説明

欠陥検査方法および欠陥検査装置

【課題】
従来技術によれば,試料に熱ダメージを与えることなく,短時間で高感度に欠陥検出・寸法算出することが困難であった。
【解決手段】
被検査対象物である試料の表面の領域を所定の照明条件にて照明する照明工程と、該試料を並進および回転させる試料走査工程と、該試料の照明領域から複数の方向に散乱する複数の散乱光のそれぞれを、前記試料走査工程における走査方向および該走査方向と概略直交する方向の各々について複数画素に分割して検出する散乱光検出工程と、前記散乱光検出工程において検出された複数の散乱光のそれぞれについて、該試料の概略同一領域から概略同一方向に散乱した散乱光を加算処理し、該加算処理した散乱光に基づき欠陥の有無を判定し、該判定された欠陥に対応する複数の散乱光のうち少なくとも一の散乱光を用いて該判定された欠陥の寸法を算出する処理工程と、を備える欠陥検査方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料表面に存在する微小な欠陥を検査し,欠陥の種類および欠陥寸法を判定して出力する欠陥検査方法および欠陥検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板や薄膜基板等の製造ラインにおいて,製品の歩留まりを維持・向上するために,半導体基板や薄膜基板等の表面に存在する欠陥の検査が行われている。欠陥検査の従来技術としては特開平9−304289号公報(特許文献1),特開2006−201179号公報(特許文献2),米国特許出願公開第2006/0256325号公報(特許文献3)などが知られている。これらは,微小な欠陥を検出するために試料表面上に数十μmの寸法に照明光を集光して照射し,欠陥からの散乱光を集光・検出し,数十nmから数μm以上の寸法の欠陥を検査する技術である。試料(検査対象物)を保持するステージを回転移動および並進移動させることにより,照明スポットが試料表面上をらせん状に走査し,試料全面が検査される。
【0003】
また,特許文献1および特許文献2では,欠陥からの散乱光の高角度に出射する成分と低角度に出射する成分を検出しその比によって欠陥の種類を分類する技術が述べられている。
また,特許文献2では,欠陥からの散乱光の強度に基づいて,検出した欠陥の寸法を算出する技術が述べられている。
また,特許文献3では,試料に与える熱ダメージを低減するため,検査対象面を検査中に照明光のパワー,あるいは照明スポットの走査速度,あるいは照明スポットの寸法を制御することが述べられている。より具体的には,試料に与える熱ダメージは照射する照明パワー密度と照射時間との積によって決まると仮定し,これが一定値を越えないように,走査中の試料上の半径位置に応じて照明光のパワー,あるいは照明スポットの走査速度,あるいは照明スポットの寸法を変化させることが述べられている。
【0004】
また,一方向に長いガウスビームで試料上の広い範囲を照明し,CCDなどの複数画素の検出器を用いて照明領域を一括に検出することで,短い時間で試料全面を検査する技術として,米国特許第6608676号公報(特許文献4)が知られている。
また,斜入射照明において非球面レンズや回折光学素子を用いて検査対象表面上で複数の照明スポットが並んだ形に照明光を整形する技術として,米国特許第7385688号公報(特許文献5)が知られている。
また,検査対象表面の二次元領域の像を斜方から結像し,TDIイメージセンサ等を用いて検出信号を積分して検出する技術として,特開2006−330007号公報(特許文献6)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−304289号公報
【特許文献2】特開2006−201179号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0256325号公報
【特許文献4】米国特許第6608676号公報
【特許文献5】米国特許第7385688号公報
【特許文献6】特開2006−330007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体等の製造工程で用いられる欠陥検査には,微小な欠陥を検出すること,検出した欠陥の寸法を高精度に計測すること,試料を非破壊で(あるいは試料を変質させること無く)検査すること,同一の試料を検査した場合に常に一定の検査結果(検出欠陥の個数,位置,寸法,欠陥種)が得られること,一定時間内に多数の試料を検査することなどが求められる。微小な欠陥からの散乱光は微弱であるため,試料表面で発生する散乱光のフォトンショットノイズによるばらつきに埋もれ,検出することが難しい。単位面積当たりの照明パワーあるいは単位面積当たりの検査時間を増加させれば,検出される散乱光量が増加するため高感度化および散乱光量に基づく欠陥寸法推定の高精度化が実現できる。しかし,単位面積当たりの照明パワーを増加させることは試料表面の熱ダメージを引き起こすため限界がある。また,単位面積当たりの検査時間を増加させると,試料全面の検査に要する時間が増加するため,一定時間内に多数の試料を検査するニーズに合わない。
【0007】
前記特許文献1,特許文献2,特許文献3,特許文献4,および特許文献5に述べられた技術では,特に寸法20nm以下の微小な欠陥については,欠陥から発生する散乱光が極微弱となり,試料表面で発生する散乱光によるノイズ,検出器のノイズ,あるいは検出回路のノイズに欠陥信号が埋もれるため検出不可能となる。あるいは,これを避けるために照明パワーをあげた場合,照明光による試料の温度上昇が大きくなり,試料への熱ダメージが発生する。あるいは,これを避けるために試料の走査速度を低下させた場合,一定時間内に検査できる試料の面積あるいは試料の数が減少する。以上より,熱ダメージを避けつつ微小な欠陥を高速に検出することが困難であった。
【0008】
また,特許文献3,特許文献4,および特許文献5に述べられた技術では,一方向に長い照明スポットを形成し,照明領域を複数の画素からなる検出器上に結像して複数画素検出を行うことで,蓄積時間,加算回数の増加により感度を向上し,より微小な欠陥を検出することができるが,数百画素あるいは数千画素以上の多画素化を行うには,結像検出に必要な検出レンズの視野が非常に広くなるため,検出レンズの製作,調整が困難となる,あるいは検出レンズが高価になるという課題があった。
【0009】
特許文献6に述べられた技術では,二次元検出を行うことで,上記一次元に複数画素を並べる方法より多数の画素を配置することができる利点があるが,円形の検査対象の高速検査に適した回転走査あるいはらせん状走査を行う場合,走査によって欠陥像が円弧状の軌跡を描いて移動するため,二次元の格子状に配列した画素の並びと欠陥の走査軌跡が一致せず,複数画素による欠陥信号蓄積の効果が十分に得られないという課題があった。また,試料表面の法線に対して傾斜した方向から検出を行う場合,試料表面の上下動によって欠陥の像が変位するため,複数画素による欠陥信号蓄積の効果が十分に得られないという課題があった。また,上記原因により欠陥信号が複数の画素にまたがって検出されることで,欠陥の位置を高精度に特定することができないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本願で開示される発明の概要を例示すると以下の通りである。
【0011】
(1)被検査対象物である試料の表面の領域を所定の照明条件にて照明する照明工程と、該試料を並進および回転させる試料走査工程と、該試料の照明領域から複数の方向に散乱する複数の散乱光のそれぞれを、前記試料走査工程における走査方向および該走査方向と概略直交する方向の各々について複数画素に分割して検出する散乱光検出工程と、前記散乱光検出工程において検出された複数の散乱光のそれぞれについて、該試料の概略同一領域から概略同一方向に散乱した散乱光を加算処理し、該加算処理した散乱光に基づき欠陥の有無を判定し、該判定された欠陥に対応する複数の散乱光のうち少なくとも一の散乱光を用いて該判定された欠陥の寸法を算出する処理工程と、を備える欠陥検査方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,試料全面を短時間で走査し,微小な欠陥を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る欠陥検査装置の一実施形態を示す全体概略構成図である。
