説明

温度測定方法、記憶媒体、プログラム

【課題】測定対象物上に薄膜が形成されている場合でも、測定対象物の温度を従来に比べて正確に測定できる温度測定方法を提供する。
【解決手段】光源からの光を、基板上に薄膜が形成された測定対象物の測定ポイントまで伝送する工程と、基板の表面での反射光による第1の干渉波と、基板と薄膜との界面及び薄膜の裏面での反射光による第2の干渉波を測定する工程と、第1の干渉波から第2の干渉波までの光路長を算出する工程と、第2の干渉波の強度に基づいて、薄膜の膜厚を算出する工程と、算出した薄膜の膜厚に基づいて、基板の光路長と算出した光路長との光路差を算出する工程と、算出した光路差に基づいて算出した第1の干渉波から第2の干渉波までの光路長を補正する工程と、補正された光路長から測定ポイントにおける測定対象物の温度を算出する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物(例えば、半導体ウエハや液晶基板等)の温度を非接触で測定可能な温度測定方法、記憶媒体及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
基板処理装置により処理される被処理基板(例えば、半導体ウエハ)の温度を正確に測定することは、成膜やエッチングなど種々の処理の結果により半導体ウエハ上に形成される膜やホールなどの形状、物性等を正確にコントロールする点からも極めて重要である。このため、抵抗温度計や、基材裏面の温度を測定する蛍光式温度計等を利用した計測法など様々な方法によって半導体ウエハの温度を計測することが従来から行われている。
【0003】
近年では、上述したような従来の温度計測方法では困難だった半導体ウエハの温度を直接計測することができる低コヒーレンス干渉計を利用した温度計測技術が知られている。さらに、上記の低コヒーレンス干渉計を利用した温度計測技術において、第1スプリッタによって光源からの光を温度測定用の測定光と参照光とに分岐し、さらに、分岐された測定光を第2スプリッタによってn個の測定光に分岐してn個の測定光をn個の測定ポイントへ照射し、これらのn個の測定光の反射光と、参照光反射手段で反射された参照光の反射光との干渉を測定し、複数の測定ポイントの温度を同時に測定できるようにした技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。該技術では、光源からの光を測定対象物に照射し、測定対象物の表面からの反射光及び参照光の反射光との干渉波、及び測定対象物の裏面からの反射光及び参照光の反射光との干渉波から測定対象物の表面から裏面までの光路長を求め、この求めた光路長から測定対象物の温度を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−112826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記測定対象物上に、膜厚が使用光源のコヒーレンス長と同程度、もしくは薄い薄膜が堆積されている場合、この薄膜内での測定光の多重反射による干渉波が重なり合い観測される干渉波の光路長にずれが生じるため、測定対象物の表面から裏面までの正確な光路長を算出することができず、測定対象物の正確な温度をモニタできないという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる従来の事情に対処してなされたもので、測定対象物に薄膜が形成されている場合でも、測定対象物の温度を正確に測定できる温度測定方法、プログラム及び記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の温度測定方法は、光源からの光を、基板上に薄膜が形成された測定対象物の測定ポイントまで伝送する工程と、基板の表面での反射光による第1の干渉波と、基板と薄膜との界面及び薄膜の裏面での反射光による第2の干渉波を測定する工程と、第1の干渉波から第2の干渉波までの光路長を算出する工程と、第2の干渉波の強度に基づいて、薄膜の膜厚を算出する工程と、算出した薄膜の膜厚に基づいて、基板の光路長と算出した光路長との光路差を算出する工程と、
算出した光路差に基づいて算出した第1の干渉波から第2の干渉波までの光路長を補正する工程と、補正された光路長から測定ポイントにおける測定対象物の温度を算出する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の記憶媒体は、光源と、光源からの光を基板上に薄膜が形成された測定対象物の測定ポイントまで伝送する伝送手段と、測定対象物で反射した反射光を受光する受光手段とを備える温度測定装置において、受光手段で受光された反射光の干渉波に基づいて、測定ポイントにおける測定対象物の温度を測定する温度測定方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、プログラムは、コンピュータを、受光手段で受光された基板の表面での反射光による第1の干渉波と、基板と基板上に形成された薄膜との界面及び薄膜の裏面での反射光による第2の干渉波とを測定する測定手段、第1の干渉波から第2の干渉波までの光路長を算出する第1の算出手段、第2の干渉波の強度に基づいて、薄膜の膜厚を算出する第2の算出手段、算出した薄膜の膜厚に基づいて、基板の光路長と算出した光路長との光路差を算出する第3の算出手段、算出した光路差に基づいて算出した第1の干渉波から第2の干渉波までの光路長を補正する補正手段、補正された光路長から測定ポイントにおける測定対象物の温度を算出する第4の算出手段、として動作させることを特徴とする。
【0009】
