説明

車両の制御装置

【課題】ホイールブレーキ装置の不調時であっても、車両のヒルホールド制御を行うことができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置17は、ヒルホールド制御手段の不調を検出する不調検出部23と、不調検出部23によってヒルホールド制御手段の不調が検出されると、ヒルホールド制御を行うべきときに、複数の摩擦締結要素のうち、車両の発進時に必要な変速段を形成するための所定の摩擦締結要素、及びこの所定の摩擦締結要素以外の摩擦締結要素に締結トルク容量を付加して自動変速機3をインターロックさせるインターロック部27と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、より具体的には、自動変速機、ホイールブレーキ装置、及びヒルホールド制御手段を備える車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ホイールブレーキ装置のブレーキ液圧が立ち上がって車両が停止したときから、ホイールブレーキ装置の操作が解除されて所定の時間が経過するまでホイールブレーキ装置の液圧を保持する、所謂ヒルホールド機能を有する車両の制御装置が知られている。このような制御装置としては、例えば特許文献1に開示された発明が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2006‐132451号公報
【0004】
具体的には、特許文献1によれば、例えば坂道で車両を発進させるためにドライバがブレーキペダルを離し、液圧センサによって検出されるブレーキ液圧が所定値以下まで低下すると、制御システムが、ブレーキ液圧回路内の保持弁を閉じることとしている。そして、保持弁が閉じられると、ホイールシリンダに作用しているブレーキ液が回路内で封止され、ホイールブレーキが継続的に作動してヒルホールド制御を行って、車両を停止することとしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された制御システムでは、ヒルホールド制御の大部分が例えばブレーキの液圧センサ等のホイールブレーキ装置に依存して行われているため、例えば液圧センサの故障等、ホイールブレーキ装置又はヒルホールド制御部の不調時には、ヒルホールド制御を行うことができないという問題があった。
【0006】
そしてドライバが、ヒルホールド制御を行えないことを認識していない場合、ドライバは、ヒルホールド制御が行われることを期待してフットブレーキを離してしまうため、車両の突然の飛び出しに対応することができない場合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、ヒルホールド制御手段の不調時であっても、車両を停止させることができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、本発明にかかる車両の制御装置は、複数の摩擦締結要素を有する自動変速機と、ホイールブレーキ装置、及びこのホイールブレーキ装置の操作解除後所定の時間ホイールブレーキ装置の液圧を保持するヒルホールド制御部を含むヒルホールド制御手段と、を備える車両の制御装置であって、前記ヒルホールド制御手段の不調を検出する不調検出手段と、前記不調検出手段によって前記ヒルホールド制御手段の不調が検出されると、ヒルホールド制御を行うべきときに、前記複数の摩擦締結要素のうち、車両の発進時に必要な変速段を形成するための所定の摩擦締結要素、及びこの所定の摩擦締結要素以外の摩擦締結要素に締結トルク容量を付加して前記自動変速機をインターロックさせるインターロック手段と、を備えること、を特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、不調検出手段によってヒルホールド制御手段の不調を検出すると、インターロック手段は、ヒルホールド制御を行うべきときに、自動変速機をインターロックさせる。これにより、車両には、ホイールブレーキ装置によるブレーキ力とは別に、自動変速機のインターロックによる車両を静止させるための制動力が作用する。そして自動変速機のインターロックによる制動力が作用すると、不調が検出されたヒルホールド制御手段のバックアップ機能として、例えば坂道において車両を確実に静止させることができる。
【0010】
