説明

へテロ接合型のIII−V族化合物半導体装置とその製造方法

【課題】 ヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置において、オフ時のリーク電流を抑制するとともにオン時の抵抗を低減する。
【解決手段】 GaNの下層46と、その下層46にヘテロ接合されており、下層46のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有するAlGaNの上層48と、上層48の表面の一部に形成されているソース電極54と、上層48の表面の他の一部に形成されているゲート電極52を備えており、前記下層46は、ヘテロ接合界面と平行な面内において、結晶欠陥高密度領域72と結晶欠陥低密度領域が分布しており、ソース電極54は、結晶欠陥低密度領域に対向する領域内に形成されており、ゲート電極52は、結晶欠陥高密度領域72に対向する領域に形成されているIII-V族化合物半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ接合構造を備えるIII-V族化合物半導体装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III-V族化合物半導体装置の研究が活発であり、例えば、窒化ガリウム(GaN)を利用したヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置の研究が活発に行われている。この一例が非特許文献1に提案されている。
非特許文献1に開示されているヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置は、UID(unintentionally doped)−GaN層と、そのUID−GaN層のバンドギャップよりもバンドギャップが大きいAlGaN層をヘテロ接合した構造を備えている。AlGaN層は、半導体結晶内にAlを含有しており、UID−GaN層よりバンドギャップが大きい。AlGaN層の表面にソース電極とゲート電極が形成されている。GaN層の裏面にはドレインとなるn−GaN層とドレイン電極が形成されている。UID−GaN層とn−GaN層の間に、開口を有するp型のGaN層が形成されている。その開口とゲート電極は対向する位置に形成されている。
このヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置では、ゲート電極に閾値電圧より低い電圧を印加すると、UID−GaN層とAlGaN層のヘテロ接合界面のUID−GaN層側の伝導帯エネルギー準位が、フェルミ準位より上昇する。伝導帯エネルギー準位がフェルミ準位よりも高くなるので、ヘテロ接合界面近傍のUID−GaN層に電子(2DEG(2 Dimensional Electron Gas:2次元電子ガスと一般的に称される))が存在しない状態となる。したがって、ヘテロ接合型半導体装置はオフとなる。一方、ゲート電極に閾値電圧より高い電圧を印加すると、UID−GaN層とAlGaN層のヘテロ接合界面のUID−GaN層側にポテンシャル井戸が形成される。そのポテンシャル井戸では、伝導帯エネルギー準位がフェルミ準位より下降する。伝導帯エネルギー準位がフェルミ準位よりも低くなるので、ヘテロ接合界面近傍のUID−GaN層に電子を発生させることができる。発生した電子は、2次元電子ガスが発生している領域の電位差に基づいて、ソース電極に対向するポテンシャル井戸内から、ヘテロ接合界面に沿ってゲート電極に対向するポテンシャル井戸内まで移動する。ゲート電極に対向するポテンシャル井戸内まで移動した電子は、二つの導電機構によってUID−GaN層に移動する。一つはポテンシャル井戸内の伝導帯エネルギー準位とUID−GaN層の伝導体エネルギー準位との間のエネルギー障壁を越えてUID−GaN層内に移動する導電機構である。他の一つはヘテロ接合界面に存在する欠陥に起因して形成される準位を介してUID−GaN層内に移動する導電機構である。これらの導電機構によってUID−GaN層内に移動した電子は、p−GaN層の開口とドレイン層を経由してドレイン電極へ移動する。これにより、ヘテロ接合型の半導体装置がオンとなる。
