説明

DUV−UV帯域の分光光学系およびそれを用いた分光測定装置

【課題】屈折レンズのみを用いた光学系により垂直照明を可能とし、かつDUV−UV(190nm〜400nm)領域の広帯域色補正を行うことを可能とする分光光学系および分光測定装置を提供する。
【解決手段】光源100、折り返しミラー110、視野絞り120、及び試料上に集光させる物体側集光レンズ系130と、該物体側集光レンズ系の結像面に配置される像側集光レンズ系140と、前記試料からの正反射光を分光する分光器150とを有し、前記物体側集光レンズ系130と、前記像側集光レンズ系140は、波長190〜400nmのブロードな帯域で色補正され、かつ垂直照明可能な屈折型レンズのみで構成される分光光学系であって、レンズのワーキングディスタンス(WD)が、所定の距離以下で設定され、かつ各接合レンズ間隔Dが、所定の距離以上で設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光光学系および分光測定装置に関し、特に、垂直照明が可能な屈折レンズのみを用いた光学系配置により、深紫外光(DUV)から紫外光(UV)まで(190nm〜400nm)の広帯域で色補正された、分光光学系および分光測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料面構造の欠陥検出においては、感度の高いDUV−UV(190nm〜400nm)領域の広帯域波長を利用した分光測定が必要となってきている。このとき、レンズ系は、広帯域波長および複数波長を使用する場合は色補正されている必要がある。色補正には、反射型光学系あるいは屈折型光学系を用いる方法がある。
反射型光学系では、シュヴァルツシルド型の色補正レンズ系を備えた紫外領域を対象とした分光光学系が、特開2005−127830号公報(特許文献1)に記載されている。
屈折・回折型光学系では、回折光学素子を用いて、紫外域波長λとその2倍の波長2λに対して色補正されることを特徴とする光学系が、特開2008−90051号公報(特許文献2)に記載されている。
屈折型光学系では、近紫外光での高解像観察や紫外蛍光共焦点を可能とするように、350nm以上の近紫外から可視領域にわたって色補正され、焦点位置が一致していることを特徴とする近紫外対物レンズが、特許第3288441号公報(特許文献3)に記載されている。また、蛍石と石英をレンズ材料とし、波長200nm程度の紫外から赤外領域に対して広帯域に色補正されていることを特徴とする結像用対物レンズが、特開昭61−90115号公報(特許文献4)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−127830号公報
【特許文献2】特開2008−90051号公報
【特許文献3】特許第3288441号公報
【特許文献4】特開昭61−90115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている光学系は、反射型のため広帯域色補正が可能であるが、反射型色補正光学系では、試料面への照明が斜入射となってしまう。斜入射照明は、試料面が静止している場合には問題ないが、試料面を回転させて試料全面を連続走査するような場合には問題となる。図3において、斜入射照明811の場合、連続走査のため試料面が上下に震動し(試料面1、1’)、走査対象位置がずれてしまう(走査対象位置821、831)という課題があった。
一方、特許文献2乃至4に記載されている、屈折・回折型光学系および屈折型光学系は、垂直照明が可能な構成である。図4は、垂直照明の場合に試料面の上下震動による位置ずれが低減される状況を示す図である。図4において、垂直照明812の場合、連続走査のため試料面が上下に震動しても(試料面1、1’)、走査対象位置のずれは小さくなる(走査対象位置822、832)。しかし、特許文献2に記載されている屈折・回折型光学系は、紫外域波長λとその2倍の波長2λのみの2波長色補正であり、広帯域色補正に対応していないという課題があった。
特許文献3に記載されている屈折型光学系は、試料面構造の欠陥検出において、感度の高い350nm以下の深紫外を含んだ色補正がなされていないという課題があった。
特許文献4に記載されている屈折型光学系は、紫外領域で問題となる接合レンズの接着について対応していないという課題があった。接合レンズ間の接着には、一般的にUV硬化剤(接着剤)が使用され、そこに紫外光を照射することでUV硬化剤が固められている。従って、UV硬化剤を使用した接合レンズで構成される屈折型光学系に対し、紫外光を照射しつづけると、UV硬化剤部が劣化する。このとき発生したガスがレンズ面に再付着することで、透過率が低下する。一方、レンズの接合部にUV硬化剤を使用せず、貼り合わせることで性能劣化を防ぐ方法もある。しかし、貼り合わせの場合、空気間隔が狭くなり、干渉による明暗のムラ(光量のムラ)が発生する。
