説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】電動機によって差動状態が制御される電気式差動部と、動力伝達経路の一部を構成する変速部とを、備えた車両用動力伝達装置において、エンジン始動時に発生する歯打ち音の発生を抑制することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】変速比設定手段92は、エンジン停止時の第2電動機M2による走行中の自動変速部20の変速比を、第1電動機M1によってエンジン8を始動させるときの第1電動機M1の電圧波形に応じて設定するため、自動変速部20のギヤ比が好適に設定され、第1電動機M1によるエンジン始動時の歯打ち音を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動機構の差動状態が電気的に制御される電気式差動部と、動力伝達経路の一部を構成する変速部とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、エンジン始動時に発生する歯打ち音の抑制に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に連結された差動機構と、その差動機構に動力伝達可能に連結された第1電動機とを有し、その第1電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第2電動機と、動力伝達経路の一部を構成する変速部とを、備えた車両用動力伝達装置が知られている。例えば特許文献1の車両用駆動装置がその一例である。特許文献1では、エンジンを始動させるに際して、エンジン回転速度を電動機制御によってエンジン点火可能回転速度まで速やかに上昇させることで、エンジン始動性を向上させる技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−264762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように構成される車両用動力伝達装置では、低車速走行や低負荷走行時等において電動機(第2電動機)によるモータ走行が実施される。このとき、電動機を低トルク高回転速度で作動させることが電動機の効率上望ましく、変速部の変速比を大きく設定(ローギヤ)することで、第2電動機を低トルク高回転速度である動作点で作動させることができる。しかしながら、変速部の変速比が大きくなりすぎると、差動機構の差動作用によって第1電動機の回転速度が逆回転方向に大きくなる。
【0005】
ここで、第1電動機においては、電動機の回転速度が高くなる(逆回転を含む)と適用される電圧波形を切り換えることで、出力可能な回転速度範囲を拡大しているが、高回転速度側の電圧波形では、低回転速度側の電圧波形に比べて制御性が劣るものとなる。そして、第1電動機の回転速度増加に伴って電圧波形が切り換えられた状態で第1電動機によってエンジンを始動させると、第1電動機の制御性が低下しているに伴い、エンジン始動時に歯打ち音が発生する可能性があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、電動機によって差動状態が制御される電気式差動部と、動力伝達経路の一部を構成する変速部とを、備えた車両用動力伝達装置において、エンジン始動時に発生する歯打ち音の発生を抑制することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された第1電動機とを有しその第1電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第2電動機と、前記動力伝達経路の一部を構成する変速部とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置において、(b)前記エンジン停止時の前記第2電動機による走行中における前記変速部の変速比を、前記第1電動機によって前記エンジンを始動させるときの前記第1電動機の電圧波形に応じて設定するモータ走行時変速比設定手段を備えることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記第1電動機によって前記エンジンを始動させるに際して、前記モータ走行時変速比設定手段は、歯打ち音を発生させない前記第1電動機の電圧波形で前記エンジンを始動できるように、前記変速部の変速比を設定することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記第1電動機によるエンジン始動とは異なるエンジン始動手段をさらに有しており、そのエンジン始動手段によってエンジン始動を実施させるときは、前記変速比設定手段を実施させないことを特徴とする。
【0010】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置において、前記第1電動機は、回転速度の絶対値が所定の回転速度を超えると、電圧波形が切り換えられて制御性が低下するものであることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項4の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記第1電動機の電圧波形は、低・中回転速度領域にあっては正弦波パルス幅変調が用いられ、前記所定の回転速度を超えて高回転速度領域となると、矩形波が用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、変速比設定手段は、前記エンジン停止時の前記第2電動機による走行中における前記変速部の変速比を、前記第1電動機によって前記エンジンを始動させるときの前記第1電動機の電圧波形に応じて設定するものである。第2電動機による走行時において、第2電動機を低トルク高回転速度で使用すると電動機の効率上好ましいが、第2電動機が高回転となると差動機構の差動作用によって、第1電動機の回転速度が負の回転方向に大きくなる。ここで、第1電動機の回転速度が大きくなると、第1電動機の電圧波形が変化して制御性が低下するため、エンジン始動時に差動機構等から歯打ち音が発生し易くなる。これに対して、第1電動機の制御性が低下しない電圧波形で維持されるように、変速比設定手段は変速部の変速比を設定することで、第1電動機によるエンジン始動時の歯打ち音の発生を抑制することができる。
【0013】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記第1電動機によって前記エンジンを始動させるに際して、前記変速比設定手段は、歯打ち音を発生させない前記第1電動機の電圧波形で前記エンジンを始動できるように、前記変速部の変速比を設定するため、第1電動機によるエンジン始動の際の歯打ち音を効果的に抑制することができる。
【0014】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記第1電動機によるエンジン始動とは異なるエンジン始動手段をさらに有しており、そのエンジン始動手段によってエンジン始動を実施させるときは、前記変速比設定手段を実施しないため、第2電動機が低トルク高回転速度で運転される領域が広くなるので、車両の燃費性を向上させることができる。
【0015】
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記第1電動機は、回転速度の絶対値が所定の回転速度を超えると、電圧波形が切り換えられて制御性が低下するので、変速比設定手段によって電圧波形の変化を防止して、第1電動機の制御性低下を抑制することができる。
【0016】
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記第1電動機の電圧波形は、低・中回転速度領域にあっては正弦波パルス幅変調が用いられ、前記所定の回転速度を超えて高回転速度領域となると、矩形波が用いられるため、第1電動機の出力可能な回転速度範囲を大幅に拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ここで、好適には、前記第1電動機によるエンジン始動とは異なるエンジン始動手段とは、エンジンに直接的に連結された、或いはエンジンに内蔵されたスタータモータによって始動させるものである。このようにすれば、第1電動機の回転速度の制約がなくなるので、第2電動機を広い範囲で低トルク高回転速度で運転させることが可能となり、燃費を向上させることができる。
【0018】
また、好適には、エンジン始動時に歯打ち音を発生させない第1電動機の電圧波形とは、正弦波PWMに対応している。正弦波PWMは、電圧および電流が正弦波となるので、トルク変動が小さく、滑らかなトルクを出力することができ、第1電動機によるエンジン始動時の歯打ち音を抑制することができる。
【0019】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された第1回転要素と前記差動用電動機に動力伝達可能に連結された第2回転要素と前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第3回転要素とを有する遊星歯車装置であり、上記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、上記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、上記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つの遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0020】
また好適には、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型の遊星歯車装置である。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0021】
