説明

車両の駆動トルク推定装置および駆動トルク推定方法、並びに四輪駆動車両

【課題】車両の走行安全性を向上させた車両の駆動トルク推定装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る駆動トルク推定装置である推定駆動トルク算出部120は、変速機構がインギヤ状態であると走行状態判定部155が判定し、かつ回転数検出センサにより検出されたトルクコンバータの出力軸の回転数が所定回転数以下であり、かつ車輪速センサにより検出された車輪の回転速度が所定回転速度以上である場合には、トルクコンバータのスリップ率が所定値以下であり、かつ第1駆動トルク算出部121により算出された第1の推定駆動トルクが第2駆動トルク算出部122により算出された第2の推定駆動トルクよりも大きい場合であっても、トルク合成部154が第1の推定駆動トルクをエンジンの推定駆動トルクとして算出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の手段によってエンジンの駆動トルクを推定するとともに、各手段によって算出した推定駆動トルクの比較を行い、比較した結果に基づいて車両の制御に用いる推定駆動トルクを決定する駆動トルク推定装置および駆動トルク推定方法に関する。さらに詳しくは、このような駆動トルク推定装置および駆動トルク推定方法において、推定駆動トルクを決定する過程でエラーが生じた際のフェイルセーフ技術に関する。また、エンジンが搭載された四輪駆動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に近い技術として、例えば、特開昭60−11753号公報に開示された自動車用電子制御装置が知られている。この制御装置は、例えば、変速機の入力軸側に設けられた入力軸回転センサと、変速機の出力軸側に設けられた車速センサと、各センサの出力を受けて変速機の入力軸および出力軸の回転数を求める信号処理装置と、変速機の変速比を検出する変速比検出装置とを備えて構成される。そしてこの制御装置は、変速比検出装置が中立以外の変速状態を検出するとともに、一方のセンサの出力が所定値以上の回転数を示したとき、他方のセンサからの回転数出力が少ないときには、出力の少ないセンサが故障していると判断し、故障していないセンサの出力と変速比検出装置が検出した変速比とから、故障したセンサの出力値を推定するようになっている。これにより、推定したセンサの出力値を変速制御に使用することで、安全な走行が行われるような変速動作が可能になる。
【0003】
ところで、電子制御の四輪駆動車両には、エンジンに吸気される空気の空気量に基づいてエンジンの推定駆動トルクを算出する第1駆動トルク算出手段と、エンジンの出力軸の回転数に基づいてエンジンの推定駆動トルクを算出する第2駆動トルク算出手段と、トルクコンバータのスリップ率を算出するスリップ率算出手段と、第1駆動トルク算出手段により算出された第1の推定駆動トルクと第2駆動トルク算出手段により算出された第2の推定駆動トルクとを所定の割合で加え合わせた合成駆動トルクを算出するトルク合成手段とを有して構成された駆動トルク推定装置を備えたものがある。第1の推定駆動トルクは、一部の領域を除いて推定精度が良好である一方、車両の発進領域(すなわち、トルクコンバータのスリップ率が低い領域)では、推定精度があまり良くない。
【0004】
そこで、上述の駆動トルク推定装置は、トルクコンバータのスリップ率が所定値以下である場合に、第1の推定駆動トルクと第2の推定駆動トルクとを所定の割合で加え合わせた合成駆動トルクをエンジンの推定駆動トルクとして算出するようになっている。そして、駆動トルク推定装置に算出された精度の高い推定駆動トルクをベースに、四輪駆動車両の前後輪への駆動力配分比が決定される。
【特許文献1】特開昭60−11753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような駆動トルク推定装置では、断線等によりトルクコンバータの出力軸(すなわち、変速機の入力軸であるメインシャフト)の回転数を検出するセンサが故障した場合、トルクコンバータのスリップ率を正しく算出できず、例えば、算出されるトルクコンバータのスリップ率が常に0となってしまう。このとき、第2の推定駆動トルクが常にエンジンの推定駆動トルクに含まれて駆動トルクの推定精度が悪化し、走行安全性が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、車両の走行安全性を向上させた車両の駆動トルク推定装置および方法を提供することを目的とする。また、このような駆動トルク推定装置および方法を利用した四輪駆動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的達成のため、本発明に係る車両の駆動トルク推定装置は、エンジンと、エンジンの出力軸に繋がって配設されたトルクコンバータと、トルクコンバータを介してエンジンから伝達された出力回転を変速して車輪へ伝達する変速機構(例えば、実施形態におけるギヤトレイン58)とを有して構成された車両(例えば、実施形態における四輪駆動車両1)において、エンジンに吸気される空気の空気量に基づいてエンジンの推定駆動トルクを算出する第1駆動トルク算出手段(例えば、実施形態における第1駆動トルク算出部121)と、エンジンの出力軸の回転数に基づいてエンジンの推定駆動トルクを算出する第2駆動トルク算出手段(例えば、実施形態における第2駆動トルク算出部122)と、トルクコンバータのスリップ率を算出するスリップ率算出手段(例えば、実施形態におけるスリップ率算出部128)と、第1駆動トルク算出手段により算出された第1の推定駆動トルクと第2駆動トルク算出手段により算出された第2の推定駆動トルクとを所定の割合で加え合わせた合成駆動トルクを算出するトルク合成手段(例えば、実施形態におけるトルク合成部154)とを備え、スリップ率算出手段により算出されたスリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクよりも大きい場合に、トルク合成手段が合成駆動トルクをエンジンの推定駆動トルクとして算出するように構成される。
【0008】
そして、このような車両の駆動トルク推定装置(例えば、実施形態における推定駆動トルク算出部120)において、変速機構がインギヤ状態であるか否かを判定する走行状態判定手段(例えば、実施形態における走行状態判定部155)と、トルクコンバータの出力軸の回転数を検出する回転数検出手段(例えば、実施形態におけるメインシャフト回転数検出センサ46)と、車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段(例えば、実施形態における車輪速センサ13)とを有し、変速機構がインギヤ状態であると走行状態判定手段が判定し、かつ回転数検出手段により検出されたトルクコンバータの出力軸の回転数が所定回転数以下であり、かつ車輪速検出手段により検出された車輪の回転速度が所定回転速度以上である場合には、スリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクよりも大きい場合であっても、トルク合成手段が第1の推定駆動トルクをエンジンの推定駆動トルクとして算出するように構成されている。