【0005】
本発明の目的は、分光光学系およびそれを用いた分光測定装置において、試料面振動の影響が小さい垂直照明を可能とし、DUV−UV(190nm〜400nm)広帯域の色補正を実現する光学系を提供することにある。
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を説明すれば、以下のとおりである。
本発明の分光光学系は、光源、折り返しミラー、視野絞り、及び試料上を照明する物体側対物レンズ系からなる照明光学系と、該物体側対物レンズ系、該視野絞り、該折り返しミラー、及び該物体側の結像面に配置される像側集光レンズ系からなる検出光学系と、前記試料からの正反射光を分光する分光器とを有し、前記物体側対物レンズ系と、前記像側集光レンズ系は、波長190〜400nmのブロードな帯域で色補正され、かつ屈折型レンズのみで構成される分光光学系であって、レンズのワーキングディスタンス(WD)が、 WD≦10.0mm を満たすように設定されるものである。これにより、DUV−UV領域で色補正を行うことができる。
本発明の分光光学系では、さらに、各接合レンズ間隔Dを、1回反射を考慮して、 (λ1・λ2)/(4nγ)≦D に設定している。
ここで、nは空気の屈折率、γは分光器分解能である。また、λ2は検討波長であり、検討する帯域波長の中で一番長波長を選択する。λ1は検討波長λ2の波長に分光器分解能γ分を足したものである。
これにより、干渉による明暗のムラ(光量のムラ)を発生させないようにすることができる。なお、多重反射を考慮する場合は、接合レンズ間隔Dを1.5倍する。
本発明の分光光学系は、さらに、照射光学系は試料を垂直に照射するものである。そのため、高速・連続検査時のデフォーカスによる位置ずれが低減される。
【0007】
本発明の分光測定装置は、前記の分光光学系と、試料を搭載し、試料の位置を前記分光光学系に対して相対的に移動させることができるステージ部と、分光器および前記ステージ部の動作を制御する制御部と、前記分光器において検出した分光強度分布に基づいて前記試料に形成されたパターンの形状または形状異常を検出するデータ処理部とを有する構成である。
本発明の分光測定装置は、さらに、前記データ処理部は、前記試料における異なるパターン形状に対して予め算出した分光反射率の波長依存性のグラフを格納するデータベースを有し、前記分光器において検出した分光強度分布に基づいて、前記試料について測定した分光反射率の波長依存性のグラフを取得し、前記データベースに格納されている分光反射率の波長依存性のグラフから、前記試料について測定した分光反射率の波長依存性のグラフと一致するものを、分光反射率の波形の比較により選定することによって、前記試料に形成されたパターン形状を特定するものである。なお、パターン形状には、膜厚も含まれる。
【発明の効果】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を説明すれば以下のとおりである。
本発明によれば、DUV−UV(190nm〜400nm)広帯域の色補正を行うことができる。また、干渉による明暗のムラ(光量のムラ)の発生を防止することができる。また、垂直照明が可能となり、従来の反射型光学系の斜入射照明において課題であった、高速・連続検査時のデフォーカスによる位置ずれが低減される。これらにより、試料面構造の欠陥検出において、感度の高いDUV−UV(190nm〜400nm)領域において、高速かつ高精度な分光測定(構造および膜厚測定等)が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態である分光光学系の構成例を示した図である。
【図2】(a)は本発明の一実施の形態における試料として用いるパターンドメディアを模式的に示した斜視図であり、(b)、(c)は、パターンドメディアにおけるデータ部とサーボ部のパターンの例を拡大して示した平面図である。
【図3】斜入射照明の場合に試料面の上下震動により位置ずれが発生する状況を示す図である。
【図4】垂直落射照明の場合に試料面の上下震動による位置ずれが低減される状況を示す図である。
【図5】色収差補正の原理と照明幅算出方法について説明する図である。
【図6】照明幅算出方法について説明する図である。
【図7】(a)は、レンズとそれを梱包する鏡筒を考慮したワーキングディスタンス(WD)を示した図である。(b)は、ワーキングディスタンス(WD)と色ずれ(Δx)の関係を示した図である。