また好適には、前記自動変速部の変速比と前記電気式差動部の変速比とに基づいて前記車両用動力伝達装置の総合変速比が形成されるものである。このようにすれば、上記自動変速部の変速比を利用することで駆動力が幅広く得られるようになる。
【0022】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の一実施例の車両用動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10と記載)の一部を示す骨子図である。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、その入力軸14と駆動輪38(図6参照)との間の動力伝達経路においてその入力軸14に連結された差動部11と、その差動部11と駆動輪38との間の動力伝達経路において伝達部材(動力伝動軸)18を介してその差動部11に連結されている自動変速部(変速部)20と、その自動変速部20と駆動輪38との間の動力伝達経路においてその自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを備えている。この動力伝達装置10は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸には、走行用の駆動力源としての例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8が直接にあるいは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結されている。また、エンジン8の動力は、動力伝達装置10を介して、動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)および一対の車軸等を順次介して左右一対の駆動輪38へ伝達される。
【0024】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0025】
本発明の電気式差動部に対応する差動部11は、動力分配機構16と、動力分配機構16に動力伝達可能に連結されて動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2と、入力軸14を介しエンジン8に連結されたエンジン連結電動機である第3電動機M3とを備えている。
【0026】
本実施例の第1電動機M1、第2電動機M2、及び第3電動機M3は、何れも電力授受可能に構成されたものである。すなわち、電気エネルギから機械的な駆動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な駆動力から電気エネルギを発生させる発電機としての機能を有する所謂モータジェネレータである。換言すれば、動力伝達装置10において、電動機Mは何れも主動力源であるエンジン8の代替として、或いはそのエンジン8と共に走行用の駆動力を発生させる動力源(副動力源)として機能し得る。また、他の動力源により発生させられた駆動力から回生により電気エネルギを発生させ、インバータ54(図6参照)を介して他の電動機Mに供給したり、その電気エネルギを蓄電装置56(図6参照)に蓄積する等の作動を行う。尚、第3電動機M3は、主動力源であるエンジン8の補機であり、例えばスタータモータとしてそのエンジン8の出力軸に直結される等して付属的に設けられたものである。
【0027】
第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、好適には、第1電動機M1、第2電動機M2、及び第3電動機M3は、何れもその発電機としての発電量を連続的に変更可能に構成されたものである。また、第1電動機M1、第2電動機M2、及び第3電動機M3は、動力伝達装置10の筐体であるケース12内に備えられ、動力伝達装置10の作動流体である自動変速部20の作動油により冷却される。尚、本実施例では図1のように第3電動機M3はエンジン8に直結されているが、両者が同軸に配置される必要はなく両者の連結関係はこれに限定されるものではない。また、第3電動機M3はエンジン8に入力軸14を介して連結されているが、省スペース化のため第3電動機M3がエンジン8に付属し両者が一体的に構成されていてもよい。
【0028】
動力分配機構16は、エンジン8と駆動輪38との間に連結された差動機構であって、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
【0029】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び第2電動機M2の一方又は両方の運転状態(動作点)が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0030】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は差動部サンギヤS0とトランスミッションケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると差動部11も差動状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動状態とされると、動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1および/又は第2電動機M2の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度N18の差動状態が制御される。
【0031】
その差動状態で上記切換クラッチC0あるいは切換ブレーキB0が係合させられると、動力分配機構16は、前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられて差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて差動部サンギヤS0がトランスミッションケース12に連結させられると、動力分配機構16は、差動部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、差動部リングギヤR0は差動部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0032】
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)の変速状態を差動状態すなわち非ロック状態と非差動状態すなわちロック状態とに選択的に切り換える差動状態切換装置として機能している。すなわち、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動状態例えば変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動を為さない変速状態例えば無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動をしないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに、選択的に切り換える差動状態切換装置として機能している。
【0033】
本発明の変速部に対応する自動変速部20は、変速比(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)を段階的に変化させることができる有段式の自動変速機として機能する変速機であり、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備えている。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
【0034】
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してトランスミッションケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してトランスミッションケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してトランスミッションケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、あるいは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0035】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0036】
以上のように構成された動力伝達装置10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれかあるいは後進ギヤ段(後進変速段)あるいはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では、動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、差動部11は、前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、動力伝達装置10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、また、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0037】
例えば、動力伝達装置10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチおよびブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
【0038】
しかし、動力伝達装置10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。また、例えば自動変速部20の変速方向に対して、差動部11を反対方向に変速させることで、総合変速比γTを一定に維持することもできる。
【0039】
