説明

半導体記憶装置

【課題】大容量化、低電圧化を図ることが可能な半導体記憶装置を提供する。
【解決手段】半導体基板1の表面層のチャネル領域4の両側に、ソース2及びドレイン3が形成されている。半導体基板1のチャネル領域4上に、トンネル絶縁膜5が形成されている。トンネル絶縁膜5の上に、フローティングゲート電極6が、ソース2及びドレイン3のいずれにも重ならないように配置されている。フローティングゲート電極6を覆うように、チャネル領域4の上方にゲート絶縁膜7が形成されている。ゲート絶縁膜7の上に、ソース2及びドレイン3に接するかまたは部分的に重なるようにコントロールゲート電極8が配置されている。フローティングゲート電極6に電荷が注入された状態において、チャネル領域4とコントロールゲート電極8との間に外部から電圧を印加しない状態のときに、フローティングゲート電極6のフェルミ準位がチャネル領域の禁制帯の中に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな動作原理に基づく半導体記憶装置に関する。代表的な半導体記憶装置として、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)が知られている。DRAMは、1つのMISFETと1つのキャパシタからなる1メモリセルに1ビットの情報を記憶する。DRAMにおいては、メモリセルの微細化及び大容量化が進んでいるが、より大容量化を図ることが可能な半導体記憶装置が望まれている。
【背景技術】
【0002】
さらなる大容量化を図ることが可能な半導体記憶装置として、フラッシュメモリが注目されている。フラッシュメモリは、1つのMISFETのみで1つのメモリセルを構成するため、大容量化に適している。
【0003】
フラッシュメモリでは、フローティングゲート型FETのフローティングゲート電極へキャリアを注入することにより情報を記憶する。フローティングゲート電極に注入されたキャリアを保持するために、フローティングゲート電極とチャネル領域との間の絶縁膜の厚さは8nm程度以上とされる。この絶縁膜を通したフローティングゲート電極へのキャリアの注入は、チャネルとフローティングゲート電極間に高電圧を印加することにより行う。両者間に高電圧を印加すると、ファウラノルドハイムトンネル(FLトンネル)現象により、キャリアがフローティングゲート電極に注入される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FLトンネル現象を利用してキャリアをフローティングゲート電極に注入するためには、10〜20V程度の電圧が必要とされる。このため、低電圧化、低消費電力化を図ることが困難である。
【0005】
本発明の目的は、大容量化、低電圧化を図ることが可能な半導体記憶装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
半導体基板と、
前記半導体基板の表面層のチャネル領域の両側に形成された第1導電型のソース領域及びドレイン領域と、
前記半導体基板の前記チャネル領域上に形成され、キャリアがダイレクトトンネル現象により移動することができる厚さを有するトンネル絶縁膜と、
前記トンネル絶縁膜の上に形成さたフローティングゲート電極であって、基板法線方向から見たとき、該フローティングゲート電極が前記ソース領域及び前記ドレイン領域のいずれにも重ならないように配置されている前記フローティングゲート電極と、
前記フローティングゲート電極を覆うように、前記チャネル領域の上方に形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の上に形成されたコントロールゲート電極であって、基板法線方向から見たとき、該コントロール電極が前記ソース領域及びドレイン領域に接するかまたは部分的に重なるように配置された前記コントロールゲート電極とを有し、前記フローティングゲート電極に電荷が注入された状態において、前記チャネル領域と前記コントロールゲート電極との間に外部から電圧を印加しない状態のときに、前記フローティングゲート電極のフェルミ準位が前記チャネル領域の禁制帯の中に位置するように、前記フローティングゲート電極及びチャネル領域の材料が選択されている半導体記憶装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
