説明

スパッタターゲットの製造方法

【課題】ヒロック、エッチング残渣、ITO等との電気化学反応の発生を防止した低抵抗な配線膜を再現性よく成膜することができ、かつスパッタ時におけるダスト発生を抑制したスパッタターゲットの製造方法を提供する。
【解決手段】Y、Sc、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Th、Sr、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Cd、Si、PbおよびBから選ばれる少なくとも1種の第1の元素を0.001〜30原子%の範囲で含み、残部がAlからなるインゴットまたは焼結体を、大気溶解法、真空溶解法、急冷凝固法、粉末冶金法で作製するにあたって、インゴットまたは焼結体にCを第1の元素量に対して20原子ppm〜37.8原子%の範囲で含有させ、得られたインゴットや焼結体を加工してスパッタターゲットを作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低抵抗配線の形成に好適なスパッタターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TFT駆動タイプのLCDのゲート線や信号線等として用いられる配線膜は、通常スパッタ法により形成されている。このような配線膜の形成材料には、Cr、Ti、Mo、Mo−Ta等が用いられてきた。しかし、LCDの画面サイズの大型化に伴って、低抵抗の配線膜が必要とされるようになってきている。例えば、10インチ以上の大型LCDにおいては、10μΩcm以下の低抵抗配線が求められている。そこで、ゲート線や信号線等を構成する配線膜として、低抵抗のAlが注目されている。
【0003】
Al配線膜によれば、低抵抗配線が実現可能であるものの、Al配線膜は配線形成後の熱処理やCVDプロセスによる473〜773K程度の加熱等によって、ヒロックと呼ばれる突起が生じるという問題を有している。加熱に伴うAl膜のストレスの解放過程で、Al原子は例えば結晶粒界に沿って拡散する。このAl原子の拡散に伴って突起(ヒロック)が生じる。このような突起がAl配線に生じると、その後のプロセスに悪影響を及すことになる。
【0004】
そこで、Al配線に微量の金属元素、例えばFe、Co、Ni、Ru、Rh、Ir等やY、La、Nd等の希土類金属元素を添加することが試みられている(例えば特許文献1参照)。具体的には、これら金属元素を微量添加したAlターゲットを用いてAl配線膜を形成する。上述した金属元素はAlと金属間化合物を形成するため、Alのトラップ材として機能する。これによって、上記したヒロックの形成を抑制することができる。
【0005】
また、LCDの信号線等にAl配線を適用する場合、このAl配線は透明電極を構成するITO電極と積層される。このようなAl配線とITO電極との積層膜を、パターニング工程で使用される現像液等のアルカリ溶液に浸漬すると、Al配線とITO電極とが直接接触した部分で電気化学反応が起こる。このAl配線とITO電極との電気化学反応は、Alの標準電極電位がITOのそれより低いために起こるものである。この電気化学反応によりAl配線とITO電極との間で電子が移動し、ITO電極は還元されて着色(例えば黒色化)してしまい、逆にAl配線は酸化されて電気特性が低下するというような問題が生じる。
【0006】
上記したAl配線とITO電極との電気化学反応に基づく問題に対しても、Al配線に各種の金属元素を添加することが検討されている。この場合にも、金属元素を微量添加したAlターゲットを用いて、金属元素を微量含有するAl配線膜が形成される。また、VLSIやULSI等の一般的な半導体素子にAl配線を適用する場合には、エレクトロマイグレーションを抑制するために、各種の金属元素を添加することが検討されている(例えば特許文献2,3参照)。
【0007】
しかしながら、上述したような微量の金属元素を含有するAl配線膜においては、Alの拡散やITO電極との電気化学反応等は抑制されるものの、生成した金属間化合物や添加した金属元素がAl配線のエッチング性やスパッタ特性等に対して悪影響を及すという問題が生じている。
【0008】
すなわち、上述したようなAl配線膜に対してCDE(Chemical Dry Etching)やRIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチング、あるいはウェットエッチングを施すと、残渣と呼ばれる溶け残りが多数発生し、配線網の形成に対して大きな障害をもたらす。添加した金属元素や生成した金属間化合物は、上記したエッチング後の残渣の発生原因となっている。また、上述した金属元素を含むAlターゲットは、スパッタ中にターゲットから発生するダスト量が多く、このダストも健全な微細配線網の形成に対して障害となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7-45555号公報
【特許文献2】特開昭62-228446号公報
【特許文献3】特公平4-48854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、低抵抗配線の形成に用いられるAlターゲットおよびAl配線膜においては、Alの拡散に基づくヒロックの発生やITO電極との電気化学反応等を抑制した上で、エッチング時における残渣発生やスパッタ時におけるダスト発生を抑制することが課題とされている。また、Al配線とITO電極との電気化学反応の抑制に関しては、金属元素の添加量を低減した上で、効果の向上を図ることが望まれている。なお、Al配線とITO電極との電気化学反応は、Al配線をMo膜等との積層構造とすることで抑制することも検討されている。しかし、積層膜はLCD構造の複雑化や高コスト化を招くため、単層構造のAl配線でITO電極との電気化学反応を抑制することが望まれている。
