説明

多層プリント配線板と、その層間ズレの測定方法

【課題】 多層プリント配線板の内層の各導体層の変形量を観測、記録する。
【解決手段】 多層プリント配線板60の内層用の両面配線板61の表裏の導体層に中実ガイドマーク22と中空ガイドマーク23が形成され、例えば、中実ガイドマーク22−1bに、隣接した導体層に設けられた中空ガイドマーク23−2aが同心に配置され、隣接した導体層毎に同心に配置された中実、中空ガイドマーク22、23を形成する。X線カメラの視野内に納まる外形のガイドマーク枠21内に、例えば3行3列に、同心の中実、中空ガイドマーク22(1a〜5a)、23(1b〜5b)の組が配されている。ガイドマーク群20は多層プリント配線板の、たとえば4隅に配置され、1個のガイドマーク群は1回のX線照射で枠内のガイドマーク全ての像を取り込み、それらの座標値が計算される。4個のガイドマーク群内のガイドマークの座標値から、各導体層に形成された配線用パターンの変形量が計算され、結果を記録できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は内層の各導体層の層間ズレを精度良く識別できるガイドマークを導体層に形成した多層プリント配線板と、これらのガイドマーク測定に好適な測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】最近、ICチップ、抵抗、コンデンサ等の表面実装用の電子部品の小型化に伴い、これらを実装するプリント配線板も高密度化が要求されて、多層化されるものが多い。民生用でも導体層の数が4層、6層等の多層プリント配線板が使用され、産業用では更に層数の多い高多層プリント配線板が使用される趨勢にある。多層プリント配線板は表裏2層の外部に露出した導体層と、数層の露出しない内層の導体層で構成され、各導体層の間に絶縁性の基板が挿入され、この基板によって導体層が接着された構造となっている。
【0003】多層プリント配線板の導体層としては、たとえば厚さ18μm程度の銅箔が使用される。基板材料としては、熱硬化性のガラス・エポキシ樹脂の使用が主流であり、高多層配線板ではガラス・ポリイミド樹脂、ガラス・BT樹脂等の耐熱樹脂も使用される。
【0004】多層プリント配線板で6層以上のものは単に内層の導体数が多いだけなので、多層プリント配線板の製造法として、以下、図10および図11を参照して、6層の多層プリント配線板の製造法を簡単に説明する。図10(a)は6層配線板の構成を模式的に示した斜視図であり、(b)は内層となる両面配線板の導体部分に形成されたプリントパターンを模式的に示す平面図である。(c)は後述するレイアップの際に使用される治具板の側面図を示す。図11は6層配線板の断面の、(a)はホットプレス工程直前を、(b)はホットプレスにより熱硬化され接着して1枚の多層基板となった状態を、それぞれ示している。
【0005】図10(a)に示すように、6層の多層配線板60は2層の露出した導体層62、62と、内層となる2枚の両面プリント配線板61、61の間にプリプレグ64、64a、64を挟んで形成される。内層を構成する両面プリント配線板61、61には、表裏の銅箔面に最終製品となる(図では6個の)単一配線板パターン61a、・・・61a等が、通常エッチングによって形成されている。
【0006】予め、位置決め用の少なくとも2個のガイド穴65、65が上記の両面配線板61、61に開けられ、このガイド穴65、65を基準にして表裏両面のパターン61a、・・・61a等が形成されるので、両面プリント配線板61、61の表裏のパターンは平面的には、相互にその位置が保たれている。このように2枚の両面配線板61、61には同じ座標位置のガイド穴65、65を使用してパターン61a、・・・61a等が形成される。内層板となる両面プリント配線板61に形成されたパターンには、単一配線板のパターン61a、・・・61aの他に、後工程に使用する基準穴用のガイドマーク66、66(中央部2個所)またはガイドマーク66b、・・・66b(各隅に4個所等)および、表裏識別用の基準穴の位置を示すガイドマーク66aが複数個用意され、エッチング工程でこれらのガイドマークも形成される。
【0007】複数枚のエッチング済みの内層用両面プリント配線板を重ねて、それぞれの配線板の導体部に形成されたパターンの位置関係を正しく揃えることをレイアップ(Lay up)と言う。2本のピン68a、68aを設けた治具板68が用意される。ピン68a、68aの中心距離は、両面プリント配線板61にパターン61a、・・・61a等を形成したとき使用したガイド穴65、65の中心距離と等しくされている。1枚のエッチング済みの両面基板61が、そのガイド穴65、65に治具板68のピン68a、68aを挿通して治具板68上に置かれる。その上にガイド穴65、65を開けられた、加熱前の基板材料(プリプレグと呼ばれる)64aが載せられる。更に他の1枚の両面基板61が、そのガイド穴65、65に治具板68のピン68a、68aを挿通して治具板68上に重ねられる。この段階で2枚の両面基板61、61とその間のプリプレグ64aの外周を仮止めしてレイアップが完了する。
【0008】図11(a)の断面図に示すように、レイアップされた2枚の両面プリント配線板61、61の両側にプリプレグ64、64と導体材料の銅箔62、62をおいてホットプレスで加圧加熱すると、銅箔62や両面基板61の間に挿入されたプリプレグ64、64a、64が熱硬化して(絶縁)基板63に変化し、各導体間の接着も完了し、同図(b)に示す1枚の多層プリント配線板60となる。この後、多層基板の内層パターンに対応した新たな基準穴が開けられ、この新基準穴を基準として最外層の導体配線パターンのエッチング、スルーホールの穴開け加工等が行われる。更に、めっき工程、防錆処理工程等を施し、機械加工で単一配線板に分割し、所要の外形形状に切り出して多層プリント配線板が完成する。
【0009】ここで混乱を避けるため、レイアップ用に使用する位置決め用の穴をガイド穴、ホットプレス以降の工程で使用される位置決め用の穴を基準穴と呼び分けることにする。既に説明したように、内層板に形成されたパターンには、単一配線板のパターン61a、・・・61aの他に、基準穴のためのガイドマーク66、66、66a等が複数個用意され、エッチング工程でこのガイドマークもエッチングされている。これらのガイドマークの座標は、単一配線板のパターン61a、・・・61aとある位置関係を保つよう定められているので、これらのガイドマークの位置を測定すれば、電気回路を構成するパターンの座標が判明する。上記の多層基板60の内層に形成されたガイドマーク66、66に対応した新たな基準穴を開けるのに、通常は、X線(基準穴)穴開け機が使用される。
