説明

プラズマ処理装置およびこれを用いた半導体素子の製造方法

【課題】対向するカソード/アノードの放電空間を複数有するプラズマ処理装置において、配線とカソードとの間に異常放電を発生させず、基板面内のプラズマ処理の均一化を図る。
【解決手段】プラズマ処理装置100は、チャンバ3と、カソード1と、複数のアノード2とを備える。複数のアノード2は、カソード放電面に対してアノード放電面が対向するように配置されている。カソード1は、カソード端面に給電部5を有し、カソード放電面およびアノード放電面は、共通する一定の対称軸に関して線対称な形状である。カソード放電面およびアノード放電面の前記対称軸方向の最大幅は、前記対称軸に垂直な方向の最大幅よりも小さい。給電部5は、前記対称軸を含みカソード放電面に対して垂直な面である基準面とカソード端面との交差線上にある。アノード2は、前記基準面に対し面対称な位置に、接地部43を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置およびこれを用いた半導体素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置は、太陽電池および半導体素子などの製造現場において、薄膜形成やエッチングなどといった処理工程に広く使用されている。
【0003】
プラズマ処理装置とは一般に、対向配置された一対の放電用電極を設け、一方の放電用電極(カソード)にプラズマ発生用の外部電源を接続し、他方の放電用電極(アノード)を接地して、カソード/アノード間にプラズマ発生用の反応ガスを導入した後、カソードとアノードとの間に電圧を印加することによってプラズマを発生させ、このプラズマによって被処理物を処理する装置のことである。ガラス基板やシリコンウェハなどの被処理物をカソード/アノード間に発生したプラズマ中に保持することで、被処理物への薄膜形成、被処理物のエッチングなどのプラズマ処理を行なうことができる。
【0004】
カソードが1面のみの放電面を有する場合、放電面と平行な位置にありアノードと対向しない側のカソード表面を「カソード裏面」と定義する。さらに、本明細書においては、平面または曲面からなり、カソード外周を構成する面を「端面」と定義する。
【0005】
このようなプラズマ処理装置において、一般的には、外部電源からの電力は、カソード裏面の中央部(たとえばカソード裏面の形状が矩形ならば、その対角線の交点近傍領域)に給電することが好ましいといわれている。
【0006】
しかしながら、生産性を上げるために、表裏2面の放電面を有するカソードを備えたプラズマ処理装置が存在する。そのようなプラズマ処理装置を使用する場合には、アノードに対向しないカソード裏面が存在しないので、カソード裏面中央部への給電は不可能である。
【0007】
また、カソードおよびアノードを対向配置した一対の放電用電極を複数組その対向方向に配列し、複数のアノード表面において被処理物を同時にプラズマ処理できる構成とした場合において、カソードに給電するための配線部をカソードに近接して平行配置すると、配線部とカソードとの間に異常放電が起きるおそれがあり、カソードと配線部との間に異常放電が発生しない程度の間隔をあける必要がある。このため、一般的にプラズマ処理装置には配線部のスペース確保が必要であり、配線部のスペースを確保するために装置が大型化するといった問題がある。
【0008】
米国特許第4,289,598号(特許文献1)には、カソードの周縁部に給電用および接地用の電気配線が接続された装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,289,598号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示されたプラズマ処理装置では、同文献の代表図に示されるように、カソードに給電するための配線部がカソード端部から距離を置いて配置されており、カソード間の距離を小さくすることができない。もしカソード間の距離を小さくすると、配線部とカソードとの間の距離が小さくなり、その隙間部分に異常放電が起きるおそれがある。
【0011】
この異常放電発生の問題は、装置を小型化するためにカソード/アノードの複数の対の間の距離を小さくする場合に特に問題となる。
【0012】
