説明

車両用運転操作補助装置、車両用運転操作補助方法および自動車

【課題】運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うこと。
【解決手段】車輪と車体との間に介在された能動型のサスペンション装置と、車両周囲の障害物を検出する障害物検出手段と、障害物検出手段によって検出した障害物の種類を判別する障害物判別手段と、障害物判別手段の判別結果に基づいて、傾斜角を有する仮想路面を設定する仮想路面設定手段と、仮想路面設定手段によって設定した仮想路面の傾斜角と対応させて、能動型のサスペンション装置を制御し、車体を傾斜させる車体制御手段と、障害物検出手段によって検出した障害物への接近度合いに応じて、操舵反力を制御する操舵反力制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の操作を補助する車両用運転操作補助装置、車両用運転操作補助方法および自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用運転操作補助装置として、自車両前方の障害物を回避する技術が知られている。
例えば、特許文献1に記載の技術では、自車両の進行方向に水溜りが存在している場合、操舵制御を行うことにより、水溜りを回避することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−14137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術を含め、自車両前方の障害物を回避する従来の技術においては、運転者が意図する障害物の回避動作と、装置の制御による回避動作とが一致しない場合、運転者は装置の制御による回避動作に違和感を覚える可能性がある。特に、装置が障害物によって異なる回避動作を行う場合には、運転者の違和感がより顕著なものとなる。
このように、従来の技術においては、運転者に対し、適切に車両の運転操作の補助を行うことができない可能性がある。
本発明の課題は、運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本発明に係る車両用運転操作補助装置は、
障害物判別手段が、障害物検出手段によって検出した障害物の種類を判別し、仮想路面設定手段が、障害物判別手段の判別結果に基づいて、傾斜角を有する仮想路面を設定する。また、車体制御手段が、仮想路面設定手段によって設定した仮想路面の傾斜角と対応させて、能動型のサスペンション装置を制御し、車体を傾斜させ、操舵反力制御手段が、障害物検出手段によって検出した障害物への接近度合いに応じて、操舵反力を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、操舵反力による障害物回避の補助を行う場合に、障害物の種類に応じて車体を傾斜させるため、装置の制御による回避動作を運転者が理解しやすいものとなる。これにより、運転者が装置の制御による回避動作に違和感を覚えることを抑制できる。
したがって、運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態に係る車両用運転操作補助装置1を備えた自動車1Aの概略構成図である。
【図2】自動車1Aの制御系統を示すシステム構成図である。
【図3】操舵反力制御を行う際の減衰力算出制御マップを示す図である。
【図4】自動車1Aが有する能動型サスペンション機構の具体的な構成を示す図である。
【図5】コントローラ50が実行するリスクパラメータ算出処理を示すフローチャートである。
【図6】コントローラ50が実行する運転操作補助処理を示すフローチャートである。
【図7】レーンマーカまでの距離と操舵反力TRとの関係を示す図である。
【図8】路面の傾斜と、車両に働く力との関係を示す図である。
【図9】障害物の種類を示す図である。
【図10】運転操作補助処理を示す制御ブロック図である。
【図11】自動車1Aの動作の概要を示すテーブルである。
【図12】障害物として水溜りを検出した場合の操舵反力および車体3の傾斜の状態を示す図である。
【図13】障害物として落下物を検出した場合の操舵反力および車体3の傾斜の状態を示す図である。
【図14】障害物として人を検出した場合の操舵反力および車体3の傾斜の状態を示す図である。
【図15】第2実施形態における運転操作補助処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用運転操作補助装置1を備えた自動車1Aの概略構成図である。
図1において、自動車1Aは、車輪2FR,2FL,2RR,2RLと、車体3と、車体3と各車輪との間に設置された能動型のサスペンション4FR,4FL,4RR,4RLと、ステアリングホイール5と、ステアリングホイール5と操向輪である車輪2FR,2FLとの間に設置されたステアリング装置6と、アクセルペダル7と、ブレーキペダル8と、車体3の前後左右それぞれに設置され、車両の周囲を撮影するカメラ9F,9R,9SR,9SLとを備えており、自動車1Aに搭載された各種機器からの信号は、後述するコントローラ50に入力されている。
【0009】
図2は、自動車1Aの制御系統を示すシステム構成図である。
図2において、自動車1Aの制御系統は、レーザレーダ10と、カメラ9F,9R,9SR,9SLと、車速センサ30と、コントローラ50と、操舵反力制御装置60と、サーボモータ61,81,91と、舵角センサ62と、転舵用アクチュエータ63と、アクセルペダル反力制御装置80と、ブレーキペダル反力制御装置90と、駆動力制御装置100と、制動力制御装置110と、能動型のサスペンション4FR,4FL,4RR,4RLそれぞれに備えられたアクチュエータ120FR,120FL,120RR,120RLおよび車体上下加速度検出器130FR,130FL,130RR,130RLと、車両状態検出器140とを備えている。
【0010】
なお、これらのうち、レーザレーダ10、カメラ9F,9R,9SR,9SL、車速センサ30、コントローラ50、操舵反力制御装置60、サーボモータ61,81,91、舵角センサ62、転舵用アクチュエータ63、アクセルペダル反力制御装置80、ブレーキペダル反力制御装置90、駆動力制御装置100、制動力制御装置110、アクチュエータ120FR,120FL,120RR,120RL、車体上下加速度検出器130FR,130FL,130RR,130RL、車両状態検出器140は、本発明に係る車両用運転操作補助装置1を構成している。
【0011】
レーザレーダ10は、車両の前方のグリル部もしくはバンパ部等に取り付けられ、水平方向に赤外光パルスを走査する。
レーザレーダ10は、前方にある複数の反射物(通常、前方車の後端)で反射された赤外光パルスの反射波を検出し、反射波の到達時間より、複数の前方車までの車間距離とその存在方向を検出する。検出した車間距離および存在方向はコントローラ50へ出力される。
なお、本実施の形態において、前方物体の存在方向は、自車両正面に対する相対角度として表すことができる。レーザレーダ10によりスキャンされる前方の領域は、自車正面に対して±6deg程度であり、この範囲内に存在する前方物体が検出される。
また、レーザレーダ10は、前方車両までの車間距離およびその存在方向だけでなく、自車前方に存在する歩行者や落下物等の障害物までの相対距離およびその存在方向を検出する。
【0012】
カメラ9Fは、フロントウィンドウ上部に取り付けられた小型のCCD(Charge Coupled Devices)カメラ、またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ等の撮像装置であり、前方道路の状況を画像として検出し、検出した画像をコントローラ50に出力する。カメラ9Fによる検知領域は水平方向に±30deg程度であり、この領域に含まれる前方道路風景が画像として取り込まれる。
【0013】
また、カメラ9SR,9SLは、それぞれ左右の後部ドア上部に取り付けられた小型のCCDカメラ、もしくはCMOSカメラ等の撮像装置である。カメラ9SR,9SLは、自車側方の状況、特に隣接車線上の状況を画像として検出し、検出した画像をコントローラ50に出力する。なお、カメラ9SR,9SLは、前方を撮影するカメラ9Fに比して、より広範な領域を撮影するため、その検知領域は水平方向に±60deg程度となっている。
