金属相含有酸化インジウム焼結体及びその製造方法
【課題】スパッタ時のノジュールの発生を抑制できる酸化インジウムスパッタリングターゲット並びに酸化インジウム焼結体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化インジウムスパッタリングターゲットを酸化インジウム相と金属相を有する酸化インジウム焼結体により構成する。また、インジウム化合物と金属微粒子を混合した粉末又はインジウム化合物と金属酸化物微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することにより、酸化インジウム相と金属相を有する酸化インジウム焼結体を製造する。
【解決手段】酸化インジウムスパッタリングターゲットを酸化インジウム相と金属相を有する酸化インジウム焼結体により構成する。また、インジウム化合物と金属微粒子を混合した粉末又はインジウム化合物と金属酸化物微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することにより、酸化インジウム相と金属相を有する酸化インジウム焼結体を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングによって酸化物膜を形成する際に使用する酸化インジウム焼結体(スパッタリングタ−ゲット)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム及び酸化スズからなるITO膜は、導電性と可視光透過性を有しているので、液晶表示装置等の表示装置の透明電極や、スイッチング素子、駆動回路素子等、多岐の用途に使用されている。
ITO膜の成膜に使用するITOターゲットにおいて、酸化スズは、酸化インジウム中に固溶分散することにより、ITOターゲット中にキャリヤーを発生していると考えられている。これにより、ITOスパッタリングターゲットのバルク抵抗は0.1mΩcm程度と非常に低くなっている。
【0003】
ITOターゲットを使用したITO膜の形成においては、成膜時のノジュールの発生が問題となっている。ノジュールとは、スパッタ中にターゲット表面に出現する黒色突起物で、これが発生するとパーティクルが増加し、ITO膜の不良を生じさせる一因となる。
【0004】
ノジュールの発生原因については、以下のような説がある。
(1)空孔内に堆積した低級酸化物が核となって掘れ残るとする説
(2)ターゲット上に柱状晶的なIn2O3の成長物が発生し、それを核としてターゲットが掘れ残るとする説
(3)スパッタリングチャンバー内に発生した高抵抗のパーティクルがターゲット上に付着し、これを核として掘れ残りが発生するとする説
(4)スパッタリング率の入射角度依存性により掘れ残りが発生するとする説
(5)異常放電により発生する高抵抗物質を核として掘れ残りが発生するとする説
【0005】
その他、酸化スズ粒子がITOターゲット中に存在することによりノジュールが発生するという考えがあり、酸化スズを酸化インジウム中に完全固溶する製造方法が提案されている。
【0006】
ノジュールの防止策としては、以下のような対策が提案されている。
(1)ターゲットの高密度化
(2)ターゲット表面の表面粗さの低下
(3)ターゲットの一体成形化(分割のないもの)
(4)エロージョンへのパーティクル付着防止
(5)ターゲットのエッジ部等でのアーキング防止処理
しかしながら、ノジュールの発生を完全に抑えることは、未だ達成されていない。
【0007】
ITO膜を形成するためのスパッタリングターゲットとして、例えば、特許文献1には、部分還元された酸化インジウム−酸化スズの粉末混合粉若しくは共沈粉末から製造したターゲットが記載されている。
また、特許文献2には、微細な金属インジウム−スズの酸化により製造した原料粉末を使用し、熱間圧縮又は静水圧熱間圧縮にて製造する方法が記載されている。
また、特許文献3には、酸化インジウム粉末に、金属珪素、チタン、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、スズ及びタングステンからなる群から選択した少なくとも一種以上の金属粉末又は酸化物粉末を、ホットプレスにて成形、焼結することで、高密度のスパッタリングターゲットを製造する方法が記載されている。尚、実施例では酸化インジウムと金属タングステン若しくは酸化タングステンに関する記載があるのみである。
【0008】
しかしながら、これらの技術では、酸化物粉末の焼結時に金属粒子が酸化もしくは偏析したり、また、スパッタリングの際に生じるスパッタ粒子のバルク抵抗がスパッタリングターゲットのバルク抵抗よりも低くなるように制御できず、ノジュールの発生を抑制することができないおそれがある。
【0009】
放電プラズマ焼結法としては、例えば、特許文献4に酸化物微粒子を放電プラズマ焼結する酸化物微粒子、高密度焼結体の製造方法に関する記載がある。
また、特許文献5には、酸化インジウムと酸化スズを原料として、パルス電流を通電して通電焼結させるインジウム−スズ酸化物焼結体の製造方法が記載されている。焼結体の密度は6.5g/cm3(相対密度:92%)程度である。
【特許文献1】特開平8−41634号公報
【特許文献2】特開平9−170076号公報
【特許文献3】特開2006−2202号公報
【特許文献4】特開平10−251070号公報
【特許文献5】特開2003−81673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、スパッタ時のノジュールの発生を抑制できる酸化インジウム焼結体(スパッタリングターゲット)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討の結果、酸化インジウム相と金属相を有する焼結体からなるターゲットではノジュールの発生が抑えられることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の酸化インジウム焼結体等が提供される。
1.酸化インジウム相と金属相を有することを特徴とする酸化インジウム焼結体。
2.前記金属相の含有量が焼結体全体の1wt%〜30wt%であることを特徴とする1記載の酸化インジウム焼結体。
3.前記金属相の平均粒径が、20μm未満であることを特徴とする1又は2に記載の酸化インジウム焼結体。
4.前記金属相が、金属スズ及び/又は金属亜鉛からなることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体。
5.前記酸化インジウム相の一部が、他の金属元素の酸化物により置換固溶されていることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体。
6.上記1〜5のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体からなるスパッタリングターゲット。
7.インジウム化合物と金属微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することを特徴とする1〜4記載のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体の製造方法。
8.インジウム化合物と金属酸化物微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することを特徴とする1〜5のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体の製造方法。
9.上記6に記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングして得られる酸化物薄膜。
10.前記酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、9に記載の酸化物薄膜。
11.酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)上記10の酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(ii)前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む、薄膜トランジスタの製造方法。
12.上記11に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、酸化インジウム焼結体の高密度化を図ると共に、バルク抵抗値を、より低抵抗に制御できるため、ノジュールの発生が無いスパッタリングターゲットが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の酸化インジウム焼結体は、酸化インジウム相と金属相を含有することを特徴とする。
金属相を形成する金属としては、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム元素(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、セリウム(Ce)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)又は珪素(Si)が挙げられる。金属相は、これら金属単体からなっていてもよく、また、2種以上からなっていてもよい。
【0014】
金属相を形成する金属は、特にSn及び/又はZnであることが好ましい。
本発明の焼結体がSnを含む場合に、スパッタリングにより得られる膜は、ITO膜であり、亜鉛元素を含む場合には、酸化インジウム−酸化亜鉛膜(例えば、IZO(出光興産(株)の登録商標))が得られる。さらに、スズ、亜鉛を同時に含有する場合には、酸化インジウム−酸化亜鉛―酸化スズ膜が得られる。それぞれ、用途に応じて使い分けることが出来る。酸化インジウム−酸化亜鉛−酸化スズ膜は、インジウム量を減らすことができるため、省インジウム系の透明導電膜としても有効である。
【0015】
金属相の含有量は、焼結体全体の1wt%〜30wt%であることが好ましく、より好ましくは1〜20wt%、さらに好ましくは2〜15wt%である。1wt%〜30wt%であれば、焼結体のバルク抵抗を適切な範囲に制御でき、高密度の焼結体が得られるため好ましい。
金属相の含有量は、例えば、原料である金属微粒子等の配合量を調整することにより制御できる。
【0016】
また、金属相の平均粒径は、20μm未満であることが好ましく、さらに、0.1〜15μmより好ましく、1〜10μmが特に好ましい。
金属相の平均粒径は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)の面分析により測定した値である。具体的には、50×50ミクロン視野における酸素と金属の面分析を行い、酸素が含まれてない部分を金属相として、その金属相の粒の長径を算出し、視野内の粒子径の平均値を平均粒径とした。
【0017】
本発明の酸化インジウム焼結体では、金属相を酸化インジウム中に分散させることにより、得られる焼結体のバルク抵抗値を、酸化物を置換固溶した酸化インジウムのバルク抵抗値と比べて、高く制御できる。これにより、スパッタリング時に生じるスパッタ粒子のバルク抵抗が、スパッタリングターゲットのバルク抵抗よりも低くなり、スパッタリングターゲット上に堆積したスパッタ粒子の再スパッタが可能となる。これにより、ノジュールが全く発生しないスパッタリングターゲットが得られる。
【0018】
酸化インジウム焼結体の密度は、6.580〜7.3014g/cm3が好ましく、より好ましくは、6.890〜7.2014g/cm3、さらに好ましくは6.95〜7.14である。6.580g/cm3以上であれば安定したスパッタ放電が可能であるため好ましい。特に、酸化インジウムの真密度である7.2g/cm3以下であれば、酸化インジウム自体が金属インジウムに変換される場合もなく、スプラッシュ現象等の異常放電の発生も抑制できるため好ましい。
尚、スプラッシュとは、スパッタリングターゲット表面上に析出する低融点物質が小さな液状滴になり、ガラス基板に付着する現象をいう。マイクロポアの存在、結晶粒粗大による異常放電現象、酸化物の存在による異常放電現象が主たる要因である。
密度は、20×20×20mm程度の大きさの焼結体試料片をアルキメデス法により測定した値である。
【0019】
本発明の焼結体においては、酸化インジウム相の一部が、他の金属(R)の酸化物により置換固溶されていてもよい。
他の金属元素(R)としては、例えば、亜鉛、スズ、イットリウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、珪素及びランタノイドから選ばれた1種類以上の金属元素が挙げられる。
尚、ランタノイドとは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuである。
【0020】
ここで、他の金属(R)の酸化物が固溶した酸化インジウム相は、X線回折から計算した格子定数(格子間距離)の変化や、高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。具体的には、X線回折パターンのピークシフトから、結晶構造の軸長変化により判断することができる。尚、置換固溶により軸長が短くなった場合は、X線回折パターンのピークが高角度側にシフトする。さらに、格子定数はリートベルト解析を用いて求める。
【0021】
他の金属元素(R)の酸化物を含有する場合、本発明の焼結体は、特に、インジウム元素(In)、他の金属元素(R)及び金属相の金属(M)の各元素の原子比が、下記の式(1)〜(3)の関係を満たすことが好ましい。
0.33≦In/(In+R+M)<0.99 (1)
0.01≦M/(In+R+M)≦0.50 (2)
0.00<R/(In+R+M)≦0.10 (3)
特に、下記の式(1)’〜(3)’の関係を満たすことが好ましい。
0.50≦In/(In+R+M)<0.95 (1)’
0.05≦M/(In+R+M)≦0.30 (2)’
0.00<R/(In+R+M)≦0.05 (3)’
【0022】
本発明の焼結体は、さらに、正四価以上の金属元素(X)を含むことが好ましい。
正四価以上の金属元素(X)としては、例えば、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びチタンから選ばれた1種以上の元素であることが好ましい。
【0023】
正四価以上の金属元素(X)の含有量(原子比)は、酸素原子を除く焼結体の全原子数に対し、10〜10000ppmが好ましく、100〜5000ppmがより好ましく、200〜1000ppmが特に好ましい。10ppm以上であれば、相対密度が向上し、バルク抵抗が低下し、抗折強度が向上するといった効果を十分に発揮でき、また、10000ppm以下であれば、希土類酸化物C型以外の結晶型が析出するおそれもないので好ましい。
【0024】
本発明の酸化インジウム焼結体は、例えば、インジウム化合物と金属微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することにより製造できる(第1の製造方法)。図1は本発明の第1の製造方法の工程図である。
第1の製造方法では、放電プラズマ焼結前に仮焼きしてもよい。図2は本発明の第1の製造方法に仮焼工程を採用した場合の工程図である。
【0025】
また、インジウム化合物と、金属元素(R)の化合物及び/又は金属元素(X)の化合物を混合した原料を焼結し(前焼結)、得られた焼結体の粉砕物と金属微粒子を混合した原料混合物を、放電プラズマ焼結することにより製造できる(第2の製造方法)。
図3は本発明の第2の製造方法の工程図である。以下、2つの製造方法について説明する。
【0026】
(A)第1の製造方法
本発明の第1の製造方法は、以下の工程(a)〜(c)を含む。
(a)原料化合物粉末及び金属粒子を混合する工程
(b)混合粉を成形する工程
(c)得られた原料混合物を、放電プラズマ焼結(パルス通電焼結)法を用いて焼結する工程
【0027】
(a)混合工程
本工程では、原料粉末である原料化合物粉末及び金属粒子を混合する。
原料化合物粉としては、焼結により酸化インジウム相を形成する化合物、酸化インジウム相の一部を固溶置換する金属元素(R)を含む化合物、正四価以上の金属元素(X)を含む化合物等が挙げられる。
【0028】
酸化インジウム相を形成するインジウム化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム等が挙げられる。酸化物としては酸化インジウム単体に限らず、酸化インジウムに1種類以上の酸化物添加元素を反応させた原料を使用することも可能である。
尚、酸化インジウムは金属元素(R)により固溶置換されたものであっても構わない。この場合、金属元素(R)の含有量は、インジウム元素(In)との原子比で0.01<R/(In+R)<0.1となることが好ましい。
【0029】
金属元素(R)を含む化合物及び正四価以上の金属元素(X)を含む化合物としては、金属元素(R)又は金属元素(X)の、酸化物、水酸化物等が挙げられる。
各々の化合物として、焼結のしやすさ、副生成物の発生の少なさから、酸化物が好ましい。
【0030】
金属粒子としては、特に制限はなく、上述した金属相を形成する金属の粒子が使用できる。尚、金属粒子の代わりに、還元等により単体金属となる化合物を使用してもよい。金属粒子は、後の混合工程により微粒子となる。
【0031】
上記各原料は、公知の混合及び粉砕手段により混合及び粉砕する。各原料の純度は、通常99.9質量%(3N)以上、好ましくは99.99質量%(4N)以上、さらに好ましくは99.995質量%以上、特に好ましくは99.999質量%(5N)以上である。各原料の純度が99.9質量%(3N)以上であれば、Fe、Al、Si、Ni、Cu等の不純物により半導体特性が低下することもなく、信頼性を十分に保持できる。特にNa含有量が100ppm未満であると薄膜トランジスタを作製した際に信頼性が向上するため好ましい。
【0032】
尚、原料として使用する金属元素(R)又は金属元素(X)の化合物粉末の平均粒径は、インジウム化合物粉末の平均粒径よりも小さいことが好ましい。原料の金属化合物粉末の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0033】
各原料粉末の比表面積は、ほぼ同じである粉末を使用することが好ましい。これにより、より効率的に粉砕混合できる。具体的には、比表面積の比を1/4〜4倍以内にすることが好まく、1/2〜2倍以内が特に好ましい。
【0034】
