説明

エンジンの制御装置

【課題】エンジンに設けられた空燃比センサを簡素な構成で精度よく基準値補正する。
【解決手段】エンジン1の排気通路16と吸気通路12とを連通する還流通路19,22と、還流通路19,22を流通する還流ガスを制御する還流ガス制御手段35bと、吸気通路12と還流通路19,22との接続部よりも下流側の吸気通路12に配設された空燃比センサ25,26とを備えたエンジンの制御装置であって、エンジン1の停止条件が成立したか否かを判定し、成立したときにエンジン1を自動停止させる自動停止制御手段35aと、停止条件が成立したと判定されたら還流ガス制御手段35bに還流ガス量を減少させ、還流ガス量が減少してから所定時間自動停止制御手段35aにエンジン1の自動停止を待機させ、エンジン1が自動停止されたら空燃比センサ25,26の基準値補正を実施する補正制御手段35cと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させる一方、所定の再始動条件が成立したときにエンジンを自動始動させる機能を備えた車両に搭載されたエンジンに設けられた空燃比センサの基準値補正を実施する、エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にエンジンは、その吸気通路や排気通路に設けられる酸素センサで検出した酸素濃度や、空燃比センサで検出した空燃比を利用して、燃料噴射制御や排気浄化制御等を実施する。また、エンジンには、排気を再び吸気通路へ導く排気再循環通路(EGR通路)が設けられたものがあり、このEGR通路を介して排気を循環させることにより、排気温度を制御し、排出されるNOx量を低減させる制御を実施する。
【0003】
EGR通路を流通する排気(EGRガス)の量は、EGR通路に設けられた制御弁の開度によって制御される。この制御弁の開度は、EGRガスの吸気通路への導入口(すなわち、EGR通路と吸気通路との接続部)よりも下流側に設けられる酸素センサや空燃比センサの出力値を用いて制御される。例えば、酸素センサで検出される吸気(新気と排気との混合気)の酸素濃度や空燃比センサで検出される吸気の空燃比に基づいて、気筒内での燃焼状態が推定される。この推定された燃焼状態がその時点で要求される適切な燃焼状態となるように制御弁の開度が制御され、EGRガス量が増減調整される。
【0004】
これらの酸素センサや空燃比センサは、経時変化によってそのセンサ値に誤差が生じ、正確な酸素濃度や空燃比に対するセンサ値を出力することができなくなる場合がある。そのため、このセンサ値の誤差をなくすために、定期的に補正をする必要がある。この補正は、例えば排気を含まない外気環境下で検出されるべきセンサ出力の基準値のずれを修正する(以下、これを基準値補正という)ものであり、一般的にはゼロ点補正と呼ばれるものに相当する。基準値補正を定期的に実施することで、センサの計測精度を高いまま維持することができる。
【0005】
例えば特許文献1には、エンジンの吸気管の還流ガス導入口よりも下流に配設された酸素センサの出力補正に関する技術が記載されている。この技術では、まず、補正計算を行うのに適した状態にするために、フューエルカットやEGR弁を閉じることにより吸気管内の酸素濃度を既知の値(大気中の酸素濃度≒21%)にする。そして、吸気管に設けた圧力センサの出力値を用いて対圧力変化率を算出し、この対圧力変化率に基づき酸素センサの出力を補正する。これにより、酸素センサのもつ圧力依存性を考慮して補正することができるため、常に正確な酸素濃度を検出することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−176577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1の技術は、酸素センサの出力補正(基準値補正)において、酸素センサのもつ圧力依存性を考慮したものであるが、空燃比センサも同様に周囲の圧力の影響を受け(すなわち、検出する気体の圧力によって出力が変化するという圧力依存性を有し)、圧力によって出力値に誤差が生じる。そのため、空燃比センサの基準値補正を実施する場合も、圧力の影響を考慮することが求められている。
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1の技術では、対圧力変化率という係数を算出して、酸素センサの拡散律速層の厚さや細孔の径等で決まる値(センサ固有値)が、その時の運転状態における酸素センサの固有の値となるように更新しながら補正を行うものであるため、演算が複雑である。また、酸素センサの補正の精度が対圧力変化率という係数の算出精度、すなわち圧力センサの検出精度に依存することになるため、補正精度を向上させることが難しい。
【0009】
本件はこのような課題に鑑み案出されたもので、エンジンに設けられた空燃比センサを簡素な構成で精度よく基準値補正することができるようにした、エンジンの制御装置を提供することを目的とする。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)ここで開示するエンジンの制御装置は、所定の停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させる一方、所定の再始動条件が成立したときに前記エンジンを自動始動させる車両に搭載された前記エンジンの排気通路と吸気通路とを連通する排気還流用の還流通路と、前記還流通路を流通する還流ガスを制御する還流ガス制御手段と、前記吸気通路と前記還流通路との接続部よりも下流側の前記吸気通路に配設された空燃比センサとを備えたエンジンの制御装置であって、前記エンジンの前記停止条件が成立したか否かを判定し、前記停止条件が成立したときに前記エンジンを自動停止させる自動停止制御手段と、前記自動停止制御手段により前記停止条件が成立したと判定されたら、前記還流ガス制御手段に前記還流ガス量を減少させ、前記還流ガス量が減少してから所定時間前記自動停止制御手段に前記エンジンの自動停止を待機させ、前記エンジンが自動停止されたら前記空燃比センサの基準値補正を実施する補正制御手段と、を有することを特徴としている。
言い換えると、前記補正制御手段は、還流ガス制御手段によって前記空燃比センサの近傍の吸気から前記還流ガスを一掃させた上で前記空燃比センサの基準値補正を実施することを特徴としている。