本発明のプログラムは、光源と、光源からの光を基板上に薄膜が形成された測定対象物の測定ポイントまで伝送する伝送手段と、測定対象物で反射した反射光を受光する受光手段とを備える温度測定装置において、受光手段で受光された反射光の干渉波に基づいて、測定ポイントにおける測定対象物の温度を測定する温度測定方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、プログラムは、コンピュータを、受光手段で受光された基板の表面での反射光による第1の干渉波と、基板と基板上に形成された薄膜との界面及び薄膜の裏面での反射光による第2の干渉波とを測定する測定手段、第1の干渉波から第2の干渉波までの光路長を算出する第1の算出手段、第2の干渉波の強度に基づいて、薄膜の膜厚を算出する第2の算出手段、算出した薄膜の膜厚に基づいて、基板の光路長と算出した光路長との光路差を算出する第3の算出手段、算出した光路差に基づいて算出した第1の干渉波から第2の干渉波までの光路長を補正する補正手段、補正された光路長から測定ポイントにおける測定対象物の温度を算出する第4の算出手段、として動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、測定対象物に薄膜が形成されている場合でも、測定対象物の温度を正確に測定できる温度測定方法、記憶媒体及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る温度測定装置の構成図。
【図2】温度算出手段の機能構成図。
【図3】干渉波形の具体例(薄膜無の場合)。
【図4】干渉波形の具体例(薄膜有の場合)。
【図5】薄膜における多重反射の模式図。
【図6】薄膜の膜厚と干渉強度との関係を示す図。
【図7】干渉強度比と干渉強度比から算出された薄膜の膜厚のエッチング時間依存を示す図。
【図8】干渉強度比から算出した膜厚及び乖離値を示す図。
【図9】膜厚と干渉波のシフト量との関係を示す図。
【図10】温度測定装置の動作を示すフローチャート。
【図11】実施例1に係る光路長測定結果を示す図。
【図12】実施例2に係る温度測定結果を示す図(補正有)。
【図13】比較例1に係る温度測定結果を示す図(補正無)。
【図14】実施形態の変形例にかかる温度測定装置100Aの構成図。
【図15】受光手段の構成図。
【図16】温度算出手段の機能構成図。
【図17】DFT処理後の信号を示す図。
【図18】補正後の光路長と温度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、光源からの光の入射側を表面と定義する。さらに、測定対象物として薄膜が形成された半導体ウエハを例に説明するが、測定対象物は、半導体ウエハに限られない。また、半導体ウエハには、薄膜としてシリコン酸化膜(SiO膜)が形成されているものとするが、薄膜は、シリコン酸化膜に限られず、他の膜(例えば、シリコン窒化膜(Si)、レジスト膜、樹脂系膜、金属(Cu、Al、W、Ti、Ta))膜等であってもよい。
【0013】
(実施形態)
図1は、本実施形態にかかる温度測定装置100の構成図である。実施形態にかかる温度測定装置100は、光源110と、光源110からの光を温度測定用の光(測定光)と参照光とに分岐するスプリッタ120と、測定光を測定対象物である薄膜(SiO膜)Tが形成された半導体ウエハ(基板)Wの測定ポイントPへ伝送するコリメートファイバFと、スプリッタ120からの参照光を反射するための参照光反射手段130と、スプリッタ120で分岐された参照光を、参照光反射手段130まで伝送するコリメートファイバFと、参照光反射手段130から反射する参照光の光路長を変化させるための光路長変化手段140と、測定光及び参照光の反射光による干渉波形に基づいて、測定ポイントPの温度を測定する信号処理装置150とを備える。信号処理装置150は、受光手段151及び温度算出手段152を備える。
【0014】
光源110は、測定光と参照光との干渉が測定できれば、任意の光を使用することが可能であるが、この実施形態では、半導体ウエハWの温度を測定するので、少なくとも半導体ウエハWの表面と裏面との間の距離(通常は800〜1500μm程度)からの反射光が干渉を生じない程度の光が好ましい。
【0015】
具体的には、低コヒーレンス光を用いることが好ましい。低コヒーレンス光とは、コヒーレンス長の短い光をいう。低コヒーレンス光の中心波長は、半導体ウエハWの主成分であるシリコン(Si)を透過する1000nm以上であることが好ましい。また、コヒーレンス長は、短いことが好ましい。
【0016】
スプリッタ120は、例えば光ファイバカプラである。但し、これに限定されるものではない。スプリッタ120は、参照光と測定光とにスプリットすることが可能なものであればよく、例えば光導波路型分波器、半透鏡などを用いてもよい。
【0017】
参照光反射手段130には、例えば、コーナーキューブプリズム、平面ミラー等などを使用することができる。これらの中でも、反射光の入射光との平行性の点に鑑みれば、コーナーキューブプリズムを用いることが好ましい。但し、参照光を反射できれば、上記のものに限られず、例えばディレーラインなどで構成してもよい。
【0018】
光路長変化手段140は、参照光反射手段130を参照光の入射方向に平行な一方向へ駆動するモータなどの駆動手段により構成される。このように、参照光反射手段130を一方向へ駆動させることにより、参照光反射手段130から反射する参照光の光路長を変化させることができる。
【0019】
受光手段151は、半導体ウエハWの測定ポイントPで反射された測定光及び参照光反射手段130で反射された参照光の反射光を受光し、電気信号に変換する。受光手段151としては、種々のセンサを使用することができるが、Siを主成分とする半導体ウエハWの場合、測定光として波長が1000nm以上の光を使用することから、波長が800〜1700nmの光に感度を有するInGaAs素子を用いたセンサで構成することが好ましい。