原料化合物粉と金属粒子の混合は、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミル、ビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。混合・粉砕後に得られる混合物の平均粒径は0.5〜20μmが好ましく、0.5〜15μmがより好ましい。平均粒径が0.5〜20μmの範囲であれば、ノジュールの発生を抑制でき、かつ、分散が均一となり、大型焼結体での抵抗値のバラツキが小さくなることから、異常放電も抑制できるため、好適である。
ここで平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0035】
各原料粉末の比表面積は、例えば、2〜10m2/g、好ましくは4〜8m2/gであることが適当である。各原料粉同士の比表面積の差は、5m2/g以下、好ましくは3m2/g以下とすることが好ましい。比表面積の差が小さいほど、原料粉末を効率的に粉砕・混合することができ好ましい。尚、比表面積は、BET法で求めることができる。
【0036】
粉砕後の比表面積は、粉砕前の原料混合粉の比表面積より1.0〜3.0m2/g増加する程度か、又は粉砕後の平均メジアン径(d50)が0.6〜1μmとなる程度に粉砕することが好ましい。このように調整した原料混合粉を使用することにより、仮焼工程を全く必要とせずに、高密度の焼結体を得ることができる。また、還元工程も不要となる。
尚、上記原料混合粉の比表面積の増加分が1.0m2/g以上又は粉砕後の原料混合粉の平均メジアン径が1μm以下であれば、焼結密度が十分に大きくなるので好ましい。一方、原料混合粉の比表面積の増加分が3.0m2/g以下又は粉砕後の平均メジアン径が0.6μm以上であれば、粉砕時の粉砕器機等からのコンタミ(不純物混入量)が増加することもないので好適である。
ここで、粉体の比表面積はBET法で測定した値である。粉体の粒度分布のメジアン径は、粒度分布計で測定した値である。これらの値は、粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
【0037】
混合粉砕の際、ポリビニールアルコール(PVA)を1容積%程度添加した水、又はエタノール等を媒体として用いてもよい。
各原料粉末のメジアン径(d50)は、例えば、0.5〜20μm、好ましくは1〜10μmとすることが好ましい。原料粉末のメジアン径(d50)が0.5μm以上であれば、焼結体中に空胞ができ焼結密度が低下することを防ぐことができ、20μm以下であれば、焼結体中の粒径の増大が防げるので好ましい。
【0038】
(a’)仮焼工程
上記(a)工程の後に、仮焼工程(a’)を実施してもよい。
仮焼工程では、上記(a)工程で得られた原料混合粉が仮焼される。仮焼を行うことにより、余分な水分や有機物等を除去するため最終的に得られる焼結体の密度を上げることが容易になる。
仮焼工程においては、(a)工程で得られた混合物を200〜600℃、好ましくは、400〜550℃の温度で、1〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で熱処理することが好ましい。200℃以上かつ1時間以上の熱処理条件であれば、水分や有機物等の蒸発や熱分解が十分に行われるので好ましい。熱処理条件が600℃以下及び100時間以下であれば、粒子が粗大化することもないので好適である。
【0039】
さらに、ここで得られた仮焼後の原料混合粉を、続く焼結工程の前に粉砕することが好ましい。この仮焼後の混合物の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて行うことが適当である。粉砕後に得られた仮焼後の混合物の平均粒径は、例えば、0.01〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μmである。得られた仮焼後の混合物の平均粒径が0.01μm以上であれば、混合物の嵩比重を十分高くでき、かつ取り扱いが容易になるので好ましい。また、仮焼物の平均粒径が3.0μm以下であれば最終的に得られる焼結体の密度を上げることが容易になる。
尚、仮焼物の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0040】
(b)成形
放電プラズマ焼結では、原料混合粉を放電プラズマ焼結装置のカーボンダイス又はアルミナ製ダイス中に入れ、両方向から加圧し成形する。
【0041】
(c)焼結工程
焼結工程は、上記工程で得られた原料混合粉(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼後の混合物)を放電プラズマ焼結する工程である。
ターゲットの性能を向上させる上で、焼結体中の粒子径の大きさ等の組織制御が重要である。その一つとして、焼結時の粒子成長を抑え、数マイクロメータ以下の微細な粒子からなる組織を形成することで、ターゲットの抵抗の制御等が可能となる。また、真空中で電気を導通しながら焼結することにより金属微粒子の粒成長を抑えるとともに、酸化反応を抑えることができる。
【0042】
放電プラズマ焼結では、原料混合粉を放電プラズマ焼結装置のカーボンダイス又はアルミナ製ダイス中に入れ、真空中(不活性雰囲気、大気中でも可)で両方向から加圧し、加圧した状態で、ダイス(試料)に直流パルス通電し、生成する放電プラズマによる発熱を利用し、焼結を行う。
放電プラズマ焼結時の圧力は、10MPa〜100MPaが好ましく、さらに30MPa〜90MPaが好ましく、特に、40MPa〜80MPaが好ましい。
焼結時間は、1分〜10時間が好ましく、さらに3分〜5時間、特に5分〜2時間が好ましい。
焼結温度は、600℃〜1300℃が好ましく、さらに、700℃〜1200℃、特に800℃〜1150℃が好ましい。
印加電流電圧は、1KA〜200KA、1V〜10Vで温度により自動的に制御されることが好ましい。より好ましくは1.5KA〜100KA、1V〜10V、特に好ましくは1.5KA〜100KA、1V〜10Vである。
【0043】
上記の焼結条件により、金属微粒子の状態、即ち、原料混合粉の粒径を保持したまま含有する焼結体を容易に製造することができる。また、通常の常圧焼結やホットプレス焼結に比べ、焼結温度を低く、また焼結時間を短くすることができる。
【0044】
焼結体中の酸化インジウム粒子及び金属微粒子は、数マイクロメータの微細な粒子からなる組織を形成する。これにより、原料混合粉体の焼結時における金属微粒子の偏析を抑制し、高密度な酸化インジウム焼結体を製造できる。これにより、スパッタリングの際に生じるフレークとターゲット間のバルク抵抗の差を小さく制御することができ、ノジュールの発生を抑制することができる。
尚、放電プラズマ焼結法を用いることにより、金属酸化物を還元することで、低温で且つ短時間に、金属微粒子含有酸化インジウム焼結体を製造することも出来る。
【0045】
(B)第2の製造方法
本発明の第2の製造方法は、以下の工程(a)〜(f)を含む。
(a)原料化合物粉を混合する工程
(b)得られた混合物を成形し、焼結(前焼結)する工程
(c)焼結体を粉砕する工程
(d)焼結体の粉砕物と金属微粒子を混合する工程
(e)混合粉を成形する工程
(f)原料混合粉を、放電プラズマ焼結(パルス通電焼結)法を用いて焼結する工程
【0046】
(a)混合工程
本工程は、金属微粒子を使用せず、2種以上の原料化合物を用いる他は、上述した第1の製造方法の混合工程と同じである。仮焼工程(a’)についても同様である。
2種以上の原料化合物としては、酸化インジウムと、上述した金属元素(R)を含む化合物及び正四価以上の金属元素(X)を含む化合物から選択させる1種以上の化合物との組み合わせが挙げられる。
【0047】
(b)成形・前焼結工程
(b−1)成形
成形工程は、原料混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼後の混合物)を金型に入れ、加圧成形して成形体とする工程である。この工程により、混合物(又は仮焼後の混合物)をスパッタリングターゲットとして好適な形状に成形する。仮焼工程を設けた場合には、得られた仮焼後の混合物の微粉末を、所望の形状に成形することができる。
本工程で用いることができる成形処理としては、例えば、プレス成形、一軸加圧、加圧成形、冷間静水圧加圧、金型成形、鋳込み成形射出成形が採用できる。鋳型としては様々形状のものが使用できる。焼結密度の高い焼結体(スパッタリングターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等加圧を伴う方法で成形するのが好ましい。尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
成形処理に際しては、SiNxやカーボン等を離型剤として用いてもよい。
【0048】
プレス成形としては、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法等、公知の成形方法を用いることができる。例えば、得られた混合粉を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形する。加圧成形は、例えば、常温(25℃)下、100〜100000kg/cm2、好ましくは、500〜10000kg/cm2の圧力で行われる。さらに、温度プロファイルは、1000℃までの昇温速度を30℃/時間以上、冷却時の降温速度を30℃/時間以上とするのが好ましい。昇温速度が30℃/時間以上であれば酸化物の分解が進むこともなく、ピンホールも発生しない。また冷却時の降温速度が30℃/時間以上であればIn等の組成比が変化するおそれもない。
【0049】
尚、コールドプレス法は、混合粉を成形型に充填して成形体を作製し、焼結させる。ホットプレス法では、混合粉を成形型内で直接焼結させる。
乾式法のコールドプレス(Cold Press)法としては、粉砕工程後の原料をスプレードライヤー等で乾燥した後、成形する。
【0050】
湿式法のコールドプレスとしては、例えば、濾過式成形法(特開平11−286002号公報参照)を用いるのが好ましい。この濾過式成形法は、セラミックス原料スラリーから水分を減圧排水して成形体を得るための非水溶性材料からなる濾過式成形型であって、1個以上の水抜き孔を有する成形用下型と、この成形用下型の上に載置した通水性を有するフィルターと、このフィルターをシールするためのシール材を介して上面側から挟持する成形用型枠からなり、前記成形用下型、成形用型枠、シール材、及びフィルターが各々分解できるように組立てられており、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水する濾過式成形型を用い、混合粉、イオン交換水と有機添加剤からなるスラリーを調製し、このスラリーを濾過式成形型に注入し、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を作製し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂後焼結する。
【0051】
(b−2)前焼結工程
本工程では、得られた成形体を焼結(前焼結)する。
焼結は、酸素ガス雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下で、大気圧又は加圧下で行う。
酸素ガス雰囲気で焼結を行うことにより、焼結体の密度が上昇しやすくなり、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制できるので好ましい。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば、10〜100%である雰囲気を言う。焼成は大気圧下又は加圧下で行うことができる。加圧は、例えば、98KPa〜1MPa、好ましくは、0.1〜5MPaであることが適当である。
【0052】
焼結温度は900〜1650℃が好ましく、1000〜1550℃がさらに好ましい。焼結温度が900℃以上であれば、スパッタリングターゲットの密度を上昇しやすくなり、適度な時間内に焼結を行うことができる。1650℃以下であれば、成分が気化することもなく、亜鉛が蒸発し焼結体の組成が変化する及び/又はターゲット中にボイド(空隙)が発生するおそれもないので好適である。
焼結時間は30分〜360時間が好ましく、1〜100時間がさらに好ましく、1〜30時間が特に好ましい。焼結時間が30分以上であれば、焼結体の密度が上昇しやすくなり、360時間以下であれば、適度な時間内に焼結を行うことができる。
また、焼結時の昇温速度は、通常20℃/分以下、好ましくは8℃/分以下、より好ましくは4℃/分以下、さらに好ましくは2℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。20℃/分以下であれば、焼結体の破壊が起こらずに焼結ができる。
【0053】
(c)焼結体を粉砕する工程
上記(b)で得た前焼結体の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて行うことが適当である。粉砕により、平均粒径を0.01〜3.0μm、特に0.1〜2.0μmとすることが好ましい。
尚、平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0054】
上記の前焼結及び粉砕は複数回、例えば、3回以上繰り返してもよい。
【0055】
(d)得られた焼結体の粉砕物と金属微粒子を混合する工程
焼結体の粉砕物と金属微粒子の混合は、上述した第1の製造方法の混合工程と同様にすればよい。
【0056】
(e)成形及び(f)放電プラズマ焼結(パルス通電焼結)工程
上記工程(d)で得た原料混合粉体を使用し、上述した第1の製造方法の焼結工程(b)(c)と同様にすればよい。
【0057】
上述した第1及び第2の製造方法は、後工程として、さらに以下の工程を含んでいてもよい。
(g)放電プラズマ焼結後、さらに焼結する工程(後焼結工程)
(h)得られた焼結体を還元処理する工程(還元工程)
(i)焼結体をスパッタリング装置への装着に適した形状に加工する工程(加工工程)
【0058】
(g)後焼結工程
後焼結条件としては、酸素ガス雰囲気下あるいは窒素ガス雰囲気下、大気圧又は加圧下で、熱処理温度は900〜1650℃が好ましく、1000〜1550℃がさらに好ましい。焼結時間は、30分〜360時間が好ましく、1〜100時間がさらに好ましく、1〜30時間が特に好ましい。焼結温度が900℃以上であれば、スパッタリングターゲットの密度を上昇しやすくなり、適度な時間内に焼結を行うことができる。1650℃以下であれば、成分が気化することもなく、亜鉛が蒸発し焼結体の組成が変化する及び/またはターゲット中にボイド(空隙)が発生するおそれもないので好適である。さらに、焼結時間が30分以上であれば、スパッタリングターゲットの密度が上昇しやすくなり、360時間以下であれば、適度な時間内に焼結を行うことができる。また、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス雰囲気で焼結を行うことにより、スパッタリングターゲットの密度が上昇しやすくなり、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制できるので好ましい。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば、10〜100%である雰囲気を言う。焼結は大気圧下又は加圧下で行うことができる。加圧は、例えば、98KPa〜1MPa、好ましくは、0.1〜5MPaであることが適当である。
また、焼結時の昇温速度は、通常20℃/分以下、好ましくは8℃/分以下、より好ましくは4℃/分以下、さらに好ましくは2℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。20℃/分以下であれば、焼結体の破壊が起こらずに焼結ができる。
【0059】
(h)還元工程
還元工程は、上記焼結工程で得られた焼結体のバルク比抵抗を焼結体全体として均一化するために還元処理を行う任意工程である。
本工程で適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスを循環させる方法、真空中で焼成する方法、及び不活性ガス中で焼成する方法等が挙げられる。
還元性ガスとしては、例えば、水素、メタン、一酸化炭素、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
尚、還元処理時の温度は、通常100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜5時間、好ましくは0.05〜1時間である。
還元ガスや不活性ガスの圧力は、例えば、9.8〜1000KPa、好ましくは、98〜500KPaである。真空中で焼結する場合、真空とは、具体的には、10−1〜10−8Pa、好ましくは10−2〜10−5Pa程度を言い、残存ガスはアルゴンや窒素等である。
【0060】
(i)加工工程
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、また、バッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。
スパッタリングターゲットの厚みは、通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmである。スパッタリングターゲットの表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番〜10,000番のダイヤモンド砥石を使用すれば、スパッタリングターゲットが割れることもないので好ましい。また、複数のスパッタリングターゲットを一つのバッキングプレートに取り付け、実質一つのターゲットとしてもよい。バッキングプレートとしては、例えば、無酸素銅製のものが挙げられる。
【0061】
本発明の酸化物薄膜は、上述した本発明のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングして得られる。これにより、電子キャリア濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜(酸化物半導体)、若しくは電子キャリア濃度が1×1020/cm3以上のアモルファス酸化物薄膜(透明導電膜)を形成することができる。
スパッタリング法としては、DC(直流)スパッタ法、AC(交流)スパッタ法、RF(高周波)マグネトロンスパッタ法、エレクトロンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。DC(直流)スパッタ法及びRF(高周波)スパッタ法が好ましく利用される。
スパッタ時の成膜温度は、スパッタ法によって異なるが、例えば、25〜450℃、好ましくは、25〜300℃、より好ましくは、25〜250℃であることが適当である。ここで、成膜温度とは、薄膜を形成する基板の温度である。