【0014】
さらに、カメラ9Rは、リアウィンドウ上部に取り付けられた小型のCCDカメラ、またはCMOSカメラ等の撮像装置であり、後方道路の状況を画像として検出し、検出した画像をコントローラ50に出力する。カメラ9Rによる検知領域は、カメラ9Fと同様に、水平方向に±30deg程度であり、この領域に含まれる後方道路風景が画像として取り込まれる。
車速センサ30は、車輪の回転数等から自車両の走行車速を検出し、検出した車速をコントローラ50へ出力する。
コントローラ50は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等のCPU周辺部品とから構成され、車両用運転操作補助装置1および自動車1Aの制御系統全体の制御を行う。
【0015】
コントローラ50は、車速センサ30から入力される自車速と、レーザレーダ10から入力される距離情報と、カメラ9F,9R,9SR,9SLから入力される車両周辺の画像情報とから、自車両周囲の障害物状況を検出する。
なお、コントローラ50は、カメラ9F,9R,9SR,9SLから入力される画像情報を画像処理することにより自車両周囲の障害物状況を検出する。
ここで、自車両周囲の障害物状況としては、自車両前方の水溜りや落下物、車線内に存在している人、自車両前方を走行する他車両までの車間距離、隣接車線を自車両後方から接近する他車両の有無と接近度合い、およびレーンマーカ(車線識別線)に対する自車両の左右位置、つまり相対位置と角度、さらにレーンマーカの形状などを挙げることができる。
【0016】
コントローラ50は、検出した障害物状況に基づいて各障害物に対する自車両のリスクパラメータ(障害物に対する自車両の接近度合いを表す物理量)を算出する。そして、コントローラ50は、後述するようにリスクパラメータに応じて、車両の左右方向の制御(操舵反力あるいは転舵角の制御)、上下方向の制御(能動型サスペンションのサスペンション長さの制御)について、運転操作補助のための制御を行う。
【0017】
能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLの減衰特性について、コントローラ50は、能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLに備えられたダンパの圧力制御あるいはサスペンションストロークの制御を行う。
即ち、コントローラ50には、車体上下加速度検出器130FR,130FL,130RR,130RLから出力された上下加速度検出信号X”2FL〜X”2RRが入力される。
そして、コントローラ50は、車体上下加速度検出信号X"に所定のゲインKmを乗算する。
【0018】
また、コントローラ50は、車体上下加速度について設定されたゲインKnと車体上下加速度検出信号の積分値∫dtとを乗算する。さらに、コントローラ50は、これらの乗算結果を加算し、この加算結果を各能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLそれぞれのダンパにおける油圧制御用のアクチュエータ120FR,120FL,120RR,120RLの指令値とする。
さらに、コントローラ50は、各能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLそれぞれのダンパにおける油圧制御用のアクチュエータ120FR,120FL,120RR,120RLに対し、リスクパラメータに応じて設定したサスペンション長さとするための指令値を出力する。これにより、コントローラ50が算出したリスクパラメータに応じて、自動車1Aの車体3を傾斜させることができる。
【0019】
操舵反力制御装置60は、車両の操舵系に組み込まれ、コントローラ50からの指令に応じて、サーボモータ61で発生させるトルクを制御する。サーボモータ61は、操舵反力制御装置60からの指令値に応じて発生させるトルクを制御し、運転者がハンドルを操作する際に発生する操舵反力を目標値に制御することができる。
ここで、コントローラ50は、リスクパラメータに応じた操舵反力制御を行うが、リスクパラメータに応じて操舵反力を付与する場合、図3に示す減衰力算出制御マップを用いることができる。
【0020】
この場合、操舵角速度θ’および発生トルクTHから、操舵反力TRに付加する減衰力TDを算出する。この減衰力算出制御マップは、図3に示すように、横軸に操舵角速度θ’を、縦軸に減衰力TDをそれぞれとり、操舵角速度θ’が0(零)から正方向に増加するときに、これに比例して減衰力TDが0(零)から負方向に減少し、一方、操舵角速度θ’が0(零)から負方向に減少するときに、これに比例して減衰力TDが0(零)から正方向に増加するように設定されている。さらに、発生トルクTHが大きいほど、操舵角速度θ’の増加率(または減少率)に対する減衰力TDの減少率(又は増加率)が大きくなるように構成されている。
【0021】
舵角センサ62は、ステアリングコラムもしくはステアリングホイール付近に取り付けられた角度センサ等であり、ステアリングシャフトの回転を操舵角として検出し、コントローラ50へ出力する。
転舵用アクチュエータ63は、コントローラ50がリスクパラメータに応じて車体3を傾斜させる際に、操向輪がその傾きに応じた転舵角となるように、操舵機構におけるラックギアを駆動する。
アクセルペダル7には、アクセルペダル7の踏み込み量(操作量)を検出するアクセルペダルストロークセンサ(不図示)が設けられている。アクセルペダルストロークセンサによって検出されたアクセルペダル操作量はコントローラ50に出力される。
【0022】
アクセルペダル反力制御装置80は、コントローラ50からの指令に応じて、アクセルペダル82のリンク機構に組み込まれたサーボモータ81で発生させるトルクを制御する。サーボモータ81は、アクセルペダル操作反力制御装置80からの指令値に応じて発生させる反力を制御し、運転者がアクセルペダル82を操作する際に発生する踏力を目標値に制御することができる。
ブレーキペダル8には、その踏み込み量(操作量)を検出するブレーキペダルストロークセンサ(不図示)が設けられている。ブレーキペダルストロークセンサによって検出されたブレーキペダル操作量もコントローラ50に出力される。
【0023】
ブレーキペダル反力制御装置90は、コントローラ50からの指令に応じて、ブレーキブースタで発生させるブレーキアシスト力を制御する。ブレーキブースタは、ブレーキペダル反力制御装置90からの指令値に応じて発生させるブレーキアシスト力を制御し、運転者がブレーキペダル8を操作する際に発生する踏力を目標値に制御することができる。ブレーキアシスト力が大きいほどブレーキペダル操作反力は小さくなり、ブレーキペダル8を踏み込みやすくなる。
【0024】
駆動力制御装置100は、エンジンコントローラを有し、コントローラ50からの指令に応じてエンジントルクを制御する。
制動力制御装置110は、ブレーキ液圧コントローラを有し、コントローラ50からの指令に応じてブレーキ液圧を制御する。
車両状態検出器140は、横加速度センサ、ヨーレートセンサ、アクセル開度センサ、ブレーキ圧センサ等、自車両の状態を検出する各種センサを備えており、検出した横加速度(以下、適宜「横G」と称する。)、ヨーレート、アクセル開度ACCおよびブレーキ圧BRK等の検出値を、コントローラ50に出力する。
【0025】
(能動型サスペンション機構の具体的構成)
図4は、自動車1Aが有する能動型サスペンション機構の具体的な構成を示す図である。
図4において、能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLは、それぞれ車体側部材12と各車輪2FR,2FL,2RR,2RLを個別に支持する車輪側部材14との間に介装された能動型サスペンションであって、アクチュエータ120FR,120FL,120RR,120RLと、コイルスプリング16FR,16FL,16RR,16RLと、アクチュエータ120FR,120FL,120RR,120RLに対する作動油圧をコントローラ50からの指令値にのみ応動して制御する圧力制御弁17FR,17FL,17RR,17RLとを備えている。また、能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLは、圧力制御弁17FL〜17RRと油圧源24との間の油圧配管25の途中に接続した高圧側アキュムレータ28Hと、圧力制御弁17FL〜17RRと油圧シリンダ15FL〜15RRとの間の油圧配管27に絞り弁28Vを介して連通した低圧側アキュムレータ28Lとを備えている。
