説明

内燃機関の制御装置

【課題】高沸点成分やガム成分を多く含む燃料を使用した場合であってもデポジットの発生や燃料のガム質状への変質を抑制できる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン10に供給される燃料の性状を判定する燃料性状判定装置50と、エンジン10への燃料の供給が停止されているときにエンジン10を強制的に回転させることにより掃気運転を実行するECU100とを備え、ECU100は、燃料性状判定装置50の判定結果に応じて、掃気運転実行中にエンジン10に流入する吸気の流速を高める吸気流速制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関を停止した後、燃料の噴射を遮断した状態で内燃機関以外の動力によって該内燃機関を駆動させ、吸引される外部空気により排気系を掃気することを特徴とする技術について開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平4−50415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで内燃機関は一般的に、吸気弁及び吸気ポートに付着した未燃燃料が周囲の温度によって蒸し焼きにされ、デポジットとして堆積しやすい。このようなデポジットが吸気弁に堆積すると、内燃機関の作動に種々の悪影響を及ぼす。また、最悪の場合には、吸気弁又は吸気ポート周辺に付着した未燃燃料がガム質状へと変質し、吸気弁が吸気ポートに固定されてしまう。このような事態は、高沸点成分やガム成分を多く含む粗悪な燃料を使用した場合に発生する恐れが高くなる。
【0005】
そこで本発明は、高沸点成分やガム成分を多く含む燃料を使用した場合であってもデポジットの発生や燃料のガム質状への変質を抑制できる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、内燃機関に供給される燃料の性状を判定する燃料性状判定手段と、前記内燃機関への燃料の供給が停止されているときに前記内燃機関を強制的に回転させることにより掃気運転を実行する掃気手段と、前記燃料性状判定手段の判定結果に応じて、前記掃気運転実行中に前記内燃機関に流入する吸気の流速を高める吸気流速制御を実行する吸気流速制御手段とを備えている、ことを特徴とする内燃機関の制御装置によって達成できる。
【0007】
この構成により、掃気運転の実行中に、吸気の流速を高めることができるので、吸気弁や吸気ポートに付着した未燃燃料及びデポジットなどを吹き飛ばすことができる。また、燃料性状の判定結果が、燃料中に高沸点成分やガム成分などが多く含まれていることを示している場合に、吸気流速制御を実行することにより、デポジットの堆積や吸気ポートに対する吸気弁の固定等を効果的に防ぐことができる。
【0008】
上記構成において、吸気弁又は排気弁の少なくとも一方の開弁特性を変更可能な可変動弁機構を備え、前記吸気流量制御手段は、前記可変動弁機構を制御することにより前記吸気流速制御を実行する、構成を採用できる。これにより、吸気流速を高めることができる。
【0009】
上記構成において、モータにて駆動可能な過給機を備え、前記吸気制御手段は、前記掃気運転実行中に前記過給機を駆動させる、構成を採用できる。掃気運転実行中に過給機を駆動させることにより、吸気流速を高めることができる。
【0010】
上記構成において、前記内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁と、前記内燃機関の気筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射弁と、前記ポート噴射弁及び筒内噴射弁からそれぞれ噴射される燃料噴射量を制御可能な燃料噴射制御手段とを備え、前記燃料噴射制御手段は、前記内燃機関への燃料への供給を停止する際には、前記ポート噴射弁よりも前記筒内噴射弁の燃料噴射量が多くなるように制御した後に双方からの燃料の噴射を停止する、構成を採用できる。燃料噴射を停止する際には、ポート噴射弁よりも筒内噴射弁からの噴射量を多くした後に双方からの燃料の噴射を停止することにより、吸気ポート及び吸気弁への未燃燃料の付着を防止することができる。
【0011】
