することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−18239(P2010−18239A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182804(P2008−182804)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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