説明

強誘電体薄膜形成用組成物、強誘電体薄膜の形成方法並びに該方法により形成された強誘電体薄膜

【課題】簡便な手法で、従来の強誘電体薄膜よりも大幅に比誘電率を向上し得る、高容量密度の薄膜キャパシタ用途に適した強誘電体薄膜形成用組成物、強誘電体薄膜の形成方法並びに該方法により形成された強誘電体薄膜を提供する。
【解決手段】PLZT、PZT及びPTからなる群より選ばれた1種の強誘電体薄膜を形成するための強誘電体薄膜形成用組成物であり、一般式:(PbxLay)(ZrzTi(1-z))O3(式中0.9<x<1.3、0≦y<0.1、0≦z<0.9)で示される複合金属酸化物Aに、Biを含む複合金属酸化物Bが混合した混合複合金属酸化物の形態をとる薄膜を形成するための液状組成物であり、各原料が上記一般式で示される金属原子比を与えるような割合となるように、有機溶媒中に溶解している有機金属化合物溶液からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量密度の薄膜キャパシタ用途に適した強誘電体薄膜形成用組成物、強誘電体薄膜の形成方法並びに該方法により形成された強誘電体薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の強誘電体膜の製造方法として、各成分金属のアルコキシドや有機酸塩を極性溶媒に溶解してなる混合溶液を用い、金属基板に塗布、乾燥して、塗膜を形成し、結晶化温度以上の温度に加熱して焼成することにより、誘電体薄膜を成膜することが一般的に知られている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0003】
しかしながら、薄膜にした場合、基板の拘束による大きな応力が作用しており、充分な比誘電率を得ることができないという問題がある(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
そのため、微量元素を添加して、比誘電率を改善する試みが行われてきた(例えば、非特許文献2参照。)。
【0005】
また、薄膜化することで、理論上、静電容量は高くなるので、薄膜化して静電容量を改善する試みも行われてきた。
【0006】
また、PZTにBiをドープして絶縁耐圧特性を改善する試みも行われている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、上記特許文献3ではBiはドーピング元素として挙げられているだけで、実際にドーピングした実施例は存在しない。また、比誘電率の測定も行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−236404号公報(第3頁右下欄11行目〜第4頁左下欄10行目、第5頁右上欄10行目〜同頁左下欄17行目)
【特許文献2】特開平7−252664号公報(請求項2,3,7,8、段落[0001]、[0035]、[0117]、[0118])
【特許文献3】特開平8−153854号公報(請求項3)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】セラミックス, 42, 175-180 (2007)(p.175左頁20行目〜22行目)
【非特許文献2】S. B. Majumder, D. C. Agrawal, Y. N. Mohopatra, and R. S. Katiyar, "Effect of Cerium Doping on the Microstructure and Electrical Properties of Sol-Gel Derived Pb1.05(Zr0.53-dCedTi0.47)O3 (d=10at%) Thin Films", Materials Science and Engineering, B98, 2003, pp.25-32(Fig.2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、静電容量を高くするため、形成した強誘電体薄膜の膜厚を薄くしてしまうと、リーク電流密度が高くなり、絶縁破壊する可能性もあることから、キャパシタとしての性能を十分に発揮することができなかった。また、微量元素を添加して比誘電率を高くする試みも充分に行われているとはいえない。
【0010】
本発明の目的は、簡便な手法で、従来の強誘電体薄膜よりも大幅に比誘電率を向上し得る、高容量密度の薄膜キャパシタ用途に適した強誘電体薄膜形成用組成物、強誘電体薄膜の形成方法並びに該方法により形成された強誘電体薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点は、PLZT、PZT及びPTからなる群より選ばれた1種の強誘電体薄膜を形成するための強誘電体薄膜形成用組成物において、一般式:(PbxLay)(ZrzTi(1-z))O3(式中0.9<x<1.3、0≦y<0.1、0≦z<0.9)で示される複合金属酸化物Aに、Biを含む複合金属酸化物Bが混合した混合複合金属酸化物の形態をとる薄膜を形成するための液状組成物であり、複合金属酸化物Aを構成するための原料並びに複合金属酸化物Bを構成するための原料が上記一般式で示される金属原子比を与えるような割合で有機溶媒