【図8】2枚のレンズの空気間隔Dにより発生する、干渉の明暗のムラ(光量のムラ)の原理を示した図である。
【図9】(a)は、2枚のレンズの空気間隔Dを0〜0.5μmとした場合の模式図を示した図である。(b)は、波長199.50〜200.50nmに対し、空気間隔Dを0〜0.5μm変化させたときの透過光率のシミュレーション結果を示したグラフである。
【図10】(a)は、2枚のレンズの空気間隔Dを30〜30.1μmとした場合の模式図を示した図である。(b)は、波長199.50〜200.50nmに対し、空気間隔Dを30〜30.1μm変化させたときの透過光率のシミュレーション結果を示したグラフである。
【図11】(a)は、分光器分解能γ=0.3nm、波長400nmにおける透過光率に対するPeak to Valley値を、空気間隔Dごとにプロットしたグラフである。(b)は、分光器分解能γ=1.0nm、波長400nmにおける透過光率に対するPeak to Valley値を、空気間隔Dごとにプロットしたグラフである。
【図12】本発明の一実施の形態である分光光学系を用いたハードディスク検査装置の構成例を示した図である。
【図13】本発明の一実施の形態におけるデータ処理部での処理の概要について説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【実施例1】
【0011】
まず、図1、図2を用いて、本発明の一実施の形態である分光光学系について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態である分光光学系の構成例を示した図である。分光光学系は、照明光学系と検出光学系とから構成される。
照明光学系は、照明光を照射する光源100と、折り返し部材110と、視野絞り120と、物体側対物レンズ系130を介して、ステージ上の試料1に垂直照明する構造である。
同様に、検出光学系は、物体側対物レンズ系130と、視野絞り120と、折り返しミラー110と、物体側の結像面に配置される像側集光レンズ系140を介し、試料面1からの正反射光を分光する分光器150に垂直照明する構造である。尚、試料面1と分光器150の入射面は、共役関係にある。
【0012】
図2(a)は、試料1として用いるパターンドメディアを模式的に示した斜視図である。パターンドメディア2000は、ディスク上に磁性粒子が人工的に規則正しく並べられた記録媒体であり、例えば、ハードディスク装置などに用いられる磁気記憶媒体である。パターンドメディア2000の表面には、例えば、ユーザデータを書き込むデータ部2100と、バースト信号、アドレス、プリアンブルなどを含む、トラッキング制御やデータアクセス制御のためのサーボ部2200とが存在する。図2(a)では、ディスク面におけるデータ部2100とサーボ部2200の配置を模式的に線で示している。
図2(b)は、図2(a)のパターンドメディア2000におけるデータ部2100とサーボ部2200のパターンの例を拡大して示した平面図である。図2(b)のサーボ部2210では、凹凸加工を施した基板の凸部上の磁性薄膜パターンが、パターンドメディア2000のサーボパターンに対応している。また、サーボ部2210には、トラッキング制御を行うためのバースト信号2220が含まれている。一方、データ部2110には、周方向に連続したトラックを形成する磁性薄膜が凹部によって分離された状態で形成されている。このタイプのパターンドメディア2000は、ディスクリートトラックメディアと呼ばれている。
図2(c)も同様に、図2(a)のパターンドメディア2000におけるデータ部2100とサーボ部2200のパターンの例を拡大して示した平面図である。図2(c)のデータ部2120では、データビットを形成する磁性薄膜が凹部によって分離された状態で形成されている。このタイプのパターンドメディア2000はビットパターンドメディアと呼ばれている。
データ部2100とサーボ部2200は分離する必要がある。理由は、データ部2100に照明光を照射し、分光波形を検出して試料面を検査するような場合、サーボ部2200に照明光スポットがかかると正確な分光波形が検出できなくなるためである。特に、図3で示すような斜入射照明の場合、パターンドメディア2000のデータ部2100の全面を連続走査する場合には、試料1の試料面が上下に震動し、その結果、走査対象位置821、831がずれ、サーボ部2200にかかる可能性が高くなる。
【0013】
次に、図5〜図7を用いて分光光学系の色収差補正の原理について説明する。
まず、図5を用いて、色収差を補正する光学系の原理について説明する。レンズ系で異なる色の光を一点に収斂させるような物点の色消しは、式(1)で表すことができる。
【0014】
【数1】