【0026】
ここで、アクチュエータ120FR,120FL,120RR,120RLのそれぞれは、そのシリンダチューブ15aが車体側部材12に取付けられ、ピストンロッド15bが車輪側部材14に取付けられ、ピストン15cによって閉塞された上側圧力室B内の作動油圧が圧力制御弁17FL〜17RRによって制御される。また、コイルスプリング16FL〜16RRのそれぞれは、車体側部材12と車輪側部材14との間にアクチュエータ120FR,120FL,120RR,120RLと並列に装着されて車体3の静荷重を支持している。なお、これらコイルスプリング16FL〜16RRは、車体3の静荷重を支えるのみの低いバネ定数のものでよい。
【0027】
圧力制御弁17FL〜17RRは、上側圧力室Bの圧力が上昇(又は減少)すると、これに応じて上側圧力室Bの圧力を減圧(又は昇圧)し、上向きの振動入力による上側圧力室Bの圧力上昇(又は下向きの振動入力による上側圧力室Bの圧力減少)を抑制する。これにより、車体側部材14に伝達される振動入力を低減することができる。
一方、車体3には、各車輪2FR,2FL,2RR,2RLの直上部に車体上下加速度検出器130FR,130FL,130RR,130RLが配設され、これら車体上下加速度検出器130FR,130FL,130RR,130RLの車体上下加速度検出信号X”2FL〜X”2RRがコントローラ50に入力される。
【0028】
コントローラ50は、能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLの圧力制御を行うサスペンション制御部50aを有している。
サスペンション制御部は、車体上下加速度検出信号X”2FL〜X”2RRそれぞれに所定のゲインKmを乗算するゲイン調整機能と、所定のゲインKnと車体上下加速度検出信号X”2FL〜X”2RRそれぞれとの積分値∫dtとを乗算する車体上下速度算出兼ゲイン調整機能と、ゲイン調整機能および車体上下速度算出兼ゲイン調整機能の出力を加算する加算機能とを有しており、加算機能による加算出力が圧力制御弁17FL〜17RRの指令値V4FL〜V4RRとして各圧力制御弁17FL〜17RRに供給される。
【0029】
コントローラ50のサスペンション制御部50aにおいては、図4に示すように、車体上下加速度検出値X"2FL〜X"2RRが積分器51に供給され、その積分値でなる車体上下速度検出値X’2FL〜X’2RRが所定のゲインKnが設定された増幅器52で増幅される。一方、車体上下加速度検出値X"2FL〜X"2RRは所定の増幅度Kmが設定された増幅器53に供給されて増幅され、増幅器52,53の増幅出力が加算器54に入力されて加算される。さらに、車体上下加速度検出値X"2FL〜X"2RRは、例えばウインドコンパレータの構成を有する比較器55にも供給され、この比較器55で上下加速度検出値X"2FL〜X"2RRが所定の上限値および下限値内に収まっているときに例えば論理値"1”の比較出力が出力され、この比較出力がタイマ回路56に供給される。このタイマ回路56は、論理値"1”の比較出力が所定時間継続しているか否かを判定し、所定時間継続している場合に、論理値"1”のリセット信号RSを積分器51に出力し、積分器51の蓄積データをリセットする。
【0030】
このような構成の能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLにおいて、コントローラ50のサスペンション制御部50aが車体上下加速度検出信号X”2FL〜X”2RRに関するゲインKmおよび車体上下速度検出値X’2FL〜X’2RRに関するゲインKnを変更することで、路面から車体3に入力される振動をほぼ打ち消すように制御したり、路面から車体3に入力される振動をそのまま伝えたりすることができる。また、路面入力に拠らない圧力制御弁17FL〜17RRの指令値V4FL〜V4RR(例えば、車体3を傾斜させるための指令値)を生成することで、路面からの振動を抑制する以外の動作(例えば、車体3のロールあるいはピッチの制御)を能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLに行わせることもできる。
【0031】
(コントローラ50における処理)
次に、コントローラ50が実行する処理について説明する。
本実施形態において、自動車1Aは、車両用運転操作補助装置1によって運転操作補助を行う場合に、リスクパラメータRPkに応じて、操舵反力や転舵角の制御およびサスペンション長さの制御を実行可能である。
したがって、初めに、これらの制御において用いられるリスクパラメータRPkを算出するためのリスクパラメータ算出処理について説明する。
【0032】
(リスクパラメータ算出処理)
図5は、コントローラ50が実行するリスクパラメータ算出処理を示すフローチャートである。
コントローラ50は、車両用運転操作補助装置1による運転操作補助の開始を運転者が指示入力することに対応して、リスクパラメータ算出処理を開始する。
図5において、リスクパラメータ算出処理を開始すると、コントローラ50は、まず、自車両の走行状態を読み込む(ステップS1)。
【0033】
ここで、走行状態は、自車周囲の障害物状況を含む自車両の走行状況に関する情報である。具体的には、レーザレーダ10で検出される自車両前方の障害物までの相対距離および相対角度、また、前方カメラ9Fからの画像入力に基づく自車両に対するレーンマーカの相対位置(すなわち左右方向の変位と相対角度)、レーンマーカの形状および自車両前方の障害物までの相対距離と相対角度を読み込み、さらに、カメラ9R,9SR,9SLからの画像入力に基づく隣接車線後方に存在する走行車両までの相対距離および相対角度を読み込む。さらに、車速センサ30によって検出される車速を読み込む。また、カメラ9F,9R,9SR,9SLで検出される画像に基づいて、自車両周囲に存在する障害物の種別、つまり障害物が四輪車両、二輪車両、歩行者またはその他(落下物等)であるかを認識する。このとき、コントローラ50は、例えば、予め記憶してあるサンプルの形状と、撮影された障害物の形状とのマッチングを行うことによって、四輪車両、二輪車両、人等を認識することができる。また、形状から障害物の種別が認識できないものについては、ここでは落下物と認識するものとする。
【0034】
次に、コントローラ50は、ステップS1で読み込んだ走行状態のデータ(走行状態データ)に基づいて、現在の車両周囲状況を認識する(ステップS2)。
ここでは、前回の処理周期以前に検出し、不図示のメモリに記憶している自車両に対する各障害物の相対位置やその移動方向・移動速度と、ステップS1で得られた現在の走行状態データとにより、現在の各障害物の自車両に対する相対位置やその移動方向・移動速度を認識する。そして、自車両の走行に対して障害物となる他車両やレーンマーカが、自車両の周囲にどのように配置され、相対的にどのように移動しているかを認識する。
【0035】
次に、コントローラ50は、ステップS2において認識した各障害物に対する余裕時間TTC(Time To Collision)を障害物毎に算出する(ステップS3)。
障害物kに対する余裕時間TTCkは、次式(1)で求めることができる。
TTCk=(Dk−σ(Dk))/(Vrk+σ(Vrk)) (1)
ここで、Dk:自車両から障害物kまでの相対距離、Vrk:自車両に対する障害物kの相対速度、σ(Dk):相対距離のばらつき、σ(Vrk):相対速度のばらつき、をそれぞれ示す。
【0036】
相対距離、相対速度のばらつきσ(Dk)、σ(Vrk)は、検出器の不確定性や不測の事態が発生した場合の影響度合いの大きさを考慮して、障害物kを認識したセンサの種類や、認識された障害物kの種別に応じて設定する。
