説明

材料ガス供給ノズル、気相成長装置および半導体膜の製造方法

【課題】温度むらを生じることなく材料ガスの冷却を行うことができる冷却機構を備えた材料ガス供給用ノズル、該ノズルを備えた気相成長装置および該気相成長装置を用いた半導体膜の製造方法を提供する。
【解決手段】
材料ガス流通層は、材料ガスの吹き出し口と、吹き出し口に連通するガス流通通路とを有する。冷却媒体循環層は、ガス流通通路を覆う冷却媒体の循環通路を有する。材料ガス流通層は、吹き出し口側の端部において材料ガス流の上流側に凹んだ第1の凹部を有し、吹き出し口は、第1の凹部の端面に沿って設けられている。冷却媒体循環層は、第1の凹部と外縁が重なる第2の凹部と、第2の凹部を挟む両側の第2の凹部の周辺部にガス流通通路よりも外側に張り出した拡張部と、を有する。冷却媒体の循環通路は、第2の凹部の材料ガス流の上流側端部よりも下流側であって拡張部内に冷却媒体の循環の折り返し点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体結晶のエピタキシャル成長を行う気相成長装置に用いられる材料ガス供給ノズル、該ノズルを備えた気相成長装置および該気相成長装置を用いた半導体膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気相成長によって半導体膜のエピタキシャル成長を行う気相成長装置は、その反応容器内に導入された材料ガスが加熱された成長用基板(以下単に基板ともいう)上で熱分解反応して、化合物やその固溶体結晶となり、その時、基板の結晶面方位を維持したまま同じ結晶面の単結晶層が該基板上に成長するように構成したものである。
【0003】
気相成長装置のうち、2フロー方式のものは、材料ガスの層流と押さえガス流の合成流で成膜ガス流を形成し、材料ガスを基板主面に押し付けながら基板の主面に対して略平行な方向に流す(特許文献1参照)。この2つのガス流により、例えば、GaN結晶成長において、材料ガスが基板上で高温(1000℃程度)になり約4.5倍の体積膨張が生じても、基板上において安定的な材料ガス流が保たれる。
【0004】
一方、材料ガスを供給するためのノズル先端部に基板の外縁に沿った半円形状の凹部(切り欠き)を設けることにより、ノズル先端に設けられた吹き出し口のどの位置でも基板の直近にて材料ガスを供給することが可能となる(特許文献2参照)。
【0005】
また、材料ガスを供給するためのノズルに金属パイプを密着させて巻き付け、この金属パイプに冷却媒体を流すことによりノズル内を流れる材料ガスを冷却する方法が知られている(特許文献3参照)。これにより、複数種の材料ガスを混合した混合ガスをノズルから供給する場合において、該混合ガスが基板上に到達する前にヒータからの放射熱によって熱分解反応してしまうのを防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−284623号公報
【特許文献2】特開平8−139034号公報
【特許文献3】特許第3142054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
2フロー方式の気相成長装置を用いて半導体膜を形成する場合、複数の材料ガスを基板上に均一に供給するために材料ガスを上流側で混合しておくことが好ましい。この場合、混合ガスはノズル内部を通過する。反応性の高い材料ガスを使用する場合、基板を加熱するヒータからの放射熱によってノズル内部で材料ガスの熱分解反応が生じてノズル内部に反応生成物が堆積し目詰まりを起こすおそれがある。また、この反応生成物がノズルから噴出され基板上に導入され、半導体膜の膜質を劣化させるおそれがある。ノズルを冷却機構によって冷却してノズル内部における材料ガスの熱分解反応を抑制することは、このような問題を解消する上で有効である。
【0008】