スパッタ時のスパッタリングチャンバー内の圧力は、スパッタ法によって異なるが、例えば、DC(直流)スパッタ法の場合は、0.1〜2.0MPa、好ましくは、0.3〜0.8MPaであり、RF(高周波)スパッタ法の場合は0.1〜2.0MPa、好ましくは、0.3〜0.8MPaであることが適当である。
スパッタ時に投入される電力出力は、スパッタ法によって異なるが、例えば、DC(直流)スパッタ法の場合は、10〜1000W、好ましくは、100〜300Wであり、RF(高周波)スパッタ法の場合は、10〜1000W、好ましくは、50〜250Wであることが適当である。
RF(高周波)スパッタ法の場合の電源周波数は、例えば、50Hz〜50MHz、好ましくは、10k〜20MHzであることが適当である。
スパッタ時のキャリアーガスとしては、スパッタ法によって異なるが、例えば、酸素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、クリプトンが挙げられる。好ましくは、アルゴンと酸素の混合ガスである。アルゴンと酸素の混合ガスを使用する場合、アルゴン:酸素の流量比は、Ar:O2=100〜80:0〜20、好ましくは、99.5〜90:0.5〜10であることが適当である。
【0062】
スパッタリングに先立ち、スパッタリングターゲットを支持体に接着(ボンディング)する。これは、ターゲットをスパッタリング装置に固定するためである。
ボンディングしたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行い、基板上にIn及びZnの酸化物を主成分とする酸化物薄膜を得る。ここで、「主成分とする」とは、酸素を除く元素の原子比の和を100%として、In及びZnの各元素を原子比で50%以上含むことを意味する。
基板としては、ガラス、樹脂(PET、PES等)等を用いることができる。
得られたアモルファス酸化物薄膜の膜厚は、成膜時間やスパッタ法によっても異なるが、例えば、5〜300nm、好ましくは、10〜90nmであることが適当である。
また、得られる酸化物薄膜の電子キャリア濃度は、例えば、1×1018/cm3未満、好ましくは、5×1017〜1×1012/cm3であることが適当である。
さらに、得られた酸化物薄膜の密度は、6.0g/cm3以上、好ましくは、6.1〜7.2g/cm3であることが適当である。このような密度であれば、得られた酸化物薄膜においても、ノジュールやパーティクルの発生が少なく、膜特性に優れた酸化物薄膜を得ることができる。
【0063】
本発明の酸化物薄膜は、そのまま、あるいは熱処理することで薄膜トランジスタ、チャネル層、太陽電池、ガスセンサー等の半導体膜、又はタッチパネル等の表示素子、太陽電池等の透明導電膜として使用することができる。特に、半導体膜としては薄膜トランジスタのチャネル層(半導体層)、透明導電膜としてはフラットパネル用透明電極として好適である。
以下、本発明の酸化物薄膜を薄膜トランジスタのチャネル層に適用した例について説明する。
【0064】
図4は、薄膜トランジスタの一例の概略断面図である。
この薄膜トランジスタは、ガラス基板等の基板1上にゲート電極2を形成してある。ゲート電極2を覆うようにゲート絶縁膜3を有し、その上にチャネル層4がある。チャネル層4の両端部に、ソース電極5及びドレイン電極6のいずれか一方が形成されている。ソース電極5及びドレイン電極6の一部を除き、保護膜7が形成されている。
【0065】
尚、図4に示す薄膜トランジスタでは、ソース電極5及びドレイン6電極の形成後に保護膜7を形成しているが、これに限らず、例えば、図5に示す薄膜トランジスタとしてもよい。
図5の薄膜トランジスタでは、ガラス基板等の基板11上にゲート電極12を形成してある。ゲート電極12を覆うようにゲート絶縁膜13を有し、その上にチャネル層14がある。チャネル層14上に保護膜15(エッチングストッパー)を形成し、その後、ソース電極・ドレイン電極17を形成している(図5(1))。その後、ソース電極・ドレイン電極17をエッチング等によりパターニングする(図5(2))
本発明の酸化物薄膜は、チャネル層4、14として好適に使用できる。
【0066】
本発明の酸化物薄膜をチャネル層4として使用する場合、酸化物薄膜と酸化物絶縁体層を積層構造とし、下記の工程を含む方法で製造することが好ましい。
(i)本発明の酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程
(ii)前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程
【0067】
上記工程(i)では、酸化雰囲気中で酸化物薄膜を熱処理する。酸化雰囲気とは、例えば、酸素ガス雰囲気中でよい。
また、熱処理は、例えば、100〜450℃、好ましくは150〜350℃で、0.1〜10時間、好ましくは、0.5〜2時間行う。これにより、酸化物薄膜の半導体特性を安定化できる。
【0068】
上記工程(ii)では、熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する。酸化物絶縁体層は、半導体の保護膜として機能する。
酸化物絶縁体層の方法としては、例えば、CVD法やスパッタ法が挙げられる。
酸化物絶縁体層としては、例えば、SiO2,SiNx,Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3であり、特に好ましくはSiO2,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
【0069】
酸化物絶縁体層は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
また、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましく、非晶質であることが特に好ましい。非晶質膜であれば界面の平滑性が良好となり、高いキャリア移動度を維持することができ、閾値電圧やS値が大きくなりすぎることもない。
尚、S値(Swing Factor)とは、オフ状態からゲート電圧を増加させた際に、オフ状態からオン状態にかけてドレイン電流が急峻に立ち上がるが、この急峻さを示す値である。下記式で定義されるように、ドレイン電流が1桁(10倍)上昇するときのゲート電圧の増分をS値とする。
S値=dVg/dlog(Ids)
S値が小さいほど急峻な立ち上がりとなる(「薄膜トランジスタ技術のすべて」、鵜飼育弘著、2007年刊、工業調査会)。S値が大きいと、オンからオフに切り替える際に高いゲート電圧をかける必要があり、消費電力が大きくなるおそれがある。
また、S値は0.8V/dec以下が好ましく、0.3V/dec以下がより好ましく、0.25V/dec以下がさらに好ましく、0.2V/dec以下が特に好ましい。0.8V/decより大きいと駆動電圧が大きくなり消費電力が大きくなるおそれがある。特に、有機ELディスプレイで用いる場合は、直流駆動のためS値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減できるため好ましい。
【0070】
以下、本発明の電界効果型トランジスタを構成部材について説明する。
1.基板
基板としては、特に制限はなく、本技術分野で公知のものを使用できる。例えば、ケイ酸アルカリ系ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス基板、シリコン基板、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等の高分子フィルム基材等が使用できる。基板や基材の厚さは0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板の場合は、化学的に、或いは熱的に強化させたものが好ましい。透明性や平滑性が求められる場合は、ガラス基板、樹脂基板が好ましく、ガラス基板が特に好ましい。軽量化が求められる場合は樹脂基板や高分子機材が好ましい。
【0071】
2.半導体層(チャネル層)
半導体層は、上述したとおり本発明のスパッタリングターゲットを使用して酸化物薄膜を形成することで作製できる。
本発明において、半導体層は非晶質膜であることが好ましい。非晶質膜であることにより、絶縁膜や保護膜との密着性が改善される、大面積でも均一なトランジスタ特性が容易に得られることとなる。ここで、半導体層が非晶質膜であるか否かは、X線結晶構造解析により確認できる。明確なピークが観測されない場合が非晶質である。
バンドギャップが2.0〜6.0eVであることが好ましく、特に、2.8〜5.0eVがより好ましい。バンドギャップは、2.0eV以上であれば、可視光を吸収し電界効果型トランジスタが誤動作するおそれもない。一方、6.0eV以下であれば、キャリアが供給されにくくなり電界効果型トランジスタが機能しなくなるおそれも低い。
半導体層は、熱活性型を示す非縮退半導体であることが好ましい。非縮退半導体であれば、キャリアが多すぎてオフ電流・ゲートリーク電流が増加する、閾値が負になりノーマリーオンとなるなどの不利益を回避できる。半導体層が非縮退半導体であるか否かは、ホール効果を用いた移動度とキャリア密度の温度変化の測定を行うことにより判断できる。また、半導体層を非縮退半導体とするには、成膜時の酸素分圧を調整する、後処理をすることで酸素欠陥量を制御しキャリア密度を最適化することで達成できる。
【0072】
半導体層の表面粗さ(RMS)は、1nm以下が好ましく、0.6nm以下がさらに好ましく、0.3nm以下が特に好ましい。1nm以下であれば、移動度が低下するおそれもない。
半導体層は、酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持している非晶質膜であることが好ましい。酸化インジウムを含む非晶質膜が酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持しているかどうかは、高輝度のシンクロトロン放射等を用いた微小角入射X線散乱(GIXS)によって求めた動径分布関数(RDF)により、In−X(Xは,In,Zn)を表すピークが0.30から0.36nmの間にあることで確認できる(詳細については、下記の文献を参照すればよい。F.Utsuno, et al.,Thin Solid Films,Volume 496, 2006, Pages 95−98)。
さらに、原子間距離が0.30から0.36nmの間のRDFの最大値をA、原子間距離が0.36から0.42の間のRDFの最大値をBとした場合に、A/B>0.7の関係を満たすことが好ましく、A/B>0.85がより好ましく、A/B>1がさらに好ましく、A/B>1.2が特に好ましい。
A/Bが0.7以上であれば、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれもない。A/Bが小さいことは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
また、In−Inの平均結合距離が0.3〜0.322nmであることが好ましく、0.31〜0.32nmであることが特に好ましい。In−Inの平均結合距離はX線吸収分光法により求めることができる。X線吸収分光法による測定では、立ち上がりから数百eVも高いエネルギーのところまで広がったX線吸収広域微細構造(EXAFS)を示す。EXAFSは、励起された原子の周囲の原子による電子の後方散乱によって引き起こされる。飛び出していく電子波と後方散乱された波との干渉効果が起こる。干渉は電子状態の波長と周囲の原子へ行き来する光路長に依存する。EXAFSをフーリエ変換することで動径分布関数(RDF)が得られる。RDFのピークから平均結合距離を見積もることができる。
【0073】
半導体層の膜厚は、通常0.5〜500nm、好ましくは1〜150nm、より好ましくは3〜80nm、特に好ましくは10〜60nmである。0.5nm以上であれば、工業的に均一に成膜することが可能である。一方、500nm以下であれば、成膜時間が長くなりすぎることもない。また、3〜80nmの範囲内にあると、移動度やオンオフ比等TFT特性が特に良好である。
【0074】
本発明では、半導体層が非晶質膜であり、非局在準位のエネルギー幅(E0)が14meV以下であることが好ましい。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E0)は10meV以下がより好ましく、8meV以下がさらに好ましく、6meV以下が特に好ましい。非局在準位のエネルギー幅(E0)が14meV以下であれば、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれもない。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E0)が大きいことは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
【0075】
3.半導体層の保護膜
半導体層の保護膜は、上述した酸化物薄膜上に形成した酸化物絶縁体層である。半導体の保護膜があれば、真空中や低圧下で半導体の表面層の酸素が脱離せず、オフ電流が高くなったり、閾値電圧が負になるおそれもない。また、大気下でも湿度等周囲の影響を受けることもなく、閾値電圧等のトランジスタ特性のばらつきが大きくなるおそれもない。
【0076】
半導体層の保護膜は、非晶質酸化物あるいは非晶質窒化物であることが好ましく、非晶質酸化物であることが特に好ましい。また、保護膜が酸化物であれば、半導体中の酸素が保護膜側に移動することもなく、オフ電流が高くなることもなく、閾値電圧が負になりノーマリーオフを示すおそれもない。
尚、半導体層の保護膜として、さらに、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに、半導体層の保護膜は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上の積層構造を有してもよい。
【0077】
4.ゲート絶縁膜
ゲート絶縁膜を形成する材料にも特に制限はない。本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO2,SiNx,Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
このようなゲート絶縁膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。また、ゲート絶縁膜は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。
また、ゲート絶縁膜は、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに、ゲート絶縁膜は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
ゲート絶縁膜は、厚さが50〜500nmであることが好ましい。ゲート絶縁膜の成膜はスパッタ法でもよいが、TEOS−CVD法やPECVD法等のCVD法が好ましい。
【0078】
5.電極
ゲート電極、ソ−ス電極及びドレイン電極の各電極を形成する材料に特に制限はなく、本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択することができる。
例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物、ZnO、SnO2等の透明電極や、Al,Ag,Cr,Ni,Mo,Au,Ti,Ta、Cu等の金属電極、又はこれらを含む合金の金属電極を用いることができる。また、それらを2層以上積層して接触抵抗を低減したり、界面強度を向上させることが好ましい。また、ソ−ス電極、ドレイン電極の接触抵抗を低減させるため半導体の電極との界面をプラズマ処理、オゾン処理等で抵抗を調整してもよい。
【0079】
積層電極は、例えば、電子ビーム蒸着法により、厚さ1〜100nmのTi(密着層)、厚さ10〜300nmのAu(接続層)及び厚さ1〜100nmのTi(密着層)をこの順で積層し、この積層膜をフォトリソグラフィー法及びリフトオフ法により加工することにより形成できる。
【0080】
本発明の薄膜トランジスタは、半導体層を遮光する構造を持つことが好ましい。半導体層を遮光する構造(例えば、遮光層)があれば、光が半導体層に入射した場合にキャリア電子が励起されオフ電流が高くなるおそれもない。遮光層は、300〜800nmに吸収を持つ薄膜が好ましい。遮光層は半導体層の上部、下部どちらかでも構わないが、上部及び下部の両方にあることが好ましい。また、遮光層はゲート絶縁膜やブラックマトリックス等と兼用されていても構わない。遮光層が片側だけにある場合、遮光層が無い側から光が半導体層に照射しないよう構造上工夫する必要がある。
【0081】
また、本発明の薄膜トランジスタでは、半導体層とソース電極・ドレイン電極との間にコンタクト層を設けてもよい。コンタクト層は半導体層よりも抵抗が低いことが好ましい。コンタクト層の形成材料は、上述した半導体層と同様な組成の複合酸化物が使用できる。即ち、コンタクト層はIn,Zn及びZr等の各元素を含むことが好ましい。これらの元素を含む場合、コンタクト層と半導体層の間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
コンタクト層の作製方法に特に制約はないが、成膜条件を変えて半導体層と同じ組成比のコンタクト層を成膜したり、半導体層と組成比の異なる層を成膜したり、半導体の電極とのコンタクト部分をプラズマ処理やオゾン処理により抵抗を高めることで構成したり、半導体層を成膜する際に酸素分圧等の成膜条件により抵抗を高くなる層を構成してもよい。また、本発明の薄膜トランジスタでは、半導体層とゲート絶縁膜との間、及び/又は半導体層と保護膜との間に、半導体層よりも抵抗の高い酸化物抵抗層を有することが好ましい。酸化物抵抗層があればオフ電流が発生することもなく、閾値電圧が負となりノーマリーオンとなることもなく、保護膜成膜やエッチングなどの後処理工程時に半導体層が変質し特性が劣化するおそれもない。
【0082】
酸化物抵抗層としては、以下のものが例示できる。
・半導体膜の成膜時よりも高い酸素分圧で成膜した半導体層と同一組成の非晶質酸化物膜
・半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜
・In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とする多結晶酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とし、Zn、Cu、Co、Ni、Mn、Mgなどの正二価元素を1種以上ドープした多結晶酸化物膜