図3は、無段変速部として機能する差動部11と有段変速部として機能する自動変速部20とを含んで構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表した共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρ0〜ρ3の関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Nを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0040】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0041】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(差動部サンギヤS0)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してトランスミッションケース12に選択的に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0042】
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動状態)に切り換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇あるいは下降させられると、車速Vに拘束される差動部リングギヤR0の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇あるいは下降させられる。また、切換クラッチC0の係合により差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度Nと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。あるいは、切換ブレーキB0の係合によって差動部サンギヤS0の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度Nよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0043】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してトランスミッションケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してトランスミッションケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してトランスミッションケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結される。
【0044】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点、および第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点を通る斜めの直線L1と、出力軸22に連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22に連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22に連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22に連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度Nと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度Nよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
【0045】
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8や各電動機Mに関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行するものである。
【0046】
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温TEMPを表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)及びその回転方向を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)及びその回転方向を表す信号、第3電動機M3の回転速度NM3(以下、「第3電動機回転速度NM3」と表す)及びその回転方向を表す信号、各電動機M1,M2,M3との間でインバータ54を介して充放電を行う蓄電装置56(図6参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0047】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン8の出力P(単位は例えば「kW」。以下、「エンジン出力P」と表す。)を制御するエンジン出力制御装置58(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1、M2、及びM3の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図6参照)に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧Pを調圧するための信号、そのライン油圧Pが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0048】
図5は、複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
【0049】
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速部20における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0050】
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
【0051】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の何れもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1及び第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1及び第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1及び/又は第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0052】
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0053】
図6は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段82は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段82は、予め記憶された図7に示す実線および一点鎖線に示す関係(変速線図、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の変速を実行する。このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令)を油圧制御回路70へ出力する。なお、アクセル開度Accと自動変速部20の要求出力トルクTOUT(図7の縦軸)とはアクセル開度Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUTも大きくなる対応関係にあることから、図7の変速線図の縦軸はアクセル開度Accであっても差し支えない。
【0054】
ハイブリッド制御手段84は、動力伝達装置10の前記無段変速状態すなわち差動部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセルペダル操作量(アクセル開度)Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NとエンジントルクTとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0055】
ハイブリッド制御手段84は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Nと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、例えば図8に示すようなエンジン回転速度Nとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Tとをパラメータとする二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に定められたエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線LEF(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線LEFにエンジン8の動作点PEG(以下、「エンジン動作点PEG」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。例えば、自動変速部20の変速に対して、エンジン動作点が最適燃費曲線Lから外れることのないように、差動部11を自動変速部20の変速方向とは反対方向に変速させる。ここで、上記エンジン動作点PEGとは、エンジン回転速度N及びエンジントルクTなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