【0011】
上記したような課題は、LCDのゲート線や信号線等に用いられるAl配線膜に限られるものではない。例えば、VLSIやULSI等の一般的な半導体素子にAl配線を適用する場合には、エレクトロマイグレーションが問題となる。上述したような金属元素はエレクトロマイグレーションの抑制にも効果を発揮するが、LCDの場合と同様に、エッチング時における残渣の発生やスパッタ時におけるダストの発生が問題となっている。また、上記したような課題は、弾性表面波共振子(SAW)のような弾性表面波装置、あるいはSAWを用いた電子部品(SAWデバイス)、さらにはサーマルプリンタヘッド(TPH)等の配線や電極等においても同様に問題となっている。
【0012】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、ヒロックおよびエッチング残渣の発生を防止した低抵抗な配線膜を再現性よく成膜することができ、かつスパッタ時におけるダスト発生を抑制したスパッタターゲットの製造方法、さらにITO等との電気化学反応およびエッチング残渣の発生を防止した低抵抗な配線膜を再現性よく成膜することができ、かつスパッタ時におけるダスト発生を抑制したスパッタターゲットの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のスパッタターゲットの製造方法は、Y、Sc、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Th、Sr、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Cd、Si、PbおよびBから選ばれる少なくとも1種の第1の元素を0.001〜30原子%の範囲で含み、残部がAlからなるインゴットまたは焼結体を、大気溶解法、真空溶解法、急冷凝固法または粉末冶金法で作製するにあたって、前記インゴットまたは焼結体にCを前記第1の元素量に対して20原子ppm〜37.8原子%の範囲で含有させる工程と、前記インゴットまたは焼結体を加工してスパッタターゲットを作製する工程とを具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスパッタターゲットの製造方法によれば、低抵抗であることに加えて耐ヒロック性、エッチング性、ITO等との電気化学反応の防止性等に優れる配線膜を再現性よく成膜することができ、かつスパッタ時におけるダスト発生を抑制することが可能なスパッタターゲットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した液晶表示装置の等価回路図である。
【図2】図1に示す液晶表示装置の構成を示す断面図である。
【図3】本発明を適用した半導体素子の構成例を示す断面図である。
【図4】本発明を適用したサーマルプリンタヘッドの構成例を示す断面図である。
【図5】本発明を適用した弾性表面波共振子の構成例を示す平面図である。
【図6】本発明を適用した弾性表面波共振子の他の構成例を示す平面図である。
【図7】図5および図6に示す弾性表面波共振子(SAW)を用いたSAWデバイスの構成を示す断面図である。
【図8】本発明を適用したAl配線膜の電極電位をAlおよびITOと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明のスパッタターゲットを適用する配線膜は、Y、Sc、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Th、Sr、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Cd、Si、PbおよびBから選ばれる少なくとも1種の第1の元素を0.001〜30原子%と、O、NおよびHから選ばれる少なくとも1種の第2の元素を第1の元素量に対して0.01原子ppm〜50原子%とを含み、残部が実質的にAlからなるものである。
【0017】
第1の元素としてはAlと金属間化合物を形成する元素を用いることができる。具体的には、Y、Sc、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er等の希土類金属元素、Nb、Ta、Re、Mo、W、Zr、Hf等が挙げられる。これらAlと金属間化合物を形成する元素(金属間化合物形成元素)は、例えばAl3Yのような金属間化合物を形成してAlのトラップ材として機能する。従って、Al配線膜に熱処理を施したり、またAl配線膜を比較的高温で成膜した場合においても、Alの拡散を抑制することができる。その結果としてヒロック等の発生が防止される。また、エレクトロマイグレーション等を抑制することも可能となる。
【0018】
金属間化合物形成元素は、Alに対する固溶度が1.0重量%以下であることが好ましい。Alに対する固溶度が1.0重量%を超えると、Alとの金属間化合物の形成によるヒロックの抑制効果を十分に得ることができないおそれがあると共に、比抵抗の増大を招くおそれがある。このような金属間化合物形成元素としては、Ge、Li、Mg、Th、Ti、V、Zn、W等が挙げられる。
【0019】