そこで、本発明は、対向するカソード/アノード放電空間を複数有するプラズマ処理装置において、配線とカソードとの間に異常放電が発生することがなく、基板面内に均一なプラズマ処理ができるプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に基づくプラズマ処理装置は、チャンバと、上記チャンバ内に配置され、主面であるカソード放電面と上記カソード放電面の外周を構成するカソード端面とを有するカソードと、上記チャンバ内に配置され、主面であるアノード放電面をそれぞれ有する複数のアノードとを備える。上記複数のアノードは、上記カソード放電面に対して上記アノード放電面が対向するように配置されている。上記カソードは、上記カソード端面に給電部を有する。上記カソード放電面および上記アノード放電面は、共通する一定の対称軸に関して線対称な形状である。上記カソード放電面および上記アノード放電面の上記対称軸方向の最大幅は上記対称軸に対して垂直な方向の最大幅よりも小さい。上記給電部は、上記対称軸を含み上記カソード放電面に対して垂直な面である基準面と上記カソード端面との交差線上にある。上記アノードは、上記基準面に対し面対称な位置に、接地電位に接続されるための接地部を有している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、対向するカソード/アノード放電空間を複数有するプラズマ処理装置において、配線とカソードとの間に異常放電が発生することがなく、基板面内に均一なプラズマ処理を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の概略図である。
【図2】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置に備わるカソードの平面図である。
【図3】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置に備わるカソードの斜視図である。
【図4】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置に備わるカソードの断面図である。
【図5】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置に備わるアノードの斜視図である。
【図6】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置に含まれるカソードとアノードとの組合せの位置関係を示す図である。
【図7】カソードの給電部に配線部を接続する構造の説明図である。
【図8】アノードの接地部に配線部を接続する構造の説明図である。
【図9】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第1の例におけるカソードおよびアノードの集合体の平面図である。
【図10】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第1の例におけるカソードおよびアノードの集合体の側面図である。
【図11】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第2の例におけるカソードおよびアノードの集合体の平面図である。
【図12】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第2の例におけるカソードおよびアノードの集合体の第1の側面図である。
【図13】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第2の例におけるカソードおよびアノードの集合体の第2の側面図である。
【図14】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第3の例におけるカソードおよびアノードの集合体の平面図である。
【図15】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第3の例におけるカソードおよびアノードの集合体の第1の側面図である。
【図16】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第3の例におけるカソードおよびアノードの集合体の第2の側面図である。
【図17】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第4の例におけるカソードおよびアノードの集合体の平面図である。
【図18】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第4の例におけるカソードおよびアノードの集合体の第1の側面図である。
【図19】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第4の例におけるカソードおよびアノードの集合体の第2の側面図である。