【0056】
このとき、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが第2電動機M2Gへ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0057】
ハイブリッド制御手段84は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、ハイブリッド制御手段84は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度信号Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0058】
前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に予め記憶されている。
【0059】
そして、ハイブリッド制御手段84は、例えば図7の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段84によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT時すなわち低エンジントルクT時、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0060】
ハイブリッド制御手段84は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部11の差動作用によりエンジン回転速度Nを零乃至略零に維持する。また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、前述した電気パスによる第1電動機M1や第3電動機M3からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪38にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
【0061】
ハイブリッド制御手段84は、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン8の作動状態を運転状態と停止状態との間で切り換える、すなわちエンジン8の始動および停止を行うエンジン始動停止制御手段86を備えている。このエンジン始動停止制御手段86は、ハイブリッド制御手段84により例えば図7の駆動力源切換線図から車両状態に基づいてモータ走行とエンジン走行との切換えが判断された場合に、エンジン8の始動または停止を実行する。
【0062】
例えば、エンジン始動停止制御手段86は、図7の実線Bの点a→点bに示すように、アクセルペダルが踏込操作されて要求出力トルクTOUTが大きくなり車両状態がモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化した場合には、第1電動機M1に通電して第1電動機回転速度NM1を引き上げることで、すなわち第1電動機M1をスタータとして機能させることで、エンジン回転速度Nを引き上げ、所定のエンジン回転速度N’例えばエンジン点火可能な回転速度Nで点火装置68により点火させるようにエンジン8の始動を行って、ハイブリッド制御手段84によるモータ走行からエンジン走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段86は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き上げることでエンジン回転速度Nを速やかに所定のエンジン回転速度N’まで引き上げてもよい。これにより、良く知られたアイドル回転速度NEIDL以下のエンジン回転速度領域における共振領域を速やかに回避できて始動時の振動が抑制される。また、エンジン始動停止手段86は、第1電動機回転速度NM1の引き上げに替えて又はこれと並行して、第3電動機回転速度NM3の引き上げを実行してエンジン回転速度Nを引き上げてもよい。すなわち、第3電動機M3の駆動によって、エンジン回転速度Nをエンジン点火可能な回転速度まで引き上げ、点火装置68より点火させることで、エンジン走行へ切り換える。
【0063】
また、エンジン始動停止制御手段86は、図7の実線Bの点b→点aに示すように、アクセルペダルが戻されて要求出力トルクTOUTが小さくなり車両状態がエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、燃料噴射装置66により燃料供給を停止させるように、すなわちフューエルカットによりエンジン8の停止を行って、ハイブリッド制御手段84によるエンジン走行からモータ走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段86は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き下げることでエンジン回転速度Nを速やかに零乃至略零まで引き下げてもよい。これにより、上記共振領域を速やかに回避できて停止時の振動が抑制される。或いは、エンジン始動停止制御手段86は、フューエルカットより先に、第1電動機回転速度NM1を引き下げてエンジン回転速度Nを引き下げ、所定のエンジン回転速度N’でフューエルカットするようにエンジン8の停止を行ってもよい。
【0064】
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動してエンジン8の動力を補助するトルクアシストが可能である。よって、本実施例ではエンジン8と第2電動機M2との両方を走行用の駆動力源とする車両の走行はモータ走行ではなくエンジン走行に含まれるものとする。
【0065】
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の運転状態を維持させることができる。例えば、車両停止時に蓄電装置56の充電残量SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる第2電動機回転速度NM2が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度Nが自律回転可能な回転速度以上に維持される。
【0066】
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度Nを任意の回転速度に維持させられる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段84はエンジン回転速度Nを引き上げる場合には、車速Vに拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。
【0067】
増速側ギヤ段判定手段88は、動力伝達装置10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて予め記憶された前記図7に示す変速線図に従って動力伝達装置10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0068】
切換制御手段90は、車両状態に基づいて前記差動状態切換装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、前記無段変速状態と前記有段変速状態とを、すなわち前記差動状態と前記ロック状態とを選択的に切り換える。例えば、切換制御手段90は、予め記憶された前記図7の破線および二点鎖線に示す関係(切換線図、切換マップ)から車速Vおよび要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、動力伝達装置10(差動部11)の変速状態を切り換えるべきか否かを判断して、すなわち動力伝達装置10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは動力伝達装置10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定することにより動力伝達装置10の切り換えるべき変速状態を判断して、動力伝達装置10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える変速状態の切換えを実行する。
【0069】
具体的には、切換制御手段90は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段84に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段82に対しては、予め設定された有段変速時の変速を許可する。このときの有段変速制御手段82は、予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速を実行する。例えば、予め記憶された図2は、このときの変速において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、動力伝達装置10全体すなわち差動部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
【0070】
例えば、増速側ギヤ段判定手段88により第5速ギヤ段が判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段90は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路70へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段88により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、動力伝達装置10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段90は差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路70へ出力する。このように、切換制御手段90によって動力伝達装置10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、動力伝達装置10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