【非特許文献1】Journal of Applied Physics. Volume 95, Number 4. p2073-2078
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
非特許文献1で提案されているヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置は、サファイア基板上に、ドレインとなるn−GaN層、開口を有するp−GaN層、UID−GaN層、そしてAlGaN層を順にエピタキシャル成長して製造する。それぞれの層には、サファイア基板との間の格子不整合等に基づく結晶欠陥が伝播している。したがって、UID−GaN層とAlGaN層のヘテロ接合界面のほぼ全域に、結晶欠陥が高密度で存在していることになる。
ヘテロ接合界面の全域に結晶欠陥が高密度で存在していると、ヘテロ接合型半導体装置をオフしても、ヘテロ接合界面に高密度で存在する結晶欠陥に起因して形成される準位を介して電流が流れてしまう。結晶欠陥に起因して形成される準位を介してヘテロ接合界面を通過する電流が流れてしまうので、ヘテロ接合型半導体装置をオフさせてもリーク電流が流れてしまうという問題が発生する。
リーク電流を防止するためには、高価ではあるけれども、層内全域に亘って結晶欠陥が少ないGaN基板を用意し、その上にそれよりも大きなバンドギャップを有するIII-V族化合物をヘテロ接合すればよい。ヘテロ接合界面の全域において結晶欠陥が少なければ、結晶欠陥に起因して形成される準位を介してヘテロ接合界面を越えて流れてしまう電流を抑制することができ、リーク電流に対策することができるはずである。
しかしながら、層内全域に亘って結晶欠陥が少ないGaN基板を利用すると、ヘテロ接合型の半導体装置をオンしたときに、ポテンシャル井戸内の電子がGaN基板に移動するのに要するエネルギーが大きくなってしまう。この結果、オン抵抗が増大してしまう。
したがって、バンドギャップが小さいIII-V族化合物と、バンドギャップが大きいIII-V族化合物をヘテロ接合した半導体装置であり、ヘテロ接合界面を電流が通過して流れる縦型の半導体装置の場合、III-V族化合物の結晶欠陥が高密度であればオフ時のリーク電流が問題となり、III-V族化合物の結晶欠陥が低密度であればオン時の抵抗が高くなってしまうという問題を含んでいる。
本発明では、オフ時のリーク電流を抑制するとともにオン時の抵抗を低減することができるヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置を実現する。またそのための製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置は、III-V族化合物半導体の下層と、その下層にヘテロ接合されているとともに下層のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有するIII-V族化合物半導体の上層と、上層の表面の一部に形成されている主電極と、上層の表面の他の一部に形成されているゲート電極を備えている。
下層は、ヘテロ接合界面と平行な面内において、結晶欠陥高密度領域と結晶欠陥低密度領域が分布していることを特徴とする。主電極は、結晶欠陥低密度領域に対向する領域内に形成されており、ゲート電極は、結晶欠陥高密度領域に対向する領域に形成されていることを特徴とする。
ゲート電極は、結晶欠陥高密度領域に対向する領域内の一部に形成されていてもよいし、結晶欠陥高密度領域とほぼ同形の領域に形成されていてもよいし、結晶欠陥高密度領域を超えて形成されていてもよい。ゲート電極は、上層に対してショットキー接触していてもよいし、絶縁膜を介して上層に対向していてもよい。
【0005】
上記の半導体装置では、結晶欠陥の低密度なヘテロ接合界面に主電極が対向している。結晶欠陥低密度領域では、結晶欠陥が少ないことからそのヘテロ接合界面を通過して流れるリーク電流はほとんど流れない。結晶欠陥が高密度な領域にはゲート電極が対向している。結晶欠陥高密度領域はゲート電極のゲートオフ電圧の影響を強く得られることから、結晶欠陥高密度領域からヘテロ接合界面を通過して流れるリーク電流を効果的に抑制することができる。したがって、半導体装置のオフ時には、ヘテロ接合界面に沿って流れる電流が存在しないことから、主電極から隔てられた部位において、結晶欠陥が高密度のヘテロ接合界面が存在していても、リーク電流を増大させることにならない。