レーザレーダ10は、カメラ、例えばCCD等によるカメラ9F,9R,9SR,9SLによる障害物の検出と比べて、検出距離、つまり自車両と障害物との相対距離の大きさによらず正しい距離を検出することができる。
そこで、レーザレーダ10で障害物kまでの相対距離Dkを検出した場合は、相対距離Dkによらず、そのばらつきσ(Dk)をほぼ一定値に設定する。
【0037】
一方、カメラ9F,9R,9SR,9SLで相対距離Dkを検出した場合は、相対距離Dkが大きくなるほどばらつきσ(Dk)が指数関数的に増加するように設定する。ただし、障害物kの相対距離Dkが小さい場合、レーザレーダで相対距離Dkを検出した場合に比べて、カメラによってより正確に相対距離を検出することができるので、相対距離のばらつきσ(Dk)を小さく設定する。
例えば、レーザレーダ10で相対距離Dkを検出した場合、相対速度Vrkのばらつきσ(Vrk)は、相対速度Vrkに比例して大きくなるように設定する。一方、カメラ9F,9R,9SR,9SLで相対距離Dkを検出した場合、相対速度Vrkが大きくなるほど相対速度のばらつきσ(Vrk)が指数関数的に増加するように設定する。
【0038】
カメラ9F,9R,9SR,9SLによって障害物状況を検出した場合、検出画像に画像処理を行うことによって障害物の種別を認識することができる。そこで、カメラ9F,9R,9SR,9SLによって障害物状況を検出した場合は、認識される障害物の種別に応じて相対距離、相対速度のばらつきσ(Dk)、σ(Vrk)を設定する。
カメラ9F,9R,9SR,9SLによる相対距離Dkの検出は、障害物kの大きさが大きいほどその検出精度が高いため、障害物が四輪車両である場合の相対距離のばらつきσ(Dk)を二輪車両や歩行者の場合のばらつきσ(Dk)に比べて小さく設定する。
【0039】
一方、相対速度のばらつきσ(Vrk)は、障害物k毎に想定される移動速度が大きいほど、ばらつきσ(Vrk)が大きくなるように設定する。つまり、四輪車両の移動速度は二輪車両や歩行者の移動速度よりも大きいと想定されるので、相対速度Vrkが同じ場合、障害物kが四輪車両である場合のばらつきσ(Vrk)は、二輪車両や歩行者の場合のばらつきσ(Vrk)に比べて大きく設定する。
なお、レーザレーダ10とカメラ9F,9R,9SR,9SLの両方で障害物kを検出した場合は、例えば、値の大きな方のばらつきσ(Dk)、σ(Vrk)を用いてその障害物kに対する余裕時間TTCkを算出することができる。
【0040】
次に、コントローラ50は、ステップS3で算出した余裕時間TTCkを用いて、各障害物kに対するリスクパラメータRPkを算出する(ステップS4)。
ここで、各障害物kに対するリスクパラメータRPkは次式(2)で求められる。
RPk=(1/TTCk) (2)
(2)式に示すように、リスクパラメータRPkは余裕時間TTCkの逆数を用いて、余裕時間TTCkの関数として表されており、リスクパラメータRPkが大きいほど障害物kへの接近度合いが大きいことを示している。
【0041】
次に、コントローラ50は、算出した各障害物の余裕時間TTCkおよびリスクパラメータRPkを、障害物の種類を示す情報と対応付けて、不図示のメモリに格納する(ステップS5)。このようにメモリに格納された余裕時間TTCk、リスクパラメータRPkおよびその種類を示す情報は、他の処理において利用可能な状態となる。
ステップS5の後、コントローラ50は、運転操作補助の終了を運転者が指示入力するまで、リスクパラメータ算出処理を繰り返す。
【0042】
(運転操作補助処理)
次に、コントローラ50が実行する運転操作補助処理について説明する。
図6は、コントローラ50が実行する運転操作補助処理を示すフローチャートである。
コントローラ50は、車両用運転操作補助装置1による運転操作補助の開始を運転者が指示入力することに対応して、運転操作補助処理を開始する。
図6において、運転操作補助処理を開始すると、コントローラ50は、自車両が走行している車線の左右レーンマーカに関する仮想路面傾斜角θ1を算出する(ステップS101)。
ここでは、コントローラ50は、カメラ9F,9R,9SR,9SLによって撮影した画像を基に、自車両と左右レーンマーカとの距離Yを検出し、検出した距離Yに応じて、操舵反力TRを設定する。
【0043】
図7は、レーンマーカまでの距離と操舵反力TRとの関係を示す図である。
図7に示すように、操舵反力TRは、自車両とレーンマーカとの距離(左右の各レーンマーカとの距離のうち、より小さい方を選択するものとする。)が小さくなるほど増大する。そして、操舵反力について設定した上限値で飽和する特性となっている。
コントローラ50は、レーンマーカとの距離から設定した操舵反力TRを基に、次のように仮想路面傾斜角θ1を算出する。
【0044】
図8は、路面の傾斜と、車両に働く力との関係を示す図である。
図8に示すように、傾斜角θの路面に置かれた車両には、水平方向に1/2・g・sin2θの加速度が作用する(図8(a)参照)。なお、図8において、mは車両の重量、gは重力加速度である。
そのため、図8(b)に示す関係から、操舵反力TR(=F)を発生させる路面の傾斜角θ1について、次式の関係を定義できる。
F=1/2・m・g・sin2θ (3)
ステップS101においては、(3)式の関係から路面傾斜角(車体3の傾斜角)θ1を算出する。
【0045】
次に、コントローラ50は、自車両が走行している車線の曲率に関する仮想路面傾斜角θ2を算出する(ステップS102)。
ここでは、コントローラ50は、カメラ9Fによって車線の曲率1/R(Rは曲線半径)を検出する。
曲率1/Rの道路を車速Vで走行するとき、必要な向心加速度は次式によって表せる。
2/R (4)
【0046】
また、図8より仮想路面傾斜角をθ2とすると、発生する水平方向の加速度は、次式によって表せる。
1/2・g・sinθ2 (5)
(4)、(5)式より、次式の関係が定義できる。
2/R=1/2・g・sin2θ2 (6)
(6)式から曲率1/Rを車速Vで走行するのに必要な仮想路面傾斜角θ2が求められる。
【0047】
次に、コントローラ50は、左右レーンマーカおよび走行車線の曲率に基づく仮想路面傾斜角θ3(=θ1+θ2)を算出する(ステップS103)。
次いで、コントローラ50は、障害物の種類を判別する(ステップS104)。
具体的には、コントローラ50は、カメラ9F,9R,9SR,9SLによって撮影した障害物の画像を基に、その障害物の種類を判別する。なお、ここでは、前方にある直近の1つの障害物の種類を判別するものとする。
【0048】
図9は、障害物の種類を示す図である。
図9に示すように、障害物の種類は、第1群:障害物の位置を通過できないものであり、接近が禁止されるもの(例えば、人や自転車)、第2群:障害物の位置を通過できないものであり、接近は許容されるもの(例えば、資材等の落下物)、第3群:障害物の位置を通過できるもの(例えば、水溜り)に分類されている。
コントローラ50は、カメラによって撮影した画像を、各種障害物の形状とマッチングすることにより、検出した障害物がいずれの種類であるかを判別する。
なお、インフラストラクチャによって、障害物の種類が通知される場合には、通知された情報を利用して、障害物の種類を判別することができる。
【0049】
次に、コントローラ50は、障害物に関する仮想路面傾斜角の補正値θα,θβを算出する(ステップS105)。
このとき、コントローラ50は、自車両前方にある障害物について、リスクパラメータ算出処理によってリスクパラメータを算出する。
そして、図9に示す障害物の種類に応じて、障害物の種類が第1群の場合、リスクパラメータRPkの値が閾値α以上であれば、次式に従って、仮想路面傾斜角の補正値θαを算出する。
θα=B×(RPk−α) (7)
【0050】
なお、係数Bは、実際に車体3を傾斜させた実験結果を基に設定した値である。
また、障害物の種類が第2群の場合、リスクパラメータRPkの値が閾値β(ただし、α<β)以上であれば、次式に従って、仮想路面傾斜角の補正値θβを算出する。
θβ=B×(RPk−β) (8)
なお、障害物の種類が第3群の場合、障害物に関する仮想路面傾斜角の補正値は0度とする。
【0051】