【0071】
しかし、切換制御手段90は、動力伝達装置10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、動力伝達装置10全体として無段変速状態が得られるために差動部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路70へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段84に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段82には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは、予め記憶された例えば図7に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段82により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段90により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0072】
ここで前記図7について詳述すると、図7は自動変速部20の変速判断の基となる予め記憶された関係(変速線図、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図7の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。
【0073】
また、図7の破線は切換制御手段90による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図7の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図7の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図7は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段90により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
【0074】
上記変速線図、切換線図、或いは駆動力源切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。この場合には、切換制御手段90は、車両状態例えば実際の車速が判定車速V1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。また、切換制御手段90は、車両状態例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたときに動力伝達装置10を有段変速状態とする。
【0075】
また、差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ54、蓄電装置56、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段90は動力伝達装置10を優先的に有段変速状態としてもよい。
【0076】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、車輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクT、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度Nとに基づいて算出されるエンジントルクTなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクT、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、車輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0077】
また、例えば判定車速V1は、高速走行において動力伝達装置10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において動力伝達装置10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されている。
【0078】
図7の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。
【0079】
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、動力伝達装置10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が車輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上する。また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が車輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度Nの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度Nの変化が楽しめる。
【0080】
このように、本実施例の差動部11(動力伝達装置10)は無段変速状態と有段変速状態(定変速状態)とに選択的に切換え可能であって、前記切換制御手段90により車両状態に基づいて差動部11の切り換えるべき変速状態が判断され、差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。また、本実施例では、ハイブリッド制御手段84により車両状態に基づいてモータ走行或いはエンジン走行が実行されるが、このエンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン始動停止制御手段86によりエンジン8の始動または停止が行われる。
【0081】
ところで、図7の変速線図には詳細に描かれていないが、実際にはモータ走行領域において、同じアクセル開度・車速であってもエンジン走行とモータ走行とでは、ギヤ段(変速比)が相違するものとなっている。図9に図7のモータ走行領域における変速線図を詳細に示す。図9に示すように、モータ走行においては、一点鎖線で示す第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へのアップシフト線、並びに二点鎖線で示す第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウンシフト線がそれぞれエンジン走行時よりも高車速側に変更されている。なお、モータ走行領域では、自動変速部20のギヤ段は第1速ギヤ段または第2速ギヤ段に限定され、第3速ギヤ段へは変速されない。上記変更は、モータ走行時においては、第2電動機M2を低トルク高回転速度で作動させた方が電動機の効率が向上するためであり、図9に示すように、モータ走行領域ではエンジン走行領域よりも自動変速部20のギヤ比を大きくすることで電動機の効率を向上させている。また、電動機による回生の場合であっても同様に、電動機を低トルク高回転速度で作動させる方が効率上好ましい。
【0082】
ここで、自動変速部20のギヤ比が大きいと、第2電動機M2の回転速度NM2が高くなることから、差動部11の差動作用によって第1電動機M1の回転速度NM1が逆回転方向に高くなる。この状態でモータ走行からエンジン走行に切り換えるため第1電動機M1によってエンジン8を始動させる場合、第1電動機M1の回転速度NM1が逆回転方向に大きな状態からの制御となることから、第1電動機M1の電圧波形に基づいて、第1電動機M1の制御性が低下していることがある。したがって、第1電動機M1の制御性の低下に伴い、差動部11から歯打ち音が発生する可能性があった。また、第1電動機M1の制御性の低下に伴い、エンジン始動時に発生する振動を抑制する制振制御が実施困難となる可能性があった。
【0083】
上記課題について、図を用いてさらに詳細に説明する。図10は、エンジン始動前およびエンジン始動時の差動部11の各回転要素の回転状態を示す共線図であり、図3の共線図に対応するものである。ここで、実線が、第2速ギヤ段におけるモータ走行時(エンジン始動前)の回転状態を示しており、破線が、第1速ギヤ段におけるモータ走行時(エンジン始動前)の回転状態を示している。なお、上記第1速ギヤ段および第2速ギヤ段とも車速Vが同じ速度であるものとする。図10に示すように、同じ車速Vであっても第1速ギヤ段は第2速ギヤ段よりもギヤ比が大きいため、第1速ギヤ段での走行時の方が第2速ギヤ段での走行時よりも、差動部リングギヤR0の回転速度(第2電動機回転速度NM2)が大きくなる。これに伴い、差動部11の差動用によって、第1速ギヤ段での走行時の方が第2速ギヤ段での走行時よりも、差動部サンギヤS0の回転速度(すなわち第1電動機回転速度NM1)が負の回転方向(逆回転方向)に大きくなる。上記状態で第1電動機M1によってエンジン8を始動させる場合の回転状態を、第1速ギヤ段についは一点鎖線で、第2速ギヤ段については二点鎖線でそれぞれ示す。図10に示すように、エンジン回転速度Nがエンジン点火可能なエンジン回転速度N’まで第1電動機M1によって引き上げられることで、エンジン点火が可能となる。
【0084】