また、この場合において、前記車両は、前記ホイールブレーキ装置の操作によって自動停止し、且つ前記ホイールブレーキ装置の解除後に自動始動するエンジンを備え、前記インターロック手段は、前記エンジンが自動停止しているときに、前記自動変速機をインターロックさせることが好ましい。
これらの構成によれば、不調検出手段によってヒルホールド制御手段の不調を検出すると、インターロック手段は、エンジンが自動停止している状態で、自動変速機をインターロックさせる。そして自動変速機がインターロックすると、車両には、ホイールブレーキ装置によるブレーキ力とは別に、自動変速機のインターロックによる車両を静止させるための制動力が作用する。そして自動変速機のインターロックの制動力が作用すると、不調が検出されたヒルホールド制御手段のバックアップ機能として、例えば坂道において車両を確実に停止させることができる。
さらに、この構成によれば、エンジンの自動始動時における車両の飛び出しを確実に防止することができる。
【0011】
また、この場合において、前記車両は、前記ホイールブレーキ装置の操作によって自動停止し、且つ前記ホイールブレーキ装置の解除後に自動始動するエンジンを備え、前記インターロック手段は、前記エンジンが自動停止する前に、前記自動変速機をインターロックさせることが好ましい。
この構成によれば、エンジンの状態に関わらず、ヒルホールド制御手段のバックアップを行わせることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、ヒルホールド制御手段の不調時であっても、車両を停止させることができる車両の制御装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第1及び第2の実施形態による車両の制御装置が適用された、車両の要部概略を示すブロック図である。同図に示すように、車両は、エンジン1と、エンジン1と接続された自動変速機3と、エンジン1の駆動力によって駆動されるポンプ5と、自動変速機3と接続された伝達機構7と、伝達機構7と接続されたホイール9と、ホイールブレーキ装置11と、ホイールブレーキ装置11と接続されたブレーキペダル13と、バッテリ等の駆動源によって駆動される電動ポンプ15と、各部を制御する制御装置17とを備える。このような車両は、エンジン1の駆動力を自動変速機3、及び伝達機構7を介してホイール9に伝達して、前進又は後退する。
【0014】
自動変速機3は、例えば、オートマチックトランスミッション(AT)からなり、エンジン1の出力を増幅させるトルクコンバータ19と、トルクコンバータ19の出力を複数の変速段に変速して伝達機構7に出力する変速機構21とを備える。
尚、本実施形態では自動変速機3として、所謂通常のオートマチックトランスミッション(AT)であるものとして説明するが、その他に、自動変速機には、手動変速機を自動化したオートメイテッドマニュアル変速機(ATM)、ツインクラッチ式の変速機、CVTやトロイダル式などの無段変速機などが含まれ、これらの変速機に本実施形態による制御装置を適用するようにしても良い。
【0015】
ポンプ5は、エンジン1と接続される。そしてエンジン1が駆動しているときは、エンジン1からの駆動力によってポンプ5を駆動させることで、変速機構21を構成する、後述の摩擦締結要素を作動させて、変速段の形成、及び切り替えを行う。
【0016】
伝達機構7は、例えばカウンタドライバ機構、差動装置、車軸等によって構成される。そして、自動変速機3からの出力は、伝達機構7を介してホイール9に伝達される。
【0017】
ホイールブレーキ装置11は、ドライバによるブレーキペダル13の操作に応じてホイール9にブレーキ力を付加する。そしてホイールブレーキ装置11は、ブレーキアクチュエータ、ブレーキオイルの油圧系統、ブレーキ液圧を検出するセンサ等によって構成される。また、ブレーキペダル13には、そのON、OFFを検出するためのブレーキスイッチSW(図示せず)が設けられている。
ここで、ホイールブレーキ装置11に含まれる、ブレーキの液圧を検出するためのセンサとしては、ブレーキオイルの油圧系統内に設けられた一つの液圧センサ、或いはブレーキオイルの油圧系統内で一定の距離を隔てて設けられた複数のセンサ、或いは種類の異なる複数のセンサを用いることができる。
【0018】