【0010】前述のように、ホットプレスで加圧加熱された多層基板の表裏両外面は無垢の導体層で覆われており、肉眼で可視光線を使って内層に形成されたガイドマークを明瞭に透視することは不可能である。現在では微弱なX線で多層基板を透視して、内層板に形成されたガイドマーク位置を測定する方式が一般的であるが、超音波その他の測定法も種々研究されている。いずれにしても、可視光線以外を使用して内層板に形成されたガイドマーク位置を測定する方式として一括できる。
【0011】通常、ガイドマークはレイアップされる1組の内層板のどれか1枚の導体層に形成される。内層板の変形具合を具体的な数値で記述できるように、ガイドマークはお互いに離れた位置に少なくとも2個が形成されている。最近では、内層板の各所の変形を捉えるためにガイドマークの個数は増加する傾向にあり、図8に符号を66b、・・・66bとして示すように、一導体層の4隅等にガイドマークを形成して、変形具合を平面の直交する2方向で測定可能にされている。(例えば、図1010では4個のガイドマークの例が示されている)
【0012】多層基板の製造時にホットプレスで加圧加熱されるために、内層板の多少の変形は免れず、内層板のガイドマークも当初設定された座標と異なっている。ガイドマーク間の距離も設計値とは異なる場合が多い。しかし、後工程で使用される基準穴は治具板に設けられたピンに挿通されて使用されることから、基準穴の中心距離、即ち、基準穴間隔を治具板のピンの間隔と等しくしておく方が実用上具合がよい。このように、基準穴の中心距離が所定の基準穴間隔となるように基準穴を開ける方式は振り分け式と呼ばれる。同時に使用される基準穴の数は2個以上任意に選んで良い。また、後工程で使用する治具板の性格により、内層板に設けられたガイドマークと実際に穿孔される基準穴とは位置、個数とも違っていることが多い。なお、基準穴が2個のとき、表裏識別用に更に1個の基準穴が追加されることもあり、治具板のピンに挿入された基準穴の摩耗変形を恐れて、後の工程数によっては何組かの基準穴が予め開けられる場合もある。
【0013】今、多層プリント配線板の導体層のパターンを設計するとき使用した座標系を設計座標系と呼ぶことにする。導体層に形成されたガイドマークの座標値はこの設計座標系でそれぞれ現されている。また、穴開け機の筺体等の不動部に固定され、主構成要素の運動方向に平行な座標軸を持つ機械座標系を想定する。多層プリント配線板を穴開け機にセットし、例えばX線カメラでガイドマークを観測すれば、各ガイドマークの穴開け機上の位置として、機械座標系で現された座標値が得られる。この座標値を統計学的に処理して、設計座標系の座標原点の座標と座標軸の方向の最も確からしい数値を求めれば、設計座標系で記述されている基準穴の座標も機械座標系の座標に換算することができる。基準穴の位置が機械座標系で表示されれば、この位置に基準穴用ドリルの装着されたスピンドルを移動させ、基準穴の穴開けを行うことができる。基準穴穴開け機はガイドマークの測定値から、上記の設計座標系の要素を推定する計算手段を内蔵しており、このための計算方式も各種提案されている。
【0014】次に、図12を参照して、現在、一般に使用されている2穴振り分け式基準穴穴開け機の機能の概略を説明する。ガイドマークとしては例えば、図10で66、66の符号を付けた2個が測定され、2個のガイドマークの中心を結んだ直線上で、2個のガイドマークから等距離にある中心点からそれぞれの基準穴までの距離が等しく、且つ、基準穴の中心間隔が所定の寸法となるよう基準穴が開けられる。図12(a)は筺体71aを透視した平面図、図12(b)は作業者側から見た正面図で、同様に、筺体71aを透視して描いている。なお、平面を示す図10(a)では可動テーブル80を破断したり、右側のX移動架台73を省略して示している。また、機械座標系50は前述のように、穴開け機の不動部分に原点Omが固定され、機械の主運動方向に平行に座標軸を定めた座標系で、作業者の左右方向に沿ってXm軸、奥に向かってYm軸、垂直方向にZm軸を設定している。
【0015】筺体71aに固定された架台72の上に直線ガイド73a、73aとボールねじ73bが設置され、2台のチャンネル状のX移動架台73を移動可能に支承している。X移動架台73の最上部にX線発生装置74が固定され、下部には直線ガイド78a、78aとボールねじ78bが設置され、Y移動架台78を移動可能に支承している。2台のX移動架台73は互いに反対方向に機械座標系のXm軸に平行に動き、穴開けする多層プリント配線板の大きさに従って、その間隔を可変とされている。Y移動架台78は独立して機械座標系のYm軸に平行に動くようにされ、その上にX線カメラ76とドリル回転機構であるスピンドル77が所定間隔を隔てて固定されている。
【0016】可動テーブル80が2台のX移動架台73の中間に配置され、機械座標系のYm軸に平行に移動する。可動テーブルの中央近くに配置された直線ガイド80a、80aとボールねじ80bにより、80Aの位置で多層プリント配線板(図示せず)を可動テーブル80上に載置し、図12(b)に可動テーブル80として示した穴開け位置まで引き込む。X線発生装置74に内蔵されたX線発生管74aから放射されたX線は、X線防護管75と、その先端に移動可能に配置されたクランパ75aに開けられた孔を通して、図示しない多層プリント配線板のガイドマークを透過して下のX線カメラ76に入射する。X線カメラ76の位置(機械座標系による座標値)は既知なので、X線カメラ76に写ったガイドマークの画面上の位置を測定すれば、ガイドマークの座標を知ることができる。左右のX線カメラ76、76の画像から2個のガイドマークの座標が知られる。この2個のガイドマークの座標から、基準穴の座標、H1(X1、Y1)、H2(X2、Y2)を計算する。
【0017】スピンドル77とX線カメラ76を載置しているY移動架台78がYm軸方向に移動し、スピンドル77がX線カメラの有った位置を占める。スピンドルを載置しているY移動架台78はYm軸方向に移動すると共に、X軸方向にも微動可能になされているので、Xm軸方向とYm軸方向の微調整を行い、計算された基準穴の座標H1(X1、Y1)、H2(X2、Y2)の直下にドリル77bを位置させて穴開けする。このとき、X線防護管75の下端に配置されたクランパ75aは降下して、多層プリント配線板の穴開け部の周辺を抑え込み、穴開け時の多層プリント配線板の移動を防止する。
