説明

車両の誤発進防止装置

【課題】撮像装置によって撮像された画像に基づいて運転者の意図する進行方向が判別され、判別された進行方向とギア切替位置の一致、不一致によって車両の発進が許可、又は阻止される車両の誤発進防止装置において、運転者の意図する進行方向を正確に判断して車両の誤発進を確実に防止する。
【解決手段】撮像装置として、運転者Dが車両2を前進方向に発進させるときに視線を向けるべき前方位置に設置される第1の撮像カメラ11と、後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高いリアウインド、ルームミラー、左右のバックミラーの4箇所に設置される第2乃至第5の撮像カメラ12〜15を備える。各撮像カメラ11〜15によって撮像された画像が発進制御装置に取込まれて解析処理され、運転者Dの視線が各撮像カメラを向いている場合に前進又は後進方向への車両の発進が許可され、いずれの撮像カメラへも視線が向いていない場合には発進が阻止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の誤発進防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ギア切替位置が運転者の意図する進行方向とは逆になっていることに気付かないまま運転者が車両を発進させて事故を起こす場合がある。
【0003】
例えば、後ろ向きで車庫に停車している車両(乗用車)を発進させるときに、ギア切替位置が後進方向のままアクセルを踏めば、車両は運転者の意に反して車庫の奥側へ進行してしまい、車庫の壁に衝突する等の事故を起こしてしまう。また、事故に至らないまでも、車両が運転者の意図する進行方向とは逆の方向に発進してしまうことは、極めて危険なことである。
【0004】
そこで、上記のような危険、事故等を未然に防止するために、カメラによって撮像した画像に基づいて顔認識を行う技術を利用して運転者の意図する進行方向を判別し、判別した運転者の意図する進行方向と車両のギア切替位置が一致する場合は、車両の発進を許可し、一致しない場合は、車両の発進を阻止する車両安全装置及び運転支援装置が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−14752号公報
【特許文献2】特開2005−153660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1及び特許文献2に記載の装置において、運転者の意図する進行方向については、車両の中に設けられた1台の撮像カメラによって撮像された運転者の画像を車両安全装置(マイクロコンピュータ)等が解析し、運転者の体勢や顔の向き、視線の方向等を総合的に判断して判別するので、運転者の意図する進行方向が正確に判別されない可能性がある。
【0006】
特に運転者に正対する正面位置に設けられた1台の撮像カメラによって撮像された画像に基づいて運転者の意図する進行方向が後方であるということを正確に判断することは困難である。
【0007】
具体的には、例えば運転者が車両を後進させる意図を持っているとき、運転者は上半身を反転させて顔を後ろへ向けて直接後方を見る場合もあれば、ルームミラー又は左右のバックミラーに視線を向けて間接的に後方を見る場合もある。これらの複数の態様が考えられるため、1台の撮像カメラによって撮像された運転者の画像を解析することによって正確に運転者の意図を判断することは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、車両に設けられる撮像装置によって撮像された運転者の画像に基づいて運転者の意図する進行方向が判別され、判別された運転者の意図する進行方向とギア切替位置が一致する場合に車両の発進が許可され、一致しない場合に車両の発進が阻止される車両の誤発進防止装置において、運転者の意図する進行方向が正確に判断できるように構成して、運転者の意図に反する方向への車両の誤発進を確実に防止することができる車両の誤発進防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、ギア切替機構のギア切替位置に基づいて車両の現在状態が前進可能状態又は後進可能状態のいずれであるかを判別する車両進行可能方向判別手段と、前記車両の運転席に着座した運転者を撮像する撮像装置と、前記撮像装置によって撮像された前記運転者の画像に基づいて前記運転者の意図する進行方向が前後進いずれの方向であるか判別し、判別した運転者の意図する進行方向と前記車両進行可能方向判別手段によって判別される前記車両の進行可能方向とが一致する場合に前記車両の発進を許可し、