しかしながら、上記の特許文献2に記載のように、基板の外縁に沿った半円形状の凹部(切り欠き)を有しているような複雑な形状のノズル全体を、上記の特許文献3に記載のような金属パイプを用いた冷却機構で冷却することは困難である。ここで、図1は、上記特許文献2に記載の如き半円形状の凹部(切り欠き)が形成されたノズルと、特許文献3に記載の如き金属パイプを用いた冷却機構とを組み合わせて構成したものの平面図である。ノズル100は、材料ガスの吹き出し口(図示せず)が設けられている側の端部に半円形状の凹部(切り欠き)110を有する。ノズル100には、冷却機構をなす金属パイプ120が巻き付けられている。金属パイプ120に冷却媒体(例えば水)を循環させることにより、ノズル内部を通過する材料ガスの温度上昇は抑制される。しかしながら、このような構成では、凹部110の周辺部111(図1において破線で囲まれた部分)に材料ガスのガス流を乱すことなく金属パイプを設置することは困難であり、周辺部111における冷却が不十分となる。これによって、材料ガスの温度が不均一となり、ひいては半導体膜の膜質が基板面内において不均一となるおそれがある。また、金属パイプとは異なる形態の流路に冷却媒体を循環させる場合においても、材料ガスの流通通路に応じて冷却媒体の循環通路を形成する必要があり、ノズル形状が複雑である場合には滞留が生じないように冷却媒体の循環通路を形成することが重要となる。
【0009】
本発明は、上記した点に鑑みてなされたものであり、温度むらを生じることなく材料ガスの冷却を行うことができる冷却機構を備えた材料ガス供給用ノズル、該ノズルを備えた気相成長装置および該気相成長装置を用いた半導体膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る材料ガス供給ノズルは、気相成長法によって半導体結晶を形成する気相成長装置において、前記半導体結晶を形成するための材料ガスを供給する材料ガス供給ノズルであって、材料ガスの吹き出し口と、前記吹き出し口に連通するガス流通通路とを有する材料ガス流通層と、前記ガス流通通路を覆う冷却媒体の循環通路を有する冷却媒体循環層と、を含み、前記材料ガス流通層は、前記吹き出し口側の端部において材料ガス流の上流側に凹んだ第1の凹部を有し、前記吹き出し口は、前記第1の凹部の端面に沿って設けられ、前記冷却媒体循環層は、前記第1の凹部と外縁が重なる第2の凹部と、前記第2の凹部を挟む両側の前記第2の凹部の周辺部に前記ガス流通通路よりも外側に張り出した拡張部と、を有し、前記循環通路は、前記第2の凹部の前記材料ガス流の上流側端部よりも下流側であって前記拡張部内に前記冷却媒体の循環の折り返し点を有することを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る気相成長装置は、上記の材料ガス供給ノズルを反応容器内部に有する気相成長装置であって、前記反応容器の内部において前記吹き出し口の側方に設けられた基板支持面を有するサセプタと、前記サセプタを加熱するヒータと、を含み、前記材料ガス供給ノズルは、前記吹き出し口から前記基板支持面に対して略平行な方向に材料ガスを噴出することを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る半導体膜の製造方法は、上記の気相成長装置を用いた半導体膜の製造方法であって、成長用基板を前記サセプタ上の基板支持面に配置する工程と、前記サセプタを加熱しつつ前記材料ガス供給ノズルから材料ガスを供給して前記成長用基板上に半導体結晶を成長させる工程と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る材料ガス供給用ノズルによれば、冷却媒体循環層が第2の凹部の周辺部に拡張部を有しており、冷却媒体が拡張部を経由して拡張部内において折り返すように循環通路が形成されているので、第2の凹部の周辺部において滞留を生じることなく冷却媒体を循環させることが可能となり、材料ガス流通層を流れる材料ガスを温度むらを生じることなく冷却することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る気相成長装置およびこれを用いた半導体膜の製造方法によれば、サセプタ上に設置された基板上に温度むらを生じていない材料ガスを供給することが可能となり、膜質の均一な半導体膜を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の材料ガス供給用ノズルの構成を示す平面図である。
【図2】本発明の実施例に係る気相成長装置の構成を示す図である。
【図3】図3(a)は、本発明の実施例に係る材料ガス流通層の構成を示す平面図である。図3(b)は、本発明の実施例に係る冷却媒体循環層の構成を示す平面図である。図3(c)は、本発明の実施例に係る材料ガス流通層および冷却媒体循環層とが積層された状態を示す平面図である。
【図4】本発明の実施例に係る冷却媒体循環層における冷却媒体の循環通路を示す図である。