半導体装置のオン時には、ゲート電極に対向する領域において、キャリアがポテンシャル井戸から下層に移動する。ゲート電極に対向する領域では、ヘテロ接合界面における結晶欠陥が高密度であるために、結晶欠陥に起因して形成される準位を介してポテンシャル井戸内のキャリアが下層に移動することができる。この結果、オン抵抗が低減される。半導体装置のオン時には、ヘテロ接合界面の下層側にポテンシャル井戸が形成される。キャリアは、主電極に対向するポテンシャル井戸内から、ヘテロ接合界面に沿ってゲート電極に対向するポテンシャル井戸内に移動する。ゲート電極に対向するヘテロ接合界面の結晶欠陥に起因して形成される準位を介して、キャリアは下層に流れる。下層に流れたキャリアは、結晶欠陥高密度領域に高密度に存在する結晶欠陥に沿って下層を通過する。キャリアが下層を通過するときの抵抗も低い。
本発明のヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置は、オフ時のリーク電流を抑制することができるとともに、オン時の抵抗を低減することができる。
【0006】
上記のヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置のリーク電流をさらに抑制するためには、結晶欠陥高密度領域に対向する領域を超えて広がるゲート電極を形成することが好ましい。
半導体装置のオフ時に、ゲート電極のゲートオフ電圧の影響によって結晶欠陥が高密度に存在するヘテロ接合界面にキャリアが生成される現象を確実に防止することができる。
【0007】
下層内の結晶欠陥低密度領域の少なくとも一部に絶縁性の領域をさらに備えていることが好ましい。ここでいう絶縁性の領域とは、例えば絶縁体、誘電体、あるいは多数キャリアの導電型に対して反対導電型の半導体、あるいはそれらの組合せによって形成することができる。
この絶縁性領域の存在によって、下層内の結晶欠陥低密度領域側の抵抗を高くすることができる。ひいては、III-V族化合物半導体装置のオフ時において、主電極下方のポテンシャル井戸内(結晶欠陥低密度領域と一致する)からリーク電流が流れることを抑制できる。
【0008】
絶縁性領域は、ヘテロ接合界面に発生する2次元電子ガスの存在範囲に位置していないことが好ましい。この位置関係であれば、ヘテロ接合界面に形成されるポテンシャル井戸内を移動するキャリアが、絶縁性領域の存在によってその移動が邪魔されることがない。
【0009】
上記のIII-V族化合物半導体装置は以下の製造方法を利用して、簡単に作成することができる。この製造方法は、半導体基板を用意する工程を備えている。その半導体基板の表面に、開口が分散配置されているエピタキシャル成長禁止部材を形成する工程を備えている。そのエピタキシャル成長禁止部材の開口において露出する半導体基板の表面から、III−V族化合物をエピタキシャル成長することによって下層を形成する工程を備えている。その下層の表面から、下層のIII-V族化合物のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有するIII-V族化合物をエピタキシャル成長することによって上層を形成する工程を備えている。エピタキシャル成長禁止部材に対向する領域内の上層の表面に主電極を形成する工程を備えている。さらに、前記開口に対向する領域の上層の表面にゲート電極を形成する工程を備えている。
なお、開口に対向する領域の上層の表面、あるいはエピタキシャル成長禁止部材に対向する領域の上層の表面とは、他の工程によってエピタキシャル成長禁止部材が除去されてしまった場合には、もともと開口が存在していた位置と、もともとエピタキシャル成長禁止部材が存在していた位置に対向するという意味で解釈することができる。
エピタキシャル成長禁止部材とは、その表面からIII-V族化合物の結晶がエピタキシャル成長しない材料が選択される。典型的には、酸化シリコン、窒化シリコンなどを好適に利用することができる。
