説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】電動機により制御される複数の変速部を有する車両用動力伝達装置において、その複数の変速部の同時対向変速における制御の信頼性向上を図ることができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】油圧制御値変更手段84は、同時対向変速が行われたときの第1電動機M1及び/又は第2電動機M2の制御量に基づき、その制御量が減少するように、第1変速部16及び/又は第2変速部20の変速をするための油圧制御値CTRを学習により変更する。従って、上記同時対向変速における上記1又は2以上の電動機Mによる変速タイミングの制御への依存が低下することにより電子制御装置40の制御負荷が軽減され、上記同時対向変速時の変速ショックを低減しつつ上記同時対向変速における制御の信頼性向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の変速部と電動機とを備えた車両用動力伝達装置の制御装置において、変速制御の信頼性向上を図る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧制御により変速する第1変速部及び第2変速部と、それら第1変速部又は第2変速部の変速に伴い回転速度が変化するようにそれら第1変速部又は第2変速部の回転要素に連結された少なくとも1つの電動機とを、備えた車両用動力伝達装置が知られている。例えば、特許文献1に記載された自動変速機がそれである。この技術によれば、電気的な無段変速機として作動可能な第1変速部と、複数の変速段の間で有段変速可能な第2変速部とを直列に備え、その第1変速部を電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と無段変速作動しない有段変速状態とに選択的に切換え可能に構成されており、前記第1変速部及び第2変速部の変速比を個別に制御することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2007−1389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した特許文献1のような従来の技術において、前記第1変速部と第2変速部とで同時に変速されるということ自体は未公知であり、また、そのような第1変速部と第2変速部とで同時に変速されるに際してそれら第1変速部及び第2変速部の変速方向が互いに反対方向となることも未公知である。本発明者等は、それら両変速部(第1変速部及び第2変速部)の変速比を互いに反対方向に変化させる変速がそれら両変速部で同時期に実行される同時対向変速を実用化すべく鋭意研究を継続してきた。その過程において、前述したような従来の技術で斯かる同時対向変速を行うことを考えると、前記第1変速部及び第2変速部の変速比の変化方向が互いに反対方向となるので、わずかなタイミングのずれによりエンジン回転速度が上下し、それが変速ショックとして搭乗者に違和感を与えるおそれがあるという未公知の課題を新たに見い出した。
【0005】
そこで、本発明者等は、上記搭乗者に違和感を与えるおそれを解消するため、前記同時対向変速においては、前記第1変速部及び/又は第2変速部の変速タイミングを前記電動機により制御するという未公知の発明をした。しかし、上記同時対向変速において本来的には、上記第1変速部及び第2変速部は共に、上記電動機による制御に依存せず、予定された変速タイミングで油圧制御により変速されるべきであるので、上記電動機による制御への依存を小さくすること、すなわち、上記同時対向変速における上記電動機の制御量を小さくすることが制御装置の制御負荷を軽減し、上記同時対向変速における制御の信頼性向上につながると考えられた。なお、この課題も未公知である。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、上記同時対向変速が実行されることがある車両用動力伝達装置において、その同時対向変速における制御の信頼性向上を図ることができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る発明は、(a)油圧制御により変速する第1変速部及び第2変速部と、それら両変速部の変速比を互いに反対方向に変化させる変速がそれら両変速部で同時期に実行される同時対向変速が行われる場合にそれら両変速部のうち少なくとも何れかの変速タイミングを1又は2以上の電動機により制御する同時対向変速制御手段とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b)前記同時対向変速が行われたときの前記1又は2以上の電動機の制御量に基づき、その制御量が減少するように、前記第1変速部及び/又は第2変速部の変速をするための油圧制御値を学習により変更する油圧制御値変更手段を、含むことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明では、前記油圧制御値変更手段は、前記1又は2以上の電動機の制御量が予め定められた制御量制限値以上である場合に、前記油圧制御値を学習により変更することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明では、(a)前記1又は2以上の電動機に対し充放電を行う蓄電装置が設けられており、(b)前記1又は2以上の電動機の制御量とは、その1又は2以上の電動機の前記蓄電装置に対する充放電電力の合計の絶対値であり、(c)前記制御量制限値とは、前記蓄電装置の許容される充放電電力として予め定められた充放電電力制限値であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に係る発明では、前記同時対向変速制御手段は、前記1又は2以上の電動機により前記第1変速部及び第2変速部のうち何れか一方のイナーシャ相の開始時期を他方のイナーシャ相の開始時期より早くするように制御することを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明では、前記同時対向変速制御手段は、前記第1変速部及び第2変速部のうちの前記一方のイナーシャ相の開始時期が前記他方のイナーシャ相の開始時期より早くなるように、前記1又は2以上の電動機によって前記他方のイナーシャ相の開始を抑止して遅延させることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に係る発明では、前記同時対向変速制御手段は、前記1又は2以上の電動機により前記第1変速部及び第2変速部のうちの前記一方のイナーシャ相の終了時期を前記他方のイナーシャ相の終了時期より遅くするように制御することを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に係る発明では、前記同時対向変速制御手段は、前記第1変速部及び第2変速部のうちの前記一方のイナーシャ相の終了時期が前記他方のイナーシャ相の終了時期より遅くなるように、前記1又は2以上の電動機によって前記一方のイナーシャ相の終了を抑止して遅延させることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に係る発明では、前記1又は2以上の電動機は、前記第1変速部及び第2変速部の変速をするための油圧制御に対し補足的に作動させられることを特徴とする。
【0015】
また、請求項9に係る発明では、(a)前記第1変速部は、電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と段階的な変速作動を行う有段変速状態とに選択的に切換え可能な差動装置であり、(b)前記第2変速部の変速のイナーシャ相開始から終了までの間に、前記第1変速部の無段変速状態と有段変速状態との間の切換が実行されることを特徴とする。
【0016】
また、請求項10に係る発明では、(a)前記1又は2以上の電動機に含まれる第1電動機がエンジンの回転速度を制御し得るように設けられており、(b)前記同時対向変速の実行中において、前記同時対向変速制御手段は、前記第1電動機により、エンジンの回転速度の変化方向が反転しないようにそのエンジンの回転速度変化を制御することを特徴とする。
【0017】
また、請求項11に係る発明では、(a)前記第1電動機は前記第1変速部の回転要素に動力伝達可能に連結され、その第1変速部は前記エンジンに動力伝達可能に連結され、前記第2変速部はその第1変速部から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成しており、(b)前記同時対向変速の実行中において、前記同時対向変速制御手段は、前記第2変速部の入力回転速度の変化に応じて前記第1電動機の回転速度を制御することを特徴とする。
【0018】
また、請求項12に係る発明では、前記第1変速部及び第2変速部のうち少なくとも何れかの変速に伴うエンジンの回転速度の変化相中に、そのエンジンのトルクダウン制御が実行されることを特徴とする。
【0019】
また、請求項13に係る発明では、(a)前記第2変速部は、複数の係合装置の係合及び解放に応じて複数の変速段を選択的に成立させる有段変速機であり、(b)前記第2変速部の変速段の切り換えが、それら係合装置の掴み替えにより行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、その制御装置に含まれる前記油圧制御値変更手段は、前記同時対向変速が行われたときの前記1又は2以上の電動機の制御量に基づき、その制御量が減少するように、前記第1変速部及び/又は第2変速部の変速をするための油圧制御値を学習により変更するので、上記同時対向変速における上記1又は2以上の電動機による変速タイミングの制御への依存が低下することにより上記制御装置の制御負荷が軽減され、上記同時対向変速における制御の信頼性向上を図ることができる。
【0021】
ここで、前記変速タイミングとは、変速の進行度合を示す変速の進行に対応した時点の相対的な関係及び/又は時間差をいい、例えば、上記同時対向変速での変速タイミングとは、その同時対向変速の実行開始時から上記第1変速部又は第2変速部のイナーシャ相の開始時までの経過時間(時間差)、上記第1変速部のイナーシャ相の開始時と上記第2変速部のイナーシャ相の開始時との間の時間差やそれらの相対的な前後関係、および、上記第1変速部のイナーシャ相の終了時と上記第2変速部のイナーシャ相の終了時との間の時間差やそれらの相対的な前後関係などである。要するに、それらを総称したものが上記同時対向変速での変速タイミングである。
【0022】
また、前記油圧制御値変更手段によって変更される前記油圧制御値とは、各変速部の変速を達成するために作動する油圧アクチュエータの油圧と変速中の経過時間との関係を決定するためのパラメータ(変数)である。
【0023】
請求項2に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記油圧制御値変更手段は、前記1又は2以上の電動機の制御量が予め定められた制御量制限値以上である場合に、前記油圧制御値を学習により変更するので、その油圧制御値が変更される頻度がある程度にまで抑えられ、上記制御装置の制御負荷を一層軽減することができる。
【0024】
ここで、好適には、上記制御量制限値とは、上記電動機の制御量がそれ以上であれば、前記同時対向変速において制御負荷軽減のためにその電動機による前記変速タイミングの制御への依存を低下させた方がよいと判断される制限値である。
【0025】
請求項3に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、請求項2に係る発明において、(a)前記1又は2以上の電動機の制御量とは、その1又は2以上の電動機の前記蓄電装置に対する充放電電力の合計の絶対値であり、(b)前記制御量制限値とは、前記蓄電装置の許容される充放電電力として予め定められた充放電電力制限値である。従って、前記油圧制御値変更手段に前記油圧制御値が変更されることにより、上記1又は2以上の電動機の駆動に関連する電気部品の耐久性の低下防止を図ることができる。
【0026】
請求項4に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記同時対向変速制御手段は、前記1又は2以上の電動機により前記第1変速部及び第2変速部のうち何れか一方のイナーシャ相の開始時期を他方のイナーシャ相の開始時期より早くするように制御するので、前記同時対向変速において上記イナーシャ相が開始するときに生じ得る変速ショックを分散させ、その変速ショックから生じる違和感を搭乗者に与える可能性が低減される。
【0027】
請求項5に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、上記同時対向変速制御手段は、上記第1変速部及び第2変速部のうちの上記一方のイナーシャ相の開始時期が上記他方のイナーシャ相の開始時期より早くなるように、上記1又は2以上の電動機によって上記他方のイナーシャ相の開始を抑止して遅延させるので、実用的な態様で上記変速ショックを分散させることが可能である。
【0028】
請求項6に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、上記同時対向変速制御手段は、上記1又は2以上の電動機により上記第1変速部及び第2変速部のうちの上記一方のイナーシャ相の終了時期を上記他方のイナーシャ相の終了時期より遅くするように制御するので、前記同時対向変速において上記イナーシャ相が終了するときに生じ得る変速ショックを分散させ、その変速ショックから生じる違和感を搭乗者に与える可能性が低減される。
【0029】
請求項7に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、上記同時対向変速制御手段は、上記第1変速部及び第2変速部のうちの上記一方のイナーシャ相の終了時期が上記他方のイナーシャ相の終了時期より遅くなるように、上記1又は2以上の電動機によって上記一方のイナーシャ相の終了を抑止して遅延させるので、実用的な態様で上記変速ショックを分散させることが可能である。
【0030】
請求項8に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、上記1又は2以上の電動機は、上記第1変速部及び第2変速部の変速をするための油圧制御に対し補足的に作動させられるので、そのように補足的ではない場合と比較して、上記同時対向変速中の上記1又は2以上の電動機にかかる負荷を軽減できる。
【0031】
請求項9に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、(a)上記第1変速部は、電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と段階的な変速作動を行う有段変速状態とに選択的に切換え可能な差動装置であり、(b)上記第2変速部の変速のイナーシャ相開始から終了までの間に、上記第1変速部の無段変速状態と有段変速状態との間の切換が実行されるので、その第1変速部の切換により生じ得るショックと上記第2変速部の変速により生じ得るショックとが時間的に重なることを回避し、変速ショックの発生を好適に抑制することができる。
【0032】
変速中においてエンジンの回転速度が上昇下降を繰り返したとすれば、搭乗者の快適性を損なうおそれがあるものと考えられる。この点、請求項10に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記同時対向変速の実行中において、前記同時対向変速制御手段は、前記1又は2以上の電動機に含まれる第1電動機により、エンジンの回転速度の変化方向が反転しないようにそのエンジンの回転速度変化を制御するので、搭乗者の快適性を損なわないようにすることができる。
【0033】
請求項11に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、(a)上記第1電動機は上記第1変速部の回転要素に動力伝達可能に連結され、その第1変速部は上記エンジンに動力伝達可能に連結され、上記第2変速部は上記第1変速部から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成しており、(b)前記同時対向変速の実行中において、上記同時対向変速制御手段は、上記第2変速部の入力回転速度の変化に応じて上記第1電動機の回転速度を制御するので、上記第2変速部の入力回転速度の変化が上記第1変速部の変速に影響することを、その第1電動機の回転速度の制御により低減できる。
【0034】
請求項12に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、上記第1変速部及び第2変速部のうち少なくとも何れかの変速に伴うエンジンの回転速度の変化相中に、そのエンジンのトルクダウン制御が実行されるので、前記変速タイミングを制御するために前記1又は2以上の電動機にかかる負荷を上記トルクダウン制御中は軽減でき、その変速タイミングの制御を実行し易くすることができる。
【0035】
請求項13に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、(a)上記第2変速部は、複数の係合装置の係合及び解放に応じて複数の変速段を選択的に成立させる有段変速機であり、(b)上記第2変速部の変速段の切り換えが、それら係合装置の掴み替えにより行われる。すなわち、その第2変速部は、所謂クラッチツウクラッチ変速を行うものである。従って、第2変速部の変速比の変化幅を大きくすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0037】
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する車両用動力伝達装置8(以下、「動力伝達装置8」と表す)の構成を説明する骨子図である。この図1に示す動力伝達装置8は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」と表す)内において共通の軸心上に配設され、主動力源であるエンジン10に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパ(振動減衰装置)等を介して間接に連結された入力回転部材すなわち入力軸14と、その入力軸14に連結された差動部或いは無段変速部としての第1変速部16と、その第1変速部16と駆動輪38(図5参照)との間の動力伝達経路において伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式変速部としての第2変速部20と、その第2変速部20の出力を後段へ伝達する出力回転部材すなわち出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置8では、直列に設けられた上記第1変速部16及び第2変速部20から変速機30が構成されており、その変速機30の軸方向寸法が比較的大きいため、例えば車両長手方向に縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられる。この動力伝達装置8は、上記エンジン10から一対の駆動輪38に至る動力伝達経路に設けられ、そのエンジン10からの動力をその動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。