電動ポンプ15は、バッテリ(図示せず)に接続される。そしてエンジン1が停止しているときは、バッテリによって電動ポンプ15を駆動させることで、変速機構21を構成する摩擦締結要素を作動させて、変速段の形成、及び切り替えを行う。この操作は、所謂アイドルストップ時に行われる。すなわち、アイドルストップ時にエンジン1を自動停止させると、ポンプ5によって、エンジン1の自動始動後の車両発進のための、変速機構21の変速段を保持することができなくなる。そこで、アイドルストップ時には、バッテリによって駆動される電動ポンプ15によって摩擦締結要素を作動させて、変速機構21の変速段を保持させる。
【0019】
制御装置17は、後述するヒルホールド制御手段の不調を検出する不調検出部23と、ヒルホールド制御を行うためのヒルホールド制御部25と、自動変速機3をインターロックさせるインターロック部27とを備える。
【0020】
不調検出部23は、ヒルホールド制御を行うためのヒルホールド制御手段の作動不調を検出する。ここで、ヒルホールド制御とは、ドライバがブレーキペダル13を踏んで、車両が停止している状態から、ドライバがブレーキペダル13を離して車両を発進しようとする際に、所定時間、ホイールブレーキ装置11を作動させて、車両を停止させるものである。これにより、例えば、坂道発進等において、車両が後退すること等を防止することができる。そして本実施形態においては、このヒルホールド制御をおこなうためのヒルホールド制御手段は、ホイールにブレーキ力を付加するためのホイールブレーキ装置11と、ヒルホールド制御時にホイールブレーキ装置11を制御するためのヒルホールド制御部25とによって構成されている。そして不調検出部23は、このようなヒルホールド制御手段の不調を検出するようになっている。
【0021】
ここで、ヒルホールド制御手段の不調とは、例えばホイールブレーキ装置11又はヒルホールド制御部25に何らかの不備が生じた場合等をいい、例えば、ブレーキスイッチ信号がONを示しているのにも関わらず、ブレーキ液圧が比較的低い、若しくは略0を示している場合、ブレーキスイッチ信号がOFFを示しているにも関わらず、ブレーキ液圧が比較的高くなっている場合のように、ブレーキスイッチ信号のオン・オフとセンサによって検出されたブレーキ液圧の検出値の解離が生じた場合等がある。また、他の不調としては、二つセンサによって検出されたブレーキ液圧の検出値が一定値以上離れた場合等がある。このような場合には、ホイールブレーキ装置11又はヒルホールド制御部25に何らかの不備が生じており、ヒルホールド制御手段が不調であると判断する。そして、不調検出部23は、一般的にはこれらの不調を、車両の停止時に検出するが、不調の種類によっては、車両の走行時にヒルホールド制御手段の不調を検出するようにしてもよい。そして、不調検出部23がヒルホールド制御手段の不調を検出すると、インターロック部27に通知する。
【0022】
次に、インターロック部27の構成を説明する前に、説明の便宜上、自動変速機3の構成について、図2を参照して詳細に説明する。
【0023】
図2は、本発明の第1及び第2の実施形態による自動変速機3の概略構成を示すブロック図である。トルクコンバータ19は、エンジン1の出力を増幅させ、この増幅した出力を変速機構21に入力する。このようなトルクコンバータ19は、ロックアップクラッチ41付きのトルクコンバータからなり、エンジン1の出力軸に取り付けられたポンプ43と、ポンプ43と対向して設けられたタービン45と、ポンプ43とタービン45との間でトルクを増幅するステータ47と、ステータ用のワンウェイクラッチ49とを備え、これら各部は所定のハウジング内に収容される。そしてトルクコンバータ19は、エンジン1からの出力を増幅させて、タービン45に取り付けられたトルクコンバータ19の出力軸51から変速機構21に出力する。
【0024】
尚、本実施形態では、流体伝動装置としてトルクコンバータ19を用いて詳細な説明を行うが、流体伝動装置としては、自動変速機3の種類に応じて、ステータを有さないフルードカップリングを用いることもできる。トルクコンバータ或いはフルードカップリングを設けることで、車両の停止時に或る変速段を固定(締結)しても、停止時にエンジン1の駆動力を吸収してエンジン始動を開始することが出来るようになる。
【0025】