【0020】
温度算出手段152は、例えば、コンピュータ(電算機)等であり、受光手段151で検出される反射光の干渉波形、具体的には、干渉波のピーク間の光路長に基づいて半導体ウエハWの温度を測定する。
【0021】
図2は、温度算出手段152の機能を示す構成図である。温度算出手段152は、信号取得手段201、光路長算出手段202、膜厚算出手段203、シフト量算出手段204、光路長補正手段205、温度演算手段206を備える。図2に示す機能は、温度算出手段152が備えるハードウェア(例えば、HDD、CPU、メモリ等)により実現される。具体的には、CPUが、HDDもしくはメモリに記録されているプログラムを実行することで実現される。なお、図2に示す各構成の動作については、後述する「温度測定装置100の動作」において説明する。
【0022】
(測定光と参照光との干渉波形の具体例)
ここでは、温度測定装置100の受光手段151により得られる干渉波形の具体例及び温度測定方法について説明する。なお、説明は、半導体ウエハWに薄膜Tが形成されていない場合について説明した後、半導体ウエハWに薄膜Tが形成されている場合とその問題点について説明する。
【0023】
(薄膜が形成されていない場合)
図3は、温度測定装置100の受光手段151により得られる干渉波形の具体例を示す。図3は、測定光が、半導体ウエハWに照射されるようにした場合における測定光と参照光との干渉波形を示したものである。図3(a)は温度変化前の干渉波形を示したものであり、図3(b)は温度変化後の干渉波形を示したものである。図3において縦軸は干渉強度、横軸は参照光反射手段130(例えば参照ミラー)の移動距離をとっている。
【0024】
図3(a)、(b)によれば、参照光反射手段130を一方向へ走査していくと、先ず半導体ウエハWの表面と参照光との干渉波Aが現れ、次いで半導体ウエハWの裏面と参照光との干渉波Bが現れる。
【0025】
(干渉光に基づく温度測定方法)
次に、図3を参照して、測定光と参照光との干渉波に基づいて温度を測定する方法について説明する。干渉波に基づく温度測定方法としては、例えば温度変化に基づく光路長変化を用いる温度換算方法がある。ここでは、上記干渉波の位置の変化を利用した温度換算方法について説明する。
【0026】
半導体ウエハWがヒータ等によって温められると、半導体ウエハWは膨張するとともに屈折率が変化するため、温度変化前と温度変化後では、干渉波Bの位置が干渉波B’の位置に変り、干渉波のピーク間幅が変化する。このような測定ポイントの干渉波のピーク間幅を測定することにより温度変化を検出することができる。例えば図1に示すような温度測定装置100であれば、干渉波のピーク間幅は、参照光反射手段130の移動距離に対応しているため、干渉波形のピーク間幅における参照光反射手段130の移動距離を測定することにより、温度変化を検出することができる。
【0027】
半導体ウエハWの厚さをdとし、屈折率をnとした場合、干渉波のピーク位置のずれは、厚さdについては線膨張係数αに依存し、また屈折率nの変化については主として屈折率変化の温度係数βに依存する。なお、屈折率変化の温度係数βについては波長にも依存する。
【0028】
従って、測定ポイントPにおける温度変化後のウエハの厚さd′と屈折率n′を数式で表すと下記数式(1)に示すようになる。なお、数式(1)において、ΔTは測定ポイントの温度変化を示し、αは線膨張率、βは屈折率変化の温度係数を示している。また、d、nは、夫々温度変化前の測定ポイントPにおける厚さ、屈折率を示している。
【0029】
d′=d・(1+αΔT)、n′=n・(1+βΔT) …(1)
上記数式(1)に示すように、温度変化によって測定ポイントPを透過する測定光の光路長が変化する。光路長は一般に、厚さdと屈折率nとの積で表される。従って、温度変化前の測定ポイントPを透過する測定光の光路長をLとし、測定ポイントにおける温度がΔTだけ変化した後の光路長をL′とすると、L、L′は夫々下記の数式(2)に示すようになる。
【0030】
L=d・n 、 L′=d′・n′ …(2)
従って、測定ポイントにおける測定光の光路長の温度変化前後の差(L′−L)は、上記数式(1)、(2)により計算して整理すると、下記数式(3)に示すようになる。なお、下記数式(3)では、α・β≪α、α・β≪βを考慮して微小項を省略している。
【0031】
L′−L=d′・n′−d・n=d・n・(α+β)・ΔT
=L・(α+β)・ΔT …(3)
【0032】
ここで、測定ポイントにおける測定光の光路長は、参照光との干渉波のピーク間幅に相当する。従って、線膨張率α、屈折率変化の温度係数βを予め調べておけば、測定ポイントにおける参照光との干渉波のピーク間幅を計測することによって、上記数式(3)を用いて、測定ポイントの温度に換算することができる。
【0033】
このように、干渉波から温度への換算する場合、上述したように干渉波のピーク間で表される光路長が線膨張率α及び屈折率変化の温度係数βによって変るため、これら線膨張率α及び屈折率変化の温度係数βを予め調べておく必要がある。半導体ウエハを含めた物質の線膨張率α及び屈折率変化の温度係数βは一般に、温度帯によっては、温度に依存する場合もある。例えば線膨張率αについては一般に、物質の温度が0〜100℃くらいの温度範囲ではそれほど変化しないので、一定とみなしても差支えないが、100℃以上の温度範囲では物質によっては温度が高くなるほど変化率が大きくなる場合もあるので、そのような場合には温度依存性が無視できなくなる。屈折率変化の温度係数βについても同様に温度範囲によっては、温度依存性が無視できなくなる場合がある。
【0034】