このように、仮想路面傾斜角の補正値を設定することで、運転者に対し、通過してはいけない障害物の存在を伝えることができる。また、障害物に関する路面傾斜角の補正値を付与する場合に、上述のように第2群よりも第1群に付与するタイミングを早くすることで、通過してはいけない障害物の中で、接近してはいけないものの存在を運転者に伝えることができる。
【0052】
次に、コントローラ50は、実際の路面形状を反映させて仮想路面傾斜角を算出する(ステップS106)。
このとき、コントローラ50は、車両状態検出器140の横加速度センサおよびヨーレートセンサ等の検出値から、自車両のロール方向の傾斜角θaを検出する。
そして、実際の路面の傾斜角θaを基に、仮想路面の傾斜角θを次式に従って算出する。
θ=θ3a+θα+θβ (9)
なお、障害物の種類が第1群あるいは第2群であると判別され、障害物の種類に応じてθαおよびθβの一方が算出された場合、θαおよびθβの他方はゼロに設定される。
【0053】
次に、コントローラ50は、仮想路面傾斜角θに応じて車体3を傾斜させ、車両横方向の加速度を運転者に伝達する(ステップS107)。
具体的には、コントローラ50は、仮想路面傾斜角θに応じて、能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLにおけるサスペンションの長さを変化させることで車体3を傾斜させる。
このように、車体3の姿勢変化によって生じる加速度と、視界の変化とを運転者に与えることによって、仮想的な路面の傾斜を伝達することができる。
【0054】
次いで、コントローラ50は、仮想的な路面傾斜から車輪に加わると推定される外力を算出する(ステップS108)。
仮想路面の傾斜によって車両重心点に働く力Fは、仮想路面の傾斜角θを用いて、次式に従って算出する。
F=m・g・sinθ (10)
この力Fが四輪に等しく働くとすると、車輪1つ当たりに働く外力fは、f=F/4となる。
【0055】
次に、コントローラ50は、ステップS108において算出した外力Fにより車両に発生するヨーレートγを算出する(ステップS109)。
具体的には、ステップS108で算出した車輪に働く外力Fを、前輪タイヤを転舵することで発生させる。転舵により発生するヨーレートγは、前後輪それぞれ2つの車輪に働く外力F1=2×fとすると、等価二輪モデルに基づく次式の関係から算出できる。
【0056】
【数1】

【0057】
ここで、tpはチューニングパラメータ、Iは車両のヨー方向の回転モーメント、lfは車両重心点と前車軸間との距離、lrは車両重心点と後車軸間との距離、である。
さらに、コントローラ50は、算出したヨーレートγから、操向輪の転舵角δを算出する(ステップS110)。
具体的には、Asをスタビリティファクタ、Vを車速、lをホイールベースとすると、転舵角δは、次式の関係を基に算出できる。
【0058】
【数2】

【0059】
また、コントローラ50は、リスクパラメータRPkを基に操舵反力を算出する(ステップS111)。
具体的には、リスクパラメータRPkの大きさから、次式に従って操舵反力TRを算出し、サーボモータ61を駆動して運転者に操舵反力を与える。ここで、係数Aは、運転者に操舵反力を与える実験によって決定した値である。
Fa=A×RPk (15)
そして、コントローラ50は、ステップS110で算出した転舵角δとなるように転舵用アクチュエータ63を制御し(ステップS112)、ステップS111で算出した操舵反力TRとなるように、サーボモータ61を制御する(ステップS113)。
この後、コントローラ50は、運転操作補助処理を繰り返す。
【0060】
(運転操作補助処理の制御ブロック図)
図10は、運転操作補助処理を示す制御ブロック図である。
図6に示す運転操作補助処理を制御ブロック図で示すと、図10のようになる。
図10においては、左右レーンマーカとの距離から操舵反力TRを算出し、さらに、仮想路面傾斜角θ1を算出している。
また、道路曲率1/Rから仮想路面傾斜角θ2を算出している。
さらに、実際の路面形状として、ロール方向(車両左右方向)の傾斜θaを検出している。
【0061】
一方、車両周囲の障害物に関するリスクパラメータRPkから、障害物の種類に応じた仮想路面傾斜角の補正値θα,θβを算出している。
そして、仮想路面傾斜角θ1およびθ2の加算結果から、実際の路面の傾斜角θaを減算すると共に、障害物の種類に応じた仮想路面傾斜角の補正値θα,θβを加算し、仮想路面傾斜角θを算出している。
この仮想路面傾斜角θによって、車体3の傾斜を制御するとともに、仮想路面傾斜角θに対応する外力を算出し、等価二輪モデルを用いて、その外力に相等する転舵角を算出して、転舵用アクチュエータ63を駆動している。
また、障害物について算出したリスクパラメータから、操舵反力TRを算出し、その操舵反力TRを実現するように、サーボモータ61を駆動している。
これにより、運転操作補助処理の機能を実現することができる。
【0062】
(動作)
次に、動作を説明する。
自動車1Aにおいては、基本的な制御として、図4に示すように、能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLによって、車体3に入力する振動を抑制する制御を行っている。
即ち、能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLによって、路面から車体3に入力される振動をほぼ打ち消すように制御したり、路面から車体3に入力される振動をそのまま伝えたりする制御を行っている。
【0063】
そして、コントローラ50が、運転操作補助処理を開始すると、自車両が走行している車線の左右のレーンマーカとの距離および道路曲率に応じた仮想路面傾斜角θ3を算出し、能動型サスペンションを駆動して、仮想路面傾斜角θ3に応じた車体傾斜角とする制御を行う(ステップS101,S102)。
このとき、自動車1Aは、仮想路面傾斜角θ3に応じた外力Fに対応するヨーレートγを発生させるように、転舵用アクチュエータ63を駆動して、操向輪の転舵制御を行う(ステップS110,S112)。
【0064】
また、自動車1Aは、リスクパラメータ算出処理によって算出したリスクパラメータRPkを基に、サーボモータ61を駆動して、操舵反力の制御を行う(ステップS111,S113)。
ここで、自車両前方に障害物を検出した場合、自動車1Aは、障害物の種類を判別する(ステップS104)。そして、自動車1Aは、能動型サスペンションを駆動して、障害物の種類に対応したタイミングおよび傾斜角で、仮想路面傾斜角θに対応する車体3の傾斜角を付与する(ステップS105,S106)。
【0065】
これにより、運転者は、車体3の傾斜(仮想的な路面傾斜)から、障害物がどのような種類のものであるか(図9に示すいずれの種類であるか)を把握することができる。
一方、自動車1Aは、操舵反力TRについては、障害物までの余裕時間(到達時間)に応じて強さが増加するように制御する。
これにより、運転者は、操舵反力から、障害物までの余裕時間を把握することができる。
【0066】
また、自動車1Aは、仮想路面傾斜角に応じた外力Fを算出し(ステップS108)、その外力に応じたヨーレートγが発生するように、転舵用アクチュエータ63を駆動する(ステップS110,S112)。
これにより、障害物を回避する方向に操向輪を転舵することができる。また、車体3の傾斜角を付与することと連動して、操向輪の転舵を行うため、運転者にとっては、自動車1Aが障害物を回避しようとしていることを容易に認識できるものとなる。
このような制御が行われた場合、自動車1Aの動作は、図11に示すように概説できる。
【0067】
図11は、自動車1Aの動作の概要を示すテーブルである。
なお、図11中の操舵反力および車体3の傾斜角について記載した値は、動作の特徴を示すために正規化した値となっている。
図11において、自動車1Aの動作は、障害物の種類に応じて、車体3の傾斜角の付与の仕方が異なるものとなっている。
具体的には、自車両が障害物の位置を通過可能なものについては、車体3の傾斜角を付与していない。
一方、自車両が障害物の位置を通過できないものについては、車体3の傾斜角を付与している。
【0068】
さらに、自車両が障害物の位置を通過できないもののうち、接近が許容されるものよりも、接近が許容されないものの方に、より早いタイミングで傾斜角を付与している。また、同一の余裕時間で比較した場合、接近が許容されるものよりも、接近が許容されないものの方に、より大きい傾斜角を付与している。
