説明

車両用電磁式アクチュエータ

【課題】実用性の高い車両用電磁式アクチュエータを提供する。
【解決手段】ばね上部とばね下部との接近離間に伴って相対移動する2つのユニットを備え、モータ力に依拠してそれらを相対移動させて伸縮可能とされた電磁式アクチュエータにおいて、(a)2つのユニットの一方の保持部材84に、2つのユニットの他方のねじロッド80に対しての進出後退が許容された状態で設けられ、ねじロッドに向って弾性力によって付勢された板ばね100と、(b)ねじロッドに設けられ、アクチュエータの収縮時(矢印)に板ばねと係合するヘッド部86とを有し、自身の弾性力によって板ばねがヘッド部を押した状態でそれらが摺接し、アクチュエータの設定長を超えての収縮時に、板ばねがねじロッドに向って進出し、それらが係止し合うように構成する。このような構成により、モータ力に依拠せずに、ばね上ばね下間距離を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用電磁式アクチュエータ、詳しくは、ばね上部とばね下部との接近離間に伴って伸長収縮可能に構成され、電磁モータの力に依拠して伸長収縮するように構成された車両用電磁式アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の分野において、近年では、電磁モータの力(以下、「モータ力」という場合がある)に依拠して自身が発生させる力をばね上部とばね下部との相対振動等に対する減衰力として作用させる電磁式のアクチュエータの開発が進められている。下記特許文献に記載されているアクチュエータは、その電磁式アクチュエータの一例である。
【特許文献1】特開2005−140144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
モータ力に依拠して自身を伸長収縮可能な電磁式アクチュエータは、モータ力に依拠して相対振動等を減衰する機能、所謂、電磁式ショックアブソーバとしての機能を備えている。また、モータ力に依拠してばね上部とばね下部との上下方向における距離(以下、「ばね上ばね下間距離」という場合がある)を変更する機能をも備えることが可能である。ただし、ばね上ばね下間距離を変更した後にばね上ばね下間距離をその変更した距離に維持するためには、電磁モータに電力を供給し、電磁モータを作動させ続ける必要があり、電磁モータへの負担,電磁モータによる電力の浪費等が懸念される。上記特許文献に記載の電磁式アクチュエータは、エアばね機構を備えており、モータ力に依拠することなくばね上ばね下間距離を変更後の距離に維持することが可能とされている。ただし、エアばね機構等の装置を備えた電磁式アクチュエータにおいては、構造の複雑化,大型化等を招く虞がある。このため、ばね上ばね下間距離を変更する機能を有する電磁式アクチュエータにおいては、モータ力に依拠せずに簡便な構造の装置によってばね上ばね下間距離を変更後の距離に維持することで、実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い車両用電磁式アクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の車両用電磁式アクチュエータは、ばね上部とばね下部との接近離間に伴って相対移動するばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとを備え、それらが相対移動することで伸長収縮可能に構成されるとともに、モータ力に依拠して伸長収縮するように構成された電磁式アクチュエータであって、(a)ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方に、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に対しての進出後退が許容された状態で設けられ、その他方に向って弾性力によって付勢された第1係合部と、(b)ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に設けられ、アクチュエータの伸長と収縮との一方の際に第1係合部と係合する第2係合部とを有し、弾性力によって第1係合部が第2係合部を押圧する状態でのそれらの摺接を許容するとともに、伸長と収縮との一方が設定長を超えて行われた場合において、その設定長を超える前よりも大きな第1係合部の進出を許容する構造とされ、その進出が許容されることで、第1係合部と第2係合部とが互いに係止し合って、アクチュエータの設定長を超えた伸長と収縮との他方を禁止するストッパ装置を備える。
【発明の効果】
【0005】