【0038】
上記エンジン10は、車両の走行用の主動力源であり、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関や外燃機関等によって構成される。動力伝達装置8においてエンジン10と第1変速部16とは、動力断続装置として機能するクラッチ等を介して動力伝達可能に連結されていてもよいが、本実施例では、図1に示すように、エンジン10は第1変速部16と直結されている。この直結とは、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパ等を介する連結はこの直結に含まれる。なお、上記動力伝達装置8はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
【0039】
前記第1変速部16は、その回転子が遊星歯車装置24のサンギヤS0と一体的に回転するように設けられた第1電動機M1と、前記入力軸14に入力されたエンジン10の出力を機械的に分配する機械的機構であってそのエンジン10の出力を第1電動機M1及び伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構32と、その回転子が前記伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は、前記伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路を構成する何れの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1及び第2電動機M2は、好適には、発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、上記第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも有する電動機であり、上記第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも有する電動機である。以下、これら第1電動機M1及び第2電動機M2を特に区別しない場合には、単に電動機Mと表す。
【0040】
上記動力分配機構32は、例えば「0.380」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の遊星歯車装置24と、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この遊星歯車装置24は、サンギヤS0、遊星歯車P0、その遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持するキャリヤCA0、その遊星歯車P0を介してサンギヤS0と噛み合うリングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。サンギヤS0の歯数をZS0、リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0041】
上記動力分配機構32において、キャリヤCA0は前記入力軸14すなわちエンジン10に連結され、サンギヤS0は前記第1電動機M1に連結され、リングギヤR0は前記伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0はサンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0はサンギヤS0とキャリヤCA0との間に設けられている。それら切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放される(すなわち解放状態へ切り換えられる)と、前記動力分配機構32は遊星歯車装置24の3要素であるサンギヤS0、キャリヤCA0、リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能すなわち差動作用が働く差動状態とされることから、前記エンジン10の出力が前記第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン10の出力の一部で前記第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり前記第2電動機M2が回転駆動されるので、前記第1変速部16(動力分配機構32)は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、前記エンジン10の所定回転にかかわらず前記伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、前記動力分配機構32が差動状態とされると、前記第1変速部16はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度NTR)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
【0042】
斯かる状態において上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合状態へ切り換えられると、前記動力分配機構32は前記差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合されてサンギヤS0とキャリヤCA0とが一体的に連結されると、前記動力分配機構32は遊星歯車装置24の3要素であるサンギヤS0、キャリヤCA0、リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられる連結状態すなわちロック状態とされて前記差動作用をしない非差動状態とされ、それに伴って前記第1変速部16も非差動状態とされる。このとき、前記エンジン10の回転と伝達部材18の回転とが一致する状態となるので、前記第1変速部16(動力分配機構32)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0043】
また、前記切換クラッチC0に替えて前記切換ブレーキB0が係合されてサンギヤS0が前記ケース12に連結されると、前記動力分配機構32はサンギヤS0が非回転状態とされた非差動状態とされ、それに伴って前記第1変速部16も非差動状態とされる。このとき、リングギヤR0はキャリヤCA0よりも増速回転させられるので、前記動力分配機構32は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する非無段変速状態例えば定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0044】
以上のように、第1変速部16は、電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と段階的な変速作動を行う有段変速状態とに選択的に切換え可能な差動装置(電気的変速装置)として機能する。そして、上記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は、前記第1変速部16(動力分配機構32)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態(非連結状態)と、非差動状態すなわちロック状態(連結状態)とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。上記差動状態では、前記第1変速部16(動力分配機構32)が電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な電気的な無段変速機として作動する無段変速作動可能な無段変速状態とされる。また,上記非差動状態では、電気的な無段変速作動しない非無段変速状態、すなわち例えば変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1又は2種類以上の一定変速比の単段又は複数段(本実施例においては2段)の変速機として作動する定変速状態(非差動状態)とされる。換言すれば、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は、前記動力分配機構32を非差動状態としてその動力分配機構32の差動作用を制限することにより、前記第1変速部16を非無段変速状態としてその第1変速部16の電気的な差動装置又は無段変速機としての作動を制限する差動制限装置として機能している。
【0045】
前記第2変速部20は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26とシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28とを備え、4速の有段式自動変速機として機能する。上記第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.529」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。上記第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.372」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2である。
【0046】
前記第2変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とは相互に一体的に連結されると共に第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結される。また、第2キャリヤCA2と第2リングギヤR2とは相互に一体的に連結されると共に第2ブレーキB2を介して前記ケース12に選択的に連結され且つ第3クラッチC3を介して前記伝達部材18に選択的に連結される。また、第1リングギヤR1は第1ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結されると共に第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結される。また、第2キャリヤCA2は前記出力軸22に連結されている。このように、前記第2変速部20と伝達部材18とはその第2変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び第3クラッチC3を介して選択的に連結されるようになっている。換言すれば、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び第3クラッチC3は、前記第2変速部20の入力クラッチであり、前記伝達部材18とその第2変速部20との間すなわち前記第1変速部16(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換えられる動力伝達遮断用係合装置として機能している。第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び第3クラッチC3のうちの少なくとも1つが係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び第3クラッチC3が共に解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0047】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2は、好適には、従来の車両用自動変速機において一般に用いられている油圧式摩擦係合装置(係合装置)であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するものである。以下、上記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び第3クラッチC3を特に区別しない場合には、単にクラッチCと表す。また、上記切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2を特に区別しない場合には、単にブレーキBと表す。
【0048】
以上のように構成された動力伝達装置8では、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって定変速状態とされた第1変速部16と有段変速機として作動する第2変速部20とで前記変速機30の有段変速状態が構成される一方、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで(すなわち、何れも解放状態とすることで)無段変速状態とされた第1変速部16と第2変速部20とで電気的な無段変速機として作動する前記変速機30の無段変速状態が構成される。
【0049】
前記第1変速部16が非無段変速状態とされて前記変速機30が有段変速機として機能する場合には、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合させられ、且つ第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2が図2に示す組み合わせで選択的に係合作動させられることにより、前記変速機30全体として第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第7速ギヤ段(第7変速段)の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられる。図2に示すように、前進段では隣接するギヤ段の変速比間が略等比的に変化する前記変速機30のトータル変速比(総合変速比)γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に段階的に得られ、且つそれのトータル変速比幅(=第1速ギヤ段の変速比γT1/第7速ギヤ段の変速比γT7)が広範囲に得られるようになっている。この変速機30のトータル変速比γTは、前記第1変速部16の変速比γ0と第2変速部20の変速比γA(=伝達部材18の回転速度NTR/出力軸22の回転速度NOUT)とに基づいて形成される前記動力伝達装置8全体としての変速比γTである。
【0050】
図2の係合作動表に示すように、前記変速機30においては、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γT1が最大値例えば「3.683」程度である第1速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換ブレーキB0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γT2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.669」程度である第2速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γT3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.909」程度である第3速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換ブレーキB0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γT4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.383」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第3クラッチC3の係合により、変速比γT5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換クラッチC0、第3クラッチC3、及びブレーキB1の係合により、変速比γT6が第5速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.661」程度である第6速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換ブレーキB0、第3クラッチC3、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γT7が第6速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.479」程度である第7速ギヤ段が成立させられる。また、前記第1クラッチC1又は第2クラッチC2と第2ブレーキB2との係合により、変速比γRが第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間の値例えば「1.951」程度であるエンジン走行用又はモータ走行用後進ギヤ段が成立させられる。なお、この後進ギヤ段は、通常、前記第1変速部16の無段変速状態において成立させられる。また、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えばブレーキB2のみが係合される。
【0051】
以上の説明及び図2から明らかなように、本実施例の変速機30では、前記第1変速部16における、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0のうちの一方の解放と他方の係合とで達成されるクラッチツウクラッチ変速による2段階の変速と、前記第2変速部20における、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第3クラッチC3、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2のうちの1つの解放と他の1つ係合とで達成するクラッチツウクラッチ変速による4段階の変速とが組み合わせられることにより、前進7段の変速が行われるようになっている。具体的には、第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間、第2速ギヤ段と第3速ギヤ段との間、第3速ギヤ段と第4速ギヤ段との間、第4速ギヤ段と第5速ギヤ段との間、第6速ギヤ段と第7速ギヤ段との間が、第1変速部16の変速と第2変速部20の変速とが並行して同じ変速期間内に実行されることにより切り換えられる。そして、第5速ギヤ段と第6速ギヤ段との間が専ら第2変速部20のクラッチツウクラッチ変速により切り換えられる。
【0052】