例えば半導体ウエハを構成するシリコン(Si)の場合は、0〜500℃の温度範囲において線膨張率α及び屈折率変化の温度係数βは例えば二次曲線で近似することができることが知られている。このように、線膨張率α及び屈折率変化の温度係数βは温度に依存するので、例えば温度に応じた線膨張率α及び屈折率変化の温度係数βを予め調べておき、その値を考慮して温度換算すれば、より正確な温度に換算することができる。
【0035】
なお、測定光と参照光との干渉波に基づく温度測定方法としては上述したような方法に限られることはなく、例えば温度変化に基づく吸収強度変化を用いる方法であってもよく、上記温度変化に基づく光路長変化と温度変化に基づく吸収強度変化とを組み合わせた方法であってもよい。
【0036】
(薄膜が形成されている場合)
図4は、測定光が、半導体ウエハWに照射されるようにした場合における測定光と参照光との干渉波形を示したものである。なお、図4において縦軸は干渉強度、横軸は参照光反射手段130(例えば参照ミラー)の移動距離をとっている。
【0037】
図4(a)は、薄膜Tの膜厚が低コヒーレンス光のコヒーレンス長よりも十分に厚い場合を示している。この場合、半導体ウエハWに照射された測定光は、図1に示す半導体ウエハWの表面S、半導体ウエハWと薄膜Tとの界面S、及び薄膜Tの裏面Sの3箇所で反射される。そして、上記3箇所で反射された測定光は、参照光反射手段130で反射された参照光と光路長が略同一となった位置で干渉する。このため、図4(a)に示すように、3つの干渉波C〜Eが観察される。
【0038】
図4(b)は、薄膜Tの膜厚が低コヒーレンス光のコヒーレンス長以下の場合を示している。この場合、半導体ウエハWに照射された測定光が半導体ウエハWの表面S、半導体ウエハWと薄膜Tとの界面S、及び薄膜Tの裏面Sの3箇所で反射される点は同じであるが、薄膜Tの膜厚が薄い(低コヒーレンス光のコヒーレンス長以下である)ために、図4(a)に示した半導体ウエハWと薄膜Tとの界面Sと薄膜Tの裏面Sとの間で多重反射した多数の干渉波が重なり合い(重畳し)一つの干渉波Fとなってしまう。
【0039】
図5は、薄膜Tにおける多重反射を模式的に表した図である。図5に示すように、半導体ウエハWに入射された測定光は、半導体ウエハWと薄膜Tの表面との界面Sと薄膜Tの裏面Sとの間の多重折り返し反射で分離する。この分離した各反射光は、それぞれ参照光と干渉して、図5に示す多数の干渉波(1)、(2)、(3)、(4)、(5)・・・を形成する。これら多数の干渉波(1)、(2)、(3)、(4)、(5)・・・は、上述したように分離されずに重なり合い干渉波Fとして検出される。
【0040】
このように、薄膜Tの膜厚が低コヒーレンス光のコヒーレンス長以下の場合、半導体ウエハWと薄膜Tとの界面Sと薄膜Tの裏面Sとの間で生じた多数の干渉波が重畳して一つの干渉波Fとなってしまうために、干渉波Cのピークから干渉波Fのピークまでの測定光路長Lと、半導体ウエハWの表面から半導体ウエハWの裏面までの光路長である実光路長Lとに光路長ΔLのずれが生じる。
【0041】
(光路長の補正)
以上のように、半導体ウエハWに薄膜Tが形成されている場合、図4を参照して説明したように、干渉波Fのピーク位置がΔLだけシフトする。このため、測定された光路長からシフト量ΔLの補正を行う必要がある。
【0042】
この実施形態では、以下の手順1〜3を実施して、光路長を補正して半導体ウエハWの温度を測定する。
1.図4で説明した干渉波Fの干渉強度又は干渉波Cと干渉波Fの干渉強度比から薄膜Tの膜厚を求める。
2.求めた薄膜Tの膜厚から光路長のずれ量ΔL(以下、シフト量ΔLと称する)を求める。
3.求めたシフト量ΔLに基づいて光路長Lを補正し、実光路長Lを求める。
【0043】
以下、上記手順1〜3について詳細に説明する。なお、以下では、薄膜Tをエッチングする場合について説明する。
【0044】
(数式)
初めに、光路長の補正に必要な下記数式について説明する。
下記数式(4)は、薄膜Tの膜厚と干渉強度との関係を表す数式である。

【0045】
上記数式(4)のρは、薄膜Tから空気へ入射したときの反射光のフレネル係数(振幅反射係数)であり下記数式(5)で表わされる。
ρ=(n−n)/(n+n)…(5)
上記数式(4)のρは、半導体ウエハWから薄膜Tへ入射したときの反射光のフレネル係数(振幅反射係数)であり下記数式(6)で表わされる。
ρ=(n−n)/(n+n)…(6)
【0046】
下記数式(7)は、ウエハと参照側の光路長差がΔlのときの薄膜Tの膜厚dと干渉強度との関係を表す数式である。

【0047】
上記数式(7)のφ(k、d)は、波数kにおける位相変化であり下記数式(8)で表わされる。

【0048】
また、上記数式(7)のS(k)は、パワースペクトル密度であり、パワースペクトルの分布がガウス分布であると仮定した場合、下記数式(9)で表わされる。なお、後述するように実際の計算では、精度を向上させるためにスペクトルアナライザーで実測した波形を用いている。

【0049】
また、数式(4)〜(9)で使用されるその他のパラメータの定義は、以下の通りである。
R:反射率
k:測定光の波数
d:薄膜Tの膜厚
δ:kn
:空気の屈折率
:薄膜Tの屈折率
:半導体ウエハWの屈折率
:参照側の電界
:半導体ウエハ側の電界
【0050】
(1:薄膜Tの膜厚の算出)
図6は、半導体ウエハWに薄膜TとしてSiO膜が形成されている場合における薄膜Tの膜厚と干渉強度の関係とを示す図である。図6において縦軸は干渉強度、横軸は薄膜の膜厚をとっている。なお、図6は、上記数式(7)を用いて計算したものである。
【0051】
数式(7)では、酸化膜の厚さを0〜2100nmで1nm毎に計算を繰り返し、膜厚に対する干渉波形の最大値を計算から求めた。詳細には半導体ウエハと参照側の光路長差(Δl)を−50μmから+50μmまで0.05μm間隔で変えながら、あらかじめスペクトルアナライザーで計測しておいた光源の実際の波形を、光源のスペクトルの範囲(波長1205〜1405)に対して1nm間隔で波長毎に光強度S(k)を変える。さらにSiOの屈折率n(おおよそ1.447)やSiの屈折率n(おおよそ3.54)は、実際はどちらも波長分散を持つので、計算精度を向上させるために波長毎により正確な値を代入し、一つの光路差に対して発光範囲の強度を積分する。