【0018】このように、2個のガイドマーク66、66を観測して基準穴を開けると、図10(b)に斜線で示した範囲の多層配線板の変形具合は反映されるが、それと直角方向の変化は無視される。既に述べたように、最近では内層板の4隅等に3個以上のガイドマーク66b、・・・66bを形成し、これらの全測定値から内層板の平面の変形具合を加味した基準穴が求められており、多数個のガイドマークに対応する(多マーク)振り分け式穴開け機も実用化されつつある。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】最近、品質保証の一貫として、多層プリント配線板のユーザから製造工程の品質情報を提供することよう求められることが多くなってきた。配線板メーカとしては、各工程の終了時点で製品の特性値の分布等を測定し、その結果を保存する必要が生じる。配線板の完成検査で、内層板のパターンの変形状況を従来より広範囲に把握し、且つ、データ化せねばならない。従って、今までは最も細密なパターンを持つ導体層に着目して、そこにガイドマークを設ければ多層配線板製造には支障がなかったが、今後は他の導体層に関しても導体パターン変形移動の量的情報を測定し、その結果を保管し、要求があればユーザに提出することが義務となりつつある。この導体パターンの変形移動量は導体層相互のズレを表すので、一般に”層間ズレ”と呼ばれている。完成検査以前に、例えば、ホットプレス工程後の基準穴穴開けの際に各導体層に形成されたパターン相互の層間ズレを測定すれば、中間工程で多層配線板の良否の選別もできるので最終検査での不良品が減り、配線板メーカとしても有用である。
【0020】ところが、各導体層の層間ズレを知るには全ての各導体層にガイドマークを形成する必要があり、従来の1層だけにガイドマークを形成する場合に比し、マークの総数は導体層の数量倍となる。各導体層に従来と同様な大きさのガイドマークを形成すると、ガイドマークの設置スペースが過大となり、配線板のパターンのレイアウトによっては、従来より大きな外形の材料が必要となり、原材料費増加の問題を生じる。また、従来から、測定時の誤差を少なくするために、ガイドマークはカメラの視野内でなるべく大きく、しかも、マークの図形中心(重心)が視野の中心にあるようにして測定されてきた。従って測定できるガイドマークは1測定につき1個となる。そのために、これらガイドマークを観測するために、基準穴穴開け機に装備されたカメラが各ガイドマーク位置に移動する必要があり、観測時間の増加による加工時間の増加する問題も無視できない。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明は上記のような問題点を解決するために、多層プリント配線板の内層を構成する一の導体層に形成された、輪郭線の内側が(画像として観察したときに周囲の画像より明るい)明部とされる中空ガイドマークと、この導体層に板厚方向に隣接する導体層に形成された、輪郭線の内側が(画像として観察したときに周囲の画像より暗い)暗部とされる中実ガイドマークとを備え、多層プリント配線板の板厚方向に透視したとき、中空ガイドマークの輪郭線の内部に中実ガイドマークを配置し、中空ガイドマークの輪郭線と中実ガイドマークの輪郭線が接触しない大きさとした多層プリント配線板を提供する。この多層プリント配線板の内層の導体層は、配線板の板厚方向に透視したとき、中空ガイドマークの輪郭線の図形重心位置と中実ガイドマークの輪郭線の図形重心位置が一致するよう、多層プリント配線板の内層の導体パターン設計時に、配置されている。
【0022】この多層プリント配線板内層の導体層に、導体を削除した複数のガイドマーク枠を形成し、このガイドマーク枠は、各導体層の同位置に置かれ、前記多層プリント配線板の板厚方向に透視して前記ガイドマークを観測する観測装置の受像部の視野内に入る大きさに形成され、中空ガイドマークの内部に配置された中実ガイドマークと中空ガイドマークとからなる、少なくとも1組のガイドマークの組を、このガイドマーク枠内に配置した多層プリント配線板でもある。また、特定の多層プリント配線板内層の導体層に形成された中実ガイドマークを前記ガイドマーク枠の中央に配置することも提案されている。更に、中空ガイドマークの輪郭線を内包する輪郭線を定め、2個の輪郭線を2個の同心円とした円環ガイドマークを中空ガイドマークとして使用することも可能である。
【0023】多層プリント配線板内層の導体層に、導体を削除した複数のガイドマーク枠を形成し、このガイドマーク枠は、各導体層の同位置に置かれ、多層プリント配線板の板厚方向に透視してガイドマークを観測する観測装置の受像部の視野内に入る大きさに形成され、ガイドマーク枠の内部に、中空ガイドマークの内部に配置された中実ガイドマークと中空ガイドマークとからなる、少なくとも1組のガイドマークの組を配置したガイドマーク群を観測し、1個のガイドマーク群内の全ガイドマークの組の画像を、1回の観測で取り込む層間ズレの測定方法が提案されている。また、この視野の中央部に配置されたガイドマークの位置を基準として同一ガイドマーク枠内の全ガイドマークの座標を算出することも提案されている。更に、ガイドマーク群中に含まれるガイドマークの全ての座標値、またはその一部の座標値を使用して内層の座標位置を推定し、基準穴座標を定める層間ズレの測定方法も提案されている。
【0024】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態の1例として多層プリント配線板の内層板の各導体層に形成されたガイドマークを図1と図2を参照して説明する。図1は内層を形成する導体層が10層の場合を例として示しており、図1(a)は各導体層のガイドマーク部の断面の模式図、(b)は測定用X線カメラの視野に現れたガイドマークの1例、図2(a)は内層2層目の導体層(図1で両面配線板61−1の裏面)に形成されたガイドマーク(23−1b、22−1b)、図2(b)は内層3層目の導体層(両面配線板61−2の表面)に形成されたガイドマーク(23−2a、22−2a)をそれぞれ表示している。
【0025】図1の多層プリント配線板60は内層が10層(内層用の両面配線板61が5枚)で構成されている。そして、図1(a)の上から1〜5の添え字を付けて区別し、更に便宜上、図の上側を表面、下側を裏面としa、bを添え字として使用する。図2(c)は1枚の多層プリント配線板60内のガイドマーク群20(A、B、C、D、E、F)の配置例を示す。なお、その他の符号は、先に説明した図10、図11と共通に使用している。ちなみに、62は外層の導体、63は絶縁基板である。
【0026】図1(a)に示すように、たとえば、両面配線板61−1の表面に形成された中実ガイドマーク22−1aに対し、中空ガイドマーク23−1bが板厚方向(図の上下方向)で隣接した導体層に形成されている。中実ガイドマーク22−1aと中空ガイドマーク23−1bとは設計上は同心であるように配置されている。更に、中空ガイドマーク23−1bの隣に、同一導体層に中実ガイドマーク22−1bが形成され、板厚方向で隣接した導体層に形成された中空ガイドマーク23−2aと同心に配されている。このように、板厚方向で隣接した導体層間で中実ガイドマーク22と中空ガイドマーク23が同心に形成され、両面配線板61−1の表面の導体層から両面配線板61−5の裏面の導体層まで相互の位置が関連づけられている。