ここで、前記第1変速部16の変速(切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の掴み替え)と、前記第2変速部20の変速とが並行して同じ変速期間内に実行されるときには、前記第1変速部16のクラッチツウクラッチ変速によってその変速比γ0が変化すると共に、前記第2変速部20のクラッチツウクラッチ変速によって変速比γAが変化し、例えば前記第1変速部16の変速によりエンジン回転速度NEが下降させられると同時に前記第2変速部20の変速によりエンジン回転速度NEが上昇させられるというようにエンジン回転速度NEが逆方向に変化させられる作用が生じる場合がある。同様に、前記第1変速部16の無段変速状態と有段変速状態との間の切換と、前記第2変速部20の変速とが同時に実行される同時切換においては、前記第1変速部16の無段変速状態から有段変速状態状態への切り換えによってその変速比γ0が変化すると共に、前記第2変速部20のクラッチツウクラッチ変速によって変速比γAが変化し、例えば前記第1変速部16の切り換えによりエンジン回転速度NEが下降させられると同時に前記第2変速部20の変速によりエンジン回転速度NEが上昇させられるというようにエンジン回転速度NEが逆方向に変化させられる作用が生じる場合がある。なお、前記第1変速部16の無段変速状態から有段変速状態状態への切り換えによってその変速比γ0は変化するため、前記第1変速部16の無段変速状態から有段変速状態への切り換えと前記第2変速部20の変速とが同時期に行われる変速制御もまた、それら第1変速部16及び第2変速部20それぞれの変速比を同時期に変化させる変速であると言える。
【0053】
また、前記第1変速部16が無段変速状態とされるのに伴い前記変速機30が無段変速機として機能する場合には、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放されて前記第1変速部16が無段変速機として機能し、且つその第1変速部16に直列の第2変速部20が前進4段の有段変速機として機能する。これにより、その第2変速部20の前進4段から自動的にギヤ段が選択されることで変速比γAが段階的に変化するにもかかわらず全体のトータル変速比γTが連続的に変化するように、前記第2変速部20に入力される回転速度すなわち前記伝達部材18の回転速度NTRが無段的に変化させられてその変速段において無段的な変速比幅が得られる。従って、前記変速機30のトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。すなわち、前記変速機30が無段変速機として機能する場合には、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放された状態で、前記第2変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対し、その各ギヤ段の間において無段的に連続して変化するトータル変速比γTとなるように、前記第1変速部16の変速比γ0が制御させられて、前記変速機30全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
【0054】
図3は、無段変速部或いは差動部として機能する第1変速部16と有段式自動変速部として機能する第2変速部20とから構成される変速機30において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が相対回転速度「1.0」すなわち前記入力軸14に連結されたエンジン10の回転速度NEを示し、破線に示す横線XGが前記伝達部材18の回転速度を示している。
【0055】
また、前記第1変速部16を構成する動力分配機構32の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応するサンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応するキャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応するリングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それら縦線の間隔は遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、前記第2変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応する第1リングギヤR1、第5回転要素(第5要素)RE5に対応し相互に連結された第1キャリヤCA1及び第2リングギヤR2、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第2キャリヤCA2、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1サンギアS1及び第2サンギヤS2の相対回転速度をそれぞれ示すものであり、それらの間隔は前記第1遊星歯車装置26のギヤ比ρ1及び第2遊星歯車装置28のギヤ比ρ2に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされると、キャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、前記第1変速部16では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、前記第2変速部20では各遊星歯車装置26、28毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0056】
図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機30は、前記第1変速部16(動力分配機構32)において、前記遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(キャリヤCA0)が前記入力軸14すなわちエンジン10に連結されると共に切換クラッチC0を介して第2回転要素(サンギヤS0)RE2と選択的に連結されるようになっている。また、第2回転要素RE2が前記第1電動機M1に連結されると共に切換ブレーキB0を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、第3回転要素(リングギヤR0)RE3が前記伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、前記入力軸14の回転を伝達部材18を介して前記第2変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との相対関係が示される。
【0057】
例えば、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の解放により、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3を相互に相対回転可能とする無段変速状態(差動状態)とされる。例えば、第2回転要素RE2及び第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能とする無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、前記第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示されるサンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられた場合であって、直線L0と縦線Y3との交点で示される、車速Vに拘束されるリングギヤR0の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示されるキャリヤCA0の回転速度すなわちエンジン回転速度NEが上昇或いは下降させられる。また、前記切換クラッチC0の係合によりサンギヤS0とキャリヤCA0とが連結されると、前記動力分配機構32は上記3回転要素RE1、RE2、RE3が一体回転して第2回転要素RE2及び第3回転要素RE3を互いに異なる速度にて回転可能としない非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で前記伝達部材18が回転させられる。また、前記切換ブレーキB0の係合によりサンギヤS0が前記ケース12に連結されると、前記動力分配機構32は第2回転要素RE2の回転が停止させられて非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となって第1変速部16が増速機構として機能させられ、その直線L0と縦線Y3との交点で示されるリングギヤR0の回転速度すなわち前記伝達部材18の回転速度NTRは、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で前記第2変速部20へ入力される。
【0058】
また、前記第2変速部20において第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、第5回転要素RE5は第3クラッチC3を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、第6回転要素RE6は前記出力軸22に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。
【0059】
図3に示すように、前記第2変速部20においては、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2が係合させられることにより、第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、前記出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の前記出力軸22の回転速度が示される。同様に、前記切換ブレーキB0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2が係合させられることにより決まる斜めの直線L2と前記出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の前記出力軸22の回転速度が示される。また、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1が係合させられることにより決まる斜めの直線L3と前記出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の前記出力軸22の回転速度が示される。また、前記切換ブレーキB0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1が係合させられることにより決まる直線L4と前記出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の前記出力軸22の回転速度が示される。また、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第3クラッチC3が係合させられることにより決まる水平な直線L5と前記出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第5速の前記出力軸22の回転速度が示される。また、前記切換クラッチC0、第3クラッチC3、及び第1ブレーキB1が係合させられることにより決まる斜めの直線L6と前記出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第6速の前記出力軸22の回転速度が示される。また、前記切換ブレーキB0、第3クラッチC3、及び第1ブレーキB1が係合させられることにより決まる斜めの直線L7と前記出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第7速の前記出力軸22の回転速度が示される。上記第1速、第3速、第5速、第6速では、前記切換クラッチC0が係合させられる結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第4回転要素RE4、第5回転要素RE5、或いは第7回転要素RE7に前記第1変速部16すなわち動力分配機構32からの動力が入力される。一方、第2速、第4速、第7速では、前記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられる結果、第5回転要素RE5或いは第7回転要素RE7に前記第1変速部16からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力される。
【0060】
図4は、本実施例の動力伝達装置8を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この動力伝達装置8の制御装置としての電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェース等から成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記エンジン10の駆動制御、そのエンジン10、第1電動機M1、及び第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、無段変速部或いは有段変速部としての前記変速機30の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0061】
上記電子制御装置40には、各センサやスイッチ等から、エンジン水温TEMPWを表す信号、シフトポジションPSHを表す信号、前記エンジン10の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、前記出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号、前記第2変速部20の作動油温を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、アクセルペダルの操作量に対応するアクセル開度θACCを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、前記変速機30を有段変速機として機能させるために前記第1変速部16(動力分配機構32)を有段変速状態(ロック状態)に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を表す信号、前記変速機30を無段変速機として機能させるために前記第1変速部16(動力分配機構32)を無段変速状態(差動状態)に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を表す信号、前記第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)を表す信号、前記第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)を表す信号、第1電動機M1と第2電動機M2とのそれぞれに対しインバータ60を通して充放電を行う蓄電装置62(図5参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号等が、各センサ等からそれぞれ供給される。
【0062】
また、前記電子制御装置40からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置44(図5参照)への制御信号例えば前記エンジン10の吸気管50に備えられた電子スロットル弁52のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ54への駆動信号や燃料噴射装置56による上記吸気管50或いはエンジン10の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置58による前記エンジン10の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、前記第1電動機M1及び第2電動機M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、前記第1変速部16や第2変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42(図5参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、その油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0063】
図5は、前記電子制御装置40に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図5に示す切換制御手段70は、車両状態に基づいて切換用係合装置としての前記切換クラッチC0又は切換ブレーキB0の係合・解放を切り換えることにより、前記第1変速部16の差動状態と非差動状態(ロック状態)とを切り換える。換言すれば、前記変速機30の無段変速状態と有段変速状態とを切り換え、それらの状態を選択的に成立させる制御を行う。例えば、記憶部68に予め記憶された図6に示すような関係から、要求出力軸トルクTout及び車速Vにより示される車両状態が、例えばその図6に示される無段領域内であるが有段領域内であるか基づいて、前記変速機30を無段変速状態とする(第1変速部16を差動状態とする)無段領域内であるか或いは有段変速状態とする(第1変速部16を非差動状態とする)有段領域内であるかを判定し、前記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0の係合とそれら切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の解放とを切り換えることにより、その変速機30を前記無段変速状態と前記有段変速状態との何れかに選択的に切り換える。
【0064】
すなわち、上記切換制御手段70は、要求出力軸トルクTout及び車速Vにより示される車両状態が図6の有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段72に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力すると共に、有段変速制御手段74に対して予め設定された有段変速時の変速を許可し、その有段変速制御手段74の変速判断に従って前記切換クラッチC0又は切換ブレーキB0を係合させる。このとき、上記有段変速制御手段74は、後述するように、上記記憶部68に予め記憶された例えば図6に示すような変速線図に従って前記第1変速部16及び第2変速部20の前進7速の自動変速制御を実行する。前述した図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、C3、B0、B1、B2の作動の組み合わせを示している。このようにして、前記変速機30全体すなわち第1変速部16及び第2変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
【0065】