【図5】比較例に係る冷却媒体循環層における冷却媒体の循環通路を示す図である。
【図6】本発明の実施例に係る製造方法によって製造された半導体発光素子の構成を示す断面図である。
【図7】本発明の他の実施例に係る冷却媒体循環層の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例に係る気相成長装置について図面を参照しつつ説明する。尚、各図において、実質的に同一又は等価な構成要素、部分には同一の参照符を付している。図2は、本発明の実施例に係る気相成長装置1の構成を示す図である。気相成長装置1は、例えばMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法により、サセプタ20上に支持された基板上に半導体結晶を成長させることができる所謂2フロー方式の気相成長装置である。
【0017】
反応容器10の内部の反応室10aの下方には、半導体膜の結晶成長に用いられる基板(図示せず)を支持するためのサセプタ20が設けられている。サセプタ20は、基板支持面20aに基板が嵌合し得る凹部21を有する。サセプタ20の底面には回転軸22が接続され、回転軸22は図示しないモータによって回転駆動される。サセプタ20は、回転軸22の回転に伴って回転する。また、サセプタ20の底面には、ヒータ23が設けられている。ヒータ23は、図示しない温度センサおよびコントローラによってサセプタ20の基板支持面20aが所望の温度となるようにコントロールされる。
【0018】
押さえガス噴出器30は、反応質10a内において、サセプタ20の上方に設けられる。押さえガス噴出器30は、ノズル40から供給される材料ガスの層流をサセプタ20の基板支持面20a側に押さえ付ける抑えガスを供給する。押さえガスは、例えば水素ガス、窒素ガスまたはこれらの混合ガスであり、材料ガスは含まない。押さえガス噴出器30は、サセプタ20上に支持された基板の全面を覆うように基板主面方向に向けて押さえガスを噴出する。
【0019】
ノズル40は、反応室10a内において、サセプタ20の基板支持面20aと押さえガス噴出器30の吹き出し口の間であって、基板支持面20aの直近に吹き出し口43が位置するように設置されている。ノズル40は、その先端部に設けられた吹き出し口43から、基板支持面20aに対して略平行な方向に材料ガスを噴出する。吹き出し口43より噴出された材料ガスは、押さえガスのガス流によって基板支持面20a側に押され付けられながら基板支持面20aに対して略平行な方向に向けて流れる。この2つのガス流によって、材料ガスが基板上で高温(例えば1000℃程度)となり体積膨張が生じても、基板上において安定的なガス流が保たれる。反応室10a内に導入された押さえガスおよび材料ガスは、図示しない排気ポンプに接続された配管53を介して反応容器10の外部に排気され、反応室10a内の圧力調整がなされている。
【0020】
ノズル40は、材料ガス流通層41と冷却媒体循環層45とが互いに密着するように積層されて構成される。材料ガス流通層41は、材料ガスが通過するガス流通通路42を有する。材料ガスは、反応容器10の外部に設置された材料ガス供給源(図示せず)より供給され、配管51およびガス流通通路42を経由して吹き出し口43より噴出される。尚、複数種の材料ガスを混合した混合ガスをガス流通通路42内に導入することができるように、配管が構成されている。
【0021】
図3(a)は、材料ガス流通層41をサセプタ20の基板支持面20a側からみた図である。材料ガス流通層41は、その内部に吹き出し口43に連通しているガス流通通路42を有する。材料ガス流通層41は、吹き出し口43側の端部において、材料ガスの上流側に向けて凹んだ略半円形状の凹部(第1の凹部、切り欠き)44を有している。すなわち、材料ガス流通層41は、吹き出し口43側の端部が基板の外縁に沿った円弧状をなしており、吹き出し口43は、この円弧状の端面に沿って形成されている。ノズル40は、略半円形状の凹部44の外縁がサセプタ20上に支持される基板の外縁と略平行となるように、先端部分がサセプタ20の上方に迫り出すように配置されている(図2および図4参照)。一般に、GaN系半導体のエピタキシャル結晶成長においては、材料分解位置が基板に近いほうが良質な結晶が得られる。GaN系結晶では成長温度が1000℃以上と高温であるが故、ヒータからの放射熱によって材料分解が基板遠方の上流で開始されやすい。材料分解が基板遠方の上流で開始されてしまうと材料の枯渇による成膜エリアが減少する問題や、基板上に不活性結晶種が飛来して結晶性が低下する問題が発生する。このような問題は、材料分解位置を基板に近接させることにより回避することができる。材料ガス流通層41の端部に基板の外縁に沿った半円形状の凹部(切り欠き)44を設けることにより、吹き出し口43の各位置と基板との距離を最短かつ均一とすることができ、半導体膜の膜質の向上に寄与することができる。