【0009】
また、本発明に係る四輪駆動車両は、前輪および後輪がともに駆動輪である四輪駆動車両において、本発明に係る車両の駆動トルク推定装置により算出されたエンジンの推定駆動トルクに基づいて、前輪および後輪の駆動力配分が行われるように構成される。
【0010】
さらに、本発明に係る車両の駆動トルク推定方法は、エンジンと、エンジンの出力軸に繋がって配設されたトルクコンバータと、トルクコンバータを介してエンジンから伝達された出力回転を変速して車輪へ伝達する変速機構とを有して構成された車両において、エンジンに吸気される空気の空気量に基づいてエンジンの推定駆動トルクを算出し、エンジンの出力軸の回転数に基づいてエンジンの推定駆動トルクを算出し、トルクコンバータのスリップ率を算出し、エンジンに吸気される空気の空気量に基づいて算出した第1の推定駆動トルクとエンジンの出力軸の回転数に基づいて算出した第2の推定駆動トルクとを所定の割合で加え合わせた合成駆動トルクを算出し、算出したスリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクよりも大きい場合に、合成駆動トルクをエンジンの推定駆動トルクとして算出するように構成される。
【0011】
そして、このような車両の駆動トルク推定方法において、変速機構がインギヤ状態であるか否かを判定し、トルクコンバータの出力軸の回転数を検出し、車輪の回転速度を検出し、変速機構がインギヤ状態であり、かつトルクコンバータの出力軸の回転数が所定回転数以下であり、かつ車輪の回転速度が所定回転速度以上である場合には、スリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクよりも大きい場合であっても、第1の推定駆動トルクをエンジンの推定駆動トルクとして算出するように構成されている。
【0012】
さらに、本発明に係る四輪駆動車両は、前輪および後輪がともに駆動輪である四輪駆動車両において、本発明に係る車両の駆動トルク推定方法により算出されたエンジンの推定駆動トルクに基づいて、前輪および後輪の駆動力配分が行われるように構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車両の駆動トルク推定装置および方法によれば、変速機構がインギヤ状態であり、かつトルクコンバータの出力軸の回転数が所定回転数以下であり、かつ車輪の回転速度が所定回転速度以上である場合には、スリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクよりも大きい場合であっても、第1の推定駆動トルクをエンジンの推定駆動トルクとして算出する。そのため、推定駆動トルク(スリップ率)の算出に必要なトルクコンバータの出力軸の回転数を検出する手段が故障して、例えばトルクコンバータの出力軸の回転数が0と検出される状態になっても、比較的推定精度が良好である第1の推定駆動トルクを用いることで、駆動トルクの推定精度を高い状態に保つことができ、安定した駆動トルク配分を実現することができることから、車両の走行安全性を向上させることが可能になる。
【0014】
また、本発明に係る四輪駆動車両によれば、本発明により算出されたエンジンの推定駆動トルクに基づいて、前輪および後輪の駆動力配分が行われるように構成されるため、四輪駆動車両の走行安全性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明に係る駆動トルク推定装置を備えた四輪駆動車両1を図2に模式的に示している。この四輪駆動車両1は、駆動輪である左右の前輪2L,2Rおよび左右の後輪3L,3Rと、前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rをそれぞれ回転駆動するためのエンジンENGと、エンジンENGから出力される回転駆動トルク(回転駆動力)を伝達する自動変速機ATと、自動変速機ATから出力される回転駆動トルク(回転駆動力)を前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rにそれぞれ伝達するプロペラシャフト4、左右のフロントドライブシャフト5L,5R、および左右のリヤドライブシャフト6L,6Rとを備えて構成される。
【0016】
また、四輪駆動車両1には、前輪2L,2Rの向きを変えるためのステアリング装置7や、ディファレンシャル機構8および駆動力制御装置60、各種ECU(電子制御ユニット)10,11,100等が配設される。なお、ECUには、エンジンENGおよび自動変速機ATの作動を制御するFI/AT−ECU10、車両挙動安定化制御システムの電子制御ユニットであるESC−ECU11、前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rの駆動力配分を行う4WD−ECU100等があり、FI/AT−ECU10およびESC−ECU11はそれぞれ4WD−ECU100と電気的に接続される。
【0017】
また、前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rには、各車輪の回転速度(車輪速度)を測定する車輪速センサ13がそれぞれ配設されており、ESC−ECU11と電気的に接続されている。ステアリング装置7には、前輪2L,2Rの操舵角を測定する舵角センサ14が配設されており、ESC−ECU11と電気的に接続されている。さらに、四輪駆動車両1には、ヨーレイトを測定するヨーレイトセンサ15、横G(加速度)を測定する横Gセンサ16、および前後G(加速度)を測定する前後Gセンサ17が配設されており、それぞれESC−ECU11と電気的に接続されている。
【0018】
図3に示すように、エンジンENGには、外部空気が吸い込まれるエアクリーナ31と、エアクリーナ31で吸い込まれた空気を圧縮してエンジンENGに送る過給機としてのコンプレッサ32と、コンプレッサ32から送られた空気を冷却するインタークーラ33と、エンジンENGに吸気される空気の空気量を調節するスロットル34と、スロットル34からの空気をエンジンENGのシリンダ36に送るインテークマニホールド35とが備えられる。これから分かるように、エンジンENGは過給機付きエンジンである。
【0019】
