説明

車両用制御装置

【課題】前方の車両に接近した場合であっても違和感のない走行をおこなうことができる制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】走行中の自車両と前方の車両との車間距離に基づいて自車両のいずれかの動作機構を制御する車両用制御装置において、自車両の前方の車両に対する接近状態を検出する接近状態検出手段(ステップ11)と、交通渋滞の発生状態を検出する渋滞検出手段(ステップ12)と、自車両が前方の車両に接近していることを前記接近状態検出手段が検出し、かつ自車両が交通渋滞区間の中にあることもしくは自車両が交通渋滞区間に入ることを前記渋滞検出手段が検出したことに基づいて前記動作機構の制御内容を変更する渋滞制御実行手段(ステップ14)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の周囲の状況に応じて変速機などの車両に装備されている動作機構を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、車両に搭載されている原動機(エンジン)や変速機、操舵装置、懸架装置などの各種の動作機構が、多様に制御できるように構成されるばかりか、電気的に制御できるようになってきている。また、これと併せて、車両自体の各部の動作状態のみならず、自車両が走行している道路状況や目的地までの間の道路状況、施設、イベントなどの各種の情報を走行中にリアルタイムで取得できるようになってきている。
【0003】
運転者の意図に即した快適な走行をおこなうためには、運転者の意図を的確に把握すると同時に、車両のおかれている状況に応じて各動作機構を制御する必要があるので、最近では、上述した各種の情報を車両の走行のための制御に反映させることがおこなわれている。その一例が、特許文献1に記載されている。
【0004】
この公報に記載された発明は、いわゆる追従走行の際の制御に関するものであり、前方の車両との車間距離が基準とする距離よりも短くなった場合に警報を発する機能と、自動変速機とを備えた車両を対象とし、減速の意図が確認された時点のエンジンブレーキ力では前方の車両に追突する可能性がある場合に、自動変速機をダウンシフトさせるように構成されている。すなわち、減速の意図があるものの、エンジンブレーキ力が不足してその意図を充分に満たすことができないと判断される場合に、自動変速機の変速比を大きくしてエンジンブレーキ力を増大させるように構成したものである。
【0005】
【特許文献1】特開平6−111200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来の装置では、車間距離の減少時にエンジンブレーキ力が不足していることが判断された場合にダウンシフトすることとしているが、走行時に許容される車間距離は運転者の嗜好や走行の状況などによって異なるので、エンジンブレーキ力が不足していることが判断された場合に一律にダウンシフトを実行すると、ドライバビリティや乗り心地などが悪化する場合がある。これを具体的に説明すると、運転者の嗜好により車間距離を縮めて走行している場合や車間距離を電気的に検出しつつ前方車両に追従して走行する追従走行制御を実行している場合には、車間距離が短いことが認識されていても追突の可能性が殆どないが、その場合にも前記従来の装置によるダウンシフトを実行するとすれば、原動機(エンジン)の回転数が増大し、その結果、車両の騒音や振動(ノイズ・バイブレーション:NV)あるいは燃費が悪化する不都合を招く。
【0007】
また、交通渋滞中では、車間距離を詰めるのが通常であり、その場合、上記従来の装置では、渋滞中での発進・停止を繰り返す際に、ブレーキ操作が遅れたり、過渡的にブレーキ力が不足すると、ダウンシフトが生じるが、前方車両に追従するためにその直後に加速すると、再度アップシフトが生じることになる。そのため、従来の装置によれば、渋滞中でのダウンシフトとアップシフト(例えば第1速と第2速との間の変速)が頻繁に生じ、これが原因となって乗り心地が悪化する可能性がある。
【0008】
この発明は、上記の事情を背景としてなされものであり、車間距離に基づいて車両を制御するにあたり、車両の走行状況に適した制御を実行することのできる装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、走行中の自車両と前方の車両との車間距離に基づいて自車両のいずれかの動作機構を制御する車両用制御装置において、自車両の前方の車両に対する接近状態を検出する接近状態検出手段と、交通渋滞の発生状態を検出する渋滞検出手段と、自車両が前方の車両に接近していることを前記接近状態検出手段が検出し、かつ自車両が交通渋滞区間の中にあることもしくは自車両が交通渋滞区間に入ることを前記渋滞検出手段が検出したことに基づいて前記動作機構の制御内容を変更する渋滞制御実行手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