【図2】本発明に係る照明部により実現される照明強度分布形状の第一例を示す図である。
【図3】本発明に係る照明部により実現される照明強度分布形状の第二例を示す図である。
【図4】本発明に係る照明部により実現される照明強度分布形状の第三例を示す図である。
【図5】本発明に係る試料面上下動による像の位置ずれ方向を示す図である。
【図6】本発明に係る試料面上下動による像の位置ずれ量を示す図である。
【図7】本発明に係る照明強度分布制御部が備える光学素子の第一例を示す図である。
【図8】本発明に係る照明強度分布制御部が備える光学素子の第二例を示す図である。
【図9】本発明に係る照明強度分布制御部が備える光学素子の第三例を示す図である。
【図10】本発明に係る照明強度分布制御部が備える光学素子の第四例を示す図である。
【図11】本発明に係る照明強度分布制御部が備える光学素子の第五例を示す図である。
【図12】本発明に係る照明強度分布制御部が備える光学素子の第六例を示す図である。
【図13】本発明に係る照明強度分布制御部が備える光学素子の第七例を示す図である。
【図14】本発明に係る照明部における照明光の状態を計測手段および調整手段の第一例を示す図である。
【図15】本発明に係る照明部における照明光の状態を計測手段および調整手段の第二例を示す図である。
【図16】本発明に係る照明部において光路分岐と光路合成によって単一パルスあたりのエネルギーを低減する手段の第一例を示す図である。
【図17】光路分岐と光路合成による単一パルスあたりのエネルギー低減結果を示す図である。
【図18】本発明に係る照明部において光路分岐と光路合成によって単一パルスあたりのエネルギーを低減する手段の第二例を示す図である。
【図19】本発明に係る試料表面上の照明分布形状と走査方向を示す図である。
【図20】走査による照明スポットの軌跡を示す図
【図21】本発明に係る検出部の配置および検出方向を側面から見た図である。
【図22】本発明に係る低角検出部の配置及び検出方向を上面から見た図である。
【図23】本発明に係る高角検出部の配置及び検出方向を上面から見た図である。
【図24】本発明に係る検出部の構成の第一例を示す図である。
【図25】本発明に係る検出部の構成の第二例を示す図である。
【図26】本発明に係るアナログ処理部の構成を示す図である。
【図27】本発明に係るデジタル処理部の構成を示す図である。
【図28】本発明に係る複数画素センサの画素の配列と試料走査の軌跡との関係を示す図である。
【図29】本発明に係る回転走査によって起こる欠陥信号の広がりを示す図である。
【図30】本発明に係る検出部の構成の第三例を示す図である。
【図31】本発明に係る検出部の構成の第四例を示す図である。
【図32】本発明に係る試料の上下動による像の位置ずれとその補正方法を示す図である。
【図33】本発明に係る試料面の高さ変動の計測手段の例を示す図である。
【図34】本発明に係る検出部における光学的な位置ずれ補正の例をを示す図である。
【図35】本発明に係る信号加算処理部の構成を示す図である。
【図36】本発明に係る照明強度分布と複数画素センサとの位置関係の例を示す図である。
【図37】本発明に係る照明強度分布と複数画素センサとの位置関係の例を示す図である。
【図38】本発明に係る複数の線状照明を作る照明光強度分布制御部の構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態の概略構成例を図1で説明する。照明部101,検出部102,試料Wを載置可能なステージ103,信号処理部105,制御部53,表示部54,入力部55を適宜備える。
照明部101はレーザ光源2,アッテネータ3,出射光調整部4,ビームエキスパンダ5,偏光制御部6,照明強度分布制御部7を適宜備える。
レーザ光源2から射出されたレーザ光ビームは,アッテネータ3で所望のビーム強度に調整され,出射光調整部4で所望のビーム位置,ビーム進行方向に調整され,ビームエキスパンダ5で所望のビーム径に調整され,偏光制御部6で所望の偏光状態に調整され,照明強度分布制御部7で所望の強度分布に調整され,試料Wの検査対象領域に照明される。
【0015】
照明部101の光路中に配置された出射光調整部4の反射ミラーの位置と角度により試料表面に対する照明光の入射角が決められる。照明光の入射角は微小な欠陥の検出に適した角度に設定される。照明入射角が大きいほど,すなわち照明仰角(試料表面と照明光軸との成す角)が小さいほど,試料表面上の微小異物からの散乱光に対してノイズとなる試料表面の微小凹凸からの散乱光(ヘイズと呼ばれる)が弱まるため,微小な欠陥の検出に適する。このため,試料表面の微小凹凸からの散乱光が微小欠陥検出の妨げとなる場合には,照明光の入射角は好ましくは75度以上(仰角15度以下)に設定するのがよい。一方,斜入射照明において照明入射角が小さいほど微小異物からの散乱光の絶対量が大きくなるため,欠陥からの散乱光量の不足が微小欠陥検出の妨げとなる場合には,照明光の入射角は好ましくは60度以上75度以下(仰角15度以上30度以下)に設定するのがよい。照明入射角は可変としてもよい。また,斜入射照明を行う場合,照明部101の偏光制御部6における偏光制御により,照明の偏光をP偏光とすることで,その他の偏光と比べて試料表面上の欠陥からの散乱光が増加する。
【0016】
また,必要に応じて,図1に示すように,照明部101の光路中にミラー21を挿入し,適宜他のミラーを配置することにより,照明光路が変更され,試料面に対して実質的に垂直な方向から照明光が照射される(垂直照明)。このとき,試料面上の照明強度分布は照明強度分布制御部7vにより,斜入射照明と同様に制御される。ミラー21と同じ位置にビームスプリッタを挿入することで,斜入射照明と試料面の凹み状の欠陥(研磨キズや結晶材料における結晶欠陥)からの散乱光を得るには,試料表面に実質的に垂直に入射する垂直照明が適する。なお,図1に示す照明強度分布モニタ24については後述する。
【0017】
レーザ光源2としては,試料表面近傍の微小な欠陥を検出するには,試料内部に浸透しづらい波長として,短波長(波長355nm以下)の紫外または真空紫外のレーザビームを発振し,かつ出力2W以上の高出力のものが用いられる。出射ビーム径は1mm程度である。試料内部の欠陥を検出するには,試料内部に浸透しやすい波長として,可視あるいは赤外のレーザビームを発振するものが用いられる。
【0018】
アッテネータ3は,第一の偏光板と,照明光の光軸周りに回転可能な1/2波長板と,第二の偏光板を適宜備える。アッテネータ3に入射した光は,第一の偏光板により直線偏光に変換され,1/2波長板の遅相軸方位角に応じて偏光方向が任意の方向に回転され,第二の偏光板を通過する。1/2波長板の方位角を制御することで,光強度が任意の比率で減光される。アッテネータ3に入射する光の直線偏光度が十分高い場合は第一の偏光板は必ずしも必要ない。アッテネータ3は入力信号と減光率との関係が事前に較正されたものを用いる。アッテネータ3として,グラデーション濃度分布を持つNDフィルタを用いることも可能である。
【0019】
出射光調整部4は複数枚の反射ミラーを備える。ここでは二枚の反射ミラーで構成した場合の実施例を説明するが,これに限られるものではなく,三枚以上の反射ミラーを適宜用いても構わない。ここで,三次元の直交座標系(XYZ座標)を仮に定義し,反射ミラーへの入射光が+X方向に進行しているものと仮定する。第一の反射ミラーは入射光を+Y方向に偏向するよう設置され(XY面内での入射・反射),第二の反射ミラーは第一の反射ミラーで反射した光を+Z方向に偏向するよう設置される(YZ面内での入射・反射)。各々の反射ミラーは平行移動とあおり角調整により,出射調整部4から出射する光の位置,進行方向(角度)が調整される。前記のように,第一の反射ミラーの入射・反射面(XY面)と第二の反射ミラー入射・反射面(YZ面)が直交するような配置とすることで,出射調整部4から出射する光(+Z方向に進行)のXZ面内の位置,角度調整と,YZ面内の位置,角度調整とを独立に行うことができる。
【0020】