エピタキシャル成長禁止部材の開口において露出する半導体基板の表面から、エピタキシャル成長してIII−V族化合物の下層を形成すると、半導体基板と下層の格子不整合等に基づいて、下層内には開口の位置から層厚方向に向けて結晶欠陥が伝播して形成される。これが結晶欠陥高密度領域となる。一方、エピタキシャル成長禁止部材の上方には、結晶が横方向に向けて成長するので、結晶欠陥が比較的少ない結晶欠陥低密度領域が形成される。したがって、前記開口に対向する領域の上層の表面にゲート電極を形成すると、ゲート電極下方の下層側界面に結晶欠陥高密度領域が存在することになる。さらに、エピタキシャル禁止部材に対向する領域の上層の表面に主電極を形成すると、その主電極下方の下層側界面に結晶欠陥低密度領域が存在することになる。エピタキシャル成長禁止部材とその開口位置に基づいて、ゲート電極と主電極の位置を決定するだけで、上記のヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置を簡単に得ることができる。
【0010】
ゲート電極形成工程では、前記開口に対向する領域を超えてゲート電極を形成することが好ましい。この位置関係に形成されるゲート電極は、結晶欠陥高密度領域に対向する領域を超えて形成されることになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のへテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置は、オフ時のリーク電流を抑制することができる。さらにオン時の抵抗を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
最初に実施例の主要な特徴を列記する。
(第1形態) III-V族化合物半導体は、GaN系化合物半導体である。
(第2形態) ゲート電極は、結晶欠陥高密度領域に対向する領域の上層の表面の領域を超えて形成される。
(第3形態) ゲート電極は、結晶欠陥高密度領域に対向する上層の表面の領域内から領域外まで伸びて形成される。
(第4形態) ドレイン電極は、下層の裏面全体(他の半導体層が介在する場合は、その半導体層の裏面全体)に電気的に接触している。
(第5形態) 結晶欠陥高密度領域とは、結晶欠陥密度が1×10cm−2以上の領域である。
【実施例】
【0013】
図面を参照して以下に実施例を詳細に説明する。
図1に本実施例のヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置(以下、半導体装置10という)の要部断面図を模式的に示す。
半導体装置10は、真性のGaN(窒化ガリウム)からなる下層46を備えている。下層46は、層厚方向(紙面上下方向)に直交する面内において、結晶欠陥70の多い領域と少ない領域が分布している。結晶欠陥70は層厚方向に貫通して存在している。なお、後述するように、結晶欠陥70は、下層46のみならず、その上下の各半導体層内に亘って存在している。また、結晶欠陥70が多く存在する結晶欠陥高密度領域72は、残部の結晶欠陥70が少ない領域(結晶欠陥低密度領域)と区別される。典型的には、結晶欠陥密度が1×10cm−2以上の場合に、結晶欠陥高密度領域72として評価することができる。
下層46上にn型不純物を含有するAlGaNからなる上層48が形成されている。上層48は、半導体結晶内にAlを含有しており、GaN層よりバンドギャップが大きい。この下層46と上層48によってヘテロ接合構造を構成している。結晶欠陥高密度領域72と結晶欠陥低密度領域は、ヘテロ接合界面と平行な面内において分布しているとも言える。
結晶欠陥高密度領域72に対向する領域の上層48の表面にゲート電極52が形成されている。ゲート電極52は、結晶欠陥高密度領域72に対向する領域を超えて上層48の表面に形成されている。ゲート電極52は、ニッケル(Ni)と金(Au)の積層構造からなり、上層48の表面とショットキー接触している。結晶欠陥70が少ない領域(結晶欠陥低密度領域である)に対向する領域の上層48の表面に電気的に接触するソース電極54が形成されている。このソース電極54は、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造からなり、上層48の表面に対してオーミック接触している。
さらに、下層46の裏面側にはn型不純物を含有するGaNのドレイン層42が形成されている。したがって、下層46の裏面は、ドレイン層42を介してドレイン電極32と電気的に接続している。