【0052】
これを、光路差を0.05μm間隔で変えながら行うと一つの酸化膜厚に対して参照ミラーが動いた時の干渉波形を計算できる。図6は、その最大値を酸化膜厚と対応させ、酸化膜厚さを振りながら計算した結果を記憶しプロットしたものである。
【0053】
以上のように、この図6に示す関係、具体的には、上記数式(4)〜(9)及び実際の発光波形や屈折率などの各パラメータを予め不揮発性メモリ等に記憶しておき、受光手段151で測定される干渉波Fの干渉強度を図6にあてはめて薄膜Tの膜厚を算出することができる。
【0054】
なお、図6に示すように干渉強度は薄膜Tの膜厚に応じて周期的に変動する。すなわち、薄膜Tの膜厚と干渉強度とは、1対1には対応していない。このため、この実施形態では、予め薄膜Tの初期膜厚を取得し、この初期膜厚と、図6に示す関係とに基づいて、干渉強度から薄膜Tの膜厚を算出している。なお、膜厚の算出は、エッチングの場合、膜厚が減少する方向(図6の横軸の右から左)となり、堆積(デポ)の場合、膜厚が増加する方向(図6の横軸の左から右)となる。
【0055】
図7は、干渉強度比と干渉強度比から算出された薄膜の膜厚のエッチング時間依存を示す図である。図7には、半導体ウエハWに形成された薄膜Tを実際にエッチングした際の干渉強度比を図6にあてはめ求めた薄膜Tの膜厚を示した。図7において、左縦軸は干渉強度比、右縦軸は膜厚、横軸はエッチング時間(エッチング開始時を0としている)をとっている。図7では、干渉波Fの干渉強度に代えて、干渉強度比(図4(b)の干渉波Fの干渉強度を干渉波Cの干渉強度で除算(割算)した値)と薄膜Tの膜厚との関係から、薄膜Tの膜厚を算出している。干渉強度比を使用することにより、光源110や、光源110からの光を伝送するコリメートファイバFに起因する干渉強度の変化をキャンセルすることができ、より正確に薄膜Tの膜厚を求めることができる。
【0056】
図8は、干渉強度比から算出される薄膜Tの膜厚と、エッチングレートが一定(680nm/min)であると仮定して算出した薄膜Tの膜厚と干渉強度比から算出される薄膜Tの膜厚との膜厚差(乖離値)とを示した図である。図8において、左縦軸は膜厚、右縦軸は膜厚差(乖離値)、横軸はエッチング時間(エッチング開始時を0としている)をとっている。図8では、エッチングレートが一定(680nm/min)であると仮定した薄膜Tの膜厚を直線で、干渉強度比から算出した薄膜Tの膜厚を一点鎖線で、それぞれ示した。なお、エッチング中の薄膜Tの膜厚を直接測定することはできないため、図8では、薄膜Tのエッチングレートが一定であると仮定している。
【0057】
図8に示すように、干渉強度比から算出される薄膜Tの膜厚と、エッチングレートが一定であると仮定して算出した薄膜Tの膜厚との膜厚差(乖離値)は、およそ±15nmの範囲に収まっており、精度よくエッチング中の薄膜Tの膜厚を算出できていると言える。
【0058】
(2:シフト量の算出)
図9は、薄膜Tの膜厚と干渉波Fのシフト量ΔLとの関係を示す図である。図9において縦軸は干渉波Fのシフト量ΔL、横軸は薄膜Tの膜厚をとっている。なお、図9は、上記説明(段落0051参照)では、酸化膜厚毎に干渉波形を求めているが、酸化膜厚毎に求めた干渉波形の重心を算出し、波形の重心を光路差方向のシフト量としてプロットした。具体的には、干渉波形のDC強度より大きい値を使って重心を求める。さらには干渉波形のDC成分より小さい側はDC強度で折り返した波形を使う、また正側の波形も加えてから重心を求めても良い。重心以外には多項式やガウス分布で近似してその最大値などを求めても良い。
【0059】
以上のように、この図9に示す関係、具体的には、数式(7)〜(9)及び各パラメータを予め不揮発性メモリ等に記憶しておき、算出された薄膜Tの膜厚と図9とから干渉波Fのシフト量ΔLを算出することができる。
【0060】
(3:光路長の補正)
最後に、求めたシフト量ΔLに基づいて、受光手段151で観察された干渉波のピーク間の光路長を補正する(具体的には、算出した光路長からシフト量ΔLを補正する)。
【0061】
(温度測定装置100の動作)
図10は、温度測定装置100の動作を示すフローチャートである。
以下、図1、8及び9を参照して、温度測定装置100の動作について説明する。
(ステップS101)
初めに、信号取得手段201は、半導体ウエハWの線膨張率αや屈折率変化の温度係数β、数式(3)〜(9)や各種パラメータ、薄膜Tの膜厚、任意の温度における半導体ウエハWの光路長等、半導体ウエハWの温度の算出に必要なデータを上位コントローラ(例えば、温度測定装置100に接続されたホストやIM(Integrated Metrology))から取得する。
【0062】
なお、上述した半導体ウエハWの温度の算出に必要なデータは、事前に取得したものを温度算出手段152が備えるHDDや不揮発性メモリ等へ予め記憶しておいてもよい。
【0063】
(ステップS102)
光源110からの光は、スプリッタ120に入射され、スプリッタ120により2分岐される。このうち、一方(測定光)は、コリメートファイバFを介して半導体ウエハWに照射される。
【0064】
(ステップS103)
半導体ウエハWに照射された測定光は、半導体ウエハWの表面Sや薄膜Tとの界面S等で反射される。また、スプリッタ120で分岐された他方(参照光)は、コリメートファイバFから出射され、参照光反射手段130によって反射される。そして、反射光はスプリッタ120へ入射し、測定光の反射光と再び合波されて受光手段151で受光され、波形信号として信号取得手段201に取り込まれる。