本発明の電磁式アクチュエータにおいては、アクチュエータの伸長と収縮との一方の際に、アクチュエータが設定長を超えると、第1係合部と第2係合部とが互いに係止し合って、アクチュエータの設定長を超えた伸長と収縮との他方を禁止する。つまり、ばね上ばね下間距離が設定された距離に変化すると、第1係合部と第2係合部とが互いに係止し合って、それらの係止によってばね上ばね下間距離がその設定距離に維持される。したがって、本発明の電磁式アクチュエータによれば、上記ストッパ装置のような簡易な構造の装置によって、ばね上ばね下間距離を設定距離に維持することが可能となり、例えば、アクチュエータの簡便化,コンパクト化等を図ることが可能となる。また、電力に依存することなく、第1係合部と第2係合部とを互いに係止させることが可能となり、例えば、アクチュエータの省電力化を図ることが可能となる。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
なお、以下の各項において、(1)項ないし(7)項の各々が、請求項1ないし請求項7の各々に相当し、(8)項と(9)項とを合わせたものが請求項8に相当する。
【0008】
(1)ばね上部に連結されるばね上部側ユニットとばね下部に連結されるばね下部側ユニットとを有し、ばね上部とばね下部との接近離間に伴ってそれらばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとが相対移動することで、その接近離間に伴う伸長収縮が可能に構成され、かつ、電磁モータを有し、その電磁モータの力に依拠して伸長収縮するように構成された車両用電磁式アクチュエータであって、
当該車両用電磁式アクチュエータが、
(a)前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの一方に、前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの他方に対しての進出後退が許容された状態で設けられ、その他方に向って弾性力によって付勢された第1係合部と、(b)前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に設けられ、当該車両用電磁式アクチュエータの伸長と収縮との一方の際に前記第1係合部と係合する第2係合部とを有し、前記弾性力によって前記第1係合部が前記第2係合部を押圧する状態でのそれら第1係合部と第2係合部との摺接を許容するとともに、前記伸長と収縮との一方が設定長を超えて行われた場合において、その設定長を超える前よりも大きな前記第1係合部の進出を許容する構造とされ、その進出が許容されることで、前記第1係合部と前記第2係合部とが互いに係止し合って、当該車両用電磁式アクチュエータの前記設定長を超えた伸長と収縮との他方を禁止するストッパ装置を備えた車両用電磁式アクチュエータ。
【0009】
ばね上ばね下間距離を変更する機能を備えた電磁式アクチュエータは、電磁モータへの負担,電磁モータによる電力消費等を考慮して、モータ力に依拠せずにばね上ばね下間距離を変更後の距離に維持するための装置等を備えることが望ましい。しかし、このような装置等は、エアばね機構を始めとして、複雑な構造であったり、大型な装置であったする。本項に記載の態様においては、第1係合部と第2係合部とをラチェット機構に似た簡易な構造によって互いに係止させることで、ばね上ばね下間距離を変更後の距離に維持することが可能である。したがって、本項に記載の態様によれば、例えば、簡便、かつ、コンパクトな装置によって、ばね上ばね下間距離を設定距離に維持することが可能となる。
【0010】
本項に記載の「第1係合部」は、例えば、弾性体によってばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方に弾性的に支持されて、その弾性体の弾性力によってそれらユニットの他方に向って付勢される構造であってもよく、自身が弾性体であり、自身が発生させる弾性力によってそれらユニットの他方に向って付勢される構造であってもよい。また、
「第1係合部」は、自身の全体がばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に対して進出後退が許容される構造であってもよく、自身の一部がそれらユニットの他方に対して進出後退が許容される構造であってもよい。
【0011】
本項に記載の電磁式アクチュエータは、ばね上ばね下間距離を変更する機能のみを備えるものに限定されず、例えば、モータ力に依拠してばね上部とばね下部との相対振動等を減衰する機能、所謂、電磁式ショックアブソーバとしての機能を備えるものであってもよく、モータ力に依拠して車体の姿勢変化、具体的に言えば、車体のロール,ピッチ等を抑制する機能を備えるものであってもよい。ただし、アクチュエータがアブソーバ等として機能している最中、つまり、モータ力に依拠して相対振動等を減衰している最中には、第1係合部と第2係合部との係止は回避することが望ましい。このため、本項に記載の「設定長」は、その長さが限定されるものではないが、モータ力に依拠して相対振動等を減衰する際にアクチュエータが頻繁に伸縮する長さを避けて設定することが望ましい。このことから、例えば、アクチュエータのストローク範囲におけるストロークエンド付近において第1係合部と第2係合部とが係止し合うように、第1係合部および第2係合部が設けられることが望ましい。なお、第1係合部と第2係合部との係止が実現されると、アクチュエータの伸長と収縮との他方が禁止されることから、ストッパ装置によるばね上ばね下間距離の維持は、車両の停止中等に実現されることが望ましい。