【0015】
ここで、図5に示すように、レンズ枚数をN、各レンズの周縁光線850の高さをhi、最終レンズの周縁光線の高さをhN、最終レンズ面から物体面までの距離をSN、各レンズの屈折力及びアッベ数をφi,νiと置く。また、各レンズ面の屈折力φiは、レンズ面の曲率半径rとその両側の屈折率n(λ)差により、アッベ数νiは、中心波長λ0、短波長λ1、長波長λ2の屈折率により求められる。これにより色収差ΔSが導かれる。
さらに、各レンズの周縁光線の高さhiは最終レンズの周縁光線の高さhNとほぼ等しく、概略平行光となる。これにより、式(1)は以下の式(2)で表される。
【0016】
【数2】

【0017】
色収差を低減するためには、ΔSを低減すればよい。従って、Σ(φi/νi)、あるいは最終レンズ面から物体面までの距離SNを低減することにより色収差を低減することができる。前者は、各レンズの曲率半径,厚み,間隔を調整することで、低減が可能である。一方、後者は、レンズのワーキングディスタンス(WD)を小さくすることで、低減が可能である。
【0018】
図7に試料1とレンズ910の面間隔(WD)を減少させたときの色ずれを示す。
色ずれとは、光軸に垂直な面S0における各波長の照明幅854差である。図5と6に示すように、面S0における各波長の照明幅854差の算出方法は、以下である。
先ず、光線追跡で光軸に垂直な面S0における最外結像スポット851の位置852とRMS値853を算出する。
次に、照明幅854は、結像スポット851の位置852とRMS値853をもとに、以下の式(3)で表される。
【0019】
【数3】

【0020】
ここでXλは照明幅、xとPλはそれぞれ結像スポットの位置とRMS値である。
以上を、各波長に対して行う。
最後、色ずれは、各波長の照明幅854をもとに,以下の式(4)で表される。
【0021】
【数4】

【0022】
ここでΔxは各波長の色ずれ(%)、Max.(Xλ)は各波長λのうち最大の照明幅、Min.(Xλ)は各波長λのうち最小の照明幅、Ave.(Xλ)は各波長λの平均照明幅を示す。このとき、波長の色ずれは片側で評価するため2で割っている。
面間隔(WD)を減少させ、上記で算出した各波長の色ずれをプロットしたものが図6(b)のシミュレーション結果である。その結果、WD≦10.0mmにすることで、色ずれを10%以下にすることができる。このとき、WD≦10.0mmの下限は、鏡筒920など、実装による制限値となる。また、WD≧10.0mmの場合、色ずれが極端に大きくなる。
【0023】
次に、図8〜図11を用いて、UV硬化剤(接着剤)不使用時における、レンズの貼り合わせや薄いスペーサ挿入により発生する、干渉による明暗のムラ(光量のムラ)について検討する。
図8に示すように、第一レンズ930の表面に対し、入射角θで入射する光線960には、第二レンズ950を透過する光961と反射する光970がある。特に、反射する光970は、第一レンズ930を透過した後、第二レンズ950と、第一レンズ930の表面で反射し、第二レンズ950を透過する。従って、透過する光961と反射する光970では空気間隔D980に応じて光路長差が生じる。このとき、干渉により生じる明暗のムラ(光量のムラ)は、多重反射の場合、式(5)により表される。
【0024】
【数5】

【0025】
ここで、Iは強度、Etは透過光振幅、Et1は第二レンズ950を透過する光961の振幅、Et2は第二レンズ950と、第一レンズ930の表面で反射(1回反射)し、第二レンズ950を透過する光970の振幅である。多重反射の場合、透過光振幅Et3、Et4と続く。
2光束の干渉について考える場合、第二レンズ950を透過する光961と反射する光970は式(6)で示す光路長差Δを持つ。
【0026】
【数6】