【0022】
また、上記の問題は、材料ガス供給ノズルに遮熱対策を施すことでも回避することが可能である。本実施例において遮熱対策は、材料ガス流通層41上に冷却媒体循環層45を積層することにより実現される。
【0023】
図3(b)は冷却媒体循環層45をサセプタ20の基板支持面20a側からみた図である。図3(c)は材料ガス流通層41と冷却媒体循環層45とが積層された状態を示す図である。尚、図3(c)において冷却媒体の循環通路46が延在する範囲がハッチングで示されている。図4は、冷却媒体循環層45内を流れる冷却媒体(例えば水)の循環経路を示す図である。尚、図4においてサセプタ20およびサセプタ20上に支持された基板Sが示されている。
【0024】
冷却媒体循環層45は、ガス流通通路42の全体を覆うようにこれと重なる位置に設けられた冷却媒体の循環通路46を有する。すなわち、冷却媒体は、ガス流通通路42内を流れる材料ガスの上方を循環通路46に沿って循環することにより材料ガスを冷却して材料ガスの温度上昇を抑制する。循環通路46は、冷却媒体が材料ガス流の方向と同一の方向に流れる流路(往路)と、材料ガス流の方向と反対方向に流れる流路(帰路)とを隔てる隔壁47を有する。図4において、循環通路46を循環する冷却媒体の流動方向が矢印で示されている。冷却媒体は、循環通路46に接続された配管52を介して、供給および排出される。尚、冷却媒体の往路と帰路を入れ替えることは可能である。
【0025】
冷却媒体循環層45は、吹き出し口43側の端部において材料ガス流通層41に設けられた凹部44と同一形状(すなわち、略半円形状)の凹部(第2の凹部、切り欠き)48を有している。これら2つの凹部44および48は円弧状の外縁同士が重なるように位置合わせされている。更に冷却媒体循環層45は凹部48を挟む両側の凹部48の周辺部にガス流通通路42(および材料ガス流通層41)よりも外側に張り出した拡張部49(図3(b)および(c)において破線で囲まれている)を有する。冷却媒体の循環通路46を画定する隔壁47は、ガス流通通路42内を流れるガス流の上流側から下流側に向けて伸長しており、凹部48の上流側端部Aよりも下流側であって拡張部49内において終端している。この隔壁47の終端点Bは、冷却媒体が往路から帰路に折り返す折り返し点となっている。
【0026】
このような冷却媒体の循環通路を形成することにより、冷却媒体は、図4に示すように、材料ガス流の上流側から循環通路46に導入されて下流側に向けて流れる。冷却媒体は、凹部48まで達すると凹部48の外縁に沿って流れて拡張部49に流入し、隔壁47の終端点Bにおいて折り返して材料ガス流の上流側に向けて流れる。循環通路46をこのように形成することにより、循環通路46上の各位置における水流のインピーダンスが揃い、冷却媒体は凹部48の周辺部においても滞留を生じることなくガス流通通路42上をくまなく覆うように循環する。ガス流通通路42を流れる材料ガスは、循環通路46を流れる冷却媒体によって温度むらを生じることなく冷却される故、ノズル40内部における材料ガスの熱分解の発生が抑制される。
【0027】
ここで、図5は、比較例に係る冷却媒体循環層450の構成を示す図である。冷却媒体循環層450は、材料ガス流通層41と同一の外形を有しており、上記した本発明の実施例に係る拡張部49に相当する構成部分を有していない。隔壁470は凹部480の上流側端部Aよりも上流側で終端しており、この隔壁470の終端点Bが冷却媒体の循環の折り返し点となっている。冷却媒体の循環通路をこのように形成した場合、凹部480の周辺部480a(図中破線で囲まれている)において冷却媒体が滞留し、周辺部480aにおける冷却機能が低下する。冷却媒体の滞留は、ノズル内部における材料ガスの温度むらの原因となる故、好ましくない。一方、本発明の実施例に係る冷却媒体の循環通路46の構成によれば、凹部48の周辺部における冷却媒体の滞留を防止することが可能となり、温度むらを生じることなくガス流通通路42を流れる材料ガスの冷却を良好に行うことが可能となる。尚、材料ガス流通層41と冷却媒体循環層45の配置を入れ替えることは可能である。配置の入れ替えを行った場合でも上記の実施例の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0028】