【0011】
(2)前記補正制御手段が、前記還流ガス制御手段に前記還流ガスを遮断させることが好ましい。
(3)前記補正制御手段が、前記所定時間を前記エンジンの回転数が速いほど短く設定することが好ましい。
【0012】
(4)前記吸気通路の圧力を検出する吸気圧力センサを備え、前記補正制御手段が、前記自動停止制御手段により前記エンジンが自動停止されたら、前記吸気圧力センサで検出された前記吸気通路の圧力が大気圧と同等であれば前記基準値補正を実施することが好ましい。
(5)前記補正制御手段が、前回の前記空燃比センサの基準値補正終了後から走行した距離が予め設定された所定距離以上であれば前記基準値補正を実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエンジンの制御装置によれば、還流ガスを減少させてから所定時間エンジンの自動停止を待機させることにより、吸気通路に導入された還流ガスを掃気して吸気通路内の空気を大気の状態と同等にし、さらにエンジンを停止することにより吸気通路内の圧力も大気圧と同等にする。この状態で空燃比センサの基準値補正を実施するため、簡素な構成で精度よく基準値補正を実施することができる。また、停止条件が成立した場合に還流ガスを減少させた後に基準値補正を実施するため、補正を実施するための条件が成立し易く(言い換えると、補正頻度が高くなり)、空燃比センサの計測精度を高い状態に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係るエンジンの制御装置を例示する構成図である。
【図2】実際の空燃比に対するセンサ出力の関係を示すグラフである。
【図3】一実施形態に係るエンジンの制御装置によるアイドルストップの制御内容を示すフローチャートである。
【図4】一実施形態に係るエンジンの制御装置による空燃比センサの基準値補正を実施するときの制御内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
[1.装置構成]
本実施形態の制御装置は、エンジンの自動停止装置として、例えばアイドルストップシステムを備えた車両に搭載されたディーゼルエンジン(エンジン)1に適用される。図1には、エンジン1に設けられる複数のシリンダ2のうちの一つを示すが、他のシリンダ2も同様の構成である。エンジン1のシリンダ2内には、上下方向に往復摺動するピストン3が設けられる。ピストン3は、コネクティングロッドを介してクランクシャフトに接続される。ピストン3は、その頂面に燃焼室となるキャビティ3aが形成されている。
【0016】
シリンダ2上部のシリンダヘッドには、燃料噴射用のインジェクタ4が設けられる。インジェクタ4は、その先端部がシリンダ2の筒内空間に突出して設けられ、シリンダ2内に直接燃料を噴射する。インジェクタ4から噴射される燃料の噴射方向は、ピストン3のキャビティ3aに向かう方向に設定される。また、インジェクタ4の基端部には燃料配管が接続され、この燃料配管から加圧された燃料がインジェクタ4に供給される。
【0017】
シリンダヘッドには、シリンダ2の筒内空間と連通する吸気ポート5及び排気ポート6が設けられ、これらの各ポート5,6を開閉するための吸気弁7及び排気弁8が設けられる。吸気ポート5の上流側にはインテークマニホールド(以下、インマニという)9が設けられる。このインマニ9には吸気ポート5側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク10が設けられる。サージタンク10よりも下流側のインマニ9は、複数のシリンダ2に向かって分岐するように形成され、その分岐点にサージタンク10が位置する。サージタンク10は、各々のシリンダ2で発生する吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
【0018】
インマニ9の上流端には、スロットルボディ(図示略)が接続され、スロットルボディの内部には電子制御式のスロットルバルブ11が内蔵され、インマニ9側へと流通する空気量がスロットルバルブ11の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、後述するエンジンECU35によって電子制御される。スロットルボディのさらに上流側には、吸気通路12が接続される。この吸気通路12の最も上流側にはエアフィルタ13が介装され、エアフィルタ13で濾過された新気が吸気通路12に導入される。
【0019】
一方、排気ポート6よりも排気流の下流側には、エキゾーストマニホールド(以下、エキマニという)15,排気通路16及び排気浄化装置17が設けられる。エキマニ15は複数のシリンダ2から合流するように形成され、その下流側の排気通路16に接続される。また、排気通路16に介装された排気浄化装置17は、触媒17aとフィルタ17bとが内蔵されて構成される。この触媒17aは、排気中に含まれる炭化水素(HC)成分や一酸化炭素(CO),窒素酸化物(NOx)等を浄化する機能を持ち、例えば酸化触媒や三元触媒である。
【0020】
また、フィルタ17bは、排気中に含まれる粒子状物質(Particulate Matter、以下、PMと略称する)を捕集する多孔質フィルタ(例えば、セラミックフィルタ)である。なお、PMとは、炭素からなる黒煙(すす)の周囲に燃え残った燃料や潤滑油の成分,硫黄化合物等が付着した粒子状の物質である。フィルタ17bでは、捕集されたPMが連続的に酸化された後に、エンジンECU35によってPMが強制的に燃焼されてフィルタ17bを再生する再生制御が実施される。
【0021】
また、このエンジン1の吸排気系には、排気圧を利用してシリンダ2内に吸気を過給するターボチャージャー(過給機)18が設けられる。ターボチャージャー18は、吸気通路12と排気通路16との両方にまたがって介装された過給機である。ターボチャージャー18は、排気通路16内の排気圧でタービンを回転させ、その回転力を利用してコンプレッサを駆動することにより、吸気通路12側の吸気を圧縮してエンジン1への過給を行う。なお、吸気通路12におけるコンプレッサよりも吸気流の下流側にはインタクーラー14が設けられ、圧縮された空気が冷却される。
【0022】