【0014】
次に、この接合半導体装置10の動作を説明する。
本実施例の接合半導体装置10のソース電極54を接地し、ドレイン電極32に5Vを印加した状態で、ゲート電極52に閾値電圧より低い電圧を印加すると、下層46と上層48のヘテロ接合界面の下層46側の伝導帯エネルギー準位は、フェルミ準位よりも上昇する。ゲート電極52から離れた位置であるソース電極54下方の下層46側の伝導帯エネルギー準位は、ゲートオフ電圧の影響が小さく、場合によってはポテンシャル井戸が形成され、このポテンシャル井戸内に電子が誘起される場合がある。しかしながら、この場合でも、ソース電極54下方のヘテロ接合界面の結晶性が良いので、ポテンシャル井戸内の電子が、下層46内に移動することは防止される。リーク電流が流れてしまう事態が防止される。ゲート電極52下方のヘテロ接合界面には、結晶欠陥高密度領域72が存在しているが、この領域はゲート電極52のゲートオフ電圧の影響を強く得ることができるので、ポテンシャル井戸は形成されず、電子が存在しない状態を得ることができる。したがって、この結晶欠陥高密度領域72からリーク電流が流れてしまう事態も防止される。したがって、リーク電流が流れることなく、半導体装置10をオフすることができる。
一方、ソース電極54を接地し、ドレイン電極32に5Vを印加した状態で、ゲート電極52に閾値電圧より高い電圧を印加すると、下層46と上層48のヘテロ接合界面の下層46側にポテンシャル井戸が形成される。そのポテンシャル井戸では、伝導帯エネルギー準位がフェルミ準位より下降する。伝導帯エネルギー準位がフェルミ準位よりも低くなるので、ポテンシャル井戸内に電子(2次元電子ガス)を存在させることができる。図2に、オン状態における電子の流れを矢印で示す。図2に示すように、このポテンシャル井戸内の電子は、まずソース電極54下方のポテンシャル井戸内からゲート電極52下方のポテンシャル井戸内までヘテロ接合界面に沿って移動する。ゲート電極52下方まで移動してきた電子は、下層46側界面に存在する結晶欠陥高密度領域72に起因する準位を介して下層46内へ移動する。結晶欠陥高密度領域72に起因する準位を介して移動するので、ポテンシャル井戸内の電子を大きなエネルギーを必要とせずに、下層46内へ移動させることができる。この半導体装置10のオン抵抗は小さい。
【0015】
次に、この現象を図3に示すエネルギーバンドダイアグラムを用いて説明する。図3に示すエネルギーバンドダイアグラムは、図2のIII−III線に対応する下層46と上層48が接する界面近傍のエネルギーバンドダイアグラムである。
図3(a)は、オンのときのエネルギーバンドを示している。下層46と上層48のヘテロ接合界面に形成されるポテンシャル井戸の伝導帯エネルギー準位がフェルミ準位より下降している。このポテンシャル井戸内の電子は、結晶欠陥に起因する準位を介することによって、伝導帯エネルギー準位との間のエネルギー障壁を越えて下層46内に容易に移動することができる。なお、結晶欠陥が存在しない場合、この伝導帯エネルギー準位との間の大きなエネルギー障壁を越えて下層46内に移動する必要があり、オン抵抗が増大する。
図3(b)は、オフのときのエネルギーバンドダイアグラムである。ゲート電極52に閾値電圧より低い電圧を印加することで、下層46と上層48が接する界面のうち下層46側界面近傍の伝導帯エネルギー準位は、フェルミ準位よりも上側に存在することになり、この下層46側界面近傍に電子が存在しないことになる。半導体装置10はオフされる。このとき、ソース電極54下方のヘテロ接合界面に結晶欠陥が多く存在すると、場合によってはリーク電流が発生してしまうことがある。しかしながら、本実施例では、ソース電極54下方のヘテロ接合界面の結晶性は良いので、ポテンシャル井戸と下層46の導電帯エネルギー準位との間のエネルギー障壁が大きく、この領域でリーク電流が発生することが防止される。
本実施例の半導体装置10は、下層46内において結晶欠陥70の量を分布させることで、結晶欠陥70が少ない領域ではリーク電流を防止し、結晶欠陥70が多い領域では電子を下層46内に容易に移動させることで、リーク電流の防止と低オン抵抗化の両者を具備することができる。
【0016】