以下に、本発明の実施例に係る気相成長装置1を用いた半導体発光装置の製造方法について説明する。尚、図6は、以下に示す製造方法によって製造された半導体発光素子の構成を示す断面図である。
【0029】
AlxInyGazN(0≦x≦1,0≦y≦1,0<z≦1、x+y+z=1)を成長可能な基板を準備し、この基板上に気相成長装置1を用いてAlxInyGazNからなるn層、活性層、p層を積層した半導体膜を結晶成長させた。
【0030】
具体的には、半導体膜の結晶成長を行うための基板として2インチのc面サファイア単結晶基板を用いた。サファイア基板60を反応容器10内のサセプタ20上に設置し、約1000℃の水素雰囲気中で10分間加熱し、サファイア基板60のサーマルクリーニングを行った。
【0031】
次に、成長温度約500℃にて、TMG(トリメチルガリウム)(流量10.4μmol/min)およびNH(アンモニアガス)(流量3.3LM)からなる混合ガスを材料ガス供給ノズル40から約3分間供給して、サファイア基板60上にGaNからなる低温バッファ層61を形成した。押さえガスとしてH(水素)およびN(窒素)からなる混合ガス(混合比1:1)を使用し、これを押さえガス噴出器30より流量30L/minで流した。その後、基板温度を1000℃まで昇温し、低温バッファ層を結晶化させた。
【0032】
次に、基板温度を1000℃に保持してTMG(流量45μmol/min)およびNH(流量4.4LM)からなる混合ガスを材料ガス供給ノズル40から約20分間供給して、結晶化した低温バッファ層61上に厚さ約1μmの下地GaN層62を形成した。押さえガスとしてH(水素)およびN(窒素)からなる混合ガス(混合比1:1)を使用し、これを押さえガス噴出器30より流量30L/minで流した。
【0033】
次に、成長温度1000℃にてTMG(流量45μmol/min)、NH(流量4.4LM)、SiH(モノシラン)(流量2.7×10-9μmol/min)からなる混合ガスを材料ガス供給ノズル40から約40分間供給して、下地GaN層62上に厚さ2μm程度のn型GaN層63を形成した。押さえガスとしてH(水素)およびN(窒素)からなる混合ガス(混合比1:1)を使用し、これを押さえガス噴出器30より流量30L/minで流した。
【0034】
活性層64には、InGaN井戸層/GaN障壁層を繰り返し積層して構成されるMQW(多重量子井戸)構造を適用した。ここでは、InGaN井戸層/GaN障壁層を1周期として、5周期成長を行った。成長温度約700℃にて、TMG(流量3.6μmol/min)、TMI(トリメチルインジウム)(流量10μmol/min)、NH(流量4.4LM)からなる混合ガスを材料ガス供給ノズル40から約33秒間供給して厚さ約2.2nmのInGaN井戸層を形成した後、TMG(流量3.6μmol/min)およびNH(流量4.4LM)からなる混合ガスを材料ガス供給ノズル40から約320秒間供給して厚さ約15nmのGaN障壁層を形成した。そして、これらの処理を5周期分繰り返してn型GaN層63上に活性層64を形成した。押さえガスとしてN(窒素)を使用し、これを押さえガス噴出器30より流量30L/minで流した。
【0035】
次に、成長温度を870℃まで上昇させて、TMG(流量8.1μmol/min)、TMA(トリメチルアルミニウム)(流量7.5μmol/min)、NH(流量4.4LM)、CpMg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)(流量2.9×10-7μmol/min)からなる混合ガスを材料ガス供給ノズル40から約5分間供給して活性層64上に厚さ約40nmのp型AlGaNクラッド層65を形成した。引き続き、成長温度870℃にてTMG(流量18μmol/min)、NH(流量4.4LM)、CpMg(流量2.9×10-7μmol/min)からなる混合ガスを材料ガス供給ノズル40から約7分間供給してp型AlGaNクラッド層65上に厚さ約150nmのp型GaN層66を形成した。押さえガスとしてH(水素)およびN(窒素)からなる混合ガス(混合比1:1)を使用し、これを押さえガス噴出器30より流量30L/minで流した。尚、半導体膜を構成する各層の形成工程において、冷却媒体循環層45に冷却媒体(水)を一定の流量で循環させて、材料ガス流通層41を流れる材料ガスの冷却を行いつつ材料ガスの供給を行った。