【図20】本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置の第4の例におけるカソードおよびアノードの集合体の第3の側面図である。
【図21】本発明に基づく実施の形態2におけるプラズマ処理装置の概略図である。
【図22】本発明に基づく実施の形態2におけるプラズマ処理装置に備わるカソードおよびアノードの集合体の平面図である。
【図23】本発明に基づく実施の形態2におけるプラズマ処理装置に備わるカソードおよびアノードの集合体の第1の側面図である。
【図24】本発明に基づくプラズマ処理装置の効果を確認するための実施例3におけるカソードおよびアノードの集合体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態1)
(構成)
図1〜図6を参照して、本発明に基づく実施の形態1におけるプラズマ処理装置100について説明する。プラズマ処理装置100の全体の概略を図1に示す。図2、図3はこのプラズマ処理装置100に備わるカソード1を単独で取り出したものである。図4はカソード1のIV−IV線に関する矢視断面図である。図5は、このプラズマ処理装置100に備わるアノード2を単独で取り出したものである。
【0017】
このプラズマ処理装置100は、図1に示すようにチャンバ3と、チャンバ3内に配置され、主面であるカソード放電面1aとこのカソード放電面1aの外周を構成するカソード端面1bとを有するカソード1と、チャンバ3内に配置され、主面であるアノード放電面2aをそれぞれ有する複数のアノード2とを備える。複数のアノード2は、カソード放電面1aに対してアノード放電面2aが対向するように配置されている。カソード1は、カソード端面1bに給電部5を有する。図2、図3および図5に示すように、カソード放電面1aおよびアノード放電面2aは、共通する一定の対称軸40に関して線対称な形状である。図2に示すように、カソード放電面1aおよびアノード放電面2aの対称軸40方向の最大幅Aは、対称軸40に対して垂直な方向の最大幅Bよりも小さい。図6に示すように、給電部5は、対称軸40を含みカソード放電面1aに対して垂直な面である基準面41とカソード端面1bとの交差線上にある。アノード2は、基準面41に対し面対称な位置に、接地電位に接続されるための接地部43を有している。
【0018】
図1に示したプラズマ処理装置100は、1つの板状のカソード1の両面を放電面とした構成であり、1つのカソード1を2つのアノード2が所定間隔を置いて挟み込むように、対向配置されている。すなわち、カソード1とアノード2との組合せの部分だけを示すと図6に示すような位置関係である。図6に示した構成を以下、本実施の形態における「第1の例」と呼ぶものとする。アノード2は、アノード放電面2aの外周を構成するアノード端面2bを有する。図1ではカソード1がチャンバー3内に1つだけ配置されている例を示したが、カソード1が複数配置されていても構わない。カソード1が複数配置されている場合は、各カソード1に対してそれぞれ2つのアノード2が挟み込むように、すなわち図6に示すように、所定間隔を置いて対向配置されていればよい。
【0019】
本実施の形態におけるプラズマ処理装置100が備えるカソード1は、図2〜図4に示すように中空かつ平板状のものであり、表裏両面にカソード放電面1aが設けられている。すなわち、1つのカソード1はカソード放電面1aを2面有する。カソード放電面1aにはガス吹出し口11が設けられている。このカソード1は、いわゆるシャワープレート型の電極である。ただし、これは本発明の一例に過ぎない。カソード1にガス吹出し口11を設けずに、チャンバ3の壁面あるいは内部空間のいずれかの場所にガス供給口を設けた構成としてもよい。
【0020】
(作用・効果)
カソード1が有するカソード放電面1aが対称軸40に関して線対称な形状(図2参照)となっていることにより、定在波によるカソード1内の電圧分布を給電部5に対して線対称とすることができる。さらに、カソード放電面1aの対称軸40方向の最大幅Aは対称軸40に対して垂直な方向の最大幅Bよりも小さくなっているので、対称軸40方向におけるカソード1内の電圧分布も小さくすることができる。その結果、対向するカソード/アノード放電空間を複数有するプラズマ処理装置において、配線とカソードとの間に異常放電が発生することがなく、基板面内に均一なプラズマ処理を行なうことができる。
【0021】
本実施の形態では、カソード放電面1aの形状を長方形としたが、その他の多角形、円形またはこれらを組み合わせた形状であってもよい。
【0022】
本発明としては、前記カソード放電面は最長辺と非最長辺とを含む多角形形状であり、前記給電部は、前記カソード放電面の前記最長辺側の前記カソード端面に設けられていることが好ましい。このようになっていれば、カソード内の電圧分布を小さくすることができる。