上記構成において、前記掃気手段は、前記燃料性状判定手段の判定結果に応じて、前記掃気運転の実行期間を変更する、構成を採用できる。例えば、燃料中に高沸点成分やガム成分が多く含まれる場合には、掃気運転を長期間実行することにより、デポジットの堆積、吸気ポートに対する吸気弁の固定を防止できる。
【0012】
上記構成において、前記燃料性状判定手段は、性状の異なる複数の燃料のそれぞれの燃料性状を判定し、前記燃料性状判定手段の判定結果に応じて、前記内燃機関に供給される燃料を前記複数の燃料から選択する燃料選択手段を備えた、構成を採用できる。例えば、複数の燃料のうち、燃料中に含まれる高沸点成分又はガム成分の割合が少ないほうの燃料を使用することにより、デポジットの堆積、吸気ポートに対する吸気弁の固定を防止できる。
【0013】
上記構成において、前記吸気流量制御手段は、前記吸気弁の開時期が上死点よりも遅角側となるように前記可変動弁機構を制御する、構成を採用できる。吸気弁の開時期が上死点よりの進角側である場合には、気筒内から吸気ポートへの吹き返しが発生して、吸気流速が低下する恐れがあるが、吸気弁の開時期を上死点よりも遅角側の場合には、吹き返しを抑制でき、吸気流速が高まる。
【0014】
上記構成において、前記吸気流量制御手段は、前記吸気弁のリフト量が変更されるように前記可変動弁機構を制御する、構成を採用できる。例えば、リフト量を小さくすることにより、リフト時の吸気弁と吸気ポートとの間の面積を小さくすることができ、これにより、吸気流速を高めることができる。
【0015】
上記構成において、前記吸気量制御手段は、前記吸気弁及び排気弁の双方が開弁状態となるオーバーラップ期間が変更されるように前記可変動弁機構を制御する、構成を採用できる。例えば、掃気運転によって強制的に回転している内燃機関の期間回転数に応じて、オーバーラップ期間を変更することにより、効果的に吸気流速を高めることができる。
【0016】
上記構成において、前記燃料性状判定手段は、前記燃料が蓄えられるタンクと、前記燃料の少なくとも一部を蒸発させる蒸発手段と、蒸発前後での前記燃料の比重の変化量を検出する比重検出手段とを含む、構成を採用できる。この構成により、燃料中の高沸点成分の割合のみならず、ガム成分の割合についても判定できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高沸点成分やガム成分を多く含む燃料を使用した場合であってもデポジットの発生や燃料のガム質状への変質を抑制できる内燃機関の制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係る複数の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、実施例1に係るハイブリッドシステム1のブロック図である。図1において、ハイブリッドシステム1は、ECU100、エンジンシステム200、モータMG1、モータMG2、動力分割機構300、インバータ400及びバッテリ500を備え、ハイブリッド車両120を制御するシステムである。
【0020】
ECU100は、ハイブリッドシステム1の動作全体を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、図示せぬROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備えており、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する掃気処理を実行することが可能に構成されている。また、RAMには、詳しくは後述する、掃気処理の実行過程において取得された各種データが一時的に格納される。
【0021】
エンジンシステム200は、ハイブリッド車両120の主たる動力源として機能する。尚、エンジンシステム200の詳細な構成については後述する。
【0022】
モータMG1は、バッテリ500を充電するための発電機として、或いはエンジンシステム200の駆動力をアシストする電動機として機能する。モータMG2は、エンジンシステム200の出力をアシストする電動機として、或いはバッテリ500を充電するための発電機として機能する。
【0023】
動力分割機構300は、図示せぬ複数のギアから構成されている。動力分配機構によって、駆動源としてエンジンシステム200、モータMG1を選択的に切り替えることができる。また、動力分割機構300は、エンジンシステム200が停止状態にある場合であっても、動力分割機構300を介して、モータMG1の駆動を、エンジンシステム200のエンジンに伝達することができるように構成されている。これにより、エンジンをモータMG1によって強制的に回転させることができる。尚、エンジンシステム200又はモータMG1の動力は、伝達機構121を介して車輪122に伝達される。