エアクリーナ31とコンプレッサ32との間の管路には、エアクリーナ31で吸い込まれた空気の空気量、すなわちエンジンENGに吸気される空気の空気量を測定するエアフローメータ41が取り付けられる。また、インタークーラ33とスロットル34との間の管路には、インタークーラ33とスロットル34との間を流れる空気の圧力を測定する第1圧力センサ42が取り付けられる。さらに、インテークマニホールド35には、インテークマニホールド35内を流れる空気の圧力を測定する第2圧力センサ43が取り付けられる。
【0020】
図4に示すように、エンジンENGの出力軸37は、自動変速機ATと連結される。なお、エンジンENGの出力軸37は、エンジンENG内のクランクシャフト38と繋がっており、クランクシャフト38はコンロッド39を介してシリンダ36(図3を参照)内のピストン40と繋がっている。
【0021】
自動変速機ATは、図4に示すように、エンジンENGの出力軸37に繋がって配設されたトルクコンバータ51と、トルクコンバータ51から伝達されたエンジンENGからの出力回転を変速して各車輪へ向け伝達するギヤトレイン58とを主体に構成される。トルクコンバータ51は、エンジンENGの出力軸37と繋がるケース52と、ケース52の内側に繋がって配設されたインペラ53と、ケース52の内部に配設されてトルクコンバータ51の出力軸であるメインシャフト55と繋がるタービン54と、ケース52の内部におけるインペラ53とタービン54との間に配設されたステータ56とを有して構成される。
【0022】
そして、エンジンENGの出力軸37が回転すると、エンジンENGの出力軸37と繋がるケース52およびインペラ53が回転するとともに、ケース52内に充満されたオイルを介してタービン54およびメインシャフト55が回転し、エンジンENGから出力される回転駆動トルクがトルクコンバータ51を介してギヤトレイン58に伝達されるようになっている。なお、エンジンENGの出力軸37は、トルクコンバータ51の入力軸ということになる。また、エンジンENGの出力軸37の近傍には、エンジンENGの出力軸37の回転数を(直接)測定検出するエンジン回転数検出センサ45が配設されており、FI/AT−ECU10と電気的に接続されている。
【0023】
メインシャフト55は、ギヤトレイン58の入力軸でもあり、メインシャフト55が回転すると、ギヤトレイン58によってその回転数が所定の変速比で変速されて、前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rに向け伝達されるようになっている。メインシャフト55の近傍には、メインシャフト55の回転数を(直接)測定検出するメインシャフト回転数検出センサ46が配設されており、FI/AT−ECU10と電気的に接続されている。
【0024】
また、駆動力制御装置60は、図2に示すように、プロペラシャフト4および左右のリヤドライブシャフト6L,6Rと繋がっており、多板式の左右のブレーキクラッチ61L,61Rと、左右の電磁コイル62L,62Rと、左右のブレーキクラッチ61L,61Rをブレーキ作動させるための左右のアーマチュア63L,63Rと、左右のリヤドライブシャフト6L,6Rとそれぞれ連結された左右のプラネタリギヤ64L,64Rとを有して構成される。
【0025】
左右の電磁コイル62L,62Rは、4WD−ECU100と電気的に接続されており、4WD−ECU100から駆動電流が左電磁コイル62Lに流れると、左電磁コイル62Lから発生する電磁力により左アーマチュア63Lが左ブレーキクラッチ61Lを押して締結させるため、プロペラシャフト4の回転駆動トルクが左プラネタリギヤ64L側に伝達されて、締結力に応じたクラッチトルクが発生するようになっている。そして、左ブレーキクラッチ61Lで発生したクラッチトルクは、左プラネタリギヤ64Lにより倍力化されて左リヤドライブシャフト6Lに出力され、このクラッチトルクにより左リヤドライブシャフト6Lおよび左後輪3Lが回転駆動される。なお、左電磁コイル62Lに駆動電流が流れない場合、電磁力が発生せずに左ブレーキクラッチ61Lが締結されないため、クラッチトルクは発生しない。
【0026】
一方、4WD−ECU100から駆動電流が右電磁コイル62Rに流れると、右電磁コイル62Rから発生する電磁力により右アーマチュア63Rが右ブレーキクラッチ61Rを押して締結させるため、プロペラシャフト4の回転駆動トルクが右プラネタリギヤ64R側に伝達されて、締結力に応じたクラッチトルクが発生するようになっている。そして、右ブレーキクラッチ61Rで発生したクラッチトルクは、右プラネタリギヤ64Rにより倍力化されて右リヤドライブシャフト6Rに出力され、このクラッチトルクにより右リヤドライブシャフト6Rおよび右後輪3Rが回転駆動される。なお、右電磁コイル62Rに駆動電流が流れない場合、電磁力が発生せずに右ブレーキクラッチ61Rが締結されないため、クラッチトルクは発生しない。
【0027】
また、駆動力制御装置60には、左右の電磁コイル62L,62Rとアーマチュア63L,63Rとの間のエアギャップをそれぞれ検出する左右のサーチコイル65L,65Rや、駆動力制御装置60内のオイルの油温を測定する油温センサ66が所定箇所に取り付けられている。
【0028】
そして、エンジンENGから出力される駆動トルクは、自動変速機ATからディファレンシャル機構8および左右のフロントドライブシャフト5L,5Rを介して左右の前輪2L,2Rに伝達されるとともに、自動変速機ATからディファレンシャル機構8、プロペラシャフト4、駆動力制御装置60、および左右のリヤドライブシャフト6L,6Rを介して左右の後輪3L,3Rに伝達されるが、このとき、前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rへの駆動力配分は、4WD−ECU100および駆動力制御装置60により制御される。
【0029】
そこで、4WD−ECU100について図5を参照しながら説明する。図5に示すように、4WD−ECU100のセンサ入力部101には、FI/AT−ECU10およびESC−ECU11からの情報がいわゆるCAN(Controller Area Network)を利用して入力される。FI/AT−ECU10から入力される情報には、エンジン回転数検出センサ45で測定されたエンジン回転数Ne(エンジンENGの出力軸37の回転数)、シリンダ吸入空気量Gaircyl、メインシャフト回転数検出センサ46で測定されたトルクコンバータ51のメインシャフト55の回転数Nm、シフトレバー(図示せず)のシフトポジション等がある。また、ESC−ECU11から入力される情報には、車輪速センサ13で測定された車輪速度(各車輪の回転速度)、ヨーレイトセンサ15で測定されたヨーレイト、横Gセンサ16で測定された横G、前後Gセンサ17で測定された前後G等がある。
【0030】
なお、エンジンENGに吸気される空気の空気量であるシリンダ吸入空気量Gaircylは、FI/AT−ECU10にて次の式(1)により算出される。
【0031】
【数1】

【0032】