【0023】
(給電部および接地部の配置)
本実施の形態における給電部5とは、たとえば図7に示すように、銅、ステンレス、アルミ合金などの金属材料からなるネジ留め部品51を用いて、配線部52とカソード1とを電気的に接続するための領域をいう。
【0024】
本実施の形態における接地部43とは、たとえば図8に示すように、銅、ステンレス、アルミ合金などの金属材料からなるネジ留め部品53を用いて、配線部54とアノード2とを電気的に接続するための領域をいう。
【0025】
配線部52の一端はカソード1の給電部5に取り付けられ、配線部52の他端は図1に示したようにインピーダンス整合回路7を介して外部電源6に接続されている。配線部52は、カソード1がプラズマのエネルギにより加熱された際の熱歪みによる応力を緩和するために、金属製の網などの可撓性導体からなることが好ましい。
【0026】
配線部54の一端はアノード2の接地部43に取り付けられ、配線部54の他端はチャンバ3の内壁に取り付けられている。チャンバ3は、ステンレスなどの金属材料により構成されており、電気的に接地されている。したがって、アノード2は、配線部54およびチャンバ3を通じて接地されているといえる。配線部54は、アノード2がプラズマのエネルギにより加熱された際の熱や、ヒータによって加熱されることによる熱歪みの応力を緩和するために、金属製の網などの可撓性導体からなることが好ましい。
【0027】
第1の例におけるカソード1およびアノード2の集合体を、図6における矢印81の側から見たところを図9に示す。図6における手前側は図9における左側となっている。
【0028】
第1の例におけるカソード1およびアノード2の集合体を、図6における矢印82の側から見たところを図10に示す。カソード1とアノード2との間にはこのように間隙があいている。図6に示すように、接地部43は、基準面41に対して面対称になるようにアノード端面2bの中央部に設けられている。したがって、図9に示すように、各アノード2には接地部43が2ヶ所設けられている。カソード1の放電面1aが長方形である場合には、給電部5は長方形の長辺側のカソード端面1bの中央部に設けられていることが好ましい。給電部5を長方形の長辺側の端面に設けることによって、短辺側に設ける場合よりも、カソード1とアノード2との間に発生するプラズマを一層均一にすることができる。
【0029】
カソード1としては、たとえば、カソード放電面1aの一辺が400mm以上2500mm以下である長方形または正方形のものが使用される。
【0030】
(第2の例)
本実施の形態における第2の例として、図11〜図13に、接地部43の位置を変更した構成を示す。図11は平面図、図12および図13は側面図である。図13は、図12における右側から見た状態を示している。
【0031】
ただし、ここでいう「平面図」は、「平面図」という用語の通常の意義どおり上方から見た図を意味するが、ここで想定する「上」は絶対的な上を意味するものではなく、あくまで説明の便宜のために図面の中での相対的な上下関係を示すものである。したがって、実際の装置に取り付ける向きはこのとおりの上下関係とは限らない。以下の各例においても同様である。
【0032】
第2の例においては、給電部5は図11および図12の左側にあるカソード端面1bに設けられている。アノード2の接地部43は、給電部5が設けられたカソード端面1bと反対側、すなわち、図11および図12における右側に位置するアノード端面2b1が基準面41と交わる直線上の1ヶ所に設けられている。
【0033】
この構成においては、カソード1の給電部5から離れた位置にアノード2の接地部43を設けることにより、カソード1のカソード放電面1a内の電圧分布が改善され、均一なプラズマ処理を行なうことができる。
【0034】
アノード2の接地部43は、第2の例で示したように、給電部5が設けられたカソード端面とは反対側に位置するアノード端面に設けられていることが好ましい。
【0035】
(第3の例)
本実施の形態における第3の例として、図14〜図16に、接地部43の位置を変更した構成を示す。図14は平面図、図15および図16は側面図である。図16は、図15における右側から見た状態を示している。
【0036】
第3の例においては、給電部5は図14および図15における左側にあるカソード端面1bに設けられている。アノード2の接地部43は、給電部5が設けられたカソード端面1bとは反対側、すなわち、図14および図15における右側に位置するアノード端面2b1において、1つのアノード2ごとに2ヶ所ずつ設けられている(図16参照)。この構成においては、カソード1の給電部5からより離れた位置にアノード2の接地部43を設けることにより、カソード1のカソード放電面1a内の電圧分布が改善され、より均一なプラズマ処理を行なうことができる。