【0024】
インバータ400は、バッテリ500から取り出した直流電力を交流電力に変換してモータMG1、MG2に供給すると共に、モータMG1、MG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ500に供給することが可能に構成されている。
【0025】
バッテリ500はモータMG1、MG2を駆動するための電源として機能する充電可能な蓄電池である。バッテリ500には、バッテリ500の残容量を検出するSOCセンサ510が設置されている。SOCセンサ510は、その検出値をECU100に出力する。
【0026】
次に、エンジンシステム200について説明する。図2は、エンジンシステム200の模式図である。エンジン10は、4つの気筒2を有する4気筒エンジンである。
【0027】
気筒2内にはピストン4が摺動自在に設けられている。気筒2内上部の燃焼室5には、吸気ポート6と排気ポート7とが接続されている。吸気ポート6および排気ポート7の燃焼室5への開口部は、それぞれ吸気弁8aおよび排気弁8bによって開閉される。また、吸気弁8aおよび排気弁8bには、吸気側可変動弁機構9a及び排気側可変動弁機構9bがそれぞれ設けられている。吸気側可変動弁機構9a及び排気側可変動弁機構9bは、それぞれ吸気弁8a、排気弁8bの動作特性(作用角、リフト量、開閉時期)を変更することができる。また、気筒2には、気筒2内に直接燃料を噴射する筒内噴射弁3aと、燃焼室5内の混合気に点火するための点火プラグ15が設けられている。また、吸気ポート6には、吸気ポート6に向けて燃料を噴射するポート噴射弁3bが設けられている。
【0028】
吸気ポート6および排気ポート7は、それぞれ吸気通路12および排気通路13に接続されている。吸気通路12の途中には、過給機14のコンプレッサ14aが設置されている。一方、排気通路13の途中には、過給機14のタービン14bが設置されている。また、コンプレッサ14aより上流側の吸気通路12には、エアフロメータ25が設けられており、コンプレッサ14aより下流側の吸気通路12には、吸入空気を冷却するためのインタークーラー41、吸入空気量を制御するスロットル弁40、吸気通路12内の圧力に対応した電気信号を出力する吸気圧力センサ24が設けられている。
【0029】
また、排気通路13には、タービン14bをバイパスするバイパス通路13aが設けられており、バイパス通路13aには、ウエストゲートバルブ42が設けられている。ウエストゲートバルブ42は、ECU100からの指令によって駆動するアクチュエータ(不図示)によってバイパス通路13aの開口面積を調整可能に形成されている。
【0030】
また、過給機14には、過給機14の作動をアシストするための駆動モータ43が設けられている。駆動モータ43は、ECU100からの指令に基づいて、作動する。これにより、強制的に過給機14を駆動することができる。
【0031】
さらに、エンジン10には、アクセル開度に対応した電気信号を出力するアクセル開度センサ21、および、ピストン4の往復運動と連動して回転するクランク軸(不図示)の回転角に対応した電気信号を出力するクランクポジションセンサ22、エンジン冷却水の水温を検出する水温センサ26、スロットル弁40の開度を検出するスロットル開度センサ27が設けられている。
【0032】
ECU100は、エンジン10の運転条件や運転者の要求に応じてエンジン10の運転状態を制御するユニットである。エアフロメータ25や吸気圧力センサ24、アクセル開度センサ21、クランクポジションセンサ22、水温センサ26、スロットル開度センサ27の検出信号がECU100に出力される。
【0033】
また、ECU100には、筒内噴射弁3a、ポート噴射弁3b、点火プラグ15、吸気側可変動弁機構9a、排気側可変動弁機構9bが電気的に接続されている。そして、ECU100によってこれらが制御される。例えば、ECU100は、吸気側可変動弁機構9aおよび排気側可変動弁機構9bを制御することによって、吸気弁8aおよび排気弁8bの動作特性をそれぞれ制御する。吸気側可変動弁機構9a、排気側可変動弁機構9bは、例えば、電磁弁によって駆動するものであってもよいし、リフト量が相違する高速用及び低速用カムを備えたものであってもよいし、油圧によって位相を可変できるものであってもよいし、これらを組み合わせたものであってもよい。