また、第1の元素はAlより標準電極電位が高い元素であってもよい。Alより標準電極電位が高い元素としては、Ag、Au、Cu、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Ir、Pt、Cd、Si、Pb等が挙げられる。これらのうち、特にAlとの標準電極電位の差が2V(298K)以上であるAg、Au、Co、Cu、Mo、W、Mn等が好ましく用いられる。これらAlより標準電極電位が高い元素(高電極電位元素)を、Al配線膜中に含有させることによって、Al配線膜の標準電極電位を高めることができる。
【0020】
ここで、アルカリ溶液中でAl配線膜とITO電極との間に発生する電気化学反応は、Alの標準電極電位がITOのそれより低いために電子が移動して起こる現象である。従って、Al配線膜に高電極電位元素を含有させて、Al配線膜の標準電極電位を例えばITOのそれより高くすることによって、Al配線膜とITO電極との間のアルカリ溶液中における電気化学反応を防止することができる。これによって、ITO電極の還元による着色やAl配線膜の酸化による電気特性の低下等を招くことなく、例えばLCDのゲート線を単層構造のAl配線膜で健全に形成することが可能となる。なお、高電極電位元素の添加によるAl配線膜の標準電極電位の向上は、ITO電極と積層する場合に限らず、Al配線膜をAlより標準電極電位が高い各種材料からなる電極や配線等と積層する場合に対して有効である。
【0021】
上記した高電極電位元素としては、Al配線膜の比抵抗の増大を抑制する上で、Alと金属間化合物を形成する元素を用いることが好ましい。また、高電極電位元素としてAlと金属間化合物を形成する元素を用いることによって、前述したようにヒロックの発生やエレクトロマイグレーション等を抑制することも可能となる。このように、Alより標準電極電位が高く、かつAlと金属間化合物を形成する元素は特に有効である。このような元素を含有させたAl配線膜は、例えばLCDの信号線およびゲート線のいずれにも良好に使用することができ、汎用性の高いAl配線膜ということができる。このような元素としては、Pd、V、Ni、Mo、W、Co等が挙げられる。
【0022】
上述した金属間化合物形成元素や高電極電位元素(第1の元素)は、Al配線膜中に0.001〜30原子%の範囲で含有させる。例えば、金属間化合物形成元素の含有量が0.001原子%未満であると、ヒロックの抑制効果を十分に得ることができない。一方、30原子%を超えると金属間化合物がAl配線膜の抵抗を増大させたり、ドライエッチングやウェットエッチング時に残渣の発生原因となる。高電極電位元素の含有量が0.1原子%未満であると、電気化学反応の抑制効果を十分に得ることができない。一方、20原子%を超えるとAl配線膜の抵抗を増大させたり、またドライエッチングやウェットエッチング時に残渣の発生となる。より好ましい添加量は0.1〜20原子%の範囲である。
【0023】
この実施形態のAl配線膜は、上記したように金属間化合物形成元素および高電極電位元素の少なくとも一方を満足する元素と共に、O、NおよびHから選ばれる少なくとも1種の第2の元素を微量含有させている。この微量含有させた元素(O,N,H)は、金属間化合物、もしくは金属間化合物形成元素および高電極電位元素自体の微細析出に対して有効に作用する。従って、Al配線膜中の金属間化合物、金属間化合物形成元素、高電極電位元素を、Alの粒内や粒界に微細にかつ均一に析出させることが可能となる。
【0024】
このように、Al配線膜中において、金属間化合物、金属間化合物形成元素、高電極電位元素を微細にかつ均一に析出させることによって、エッチング性が大幅に向上する。従って、Al配線膜にドライエッチング等で配線網を形成する際に、エッチング残渣の発生を大幅に抑制することが可能となる。また、後に詳述するように、Al配線膜の作製にスパッタ法を適用する場合、O、NおよびHから選ばれる少なくとも1種の第2の元素は、スパッタ時のダスト発生量の抑制にも効果を発揮する。従って、微細ダストの含有量が大幅に低減されたAl配線膜を得ることができる。
【0025】
そして、熱処理等の加熱に伴うAlの拡散は、前述したように金属間化合物形成元素とAlとが金属間化合物を形成することにより抑制され、その結果としてヒロックの発生を有効に防止することができる。従って、この実施形態のAl配線膜は、耐ヒロック性に優れ、ヒロックの発生によりその後のプロセスに悪影響を及すことがないと共に、微細配線網の形成性に優れるものである。また、アルカリ溶液中におけるITO電極等との電気化学反応は、高電極電位元素を含有させることで抑制される。従って、この実施形態のAl配線膜は、ITO電極等との電気化学反応の防止性、および微細配線網の形成性に優れるものである。
【0026】
ここで、上記したO、NおよびHから選ばれる少なくとも1種の第2の元素(以下、微細析出化元素と記す)の含有量は、Al配線膜中の金属間化合物形成元素や高電極電位元素の量に対して、0.01原子ppm〜50原子%の範囲とする。微細析出化元素の含有量が金属間化合物形成元素や高電極電位元素の量に対して0.01原子ppm未満であると、金属間化合物、金属間化合物形成元素、高電極電位元素の微細析出化効果を十分に得ることができない。一方、50原子%を超えると余分なH等がAl粒界や粒内等に析出して、逆にエッチング性等を低下させる。より好ましい微細析出化元素(第2の元素)の含有量は1.5原子ppm〜7.5原子%の範囲である。第2の元素の含有量は、金属間化合物形成元素や高電極電位元素の量に対して500原子ppm〜1.5原子%の範囲とすることがさらに好ましく、望ましくは300〜1500原子ppmの範囲である。