中に溶解している有機金属化合物溶液からなることを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に複合金属酸化物A及び複合金属酸化物Bを構成するための原料が、有機基がその酸素又は窒素原子を介して金属元素と結合している化合物である強誘電体薄膜形成用組成物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の観点は、第2の観点に基づく発明であって、更に複合金属酸化物A及び複合金属酸化物Bを構成するための原料が、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属カルボン酸塩、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体、及び金属アミノ錯体からなる群より選ばれた1種又は2種以上である強誘電体薄膜形成用組成物であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更にβ−ジケトン、β−ケトン酸、β−ケトエステル、オキシ酸、ジオール、トリオール、高級カルボン酸、アルカノールアミン及び多価アミンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の安定化剤を、組成物中の金属合計量1モルに対して、0.2〜3モルの割合で更に含有する強誘電体薄膜形成用組成物であることを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の観点は、第1ないし第4の観点に基づく発明であって、更にBとAとのモル比B/Aが0<B/A<0.2であることを特徴とする。
【0016】
本発明の第6の観点は、第5の観点に基づく発明であって、更にBとAとのモル比B/Aが0.005≦B/A≦0.1であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第7の観点は、第1ないし第6の観点に基づく強誘電体薄膜形成用組成物を耐熱性基板に塗布し、空気中、酸化雰囲気中又は含水蒸気雰囲気中で加熱する工程を1回又は所望の厚さの膜が得られるまで繰返し、少なくとも最終工程における加熱中或いは加熱後に該膜を結晶化温度以上で焼成することを特徴とする強誘電体薄膜の形成方法である。
【0018】
本発明の第8の観点は、第7の観点に基づく方法により形成された強誘電体薄膜である。
【0019】
本発明の第9の観点は、第8の観点に基づく強誘電体薄膜を有する薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD(Integrated Passive Device)、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、トランジスタのゲート絶縁体、不揮発性メモリ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品である。
【0020】
本発明の第10の観点は、第9の観点に基づく100MHz以上の周波数帯域に対応した、強誘電体薄膜を有する薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、トランジスタのゲート絶縁体、不揮発性メモリ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の強誘電体薄膜形成用組成物は、一般式:(PbxLay)(ZrzTi(1-z))O3(式中0.9<x<1.3、0≦y<0.1、0≦z<0.9)で示される複合金属酸化物Aに、Biを含む複合金属酸化物Bが混合した混合複合金属酸化物の形態をとるように、有機金属化合物溶液に複合金属酸化物Aを構成するための原料並びに複合金属酸化物Bを構成するための原料を所定の割合で有機溶媒中に溶解させている。この組成物を用いて強誘電体薄膜を形成することにより、従来の強誘電体薄膜よりも大幅に比誘電率を向上した高容量密度の薄膜キャパシタ用途に適した強誘電体薄膜を簡便な手法で得ることができる、という利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0023】
本発明の強誘電体薄膜形成用組成物は、PLZT、PZT及びPTからなる群より選ばれた1種の強誘電体薄膜を形成するための組成物である。この組成物を用いて形成される強誘電体薄膜は、一般式:(PbxLay)(ZrzTi(1-z))O3(式中0.9<x<1.3、0≦y<0.1、0≦z<0.9)で示される複合金属酸化物Aに、Biを含む複合金属酸化物Bが混合した混合複合金属酸化物の形態をとる。なお、上記式のy≠0かつz≠0の場合はPLZTであり、y=0かつz≠0の場合はPZTであり、y=0かつz=0の場合はPTである。この組成物は、複合金属酸化物Aを構成するための原料と、複合金属酸化物Bを構成するための原料が上記一般式で示される金属原子比を与えるような割合となるように、有機溶媒中に溶解している有機金属化合物溶液からなる。
【0024】