そして、請求項2の発明は、走行中の自車両と前方の車両との車間距離に基づいて変速機を制御する車両用制御装置において、自車両の前方の車両に対する接近状態を検出する接近状態検出手段と、交通渋滞の発生状態を検出する渋滞検出手段と、自車両が前方の車両に接近していることを前記接近状態検出手段が検出し、かつ自車両が交通渋滞区間の中にあることもしくは自車両が交通渋滞区間に入ることを前記渋滞検出手段が検出したことに基づいて前記変速機の最低速比を設定することを規制する最低速比規制手段とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、自車両と前方の車両との車間距離が減少しただけの場合には、動作機構の制御内容を変更する条件が不成立であり、その場合、前記動作機構について従前の内容の制御が継続され、これに対して車間距離が減少することに加えて自車両が交通渋滞区間にあることもしくは交通渋滞区間に入ることが検出されると、動作機構の制御内容が車間距離の減少に応じた内容に変更されるので、車間距離の減少という特殊事情に対応した通常とは異なる制御を実行する期間が減少する。すなわち通常の制御を実行する期間が長くなるので、走行中の違和感を可及的に減少させることができる。また、交通渋滞に巻き込まれた状態では、車間距離を詰めた走行を継続することになるが、車両の制御状態が短い車間距離での走行に適したものとなるので、違和感を可及的に抑制できる。
【0012】
そして、請求項2の発明によれば、自車両と前方の車両との車間距離が減少しただけの場合には、最低速比を規制する条件が不成立であり、その場合、前記変速機について従前の内容の制御すなわち通常の制御が継続され、これに対して車間距離が減少することに加えて自車両が交通渋滞区間にあることもしくは交通渋滞区間に入ることが検出されると、変速機で最低速比を設定することが規制されるので、車間距離の減少という特殊事情に対応した通常とは異なる最低速比を規制した制御を実行する期間が減少する。すなわち通常の制御を実行する期間が長くなるので、走行中の違和感を可及的に減少させることができる。また、交通渋滞に巻き込まれた状態では、車間距離を詰めた状態での減速・加速の繰り返しの際にダウンシフトとアップシフトとが繰り返し生じることが防止され、その結果、ドライバビリティを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎにこの発明を図に示す具体例に基づいて説明する。先ず、この発明の基本的な構成について説明すると、この発明で対象とする車両1は、図4に模式的に示すように、電気的に制御することのできる各種の動作機構を備えた車両であり、その動作機構を例示すれば、内燃機関やモータなどの原動機2、変速機3、サスペンション4などである。これらの動作機構を制御するための制御データとして、自車両1の走行状態のみならず走行中の周囲の状況を取り入れるようになっている。
【0014】
ここで自車両1の走行状態に関する制御データとしては、車速、加減速度、スロットル開度、アクセル開度、アイドルスイッチのオン・オフ、原動機2の回転数(エンジン回転数)、変速段、舵角、ブレーキスイッチのオン・オフ、変速機3の変速パターン、原動機2の冷却水温度、変速機3の油温などである。これらの自車両1の走行状態に関する制御データを検出する手段は、従来一般の車両に搭載されている各種のセンサであってよい。
【0015】
また、走行中の自車両1の周囲の状況に関する制御データは、自車両1の地図上での位置、自車両1が現在走行している道路および前方の道路の勾配や旋回半径などの道路情報、交通渋滞の有無あるいは程度の情報、目的地までの距離、自車両1の前方にある車両との車間距離、その車間距離の変化の程度などである。
【0016】
自車両1の走行している道路や前方の道路に関する情報を得る手段は、例えばナビゲーションシステム5である。このナビゲーションシステム5は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)や地磁気センサあるいはジャイロセンサを使用した自律航法により、電子化された地図上に自車両1の位置を示して目的地まで案内するシステムと、地上に設置されたビーコンやサインポストなどから交通渋滞情報を含む各種の道路情報や施設に関する情報を得る各種の道路交通情報システムを含む。さらに、自車両1と前方の車両との車間距離に関する情報を得るための手段としては、レーダークルーズシステム6を採用することができる。これは、赤外線やミリ波などの電磁波を前方に照射し、前方車両から反射された電磁波を受信して距離および相対速度を検出するように構成されている。