コントロールゲート電極とソース/ドレイン領域との間に電圧を印加すると、チャネル領域内のキャリアがトンネル絶縁膜をトンネルしてフローティングゲート電極に注入される。フローティングゲート電極に注入されたキャリアは、そのフェルミ準位近傍の準位を占める。フローティングゲート電極のフェルミ準位が、チャネル領域の禁制帯の中に位置するため、注入された電子はトンネル現象によってチャネル領域に移動できない。このため、フローティングゲート電極に、電子を長時間蓄積することができる。
【0008】
比較的低電圧で情報の書き込み及び消去を行うことができる。また、1つのフローティングゲート型FETで1つのメモリセルを構成するため、高集積化を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施例による半導体メモリ装置の1つのメモリセル部分の断面図である。
【図2】第1の実施例による半導体メモリ装置の動作原理を説明するためのエネルギバンド図である。
【図3】第1の実施例の変形例による半導体メモリ装置の動作原理を説明するためのエネルギバンド図である。
【図4】第2の実施例による半導体メモリ装置の1つのメモリセル部分の断面図である。
【図5】第2の実施例による半導体メモリ装置の動作原理を説明するためのエネルギバンド図である。
【図6】第2の実施例による半導体メモリ装置のチャネル領域の不純物濃度を低くした場合の、情報保持状態におけるエネルギバンド図である。
【図7】本発明の実施例による半導体メモリ装置の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の第1の実施例による半導体メモリ装置の1メモリセル部分の断面図を示す。
【0011】
型シリコン基板1の表面層のチャネル領域4の両側に、n型のソース領域2及びドレイン領域3が形成されている。p型シリコン基板の不純物濃度は、例えば5×1015cm−3である。チャネル長、すなわちソース領域2とドレイン領域3との間隔は、例えば150nmである。チャネル領域4の表面上に、SiOからなる厚さ2〜3nmのトンネル絶縁膜5が形成されている。トンネル絶縁膜5の厚さは、キャリアがトンネル現象により移動することができる程度の厚さである。
【0012】
トンネル絶縁膜5の表面上に、厚さ10nmのフローティングゲート電極6が配置されている。フローティングゲート電極6は、TiN等の高融点金属で形成されている。フローティングゲート電極6は、基板法線方向から見たとき、ソース領域2及びドレイン領域3のいずれにも重ならないように配置されている。例えば、フローティングゲート電極6のソース領域2側の縁とソース領域2のチャネル領域4側の縁との間隔、及びフローティングゲート電極6のドレイン領域3側の縁とドレイン領域3のチャネル領域4側の縁との間隔は、50nmである。
【0013】
トンネル絶縁膜5及びフローティングゲート電極6を覆うように、SiOからなる厚さ6〜10nmのゲート絶縁膜7が形成されている。ゲート絶縁膜7の表面上に、n型ポリシリコンからなるコントロールゲート電極8が形成されている。トンネル絶縁膜5、ゲート絶縁膜7、及びコントロールゲート電極8からなる積層構造のソース領域2とドレイン領域3側の周縁部は、基板法線方向から見たとき、ソース領域2及びドレイン領域3に接するか、または部分的に重なるように配置されている。
【0014】
コントロールゲート電極8に電圧を印加していない状態のとき、チャネル領域4の表面層部分は空乏化している。なお、p型シリコン基板1とソース領域2との界面及びp型シリコン基板1とドレイン領域3との界面にも空乏層が形成されている。
【0015】
次に、図2を参照して、図1に示す第1の実施例による半導体メモリ装置の動作原理を説明する。
【0016】
図2(A)は、コントロールゲート電極8に電圧を印加していないときのエネルギバンド図を示す。チャネル領域4のバンド端が下方に曲がり、チャネル領域4の表面層が空乏化している。フローティングゲート電極6のフェルミ準位Efが、チャネル領域4の伝導帯下端Ecと価電子帯上端Evとの間、すなわち禁制帯の中に位置している。
【0017】