複合金属酸化物A用原料並びに複合金属酸化物B用原料は、Pb、La、Zr、Ti及びBiの各金属元素に、有機基がその酸素又は窒素原子を介して結合している化合物が好適である。例えば、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属カルボン酸塩、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体、及び金属アミノ錯体からなる群より選ばれた1種又は2種以上が例示される。特に好適な化合物は、金属アルコキシド、その部分加水分解物、有機酸塩である。このうち、Pb化合物、La化合物、Bi化合物としては、酢酸塩(酢酸鉛、酢酸ランタン)、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチル酪酸ビスマス等の有機酸塩、鉛ジイソプロポキシド、ビスマストリイソプロポキシド、ビスマストリt−ペントキシドなどのアルコキシド、テトラ(メチルヘプタンジオネート)ビスマスなどの金属β−ジケトネート錯体が挙げられる。Ti化合物としては、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド、チタニウムジメトキシジイソプロポキシドなどのアルコキシドが挙げられる。Zr化合物としては、上記Ti化合物と同様なアルコキシド類が好ましい。金属アルコキシドはそのまま使用しても良いが、分解を促進させるためにその部分加水分解物を使用しても良い。
【0025】
本発明の強誘電体薄膜形成用組成物を調製するには、これらの原料を所望の強誘電体薄膜組成に相当する比率で適当な溶媒に溶解して、塗布に適した濃度に調製する。
【0026】
BとAとのモル比B/Aは、0<B/A<0.2の範囲内となるように調整される。上記範囲内であれば、従来の強誘電体薄膜よりも大幅に比誘電率を向上することができる。なお、下限値未満であったり、上限値を越える場合、ビスマスを添加しない場合と大差ない結果となり、高容量密度の薄膜キャパシタ用途には適さない。このうち、0.005≦B/A≦0.1が特に好ましい。
【0027】
ここで用いる強誘電体薄膜形成用組成物の溶媒は、使用する原料に応じて適宜決定されるが、一般的には、カルボン酸、アルコール、エステル、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル)、シクロアルカン類(例えば、シクロヘキサン、シクロヘキサノール)、芳香族系(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)、その他テトラヒドロフランなど、或いはこれらの2種以上の混合溶媒を用いることができる。
【0028】
カルボン酸としては、具体的には、n−酪酸、α−メチル酪酸、i−吉草酸、2−エチル酪酸、2,2−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、3,3−ジメチルペンタン酸、2,3−ジメチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸を用いるのが好ましい。
【0029】
また、エステルとしては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸sec−アミル、酢酸tert−アミル、酢酸イソアミルを用いるのが好ましく、アルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソ−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メトキシエタノールを用いるのが好適である。
【0030】
なお、強誘電体薄膜形成用組成物の有機金属化合物溶液中の有機金属化合物の合計濃度は、金属酸化物換算量で0.1〜20質量%程度とすることが好ましい。
【0031】
この有機金属化合物溶液中には、必要に応じて安定化剤として、β−ジケトン類(例えば、アセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等)、β−ケトン酸類(例えば、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等)、β−ケトエステル類(例えば、上記ケトン酸のメチル、プロピル、ブチル等の低級アルキルエステル類)、オキシ酸類(例えば、乳酸、グリコール酸、α−オキシ酪酸、サリチル酸等)、上記オキシ酸の低級アルキルエステル類、オキシケトン類(例えば、ジアセトンアルコール、アセトイン等)、ジオール、トリオール、高級カルボン酸、アルカノールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン)、多価アミン等を、(安定化剤分子数)/(金属原子数)で0.2〜3程度添加しても良い。
【0032】
本発明では、上記調製された有機金属化合物溶液を濾過処理等によって、パーティクルを除去して、粒径0.5μm以上(特に0.3μm以上とりわけ0.2μm以上)のパーティクルの個数が溶液1mL当り50個/mL以下とするのが好ましい。
【0033】
有機金属化合物溶液中の粒径0.5μm以上のパーティクルの個数が50個/mLを越えると、長期保存安定性が劣るものとなる。この有機金属化合物溶液中の粒径0.5μm以上のパーティクルの個数は少ない程好ましく、特に30個/mL以下であることが好ましい。