【0034】
また、吸気側可変動弁機構9aによる吸気弁8aの変位角を検出する、吸気側変位角センサ30a、排気側可変動弁機構9bによる排気弁8bの変位角を検出する、排気側変位角センサ30bが設けられている。吸気側変位角センサ30a及び排気側変位角センサ30bについても、その出力信号がECU100へ出力される。
【0035】
また、アクセル開度センサ21からの出力に基づいて、ECU100は、スロットル弁40の開度を制御する。これにより、アクセル開度に対応した吸入空気量がエンジン10内に導入される。
【0036】
また、エンジンシステム200は、エンジン10に供給される燃料の性状を判定する燃料性状判定装置50を備えている。燃料性状判定装置50は、エンジン10に供給する燃料を蓄える燃料タンク(不図示)よりも容量の小さい小タンク51と、小タンク51に蓄えられた燃料を加熱することにより蒸発させる加熱装置52と、燃料の屈折率を光学的に検出することにより燃料の比重を検出する比重センサ53とを含む。
【0037】
小タンク51に燃料を供給するためには、ユーザは、燃料タンクに燃料を供給する際に、燃料タンクとは別に小タンク51に燃料を供給する必要がある。尚、燃料タンクに供給された燃料の一部が、小タンク51に供給されるように構成してもよい。
【0038】
加熱装置52は、発熱可能に構成され、小タンク51内の燃料を加熱することにより、少なくとも燃料の一部を蒸発させる。加熱装置52は、蒸発手段に相当する。
【0039】
比重センサ53は、小タンク51内の燃料の屈折率を検出することによって、間接的に燃料の比重を検出することができる。比重センサ53は、加熱装置52によって小タンク51内の燃料が蒸発する前後での燃料の比重の変化量を検出する比重検出手段に相当する。燃料の比重と屈折率とは、予めROMに記憶されたマップによって関係付けられている。尚、加熱装置52、比重センサ53は、その作動をECU100によって制御される。
【0040】
燃料性状判定装置50は、小タンク51内の燃料中の高沸点成分及びガム成分の割合を判定できる。高沸点成分とは、燃料中のオクタン価やオレフィン分などをいう。また、ガム成分とは、通常はガソリンに溶けているが、ガソリンなどの燃料を蒸発させると固体あるいはタール状に分離していく物質のことである。燃料中の高沸点成分の割合が多いと、燃料が気化しにくく、吸気弁8aや吸気ポート6に燃料が付着しやすい。また、オレフィン分が多い場合も、燃料がガム質状に変質しやすい。
【0041】
次に、燃料性状判定装置50によって燃料中の高沸点成分及びガム成分の割合を判定する方法について説明する。小タンク51内に燃料が供給されると、ECU100は、加熱装置52を作動させて小タンク51内の燃料を加熱し、その少なくとも一部を蒸発させる。ECU100は、この蒸発前後での燃料の比重の変化を、比重センサ53によって検出する。図3は、蒸発による燃料の比重の変化を示したグラフである。図3に示したグラフは、縦軸は小タンク51内の燃料の比重を示しており、横軸は加熱装置52が作動してからの経過時間を示している。
【0042】
図3に示すように、燃料中の高沸点成分の割合が小さい場合には、比重の変化量が大きく、高沸点成分の割合が大きい場合には、比重の変化量が大きい。これは、加熱装置52の作動によって燃料中に含まれる低沸点成分が先に蒸発するが、高沸点成分の割合が大きい燃料は、この低沸点成分の割合が少ないため、高沸点成分の割合が小さい燃料よりも、蒸発しにくいからである。従って、高沸点成分の割合が大きい燃料は、小さい燃料と比較し、単位時間当たりの蒸発量が少ないことになる。
【0043】
また、図3は、燃料中のガム成分の割合が多い場合には、燃料が蒸発した場合であっても、残留物が多く残るため、燃料の比重が変化しにくいことを示している。これに対し、図3には記載していないが、燃料中のガム成分の割合が少ない場合には、燃料が蒸発した場合、残留物が少ないので、燃料の比重が大きく変化する。ECU100は、この燃料の蒸発前後での燃料の比重の変化量を検出することにより、燃料中の高沸点成分の割合のみならず、ガム成分の割合についても判定することができる。
【0044】