図2(B)は、書込時のエネルギバンド図を示す。コントロールゲート電極8に、ソース/ドレイン領域に対して正の電圧を印加する。例えば、コントロールゲート電極8に+5Vの電圧を印加する。フローティングゲート電極6とチャネル領域4との間に約1.5V程度の電位差が発生する。この電位差により、チャネル領域4の表面に反転層が形成される。この反転層内の電子が、トンネル現象によりフローティングゲート電極6に注入される。注入された電子は、フローティングゲート電極6のフェルミ準位近傍のエネルギ準位を占める。
【0018】
図2(C)は、情報保持状態におけるエネルギバンド図を示す。フローティングゲート電極6に電子が蓄積されているため、図2(A)の状態に比べて、フローティングゲート電極6の電位が下がる。このため、チャネル領域4の表面のバンド端の曲がりが少なくなっている。図2(C)の場合は、図2(A)の場合に比べて、フローティングゲート型FETのしきい値が大きくなる。この2つの状態のしきい値の違いを検出することにより、記憶された情報を読みだすことができる。
【0019】
図2(C)の状態において、フローティングゲート電極6のフェルミ準位は、チャネル領域4の禁制帯の中に位置する。このため、フェルミ準位近傍のエネルギを持つ電子が、トンネル現象によりチャネル領域4内に移動することはない。また、チャネル領域4の表面には、正孔がほとんど存在しないため、正孔がチャネル領域4からフローティングゲート電極6に注入されることもない。
【0020】
図1において、フローティングゲート電極6の両端とソース/ドレイン領域2及び3との間には、キャリアがトンネルできない程度の間隔が確保されている。このため、フローティングゲート電極6に蓄積された電子が、トンネル現象によりソース/ドレイン領域2及び3に移動することもない。従って、フローティングゲート電極6内に電子が長時間保持される。すなわち、フローティングゲート電極6の両端の各々とソース/ドレイン領域2及び3との間隔を、トンネル絶縁膜5の厚さよりも広くしておく必要がある。
【0021】
図2(D)は、消去時のエネルギバンド図を示す。コントロールゲート電極8に、ソース/ドレイン領域に対して負の電圧を印加する。例えばソース/ドレイン領域に0Vを印加し、コントロールゲート電極8に−5Vを印加する。チャネル領域4の表面に蓄積層が形成される。この蓄積層内の正孔が、トンネル現象によりフローティングゲート電極6に注入される。正孔の注入により、フローティングゲート電極6に蓄積されていた電荷が中和される。コントロールゲート電極8への電圧の印加を停止すると、図2(A)の状態に戻る。
【0022】
図2(B)に示す書込時、及び図2(D)に示す消去時に、キャリアがトンネル絶縁膜5をダイレクトトンネリングする。FNトンネル現象を利用していないため、比較的低電圧で書込及び消去を行うことができる。
【0023】
次に、図1に示す半導体メモリ装置の製造方法を説明する。p型シリコン基板1の表面に素子分離構造体を形成し、活性領域を画定する。活性領域の表面を熱酸化し、トンネル絶縁膜5を形成する。トンネル絶縁膜5の上に、TiN膜を堆積し、パターニングすることにより、フローティングゲート電極6を形成する。TiN膜の堆積は、例えば反応性スパッタリング、または化学気相成長(CVD)により行うことができる。
【0024】
トンネル絶縁膜5及びフローティングゲート電極6の上に、SiOからなるゲート絶縁膜7をCVDにより堆積する。ゲート絶縁膜7の上に、n型ポリシリコンからなるコントロールゲート電極8をCVDにより堆積する。コントールゲート電極8からトンネル絶縁膜5までの積層構造をパターニングし、図1に示すトンネル絶縁膜5からコントロールゲート電極8までのメサ構造を形成する。
【0025】
このメサ構造をマスクとしてリンイオンを注入することにより、ソース/ドレイン領域2及び3を形成する。このようにして、図1に示すフローティングゲート型FETが形成される。
【0026】
上記第1の実施例では、フローティングゲート電極6を高融点金属で形成した場合を説明した。次に、フローティングゲート電極6を、p型Geで形成した第1の実施例の変形例について説明する。なお、p型Geの代わりにp型SiGeを用いてもよい。装置構成は、図1に示す第1の実施例の構成と同様である。
【0027】