ビームエキスパンダ5は二群以上のレンズ群を有し,入射する平行光束の直径を拡大する機能を持つ。例えば,凹レンズと凸レンズの組合せを備えるガリレオ型のビームエキスパンダが用いられる。ビームエキスパンダ5は二軸以上の並進ステージに設置され,所定のビーム位置と中心が一致するように位置調整が可能である。また,ビームエキスパンダ5の光軸と所定のビーム光軸が一致するようにビームエキスパンダ5全体のあおり角調整機能が備えられる。レンズの間隔を調整することにより,光束直径の拡大率を制御することが可能である(ズーム機構)。ビームエキスパンダ5に入射する光が平行でない場合には,レンズの間隔の調整により,光束の直径の拡大とコリメート(光束の準平行光化)が同時に行われる。光束のコリメートはビームエキスパンダ5の上流にビームエキスパンダ5と独立にコリメートレンズを設置して行ってもよい。ビームエキスパンダ5によるビーム径の拡大倍率は5倍から20倍程度であり,光源から出射したビーム径1mmのビームが5mmから20mm程度に拡大される。
【0021】
偏光制御部6は,1/2波長板,1/4波長板によって構成され,照明光の偏光状態を任意の偏光状態に制御する。照明部101の光路の途中において,ビームモニタ22,23によって,ビームエキスパンダ5に入射する光,および照明強度分布制御部7に入射する光の状態が計測される。
【0022】
図2乃至図3は、本発明に係る照明部により実現される照明強度分布形状の一例を示す図である。
照明部101より試料面に導かれる照明光軸120と照明強度分布形状との位置関係の模式図を示す。なお,図2乃至図3における照明部101の構成は照明部101の構成の一部を示したものであり,出射光調整部4,ミラー21,ビームモニタ22,23等は省略されている。
図2に,斜入射照明の入射面(照明光軸と試料表面法線とを含む面)の断面の模式図を示す。斜入射照明は入射面内にて試料表面に対して傾斜している。照明部101により入射面内において実質的に均一の照明強度分布が作られる。照明強度が均一である部分の長さは,単位時間当たりに広い面積を検査するため,100μmから数mm程度である。
図3に,試料表面法線を含みかつ斜入射照明の入射面に垂直な面の断面の模式図を示す。この面内においても,試料面上で均一な照明強度分布を成し,照明強度分布の長さは,100μmから数mm程度である。照明強度分布制御部7は,後述する非球面レンズ,回折光学素子,シリンドリカルレンズアレイ,ライトパイプなどの光学素子を備える。照明強度分布制御部7を構成する光学素子は図2,図3に示されるように,照明光軸に垂直に設置される。
【0023】
図7は、本発明に係る照明部により実現される照明強度分布形状の第一例を示す図である。
照明強度分布制御部7(図7)は入射する光の位相分布および強度分布に作用する光学素子を備える。照明強度分布制御部7を構成する光学素子として,回折光学素子71(DOE:Diffractive Optical Element)が用いられる。回折光学素子71は,入射光を透過する材質からなる基板の表面に,光の波長と同等以下の寸法の微細な起伏形状を形成したものである。入射光を透過する材質として,紫外光用には溶融石英が用いられる。回折光学素子71を通過することによる光の減衰を抑えるため,反射防止膜によるコーティングが施されたものを用いるとよい。前記の微細な起伏形状の形成にはリソグラフィ法が用いられる。前記ビームエキスパンダ5を通過後に準平行光となった光を,回折光学素子71を通過させることにより,回折光学素子71の起伏形状に応じた試料面上照明強度分布が形成される。回折光学素子71の起伏形状は,試料表面上で形成される照明強度分布が前記入射面内に均一な分布となるよう,フーリエ光学理論を用いた計算に基づいて求められた形状に設計され,製作される。照明強度分布制御部7に備えられる光学素子は,入射光の光軸との相対位置,角度が調整可能となるよう,二軸以上の並進調整機構,および二軸以上の回転調整機構が備えられる。さらに,光軸方向の移動によるフォーカス調整機構が設けられる。
【0024】
照明強度分布制御部7の他の変形例として,図4に,照明強度分布制御部7を構成する光学素子を試料面と平行に設置する例を示す。このように設置する光学素子には,光学素子表面の法線に対して大きく傾斜した軸外光に対する集光性能が要求されるが,光学素子表面と試料面との距離が一定となるため集光が容易になる。
【0025】
図14は、本発明に係る照明部における照明光の状態を計測手段および調整手段の第一例を示す図である。
照明部101における照明光状態計測手段について図14を用いて説明する。ビームモニタ22は,出射光調整部4を通過した照明光の位置および角度(進行方向)を計測して出力する。ビームモニタ23は,照明強度分布制御部7に入射する照明光の位置および波面を計測して出力する。
【0026】
ビームモニタ22における照明光の位置計測は,照明光の光強度の重心位置を計測することによって行われる。具体的な位置計測手段としては,光位置センサ(PSD:Position Sensitive Detector),あるいはCCDセンサやCMOSセンサなどのイメージセンサが用いられる。ビームモニタ22における照明光の角度計測は前記位置計測手段より光源から遠く離れた位置に設置された光位置センサあるいはイメージセンサによって行われる。あるいは,角度計測は照明光をコリメータレンズに入射させ,コリメータレンズの焦点位置に光位置センサあるいはイメージセンサを置いて照明光による集光スポット位置を計測することで行われる。ビームモニタ22において計測された照明光位置,照明光角度は制御部53に入力され,表示部54に表示される。照明光位置あるいは角度が所定の位置あるいは角度からずれていた場合は,前記出射光調整部4において所定の位置に戻るよう調整される。
【0027】
ビームモニタ23における照明光の位置計測は,ビームモニタ22における位置計測手段と同様の手段によって行われる。ただし,ビームモニタ23の計測対象位置において,ビーム径が数mm以上に拡大されているため,必要に応じて計測対象位置を光位置センサ等の位置計測手段の検出器受光面に縮小投影して位置計測を行う。ビームモニタ23における照明光の波面計測は,照明強度制御部7に入射する光の平行度を測定するために行われる。照明光がシアリング干渉計による計測,あるいはシャックハルトマン波面センサによる計測が行われる。シアリング干渉計は,両面を平坦に研磨した厚さ数mm程度の光学ガラスを照明光路中に斜めに傾斜させて挿入し,表面による反射光と裏面による反射光とをスクリーンに投影した際に観測される干渉縞の模様によって,照明光の発散・収束状態を計測するものであり,シグマ光機社製SPUV−25などがある。スクリーン位置にCCDセンサやCMOSセンサなどのイメージセンサを設置すれば照明光の発散・収束状態の自動計測が可能である。シャックハルトマン波面センサは,細かなレンズアレイによって波面を分割してCCDセンサなどのイメージセンサに投影し,投影位置の変位から個々の波面の傾斜を計測するものである。シアリング干渉計と比較して,部分的な波面の乱れなど詳細な波面計測を行うことができる。波面計測により照明強度制御部7に入射する光が準平行光でなく,発散あるいは収束していることが判明した場合,前段のビームエキスパンダ5のレンズ群を光軸方向に変位させることで,準平行光に近づけることができる。
また,図15は、本発明に係る照明部における照明光の状態を計測手段および調整手段の第二例を示す図であるが、波面計測により照明強度制御部7に入射する光の波面が部分的に傾斜していることが判明した場合,図15のようにSLMの一種である空間光位相変調素子26を照明強度制御部7の前段に挿入し,波面が平坦になるよう光束断面の位置ごとに適当な位相差を与えることで,波面を平坦に近づける,すなわち照明光を準平行光に近づけることができる。以上の波面精度計測・調整手段により,照明強度分布制御部7に入射する光の波面精度(所定の波面(設計値)からのずれ)がλ/10rms以下に抑えられる。
【0028】
照明強度分布制御部7において調整された試料面上の照明強度分布は,照明強度分布モニタ24によって計測される。なお,図1で示したように,垂直照明を用いる場合でも,同様に,照明強度分布制御部7vにおいて調整された試料面上の照明強度分布が照明強度分布モニタ24によって計測される。照明強度分布モニタ24はレンズを介してCCDセンサやCMOSセンサなどのイメージセンサ上に試料面を結像して画像として検出するものである。照明強度分布モニタ24で検出された照明強度分布の画像は制御部53において処理され,強度の重心位置,最大強度,最大強度位置,照明強度分布の幅,長さ(所定の強度以上あるいは最大強度値に対して所定の比率以上となる照明強度分布領域の幅,長さ)などが算出され,表示部54において照明強度分布の輪郭形状,断面波形などと共に表示される。
【0029】