【0034】
上記パーティクル個数となるように、調製後の有機金属化合物溶液を処理する方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のような方法が挙げられる。第1の方法としては、市販の0.2μm孔径のメンブランフィルターを使用し、シリンジで圧送する濾過法である。第2の方法としては、市販の0.05μm孔径のメンブランフィルターと加圧タンクを組み合せた加圧濾過法である。第3の方法としては、上記第2の方法で使用したフィルターと溶液循環槽を組み合せた循環濾過法である。
【0035】
いずれの方法においても、溶液圧送圧力によって、フィルターによるパーティクル捕捉率が異なる。圧力が低いほど捕捉率が高くなることは一般的に知られており、特に、第1の方法、第2の方法について、粒径0.5μm以上のパーティクルの個数を50個以下とする条件を実現するためには、溶液を低圧で非常にゆっくりとフィルターに通すのが好ましい。
【0036】
本発明の強誘電体薄膜形成用組成物を用いることで、PLZT、PZT及びPTからなる群より選ばれた1種の複合金属酸化物Aに、Biを含む複合金属酸化物Bが混合した混合複合金属酸化物の形態をとる強誘電体薄膜を簡便に形成することができる。
【0037】
本発明の強誘電体薄膜形成用組成物を用いて、強誘電体薄膜を形成するには、上記組成物をスピンコート、ディップコート、LSMCD(Liquid Source MistedChemical Deposition)法等の塗布法により耐熱性基板上に塗布し、乾燥(仮焼成)及び本焼成を行う。
【0038】
使用される耐熱性基板の具体例としては、基板表層部に、単結晶Si、多結晶Si,Pt,Pt(最上層)/Ti,Pt(最上層)/Ta,Ru,RuO2,Ru(最上層)/RuO2,RuO2(最上層)/Ru,Ir,IrO2,Ir(最上層)/IrO2,Pt(最上層)/Ir,Pt(最上層)/IrO2,SrRuO3又は(LaxSr(1-x))CoO3等のペロブスカイト型導電性酸化物等を用いた基板が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
なお、1回の塗布では、所望の膜厚が得られない場合には、塗布、乾燥の工程を複数回繰返し行った後、本焼成を行う。ここで、所望の膜厚とは、本焼成後に得られる強誘電体薄膜の厚さをいい、高容量密度の薄膜キャパシタ用途の場合、本焼成後の強誘電体薄膜の膜厚が50〜500nmの範囲である。
【0040】
また、仮焼成は、溶媒を除去するとともに有機金属化合物を熱分解又は加水分解して複合酸化物に転化させるために行うことから、空気中、酸化雰囲気中、又は含水蒸気雰囲気中で行う。空気中での加熱でも、加水分解に必要な水分は空気中の湿気により十分に確保される。この加熱は、溶媒の除去のための低温加熱と、有機金属化合物の分解のための高温加熱の2段階で実施しても良い。
【0041】
本焼成は、仮焼成で得られた薄膜を結晶化温度以上の温度で焼成して結晶化させるための工程であり、これにより強誘電体薄膜が得られる。この結晶化工程の焼成雰囲気はO2、N2、Ar、N2O又はH2等或いはこれらの混合ガス等が好適である。
【0042】
仮焼成は、150〜550℃で5〜10分間程度行われ、本焼成は450〜800℃で1〜60分間程度行われる。本焼成は、急速加熱処理(RTA処理)で行っても良い。RTA処理で本焼成する場合、その昇温速度は10〜100℃/秒が好ましい。
【0043】
このようにして形成された本発明の強誘電体薄膜は、従来の強誘電体薄膜よりも大幅に比誘電率を向上したものとなり、キャパシタとしての基本的特性に優れ、高容量密度の薄膜キャパシタ用途に好適である。また、本発明の強誘電体薄膜は、IPDとしての基本的特性にも優れる。
【0044】
また、本発明の強誘電体薄膜は、薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、トランジスタのゲート絶縁体、不揮発性メモリ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品における構成材料として使用することができる。このうち特に100MHz以上の周波数帯域に対応したものに使用することもできる。
【実施例】
【0045】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0046】
<実施例1〜5>
先ず、反応容器にジルコニウムテトラn−ブトキシドと安定化剤としてアセチルアセトンを添加し、窒素雰囲気下、150℃の温度で還流した。これにチタンテトライソプロポキシドと安定化剤としてアセチルアセトンを添加し、窒素雰囲気下、150℃の温度で還流した。次いで、これに酢酸鉛3水和物と溶媒としてプロピレングリコールを添加し、窒素雰囲気下、150℃の温度で還流した。その後、150℃で減圧蒸留して副生成物を除去し、更にプロピレングリコールを添加し、濃度調整することで酸化物換算で30質量%濃度の金属化合物を含有する液を得た。更に、希釈アルコールを添加することで酸化物換算で各金属比がPb/Zr/Ti=110/52/48の10質量%濃度の金属化合物を含有するゾルゲル液を得た。
【0047】