変速機構21は、トルクコンバータ19の出力軸51に取り付けられた、第1プラネタリギア機構53、第2プラネタリギア機構55、及び第3プラネタリギア機構57を備える。また、変速機構21は、摩擦締結要素としての、第1クラッチ59と、第2クラッチ61と、第1ブレーキ63と、第2ブレーキ65と、第3ブレーキ67とを備える。そして変速機構21は、摩擦締結要素によって、第1プラネタリギア機構53、第2プラネタリギア機構55、及び第3プラネタリギア機構57の動作の組み合わせを操作して、前進6速、及び後退速の複数の変速段を形成する。
【0026】
まず、第1クラッチ59は、トルクコンバータ19の出力軸51と接続され、さらに第1プラネタリギア機構53のサンギア69a、及び第2プラネタリギア機構55のサンギア69bと接続されている。そして第2クラッチ61は、トルクコンバータ19の出力軸51と接続され、さらに第2プラネタリギア機構55のキャリア71bと接続されている。
【0027】
また、第1ブレーキ63は、第1プラネタリギア機構53のリングギア73a、及び第2プラネタリギア機構55のキャリア71bと接続されている。そして第2ブレーキ65は、第2プラネタリギア機構55のリングギア73b、及び第3プラネタリギア機構57のキャリア71cと接続されている。さらに第3ブレーキ67は、第3プラネタリギア機構57のリングギア73cと接続されている。また、第1プラネタリギア機構53のリングギア73a、及び第2プラネタリギア機構55のキャリア71bには、それぞれプレート状カップリング75が接続されている。そして各サンギア69a,69b,69c、及びリングギア73a,73b,73cは、それぞれプラネタリギア77a,77b,77cと噛み合うように形成される。
【0028】
そしてこのような変速機構21では、所定の変速段を形成するために、複数の摩擦締結要素のうち、2つの摩擦締結要素に締結トルク容量を付加する。これによって各プラネタリギア機構53,55,57を構成する各ギアは、自転、公転、又は停止し、変速機構21が変速段を形成する。このとき、作動する摩擦締結要素と、変速段との関係は、表1に示すような関係となる。
【0029】
【表1】

【0030】
同表に示すように、例えば、1速の変速段を形成する場合には、ポンプ5又は電動ポンプ15からの供給油圧を油圧制御することにより第1クラッチ59及び第1ブレーキ63に締結トルク容量を付加することによって、第1プラネタリギア機構53のサンギア69a及び第2プラネタリギア機構55のサンギア69bをトルクコンバータ19の出力軸51と接続する。そしてトルクコンバータ19の出力軸51からの駆動力は、第1プラネタリギア機構53によって減速され、自動変速機3の出力軸79から出力される。また、2速乃至6速、及び後退速の変速段の場合にも、同表に示すように各摩擦締結要素に締結トルク容量を付加して、トルクコンバータ19の出力軸51の出力を変速して、自動変速機3の出力軸79から出力して、伝達機構5に入力される。
【0031】
そして、インターロック部27は、不調検出部23から不調を検出した旨の通知を受けると、ヒルホールド制御を行うべきときに、自動変速機3をインターロックさせる。ここで、「ヒルホールド制御を行うべきとき」とは、ヒルホールド制御手段が不調でなく、正常であれば、ヒルホールド制御が行われている間をいう。すなわち、ヒルホールド制御は、上述のように、ホイールブレーキ装置のブレーキ液圧が立ち上がって車両が停止したときに開始し、ホイールブレーキ装置の操作が解除されて所定の時間が経過したときに終了するが、インターロック部27は、この間に正常なヒルホールド制御が行われていない場合に、自動変速機3をインターロックする。
【0032】
そして、自動変速機3をインターロックさせる場合には、まず、インターロック部27は、ポンプ5又は電動ポンプ15からの供給油圧を油圧制御することにより、車両発進時に必要な変速段である、第1速の摩擦締結要素に付加されている締結トルク容量を保持する。そしてインターロック部27は、締結トルク容量が保持されている摩擦締結要素以外の摩擦締結要素に締結トルク容量を付加する。
上述の例で説明すると、インターロック部27は、まず、ポンプ5又は電動ポンプ15からの供給油圧を油圧制御することにより、第1速の変速段を構成する第1クラッチ59及び第1ブレーキ63に締結トルク容量を付加して保持する。次いで、インターロック部27は、ポンプ5又は電動ポンプ15を、第2クラッチ61、第2ブレーキ65、又は第3ブレーキ67の何れかの摩擦締結要素と接続する。これによって、第2クラッチ61、第2ブレーキ65、又は第3ブレーキ67が駆動して、プラネタリギア機構53,55,57を構成する何れかのギアと締結し、自動変速機3はインターロックする。