一致しない場合に前記車両の発進を阻止する発進制御手段を備え、運転者の意図に反する方向への誤発進を防止する車両の誤発進防止装置において、前記撮像装置は、前記運転者が車両を前進方向に発進させるときに視線を向けるべき、前記運転者に正対する位置に設けられる第1の撮像カメラと、前記運転者が車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高いリアウインド位置に設けられる第2の撮像カメラと、前記運転者が車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高いルームミラー位置に設けられる第3の撮像カメラと、前記運転者が車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高い左右のバックミラー位置に設けられる第4及び第5の撮像カメラを備え、前記発進制御手段は、前記車両進行可能方向判別手段による判別結果が前進可能状態である場合、前記第1の撮像カメラにより撮像される画像において運転者の視線が第1の撮像カメラを向いているときに、運転者の意図する進行方向と車両の進行可能方向が一致するとして車両の発進を許可し、運転者の視線が第1の撮像カメラを向いていないときには、車両の発進を阻止すると共に運転者に対して警告を発し、前記車両進行可能方向判別手段による判別結果が後進可能状態である場合、前記第2の撮像カメラ乃至第5の撮像カメラにより撮像されるいずれかの画像において運転者の視線が前記第2の撮像カメラ乃至第5の撮像カメラを向いているときに、運転者の意図する進行方向と車両の進行可能方向が一致するとして車両の発進を許可し、運転者の視線が前記第2の撮像カメラ乃至第5の撮像カメラのいずれにも向いていないときには、車両の発進を阻止すると共に運転者に対して警告を発し、運転者の意図に反する方向への誤発進を確実に防止することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、ギア切替機構のギア切替位置に基づいて車両の現在状態が前進可能状態又は後進可能状態のいずれであるかを判別する車両進行可能方向判別手段と、前記車両の運転席に着座した運転者を撮像する撮像装置と、前記撮像装置によって撮像された前記運転者の画像に基づいて前記運転者の意図する進行方向が前後進いずれの方向であるか判別し、判別した運転者の意図する進行方向と前記車両進行可能方向判別手段によって判別される前記車両の進行可能方向とが一致する場合に前記車両の発進を許可し、一致しない場合に前記車両の発進を阻止する発進制御手段を備え、運転者の意図に反する方向への誤発進を防止する車両の誤発進防止装置において、前記撮像装置は、前記運転者が車両を前進方向に発進させるときに視線を向けるべき位置に設けられる前進時用撮像カメラと、前記運転者が車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高い複数の位置に設けられる複数の後進時用撮像カメラを備え、前記発進制御手段は、前記車両進行可能方向判別手段による判別結果が前進可能状態である場合、前記前進時用撮像カメラにより撮像される画像において運転者の視線が前記前進時用撮像カメラを向いているときに、運転者の意図する進行方向と車両の進行可能方向が一致するとして車両の発進を許可し、運転者の視線が前記前進時用撮像カメラを向いていないときには、車両の発進を阻止し、前記車両進行可能方向判別手段による判別結果が後進可能状態である場合、前記複数の後進時用撮像カメラにより撮像されるいずれかの画像において運転者の視線が前記後進時用撮像カメラを向いているときに、運転者の意図する進行方向と車両の進行可能方向が一致するとして車両の発進を許可し、運転者の視線が前記複数の後進時用撮像カメラのいずれにも向いていないときには車両の発進を阻止し、運転者の意図に反する方向への誤発進を確実に防止することを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記複数の後進時用撮像カメラは、前記車両のリアウインド位置に設けられる撮像カメラと、前記車両のルームミラー位置に設けられる撮像カメラと、前記車両のバックミラー位置に設けられる撮像カメラであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、運転者が車両を前進方向に発進させるときに視線を向けるべき位置と、運転者が車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高い4箇所の位置にそれぞれ撮像カメラを備え、各撮像カメラにより撮像された画像において運転者の視線が各撮像カメラに向いていることが確認された場合に車両の発進が許可され、運転者の視線がいずれの撮像カメラにも向いていない場合には車両の発進が阻止されるので、運転者の意図に反する方向への誤発進を確実に防止することができる。また、車両の発進が阻止されたときに警告が発せられるので、運転者は意図する進行方向とギア切替位置が一致していないことを即時に知ることができ、ギア切替位置を変更する等の対応を円滑に行うことができる。