【0027】実際には、9組の中実ガイドマーク22と中空ガイドマーク23は図1(b)に示すように、ほぼ正方形のX線カメラの視野内に納まるよう例えば3行3列に配列されている。この多層プリント配線板60には、それぞれの内層導体層に、銅箔が削除されたガイドマーク枠21(21−1a、21−1b、21−2a、・・・・21−5b)が形成され、X線を遮らないようにされている。この10個のガイドマーク枠21は重なり合って不要の銅箔が削除された空隙部を構成し、内部に配置された中実ガイドマーク22と中空ガイドマーク23を観測し易くしている。なお、このガイドマーク枠21の外側での銅箔の有無は問わない。
【0028】X線カメラの像は図1(b)のように各層に形成されたガイドマークが一括されて観察される。この像を構成する個々の導体層のパターンの例が図2(a)、(b)に示されている。(a)は両面配線板61−1の裏面を表面から透視して、ガイドマーク枠21−bの内部に配置された中空ガイドマーク23−1bと中実ガイドマーク22−1bを示し、(b)は両面配線板61−2の表面を描いて、ガイドマーク枠21−2aの内部に配置された中空ガイドマーク23−2aと中実ガイドマーク22−2aを示している。このような形状が重なって図1(b)に示すX線の像が形成される。
【0029】実際にガイドマークとして計算に使用される部分は中実ガイドマーク22では中央部の銅箔の残存した円形部分(画像としては暗)であり、中空ガイドマーク23の場合は中央部(内側)の銅箔のない円形部分(画像としては明)である。すなわち、中実ガイドマーク22は基本となる輪郭線の内部が暗部として表現され、中空ガイドマーク23は基本となる輪郭線の内側が明部として表現される形状である。この輪郭線の形状は、原理的には、どんな平面図形であっても特に制約はないが、本例では輪郭線が同心円の場合として説明する。
【0030】実用化された大きさの1例として、図1(b)の符号を参照して、ガイドマーク枠21の1辺Fが約10mm角、ガイドマークの間隔Aがほぼ3mm、中実ガイドマーク22の外径が1.4mm、中空ガイドマーク23の内径が2.4mm程度とされている。ガイドマーク枠21の大きさFはX線カメラの有効視野よりやや小さく定められ、ホットプレス工程が終了した多層プリント配線板が多少変形して、個々のガイドマーク位置が変化してもX線カメラの視野内に充分納まる大きさとされている。
【0031】内層板の両側の導体層に形成されたガイドマークの形状例が図2(a)、(b)に示されている。図2(a)は上から1枚目の内層板61−1の裏面の導体層に形成されたガイドマーク、同図(b)は上記の内層板61−1の裏面の導体層と隣接した内層板61−2の表面の導体層に形成されたガイドマークを示し、中実ガイドマーク22−1bの重心位置と中空ガイドマーク23−2aの重心位置が比較される。ここで重心とはガイドマークを形作る平面図形の重心、すなわち図形重心を言う。隣接したガイドマークの重心位置を順次比較することで全てのガイドマークの位量を知ることができる。
【0032】図2(c)に示すように、配線板60に対してガイドマーク群は少なくとも20A、20Bの2個所に設ける。2個所のガイドマーク群を観測すれば、内層の各導体層の重心位置の分布、重心周りの回転角が計算でき、ガイドマーク群20A、20Bを通る直線の近辺の変形具合を確実に掴むことができる。配線板60の4隅にガイドマーク群20C、20D、20E、20Fを配置して、この4個のガイドマーク群を使用して、内層の各導体層のパターンの設計座標の原点の移動量、座標軸の向きを計算すれば、多層プリント配線板60のそれぞれの導体層の平面的な変形量を推定できる。なお、図2(c)に記入された原点Od、直交する座標軸Ud、Vdを持つ座標系が全ての内層の導体層に共通な設計座標系であって、設計上のガイドマーク群の位置はこの設計座標系で記述されている。
【0033】なお、図1(a)では全ての両面配線板60の表裏にガイドマークを形成しているが、全導体層全てにガイドマークを付けずに、いくつかの特定の導体層にガイドマークを形成しても良い。例えば、両面配線板61の表裏のパターンの層間ズレは、レイアップ以前の両面配線板61の単体検査で測定可能であり、その測定結果と照合すれば、ガイドマークを片面のみに形成しても差し支えない。更に、ユーザとの了解事項として、あまり重要でない導体層の層間ズレを測定不要とすれば、その層のガイドマークは省略できる。
【0034】ここで、X線発生管とX線カメラの概要を図3を参照して説明する。図3(a)はX線カメラの概要を示す模式図、(b)はマークの位置とX線カメラの出力像の形を説明する模式図、(c)は被写体の厚さによる像の位置の変化を示す模式図である。通常、X線カメラ6には、その受光部としてX線蛍光増倍管30が内蔵されている。図3(a)に示すように、X線蛍光増倍管30は、蛍光膜31と光電面32からなる入力ターゲット、収束電極S、陽極A、出力蛍光膜33等を内蔵している。X線発生管4aから放射されたX線は被写体である多層配線板60のガイドマーク66等の形成されている内層を透過して、蛍光膜31に入射し、蛍光膜31を発光させて光学像36に変換される。その光により、蛍光膜31の内面に密接して配置された光電面32から光電子が放出される。加速電圧を上げなどして出力光束を増倍させ、出力蛍光膜33に像を結ぶ。その像を光学レンズ系34を介して電荷結合素子(Charge Coupled Device)であるCCD撮像素子35に取り込む。
【0035】図3(a)中、L1はX線源と多層配線板60までの距離、L2はX線源とX線増倍管の蛍光膜までの距離である。可視光線と違い、X線は光学レンズが使用できないので、蛍光膜31の像36と多層配線板に形成されたガイドマークとは、ほぼ相似形の影絵として写り、その大きさは〔(L2)/(L1)〕と拡大される。最近、CCD撮像素子35の感度が向上したため、蛍光膜31の後ろに密着してCCD撮像素子35を配置し、蛍光膜31の像を直接CCD撮像素子に取り込んで、増倍管30を省略したX線カメラも用いられるが、上記の関係は同様に成立する。
【0036】図3(b)を参照して、蛍光膜上の像の位置と被写体と像の形との関係を説明する。カメラの視野の中央に図形重心があるマークB1に対しては、X線発生管から出射したX線により形成される直下の像Z1は元のマークB1と相似形であり、その重心(図形中心)も元のマークB1と同位置の視野中央にある。この場合はL1、L2とは関係なく、重心位置の変化はない。X線が角αの角度で入射したマークB2の像Z2は前項末尾の式により大きさは変化し、角αの微少変化でマークB2と像Z2の形状は厳密には相似ではなく、例えば、マークB2の輪郭形状が円とすると、像Z2は楕円形となる。しかし、円の中心は楕円の中心に射影し、重心位置は角αの線上にある。ガイドマークの重心が視野の中心でない場合も上記の重心位置が角αの線上にあることを利用して単純な比例計算で補正することができる。このように、X線の入射角αによる像のゆがみの影響を避けることができる。なお、X線蛍光増倍管30の蛍光膜31は球面の場合もあり、多少の狂いが加算されるが、その誤差の増加分はごく少ない。