また、この半導体装置10は、ゲート電極52下方の下層46側界面に結晶欠陥高密度領域72が存在していることで、ソース電極54とドレイン電極32間の電流量の制御を安定的に行えるという利点を有する。例えば、結晶欠陥高密度領域72がソース電極54下方に存在していると、結晶欠陥を介したリーク電流が大きくなり、ゲート電極52に閾値電圧より低い電圧を印加しても、電流をオフすることができない事態が発生してしまう。
一方、ゲート電極52下方の下層46側界面に結晶欠陥高密度領域72が存在していても、ゲート電極52に印加するゲート電圧の影響が、ゲート電極52下方の下層46と上層48のヘテロ接合界面(電流が流れ易いヘテロ接合界面)に大きく影響させることができるので、ゲート電圧に基づいて電流量の調整を安定的に実現できる。
また、本実施例の半導体装置10は、下層46内を結晶欠陥高密度領域72が層厚方向に貫通している。したがって、ゲート電極52下方で下層46内に移動した電子は、その結晶欠陥高密度領域72を亘ってドレイン電極32まで移動することができる。極めてオン抵抗が低減された半導体装置を得ることができる。
また、本実施例のヘテロ結合半導体装置10は、ゲート電極52が結晶欠陥高密度領域72に対向する領域を超えて外側に伸びて形成されている。ゲート電極52が伸びていると、この部分の下方のポテンシャル井戸内に、ゲートオン電圧によって誘起される電子量を多くすることができる。換言すると、ヘテロ接合界面に沿って横方向に移動する領域に対向してゲート電極52が伸びて形成されているので、この横方向の移動の抵抗を下げることができ、さらにオン抵抗を低減できるという利点を有する。
【0017】
次に、本実施例の半導体装置10の製造方法を図4〜7を用いて説明する。
図4に示すように、まずサファイア基板22を用意する。サファイア基板22に代えて、例えばシリコン基板、炭化ケイ素基板、ガリウムヒ素基板等の材料からなる基板を利用することもできる。このサファイア基板22上に、低温下で有機金属気相エピタキシャル(MOCVD)法を用いて、バッファ層24を約50nmの層厚で形成する。このとき、ガリウム原料としてトリメチルガリウム(TMGa)、窒素原料としてアンモニアガス(NH)を好適に利用することができる。このバッファ層24の材料は、次の工程でそのバッファ層24上に形成する化合物結晶と同じ結晶、あるいは格子定数と熱膨張係数が類似する結晶であればよい。
次に、このバッファ層24上に、スパッタ法あるいはCVD法を用いて、開口幅がL26の酸化シリコン層26(エピタキシャル成長禁止部材の一例)をパターニングする。この酸化シリコン層26は、平面視したときに例えばストライプ状に分散配置して形成されている。
【0018】
次に、図5に示すように、このバッファ層24上に有機金属気相エピタキシャル法を用いて、n―GaNからなるドレイン層42を形成する。このとき、ガリウム原料としてトリメチルガリウム(TMGa)、窒素原料としてアンモニアガス(NH)、ドーパント材料としてモノシラン(SiH)を好適に利用することができる。
このドレイン層42を形成する段階は、いわゆる選択横成長法の技術を好適に利用することができる。有機金属気相エピタキシャル法を利用する選択横成長法では、水素雰囲気中において、III族の有機金属とV族の水素化物が化学反応して結晶が成長する。選択横方法成長法により結晶を成長させると、酸化シリコン層26の開口から層厚方向(紙面上下方向)に結晶成長したGaN結晶は、サファイア基板22と格子定数等が一致しないので、結晶欠陥が多く、転位が貫通した結晶欠陥高密度領域72を形成する。一方、酸化シリコン層26の上方の領域では、酸化シリコン層26からGaN結晶は成長することができないので、GaN結晶が横方向に成長し、転位が横に曲がって形成される。この酸化シリコン層26の上方の領域は、結晶欠陥の少ない領域(結晶欠陥低密度領域)となる。
なお、必要に応じて結晶成長が縦方向より横方向が早くなる条件(例えば、温度、ガス流量等を調整する)で設定すると、成長したドレイン層42の表面を平坦化することができる。また、この段階で、裏面側のサファイア基板22とバッファ層24と酸化シリコン層26を研磨して除去してもよい。本実施例では、除去しない例を示す。
【0019】