次に、ゾルゲル液を5等分し、これらのゾルゲル液に外割で0.5mol%の各種ビスマス化合物(2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチル酪酸ビスマス、ビスマストリイソプロポキシド、ビスマストリt−ペントキシド、テトラ(メチルヘプタンジオネート)ビスマス)をそれぞれ添加することにより、5種類の薄膜形成用溶液を得た。
【0048】
これら5種類の薄膜形成用溶液を用いて、下記方法によりCSD法による薄膜の形成を行った。即ち、各々の溶液をスピンコート法により500rpmで3秒間、その後3000rpmで15秒間の条件でPt薄膜を表面にスパッタリング法にて形成した6インチシリコン基板(Pt/TiO2/SiO2/Si(100)基板)上に塗布した。続いて、ホットプレートを用い、350℃で5分間加熱して仮焼成を行った。この塗布、仮焼成の工程を6回繰返した後、100%酸素雰囲気中で700℃、1分間RTA(急速加熱処理装置)で焼成して膜厚270nmの強誘電体薄膜を形成した。
【0049】
<実施例6〜10>
ゾルゲル液に外割で1.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例1〜5と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0050】
<実施例11〜15>
ゾルゲル液に外割で3.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例1〜5と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0051】
<実施例16〜20>
ゾルゲル液に外割で5.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例1〜5と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0052】
<実施例21〜25>
ゾルゲル液に外割で10.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例1〜5と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0053】
<比較例1>
実施例1のゾルゲル液にビスマス化合物を添加せず、薄膜形成用溶液とした以外は、実施例1〜5と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0054】
<実施例26〜30>
先ず、反応容器にジルコニウムテトラn−ブトキシドと安定化剤としてジエタノールアミンを添加し、窒素雰囲気下、150℃の温度で還流した。これにチタンテトライソプロポキシドと安定化剤としてジエタノールアミンを添加し、窒素雰囲気下、150℃の温度で還流した。次いで、これに酢酸鉛3水和物と溶媒としてプロピレングリコールを添加し、窒素雰囲気下、150℃の温度で還流した。その後、150℃で減圧蒸留して副生成物を除去し、更にプロピレングリコールを添加し、濃度調整することで酸化物換算で30質量%濃度の金属化合物を含有する液を得た。更に、希釈アルコールを添加することで酸化物換算で各金属比がPb/Zr/Ti=110/52/48の10質量%濃度の金属化合物を含有するゾルゲル液を得た。
【0055】
次に、ゾルゲル液を5等分し、これらのゾルゲル液に外割で0.5mol%の各種ビスマス化合物(2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチル酪酸ビスマス、ビスマストリイソプロポキシド、ビスマストリt−ペントキシド、テトラ(メチルヘプタンジオネート)ビスマス)をそれぞれ添加することにより、5種類の薄膜形成用溶液を得た。
【0056】
これら5種類の薄膜形成用溶液を用いて、下記方法によりCSD法による薄膜の形成を行った。即ち、各々の溶液をスピンコート法により500rpmで3秒間、その後3000rpmで15秒間の条件でPt薄膜を表面にスパッタリング法にて形成した6インチシリコン基板(Pt/TiO2/SiO2/Si(100)基板)上に塗布した。続いて、ホットプレートを用い、350℃で5分間加熱して仮焼成を行った。この塗布、仮焼成の工程を6回繰返した後、100%酸素雰囲気中で700℃、1分間RTA(急速加熱処理装置)で焼成して膜厚270nmの強誘電体薄膜を形成した。
【0057】
<実施例31〜35>
ゾルゲル液に外割で1.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例26〜30と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0058】
<実施例36〜40>
ゾルゲル液に外割で3.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例26〜30と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0059】
<実施例41〜45>
ゾルゲル液に外割で5.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例26〜30と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0060】