ここで、Gairthはエアフローメータ41で測定される空気量、ΔP3は第1圧力センサ42で測定される圧力の単位時間当たりの変化量、ΔPBは第2圧力センサ43で測定される圧力の単位時間当たりの変化量、V3はコンプレッサ32とスロットル34との間を流れる空気の体積、VBはインテークマニホールド35内を流れる空気の体積、TAはエンジンENGに吸気される空気の温度である。また、Rは気体定数であり、KV3およびKINVOは調整ゲインである。
【0033】
また、センサ入力部101には、舵角センサ14で測定された操舵角と、油温センサ66で測定された駆動力制御装置60内のオイルの油温と、左サーチコイル65Lで検出された電圧値と、右サーチコイル65Rで検出された電圧値等が入力される。
【0034】
センサ入力部101から推定駆動トルク算出部120に、エンジン回転数Ne、シリンダ吸入空気量Gaircyl、メインシャフト55の回転数Nm、シフトポジション、および車輪速度(各車輪の回転速度)が入力され、入力された各データに基づいて推定駆動トルク算出部120はエンジンENGによる推定駆動トルクを算出し、算出した推定駆動トルクを操安制御部103に出力する。
【0035】
操安制御部103には、推定駆動トルク算出部120から出力されたエンジンENGの推定駆動トルク、並びにセンサ入力部101から出力された横G、操舵角、および車輪速度(各車輪の回転速度)が入力され、入力された各データに基づいて操安制御部103は操安制御トルクを算出し、算出した操安制御トルクをトルク加算部105に出力する。また、センサ入力部101からLSD制御部104に車輪速度(各車輪の回転速度)が入力され、入力された車輪速度に基づいてLSD制御部104はLSDトルクを算出し、算出したLSDトルクをトルク加算部105に出力する。
【0036】
トルク加算部105において、操安制御トルクとLSDトルクとが加算され、加算されたトルクがクラッチトルク補正部106に入力される。クラッチトルク補正部106は、トルク加算部105から入力されたトルク値、並びにセンサ入力部101から入力された車輪速度および駆動力制御装置60内のオイルの油温に基づいて、駆動力制御装置60で生じさせるクラッチトルクを算出し、算出したクラッチトルクを電流出力部107に出力する。
【0037】
電流出力部107は、クラッチトルク補正部106で算出されたクラッチトルクを得るための左電磁コイル62Lおよび右電磁コイル62Rの駆動電流値を算出し、算出した電流値を駆動回路部108に出力する。そして、駆動回路部108は、電流出力部107で算出された電流値が得られるように左電磁コイル62Lおよび右電磁コイル62Rに駆動電流を出力する。このようにして、4WD−ECU100から駆動力制御装置60の各電磁コイル62L,62Rに駆動電流が出力され、前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rの駆動力配分が行われる。
【0038】
なお、磁束学習部109は、センサ入力部101から入力されたサーチコイル電圧に基づいて、左電磁コイル62Lおよび右電磁コイル62Rの駆動電流値を補正する電流補正値を算出し、算出した電流補正値を電流出力部107に出力する。そして、電流出力部107において、左右の電磁コイル62L,62Rで所望の電磁力を得るための駆動電流値の補正が行われる。
【0039】
また、フェイルセーフ部110には、センサ入力部101から各センサの値や検出電流等が入力され、故障等といった所定の条件の場合に、フェイルセーフ部110は駆動回路部108にフェイルセーフ信号を出力する。駆動回路部108にフェイルセーフ信号が入力されると、駆動回路部108からF/Sリレー部115にリレー駆動電流が出力され、左右の電磁コイル62L,62Rに駆動電流が流れないようにF/Sリレー部115が作動する。さらには、4WD−ECU100からFI/AT−ECU10にトルクダウン要求信号が出力され、メータ部116に警告灯表示信号が出力される。
【0040】
また、センサ入力部101から中点学習部111にヨーレイト、横G、および前後Gが入力され、中点学習部111でヨーレイトセンサ15、横Gセンサ16、および前後Gセンサ17の中点学習が行われる。
【0041】
続いて、本発明に係る駆動トルク推定装置である推定駆動トルク算出部120について図1および図6を参照しながら説明する。図6に示すように、推定駆動トルク算出部120は、第1の推定駆動トルクを算出する第1駆動トルク算出部121と、第2の推定駆動トルクを算出する第2駆動トルク算出部122と、推定駆動トルクを補正して操安制御部103に出力するトルク補正部150とを主体に構成される。
【0042】
第1駆動トルク算出部121は、シリンダ吸入空気量Gaircylに基づいてエンジンENG単体の推定駆動トルクを算出する第1トルク演算部123を主体に構成される。第1トルク演算部123は、エンジントルクマップであるNe−Gairマップを用いて、センサ入力部101から入力されたエンジン回転数Neおよびシリンダ吸入空気量Gaircylから、エンジンENG単体の推定駆動トルクを算出し、算出したエンジンENG単体の推定駆動トルクを第1演算部135に出力する。
【0043】
第1演算部135は、第1トルク演算部123から入力された推定駆動トルクにリタード補正部124から入力されたリタード補正値を乗算して第2演算部136に出力する。リタード補正部124は、エンジンENGの点火時期を遅らせることにより生じるエンジンENGの出力(駆動トルク)低下分を補正するリタード補正値を算出して第1演算部135に出力する。
【0044】
第2演算部136は、第1演算部135から入力された推定駆動トルクにACG補正部125から入力されたACG補正値を減算して第3演算部137に出力する。ACG補正部125は、発電機(オルタネータ)を作動させることにより生じるエンジンENGの出力(駆動トルク)低下分を補正するACG補正値を算出して第2演算部136に出力する。
【0045】
第3演算部137は、第2演算部136から入力された推定駆動トルクにエアコン補正部126から入力されたエアコン補正値を減算して第4演算部138に出力する。エアコン補正部126は、エアコンを作動させることにより生じるエンジンENGの出力(駆動トルク)低下分を補正するエアコン補正値を算出して第3演算部137に出力する。
【0046】
第4演算部138は、第3演算部137から入力された推定駆動トルクにトルク比算出部127から入力されたトルク入出力比を乗算して第5演算部139に出力する。トルク比算出部127は、スリップ率算出部128から入力されたトルクコンバータ51のスリップ率に基づいて、トルクコンバータ51の入力トルクと出力トルクとの比であるトルク入出力比を算出し、算出したトルク入出力比を第4演算部138および後述する第9演算部143に出力する。スリップ率算出部128は、センサ入力部101から入力されたエンジン回転数Ne(すなわち、トルクコンバータ51の入力軸の回転数)およびトルクコンバータ51の出力軸であるメインシャフト55の回転数Nmから、トルクコンバータ51のスリップ率を算出してトルク比算出部127およびトルク補正部150に出力する。なお、トルクコンバータ51のスリップ率=Nm/Ne(×100%)である。