【0036】
次に、Clドライエッチングにより半導体膜をp型GaN層66側から部分的にエッチングしてn型GaN層63を部分的に露出させた。続いて、フォトリソグラフィにより電極形成部分に開口を持つレジストマスクを形成した後、EB(電子ビーム)蒸着法によってn電極材料であるTi/Alを積層した。その後、レジストマスク上に堆積したn電極材料をレジストマスクとともに除去することにより、n電極67のパターンニングを行った。さらにn電極67の合金化を促進させてオーミック性を向上させるために500℃にて20秒間の熱処理(RTA(Rapid Thermal Annealing))を行った。次に、スパッタ法によりITOからなる透明導電膜およびTiAuからなるパッド電極をp型GaN層66上に堆積してp電極68を形成した。次に、ダイシングにより、素子分離を行い、LEDチップが作製された。
【0037】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施例に係る気相成長装置1は、ガス流通通路42を形成する材料ガス流通層41と、冷却媒体の循環通路46を形成する冷却媒体循環層45とが積層されて構成された材料ガス供給ノズル40を有する。材料ガス供給ノズル40がこのような積層構造を有することにより、冷却媒体の循環通路46とガス流通通路42の接触面積を大きくすることが可能となり、金属パイプを用いた従来の冷却機構と比較して冷却効率を大幅に向上させることが可能となる。また、材料ガス流通層41および冷却媒体循環層45は、ともに吹き出し口43側の端部に基板の外縁に沿うように形成された半円形状の凹部(切り欠き)44、48を有しており、吹き出し口43は凹部44の端面に沿って形成されている。これにより、基板と吹き出し口43の各位置との距離を最短かつ均一とすることが可能となり、均一な膜質の半導体膜を形成することが可能となる。
【0038】
冷却媒体循環層45は、凹部48の周辺部においてガス流通通路42の外側に張り出した拡張部49を有し、凹部48の端部Aよりも下流であって且つ拡張部49内に冷却媒体の循環の折り返し点Bが配置された冷却媒体の循環通路46を有する。このような、冷却媒体の循環通路の構成によれば、循環通路上の各位置における水流のインピーダンスが揃い、冷却媒体は凹部48の周辺部においても滞留を生じることなくガス流通通路42上をくまなく覆うように循環することができるので、冷却機能を最大限に発揮させることが可能となる。
【0039】
また、本実施例に係る気相成長装置1を用いた半導体発光素子の製造方法によれば、上記の如く、基板と吹き出し口43の各位置との距離が最短且つ均一となり、更に材料ガス流通層41を流れる材料ガスは温度むらを生じることなく冷却されるので、材料ガスが基板上に到達する時点の温度を一定に保つことが可能となり、均一な半導体結晶成長を行うことができ、ひいては良好な膜質の半導体膜を得ることができる。また、材料ガスの供給温度が安定することで成長温度の制御が容易となり、化合物半導体の組成の制御範囲を広げることが可能となり、これによって発光素子の出力向上などが期待できる。
【0040】
図7は、本発明の他の実施例に係る冷却媒体循環層45aの構成を示す図である。冷却媒体循環層45aは、材料ガスの吹き出し口側端部に半円形状の凹部48を有する。凹部48を挟む両側の凹部48の周辺部にガス流通通路42よりも外側に張り出した拡張部49aを有する。循環通路46を画定する隔壁47は、ガス流通通路42内を流れるガス流の上流側から下流側に向けて伸長しており、凹部48の上流側端部Aよりも下流側であり且つ拡張部49a内において終端している。隔壁47の終端点Bが冷却媒体の循環の折り返し点となっている。以上の点は、先に述べた冷却媒体循環層45と共通する点である。
【0041】