次に、ECU100が実行する掃気処理について説明する。図4は、ECU100が実行する掃気処理の一例を示したフローチャートである。
【0045】
まず、ECU100は、燃料性状判定装置50により、エンジン10に供給される燃料の性状を判定する(ステップS1)。次に、ECU100は、単位時間当たりの燃料の比重の変化量が、閾値よりも大きいか否かを判定する(ステップS2)。この閾値は、掃気処理を実行するか否かの基準となる値である。
【0046】
比重の変化量が閾値よりも大きい場合、ECU100は、この一連の処理を終了する。即ち、比重の変化量が閾値よりも大きい場合は、燃料中の高沸点成分又はガム成分の割合が比較的少ないと判定でき、ECU100は、掃気処理を終了する。燃料中の高沸点成分の割合が少ない場合には、燃料が気化しやすいため、デポジットの発生も少ないからである。また、燃料中のガム成分の割合が少ない場合には、吸気弁8a又は吸気ポート6に付着した燃料がガム質状に変質することは少ないからである。
【0047】
比重の変化量が閾値よりも小さい場合、即ち、燃料中の高沸点成分又はガム成分の割合が比較的多いと判定した場合には、ECU100は、エンジン10の停止予想条件が成立したか否かを判定する(ステップ3)。エンジン10の停止予想条件とは、例えば数分以内にエンジン10の作動が停止されると予想される場合に成立する条件である。例えば、エンジン10の駆動中にシフトレバー(不図示)がパーキング位置に位置づけられた場合には、ECU100は、エンジン10の作動が所定期間内に停止すると予想する。また、エンジン10の回転数が、エンジン10からモータMG1へと駆動源を切り替える回転数に近づいた場合には、エンジン10の作動が所定期間内に停止すると予想する。
【0048】
上記予想条件が不成立の場合には、この一連の処理を終了する。上記予想条件が成立する場合には、ECU100は、ポート噴射弁3bから筒内噴射弁3aによる燃料の噴射に切り換える(ステップ4)。筒内噴射弁3aによる燃料噴射に切り換えることにより、吸気弁8a又は吸気ポート6への未燃燃料の付着を抑制することができる。これにより、デポジットの発生などを抑制できる。尚、ECU100は、ポート噴射弁3bによる燃料噴射量よりも、筒内噴射弁3aによる燃料噴射量の方が多くなるように制御してもよい。このように制御することによっても、吸気ポート6や吸気弁8aに付着する未燃燃料の量を抑制することができるからである。また、詳しくは後述するが、ポート噴射弁3bから筒内噴射弁3aによる燃料の噴射に切り換えた後は、ECU100は、エンジン10の停止条件が成立した場合には、燃料カットを実行する。このように、ECU100は、エンジン10への燃料への供給を停止する際には、ポート噴射弁3bよりも筒内噴射弁3aの燃料噴射量が多くなるように制御した後に双方からの燃料の噴射を停止する燃料噴射制御手段に相当する。
【0049】
次に、ECU100は、エンジン10の停止条件が成立したか否かを判定する(ステップ5)。成立しない場合には、ECU100は、この一連の処理を終了する。例えばECU100は、エンジン10の回転数が、モータMG1に駆動源を切り替える回転数以下となった場合に、エンジン停止条件が成立したと判定する。停止条件が成立した場合には、ECU100は、燃料カットを実行する(ステップS6)。これにより、エンジン10への燃料の供給が停止する。
【0050】
次に、ECU100は、モータMG1を作動させて、動力分割機構300を介してエンジン10を強制的に回転させることにより、掃気運転を実行する(ステップ7)。これにより、気筒2内には吸気が導入されることになる。従って、ECU100、モータMG1、動力分割機構300は、エンジン10を強制的に回転させることにより掃気運転を実行する掃気手段に相当する。
【0051】
次に、ECU100は、吸気流速を高めるための吸気流速制御を実行する(ステップ8)。図5は、吸気流速制御実行時における、吸気弁8a及び排気弁8bの動作特性の説明図である。図5は、縦軸に吸気弁8a、排気弁8bのリフト量を、横軸はクランク角を示している。ECU100は、図5に示すように、吸気弁8aの開弁時期を上死点よりも遅角側となるように吸気側可変動弁機構9aを制御する。吸気弁8aの開弁時期が上死点よりも進角側である場合には、ピストン4が上死点に向かう途中で吸気弁8aが開弁しているため、気筒2内の空気が吸気ポート6側に吹き返すおそれがあり、この吹き返しによって、吸気流速が低下する恐れがある。しかしながら、吸気弁8aの開弁時期を上死点よりも遅角側に制御することにより、吹き返しを防止でき、吸気弁8aの開弁時期が上死点よりも進角側の場合よりも吸気の流速を高めることができる。