【0047】
第5演算部139は、第4演算部138から入力された推定駆動トルクに変速比算出部129から入力された変速比を乗算して第6演算部140に出力する。変速比算出部129は、センサ入力部101から入力されたシフトポジションに基づいて、シフトポジションに応じて設定された自動変速機AT(ギヤトレイン58)の変速比を算出し、算出した変速比を第5演算部139および後述する第10演算部144に出力する。
【0048】
第6演算部140は、第5演算部139から入力された推定駆動トルクにギヤ効率算出部130から入力されたギヤ効率を乗算して第7演算部141に出力する。ギヤ効率算出部130は、センサ入力部101から入力されたシフトポジションに基づいて、シフトポジションに応じて設定された自動変速機ATのギヤ効率(伝達効率)を算出し、算出したギヤ効率を第6演算部140および後述する第11演算部145に出力する。
【0049】
第7演算部141は、第6演算部140から入力された推定駆動トルクに慣性補正部131から入力された慣性補正値を減算して第8演算部142に出力する。慣性補正部131は、センサ入力部101から入力されたシフトポジションに基づいて、シフトポジションに応じた慣性補正値を算出し、算出した慣性補正値を第7演算部141および後述する第12演算部146に出力する。
【0050】
第8演算部142は、第7演算部141から入力された推定駆動トルクに駆動系損出部132から入力された駆動系損出補正値を減算してトルク補正部150に出力する。このようにして、第1駆動トルク算出部121は、シリンダ吸入空気量Gaircylに基づいて算出したエンジンENG単体の推定駆動トルクに変速比や各補正値等を加味した、自動変速機ATの出力軸で出力される第1の推定駆動トルクを算出し、算出した第1の推定駆動トルクをトルク補正部150に出力する。
【0051】
第2駆動トルク算出部122は、エンジン回転数Ne(エンジンENGの出力軸37の回転数)に基づいてエンジンENG単体の推定駆動トルクを算出する第2トルク演算部133を主体に構成される。第2トルク演算部133は、回転エネルギー式である次式(2)を用いてエンジンENG単体の推定駆動トルクを算出し、算出したエンジンENG単体の推定駆動トルクを第9演算部143に出力する。
【0052】
Erot=J×Ne2/182.4 …(2)
【0053】
ここで、ErotはエンジンENG単体の推定駆動トルクであり、Jは慣性モーメントである。
【0054】
第9演算部143は、第2トルク演算部133から入力された推定駆動トルクにトルク比算出部127から入力されたトルク入出力比を乗算して第10演算部144に出力する。次に、第10演算部144は、第9演算部143から入力された推定駆動トルクに変速比算出部129から入力された変速比を乗算して第11演算部145に出力する。
【0055】
続いて、第11演算部145は、第10演算部144から入力された推定駆動トルクにギヤ効率算出部130から入力されたギヤ効率を乗算して第12演算部146に出力する。次に、第12演算部146は、第11演算部145から入力された推定駆動トルクに慣性補正部131から入力された慣性補正値を減算して第13演算部147に出力する。
【0056】
そして、第13演算部147は、第12演算部146から入力された推定駆動トルクに駆動系損出部132から入力された駆動系損出補正値を減算してトルク補正部150に出力する。このようにして、第2駆動トルク算出部122は、エンジン回転数Neに基づいて算出したエンジンENG単体の推定駆動トルクに変速比や各補正値等を加味した、自動変速機ATの出力軸で出力される第2の推定駆動トルクを算出し、算出した第2の推定駆動トルクをトルク補正部150に出力する。
【0057】
トルク補正部150は、図1に示すように、第1トルク比較部151と、第2トルク比較部152と、第2トルク比較部153と、トルク合成部154とを主体に構成される。第1トルク比較部151には、第1駆動トルク算出部121から出力された第1の推定駆動トルクと、第2駆動トルク算出部122から出力された第2の推定駆動トルクとが入力される。そして、第1トルク比較部151は、第1の推定駆動トルクと第2の推定駆動トルクとを比較し、小さい方の推定駆動トルクを第2トルク比較部152に出力する。
【0058】
第2トルク比較部152には、第1トルク比較部151から出力された推定駆動トルクと、第1駆動トルク算出部121から出力された第1の推定駆動トルクと、走行状態判定部155から出力された判定結果と、センサ入力部101から出力されたメインシャフト55の回転数Nmおよび車輪速度(例えば、後輪3L,3Rの回転速度)が入力される。走行状態判定部155は、センサ入力部101から入力されたシフトレバー(図示せず)のシフトポジション(および、エンジン回転数Ne並びに車輪速度)に基づいて、ギヤトレイン58がインギヤ状態であるか否かを判定し、その判定結果を第2トルク比較部152に出力する。なお、インギヤ状態とは、ニュートラル(中立)およびパーキング以外のシフト状態(すなわち、前進もしくは後進のいずれかの変速段が繋がった状態)をいう。
【0059】
そして、第2トルク比較部152は、ギヤトレイン58がインギヤ状態であると走行状態判定部155が判定し、かつメインシャフト55の回転数Nmが0(センサの出力がない場合も含む)であり、かつ後輪3L,3Rの回転速度(車輪速度)が所定回転速度(例えば、5rpm)以上の場合には、第1駆動トルク算出部121から入力された第1の推定駆動トルクを第3トルク比較部153に出力する。なお、各センサの検出エラー等を考慮して、上記状態が10回ほど連続してカウントされてから、(第2トルク比較部152が)第1駆動トルク算出部121から入力された第1の推定駆動トルクを第3トルク比較部153に出力することが好ましい。一方、上記以外の場合、すなわち、ギヤトレイン58がインギヤ状態でないと走行状態判定部155が判定するか、または、メインシャフト55の回転数Nmが0を超えているか、または、後輪3L,3Rの回転速度(車輪速度)が所定回転速度未満の場合には、第1トルク比較部151から入力された推定駆動トルクを第3トルク比較部153に出力する。
【0060】
第3トルク比較部153には、第2トルク比較部152から出力された推定駆動トルクと、第1駆動トルク算出部121から出力された第1の推定駆動トルクと、スリップ率算出部128から出力されたトルクコンバータ51のスリップ率とが入力される。そして、第3トルク比較部153は、入力されたスリップ率が所定値(例えば、60%)以下の場合には第2トルク比較部152から入力された推定駆動トルクをトルク合成部154に出力し、入力されたスリップ率が所定値より大きい場合には第1駆動トルク算出部121から入力された第1の推定駆動トルクをトルク合成部154に出力する。