次に、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、GaNからなる下層46を約10μmの層厚で形成する。このとき、ガリウム原料としてトリメチルガリウム(TMGa)、窒素原料としてアンモニアガス(NH)を好適に利用することができる。ドーパント材料としてモノシラン(SiH)を利用して、この下層46をn型化してもよい。
さらに、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、AlGaNからなる上層48を約25nmの膜厚で形成する。このとき、アルミニウム原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)、ガリウム原料としてトリメチルガリウム(TMGa)、窒素原料としてアンモニアガス(NH)を好適に利用することができる。
図6に示すように、結晶欠陥高密度領域72は、ドレイン層42と下層46と上層48を貫通して層厚方向に伝播している。
【0020】
次に、裏面側のサファイア基板22とバッファ層24と酸化シリコン層26を研磨し、さらにドレイン層42を所望の層厚になるまで研磨する。研磨した面のダメージを低減するためにRIE法などを用いて、その研磨した面をエッチングしてもよい。その後に、図7に示すように、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)を順に蒸着してドレイン電極32を形成する。
次に、上層48表面にチタン(Ti)とアルミニウム(Al)を順に蒸着する。その後に、フォト工程とエッチング技術を利用してソース電極54をパターニングする。ソース電極54は、結晶欠陥高密度領域72以外の領域(結晶欠陥低密度領域)に対向して上層48の表面にパターニングする。パターニングした後に、RTA(Rapid Thermal Anneal)法によって550℃で30秒の熱処理を実施する。上層48に対するソース電極54の接触抵抗が低減され、オーミック接触が実現される。
次に、リフトオフ法を利用してゲート電極52を形成する。即ち、ゲート電極44を形成したい場所以外にレジスト膜を成膜した後に、ニッケル(Ni)と金(Au)を順に蒸着する。その後に、レジスト膜とともにそのレジスト膜上に形成されているニッケル(Ni)と金(Au)を剥離する。これにより、所望する位置にゲート電極52を形成することができる。ゲート電極52は、結晶欠陥高密度領域72に対向して上層48の表面に形成される。ここで、図中のL26は、先の工程で研磨除去された酸化シリコン層26の開口幅である。ゲート電極52の幅L52は、この酸化シリコン層26の開口幅L26よりも大きく形成されており、開口の外周輪郭から幅D52だけ外側に伸びて大きく形成されている。
なお、ゲート電極52とソース電極54を形成する位置は、例えば上層48の表面に現れる結晶欠陥の量に基づいて形成することもできる。
上記の工程を経て、本実施例の半導体装置を得ることができる。
【0021】
半導体装置10は、次の変形例であってもよい。
図8に示す半導体装置110は、ゲート電極152が上層148と下層146が接する界面のうち下層146側界面に存在する結晶欠陥高密度領域172の外周輪郭に対向して上層の表面に形成されている。結晶欠陥高密度領域172の内側に対向する位置にゲート電極152は形成されていない。
この場合でも、オフのときに、外周輪郭に対向するゲート電極152のゲートオフ電圧によってヘテロ接合界面に電子が存在しない状態をつくりだせるので、ソース電極154下方からゲート電極152下方の結晶欠陥高密度領域172に電子が流入する事態を防止でき、リーク電流が流れるのを防止することができる。また、ソース電極154の下方のヘテロ接合界面は結晶性がよいので、この領域でリーク電流が発生することも防止される。また、ゲート電極152が結晶欠陥高密度領域172に対向する領域を超えて外側に伸びているので、オンのときに、この伸びている部分の下方のポテンシャル井戸内に、ゲートオン電圧によって多くの電子を誘起できるので、オン抵抗を低減することができる。
図9に示す半導体装置210は、下層146内の結晶欠陥高密度領域272以外の領域(結晶欠陥低密度領域)に酸化シリコンからなる絶縁領域262が形成されている。この絶縁領域262は、p型の半導体領域で形成されていてもよい。