ここで、第1電動機M1は、公知技術として知られているように、電圧波形を回転速度に応じて切り換えることで、出力可能な回転速度領域幅を拡大させている。図11は、上記第1電動機M1の電圧波形の適用領域を示す図である。図11に示すように、低回転速度領域では、正弦波PWM(正弦波パルス幅変調)が適用され、第1電動機M1の回転速度が所定の回転速度NCRを越えた高回転速度領域では矩形波が適用されている。なお、所定の回転速度NCRは、第1電動機M1の定格値として設定され、第1電動機M1の出力トルクに応じて変化する。また、負の回転速度領域においても正の回転速度と対称に設定されており、回転速度が高回転となると、矩形波が適用される。言い換えれば、第1電動機M1の回転速度の絶対値が大きくなると矩形波が適用される。なお、実際には、正弦波PWMと矩形波との間に、公知である過変調PWM等も適用されているが本実施例では、発明を理解しやすくするため、正弦波PWMに含むものとする。
【0085】
そして、正弦波PWM領域では、正弦波パルス幅変調制御が実施される一方、矩形波領域では、矩形波の電圧波形による制御が実施される。なお、上記正弦波パルス幅変調制御は、公知技術である最大トルク制御が使用され、矩形波の電圧波形による制御は、公知技術である弱め界磁制御が使用される。最大トルク制御は、同一電流で最大のトルクが得られるように制御するものである。また、弱め界磁制御は、電動機の回転によって発生する逆起電力の上昇により電動機の端子電圧が上昇し、最大トルク制御が実施可能な電圧制限に達したとき実施される。弱め界磁制御は、所定の回転速度を超えると、電動機の永久磁石の磁束を打ち消すように電流(弱め界磁電流)を流すことで、コイルへの磁束鎖交数を減少させて電動機の端子電圧が電圧制限を越えないよう制御するものである。上記弱め界磁制御は、磁束の変化を伴う制御であるので、応答性が得られ難く最大トルク制御に比べて制御性が低いことが知られている。
【0086】
上記より、自動変速部20が第1速ギヤ段でモータ走行中にエンジン8を始動させる際、図10に示すように第1電動機M1が負の回転方向に大きい状態から制御することとなり、そのときの電圧波形が矩形波である場合、第1電動機M1の制御性低下に伴い、差動部11からの歯打ち音の発生や制振制御が困難となる可能性があった。これに対して、モータ走行時変速比設定手段92(以下、変速比設定手段92と記載する)は、エンジン停止時の第2電動機M2によるモータ走行中の自動変速部20の変速比(ギヤ段)を、第1電動機M1によってエンジン8を始動させるときの電圧波形に応じて設定する。これにより、第1電動機M1の制御性が低下しない状態で第1電動機M1によるエンジン始動を実施することが可能となり、歯打ち音の抑制や制振制御が可能となる。以下、上記制御について説明する。
【0087】
図6に戻り、変速比設定手段92は、車両がモータ走行中に実施される制御であるため、モータ走行判定手段94によって現在の走行状態がモータ走行状態であるか否かを判定させる。モータ走行判定手段94は、例えば図7に示す変速線図に基づいて、現在の走行領域が第2電動機M2によるモータ走行領域内にあるか否かを判定する。或いは、ハイブリッド制御手段84から第2電動機M2による駆動信号が出力されているか否かに基づいてモータ走行状態か否かを判定することもできる。
【0088】
また、第1電動機M1によるエンジン始動の代替手段として、スタータモータとして機能する第3電動機M3によるエンジン始動が実施可能か否かがスタータ始動可能判定手段96によって判定される。スタータ始動可能判定手段96は、例えば第3電動機M3が故障状態或いは高温状態にあるか否か等に基づいて、第3電動機M3によるエンジン始動が実施可能か否かを判定する。スタータ始動可能判定手段96が肯定される、すなわち第3電動機M3によるエンジン始動が実施可能な場合、エンジン8の始動に際して、第3電動機M3によるエンジン始動が実施され、変速比設定手段92は実施されない。このとき、図9に示す変速線図のように、モータ走行領域において第1速ギヤ段で走行させる領域が広く設定されたものが適用され、第2電動機M2を低トルク高回転速度領域である効率上有利な点で作動させる領域が広くなる。なお、上記のように第1速ギヤ段で走行される領域が拡大されると、特に車速Vの大きい領域(アップシフト線近傍)では、第1電動機M1の回転速度NM1が逆回転方向に大きくなって第1電動機制御時の電圧波形が矩形波となり、第1電動機M1の制御性が低下するが、第3電動機M3によってエンジン始動を実施するため、エンジン始動時の歯打ち音が抑制されると共に、制振制御が可能となる。
【0089】
一方、スタータ始動可能判定手段96に基づいて、第3電動機M3によるエンジン始動が不可能と判定されると、第1電動機M1によるエンジン始動に限られることとなる。このとき、変速比設定手段92は、エンジンを始動させるときの第1電動機M1の電圧波形に応じて自動変速部20の変速比を設定する。具体的には、第1電動機M1によってエンジン8を始動させるに際して、エンジン始動時に歯打ち音を発生させない電圧波形でエンジン8を始動できるように、変速比設定手段92は、自動変速部20のギヤ比(変速比)を設定する。上述したように、第1電動機M1は、その回転速度NM1の絶対値が所定の回転速度NCRを超えると、電圧波形が矩形波に切り換えられて制御性が低下する。そこで、変速比設定手段92は、第1電動機M1の電圧波形が正弦波PWMから矩形波に変化して制御性が低下しないように、すなわち回転速度NM1の絶対値が所定の回転速度NCRを越えないように、自動変速部20のギヤ比(変速比)を設定する。
【0090】
図12は、変速比設定手段92が実施された場合に使用されるモータ走行領域における変速線図を示した図である。図12においては、第1速ギヤ段および第2速ギヤ段間のアップシフト線およびダウンシフト線が、図9に示す第3電動機M3使用可能時のアップシフト線およびダウンシフト線よりも低速側に移動されている。言い換えれば、自動変速部20が第1速ギヤ段で走行される領域が狭く設定される。ここで、図12において、モータ走行領域において第2速ギヤ段へのアップ変速が実施されるアップシフト線の閾値となる車速Vを車速VCRとすると、車速VCRは、例えば自動変速部20が第1速ギヤ段で走行された場合に、第1電動機M1の回転速度の絶対値が所定の回転速度NCRを越えない領域での最大値、すなわち第1電動機M1の圧力波形が正弦波PWMとなる領域の最大値近傍に設定されている。したがって、第2電動機M2によるモータ走行時に、第1電動機M1の回転速度NM1の絶対値が所定の回転速度NCRを越えそうになると、変速比設定手段92は、自動変速部20の変速比をアップ変速側に設定することで、第1電動機M1の回転速度NM1の絶対値が所定の回転速度NCRを越えないように、すなわち電圧波形が正弦波PWMに維持されるように制御する。このように自動変速部20のギヤ比(変速比)が設定されることで、例えば第1電動機M1によるエンジン始動が開始されても、第1電動機M1の制御性は低下していないので、歯打ち音が抑制されると共に、制振制御が可能となる。
【0091】
図13は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちモータ走行時においてエンジン8を始動させる際に発生する歯打ち音を抑制すると共に、制振制御を可能とするための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
【0092】
先ず、モータ走行判定手段94に対応するステップSA1(以下、ステップを省略)において、現在の車両の走行状態がモータ走行状態であるか否かが判定される。SA1が否定されると、本ルーチンは終了させられる。一方、SA1が肯定されると、スタータ始動可能判定手段96に対応するSA2において、エンジンスタータモータとして機能する第3電動機M3によるエンジン始動が実施可能か否かが判定される。SA2が肯定されると、SA3において、図9に示す変速線図に基づいて変速制御が実施される。SA2が肯定される場合、第3電動機M3によるエンジン始動が実施可能であるため、モータ走行領域において自動変速部20を第1速ギヤ段で走行させる領域が拡大されている。これにより、第2電動機M2が効率のよい低トルク高回転速度領域で作動される領域が拡大され、燃費が改善される。一方、SA2が否定される場合、変速比設定手段92に対応するSA4において、図12に示す図9の変速線図に比べてアップシフト線およびダウンシフト線が低車速側に変更された、すなわち第1速ギヤ段での走行領域が狭められた変速線図に基づいて変速制御が実施される。これにより、第1電動機M1の回転速度NM1の絶対値が所定の回転速度NCRを超えないように自動変速部20の変速比が制御されるに伴い、第1電動機M1がエンジン8を始動させる際に歯打ち音の抑制および制振制御が可能となる電圧波形(正弦波PWM)に維持される。
【0093】
図14は、エンジン8を始動させるに際して、歯打ち音の抑制および制振制御を実施可能とする制御作動を示すタイムチャートである。なお、図14においては、例えばアクセル踏み込み等によりモータ走行(エンジン停止状態)からエンジン走行に切り換える場合を一例に示す。
【0094】
自動変速部20が第1速ギヤ段で走行中、t1時点において第1電動機M1の回転速度NM1が負の回転速度側に大きくなり、所定の回転速度NCRを越えそうになると、自動変速部20が第2速ギヤ段へアップ変速させられる。これに伴い、実線に示すように、第1電動機M1の回転速度NM1が上昇することで所定の回転速度NCRを越えることが回避される。また、自動変速部20が第2速ギヤ段へアップ変速されたことから、第2電動機M2のトルクが増加する。そして、t3時点においてアクセルペダルが踏み込まれ、アクセル開度Accの増加に伴ってt4時点においてエンジン始動判断が為されると、t4時点〜t5時点の間に第1電動機M1によるエンジン始動制御が実施される。さらに、t5時点においてエンジン回転速度Nがエンジン点火可能な回転速度N’まで引き上げられると点火装置42の点火によってエンジン走行に切り換えられる。ここで、第1電動機M1によってエンジン8を始動させる際、第1電動機M1の電圧波形は変速比設定手段92によって正弦波PWMに維持されており、細かな制御が可能であることから、エンジン始動時の歯打ち音の抑制および制振制御が可能となる。
【0095】