これにより、運転者は、車体3の傾斜角から、障害物がどのようなものであるかを把握できる。
これに対し、操舵反力については、障害物の種類に関わらず、余裕時間が短くなるほど、大きい操舵反力を付与している。
これにより、運転者は、操舵反力の大きさから、障害物までの余裕時間を把握することができる。
【0069】
図12〜14は、具体的な走行状況において、自動車1Aが行う制御を説明する模式図である。
図12は、障害物として水溜りを検出した場合の操舵反力および車体3の傾斜の状態を示す図である。
図12において、水溜りは、図9における第3群(障害物の位置を通過できるもの)に分類される障害物であり、この種の障害物については、余裕時間tが長い状態から短い状態に渡って、障害物に基づく車体3の傾斜は行わないものとなっている。
【0070】
一方、操舵反力については、余裕時間tが長い場合には、小さい操舵反力を付与し、余裕時間が中程度から短い状態へと移行するにつれて、操舵反力を増大させることとしている。
したがって、運転者は、操舵反力のみが付与される状況では、前方の障害物が第3群に属するものであることを把握でき、また、障害物との距離を、操舵反力の強さから把握することができる。
【0071】
図13は、障害物として落下物を検出した場合の操舵反力および車体3の傾斜の状態を示す図である。
図13において、落下物は、図9における第2群(障害物の位置を通過できないものであり、接近は許容されるもの)に分類される障害物である。
この種の障害物については、余裕時間tが長い状態では、障害物に基づく車体3の傾斜を行わず、余裕時間tが中程度で車体3の傾斜を中程度とし、余裕時間tが短くなると、車体3の傾斜をより大きくしている。
【0072】
一方、操舵反力については、余裕時間tが長い場合には、小さい操舵反力を付与し、余裕時間が中程度から短い状態へと移行するにつれて、操舵反力を増大させることとしている。
したがって、運転者は、操舵反力の付与に遅れて車体3が傾斜する状況では、前方の障害物が第2群に属するものであることを把握でき、また、障害物との距離を、操舵反力の強さから把握することができる。
【0073】
図14は、障害物として人を検出した場合の操舵反力および車体3の傾斜の状態を示す図である。
図14において、人は、図9における第1群(障害物の位置を通過できないものであり、接近が禁止されるもの)に分類される障害物である。
この種の障害物については、余裕時間tが長い状態で車体3の傾斜を中程度とし、余裕時間tが中程度から短い状態に渡って、車体3の傾斜を大きくしている(ここでは上限値に収束させている)。
【0074】
一方、操舵反力については、余裕時間tが長い場合には、小さい操舵反力を付与し、余裕時間が中程度から短い状態へと移行するにつれて、操舵反力を増大させることとしている。
したがって、運転者は、操舵反力の付与と同時に車体3が傾斜を開始する状況では、前方の障害物が第1群に属するものであることを把握でき、また、障害物との距離を、操舵反力の強さから把握することができる。
【0075】
以上のように、本実施形態に係る自動車1Aは、運転操作補助処理を実行することにより、検出した障害物の種類を判別し、障害物の種類に応じたタイミングおよび傾斜角で、車体3を傾斜させる制御を行う。また、自動車1Aは、障害物までの余裕時間が短くなるほど、操舵反力を増大させる制御を行う。
そのため、運転者に対し、車体の傾斜角を制御することによって、障害物の種類を知らせることができると共に、操舵反力の強さによって、障害物までの余裕時間を知らせることができる。
【0076】
また、操舵反力による障害物回避の補助を行う場合に、車体3の傾斜制御が行われるため、車両用運転操作補助装置1の制御による回避動作を運転者が理解しやすいものとなる。そのため、運転者が装置の制御による回避動作に違和感を覚えることを抑制できる。
さらに、自動車1Aは、車体3の傾斜角に応じて転舵制御を行うため、車体3の傾斜に対して違和感のない回避動作を実現することができる。
即ち、本発明によれば、運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うことができる。
【0077】
なお、本実施形態において、コントローラ50および能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLが能動型のサスペンション装置に対応する。また、カメラ9F,9R,9SR,9SL、レーザレーダ10およびコントローラ50が障害物検出手段に対応し、コントローラ50が障害物判別手段に対応する。また、コントローラ50が仮想路面設定手段および車体制御手段に対応し、コントローラ50および操舵反力制御装置60が操舵反力制御手段に対応する。また、コントローラ50および転舵用アクチュエータ63が転舵角制御手段に対応し、カメラ9F,9R,9SR,9SLおよびコントローラ50が走行環境検出手段に対応する。
【0078】
(第1実施形態の効果)
(1)障害物判別手段が、障害物検出手段によって検出した障害物の種類を判別し、仮想路面設定手段が、障害物判別手段の判別結果に基づいて、傾斜角を有する仮想路面を設定する。また、車体制御手段が、仮想路面設定手段によって設定した仮想路面の傾斜角と対応させて、能動型のサスペンション装置を制御し、車体を傾斜させ、操舵反力制御手段が、障害物検出手段によって検出した障害物への接近度合いに応じて、操舵反力を制御する。
そのため、操舵反力による障害物回避の補助を行う場合に、障害物の種類に応じて車体を傾斜させるため、装置の制御による回避動作を運転者が理解しやすいものとなる。これにより、運転者が装置の制御による回避動作に違和感を覚えることを抑制できる。
したがって、運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うことができる。
【0079】
(2)仮想路面設定手段が、障害物判別手段によって判別された障害物の種類に応じて、仮想路面の傾斜角を付与するタイミングと、該仮想路面の傾斜角の大きさとを異ならせる。
したがって、運転者は、仮想路面の傾斜角が付与されるタイミングと、傾斜角の大きさとから、障害物の種類を把握することができる。
(3)障害物判別手段が、障害物を第1〜第3の種類に分類し、仮想路面設定手段が、障害物の種類毎に、仮想路面の傾斜角を与えるタイミングを変化させる。
したがって、運転者は、仮想路面が与えられるタイミングを基に、障害物の種類が第1〜第3の種類のいずれであるかを把握することができる。
【0080】
(4)転舵角制御手段が、仮想路面の傾斜角を有する路面を実際に車両が走行している場合に働く力に対応させて、操向輪の転舵角を制御する。
したがって、運転者が認識する車体の傾斜と、車両の挙動とが整合するものとなり、運転者に違和感を与えることを抑制できる。
【0081】
(5)仮想路面設定手段が、走行環境検出手段が検出したレーンマーカとの距離および走行車線の曲率に応じて前記仮想路面の傾斜角を設定し、障害物の種類と、該障害物への接近度合いに応じて、仮想路面の傾斜角を補正する。
したがって、障害物が検出されないときには、レーンマーカへの接近を抑制したり、道路の曲率に応じて車体を傾斜させたりして運転を補助しながら、障害物が検出されたときに、障害物を回避するための仮想路面の傾斜を創出することができる。
【0082】
(6)検出した障害物の種類を判別し、その判別結果に基づいて、傾斜角を有する仮想路面を設定する。また、設定した仮想路面の傾斜角と対応させて、能動型のサスペンション装置を制御し、車体を傾斜させ、検出した障害物への接近度合いに応じて、操舵反力を制御する。
そのため、操舵反力による障害物回避の補助を行う場合に、障害物の種類に応じて車体を傾斜させるため、装置の制御による回避動作を運転者が理解しやすいものとなる。これにより、運転者が装置の制御による回避動作に違和感を覚えることを抑制できる。
したがって、運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うことができる。
【0083】