また、前記切換制御手段70は、要求出力軸トルクTout及び車速Vにより示される車両状態が図6の無段変速制御領域内であると判定した場合は、前記変速機30全体として無段変速状態が得られるようにするために前記第1変速部16を無段変速状態として無段変速可能とするように前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を解放させる指令を前記油圧制御回路42へ出力する。同時に、上記ハイブリッド制御手段72に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力すると共に、上記有段変速制御手段74には予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは前記記憶部68に予め記憶された例えば図6に示すような変速線図に従って自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、上記有段変速制御手段74により、図2の係合表内において前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の係合を除いた前記第2変速部20における前進4速の変速段、すなわち第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により達成される第1のギヤ段(変速比γA=3.683)、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により達成される第2のギヤ段(変速比γA=1.909)、第1クラッチC1及び第3クラッチC3の係合により達成される第3のギヤ段(変速比γA=1.000)、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1の係合により達成される第4のギヤ段(変速比γA=0.661)の何れかが選択的に成立させられる。このように、前記切換制御手段70により無段変速状態に切り換えられた前記第1変速部16が無段変速機として機能し、それに直列の前記第2変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、前記第2変速部20の第1、第2、第3、第4のギヤ段に対しその第2変速部20に入力される回転速度すなわち前記伝達部材18の回転速度NTRが無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって前記変速機30全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0066】
図5に示すハイブリッド制御手段72は、前記エンジン10、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御を実行する。このハイブリッド制御手段72は、例えば無段変速モードが選択された場合は無段変速制御手段として機能するものであり、前記変速機30の無段変速状態すなわち前記第1変速部16の差動状態において前記エンジン10を効率のよい作動域で作動させる一方、そのエンジン10と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させ、前記第1変速部16の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御し、前記変速機30のトータル変速比γTを無段階に制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度θACCや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにトータル変速比γT及び前記エンジン10の出力を制御すると共に前記第1電動機M1の発電量を制御する。
【0067】
上記ハイブリッド制御手段72は、その制御を動力性能や燃費向上等のために、前記無段変速制御中において前記第2変速部20の変速段を考慮する。このようなハイブリッド制御では、前記エンジン10を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速V及び第2変速部20の変速段で定まる前記伝達部材18の回転速度NTRとを整合させるために、前記第1変速部16が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、上記ハイブリッド制御手段72は、例えばエンジン回転速度NEと前記エンジン10の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて前記記憶部68に記憶された図示しないエンジン10の最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿ってそのエンジン10が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、前記変速機30のトータル変速比γTの目標値を定める。そして、その目標値が得られるように前記変速機30の変速段を考慮して前記第1変速部16の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。このとき、上記ハイブリッド制御手段72は、前記第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ60を通して蓄電装置62や第2電動機M2へ供給するので、前記エンジン10の動力の主要部は機械的に前記伝達部材18へ伝達されるが、そのエンジン10の動力の一部は前記第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、上記インバータ60を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて前記伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から前記第2電動機M2で消費されるまでに関連する構成により、前記エンジン10の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが成立させられる。
【0068】
また、前記ハイブリッド制御手段72は、前記エンジン出力制御装置44を介して、スロットル制御のために前記スロットルアクチュエータ54により電子スロットル弁52を開閉制御させる。また、燃料噴射制御のために前記燃料噴射装置56による燃料噴射量や噴射時期を制御させる。また、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置58による点火時期を制御させる。そのような指令を、前記エンジン出力制御装置44により単独で或いは複合的に出力させることで、必要なエンジン出力を発生するように前記エンジン10の出力制御を実行する。なお、前記エンジン出力制御装置44は、前記ハイブリッド制御手段72による指令に従って、スロットル制御のために前記スロットルアクチュエータ54により電子スロットル弁52を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置56による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置58による点火時期を制御する等してエンジントルク制御を実行する。
【0069】
また、前記ハイブリッド制御手段72は、前記エンジン10の停止又はアイドル状態にかかわらず、前記第1変速部16の電気的CVT機能(差動作用)によって車両をモータ走行させることができる。図6の実線Eは、車両の発進・走行用(以下、走行用という)の駆動力源を前記エンジン10と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、換言すればそのエンジン10を走行用の駆動力源として車両を発進・走行(以下、「走行」という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図6の境界線(実線E)に示される関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同様に図6中の実線及び一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に前記記憶部68に予め記憶されている。前記ハイブリッド制御手段72は、例えば図6の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、前記ハイブリッド制御手段72によるモータ走行は、図6から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して低いとされる比較的低出力トルク域すなわち低エンジントルク域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。従って、通常はモータ発進がエンジン発進に優先して実行されるが、例えば車両発進時に図6の駆動力源切換線図のモータ走行領域を超える要求出力トルクTOUTすなわち要求エンジントルクTEとされる程大きくアクセルペダルが踏込操作されるような車両状態によってはエンジン発進も通常実行されるものである。
【0070】
前記ハイブリッド制御手段72は、上記のモータ走行時には、停止している前記エンジン10の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、前記第1変速部16の電気的CVT機能(差動作用)によって、前記第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部としての前記第1変速部16の差動作用により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持することも可能である。
【0071】
また、前記ハイブリッド制御手段72は、エンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる前記第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置62からの電気エネルギを前記第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して前記駆動輪38にトルクを付与することにより、前記エンジン10の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。従って、本実施例のエンジン走行には、エンジン走行+モータ走行も含むものとする。
【0072】
また、前記ハイブリッド制御手段72は、車両の停止中又は走行中にかかわらず、前記第1変速部16の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1及び/又は第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御することができる。例えば、図3の共線図からもわかるように、前記ハイブリッド制御手段72は、車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、前記駆動輪38の車輪速に対応する車速Vに拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。
【0073】
図5に示す有段変速制御手段74は、前記第1変速部16及び第2変速部20から成る変速機30の自動変速制御を実行する。例えば、前記記憶部68に予め記憶された図6のような実線及び一点鎖線に示す変速線図(関係、変速マップ)から車速V及び第2変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて前記変速機30の変速を実行すべきか否かを判断し、その判断した変速段が得られるようにその変速機30の自動変速制御を実行する。このとき、上記有段変速制御手段74は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を含む変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を直接的或いは間接的に前記油圧制御回路42へ出力する。その油圧制御回路42では、上記電子制御装置40からの指令に従って、例えば変速に関与する解放側の油圧式摩擦係合装置を解放させると共に、変速に関与する係合側の油圧式摩擦係合装置を係合させて前記変速機30の変速が実行されるように、その油圧制御回路42内に備えられた電磁弁が作動させられてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータが作動させされる。
【0074】
図6は、前記変速機30の変速判断に用いられる、前記記憶部68に予め記憶された変速線図(関係、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。この図6の実線はアップシフト線であり、一点鎖線はダウンシフト線である。また、破線は前記切換制御手段70により無段制御領域から有段制御領域への切換判定のための判定車速V1及び判定出力トルクTOUT1を示している。すなわち、図6の破線はハイブリッド車両の高速走行域を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の要求駆動力に関連する駆動力関連値例えば前記第2変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行域、高トルク走行域を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクTOUT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図6の破線に対して2点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。すなわち、この図6は判定車速V1及び判定出力トルクTOUT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして前記切換制御手段70により有段制御領域と無段制御領域との何れであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。この切換線図は判定車速V1及び判定出力トルクTOUT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速V及び出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
【0075】
ここで、上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクTOUT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。例えば、この場合には、前記切換制御手段70は、車両状態例えば実際の車速Vが判定車速V1を越えたか否かを判定し、判定車速V1を越えたときには前記切換クラッチC0又は切換ブレーキB0を係合して前記変速機30を有段変速状態とする。また、前記切換制御手段70は、車両状態例えば前記第2変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクTOUT1を越えたか否かを判定し、判定出力トルクTOUT1を越えたときには前記切換クラッチC0又は切換ブレーキB0を係合させて前記変速機30を有段変速状態とする。
【0076】
前述のように、図6の縦軸は出力軸トルクToutを示すものであったが、その縦軸は要求駆動力関連値に対応するものであればよい。要求駆動力関連値とは、車両の要求駆動力に1対1に対応するパラメータであって、前記駆動輪38での要求駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば前記第2変速部20の要求出力トルクTOUT、要求エンジントルクTE、要求車両加速度Gや、例えばアクセル開度θACC或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTE等の値である。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、前記駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。また、前記判定車速V1は、例えば高速走行において前記変速機30が無段変速状態とされると却って燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において前記変速機30が有段変速状態とされるように設定されている。また、前記判定トルクTOUT1は、例えば車両の高出力走行において前記第1電動機M1の反力トルクを前記エンジン10の高出力域まで対応させないでその第1電動機M1を小型化するために、その第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされたその第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
【0077】
図6の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクTOUT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているため、有段変速走行が前記エンジン10の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行される一方、無段変速走行が前記エンジン10の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわち前記エンジン10の常用出力域において実行されるようになっている。従って、例えば車両の低中速走行及び低中出力走行では、前記変速機30が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、前記第2変速部20が4段の変速段として機能するため、前記第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ(第1電動機M1が伝える電気的エネルギ)の最大値を小さくでき、前記第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。一方、車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行や、出力トルクTOUTが判定トルクTOUT1を越えるような高出力走行では、前記変速機30が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ、専ら機械的な動力伝達経路で前記エンジン10の出力が前記駆動輪38へ伝達されるため、電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。
【0078】