半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜や、In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜の場合は、In組成比が半導体層よりも少ないことが好ましい。また、元素Xの組成比が半導体層よりも多いことが好ましい。
酸化物抵抗層は、In及びZnを含む酸化物であることが好ましい。これらを含む場合、酸化物抵抗層と半導体層の間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
【0083】
上述した薄膜トランジスタの各構成部材(層)は、本技術分野で公知の手法で形成できる。
具体的に、成膜方法としては、スプレー法、ディップ法、CVD法等の化学的成膜方法、又はスパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、パルスレーザーディポジション法等の物理的成膜方法を用いることができる。キャリア密度が制御し易い、及び膜質向上が容易であることから、好ましくは物理的成膜方法を用い、より好ましくは生産性が高いことからスパッタ法を用いる。
スパッタリングでは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる方法、複数の焼結ターゲットを用いコスパッタを用いる方法、合金ターゲットを用い反応性スパッタを用いる方法等が利用できる。好ましくは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる。RF、DCあるいはACスパッタリングなど公知のものが利用できるが、均一性や量産性(設備コスト)からDCあるいはACスパッタリングが好ましい。
【0084】
形成した膜を各種エッチング法によりパターニングできる。
本発明では半導体層を、本発明のターゲットを用い、DC又はACスパッタリングにより成膜することが好ましい。DC又はACスパッタリングを用いることにより、RFスパッタリングの場合と比べて、成膜時のダメージを低減できる。このため、電界効果型トランジスタにおいて、閾値電圧シフトの低減、移動度の向上、閾値電圧の減少、S値の減少等の効果が期待できる。
【0085】
また、本発明では半導体層成膜後に70〜350℃で熱処理することが好ましい。特に、半導体層と半導体の保護膜を形成した後に、70〜350℃で熱処理することが好ましい。70℃以上であれば、得られるトランジスタの十分な熱安定性や耐熱性を保持することができ、十分な移動度を保持でき、S値が大きくなったり、閾値電圧が高くなるおそれもない。一方、350℃以下であれば、耐熱性のない基板も使用でき、熱処理用の設備費用がかかるおそれもない。
熱処理温度は80〜260℃がより好ましく、90〜180℃がさらに好ましく、100〜150℃が特に好ましい。特に、熱処理温度が180℃以下であれば、基板としてPEN等の耐熱性の低い樹脂基板を利用できるため好ましい。
熱処理時間は、通常1秒〜24時間が好ましいが、処理温度により調整することが好ましい。例えば、70〜180℃では、10分から24時間がより好ましく、20分から6時間がさらに好ましく、30分〜3時間が特に好ましい。180〜260℃では、6分から4時間がより好ましく、15分から2時間がさらに好ましい。260〜300℃では、30秒から4時間がより好ましく、1分から2時間が特に好ましい。300〜350℃では、1秒から1時間がより好ましく、2秒から30分が特に好ましい。
熱処理は、不活性ガス中で酸素分圧が10−3Pa以下の環境下で行うか、あるいは半導体層を保護膜で覆った後に行うことが好ましい。上記条件下だと再現性が向上する。
【0086】
本発明の製造方法で得られる薄膜トランジスタにおいて、移動度は1cm2/Vs以上が好ましく、3cm2/Vs以上がより好ましく、8cm2/Vs以上が特に好ましい。1cm2/Vs以上であればスイッチング速度が遅くなることもなく、大画面高精細のディスプレイに用いるのに最適である。
オンオフ比は、106以上が好ましく、107以上がより好ましく、108以上が特に好ましい。
オフ電流は、2pA以下が好ましく、1pA以下がより好ましい。オフ電流が2pA以下であれば、ディスプレイのTFTとして用いた場合に十分なコントラストが得られ、良好な画面の均一性が得られる。
ゲートリーク電流は1pA以下が好ましい。1pA以上であれば、ディスプレイのTFTとして用いた場合に良好なコントラストが得られる。
閾値電圧は、通常0〜10Vであるが、0〜4Vが好ましく、0〜3Vがより好ましく、0〜2Vが特に好ましい。0V以上であればノーマリーオンとなることもなく、オフ時に電圧をかけることも必要なく、消費電力を低く抑えることができる。10V以下であれば駆動電圧が大きくなることもなく、消費電力を低く抑えることができ、移動度を低く抑えることができる。
また、S値は0.8V/dec以下が好ましく、0.3V/dec以下がより好ましく、0.25V/dec以下がさらに好ましく、0.2V/dec以下が特に好ましい。0.8V/dec以下であれば、駆動電圧を低く抑えることができ、消費電力も抑制できる。特に、有機ELディスプレイで用いる場合は、直流駆動のためS値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減できるため好ましい。
【0087】
また、10μAの直流電圧50℃で100時間加えた前後の閾値電圧のシフト量は、1.0V以下が好ましく、0.5V以下がより好ましい。1.0V以下であれば有機ELディスプレイのトランジスタとして利用した場合、画質が変化することもない。
また、伝達曲線でゲート電圧を昇降させた場合のヒステリシスが小さい方が好ましい。
また、チャンネル幅Wとチャンネル長Lの比W/Lは、通常0.1〜100、好ましくは0.5〜20、特に好ましくは1〜8である。W/Lが100以下であれば漏れ電流が増えることもなく、オンオフ比が低下したりするおそれがある。0.1以上であれば電界効果移動度が低下することもなく、ピンチオフが明瞭になる。また、チャンネル長Lは通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは2〜10μmである。0.1μm以上であれば工業的に製造が難しくまた漏れ電流が大きくなるおそれもなく、1000μm以下であれば素子が大きくなりすぎることもない。
【0088】
本発明の製造方法で作製した薄膜トランジスタは、例えば、フラットパネルディスプレイのTFT用、特に液晶パネル等の装置用として好適である。
【実施例】
【0089】
実施例1
放電プラズマ焼結機としては、(株)イズミテック製放電プラズマ焼結機(SPS−3.20MK−IV)を用いた。焼結治具としてはグラファイト製で直径10cmの円筒形のものを用いた。
【0090】
この焼結治具に、平均粒径が1.5μmの酸化インジウム(In2O3)と平均粒径3.3μmの金属Snの混合粉末(In2O3約92g、金属Sn約8g、錫含有量約10原子%、即ちIn/(Sn+In)=約0.9)を十分に混合したものを均一に入れ、約30MPaの圧力を印加し、焼結チャンバー内を約10Paまで脱気した。
次いで、ピーク電流値が約1000Aの直流パルス電流(パルス幅2.4ミリ秒、周期30Hz)を治具に通電して、試料周辺を昇温速度約50℃/分で加熱した。最終的には、ピーク電流値を6000A程度まで上昇させ、850℃又は950℃に加熱し、この温度(焼結温度)で5分間保持した。その後、通電及び加圧を止め、試料を室温まで冷却し、焼結チャンバー内を大気圧に戻した。
この状態で取り出した焼結体は直径約10cm、厚さ約5mmの円盤状であった。焼結条件と、得られる焼結体の性状を表1に示す。
尚、バルク抵抗はロレスタ(三菱化学製)で測定した。また、密度は2cm角サイズに切り出した試料片を、水を溶媒としたアルキメデス法により測定した。
【0091】
【表1】
【0092】
焼結体2のX線回折の結果を図6に示した。
酸化インジウムのピークと金属Snのピークが観察された。また、電子線マイクロアナライザ(EPMA)の面分析を行った結果を図7に示す。金属Snは、7.2μm程度の粒径で存在することが分かった。尚、金属Snの含有量は原料の混合比と同じであった。他の実施例等も同様である。
【0093】
得られた焼結体を、表面研削した後に、Cu製バッキングプレートに金属インジウムでボンディングし、スパッタリングターゲットとした。これを、島津製作所製スパッタ装置に装着し、直流プラズマスパッタ出力:400W,スパッタガスをAr:99%、O2:1%とし、25時間(10kWhr=25hr×400W)連続スパッタを行い、表面に発生するノジュールを観察した。その結果、ノジュールの発生は全く観察されなかった。
【0094】
実施例2
金属スズに代えて金属亜鉛を使用し、焼結温度を表2に示す温度にした以外は、実施例1と同様にして焼結体を製造し評価した。尚、金属原子の比[In/(In+Zn)]は0.83であった。
結果を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
焼結体4のX線回折の結果を図8に示す。
酸化インジウムのピークと金属Znのピークが観察された。また、EPMAの面分析を行った結果を図9に示す。Znは、約10μm程度の粒径で存在することが分かった。
【0097】
得られた焼結体について、実施例1と同様にスパッタリングターゲットの加工及びノジュールの観察を行った。その結果、ノジュールの発生は全く観察されなかった。
【0098】
実施例3
金属スズに代えて、金属亜鉛及び金属スズを使用し、焼結温度を表3に示す温度にした以外は、実施例1と同様にして焼結体を製造し評価した。尚、金属原子の原子比は以下のとおりとした。
In/(In+Zn+Sn)=0.80
Zn/(In+Zn+Sn)=0.11
Sn/(In+Zn+Sn)=0.09
結果を表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
焼結体6,7のX線回折の結果より、酸化インジウムのピークと金属Zn及び金属Snのピークが観察された。また、EPMAの面分析を行ったところ、金属Zn及び金属Snは、約10μm程度の粒径で存在することが分かった。
【0101】
得られた焼結体について、実施例1と同様にスパッタリングターゲットの加工及びノジュールの観察を行った。その結果、ノジュールの発生は全く観察されなかった。
【0102】
実施例4
酸化スズ粉と酸化インジウム粉の混合粉(原子比[Sn/(In+Sn)]=0.05)を湿式ボールミルで24時間混合した。スプレードライヤーで乾燥させた混合粉を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形した。
得られた成形体を1450℃で24時間焼結した。その焼結体を湿式ボールミルで36時間粉砕した。その結果、平均粒径が4.8μmのITO粉末を得た。
このITO粉体に金属Sn(平均粒径:3.3μm)を混合粉全体の10wt%([In/(Sn+In)]=約0.9)となるように混合した。
この混合粉を焼結治具に入れ、実施例1と同様にして放電プラズマ焼結して焼結体を得た。結果を表4に示す。
【0103】
【表4】
【0104】
これら焼結体のX線回折の結果より、錫が固溶した酸化インジウムのピークと金属Snのピークが観察された。また、EPMAの面分析を行ったところ、金属Snは、約10μm程度の粒径で存在することが分かった。
【0105】
得られた焼結体について、実施例1と同様にスパッタリングターゲットの加工及びノジュールの観察を行った。その結果、ノジュールの発生は全く観察されなかった。
【0106】
比較例1
下記の市販ITOターゲットA〜Cについて評価した。結果を表5に示す。尚、錫原子の含有率[Sn/(In+Sn)]は0.16(原子比)である。
【0107】
【表5】
【0108】
ターゲットAの断面のEPMA分析結果(25μm□視野)を図10に示す。これにより、酸化スズが1〜3μmの大きさで存在していることがわかる。
また、X線回折の結果を図11に示す。尚、この図では縦軸を通常の回折スペクトルの10倍に拡大してある。このスペクトルには、2θが19°から24°である領域にIn4Sn3O12の特徴であるピークが3本現れている。このことから、図10で観察される酸化スズの分散は、In4Sn3O12化合物であることが推定される。
【0109】
図12に、走査型拡がり抵抗顕微鏡(SSRM)を同様に視野で観測した場合の抵抗値の分布を示す図である。
抵抗値が一桁大きな島状部分が存在することがわかる。この部分がIn4Sn3O12化合物である。
実施例1と同様にノジュール発生テストを実施したところ、大量のノジュールが観察された。このように、In4Sn3O12化合物等が分散したターゲットでは、大量のノジュールが発生する。
【0110】
比較例2
酸化スズ粉と酸化インジウム粉を、原子比[Sn/(In+Sn)]が0.16となるように混合した混合粉を、湿式ボールミルで24時間混合した。
スプレードライヤーで乾燥させた混合粉を焼結治具に入れ、実施例1と同様にして放電プラズマ焼結して焼結体を得た。尚、焼結温度は950℃とした。
【0111】
この焼結体のX線回折のピークは、In2O3相とSnO2相からなっていた。焼結体の密度は6.22g/cm3で、バルク抵抗は0.44mΩcmであった。
得られた焼結体について、実施例1と同様にスパッタリングターゲットの加工及びノジュールの観察を行った。その結果、スパッタ放電中に異常放電であるアーキングが起こり、放電実験終了後にはターゲット表面上に大量のノジュールが観察された。このように、SnO2が分散したターゲットでは、大量のノジュールが発生した。
【0112】
実施例5
酸化スズ粉と酸化インジウム粉からなる混合粉[原子比Sn/(In+Sn)=0.05]を湿式ボールミルで24時間混合した。これをスプレードライヤーで乾燥させた後、金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形した。
得られた成形体を1450℃で24時間焼結した。
この焼結体を湿式ボールミルで36時間粉砕した。その結果、平均粒径が4.8μmのITO粉末を得た。
このITO粉体に金属Sn(平均粒径:0.5μm、1μm、2μm、5μm)を混合粉全体の5wt%となるように混合した。
この混合粉を焼結治具に入れ、実施例1と同様にして放電プラズマ焼結して焼結体を得た。尚、焼結温度は900℃とした。結果を表6に示す。
【0113】
【表6】
【0114】
いずれの焼結体も、X線回折の結果より、錫が固溶した酸化インジウムのピークと金属Snのピークが観察された。
また、EPMAの面分析を行ったところ、金属Snの平均粒径は、それぞれ0.9μm、1.2μm、3.1μm、7.2μmであることが分かった。得られた焼結体のバルク抵抗は、金属Sn粒子の粒径に応じた変化している。
【0115】
得られた焼結体について、実施例1と同様にスパッタリングターゲットの加工及びノジュールの観察を行った。その結果、ノジュールの発生は全く観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の酸化インジウム焼結体は、各種表示装置の透明電極や半導体素子で使用される半導体膜を形成する際に使用されるスパッタリングターゲットとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の第1の製造方法の工程図である。
【図2】第1の製造方法に仮焼工程を設けた場合の工程図である。
【図3】本発明の第2の製造方法の工程図である。
【図4】薄膜トランジスタの一例の概略断面図である。
【図5】薄膜トランジスタの他の例の概略断面図であり、(1)はソース・ドレイン電極のパターニング前の概略図であり、(2)はソース・ドレイン電極のパターニング後の概略図である。
【図6】実施例1で製造した焼結体2のX線回折チャートである。
【図7】焼結体2のEPMA分析の結果である。
【図8】実施例2で製造した焼結体4のX線回折チャートである
【図9】焼結体4のEPMA分析の結果である。
【図10】比較例1で評価したターゲットAのEPMA分析の結果である。
【図11】ターゲットAのX線回折チャートである。
【図12】ターゲットAのSSRM分析の結果である。
【符号の説明】
【0118】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 チャネル層
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 保護膜
11 基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁膜
14 チャネル層
15 保護膜
17 ソース・ドレイン電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングによって酸化物膜を形成する際に使用する酸化インジウム焼結体(スパッタリングタ−ゲット)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム及び酸化スズからなるITO膜は、導電性と可視光透過性を有しているので、液晶表示装置等の表示装置の透明電極や、スイッチング素子、駆動回路素子等、多岐の用途に使用されている。
ITO膜の成膜に使用するITOターゲットにおいて、酸化スズは、酸化インジウム中に固溶分散することにより、ITOターゲット中にキャリヤーを発生していると考えられている。これにより、ITOスパッタリングターゲットのバルク抵抗は0.1mΩcm程度と非常に低くなっている。
【0003】
ITOターゲットを使用したITO膜の形成においては、成膜時のノジュールの発生が問題となっている。ノジュールとは、スパッタ中にターゲット表面に出現する黒色突起物で、これが発生するとパーティクルが増加し、ITO膜の不良を生じさせる一因となる。
【0004】
ノジュールの発生原因については、以下のような説がある。
(1)空孔内に堆積した低級酸化物が核となって掘れ残るとする説
(2)ターゲット上に柱状晶的なIn2O3の成長物が発生し、それを核としてターゲットが掘れ残るとする説
(3)スパッタリングチャンバー内に発生した高抵抗のパーティクルがターゲット上に付着し、これを核として掘れ残りが発生するとする説
(4)スパッタリング率の入射角度依存性により掘れ残りが発生するとする説
(5)異常放電により発生する高抵抗物質を核として掘れ残りが発生するとする説
【0005】
その他、酸化スズ粒子がITOターゲット中に存在することによりノジュールが発生するという考えがあり、酸化スズを酸化インジウム中に完全固溶する製造方法が提案されている。
【0006】
ノジュールの防止策としては、以下のような対策が提案されている。
(1)ターゲットの高密度化
(2)ターゲット表面の表面粗さの低下
(3)ターゲットの一体成形化(分割のないもの)
(4)エロージョンへのパーティクル付着防止
(5)ターゲットのエッジ部等でのアーキング防止処理
しかしながら、ノジュールの発生を完全に抑えることは、未だ達成されていない。