【0012】
(2)前記第1係合部と前記第2係合部との一方が、前記伸長と収縮との一方の際に前記第1係合部と前記第2係合部との他方と係合する傾斜面を有し、
前記ストッパ装置が、
前記伸長と収縮との一方の際に、前記弾性力によって前記第1係合部が前記第2係合部を押圧する状態での前記傾斜面における前記第1係合部と第2係合部との摺接を許容するとともに、前記傾斜面において前記第1係合部と前記第2係合部とが摺接することで前記第1係合部の後退を許容し、かつ、
前記伸長と収縮との一方が設定長を超えて行われた場合において、前記傾斜面における前記第1係合部と第2係合部との摺接が解除されて、前記設定長を超える前よりも大きな前記第1係合部の進出を許容する構造とされた(1)項に記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【0013】
本項に記載の態様は、傾斜を利用して第1係合部と第2係合部とを係止させる態様である。本項の態様によれば、弾性力に逆らって第1係合部を容易に後退させることが可能となり、例えば、その反力を利用してアクチュエータが設定長を超えた場合に第1係合部を進出させることが可能となる。
【0014】
(3)当該車両用電磁式アクチュエータが、
当該車両用電磁式アクチュエータの伸長と収縮とのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが前記ストッパ装置である伸長時対応ストッパ装置と収縮時対応ストッパ装置との少なくとも一方を備えた(1)項または(2)項に記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【0015】
ばね上部とばね下部との間に設けられる電磁式アクチュエータは、通常、ばね上部とばね下部とを弾性的に連結するサスペンションスプリングと並列的に設けられている。そのアクチュエータを伸長させてサスペンションスプリングを伸ばした状態でばね上ばね下間距離を維持する場合には、アクチュエータに収縮させようとする力が作用し、一方、アクチュエータを収縮させてサスペンションスプリングを縮めた状態でばね上ばね下間距離を維持する場合には、アクチュエータに伸長させようとする力が作用する。本項に記載の「伸長時対応ストッパ装置」は、アクチュエータを伸長させて設定長を超えた場合に、第1係合部と第2係合部とが互いに係合し合って、アクチュエータの収縮を禁止するものであり、本項に記載の「収縮時対応ストッパ装置」は、アクチュエータを収縮させて設定長を超えた場合に、第1係合部と第2係合部とが互いに係合し合って、アクチュエータの伸長を禁止するものである。
【0016】
(4)前記ストッパ装置が、当該車両用電磁式アクチュエータの前記伸長と収縮との他方を禁止している状態であっても、設定力を超える力の作用によってその伸長と収縮との他方が強制された場合には、その伸長と収縮との他方を許容する構造とされた(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【0017】
本項に記載の態様は、ストッパ装置によるばね上ばね下間距離の維持を強制的に解除可能な態様である。本項に記載の「ストッパ装置」の有する第1係合部は、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に向って弾性力によって付勢されるとともに、その他方に対しての進出後退が許容される構造である。その第1係合部が、例えば、アクチュエータの伸長と収縮との他方が禁止された状態においてその他方が強制されると、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に対しての後退が許容される構造であれば、第1係合部と第2係合部との係止を解除することが可能である。したがって、本項に記載の態様によれば、例えば、モータ力に依拠してアクチュエータを伸長、若しくは、収縮させるだけで、ばね上ばね下間距離の維持を解除することが可能となる。
【0018】
(5)前記ストッパ装置が、前記伸長と収縮との一方が設定長を超えて行われた場合の前記第1係合部の進出を遅延させる進出遅延機構を有する(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【0019】