図7は、複数種類のシフトポジションを人為的操作により切り換えるためのシフト切換装置46の一例を示す図である。このシフト切換装置46は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー48を備えている。このシフトレバー48は、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の何れの係合装置も係合されないような前記変速機30(第2変速部20)内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つその第2変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、前記変速機30内の動力伝達経路が遮断された中立状態とする中立ポジション「N(ニュートラル)」、前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。例えば、上記シフトレバー48の操作により「D」ポジションが選択された場合には、図6に示す予め記憶された変速マップや切換マップに基づいて前記切換制御手段70により前記変速機30の変速状態の自動切換制御が実行され、前記ハイブリッド制御手段72により前記第1変速部16の無段変速制御が実行されると共に、前記有段変速制御手段74により前記変速機30の自動変速制御が実行される。この「D」ポジションは前記変速機30の自動変速制御が実行される制御様式である自動変速走行モード(自動モード)を選択するシフトポジションでもある。また、上記シフトレバー48の操作により「M」ポジションが選択され、前記変速機30が有段変速状態に切り換えられた有段変速走行時には、指定された上限ギヤ段の範囲のレンジ内で前記変速機30が有段で自動変速制御され、或いは指定されたギヤ段が得られるように自動変速制御される。この「M」ポジションは前記変速機30の手動変速制御が実行される制御様式である手動変速走行モード(手動モード)を選択するシフトポジションでもある。
【0079】
ここで、本実施例の変速機30においては、図2に示すようにクロスレシオ且つ広い変速比幅を目的として前進7段に制御されるようになっていることから、その変速機30のトータル変速比γTを段階的に変化させる有段変速制御においては、前述のように前記第1変速部16の変速(切換クラッチC0と切換ブレーキB0との掴み替え)と、前記第2変速部20の変速とが同時期に並行して実行される場合がある。前述したように、斯かる前記第1変速部16の変速と、前記第2変速部20の変速とが同時に実行される場合においては、前記第1変速部16のクラッチツウクラッチ変速によってその変速比γ0が変化すると共に、前記第2変速部20のクラッチツウクラッチ変速によって変速比γAが変化し、それら第1変速部16及び第2変速部20の変速比γ0、γAの変化方向が互いに反対方向となる場合が考えられる。換言すれば、前記第1変速部16及び第2変速部20の変速が同時期に行われるに際して、前記第1変速部16の変速によりエンジン回転速度NEが下降させられると同時に前記第2変速部20の変速によりエンジン回転速度NEが上昇させられるというようにエンジン回転速度NEが逆方向に変化させられる場合がある。例えば、図2に示す第2変速段「2nd」から第3変速段「3rd」への変速では、前記第1変速部16はその変速比γ0が大きくなる方向に変化する一方、前記第2変速部20はその変速比γAが小さくなる方向に変化するというように、前記第1変速部16の変速による変速比変化方向と前記第2変速部20の変速による変速比変化方向とが異なる。このように、第1変速部16及び第2変速部20の変速比γ0,γAを互いに反対方向に変化させる変速がそれら両変速部16,20で同時期に実行される同時対向変速が行われる場合には、わずかなタイミングのずれによりエンジン回転速度NEが上下し、それが変速ショックとして搭乗者に違和感を与えるおそれがある。なお、本実施例では、変速機30において図2に示す第2変速段「2nd」と第3変速段「3rd」との間の変速、及び、第4変速段「4th」と第5変速段「5th」との間の変速が同時対向変速に相当する。
【0080】
上述した変速ショックの発生を抑制するために、前記電子制御装置40に備えられたハイブリッド制御手段72は、前記有段変速制御手段74によって行われる第1変速部16及び第2変速部20の上記同時対向変速に際して、油圧式摩擦係合装置すなわち前記ブレーキB、クラッチCによる前記第1変速部16及び第2変速部20の特性制御(変速制御)が好適に維持されるように、1又は2以上の電動機Mを介して、具体的には第1電動機M1及び/又は第2電動機M2を介して、補足的な制御を行う。従って、ハイブリッド制御手段72は、上記同時対向変速が行われる場合に、1又は2以上の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)を第1変速部16及び第2変速部20の変速をするための油圧制御に対し補足的に作動させ、それにより両変速部16,20のうち少なくとも何れかの変速タイミングを制御するので、その制御を行う同時対向変速制御手段としての機能を有する。上記変速タイミングとは、変速の進行度合を示す変速の進行に対応した時点の相対的な関係及び/又は時間差をいい、例えば、上記同時対向変速での変速タイミングとは、その同時対向変速の実行開始時から第1変速部16又は第2変速部20のイナーシャ相の開始時までの経過時間(時間差)、第1変速部16のイナーシャ相の開始時と第2変速部20のイナーシャ相の開始時との間の時間差やそれらの相対的な前後関係、および、第1変速部16のイナーシャ相の終了時と第2変速部20のイナーシャ相の終了時との間の時間差やそれらの相対的な前後関係などである。要するに、それらを総称したものが上記同時対向変速での変速タイミングである。そして、上記同時対向変速の変速タイミングは、本実施例では、エンジン回転速度NEの変化から検出されるが、第1電動機回転速度NM1や第2電動機回転速度NM2などの変化から検出されてもよく、或いは、クラッチCまたはブレーキBの油圧変化から検出されてもよい。
【0081】
斯かる制御を行うため、図5に示すように、前記有段変速制御手段74は、変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78を含んでいる。この変速時期判定手段76は、前記有段変速制御手段74により変速が判定された場合、その変速が第1変速部16及び第2変速部20で同時期に実行される変速すなわち第1変速部16及び第2変速部20それぞれの変速比γ0、γAを同時期に変化させる変速であるか否かを判定する。すなわち、例えば図6に示す関係から車速V及び要求出力トルクToutに示される車両状態に基づいて、判定された変速が上記両変速部16,20で同時期に実行される変速に相当するものであるか否かを判定し、両変速部16,20で同時期に実行される変速に相当するものであればその判定を肯定する。また、第1変速部16の無段変速状態と有段変速状態との間の切換は、それによって第1変速部16の変速比γ0が変化し一種の変速と言えるので、その第1変速部16の無段変速状態と有段変速状態状態との間の切換と、第2変速部20の変速とが同時期に実行される場合には、変速時期判定手段76の判定は肯定される。
【0082】
また、上記変速比変化方向判定手段78は、前記有段変速制御手段74により変速が判定された場合、その変速が第1変速部16及び第2変速部20の変速比γ0、γAの変化方向を互いに反対方向に変化させる変速であるか否かを判定する。すなわち、例えば図6に示す関係から車速V及び要求出力トルクToutに示される車両状態に基づいて、判定された変速が上記変速比γ0、γAの変化方向が互いに反対方向となる変速に相当するものであるか否かを判定し、上記変速比γ0、γAの変化方向が互いに反対方向となる変速に相当するものであればその判定を肯定する。また、変速比変化方向判定手段78は、第1変速部16でクラッチツウクラッチ変速ではなく無段変速状態と有段変速状態状態との間の切換が行われる場合にも、その判定を行う。従って、第1変速部16の無段変速状態と有段変速状態状態との間の切換と、第2変速部20の変速とが同時期に実行されることによって、その第1変速部16の切換による変速比γ0の変化方向と第2変速部20の変速による変速比γAの変化方向とが互いに反対方向となる場合には、変速比変化方向判定手段78の判定は肯定される。
【0083】
上記変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78の判定が何れも肯定される場合、すなわち、第1変速部16及び第2変速部20の変速が同時期に行われ、且つ、それら第1変速部16及び第2変速部20の変速比γ0、γAの変化方向が互いに反対方向である場合とは、前記同時対向変速が行われる場合である。その同時対向変速が行われる場合には、ハイブリッド制御手段(同時対向変速制御手段)72は、1又は2以上の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)により第1変速部16及び第2変速部20のうち少なくとも何れかのイナーシャ相の開始時期を制御する。具体的には、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2により、第1変速部16及び第2変速部20のうち一方の変速部である第2変速部20のイナーシャ相の開始時期を他方の変速部である第1変速部16のイナーシャ相の開始時期より早くする制御を実行する。より具体的に言えば、第2変速部20のイナーシャ相の開始時期が第1変速部16のイナーシャ相の開始時期より早くなるように、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によって第1変速部16のイナーシャ相の開始を制限する制御、換言すれば、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によって上記他方の変速部である第1変速部16の変速のイナーシャ相の開始を抑止して遅延させる制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段72は、前記同時対向変速が行われる場合に、少なくとも第1変速部16のイナーシャ相の開始を第2変速部20の変速のイナーシャ相の開始タイミングより遅らせる制御を実行する。
【0084】
また、ハイブリッド制御手段72は、好適には、前記同時対向変速が行われる場合、すなわち、前記変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78の判定が何れも肯定される場合には、1又は2以上の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)により第1変速部16及び第2変速部20のうち少なくとも何れかのイナーシャ相の終了時期を制御する。具体的には、前記一方の変速部である第2変速部20のイナーシャ相の終了時期を前記他方の変速部である第1変速部16のイナーシャ相の終了時期より遅くする制御を実行する。より具体的に言えば、第1変速部16の変速の実行中において、第2変速部20のイナーシャ相の終了時期が第1変速部16のイナーシャ相の終了時期より遅くなるように、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によって第2変速部20の変速のイナーシャ相の終了を制限する制御、換言すれば、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によって上記一方の変速部である第2変速部20の変速のイナーシャ相の終了を抑止して遅延させる制御を実行する。すなわち、ハイブリッド制御手段72は、前記同時対向変速が行われる場合に、第2変速部20のイナーシャ相の終了を第1変速部16の変速のイナーシャ相の終了タイミングより遅らせる制御を実行する。
【0085】
また、ハイブリッド制御手段72は、好適には、前記同時対向変速が行われる場合、すなわち、前記変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78の判定が何れも肯定される場合には、第2変速部20の変速のイナーシャ相開始から終了までの間に、第1変速部16の変速のイナーシャ相開始から終了までが行われるように制御する。すなわち、第2変速部20の変速のイナーシャ相の開始時期を第1変速部16の変速のイナーシャ相の開始時期よりも早めるように、或いは第1変速部16の変速のイナーシャ相開始時期が第2変速部20の変速のイナーシャ相開始時期よりも遅くなるように遅延させる制御を行うと共に、第1変速部16の変速のイナーシャ相の終了時期を第2変速部20の変速のイナーシャ相の終了時期よりも早めるように、或いは第2変速部20の変速のイナーシャ相終了時期が第1変速部16の変速のイナーシャ相終了時期よりも遅くなるように遅延させる制御を行う。斯かる制御により、第1変速部16の一連の変速動作が第2変速部20の変速動作に入れ込まれる。
【0086】
また、ハイブリッド制御手段72は、好適には、前記同時対向変速が行われる場合、すなわち、変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78の判定が何れも肯定される場合には、第2変速部20の変速のイナーシャ相開始から終了までの間に、第1変速部16の無段変速状態と有段変速状態との切換を実行する。すなわち、第2変速部20の変速のイナーシャ相の開始時期を前記第1変速部16の実質的な切換開始時期よりも早めるように、或いは第1変速部16の実質的な切換開始時期が第2変速部20の変速のイナーシャ相開始時期よりも遅くなるように遅延させる制御を行うと共に、前記第1変速部16の実質的な切換終了時期を前記第2変速部20の変速のイナーシャ相の終了時期よりも早めるように、或いは前記第2変速部20の変速のイナーシャ相終了時期が前記第1変速部16の実質的な切換終了時期よりも遅くなるように遅延させる制御を行う。
【0087】
ここで、第1電動機M1は、第1変速部16の変速に伴い回転速度が変化するその第1変速部16の第2回転要素RE2(サンギヤS0)に連結されたものであり、ハイブリッド制御手段72は、第1電動機M1を介して第2回転要素RE2の回転を制御することで第1変速部16の変速のイナーシャ相を制御する。また、第2電動機M2は、第2変速部20の変速に伴い回転速度が変化するその第2変速部20の第3回転要素RE3(伝達部材18)に連結されたものであり、ハイブリッド制御手段72は、第2電動機M2を介して第3回転要素RE3の回転を制御することで第2変速部20の変速のイナーシャ相を制御する。
【0088】
また、好適には、前記変速中の第1電動機M1による過渡制御は、第2変速部20の入力回転速度(伝達部材18の回転速度NTR)に基づくフィードバック制御により行われる。また、学習制御を適用し、先回の変速の進行状況から各アクチュエータ、とりわけ解放側乃至は係合側アクチュエータ(ブレーキB、クラッチC)の油圧を制御するものであってもよい。
【0089】
また、ハイブリッド制御手段72は、好適には、前記同時対向変速が行われる場合、すなわち、前記変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78の判定が何れも肯定される場合には、その同時対向変速の実行中において、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によりエンジン10の回転速度NEの変化方向が常に同一方向となるように、言い換えれば、エンジン回転速度NEの変化方向が反転しないように、エンジン10の回転速度変化を制御する。図3を用いて前述したように、第1電動機M1は、前記第2回転要素RE2の回転を制御することで、前記エンジン10の回転速度NEを制御し得るように設けられており、ハイブリッド制御手段72は、好適には、第1電動機M1により前記第2回転要素RE2の回転制御を介してエンジン10の回転速度変化を制御する。すなわち、後述する図11のタイムチャートに示すように、第1変速部16及び第2変速部20の同時対向変速に際して、エンジン10の回転速度NEの変化がその変速を通し一貫して正(ダウンシフトの場合)又は負(アップシフトの場合)となるように第1電動機M1によりエンジン10の回転速度NEを制御する。換言すれば、第1変速部16及び第2変速部20の同時対向変速に際して、エンジン10の回転速度NEがその変速を通して単調増加(ダウンシフトの場合)又は単調減少(アップシフトの場合)となるように第1電動機M1によりエンジン10の回転速度NEを制御する。また、エンジン回転速度NEは第2変速部20の入力回転速度(伝達部材18の回転速度NTR)と第1電動機回転速度NM1との相対関係から決まるので、好適には、上記同時対向変速の実行中において、ハイブリッド制御手段72は、第2変速部20の入力回転速度の変化に応じて第1電動機回転速度NM1を制御する。
【0090】
また、好適には、前記同時対向変速が行われる場合、すなわち、前記変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78の判定が何れも肯定される場合に、ハイブリッド制御手段72は、その同時対向変速の実行中において、第1変速部16及び第2変速部20のうち少なくとも何れかの変速に伴うエンジン回転速度NEの変化相中に、つまり、その変速に伴いエンジン回転速度NEが変化する期間内に、エンジン10の出力トルクTEを所定値に低下させるトルクダウン制御を実行する。
【0091】
上述したように、変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78の判定に基づき、ハイブリッド制御手段(同時対向変速制御手段)72は、前記同時対向変速が行われる場合には、第1変速部16及び第2変速部20のうち少なくとも何れかの変速タイミングを第1電動機M1及び/又は第2電動機M2により制御するが、その同時対向変速において本来的には、第1変速部16及び第2変速部20は共に、電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)による制御に依存せず油圧制御により、予定された変速タイミングで変速されるべきであるので、その電動機Mによる変速タイミングの制御への依存を小さくすることが図られる。以下、その制御機能の要部について説明する。
【0092】
図5の電動機制御判断手段82は、上記同時対向変速が行われた場合、詳細には、その同時対向変速が開始された場合に、その同時対向変速中の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)の制御量が予め定められた制御量制限値Lm以上であったか否かを判断する。上記電動機Mの制御量としては、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2の出力トルクや回転速度や制御電流値や、更には第1電動機M1及び/又は第2電動機M2のインバータ60を介した蓄電装置62に対する充放電電力などを例示でき、電動機制御判断手段82により判断される電動機Mの制御量には特に限定はないが、本実施例では、具体的に、その電動機制御判断手段82は、上記同時対向変速が開始された場合に、第1電動機M1及び第2電動機M2の蓄電装置62に対する充放電電力の合計の絶対値であるトータル電動機電力Wm_totalが上記制御量制限値Lm以上であったか否かを判断する。ここで、上記電動機Mの制御量についての上記制御量制限値Lmは、その制御量がそれ以上であれば、前記同時対向変速において制御負荷軽減のために電動機Mによる前記変速タイミングの制御への依存を低下させた方がよいと判断される実験的に設定された制限値である。また、電動機制御判断手段82の判断対象である上記電動機Mの制御量が具体的にどのようなものかにより、その制御量制限値Lmの具体的な値が定まる。
【0093】