<実施例46〜50>
ゾルゲル液に外割で10.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例26〜30と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0061】
<比較例2>
実施例26のゾルゲル液にビスマス化合物を添加せず、薄膜形成用溶液とした以外は、実施例26〜30と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0062】
<実施例51〜55>
先ず、反応容器にジルコニウムテトラn−ブトキシドと安定化剤としてアセチルアセトンを添加し、窒素雰囲気下、150℃の温度で還流した。これにチタンテトライソプロポキシドと安定化剤としてアセチルアセトンを添加し、窒素雰囲気下、150℃の温度で還流した。次いで、これに酢酸鉛3水和物と溶媒としてプロピレングリコールを添加し、窒素雰囲気下、150℃の温度で還流した。その後、150℃で減圧蒸留して副生成物を除去し、更にプロピレングリコールを添加し、濃度調整することで酸化物換算で30質量%濃度の金属化合物を含有する液を得た。更に、希釈アルコールを添加することで酸化物換算で各金属比がPb/Zr/Ti=110/52/48の10質量%濃度の金属化合物を含有するゾルゲル液を得た。
【0063】
次に、ゾルゲル液を5等分し、これらのゾルゲル液に外割で0.5mol%の各種ビスマス化合物(2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチル酪酸ビスマス、ビスマストリイソプロポキシド、ビスマストリt−ペントキシド、テトラ(メチルヘプタンジオネート)ビスマス)をそれぞれ添加することにより、5種類の薄膜形成用溶液を得た。
【0064】
これら5種類の薄膜形成用溶液を用いて、下記方法によりCSD法による薄膜の形成を行った。即ち、各々の溶液をスピンコート法により500rpmで3秒間、その後3000rpmで15秒間の条件でPt薄膜を表面にスパッタリング法にて形成した6インチシリコン基板(Pt/TiO2/SiO2/Si(100)基板)上に塗布した。続いて、ホットプレートを用い、350℃で5分間加熱して仮焼成を行った。この塗布、仮焼成の工程を6回繰返した後、乾燥空気雰囲気中で700℃、1分間RTA(急速加熱処理装置)で焼成して膜厚270nmの強誘電体薄膜を形成した。
【0065】
<実施例56〜60>
ゾルゲル液に外割で1.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例51〜55と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0066】
<実施例61〜65>
ゾルゲル液に外割で3.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例51〜55と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0067】
<実施例66〜70>
ゾルゲル液に外割で5.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例51〜55と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0068】
<実施例71〜75>
ゾルゲル液に外割で10.0mol%の各種ビスマス化合物を添加して薄膜形成用溶液とした以外は、実施例51〜55と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0069】
<比較例3>
実施例51のゾルゲル液にビスマス化合物を添加せず、薄膜形成用溶液とした以外は、実施例51〜55と同様にして基板上に強誘電体薄膜を形成した。
【0070】
<比較評価>
実施例1〜75及び比較例1〜3で得られた強誘電体薄膜を形成した基板について、メタルマスクを用い、表面に約250μm□のPt上部電極をスパッタリング法にて作製し、強誘電体薄膜直下のPt下部電極間にてC−V特性(静電容量の電圧依存性)を周波数1kHzにて−5〜5Vの範囲で評価し、静電容量の最大値より比誘電率εrを算出した。なお、C−V特性の測定にはHP社製4284A precision LCR meterを用い、Bias step 0.1V、Frequency 1kHz、Oscillation level 30mV、Delay time 0.2sec、Temperature 23℃、Hygrometry 50±10%の条件で測定した。その結果を次の表1〜3に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

表1〜3から明らかなように、Biを含まない比較例1〜3のPZT強誘電体薄膜に比べて、Biを0.5%〜10%添加した実施例1〜75の強誘電体薄膜では、270nm程度の薄い膜厚で、高い静電容量及び高い比誘電率が確認された。この結果から、実施例1〜75の強誘電体薄膜は、キャパシタとしての基本的特性が優れていることが判った。