(7)障害物判別手段が、障害物検出手段によって検出した障害物の種類を判別し、仮想路面設定手段が、障害物判別手段の判別結果に基づいて、傾斜角を有する仮想路面を設定する。また、車体制御手段が、仮想路面設定手段によって設定した仮想路面の傾斜角と対応させて、能動型のサスペンション装置を制御し、車体を傾斜させ、操舵反力制御手段が、障害物検出手段によって検出した障害物への接近度合いに応じて、操舵反力を制御する。
そのため、操舵反力による障害物回避の補助を行う場合に、障害物の種類に応じて車体を傾斜させるため、装置の制御による回避動作を運転者が理解しやすいものとなる。これにより、運転者が装置の制御による回避動作に違和感を覚えることを抑制できる。
したがって、運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うことができる。
【0084】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態に係る自動車1Aは、第1実施形態に係る自動車1Aと同様の構成を有するものである一方、図6に示す運転操作補助処理において、自車両と左右のレーンマーカとの距離に応じて仮想路面傾斜角θ1を算出する処理(ステップS101)、および、走行車線の曲率に応じて仮想路面傾斜角θ2を算出する処理(ステップS102)を行わない点が主に異なっている。
したがって、本実施形態に係る自動車1Aの構成については、第1実施形態における図1,2,4を参照することとし、以下、運転操作補助処理について説明する。
【0085】
図15は、本実施形態における運転操作補助処理を示すフローチャートである。
コントローラ50は、車両用運転操作補助装置1による運転操作補助の開始を運転者が指示入力することに対応して、運転操作補助処理を開始する。
図15において、運転操作補助処理を開始すると、コントローラ50は、リスクの種類を判別する(ステップS201)。
具体的には、コントローラ50は、カメラ9F,9R,9SR,9SLによって撮影した障害物の画像を基に、その障害物の種類(図9参照)を判別する。
次に、コントローラ50は、障害物に関する仮想路面傾斜角θα,θβを算出する(ステップS202)。
【0086】
このとき、コントローラ50は、自車両前方にある障害物について、リスクパラメータ算出処理によってリスクパラメータを算出する。
そして、図9に示す障害物の種類に応じて、障害物の種類が第1群の場合、リスクパラメータRPkの値が閾値α以上であれば、(7)式に従って、仮想路面傾斜角の補正値θαを算出する。
θα=B×(RPk−α) (7)
また、障害物の種類が第2群の場合、リスクパラメータRPkの値が閾値β(ただし、α<β)以上であれば、(8)式に従って、仮想路面傾斜角の補正値θβを算出する。
θβ=B×(RPk−β) (8)
【0087】
なお、障害物の種類が第3群の場合、障害物に関する仮想路面傾斜角の補正値は0度とする。
このように、仮想路面傾斜角を設定することで、運転者に対し、通過してはいけない障害物の存在を伝えることができる。また、障害物に関する路面傾斜角を付与する場合に、上述のように第2群よりも第1群に付与するタイミングを早くすることで、通過してはいけない障害物の中で、接近してはいけないものの存在を運転者に伝えることができる。
【0088】
次に、コントローラ50は、実際の路面形状を反映させて仮想路面傾斜角を算出する(ステップS203)。
このとき、コントローラ50は、車両状態検出器140の横加速度センサおよびヨーレートセンサ等の検出値から、自車両のロール方向の傾斜角θaを検出する。
そして、実際の路面の傾斜角θaを基に、仮想路面の傾斜角θを次式に従って算出する。
θ=θα+θβa (16)
【0089】
次に、コントローラ50は、仮想路面傾斜角θに応じて車体3を傾斜させ、車両横方向の加速度を運転者に伝達する(ステップS204)。
具体的には、コントローラ50は、仮想路面傾斜角θに応じて、能動型サスペンション4FR,4FL,4RR,4RLにおけるサスペンションの長さを変化させることで車体3を傾斜させる。
このように、車体3の姿勢変化によって生じる加速度と、視界の変化とを運転者に与えることによって、仮想的な路面の傾斜を伝達することができる。
【0090】
次いで、コントローラ50は、仮想的な路面傾斜から車輪に加わると推定される外力を算出する(ステップS205)。
仮想路面の傾斜によって車両重心点に働く力Fは、仮想路面の傾斜角θを用いて、(10)式に従って算出する。
F=m・g・sinθ (10)
この力Fが四輪に等しく働くとすると、車輪1つ当たりに働く外力fは、f=F/4となる。
【0091】
次に、コントローラ50は、ステップS205において算出した外力Fにより車両に発生するヨーレートγを算出する(ステップS206)。
具体的には、ステップS205で算出した車輪に働く外力Fを、前輪タイヤを転舵することで発生させる。転舵により発生するヨーレートγは、前後輪それぞれ2つの車輪に働く外力F1=2×fとすると、等価二輪モデルに基づく(11)〜(13)式の関係から算出できる。
【0092】
【数3】

【0093】
さらに、コントローラ50は、算出したヨーレートγから、操向輪の転舵角δを算出する(ステップS207)。
具体的には、Asをスタビリティファクタ、Vを車速、lをホイールベースとすると、転舵角δは、(14)式の関係を基に算出できる。
【0094】
【数4】

【0095】
また、コントローラ50は、リスクパラメータRPkを基に操舵反力を算出する(ステップS208)。
具体的には、リスクパラメータRPkの大きさから、(15)式に従って操舵反力TRを算出し、サーボモータ61を駆動して運転者に操舵反力を与える。ここで、係数Aは、運転者に操舵反力を与える実験によって決定した値である。
Fa=A×RPk (15)
そして、コントローラ50は、ステップS207で算出した転舵角δとなるように転舵用アクチュエータ63を制御し(ステップS209)、ステップS208で算出した操舵反力TRとなるように、サーボモータ61を制御する(ステップS210)。
この後、コントローラ50は、運転操作補助処理を繰り返す。
【0096】
以上のように、本実施形態に係る自動車1Aは、図15に示す運転操作補助処理を実行することにより、検出した障害物の種類を判別し、障害物の種類に応じたタイミングおよび傾斜角で、車体3を傾斜させる制御を行う。また、自動車1Aは、障害物までの余裕時間が短くなるほど、操舵反力を増大させる制御を行う。
そのため、運転者に対し、車体の傾斜角を制御することによって、障害物の種類を知らせることができると共に、操舵反力の強さによって、障害物までの余裕時間を知らせることができる。
【0097】
また、操舵反力による障害物回避の補助を行う場合に、車体3の傾斜制御が行われるため、車両用運転操作補助装置1の制御による回避動作を運転者が理解しやすいものとなる。そのため、運転者が装置の制御による回避動作に違和感を覚えることを抑制できる。
また、図15に示す運転操作補助処理では、車体3の傾斜制御が行われる状況は、第1群および第2群に属する障害物が検出された場合に限られるため、車体3の傾斜を付与することにより、障害物の種類を明確に運転者に伝えることができる。
さらに、自動車1Aは、車体3の傾斜角に応じて転舵制御を行うため、車体3の傾斜に対して違和感のない回避動作を実現することができる。
即ち、本発明によれば、運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うことができる。
【0098】
(第2実施形態の効果)
(1)障害物判別手段が、障害物検出手段によって検出した障害物の種類を判別し、仮想路面設定手段が、障害物判別手段の判別結果に基づいて、傾斜角を有する仮想路面を設定する。また、車体制御手段が、仮想路面設定手段によって設定した仮想路面の傾斜角と対応させて、能動型のサスペンション装置を制御し、車体を傾斜させ、操舵反力制御手段が、障害物検出手段によって検出した障害物への接近度合いに応じて、操舵反力を制御する。
【0099】
そのため、操舵反力による障害物回避の補助を行う場合に、障害物の種類に応じて車体を傾斜させるため、装置の制御による回避動作を運転者が理解しやすいものとなる。これにより、運転者が装置の制御による回避動作に違和感を覚えることを抑制できる。