【0027】
ここで、空気の屈折率をn、空気間隔をD、入射角度をθとする。
また、第二レンズ950を透過する光961と反射する光970の間にはπの位相差δが生じ、式(7)で表すことができる。
【0028】
【数7】

【0029】
ここで、Δは光路長差、λは波長である。
式(5)、式(7)を用いて、2光束干渉の式(8)を求めることが出来る。
【0030】
【数8】

【0031】
Iは2光束干渉の透過光強度、Etは透過光振幅、Et1は第二レンズ950を透過する光961の振幅、Et2は第二レンズ950と、第一レンズ930の表面で反射(2回反射)し、第二レンズ950を透過する光970の振幅である。干渉により生じる明暗のムラ(光量のムラ)の程度は、位相差δに依存する。
式(6)で示す光路長差Δは、πの位相差をもつことから、干渉により生じる明暗を、式(9)のように表せる。
【0032】
【数9】

【0033】
ここで、波長λ2は検討波長であり、λ1は検討波長λ2の波長に分光器分解能γ分を足したものである。さらに、波長λ2は検討する帯域波長の中で一番長波長を選択する。これは、長波長になるほどDの値が大きくなるためである。
式(9)より、式(10)、式(11)、式(12)を導くことができる。
【0034】
【数10】

【0035】
【数11】

【0036】
【数12】

【0037】
ここで、波長λ1とλ2の差は、分光器分解能γとすることができる。分光器分解能γと整数値mは、反比例の関係にある。
式(12)を式(9)に代入し、空気間隔Dを求める式(13)が導かれる。
【0038】
【数13】