【0061】
トルク合成部154には、第3トルク比較部153から出力された推定駆動トルクと、第1駆動トルク算出部121から出力された第1の推定駆動トルクと、パラメータ出力部158から出力された演算パラメータとが入力される。パラメータ出力部158から出力される演算パラメータは、第3トルク比較部153から入力される推定駆動トルクと第1駆動トルク算出部121から入力される第1の推定駆動トルクとを加え合わせる割合であり、本実施形態においては、第3トルク比較部153から入力される推定駆動トルクの割合が0.45であるのに対して第1駆動トルク算出部121から入力される第1の推定駆動トルクの割合が0.55である。そして、トルク合成部154は、第3トルク比較部153から入力された推定駆動トルクに0.45を乗じた値と、第1駆動トルク算出部121から入力された第1の推定駆動トルクに0.55を乗じた値とを加え合わせた合成駆動トルクを算出し、算出した合成駆動トルクを自動変速機ATの出力軸で出力されるエンジンENGの推定駆動トルクとして操安制御部103に出力する。
【0062】
このような構成の推定駆動トルク算出部120による、駆動トルク推定方法について以下に説明する。まず、第1駆動トルク算出部121が前述したようにシリンダ吸入空気量Gaircylに基づいて第1の推定駆動トルクを算出し、算出した第1の推定駆動トルクをトルク補正部150に出力する。これと平行して、第2駆動トルク算出部122が前述したようにエンジン回転数Neに基づいて第2の推定駆動トルクを算出し、算出した第2の推定駆動トルクをトルク補正部150に出力する。またこのとき、スリップ率算出部128が前述したようにトルクコンバータ51のスリップ率を算出し、算出したスリップ率をトルク補正部150に出力する。さらに、メインシャフト55の回転数Nm、シフトポジション、および各車輪の回転速度(車輪速度)が、センサ入力部101からトルク補正部150に入力される。
【0063】
次に、トルク補正部150において、第1トルク比較部151が第1の推定駆動トルクと第2の推定駆動トルクとを比較し、小さい方の推定駆動トルクを第2トルク比較部152に出力する。
【0064】
次に、ギヤトレイン58がインギヤ状態であると走行状態判定部155が判定し、かつメインシャフト55の回転数Nmが0(センサの出力がない場合も含む)であり、かつ後輪3L,3Rの回転速度(車輪速度)が所定回転速度(例えば、5rpm)以上の場合には、第2トルク比較部152が第1の推定駆動トルクを第3トルク比較部153に出力する。一方、ギヤトレイン58がインギヤ状態でないと走行状態判定部155が判定するか、または、メインシャフト55の回転数Nmが0を超えているか、または、後輪3L,3Rの回転速度(車輪速度)が所定回転速度未満の場合には、第2トルク比較部152が第1トルク比較部152から入力された推定駆動トルクを第3トルク比較部153に出力する。
【0065】
次に、第3トルク比較部153が、トルクコンバータ51のスリップ率が所定値(例えば、60%)以下の場合に第2トルク比較部152から入力された推定駆動トルクをトルク合成部154に出力し、スリップ率が所定値より大きい場合に第1の推定駆動トルクをトルク合成部154に出力する。すなわち、ギヤトレイン58がインギヤ状態でないと走行状態判定部155が判定するか、または、メインシャフト55の回転数Nmが0を超えているか、または、後輪3L,3Rの回転速度(車輪速度)が所定回転速度未満のとき、トルクコンバータ51のスリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクより大きい場合には、第3トルク比較部153が第2の推定駆動トルクをトルク合成部154に出力する一方、トルクコンバータ51のスリップ率が所定値より大きいか、第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクより小さい場合には、第3トルク比較部153が第1の推定駆動トルクをトルク合成部154に出力する。
【0066】
また、ギヤトレイン58がインギヤ状態であると走行状態判定部155が判定し、かつメインシャフト55の回転数Nmが0であり、かつ後輪3L,3Rの回転速度(車輪速度)が所定回転速度以上のときには、トルクコンバータ51のスリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクより大きい場合であっても、第3トルク比較部153が第1の推定駆動トルクをトルク合成部154に出力する。
【0067】
そして、トルク合成部154が、第3トルク比較部153から入力された推定駆動トルクに0.45を乗じた値と、第1駆動トルク算出部121から入力された第1の推定駆動トルクに0.55を乗じた値とを加え合わせた合成駆動トルクを算出し、算出した合成駆動トルクを自動変速機ATの出力軸で出力されるエンジンENGの推定駆動トルクとして操安制御部103に出力する。すなわち、トルクコンバータ51のスリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクより大きい場合には、第3トルク比較部153からトルク合成部154に第2の推定駆動トルクが入力されるため、トルク合成部154が、第2の推定駆動トルクに0.45を乗じた値と、第1の推定駆動トルクに0.55を乗じた値とを加え合わせた合成駆動トルクをエンジンENGの推定駆動トルクとして算出することになる。
【0068】
ところで、第1駆動トルク算出部121により算出される第1の推定駆動トルクは、車両1の発進時において、実際の駆動トルクよりも過大な値となってしまう。そのため、第1の推定駆動トルクのみに基づいて前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rの駆動力配分を行うと、車両1の発進時に適切な駆動力配分が行われなくなって車両1の走行安定性が低下するおそれがある。
【0069】
一方、第2駆動トルク算出部122により算出される第2の推定駆動トルクは、車両1の発進時においても高いトルク推定精度を得ることができる。しかしながら、第2の推定駆動トルクのみに基づいて前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rの駆動力配分を行うと、多板式のブレーキクラッチ61L,61Rの締結力を制御する電磁コイル62L,62R(アクチュエータ)が有する物理的な応答遅れのため、精度良くトルクを推定できても実際の制御トルク(クラッチトルク)が遅れて本来の配分比が得られない。そのため、低μ路での発進時に駆動力配分が不適切となると、タイヤスリップ量が増加して車両1の走行安定性が低下するおそれがある。