本実施形態に係るエンジン1には、排気通路16を流通する排気を吸気通路12へ還流させる二つの還流通路(排気再循環通路やEGR通路ともいう)が設けられる。第一の還流通路(以下、第一還流通路という)19は、排気浄化装置17の下流側の排気通路16とターボチャージャー18のコンプレッサよりも上流側の吸気通路12(ここでは、エアフィルタ13の下流)とを連通し、いわゆる低圧EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路を構成する。
【0023】
第一還流通路19と吸気通路12との接続部には、第一制御弁(還流ガス制御手段)20が内蔵され、第一還流通路19を流通する還流ガス量(すなわち、吸気通路12へ導かれる排気の量)が第一制御弁20の開度に応じて調節される。還流ガス量は、第一制御弁20の開度が大きいほど増加し、開度がゼロ(閉弁)のときにゼロとなる。第一制御弁20の開度は、エンジンECU35に設けられた開閉制御部35bによって制御される。
【0024】
第二の還流通路(以下、第二還流通路という)22は、ターボチャージャー18のタービンよりも上流側の排気通路16とコンプレッサよりも下流側の吸気通路12とを連通し、いわゆる高圧EGR通路を構成する。第二還流通路22と吸気通路12との接続部には、第二制御弁(還流ガス制御手段)23が内蔵され、第二還流通路22を流通する還流ガス量が第二制御弁23の開度に応じて調節される。第二還流通路22からの還流ガス量は、第二制御弁23の開度が大きいほど増加し、開度がゼロ(閉弁)のときにゼロとなる。この第二制御弁23の開度も、エンジンECU35に設けられた開閉制御部35bによって制御される。
【0025】
したがって、エンジン1の吸気ポート5には、新気と第一還流通路19及び第二還流通路22から流入する排気(還流ガス)とが混合された吸気(混合気)が導入される。このように吸気中に還流ガスが混合されることで、過度の排気温度上昇やNOxの排出が抑制される。なお、第一還流通路19及び第二還流通路22には、それぞれ還流ガスを冷却するための還流ガスクーラー21,24が設けられる。
【0026】
吸気通路12には、吸気の空燃比を検出するための二つの空燃比センサが配設される。第一の空燃比センサ25は、吸気通路12と第一還流通路19との接続部(第一制御弁20が内蔵される部分)の下流に設けられるコンプレッサよりも下流側であって、かつ、吸気通路12と第二還流通路22との接続部よりも上流側に配設される。第二の空燃比センサ26は、吸気通路12と第二還流通路22の接続部(第二制御弁23が内蔵される部分)よりも下流側に配設される。
【0027】
この第一の空燃比センサ25及び第二の空燃比センサ26(以下、特に区別しない場合は空燃比センサ25,26という)は、吸気通路12を流通する吸気の酸素濃度を検出し、酸素濃度にほぼ比例するセンサ値を出力する、いわゆるリニア空燃比センサである。空燃比センサ25,26は、例えば図2中に実線で示すように、空燃比(酸素濃度)が大きいほど電圧信号や電流信号等の出力を増大させる特性を持つ。空燃比センサ25,26で検出された酸素濃度に対応する出力信号はエンジンECU35へ伝達される。
【0028】
また、吸気通路12には、吸気の圧力(吸気圧力)PINを検出する吸気圧力センサ28が、第二制御弁23とスロットルバルブ11との間に配設される。また、車両の任意の位置には、大気圧を検出する圧力センサ(大気圧センサ)30が設けられ、この大気圧センサ30により車両が走行している場所の圧力(大気圧)PATが検出される。
【0029】
クランクシャフトには、その回転角θCRを検出するクランク角センサ31が設けられる。回転角θCRの単位時間あたりの変化量はエンジン1の実回転数Neに比例する。したがって、クランク角センサ31はエンジン1の実回転数Neを検出する機能を持つものといえる。ここで検出(または演算)された実回転数Neの情報は、エンジンECU35に伝達される。なお、クランク角センサ31で検出された回転角θCRに基づき、エンジンECU35で実回転数Neを演算する構成としてもよい。以下、エンジン1の実回転数Neのことを単にエンジン回転数Neという。
【0030】
車両には、例えばアクセルペダルの近傍に、アクセルペダルの踏み込み量に対応する操作量θACを検出するアクセルペダルセンサ32が設けられる。アクセルペダルの踏み込み操作量θACは、ドライバの加速要求に対応するパラメータであり、すなわちエンジン1の出力要求に対応する。また、車両には、例えばブレーキペダルの近傍に、ブレーキペダルの踏み込み量に対応する操作量θBRを検出するブレーキペダルセンサ33が設けられる。ブレーキペダルの踏み込み操作量θBRは、ドライバの停止要求に対応するパラメータである。これらのセンサ32,33で検出された操作量θAC,θBRの情報は、エンジンECU35に伝達される。
【0031】
車両には、電子制御装置として、エンジンECU(Engine Electronic Control Unit)35が設けられる。エンジンECU35は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインを介して他の電子制御装置や第一制御弁20,第二制御弁23,各種センサ類と接続される。
【0032】
このエンジンECU35は、エンジン1に関する点火系,燃料系及び吸排気系といった広汎なシステムを制御する電子制御装置である。エンジンECU35の具体的な制御対象としては、通常運転時やアイドル時にインジェクタ4から噴射される燃料量や噴射時期,還流ガス量を制御する第一制御弁20及び第二制御弁23の開度,スロットルバルブ11の開度,フィルタ17bの再生制御等が挙げられる。本実施形態では、吸気通路12に設けられた空燃比センサ25,26の酸素濃度の基準値補正について詳述する。
【0033】
基準値補正とは、例えば重さを量る秤では、何も載せない状態で秤が基準値であるゼロを指すように調整すること(一般的にはゼロ点補正と呼ばれるもの)に相当し、計測装置自体を調整できる場合はこの装置自体を調整することをいう。また、その装置自体の調整ができない場合は、本来は基準値であるゼロであるはずのときの指示値(すなわち、基準値からのずれ,誤差)を記憶し、次回以降は計測された値からこの指示値を減算する補正をした値を本来の値とすることをいう。ここでいう基準値補正は後者を意味する。
【0034】