また、図14に示す破線は、第3電動機M3によってエンジン8を始動させる場合を示している。第3電動機M3によってエンジン8を始動させる場合、第1電動機M1が所定の回転速度NCRを越えても構わないので、破線に示すようにt1時点において第1電動機M1の回転速度NM1が所定の回転速度NCRに達しても第1速ギヤ段での走行が継続されることとなる。これに伴い、t1時点〜t4時点において、破線に示すように第1電動機M1の回転速度NM1の絶対値が所定の回転速度NCRよりも大きくなる。そして、t3時点においてアクセルペダルが踏み込まれ、t4時点においてエンジン始動判断が為されたとき、第3電動機M3によるエンジン始動が開始されると共に、自動変速部20が第2速ギヤ段へアップ変速される。そして、t4時点〜t5時点において第3電動機M3によってエンジン回転速度Nがエンジン点火可能な回転速度N’まで引き上げられ、t5時点においてエンジン走行に切り換えられる。ここで、第3電動機M3によるエンジン始動が実施可能な場合、第1電動機M1の電圧波形は矩形波であっても問題にならないので、モータ走行領域において第1速ギヤ段すなわち低速ギヤ段での走行領域が第1電動機M1によるエンジン始動時よりも広く設定されている。これに伴い、第2電動機M2が低トルク高回転速度で運転される領域が広くなり、第2電動機M2の効率が向上するので、結果として車両の燃費が向上することとなる。
【0096】
上述のように、本実施例によれば、変速比設定手段92は、エンジン停止時の第2電動機M2による走行中における自動変速部20の変速比を、第1電動機M1によってエンジン8を始動させるときの第1電動機M1の電圧波形に応じて設定するものである。第2電動機M2による走行時において、第2電動機M2を低トルク高回転速度で使用すると電動機の効率上好ましいが、第2電動機M2が高回転となると差動部11の差動作用によって、第1電動機M1の回転速度NM1が負の回転方向に大きくなる。ここで、第1電動機M1の回転速度NM1が大きくなると、第1電動機M1の電圧波形が変化して制御性が低下するため、エンジン始動時に差動部11から歯打ち音が発生し易くなる。これに対して、第1電動機M1の制御性が低下しない電圧波形で維持されるように、変速比設定手段92は自動変速部20の変速比を設定することで、第1電動機M1によるエンジン始動時の歯打ち音を抑制することができる。
【0097】
また、本実施例によれば、第1電動機M1によってエンジン8を始動させるに際して、変速比設定手段92は、歯打ち音を発生させない第1電動機M1の電圧波形でエンジン8を始動できるように、自動変速部20の変速比を設定するため、第1電動機M1によるエンジン始動の際の歯打ち音を効果的に抑制することができる。
【0098】
また、本実施例によれば、第1電動機M1によるエンジン始動とは異なる第3電動機M3によるエンジン始動手段をさらに有しており、そのエンジン始動手段によってエンジン始動を実施させるときは、変速比設定手段92を実施しないため、第2電動機M2が低トルク高回転速度で運転される領域が広くなるので、車両の燃費性を向上させることができる。
【0099】
また、本実施例によれば、第1電動機M1は、回転速度の絶対値が所定の回転速度NCRを超えると、電圧波形が切り換えられて制御性が低下するので、変速比設定手段92によって電圧波形の変化を防止して、第1電動機の制御性低下を抑制することができる。
【0100】
また、本実施例によれば、第1電動機M1の電圧波形は、低・中回転速度領域にあっては正弦波PWM(正弦波パルス幅変調)が用いられ、所定の回転速度NCRを超えて高回転速度領域となると、矩形波が用いられるため、第1電動機M1の出力可能な回転速度範囲を大幅に拡大することができる。
【0101】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0102】
図15は、本発明の他の実施例における動力伝達装置(車両用動力伝達装置)110の構成を説明する骨子図であり、図16は、その動力伝達装置110の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表であり、図17は、その動力伝達装置110の変速作動を説明する共線図である。
【0103】
動力伝達装置110は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、動力分配機構16、第2電動機M2、および第3電動機M3を備えている差動部11と、その差動部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部(変速部)112とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを有している。自動変速部112は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置26と、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28とを備えている。第1遊星歯車装置26の第1サンギヤS1と第2遊星歯車装置28の第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1遊星歯車装置26の第1キャリヤCA1と第2遊星歯車装置28の第2リングギヤR2とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第1リングギヤR1は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
【0104】
以上のように構成された動力伝達装置110では、例えば、図16の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では、動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、動力伝達装置110では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部112とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部112とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置110は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
【0105】
例えば、動力伝達装置110が有段変速機として機能する場合には、図14に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2が解放される。
【0106】
しかし、動力伝達装置110が無段変速機として機能する場合には、図16に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部112が有段変速機として機能することにより、自動変速部112の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部112の入力回転速度NINすなわち伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置110全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0107】
図17は、無段変速部として機能する差動部11と変速部(有段変速部)として機能する自動変速部112とから構成される動力伝達装置110において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合、および切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
【0108】
図17における自動変速部112の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第1キャリヤCA1および第2リングギヤR2を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第1リングギヤR1をそれぞれ表している。また、自動変速部112において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速部112の出力軸22に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0109】
自動変速部112では、図17に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7(R1)の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点および第5回転要素RE5(CA2)の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点を通る斜めの直線L1と、出力軸22に連結された第6回転要素RE6(CA1,R2)の回転速度を示す縦線Y6との交点で、第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と、出力軸22に連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で、第2速の出力軸22の回転速度が示される。また、同様に、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と、出力軸22に連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で、第3速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度Nと同じ回転速度で第7回転要素RE7に差動部11からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度Nよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22に連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
【0110】