Ge膜の堆積は、例えばGeHを用いた減圧CVDにより行うことができる。また、SiHとGeHを用いることにより、SiGe膜を堆積することができる。p型導電性の付与は、成膜後にボロンをイオン注入することにより行ってもよいし、成膜中にBガスを導入することにより行ってもよい。これらの成膜方法については、例えばIEEEエレクトロンデバイスレターズ第18巻第9号(1997年9月)の456〜458頁(IEEE Electron Device Letters, Vol.18, No.9, Sep. 1997, pp.456-458)に説明されている。
【0028】
図3(A)は、電圧無印加時のエネルギバンド図を示す。Geの価電子帯上端のエネルギ準位は、Siの価電子帯上端のエネルギ準位よりも約0.5eV程度高い。このため、p型Geのフェルミ準位は、チャネル領域4の禁制帯のほぼ中間に位置する。
【0029】
図3(B)は、書込時のエネルギバンド図を示す。図2(B)の場合と同様にコントロールゲート電極8に、ソース/ドレイン領域に対して正の電圧を印加する。チャネル領域4からフローティングゲート電極6に電子が注入される。注入された電子は、フェルミ準位近傍の準位、すなわち価電子帯上端近傍のエネルギ準位を占める。
【0030】
図3(C)は、情報保持状態におけるエネルギバンド図を示す。フローティングゲート電極6に電子が蓄積されているため、図3(A)の状態に比べて、フローティングゲート電極6の電位が下がる。図2(C)の場合と同様に、フローティングゲート型FETのしきい値が変化する。
【0031】
フローティングゲート電極6に注入された電子は、価電子帯上端近傍のエネルギを有する。このエネルギ準位は、チャネル領域4の禁制帯の中に位置するため、この電子のチャネル領域4への移動は起こらない。従って、図2(C)の場合と同様に、フローティングゲート電極6内に電子が保持される。
【0032】
図3(D)は、消去時のエネルギバンド図を示す。コントロールゲート電極8に、ソース/ドレイン領域に対して負の電圧を印加する。図2(D)の場合と同様に、チャネル領域4からフローティングゲート電極6に正孔が注入され、フローティングゲート電極6の負電荷が中和される。
【0033】
このように、フローティングゲート電極6にp型Geを用いた場合にも、第1の実施例の場合と同様に、半導体メモリ装置として機能する。フローティングゲート電極6にp型SiGeを用いた場合にも、同様の機能が得られる。
【0034】
上記第1の実施例及びその変形例では、フローティングゲート電極6に注入された電子を保持することにより、情報を記憶する。電子の保持時間を長くするためには、図2(C)及び図3(C)の保持状態において、フローティングゲート電極6のフェルミ準位がチャネル領域4の表面における禁制帯の中に位置することが望ましい。さらには、電圧無印加時におけるフローティングゲート電極6のフェルミ準位をEf、チャネル領域4の表面における伝導帯下端のエネルギをEc、価電子帯上端のエネルギをEvとしたとき、
【0035】
(数1)
(Ec−Ef)≧0.4eV かつ (Ef−Ev)≧0.4eV
となるように、チャネル領域4、フローティングゲート電極6、及びコントロール電極8の材料を選択することが好ましい。EcとEfとの差、及びEfとEvとの差が0.4eV以上ある場合には、室温(300K)の熱エネルギを有するキャリアに対しても、このエネルギ差が十分なポテンシャルバリアとして機能する。
【0036】
ただし、真性シリコンのように、フェルミ準位が禁制帯のほぼ中央に位置するような半導体材料をフローティングゲート電極6に用いることは好ましくない。第1の実施例の変形例で用いたp型Geのように、フェルミ準位の近傍に電子のとり得るエネルギ準位が存在することが好ましい。室温の熱エネルギを有するキャリアは、Ef+50meVのエネルギ準位の状態に、十分大きな確率で存在することができる。従って、フローティングゲート電極6の材料として、Ef±50meVの範囲内に電子のとり得るエネルギ準位が存在するものを選択することが好ましい。
【0037】
次に、図4及び図5を参照して、第2の実施例について説明する。上記第1の実施例では、フローティングゲート電極6として、高融点金属、p型Ge、またはp型SiGeを使用した。第2の実施例では、フローティングゲート電極6としてn型ポリシリコンを使用する。
【0038】
図4は、第2の実施例による半導体メモリ装置の1つのメモリセル部分の断面図を示す。基本構成は、図1に示す第1の実施例による半導体メモリ装置と同様であるため、相違点についてのみ説明する。図4の半導体メモリ装置の各構成部分には、図1の対応する構成部分と同一の参照番号が付されている。