【0027】
上述した微細析出化元素のうち、Hは金属間化合物、金属間化合物形成元素、高電極電位元素の微細析出化に加えて、Al配線膜の標準電極電位をさらに向上させる作用を有している。従って、第1の元素として高電極電位元素を含む配線膜においては、微細析出化元素としてHを用いることが好ましい。すなわちHは、Al、高電極電位元素および金属間化合物自体が有するイオン化エネルギーを低下させる。このため、微細析出化元素としてHを用いることによって、Al配線膜の標準電極電位をさらに向上させることができる。あるいは、高電極電位元素の含有量を削減することが可能となる。
【0028】
さらに、Hはウェットエッチング時には化学反応を促進させ、またドライエッチング時にはAl配線膜の構成元素とエッチング種(ラジカル等)との反応を加速度的に促進させるため、エッチングの微細加工精度の向上にも寄与する。ただし、Hをあまり多量に含有すると、Alの塑性加工性等が低下するおそれがある。従って、微細析出化元素としてHを用いる場合、Al配線膜中のH含有量は500質量ppm以下とすることが好ましい。
【0029】
この実施形態の配線膜は、例えばそれと同様な組成を有するAlスパッタターゲットを用いて、通常の条件下でスパッタ成膜することにより得られる。すなわち、Al配線膜の形成に用いられるスパッタターゲットは、Y、Sc、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Th、Sr、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Cd、Si、PbおよびBから選ばれる少なくとも1種の第1の元素を0.001〜30原子%と、O、NおよびHから選ばれる少なくとも1種の第2の元素を第1の元素量に対して0.01原子ppm〜50原子%とを含み、残部が実質的にAlからなるものである。
【0030】
このようなスパッタターゲットを用いることによって、この実施形態のAl配線膜を再現性よく得ることができる。加えて、微細析出化元素はスパッタ時に発生するダスト量の抑制にも効果を発揮する。従って、この実施形態のスパッタターゲットを用いてスパッタ成膜してなるAl配線膜は、微細ダストの含有量が大幅に低減され、微細配線網の形成性に優れたものとなる。なお、O、NおよびHから選ばれる少なくとも1種の微細析出化元素は、例えばスパッタ時の雰囲気や条件等を制御することによって、スパッタ雰囲気からAl配線膜中に取り込むことも可能である。ただし、スパッタ時のダスト発生量の抑制効果を得る上で、スパッタターゲット中に予め含有させておくことが望ましい。
【0031】
上述したスパッタターゲットは、例えば大気溶解法、真空溶解法、急冷凝固法(例えばスプレーフォーミング法)、粉末冶金法等の製造方法を適用して作製することができる。例えば、真空溶解法を適用する場合には、まずAlに金属間化合物形成元素および高電極電位元素の少なくとも一方を満足する元素を所定量配合し、これを真空中で高周波溶融してインゴットを作製する。微細析出化元素は不純物元素としての含有量を考慮した上で、例えば溶解中にそれらのガスをバブリングする等して、インゴット中に所定量含有させる。微細析出化元素の含有量を制御する上で、真空溶解法を適用することが好ましい。
【0032】
また、スプレーフォーミング法を適用する場合、同様にAlに金属間化合物形成元素および高電極電位元素の少なくとも一方を満足する元素を所定量配合し、これを高周波溶解した後にスプレーにより噴霧してインゴットを作製する。微細析出化元素は不純物元素としての含有量を考慮した上で、例えばスプレー時にそれらのガスを吹き付ける等してインゴット中に所定量含有させる。
【0033】
粉末冶金法を適用する場合には、Alに金属間化合物形成元素および高電極電位元素の少なくとも一方を満足する元素を所定量配合したものに、常圧焼結、ホットプレス、HIP等を施して焼結体を作製する。微細析出化元素としてのNは焼結体を作製する際にN2雰囲気から含有させることができる。また、O、HについてはAl母材中に含まれる量を規定する。このようにして、O、N、Hを焼結体中に所定量含有させる。なお、これらのうち比較的高密度で高純度・微細結晶の素材が得られやすい急冷凝固法が適している。
【0034】
上記溶融により得たインゴットや粉末冶金により得た焼結体には、通常、熱間加工、冷間加工等が施される。また必要に応じて、再結晶熱処理や結晶方位制御等が行われ、目的とするスパッタターゲットが得られる。大型ターゲットの場合には、拡散接合等を行って所望形状のターゲットとしてもよい。ただし、大面積のLCD等の形成に用いられる大型ターゲットを作製する場合には、各種方法で一括形成することがスパッタ時のダスト発生を抑制する上で好ましい。
【0035】
また、本発明のスパッタターゲットを作製する際には、圧延、鍛造等による加工率を50%以上とすることが好ましい。これは、上記した加工率から得られる熱エネルギーが、整合された結晶格子の配列を生み出し、微小な内部欠陥の減少に有効なためである。なお、目的とするスパッタターゲットによっては、必要とされる純度、組織、面方位等が異なることがあるため、これら要求特性に応じて製造方法を適宜設定することができる。
【0036】
