説明

In系III族元素窒化物の製造方法及びその装置

【課題】アンモニアを窒化源として用いることができ、かつ、大量のアンモニアを用いることなく、既存のMOCVD(MOVPE)装置に簡単な改良を施すだけで高品質のIn系III族元素の窒化物を製造することができるIn系III族元素窒化物の製造方法を提供する。
【解決手段】アンモニアを分解してIn系III族元素に供給し、In系III族元素窒化物を製造するIn系III族元素窒化物の製造方法において、前記アンモニア4を触媒6によって分解する。前記触媒とともに又は前記触媒として、水素吸収性を有する材料を用いてもよい。In系III族元素窒化物がInNである場合には、InNの成長温度を500℃〜600℃とするとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを分解してIn系III族元素に供給し、In系III族元素の窒化物を製造するIn系III族元素窒化物の製造方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNやInNなどのIII族元素の窒化物は、青色発光素子や高周波素子用として重要な半導体材料である。これらの半導体材料に関してはバルク結晶の作製が著しく困難であることから、デバイス化には薄膜結晶が主に用いられている。薄膜の製造には、サファイア等の基板上に結晶を成長させる有機金属化学堆積(MOCVD(MOVPE))法やハイドライド気相成長法(HVPE法)などの気相成長法や、分子線エピタキシー法(MBE法)を用いることができる(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−310900号公報(例えば、明細書の段落0003〜0004の記載参照)
【特許文献2】特開2003−060233公報(例えば、明細書の段落0026の記載参照)
【特許文献3】特開2001−144325号公報(例えば、明細書の段落0002〜0004の記載参照)
【特許文献4】特表2006−520851号公報(例えば、明細書の段落0002〜0005の記載参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、MOCVD法における窒化物製造のための窒化源としてはアンモニア(NH)が広く使用されている。
しかし、アンモニアは1000℃以上でないと熱分解率が低いという問題がある。そのため、比較的成長温度が高い(約1000℃)GaNの製造ではあまり問題とならないが、成長温度が低いIn系窒化物(InNを主体とする窒化物。InNの他、InGaN,InAlNなどを含む)では、アンモニアの分解率の低さのために成長膜中で窒素(N)不足が生じて高品質な薄膜が得られないという問題がある。そのため、大量にアンモニアを供給する方法や、アンモニア以外の窒化源を利用する方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献3に記載の方法では、GaInNなどの窒化物の製造において、成長温度を700℃〜800℃に抑制しなければならないことを前提とし(段落0005の最終行参照)、この温度領域ではアンモニアの分解効率が低いことから、アンモニア以外の窒素源としてヒドラジン,その置換体,アミンを用いることが提案されている。
【0006】
しかしながら、ヒドラジン等は毒性が強く、易分解性であることから、危険性が高く取り扱いが困難で、価格も高いという問題がある。
また、特許文献3に記載の方法では、既存のMOCVD(MOVPE)装置を使用することができず、大幅な改良を施すか、新規設備に入れ替える必要があり、コスト高になるという問題がある。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたもので、安価で扱い易く、毒性も少ないアンモニアを唯一の窒化源として用いることができ、かつ、大量のアンモニアを用いることなく、既存のMOCVD(MOVPE)装置に簡単な改良を施すだけで高品質のIn系III族元素の窒化物を製造することができるIn系III族元素窒化物の製造方法及びその装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、アンモニアを分解してIn系III族元素に供給し、In系III族元素窒化物を製造するIn系III族元素窒化物の製造方法において、前記アンモニアを触媒によって分解する方法である。
この方法によれば、アンモニアが熱分解しにくい低温域でも、アンモニアを高効率で分解することが可能になる。
【0009】
アンモニア分解によって生じた窒素は窒化物の成長に寄与するが、同時に生じる水素が結晶成長を妨げたり、エッチングを引き起こして結晶品質を劣化させたりする原因となる。
そこで、請求項2に記載するように、前記触媒として水素吸収性を有する材料を用いるか、前記触媒とともに水素吸収性を有する材料を用いることで、アンモニア分解時に発生する水素を吸収するようにするとよい。