【0037】
(第4の例)
本実施の形態における第4の例として、図17〜図20に、接地部43の位置を変更した構成を示す。図17は平面図、図18および図19は側面図である。図19は、図18における右側から見た状態を示している。図20は、図18における左側から見た状態を示している。
【0038】
第4の例は、図14〜図16で示した第3の例の構成に、さらに複数の接地部43を追加したものである。第4の例では、給電部5が設けられたカソード端面1b側(図17における左側)と同じ側に位置するアノード端面2b2に接地部43がさらに設けられている。図17における左側から見た場合、図20に示すように、中央の給電部5を取り囲むように4ヶ所の接地部43が見えることとなる。
【0039】
この構成においては、任意の1つのアノード2に注目すれば、互いに対向する2つのアノード側面2b1,2b2に接地部43が2ヶ所ずつ設けられているので、1つのアノード2は合計4ヶ所の接地部43を有することとなる。
【0040】
このように、アノード2の接地部43を、カソード1の給電部5から離れた位置にあるアノード端面2b1にまず設けた上に、さらに、給電部5と同じ側のアノード端面2b2にも設けることで、カソード放電面1a内の電圧分布がさらに改善し、より均一なプラズマ処理を行なうことができるので好ましい。
【0041】
第1、第3、第4の例に示したように、アノード2の接地部43は、1つのアノード2に対して複数箇所に設けられていることが好ましい。この構成を採用することにより、より均一なプラズマ処理を行なうことができる。
【0042】
第4の例に示したように、アノード2の接地部43は、給電部5が設けられたカソード端面と同じ側に位置するアノード端面にも設けられていることが好ましい。
【0043】
(チャンバなど)
これらのカソード1およびアノード2は、図1に示したように、収納容器としてのチャンバ3内に配置されており、このチャンバ3内を減圧するために、ロータリーポンプなどの減圧手段8が設けられるのが一般的である。
【0044】
このようなチャンバ3、カソード1およびアノード2は、ステンレスやアルミ合金などの金属材料により形成されており、カソード1へは、外部電源6により電力が供給される。外部電源6には、1MHz以上60MHz以下の周波数が使用され、カソード1へ投入される電力密度は、0.01W/cm2以上0.5W/cm2以下とされる。さらに、プラズマ処理の放電面内均一性の観点から、外部電源6の周波数は、5MHz以上20MHz以下が好ましく、9MHz以上13MHz以下の周波数がさらに好ましい。また、電力密度は、0.05W/cm2以上0.3W/cm2以下、さらに0.1W/cm2以上0.2W/cm2以下であることが好ましい。
【0045】
被処理物10は、アノード2上に配置され、アノード2にヒータ4を設けることにより、被処理物10を加熱することができる。被処理物10の温度は、一般に100℃から300℃程度に設定される。
【0046】
アノード2の形状および寸法は被処理物10の形状や寸法に応じて適当な値に設定することとしてよい。本実施の形態では、アノード2はカソード1とほぼ同じ形状および寸法になるように設定した。
【0047】
なお、外部電源6とチャンバ3との間には通常、カソード1およびアノード2と外部電源6とのインピーダンスを整合するためのインピーダンス整合回路7が配設されている。
【0048】
(動作)
以上のように構成されたプラズマ処理装置100において、チャンバ3内部を減圧手段8によって減圧し、次に反応ガス12を所定の流量および圧力でカソード放電面1aに形成されたガス吹出し口11を通してカソード1とアノード2との間隙に導入し、チャンバ3内部を所定の圧力に設定し、カソード1に高周波電力を印加することで、カソード1とアノード2との間にプラズマを発生させることができる。
【0049】
ここで、反応ガス12がシリコンなどの原料ガスであれば、アノード2に配置した被処理物10の表面にシリコンなどからなる薄膜(非晶質の膜または結晶性の膜)を形成することができる。
【0050】
(半導体素子の製造方法)
本発明に基づく半導体素子の製造方法は、上述のプラズマ処理装置を用いた半導体素子の製造方法であって、給電部5に給電される交流電力の周波数が9MHz以上13MHz以下である。このような半導体素子の製造方法によれば、得られる膜厚を均一にして効率よく生産を行なうことができる。
【0051】
(実施の形態2)
(構成)