【0070】
そのため、上述のように、車両1の発進時が想定される、トルクコンバータ51のスリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクより大きい場合に、第1の推定駆動トルクと第2の推定駆動トルクとを所定の割合で加え合わせることにより、多板式のブレーキクラッチ61L,61Rの締結力を制御する電磁コイル62L,62R(アクチュエータ)の応答遅れによる影響が懸念される第2の推定駆動トルクの値を単独で使用することがなく、電磁コイル62L,62Rの応答遅れを補償した推定駆動トルクを算出することが可能になり、高いトルク推定精度を維持しつつ四輪駆動車両1の走行安定性を向上させることが可能になる。
【0071】
さらに、上述したように、所定の割合は、第1の推定駆動トルクの割合が第2の推定駆動トルクの割合よりも大きくなるような割合、具体的には、第1の推定駆動トルクの割合が0.55であるのに対して第2の推定駆動トルクの割合が0.45であることが好ましく、このようにすれば、第1の推定駆動トルクと第2の推定駆動トルクとが適度に加え合わされるため、高いトルク推定精度を維持しつつ四輪駆動車両1の走行安定性をより向上させることが可能になる。また、第1の推定駆動トルクの割合が第2の推定駆動トルクの割合よりも大きくなるため、電磁コイル62L,62R(アクチュエータ)の応答遅れを抑えることが可能になり、制御ロジックにおいて応答遅れに対する遅れ補償を省くことができる。
【0072】
また、過給機付きエンジンENGを備えた四輪駆動車両1に、本実施形態による推定駆動トルク算出部120を用いることで、過給機付きエンジンにおいて、車両発進時にエンジンに吸気される空気の空気量が急激に変化することに起因する第1の推定駆動トルクの誤差を効果的に補正することができることから、トルク推定精度を効果的に向上させることができる。
【0073】
ただし、ギヤトレイン58がインギヤ状態であると走行状態判定部155が判定し、かつメインシャフト55の回転数Nmが0であり、かつ後輪3L,3Rの回転速度(車輪速度)が所定回転速度以上のときには、トルクコンバータ51のスリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクより大きい場合であっても、第3トルク比較部153からトルク合成部154に第1の推定駆動トルクが入力されるため、トルク合成部154が、第1の推定駆動トルクに0.45を乗じた値と、第1の推定駆動トルクに0.55を乗じた値とを加え合わせた値、すなわち、(100%の)第1の推定駆動トルクをエンジンENGの推定駆動トルクとして算出することになる。
【0074】
そのため、推定駆動トルク(スリップ率)の算出に必要なトルクコンバータ55の出力軸の回転数、すなわちメインシャフト55の回転数Nmを検出するメインシャフト回転数検出センサ46が故障して、メインシャフト55の回転数Nmが0と検出される状態になっても、比較的推定精度が良好である第1の推定駆動トルクを用いることで、駆動トルクの推定精度を高い状態に保つことができ、安定した駆動トルク配分を実現することができることから、四輪駆動車両1の走行安全性を向上させることが可能になる。
【0075】
なお、トルクコンバータ51のスリップ率が所定値より大きいか、第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクより小さい場合には、第3トルク比較部153からトルク合成部154に第1の推定駆動トルクが入力されるため、トルク合成部154が、第1の推定駆動トルクに0.45を乗じた値と、第1の推定駆動トルクに0.55を乗じた値とを加え合わせた値、すなわち、(100%の)第1の推定駆動トルクをエンジンENGの推定駆動トルクとして算出することになる。このようにして、推定駆動トルク算出部120によりエンジンENGの駆動トルクが推定算出される。
【0076】
以上のような構成の推定駆動トルク算出部120および、推定駆動トルク算出部120による駆動トルク推定方法によれば、ギヤトレイン58がインギヤ状態であり、かつトルクコンバータ51の出力軸の回転数(すなわち、メインシャフト55の回転数Nm)が0であり、かつ車輪(例えば、後輪3L,3R)の回転速度が所定回転速度以上の場合には、トルクコンバータ51のスリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクより大きい場合であっても、第1の推定駆動トルクをエンジンENGの推定駆動トルクとして算出する。そのため、推定駆動トルク(スリップ率)の算出に必要なトルクコンバータの出力軸の回転数(すなわち、メインシャフト55の回転数Nm)を検出する手段(メインシャフト回転数検出センサ46)が故障して、トルクコンバータの出力軸の回転数が0と検出される状態になっても、比較的推定精度が良好である第1の推定駆動トルクを用いることで、駆動トルクの推定精度を高い状態に保つことができ、安定した駆動トルク配分を実現することができることから、車両の走行安全性を向上させることが可能になる。
【0077】
また、本発明に係る四輪駆動車両1によれば、本実施形態で算出されたエンジンENGの推定駆動トルクに基づいて、前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rの駆動力配分が行われるように構成されるため、四輪駆動車両1の走行安全性を向上させることができる。
【0078】
なお、上述の実施形態において、自動変速機ATの出力軸で出力されるトルクを推定して第1および第2の推定駆動トルクを算出するように構成されているが、これに限られるものではなく、エンジン回転数Neおよびシリンダ吸入空気量Gaircylから算出したエンジンENG単体の推定駆動トルクにリタード補正部124、ACG補正部125、およびエアコン補正部126による補正を行った値を第1の推定駆動トルクとするとともに、エンジン回転数Neに基づいて算出したエンジンENG単体の推定駆動トルクを第2の推定駆動トルクとするようにしてもよい。
【0079】
また、上述の実施形態において、多板式の左右のブレーキクラッチ61L,61Rを備えた駆動力制御装置60を用いて、前輪2L,2Rおよび後輪3L,3Rの駆動力配分を行うように構成されているが、これに限られるものではなく、このようなブレーキクラッチを一つプロペラシャフトの中間部に設けた四輪駆動車両にも、本発明を適用することができる。
【0080】
さらに、上述の実施形態において、第1の推定駆動トルクと第2の推定駆動トルクとを加え合わせる割合は、第1の推定駆動トルクの割合が0.55であるのに対して第2の推定駆動トルクの割合が0.45となっているが、これに限られるものではなく、この割合を状況に応じて変化させるようにしてもよい。