前記In系III族元素窒化物がInNである場合は、例えば、結晶成長温度とX線ロッキングカーブ半値幅との関係から、請求項3に記載するように、InNの成長温度を500℃〜600℃とするとよい。
本発明は、In系III族元素窒化物であれば他のIII族元素を含む窒化物にも適用が可能で、例えば、請求項4に記載するように、In系III族元素窒化物がGaN及びAlNのいずれか一方若しくは両方を含む混晶であってもよい。
本発明においては、In系III族元素原料としてトリメチルインジウム(TMI)を用いてもよいが、結晶成長速度及び結晶品質の観点から、請求項5に記載するようにトリエチルインジウム(TEI)を用いるのが好ましい。
また、本発明においては、請求項6に記載するように、結晶成長基板としてGaN/サファイアテンプレートを用いてもよい。
【0010】
上記方法のための本発明の製造装置は、請求項7に記載するように、窒化源を供給する窒化源供給部と、In系III族元素原料を供給する原料元素供給部とを有し、基板上に前記In系III族元素原料と窒化源とを供給して前記基板上でIn系III族元素窒化物の結晶を成長させるIn系III族元素窒化物の製造装置において、
前記窒化源供給部が触媒によってアンモニアを分解するように構成してある。
この場合、請求項8に記載するように、前記窒化源供給部が水素吸収性を有する材料を備えるものとしてもよい。触媒として水素吸収性を有する材料を用いるものとしてもよいし、触媒に水素吸収性を有する材料を混ぜて用いてもよい。触媒を収容する筐体を水素吸収性の材料で形成してもよい。
請求項9に記載するように、前記In系III族元素窒化物がInNである場合に、前記窒化源供給部を500℃〜600℃に加熱する加熱手段を設ける。また、請求項10に記載するように、本発明の装置によって製造されるIn系III族元素窒化物は、GaN及びAlNの少なくとも一つを含むものであってもよい。
また、請求項11に記載するように、原料元素供給部から供給されるIn系III族元素原料をTEIとしてもよく、請求項12に記載するように前記基板をGaN/サファイアテンプレートとしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安価で扱い易く、毒性も少ないアンモニアを唯一の窒化源として用いるができ、大量のアンモニアを用いることなく、既存のMOCVD(MOVPE)装置に簡単な改良を施すだけで高品質のIn系III属元素窒化物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明では、In系III属元素の窒化物としてInNを例に挙げて説明する。
図1は、InNのMOCVD(MOVPE)成長におけるX線ロッキングカーブ半値幅と残留キャリア濃度と結晶成長温度との関係を示すグラフである。
このグラフから、残留キャリア濃度は600℃付近が最も優れていることがわかる。しかし、X線ロッキングカーブ半値幅のグラフから、結晶品質は550℃を越えると急速に劣化することがわかる。
そのため、この関係グラフから、InNにおいて結晶を成長させる好適な温度は500℃〜600℃の範囲、好ましくは550℃付近で行うとよいと判断できる。
【0013】
ところで、アンモニアは600℃の低温域では分解効率が悪い。
そこで、本発明では、触媒を使ってアンモニアを低温で分解し、これを基板に吹き付けるようにした。
Ru、Rh、Ir、Pt、Pd、Ni、Fe等の触媒にアンモニアを接触させると、低温でも効率よくアンモニアが窒素と水素に分解されることが知られている(例えば特開平10−249165,特開2000−44228、特開平8−84910、特開平8−57256、特開平5−330802、特開平5−329372、特表2001−512412、WO2006/103754等参照)。
【0014】
図2は、本発明の方法に用いられる装置の一例にかかり、その概略構成を説明する図である。
石英で形成された反応管1の中に、サセプター2を配置し、サセプター2の上面にサファイアで形成された基板7を載置する。反応管1の外部からアンモニア導入管4と有機金属原料導入管5を基板7に向けて挿入し、その先端を基板7の近傍に位置させる。アンモニア導入管4の先端部分をサセプター2に接触させ、かつ、当該部分に触媒6を挿入した。また、反応管1の外側には、誘導加熱コイル3を巻回する。
この実施形態では、有機金属原料導入管5が原料元素供給部を構成し、アンモニア導入管4が窒化源供給部を構成する。また、誘導加熱コイル3が加熱手段を構成する。
【0015】
この装置を用いて、以下の手順でInNの結晶を成長させた。