この実施形態のAl配線膜は、各種の電子部品の配線や電極等に使用することができる。具体的には、ゲート線や信号線等としてAl配線膜を用いた液晶表示装置(LCD)、配線網としてAl配線膜を用いたVLSIやULSI等の半導体素子等が挙げられる。さらには、弾性表面波素子(SAW)やそれを用いたSAWデバイス、サーマルプリンタヘッド(TPH)等の電子部品の配線等に、この実施形態のAl配線膜を使用することもできる。これらの電子部品は、特に大型化および高精細化されたLCDパネルや高精細化された半導体素子等に対して有効である。
【0037】
図1および図2は、この実施形態のAl配線膜を用いた液晶表示装置の一実施形態を示す図である。図1は逆スタガー型TFTを用いたアクティブマトリクス型液晶表示装置の等価回路図、図2はそのTFTの構成を示す断面図である。
【0038】
図1において、1は透明ガラス基板を示し、この上にゲート配線2とデータ配線3がマトリクス状に配設されている。これら配線の各交差部に、a−Si膜によりTFT4が形成されている。このTFT4の断面構造は、図2に示すように、透明ガラス基板1上に実施形態のAl配線膜(Al合金膜)からなるゲート電極2´が形成されている。このゲート電極2´は、図1のゲート電極2と同一材料、同一工程で一体形成される。そして、このゲート電極2´を形成した後、その上にゲート絶縁膜としてSi膜5を形成し、その上にノンドープのa−Si膜6、n型a−Si膜7を堆積し、その上にΜo膜8を形成している。最後に、その上にドレイン電極3´およびソース電極9を形成している。TFT4のソースには、各画素の表示電極10と液晶容量11が接続されている。
【0039】
図3は、この実施形態のAl配線膜を用いた半導体素子の一実施形態の要部構成を示す断面図である。この半導体素子の構造を、その製造工程と共に説明する。図3において、21はp−Si基板であり、このp−Si基板21に対して熱酸化を施し、表面に熱酸化膜を形成する。次いで、ソース、ゲート、ドレインの各領域を除いて選択的に酸化処理を行い、フィールド酸化膜22を形成する。次に、ソース、ドレインの各領域上の熱酸化膜を、レジスト膜の形成とエッチング処理(PEP処理)によって除去する。このPEP処理によって、ゲート酸化膜23が形成される。次に、ソース、ドレインの各領域を除いてレジスト膜を形成した後、p−Si基板21内に不純物元素を注入し、ソース領域24およびドレイン領域25を形成する。また、ゲート酸化膜23上にMoやWのシリサイド膜26を形成する。
【0040】
次に、P−Si基板21の全面に、シリケートガラス等からなる絶縁膜27を形成した後、PEP処理によってソース領域24およびドレイン領域25上のリンシリケートガラス層27を除去する。リンシリケートガラス層27を除去したソース領域24およびドレイン領域25上に、TiN、ZrN、HfΝ等のバリヤ層28をそれぞれ形成する。この後、実施形態のAl配線膜(Al合金膜)を全面に形成し、PEP処理を施すことによって、所望形状のAl配線29を形成する。そして、Si膜等からなる絶縁膜30を形成した後、PEP処理によりAuリード線31のボンディング用開口部を形成して半導体チップ32が完成する。
【0041】
図4は、この実施形態のAl配線膜を用いたサーマルプリンタヘッドの一実施形態の要部構成を示す分解斜視図である。図4において、例えばFe−Cr合金からなる支持基板31上に、芳香族ポリイミド樹脂等からなる耐熱樹脂層32が形成されている。この耐熱樹脂層32上には、例えばNまたはCのいずれかとSiとを主成分とする下地膜33がスパッタ法等により形成されている。この下地膜33上には発熱抵抗体34と、実施形態のAl配線膜からなる個別電極35および共通電極36が形成されている。この電極35、36の大部分および発熱抵抗体34を覆うように、保護膜37が形成されている。
【0042】
図5、図6および図7は、この実施形態のAl配線膜を用いたSAWおよびSAWデバイスの実施形態を示す図である。図5は一実施形態によるSAWの構成を示す平面図、図6は他の実施形態によるSAWの構成を示す平面図、図7はSAWを使用したSAWデバイスの構成を示す断面図である。図5において、LiTaO基板やLiNbO基板からなる圧電体基板41上には、実施形態のAl配線膜からなるトランスジューサ42、43が隔離して形成されている。このトランスジューサ、例えば入力トランスジューサ42の電極の交差幅を変えて重み付けを行い、フィルタ例えばカラーテレビジョン受像器のPIFフィルタを形成する。
【0043】
重み付けした入力トランスジューサ42の交差していない部分を、この実施形態のAl合金膜で塗りつぶして、入力トランスジューサ42の電極端子44を大きくする。このように形成した電極端子44の少なくとも一部分および入力トランスジューサ42の外側部分に、吸音材45を重ねて設ける。この吸音材45の形状は、入力トランスジューサ42の後縁部をほとんど覆い、かつ弾性表面波の入射側が入射する弾性表面波に対して斜交するように傾斜側縁になっている。さらに、出力トランスジューサ43の外側にも吸音材46が設けられている。
【0044】
また図6は、他の実施形態のSAWを示す平面図である。図6において、LiTaO基板やLiNbO基板からなる圧電体基板41上には、入力電気信号を、圧電体基板41上を伝搬する弾性表面波に変換するためのトランスジューサ、例えば一対の櫛歯状電極47a、47bを互いに噛み合わせてなるインターデジタル電極47が形成されている。このインターデジタル電極47は、この実施形態のAl合金膜により形成されている。このインターデジタル電極47の両端の圧電体基板41上には、それぞれインターデジタル電極47で励振された弾性表面波を反射するための、Αl合金膜からなるグレーディング反射器48、49が形成されている。