【0007】
ITO膜を形成するためのスパッタリングターゲットとして、例えば、特許文献1には、部分還元された酸化インジウム−酸化スズの粉末混合粉若しくは共沈粉末から製造したターゲットが記載されている。
また、特許文献2には、微細な金属インジウム−スズの酸化により製造した原料粉末を使用し、熱間圧縮又は静水圧熱間圧縮にて製造する方法が記載されている。
また、特許文献3には、酸化インジウム粉末に、金属珪素、チタン、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、スズ及びタングステンからなる群から選択した少なくとも一種以上の金属粉末又は酸化物粉末を、ホットプレスにて成形、焼結することで、高密度のスパッタリングターゲットを製造する方法が記載されている。尚、実施例では酸化インジウムと金属タングステン若しくは酸化タングステンに関する記載があるのみである。
【0008】
しかしながら、これらの技術では、酸化物粉末の焼結時に金属粒子が酸化もしくは偏析したり、また、スパッタリングの際に生じるスパッタ粒子のバルク抵抗がスパッタリングターゲットのバルク抵抗よりも低くなるように制御できず、ノジュールの発生を抑制することができないおそれがある。
【0009】
放電プラズマ焼結法としては、例えば、特許文献4に酸化物微粒子を放電プラズマ焼結する酸化物微粒子、高密度焼結体の製造方法に関する記載がある。
また、特許文献5には、酸化インジウムと酸化スズを原料として、パルス電流を通電して通電焼結させるインジウム−スズ酸化物焼結体の製造方法が記載されている。焼結体の密度は6.5g/cm3(相対密度:92%)程度である。
【特許文献1】特開平8−41634号公報
【特許文献2】特開平9−170076号公報
【特許文献3】特開2006−2202号公報
【特許文献4】特開平10−251070号公報
【特許文献5】特開2003−81673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、スパッタ時のノジュールの発生を抑制できる酸化インジウム焼結体(スパッタリングターゲット)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討の結果、酸化インジウム相と金属相を有する焼結体からなるターゲットではノジュールの発生が抑えられることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の酸化インジウム焼結体等が提供される。
1.酸化インジウム相と金属相を有することを特徴とする酸化インジウム焼結体。
2.前記金属相の含有量が焼結体全体の1wt%〜30wt%であることを特徴とする1記載の酸化インジウム焼結体。
3.前記金属相の平均粒径が、20μm未満であることを特徴とする1又は2に記載の酸化インジウム焼結体。
4.前記金属相が、金属スズ及び/又は金属亜鉛からなることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体。
5.前記酸化インジウム相の一部が、他の金属元素の酸化物により置換固溶されていることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体。
6.上記1〜5のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体からなるスパッタリングターゲット。
7.インジウム化合物と金属微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することを特徴とする1〜4記載のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体の製造方法。
8.インジウム化合物と金属酸化物微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することを特徴とする1〜5のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体の製造方法。
9.上記6に記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングして得られる酸化物薄膜。
10.前記酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、9に記載の酸化物薄膜。
11.酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)上記10の酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(ii)前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む、薄膜トランジスタの製造方法。
12.上記11に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、酸化インジウム焼結体の高密度化を図ると共に、バルク抵抗値を、より低抵抗に制御できるため、ノジュールの発生が無いスパッタリングターゲットが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の酸化インジウム焼結体は、酸化インジウム相と金属相を含有することを特徴とする。
金属相を形成する金属としては、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム元素(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、セリウム(Ce)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)又は珪素(Si)が挙げられる。金属相は、これら金属単体からなっていてもよく、また、2種以上からなっていてもよい。
【0014】
金属相を形成する金属は、特にSn及び/又はZnであることが好ましい。
本発明の焼結体がSnを含む場合に、スパッタリングにより得られる膜は、ITO膜であり、亜鉛元素を含む場合には、酸化インジウム−酸化亜鉛膜(例えば、IZO(出光興産(株)の登録商標))が得られる。さらに、スズ、亜鉛を同時に含有する場合には、酸化インジウム−酸化亜鉛―酸化スズ膜が得られる。それぞれ、用途に応じて使い分けることが出来る。酸化インジウム−酸化亜鉛−酸化スズ膜は、インジウム量を減らすことができるため、省インジウム系の透明導電膜としても有効である。
【0015】
金属相の含有量は、焼結体全体の1wt%〜30wt%であることが好ましく、より好ましくは1〜20wt%、さらに好ましくは2〜15wt%である。1wt%〜30wt%であれば、焼結体のバルク抵抗を適切な範囲に制御でき、高密度の焼結体が得られるため好ましい。
金属相の含有量は、例えば、原料である金属微粒子等の配合量を調整することにより制御できる。
【0016】
また、金属相の平均粒径は、20μm未満であることが好ましく、さらに、0.1〜15μmより好ましく、1〜10μmが特に好ましい。
金属相の平均粒径は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)の面分析により測定した値である。具体的には、50×50ミクロン視野における酸素と金属の面分析を行い、酸素が含まれてない部分を金属相として、その金属相の粒の長径を算出し、視野内の粒子径の平均値を平均粒径とした。
【0017】
本発明の酸化インジウム焼結体では、金属相を酸化インジウム中に分散させることにより、得られる焼結体のバルク抵抗値を、酸化物を置換固溶した酸化インジウムのバルク抵抗値と比べて、高く制御できる。これにより、スパッタリング時に生じるスパッタ粒子のバルク抵抗が、スパッタリングターゲットのバルク抵抗よりも低くなり、スパッタリングターゲット上に堆積したスパッタ粒子の再スパッタが可能となる。これにより、ノジュールが全く発生しないスパッタリングターゲットが得られる。
【0018】
酸化インジウム焼結体の密度は、6.580〜7.3014g/cm3が好ましく、より好ましくは、6.890〜7.2014g/cm3、さらに好ましくは6.95〜7.14である。6.580g/cm3以上であれば安定したスパッタ放電が可能であるため好ましい。特に、酸化インジウムの真密度である7.2g/cm3以下であれば、酸化インジウム自体が金属インジウムに変換される場合もなく、スプラッシュ現象等の異常放電の発生も抑制できるため好ましい。
尚、スプラッシュとは、スパッタリングターゲット表面上に析出する低融点物質が小さな液状滴になり、ガラス基板に付着する現象をいう。マイクロポアの存在、結晶粒粗大による異常放電現象、酸化物の存在による異常放電現象が主たる要因である。
密度は、20×20×20mm程度の大きさの焼結体試料片をアルキメデス法により測定した値である。
【0019】
本発明の焼結体においては、酸化インジウム相の一部が、他の金属(R)の酸化物により置換固溶されていてもよい。
他の金属元素(R)としては、例えば、亜鉛、スズ、イットリウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、珪素及びランタノイドから選ばれた1種類以上の金属元素が挙げられる。
尚、ランタノイドとは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuである。
【0020】
ここで、他の金属(R)の酸化物が固溶した酸化インジウム相は、X線回折から計算した格子定数(格子間距離)の変化や、高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。具体的には、X線回折パターンのピークシフトから、結晶構造の軸長変化により判断することができる。尚、置換固溶により軸長が短くなった場合は、X線回折パターンのピークが高角度側にシフトする。さらに、格子定数はリートベルト解析を用いて求める。
【0021】
他の金属元素(R)の酸化物を含有する場合、本発明の焼結体は、特に、インジウム元素(In)、他の金属元素(R)及び金属相の金属(M)の各元素の原子比が、下記の式(1)〜(3)の関係を満たすことが好ましい。
0.33≦In/(In+R+M)<0.99 (1)
0.01≦M/(In+R+M)≦0.50 (2)
0.00<R/(In+R+M)≦0.10 (3)
特に、下記の式(1)’〜(3)’の関係を満たすことが好ましい。
0.50≦In/(In+R+M)<0.95 (1)’
0.05≦M/(In+R+M)≦0.30 (2)’
0.00<R/(In+R+M)≦0.05 (3)’
【0022】
本発明の焼結体は、さらに、正四価以上の金属元素(X)を含むことが好ましい。
正四価以上の金属元素(X)としては、例えば、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びチタンから選ばれた1種以上の元素であることが好ましい。
【0023】
正四価以上の金属元素(X)の含有量(原子比)は、酸素原子を除く焼結体の全原子数に対し、10〜10000ppmが好ましく、100〜5000ppmがより好ましく、200〜1000ppmが特に好ましい。10ppm以上であれば、相対密度が向上し、バルク抵抗が低下し、抗折強度が向上するといった効果を十分に発揮でき、また、10000ppm以下であれば、希土類酸化物C型以外の結晶型が析出するおそれもないので好ましい。
【0024】
本発明の酸化インジウム焼結体は、例えば、インジウム化合物と金属微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することにより製造できる(第1の製造方法)。図1は本発明の第1の製造方法の工程図である。
第1の製造方法では、放電プラズマ焼結前に仮焼きしてもよい。図2は本発明の第1の製造方法に仮焼工程を採用した場合の工程図である。
【0025】
また、インジウム化合物と、金属元素(R)の化合物及び/又は金属元素(X)の化合物を混合した原料を焼結し(前焼結)、得られた焼結体の粉砕物と金属微粒子を混合した原料混合物を、放電プラズマ焼結することにより製造できる(第2の製造方法)。
図3は本発明の第2の製造方法の工程図である。以下、2つの製造方法について説明する。
【0026】
(A)第1の製造方法
本発明の第1の製造方法は、以下の工程(a)〜(c)を含む。
(a)原料化合物粉末及び金属粒子を混合する工程
(b)混合粉を成形する工程
(c)得られた原料混合物を、放電プラズマ焼結(パルス通電焼結)法を用いて焼結する工程
【0027】
(a)混合工程
本工程では、原料粉末である原料化合物粉末及び金属粒子を混合する。
原料化合物粉としては、焼結により酸化インジウム相を形成する化合物、酸化インジウム相の一部を固溶置換する金属元素(R)を含む化合物、正四価以上の金属元素(X)を含む化合物等が挙げられる。
【0028】
酸化インジウム相を形成するインジウム化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム等が挙げられる。酸化物としては酸化インジウム単体に限らず、酸化インジウムに1種類以上の酸化物添加元素を反応させた原料を使用することも可能である。
尚、酸化インジウムは金属元素(R)により固溶置換されたものであっても構わない。この場合、金属元素(R)の含有量は、インジウム元素(In)との原子比で0.01<R/(In+R)<0.1となることが好ましい。
【0029】
金属元素(R)を含む化合物及び正四価以上の金属元素(X)を含む化合物としては、金属元素(R)又は金属元素(X)の、酸化物、水酸化物等が挙げられる。
各々の化合物として、焼結のしやすさ、副生成物の発生の少なさから、酸化物が好ましい。
【0030】
金属粒子としては、特に制限はなく、上述した金属相を形成する金属の粒子が使用できる。尚、金属粒子の代わりに、還元等により単体金属となる化合物を使用してもよい。金属粒子は、後の混合工程により微粒子となる。
【0031】
上記各原料は、公知の混合及び粉砕手段により混合及び粉砕する。各原料の純度は、通常99.9質量%(3N)以上、好ましくは99.99質量%(4N)以上、さらに好ましくは99.995質量%以上、特に好ましくは99.999質量%(5N)以上である。各原料の純度が99.9質量%(3N)以上であれば、Fe、Al、Si、Ni、Cu等の不純物により半導体特性が低下することもなく、信頼性を十分に保持できる。特にNa含有量が100ppm未満であると薄膜トランジスタを作製した際に信頼性が向上するため好ましい。
【0032】
尚、原料として使用する金属元素(R)又は金属元素(X)の化合物粉末の平均粒径は、インジウム化合物粉末の平均粒径よりも小さいことが好ましい。原料の金属化合物粉末の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0033】
各原料粉末の比表面積は、ほぼ同じである粉末を使用することが好ましい。これにより、より効率的に粉砕混合できる。具体的には、比表面積の比を1/4〜4倍以内にすることが好まく、1/2〜2倍以内が特に好ましい。
【0034】
原料化合物粉と金属粒子の混合は、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミル、ビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。混合・粉砕後に得られる混合物の平均粒径は0.5〜20μmが好ましく、0.5〜15μmがより好ましい。平均粒径が0.5〜20μmの範囲であれば、ノジュールの発生を抑制でき、かつ、分散が均一となり、大型焼結体での抵抗値のバラツキが小さくなることから、異常放電も抑制できるため、好適である。
ここで平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0035】
各原料粉末の比表面積は、例えば、2〜10m2/g、好ましくは4〜8m2/gであることが適当である。各原料粉同士の比表面積の差は、5m2/g以下、好ましくは3m2/g以下とすることが好ましい。比表面積の差が小さいほど、原料粉末を効率的に粉砕・混合することができ好ましい。尚、比表面積は、BET法で求めることができる。
【0036】
粉砕後の比表面積は、粉砕前の原料混合粉の比表面積より1.0〜3.0m2/g増加する程度か、又は粉砕後の平均メジアン径(d50)が0.6〜1μmとなる程度に粉砕することが好ましい。このように調整した原料混合粉を使用することにより、仮焼工程を全く必要とせずに、高密度の焼結体を得ることができる。また、還元工程も不要となる。
尚、上記原料混合粉の比表面積の増加分が1.0m2/g以上又は粉砕後の原料混合粉の平均メジアン径が1μm以下であれば、焼結密度が十分に大きくなるので好ましい。一方、原料混合粉の比表面積の増加分が3.0m2/g以下又は粉砕後の平均メジアン径が0.6μm以上であれば、粉砕時の粉砕器機等からのコンタミ(不純物混入量)が増加することもないので好適である。
ここで、粉体の比表面積はBET法で測定した値である。粉体の粒度分布のメジアン径は、粒度分布計で測定した値である。これらの値は、粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
【0037】
混合粉砕の際、ポリビニールアルコール(PVA)を1容積%程度添加した水、又はエタノール等を媒体として用いてもよい。
各原料粉末のメジアン径(d50)は、例えば、0.5〜20μm、好ましくは1〜10μmとすることが好ましい。原料粉末のメジアン径(d50)が0.5μm以上であれば、焼結体中に空胞ができ焼結密度が低下することを防ぐことができ、20μm以下であれば、焼結体中の粒径の増大が防げるので好ましい。
【0038】
(a’)仮焼工程
上記(a)工程の後に、仮焼工程(a’)を実施してもよい。
仮焼工程では、上記(a)工程で得られた原料混合粉が仮焼される。仮焼を行うことにより、余分な水分や有機物等を除去するため最終的に得られる焼結体の密度を上げることが容易になる。
仮焼工程においては、(a)工程で得られた混合物を200〜600℃、好ましくは、400〜550℃の温度で、1〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で熱処理することが好ましい。200℃以上かつ1時間以上の熱処理条件であれば、水分や有機物等の蒸発や熱分解が十分に行われるので好ましい。熱処理条件が600℃以下及び100時間以下であれば、粒子が粗大化することもないので好適である。
【0039】