【0013】
請求項2及び請求項3の発明によれば、運転者が車両を前進方向に発進させるときに視線を向けるべき位置と、運転者が車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高い複数の位置にそれぞれ撮像カメラを備え、各撮像カメラにより撮像された画像において運転者の視線が各撮像カメラに向いていることが確認された場合に車両の発進が許可され、運転者の視線がいずれの撮像カメラにも向いていない場合には車両の発進が阻止されるので、運転者の意図に反する方向への誤発進を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る車両の誤発進防止装置について図面を参照して説明する。本実施形態の誤発進防止装置1は、図1及び図2に示されるように、普通乗用車(車両)2に搭載されている。
【0015】
運転者Dは、運転席3に着座したまま足でアクセル4とブレーキ5を操作して車両の発進及び制動・停止が行え、ハンドル6を操作して車両の走行方向の変更が行える。運転席3の左側にはギア切替機構7が設けられており、運転者Dは適宜のタイミングでギア切替機構7を操作してギア切替位置を切替ることができる。
【0016】
例えば、運転者Dがギア切替機構7の操作レバー7aを前方へ倒すと車両2が前進可能状態に切替えられ、後方へ倒すと車両2が後進可能状態に切替えられる。ギア切替機構7は、後述の発進制御装置8に電気的に接続されており、発進制御装置8は、現在のギア切替位置を認識できるように構成されている。また、車輪の回転を検出することによって車両2の動きを検知する車速センサ(図示せず)が設けられており、アクセル4、ブレーキ5及び車速センサが電気的に発進制御装置8に接続されて、発進制御装置8は、運転者Dによるアクセル4とブレーキ5の操作状況、及び運転者Dの意図しない車両2の動きを認識できるように構成されている。
【0017】
次に、運転席3に着座した運転者Dを撮像するために車両2の5箇所に設置された5台の撮像カメラについてそれぞれ説明する。
【0018】
第1の撮像カメラ11は、運転者Dが車両2を前進方向に発進させるときに視線を向けるべき運転者Dに正対するハンドル6の基端付近に設置される。
【0019】
第2の撮像カメラ12は、運転者Dが車両2を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性が高い運転席3の直後方に相当するリアウインド(不図示)の上部付近に設置される。第2の撮像カメラ12は、運転者Dが運転席3に着座したままで後ろを振り返って後方を見るときの運転者Dの視線方向に設置される。
【0020】
なお、第2の撮像カメラ12は、撮像角度が僅かに車両2の外側に向くように設置され、運転者Dがドアウインド(不図示)から車外へ少し身を乗り出して後ろを振り返った状態を撮像できるように構成されている。
【0021】
第3の撮像カメラ13は、運転者Dが車両2を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性が高いルームミラーM(図2参照)の近傍に設置される。第3の撮像カメラ13は、運転者Dが上半身を前方に向けたままで顔及び視線をルームミラーMに向け、ルームミラーMを介して間接的に後方を見る場合の運転者Dの視線方向に設置される。
【0022】
第4の撮像カメラ14及び第5の撮像カメラ15は、運転者Dが車両2を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性が高い左右のバックミラーM1、M2の近傍に設置される。第4の撮像カメラ14及び第5の撮像カメラ15は、運転者Dが上半身を前方に向けたままで顔及び視線を左右いずれかのバックミラーM1、M2に向け、バックミラーM1、M2を介して間接的に後方を見る場合の運転者Dの視線方向に設置される。
【0023】
第1の撮像カメラ11乃至第5の撮像カメラ15は、それぞれマイクロコンピュータから構成される発進制御装置(発進制御手段)8に接続され、各撮像カメラ11〜15によって撮像される画像が発進制御装置8に送信され、発進制御装置8によって顔認識等の後に詳述する解析処理を行われる。発進制御装置8は、その解析処理の結果とギア切替機構7から得られるギア切替位置情報に基づいて車両2の発進を許可、又は阻止する。