斜入射照明を行う場合,試料面の高さ変位によって,照明強度分布の位置の変位およびデフォーカスによる照明強度分布の乱れが起こる。これを抑制するため,試料面の高さを計測し,高さがずれた場合は照明強度分布制御部7,あるいはステージ103のZ軸による高さ調整によりずれを補正する。試料面の高さ計測は,光線射出部31と,光線射出部31から射出し試料面で拡散反射した光線を受光する受光部32からなる。光線射出部31は半導体レーザなどの光源と投光レンズを備える。受光部32は受光レンズと光位置センサを備える。半導体シリコン表面や磁気ディスク基板表面など光沢の強い試料面の計測を行うため,光線射出部31から射出し試料面で正反射した光を受光部32で検出するよう,光線射出部31と受光部32が配置される。試料面の高さ変位は,三角測量の原理により,受光部32の光位置センサにて検出される光スポットの位置ずれとして検出される。
【0030】
試料面の高さ変位による,照明光照射位置の試料面内方向の位置ずれの補正は,照明強度分布制御部7の下流に設置され照明光を試料面に向ける偏向手段33の偏向角度調整により行われる。偏向手段33は,照明光を偏向する反射ミラーおよび反射ミラーの照明光軸に対するあおり角を制御するピエゾ素子を備え,あおり角を±1mrad程度の範囲で400Hz以上の周波数で制御するものである。高さ変位計測値と照明光入射角から照明光照射位置の試料面内方向の位置ずれ量が求められ,このずれを補正するよう,偏向手段33において制御部53から出力された制御信号をうけ反射ミラーが制御される。なお,照明光照射位置の試料面内方向の位置ずれは,照明強度分布モニタ24を用いて照明強度分布の重心位置等を直接計測することによっても可能である。試料面の高さ変位による,照明光照射位置の試料面内方向の位置ずれを上記偏向手段33により補正した場合,照明強度分布制御部7と試料表面との光路長が補正前とずれるため,ずれ量によっては照明スポットのデフォーカスが起こる。光路長の変化量は高さ変位計測値と高さ変位計測値と照明光入射角から求められ,これに基づいて,照明強度分布制御部7に備えられる光学素子の光軸方向の位置調整あるいはビームエキスパンダ5の発散角調整などによりデフォーカスが低減される。
【0031】
光源2として,高出力が得やすいパルスレーザを用いる場合は,試料に与えられる照明のエネルギーがパルスの入射する瞬間に集中するため,パルスの入射による瞬間的な温度上昇に起因して試料に熱ダメージが生じる場合がある。
図17は光路分岐と光路合成による単一パルスあたりのエネルギー低減結果を示す図であるが、パルスの入射による試料への熱ダメージを回避するためには,パルスレーザの光路を分岐し,分岐した光路間に光路差を付けた後で光路を合成することで,図17に示すように総エネルギーを保ちつつ一パルスあたりのエネルギーを減少させることが有効である。
【0032】
図16は、本発明に係る照明部において光路分岐と光路合成によって単一パルスあたりのエネルギーを低減する手段の第一例を示す図である。。
ビームエキスパンダ5を通過した後の照明光が,偏光ビームスプリッタ151により,偏光ビームスプリッタ151にて反射した第一の光路と偏光ビームスプリッタ151を透過した第二の光路とに分岐される。第一の光路はレトロリフレクタ152により反射して戻り,偏光ビームスプリッタ153で反射され,第二の光路と合成される。レトロリフレクタ152は互いに直交する二枚以上の反射ミラーを備え,入力光を180度反対の方向に折り返すものである。偏光ビームスプリッタ151にて反射する光強度と透過する光強度を等しくするため,波長板150により,照明光の偏光が円偏光あるいは斜め45度の直線偏光などに調整される。第一の光路と第二の光路との間の光路差をLとすると,第一の光路を通過した光のパルスと第二の光路を通過した光のパルスの時間間隔Δtp=L/cとなる。Δtpを,単一のパルスが入射した際の温度上昇が緩和するのに要する時間と同等以上にすることで,単一パルスによる試料の瞬間的な温度上昇および複数パルスによる熱の蓄積による温度上昇が抑制される。
【0033】
第一の光路の折り返しは互いに独立した二枚のミラーを用いても可能である。互いに独立した二枚のミラーを用いる場合、二枚のミラー間の相対的な角度のずれが生じた場合に合成する二光束間の角度ずれが生じるが,レトロリフレクタ152を用いとそのような角度ずれが生じないという利点がある。図16に示す光学系を含む照明部101はアルミニウムなどでできた光学定盤上に設置されるが,温度変化等の環境変化による光学定盤の歪みなどの原因で,レトロリフレクタ152に入力される光束に対し,レトロリフレクタ152の位置が図16のX方向に変位した場合,レトロリフレクタ152にて反射して偏光ビームスプリッタ153に戻ってくる光束の位置がX方向に変位して位置ずれが起こる問題がある。そこで,偏光ビームスプリッタ151,153,およびレトロリフレクタ152を照明部101を支持する光学定盤上に載置した定盤154上に設置することで,照明部101を支持する光学定盤全体の配置や形状に起因する歪み等の影響を受けることなく相対的な位置関係を保つことができる。さらに定盤154としてガラスセラミックスなど低膨張の素材からなるものを用いることも,温度変化による歪みを抑制するために有効である。
【0034】
図16に示した光路分岐,合成の変形例を図18を用いて説明する。図16に示した光路分岐,合成を行った場合,二光路の合成後,互いに干渉しない二方向の偏光成分が重ね合わされることで無偏光状態となり,後段の偏光制御部6において直線偏光を生成する場合に照明エネルギーのロスが起こる。そこで,図18に示すように,透過する光の偏光状態を時間的に切替可能な偏光変調素子155を用いることで,全てのパルスの偏光状態を揃え,照明エネルギーのロス無く直線偏光を生成することができる。偏光変調素子155として,光弾性変調器(PEM:Photoelastic Modulator),液晶素子,電気光学変調器,音響光学変調器などが用いられる。
【0035】
照明部101によって試料面上に形成される照度分布形状(照明スポット20)と試料走査方法について図19及び図20を用いて説明する。図19は本発明に係る試料表面上の照明分布形状と走査方向を示す図であり、図20は走査による照明スポットの軌跡を示す図である。
試料Wとして円形の半導体シリコンウェハを想定する。ステージ103は,並進ステージ,回転ステージ,試料面高さ調整のためのZステージ(いずれも図示せず)を備える。照明スポット20は前述の通り矩形の照明強度分布を持ち,その一辺に直交する方向をS2とし,S2に直交する方向をS1とする。回転ステージの回転運動によって,回転ステージの回転軸を中心とした円の円周方向S1に,並進ステージの並進運動によって,並進ステージの並進方向S2に走査される。走査方向S1の走査により試料を1回転する間に,走査方向S2へ照明スポット20の長手方向の長さ以下の距離だけ走査することにより,照明スポットが試料W上にてらせん状の軌跡Tを描き,試料1の全面が走査される。
【0036】
図20に示したようにらせん状に走査する場合,試料面中心部では,実効的な走査速度が0に近づくため,照明光が長時間照射される。よって,試料面全体の中で中心部の温度上昇が最大となる。照明スポット走査速度に応じて照明部101におけるアッテネータ3を用いて照明パワーを制御することで,試料にダメージを与えることなく最大限の散乱光量を得ることが可能となる。
【0037】
検出部102は,照明スポット20から発する複数の方向の散乱光を検出するよう,複数配置される。検出部102の試料Wおよび照明スポット20に対する配置例について図21乃至図23を用いて説明する。図21は本発明に係る検出部の配置および検出方向を側面から見た図であり、図22は本発明に係る低角検出部の配置及び検出方向を上面から見た図であり、図23は本発明に係る高角検出部の配置及び検出方向を上面から見た図である。
図21に検出部102の配置の側面図を示す。試料Wの法線に対して,検出部102による検出方向(検出開口の中心方向)のなす角を,検出天頂角と定義する。検出部102は,検出天頂角が45度以下の高角検出部102hと,検出天頂角が45度以上の低角検出部102lを適宜用いて構成される。高角検出部102h,低角検出部102l各々は,各々の検出天頂角において多方位に散乱する散乱光をカバーするよう,複数の検出部からなる。