【0037】図3(c)に誇張して示すように、被写体である多層配線板60の表裏にマークがあると、マーク間の距離(配線板の板厚)t1、t2により像の位置に差が現れる。実際には表裏のマークB1、B2は同心に配置されているが、X線がαの入射角を持つ場合は、その像Z1、Z2は同心とはならない。板厚t1が小ならば、上半部に描いたように狂った量Q1は少なく、板厚t2が大ならば、下半部に示すように狂った量Q2は非常に大きくなり、誇張して示すように両ガイドマークが重なれば解析不能となる。1例として、L1が200mm、L2が220mm、対角に計ったガイドマークの最大距離を4.2mm(図1(b)の22−1aの位置)とすれば、角αは約1.2°となり、板厚t1が0.2mm以下ならば狂った量Q1は5μm未満であり、全く問題とならない。板厚t1が0.5mm程度で狂いの量Q1は0.01mm前後で使用限界に近くなる。従って板厚t1が最小となるよう、隣接した導体層に設けられたガイドマーク間で比較すれば、この影響を最小とできる。更に、基本とするガイドマークの重心が視野中心となるように、図3(b)のガイドマークB1のように配置して測定すれば、同図(b)、(c)の誤差を完全に排除できる。
【0038】CCD撮像素子に取り込まれたガイドマークの像は、図4(a1)に模式図で示すようになる。図4R>4(a1)は同図(a2)に示すガイドマーク群の内の1組のガイドマークを切りとり、拡大して示している。CCD撮像素子35に取り込まれたガイドマークの像は、その明るさを適当な敷居値で2値化すれば、全ての画素は明か暗の2種のいずれかに分類され、CCD撮像素子の画素の大きさで区画されたモザイク状となる。今、像の左下隅に座標原点Oを定め、直交するX、Y座標軸を引く。例えば、X軸に沿って原点Oからi番目の画素の列に明の画素が何個あるかを数えれば、(切りとられた図形のX軸に沿った画素数は既知なので)暗の画素の数も自動的に得られる。同様にY軸に沿って原点Oからj番目の画素の行の明暗の画素数もそれぞれ知ることができる。
【0039】同図(a1)に示す1組のガイドマークの像は、先に図1で説明したように中空、中実2種類のガイドマークの像が重ね合わされている。この像をソフト的に分離し、それぞれの画素数から図形の重心座標を算出する。ソフト的に解析する手法には各種あるが、その1例を図4(b)を参照して説明する。重心を算出する上で基準となる図形は、同図(a1)または(b)に示すように、中実ガイドマーク22の外径である輪郭線22Aと中空ガイドマーク23の内径である輪郭線23Aである。
【0040】中実ガイドマーク22の輪郭線22Aより僅かに大きい径の区画円C1を定義し、この区画円C1の内部に存在する暗画素の数の集計と、やはり区画円C1内部の各座標軸に沿った原点Oに関するモーメント(距離×重量)を集計する。この場合は距離は原点Oからの画素数であらわされ、重量は暗画素数で代用される。例えば、図4(a1)でX軸に沿ってi番目の列のモーメントは〔i×(その列の暗画素数)=5×3〕となる。区画円C1内のモーメントの集計を区画円内の暗画素数で除すれば、画素数で表した中実ガイドマークの重心のX座標が得られる。Y軸に沿っても例えばj行のモーメントは〔8×5〕となり、同様な計算で重心のY座標が得られる。
【0041】次に、中空ガイドマーク23の輪郭線23Aより僅かに大きい径の区画円C2を定義する。更に先の区画円C1の内部を全て明画素とみなす処理を同時に施せば、中実ガイドマーク22は見かけ上消失する。区画円C2の内部の明画素について、上記の重心を求める計算を行えば、中空ガイドマーク23の重心座標が知られる。このように、ソフト的に区画円C1、C2をつけ加えることで、中実ガイドマーク22と中空ガイドマーク23の重心を、それぞれ独立して計算できる。この重心計算をそれぞれの中実、中空ガイドマークの組に行えば1個のガイドマーク枠内の全てのガイドマークの重心位置が判明し、簡単な換算で穴開け機に設定された機械座標系に変換できる。なお、実際には1個のガイドマークに割り当てられる画素数は図(b1)よりはるかに多く、上記の重心計算での誤差は実用上問題にはならない。また、良品の多層プリント配線板では、ガイドマークの変位は僅かであり、区画円C1、C2から重心計算に使用する画素がはみ出す恐れは少ない。
【0042】このように、ガイドマークとして重心位置が等しい2個の図形を組み合わせ、更にこの2個のガイドマークを2層の隣接した導体層に設けておけば、1組毎に2個のガイドマークを比較することで両者の座標の違いが算出でき、ガイドマーク1個毎に重心を算出する場合と比較すれば、誤差を遥かに小さくすることができる。また、前述のように、X線カメラの視野の中央部が最も誤差が小さいので、中央部のガイドマークで、このガイドマーク群の機械座標系での座標を求めれば、ガイドマーク群内の全てのガイドマークの機械座標系で表した座標値が簡単に計算できる。測定値の補正のために、図3(a)に示すL1、L2による像の拡大率等、初めから定まったX線カメラ回りの定数的数値をインプットして置けば良い。個々の配線板のデータのインプットはほとんど不要である。こうしてガイドマーク群観測によって、高い測定精度が保証される。
【0043】この手順を使わずに、個々のガイドマークの像の機械座標系の座標値を計算することもできるが、像の拡大比率、板厚の影響、カメラ視野内での像重心の位置等を個別に補正するのは、予め加工を行う多層配線板の個々の数値をインプットする必要があって煩雑でもあり、その精度もかなり低下する。
【0044】図1の説明中、同図(a)の1列に並べた原理図から同図(b)の3行3列に折り返すが、上の導体層から順に左上から並べる必要はなく、隣接した導体層毎に同心の中実、中空ガイドマークの組を作る原則を守れば、例えば最重要な導体層に形成された中実ガイドマークを中央部に配置する等、任意に配列順を組み替えて良い。
【0045】また、ガイドマークの他の形態として、図5R>5に示す円環状のガイドマークも使用できる。図5はいずれもガイドマーク枠20の内部を模式的に描いたもので、図5(a1)〜(a3)は図1の中空ガイドマーク23を円環ガイドマーク24に置き換えたものを示し、同図(b1)〜(b3)は円環ガイドマーク24を複数個同心に配置した場合である。また、同図(c)は上記の区画円C1、C2に加えて、ソフト的に更に区画円C3を定義した場合の説明図である。