【0039】
分光器分解能γと空気間隔Dは、反比例の関係にある。従って、分光器分解能γが大きい場合、空気間隔Dは小さくなる。一方、分光器の分解能γが小さい場合、空気間隔Dは大きくなる。
例えば、分光器分解能γが1.0nmである場合の空気間隔Dを検討する。波長帯域は200〜400nmとする。また、分光器分解能γが1.0nmであることから、検討波長を(1)200±0.25、0.50nm、(2)300±0.25、0.50nm、(3)400±0.25、0.50nmとし、各波長の空気間隔Dにおける透過光率を検討する。
【0040】
図9(a)に示すように、第一レンズ930、第二レンズ950と空気層940からなる構造を仮定する。第一レンズ930の表面に対し、入射角θで入射する光線960には、第二レンズ950を透過する光961と第一レンズ930と、第二レンズ950の表面で反射し、透過する光970がある。この2つの光に対し、空気間隔D980を0〜0.5μm変化させたときの透過光率を検討する。ここで、各波長は、(1)200nm、(2)300nm、(3)400nmである。
図9(b)は、波長(1)200nmに対し、空気間隔D980を0〜0.5μm変化させたときの透過光率のシミュレーション結果である。図9(b)に示される、透過光率波形の波長は、それぞれ199.50nm、199.75nm、200.00nm、200.25nm、200.50nmとそれぞれの平均990である。その結果、空気間隔D980が0〜0.5μmと小さい場合、全ての波長の波形位相が一致し、平均990すると明暗のムラ(光量のムラ)が発生することがわかる。これは、空気間隔D980が小さく、透過する光960と反射を経て透過する光970との間に光路長差がほとんど生じず、お互いに打ち消しあう作用が働かないためである。
【0041】
図10(a)の2つの光に対し、空気間隔D980’を30〜30.1μm変化させたときの透過光率を検討する。ここで、各波長は、(1)200nm、(2)300nm、(3)400nmである。
図10(b)は、波長(1)200nmに対し、空気間隔D980’を30μmに拡げ、 30〜30.1μm変化させたときの透過光率のシミュレーション結果である。図10(b)に示される、透過光率波形の波長は、それぞれ199.50nm、199.75nm、200.00nm、200.25nm、200.50nmとそれぞれの平均990’である。その結果、空気間隔D980’が30〜30.1μmと大きい場合、各波長の波形位相がずれ、平均990’すると明暗のムラ(光量のムラ)が均一化されていることがわかる。これは、空気間隔D980’が大きく、透過する光960’と反射を経て透過する光970’との間に光路長差が生じ、お互いに打ち消しあう作用が働くためである。
波長λ1=401nm、波長λ2=400nm、分光器分解能γ=1.0nm、入射角度θ=0°(垂直入射)、空気の屈折率nがほぼ1に等しい、とした場合、式(13)から空気間隔Dは、D≧40.1μmを満たす必要がある。一方、D≧40.1μmを満たさない場合、透過する光960と反射を経て透過する光970との間に光路長差がほとんど生じず、お互いに打ち消しあう作用が働かないため、明暗のムラ(光量のムラ)が発生する。
【0042】
図11(a)は、分光器分解能γ=0.3nm、波長400nmの場合の透過光率波形に対するPeak to Valley値999を、空気間隔Dごとにプロットしたグラフである。
図11(b)は、分光器分解能γ=1.0nm、波長400nmの場合の透過光率波形に対するPeak to Valley値999’を、空気間隔Dごとにプロットしたグラフである。
分光器分解能γが0.3nmの場合、空気間隔Dは、式(13)からD≧133.4μmを満たす必要がある。一方、D≧133.4μmを満たさない場合、透過する光960と反射を経て透過する光970との間に光路長差がほとんど生じず、お互いに打ち消しあう作用が働かないため、明暗のムラ(光量のムラ)が発生する。
図11に示すシミュレーション結果1040、1040’と、式(13)による結果1050,1050’に不一致が生じる。これは、実際、多重反射しているのに対し、式(13)が1回反射のみしか考慮していないためである。式(13)で算出される空気間隔Dを1.5倍1060,1060’する必要がある。
【実施例2】
【0043】
以下では、本実施の形態の分光光学系を用いた分光測定装置の例であるハードディスク検査装置について説明する。図12は、本実施の形態の分光光学系を用いたハードディスク検査装置の構成例を示した図である。
ハードディスク検査装置は、試料1に照明光を照射し、試料1からの正反射光を分光検出する分光光学系200と、検査対象である試料1を搭載し、試料1上の任意の位置で分光検出できるように、試料1の位置を分光光学系200に対して相対的に移動させることができるステージ部300と、分光器150やステージ部300の動作を制御する制御部400と、分光器150において検出した分光波形のデータに基づいて試料1に形成されたパターンの形状または形状異常を検出するデータ処理部500とで構成される。
分光光学系200は、図1に示した分光光学系と同様の構成である。このとき、分光器150の入射口位置を結像位置としておくと、入射口の大きさによって試料1において分光検出する領域の大きさを制御することができる。例えば、入射口の大きさをφ400μmとし、結像面での倍率を8倍とすると、分光検出領域の大きさは検査対象ディスク(試料1)上でφ50μmとなる。