【0074】
また、Biの添加量を変化させた実施例1〜75の強誘電体薄膜の結果から、5%添加した実施例16〜20,41〜45,66〜70の結果が特に高く、次に、3%添加した実施例11〜15,36〜40,61〜65の結果、10%添加した実施例21〜25,46〜50,71〜75の結果、1%添加した実施例6〜10,31〜35,56〜60の結果と続き、そして、0.5%添加した実施例1〜5,26〜30,51〜55の結果が低い結果であった。
【0075】
この結果から、静電容量及び比誘電率εrの向上に寄与し得る適切なBi添加量の範囲が存在することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の強誘電体薄膜形成用組成物、強誘電体薄膜の形成方法並びに該方法により形成された強誘電体薄膜は、キャパシタとしての基本的特性に優れ、高容量密度の薄膜キャパシタの用途に利用可能である。その他、IPDとしての基本的特性にも優れ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、トランジスタのゲート絶縁体、不揮発性メモリ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、又はLCノイズフィルタ素子等の複合電子部品に利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PLZT、PZT及びPTからなる群より選ばれた1種の強誘電体薄膜を形成するための強誘電体薄膜形成用組成物において、
一般式:(PbxLay)(ZrzTi(1-z))O3(式中0.9<x<1.3、0≦y<0.1、0≦z<0.9)で示される複合金属酸化物Aに、Biを含む複合金属酸化物Bが混合した混合複合金属酸化物の形態をとる薄膜を形成するための液状組成物であり、
前記複合金属酸化物Aを構成するための原料並びに前記複合金属酸化物Bを構成するための原料が上記一般式で示される金属原子比を与えるような割合で有機溶媒中に溶解している有機金属化合物溶液からなる
ことを特徴とする強誘電体薄膜形成用組成物。
【請求項2】
複合金属酸化物A及び複合金属酸化物Bを構成するための原料が、有機基がその酸素又は窒素原子を介して金属元素と結合している化合物である請求項1記載の強誘電体薄膜形成用組成物。
【請求項3】
複合金属酸化物A及び複合金属酸化物Bを構成するための原料が、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属カルボン酸塩、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体、及び金属アミノ錯体からなる群より選ばれた1種又は2種以上である請求項2記載の強誘電体薄膜形成用組成物。
【請求項4】
β−ジケトン、β−ケトン酸、β−ケトエステル、オキシ酸、ジオール、トリオール、高級カルボン酸、アルカノールアミン及び多価アミンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の安定化剤を、組成物中の金属合計量1モルに対して、0.2〜3モルの割合で更に含有する請求項1ないし3いずれか1項に記載の強誘電体薄膜形成用組成物。
【請求項5】
BとAとのモル比B/Aが0<B/A<0.2である請求項1ないし4いずれか1項に記載の強誘電体薄膜形成用組成物。
【請求項6】
BとAとのモル比B/Aが0.005≦B/A≦0.1である請求項5記載の強誘電体薄膜形成用組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の強誘電体薄膜形成用組成物を耐熱性基板に塗布し、空気中、酸化雰囲気中又は含水蒸気雰囲気中で加熱する工程を1回又は所望の厚さの膜が得られるまで繰返し、少なくとも最終工程における加熱中或いは加熱後に該膜を結晶化温度以上で焼成することを特徴とする強誘電体薄膜の形成方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法により形成された強誘電体薄膜。
【請求項9】
請求項8記載の強誘電体薄膜を有する薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、トランジスタのゲート絶縁体、不揮発性メモリ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品。
【請求項10】
請求項9に記載する100MHz以上の周波数帯域に対応した、強誘電体薄膜を有する薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、トランジスタのゲート絶縁体、不揮発性メモリ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品。

【公開番号】特開2010−219079(P2010−219079A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60348(P2009−60348)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】