【0045】
図5や図6に示したSAWは、図7に示すようなデバイスとして使用される。図7において、SAW51は接着部材52を介して例えばセラミックス基板からなるチップキャリア53上に固定されており、このチップキャリア53上にコバール等の低熱膨張性金属からなるリング54を介して金属製キャップ55が被着されている。このチップキャリア53上には、この実施形態のAl合金膜からなる配線パターン56が形成されている。SAW51と配線パターン56とは、ボンディングワイヤ57により電気的に接続されている。また、チップキャリア53上の配線パターン56(独立した各パターン)は、内壁面に金等が塗布され、かつガラス等の絶縁部材で塞いだスルーホール58を介して、チップキャリア53の下面側の配線パターン59と電気的に接続されている。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0047】
実施例1
まずAlに、このAlに対して0.83原子%(2.7質量%)のYと、このYに対して1630原子ppmのCとを添加し、この混合原料を高周波誘導溶解して目的組成のインゴットを作製した。このインゴットに対して冷間圧延および機械加工を施し、直径127mm×厚さ5mmのAlスパッタターゲットを作製した。
【0048】
このようにして得たAlスパッタターゲットを用いて、背圧1×10−4Pa、出力DC200W、スパッタ時間3minの条件で、直径5インチのガラス基板上に回転成膜して、厚さ350nmのAl膜を成膜した。このAl膜の比抵抗、熱処理(573K)後のヒロック密度、エッチング残渣の有無を測定評価した。なお、エッチング残渣の評価試験におけるエッチングは、BCl+Clの混合ガスをエッチングガスとして用いて行った。これらの結果を表1に示す。
【0049】
また、本発明との比較例として、YおよびCを添加しないで作製したAlスパッタターゲット(比較例1-1)と、Cを添加しない以外は実施例1と同一条件で作製したAlスパッタターゲット(比較例1-2)を用いて、それぞれ同様にAl膜をスパッタ成膜した。そして、これらAl膜についても実施例1と同様に特性を評価した。これらの結果(熱処理後)を併せて表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、本発明のAl配線膜は、耐ヒロック性およびエッチング性に優れることが分かる。よって、このようなAl配線膜を用いることによって、健全な微細配線網を再現性よく形成することが可能となる。
【0052】
実施例2
表2に示す各組成のAlスパッタターゲットを、それぞれ実施例1と同様にして作製した後、実施例1と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl配線膜を得た。これら各Al配線膜の特性を実施例1と同様にして測定、評価した。その結果を併せて表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例3
Yに代えて各種元素を用いたAlターゲット(表3に組成を示す)を、それぞれ実施例1と同様にして作製した後、実施例1と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl配線膜を得た。これら各Al配線膜の特性を実施例1と同様にして測定、評価した。また、試料No16〜21のAl配線膜については、アルカリ溶液中におけるITO電極との反応性も測定、評価した。このアルカリ溶液中におけるITO電極との反応性は、参照電極に銀・塩化銀電極を用いると共に、陽極をITO、陰極を各Al合金とし、通常用いられる電極測定法で調べた。その結果を併せて表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
実施例4
まず、Alに対して2.84原子%(6質量%)のCoを添加した原料を、高周波誘導溶解(真空溶解)し、この溶湯内にH2ガスをバブリングしてHを投入した。Hのバブリング量は、インゴット中のH量がCo量に対して980原子ppmとなるように設定した。このようにして作製した目的組成のインゴットに対して、熱間圧延および機械加工を施し、直径127mm×厚さ5mmのAlスパッタターゲットを得た。
【0057】
このようにして得たAlスパッタターゲットを用いて、背圧1×10−4Pa、出力DC200W、スパッタ時間2minの条件で、直径5インチのガラス基板上に回転成膜して、厚さ350nmのAl膜を成膜した。このAl膜にパターニングおよびドライエッチングを施し、さらに573Kで熱処理を施した後、比抵抗、ヒロック密度、エッチング残渣の有無を測定評価した。これらの結果を表4に示す。なお、エッチング残渣の評価試験は、BCl+Clの混合ガスをエッチングガスとして用いて行った。
【0058】
また、本発明との比較例として、CoおよびHを添加しないで作製したAlスパッタターゲット(比較例4-1)と、Hを添加しない以外は実施例4と同一条件で作製したAlスパッタターゲット(比較例4-2)を用いて、それぞれ同様にAl膜をスパッタ成膜した。そして、これらAl膜についても実施例4と同様に特性を評価した。これらの結果を併せて表4に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
表4から明らかなように、実施例4のAl配線膜は、耐ヒロック性およびエッチング性に優れることが分かる。よって、このようなAl配線膜を用いることによって、健全な微細配線網を再現性よく形成することが可能となる。