さらに、ここで得られた仮焼後の原料混合粉を、続く焼結工程の前に粉砕することが好ましい。この仮焼後の混合物の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて行うことが適当である。粉砕後に得られた仮焼後の混合物の平均粒径は、例えば、0.01〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μmである。得られた仮焼後の混合物の平均粒径が0.01μm以上であれば、混合物の嵩比重を十分高くでき、かつ取り扱いが容易になるので好ましい。また、仮焼物の平均粒径が3.0μm以下であれば最終的に得られる焼結体の密度を上げることが容易になる。
尚、仮焼物の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0040】
(b)成形
放電プラズマ焼結では、原料混合粉を放電プラズマ焼結装置のカーボンダイス又はアルミナ製ダイス中に入れ、両方向から加圧し成形する。
【0041】
(c)焼結工程
焼結工程は、上記工程で得られた原料混合粉(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼後の混合物)を放電プラズマ焼結する工程である。
ターゲットの性能を向上させる上で、焼結体中の粒子径の大きさ等の組織制御が重要である。その一つとして、焼結時の粒子成長を抑え、数マイクロメータ以下の微細な粒子からなる組織を形成することで、ターゲットの抵抗の制御等が可能となる。また、真空中で電気を導通しながら焼結することにより金属微粒子の粒成長を抑えるとともに、酸化反応を抑えることができる。
【0042】
放電プラズマ焼結では、原料混合粉を放電プラズマ焼結装置のカーボンダイス又はアルミナ製ダイス中に入れ、真空中(不活性雰囲気、大気中でも可)で両方向から加圧し、加圧した状態で、ダイス(試料)に直流パルス通電し、生成する放電プラズマによる発熱を利用し、焼結を行う。
放電プラズマ焼結時の圧力は、10MPa〜100MPaが好ましく、さらに30MPa〜90MPaが好ましく、特に、40MPa〜80MPaが好ましい。
焼結時間は、1分〜10時間が好ましく、さらに3分〜5時間、特に5分〜2時間が好ましい。
焼結温度は、600℃〜1300℃が好ましく、さらに、700℃〜1200℃、特に800℃〜1150℃が好ましい。
印加電流電圧は、1KA〜200KA、1V〜10Vで温度により自動的に制御されることが好ましい。より好ましくは1.5KA〜100KA、1V〜10V、特に好ましくは1.5KA〜100KA、1V〜10Vである。
【0043】
上記の焼結条件により、金属微粒子の状態、即ち、原料混合粉の粒径を保持したまま含有する焼結体を容易に製造することができる。また、通常の常圧焼結やホットプレス焼結に比べ、焼結温度を低く、また焼結時間を短くすることができる。
【0044】
焼結体中の酸化インジウム粒子及び金属微粒子は、数マイクロメータの微細な粒子からなる組織を形成する。これにより、原料混合粉体の焼結時における金属微粒子の偏析を抑制し、高密度な酸化インジウム焼結体を製造できる。これにより、スパッタリングの際に生じるフレークとターゲット間のバルク抵抗の差を小さく制御することができ、ノジュールの発生を抑制することができる。
尚、放電プラズマ焼結法を用いることにより、金属酸化物を還元することで、低温で且つ短時間に、金属微粒子含有酸化インジウム焼結体を製造することも出来る。
【0045】
(B)第2の製造方法
本発明の第2の製造方法は、以下の工程(a)〜(f)を含む。
(a)原料化合物粉を混合する工程
(b)得られた混合物を成形し、焼結(前焼結)する工程
(c)焼結体を粉砕する工程
(d)焼結体の粉砕物と金属微粒子を混合する工程
(e)混合粉を成形する工程
(f)原料混合粉を、放電プラズマ焼結(パルス通電焼結)法を用いて焼結する工程
【0046】
(a)混合工程
本工程は、金属微粒子を使用せず、2種以上の原料化合物を用いる他は、上述した第1の製造方法の混合工程と同じである。仮焼工程(a’)についても同様である。
2種以上の原料化合物としては、酸化インジウムと、上述した金属元素(R)を含む化合物及び正四価以上の金属元素(X)を含む化合物から選択させる1種以上の化合物との組み合わせが挙げられる。
【0047】
(b)成形・前焼結工程
(b−1)成形
成形工程は、原料混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼後の混合物)を金型に入れ、加圧成形して成形体とする工程である。この工程により、混合物(又は仮焼後の混合物)をスパッタリングターゲットとして好適な形状に成形する。仮焼工程を設けた場合には、得られた仮焼後の混合物の微粉末を、所望の形状に成形することができる。
本工程で用いることができる成形処理としては、例えば、プレス成形、一軸加圧、加圧成形、冷間静水圧加圧、金型成形、鋳込み成形射出成形が採用できる。鋳型としては様々形状のものが使用できる。焼結密度の高い焼結体(スパッタリングターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等加圧を伴う方法で成形するのが好ましい。尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
成形処理に際しては、SiNxやカーボン等を離型剤として用いてもよい。
【0048】
プレス成形としては、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法等、公知の成形方法を用いることができる。例えば、得られた混合粉を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形する。加圧成形は、例えば、常温(25℃)下、100〜100000kg/cm2、好ましくは、500〜10000kg/cm2の圧力で行われる。さらに、温度プロファイルは、1000℃までの昇温速度を30℃/時間以上、冷却時の降温速度を30℃/時間以上とするのが好ましい。昇温速度が30℃/時間以上であれば酸化物の分解が進むこともなく、ピンホールも発生しない。また冷却時の降温速度が30℃/時間以上であればIn等の組成比が変化するおそれもない。
【0049】
尚、コールドプレス法は、混合粉を成形型に充填して成形体を作製し、焼結させる。ホットプレス法では、混合粉を成形型内で直接焼結させる。
乾式法のコールドプレス(Cold Press)法としては、粉砕工程後の原料をスプレードライヤー等で乾燥した後、成形する。
【0050】
湿式法のコールドプレスとしては、例えば、濾過式成形法(特開平11−286002号公報参照)を用いるのが好ましい。この濾過式成形法は、セラミックス原料スラリーから水分を減圧排水して成形体を得るための非水溶性材料からなる濾過式成形型であって、1個以上の水抜き孔を有する成形用下型と、この成形用下型の上に載置した通水性を有するフィルターと、このフィルターをシールするためのシール材を介して上面側から挟持する成形用型枠からなり、前記成形用下型、成形用型枠、シール材、及びフィルターが各々分解できるように組立てられており、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水する濾過式成形型を用い、混合粉、イオン交換水と有機添加剤からなるスラリーを調製し、このスラリーを濾過式成形型に注入し、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を作製し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂後焼結する。
【0051】
(b−2)前焼結工程
本工程では、得られた成形体を焼結(前焼結)する。
焼結は、酸素ガス雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下で、大気圧又は加圧下で行う。
酸素ガス雰囲気で焼結を行うことにより、焼結体の密度が上昇しやすくなり、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制できるので好ましい。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば、10〜100%である雰囲気を言う。焼成は大気圧下又は加圧下で行うことができる。加圧は、例えば、98KPa〜1MPa、好ましくは、0.1〜5MPaであることが適当である。
【0052】
焼結温度は900〜1650℃が好ましく、1000〜1550℃がさらに好ましい。焼結温度が900℃以上であれば、スパッタリングターゲットの密度を上昇しやすくなり、適度な時間内に焼結を行うことができる。1650℃以下であれば、成分が気化することもなく、亜鉛が蒸発し焼結体の組成が変化する及び/又はターゲット中にボイド(空隙)が発生するおそれもないので好適である。
焼結時間は30分〜360時間が好ましく、1〜100時間がさらに好ましく、1〜30時間が特に好ましい。焼結時間が30分以上であれば、焼結体の密度が上昇しやすくなり、360時間以下であれば、適度な時間内に焼結を行うことができる。
また、焼結時の昇温速度は、通常20℃/分以下、好ましくは8℃/分以下、より好ましくは4℃/分以下、さらに好ましくは2℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。20℃/分以下であれば、焼結体の破壊が起こらずに焼結ができる。
【0053】
(c)焼結体を粉砕する工程
上記(b)で得た前焼結体の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて行うことが適当である。粉砕により、平均粒径を0.01〜3.0μm、特に0.1〜2.0μmとすることが好ましい。
尚、平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0054】
上記の前焼結及び粉砕は複数回、例えば、3回以上繰り返してもよい。
【0055】
(d)得られた焼結体の粉砕物と金属微粒子を混合する工程
焼結体の粉砕物と金属微粒子の混合は、上述した第1の製造方法の混合工程と同様にすればよい。
【0056】
(e)成形及び(f)放電プラズマ焼結(パルス通電焼結)工程
上記工程(d)で得た原料混合粉体を使用し、上述した第1の製造方法の焼結工程(b)(c)と同様にすればよい。
【0057】
上述した第1及び第2の製造方法は、後工程として、さらに以下の工程を含んでいてもよい。
(g)放電プラズマ焼結後、さらに焼結する工程(後焼結工程)
(h)得られた焼結体を還元処理する工程(還元工程)
(i)焼結体をスパッタリング装置への装着に適した形状に加工する工程(加工工程)
【0058】
(g)後焼結工程
後焼結条件としては、酸素ガス雰囲気下あるいは窒素ガス雰囲気下、大気圧又は加圧下で、熱処理温度は900〜1650℃が好ましく、1000〜1550℃がさらに好ましい。焼結時間は、30分〜360時間が好ましく、1〜100時間がさらに好ましく、1〜30時間が特に好ましい。焼結温度が900℃以上であれば、スパッタリングターゲットの密度を上昇しやすくなり、適度な時間内に焼結を行うことができる。1650℃以下であれば、成分が気化することもなく、亜鉛が蒸発し焼結体の組成が変化する及び/またはターゲット中にボイド(空隙)が発生するおそれもないので好適である。さらに、焼結時間が30分以上であれば、スパッタリングターゲットの密度が上昇しやすくなり、360時間以下であれば、適度な時間内に焼結を行うことができる。また、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス雰囲気で焼結を行うことにより、スパッタリングターゲットの密度が上昇しやすくなり、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制できるので好ましい。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば、10〜100%である雰囲気を言う。焼結は大気圧下又は加圧下で行うことができる。加圧は、例えば、98KPa〜1MPa、好ましくは、0.1〜5MPaであることが適当である。
また、焼結時の昇温速度は、通常20℃/分以下、好ましくは8℃/分以下、より好ましくは4℃/分以下、さらに好ましくは2℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。20℃/分以下であれば、焼結体の破壊が起こらずに焼結ができる。
【0059】
(h)還元工程
還元工程は、上記焼結工程で得られた焼結体のバルク比抵抗を焼結体全体として均一化するために還元処理を行う任意工程である。
本工程で適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスを循環させる方法、真空中で焼成する方法、及び不活性ガス中で焼成する方法等が挙げられる。
還元性ガスとしては、例えば、水素、メタン、一酸化炭素、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
尚、還元処理時の温度は、通常100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜5時間、好ましくは0.05〜1時間である。
還元ガスや不活性ガスの圧力は、例えば、9.8〜1000KPa、好ましくは、98〜500KPaである。真空中で焼結する場合、真空とは、具体的には、10−1〜10−8Pa、好ましくは10−2〜10−5Pa程度を言い、残存ガスはアルゴンや窒素等である。
【0060】
(i)加工工程
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、また、バッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。
スパッタリングターゲットの厚みは、通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmである。スパッタリングターゲットの表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番〜10,000番のダイヤモンド砥石を使用すれば、スパッタリングターゲットが割れることもないので好ましい。また、複数のスパッタリングターゲットを一つのバッキングプレートに取り付け、実質一つのターゲットとしてもよい。バッキングプレートとしては、例えば、無酸素銅製のものが挙げられる。
【0061】
本発明の酸化物薄膜は、上述した本発明のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングして得られる。これにより、電子キャリア濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜(酸化物半導体)、若しくは電子キャリア濃度が1×1020/cm3以上のアモルファス酸化物薄膜(透明導電膜)を形成することができる。
スパッタリング法としては、DC(直流)スパッタ法、AC(交流)スパッタ法、RF(高周波)マグネトロンスパッタ法、エレクトロンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。DC(直流)スパッタ法及びRF(高周波)スパッタ法が好ましく利用される。
スパッタ時の成膜温度は、スパッタ法によって異なるが、例えば、25〜450℃、好ましくは、25〜300℃、より好ましくは、25〜250℃であることが適当である。ここで、成膜温度とは、薄膜を形成する基板の温度である。
スパッタ時のスパッタリングチャンバー内の圧力は、スパッタ法によって異なるが、例えば、DC(直流)スパッタ法の場合は、0.1〜2.0MPa、好ましくは、0.3〜0.8MPaであり、RF(高周波)スパッタ法の場合は0.1〜2.0MPa、好ましくは、0.3〜0.8MPaであることが適当である。
スパッタ時に投入される電力出力は、スパッタ法によって異なるが、例えば、DC(直流)スパッタ法の場合は、10〜1000W、好ましくは、100〜300Wであり、RF(高周波)スパッタ法の場合は、10〜1000W、好ましくは、50〜250Wであることが適当である。
RF(高周波)スパッタ法の場合の電源周波数は、例えば、50Hz〜50MHz、好ましくは、10k〜20MHzであることが適当である。
スパッタ時のキャリアーガスとしては、スパッタ法によって異なるが、例えば、酸素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、クリプトンが挙げられる。好ましくは、アルゴンと酸素の混合ガスである。アルゴンと酸素の混合ガスを使用する場合、アルゴン:酸素の流量比は、Ar:O2=100〜80:0〜20、好ましくは、99.5〜90:0.5〜10であることが適当である。
【0062】
スパッタリングに先立ち、スパッタリングターゲットを支持体に接着(ボンディング)する。これは、ターゲットをスパッタリング装置に固定するためである。
ボンディングしたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行い、基板上にIn及びZnの酸化物を主成分とする酸化物薄膜を得る。ここで、「主成分とする」とは、酸素を除く元素の原子比の和を100%として、In及びZnの各元素を原子比で50%以上含むことを意味する。
基板としては、ガラス、樹脂(PET、PES等)等を用いることができる。
得られたアモルファス酸化物薄膜の膜厚は、成膜時間やスパッタ法によっても異なるが、例えば、5〜300nm、好ましくは、10〜90nmであることが適当である。
また、得られる酸化物薄膜の電子キャリア濃度は、例えば、1×1018/cm3未満、好ましくは、5×1017〜1×1012/cm3であることが適当である。
さらに、得られた酸化物薄膜の密度は、6.0g/cm3以上、好ましくは、6.1〜7.2g/cm3であることが適当である。このような密度であれば、得られた酸化物薄膜においても、ノジュールやパーティクルの発生が少なく、膜特性に優れた酸化物薄膜を得ることができる。
【0063】
本発明の酸化物薄膜は、そのまま、あるいは熱処理することで薄膜トランジスタ、チャネル層、太陽電池、ガスセンサー等の半導体膜、又はタッチパネル等の表示素子、太陽電池等の透明導電膜として使用することができる。特に、半導体膜としては薄膜トランジスタのチャネル層(半導体層)、透明導電膜としてはフラットパネル用透明電極として好適である。
以下、本発明の酸化物薄膜を薄膜トランジスタのチャネル層に適用した例について説明する。
【0064】
図4は、薄膜トランジスタの一例の概略断面図である。
この薄膜トランジスタは、ガラス基板等の基板1上にゲート電極2を形成してある。ゲート電極2を覆うようにゲート絶縁膜3を有し、その上にチャネル層4がある。チャネル層4の両端部に、ソース電極5及びドレイン電極6のいずれか一方が形成されている。ソース電極5及びドレイン電極6の一部を除き、保護膜7が形成されている。
【0065】
尚、図4に示す薄膜トランジスタでは、ソース電極5及びドレイン6電極の形成後に保護膜7を形成しているが、これに限らず、例えば、図5に示す薄膜トランジスタとしてもよい。