【0024】
以下、発進制御装置8が行う発進制御手順について、図3のフローチャートを参照して説明する。
【0025】
まず、発進制御装置8は、ギア切替機構7からのギア切替位置情報に基づいてギア切替位置が前進方向(車両2が前進可能状態)か否か(S1)、及びギア切替位置が後進方向(車両2が後進可能状態)か否か(S2)について判断する。
【0026】
ギア切替位置が前進方向の場合(S1でYES)には、運転者Dによってアクセル操作が行われたか否か(S3)が判断され、アクセル操作が行われていないと判断される場合(S3でNO)には、車速センサからの出力があるか否かに基づいて車両2が動いているか否かが判断される(S4)。
【0027】
車両2が動いていると判断される場合(S4でYES)には、運転者Dの意図しない車両2の動きであるので、誤発進が抑制され、スピーカ16から警報音が発せられる(S5)。
【0028】
S4で車両2が動いていないと判断された場合には、運転者Dによってブレーキ操作が行われたか否かが判断される(S6)。ブレーキ操作が行われていないと判断される場合(S6でNO)には、再び車速センサからの出力があるか否かに基づいて車両2が動いているか否かが判断される(S7)。
【0029】
車両2が動いていると判断される場合(S7でYES)には、運転者Dの意図しない車両2の動きであるので、誤発進が抑制され、スピーカ16から警報音が発せられる(S8)。
【0030】
アクセル操作が行われた(S3でYES)、又はブレーキ操作が行われた(S6でYES)と判断される場合には、発進制御装置8は、運転者によって発進操作が行われたと判断して第1の撮像カメラ11から画像の取込みを行う(S9)。
【0031】
発進制御装置8は、取込んだ画像から顔部分を抽出し(S10)、発進制御装置8のメモリ8a内に予め蓄積されたデータベース情報と比較して顔の向きを評価する(S11)。
【0032】
ここで、S10及びS11における処理について、図4(a)乃至図4(c)を参照して説明する。まず、発進制御装置8は、S10の処理において、取込んだ画像(図4(a))から肌色部分の面積や形状等に基づいて運転者Dの顔部分Dfを抽出し、この顔部分Dfの画像と、データベース情報としてメモリ8a内に蓄積された顔部分Dfの複数のサンプル画像(図4(b)、図4(c))と比較し、顔の向きが正常な範囲か否か、及び正面向きからの外れ程度を評価する(S11)。
【0033】
具体的には、メモリ8a内に蓄積されたサンプル画像は、運転者Dが第1の撮像カメラ11に向かって視線を向けた状態の顔部分Dfの画像である。運転者Dは、車両2を前進方向に発進させるときに顔を正面に向けた通常の姿勢において少しずつ顔の向きを変えて複数枚の画像を第1の撮像カメラ11により予め撮像し、データベース情報としてメモリ8a内に蓄積しておく。
【0034】
そして、発進制御装置8は、S11の処理において、抽出した顔部分(図4(a))Dfと、各サンプル画像(図4(b)、図4(c))の顔部分Dfを比較して顔の向きが正常な範囲か否か、正常な範囲であればどの程度正面向きから外れているかを評価する。
【0035】
例えば、抽出した顔部分(図4(a))Dfとサンプル画像(図4(c))の顔部分Dfを比較したときの肌色部分の面積等から算出される外れ量が、抽出した顔部分(図4(a))Dfとサンプル画像(図4(b))の顔部分Dfを比較したときの外れ量よりも小さい場合には、顔の向きは正常な範囲であるが僅かに右を向いていると評価される。
【0036】
次に、発進制御装置8は、取込んだ画像から瞳Eの位置を抽出し、瞳Eと白目部分Ewとの相対位置関係から視線の方向を算出する(S12)。このとき、S11において行った顔の向きの評価結果に基づいて視線方向を修正する。
【0037】
例えば、図4(c)に示されるような画像の場合、瞳Eと白目部分Ewの相対位置関係からは、視線方向は僅かに左を向いているという算出結果となるが、顔の向きの評価結果(顔は僅かに右を向いている)に応じて視線方向をほぼ正面向きに修正する。
【0038】
そして、発進制御装置8は、S8における視線方向の算出結果とS11における顔の向きの評価結果に基づいて、運転者Dの意図する進行方向が前進方向か否かを最終的に判断する(S9)。
【0039】
具体的には、視線方向が正面向きである場合には、運転者は第1の撮像カメラ11の方向(前方)を見ていると判断して運転者Dの意図する進行方向は前進方向であると判断し(S13でYES)、視線方向が正面向きでない場合には、運転者Dの意図する進行方向は前進方向ではないと判断する(S13でNO)。