【0039】
第2の実施例の場合には、チャネル領域4の表面層4aの不純物濃度が、基板深層部の不純物濃度よりも高くされている。例えば表面層4aの不純物濃度は、1×1018cm−3以上である。フローティングゲート電極6は、リンを添加されたn型ポリシリコンで形成されている。フローティングゲートゲート電極6の不純物濃度は、例えば1×1020cm−3である。
【0040】
表面層4aは、トンネル絶縁膜5を形成する前に、例えばボロンをイオン注入することにより形成される。ポリシリコン膜の堆積は、SiHを用いたCVDにより行うことができる。
【0041】
次に、図5を参照して、第2の実施例による半導体メモリ装置の動作原理について説明する。
【0042】
図5(A)は、コントロールゲート電極8に電圧を印加していないときのエネルギバンド図を示す。チャネル領域4の表面近傍において、バンド端が下方に曲がっている。フローティングゲート電極6のフェルミ準位は、チャネル領域4の禁制帯の中に位置する。
【0043】
図5(B)は、情報書込時のエネルギバンド図を示す。コントロールゲート電極8にソース/ドレイン領域2及び3に対して正の電圧を印加する。チャネル領域4の表面に反転層が形成される。反転層内の電子がトンネル現象によりフローティングゲート電極6に注入される。注入された電子は、フェルミ準位近傍の準位、すなわち伝導帯下端近傍のエネルギ準位を占める。
【0044】
図5(C)は、情報を保持している状態のエネルギバンド図を示す。フローティングゲート電極6に蓄積された負電荷のため、その電位が低下する。フローティングゲート電極6の電位の低下により、チャネル領域4の表面におけるバンド端の曲がりが少なくなる。このため、図5(C)の状態のフローティングゲート型FETのしきい値は、図5(A)の状態のしきい値よりも大きくなる。
【0045】
フローティングゲート電極6のフェルミ準位が、チャネル領域4の禁制帯の中に位置する。さらに、チャネル領域4の表面の不純物濃度を高くしてあるため、チャネル領域4とフローティングゲート電極6との電位差のうち大部分がトンネル絶縁膜5に加わる。
【0046】
トンネル絶縁膜5の両側に大きな電位差が発生するため、チャネル領域4の表面には、フローティングゲート電極6の伝導帯下端に過剰に蓄積された電子のエネルギ準位に対応するエネルギ準位が存在しない。このため、フローティングゲート電極6内に注入された電子は、トンネル現象によりチャネル領域4内へ移動することができない。電子がチャネル領域4に移動しないため、注入された電子をフローティングゲート電極6内に長時間保持することができる。
【0047】
図6は、チャネル領域4の表面の不純物濃度を深層部に比べて高くしていない場合の、情報保持状態のエネルギバンド図を示す。チャネル領域4の不純物濃度が比較的低いため、フローティングゲート電極6とチャネル領域4との間の電位差が、チャネル領域4の深層部にまで加わる。
【0048】
トンネル絶縁膜5に加わる電圧が少なくなるため、フローティングゲート電極6の伝導帯下端よりもやや高い位置に、チャネル領域4の伝導帯下端が位置することになる。このため、フローティングゲート電極6の伝導帯下端近傍に過剰に蓄積された電子がトンネル現象によりチャネル領域4内に移動しやすくなる。フローティングゲート電極6に蓄積された電子がチャネル領域4に移動すると、記憶された情報が消滅してしまう。
【0049】
チャネル領域4の表面層の不純物濃度を、その深層部の不純物濃度よりも高くしておくことにより、情報を長時間保持することができる。なお、基板全体の不純物濃度を高くしておいても、図5(C)のようにトンネル絶縁膜5に多くの電圧が加わる。しかし、基板の不純物濃度を高くすることは、ソース/ドレイン領域2及び3と基板間とのリーク電流の増大の要因になるため、好ましくない。
【0050】
図5(D)は、情報消去時のエネルギバンド図を示す。フローティングゲート電極8にソース/ドレイン領域2及び3に対して負の電圧を印加する。図2(D)に示す第1の実施例及び図3(D)に示す第1の実施例の変形例の場合には、チャネル領域4からフローティングゲート電極6内に正孔を注入することにより電荷を中和した。第2の実施例の図5(C)の状態では、チャネル領域4の価電子帯上端のエネルギ準位が、フローティングゲート電極6の禁制帯の中に位置する。