図5の薄膜トランジスタでは、ガラス基板等の基板11上にゲート電極12を形成してある。ゲート電極12を覆うようにゲート絶縁膜13を有し、その上にチャネル層14がある。チャネル層14上に保護膜15(エッチングストッパー)を形成し、その後、ソース電極・ドレイン電極17を形成している(図5(1))。その後、ソース電極・ドレイン電極17をエッチング等によりパターニングする(図5(2))
本発明の酸化物薄膜は、チャネル層4、14として好適に使用できる。
【0066】
本発明の酸化物薄膜をチャネル層4として使用する場合、酸化物薄膜と酸化物絶縁体層を積層構造とし、下記の工程を含む方法で製造することが好ましい。
(i)本発明の酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程
(ii)前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程
【0067】
上記工程(i)では、酸化雰囲気中で酸化物薄膜を熱処理する。酸化雰囲気とは、例えば、酸素ガス雰囲気中でよい。
また、熱処理は、例えば、100〜450℃、好ましくは150〜350℃で、0.1〜10時間、好ましくは、0.5〜2時間行う。これにより、酸化物薄膜の半導体特性を安定化できる。
【0068】
上記工程(ii)では、熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する。酸化物絶縁体層は、半導体の保護膜として機能する。
酸化物絶縁体層の方法としては、例えば、CVD法やスパッタ法が挙げられる。
酸化物絶縁体層としては、例えば、SiO2,SiNx,Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3であり、特に好ましくはSiO2,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
【0069】
酸化物絶縁体層は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
また、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましく、非晶質であることが特に好ましい。非晶質膜であれば界面の平滑性が良好となり、高いキャリア移動度を維持することができ、閾値電圧やS値が大きくなりすぎることもない。
尚、S値(Swing Factor)とは、オフ状態からゲート電圧を増加させた際に、オフ状態からオン状態にかけてドレイン電流が急峻に立ち上がるが、この急峻さを示す値である。下記式で定義されるように、ドレイン電流が1桁(10倍)上昇するときのゲート電圧の増分をS値とする。
S値=dVg/dlog(Ids)
S値が小さいほど急峻な立ち上がりとなる(「薄膜トランジスタ技術のすべて」、鵜飼育弘著、2007年刊、工業調査会)。S値が大きいと、オンからオフに切り替える際に高いゲート電圧をかける必要があり、消費電力が大きくなるおそれがある。
また、S値は0.8V/dec以下が好ましく、0.3V/dec以下がより好ましく、0.25V/dec以下がさらに好ましく、0.2V/dec以下が特に好ましい。0.8V/decより大きいと駆動電圧が大きくなり消費電力が大きくなるおそれがある。特に、有機ELディスプレイで用いる場合は、直流駆動のためS値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減できるため好ましい。
【0070】
以下、本発明の電界効果型トランジスタを構成部材について説明する。
1.基板
基板としては、特に制限はなく、本技術分野で公知のものを使用できる。例えば、ケイ酸アルカリ系ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス基板、シリコン基板、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等の高分子フィルム基材等が使用できる。基板や基材の厚さは0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板の場合は、化学的に、或いは熱的に強化させたものが好ましい。透明性や平滑性が求められる場合は、ガラス基板、樹脂基板が好ましく、ガラス基板が特に好ましい。軽量化が求められる場合は樹脂基板や高分子機材が好ましい。
【0071】
2.半導体層(チャネル層)
半導体層は、上述したとおり本発明のスパッタリングターゲットを使用して酸化物薄膜を形成することで作製できる。
本発明において、半導体層は非晶質膜であることが好ましい。非晶質膜であることにより、絶縁膜や保護膜との密着性が改善される、大面積でも均一なトランジスタ特性が容易に得られることとなる。ここで、半導体層が非晶質膜であるか否かは、X線結晶構造解析により確認できる。明確なピークが観測されない場合が非晶質である。
バンドギャップが2.0〜6.0eVであることが好ましく、特に、2.8〜5.0eVがより好ましい。バンドギャップは、2.0eV以上であれば、可視光を吸収し電界効果型トランジスタが誤動作するおそれもない。一方、6.0eV以下であれば、キャリアが供給されにくくなり電界効果型トランジスタが機能しなくなるおそれも低い。
半導体層は、熱活性型を示す非縮退半導体であることが好ましい。非縮退半導体であれば、キャリアが多すぎてオフ電流・ゲートリーク電流が増加する、閾値が負になりノーマリーオンとなるなどの不利益を回避できる。半導体層が非縮退半導体であるか否かは、ホール効果を用いた移動度とキャリア密度の温度変化の測定を行うことにより判断できる。また、半導体層を非縮退半導体とするには、成膜時の酸素分圧を調整する、後処理をすることで酸素欠陥量を制御しキャリア密度を最適化することで達成できる。
【0072】
半導体層の表面粗さ(RMS)は、1nm以下が好ましく、0.6nm以下がさらに好ましく、0.3nm以下が特に好ましい。1nm以下であれば、移動度が低下するおそれもない。
半導体層は、酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持している非晶質膜であることが好ましい。酸化インジウムを含む非晶質膜が酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持しているかどうかは、高輝度のシンクロトロン放射等を用いた微小角入射X線散乱(GIXS)によって求めた動径分布関数(RDF)により、In−X(Xは,In,Zn)を表すピークが0.30から0.36nmの間にあることで確認できる(詳細については、下記の文献を参照すればよい。F.Utsuno, et al.,Thin Solid Films,Volume 496, 2006, Pages 95−98)。
さらに、原子間距離が0.30から0.36nmの間のRDFの最大値をA、原子間距離が0.36から0.42の間のRDFの最大値をBとした場合に、A/B>0.7の関係を満たすことが好ましく、A/B>0.85がより好ましく、A/B>1がさらに好ましく、A/B>1.2が特に好ましい。
A/Bが0.7以上であれば、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれもない。A/Bが小さいことは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
また、In−Inの平均結合距離が0.3〜0.322nmであることが好ましく、0.31〜0.32nmであることが特に好ましい。In−Inの平均結合距離はX線吸収分光法により求めることができる。X線吸収分光法による測定では、立ち上がりから数百eVも高いエネルギーのところまで広がったX線吸収広域微細構造(EXAFS)を示す。EXAFSは、励起された原子の周囲の原子による電子の後方散乱によって引き起こされる。飛び出していく電子波と後方散乱された波との干渉効果が起こる。干渉は電子状態の波長と周囲の原子へ行き来する光路長に依存する。EXAFSをフーリエ変換することで動径分布関数(RDF)が得られる。RDFのピークから平均結合距離を見積もることができる。
【0073】
半導体層の膜厚は、通常0.5〜500nm、好ましくは1〜150nm、より好ましくは3〜80nm、特に好ましくは10〜60nmである。0.5nm以上であれば、工業的に均一に成膜することが可能である。一方、500nm以下であれば、成膜時間が長くなりすぎることもない。また、3〜80nmの範囲内にあると、移動度やオンオフ比等TFT特性が特に良好である。
【0074】
本発明では、半導体層が非晶質膜であり、非局在準位のエネルギー幅(E0)が14meV以下であることが好ましい。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E0)は10meV以下がより好ましく、8meV以下がさらに好ましく、6meV以下が特に好ましい。非局在準位のエネルギー幅(E0)が14meV以下であれば、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれもない。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E0)が大きいことは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
【0075】
3.半導体層の保護膜
半導体層の保護膜は、上述した酸化物薄膜上に形成した酸化物絶縁体層である。半導体の保護膜があれば、真空中や低圧下で半導体の表面層の酸素が脱離せず、オフ電流が高くなったり、閾値電圧が負になるおそれもない。また、大気下でも湿度等周囲の影響を受けることもなく、閾値電圧等のトランジスタ特性のばらつきが大きくなるおそれもない。
【0076】
半導体層の保護膜は、非晶質酸化物あるいは非晶質窒化物であることが好ましく、非晶質酸化物であることが特に好ましい。また、保護膜が酸化物であれば、半導体中の酸素が保護膜側に移動することもなく、オフ電流が高くなることもなく、閾値電圧が負になりノーマリーオフを示すおそれもない。
尚、半導体層の保護膜として、さらに、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに、半導体層の保護膜は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上の積層構造を有してもよい。
【0077】
4.ゲート絶縁膜
ゲート絶縁膜を形成する材料にも特に制限はない。本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO2,SiNx,Al2O3,Ta2O5,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3,PbTi3,BaTa2O6,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al2O3,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y2O3,Hf2O3,CaHfO3である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
このようなゲート絶縁膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。また、ゲート絶縁膜は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。
また、ゲート絶縁膜は、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに、ゲート絶縁膜は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
ゲート絶縁膜は、厚さが50〜500nmであることが好ましい。ゲート絶縁膜の成膜はスパッタ法でもよいが、TEOS−CVD法やPECVD法等のCVD法が好ましい。
【0078】
5.電極
ゲート電極、ソ−ス電極及びドレイン電極の各電極を形成する材料に特に制限はなく、本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択することができる。
例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物、ZnO、SnO2等の透明電極や、Al,Ag,Cr,Ni,Mo,Au,Ti,Ta、Cu等の金属電極、又はこれらを含む合金の金属電極を用いることができる。また、それらを2層以上積層して接触抵抗を低減したり、界面強度を向上させることが好ましい。また、ソ−ス電極、ドレイン電極の接触抵抗を低減させるため半導体の電極との界面をプラズマ処理、オゾン処理等で抵抗を調整してもよい。
【0079】
積層電極は、例えば、電子ビーム蒸着法により、厚さ1〜100nmのTi(密着層)、厚さ10〜300nmのAu(接続層)及び厚さ1〜100nmのTi(密着層)をこの順で積層し、この積層膜をフォトリソグラフィー法及びリフトオフ法により加工することにより形成できる。
【0080】
本発明の薄膜トランジスタは、半導体層を遮光する構造を持つことが好ましい。半導体層を遮光する構造(例えば、遮光層)があれば、光が半導体層に入射した場合にキャリア電子が励起されオフ電流が高くなるおそれもない。遮光層は、300〜800nmに吸収を持つ薄膜が好ましい。遮光層は半導体層の上部、下部どちらかでも構わないが、上部及び下部の両方にあることが好ましい。また、遮光層はゲート絶縁膜やブラックマトリックス等と兼用されていても構わない。遮光層が片側だけにある場合、遮光層が無い側から光が半導体層に照射しないよう構造上工夫する必要がある。
【0081】
また、本発明の薄膜トランジスタでは、半導体層とソース電極・ドレイン電極との間にコンタクト層を設けてもよい。コンタクト層は半導体層よりも抵抗が低いことが好ましい。コンタクト層の形成材料は、上述した半導体層と同様な組成の複合酸化物が使用できる。即ち、コンタクト層はIn,Zn及びZr等の各元素を含むことが好ましい。これらの元素を含む場合、コンタクト層と半導体層の間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
コンタクト層の作製方法に特に制約はないが、成膜条件を変えて半導体層と同じ組成比のコンタクト層を成膜したり、半導体層と組成比の異なる層を成膜したり、半導体の電極とのコンタクト部分をプラズマ処理やオゾン処理により抵抗を高めることで構成したり、半導体層を成膜する際に酸素分圧等の成膜条件により抵抗を高くなる層を構成してもよい。また、本発明の薄膜トランジスタでは、半導体層とゲート絶縁膜との間、及び/又は半導体層と保護膜との間に、半導体層よりも抵抗の高い酸化物抵抗層を有することが好ましい。酸化物抵抗層があればオフ電流が発生することもなく、閾値電圧が負となりノーマリーオンとなることもなく、保護膜成膜やエッチングなどの後処理工程時に半導体層が変質し特性が劣化するおそれもない。
【0082】
酸化物抵抗層としては、以下のものが例示できる。
・半導体膜の成膜時よりも高い酸素分圧で成膜した半導体層と同一組成の非晶質酸化物膜
・半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜
・In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とする多結晶酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とし、Zn、Cu、Co、Ni、Mn、Mgなどの正二価元素を1種以上ドープした多結晶酸化物膜
半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜や、In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜の場合は、In組成比が半導体層よりも少ないことが好ましい。また、元素Xの組成比が半導体層よりも多いことが好ましい。
酸化物抵抗層は、In及びZnを含む酸化物であることが好ましい。これらを含む場合、酸化物抵抗層と半導体層の間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
【0083】
上述した薄膜トランジスタの各構成部材(層)は、本技術分野で公知の手法で形成できる。
具体的に、成膜方法としては、スプレー法、ディップ法、CVD法等の化学的成膜方法、又はスパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、パルスレーザーディポジション法等の物理的成膜方法を用いることができる。キャリア密度が制御し易い、及び膜質向上が容易であることから、好ましくは物理的成膜方法を用い、より好ましくは生産性が高いことからスパッタ法を用いる。
スパッタリングでは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる方法、複数の焼結ターゲットを用いコスパッタを用いる方法、合金ターゲットを用い反応性スパッタを用いる方法等が利用できる。好ましくは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる。RF、DCあるいはACスパッタリングなど公知のものが利用できるが、均一性や量産性(設備コスト)からDCあるいはACスパッタリングが好ましい。
【0084】
形成した膜を各種エッチング法によりパターニングできる。
本発明では半導体層を、本発明のターゲットを用い、DC又はACスパッタリングにより成膜することが好ましい。DC又はACスパッタリングを用いることにより、RFスパッタリングの場合と比べて、成膜時のダメージを低減できる。このため、電界効果型トランジスタにおいて、閾値電圧シフトの低減、移動度の向上、閾値電圧の減少、S値の減少等の効果が期待できる。
【0085】
また、本発明では半導体層成膜後に70〜350℃で熱処理することが好ましい。特に、半導体層と半導体の保護膜を形成した後に、70〜350℃で熱処理することが好ましい。70℃以上であれば、得られるトランジスタの十分な熱安定性や耐熱性を保持することができ、十分な移動度を保持でき、S値が大きくなったり、閾値電圧が高くなるおそれもない。一方、350℃以下であれば、耐熱性のない基板も使用でき、熱処理用の設備費用がかかるおそれもない。
熱処理温度は80〜260℃がより好ましく、90〜180℃がさらに好ましく、100〜150℃が特に好ましい。特に、熱処理温度が180℃以下であれば、基板としてPEN等の耐熱性の低い樹脂基板を利用できるため好ましい。