また、電動機Mの駆動に関連する電気部品の耐久性の低下防止を図ることを考慮して、電動機制御判断手段82にその判断をさせてもよい。そのようにする場合には、前記制御量制限値Lmは、蓄電装置62の許容される充放電電力として予め定められた充放電電力制限値WIN/OUTとされる。すなわち、電動機制御判断手段82は、前記同時対向変速が開始された場合に、その同時対向変速中の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)の制御量である前記トータル電動機電力Wm_totalが、上記充放電電力制限値WIN/OUT以上であったか否かを判断する。なお、蓄電装置62は第1電動機M1,第2電動機M2以外の車両の電気機器にも電力供給するのでその分を考慮して、上記制御量制限値Lmは、上記蓄電装置62の許容される充放電電力に基づき、その許容される充放電電力よりも所定量小さい制限値とされてもよい。また、上記とは別の考え方として、上記充放電電力制限値WIN/OUTを、蓄電装置62の許容される充電電力及び放電電力の一方を上限値とし他方を下限値とした許容電力範囲に置き換えることが可能である。そのように置き換えたとすれば、電動機制御判断手段82は、前記同時対向変速が開始された場合に、その同時対向変速中における第1電動機M1及び第2電動機M2の蓄電装置62に対する充放電電力の合計が、上記蓄電装置62の許容電力範囲から外れたか否かを判断する。
【0094】
油圧制御値変更手段84は、前記同時対向変速が行われたときの1又は2以上の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)の制御量に基づき、その制御量が減少するように、第1変速部16及び/又は第2変速部20の変速をするための油圧制御値CTRを学習により変更する。望ましくは、変速ショックを大きくしない範囲内で上記制御量が減少するように、上記油圧制御値CTRを学習により変更する。また、油圧制御値変更手段84は上記電動機制御判断手段82の判断に基づくことは必須ではないが、望ましくは、油圧制御値変更手段84は、前記同時対向変速中の電動機Mの制御量が前記制御量制限値Lm以上であったと電動機制御判断手段82により判断された場合に、上記油圧制御値CTRを学習により変更する。そして、その油圧制御値CTRが変更された場合にはその変更後の油圧制御値CTRに従って、切換制御手段70及び有段変速制御手段74はそれぞれ第1変速部16及び第2変速部20の変速制御を実行する。上記油圧制御値CTRは上記同時対向変速の実行中に油圧制御値変更手段84によって変更されることもあり得るが、望ましくは、その変更時に既に開始されている同時対向変速にではなく新たに開始される次回以降の同時対向変速に、上記変更後の油圧制御値CTRは適用される。
【0095】
上記油圧制御値CTRとは、各変速部16,20の変速を達成するために作動する油圧アクチュエータの油圧と変速中の経過時間との関係を決定するためのパラメータ(変数)、具体的には、各変速部16,20の変速中に係合または解放される油圧式摩擦係合装置(ブレーキB、クラッチC)の油圧と変速中の経過時間との関係を決定するためのパラメータ(変数)であり、目標とされる所定の変速状態を達成できるように変速回数の増加に従って学習により変更される学習値である。これを、第2変速部20の変速での係合側のブレーキB又はクラッチCに対する油圧指令値のタイムチャートを例示した図8により説明すれば、上記油圧制御値CTRとは、例えば、図8における低圧待機圧を決定する指令値PSB、その低圧待機圧を保持する指令時間TL、係合完了に向けて係合圧を上昇させるときの指令値の上昇勾配XS、クイックアプライ指令時間TQA、クイックアプライ圧を決定する指令値PQAなどである。
【0096】
上述したように電動機制御判断手段82の判断に基づき、油圧制御値変更手段84は、前記同時対向変速中の前記トータル電動機電力Wm_totalが前記充放電電力制限値WIN/OUT以上であったと電動機制御判断手段82により判断された場合に、前記油圧制御値CTRを学習により変更してもよく、図9は、そのようにして油圧制御値CTRが変更された場合のその油圧制御値CTRと上記電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)の制御量である上記トータル電動機電力Wm_totalとの関係を概念的に表した図である。この図9には、上記トータル電動機電力Wm_totalが上記充放電電力制限値WIN/OUT以上となる領域で上記油圧制御値CTRは変更され、上記トータル電動機電力Wm_totalが大きいほど油圧制御値CTRは大きく変更されることが示されている。例えば、図2の「2nd」から「3rd」への同時対向変速において、第2変速部20の変速のイナーシャ相が第2電動機M2により強制的に開始された場合には、そのときの第2電動機M2の制御量に応じて、次回以降の「2nd」から「3rd」への同時対向変速における第2変速部20の変速のイナーシャ相開始を油圧制御により現状よりも早めるため、係合側係合要素である第1ブレーキB1の係合油圧がより早く上昇するように上記油圧制御値CTRが変更される。
【0097】
次に、図10乃至図12を用いて電子制御装置40の制御作動の要部について説明するが、まず図10と図11とを用いて、前記同時対向変速において行われる第1電動機M1及び/又は第2電動機M2による変速タイミングの制御に関し説明した上で、図12を用いて、第1変速部16及び/又は第2変速部20の変速をするための油圧制御値CTRが学習により変更される制御作動に関して説明する。
【0098】
図10は、電子制御装置40の制御作動の要部、すなわち、第1変速部16及び第2変速部20の上記同時対向変速において第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によって変速タイミングを制御する変速制御作動を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。また、図11は、図10に示す制御作動に対応した各部の作動を示すタイムチャートであり、以下、図10の制御とあわせて説明する。なお、図12の説明で後述するが、例えば、図10のフローチャートは図12のS102にて実行される。
【0099】
先ず、変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78の動作に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)S1において、第1変速部16及び第2変速部20の変速を同時期に行い、且つ、それら第1変速部16及び第2変速部20の変速比γ0、γAの変化方向が互いに反対方向である同時対向変速が発生したか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2以下の処理が実行される。図11の時点t1は、このS1が肯定されて、同時対向変速が判定された状態を示している。ここで、S2以下の制御については、変速機30において図2に示す第2変速段「2nd」から第3変速段「3rd」への変速が実行される場合について説明する。
【0100】
S2においては、変速機30の変速が開始される。すなわち、第2変速部20において、第2ブレーキB2を解放させるための油圧の低下制御が開始されると共に、第1ブレーキB1を係合させるための油圧の立ち上げ制御が開始される。また、変速の応答性を考慮し、第1変速部16において、切換クラッチC0を係合させるための油圧の立ち上げ制御が開始される。図11の時点t2は、このS2の状態を示している。
【0101】
次に、S3では、第1変速部16において、切換ブレーキB0に対応する油圧を所定の第1油圧まで低下させる制御が行われる。この第1油圧は、前記切換ブレーキB0が滑らないように予め定められたものである。また、ここでは、第1変速部16の変速のイナーシャ相が開始しないように、その第1変速部16のサンギヤS0の回転速度が0となるように第1電動機M1を介して制御される。
【0102】
次に、S4において、前記第2変速部20の変速によりその入力軸回転速度(伝達部材18の回転速度NTR)に変化が生じたか否かが判断される。すなわち、第2変速部20の変速のイナーシャ相が開始したか否かが判断される。図11の時点t3は、このS4が肯定された状態を示している。このS4の判断が否定される場合であって、所定時間内にS4の判断が肯定されない場合には、S5において、第2変速部20の第3回転要素RE3の回転が前記第2電動機M2により制御される(第2変速部20の入力回転速度を低下させる)ことで、その第2変速部20の変速のイナーシャ相が強制開始された後、S6以下の処理が実行されるが、S4の判断が肯定される場合には、それをもってS6以下の処理が実行される。なお、図11に示す時点t4から時点t7まで、エンジン10の出力トルクTEを所定値に低下させるエンジントルクダウン制御(前記トルクダウン制御)が実行される。
【0103】
S6においては、切換ブレーキB0に対応する油圧を更に低下させる制御が行われると共に、切換ブレーキC0に対応する油圧を上昇させる制御が行われる。これにより、第1変速部16の実質的な変速が開始される。そして、S7において、前記第1変速部16の変速のイナーシャ相の開始が許可される。換言すれば、その第1変速部16の変速のイナーシャ相の開始制限が解除される。
【0104】
次に、S8において、第1変速部16のイナーシャ相が開始したか否かが判断される。このS8の判断が否定される場合であって、所定時間内にS8の判断が肯定されない場合には、S9において、第1変速部16の第2回転要素RE2の回転が第1電動機M1により制御される(第1電動機回転速度NM1を上昇させる)ことで、その第1変速部16の変速のイナーシャ相が強制開始された後、S10以下の処理が実行されるが、S8の判断が肯定される場合には、それをもってS10以下の処理が実行される。図11の時点t5は、このS9において前記第1変速部16のイナーシャ相が強制開始させられた状態を示している。
【0105】
S10においては、第1変速部16の変速のイナーシャ相が終了したか否かが判断される。このS10の判断が肯定される場合には、S11において、第2変速部20の変速のイナーシャ相の終了が許可される。換言すれば、その第2変速部20の変速のイナーシャ相の終了制限が解除された後、本ルーチンが終了させられる。図11の時点t7は、このS11において第2変速部20の変速のイナーシャ相が終了して、変速機30全体としての変速が終了した状態を示している。
【0106】
S10の判断が否定される場合には、S12において、第1変速部16の第2回転要素RE2の回転が第1電動機M1により制御される(第1電動機回転速度NM1を上昇させる)ことで、その第1変速部16の変速のイナーシャ相の強制終了が開始される。図11の時点t6は、S12において第1変速部16のイナーシャ相が強制終了させられた状態を示している。次に、S13において、第2変速部20の変速のイナーシャ相が終了しないように、換言すれば、そのイナーシャ相の終了が遅延させられるように、第2電動機M2を介して第3回転要素RE3の回転が制御された後、S10以下の処理が再び実行される。また、好適には、このS13において、第1ブレーキB1の係合圧の立ち上がりが遅延させられる。
【0107】
図11に示すタイムチャートにおいて時点t3から時点t7までのエンジン回転速度NEに着目すると、そのエンジン回転速度NEの変化勾配は変動しているものの、エンジン回転速度NEの変化方向は常に減少方向であるので、ハイブリッド制御手段72が、前記同時対向変速の実行中において、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によりエンジン10の回転速度NEの変化方向が常に同一方向となるようにエンジン10の回転速度変化を制御していたことが判る。詳細には、ハイブリッド制御手段72が、その同時対向変速における第1変速部16又は第2変速部20のイナーシャ相内において、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によりエンジン10の回転速度NEの変化方向が常に同一方向となるように、言い換えれば、エンジン回転速度NEの変化方向が反転しないように、エンジン10の回転速度変化を制御していたことが判る。
【0108】
以上の制御において、S3乃至S5、S7乃至S13がハイブリッド制御手段72の動作に対応する。そして、S2、S3、及びS6が有段変速制御手段74の動作に対応する。
【0109】
図12は、電子制御装置40の制御作動の要部、すなわち、前記同時対向変速の実行に際して、電動機Mの制御量に基づき変速の油圧制御値CTRが学習により変更される制御作動を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0110】
先ず、変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78の動作に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)S101において、前述の図10のS1と同様に、前記同時対向変速が発生したか否かが判断される。このS101の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S101の判断が肯定される場合には、S102以下の処理が実行される。
【0111】
S102においては、電動機Mによる上記同時対向変速の変速タイミングの制御(タイミング制御)が実施される。要するに、前述した図10のフローチャートの制御作動が実行される。
【0112】
次に、電動機制御判断手段82の動作に対応するS103においては、上記同時対向変速中の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)の制御量が前記制御量制限値Lm以上であったか否かが判断される。例えば、その同時対向変速中の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)の制御量である前記トータル電動機電力Wm_totalが前記充放電電力制限値WIN/OUT以上であったか否かが判断され、その結果、そのトータル電動機電力Wm_totalが前記充放電電力制限値WIN/OUT以上であった場合には、S103の判断は肯定される。ここで、図5に示すように第1電動機M1及び第2電動機M2は蓄電装置62に対しての充放電をインバータ60を介して行うので、S103では、上記トータル電動機電力Wm_totalに対応するインバータ60の電流値が、上記充放電電力制限値WIN/OUTに対応する所定のインバータ電流判定値以上であったか否かが判断されてもよい。このS103の判断が肯定された場合、すなわち、上記同時対向変速中の電動機Mの制御量が上記制御量制限値Lm以上であった場合には、S104に移る。一方、このS103の判断が否定された場合には本ルーチンは終了する。
【0113】
油圧制御値変更手段84の動作に対応するS104においては、前記同時対向変速が行われたときの1又は2以上の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)の制御量に基づき、その制御量が減少するように、望ましくは、変速ショックを大きくしない範囲内でその制御量が減少するように、前記油圧制御値CTRが学習により変更される。すなわち、上記同時対向変速の実行に際して、電動機Mによるタイミング制御への依存が抑制され、油圧制御で第1変速部16及び第2変速部20の変速の基本特性が保証されるようになる。要するに、このS104においては、上記同時対向変速が行われたときの上記制御量に基づき、その制御量が相対的に減少するように、上記油圧制御値CTRが学習により変更される。なお、望ましくは、このS104の実行時おいて既に開始されている同時対向変速にではなく新たに開始される次回以降の同時対向変速に、上記変更後の油圧制御値(学習値)CTRは適用される。
【0114】
このようにして上記同時対向変速が発生した場合に、図12のS102以降の各ステップは実行されるが、要するに、図10のフローチャートに示す上記同時対向変速を実行する変速制御作動と並行して、図12のS103の判断がなされ、その判断に基づきS104が実行される。
【0115】
本実施例の電子制御装置40には次のような効果(A1)乃至(A13)がある。(A1)本実施例によれば、油圧制御値変更手段84は、前記同時対向変速が行われたときの1又は2以上の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)の制御量に基づき、その制御量が減少するように、望ましくは、変速ショックを大きくしない範囲内でその制御量が減少するように、第1変速部16及び/又は第2変速部20の変速をするための油圧制御値CTRを学習により変更する。従って、上記同時対向変速における上記1又は2以上の電動機Mによる変速タイミングの制御への依存が低下することにより電子制御装置40の制御負荷が軽減される。また、上記同時対向変速時の変速ショックを低減しつつ上記同時対向変速における制御の信頼性向上を図ることができる。
【0116】
(A2)本実施例によれば、望ましくは、油圧制御値変更手段84は、前記同時対向変速中の電動機Mの制御量が前記制御量制限値Lm以上であったと電動機制御判断手段82により判断された場合に、上記油圧制御値CTRを学習により変更する。そのようにした場合には、その油圧制御値CTRが変更される頻度がある程度にまで抑えられ、電子制御装置40の制御負荷を更に軽減することができる。
【0117】
(A3)本実施例によれば、電動機制御判断手段82は、上記同時対向変速が開始された場合に、その同時対向変速中の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)の制御量である前記トータル電動機電力Wm_totalが、前記充放電電力制限値WIN/OUT以上であったか否かを判断してもよい。そのようにした場合には、油圧制御値変更手段84に油圧制御値CTRが変更されることにより、電動機Mの駆動に関連する電気部品の耐久性の低下防止を図ることができる。
【0118】
(A4)本実施例によれば、上記同時対向変速においてハイブリッド制御手段(同時対向変速制御手段)72は、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2により、第1変速部16及び第2変速部20のうち一方の変速部である第2変速部20のイナーシャ相の開始時期を他方の変速部である第1変速部16のイナーシャ相の開始時期より早くする制御を実行する。これにより、上記同時対向変速において上記イナーシャ相が開始するときに生じ得る変速ショックが分散され、その変速ショックから生じる違和感を搭乗者に与える可能性が低減される。
【0119】
(A5)本実施例によれば、上記同時対向変速においてハイブリッド制御手段72は、具体的に、第2変速部20のイナーシャ相の開始時期が第1変速部16のイナーシャ相の開始時期より早くなるように、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によって上記他方の変速部である第1変速部16の変速のイナーシャ相の開始を抑止して遅延させる制御を実行する。従って、実用的な態様で上記変速ショックを分散させることが可能である。
【0120】