図22に,低角検出部102lの配置の平面図を示す。試料Wの表面と平行な平面内において,斜入射照明の進行方向と検出方向とのなす角を検出方位角と定義する。低角検出部102は,低角前方検出部102lf,低角側方検出部102ls,低角後方検出部102lb,およびそれらと照明入射面に関して対称な位置にある低角前方検出部102lf’,低角側方検出部102ls’,低角後方検出部102lb’を適宜備える。例えば,低角前方検出部102lfは検出方位角が0度以上60度以下,低角側方検出部102lsは検出方位角が60度以上120度以下,低角後方検出部102lbは検出方位角が120度以上180度以下に設置される。
図23に,高角検出部102hの配置の平面図を示す。高角検出部102は,高角前方検出部102hf,高角側方検出部102hs,高角後方検出部102hb,および高角側方検出部102hsと照明入射面に関して対称な位置にある高角側方検出部102hs’を適宜備える。例えば,高角前方検出部102hfは検出方位角が0度以上45度以下,高角側方検出部102sは検出方位角が45度以上135度以下,高角後方検出部102bは検出方位角が135度以上180度以下に設置される。なお,ここでは高角検出部102hが4つ,低角検出部102lが6つある場合を示したがこれに限られず,検出部の数・位置を適宜変更してもよい。
【0038】
検出部102の具体的な構成を図24及び図25に示す。図24及び図25は、本発明に係る検出部の構成の第一例を示す図である。
照明スポット20から発生する散乱光を対物レンズ201によって集光し,偏光フィルタ202通過させた後,結像レンズ203によって複数画素センサ204の受光面に導かれ,検出される。散乱光を効率良く検出するため,対物レンズ201の検出NAは0.3以上にするのが好ましい。低角度検出部の場合,対物レンズ201の下端が試料面Wに干渉しないよう,必要に応じて対物レンズの下端を切り欠く。偏光フィルタ202は偏光板あるいは偏光ビームスプリッタからなり,任意の方向の直線偏光成分をカットするよう設置される。偏光板として,透過率80%以上のワイヤグリッド偏光板などが用いられる。楕円偏光を含む任意の偏光成分をカットする場合は,偏光フィルタ202を波長板と偏光板とを備えて構成する。
【0039】
複数画素センサ204は,複数の光検出画素が線状に並んだものである。高感度検出を行うため,量子効率が高く(30%以上の),光電変換後の電子を電気的に増幅可能なもの,また,高速化のため,複数がその信号を並列して読み出し可能なもの,また,検出ダイナミックレンジ確保のため,検出感度(電気的な増幅のゲイン)が電気的手段などにより短時間で容易に変更可能であるもの,などが望ましい。これらを満たす光検出器として,光電変換後の電子を電気的に増幅可能なマルチアノード光電子増倍管,アバランシェフォトダイオードアレイ,EMCCD(Electron Multiplying CCD),EBCCD(Electron Bombardment CCD),EBCMOS(Electron Bombardment CMOS),低ノイズのCMOS−APS(CMOS−Active Pixel Sensor)などが用いられる。また,対物レンズ201および結像レンズ203によって,試料面の像が試料面共役面205に結像される。試料面に対して傾斜したレンズ系によって結像するため,像面も光軸に対して傾斜する。物体面と像面との関係はシャインプルーフの原理より求められる。像面の傾斜によるデフォーカスが生じないよう,傾斜した像面に合せて複数画素センサ204の受光面を設置する。このとき検出対象の散乱光は複数画素センサ204の受光面の法線から傾斜した方向から入射するため,その入射角の透過率を高めるように受光面にコーティングを施すことが望ましい。
【0040】
図25に,検出部102の構成の変形例を示す。照明スポット20から発生する散乱光を対物レンズ201によって集光し,偏光フィルタ202通過させた後,結像レンズ203によって,試料面と共役な面に設置された回折格子206上に試料面の像(中間像)が結像される。回折格子206上に形成された試料面の像は,結像系207によって複数画素センサ204の受光面上に投影され,検出される。複数画素センサ204は,一方向に長い照明スポット20の形状に合せ,画素の配列方向が照明スポット20の像の長手方向に一致するよう,試料面に共役な面内に設置される。回折格子206は,結像レンズ203によって導かれ中間像を形成する光を回折格子206の表面の法線方向に回折させるため,結像レンズ203によって導かれ中間像を形成する光の光軸に沿った入射光のN次回折光が回折格子206の表面の法線方向に向かうよう,回折格子形状が形成されたものを用いる。回折効率を高めるため,用いる回折光は一次回折光(N=1または−1)が適する。また,回折効率を高めるため,ブレーズ回折格子が用いられる。以上の構成をもって試料面に共役な面に複数画素センサ204を設置することで,試料面上のS1方向についてもピントのずれを抑えて広い範囲で有効視野を確保することができ,かつ複数画素センサ204の受光面に対して散乱光を垂直に入射させるため少ない光量ロスで検出することができる。
【0041】
なお,照明スポット走査速度に応じて照明パワーを制御する場合,同一寸法の欠陥でも散乱光信号の波高値が変化する。照明パワー制御に平行して検出部102の複数画素センサ204の電子増倍ゲインを決める印加電圧を制御することにより,照明パワー制御に対応して複数画素センサ204のダイナミックレンジが動的に合せこまれる。印加電圧の制御は,複数画素センサ204の電子増倍ゲインが,照明スポットの照明パワー密度に反比例するように,すなわち照明スポット走査速度ごとに与えられる照明パワーに反比例するように行われる。
【0042】
ここで,照明スポット20の大きさと検出部102の光学倍率,複数画素センサ204の寸法との関係を説明する。高感度,高速検査を行う場合,照明スポット20の長さは概略1mmに設定される。複数画素センサ204として256×256画素が10μmピッチで並んだCCDイメージセンサあるいはCMOSイメージセンサを用いる場合,検出部の光学倍率は2.56倍となり,試料面上に投影される画素のピッチは3.9μmとなる。この条件で試料を回転速度2000rpmで回転させた場合,直径300mmの円形試料は4.5秒で,直径450mmの円形試料は6.8秒で全面が走査される。さらに高感度に検査を行う場合,回転走査の前後の周回で,試料の半径方向に照明スポットを重複して走査を行う。試料を一回転する間のR方向の走査距離を照明スポットのR方向の長さの1/M倍とすることで,照明スポットの走査領域が一つ前の周回で照明スポットが走査した領域と部分的に重なり,結果的に試料上の各所がM回走査される。同一箇所をM回検出した信号を加算することで,前記走査条件に比べて√M倍の感度が得られる。前記走査条件にて,M=2,4,8,16各々での直径300mm試料の全面走査時間は6.4,9.0,13,18秒である。
【0043】
次に,図26及び図27を用いて,広い角度範囲をカバーする複数の検出光学系によって同時に検出される様々な方向の散乱光強度検出信号に基づいて様々な欠陥種の分類や欠陥寸法の推定を高精度に行う信号処理部105について説明する。信号処理部105は,アナログ処理部51,デジタル処理部52を有して構成される。
【0044】
まず,信号処理部105を構成するアナログ処理部51について図26を用いて説明する。ここでは簡単のため複数の検出部102のうち検出部102a,102b(図示しない)の二系統備えた場合のアナログ処理部51の構成について説明する。検出部102a,102b各々に備えられた検出器から出力された信号電流500a,500bは,プリアンプ部501a,501bにより各々電圧に変換されて増幅される。該増幅されたアナログ信号は,さらにローパスフィルタ511a,511bにより高周波数のノイズ成分がカットされ,その後,ローパスフィルタ511a,511bのカットオフ周波数より高いサンプリングレートを備えたアナログ−デジタル変換部(A/D変換部)502a,502bで,デジタル信号に変換されて出力される。
【0045】
なお,上記は複数画素センサ204としてマルチアノード光電子増倍管やアバランシェフォトダイオードアレイなどの電流出力型のセンサを用いた場合のアナログ処理部51の構成である。複数画素センサ204としてEMCCDやEBCCDなどのCCDイメージセンサ,あるいはEBCMOSやCMOS−APSなどのCMOSイメージセンサを用いた場合,信号は電圧で出力されるためプリアンプ部501a,501bは不要である。また,イメージセンサ自身がA/D変換機能までを備えている場合,アナログ処理部51は必要なく,イメージセンサが出力するデジタル信号をデジタル処理部52に入力すればよい。