【0052】
吸気流速が高まることにより、吸気弁8aや吸気ポート6に付着した未燃燃料などを吹き飛ばすことができ、デポジットの堆積や吸気ポート6に対する吸気弁8aの固定等を効果的に防ぐことができる。従って、高沸点成分やガム成分を多く含む燃料を使用した場合であってもデポジットの発生や燃料のガム質状への変質を抑制できる。
【0053】
次に、ECU100は、掃気運転実行期間が所定期間を経過したか否かを判定する(ステップS9)。掃気運転実行期間は、ECU100は、図6に示したマップに基づいて設定する。図6は、掃気運転実行期間を設定するためのマップであり、縦軸に掃気運転実行期間を、横軸に、燃料性状判定装置50によって判定された、燃料の比重の変化量を示している。燃料の比重の変化量が大きいほど、燃料中の高沸点成分又はガム成分の割合が少ないことを示している。このため、図5に示すように、燃料の比重の変化量が大きいほど、掃気運転実行期間が短くなるように設定される。燃料中の高沸点成分又はガム成分の割合が少ない場合には、多い場合と比較し、吸気ポート6や吸気弁8aに発生するデポジットの量や、これらに付着した未燃燃料のガム質への変質が抑制されるため、掃気運転実行期間が短い場合であっても、デポジットの発生などを防ぐことができる。また、掃気運転実行期間を短期間とすることにより、消費電力を抑えることができる。このようにECU100は、燃料性状の判定結果に応じて、掃気運転の実行期間を設定する。尚、図6に示したマップは、ECU100のROMに記憶されている。
【0054】
ECU100は、掃気運転期間が経過していないと判定した場合には、再度ステップS9の処理を実行する。掃気運転期間が経過したと判定した場合には、ECU100は、モータMG1の作動を停止して、掃気運転を停止して(ステップS10)、この一連の処理を終了する。
【0055】
次に、ECU100が実行する吸気流速制御の変形例について説明する。図7は、ECU100が実行する吸気流速制御の変形例の説明図である。図7(A)は、ECU100が実行する吸気流速制御の第1の変形例を示している。図7(A)に示すように、ECU100は、吸気弁8aの作用角が小さくなるように、吸気側可変動弁機構9aを制御する。詳細には、ECU100は、吸気弁8aの閉弁時期が下死点よりも進角側になるように、吸気側可変動弁機構9aを制御する。吸気弁8aの閉弁時期が下死点よりも進角側に制御されることにより、気筒2内から吸気ポート6側への吹き返しを抑制することができる。これにより、未燃燃料が吸気ポート6側へ吹き戻されることを抑制できる。
【0056】
次に、ECU100が実行する吸気流速制御の第2の変形例について説明する。図7(B)は、ECU100が実行する吸気流速制御の第2の変形例の説明図である。図7(B)に示すように、ECU100は、吸気弁8aのリフト量が小さくなるように吸気側可変動弁機構9aを制御する。吸気弁8aのリフト量が小さくなることにより、リフト量が大きい場合と比較して、開弁時の吸気弁8aと吸気ポート6との間の面積が小さくなるため、この間を通過する吸気流速が高まることになる。
【0057】
次に、ECU100が実行する吸気流速制御の第3の変形例について説明する。図7(C)は、ECU100が実行する吸気流速制御の第3の変形例の説明図である。図7(C)に示すように、ECU100は、吸気弁8a、排気弁8bの双方が開弁状態となるオーバーラップ期間が長くなるように、吸気側可変動弁機構9a、排気側可変動弁機構9bを制御する。このように、オーバーラップ期間を長くすることにより、短い場合と比較して、吸気流速を高めることができる。オーバーラップ期間を長くすることにより、排気弁8bから排気ポート7に排出された吸気の慣性力に伴って、吸気弁8aから気筒2内に吸気が新たに流入するからである。尚、オーバーラップ期間を設定する場合には、吸気流速が高まるように、エンジン10を所定回転数で回転させる必要がある。例えば、オーバーラップ期間を設けることによって、かえって吸気ポート6への吹き返しが増大しないように、エンジン10を高速で回転させる必要がある。
【0058】