【0040】
また、S12において視線方向が正面向きであると算出された場合であっても、S11における評価結果が顔の向きが正面向きから大きく外れているという評価結果(例えば、肌色部分の面積がほとんど無い場合)であった場合には、S13における判断において運転者の意図する進行方向は前進方向ではないと判断することができる。
【0041】
このように2種類の評価結果に基づいて運転者Dの意図する進行方向が前進方向か否かが判断されるので、より正しく判断を行うことができるが、基本的には視線方向が正しく正面を向いているか否かによって判断され、顔の向きの評価結果は補助的に利用される。
【0042】
S13において運転者Dの意図する進行方向が前進方向であるとの判断結果になった場合(S13でYES)には、誤発進抑制が解除され(S15)、車両2が前進方向へ発進する(S16)。誤発進抑制は、例えば、電気的にアクセル操作を無効とすることである。
【0043】
S13において運転者Dの意図する進行方向は前進方向ではないとの判断結果になった場合(S13でNO)には、誤発進抑制が継続されると共に警報音がスピーカ16から発せられる(S14)。警報音は、単純な機械音であってもよいし、運転者Dにギア切替位置が運転者Dの意図する進行方向の逆になっていることを具体的に知らせる音声メッセージであってもよい。
【0044】
次に、ギア切替位置が後進方向の場合(S2でYES)について説明する。
【0045】
ギア切替位置が後進方向の場合(S2でYES)には、運転者Dによってアクセル操作が行われたか否か(S17)が判断され、アクセル操作が行われていないと判断される場合(S17でNO)には、車速センサからの出力があるか否かに基づいて車両2が動いているか否かが判断される(S18)。
【0046】
車両2が動いていると判断される場合(S18でYES)には、運転者Dの意図しない車両2の動きであるので、誤発進が抑制され、スピーカ16から警報音が発せられる(S19)。
【0047】
S18で車両2が動いていないと判断された場合には、運転者Dによってブレーキ操作が行われたか否かが判断される(S20)。ブレーキ操作が行われていないと判断される場合(S20でNO)には、再び車速センサからの出力があるか否かに基づいて車両2が動いているか否かが判断される(S21)。
【0048】
車両2が動いていると判断される場合(S21でYES)には、運転者Dの意図しない車両2の動きであるので、誤発進が抑制され、スピーカ16から警報音が発せられる(S22)。
【0049】
アクセル操作が行われた(S17でYES)、又はブレーキ操作が行われた(S20でYES)と判断される場合には、発進制御装置8は、運転者Dによって発進操作が行われたと判断して第2の撮像カメラ12から画像の取込みを行う(S23)。
【0050】
発進制御装置8は、ギア切替位置が前進方向の場合と同様に、取込んだ画像から顔部分Dfを抽出し(S24)、発進制御装置8のメモリ8a内に予め蓄積されたデータベース情報と比較して顔の向きを評価する(S25)。
【0051】
このとき、発進制御装置8が比較するデータベース情報(サンプル画像)は、運転者Dが予め上体を後方へ反転させて視線を第2の撮像カメラ12に向けた状態で第2の撮像カメラ12により撮像した画像、又はドアウインドから少し身を乗り出して後ろを振り返った状態で第2の撮像カメラ12により撮像した画像である。
【0052】
そして、発進制御装置8は、S25の処理において抽出した顔部分Dfと、各サンプル画像の顔部分Dfを比較して顔の向きが正常な範囲か否か、正常な範囲であればどの程度正面向き(第2の撮像カメラ12に対して正対状態)から外れているかを評価する。
【0053】
次に、発進制御装置8は、取込んだ画像から瞳Eの位置を抽出し、瞳Eと白目部分Ewとの相対位置関係から視線の方向を算出する(S26)。このとき、S25において行った顔の向きの評価結果に基づいて視線方向を修正する。
【0054】
そして、発進制御装置8は、S26における視線方向の算出結果と、S25における顔の向きの評価結果に基づいて運転者Dの意図する進行方向が後進方向か否かを最終的に判断する(S27)。
【0055】
視線方向が第2の撮像カメラ12に向いている場合には、運転者Dは第2の撮像カメラ12の方向(後方)を見ていると判断して運転者Dの意図する進行方向は後進方向であると判断し(S27でYES)、視線方向が第2の撮像カメラ12に向いていない場合には、運転者Dの意図する進行方向は後進方向ではないと判断する(S27でNO)。
【0056】
なお、S27における運転者Dの意図する方向が後進方向か否かを判断するに当たって、S13と同様に、視線方向以外に運転者Dの顔の向きの評価が補助的に利用されてもよい。