【0046】
画素を二次元に配列した複数画素センサ204によって試料表面の像を検出し,試料上の同一箇所を複数回検出した信号を加算することで,検出感度を向上することが可能である。通常の直線的な走査の場合,TDI(Time Delay Integration)型のCCDイメージセンサあるいはCMOSイメージセンサを用い,走査速度に同期して,検出した信号電荷の垂直転送を行うことで,同一箇所の信号を垂直転送の段数に相当する回数だけ繰返し検出することができる。
【0047】
本実施例では円形試料の高速検査に適した回転走査を行うため,複数画素センサ204の受光面上において試料上の同一箇所の像が円弧(T1,T2)を描いて移動する(図28)。図28は本発明に係る複数画素センサの画素の配列と試料走査の軌跡との関係を示す図である。
試料の外周部を走査する際は,像の軌跡の曲率半径が大きいので,通常のTDI型のイメージセンサと同様に電荷を転送すればよい。試料の内周部を走査する際は,像の軌跡の曲率半径が小さいため,軌跡が図28における上下方向の複数行の画素にまたがる。これにより,通常のTDI型のイメージセンサと同様に図28の左右方向(試料の円周方向に対応)に信号電荷を転送すると欠陥位置の検出信号に欠陥以外の位置の検出信号(ノイズ)が混入し,検出感度が低下する課題がある。そこで,図28の矢印群T3で示したように上下方向(試料の半径方向)に信号転送をずらすことで,像の軌跡T1に合せてハッチングした画素に入った信号が加算され,高感度な検出を行うことができる。像の軌跡の曲率半径は試料の半径方向の走査位置によって変わるため,加算画素の組合せは試料の半径方向の走査位置に合せて変化させる。さらに,像の軌跡の図28左右方向の移動速度も像の軌跡の曲率半径が小さい条件では一様ではないため,軌跡の左右方向の移動速度に合せて信号垂直転送速度も変化させる。複数画素センサ204として,マルチアノード光電子増倍管やアバランシェフォトダイオードアレイなどの,全画素の信号を同時並列に読み出す検出器,あるいは高速並列信号読み出し,処理が可能なCMOS−TDIイメージセンサを用いることで,上記のように信号加算画素の組合せを変化させることおよび垂直転送速度を変化させることが可能になる。
【0048】
上記の加算がその組合せの変更を行わない場合,欠陥の検出信号が試料の半径方向に関して複数の画素にまたがり,広がりを持つ(図29)。図29は本発明に係る回転走査によって起こる欠陥信号の広がりを示す図である。この広がりは半径方向に応じて数式数1によって求められる。
【数1】

【0049】
数1において,Rは試料の半径方向の走査位置,x0が信号の広がりがない場合の本来の欠陥位置である。この関係式を用いて広がりが無かった場合の理想信号を復元する処理を行うことで,信号ピーク値の低下による感度低下および半径方向の欠陥位置の検出誤差を低減することができる。具体的には,後述のデジタル処理部52において,半径方向の広がりを持つ欠陥信号のプロファイルに対し,数1による広がり関数のプロファイルの畳み込み演算あるいは逆畳み込み演算が行われる。
【0050】
次に,信号処理部105を構成するデジタル処理部52について図27を用いて説明する。アナログ処理部51からの各々の出力信号は,デジタル処理部52において,ハイパスフィルタ604a,604bの各々により欠陥信号603a,603bの各々が抽出され,欠陥判定部605に入力される。欠陥は試料面上において局在しているため,欠陥信号は短時間で瞬間的に出力され,周波数帯域でいうと高周波の成分を持つ。従って,ハイパスフィルタ604a,604bの各々により,欠陥信号波形の含まれる高い周波数帯域を通し,ノイズが相対的に多く含まれる低い周波数帯域および直流成分をカットすることで,欠陥信号603a,603bのS/Nが向上する。各ハイパスフィルタ604a,604bとしては,特定のカットオフ周波数を持ちその周波数以上の成分を遮断するよう設計されたハイパスフィルタ,あるいはバンドパスフィルタ,あるいは照明スポット20の形状が反映されたFIRフィルタを用いる。欠陥判定部605は,ハイパスフィルタ604a,604bの各々から出力された欠陥波形を含む信号の入力に対してしきい値処理を行い,欠陥の有無を判定する。即ち,欠陥判定部605には,複数の検出光学系からの検出信号にもとづく欠陥信号が入力されるので,欠陥判定部605は,複数の欠陥信号の和や加重平均に対してしきい値処理を行うか,または複数の欠陥信号に対してしきい値処理により抽出された欠陥群についてウェハの表面に設定された同一座標系でORやANDを取ることなどにより,単一の欠陥信号に基づく欠陥検出と比較して高感度の欠陥検査を行うことが可能となる。
【0051】
更に,欠陥判定部605は,欠陥が存在すると判定された箇所について,その欠陥波形と感度情報信号に基づいて算出されるウェハ内の欠陥位置を示す欠陥座標および欠陥寸法の推定値を,欠陥情報として制御部53に提供して表示部54などに出力する。欠陥座標は欠陥波形の重心を基準として算出される。欠陥寸法は欠陥波形の積分値あるいは最大値を元に算出される。
【0052】
さらに,アナログ処理部51からの各々の出力信号は,デジタル処理部52を構成するハイパスフィルタ604a,604bに加えて,ローパスフィルタ601a,601bの各々に入力され,ローパスフィルタ601a,601bの各々において,ウェハ上の照明スポット20における微小ラフネスからの散乱光量(ヘイズ)に対応する周波数の低い成分および直流成分が出力される。このようにローパスフィルタ601a,601bの各々からの出力はヘイズ処理部606に入力されてヘイズ情報の処理が行われる。即ち,ヘイズ処理部606は,ローパスフィルタ601a,601bの各々から得られる入力信号の大きさからウェハ上の場所ごとのヘイズの大小に対応する信号をヘイズ信号として出力する。また,微小ラフネスの空間周波数分布に応じてラフネスからの散乱光量の角度分布が変わるため,図21乃至23に示したように,互いに異なる方位,角度に設置された複数の検出部102の各検出器からのヘイズ信号をヘイズ処理部606への入力とすることで,ヘイズ処理部606からはそれらの強度比などから微小ラフネスの空間周波数分布に関する情報を得ることができる。
【0053】
ここで,照明強度分布制御部7において用いられる光学素子の変形例を説明する。前記回折光学素子71と同様の機能を持つ代替の光学素子として,球面レンズ,非球面レンズ72(図8),シリンドリカルレンズアレイ74とシリンドリカルレンズ75との組合せ(図9,図10),ライトパイプ76と結像レンズ77との組合せ(図11,図12),あるいは空間光変調素子(SLM:Spatial Light Modulator)78(図13)が用いられる。
球面レンズは,検出部102による検出領域よりも広い領域を照明するガウス分布照明を形成する場合に用いられる。検出領域の端において,検出領域の中心よりも照明パワー密度が低くなるデメリットがあるが,回折光学素子等を用いる場合に比べて入力光の変動に鈍感であり安定した照度分布が得られるメリットがある。
【0054】
シリンドリカルレンズアレイ74は,図9に示すように,試料面に対する照明の入射面内において,入射した平行光束を複数の平行光束に分離して各々を屈曲し,試料面上でそれらの位置をずらしながら重ね合わせる役割を持つ。光源2としてレーザ光源を用いると試料面上で複数の照明光束を重ね合わせた際にスペックルが発生して照明強度分布の均一性が低下する。これを避けるため,階段状の石英ガラスブロックなどによる光路差付与手段73により複数の照明光束間に光源の可干渉距離以上の光路差をつける。図10に示すように,試料面に対する照明の入射面内では,入射光束は平行光のままシリンドリカルレンズアレイ74を透過し,シリンドリカルレンズ75によって試料面上に集光される。ライトパイプ76は,円柱状あるいは角柱状の筒であり,内壁が照明光を高反射率で反射する金属等の材質からなり,その内部が中空あるいは照明光を高透過率で透過する材質で満たされたものである。ライトパイプ76の前段の集光レンズ80でライトパイプ76の入り口近くに集光された光は,ライトパイプ76の内部を通過する間に多数回の反射を繰り返し,ライトパイプ76の出口において空間的に均一な強度分布となる。結像レンズ77によってライトパイプ76の出口と試料表面が共役な関係に結ばれており,ライトパイプ76の出口における均一な光強度分布と相似な光強度分布が試料面上に形成される。