【0081】
また、上述の実施形態において、ギヤトレイン58がインギヤ状態であると走行状態判定部155が判定し、かつメインシャフト55の回転数Nmが0であり、かつ後輪3L,3Rの回転速度(車輪速度)が所定回転速度以上の場合には、トルクコンバータ51のスリップ率が所定値以下であり、かつ第1の推定駆動トルクが第2の推定駆動トルクより大きい場合であっても、第1の推定駆動トルクをエンジンENGの推定駆動トルクとして算出するように構成されているが、これに限られるものではない。例えば、メインシャフト55の回転数Nmは0に限られず、所定回転数(例えば、100rpm、もしくはアイドリング時のエンジン回転数に対応したメインシャフト55の回転数)以下の場合と設定するようにしてもよい。また、後輪3L,3Rの回転速度は、前輪2L,2Rの回転速度であってもよく、さらには、これらに基づいて算出した車速であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】推定駆動トルク算出部に構成されるトルク補正部の制御ブロック図である。
【図2】四輪駆動車両を示す模式図である。
【図3】エンジンの吸気系を示す模式図である。
【図4】エンジンおよび自動変速機の模式図である。
【図5】4WD−ECUの制御ブロック図である。
【図6】推定駆動トルク算出部の制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0083】
1 四輪駆動車両
2L 左前輪(車輪)
2R 右前輪(車輪)
3L 左後輪(車輪)
3R 右後輪(車輪)
13 車輪速センサ(車輪速検出手段)
37 出力軸
46 メインシャフト回転数検出センサ(回転数検出手段)
51 トルクコンバータ
55 メインシャフト(トルクコンバータの出力軸)
58 ギヤトレイン(変速機構)
120 推定駆動トルク算出部(駆動トルク推定装置)
121 第1駆動トルク算出部(第1駆動トルク算出手段)
122 第2駆動トルク算出部(第2駆動トルク算出手段)
128 スリップ率算出部(スリップ率算出手段)
150 トルク補正部
154 トルク合成部(トルク合成手段)
155 走行状態判定部(走行状態判定手段)
AT 自動変速機
ENG エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの出力軸に繋がって配設されたトルクコンバータと、前記トルクコンバータを介して前記エンジンから伝達された出力回転を変速して車輪へ伝達する変速機構とを有して構成された車両において、
前記エンジンに吸気される空気の空気量に基づいて前記エンジンの推定駆動トルクを算出する第1駆動トルク算出手段と、
前記エンジンの出力軸の回転数に基づいて前記エンジンの推定駆動トルクを算出する第2駆動トルク算出手段と、
前記トルクコンバータのスリップ率を算出するスリップ率算出手段と、
前記第1駆動トルク算出手段により算出された第1の推定駆動トルクと前記第2駆動トルク算出手段により算出された第2の推定駆動トルクとを所定の割合で加え合わせた合成駆動トルクを算出するトルク合成手段とを備え、
前記スリップ率算出手段により算出されたスリップ率が所定値以下であり、かつ前記第1の推定駆動トルクが前記第2の推定駆動トルクよりも大きい場合に、前記トルク合成手段が前記合成駆動トルクを前記エンジンの推定駆動トルクとして算出するように構成された車両の駆動トルク推定装置であって、
前記変速機構がインギヤ状態であるか否かを判定する走行状態判定手段と、
前記トルクコンバータの出力軸の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段とを有し、
前記変速機構がインギヤ状態であると前記走行状態判定手段が判定し、かつ前記回転数検出手段により検出された前記トルクコンバータの出力軸の回転数が所定回転数以下であり、かつ前記車輪速検出手段により検出された前記車輪の回転速度が所定回転速度以上である場合には、前記スリップ率が所定値以下であり、かつ前記第1の推定駆動トルクが前記第2の推定駆動トルクよりも大きい場合であっても、前記トルク合成手段が前記第1の推定駆動トルクを前記エンジンの推定駆動トルクとして算出するように構成されていることを特徴とする車両の駆動トルク推定装置。
【請求項2】
前輪および後輪がともに駆動輪である四輪駆動車両において、
請求項1に記載の車両の駆動トルク推定装置により算出された前記エンジンの推定駆動トルクに基づいて、前記前輪および前記後輪の駆動力配分が行われるように構成されることを特徴とする四輪駆動車両。
【請求項3】
エンジンと、前記エンジンの出力軸に繋がって配設されたトルクコンバータと、前記トルクコンバータを介して前記エンジンから伝達された出力回転を変速して車輪へ伝達する変速機構とを有して構成された車両において、
前記エンジンに吸気される空気の空気量に基づいて前記エンジンの推定駆動トルクを算出し、
前記エンジンの出力軸の回転数に基づいて前記エンジンの推定駆動トルクを算出し、
前記トルクコンバータのスリップ率を算出し、
前記エンジンに吸気される空気の空気量に基づいて算出した第1の推定駆動トルクと前記エンジンの出力軸の回転数に基づいて算出した第2の推定駆動トルクとを所定の割合で加え合わせた合成駆動トルクを算出し、
算出したスリップ率が所定値以下であり、かつ前記第1の推定駆動トルクが前記第2の推定駆動トルクよりも大きい場合に、前記合成駆動トルクを前記エンジンの推定駆動トルクとして算出するように構成された車両の駆動トルク推定方法であって、
前記変速機構がインギヤ状態であるか否かを判定し、
前記トルクコンバータの出力軸の回転数を検出し、
前記車輪の回転速度を検出し、
前記変速機構がインギヤ状態であり、かつ前記トルクコンバータの出力軸の回転数が所定回転数以下であり、かつ前記車輪の回転速度が所定回転速度以上である場合には、前記スリップ率が所定値以下であり、かつ前記第1の推定駆動トルクが前記第2の推定駆動トルクよりも大きい場合であっても、前記第1の推定駆動トルクを前記エンジンの推定駆動トルクとして算出するように構成されていることを特徴とする車両の駆動トルク推定方法。
【請求項4】
前輪および後輪がともに駆動輪である四輪駆動車両において、
請求項3に記載の車両の駆動トルク推定方法により算出された前記エンジンの推定駆動トルクに基づいて、前記前輪および前記後輪の駆動力配分が行われるように構成されることを特徴とする四輪駆動車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−298014(P2007−298014A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128879(P2006−128879)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】