反応管1の内部を真空排気したのち、アンモニアガスをアンモニア導入管4から導入しつつ、誘導加熱コイル3による高周波誘導加熱によりサセプター2の温度を上昇させた。このとき、触媒6が挿入されたアンモニア導入管4の先端部はサセプター2に接するように配置されているので、触媒6の温度もサセプター2の温度とほぼ同程度まで上昇する。サセプター2の温度が所定の温度に達し安定したのち、有機金属原料導入管5から有機金属原料を導入し、窒化物8の成長を開始させる。
サセプター2の加熱温度は、窒化物がIn系の場合には、500℃から600℃の間、好ましくは550℃前後である。
【0016】
なお、本発明では、有機金属原料としてトリメチルインジウム(TMI)を用いることもできるが、トリエチルインジウム(TEI)を用いるのが好ましい。
TEIを使用することで、成長したInN膜の活性水素によるエッチング量を低減することができる。これは、アンモニア分解によって生じた活性水素が、TEIのC基からCH4が形成される反応によって効果的に消費された結果、成長雰囲気における活性水素濃度が低下するためと推測できる。また、TMIを使用した場合に比べ、原料供給量を少なくしても、InN膜の形成速度が大きいことが確認できた。これは、成長したInN膜の活性水素によるエッチング量が低減されていることを示している。
また、アンモニア分解によって生じた活性水素の他の除去手段としては、触媒として水素吸収金属を用いたり、水素吸収金属を触媒に混ぜたり、アンモニア導入管4の一部又は全部を水素吸収金属で形成する等を挙げることができる。水素吸収金属としては、アンモニア分解触媒としても使用可能な白金(Pt)やパラジウム(Pd)を挙げることができる。
【0017】
[実施例1]
本発明の具体的実施例を以下に説明する。
基板 サファイア基板
有機金属原料 TMI
窒化物 InN
触媒 Pt線(太さ0.5mmφ、長さ1cm、数量50本)
アンモニアガスの供給量 3SLM(Standard Litter per Minute)
サセプターの設定温度 570℃
有機金属材料の供給量 6μモル/分
結晶成長時間 2時間及び6時間
[比較例1]
触媒無し、アンモニアガスの供給量を6SLMとし、結晶成長時間を2時間とした以外は実施例と同じとした。
[比較例2]
触媒無し、アンモニアガスの供給量を6SLMとし、温度600℃で結晶成長時間6時間とした以外は実施例と同じとした。
【0018】
図3は、この実施例及び比較例で形成したInN膜の残留キャリア濃度を測定した結果を示したグラフである。
このグラフでは、成長温度(横軸)と残留キャリア濃度(縦軸)との関係を、「触媒なし」(比較例1)の場合と比較して示したものである。
このグラフから明らかなように、残留キャリア濃度は、Pt触媒を使用することにより、成長温度550℃で比較例の2×1019 cm-3に比べて大幅に低下し、8×1018 cm-3程度まで低下した。
さらに、Pt触媒を使用して6時間の長時間成長を行ったものは、成長温度585℃において4×1018 cm-3まで低下した。
なお、比較例2については、特にグラフ上では図示はしないが、残留キャリア濃度は比較例1の5×1018 cm-3から6.5×1018
cm-3まで上昇した。
【0019】
図4は、上記実施例及び比較例の場合における成長時間とX線ロッキングカーブ半値幅の膜厚依存性とを比較したグラフである。
比較例において600℃で成長させた場合、X線ロッキングカーブ半値幅は膜厚の増大とともに増大した。これは、成長したInNが成長後に劣化するためである。一方、実施例では、X線ロッキングカーブ半値幅は膜厚の増大とともに低下した。これは膜厚の増大とともに結晶欠陥が低減されたことを示している。
このように、本発明の方法により決定された最適温度で結晶成長させることで、
劣化を抑制して高品質の窒化物を得ることができる。
【0020】
[実施例2]
実施例1のサファイア基板の代わりにGaN/サファイアテンプレートを使用した。その結果、X線ロッキングカーブ半値幅は8.6arcminとなり、極めて高品質のInNが得られた。
【0021】
[実施例3]
本発明の実施例3を以下に説明する。
基板 サファイア基板
有機金属原料 TEI
窒化物 InN
触媒 Pt線(太さ0.5mmφ、長さ1cm、数量50本)
アンモニアガスの供給量 3SLM
サセプターの設定温度 570℃
有機金属材料の供給量 5μモル/分
結晶成長時間 2時間
この実施例においても残留キャリア濃度3 x
1018 cm-3、電子移動度1500 cm2/Vsという優れた結果を得た。
【0022】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
例えば、本発明に用いるアンモニア分解用の触媒はRu、Rh、Ir、Pt、Pd、Ni、Fe等の単体であってもよいし、これらのうちの少なくとも二つ以上からなる混合触媒であってもよい。
また、上記の例では、アンモニア分解触媒をサセプターに接触させることにより加熱したが、アンモニア分解触媒を所定の温度まで加熱することができるのであれば、必ずしもサセプターに接触させる必要はない。