図21〜図23を参照して、本発明に基づく実施の形態2におけるプラズマ処理装置600について説明する。プラズマ処理装置600の全体の概略を図21に示す。プラズマ処理装置600においては、対向配置されたカソード1とアノード2とからなる放電用電極対がチャンバ3内に対向方向に沿って複数組配置されている。
【0052】
本実施の形態におけるプラズマ処理装置600においては、カソード1の一方の主面にガス吹出し口11が形成され、他方の主面にはガス吹出し口11は形成されていない。1つのカソード1当たりに対向配置されたアノード2の数は1つである。これ以外の構成は、基本的に実施の形態1で説明したものと同様である。
【0053】
図21では、カソード1とアノード2とからなる放電用電極対がチャンバ3内に2組配置されている例を示したが、2組ではなく3組以上配置されていてもよい。
【0054】
一例として3組配置されている場合の構成を図22、図23に示す。図22は、これら3組の放電電極対を図23における上方から見た状態に相当する。ただし、ここでいう「上方」は絶対的な上を意味するものではなく、あくまで説明の便宜のために図面の中での相対的な上下関係を示す表現に過ぎない。したがって、実際の装置に取り付ける向きはこのとおりの上下関係とは限らない。以下の各例においても同様である。
【0055】
このプラズマ処理装置600は、チャンバ3と、チャンバ3内に配置された、複数の放電電極対とを備える。前記複数の放電電極対に含まれる各々の放電電極対は、主面であるカソード放電面と前記カソード放電面の外周を構成するカソード端面とを有するカソード1と、チャンバ3内に配置され、主面であるアノード放電面を有するアノード2とが前記カソード放電面と前記アノード放電面とを以って互いに対向するように配置されたものである。前記複数の放電電極対は、カソード1とアノード2とが対向する方向に沿って配列されている。カソード1は、前記カソード端面に給電部5を有する。前記カソード放電面および前記アノード放電面は、共通する一定の対称軸に関して線対称な形状である。前記カソード放電面および前記アノード放電面の前記対称軸方向の最大幅は前記対称軸に対して垂直な方向の最大幅よりも小さい。給電部5は、前記対称軸を含み前記カソード放電面に対して垂直な面である基準面と前記カソード端面との交差線上にある。前記アノードは、前記基準面に対し面対称な位置に、接地電位に接続されるための接地部を有している。
【0056】
本実施の形態では、カソード1のカソード端面のうちの1箇所に給電部5が設けられている。カソード放電面1aが正方形の場合には、そのいずれかの端面に給電部5が設けられていればよいが、長方形の場合はその長辺側の端面に設けられることが好ましい。
【0057】
また、カソード1およびアノード2からなる放電用電極対が3組以上配置されている場合には、図23に示すように、互いに隣接する放電用電極対の各カソード1への給電部5は、互いに反対側に位置するカソード端面にそれぞれ設けられている。これについては図23を参照しつつより詳しく説明する。
【0058】
本実施の形態では、図23における上下方向に沿って並ぶようにカソード1001,1002,1003が配置されている。各カソードに対してはそれぞれ対向するアノードが配置されており、それぞれ放電用電極対をなしている。最上部のカソード1001の給電部5は図中左側のカソード端面1b2に設けられ、上から2段目のカソード1002の給電部5は図中右側のカソード端面1b1に設けられ、上から3段目のカソード1003の給電部5は図中左側のカソード端面1b2に設けられている。このように給電部5が互いに逆の側に交互に配置された構成とすることが望ましい。
【0059】
(作用・効果)
このような構成とすることにより、上下方向に互いに隣接するカソード1に接続される配線部52同士が干渉しにくくなる。また、上下方向に互いに隣接するアノード2の配線部54同士も干渉しにくくなる。その結果、プラズマ処理装置全体の電極配列方向に関するサイズのコンパクト化が可能となる。
【0060】
図23に示すように、被処理物10が設置される間隙におけるカソード1とアノード2との電極間距離をd1とする。互いに隣接する放電用電極対同士の間の間隙における電極間距離をd2とする。d1およびd2は、d2>d1の関係となっていることが好ましい。このような位置関係とすることにより、各放電用電極対のカソード1とアノード2との間に発生するプラズマが相互に干渉しにくくなり、各基板への均一な成膜が可能となる。
【0061】
図23では、放電用電極対が上下方向に並んでいる例を示したが、並ぶ方向は上下方向に限らず他の方向に並んでいてもよい。
【0062】