図11のように結像レンズ77をライトパイプ76の出口面および光軸に対して傾斜させることで,試料面Wに均一照明強度分布の像を結ぶことができる。あるいは,図12のように出口面を試料面Wと平行になるよう加工したライトパイプ76’を用いることで,ライトパイプ出口面と試料面との間の光路距離が像高によらず等しくなるため,結像レンズ77’の設計が容易になる。図13の空間光変調素子78は,入射した光束の断面内の微小領域ごとに強度あるいは位相を変調することで,試料面上の照明強度分布を制御するものであり,制御部53から発した制御信号を受けて,試料面上の照明強度分布を動的に制御することが可能である。空間光変調素子78として,液晶素子,磁気光学空間光変調素子,デジタルマイクロミラーデバイス(反射型)などが用いられる。空間光変調素子78単独,あるいは空間光変調素子78と集光レンズ79との組合せにより所望の照明強度分布が形成される。
【0055】
試料表面の法線に対して傾斜した斜方に散乱する光を捕集し結像検出を行う検出系102の変形例を図30に示す。照明スポット20から発生する散乱光を対物レンズ201によって集光し,偏光フィルタ202(図30では省略)通過させた後,結像レンズ203によって複数画素センサ204の受光面に導き,検出する。対物レンズ201の瞳位置に設置した空間フィルタ211により,瞳を通過する光束の一部を遮光し一部を透過させることで,特定の散乱方向の散乱光成分のみを通過させることができる。空間フィルタ211の形状を変更する,あるいは複数の形状の空間フィルタを切り替えることで,光束を透過する範囲を選択し,検出する散乱光の方向を選択することができる。この構成は試料面の上下動が起きても,デフォーカスは起きるものの,像面内での像の位置ずれは起こらない利点がある。ただし,比較的大きなNAの対物レンズが必要となるので,コストが高くなる。
【0056】
試料表面の法線に対して傾斜した斜方に散乱する光を捕集し結像検出を行う検出系102の別の変形例を図31に示す。照明スポット20から発生する散乱光を対物レンズ201によって集光し,偏光フィルタ202を通過させた後,結像レンズ203によって試料面共役面205を形成する部分は図24,図25に示した実施例と同様である。バンドル光ファイバ212の入射口を試料面共役面205に配置し,なおかつ対物レンズ201および結像レンズ203の光軸とバンドル光ファイバ205の入射方向を合せることで,バンドル光ファイバ205に光が入射する。バンドル光ファイバ205の出射口と複数画素センサ204の受光面とをマイクロレンズアレイ213によってカップリングすることで,試料面共役面205の像を複数画素センサ204で検出することができる。
【0057】
試料面の上下動に対応した信号加算の方法を,図32を用いて説明する。図32は、本発明に係る試料の上下動による像の位置ずれとその補正方法を示す図である。
ステージ13の走査精度や試料保持精度,試料表面の面精度の影響で,試料表面を走査する際に,検出部102に対して相対的に試料表面が微小な上下動を起こす。図24,25あるいは31に示した検出部102の構成をとる場合,試料面の上下動により,試料上の欠陥の位置は像面に垂直な方向の変位(デフォーカス)と,像面内の変位(位置ずれ)を起こす。デフォーカスは検出部102の焦点深度内に収まれば問題ないが,像の位置ずれは欠陥検出位置のずれに影響するとともに,前記の同一箇所を複数回検出して信号を加算する場合に,同一箇所ではなく異なった箇所の検出信号が加算されてしまい,感度低下の要因となる。これらの問題を回避するため,試料面上下動に対応した光学的位置ずれ補正と,位置ずれ補正信号処理を行う。
【0058】
図33に試料面上下動計測のための光学系の構成を示す。光源401から上下動計測用の光線を出射する。光線は試料面上の検査対象位置の近傍で反射し,位置検出器402に入射する。位置検出器402はフォトダイオードやCCDセンサで構成されており,入射した光線の微小な位置ずれを検出することができる。図33では省略されているが,試料面の角度ずれの影響を排除するために,試料面上の照射位置の像を位置検出器402に投影するような投影レンズを試料面と位置検出器402との間に配置することが望ましい。
【0059】
図34に光学的位置ずれ補正の実施例を示す。試料面の変位の計測結果から求められる像の位置ずれを打ち消すように,検出部102の結像レンズ203の光軸に対する角度を変えることで,位置ずれを光学的に低減できる。同じことは対物レンズ201の光軸に対する角度を変えることでも実現可能である。また,結像レンズ203あるいは対物レンズ201が複数のレンズの組合せで構成されている場合,その中の一部のレンズの角度を変えてもよい。また,レンズではなく,複数画素検出器の位置を像面に平行な方向に変位させて,像の位置ずれの影響を打ち消してもよい。また,図25に示した回折格子を用いた構成では,回折格子206の位置を変位させて,像の位置ずれの影響を打ち消してもよい。また,光学的位置ずれ補正おいて,試料面高さ計測結果に基づいてレンズあるいはセンサを光軸方向に移動することで,デフォーカスを低減することも可能である。
【0060】
試料面上下動に対応した位置ずれ補正信号処理の方法を図35を用いて説明する。図35は、本発明に係る信号加算処理部の構成を示す図である。
ここでは複数画素センサ204が各画素の信号をデジタル出力する機能を備えていると仮定する。複数画素センサ204がデジタル信号出力機能を備えていない場合は,図35に示していない前記アナログ処理部51に複数画素センサ204の出力信号を通すことでデジタル信号出力を行う。各画素の信号は,メモリ部411,412によって一時的に蓄積される。メモリ部411,412に蓄えられた信号は,信号加算処理部413において,試料面上の同一箇所の信号同士が足し合わされるよう位置合せをされた後,加算処理が行われる。位置合せを行う基準となる位置ずれ量は,図33に示した試料面上下動の計測値から幾何学的な位置関係および検出部102の結像条件に基づいて算出した値が入力される。
【0061】
図33に示した試料面上下動の計測値から,幾何学的な位置関係および検出部102の結像条件に基づいて,位置ずれ量を算出する方法を図5,図6に示す。図5は,試料面の上方から見た試料面と検出部102の平面図であり,検出部102の検出方向と,試料面上下動による位置ずれの方向との関係を示す。図5の角度φは検出方位角に対応する。試料面が上下動(図5で紙面に垂直方向)をすると,検出部102の光軸Aに平行な光束は光軸Aを試料面の法線方向から試料面に平行投影した直線に平行な方向Dに移動するため,像の位置ずれは方向Dに起こる。
【0062】
図6に試料面の上下の変位量と位置ずれ量との関係を示す。検出部102の検出天頂角をθとする。上下動がない場合の試料面上の位置P1が,複数画素センサ上の位置P3に結像される。試料面が上方にΔz変位すると,複数画素センサ上の位置P3には,試料面上で位置P1から方向DにΔztanθずれた位置P2の像が結像される。元の位置P1は複数画素センサ204上ではMΔztanθ(Mは検出部102の光学倍率)だけずれているので,複数画素センサ204上での方向Dに対応する方向に,−MΔztanθだけ位置ずれを補正すればよい。
【0063】
二次元領域を照明する照明強度分布の変形例を図36,37に示す。図36,37は試料面上における照明スポット20と複数画素センサ204の画素(を試料面上に投影したもの)との位置関係を示す。
図36は,照明スポット20として細い線状の強度分布を複数並べた実施例である。一本の線状照明に対し,一列の画素が対応する。複数の線状照明の間(横方向)に照明パワー密度の低い領域ができ,照明パワーにより発生する熱が逃げやすい分だけ試料にダメージが発生しづらいため,二次元領域全体を照明した場合に比べて単位面積当りに高い照明パワーを投入することが可能である。
図37は,照明スポット20として微小な円形の強度分布を複数並べた実施例である。一つの円形照明に対し,一つの画素が対応する。複数の円形照明の間(縦と横の両方向)に照明パワー密度の低い領域ができ,照明パワーにより発生する熱が逃げやすい分だけ試料にダメージが発生しづらいため,二次元領域全体を照明した場合,および図36の線状照明を複数並べた場合に比べて,単位面積当りに高い照明パワーを投入することが可能である。
【0064】