【0033】
尚、自動変速機3をインターロックさせるときには、プラネタリギア機構53,55,57の何れかのギアと締結していない摩擦締結要素に締結トルク容量を付加すれば足りるが、この場合において、クラッチを制御する機構と比較してブレーキを制御する機構の方がより容易であるため、インターロックを発生させるときには、第1ブレーキ63、第2ブレーキ65、又は第3ブレーキ67の何れかのブレーキを作動させるのが好ましい。これは、ブレーキのアクチュエータピストンが常時静止しているのに対して、クラッチのアクチュエータピストンが回転しており、ブレーキを作動させる場合の方が遠心力の影響を受け難いからである。
さらにまた、上述の例では、自動変速機3をインターロックさせるときに、車両発進時に1速段を形成するために、第1クラッチ59、第1ブレーキ63、及び第2ブレーキ65の3個の摩擦締結要素に締結トルク容量を付加して自動変速機3をインターロックさせることとしたが、1速段を形成するのに必要な所定の摩擦締結要素をワンウェイクラッチ49と連係させて第1クラッチ59のみとし、この所定の摩擦締結要素以外の摩擦締結要素である第1ブレーキ63、及び第2ブレーキ65に締結トルク容量を付加することによって自動変速機3をインターロックさせるようにしてもよい。このように、締結トルク容量を付加する摩擦締結要素の数は、自動変速機の種類に応じて適宜変更可能である。
【0034】
自動変速機3をインターロックさせるときに、摩擦締結要素に締結トルク容量を付加する機構は、エンジンの停止時、又はエンジンの駆動時によって異なる。すなわち、エンジン1が駆動している場合には、ポンプ5からの供給油圧を油圧制御することにより摩擦締結要素に締結トルク容量を付加するのがよい。また、例えばドライバによるブレーキペダル13の操作によって、ホイールブレーキ装置11のブレーキ液圧が比較的高くなり、エンジン1が自動停止(アイドルストップ)したときは、エンジン1が自動停止することによってポンプ5も停止することとなる。このような場合には、制御装置17は、エンジン1を停止させる前に電動ポンプ15を駆動させる。そして、電動ポンプ15からの供給油圧を油圧制御することにより、自動変速機3をインターロックするための摩擦締結要素に締結トルク容量を付加する。
【0035】
次に、本発明の第1、及び第2の実施形態による制御装置17の動作について、図3及び図4を参照しながら詳細に説明する。
ここで、図3は、ヒルホールド制御を行うときの制御装置17の動作を示すフロー図である。尚、各図面及び以下の説明において、「S」は、ステップを示す。また、図4は、ヒルホールド制御手段が正常に作動しているときに、ヒルホールド制御を行う場合のタイミングチャートを示す。
【0036】
まず、図3のS1において、制御装置17は、車両が停止したか否かを判断する。このS1における判断は、図4に示すように、時刻t1においてドライバがブレーキペダル13を踏み込み、ブレーキスイッチがオンとなり、ブレーキ液圧が立ち上がり、車両が減速し始め、時刻t2において、車速が0となったときに車両が停止したと判断する。そしてこのとき車両は、ヒルホールド制御を開始する。
【0037】
そして、ヒルホールド制御を行う必要があると判断した場合、S2において制御装置17は、ブレーキスイッチがオフとなったか否かを判断する。ここで、ブレーキスイッチがオフとなる場合としては、ドライバがブレーキペダル13を離した場合、及びホイールブレーキ装置11に不調があり、ドライバがブレーキペダル13を踏み続けているのにも関わらず、ブレーキスイッチがオフとなった場合がある。制御装置17は、何れの場合においても、ブレーキスイッチがオフとなったと判断する。
【0038】
次に、S3において制御装置17は、ヒルホールド制御手段が不調であるか否かを判断する。本実施形態では、かかる処理は、不調検出部23がホイールブレーキ装置11をモニタリングすることで実行される。そしてヒルホールド制御手段が不調でないと判断した場合には、S4において制御装置17は、ブレーキスイッチがオフとなってから所定の時間が経過したか否かを判断する。そして所定の時間が経過している場合には、ヒルホールド制御を解除するために、S5において制御装置17は、ホイールブレーキ装置11にホイールブレーキを解除させる。これにより、時刻t4においてブレーキ液圧は漸減し始め、車両が加速する。