また、検出した障害物に対してのみ、仮想路面の傾斜を付与するため、車体の傾斜によって、運転者に障害物の種類を明確に伝えることができる。
したがって、運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うことができる。
【0100】
(応用例1)
第1実施形態においては、自車両と左右のレーンマーカとの距離に応じて仮想路面傾斜角θ1を算出する処理、および、走行車線の曲率に応じて仮想路面傾斜角θ2を算出する処理を行う制御パターンについて説明した。また、第2実施形態においては、これらの処理を行わない制御パターンについて説明した。
これに対し、障害物が検出された状況および障害物が検出されない状況に応じて、これらの制御パターンを切り替えることができる。
即ち、障害物が検出されない場合には、コントローラ50は、自車両と左右のレーンマーカとの距離に応じて仮想路面傾斜角θ1を算出する処理、および、走行車線の曲率に応じて仮想路面傾斜角θ2を算出する処理を実行する。
【0101】
また、障害物が検出された場合、コントローラ50は、自車両と左右のレーンマーカとの距離に応じて仮想路面傾斜角θ1を算出する処理、および、走行車線の曲率に応じて仮想路面傾斜角θ2を算出する処理を停止し、障害物に関する仮想路面傾斜角を付与する。
このような制御パターンとすることにより、障害物が検出されないときには、車線内の走行を支援するために車体3を傾斜させたり、曲線路を走行する場合の運転感覚を向上させるために車体3を傾斜させたりすることができる。そして、障害物が検出されたときには、障害物に対応して、車体3を傾斜させることができる。
これにより、運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うことができる。
【0102】
(応用例2)
第1実施形態および第2実施形態においては、自車両前方の直近の1つの障害物を対象として、車体3の傾斜角を算出する(仮想路面傾斜角を算出する)こととして説明した。
これに対し、複数の障害物が検出された場合、自車両前方において、設定した余裕時間内に属する複数の障害物を対象として、車体3の傾斜制御を行うことができる。
【0103】
具体的には、設定した余裕時間内に属する複数の障害物を対象として、障害物の種類を判別し、それぞれについて仮想路面傾斜角を算出して、その算出結果を連続的につないだ仮想路面を設定して、車体3の傾斜制御を行う。
このとき、操舵反力については、複数の障害物それぞれについて算出した操舵反力のうち、各時点において、最大のものを選択して付与するものとする。
これにより、自車両前方に複数の障害物が存在する場合にも、運転者に対し、より適切に車両の運転操作の補助を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0104】
1A 自動車、1 車両用運転操作補助装置、2FR,2FL,2RR,2RL 車輪、3 車体、4FR,4FL,4RR,4RL 能動型サスペンション、5 ステアリングホイール、6 ステアリング装置、7 アクセルペダル、8 ブレーキペダル、9F,9R,9SR,9SL カメラ、10 レーザレーダ、12 車体側部材、14 車輪側部材、16FR,16FL,16RR,16RL コイルスプリング、17FR,17FL,17RR,17RL 圧力制御弁、30 車速センサ、50 コントローラ、60 操舵反力制御装置、61,81,91 サーボモータ、62 舵角センサ、63 転舵用アクチュエータ、80 アクセルペダル反力制御装置、90 ブレーキペダル反力制御装置、100 駆動力制御装置、110 制動力制御装置、120FR,120FL,120RR,120RL アクチュエータ、130FR,130FL,130RR,130RL 車体上下加速度検出器、140 車両状態検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と車体との間に介在された能動型のサスペンション装置と、
車両周囲の障害物を検出する障害物検出手段と、
前記障害物検出手段によって検出した障害物の種類を判別する障害物判別手段と、
前記障害物判別手段の判別結果に基づいて、傾斜角を有する仮想路面を設定する仮想路面設定手段と、
前記仮想路面設定手段によって設定した仮想路面の傾斜角と対応させて、前記能動型のサスペンション装置を制御し、車体を傾斜させる車体制御手段と、
前記障害物検出手段によって検出した障害物への接近度合いに応じて、操舵反力を制御する操舵反力制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用運転操作補助装置。
【請求項2】
前記仮想路面設定手段は、前記障害物判別手段によって判別された障害物の種類に応じて、前記仮想路面の傾斜角を付与するタイミングと、該仮想路面の傾斜角の大きさとを異ならせることを特徴とする請求項1記載の車両用運転操作補助装置。
【請求項3】
前記障害物判別手段は、障害物の位置の通過を許容せず、障害物に対する接近も許容しない第1の種類と、障害物の位置の通過を許容せず、障害物に対する接近を許容する第2の種類と、障害物の位置の通過を許容する第3の種類とに障害物を分類し、
前記仮想路面設定手段は、前記障害物判別手段によって第1の種類に分類された障害物に対しては、他の種類に分類された障害物と比べて最も早いタイミングで前記仮想路面の傾斜角を付与し、前記障害物判別手段によって第2の種類に分類された障害物に対しては、第1の種類に分類された障害物より遅いタイミングで前記仮想路面の傾斜角を付与し、前記障害物判別手段によって第3の種類に分類された障害物に対しては、前記仮想路面の傾斜角を付与しないことを特徴とする請求項1または2記載の車両用運転操作補助装置。
【請求項4】
前記仮想路面の傾斜角を有する路面を実際に車両が走行している場合に働く力に対応させて、操向輪の転舵角を制御する転舵角制御手段を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用運転操作補助装置。
【請求項5】
車両の走行環境を検出する走行環境検出手段を備え、
前記仮想路面設定手段は、前記走行環境検出手段が検出したレーンマーカとの距離および走行車線の曲率に応じて前記仮想路面の傾斜角を設定し、前記障害物の種類と、該障害物への接近度合いに応じて、前記仮想路面の傾斜角を補正することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用運転操作補助装置。
【請求項6】
車両周囲の障害物を検出する障害物検出ステップと、
前記障害物検出ステップにおいて検出した障害物の種類を判別する障害物判別ステップと、
前記障害物判別ステップにおける判別結果に基づいて、傾斜角を有する仮想路面を設定する仮想路面設定ステップと、
前記仮想路面設定ステップにおいて設定した仮想路面の傾斜角と対応させて、車輪と車体との間に介在された能動型のサスペンション装置を制御し、車体を傾斜させる車体制御ステップと、
前記障害物検出ステップにおいて検出した障害物への接近度合いに応じて、操舵反力を制御する操舵反力制御ステップと、
を含むことを特徴とする車両用運転操作補助方法。
【請求項7】
車体と、
車輪と前記車体との間に介在された能動型のサスペンション装置と、
車両周囲の障害物を検出する障害物検出手段と、
前記障害物検出手段によって検出した障害物の種類を判別する障害物判別手段と、
前記障害物判別手段の判別結果に基づいて、傾斜角を有する仮想路面を設定する仮想路面設定手段と、
前記仮想路面設定手段によって設定した仮想路面の傾斜角と対応させて、前記能動型のサスペンション装置を制御し、車体を傾斜させる車体制御手段と、
前記障害物検出手段によって検出した障害物への接近度合いに応じて、操舵反力を制御する操舵反力制御手段と、
を備えることを特徴とする自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−46344(P2011−46344A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198158(P2009−198158)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】