次に、ECU100が実行する吸気流速制御の第4の変形例について説明する。ECU100は、掃気運転実行中に、駆動モータ43に指令を出力して、過給機14を強制的に作動させる。過給機14が作動することにより、吸入空気量が増えるので、これによっても吸気流速を高めることができる。尚、この際に、吸気弁8a、排気弁8bの双方が開弁状態となるオーバーラップ期間を設定し、スロットル弁40を全開状態にしてもよい。
【実施例2】
【0059】
次に、実施例2に係るハイブリッドシステムについて説明する。図8は、実施例2に係るハイブリッドシステムに採用されているエンジンシステム200aの模式図である。尚、実施例1に係るハイブリッドシステムに採用されているエンジンシステム200と同じ構成部分については、同一の符号を付することによってその説明を省略する。
【0060】
図8に示すように、エンジンシステム200aは、2つの燃料性状判定装置50、50aを備えている。また、エンジンシステム200aは、複数の種類の異なる燃料によって作動可能に構成されている。具体的には、ECU100の指示に基づいて、エンジン10に供給される燃料を、2種類の燃料から選択的に供給することができ、エンジンシステム200aは、所謂バイフューエルエンジンシステムである。エンジンシステム200aは、2種類の異なる燃料がそれぞれ個別に蓄えられる2つのタンク(不図示)を備えている。具体的には、エンジンシステム200aは、ガソリン燃料及びエタノール燃料のいずれでも作動可能に構成されている。例えばユーザは、それぞれの燃料をタンクに供給する再に、ガソリン燃料を小タンク51に、エタノール燃料を小タンク51aにあわせて供給する。これにより、ECU100は、それぞれ燃料性状判定装置50、50aからの出力によって、それぞれの燃料の性状を判定することができる。
【0061】
次に、ECU100が実行する掃気処理について説明する。図9は、ECUが実行する掃気処理の一例を示したフローチャートである。
ECU100は、複数の燃料の性状を判定する(ステップS1a)。次に、比重センサ53、53aからの出力に基づいて、それぞれの燃料の単位時間当たりの比重の変化量を比較する(ステップS2a)。燃料の比重の変化量を比較することにより、高沸点成分又はガム成分の割合の多い燃料を判定することができる。
【0062】
次に、ECU100は、ステップS3において、エンジン停止予想条件が成立したと判定した場合には、エンジン10に供給される燃料を、比重の変化量の大きい方の燃料に切り替える(ステップS4a)。比重の変化量の大きい方の燃料は、高沸点成分やガム成分の割合の少ない燃料であるため、高沸点成分やガム成分の割合の少ない燃料に切り替えることにより、吸気弁8aや吸気ポート6にデポジットが堆積することを防止できる。このように、ECU100は、燃料性状判定装置50、50aの判定結果に基づいて、エンジン10に供給される燃料を複数の燃料から選択する燃料選択手段に相当する。次に、ECU100は、ステップS4以降の処理を実行する。
【0063】
以上のように、複数の燃料の性状を判定し、高沸点成分やガム成分の割合が少ない方の燃料を使用することにより、吸気弁8aや吸気ポート6にデポジットが発生することを抑制できる。
【0064】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【0065】
本実施例では、燃料性状判定装置50は、高沸点成分のみならず、ガム成分の割合についても判定可能に構成されているが、例えば、燃料中の屈折率のみを検出することにより、燃料中の高沸点成分の割合のみを判定するセンサを採用してもよい。
【0066】
上記実施例において、ECU100が実行する吸気流速制御について種々の変形例を説明したが、これらの吸気流速制御を複数組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施例に係るハイブリッドシステムのブロック図である。
【図2】エンジンシステムの模式図である。
【図3】蒸発による燃料の比重の変化を示したグラフである。
【図4】ECUが実行する掃気処理の一例を示したフローチャートである。
【図5】吸気流速制御実行時における、吸気弁8a及び排気弁8bの動作特性の説明図である。
【図6】掃気運転実行期間を設定するためのマップである。
【図7】吸気流速制御の変形例の説明図である。
【図8】実施例2に係るハイブリッドシステムに採用されているエンジンシステムの模式図である。
【図9】ECUが実行する掃気処理の一例を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0068】