【0046】図5(c)に示すように、内側の中実ガイドマーク22に対しては区画円C1の定義で重心が得られるのは図4と変わらない。中空ガイドマーク23の外側の輪郭線を正方形から円に置き換えた、円環ガイドマーク24の場合は、区画円C2を定義して区画円C1と共に処理すれば、前例と同様に、円環ガイドマークの内部の明画素の重心を求め得る。すなわち、円環ガイドマーク24はその内径を輪郭線24Nとする中空ガイドマークと考えて良い。この場合は図1の中空ガイドマーク23と等価である。更に、円環ガイドマーク24の外径より僅かに大きい区画円C3を定義し、同時に区画円C2の内部を暗画素と見なす処理を施して、区画円C3の内部の暗画素に対して、重心を計算すれば、円環ガイドマーク24の外径を輪郭線24Gとする中実ガイドマークと等価となる。このように、ガイドマークを円環とすればソフト的な処理のみで中空、中実両ガイドマークと同等となすことができる。
【0047】特に図5(b1)に示すように、ガイドマークを構成する輪郭線を全視野の中央に中心を持つ同心円とすれば、先に図3(b)、で説明した誤差の影響を改善し得るので、観測時にガイドマークがX線カメラの視野の中央に位置するように注意するのみで、高い精度の観測が可能となる。また、X線カメラの視野が10mm程度であれば、図1(b)と同等の線幅と間隔を採用しても、内層の導体層6層をカバーできる。一般に使用される高級民生機器向けの多層プリント配線板の製造に充分な対応ができる。これらの同心円の円環からなるガイドマークも、図5(b2)、(b3)に示すように、隣接する円環が隣接する導体層に形成されるよう配置すれば、図3(c)に示した内層板の厚みの影響を減らすことができる。
【0048】次に、上記したようなガイドマークを4隅に形成した多層プリント配線板の観測が可能な(多点振り分け方式)基準穴穴開け機について説明する。図6は上記の穴開け機1の外観の斜視図であり、筺体2を透視して表している。 図7(a)は穴開け機1の正面図、図7(b)は側面図である。図8(a)(b)は穴開け機1の可動テーブル12の位置を変えた平面図を示し、図7、図8とも筺体2を透視して内部を表している。
【0049】また、各図に記入した機械座標系(原点Om、Xm、Ym、Zm)は穴開け機1の不動部分(例えば筺体1や架台3)に固定された座標系で、送り装置の各種機械部分の移動方向がこの座標軸に平行になされている。X線カメラで多層基板のガイドマークを観測して得られる座標値や、基準穴の穴開け座標も基本的にこの座標系を用いて算出される。なお、図6の白抜きの矢印17は作業者の定位置であって、作業者は矢の方向(Ym軸の正方向)に向かって立ち、ガイドマーク観測、基準穴穴開けを行う多層プリント配線板(図示せず)を投入し、工程が終われば穴開け機1から取り出す。
【0050】以下の説明でワークである多層プリント配線板は図2(c)に示したように、四隅のガイドマーク群20C、20D、20E、20Fを観測して、これらのガイドマーク群とは別の座標(例えば20Aと20Bの近辺)に基準穴を穴開けするものとする。
【0051】穴開け機1の筺体2の内部に、架台3が固定されている。左右1対のX移動架台10、10は、ほぼ、チャンネル状に形成され、左右で鏡像関係をなす形状とされている。このX移動架台10、10は架台3の上端に配置された直線ガイド10a、10aによって支承されている。ボールねじ10bとこれと係合するX移動架台10の下面に取り付けられたボールナット(図示せず)により、基準穴を穴開けする配線板の大きさに従って、あらかじめ、Xm軸に平行に移動してガイドマークが観測可能の位置に待機している。なお、X移動架台10、10を個別に駆動するために、ボールねじ10bは各X移動架台10毎に配置されている。
【0052】X移動架台10、10の上部にX線発生装置4、4が固定され、下部には直線ガイド11a、11aが取り付けられている。そして、Y移動架台11、11がこの直線ガイド11aで支承されている。ボールねじ11bとこれと係合するY移動架台11の下面に取り付けられたボールナット(図示せず)により、Y移動架台11、11はYm軸に平行に移動可能である。Y移動架台11、11はチャンネル状に形成され、上部にX線防護管5が配置され、図7に示すように、これと並んでクランパ9とクランパ9を上下動させるエアシリンダ9aが設置されている。下部にはスピンドル7とX線カメラ6が固定されている。
【0053】Ym軸と平行に配置され筺体の中央部分に固定された直線ガイド12aとボールねじ12bにより支承され、駆動されて、多層プリント配線板を搭載する可動テーブル12はYm軸に平行に運動する。可動テーブル12は12Aの位置で、ワークである基準穴を穴開けする多層プリント配線板を載置し、Ym軸に沿って移動してガイドマーク測定、基準穴開け位置に引き込まれる。なお、ボールねじ10b、11b、12bを駆動し、X移動架台10、10とY移動架台11、11、および可動テーブル12の移動を制御する制御装置は図示されていない。
【0054】ここで、穴開け機の主要構成要素として、X線発生装置4とX線防護管5およびX線カメラ6でガイドマークの観測装置、スピンドル7とクランパ9で穴開け装置、X移動架台10とY移動架台11と可動テーブル12およびこれらを支承し、駆動する直線ガイド10a、11a、12a、ボールねじ10b、11b、12b等で駆動装置をそれぞれ形成している。また、図示されていない制御装置は、一連の穴開け作業手順に従って、上記の各種装置の制御を行う。更に観測装置で観測したガイドマークのX線像から座標値を算出し、この座標値と予め入力された基準穴の設計座標から、基準穴穴開け位置を計算するのが最大の役割である。
【0055】4個のガイドマーク群20C、D、E、F、を4隅に形成した、図2(c)に示す多層プリント配線板60の観測方法を説明する。まず、穴開けする配線板の外形寸法と(設計上の)ガイドマーク群20C、D、E、Fの座標値からX移動架台10、10のXm軸に沿った位置が決まり、予め、X移動架台10、10は、そこに移動して待機している。可動テーブル12が(図6の)12Aの位置で、作業者は多層プリント配線板60を可動テーブル12上の所定位置に載置する。配線板60は可動テーブル12に仮固定される。可動テーブル12はX線カメラ4に内蔵されたX線発生管4aの下にガイドマーク20C、20Dが来る位置に移動する。後述するように、ガイドマーク群20C、20DをX線で透視してX線カメラ6、6で観測し、各導体層のガイドマーク22、23の座標値を測定する。座標値は図示しない制御装置のメモリに記憶される。ガイドマーク群20E、20FがX線発生管4aの下に来る距離だけ、可動テーブル12はYm方向に移動する。次いでX線を照射して、X線カメラ6、6でガイドマーク群20E、20Fを観測して、各導体層のガイドマーク22、23の座標値を記憶する。
【0056】ここで、計算方法は後述するが、4組のガイドマーク群の座標から基準穴H1、H2の座標を計算し、可動テーブル12が移動して基準穴H1、H2の位置に達し、スピンドル7、7が基準穴H1、H2の座標まで移動し、基準穴H1、H2を穴開けする。なお、基準穴H1、H2は図示していない。可動テーブルが投入位置12Aまで動いて、穴開けの済んだ配線板60を作業者が取り出すと基準穴加工工程が終了する。