【0065】
(ステップS104)
光路長算出手段202は、信号取得手段201で取り込まれた波形信号及び駆動距離信号に基づいて、図4(b)で説明した干渉波C,Fのピーク間の光路長Lを算出する。
【0066】
(ステップS105)
膜厚算出手段203は、図6を参照して説明した薄膜Tの膜厚とピーク干渉比との関係(具体的には、数式(7))から薄膜Tの膜厚を算出する。
【0067】
(ステップS106)
シフト量算出手段204は、図9を参照して説明した薄膜Tの膜厚と干渉波Fのシフト量ΔLとの関係(具体的には、数式(7))に基づき、膜厚算出手段203で算出される薄膜Tの膜厚に対応するシフト量ΔLを算出する。
【0068】
なお、ステップS104〜S106の処理順序は、必ずしも図10に示した順序に従う必要はなく、ステップS104〜S106の処理順序を適宜入れ変えてもよいし、ステップS104〜ステップS106を並列処理としても構わない。
【0069】
(ステップS107)
光路長補正手段205は、光路長算出手段202が算出した光路長Lからシフト量算出手段204が算出したシフト量ΔLより光路長を補正し、実光路長Lを算出する。
【0070】
(ステップS108)
温度演算手段206は、光路長補正手段205により補正された光路長に基づいて、半導体ウエハWの温度を算出する。具体的には、予め記憶しておいた半導体ウエハWの線膨張率α、屈折率変化の温度係数β及び補正後の光路長(実光路長L)を上述した数式(3)へ代入して半導体ウエハWの温度を算出する。
【0071】
温度算出手段152は、その動作を終了するまで、受光手段151からの波形信号及び光路長変化手段140からの参照光反射手段130の駆動距離信号を所定の時間間隔で取り込んで半導体ウエハWの温度を算出する。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
図11は、実施例1に係る光路長の測定結果を示す図である。図11において、縦軸は算出された光路長、横軸はエッチング時間(エッチング開始時を0としている)をとっている。図11には、膜厚約2μm(正確には、1993nm)の薄膜(SiO膜)が形成された直径300mmの半導体ウエハをエッチングしながら測定した光路長を示した。測定ポイントは、半導体ウエハの中心(センタ)とした。なお、図11には、光路長を補正した場合(補正有)と、補正しなかった場合(補正無)を示した。
【0073】
図11に示すように、光路長の補正を行わなかった場合、光路長がエッチングの進行に伴い周期的に大きく変動することがわかる。これは、上述したように、薄膜の膜厚に応じて、薄膜での反射による干渉強度が周期的に変化するためである。一方、光路長の補正を行った場合、光路長がほとんど変動しないことがわかる。
【0074】
補正無の場合、エッチング中の光路長の変動がレンジで2.6μm程度(温度に換算して−10〜+3℃の範囲)であったが、補正有の場合、エッチング中の光路長の変動をレンジで0.5μm程度(温度に換算して−0.3〜+0.3℃の範囲)に抑えることができた(図11のA参照)。以上のことから、光路長を補正した場合、半導体ウエハの光路長、すなわち温度を精度よく測定できることがわかる。また、エッチング前の光路長についても従来に比較して正確な値を得ることができるため、半導体ウエハWの処理において大きなメリットとなる(図11のB参照)。
【0075】
図12,13は、実施例2(光路長補正有)及び比較例1(光路長補正無)に係る温度測定結果を示す図である。図12,13において縦軸は算出された温度、横軸はエッチング時間(エッチング開始時を0としている)をとっている。図12には、膜厚約2μm(正確には、1993nm)の薄膜(SiO膜)が形成された直径300mmの半導体ウエハをエッチングしながら温度を測定した結果を示すと共に、比較のため薄膜が形成されていないベアSiウエハをエッチングした場合の温度測定結果を合わせて示した。温度の測定ポイントは、半導体ウエハの中心(Center)である。
【0076】
(実施例2)
図12は、光路長の補正を行った場合の温度測定結果を示している。図12に示すように、光路長の補正を行った場合、エッチング中の半導体ウエハの測定温度の変動が小さいことがわかる。また、ベアSiウエハをエッチングした場合の温度測定の結果と比較した場合でも、その温度変化がベアSiウエハの温度変化と略同じであることから半導体ウエハの温度を精度よく測定できていることが理解できる。
【0077】
(比較例1)
図13には、光路長の補正を行わなかった場合の温度測定結果を示している。図13に示すように、光路長の補正を行わなかった場合、エッチング中の半導体ウエハの測定温度が周期的に大きく変動することがわかる。これは、上述したように、薄膜の膜厚に応じて、薄膜での反射による干渉強度が周期的に変化するためである。また、ベアSiウエハをエッチングした場合の温度測定の結果と比較した場合、その温度変化が大きく異なることから、半導体ウエハの温度を正確に測定できていないことがわかる。
【0078】
以上のように、実施形態に係る温度測定装置100は、干渉波の干渉強度から薄膜の膜厚を求めて、この求めた薄膜の膜厚から光路長のシフト量を算出し、さらに、求めたシフト量に基づいて干渉波のピーク間距離(光路長)を補正しているので、半導体ウエハW上に薄膜Tが形成されている場合でも、半導体ウエハWの温度を精度よく測定することができる。
【0079】
(実施形態の変形例)
上記実施形態では、測定対象物である半導体ウエハWの測定ポイントPで反射された測定光と、参照光反射手段130で反射された参照光を干渉させる時間ドメイン法で測定した光路長の補正について説明したが、上記実施形態で説明した補正方法は、半導体ウエハWの表面及び裏面の光路長から温度を算出する方法であれば適用可能である。この実施形態の変形例では、参照光を使用しない形態について説明する。