【0057】
S27において運転者Dの意図する進行方向が後進方向であるとの判断結果になった場合(S27でYES)には誤発進抑制が解除され(S31)、車両2が前進方向へ発進する(S32)。
【0058】
S27において運転者Dの意図する進行方向は後進方向ではないとの判断結果になった場合(S27でNO)、発進制御装置8は、運転者の意図する進行方向が後進方向か否かの判断(チェック作業)を第2の撮像カメラ12から第5の撮像カメラ15まで繰返し行ったか否かを判断し(S28)、YESであれば、誤発進抑制が継続されると共に警報音がスピーカ16から発せられる(S30)。
【0059】
S28における判断の結果がNOの場合には、発進制御装置8は、次の撮像カメラ(第3の撮像カメラ)13からの画像を取込み(S29)、第3の撮像カメラ13(ルームミラーMの近傍に設置された撮像カメラ)からの画像について、S24乃至S27の処理を繰返す。
【0060】
第3の撮像カメラ13から取込んだ画像について総合的に判断した結果、運転者Dの意図する進行方向が後方であるとの判断がなされなかった場合、さらに続けて第4の撮像カメラ14からの画像についてS24乃至S27の処理を繰返す。
【0061】
同様にして、第5の撮像カメラ15からの画像についてS24乃至S27の処理を繰返し行う。この繰返しの過程でいずれかの撮像カメラからの画像において運転者Dの視線が撮像カメラを向いており、運転者Dの意図する方向が後進方向であることが判断された場合(S27でYES)には、その時点で誤発進抑制が解除され(S31)、車両が後進方向へ発進する(S32)。
【0062】
以上のように、本実施形態の誤発進防止装置1では、運転者Dが車両2を前進方向に発進させるときに視線を向けるべき位置と、運転者Dが車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高い4箇所の位置にそれぞれ設けられた撮像カメラ11、12、13、14、15によって撮像された画像において運転者Dの視線が各撮像カメラに向いていることが確認された場合に車両の発進が許可され、運転者Dの視線がいずれの撮像カメラにも向いていない場合には車両の発進が阻止されるので、運転者の意図に反する方向への誤発進を確実に防止することができる。
【0063】
また、車両2の発進が阻止されたときに警告が発せられるので、運転者Dは意図する進行方向とギア切替位置が一致していないことを即時に知ることができ、ギア切替位置を変更する等の対応を円滑に行うことができる。
【0064】
なお、運転者Dが車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高い位置は、上記の4箇所に限られず、例えば後方確認のためにルームミラーが複数設置されている場合には、それらの各ルームミラー位置に撮像カメラが設置されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態に係る誤発進防止装置を搭載する乗用車の概略構成を示す側面図。
【図2】同誤発進防止装置を搭載する乗用車の概略構成を示す平面図。
【図3】同誤発進防止装置の発進制御手順を示すフローチャート。
【図4】(a)は、第1の撮像カメラによって撮像された画像を示す図、(b)は、運転者によって予め撮像されデータベース情報として蓄積された正面向きの顔部分のサンプル画像を示す図、(c)は、運転者によって予め撮像されデータベース情報として蓄積された正面から少し横向きの顔部分のサンプル画像を示す図。
【符号の説明】
【0066】
1 誤発進防止装置
2 普通乗用車(車両)
3 運転席
7 ギア切替機構
8 発進制御装置(発信制御手段)
11 第1の撮像カメラ
12 第2の撮像カメラ
13 第3の撮像カメラ
14 第4の撮像カメラ
15 第5の撮像カメラ
D 運転者
M ルームミラー
M1、M2 バックミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギア切替機構のギア切替位置に基づいて車両の現在状態が前進可能状態又は後進可能状態のいずれであるかを判別する車両進行可能方向判別手段と、
前記車両の運転席に着座した運転者を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置によって撮像された前記運転者の画像に基づいて前記運転者の意図する進行方向が前後進いずれの方向であるか判別し、判別した運転者の意図する進行方向と前記車両進行可能方向判別手段によって判別される前記車両の進行可能方向とが一致する場合に前記車両の発進を許可し、一致しない場合に前記車両の発進を阻止する発進制御手段を備え、
運転者の意図に反する方向への誤発進を防止する車両の誤発進防止装置において、
前記撮像装置は、
前記運転者が車両を前進方向に発進させるときに視線を向けるべき、前記運転者に正対する位置に設けられる第1の撮像カメラと、
前記運転者が車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高いリアウインド位置に設けられる第2の撮像カメラと、
前記運転者が車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高いルームミラー位置に設けられる第3の撮像カメラと、
前記運転者が車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高い左右のバックミラー位置に設けられる第4及び第5の撮像カメラを備え、
前記発進制御手段は、
前記車両進行可能方向判別手段による判別結果が前進可能状態である場合、前記第1の撮像カメラにより撮像される画像において運転者の視線が第1の撮像カメラを向いているときに、運転者の意図する進行方向と車両の進行可能方向が一致するとして車両の発進を許可し、運転者の視線が第1の撮像カメラを向いていないときには、車両の発進を阻止すると共に運転者に対して警告を発し、
前記車両進行可能方向判別手段による判別結果が後進可能状態である場合、前記第2の撮像カメラ乃至第5の撮像カメラにより撮像されるいずれかの画像において運転者の視線が前記第2の撮像カメラ乃至第5の撮像カメラを向いているときに、運転者の意図する進行方向と車両の進行可能方向が一致するとして車両の発進を許可し、運転者の視線が前記第2の撮像カメラ乃至第5の撮像カメラのいずれにも向いていないときには、車両の発進を阻止すると共に運転者に対して警告を発し、
運転者の意図に反する方向への誤発進を確実に防止することを特徴とする車両の誤発進防止装置。
【請求項2】
ギア切替機構のギア切替位置に基づいて車両の現在状態が前進可能状態又は後進可能状態のいずれであるかを判別する車両進行可能方向判別手段と、
前記車両の運転席に着座した運転者を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置によって撮像された前記運転者の画像に基づいて前記運転者の意図する進行方向が前後進いずれの方向であるか判別し、判別した運転者の意図する進行方向と前記車両進行可能方向判別手段によって判別される前記車両の進行可能方向とが一致する場合に前記車両の発進を許可し、一致しない場合に前記車両の発進を阻止する発進制御手段を備え、
運転者の意図に反する方向への誤発進を防止する車両の誤発進防止装置において、
前記撮像装置は、
前記運転者が車両を前進方向に発進させるときに視線を向けるべき位置に設けられる前進時用撮像カメラと、前記運転者が車両を後進方向に発進させるときに視線を向ける可能性の高い複数の位置に設けられる複数の後進時用撮像カメラを備え、
前記発進制御手段は、
前記車両進行可能方向判別手段による判別結果が前進可能状態である場合、前記前進時用撮像カメラにより撮像される画像において運転者の視線が前記前進時用撮像カメラを向いているときに、運転者の意図する進行方向と車両の進行可能方向が一致するとして車両の発進を許可し、運転者の視線が前記前進時用撮像カメラを向いていないときには、車両の発進を阻止し、
前記車両進行可能方向判別手段による判別結果が後進可能状態である場合、前記複数の後進時用撮像カメラにより撮像されるいずれかの画像において運転者の視線が前記後進時用撮像カメラを向いているときに、運転者の意図する進行方向と車両の進行可能方向が一致するとして車両の発進を許可し、運転者の視線が前記複数の後進時用撮像カメラのいずれにも向いていないときには車両の発進を阻止し、
運転者の意図に反する方向への誤発進を確実に防止することを特徴とする車両の誤発進防止装置。
【請求項3】
前記複数の後進時用撮像カメラは、前記車両のリアウインド位置に設けられる撮像カメラと、前記車両のルームミラー位置に設けられる撮像カメラと、前記車両のバックミラー位置に設けられる撮像カメラであることを特徴とする請求項2に記載の車両の誤発進防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−4040(P2008−4040A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175667(P2006−175667)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】