【0051】
このため、フローティングゲート電極6にわずかな負電圧を印加しただけでは、チャネル領域4からフローティングゲート電極6に正孔を注入することができない。フローティングゲート電極6に印加する負電圧を大きくし、チャネル領域4とフローティングゲート電極6との価電子帯上端のエネルギ準位がほぼ等しくなった時点で、正孔の注入が始まる。しかし、この時、両者の伝導帯下端のエネルギ準位もほぼ等しくなる。このため、フローティングゲート電極6に過剰に蓄積されていた電子が、トンネル現象によりチャネル領域4に移動する。
【0052】
フローティングゲート電極6への正孔の注入よりも、チャネル領域4への電子の移動の方が支配的となる。フローティングゲート電極6からチャネル領域4への電子の移動により、情報が消去される。
【0053】
また、第2の実施例では、フローティングゲート電極6にポリシリコンを使用する。このため、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)等の製造に用いられる通常のシリコンプロセスにより製造することができる。
【0054】
図7は、上記第1及び第2の実施例による半導体メモリ装置の等価回路図を示す。相互に平行に配置された複数のゲート線20が図の横方向に延在する。相互に平行に配置された複数のソース線21及びドレイン線22が、図の縦方向に延在する。ソース線21とドレイン線22とは、交互に配置されている。
【0055】
ソース線21とドレイン線22との一組とゲート線20との各交差箇所に、フローティングゲート型FET25が配置されている。フローティングゲート型FET25のコントロールゲート電極、ソース領域、及びドレイン領域は、それぞれ対応するゲート線20、ソース線21、及びドレイン線22に接続されている。すべてのゲート線20は、ゲート線制御回路30に接続され、すべてのソース線21及びドレイン線22は、ソース/ドレイン線制御回路31に接続されている。
【0056】
特定のメモリセルに情報を書き込む方法を説明する。情報を書き込むべきメモリセルに対応するソース線21及びドレイン線22に電圧0Vを印加し、対応するゲート線20に電圧(+Vwrite)を印加する。選択されないソース線21及びドレイン線22には、電圧(+Vwrite)を印加し、選択されないゲート線20には、電圧0Vを印加する。これらの電圧の印加は、ゲート線制御回路30及びソース/ドレイン線制御回路31により行われる。
【0057】
選択されたメモリセルのコントロールゲート電極とチャネル領域間に電圧Vwriteが印加され、情報が書き込まれる。選択されないメモリセルにおいては、ソース/ドレイン領域とチャネル領域との間のpn接合が逆バイアスされる。このため、図1に示すコントロールゲート電極8の端部とソース/ドレイン領域2及び3の先端との間に電界が集中し、フローティングゲート電極7とチャネル領域4との間には大きな電圧が印加されない。従って、選択されていないメモリセルには、情報の書込が行われない。
【0058】
情報を消去する場合には、ゲート線20に電圧(−Vwrite)を印加する。電圧(−Vwrite)が印加されたゲート線20に接続されているメモリセルにおいて、一括して情報の消去が行われる。
【0059】
次に、情報を読み出す方法を説明する。情報を読み出すべきメモリセルのゲート線20に、消去状態におけるしきい値と書込状態におけるしきい値との中間の電圧+Vreadを印加する。その他のゲート線20には電圧0Vを印加しておき、すべてのメモリセルを非導通状態にしておく。読み出すべきメモリセルのソース線21とドレイン線22との間に電圧を印加し、流れる電流を検出する。情報が書き込まれている場合には電流が流れ、消去されている場合には電流がほとんど流れない。
【0060】
上記実施例による半導体メモリ装置では、1つのメモリセルが、1つのフローティングゲート型FETのみで構成されている。このため、高集積化を図ることが可能になる。
【0061】