【0017】
これらのナビゲーションシステム5やレーダークルーズシステム6によって得られた自車両1の周囲の情報が前記各動作機構を制御する制御装置に入力される。例えばエンジン用電子制御装置(E−ECU)7や変速機用電子制御装置(T−ECU)8などとナビゲーションシステム5およびレーダークルーズシステム6との間でデータを相互に送信するように構成されている。
【0018】
ここで、上記のナビゲーションシステム5についてさらに説明すると、図5に示すように、このナビゲーションシステム5は、光ディスクや磁気ディスクなどの情報記録媒体9が装填され、情報記録媒体9に記憶されている情報を読み取るプレーヤー10と、プレーヤー10により読み取られた情報を二次元や三次元で画像表示するための表示部11とを備えている。
【0019】
また、ナビゲーションシステム5は、車両の現在位置や道路状況を検出するための第1位置検出部12および第2位置検出部13と、道路状況を音声により運転者に知らせるスピーカ14とを備えている。上記表示部11は、室内のインストルメントパネルやグローブボックスの側方などに設けられた液晶ディスプレイ、CRTなどの他、フロントウィンドの視界に影響のない箇所に設けられた画像投影部などを用いることが可能である。
【0020】
そして、これらプレーヤー10と、表示部11と、第1位置検出部12および第2位置検出部13と、スピーカ14とは、電子制御装置15により制御される。この電子制御装置15は、中央演算処理装置(CPU)および記憶装置(RAM、ROM)並びに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。
【0021】
前記情報記録媒体9には車両の走行に必要な情報、例えば地図、地名、道路、道路周辺の主要建築物などが記憶されているとともに、道路の具体的な状況、例えば直線路やカーブあるいは登坂、降坂、普通道路、高速道路、未舗装道、砂利道、砂漠、河川敷、林道、農道、低摩擦係数路などが記憶されている。
【0022】
また、第1位置検出部12は、車両の走行する方位を検出する地磁気センサ16、車速センサ17、ステアリングホイールの操舵角を検出するステアリングセンサ18、車両と周囲の物体との距離を検出する距離センサ19、加速度センサ20などを備えている。さらに、第2位置検出部13は、人工衛星21からの電波を受信するGPSアンテナ22と、GPSアンテナ22に接続されたアンプ23と、アンプ23に接続されたGPS受信機24とを備えている。
【0023】
この第2位置検出部13は、路側、信号機、交差点の路面などに設置され、かつ、物体検知およびその伝達を行う地上検出システムや、道路情報を出力するビーコンまたはサインポストや、VICS(ビークル・インフォメーション&コミュニケーション・システム)、SSVS(スーパー・スマート・ビークル・システム)などの地上設置情報伝達システム25から発信される電波を受信するアンテナ26と、アンテナ26に接続されたアンプ27と、アンプ27に接続された地上情報受信機28とを備えている。
【0024】
上記第1位置検出部12および第2位置検出部13により、現在位置の検出と走行予定道路に存在する走行阻害状態、例えば渋滞、工事中、積雪、土砂崩れ、河川の増水、通行止め、落石、倒木、交差点での停止車両、人や動物の存在などの検出とが可能である。
【0025】
なお、上記車両の制御装置は、走行中の安全性を向上するために、ASV(アドバンスドセーフティビークル)機能、例えば、車両が周囲の物体に接近した場合にシートを振動させることで運転者に知らせる機能や、車両が周囲の物体に接触した場合にエアバッグを展開させる機能などを付加することも可能である。
【0026】
さらに、レーダークルーズシステム6について説明すると、図6に示すように、このレーダークルーズシステム6は、レーダーセンサ29とディスタンスコントロールコンピュータ30とを主体として構成されている。このレーダーセンサ29は、赤外線レーザーなどの電磁波を発振する発振器および受信器ならびにマイクロコンピュータなどからなるものであって、発振器から照射した電磁波が前方の車両の車体もしくはリフレクターなどに反射し、その反射波が受信器で受信されるまでの時間および入射角度をマイクロコンピュータで演算し、自車両1の走行線上の前方車両の有無、前方の車両との車間距離、相対速度などのデータをディスタンスコントロールコンピュータ30に出力するように構成されている。また、ディスタンスコントロールコンピュータ30は、主として追従走行に関する制御をおこなうものであって、レーダーセンサ29から入力された車間距離や相対速度などのデータに基づいて目標加速度、ダウンシフト、接近警報ブザーなどの要求信号をエンジン用電子制御装置7に出力するように構成されている。