さらに、加熱手段についても、温度制御が可能であれば、誘導加熱に限らずヒータ等の他の加熱手段であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、InN以外の他のIn系III属元素窒化物の製造、例えばIn-リッチのInGaN,InAlN,INGaAlNの製造にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】窒化物の一例であるInNのMOCVD(MOVPE)成長におけるX線ロッキングカーブ半値幅と残留キャリア濃度と結晶成長温度との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の方法に用いられる装置の一例にかかり、その概略構成を説明する図である。
【図3】実施例及び比較例で形成したInN膜の残留キャリア濃度を測定した結果を示したグラフである。
【図4】実施例及び比較例の場合における成長時間とX線ロッキングカーブ半値幅の膜厚依存性とを比較したグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 反応管
2 サセプター
3 誘導加熱コイル
4 アンモニア導入管
5 有機金属原料導入管
6 触媒
7 基板
8 窒化物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを分解してIn系III族元素に供給し、In系III族元素窒化物を製造するIn系III族元素窒化物の製造方法において、
前記アンモニアを触媒によって分解すること、
を特徴とするIn系III族元素窒化物の製造方法。
【請求項2】
前記触媒とともに又は前記触媒として、水素吸収性を有する材料を用いたことを特徴とする請求項1に記載のIn系III族元素窒化物の製造方法。
【請求項3】
前記In系III族元素窒化物がInNである場合に、InNの成長温度を500℃〜600℃としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のIn系III族元素窒化物の製造方法。
【請求項4】
前記In系III族元素窒化物がGaN及びAlNの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のIn系III族元素窒化物の製造方法。
【請求項5】
In系III族元素原料としてTEIを用いたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のIn系III族元素窒化物の製造方法。
【請求項6】
結晶成長基板としてGaN/サファイアテンプレートを用いたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のIn系III族元素窒化物の製造方法。
【請求項7】
窒化源を供給する窒化源供給部と、In系III族元素原料を供給する原料元素供給部とを有し、基板上に前記In系III族元素原料と窒化源とを供給して前記基板上でIn系III族元素窒化物の結晶を成長させるIn系III族元素窒化物の製造装置において、
前記窒化源供給部が触媒によってアンモニアを分解すること、
を特徴とするIn系III族元素窒化物の製造装置。
【請求項8】
前記窒化源供給部が水素吸収性を有する材料を備えることを特徴とする請求項7に記載のIn系III族元素窒化物の製造装置。
【請求項9】
前記In系III族元素窒化物がInNである場合に、前記窒化源供給部を500℃〜600℃に加熱する加熱手段を有することを特徴とする請求項7又は8に記載のIn系III族元素窒化物の製造装置。
【請求項10】
前記In系III族元素窒化物がGaN及びAlNの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項7又は8に記載のIn系III族元素窒化物の製造方法。
【請求項11】
原料元素供給部から供給されるIn系III族元素原料がTEIであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のIn系III族元素窒化物の製造装置。
【請求項12】
前記基板がGaN/サファイアテンプレートであることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載のIn系III族元素窒化物の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−232386(P2010−232386A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77643(P2009−77643)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】