つまり、吸気通路12に配設された空燃比センサ25,26自体の調整はできないため、吸気通路12を大気の状態と同等にしたときに空燃比センサ25,26で検出されたセンサ値(酸素濃度に対応する出力信号;例えば電圧信号,電流信号等)を、大気の状態(酸素濃度≒21%)と比較する。このとき、大気の酸素濃度(基準値)に対してずれ(誤差)がある場合にはその誤差を記憶する。そして、次回以降は、空燃比センサ25,26で検出されるセンサ値からこの誤差を加算又は減算した値を、吸気通路12内の実際の酸素濃度に対応する出力信号であるものと判断する。このような補正演算のことを空燃比センサ25,26の酸素濃度の基準値補正という。
【0035】
[2.制御構成]
エンジンECU35には、上記の基準値補正を実施するための機能要素として、アイドルストップ制御部35a,開閉制御部35b及び補正制御部35cが設けられる。
アイドルストップ制御部(自動停止制御手段)35aは、エンジン1の作動中は所定の停止条件(アイドルストップ条件)が成立したか否かを判定し、この停止条件が成立したときにエンジン1を自動的に停止させるものである。以下、この停止条件を自動停止条件という。また、ここでいうエンジン1の停止とは、インジェクタ4からの燃焼噴射を停止することを意味する。すなわち、クランクシャフトが慣性でわずかに回転している状態でも、燃料噴射が停止されていればエンジン1は停止しているものとする。また、このアイドルストップ制御部35aは、エンジン1の自動停止中は所定の再始動条件(アイドルストップ解除条件)が成立したか否かを判定し、再始動条件が成立したときにエンジン1を再始動させる。
【0036】
所定の自動停止条件とは、ここでは以下の条件(1)〜(3)の全てを満たすことである。
(1)車速がゼロである。
(2)アクセルペダルの踏み込み操作量θACがゼロである。
(3)ブレーキペダルの踏み込み操作量θBRがゼロでない。
【0037】
また、所定の再始動条件とは、ここでは以下の条件(4)〜(7)の少なくとも一つを満たすことである。
(4)車速がゼロでない。
(5)アクセルペダルの踏み込み操作量θACがゼロでない。
(6)ブレーキペダルの踏み込み操作量θBRがゼロである。
(7)バッテリの充電率が所定の充電率未満である。
【0038】
上記の条件(7)の所定の充電率とは、車両に搭載されるバッテリ(例えば補機用バッテリ)に予め設定されている使用可能な充電率範囲の下限値のことである。バッテリは、充電率がこの下限値を下回ると十分な出力特性を得ることができなくなる。そのため、エンジン1の自動停止中に上記の条件(7)を満たしたときは、エンジン1を再始動させてバッテリの充電を開始する。なお、この使用可能な充電率範囲とは、例えばバッテリの耐久性や使用上の要請等によって定められたバッテリ内部の充電量の変動範囲のことである。
【0039】
アイドルストップ制御部35aは、自動停止条件が成立したか否かの情報を補正制御部35cに伝達する。また、アイドルストップ制御部35aは、補正制御部35cから後述の補正条件が成立したか否かの情報を取得し、補正条件が成立していないという情報を取得した場合は、通常のアイドルストップ制御を実施する(つまり、エンジン1を自動停止させる)。
【0040】
また、アイドルストップ制御部35aは、補正条件が成立したという情報を取得した場合は、さらに補正制御部35cから後述の自動停止の許可指令を受けているか否かを判定する。アイドルストップ制御部35aは、この許可指令を受けていないと判定したときは、自動停止条件が成立しているときであってもエンジン1を自動停止させずに待機状態となる。一方、アイドルストップ制御部35aは、待機状態か否かにかかわらず、許可指令を受けていると判定したときはエンジン1を自動停止させる。
【0041】
開閉制御部(還流ガス制御手段)35bは、第一還流通路19及び第二還流通路22を流通する還流ガスを制御する第一制御弁20及び第二制御弁23の開度(開閉)を制御するものである。この開閉制御部35bは、エンジン1への出力要求や排気温度等との関係から、第一制御弁20及び第二制御弁23の開度をそれぞれ調節して還流ガス量を制御する。また、この開閉制御部35bは、補正制御部35cから後述する還流ガス遮断指令を受けた場合は、還流ガスを減少させるべく第一制御弁20及び第二制御弁23の開度をともに小さくし、還流ガスの流通を抑制する。ここでは、開閉制御部35bは、還流ガス遮断指令を受けたら、基準値補正に最も適した状態である「還流ガス量ゼロ」とするために、第一制御弁20及び第二制御弁23をいずれも完全に閉弁し、還流ガスを遮断する。
【0042】
補正制御部(補正制御手段)35cは、空燃比センサ25,26の酸素濃度の基準値補正が必要であるか否かを判定し、必要であると判定した場合にアイドルストップ制御部35a及び開閉制御部35bに対して指令を発して、これらの制御部35a及び35bに基準値補正のための制御をさせるものである。ここで、上記した空燃比センサ25,26の基準値補正を実施するためには、吸気通路12内の酸素濃度を大気の状態と同等にすることが必要とされる。さらにここでは、吸気通路12内の圧力も大気圧と同等にし、圧力の影響を排除してより精度よく空燃比センサ25,26の基準値補正を実施する。以下、補正制御部35cで実施される判定内容及び制御内容(指令内容)を説明する。
【0043】
まず、補正制御部35cは、車両の走行距離が予め設定された所定距離以上であるか否かを判定する。補正制御部35cは、走行距離が所定距離以上であると判定したら空燃比センサ25,26の基準値補正が必要であると判断し、走行距離が所定距離未満であると判定したら基準値補正は不要であると判断する。つまり、この判定は空燃比センサ25,26の基準値補正の要否判定である。以下、基準値補正の必要があると判断されるための「走行距離が所定距離以上である」という条件を、補正条件という。補正制御部35cは、この補正条件が成立したか否かの情報をアイドルストップ制御部35aに伝達する。
【0044】
なお、ここでいう走行距離は、前回の空燃比センサ25,26の基準値補正終了後から走行した距離である。つまり、基準値補正終了後から走行距離は積算され、基準値補正が実施されたらそれまで積算された走行距離がゼロにリセットされて再び積算が開始される。また、判定閾値である所定距離は、空燃比センサ25,26が経時変化によってそのセンサ値に誤差を生じ始めるまでの距離であり、予め実験等によって求められる。