【0057】図9を参照して上記の加工時にX、Y移動架台に搭載された機器類がどう動作するかを説明する。図9(a)は作業者位置から左側のX移動架台10、Y移動架台11を見た正面図、(b)はその平面図でX移動架台10の上半部を取り去り、Y移動架台11の上面を示している。(c)、(d)はXm軸のプラス方向から見たX移動架台10を示し、(c)はX線カメラ6によるガイドマークの観測時、(d)はスピンドルによる穴開け時を模式的に示している。
【0058】ガイドマーク群20C、・・・20Fの観測は、同図(c)に示すX線観測位置で行う。X線発生管4aの直下にX線防護管5とX線カメラ6が来ている。図示しない制御装置の指令によりX線発生装置が起動し、X線発生管4aから放射されたX線はX線防護管の中心に開けられた穴5a内を通り、図示していないが可動テーブル12上に載置された配線板60の内層のガイドマーク群の1個、例えば20Cを透視してX線カメラ6で画像として捉え、その画像は制御装置内の計算機に送られて各ガイドマーク(22、23、24等)の座標が計算され、記憶される。通常2台のカメラで2回の観測で4個のガイドマーク群の観測がなされ、このデータから基準穴の座標が計算される。
【0059】基準穴の穴開けはスピンドル先端のドリル7bで行われる。穴開け時には、計算された基準穴の座標値に従って可動テーブル12が移動し、X移動架台10が基準穴H1のXm軸座標まで移動し、Y移動架台11が基準穴H1のYm軸座標まで移動する微調整を行う。Y移動架台11は常にX線カメラ6の中心を基準として動く設定なので、実際には図5(c)に示すように、Y軸移動架台11はX線カメラ6の中心とスピンドル7の中心との距離Sだけ多く移動する。 スピンドル7はエアタービンまたは高周波モータを回転源とする高速モータであって、回転軸に取り付けられたチャック7aを介して、通常超硬合金製のドリル7bを装着して配線板に基準穴を穴開けする。なお、図示していないが、スピンドル7を上下するエアシリンダまたはサーボモータによってドリル7bの切り込み送りを行う。スピンドル7の直上に配置されたクランパ9はエアシリンダ9aのアクチュエータに取り付けられており、降下すれば可動テーブル12に載置された配線板60を押さえつけて、穴開け時の配線板60の移動を防止する。以上がガイドマーク群を観測し、その観測結果に基づいて基準穴を開ける穴開け機の機械的な手順である。
【0060】次にガイドマーク群の観測結果から多層プリント配線板60の内層の導体層の位置の算出法を説明する。多層プリント配線板60の内層の導体層の導体パターンを設計する際、全ての内層の導体層に共通な、直交するUd、Vdを座標軸とする設計座標系を設定することは既に述べた。穴開け機に投入したときに例えばUd軸は機械座標系のXm軸と平行、Vd軸は同じくYm軸と平行と定める。また、導体パターンと同時に4個所のガイドマーク群の構成要素としてのガイドマークを所定の座標位置に記入する。なお、ガイドマーク群の形状は、図1(b)に示すものとして、例えば、中実ガイドマーク22をその層の代表ガイドマークとする。4個のガイドマーク22の観測結果から中実ガイドマーク4個の機械座標系で記述した座標値が知られる。
【0061】1導体層内に形成された4個のガイドマーク22の測定値からUd、Vdの設計座標系がどこに有るかを推定して、この導体層の配置とみなす。すなわち、設計座標系の原点を機械座標系で表した座標値、および、Ud軸のXm軸に対する傾きが得られれば良い。統計学上、測定値から確からしい値を推計する手法は各種有るが、観測点(中実ガイドマーク22)を単位質点と仮定して、その重心を求め、重心は不動として、設計上のガイドマークの座標値と測定したガイドマークの座標値から、この距離の自乗和を最小とするUd軸のXm軸に対する傾きを求める方法等がよく使われる。計算手順の具体例は、同一出願人より(特願平11−293271)として出願されているので、ここではごく概略を説明する。
【0062】ここで、準備として、上記の中実ガイドマークの設計上の座標から、各ガイドマークを単位質点とみなして重心Gdを計算し、この重心を原点とし、座標軸UがUdに平行、座標軸VがVdに平行な座標系に各ガイドマークの座標値を換算して置く。測定された実際のガイドマークの座標値から重心座標を計算して、重心を原点とし、座標軸が機械座標系と平行な座標系で測定値を換算する。設計上の座標値、測定値から座標軸の傾きは一義的に求め得る。このようにして、全ての内層の導体層の位置が、機械座標系で記述した原点の座標値(GXm、GYm)と座標軸の傾き(Xm軸とU軸のなす角α)として得られる。これが層間ズレのデータでもある。
【0063】設計座標系で記述された基準穴の座標を、上記の原点座標と座標軸の傾き(GXm、GYM、α)から機械座標系の座標値として換算し、その位置にスピンドル7が移動して穴開けされる。1枚の多層プリント配線板の全ての内層の導体層のデータを使い、基準穴の位置を算出してもよく、特に重要な導体層のデータによって、基準穴の位置を定めても良い。通常、4層から10層前後ある内層の導体層のそれぞれの変位が全て得られるので、これから基準穴の位置を決定するにも各種の考え方があり、実際に製造する配線板の特性から個々に決定すれば良い。
【0064】各導体層の層間ズレの数値は穴開け機のメモリに記憶され、客先の要求に応じて提出できる。また、メーカ側の品質管理用にも有用な資料となる。ホットプレス加工後の基準穴穴開けは、表面の導体層のパターンエッチング、スルーホール等の穴開け、単一配線板に外形の切り出し等の後工程に、必要な工程であり、この基準穴穴開け工程中に、内層導体層の層間ズレが加工時間の増加無しに測定可能である。
【0065】以上基準穴穴開け機として説明したが、穴開け機から穴開け機能のみを取り外せば、ガイドマークを観測してデータを記憶する測定器となる。大容量の記憶装置、高速度測定を特徴とした測定器も、独立した製品分野であるが、X線カメラ等の測定手段はほとんど穴開け機と共通であり、上記の穴開け機の説明で、測定器の機能説明も包含するものとする。
【0066】
【発明の効果】以上、説明したように、多層プリント配線板の内層の導体層に形成されるガイドマークを同一カメラ視野内に複数個配置し、1回のX線照射で1視野内の全てのガイドマーク像を同時に取り込むので、測定時間の増加無しに全ての内層の導体層の層間ズレを計測できる。加工時間増加無しに客先要求に沿った生産管理情報を提供できる効果は非常に大きい。製造側としても適切な中間管理の情報を先取できるので生産歩留り向上の経済的効果が期待できる。