(A6)本実施例によれば、好適には、上記同時対向変速においてハイブリッド制御手段72は、前記一方の変速部である第2変速部20のイナーシャ相の終了時期を前記他方の変速部である第1変速部16のイナーシャ相の終了時期より遅くする制御を実行する。このようにすれば、上記同時対向変速において上記イナーシャ相が終了するときに生じ得る変速ショックを分散させ、その変速ショックから生じる違和感を搭乗者に与える可能性が低減される。
【0121】
(A7)本実施例によれば、好適には、上記同時対向変速における第1変速部16の変速の実行中において、ハイブリッド制御手段72は、第2変速部20のイナーシャ相の終了時期が第1変速部16のイナーシャ相の終了時期より遅くなるように、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によって上記一方の変速部である第2変速部20の変速のイナーシャ相の終了を抑止して遅延させる制御を実行する。このようにすれば、実用的な態様で前記変速ショックを分散させることが可能である。
【0122】
(A8)本実施例によれば、ハイブリッド制御手段72は、上記同時対向変速が行われる場合に、1又は2以上の電動機M(第1電動機M1及び/又は第2電動機M2)を第1変速部16及び第2変速部20の変速をするための油圧制御に対し補足的に作動させ、それにより両変速部16,20のうち少なくとも何れかの変速タイミングを制御するので、そのように上記油圧制御に対し補足的ではない場合と比較して、上記同時対向変速中の第1電動機M1及び/又は第2電動機M2にかかる負荷を軽減できる。
【0123】
(A9)本実施例によれば、第1変速部16は、電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と段階的な変速作動を行う有段変速状態とに選択的に切換え可能な差動装置である。そして、好適には、ハイブリッド制御手段72は、変速時期判定手段76及び変速比変化方向判定手段78の判定が何れも肯定される場合には、第2変速部20の変速のイナーシャ相開始から終了までの間に、第1変速部16の無段変速状態と有段変速状態との切換を実行する。このようにすれば、第1変速部16の切換により生じ得るショックと第2変速部20の変速により生じ得るショックとが時間的に重なることを回避し、変速ショックの発生を好適に抑制することができる。
【0124】
(A10)変速機30の変速中においてエンジン回転速度NEが上昇下降を繰り返したとすれば、搭乗者の快適性を損なうおそれがあるものと考えられる。この点、本実施例によれば、好適には、ハイブリッド制御手段72は、前記同時対向変速が行われる場合には、その同時対向変速の実行中において、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2によりエンジン10の回転速度NEの変化方向が反転しないようにエンジン10の回転速度変化を制御する。このようにすれば、搭乗者の快適性を損なわないようにすることができる。
【0125】
(A11)本実施例によれば、図1に示すように、第1電動機M1は第1変速部16の第2回転要素RE2に動力伝達可能に連結され、その第1変速部16はエンジン10に動力伝達可能に連結され、第2変速部20は第1変速部16から駆動輪38(図5参照)への動力伝達経路の一部を構成している。そして、好適には、上記同時対向変速の実行中において、ハイブリッド制御手段72は、第2変速部20の入力回転速度(伝達部材18の回転速度NTR)の変化に応じて第1電動機回転速度NM1を制御する。このようにすれば、第1電動機回転速度NM1の制御により、第2変速部20の入力回転速度の変化が第1変速部16の変速に影響することを、第1電動機回転速度NM1の制御により低減できる。
【0126】
(A12)本実施例によれば、好適には、ハイブリッド制御手段72は、上記同時対向変速の実行中において、第1変速部16及び第2変速部20のうち少なくとも何れかの変速に伴うエンジン回転速度NEの変化相中に、エンジン10の出力トルクTEを所定値に低下させるトルクダウン制御を実行する。このようにすれば、前記変速タイミングを制御するために第1電動機M1及び/又は第2電動機M2にかかる負荷を、上記トルクダウン制御中は軽減でき、そのため、その変速タイミングの制御を実行し易くすることができる。
【0127】
(A13)本実施例によれば、第2変速部20は、複数の係合装置C1,C2,C3,B1,B2の係合及び解放に応じて複数の変速段(ギヤ段)を選択的に成立させる有段変速機である。そして、第2変速部20は、所謂クラッチツウクラッチ変速を行うものである。従って、第2変速部の変速比の変化幅を大きくすることが可能である。
【0128】
続いて、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0129】
図13は、本発明が好適に適用される他の車両用動力伝達装置90(以下、「動力伝達装置90」と表す)の構成を説明する骨子図である。また、図14は、その動力伝達装置90の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表であり、図15は、その動力伝達装置90の変速作動を説明する共線図である。
【0130】
図13に示すように、本実施例の動力伝達装置90は、好適には、FF(フロントエンジンフロントドライブ)型車両に搭載されるトランスアクスルケース92(以下、「ケース92」という)内へ収容することを考慮して軸方向寸法を短縮するために、前述の実施例と同様の第1電動機M1、動力分配機構32、及び第2電動機M2を第1軸心RC1上に備えている第1変速部16と、その第1軸心RC1に平行な第2軸心RC2上に設けられた前進4段の有段変速部としての第2変速部94とを、備えて構成されている。この図13に示す動力分配機構32は、前述の実施例と同様に、例えば「0.300」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の遊星歯車装置24と、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを有している。また、上記第2変速部94は、例えば「0.522」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置26と、例えば「0.309」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28とを、備えている。上記第1遊星歯車装置26の第1サンギヤS1と第2遊星歯車装置28の第2サンギヤS2とが相互に一体的に連結され、第1クラッチC1、互いに噛み合う一対のカウンタドライブギヤ34及びカウンタドリブンギヤ35を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に、第2ブレーキB2を介して上記ケース92に選択的に連結されるようになっている。また、上記第1遊星歯車装置26の第1キャリヤCA1が第2クラッチC2、互いに噛み合う一対のカウンタドライブギヤ34及びカウンタドリブンギヤ35を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に第3ブレーキB3を介して上記ケース92に選択的に連結されるようになっている。また、前記第1遊星歯車装置26の第1リングギヤR1と第2遊星歯車装置28の第2キャリヤCA2とが一体的に連結されて出力部材である出力歯車96に連結されるようになっている。また、前記第2遊星歯車装置28の第2リングギヤR2は第1ブレーキB1を介して上記ケース92に選択的に連結されるようになっている。上記出力歯車96は、前記差動歯車装置(終減速機)36のデフドライブギヤ98と噛み合うことにより、一対の車軸等を順次介して前記一対の駆動輪38へ動力を伝達する。上記カウンタドライブギヤ34及びカウンタドリブンギヤ35は、第1軸心RC1及び第2軸心RC2上にそれぞれ設けられ、前記伝達部材18と第1クラッチC1及び第2クラッチC2とを作動的に連結する連結装置として機能している。
【0131】
以上のように構成された動力伝達装置90では、上記第1変速部16及び第2変速部94から変速機100が構成される。この変速機100においては、例えば、図14の係合作動表に示されるように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第7速ギヤ段(第7変速段)の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化するトータル変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力歯車(出力部材)96の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では、前記動力分配機構32に切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が備えられており、それら切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、前記第1変速部16は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の多段変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。従って、上記変速機100では、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた前記第1変速部16と第2変速部94とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた前記第1変速部16と第2変速部94とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。
【0132】
前記変速機100が有段変速機として機能する場合には、図14に示すように前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γT1が最大値例えば「4.241」程度である第1速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換ブレーキB0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γT2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.986」程度である第2速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換クラッチC0、第2クラッチC2、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γT3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.111」程度である第3速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換ブレーキB0、第2クラッチC2、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γT4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.482」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2クラッチC2の係合により、変速比γT5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換クラッチC0、第2クラッチC2、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γT6が第5速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.657」程度である第6速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換ブレーキB0、第2クラッチC2、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γT7が第6速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.463」程度である第7速ギヤ段が成立させられる。また、前記エンジン10による駆動時においては、前記第1クラッチC1及び第3ブレーキB3の係合により、前記第2電動機M2による駆動時においては第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γRが第3速ギヤ段と第4速ギヤ段との間の値例えば「1.917」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば第1クラッチC1のみが係合される。
【0133】
一方、前記変速機100が無段変速機として機能する場合には、図14に示される係合表の切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、前記第1変速部16が無段変速機として機能し、それに直列に連結された前記第2変速部94が4段の有段変速機として機能することにより、その第2変速部94の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその第2変速部94に入力される回転速度すなわち前記伝達部材18の回転速度NTRが無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって前記変速機100全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0134】
図15は、無段変速部あるいは差動部として機能する前記第1変速部16と有段変速部として機能する第2変速部94とから構成される変速機100において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。なお、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放される場合、及び切換クラッチC0又は切換ブレーキB0が係合させられる場合の前記動力分配機構32の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
【0135】
図15における第2変速部94の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第2キャリヤCA2及び第1リングギヤR1、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第2リングギヤR2を、それぞれ表している。また、前記第2変速部94において、第4回転要素RE4は第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に第2ブレーキB2を介して前記ケース92に選択的に連結される。また、第5回転要素RE5は第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に第3ブレーキB3を介して前記ケース92に選択的に連結される。また、第6回転要素RE6は前記第2変速部94の出力歯車96に連結され、第7回転要素RE7は第1ブレーキB1を介して前記ケース92に選択的に連結されるようになっている。
【0136】
図15に示すように、前記第2変速部94においては、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1が係合させられることにより、第7回転要素RE7(R2)の回転速度を示す縦線Y7と横線X1との交点と第4回転要素RE4(S1、S2)の回転速度を示す縦線Y4と横線X2との交点とを通る斜めの直線L1と、前記出力歯車96と連結された第6回転要素RE6(R1、CA2)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力歯車96の回転速度が示される。同様に、前記切換ブレーキB0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1が係合させられることにより決まる斜めの直線L2と前記出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力歯車96の回転速度が示される。また、前記切換クラッチC0、第2クラッチC2、及び第1ブレーキB1が係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力歯車96の回転速度が示される。また、前記切換ブレーキB0、第2クラッチC2、及び第1ブレーキB1が係合させられることにより決まる斜めの直線L4と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力歯車96の回転速度が示される。また、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2クラッチC2が係合させられることにより決まる斜めの直線L5と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第5速の出力歯車96の回転速度が示される。また、前記切換クラッチC0、第2クラッチC2、及び第2ブレーキB2が係合させられることにより決まる斜めの直線L6と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第6速の出力歯車96の回転速度が示される。また、前記切換ブレーキB0、第2クラッチC2、及び第2ブレーキB2が係合させられることにより決まる斜めの直線L7と出力歯車96と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y7との交点で第7速の出力歯車96の回転速度が示される。
【0137】
以上のように構成された本実施例の動力伝達装置90(変速機100)においても、図14に示すようにクロスレシオ且つ広い変速比幅を目的として前進7段に制御されるようになっていることから、前述のように、前記第1変速部16及び第2変速部94の変速を同時期に行い、且つそれら第1変速部16及び第2変速部94の変速比γ0、γAの変化方向が互いに反対方向となる場合が考えられる。すなわち、前記同時対向変速が行われる場合が考えられる。このため、前記実施例と同様に、一方のダウンシフトの変速によりエンジン回転速度NEが上昇させられると同時に他方のアップシフトの変速によりエンジン回転速度NEが下降させられるので、わずかなタイミングのずれによりエンジン回転速度NEが上下し、それが変速ショックとして搭乗者に違和感を与える可能性がある。斯かる不具合を防止するために、図5を用いて前述したような制御機能を適用し、前記第1変速部16及び第2変速部94の変速を同時期に行い、且つそれら第1変速部16及び第2変速部94の変速比γ0、γAの変化方向が互いに反対方向となる場合に、前記電動機Mにより前記第1変速部16及び第2変速部94のうち少なくとも一方のイナーシャ相の開始時期乃至は終了時期を制御する(早める、或いは遅延させる)ことにより、変速ショックの発生を抑制することができる。