拡張部49aは、材料ガス流通層41の上面および側面を覆うように延在しており、材料ガス流通層41を包埋するように形成されている。材料ガス流通層41の側面を覆う拡張部49a内にも冷却媒体の循環通路が形成されている。すなわち、冷却媒体の循環通路46は、ガス流通通路42の上方のみならず側方にも延在し、ガス流通通路42全体を包埋するように形成されている。図7において、循環通路46が延在する範囲がハッチングで示されている。このように、改変された冷却媒体循環層45aの構成によれば、冷却媒体の循環通路46がガス流通通路42の上方および側方に延在し、ガス流通通路42を包埋しているので、これらの接触面積が更に拡大され、冷却効率を更に高めることが可能となる。
【0042】
なお、上記した実施例においては、2フロー方式の気相成長装置に本発明を適用した場合を例示したが、本発明はこの例に限定されるものではない。例えば、押さえガスを用いることなく材料ガスが基板主面と略平行な層流を形成し得るように反応室を管状容器で囲った所謂ライナー管方式の気相成長装置に本発明を適用することが可能である。また、上記した実施例においては、GaN系半導体膜を形成する場合を例示したが、半導体膜の材料や材料ガスの種類は特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0043】
1 気相成長装置
10 反応容器
10a 反応室
20 サセプタ
23 ヒータ
30 押さえガス噴出器
40 材料ガス供給ノズル
41 材料ガス流通層
42 ガス流通通路
43 吹き出し口
44 凹部(第1の凹部)
45 冷却媒体循環層
46 循環通路
47 隔壁
48 凹部(第2の凹部)
49 拡張部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長法によって半導体結晶を形成する気相成長装置において、前記半導体結晶を形成するための材料ガスを供給する材料ガス供給ノズルであって、
材料ガスの吹き出し口と、前記吹き出し口に連通するガス流通通路とを有する材料ガス流通層と、
前記ガス流通通路を覆う冷却媒体の循環通路を有する冷却媒体循環層と、を含み、
前記材料ガス流通層は、前記吹き出し口側の端部において材料ガス流の上流側に凹んだ第1の凹部を有し、前記吹き出し口は、前記第1の凹部の端面に沿って設けられ、
前記冷却媒体循環層は、前記第1の凹部と外縁が重なる第2の凹部と、前記第2の凹部を挟む両側の前記第2の凹部の周辺部に前記ガス流通通路よりも外側に張り出した拡張部と、を有し、前記循環通路は、前記第2の凹部の前記材料ガス流の上流側端部よりも下流側であって前記拡張部内に前記冷却媒体の循環の折り返し点を有することを特徴とする材料ガス供給ノズル。
【請求項2】
前記循環通路は、前記冷却媒体が前記材料ガス流の方向と同一の方向に流れる流路と、前記材料ガス流の方向と反対の方向に流れる流路とを隔てる隔壁を有し、前記隔壁は前記材料ガス流の上流側から下流側に向けて伸長し、前記折り返し点で終端していることを特徴とする請求項1に記載の材料ガス供給ノズル。
【請求項3】
前記循環通路は、前記ガス流通通路を包埋していることを特徴とする請求項1または2に記載の材料ガス供給ノズル。
【請求項4】
前記第1および第2の凹部は、略半円形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の材料ガス供給ノズル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の材料ガス供給ノズルを反応容器内部に有する気相成長装置であって、
前記反応容器の内部において前記吹き出し口の側方に設けられた基板支持面を有するサセプタと、
前記サセプタを加熱するヒータと、を含み、
前記材料ガス供給ノズルは、前記吹き出し口から前記基板支持面に対して略平行な方向に材料ガスを噴出することを特徴とする気相成長装置。
【請求項6】
請求項5に記載の気相成長装置を用いた半導体膜の製造方法であって、
成長用基板を前記サセプタ上の基板支持面に配置する工程と、
前記サセプタを加熱しつつ前記材料ガス供給ノズルから材料ガスを供給して前記成長用基板上に半導体結晶を成長させる工程と、を含むことを特徴とする半導体膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−244044(P2012−244044A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114646(P2011−114646)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】