以下、本発明に基づくプラズマ処理装置のより具体的な実施例として、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置およびその使用結果について説明する。
【0063】
(実施例1:長辺給電の場合)
まず、実施例1としてカソードの長辺から給電した場合について説明する。この実施例におけるプラズマCVD装置は図1と同様の構成を有する。このプラズマCVD装置の給電部および接地部の配置は、図17〜図19と同様とした。
【0064】
このようなプラズマCVD装置100において、カソード1の放電面形状は、長方形とし、そのサイズは、短辺の長さが600mm、長辺の長さが1000mmであるものとした。給電部5をカソード1の長辺側の端面の中央部の1箇所に設けた。給電部から印加する電極の周波数は12〜20MHzの範囲内とし、その中でも特に13.56MHzを選択した。この周波数で給電部5から1kWの電力を印加した。この状態で、SiH4ガス0.2SLMおよびH2ガス1.0SLMをチャンバ3内に導入し、チャンバ3内の圧力を500Paとしてアモルファスシリコン膜を成膜した。なお、「SLM」とは、1atm(=101325Pa)、0℃における1分間当たりの流量をリットルで表示した単位である。
【0065】
上述の条件でシリコン薄膜を成膜した後、得られたシリコン薄膜の膜厚分布を接触型膜厚測定器により測定した。なお、ここでいう膜厚分布は、基板面内9点の最大膜厚と最小膜厚との差Cをまず求め、次に、基板面内9点の最大膜厚と最小膜厚との平均値Dを求め、Dに対するCの比率を求めたものである。膜厚を測定した9点は、基板中央1点、基板各辺から15mm内側に入った4隅の角部4点、これら5点の各中間点の計9点である。これらの9点において測定して得られた膜厚をそれぞれt1〜t9と表す。言い換えれば、「膜厚分布」とは、((t1〜t9のうちの最大値)―(t1〜t9のうちの最小値))/((t1〜t9の最大値)+(t1〜t9の最小値))×100により計算した値である。
【0066】
実施例1の結果、膜厚分布は8.5%であった。
(実施例2)
実施例1の構成において印加電力をパルス変調したものに置き換え、実施例1と同様にシリコン薄膜を成膜した。パルス変調のON時間/(ON時間+OFF時間)の比率(デューティー比)は0.2とし、ON時間=0.5ミリ秒、OFF時間=2.0ミリ秒とした。
【0067】
実施例2の結果、膜厚分布は5.0%であった。
(比較例1:短辺給電の場合)
カソードに給電する側が長辺である場合と短辺である場合とで膜厚分布にどの程度違いが生じるか検証するために、比較例1として、実施例1と同様の構成および条件でカソードの短辺から給電する構成として実験を行なった。
【0068】
比較例1の結果、膜厚分布20.0%であり、給電部近傍に位置する部分の膜厚が薄くなる傾向が見られた。
【0069】
(実施例3:微結晶製膜の場合)
実施例3として、以下の条件で実験を行なった。
【0070】
装置構成は、実施の形態2の図21と同様とし、放電用電極対は2組とした。2組の放電用電極対は、図21に示すようにカソードとアノードとが対向する方向に沿って配列した。給電部および接地部の配置は、図24に示すものとした。図24に示す配置は、図23に示した配置と思想は同じであり、放電用電極対の数を2組に減らしたものである。したがって、給電部の設けられる側が放電用電極対ごとに互いに逆となっている。
【0071】
カソード1の放電面形状は、その短辺の長さが1000mm、長辺の長さが1500mmの長方形とした。
【0072】
電源周波数は12.5MHz、印加電力は2kWとした。均一性と微結晶シリコンの結晶化の観点から、電源周波数は9〜13MHzが好ましく、10.5〜12MHzがさらに望ましい。
【0073】
アノード放電面の形状はカソード放電面の形状と同一とした。カソードとアノードとの間隔d1は約20mmとし、互いに隣接する放電用電極対同士の距離d2は50mmとした。
【0074】
導入反応ガスはSiH4とH2との混合ガスであり、流量についてはSiH4が0.1SLM、H2が7SLMとなるようにした。
【0075】
チャンバー内の圧力は600〜1400Paとすることができ、本実施例では800Paとした。
【0076】
被処理物としてのガラス基板は、短辺の長さが900mm、長辺の長さが1400mmである矩形形状のものとした。
【0077】
基板加熱温度は200℃とした。
上記実施例3において、2ヶ所の放電空間に設置された2枚のガラス基板の測定箇所合計18点について、調べたところ、膜厚分布は8.0%、各箇所の結晶化率は3以上の良好な結晶化率を有するi型結晶質シリコン膜が得られた。なお、結晶化率は、ラマン分光法により測定される480cm-1付近におけるピークに対する520cm-1付近におけるピークのピーク強度比I520/I480により算出した。