【0027】
なお、エンジン用電子制御装置7は、これらの要求信号に基づいて原動機2の出力を制御する電子スロットルバルブ(図示せず)や変速機用電子制御装置8あるいはスキッドコントロールコンピュータ31に指令信号を出力するようになっている。このスキッドコントロールコンピュータ31には接近警報ブザー32が接続されている。
【0028】
また一方、自車両1に搭載されている変速機3は変速比を電気的に制御することのできる有段式あるいは無段式の自動変速機であって、変速機用電子制御装置8からの変速指令信号に基づいて変速比を大小に変更するように構成されている。また、ロックアップクラッチを内蔵したトルクコンバータ(図示せず)を有する変速機3である場合には、そのロックアップクラッチの係合・解放ならびにスリップ状態を変速機用電子制御装置8からの指令信号によって制御するように構成されている。
【0029】
さらにまた、電子スロットルバルブを有する原動機2が搭載されている場合には、アクセル開度に対する電子スロットルバルブの開度特性を、エンジン用電子制御装置7からの指令信号によって適宜に設定することができるように構成されている。
【0030】
制御系統が上記のように構成された制御装置は、自車両1と前方の車両との車間距離および走行の状況に基づいて以下のように制御を実行する。図1はその一例を示しており、先ずステップ1では、前方の車両に対する接近の状態が判定される。この接近の状態の判定は一例として、前記レーダークルーズシステム6によって検出された前方車両との車間距離と予め定めた所定値とを比較することによりおこなうことができる。これに替えて、車間距離の短縮率が予め定めた所定値以上であることを判定することとしてもよい。
【0031】
検出された車間距離が判定の基準となる所定値より小さい場合には、定常走行中か否かが判定される(ステップ2)。この定常走行とは、自車両1の走行状態の変化が少ない走行を意味し、したがって予め決めた時間あるいは走行距離の間におけるスロットル開度および/または車速の変化量や変化率が、判断基準として設定した値以下の場合に、定常走行中であることが判定される。したがって、反対に、ある程度以上の加速度や減速度が生じた場合には、定常走行ではないことが判定される。
【0032】
ステップ2で定常走行中ではないことが判定された場合には、自車両1が前方の車両に接近し、かつその状態で走行状態が変化させられていることになるので、動作機構の制御内容が、その状態に適合した内容に変更される。その一例として、前記変速機3が第5速を最高速段とした自動変速機の場合、第4速から第5速へのアップシフトが禁止される(ステップ3)。言い換えれば、最高速比を設定することが規制される。したがって第4速以下の変速段もしくは最高変速比より低速側の変速比が設定されている場合には、車速の増大やアクセル開度の低下などがあっても、第5速あるいは最高変速比が設定されることはない。このようにして中低速側の変速比に維持されることにより、アクセル操作に機敏に反応する車両の走行制御すなわちアクセル操作に対する応答性の良好な走行をおこない、人為的に車間距離を設定する際にはその操作性が良好になる。なお、このステップ3の制御を実行する場合、実際の車速を検出し、その検出した車速に応じて制御の実行のタイミングを変更してもよい。
【0033】
ついで、ブレーキ・オフからオンに切り替わった否かが判定される(ステップ4)。これは、制動操作の有無の判定であり、ブレーキスイッチもしくはストップランプスイッチがオン信号を出力することにより判定することができる。なお、このステップ4は、車速を低下させる操作の有無、すなわち運転者の減速の意図を判定するためのものであり、したがってアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み角度)の減少速度あるいは減少率が所定値以上であり、かつアクセル開度がゼロになったことを判定するステップに変更してもよい。
【0034】
制動操作がおこなわれていないことによりステップ4の判定結果が否定的であれば、直ちにリターンし、また制動操作がおこなわれたことによってステップ4の判定結果が肯定的であれば、第5速から第4速へのダウンシフトを実行する(ステップ5)。エンジンブレーキ力を増大させて運転者の減速の意図に沿う車両の挙動とするためである。
【0035】
一方、車間距離が短くなっていても定常走行がおこなわれていることによりステップ2で肯定的に判定された場合には、最高速比である第5速を設定することのできる通常の制御内容に復帰する(ステップ6)。例えば前述したディスタンスコントロールコンピュータ30が接近警報ブザーの要求信号を出力しても、それに気付いて定常走行をおこなっている場合があり、その場合は、車間距離が短縮していることを運転者が許容し、その時点の走行状態を維持していると考えられるので、通常の変速制御内容である最高速比である第5速を設定可能にする。なお、車間距離が充分大きいことによりステップ1で否定的に判定された場合には、いわゆる接近制御を実行する必要がないので、ステップ6に進む。
【0036】
したがってこの図1に示す制御によれば、車間距離が短くなった状態で前方の車両に追従して走行する場合、最高速比が規制されてアクセル操作に対する車速の応答性(制御性)が良好になるので、加減速の多い車両の流れの中でのドライバビリティが向上する。また、車間距離が短い場合であっても定常走行がおこなわれていれば、最高速比が許可されて高速走行時の原動機(エンジン)2の回転数が低下させられるので、騒音や振動が抑制され、また燃費が向上する。
【0037】
ところで、上述した制御系統を備えた車両を対象とするこの発明の制御装置では、自車両1の走行路中での位置および道路の勾配などの道路の構造のみならず、交通渋滞などの道路状況をも情報として入手し、動作機構の制御に利用される。その例を図2に示してある。
【0038】
図2において、先ず、前方の車両に対する接近の状態が判定される(ステップ11)。このステップ11の判定は、上述した図1におけるステップ1での判定と同様にしておこなうことができ、一例として前記レーダークルーズシステム6によって検出された前方車両との車間距離と予め定めた所定値とを比較することによりおこなうことができる。これに替えて、車間距離の短縮率が予め定めた所定値以上であることを判定することとしてもよい。
【0039】
このステップ11で肯定的に判定された場合、すなわち前方の車両に対して接近している場合には、自車両1が位置している近辺の道路状況が判定される(ステップ12)。その判定内容の例を示すと、自車両1が高速道路の本線上を走行していること、車速が予め定めた所定値より低車速であること、自車両1が交通渋滞区間にいることである。これらの判定内容のうち自車両1の現在位置が高速道路の本線上であることの判定は、前述したナビゲーションシステム5で検出した自車両1の電子地図上の位置によって判定することができる。また、車速は、車両に搭載している車速センサによって判定することができる。さらに、交通渋滞区間は、ナビゲーションシステム5で受信した交通情報に基づいて判定することができる。
【0040】
このステップ12における全ての内容について肯定的に判定された場合には、現在設定されている変速段が第1速以外の変速段であること(最低速比以外の変速比であること)が判定される(ステップ13)。このステップ13の判定は、変速機用電子制御装置8が出力している変速比指令信号に基づいて判定することができる。このステップ13で肯定的に判定された場合には、スロットルバルブの全閉時に最低速比に変速することを禁止する(ステップ14)。
【0041】
すなわちステップ12で肯定的に判定された場合には、自車両1が高速道路で発生している交通渋滞の中にいること、もしくはその交通渋滞に入ろうとしている状態にあり、かつそのために車速が低車速になっているのであるから、変速機3の制御内容を、交通渋滞に適した制御内容に変更する。その変更された制御内容が、最低速比の禁止であり、こうすることにより交通渋滞中での停止時もしくはそれに近い走行状態においても第1速が設定されることがなく、そのため、交通渋滞の中での発進・停止の都度、アップシフトおよびダウンシフトが生じることが回避される。言い換えれば、最低速比とそれより高速側の変速比との間の変速が頻繁に生じるビジーシフトが回避されるので、乗り心地やドライバビリティの悪化が防止される。
【0042】
なお、ステップ13で否定的に判定された場合には、既に最低速比が設定されていることになり、その場合はリターンする。また、車間距離が所定値以上であることによりステップ11で否定的に判定された場合、およびステップ12におけるいずれかの判定内容についての結果が否定的であることによりステップ12で否定的に判定された場合には、車速が予め定めた所定値以上か否かが判定される(ステップ15)。
【0043】