本実施例の動力伝達装置110においても、差動部11と自動変速部112(変速部)とを備えるため、変速比設定手段92を適用することが可能となり、前述の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0111】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0112】
例えば、前述の実施例では、モータ走行領域において、第3電動機M3によるエンジン始動が実施可能であっても第1速ギヤ段および第2速ギヤ段間のアップシフト線およびダウンシフト線が設定されているが、第3電動機M3によるエンジン始動が可能な場合、モータ走行領域全体を第1速ギヤ段とするものであっても構わない。
【0113】
また、前述の実施例では、エンジン走行領域とモータ走行領域とで、第1速ギヤ段および第2速ギヤ段間のアップシフト線およびダウンシフト線が不連続に設定されているが、必ずしも上記のように設定する必要はなく、例えば自動変速部20のギヤ比(変速比)をさらに大きなものに最初から設定するなどして、連続的なアップシフト線およびダウンシフト線とすることもできる。
【0114】
また、前述実施例の自動変速部20、112は、3速および4速の変速部が使用されているが、変速部の変速段数は特に限定されるものではなく、複数段の変速が成立可能であれば、特に限定されない。また、自動変速部20の連結構成等も特に限定されない。さらに、自動変速部20、112は有段式の変速部が使用されているが、CVTなどの無段変速部であっても本発明を適用することができる。
【0115】
また前述の実施例においては、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0116】
また、前述の実施例の動力伝達装置10においてエンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0117】
また、前述の実施例の動力伝達装置10において第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0118】
また前述の実施例では、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20が連結されているが、自動変速部20の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
【0119】
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20は直列に連結されているが、動力伝達装置10全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0120】
また、前述の実施例において動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0121】
また前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪38への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2つの遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0122】
また、前述の実施例における切換クラッチC0及び切換ブレーキB0等の油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチ等の磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
【0123】
また、前述の実施例における切換クラッチC0および切換ブレーキB0は必ずしも必要なく、切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれか一方、または両方が省略されたものであっても構わない。
【0124】
また前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0125】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0126】
また、前述の実施例においてエンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0127】
また、前述の実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0128】
また、前述の実施例において自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0129】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0130】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪38までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
【0131】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明の一実施例である動力伝達装置の一部を示す骨子図である。
【図2】図1の動力伝達装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の動力伝達装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の動力伝達装置を制御する制御装置としての電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1の車両用駆動装置において、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換える為の予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図1のエンジンの最適燃費率曲線を表す図である。
【図9】図7の変速線図においてモータ走行領域における変速線を拡大して示した図である。
【図10】エンジン始動時の差動部の各回転要素の回転状態を示す共線図であり、図3の共線図に対応するものである。
【図11】第1電動機の回転速度と電圧波形との関係を示す図である。
【図12】変速比設定手段が実施された場合に使用されるモータ走行領域における変速線図を示した図であり、図9に対応するものである。
【図13】電子制御装置の制御作動の要部すなわちモータ走行時においてエンジンを始動させる際に発生する歯打ち音や振動を抑制するための制御作動を説明するフローチャートである。
【図14】エンジンを始動させるに際して、歯打ち音および振動を抑制する制御作動を示すタイムチャートである。
【図15】本発明の他の実施例である動力伝達装置の一部を示す骨子図である。
【図16】図15の動力伝達装置に備えられた自動変速部の変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図17】図15の動力伝達装置における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【符号の説明】
【0133】
8:エンジン
10、110:動力伝達装置(車両用動力伝達装置)
11:差動部(電気式差動部)
16:動力分配機構(差動機構)
20、112:自動変速部(変速部)
38:駆動輪
92:モータ走行時変速比設定手段(変速比設定手段)
M1:第1電動機
M2:第2電動機
M3:第3電動機(スタータモータ)
CR:所定の回転速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された第1電動機とを有し該第1電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第2電動機と、前記動力伝達経路の一部を構成する変速部とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記エンジン停止時の前記第2電動機による走行中における前記変速部の変速比を、前記第1電動機によって前記エンジンを始動させるときの前記第1電動機の電圧波形に応じて設定するモータ走行時変速比設定手段を備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記第1電動機によって前記エンジンを始動させるに際して、前記モータ走行時変速比設定手段は、歯打ち音を発生させない前記第1電動機の電圧波形で前記エンジンを始動できるように、前記変速部の変速比を設定することを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記第1電動機によるエンジン始動とは異なるエンジン始動手段をさらに有しており、該エンジン始動手段によってエンジン始動を実施させるときは、前記変速比設定手段を実施させないことを特徴とする請求項1または2の車両用動力伝達装置の制御装置
【請求項4】
前記第1電動機は、回転速度の絶対値が所定の回転速度を超えると、電圧波形が切り換えられて制御性が低下するものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つの車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記第1電動機の電圧波形は、低・中回転速度領域にあっては正弦波パルス幅変調が用いられ、前記所定の回転速度を超えて高回転速度領域となると、矩形波が用いられることを特徴とする請求項4の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−100268(P2010−100268A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276174(P2008−276174)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】