【0045】
補正制御部35cは、上記の補正条件が成立したと判定すると、次にアイドルストップ制御部35aから自動停止条件が成立したという情報が伝達されたか否かを判定する。補正制御部35cは、アイドルストップ制御部35aから自動停止条件が成立したという情報が伝達されたと判定したら、開閉制御部35bに対して還流ガスを遮断する(すなわち、還流ガス量をゼロとする)指令を発し、還流ガス量をゼロとする。この指令を還流ガス遮断指令という。還流ガス量をゼロとすることにより、吸気通路12に排気が流通しない状態となり、空燃比センサ25,26の近傍の吸気から還流ガスが一掃される。つまり、補正制御部35cによって還流ガス遮断指令が発せられると、吸気通路12内には新気のみが流通することとなり、吸気通路12内の酸素濃度が大気の酸素濃度と同等とされる。
【0046】
また、補正制御部35cは、還流ガス遮断指令を発すると同時にタイマーをスタートさせ、還流ガスの遮断時間を計測する。そして、遮断時間が所定時間以上となったらアイドルストップ制御部35aに対してエンジン1の自動停止を許可する指令を発し、アイドルストップ制御部35aにエンジン1を自動停止させる。この指令を自動停止の許可指令という。すなわち、補正制御部35cは、アイドルストップ制御部35aから自動停止条件が成立したという情報が伝達されたら、開閉制御部35bに対して還流ガス遮断指令を発し、この指令を発してから所定時間が経過するまでアイドルストップ制御部35aに対してエンジン1の自動停止を待機させる。
【0047】
これは、還流ガスの遮断と同時にエンジン1が自動停止されると、第一還流通路19及び第二還流通路22から吸気通路12内へ導入された排気を全て掃気することができず、吸気通路12内の酸素濃度を大気の酸素濃度と同等にすることができないためである。言い換えると、吸気通路12内の酸素濃度が大気の酸素濃度と同等になるまではエンジン1の自動停止を待機させる必要があり、この時間が上記の所定時間である。
【0048】
ここでは、補正制御部35cが、還流ガスが遮断されているときのエンジン回転数Neに応じて、この所定時間を設定する。つまり、還流ガス遮断時のエンジン回転数Neが速いほど、吸気通路12内に導入された排気を速く掃気することができるため所定時間は短く設定され、還流ガス遮断時のエンジン回転数Neが遅いほど、吸気通路12内の排気を全て掃気するのに時間がかかるため所定時間は長く設定される。
【0049】
なお、アイドルストップ制御部35aによってエンジン1が自動停止されると、吸気が停止されるので吸気通路12内の圧力が大気圧と同等となる。本実施形態ではターボチャージャー18が設けられているが、エンジン1の停止によりターボチャージャー18の作動も停止するため、過給による圧力変化もゼロとなる。
【0050】
補正制御部35cは、自動停止の許可指令を発してアイドルストップ制御部35aによってエンジン1が自動停止されたら、吸気圧力センサ28で検出された吸気通路12内の圧力が、大気圧センサ30で検出された大気圧と同等であるか否かを判定する。エンジン1が自動停止された場合は、吸気通路12内の圧力は大気圧と同等となるはずであるが、補正の精度をより高めるために実際に圧力を検出して大気圧と同等であるか否かを判定する。補正制御部35cは、吸気通路12内の圧力が大気圧と同等であると判定したら、空燃比センサ25,26の基準値補正を実施可能であると判断する。なお、吸気通路12内の酸素濃度や圧力が大気の状態と「同等」とは、完全一致でなくても略一致していればよいという意味である。すなわち、数%の誤差は許容されるという意味である。
【0051】
補正制御部35cは、空燃比センサ25,26の基準値補正が実施可能であると判断したら、空燃比センサ25,26の酸素濃度の基準値補正を実施する。エンジンECU35には、予め酸素濃度(空燃比)に対する空燃比センサ25,26による出力の関係(図2のようなマップ)がセンサ毎に記憶されている。補正制御部35cは、基準値補正が実施可能であると判断したら、このマップの補正を実施する。
【0052】
補正制御部35cが行う空燃比センサ25,26の基準値補正について図2を用いて説明する。なお、ここでは例として第一の空燃比センサ25について説明するが、第二の空燃比センサ26についても同様である。図2は、実際の空燃比(酸素濃度)に対するセンサ値(出力)の関係を示すグラフである。空燃比センサ25が新品のときは、図2中に実線で示すグラフaのような空燃比と出力との関係を有し、空燃比がAのときはグラフa上の点PAのセンサ値XAが検出される。
【0053】
しかし、空燃比センサ25は経時変化すると、出力に誤差を生じる。例えば、図2に示すように、実際の空燃比がAであっても、空燃比センサ25からの出力がXBとなり、センサ値に誤差ΔX(=XA−XB)を生じる。言い換えると、空燃比センサ25からの出力がXBのときグラフa上では点PA′となるため、このときの空燃比はA′であると判断されるが、実際の空燃比はAであるため、空燃比にずれを生じる。そこで、この誤差がどの程度あるのかを知るために、実際の空燃比をある既知の値とし、このとき空燃比センサ25から出力されるセンサ値がこの既知の空燃比に対応する出力信号(センサ値)でなかったときは、その分のセンサ値の誤差を記憶する。そして、次回以降の空燃比センサ25による検出時において、出力されたセンサ値に記憶した誤差を加算又は減算して、実際の空燃比を判断するようにする。
【0054】
例えば、実際の空燃比(ここでは酸素濃度)を既知の値である大気中の酸素濃度A(約21%)としたときに、空燃比センサ25で出力されるべきセンサ値はXAでなければならないのに、センサ値XBが出力されたとする。このときのセンサ値の誤差はΔX(=XA−XB)となるため、このΔXがエンジンECU35に記憶される。そして、次回以降、空燃比センサ25で出力されるセンサ値には、この誤差ΔXが常に加算されることにより、実際の酸素濃度を検出することができるようになる。
【0055】
つまり、補正制御部35cは、酸素濃度Aのときにセンサ値XBが出力される(すなわち、点PBとなる)ように、図2に示すグラフaを右側にシフトさせる補正をし、経時変化した空燃比センサ25における空燃比に対する出力の関係を示す新たなグラフbを作成する。そして、次回以降の空燃比センサ25による検出では、このグラフbを用いることで空燃比センサ25の経時変化を考慮し、正確な空燃比を検出することが可能となる。