【0138】
また、本実施例には、前述した第1実施例の効果(A1)乃至(A13)に加え、次に示すような効果がある。本実施例によれば、図1の動力伝達装置8と比較して同一の軸心上に前記動力分配機構32と第2変速部94とが配設されていないので、前記変速機100の軸心方向の寸法がより短縮される。よって、一般的に変速機構の軸心方向の寸法が車幅で制約されるFF車両用やRR車両用に横置き可能すなわち第1軸心RC1及び第2軸心RC2が車幅方向と平行に搭載可能な変速機構として好適に用いられ得る。また、前記動力分配機構32及び第2変速部94が前記エンジン10(デフドライブギヤ32)とカウンタギヤ対との間に配設されているので、前記変速機100の軸心方向の寸法が一層短縮される。さらに、前記第2電動機M2が第1軸心RC1上に配設されているので、第2軸心RC2の軸心方向の寸法が短縮される。
【0139】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0140】
例えば、前述の実施例において、油圧制御値変更手段84は前記油圧制御値CTRを学習により変更するが、その油圧制御値CTRの変更可能範囲である所定のガード範囲が設けられて、そのガード範囲内で、油圧制御値変更手段84が油圧制御値CTRを学習により変更するようにしてもよい。
【0141】
また、前述の実施例において、図10のフローチャート及び図11のタイムチャートでは、図2に示す第2変速段「2nd」から第3変速段「3rd」への変速すなわちアップ変速に本発明の制御が適用された例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ダウン変速にも好適に適用されるものであることは言うまでもない。例えば、第3変速段「3rd」から第2変速段「2nd」への変速や、第5変速段「5th」から第4変速段「4th」への変速では、前記第1変速部16の変速比γ0が小さくなる一方、前記第2変速部20,94の変速比γAが大きくなる前記同時対向変速に該当するものであり、ハイブリッド制御手段72が実行する第1電動機M1及び/又は第2電動機M2による前記変速タイミングの制御が適用されることにより、そのときの変速ショックが好適に抑制されるのである。
【0142】
また、前述の実施例では、無段変速機として機能する第1変速部16と、有段変速機である第2変速部20、94とを備えた変速機30、100に本発明が適用された例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1変速部と、第2変速部と、それら第1変速部又は第2変速部の変速に伴い回転速度が変化するようにそれら第1変速部又は第2変速部の回転要素に連結された1又は2以上の電動機とを、備えた車両用動力伝達装置に広く適用され得るものである。
【0143】
また、前述の実施例の図11のタイムチャートでは、前記同時対向変速が行われる場合において、第2変速部20の変速のイナーシャ相開始から終了までの間に、第1変速部16の変速のイナーシャ相開始から終了までが行われるように制御されるが、逆のパターン、すなわち、第1変速部16の変速のイナーシャ相開始から終了までの間に、第2変速部20の変速のイナーシャ相開始から終了までが行われてもよい。
【0144】
また、前述の実施例において、前記エンジン10は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、伝動チェイン、伝動ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。また、図13の実施例においては、前記カウンタドライブギヤ34及びカウンタドリブンギヤ35に替えて、伝動チェインが巻き掛けられた一対のスプロケットが設けられてもよい。
【0145】
また、前述の実施例の動力分配機構32では、キャリヤCA0がエンジン10に連結され、第1サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、前記エンジン10、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちの何れと連結されていても差し支えない。
【0146】
また、前述の実施例における切換クラッチC0及び切換ブレーキB0等の油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチ等の磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
【0147】
また、前述の実施例の差動機構としての動力分配機構32は、例えばエンジン10によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び第2電動機M2に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
【0148】
また、前述の実施例の動力分配機構32は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0149】
また前述の実施例においては、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、第1変速部16(動力分配機構32)はその変速比γ0が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば第1変速部16の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0150】
また、前述の実施例の動力伝達装置8,90においてエンジン10と第1変速部16とは直結されているが、エンジン10が第1変速部16にクラッチ等の係合要素を介して動力伝達可能に連結されていてもよい。
【0151】
また、前述の実施例の動力伝達装置8,90において第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0152】
また前述の実施例では、エンジン10から駆動輪38への動力伝達経路において、第1変速部16の次に第2変速部20,94が連結されているが、第2変速部20,94の次に第1変速部16が連結されている順番でもよい。要するに、第2変速部20,94は、エンジン10から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
【0153】
また、前述の実施例の図1,図13によれば、動力伝達経路としては第1変速部16と第2変速部20とは直列に連結されているが、動力伝達装置8,90(変速機30,100)全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、第1変速部16と第2変速部20とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0154】
また、前述の実施例において動力分配機構32はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0155】
また前述の実施例においては、遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン10が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪38への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2つの遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0156】
また前述の実施例においては、第2変速部20は有段の自動変速機として機能する変速部であるが、無段のCVTであってもよい。
【0157】
また、前述の実施例では、第2電動機M2が伝達部材18に連結されていたが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、第2電動機M2が出力軸22に連結されたものであってもよいし、第2変速部20,94内の回転部材に連結されていてもよい。また、第2電動機M2は、出力軸22または第2変速部20,94内の回転部材等に直接に連結される必要もなく、例えば、変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0158】
また、前述の実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1はサンギヤS0に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1はサンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0159】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪38までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構32にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構32の差動状態を制御可能とする動力伝達装置8,90の構成であってもよい。
【0160】
また前述の実施例において、第1変速部16が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は第1変速部16とは別個に動力伝達装置8,90に備えられていてもよい。
【0161】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明が好適に適用される車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置の変速機が有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用動力伝達装置の変速機が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】図4の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】図1の車両用動力伝達装置において、車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、変速判断に用いられる予め記憶された変速線図と、変速機の変速状態の切換判断に用いられる予め記憶された切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切換判断に用いられる境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図とを例示する図である。
【図7】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図8】図5の油圧制御値変更手段により変更される油圧制御値について説明するために、図1に記載された第2変速部の変速での係合側のブレーキ又はクラッチに対する油圧指令値のタイムチャートを例示した図である。
【図9】同時対向変速中のトータル電動機電力が充放電電力制限値以上であった場合に油圧制御値が学習により変更されるとした場合の、その油圧制御値とトータル電動機電力との関係を概念的に表した図である。
【図10】図4の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、第1変速部及び第2変速部の同時対向変速において第1電動機及び/又は第2電動機によって変速タイミングを制御する変速制御作動を説明するフローチャートであり、例えば、図12のS102にて実行される。
【図11】図10に示す制御作動に対応した各部の作動を示すタイムチャートであって、変速機において図2に示す第2変速段「2nd」から第3変速段「3rd」への変速が実行される場合を例としたタイムチャートである。
【図12】図4の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、同時対向変速の実行に際して、電動機の制御量に基づき変速の油圧制御値が学習により変更される制御作動を説明するフローチャートである。
【図13】本発明が好適に適用される車両用動力伝達装置の他の構成例を説明する骨子図であって、図1に相当する第2実施例の骨子図である。
【図14】図13の車両用動力伝達装置の変速機の有段変速状態における変速段とそれを達成するための油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表であって、図2に相当する第2実施例の作動図表である。
【図15】図13の車両用動力伝達装置の変速機が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図であって、図3に相当する第2実施例の共線図である。
【符号の説明】
【0163】
8、90:車両用動力伝達装置
10:エンジン
16:第1変速部
20,94:第2変速部
38:駆動輪
40:電子制御装置(制御装置)
62:蓄電装置
72:ハイブリッド制御手段(同時対向変速制御手段)
84:油圧制御値変更手段
M1:第1電動機(電動機)
M2:第2電動機(電動機)
C1:第1クラッチ(係合装置)
C2:第2クラッチ(係合装置)
C3:第3クラッチ(係合装置)
B1:第1ブレーキ(係合装置)
B2:第2ブレーキ(係合装置)
B3:第3ブレーキ(係合装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧制御により変速する第1変速部及び第2変速部と、それら両変速部の変速比を互いに反対方向に変化させる変速がそれら両変速部で同時期に実行される同時対向変速が行われる場合にそれら両変速部のうち少なくとも何れかの変速タイミングを1又は2以上の電動機により制御する同時対向変速制御手段とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記同時対向変速が行われたときの前記1又は2以上の電動機の制御量に基づき、該制御量が減少するように、前記第1変速部及び/又は第2変速部の変速をするための油圧制御値を学習により変更する油圧制御値変更手段
を、含むことを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記油圧制御値変更手段は、前記1又は2以上の電動機の制御量が予め定められた制御量制限値以上である場合に、前記油圧制御値を学習により変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記1又は2以上の電動機に対し充放電を行う蓄電装置が設けられており、
前記1又は2以上の電動機の制御量とは、該1又は2以上の電動機の前記蓄電装置に対する充放電電力の合計の絶対値であり、
前記制御量制限値とは、前記蓄電装置の許容される充放電電力として予め定められた充放電電力制限値である
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記同時対向変速制御手段は、前記1又は2以上の電動機により前記第1変速部及び第2変速部のうち何れか一方のイナーシャ相の開始時期を他方のイナーシャ相の開始時期より早くするように制御する
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記同時対向変速制御手段は、前記第1変速部及び第2変速部のうちの前記一方のイナーシャ相の開始時期が前記他方のイナーシャ相の開始時期より早くなるように、前記1又は2以上の電動機によって前記他方のイナーシャ相の開始を抑止して遅延させる
ことを特徴とする請求項4に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記同時対向変速制御手段は、前記1又は2以上の電動機により前記第1変速部及び第2変速部のうちの前記一方のイナーシャ相の終了時期を前記他方のイナーシャ相の終了時期より遅くするように制御する
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記同時対向変速制御手段は、前記第1変速部及び第2変速部のうちの前記一方のイナーシャ相の終了時期が前記他方のイナーシャ相の終了時期より遅くなるように、前記1又は2以上の電動機によって前記一方のイナーシャ相の終了を抑止して遅延させる
ことを特徴とする請求項6に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記1又は2以上の電動機は、前記第1変速部及び第2変速部の変速をするための油圧制御に対し補足的に作動させられる
ことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記第1変速部は、電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と段階的な変速作動を行う有段変速状態とに選択的に切換え可能な差動装置であり、
前記第2変速部の変速のイナーシャ相開始から終了までの間に、前記第1変速部の無段変速状態と有段変速状態との間の切換が実行される
ことを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項10】
前記1又は2以上の電動機に含まれる第1電動機がエンジンの回転速度を制御し得るように設けられており、
前記同時対向変速の実行中において、前記同時対向変速制御手段は、前記第1電動機により、エンジンの回転速度の変化方向が反転しないように該エンジンの回転速度変化を制御する
ことを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項11】
前記第1電動機は前記第1変速部の回転要素に動力伝達可能に連結され、該第1変速部は前記エンジンに動力伝達可能に連結され、前記第2変速部は該第1変速部から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成しており、
前記同時対向変速の実行中において、前記同時対向変速制御手段は、前記第2変速部の入力回転速度の変化に応じて前記第1電動機の回転速度を制御する
ことを特徴とする請求項10に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項12】
前記第1変速部及び第2変速部のうち少なくとも何れかの変速に伴うエンジンの回転速度の変化相中に、該エンジンのトルクダウン制御が実行される
ことを特徴とする請求項1から11の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項13】
前記第2変速部は、複数の係合装置の係合及び解放に応じて複数の変速段を選択的に成立させる有段変速機であり、
前記第2変速部の変速段の切り換えが、それら係合装置の掴み替えにより行われる
ことを特徴とする請求項1から12の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−958(P2010−958A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162597(P2008−162597)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】