この絶縁領域262の存在によって、下層246内の結晶欠陥低密度領域側の抵抗を大きくすることができる。ひいては、ソース電極254下方の領域(結晶欠陥低密度領域と一致する)において、下層246内にリーク電流が流れることを抑制できる。
【0022】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
上記実施例は、GaN系化合物半導体を例に説明しているが、これに代えて、GaAs(ガリウムヒ素)系化合物半導体、InP(インジウムリン)等を利用してもよい。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例の半導体装置の要部断面図を示す。
【図2】オンのときの電流の流れを示す。
【図3】実施例の半導体装置のエネルギーバンドダイアグラムを示す。
【図4】実施例の半導体装置の製造方法を示す(1)。
【図5】実施例の半導体装置の製造方法を示す(2)。
【図6】実施例の半導体装置の製造方法を示す(3)。
【図7】実施例の半導体装置の製造方法を示す(4)。
【図8】実施例の半導体装置の変形例を示す(1)。
【図9】実施例の半導体装置の変形例を示す(2)。
【符号の説明】
【0024】
22:サファイア基板
24:バッファ層
26:酸化シリコン層
32:ドレイン電極
42:ドレイン層
46:下層
48:上層
52:ゲート電極
54:ソース電極
70:結晶欠陥
72:結晶欠陥高密度領域
262:絶縁領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III-V族化合物半導体の下層と、
その下層にヘテロ接合されており、下層のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有するIII-V族化合物半導体の上層と、
上層の表面の一部に形成されている主電極と、
上層の表面の他の一部に形成されているゲート電極と、
を備えており、
前記下層は、ヘテロ接合界面と平行な面内において、結晶欠陥高密度領域と結晶欠陥低密度領域が分布しており、
主電極は、結晶欠陥低密度領域に対向する領域内に形成されており、
ゲート電極は、結晶欠陥高密度領域に対向する領域に形成されていることを特徴とするヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置。
【請求項2】
ゲート電極は、結晶欠陥高密度領域に対向する領域を超えて形成されていることを特徴とする請求項1の半導体装置。
【請求項3】
下層内の結晶欠陥低密度領域の一部に、絶縁性の領域が形成されていることを特徴とする請求項1又は2の半導体装置。
【請求項4】
前記絶縁性の領域は、ヘテロ接合界面に発生する2次元電子ガスの存在範囲外に形成されていることを特徴とする請求項3の半導体装置。
【請求項5】
半導体基板を用意する工程と、
その半導体基板の表面に、開口が分散配置されているエピタキシャル成長禁止部材を形成する工程と、
そのエピタキシャル成長禁止部材の開口において露出する半導体基板の表面から、III-V族化合物をエピタキシャル成長することによって下層を形成する工程と、
その下層の表面から、下層のIII-V族化合物のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有するIII-V族化合物をエピタキシャル成長することによって上層を形成する工程と、
エピタキシャル成長禁止部材に対向する領域内の上層の表面に主電極を形成する工程と、
前記開口に対向する領域の上層の表面にゲート電極を形成する工程と、
を備えるヘテロ接合型のIII-V族化合物半導体装置の製造方法。
【請求項6】
ゲート電極形成工程では、前記開口に対向する領域を超えてゲート電極を形成することを特徴とする請求項5の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−148015(P2006−148015A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339209(P2004−339209)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】