【0080】
図14は、実施形態の変形例にかかる温度測定装置100Aの構成図である。温度測定装置100Aは、光源110と、光サーキュレータ160と、測定光を測定対象物である薄膜(SiO膜)Tが形成された半導体ウエハ(基板)Wの測定ポイントPへ伝送するコリメートファイバFと、測定光の反射光による干渉波形に基づいて、測定ポイントPの温度を測定する信号処理装置150Aとを備える。信号処理装置150Aは、受光手段151A及び温度算出手段152Aを備える。以下、図14を参照して、実施形態の変形例にかかる温度測定装置100Aの各構成について説明するが、図1で説明した構成と実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0081】
光サーキュレータ160は、3つのポートA〜Cを備える、ポートAに入力した光はポートBから出力され、ポートBから入力した光はポートCから出力され、ポートCに入力した光はポートAから出力される特性を有する。すなわち、光サーキュレータ160のAポートから入力される光源110からの測定光は、光サーキュレータ160のBポートからコリメートファイバFを介して半導体ウエハWへ照射され、光サーキュレータ160のBポートから入力される反射光は、光サーキュレータ160のCポートから受光手段151Aへ入力される。
【0082】
図15は、受光手段151Aの構成図である。受光手段151Aは、光サーキュレータ160からの反射光を波長分解する回折格子151aと、波長分解された反射光を電気信号に変換するセンサ151bとを備え、光サーキュレータ160からの反射光を複数の波長に離散化した離散化信号を生成して出力する。なお、センサ151bは、例えばSiフォトダイオード、InGaAsフォトダイオード、Geフォトダイオードなどを用いたセンサで構成するが、半導体ウエハWの温度を測定する場合、InGaAsフォトダイオードを用いることが好ましい。
【0083】
温度算出手段152Aは、例えば、コンピュータ(電算機)等であり、受光手段151Aから入力される離散化信号に基づいて半導体ウエハWの温度を算出する。図16は、温度算出手段152Aの機能を示す構成図である。温度算出手段152Aは、信号取得手段201、光路長算出手段202、膜厚算出手段203、シフト量算出手段204、光路長補正手段205、温度演算手段206、離散フーリエ変換手段207を備える。
【0084】
なお、図16に示す機能は、温度算出手段152Aが備えるハードウェア(例えば、HDD、CPU、メモリ等)により実現される。具体的には、CPUが、HDDもしくはメモリに記録されているプログラムを実行することで実現される。
【0085】
信号取得手段201は、受光手段151Aからの離散化信号を取り込む。また、実施形態で説明した数式(3)〜(9)や各種パラメータ、薄膜Tの膜厚、任意の温度における半導体ウエハWの光路長等、半導体ウエハWの温度の算出に必要なデータを上位コントローラ(例えば、温度測定装置100Aに接続されたホストやIM(Integrated Metrology))から取得する。
【0086】
離散フーリエ変換手段207は、信号取得手段201が取得した離散化信号に対してDFT(discrete fourier transform)処理を行う。このDFT処理により、受光手段151Aからの離散化信号を振幅と距離との情報に変換する。図17は、DFT処理後の信号を示す図である。図17の縦軸は振幅、横軸は距離である。
【0087】
光路長算出手段202は、離散フーリエ変換された振幅と距離との情報に基づいて光路長を算出する。具体的には、図17に示す干渉波Gと干渉波Hとのピーク間の距離を算出する。図17に示す干渉波G及び干渉波Hは、それぞれ半導体ウエハWの表面Sでの干渉波及び半導体ウエハWと薄膜Tとの界面Sと薄膜Tの裏面Sとの間で多重反射した多数の干渉波が重なり合った干渉波である。
【0088】
膜厚算出手段203は、図6を参照して説明した薄膜Tの膜厚とピーク干渉比との関係(具体的には、数式(7))から薄膜Tの膜厚を算出する。
【0089】
シフト量算出手段204は、図9を参照して説明した薄膜Tの膜厚と干渉波Fのシフト量ΔLとの関係(具体的には、数式(7))に基づき、膜厚算出手段203で算出される薄膜Tの膜厚に対応するシフト量ΔLを算出する。
【0090】
光路長補正手段205は、光路長算出手段202が算出した光路長からシフト量算出手段204が算出したシフト量ΔLより光路長を補正し、実光路長を算出する。
【0091】
温度演算手段206は、光路長補正手段205で補正された光路長から測定対象物である半導体ウエハWの温度を算出する。図18は、補正後の光路長と温度との関係を示した図である。温度演算手段206は、この図18に示す補正後の光路長と温度との関係、及びに光路長補正手段205よりに算出された補正後の光路長に基づいて、半導体ウエハWの温度を算出する。
【0092】
なお、図18に示す光路長と温度との関係は、実際に実験等で測定したものを予め温度算出手段152Aが備えるHDDやメモリ等に記憶しておいてもよいし、上述した上位コントローラから取得してもよい。
【0093】
以上のように、この実施形態の変形例に係る温度測定装置100Aは、半導体ウエハWからの反射光を、受光手段151Aにより離散化信号に変換し、この離散化信号をDFT処理して光路長を算出しているので、光路長変化手段140により参照光反射手段130を機械的に動作させる必要がない。このため、半導体ウエハWの温度測定をより早く行うことができる。その他の効果は、実施形態に係る温度測定装置100と同じである。