【0061】
実施例5
表5に示す各組成のAlスパッタターゲットを、それぞれ実施例4と同様にして作製した後、実施例4と同一条件でスパッタ成膜した。このようにして作製した各Al膜をアルカリ溶液(NMD-3/現像液)中に入れ、参照電極(Ag/AgCl/Cl-)を用いて電極電位を測定した。その結果を表5および図8に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
表5および図8から明らかなように、Alより標準電極電位が高い元素を含有させたAl膜は、いずれもITOより電極電位が高いことが分かる。
【0064】
実施例6
Alより標準電極電位が高い元素(Ir、Pt、V、Nb)を用いて、表6に組成を示すAlスパッタターゲットをそれぞれ実施例4と同様にして作製した後、実施例4と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl配線膜を得た。これら各Al配線膜の特性を実施例1と同様にして測定、評価した。また、これらAl配線膜については、実施例3と同様にして、アルカリ溶液中におけるITO電極との反応性も測定、評価した。その結果を併せて表6に示す。なお、表6中の比較例6は、高電極電位元素の含有量を本発明の範囲外としたものである。
【0065】
【表6】

【0066】
表6から明らかなように、高電極電位元素の含有量が多すぎると、比抵抗が増大すると共に、適量のHを含有させてもエッチング残渣を防止することができない。一方、高電極電位元素の含有量が少なすぎると、ヒロックの発生およびITO電極との反応を防止することができない。これらに対して、適量の高電極電位元素およびHを含有させた実施例6による各Al配線膜は、比抵抗、耐ヒロック性、エッチング性、ITO電極との反応防止性に優れることが分かる。よって、このようなAl配線膜を用いることによって、健全な微細配線網を再現性よく形成することが可能となる。また、LCDのゲート線等も健全に形成することができる。
【0067】
実施例7
Alより標準電極電位が高い元素(Au、Ag、Pd)を用いて、表7に組成を示すAlスパッタターゲットをそれぞれ実施例4と同様にして作製した後、実施例4と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl配線膜を得た。これら各Al配線膜の特性を実施例1と同様にして測定、評価した。また、Al配線膜のエッチング性については、ウェットエッチングおよびドライエッチングそれぞれのエッチングレートを調べた。その結果を表7に示す。なお、表7中の比較例7は、Hを添加しない以外は実施例7と同一条件で作製したAlスパッタターゲットを用いて、それぞれ同様にスパッタ成膜したAl膜である。
【0068】
【表7】

【0069】
表7から明らかなように、適量の高電極電位元素およびHを含有させた実施例7による各Al配線膜は、比抵抗および耐ヒロック性に優れ、さらにエッチングレート性も高いことが分かる。よって、このようなAl配線膜を用いることによって、健全な微細配線網を再現性よくかつ効率よく形成することができる。
【0070】
実施例8
表8に組成を示すAlスパッタターゲットを、それぞれ実施例4と同様にして作製した後、実施例4と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl配線膜を得た。これら各Al配線膜の特性を実施例1と同様にして測定、評価した。その結果を表8に示す。
【0071】
【表8】

【0072】
実施例9
まず、Alに対して0.3原子%(2質量%)のTaを添加した原料を、高周波誘導溶解(真空溶解)し、溶解時にOをバブリングして酸素を投入した。酸素の投入量は、インゴット中のO量がTa量に対して10原子ppmとなるように設定した。このようにして作製した目的組成のインゴットに対して、熱間圧延および機械加工を施し、直径127mm×厚さ5mmのAlスパッタターゲットを得た。
【0073】
このようにして得たAlスパッタターゲットを用いて、背圧1×10−4Pa、出力DC200W、スパッタ時間2minの条件で、直径5インチのガラス基板上に回転成膜して、厚さ350nmのAl膜を成膜した。このAl膜にパターニングおよびドライエッチングを施し、さらに573Kで熱処理を施した後、比抵抗、ヒロック密度、エッチング残渣の有無を測定評価した。これらの結果を表9に示す。なお、エッチング残渣の評価試験は、BCl+Clの混合ガスをエッチングガスとして用いて行った。
【0074】
また、本発明との比較例として、TaおよびOを添加しないで作製したAlスパッタターゲット(比較例9-1)と、Oを添加しない以外は実施例9と同一条件で作製したAlスパッタターゲット(比較例9-2)を用いて、それぞれ同様にAl膜をスパッタ成膜した。そして、これらAl膜についても実施例9と同様に特性を評価した。これらの結果を併せて表9に示す。
【0075】
【表9】

【0076】
表9から明らかなように、実施例9のAl配線膜は、耐ヒロック性およびエッチング性に優れることが分かる。よって、このようなAl配線膜を用いることによって、健全な微細配線網を再現性よく形成することが可能となる。
【0077】
実施例10