【0056】
[3.フローチャート]
次に、図3及び図4を用いて、エンジンECU35のアイドルストップ制御部35a及び補正制御部35cでそれぞれ実施されるアイドルストップ制御及び空燃比センサ25,26の基準値補正の手順の例を説明する。これらのフローチャートは、それぞれ所定の周期で動作する。この周期は略同一であることが好ましい。また、下記の各ステップは、コンピュータのハードウェアに割り当てられた各機能(手段)が、ソフトウェア(コンピュータプログラム)によって動作することによって実施される。
【0057】
ドライバによる車両のイグニッションスイッチ(IG_SW)のオン操作が行われると、図3及び図4に示すそれぞれの制御フローがスタートする。
まず、アイドルストップ制御部35aによるアイドルストップ制御について説明する。図3に示すように、ステップA10において、エンジン1が自動停止中であるか否かが判定される。エンジン1が自動停止中でない(すなわち、エンジン1が作動中である)場合は、NOルートからステップA20へ進み、自動停止条件が成立したか否かが判定される。この自動停止条件は上記した条件(1)〜(3)であり、これらの条件を全て満たしているときはYESルートからステップA30へ進み、上記の条件(1)〜(3)の一つでも満たしていないときはNOルートからステップA70へ進む。
【0058】
ステップA30では、フラグFIDをFID=1に設定し、ステップA70ではフラグFIDをFID=0に設定する。このフラグFIDは、エンジン1が作動しているときに自動停止条件が成立しているか否かを判断するためのフラグであり、FID=1のときは自動停止条件成立であり、FID=0のときは自動停止条件が不成立であることを示す。このフラグFIDの情報は、アイドルストップ制御部35aによって補正制御部35cに伝達される。
【0059】
ステップA70でフラグFIDがFID=0に設定されたら、自動停止条件は成立していないため制御フローがリターンされる。一方、ステップA30でフラグFIDがFID=1に設定されたら、ステップA40において、フラグFAMがFAM=1であるか否かが判定される。このフラグFAMは、空燃比センサ25,26の基準値補正が必要であるか否かを判断するためのフラグであって、上記の補正条件に対応するものである。フラグFAMがFAM=1のときは補正が必要であり、FAM=0のときは補正が不要であることを示す。なお、このフラグFAMの情報は、後述する図4のフローチャート内で補正制御部35cにより設定されるものであり、アイドルストップ制御部35aが補正制御部35cから取得する。
【0060】
ステップA40でフラグFAMがFAM=0であると判定されると、基準値補正は不要のためNOルートからステップA60へ進み、エンジン1の自動停止が実施され、制御フローがリターンされる。これは例えば、補正が不要である状態での通常のアイドルストップ制御が実施される場合に相当する。すなわち、フラグFAMがFAM=0のときには、自動停止条件が成立すると直ちにエンジン1の自動停止が実施される。
【0061】
一方、ステップA40でフラグFAMがFAM=1であると判定されると、YESルートからステップA50へ進み、ステップA50においてフラグFALがFAL=1であるか否かが判定される。このフラグFALは、アイドルストップ(エンジン1の自動停止)を許可するか否かを判断するためのフラグであって、上記の自動停止の許可指令に対応するものである。フラグFALがFAL=1のときはアイドルストップが許可され,FAL=0のときはアイドルストップが許可されていないことを示す。このフラグFALの情報は、後述する図4のフローチャート内で補正制御部35cにより設定されるものであり、アイドルストップ制御部35aが補正制御部35cから取得する。
【0062】
ステップA50でフラグFALがFAL=1であると判定されると、YESルートからステップA60へ進み、エンジン1の自動停止が実施され、ステップA65でフラグFIDがFID=0にリセットされて制御フローがリターンされる。一方、ステップA50でフラグFALがFAL=0であると判定されると、エンジン1の自動停止が許可されていないためNOルートから制御フローがリターンされる。この場合は、再びステップA10においてエンジン1の作動状態を判定され、エンジン1が作動中であればステップA20の判定が実施される。そして、自動停止条件が未だ成立中であれば、ステップA30及びステップA40を経て、ステップA50の判定が再び行われる。
【0063】
つまり、ステップA50の判定で、フラグFALがFAL=1となりエンジン1が自動停止されるまで、ステップA10〜ステップA50のステップが繰り返し実施される。言い換えると、このステップA50の判定においてYESとされるまでの間(すなわち、NOルートへ進んでフローを繰り返している間)、エンジン1の自動停止を待機させている状態となり、繰り返されたフローチャートの周期の時間が所定時間に相当する。
【0064】
なお、ステップA10において、エンジン1が自動停止中であると判定されたら、YESルートからステップA80へ進み、再始動条件が成立したか否かが判定される。この再始動条件は、上記した条件(4)〜(7)であり、これらの条件の少なくとも一つを満たしているときはYESルートからステップA100へ進み、エンジン1を再始動させて制御フローがリターンされる。また、上記の条件(4)〜(7)のいずれも満たしていないときはNOルートへ進み制御フローがリターンされる。
【0065】
次に、補正制御部35cによる基準値補正について説明する。図4に示すように、ステップB10においてフラグFAMがFAM=0であるか否かが判定される。フラグFAMがFAM=0であれば、YESルートからステップB20へ進み、ステップB20において、走行距離が所定距離以上であるか否かが判定される。すなわち、ステップB20は上記の補正制御部35cによる補正条件の判定ステップである。走行距離が所定距離以上であれば、YESルートからステップB30へ進み、フラグFAMがFAM=1に設定されてステップB40へ進む。一方、走行距離が所定距離未満の場合は、NOルートへ進み制御フローがリターンされる。したがって、走行距離が所定距離以上になった後には、フラグFAMの状態が変化しない限り、ステップB40以降のフローが繰り返される。