このステップ15で否定的に判定されれば、未だ交通渋滞の中にあって発進・停止を伴う低速走行状態にあることになるので、その場合はリターンしてステップ14の制御を継続する。これとは反対に車速が所定値以上であることによりステップ15で肯定的に判定された場合には、最低速比である第1速を許可し、交通渋滞に伴う制御を終了して通常制御に復帰する(ステップ16)。すなわちある程度以上の車速で走行することができるのであれば、発進・停止が繰り返される道路状況あるいは走行状態にないことになり、これは、通常の走行状態であるから、いわゆる接近制御もしくは渋滞制御を終了する。
【0044】
したがって図2に示す制御によれば、前方の車両との車間距離が短くなることに加えて、交通渋滞に伴う低車速状態が検出されることにより、最低速比を禁止するなどの特殊制御が実行される。そのため、車両の制御状態が交通渋滞に適合した状態になるので、ドライバビリティが向上する。それとは反対に車間距離が短くなっただけでは、通常の制御が継続されるので、運転者の意図に適合しない制御状態になるなどのことが回避されて違和感のない走行をおこなうことができる。
【0045】
上述した図1に示す制御あるいは図2に示す制御では、前方車両との車間距離が予め定めた所定値より短くなること、すなわち車間距離が制御開始のためのしきい値を超えることにより、最高速比の禁止や渋滞区間での最低速比の禁止などの制御内容の変更をおこなう。したがってその所定値(判断のためのしきい値)が、制御内容の変更のタイミングあるいは変更のし易さを決めることになるが、制御内容の変更に伴う走行状態の変化が搭乗者(もしくは運転者)の意図とは異なる場合がある。このような場合、制御内容の変更のタイミングを、制御内容の変更後の運転状態の変化に応じて修正することが好ましい。図3に示す制御例は、このような要請を満たすための学習制御の例である。
【0046】
図3において、先ず、ステップ21では前方車間距離Dがしきい値D54より短いことにより第4速から第5速へのアップシフトが禁止されているか否かが判断される。これは、前述した図1に示すステップ3が実行されているか否かの判断であり、したがって図1のステップ3の実行に伴って所定の制御フラグを例えばオン状態とし、その制御フラグに基づいて判断することができる。
【0047】
このステップ21で肯定的に判断された場合には、実際の車間距離Dが、第4速から第5速(最高速比)へのアップシフトを禁止する車間距離しきい値D54より短くなり、かつその差(D54−D)が予め定めた基準値Dgより小さいか否かが判断される(ステップ22)。すなわち前方車両にある程度接近して第5速の禁止などの制御内容の変更が開始された後の比較的短期間内であるか否か、言い換えれば前方車両に接近しているものの未だある程度の距離が前方車両との間にある状態か否かが判断される。車間距離がこの基準値Dgにまで短縮する間に、以下に述べる学習制御を実行するので、結局、この基準値Dgによって定まる期間が、学習期間と言うことができる。
【0048】
ステップ21で否定的に判断された場合には、フラグFLAGをオフに設定(ステップ23)した後にリターンする。このフラグFLAGは、後述する学習制御が実施された場合にオンに設定されるフラグであり、ステップ22で否定的に判断されれば、学習期間ではないことになるので、このステップ23でフラグFLAGがオフに設定される。
【0049】
これに対してステップ22で肯定的に判断された場合には、フラグFLAGがオンか否かが判断される(ステップ24)。フラグFLAGがオンであってステップ24で肯定的に判断されれば、学習制御が既に実施されていることになるので、特に制御をおこなうことなくリターンする。また否定的に判断されれば、学習期間で未だ学習制御が実施されていないことになるので、運転状態の判断を含む学習制御に進む。
【0050】
すなわちステップ24で否定的に判断された場合には、運転状態の変化の一例として制動操作がおこなわれたか否かが判断される(ステップ25)。これは、具体的には、ブレーキスイッチがオフからオンに切り替わったか否かによって判断することができる。このステップ25で肯定的に判断される状況は、前方車間距離Dがしきい値D54より短くなって第4速へのダウンシフトとそれに伴う減速とが生じ、かつその直後の学習期間(所定値Dgによって定まる期間)に制動操作された状況である。
【0051】
したがって、その制動操作である運転状態の変化は、第5速の禁止によるエンジンブレーキによる減速が不充分であること、すなわち第5速の禁止制御の制御内容を更に促進する運転状態の変化を意味していると見なすことができる。なお、減速制御は、エンジンブレーキの効く更に低速側の変速段への手動によるシフトによっておこなうこともでき、したがってステップ25の判断に替え、あるいはこれに加えてマニュアルダウンシフトの有無を判断してもよい。