上記実施例では、p型シリコン基板を使用し、nチャネルのフローティングゲート型FETを形成する場合を説明したが、n型シリコン基板を使用し、pチャネルのフローティングゲート型FETを形成してもよい。この場合、ソース/ドレイン領域2及び3とコントロールゲート電極8との間に印加する電圧の極性を逆にする。また、第2の実施例の場合には、フローティングゲート電極6をp型ポリシリコンで形成する。なお、コントロールゲート電極8の導電型は、基板と同一導電型とすることが好ましい。
【0062】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0063】
1 p型シリコン基板
2 ソース領域
3 ドレイン領域
4 チャネル領域
5 トンネル絶縁膜
6 フローティングゲート電極
7 ゲート絶縁膜
8 コンロールゲート電極
20 ゲート線
21 ソース線
22 ドレイン線
25 フローティングゲート型FET
30 ゲート線制御回路
31 ソース/ドレイン線制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の表面層のチャネル領域の両側に形成された第1導電型のソース領域及びドレイン領域と、
前記半導体基板の前記チャネル領域上に形成され、キャリアがダイレクトトンネル現象により移動することができる厚さを有するトンネル絶縁膜と、
前記トンネル絶縁膜の上に形成さたフローティングゲート電極であって、基板法線方向から見たとき、該フローティングゲート電極が前記ソース領域及び前記ドレイン領域のいずれにも重ならないように配置されている前記フローティングゲート電極と、
前記フローティングゲート電極を覆うように、前記チャネル領域の上方に形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の上に形成されたコントロールゲート電極であって、基板法線方向から見たとき、該コントロール電極が前記ソース領域及びドレイン領域に接するかまたは部分的に重なるように配置された前記コントロールゲート電極とを有し、前記フローティングゲート電極に電荷が注入された状態において、前記チャネル領域と前記コントロールゲート電極との間に外部から電圧を印加しない状態のときに、前記フローティングゲート電極のフェルミ準位が前記チャネル領域の禁制帯の中に位置するように、前記フローティングゲート電極及びチャネル領域の材料が選択されている半導体記憶装置。
【請求項2】
前記チャネル領域が、前記第1導電型とは反対の第2導電型のシリコンで形成されている請求項1に記載の半導体記憶装置。
【請求項3】
前記フローティングゲート電極が、高融点金属で形成されている請求項2に記載の半導体記憶装置。
【請求項4】
前記フローティングゲート電極が、p型不純物を添加されたゲルマニウムもしくはシリコンゲルマニウムで形成されている請求項2に記載の半導体記憶装置。
【請求項5】
前記フローティングゲート電極が、第1導電型の不純物を添加されたシリコンで形成されている請求項2に記載の半導体記憶装置。
【請求項6】
前記チャネル領域の表面層の不純物濃度が、該チャネル領域の深層部の不純物濃度よりも高い請求項5に記載の半導体記憶装置。
【請求項7】
前記フローティングゲート電極と前記ソース領域との間隔、及び前記フローティングゲート電極と前記ドレイン領域との間隔が、キャリアがトンネル現象により移動できない距離とされている請求項1〜6のいずれかに記載の半導体記憶装置。
【請求項8】
前記トンネル絶縁膜の厚さが2〜3nmである請求項1〜7のいずれかに記載の半導体記憶装置。
【請求項9】
前記フローティングゲート電極のフェルミ準位をEf0、前記チャネル領域の表面における伝導帯下端のエネルギをEc、伝導帯上端のエネルギをEvとしたとき、Ec−Ef0が0.4eV以上であり、かつEf0−Evが0.4eV以上である請求項1〜8のいずれかに記載の半導体記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−21562(P2010−21562A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208186(P2009−208186)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【分割の表示】特願平10−322034の分割
【原出願日】平成10年11月12日(1998.11.12)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】