【0094】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、上記実施形態では、測定対象物である半導体ウエハWに形成された薄膜をエッチングする場合の光路長の補正について説明したが半導体ウエハWに膜を形成(堆積)する場合にも適用することができる。この場合は、堆積する膜の屈折率を予め取得しておき、図6に示した薄膜Tの膜厚と干渉強度の関係とから膜厚を算出する。なお、エッチングの場合と異なり、膜厚を換算する方向が逆、つまり膜厚が増える方向に換算する点に留意する。
【符号の説明】
【0095】
100…温度測定装置、110…光源、120…スプリッタ、130…参照光反射手段、140…光路長変化手段、150,150A…信号処理装置、151,151A…受光手段、152,152A…温度算出手段、201…信号取得手段、202…光路長算出手段、203…膜厚算出手段、204…シフト量算出手段、205…光路長補正手段、206…温度演算手段、270…離散フーリエ変換手段、F,F…コリメートファイバ、P…測定ポイント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光を、基板上に薄膜が形成された測定対象物の測定ポイントまで伝送する工程と、
前記基板の表面での反射光による第1の干渉波と、前記基板と前記薄膜との界面及び前記薄膜の裏面での反射光による第2の干渉波を測定する工程と、
前記第1の干渉波から前記第2の干渉波までの光路長を算出する工程と、
前記第2の干渉波の強度に基づいて、前記薄膜の膜厚を算出する工程と、
前記算出した前記薄膜の膜厚に基づいて、前記基板の光路長と前記算出した光路長との光路差を算出する工程と、
前記算出した光路差に基づいて前記算出した前記第1の干渉波から前記第2の干渉波までの光路長を補正する工程と、
前記補正された光路長から前記測定ポイントにおける前記測定対象物の温度を算出する工程と、
を備えたことを特徴とする温度測定方法。
【請求項2】
前記薄膜の膜厚と前記第2の干渉波の強度との関係に基づいて前記薄膜の膜厚を算出することを特徴とする請求項1に記載の温度測定方法。
【請求項3】
前記第1の干渉波の強度と前記第2の干渉波の強度との比に基づいて前記薄膜の膜厚を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の温度測定方法。
【請求項4】
前記光源は、波長が1000nm以上の光を発生し、
前記基板は、シリコン(Si)基板であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の温度測定方法。
【請求項5】
前記薄膜は、シリコン酸化膜(SiO)、シリコン窒化膜(Si)、レジスト膜、樹脂系膜又は金属膜のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の温度測定方法。
【請求項6】
光源と、前記光源からの光を基板上に薄膜が形成された測定対象物の測定ポイントまで伝送する伝送手段と、前記測定対象物で反射した反射光を受光する受光手段とを備える温度測定装置において、前記受光手段で受光された前記反射光の干渉波に基づいて、前記測定ポイントにおける前記測定対象物の温度を測定する温度測定方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、
前記プログラムは、前記コンピュータを、
前記受光手段で受光された基板の表面での反射光による第1の干渉波と、前記基板と前記基板上に形成された薄膜との界面及び前記薄膜の裏面での反射光による第2の干渉波とを測定する測定手段、
前記第1の干渉波から前記第2の干渉波までの光路長を算出する第1の算出手段、
前記第2の干渉波の強度に基づいて、前記薄膜の膜厚を算出する第2の算出手段、
前記算出した前記薄膜の膜厚に基づいて、前記基板の光路長と前記算出した光路長との光路差を算出する第3の算出手段、
前記算出した光路差に基づいて前記算出した前記第1の干渉波から前記第2の干渉波までの光路長を補正する補正手段、
前記補正された光路長から前記測定ポイントにおける前記測定対象物の温度を算出する第4の算出手段、
として動作させることを特徴とする記憶媒体。
【請求項7】
光源と、前記光源からの光を基板上に薄膜が形成された測定対象物の測定ポイントまで伝送する伝送手段と、前記測定対象物で反射した反射光を受光する受光手段とを備える温度測定装置において、前記受光手段で受光された前記反射光の干渉波に基づいて、前記測定ポイントにおける前記測定対象物の温度を測定する温度測定方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記プログラムは、前記コンピュータを、
前記受光手段で受光された基板の表面での反射光による第1の干渉波と、前記基板と前記基板上に形成された薄膜との界面及び前記薄膜の裏面での反射光による第2の干渉波とを測定する測定手段、
前記第1の干渉波から前記第2の干渉波までの光路長を算出する第1の算出手段、
前記第2の干渉波の強度に基づいて、前記薄膜の膜厚を算出する第2の算出手段、
前記算出した前記薄膜の膜厚に基づいて、前記基板の光路長と前記算出した光路長との光路差を算出する第3の算出手段、
前記算出した光路差に基づいて前記算出した前記第1の干渉波から前記第2の干渉波までの光路長を補正する補正手段、
前記補正された光路長から前記測定ポイントにおける前記測定対象物の温度を算出する第4の算出手段、
として動作させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−78179(P2012−78179A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222821(P2010−222821)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】