【0052】
したがってステップ25で肯定的に判断された場合には、第5速へのアップシフトを禁止してエンジンブレーキを効かせるという制御内容の変更の不足を是正するための学習制御を実行する。具体的には、従前のしきい値D54に所定の値ΔD54を加算することにより、次回以降のしきい値D54を長くし(D54←D54+ΔD54)、同時にこの学習制御を実行したことを示すためにフラグFLAGをオンにする(ステップ26)。
【0053】
この学習制御の結果、新たに設定されたしきい値D54によれば、それ以前よりも前方車両から離れている時点で第5速へのアップシフトの禁止などの制御内容の変更が実施されるので、エンジンブレーキの効くタイミングが早くなって、前回、制動操作をおこなった運転者の意図に即した制御を実現可能になる。したがってステップ26では制御の内容の変更のタイミングを学習していることになり、上記の例では、制御内容の変更を実行しやすくなる。
【0054】
一方、制動操作がおこなわれないことによりステップ25が否定的に判断された場合には、運転状態の変化の他の例として加速操作がおこなわれたか否かが判断される(ステップ27)。具体的にはアクセルペダル(図示せず)が踏み込まれてアクセル・オンとなったか否かが判断される。このステップ27で否定的に判断された場合には、その時点の走行状態が搭乗者にとって許容できるものであることになるので、特に制御をおこなうことなくリータンする。
【0055】
これに対してステップ27で肯定的に判断された場合には、搭乗者にとっては、第5速へのアップシフトが禁止されてエンジンブレーキが効いている状態は過剰に制動している状態であって、受容できない走行状態であり、その結果、加速するためにアクセルペダルが踏み込まれた状態である。したがって、その加速操作である運転状態の変化は、第5速の禁止によるエンジンブレーキによる減速が過剰な制動であること、すなわち第5速の禁止制御の制御内容を抑制する運転状態の変化を意味していると見なすことができる。なお、エンジンブレーキによる減速状態を抑制もしくは解消する制御は、第5速へのアップシフトを禁止する制御を手動によって解除するとともに手動操作によってアップシフトすることによっても実行でき、したがってステップ27の判断に替え、もしくはこれに加えてマニュアルアップシフトの有無を判断してもよい。
【0056】
したがってステップ27で肯定的に判断された場合には、第5速へのアップシフトを禁止してエンジンブレーキを効かせるという制御内容の変更の過剰を是正するための学習制御を実行する。具体的には、従前のしきい値D54から所定の値ΔD54を減算することにより、次回以降のしきい値D54を短くし(D54←D54−ΔD54)、同時にこの学習制御を実行したことを示すためにフラグFLAGをオンにする(ステップ28)。
【0057】
この学習制御の結果、新たに設定されたしきい値D54によれば、それ以前よりも前方車両に接近した時点で第5速へのアップシフトの禁止などの制御内容の変更が実施されるので、エンジンブレーキの効くタイミングが遅くなって、前回、加速操作をおこなった運転者の意図に即した制御を実現可能になる。したがってステップ28では制御の内容の変更のタイミングを学習していることになり、上記の例では、制御内容の変更を実行しにくくなる。
【0058】
なお、ステップ21で否定的に判断された場合には、前述した学習期間ではないことになるので、ステップ23に進んでフラグFLAGがオフに設定される。
【0059】
また、上記のしきい値D54の変更幅を決める前記の所定値ΔD54は、車速ごとにマップ化して予め設定した値や、減速度(車速の変化率)に応じて予め設定した値などを採用することができ、必ずしも一定値である必要はない。
【0060】
ここで、この発明と上述した具体例との関係を説明すると、図2におけるステップ11の機能が、請求項1および2における接近状態検出手段に相当し、またステップ12の機能が、請求項1および2における渋滞検出手段に相当し、さらにステップ14の機能が請求項1における渋滞制御実行手段および請求項2における最低速比規制手段に相当する。
【0061】