【0066】
ステップB40では、フラグFIDがFID=1であるか否かが判定される。このフラグFIDは、図3のステップA30,ステップA65又はステップA70において設定されたものであり、上記したようにアイドルストップ制御部35aから伝達されるものである。フラグFIDがFID=1であるときは自動停止条件が成立しているため、YESルートからステップB50へ進み、開閉制御部35bに対して還流ガス遮断指令を発する。これに伴い、還流ガスが遮断されるとともに、タイマーがスタートされて遮断時間が計測される。
【0067】
次いでステップB60において、遮断時間が所定時間以上であるか否かが判定される。遮断時間が所定時間未満のときはNOルートへ進み、制御フローがリターンされてステップB10へ進む。このとき、前回のステップB30でフラグFAMがFAM=1に設定されていれば、ステップB10の判定ではNOルートからステップB40へ進む。ステップB40では、再びフラグFIDがFID=1であるか否かが判定される。フラグFIDがFID=1のときは、ステップB50を経てステップB60の判定ステップへ進み、遮断時間が所定時間以上になるまで繰り返される。
【0068】
一方、ステップB40において、自動停止条件が不成立となって、アイドルストップ制御部35aによりフラグFIDがFID=0とされた場合は、NOルートからステップB110へ進む。そして、ステップB110において還流ガスの遮断中であるか(すなわち、開閉制御部35bへ還流ガス遮断指令が発せられているか)否かが判定され、遮断中であればYESルートからステップB120へ進み、開閉制御部35bによる第一制御弁20及び第二制御弁23の開閉制御(還流ガスの制御)を通常の運転モード(すなわち、エンジン1の出力要求や排気温度等に応じた開度)へ戻し、計測していた遮断時間をリセットして制御フローがリターンされる。また、ステップB110において、還流ガスが遮断中でないと判定された場合は、NOルートに進みそのまま制御フローがリターンされる。
【0069】
つまり、空燃比センサ25,26の基準値補正が必要であると判定されてフラグFAMがFAM=1に設定されたときであっても、自動停止条件が不成立でフラグFIDがFID=0のときは、制御フローがリターンされて基準値補正は実施されない。この場合は、ステップB30においてフラグFAMがFAM=1に設定されているため、ステップB10の判定で常にNOルートへ進み、ステップB40においてフラグFIDがFID=1であると判定されるまで制御フローが繰り返される。これは、エンジン1の自動停止条件の成立後に還流ガスを遮断している最中に、運転者がアクセルペダルを踏み込んで車両を発進させようとしたような場合に相当する。
【0070】
ステップB60において、遮断時間が所定時間以上であると判定されたら、YESルートからステップB70へ進み、フラグFALがFAL=1に設定される。これにより、アイドルストップ制御部35aに自動停止の許可指令が発せられ、エンジン1の自動停止が許可される。そして、ステップB80において、吸気圧力センサ28で検出された吸気通路12内の圧力(吸気圧力)が大気圧センサ30で検出された大気圧と同等か(略等しいか)否かが判定される。
【0071】
ステップB80において吸気圧力が大気圧と同等でないと判定されたら、NOルートからステップB85へ進み、何らかの原因で吸気圧力が大気圧と同等とならなかったため、エラーと判断してステップB100へ進む。つまり、本来であれば、エンジン1を停止すれば、吸気圧力は大気圧と同等になるはずであるが、この制御周期においてはそれが成立しなかったため、この制御周期では基準値補正を実施せず、次回以降の制御周期において、条件が成立したときに基準値補正を実施する。
【0072】
一方、ステップB80において吸気圧力が大気圧と同等であると判定されたら、YESルートからステップB90へ進み、空燃比センサ25,26の基準値補正が実施される。そして、ステップB100でフラグFAM=0及びフラグFAM=0にリセットされ、併せて走行距離及び遮断時間もリセットされて、制御フローがリターンされる。
すなわち、図3に示すアイドルストップ制御の制御フローと図4に示す基準値補正の制御フローとが、相互に情報を伝達し合いながらそれぞれ独立して動作する。
【0073】
[4.効果]
したがって、本制御装置によれば、還流ガスを減少させてから所定時間エンジン1の自動停止を待機させることにより、吸気通路12に導入された還流ガスを掃気して吸気通路12内の空気を大気の状態と同等し、さらにエンジン1を停止することにより吸気通路12内の圧力も大気圧と同等にする。この状態で空燃比センサ25,26の基準値補正を実施するため、簡素な構成で精度よく基準値補正を実施することができる。また、自動停止条件が成立した場合に還流ガスを減少させた後に基準値補正を実施するため、補正を実施するための条件が比較的成立し易く(言い換えると、補正頻度が高くなり)、空燃比センサ25,26の計測精度を高い状態に維持することができる。
【0074】
また、還流ガスを完全に遮断することにより、吸気通路12内を新気のみの状態とすることができるため、精度よく空燃比センサ25,26の基準値補正を実施することができる。
また、補正制御部35cが、所定時間をエンジン1の回転数が速いほど短く設定するため、吸気通路12内に導入された還流ガスの掃気にかかる時間を考慮することができる。これにより、空燃比センサ25,26の基準値補正を早期に完了させることができる。
【0075】
また、吸気圧力センサ28で実際に吸気圧力を検出し、大気圧センサ30で検出した大気圧と比較して、吸気通路12内の圧力が大気圧と同等になっていることを確認してから基準値補正を実施するため、より正確に基準値補正を実施することができる。
また、走行距離が所定距離以上になったことを補正条件とすることにより、適切なタイミングで空燃比センサの基準値補正を実施することができる。
【0076】
[5.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
上記実施形態では、基準値補正を実施するか否かを判定するときに、まず走行距離によって判断しているが、走行距離にかかわらず、補正を実施できる条件が成立したときは常に補正をするように構成してもよい。この場合、空燃比センサ25,26の計測精度を高い状態により維持することができる。