ビームエキスパンダ5で拡大したビームに対し,シリンドリカルレンズアレイ413を作用させることで,図36に示した複数の線状照明を並べた照明スポット20を作ることができる(図38)。図38は本発明に係る複数の線状照明を作る照明光強度分布制御部の構成の例を示す図である。
また,ビームエキスパンダ5で拡大したビームに対し,球面レンズを二次元の格子状に配列したレンズアレイを作用させることで,図37に示した複数の線状照明を並べた照明スポット20を作ることができる。
【0065】
以上述べてきたように,本発明の一例は,微小欠陥の散乱光を高効率で検出可能な斜方照明斜方検出の光学配置で検査することを特徴とするものである。
また,本発明の一例は,試料上の二次元領域を照明し,照明領域を二次元に配列した複数の画素で並列検出を行い,実質的に同一箇所から発生した検出信号を蓄積,加算することを特徴とするものである。
また,本発明の一例は,試料を回転走査し,試料上の実質的に同一箇所の信号を複数の画素で検出し加算するよう,加算する画素の組合せを設定,補正することを特徴とするものである。
【0066】
また,本発明の一例は,試料を回転走査し,試料上の実質的に同一箇所の信号を複数の画素で検出し加算するよう,加算画素の組合せを試料上の検出する位置に応じて変化させることを特徴とするものである。
また,本発明の一例は,前記照明領域を斜方から結像検出する際に,検出系に対する試料面の上下動によって生じる像のボケあるいは像の位置ずれを低減するために,試料面の上下動を計測し,計測値に基づいて検出系あるいは検出系を構成する光学素子の一部を機械的に変位させることを特徴とするものである。
また,本発明の一例は,前記照明領域を斜方から結像検出する際に,検出系に対する試料面の上下動によって生じる像のボケあるいは像の位置ずれに起因する加算画素のずれを低減するために,試料面の上下動を計測し,計測値に基づいて加算画素の組合せを補正することを特徴とするものである。
本発明によれば,試料全面を短時間で走査し,微小な欠陥を検出することおよび検出欠陥の寸法を高精度に算出することを実現することができる。
【符号の説明】
【0067】
2…光源
3…アッテネータ
4…出射光調整部
5…ビームエキスパンダ
6…偏光制御部
7…照明強度分布制御部
7v…照明強度分布制御部
22…ビームモニタ
23…ビームモニタ
24…照明強度分布モニタ
53…制御部
54…表示部
55…入力部
101…照明部
102…検出部
103…ステージ部
105…信号処理部
120…照明光軸
201…対物レンズ
202…偏光フィルタ
203…結像レンズ
204…複数画素センサ
205…試料面共役面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査対象物である試料の表面の領域を所定の照明条件にて照明する照明工程と、
該試料を並進および回転させる試料走査工程と、
該試料の照明領域から複数の方向に散乱する複数の散乱光のそれぞれを、前記試料走査工程における走査方向および該走査方向と概略直交する方向の各々について複数画素に分割して検出する散乱光検出工程と、
前記散乱光検出工程において検出された複数の散乱光のそれぞれについて、該試料の概略同一領域から概略同一方向に散乱した散乱光を加算処理し、該加算処理した散乱光に基づき欠陥の有無を判定し、該判定された欠陥に対応する複数の散乱光のうち少なくとも一の散乱光を用いて該判定された欠陥の寸法を算出する処理工程と、
を備える欠陥検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の欠陥検査方法であって、
さらに、該試料の表面の高さ方向の変位量を計測する試料面変位計測工程を備え、
前記散乱光検出工程では、前記試料面変位計測工程において計測された変位量に基づいて散乱光の検出に用いる光学素子の位置または向きを変えることを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の欠陥検査方法であって、
前記処理工程の加算処理では、前記試料面変位計測工程において計測された変位量に基づいて、該試料の概略同一領域から概略同一方向に散乱した散乱光の組合せを補正することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の欠陥検査方法であって、
前記処理工程の加算処理では、前記試料走査工程において回転される該試料の表面の軌跡の曲率半径に基づいて、該試料の概略同一領域から概略同一方向に散乱した散乱光の組合せを補正することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の欠陥検査方法であって、
さらに、前記処理工程において欠陥と判定された該試料の表面上の位置および欠陥の寸法を表示する表示工程を備えることを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の欠陥検査方法であって、
前記試料走査工程においては、該試料を並進および回転移動することで、該試料の表面を螺旋状に走査することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の欠陥検査方法であって、
前記照明条件は、光量、ビーム径、偏光状態および入射角であることを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項8】
被検査対象物である試料の表面の領域を所定の照明条件にて照明する照明手段と、
該試料を並進および回転させる試料走査手段と、
該試料の照明領域から複数の方向に散乱する複数の散乱光のそれぞれを、前記試料走査手段による走査方向および該走査方向と概略直交する方向の各々について複数画素に分割して検出する散乱光検出手段と、
前記散乱光検出手段において検出された複数の散乱光のそれぞれについて、該試料の概略同一領域から概略同一方向に散乱した散乱光を加算処理し、該加算処理した散乱光に基づき欠陥の有無を判定し、該判定された欠陥に対応する複数の散乱光のうち少なくとも一の散乱光を用いて該判定された欠陥の寸法を算出する処理手段と、
を備える欠陥検査装置。
【請求項9】
請求項8記載の欠陥検査装置であって、
さらに、該試料の表面の高さ方向の変位量を計測する試料面変位計測手段を備え、
前記散乱光検出手段では、前記試料面変位計測手段において計測された変位量に基づいて散乱光の検出に用いる光学素子の位置または向きを変えることを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の欠陥検査装置であって、
前記処理手段による加算処理では、前記試料面変位計測手段において計測された変位量に基づいて、該試料の概略同一領域から概略同一方向に散乱した散乱光の組合せを補正することを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項11】
請求項8または9に記載の欠陥検査装置であって、
前記処理手段の加算処理では、前記試料走査装置において回転される該試料の表面の軌跡の曲率半径に基づいて、該試料の概略同一領域から概略同一方向に散乱した散乱光の組合せを補正することを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項12】
請求項8乃至11のいずれかに記載の欠陥検査装置であって、
さらに、前記処理手段において欠陥と判定された該試料の表面上の位置および欠陥の寸法を表示する表示手段を備えることを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項13】
請求項8乃至12のいずれかに記載の欠陥検査装置であって、
前記試料走査手段は、該試料を並進および回転移動することで、該試料の表面を螺旋状に走査することを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項14】
請求項8乃至13のいずれかに記載の欠陥検査装置であって、
前記照明条件は、光量、ビーム径、偏光状態および入射角であることを特徴とする欠陥検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2012−137350(P2012−137350A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289127(P2010−289127)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】