尚、ヒルホールド制御を解除するための条件としては、ブレーキスイッチがオフとなってからの経過時間の他に、ドライバがアクセルペダルを踏み込んだ等の条件を用いてもよい。また、車両の走行中にヒルホールド制御手段の不調が検出するような場合には、不調が発生したことを所定の記憶領域に記憶して、S3において読み込むようにしてもよい。
【0039】
一方で、S3においてヒルホールド制御手段が不調であると判断された場合には、各部の関係は、例えば図5のタイミングチャートによって示される。
同図では、時刻t2においてヒルホールド制御が開始したのにも関わらず、ブレーキスイッチがオフとなってから所定の時間を経過する前の時刻t14において、何らかの原因でブレーキ液圧が降下するような不調が発生した状態を示す。尚、同図の一点鎖線L1は、ヒルホールド制御手段が不調でなく、正常なヒルホールド制御が行われた場合におけるブレーキ液圧の変化を示す。
【0040】
このとき時刻t14においてブレーキ液圧の検出値が降下した原因としては、例えば液漏れ等により実際にブレーキ液圧が降下したか、又は液圧を測定するセンサが故障したか、ヒルホールド制御部25のソフトウェア等に不備が生じたか等が想定される。そしてこのようなヒルホールド制御手段の不調を検出した場合、S6においてインターロック部27は、ポンプ5からの供給油圧を油圧制御し、自動変速機3をインターロックさせる。自動変速機3がインターロックすると、車両には、自動変速機3のインターロックによる制動力が作用するため、車両は、坂道等においても確実に停止する。
尚、同図では、時刻t14においてブレーキ液圧が略0となることとしているが、ヒルホールド制御手段が不調であると判断する条件としては、ブレーキ液圧が略0となった場合に限られるものではない。例えば、何らかの原因でブレーキ液圧が、坂道で車両を確実に停止させることができない値まで低下したような場合にも、ヒルホールド制御手段が不調であると判断してもよい。そしてこのような場合には、ホイールブレーキ装置11のブレーキ力と、そのバックアップ機能としての自動変速機3のインターロックによってヒルホールド制御を行うことができる。
【0041】
そしてS7において制御装置17は、ブレーキスイッチがオフとなってから所定の時間が経過したか否かを判断し、S8において自動変速機3のインターロックを解除する。これにより時刻t15においてインターロック部27が作動させた摩擦締結要素を解放する。そしてインターロックが解除されると、エンジン1の駆動力がホイール9まで伝達され、車両は加速する。
尚、同図では、インターロック部27が、締結トルク容量を漸減させるように摩擦締結要素を解放するものとして図示されているが、一点鎖線L2で示すように、締結トルク容量をON/OFF的に制御して、瞬間的に解放することも可能である。この場合、例えばソレノイドのような簡単な機構によって摩擦締結要素を作動させることができる。
【0042】
このように、ヒルホールド制御手段が不調であったとしても、ヒルホールド制御を行うべきとき、すなわち時刻t2と時刻t4との間で自動変速機3をインターロックさせることで、車両を確実に停止させることができるため、車両の飛び出しを防止することができる。
【0043】
上述した動作の変形として、車両がアイドルストップを行う場合には、制御装置17は、自動変速機3をインターロックさせるときに、電動ポンプ15を使用する。
図6は、ヒルホールド制御手段が正常に作動している場合に、エンジン1をアイドルストップ状態から自動始動させてヒルホールド制御を継続するときのタイミングチャートを示す。
【0044】
まず、時刻t21においてドライバがブレーキペダル13を踏み込むと、ブレーキスイッチがオンとなり、ブレーキ液圧が立ち上がる。そしてブレーキ液圧が所定値Paを超えた後、時刻t22においてエンジン1は自動停止し、車両がアイドルストップ状態となる。このとき、ヒルホールド制御手段は、ヒルホールド制御を開始する。そして時刻t23においてドライバがブレーキペダル13を離し、アクセルペダルを踏み込む等の操作を行うと、アイドルストップが解除される。そして、アイドルストップが解除されると、時刻t24においてエンジン1は自動始動する。そして、ブレーキペダル13が放された後も、ヒルホールド制御によってブレーキ液圧は保持され、ブレーキスイッチがオフとなってから所定の時間経過すると、ヒルホールド制御が終了する。そして、時刻t25においてブレーキ液圧を低下させることによって、車両が加速する。
【0045】