ストッパ装置は、アクチュエータが設定長を超えた場合に第1係合部と第2係合部とが互いに係止し合う構造とされている。このため、例えば、ばね上部とばね下部との相対振動等に伴ってアクチュエータが伸縮すると、ストッパ装置によってアクチュエータの伸長と収縮との他方が禁止される場合がある。つまり、ばね上ばね下間距離を維持する意図の無い場合に、ばね上ばね下間距離が維持される虞がある。相対振動等に伴うアクチュエータの伸長と収縮とは比較的短い時間間隔で繰り返されるものであり、本項に記載の態様においては、例えば、アクチュエータが伸長して設定長を超えても、第1係合部の進出が遅いことから、第1係合部と第2係合部とが係止し合う前にアクチュエータが収縮して、第1係合部と第2係合部との係止を回避することが可能である。したがって、本項に記載の態様によれば、例えば、相対振動等に伴うアクチュエータの伸縮時における第1係合部と第2係合部との係止を回避することが可能となる。
【0020】
本項に記載の「進出遅延機構」は、その具体的な構造が特に限定されるものではなく、、例えば、第1係合部の進出速度を低くする構造とされたものであってもよく、また、第1係合部の進出のタイミングを遅らせる構造とされたものであってもよい。具体的には、例えば、粘着材等を利用して第1係合部をばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方に短時間粘着させることで、第1係合部の進出のタイミングを遅らせる構造とされてもよい。例えば、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方に粘着材を設け、第1係合部の後退に伴って第1係合部と粘着材とが接することで第1係合部が進出し難いようにされてもよい。また、後に詳しく説明するように、ダンパ,緩衝部材等を利用して第1係合部の進出速度を低くする構造とされてもよい。
【0021】
(6)当該車両用電磁式アクチュエータが、
一端部が前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に設けられて外周面に雄ねじが形成されたねじロッドと、前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方に設けられて前記ねじロッドと螺合するナットとを有し、ばね上部とばね下部との接近離間に伴って、前記ねじロッドと前記ナットとの一方が回転するとともに前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方と前記ねじロッドとが相対移動する構造とされたねじ機構を備え、
前記電磁モータが前記ねじロッドとナットとの一方の回転に対して力を発生させることで、当該車両用電磁式アクチュエータが伸長収縮するように構成され、
前記ねじロッドが、前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方を構成するものとされ、
前記第2係合部が、前記ねじロッドに設けられた(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【0022】
ねじ機構を採用する電磁式のアクチュエータにおいては、アクチュエータの伸縮に伴って、ねじロッドとナットとの一方が回転するとともにねじロッドがばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方に対して軸線方向に移動する。このことから、ねじロッドの軸線方向の移動を禁止することで、アクチュエータの伸縮を禁止、つまり、ばね上ばね下間距離を維持することが可能となる。また、ねじロッドは軸線方向に移動することから、ねじロッドの軸線方向への移動のためのスペースがアクチュエータ内に確保されている。したがって、本項に記載の態様によれば、このスペースを利用して第2係合部を設けることで、例えば、コンパクトなアクチュエータを実現することが可能である。
【0023】
(7)前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの一方が、
一端部において前記ナットを保持するとともに、前記ねじロッドの他端部を挿入する筒状のナット保持部を有し、
前記第1係合部が、前記ナット保持部の内壁面に設けられた(6)項に記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【0024】
ねじ機構を採用して伸縮可能なアクチュエータにおいては、通常、ナットを保持する筒状の部分があり、アクチュエータの伸縮に伴って、ねじロッドの端部がその筒状の部分の内部を軸線方向に移動することから、ナットを保持する筒状の部分の内部には、ねじロッドの軸線方向への移動のためのスペースが確保されている。したがって、本項の態様によれば、そのスペースを利用することが可能となり、例えば、上記ストッパ装置を備えたアクチュエータのコンパクト化をさらに図ることが可能となる。
【0025】
(8)当該車両用電磁式アクチュエータが、