【0078】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0079】
1,1001,1002,1003 カソード、1a カソード放電面、1b,1b1,1b2 カソード端面、2 アノード、2a アノード放電面、2b,2b1,2b2 アノード端面、3 チャンバ、4 ヒータ、5 給電部、6 外部電源、7 インピーダンス整合回路、8 減圧手段、10 被処理物、11 ガス吹出し口、12 反応ガス、40 対称軸、41 基準面、43 接地部、51,53 ネジ留め部品、52,54 配線部、81,82 矢印、100,600 プラズマ処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置され、主面であるカソード放電面と前記カソード放電面の外周を構成するカソード端面とを有するカソードと、
前記チャンバ内に配置され、主面であるアノード放電面をそれぞれ有する複数のアノードとを備え、
前記複数のアノードは、前記カソード放電面に対して前記アノード放電面が対向するように配置されており、
前記カソードは、前記カソード端面に給電部を有し、
前記カソード放電面および前記アノード放電面は、共通する一定の対称軸に関して線対称な形状であり、かつ、前記カソード放電面および前記アノード放電面の前記対称軸方向の最大幅は前記対称軸に対して垂直な方向の最大幅よりも小さく、
前記給電部は、前記対称軸を含み前記カソード放電面に対して垂直な面である基準面と前記カソード端面との交差線上にあり、
前記アノードは、前記基準面に対し面対称な位置に、接地電位に接続されるための接地部を有している、プラズマ処理装置。
【請求項2】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置された、複数の放電電極対とを備え、
前記複数の放電電極対に含まれる各々の放電電極対は、
主面であるカソード放電面と前記カソード放電面の外周を構成するカソード端面とを有するカソードと、
前記チャンバ内に配置され、主面であるアノード放電面を有するアノードとが前記カソード放電面と前記アノード放電面とを以って互いに対向するように配置されたものであり、
前記複数の放電電極対は、前記カソードと前記アノードとが対向する方向に沿って配列されており、
前記カソードは、前記カソード端面に給電部を有し、
前記カソード放電面および前記アノード放電面は、共通する一定の対称軸に関して線対称な形状であり、かつ、前記カソード放電面および前記アノード放電面の前記対称軸方向の最大幅は前記対称軸に対して垂直な方向の最大幅よりも小さく、
前記給電部は、前記対称軸を含み前記カソード放電面に対して垂直な面である基準面と前記カソード端面との交差線上にあり、
前記アノードは、前記基準面に対し面対称な位置に、接地電位に接続されるための接地部を有している、プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記カソード放電面は最長辺と非最長辺とを含む多角形形状であり、前記給電部は、前記カソード放電面の前記最長辺側の前記カソード端面に設けられている、請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記アノードの前記接地部は、前記給電部が設けられた前記カソード端面とは反対側に位置する前記アノードの端面に設けられている、請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記アノードの前記接地部は、1つの前記アノードに対して複数箇所に設けられている、請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記アノードの前記接地部は、前記給電部が設けられた前記カソード端面と同じ側に位置する前記アノードの端面にも設けられている、請求項5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のプラズマ処理装置を用いた半導体素子の製造方法であって、前記給電部に給電される交流電力の周波数が9MHz以上13MHz以下である、半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−171187(P2010−171187A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12106(P2009−12106)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】