【0077】
また、上記した条件(1)〜(3)の全てを満たす場合に自動停止条件が成立したと判定する構成でなくてもよく、例えば、条件(1)に加えて、少なくとも条件(2)及び(3)の一方を満たすときに自動停止条件が成立したと判定してもよい。再始動条件についても同様に、上記の条件(4)〜(7)の少なくとも一つを満たす場合に再始動条件が成立したと判定する構成でなくてもよい。つまり、エンジン1の自動停止及び再始動(アイドルストップ・スタート)の実施条件や制御内容は周知の技術を種々適用可能である。
【0078】
また、エンジン1を自動停止させる装置として、上記の実施形態ではアイドルストップシステムを備えた車両を例に説明したが、自動停止装置はこれに限られず、例えば車両がエンジンと電動機とを駆動源として備えたハイブリッド車である場合において、電動機のみで走行できる条件が成立したときにエンジンを自動的に停止させるときにも、本制御装置は適用可能である。この場合は、電動機のみで走行可能である条件(例えばバッテリの充電率が所定充電率以上や、出力要求が所定値以下等)が、上記の実施形態でいう所定の停止条件に相当する。
【0079】
また、補正制御部35cがアイドルストップ制御部35aに対してエンジン1の自動停止を待機させる所定時間は、エンジン回転数によらず、予め設定された固定値としてもよい。この場合、エンジン回転数から所定時間を設定する過程が不要となるため、制御内容を簡素にすることができる。
また、還流ガスが完全に遮断されている場合に限られず、吸気通路12内の酸素濃度を大気の酸素濃度と同等にすることができる程度であれば、僅かに還流ガスが吸気通路12へ導入されていてもよい。
【0080】
また、空燃比センサ25,26の基準値補正を完了するまでに例えば5秒程度かかるような場合において、基準値補正を実施している間にエンジン1の再始動条件が成立したときは、補正のエラー信号を発し、それまでの補正を中断して次回の補正の機会を待つように構成してもよい。
また、本制御装置によって基準値補正を行う対象となる空燃比センサは、上記したような酸素濃度に比例した出力を検出するリニア空燃比センサでなくてもいい。また、空燃比センサは、酸素濃度を検出するものでなくてもよい。少なくとも、燃焼反応に係る気体の物質量を測定可能なものであればよく、例えば二酸化炭素濃度を検出することで空燃比を検出するようなセンサであってもよい。つまり、空燃比センサとは、酸素濃度を検出するものに限られず、基準値補正も酸素濃度の基準値補正に限られない。
【0081】
また、エンジン1の構成は、図1に示したものに限られず、例えば還流通路は第一還流通路19及び第二還流通路22のいずれか一方であってもよい。この場合は、空燃比センサも一つ設けられていればよい。また、ターボチャージャー18は設けられていなくてもよい。
また、本制御装置は、ディーゼルエンジンが搭載された車両に限られず、ガソリンエンジンが搭載された車両にも適用可能であり、エンジンと電動機とを搭載したハイブリッド車に適用してもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 ディーゼルエンジン(エンジン)
12 吸気通路
16 排気通路
19 第一還流通路(還流通路)
20 第一制御弁(還流ガス制御手段)
22 第二還流通路(還流通路)
23 第二制御弁(還流ガス制御手段)
25,26 空燃比センサ
28 吸気圧力センサ
30 大気圧センサ
31 クランク角センサ
32 アクセルペダルセンサ
33 ブレーキペダルセンサ
35 エンジンECU
35a アイドルストップ制御部(自動停止制御手段)
35b 開閉制御部(還流ガス制御手段)
35c 補正制御部(補正制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させる一方、所定の再始動条件が成立したときに前記エンジンを自動始動させる車両に搭載された前記エンジンの排気通路と吸気通路とを連通する排気還流用の還流通路と、前記還流通路を流通する還流ガスを制御する還流ガス制御手段と、前記吸気通路と前記還流通路との接続部よりも下流側の前記吸気通路に配設された空燃比センサとを備えたエンジンの制御装置であって、
前記エンジンの前記停止条件が成立したか否かを判定し、前記停止条件が成立したときに前記エンジンを自動停止させる自動停止制御手段と、
前記自動停止制御手段により前記停止条件が成立したと判定されたら前記還流ガス制御手段に前記還流ガス量を減少させ、前記還流ガス量が減少してから所定時間前記自動停止制御手段に前記エンジンの自動停止を待機させ、前記エンジンが自動停止されたら前記空燃比センサの基準値補正を実施する補正制御手段と、を有する
ことを特徴とする、エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記補正制御手段が、前記還流ガス制御手段に前記還流ガスを遮断させる
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記補正制御手段が、前記所定時間を前記エンジンの回転数が速いほど短く設定する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記吸気通路の圧力を検出する吸気圧力センサを備え、
前記補正制御手段が、前記自動停止制御手段により前記エンジンが自動停止されたら、前記吸気圧力センサで検出された前記吸気通路の圧力が大気圧と同等であれば前記基準値補正を実施する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記補正制御手段が、前回の前記空燃比センサの基準値補正終了後から走行した距離が予め設定された所定距離以上であれば前記基準値補正を実施する
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83207(P2013−83207A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223976(P2011−223976)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】