そして図7は、ヒルホールド制御手段不調である場合に、エンジン1をアイドルストップ状態から自動始動させてヒルホールド制御を行うときのタイミングチャートを示す。
【0046】
まず、時刻t31においてドライバがブレーキペダル13を踏み込むと、ブレーキスイッチがオンとなり、ブレーキ液圧が立ち上がる。次に制御装置17は、電動ポンプ15からの供給油圧を油圧制御し、時刻t32においてエンジン1が自動停止してアイドルストップ状態となる。そしてこれと略同時刻に、ヒルホールド制御手段は、ヒルホールド制御を開始する。そして、時刻t33においてブレーキスイッチがオフとなると、アイドルストップは解除され、さらにホイールブレーキ装置11は、ブレーキ液圧を保持する。また、このときインターロック部27が、電動ポンプ15からの供給油圧を油圧制御することにより、自動変速機3の第1速の変速段を形成するための第1クラッチ59と第1ブレーキ63の締結トルク容量は保持される。
【0047】
この状態で、不調検出部23が、ヒルホールド制御が行われるべき時刻t32と時刻t35の間の、時刻t34において何らかの原因でブレーキ液圧が低下したのを検出すると、インターロック部27は、電動ポンプ15からの供給油圧を油圧制御することにより、例えば第2ブレーキ65に締結トルク容量を付加することで、自動変速機3をインターロックさせる。その後、時刻t35において直ちにエンジン1を自動始動させる。このようにヒルホールド制御手段が不調なときは、ドライバが車両の発進を希望しているのか、又はアイドルストップ状態を希望しているのかを判断することができないため、時刻t33と時刻t34の間隔を比較的短くするのが好ましい。これによって、例えばドライバが発進を希望しているのにも関わらず、エンジン1が停止したままとなるのを防止することができる。
【0048】
そして、ブレーキスイッチがオフとなってから所定の時間経過後、締結トルク容量を漸減させて、自動変速機3のインターロックを解除する。これによってエンジン1からの駆動力がホイール9に伝達され、車両は加速する。
【0049】
このように、アイドルストップと並行してヒルホールド制御をおこなう場合においても、自動変速機3をインターロックさせることで、車両の飛び出しを防止することができる。
また、特にアイドルストップを行う車両においては、ヒルホールド制御手段が不調であるときに、アイドルストップ状態からエンジンを自動始動すると、飛び出しが懸念される。そしてこのような場合には、ドライバは、ギアをPレンジに変えた上で、手動でエンジンを始動させる必要がある。しかしながら、本発明のように、アイドルストップ状態からエンジン1を自動始動させるときに、自動変速機3をインターロックすることによって、エンジン1が自動始動したときに、車両が飛び出すのを防止することができる。
【0050】
次に、本発明の第2の実施形態について、詳細に説明をする。第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成を有する箇所があるため、該箇所については詳細な説明を省略し、差異のある箇所について詳細に説明する。
具体的には、第2の実施形態では、上述した第1の実施形態の図3に示すフローチャートによって動作し、各部の関係は、図8に示すようなタイミングチャートによって示される。
【0051】
まず、時刻t41においてブレーキスイッチがオンとなると、ブレーキ液圧が立ち上がり、時刻t42において車両が停止する。その後、何らかの原因で、ヒルホールド制御が行われるべき時刻t42と時刻t45との間の時刻t43においてブレーキ液圧の検出値が低下し、不調検出部23がヒルホールド制御手段を不調を検出すると、インターロック部27は、自動変速機3をインターロックする。そして、時刻t44においてドライバがブレーキペダル13を離すと、インターロック部27によって、車両を停止させる制動力を確保し、所定の時間が経過した時刻t45においてインターロックを解除する。
すなわち、第2の実施形態では、時刻t44においてヒルホールド制御を開始する前であっても、ヒルホールド制御手段の不調が検出されると、自動変速機3をインターロックして、車両を確実に停止させる。そしてドライバがブレーキペダル13を離すと、第1の実施形態で説明したように、ヒルホールド制御を行う。
【0052】
このように、第2の実施形態によれば、ブレーキスイッチがオフの操作が解除される前であっても自動変速機3をインターロックする。そしてこのような構成によっても、車両を確実に停止させ、車両の飛び出しを確実に防止することができる。