熱処理時間は、通常1秒〜24時間が好ましいが、処理温度により調整することが好ましい。例えば、70〜180℃では、10分から24時間がより好ましく、20分から6時間がさらに好ましく、30分〜3時間が特に好ましい。180〜260℃では、6分から4時間がより好ましく、15分から2時間がさらに好ましい。260〜300℃では、30秒から4時間がより好ましく、1分から2時間が特に好ましい。300〜350℃では、1秒から1時間がより好ましく、2秒から30分が特に好ましい。
熱処理は、不活性ガス中で酸素分圧が10−3Pa以下の環境下で行うか、あるいは半導体層を保護膜で覆った後に行うことが好ましい。上記条件下だと再現性が向上する。
【0086】
本発明の製造方法で得られる薄膜トランジスタにおいて、移動度は1cm2/Vs以上が好ましく、3cm2/Vs以上がより好ましく、8cm2/Vs以上が特に好ましい。1cm2/Vs以上であればスイッチング速度が遅くなることもなく、大画面高精細のディスプレイに用いるのに最適である。
オンオフ比は、106以上が好ましく、107以上がより好ましく、108以上が特に好ましい。
オフ電流は、2pA以下が好ましく、1pA以下がより好ましい。オフ電流が2pA以下であれば、ディスプレイのTFTとして用いた場合に十分なコントラストが得られ、良好な画面の均一性が得られる。
ゲートリーク電流は1pA以下が好ましい。1pA以上であれば、ディスプレイのTFTとして用いた場合に良好なコントラストが得られる。
閾値電圧は、通常0〜10Vであるが、0〜4Vが好ましく、0〜3Vがより好ましく、0〜2Vが特に好ましい。0V以上であればノーマリーオンとなることもなく、オフ時に電圧をかけることも必要なく、消費電力を低く抑えることができる。10V以下であれば駆動電圧が大きくなることもなく、消費電力を低く抑えることができ、移動度を低く抑えることができる。
また、S値は0.8V/dec以下が好ましく、0.3V/dec以下がより好ましく、0.25V/dec以下がさらに好ましく、0.2V/dec以下が特に好ましい。0.8V/dec以下であれば、駆動電圧を低く抑えることができ、消費電力も抑制できる。特に、有機ELディスプレイで用いる場合は、直流駆動のためS値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減できるため好ましい。
【0087】
また、10μAの直流電圧50℃で100時間加えた前後の閾値電圧のシフト量は、1.0V以下が好ましく、0.5V以下がより好ましい。1.0V以下であれば有機ELディスプレイのトランジスタとして利用した場合、画質が変化することもない。
また、伝達曲線でゲート電圧を昇降させた場合のヒステリシスが小さい方が好ましい。
また、チャンネル幅Wとチャンネル長Lの比W/Lは、通常0.1〜100、好ましくは0.5〜20、特に好ましくは1〜8である。W/Lが100以下であれば漏れ電流が増えることもなく、オンオフ比が低下したりするおそれがある。0.1以上であれば電界効果移動度が低下することもなく、ピンチオフが明瞭になる。また、チャンネル長Lは通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは2〜10μmである。0.1μm以上であれば工業的に製造が難しくまた漏れ電流が大きくなるおそれもなく、1000μm以下であれば素子が大きくなりすぎることもない。
【0088】
本発明の製造方法で作製した薄膜トランジスタは、例えば、フラットパネルディスプレイのTFT用、特に液晶パネル等の装置用として好適である。
【実施例】
【0089】
実施例1
放電プラズマ焼結機としては、(株)イズミテック製放電プラズマ焼結機(SPS−3.20MK−IV)を用いた。焼結治具としてはグラファイト製で直径10cmの円筒形のものを用いた。
【0090】
この焼結治具に、平均粒径が1.5μmの酸化インジウム(In2O3)と平均粒径3.3μmの金属Snの混合粉末(In2O3約92g、金属Sn約8g、錫含有量約10原子%、即ちIn/(Sn+In)=約0.9)を十分に混合したものを均一に入れ、約30MPaの圧力を印加し、焼結チャンバー内を約10Paまで脱気した。
次いで、ピーク電流値が約1000Aの直流パルス電流(パルス幅2.4ミリ秒、周期30Hz)を治具に通電して、試料周辺を昇温速度約50℃/分で加熱した。最終的には、ピーク電流値を6000A程度まで上昇させ、850℃又は950℃に加熱し、この温度(焼結温度)で5分間保持した。その後、通電及び加圧を止め、試料を室温まで冷却し、焼結チャンバー内を大気圧に戻した。
この状態で取り出した焼結体は直径約10cm、厚さ約5mmの円盤状であった。焼結条件と、得られる焼結体の性状を表1に示す。
尚、バルク抵抗はロレスタ(三菱化学製)で測定した。また、密度は2cm角サイズに切り出した試料片を、水を溶媒としたアルキメデス法により測定した。
【0091】
【表1】
【0092】
焼結体2のX線回折の結果を図6に示した。
酸化インジウムのピークと金属Snのピークが観察された。また、電子線マイクロアナライザ(EPMA)の面分析を行った結果を図7に示す。金属Snは、7.2μm程度の粒径で存在することが分かった。尚、金属Snの含有量は原料の混合比と同じであった。他の実施例等も同様である。
【0093】
得られた焼結体を、表面研削した後に、Cu製バッキングプレートに金属インジウムでボンディングし、スパッタリングターゲットとした。これを、島津製作所製スパッタ装置に装着し、直流プラズマスパッタ出力:400W,スパッタガスをAr:99%、O2:1%とし、25時間(10kWhr=25hr×400W)連続スパッタを行い、表面に発生するノジュールを観察した。その結果、ノジュールの発生は全く観察されなかった。
【0094】
実施例2
金属スズに代えて金属亜鉛を使用し、焼結温度を表2に示す温度にした以外は、実施例1と同様にして焼結体を製造し評価した。尚、金属原子の比[In/(In+Zn)]は0.83であった。
結果を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
焼結体4のX線回折の結果を図8に示す。
酸化インジウムのピークと金属Znのピークが観察された。また、EPMAの面分析を行った結果を図9に示す。Znは、約10μm程度の粒径で存在することが分かった。
【0097】
得られた焼結体について、実施例1と同様にスパッタリングターゲットの加工及びノジュールの観察を行った。その結果、ノジュールの発生は全く観察されなかった。
【0098】
実施例3
金属スズに代えて、金属亜鉛及び金属スズを使用し、焼結温度を表3に示す温度にした以外は、実施例1と同様にして焼結体を製造し評価した。尚、金属原子の原子比は以下のとおりとした。
In/(In+Zn+Sn)=0.80
Zn/(In+Zn+Sn)=0.11
Sn/(In+Zn+Sn)=0.09
結果を表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
焼結体6,7のX線回折の結果より、酸化インジウムのピークと金属Zn及び金属Snのピークが観察された。また、EPMAの面分析を行ったところ、金属Zn及び金属Snは、約10μm程度の粒径で存在することが分かった。
【0101】
得られた焼結体について、実施例1と同様にスパッタリングターゲットの加工及びノジュールの観察を行った。その結果、ノジュールの発生は全く観察されなかった。
【0102】
実施例4
酸化スズ粉と酸化インジウム粉の混合粉(原子比[Sn/(In+Sn)]=0.05)を湿式ボールミルで24時間混合した。スプレードライヤーで乾燥させた混合粉を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形した。
得られた成形体を1450℃で24時間焼結した。その焼結体を湿式ボールミルで36時間粉砕した。その結果、平均粒径が4.8μmのITO粉末を得た。
このITO粉体に金属Sn(平均粒径:3.3μm)を混合粉全体の10wt%([In/(Sn+In)]=約0.9)となるように混合した。
この混合粉を焼結治具に入れ、実施例1と同様にして放電プラズマ焼結して焼結体を得た。結果を表4に示す。
【0103】
【表4】
【0104】
これら焼結体のX線回折の結果より、錫が固溶した酸化インジウムのピークと金属Snのピークが観察された。また、EPMAの面分析を行ったところ、金属Snは、約10μm程度の粒径で存在することが分かった。
【0105】
得られた焼結体について、実施例1と同様にスパッタリングターゲットの加工及びノジュールの観察を行った。その結果、ノジュールの発生は全く観察されなかった。
【0106】
比較例1
下記の市販ITOターゲットA〜Cについて評価した。結果を表5に示す。尚、錫原子の含有率[Sn/(In+Sn)]は0.16(原子比)である。
【0107】
【表5】
【0108】
ターゲットAの断面のEPMA分析結果(25μm□視野)を図10に示す。これにより、酸化スズが1〜3μmの大きさで存在していることがわかる。
また、X線回折の結果を図11に示す。尚、この図では縦軸を通常の回折スペクトルの10倍に拡大してある。このスペクトルには、2θが19°から24°である領域にIn4Sn3O12の特徴であるピークが3本現れている。このことから、図10で観察される酸化スズの分散は、In4Sn3O12化合物であることが推定される。
【0109】
図12に、走査型拡がり抵抗顕微鏡(SSRM)を同様に視野で観測した場合の抵抗値の分布を示す図である。
抵抗値が一桁大きな島状部分が存在することがわかる。この部分がIn4Sn3O12化合物である。
実施例1と同様にノジュール発生テストを実施したところ、大量のノジュールが観察された。このように、In4Sn3O12化合物等が分散したターゲットでは、大量のノジュールが発生する。
【0110】
比較例2
酸化スズ粉と酸化インジウム粉を、原子比[Sn/(In+Sn)]が0.16となるように混合した混合粉を、湿式ボールミルで24時間混合した。
スプレードライヤーで乾燥させた混合粉を焼結治具に入れ、実施例1と同様にして放電プラズマ焼結して焼結体を得た。尚、焼結温度は950℃とした。
【0111】
この焼結体のX線回折のピークは、In2O3相とSnO2相からなっていた。焼結体の密度は6.22g/cm3で、バルク抵抗は0.44mΩcmであった。
得られた焼結体について、実施例1と同様にスパッタリングターゲットの加工及びノジュールの観察を行った。その結果、スパッタ放電中に異常放電であるアーキングが起こり、放電実験終了後にはターゲット表面上に大量のノジュールが観察された。このように、SnO2が分散したターゲットでは、大量のノジュールが発生した。
【0112】
実施例5
酸化スズ粉と酸化インジウム粉からなる混合粉[原子比Sn/(In+Sn)=0.05]を湿式ボールミルで24時間混合した。これをスプレードライヤーで乾燥させた後、金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形した。
得られた成形体を1450℃で24時間焼結した。
この焼結体を湿式ボールミルで36時間粉砕した。その結果、平均粒径が4.8μmのITO粉末を得た。
このITO粉体に金属Sn(平均粒径:0.5μm、1μm、2μm、5μm)を混合粉全体の5wt%となるように混合した。
この混合粉を焼結治具に入れ、実施例1と同様にして放電プラズマ焼結して焼結体を得た。尚、焼結温度は900℃とした。結果を表6に示す。
【0113】
【表6】
【0114】
いずれの焼結体も、X線回折の結果より、錫が固溶した酸化インジウムのピークと金属Snのピークが観察された。
また、EPMAの面分析を行ったところ、金属Snの平均粒径は、それぞれ0.9μm、1.2μm、3.1μm、7.2μmであることが分かった。得られた焼結体のバルク抵抗は、金属Sn粒子の粒径に応じた変化している。
【0115】
得られた焼結体について、実施例1と同様にスパッタリングターゲットの加工及びノジュールの観察を行った。その結果、ノジュールの発生は全く観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の酸化インジウム焼結体は、各種表示装置の透明電極や半導体素子で使用される半導体膜を形成する際に使用されるスパッタリングターゲットとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の第1の製造方法の工程図である。
【図2】第1の製造方法に仮焼工程を設けた場合の工程図である。
【図3】本発明の第2の製造方法の工程図である。
【図4】薄膜トランジスタの一例の概略断面図である。
【図5】薄膜トランジスタの他の例の概略断面図であり、(1)はソース・ドレイン電極のパターニング前の概略図であり、(2)はソース・ドレイン電極のパターニング後の概略図である。
【図6】実施例1で製造した焼結体2のX線回折チャートである。
【図7】焼結体2のEPMA分析の結果である。
【図8】実施例2で製造した焼結体4のX線回折チャートである
【図9】焼結体4のEPMA分析の結果である。
【図10】比較例1で評価したターゲットAのEPMA分析の結果である。
【図11】ターゲットAのX線回折チャートである。
【図12】ターゲットAのSSRM分析の結果である。
【符号の説明】
【0118】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 チャネル層
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 保護膜
11 基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁膜
14 チャネル層
15 保護膜
17 ソース・ドレイン電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウム相と金属相を有することを特徴とする酸化インジウム焼結体。
【請求項2】
前記金属相の含有量が焼結体全体の1wt%〜30wt%であることを特徴とする請求項1記載の酸化インジウム焼結体。
【請求項3】
前記金属相の平均粒径が、20μm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化インジウム焼結体。
【請求項4】
前記金属相が、金属スズ及び/又は金属亜鉛からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体。
【請求項5】
前記酸化インジウム相の一部が、他の金属元素の酸化物により置換固溶されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体からなるスパッタリングターゲット。
【請求項7】
インジウム化合物と金属微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することを特徴とする請求項1〜4記載のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体の製造方法。
【請求項8】
インジウム化合物と金属酸化物微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングして得られる酸化物薄膜。
【請求項10】
前記酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、請求項9に記載の酸化物薄膜。
【請求項11】
酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)請求項10の酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(ii)前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む、薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置。
【請求項1】
酸化インジウム相と金属相を有することを特徴とする酸化インジウム焼結体。
【請求項2】
前記金属相の含有量が焼結体全体の1wt%〜30wt%であることを特徴とする請求項1記載の酸化インジウム焼結体。
【請求項3】
前記金属相の平均粒径が、20μm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化インジウム焼結体。
【請求項4】
前記金属相が、金属スズ及び/又は金属亜鉛からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体。
【請求項5】
前記酸化インジウム相の一部が、他の金属元素の酸化物により置換固溶されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体からなるスパッタリングターゲット。
【請求項7】
インジウム化合物と金属微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することを特徴とする請求項1〜4記載のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体の製造方法。
【請求項8】
インジウム化合物と金属酸化物微粒子を混合した粉末を放電プラズマ焼結することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酸化インジウム焼結体の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングして得られる酸化物薄膜。
【請求項10】
前記酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層用の薄膜である、請求項9に記載の酸化物薄膜。
【請求項11】
酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(i)請求項10の酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(ii)前記熱処理した酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含む、薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の薄膜トランジスタの製造方法により製造した薄膜トランジスタを備えた半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−30824(P2010−30824A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193796(P2008−193796)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】
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