【0067】また、隣接した導体層間に形成されたガイドマークを同心に配し、計測するので内層板および絶縁基板の厚さによる測定精度の低下を最小に押さえることが出きる。複数の円環ガイドマークを同心に配したガイドマーク形式を採用すれば、比較的層数の少ない内層導体層の層間ズレの計測に有効である。更に、多マーク用基準穴穴開け機としても、画像取り込み後の重心位置計算時の一部ソフトの追加程度で対応可能な点も高く評価できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態であるガイドマークを示す模式図である。
【図2】 個々の内層板に設けられた、本発明の実施の形態であるガイドマークの形と内層板内に形成されたガイドマーク群の配置例を示す図である。
【図3】 X線によるガイドマーク観測方法を示す模式図と、ガイドマーク像の狂いを説明する原理図である。
【図4】 CCD撮像素子が捉えたガイドマーク像を示す模式図と画像処理方法を説明する原理図である。
【図5】 本発明の別の実施の形態であるガイドマーク2種の説明図である。
【図6】 本発明のガイドマークを観測し、基準穴の穴開けを行う基準穴穴開け機の斜視図である。
【図7】 基準穴穴開け機の正面および側面図である。
【図8】 基準穴穴開け機の可動テーブル位置を示す平面図である。
【図9】 基準穴穴開け機のX移動架台の各方向の投影図である。
【図10】 多層プリント配線板の構成を示す斜視図と平面図、およびホットプレス工程で使用する治具板の略図である。
【図11】 多層プリント配線板の構成を示す断面図である。
【図12】 振り分け式2穴基準穴穴開け機の正面および平面図である。
【符号の説明】
1 穴開け機、2 筺体、3 架台、4 X線発生装置、4a X線発生管、5 X線防護管、5a 穴、6 X線カメラ、7 スピンドル、7a チャック、7b ドリル、7c エアシリンダ、8 スピンドル架台、9 クランパ、9a エアシリンダ、10 X移動架台、11Y移動架台、12 可動テーブル、10a、11a、12a 直線ガイド(LMガイド)、10b、11b、12b ボールねじ、16 穴開け位置(1、2穴)、16a 穴開け位置(3、4穴)、17 作業者位置(白抜き矢印)、20 ガイドマーク群、21 ガイドマーク枠、22 中実ガイドマーク、23 中空ガイドマーク、24 円環ガイドマーク、C1、C2、C3 区画円、22A、23A 輪郭線、24N 輪郭線(内)、24G 輪郭線(外)、添え字 内層板の上から1、2、〜5、内層板の表面(上側) a、 内層板の裏面(下側) b、30 X線蛍光増倍管、31 蛍光膜、32 光電面、33 出力蛍光膜、34光学レンズ系、35 CCD撮像素子(電荷結合デバイス)、36 像、A 陽極、S 収束電極、50 機械座標系(Xm、Ym、Zm、機械原点Om)
51 設計座標系(Ud、Vd、原点Od)
H1、H2 基準穴、60 多層プリント配線板、61 両面配線板、61a 単一配線板のパターン、62 導体、63 (絶縁)基板、64 プリプレグ、64a プリプレグ(ガイド穴付き)、65 ガイド穴、66、66a、66b P ガイドマーク、67、H 基準穴、68 レイアップ治具板、68a 位置決めピン
69 最大配線板外形、69a 最小配線板外形、70 影響範囲、Ha 表裏識別用ガイドマーク、

【特許請求の範囲】
【請求項1】 多層プリント配線板の内層を構成する一の導体層に形成された、輪郭線の内側が明部とされる中空ガイドマークと、前記一の導体層に板厚方向に隣接する導体層に形成された、輪郭線の内側が暗部とされる中実ガイドマークとを備え、前記多層プリント配線板の板厚方向に透視したとき、前記中空ガイドマークの輪郭線の内部に前記中実ガイドマークを配置し、前記中空ガイドマークの輪郭線と前記中実ガイドマークの輪郭線が接触しない大きさとしたことを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項2】 前記多層プリント配線板の板厚方向に透視したとき、前記中空ガイドマークの輪郭線の図形重心位置と前記中実ガイドマークの輪郭線の図形重心位置が一致するよう、前記多層プリント配線板の内層の導体パターン設計時に、配置したことを特徴とする請求項1に記載の多層プリント配線板。
【請求項3】 前記多層プリント配線板の内層の導体層に、導体を削除した複数のガイドマーク枠を形成し、該ガイドマーク枠は、各導体層の同位置に置かれ、前記多層プリント配線板の板厚方向に透視して前記ガイドマークを観測する観測装置の受像部の視野内に入る大きさに形成され、前記中空ガイドマークの内部に配置された前記中実ガイドマークと前記中空ガイドマークとからなる、少なくとも1組のガイドマークの組を、前記ガイドマーク枠内に配置したことを特徴とする請求項1および請求項2に記載の多層プリント配線板。
【請求項4】 特定の前記多層プリント配線板内層の導体層に形成された前記中実ガイドマークを前記ガイドマーク枠の中央に配置することを特徴とする請求項2および請求項3に記載の多層プリント配線板。
【請求項5】 前記中空ガイドマークの前記輪郭線を内包する輪郭線を定め、2個の輪郭線を2個の同心円とした円環ガイドマークを中空ガイドマークとして使用することを特徴とする請求項2、請求項3および請求項4に記載の多層プリント配線板。
【請求項6】 多層プリント配線板内層の導体層に、導体を削除した複数のガイドマーク枠を形成し、該ガイドマーク枠は、前記各導体層の同位置に置かれ、前記多層プリント配線板の板厚方向に透視して前記ガイドマークを観測する観測装置の受像部の視野内に入る大きさに形成され、前記ガイドマーク枠の内部に、中空ガイドマークの内部に配置された前記中実ガイドマークと前記中空ガイドマークとからなる、少なくとも1組のガイドマークの組を配置したガイドマーク群を観測し、1個のガイドマーク群内の全ガイドマークの組の画像を、1回の観測で取り込むことを特徴とする層間ズレの測定方法。
【請求項7】 前記視野の中央部に配置された前記ガイドマークの位置を基準として同一ガイドマーク枠内の全ガイドマークの座標を算出することを特徴とす請求項6に記載の層間ズレの測定方法。
【請求項8】 前記ガイドマーク群中に含まれる前記ガイドマークの全ての座標値、またはその一部の座標値を使用して内層の座標位置を推定し、基準穴座標を定めることを特徴とする請求項6に記載の層間ズレの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図11】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2001−168537(P2001−168537A)
【公開日】平成13年6月22日(2001.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−344593
【出願日】平成11年12月3日(1999.12.3)
【出願人】(397013654)株式会社ムラキ (4)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】