【0053】
また、変形例として、アイドルストップを行う車両においては、図9のタイミングチャートのように動作してもよい。
【0054】
まず、時刻t51においてブレーキスイッチがオンとなり、ブレーキ液圧が立ち上がった後、ヒルホールド制御を行うべき時刻t52と時刻t54との間で、何らかの原因でブレーキ液圧が降下すると、インターロック部27は、自動変速機3をインターロックする。そして、この場合には、エンジン1を自動停止させずに、エンジン回転数をアイドル回転数で維持する。その後。時刻t53においてブレーキスイッチがオフとなって、所定の時間が経過した時刻t54においてインターロックを解除する。このように、車両がアイドルストップする前にヒルホールド制御手段の不調が検出されたときにも、自動変速機3をインターロックすることによって、車両を確実に停止させ、車両の飛び出しを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1及び第2の実施形態による車両の要部概略を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1及び第2の実施形態による自動変速機の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1及び第2の実施形態による制御装置の動作を示すフロー図である。
【図4】本発明の第1及び第2の実施形態による制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明の第1の実施形態による各部の動作を示すタイミングチャートである。
【図6】本発明の第1の実施形態による各部の動作を示すタイミングチャートである。
【図7】本発明の第1の実施形態による各部の動作を示すタイミングチャートである。
【図8】本発明の第2の実施形態による各部の動作を示すタイミングチャートである。
【図9】本発明の第2の実施形態による各部の動作を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1 エンジン
3 自動変速機
11 ホイールブレーキ装置
17 制御装置
19 トルクコンバータ
21 変速機構
23 不調検出部
25 ヒルホールド制御部
27 インターロック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の摩擦締結要素を有する自動変速機と、ホイールブレーキ装置、及びこのホイールブレーキ装置の操作解除後所定の時間ホイールブレーキ装置の液圧を保持するヒルホールド制御部を含むヒルホールド制御手段と、を備える車両の制御装置であって、
前記ヒルホールド制御手段の不調を検出する不調検出手段と、
前記不調検出手段によって前記ヒルホールド制御手段の不調が検出されると、ヒルホールド制御を行うべきときに、前記複数の摩擦締結要素のうち、車両の発進時に必要な変速段を形成するための所定の摩擦締結要素、及びこの所定の摩擦締結要素以外の摩擦締結要素に締結トルク容量を付加して前記自動変速機をインターロックさせるインターロック手段と、を備えること、
を特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両は、前記ホイールブレーキ装置の操作によって自動停止し、且つ前記ホイールブレーキ装置の解除後に自動始動するエンジンを備え、
前記インターロック手段は、前記エンジンが自動停止しているときに、前記自動変速機をインターロックさせる、
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記車両は、前記ホイールブレーキ装置の操作によって自動停止し、且つ前記ホイールブレーキ装置の解除後に自動始動するエンジンを備え、
前記インターロック手段は、前記エンジンが自動停止する前に、前記自動変速機をインターロックさせる、
請求項1に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−14168(P2010−14168A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173361(P2008−173361)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】