なお、上述した図1ないし図3に示す制御例では、変速機3の制御内容を車間距離および走行状態もしくは自車両1の周囲の状態に基づいて変更する例を示したが、この発明は、上記の例に限定されないのであって、原動機2やサスペンション4などの動作機構を対象としてその制御内容を変更するように構成してもよい。例えば原動機2が電子スロットルバルブを備えた内燃機関であれば、その電子スロットルバルブの制御特性を、車間距離および走行状態もしくは周囲の状況に基づいて変更するように構成することもできる。また原動機2が、内燃機関と電動機とを動力源とするハイブリッド機構であれば、その出力の形態を変更するようにしてもよい。ここで出力の形態とは、内燃機関のみで動力を出力する形態、電動機のみで動力を出力する形態、内燃機関と電動機との両方で動力を出力する形態に加え、内燃機関を電動機でアシストして出力すると同時に、そのアシストの程度を変更する形態を含む。さらに、サスペンション4を制御対象とする場合には、その振動減衰特性を変更したり、あるいは車高を変更することとすればよい。さらにこの発明における学習手段は、要は、制御内容の変更のし易さを学習するものであればよく、上述した制御内容の変更のタイミングに限定されない。
【0062】
さらに、図2に示す制御例では、第1速あるいは最低速段を禁止することとしたが、これに替えて、第2速を禁止して第1速と第3速との間で変速を生じさせるようにしてもよい。このような制御内容に変更すれば、車速がわずか上昇しただけではアップシフトが生じないので、交通渋滞の中で発進・停止を繰り返しても変速の頻度が低下し、いわゆるビジーシフトを防止できる。なお、その場合、第1速を設定する期間が長くなるので、それに伴う不都合を回避する制御を併せて実行してもよい。すなわち路面摩擦係数の小さいいわゆる低μ路では、駆動トルクを低くしてスリップを防ぐことが好ましいので、低μ路でないことが検出された場合にのみ、第2速を禁止する制御を実行することとすればよい。これとは反対に登降坂路では駆動力およびエンジンブレーキ力が要求されるので、登降坂路が検出された場合には、第1速を多用できるように、第2速を禁止する制御内容とすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明による制御装置で実行可能な制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明による制御装置で実行される制御例を説明するためのフローチャートである。
【図3】この発明による制御装置で実行可能な他の制御例を説明するためのフローチャートである。
【図4】この発明に係る制御装置の全体的な制御系統を模式的に示す図である。
【図5】そのナビゲーションシステムの一例を模式的に示すブロック図である。
【図6】そのレーダークルーズシステムの一例を模式的に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0064】
1…自車両、 2…原動機、 3…変速機、 4…サスペンション、 5…ナビゲーションシステム、 6…レーダークルーズシステム、 7…エンジン用電子制御装置、 8…変速機用電子制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の自車両と前方の車両との車間距離に基づいて自車両のいずれかの動作機構を制御する車両用制御装置において、
自車両の前方の車両に対する接近状態を検出する接近状態検出手段と、
交通渋滞の発生状態を検出する渋滞検出手段と、
自車両が前方の車両に接近していることを前記接近状態検出手段が検出し、かつ自車両が交通渋滞区間の中にあることもしくは自車両が交通渋滞区間に入ることを前記渋滞検出手段が検出したことに基づいて前記動作機構の制御内容を変更する渋滞制御実行手段と
を備えていることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
走行中の自車両と前方の車両との車間距離に基づいて変速機を制御する車両用制御装置において、
自車両の前方の車両に対する接近状態を検出する接近状態検出手段と、
交通渋滞の発生状態を検出する渋滞検出手段と、
自車両が前方の車両に接近していることを前記接近状態検出手段が検出し、かつ自車両が交通渋滞区間の中にあることもしくは自車両が交通渋滞区間に入ることを前記渋滞検出手段が検出したことに基づいて前記変速機の最低速比を設定することを規制する最低速比規制手段と
を備えていることを特徴とする車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−267607(P2008−267607A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123920(P2008−123920)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【分割の表示】特願平10−307537の分割
【原出願日】平成10年10月28日(1998.10.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】