各種元素を用いたAlターゲット(表10に組成を示す)を、それぞれ実施例9と同様にして作製した後、実施例9と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl配線膜を得た。これら各Al配線膜の特性を実施例1と同様にして測定、評価した。また、試料No5〜6のAl配線膜については、実施例3と同様にして、アルカリ溶液中におけるITO電極との反応性も測定、評価した。その結果を表10に示す。なお、表10中の比較例10は、添加元素量を本発明の範囲外としたものである。
【0078】
【表10】

【0079】
実施例11
まず、Alに対して0.28原子%(2質量%)のPtを添加した原料を、高周波誘導溶解(真空溶解)し、溶解時にNをバブリングして窒素を投入した。窒素の投入量は、インゴット中のN量がPt量に対して19原子ppmとなるように設定した。このようにして作製した目的組成のインゴットに対して、熱間圧延および機械加工を施し、直径127mm×厚さ5mmのAlスパッタターゲットを得た。
【0080】
このようにして得たAlスパッタターゲットを用いて、背圧1×10−4Pa、出力DC200W、スパッタ時間2minの条件で、直径5インチのガラス基板上に回転成膜して、厚さ350nmのAl膜を成膜した。このAl膜にパターニングおよびドライエッチングを施し、さらに573Kで熱処理を施した後、比抵抗、ヒロック密度、エッチング残渣の有無を測定評価した。これらの結果を表11に示す。なお、エッチング残渣の評価試験は、BCl+Clの混合ガスをエッチングガスとして用いて行った。
【0081】
また、本発明との比較例として、PtおよびNを添加しないで作製したAlスパッタターゲット(比較例11-1)と、Nを添加しない以外は実施例11と同一条件で作製したAlスパッタターゲット(比較例11-2)を用いて、それぞれ同様にAl膜をスパッタ成膜した。そして、これらAl膜についても実施例11と同様に特性を評価した。これらの結果を併せて表11に示す。
【0082】
【表11】

【0083】
表11から明らかなように、実施例11のAl配線膜は、耐ヒロック性およびエッチング性に優れることが分かる。よって、このようなAl配線膜を用いることによって、健全な微細配線網を再現性よく形成することが可能となる。
【0084】
実施例12
各種元素を用いたAlターゲット(表12に組成を示す)を、それぞれ実施例11と同様にして作製した後、実施例11と同一条件でスパッタ成膜して、それぞれAl配線膜を得た。これら各Al配線膜の特性を実施例1と同様にして測定、評価した。なお、表12中の比較例12は、添加元素量を本発明の範囲外としたものである。
【0085】
【表12】

【符号の説明】
【0086】
2´…Al配線膜からなるゲート電極、29…Al配線、35…Al配線膜からなる個別電極、36…Al配線膜からなる共通電極、42、43…Al配線膜からなるトランスジューサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y、Sc、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Er、Th、Sr、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Cd、Si、PbおよびBから選ばれる少なくとも1種の第1の元素を0.001〜30原子%の範囲で含み、残部がAlからなるインゴットまたは焼結体を、大気溶解法、真空溶解法、急冷凝固法または粉末冶金法で作製するにあたって、前記インゴットまたは焼結体にCを前記第1の元素量に対して20原子ppm〜37.8原子%の範囲で含有させる工程と、
前記インゴットまたは焼結体を加工してスパッタターゲットを作製する工程と
を具備することを特徴とするスパッタターゲットの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のスパッタターゲットの製造方法において、
前記第1の元素が、Y、Sc、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、DyおよびErから選ばれる少なくとも1種の希土類元素であることを特徴とするスパッタターゲットの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のスパッタターゲットの製造方法において、
前記インゴットまたは焼結体をスプレーフォーミング法で作製することを特徴とするスパッタターゲットの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のスパッタターゲットの製造方法において、
原料を高周波誘導溶解して前記インゴットまたは焼結体を作製することを特徴とするスパッタターゲットの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載のスパッタターゲットの製造方法において、
前記インゴットまたは焼結体を冷間加工および機械加工してスパッタターゲットを作製することを特徴とするスパッタターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−149997(P2009−149997A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69802(P2009−69802)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【分割の表示】特願2005−276818(P2005−276818)の分割
【原出願日】平成8年10月14日(1996.10.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】