上述したように、400nm付近の波長を利用しようとする場合、適用できる光学素子等は限られたものとなる。光源100には、波長190nm付近以上の光を射出するキセノンランプや重水素ランプ等を用いることができる。ただし、試料1によっては波長400nm程度以上でも十分性能を発揮できる場合もあり、その場合はハロゲンランプ等の可視光から赤外光の光を射出する光源100を用いてもよい。
最後に、本実施の形態のハードディスク検査装置におけるステージ部300、制御部400、データ処理部500について説明する。図12において、ステージ部300は、試料1の試料面と平行な方向に移動するXステージ301と、試料101の試料面に垂直な方向に移動するZステージ302および試料1のディスク(パターンドメディア2000)を回転させるθステージ303によって構成される。Zステージ302は、分光光学系200のフォーカス位置に試料1を移動させるためのものであり、Xステージ301とθステージ303は、試料1の任意の位置に分光光学系200を移動させるためのものである。
試料1の任意の位置に分光光学系200を移動させる方法として、XYステージを用いてもよい。試料1がディスクであり試料面におけるパターンも同心円状または同心円上に形成されている場合、Xθステージの方が適している。さらに、ディスク表面全面を高速に検査することを目的とした場合、XYステージよりもXθステージの方が単純な動作となるためより適している。よって、本実施の形態のハードディスク検査装置では、Xステージ301とθステージ303によるXθステージの構成をとっている。
【0044】
図13は、データ処理部500での処理の概要について説明した図である。データ処理部500は、大きく分けて次の二つの処理を実行する。一つは分光反射率の算出であり、もう一つはパターン形状・欠陥検出処理である。上述の通り、本実施の形態のハードディスク検査装置では、試料1表面の分光反射率に基づいて試料1のパターン形状・欠陥を検出するものである。
分光光学系200で検出が可能なのは、試料1表面の分光強度分布である。そこで、予め異なるパターン形状510を有する試料1に対して光学シミュレーションを行い、算出された分光反射率の波長依存性のグラフ511をデータベース513に格納しておく。次に、パターンが繰り返し形成された試料1に光源100からの照明光を、分光光学系200を通して照射し、試料面からの正反射光を分光器150で受光する。
データ処理部500では、分光器150で検出された分光強度分布に基づいて分光反射率の波長依存性のグラフ512を得る。最後に、データベース513に格納されている、光学シミュレーションによって算出された分光反射率の波長依存性のグラフ511から、測定によって得られた分光反射率の波長依存性のグラフ512と近似するものを、分光反射率の波形比較514によって選定することで、試料1の形状を特定することができる。
【0045】
以上のように、本実施の形態の分光光学系200によれば、光源100、折り返しミラー110、視野絞り120、及び試料1上を照明させる物体側対物レンズ系130からなる照明光学系と、物体側対物レンズ系130、視野絞り120、折り返しミラー110、及び試料1上の結像面に配置される像側集光レンズ系140からなる検出光学系と、試料1からの正反射光を分光する分光器150から構成される。そして、物体側対物レンズ系130と像側集光レンズ系140は、深紫外から紫外光までの波長190nm〜400nmの広帯域で色補正され、かつ屈折型レンズのみで構成される。
そして、レンズのワーキングディスタンス(WD)を WD≦10.0mm で設定することにより、色ずれ低減が可能になる。
また、各接合レンズ間隔Dを (λ1・λ2)/(4nγ)≦D で設定することにより、干渉による明暗のムラ(光量のムラ)の発生抑制が可能になる。
また、垂直落射照明とすることで、反射型光学系の斜入射照明において課題であった、デフォーカスによる位置ずれが低減される。さらに、広帯域色補正により、波長毎の照明位置が一致し、高精度な分光測定(構造や膜厚測定等)が可能となる。
【0046】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
例えば、本実施の形態の分光光学系200および分光測定装置では、分光測定により、パターンドメディア2000の表面のパターン形状・欠陥を検出する構成となっているが、試料1はパターンドメディア2000に限られず、表面に構造やパターンを有する試料1であれば、その構造をデータ処理部500での分光反射率のマッチングによって検出することが可能である。また、試料1の表面の構造に限らず、分光測定による薄膜の膜厚測定等にも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の分光光学系および分光測定装置は、半導体やパターンドメディア検査装置、分光測定による薄膜の膜厚測定装置等、屈折レンズを用いた光学系により広帯域色補正を行う分光光学系および分光測定装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1,1’・・・試料、100・・・光源、110・・・折り返し部材、120・・・視野絞り、130・・・物体側対物レンズ系、140・・・像側集光レンズ系、150・・・分光器、200・・・分光光学系、300・・・ステージ部、301・・・Xステージ、302・・・Zステージ、303・・・θステージ、400・・・制御部、500・・・データ処理部、510・・・パターン形状、511・・・シミュレーションにより算出された分光反射率の波長依存性グラフ、512・・・検出された分光強度分布に基づく分光反射率の波長依存性グラフ、513・・・データベース、514・・・分光反射率の波形比較、811・・・斜入射照明、812・・・垂直照明、821,822・・・デフォーカス前の走査対象位置、831,832・・・デフォーカス後の走査対象位置、850・・・周縁光線、851・・・最外結像スポット、852・・・最外結像スポットの位置x、853・・・最外結像スポットのRMS値Pλ、854・・・照明幅Xλ、910・・・レンズ、920・・・鏡筒、930,930’・・・第一レンズ、940,940’・・・空気、950,950’・・・第二レンズ、960,960’・・・入射光、961,961’・・・第二レンズ透過光、970,970’・・・第一及び第二レンズ面反射光、980,980’・・・空気間隔D、990・・・波長199.50nm、199.75nm、200.00nm、200.25nm、200.50nmの透過光率波形、および波長199.50〜200.50nmの透過光率波形の平均、
990’・・・波長199.50〜200.50nmの透過光率波形の平均、991’・・・波長199.50nmの透過光率波形、992’・・・波長199.75nmの透過光率波形、993’・・・波長200.00nmの透過光率波形、994’・・・波長200.25nmの透過光率波形、995’・・・波長200.50nmの透過光率波形、1040・・・波長399.85〜400.1nmの透過光率波形の平均に対するPeak to Valley値の空気間隔ごとのプロット、1040’・・・波長399.50〜400.50nmの透過光率波形の平均に対するPeak to Valley値の空気間隔ごとのプロット、2000・・・パターンドメディア、2100〜2120・・・データ部、2200〜2210・・・サーボ部、2220・・・バースト信号用パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源、折り返しミラー、視野絞り、及び試料上を照明する物体側対物レンズ系からなる照明光学系と、該物体側対物レンズ系、該視野絞り、該折り返しミラー、及び該物体側の結像面に配置される像側集光レンズ系からなる検出光学系と、前記試料からの正反射光を分光する分光器とを有し、
前記物体側対物レンズ系と、前記像側集光レンズ系は、波長190〜400nmのブロードな帯域で色補正され、かつ屈折型レンズのみで構成される分光光学系であって、
レンズのワーキングディスタンス(WD)が、次の式(1)を満たすように設定されることを特徴とする分光光学系。
(1) WD≦10.0mm
【請求項2】
請求項1に記載の分光光学系において、さらに、
各接合レンズ間隔Dが、次の式(2)を満たすように設定されることを特徴とする分光光学系。
(2) (λ1・λ2)/(4nγ)≦D
ただし、nは空気の屈折率、γは分光器分解能である。また、λ2は検討波長であり、検討する帯域波長の中で一番長波長を選択する。λ1は検討波長λ2の波長に分光器分解能γ分を足したものである。
【請求項3】
請求項1に記載の分光光学系において、
前記光源は、深紫外から可視光の光を射出するものであることを特徴とする分光光学系。
【請求項4】
請求項1に記載の分光光学系において、
前記照明光学系は、試料を垂直に照射するものであることを特徴とする分光光学系。
【請求項5】
請求項1に記載の分光光学系において、
前記物体側照明光学系と、前記像側検出光学系は、蛍石と石英からなる屈折型レンズのみで構成されることを特徴とする分光光学系。
【請求項6】
請求項2記載の分光光学系において、
各接合レンズ間隔Dは、多重反射を考慮して、次の式(3)を満たすように設定されていることを特徴とする分光光学系。
(3) 1.5・(λ1・λ2)/(4nγ)≦D
【請求項7】
請求項1に記載の分光光学系と、
前記試料を搭載し、前記試料の位置を前記分光光学系に対して相対的に移動させることができるステージ部と、
前記分光器および前記ステージ部の動作を制御する制御部と、
前記分光器において検出した分光強度分布に基づいて前記試料に形成されたパターンの形状または形状異常を検出するデータ処理部とを有する構成であることを特徴とする分光測定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の分光測定装置において、
前記ステージ部は、前記分光光学系によって前記試料の全面が連続走査されるように、前記試料を移動させることを特徴とする分光測定装置。
【請求項9】
請求項7に記載の分光測定装置において、
前記データ処理部は、前記試料における異なるパターン形状に対して予め算出した分光反射率の波長依存性のグラフを格納するデータベースを有し、
前記分光器において検出した分光強度分布に基づいて、前記試料について測定した分光反射率の波長依存性のグラフを取得し、
前記データベースに格納されている分光反射率の波長依存性のグラフから、前記試料について測定した分光反射率の波長依存性のグラフと一致するものを、分光反射率の波形の比較により選定することによって、前記試料に形成されたパターン形状を特定することを特徴とする分光測定装置。
【請求項10】
請求項9記載の分光測定装置において、
前記パターン形状に膜厚を含むことを特徴とする分光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−197300(P2010−197300A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44231(P2009−44231)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】