2 気筒
3a 筒内噴射弁
3b 吸気ポート噴射弁
5 燃焼室
6 吸気ポート
8a 吸気弁
8b 排気弁
9a 吸気側可変動弁機構(可変動弁機構)
9b 排気側可変動弁機構(可変動弁機構)
10 エンジン
14 過給機
43 駆動モータ
50、50a 燃料性状判定装置(燃料性状判定手段)
51、51a 小タンク
52、52a 加熱装置
53、53a 比重センサ
100 ECU(掃気手段、吸気流速制御手段、燃料噴射制御手段、燃料選択手段)
120 ハイブリッド車両
200 エンジンシステム
300 動力分割機構(掃気手段)
MG1、MG2 モータ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に供給される燃料の性状を判定する燃料性状判定手段と、
前記内燃機関への燃料の供給が停止されているときに前記内燃機関を強制的に回転させることにより掃気運転を実行する掃気手段と、
前記燃料性状判定手段の判定結果に応じて、前記掃気運転実行中に前記内燃機関に流入する吸気の流速を高める吸気流速制御を実行する吸気流速制御手段とを備えている、ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
吸気弁又は排気弁の少なくとも一方の開弁特性を変更可能な可変動弁機構を備え、
前記吸気流量制御手段は、前記可変動弁機構を制御することにより前記吸気流速制御を実行する、ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
モータにて駆動可能な過給機を備え、
前記吸気制御手段は、前記掃気運転実行中に前記過給機を駆動させる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁と、
前記内燃機関の気筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射弁と、
前記ポート噴射弁及び筒内噴射弁からそれぞれ噴射される燃料噴射量を制御可能な燃料噴射制御手段とを備え、
前記燃料噴射制御手段は、前記内燃機関への燃料への供給を停止する際には、前記ポート噴射弁よりも前記筒内噴射弁の燃料噴射量が多くなるように制御した後に双方からの燃料の噴射を停止する、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記掃気手段は、前記燃料性状判定手段の判定結果に応じて、前記掃気運転の実行期間を変更する、ことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記燃料性状判定手段は、性状の異なる複数の燃料のそれぞれの燃料性状を判定し、
前記燃料性状判定手段の判定結果に応じて、前記内燃機関に供給される燃料を前記複数の燃料から選択する燃料選択手段を備えた、ことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記吸気流量制御手段は、前記吸気弁の開時期が上死点よりも遅角側となるように前記可変動弁機構を制御する、ことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記吸気流量制御手段は、前記吸気弁のリフト量が変更されるように前記可変動弁機構を制御する、ことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記吸気量制御手段は、前記吸気弁及び排気弁の双方が開弁状態となるオーバーラップ期間が変更されるように前記可変動弁機構を制御する、ことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記燃料性状判定手段は、前記燃料が蓄えられるタンクと、前記燃料の少なくとも一部を蒸発させる蒸発手段と、蒸発前後での前記燃料の比重の変化量を検出する比重検出手段とを含む、ことを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−137364(P2009−137364A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314051(P2007−314051)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】