前記ねじロッドが前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に回転可能に保持されるとともに、前記電磁モータが前記ねじロッドの回転に対して力を発生させる構造とされた(6)項または(7)項に記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【0026】
本項に記載の態様は、電磁モータがねじロッドに回転力を付与する構造のアクチュエータに限定した態様である。ストッパ装置の第1係合部は、弾性力によって付勢されるとともに進出後退が許容された状態で設けられるものであることから、回転する部材等に設けられることは望ましくない。本項に記載の態様によれば、第2係合部は回転するねじロッドに設けられることになるが、第1係合部は回転する部材等に設けられることを回避することが可能となる。
【0027】
(9)前記ねじロッドが、前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方としての前記ばね上部側ユニットに回転可能に保持された(8)項に記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【0028】
本項の態様において、電磁モータはばね上部に設けられるため、ばね下部から伝達される振動や衝撃の電磁モータへの伝達を緩和することが可能となる。
【実施例】
【0029】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0030】
<電磁式アクチュエータを備えた車両用サスペンションシステムの構成>
図1に実施例としての電磁式アクチュエータを含む車両用サスペンションシステム10を模式的に示す。本サスペンションシステム10は、前後左右4つの車輪12に対応して設けられた4つのサスペンション装置20と、それらサスペンション装置20の制御を担う制御装置とを含んで構成されている。転舵輪である前輪のサスペンション装置20と非転舵輪である後輪のサスペンション装置20とは、車輪を転舵可能とする機構を除き略同様の構成とみなせるため、説明の簡略化に配慮して、後輪のサスペンション装置20を代表して説明する。
【0031】
図2に示すように、サスペンション装置20は、独立懸架式のものであり、マルチリンク式サスペンション装置とされている。サスペンション装置20は、それぞれがサスペンションアームである第1アッパアーム30,第2アッパアーム32,第1ロアアーム34,第2ロアアーム36,トーコントロールアーム38を備えている。5本のアーム30,32,34,36,38のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪12を回転可能に保持するアクスルキャリア40に回動可能に連結されている。それら5本のアーム30,32,34,36,38により、アクスルキャリア40は、車体に対して一定の軌跡に沿った上下動が可能とされている。
【0032】
サスペンション装置20は、サスペンションスプリングとしてのコイルスプリング50と電磁式のアクチュエータ52とを備えており、それらは、それぞれ、ばね上部の一構成部分であるタイヤハウジングに設けられたマウント部54と、ばね下部の一構成部分である第2ロアアーム36との間に、互いに並列的に配設されている。
【0033】
アクチュエータ52は、図3に示すように、概して有底円筒状の下部チューブ60と、その下部チューブ60に嵌入して下部チューブ60の上端部から上方に突出する上部チューブ62とを含んで構成されている。下部チューブ60は、取付ブシュ64を介して第2ロアアーム36に連結されており、一方、上部チューブ62は、それの上端部において、電磁モータ66を収納するモータケース68に固定的に連結されており、そのモータケース68は、それの外周部において、緩衝ゴムを介してマウント部54に連結されている。
【0034】
電磁モータ66は、モータケース68の周壁の内面に沿って一円周上に固定して配置された複数のコイル70と、モータケース68に回転可能に保持されたモータ軸72と、コイル70と向き合うようにしてモータ軸72の外周に固定して配設された永久磁石74とを含んで構成されている。電磁モータ66は、コイル70がステータとして機能し、永久磁石74がロータとして機能するモータであり、3相のDCブラシレスモータとされている。なお、モータケース68内に、モータ軸72の回転角度、すなわち、電磁モータ66の回転角度を検出するためのモータ回転角センサ78が設けられている。モータ回転角センサ78は、エンコーダを主体とするものであり、アクチュエータ52の制御に利用される。
【0035】
アクチュエータ52は、外周面に雄ねじが形成されたねじロッド80と、ベアリングボールを保持してねじロッド80と螺合するナット82とを有しており、ねじロッド80とナット82とはボールねじ機構を構成している。ナット82は、ねじロッド80と螺合させられた状態で、下部チューブ60の内底部に立設されている略筒状のナット保持部材84の上端部に固定的に保持されている。一方、ねじロッド80は、自身の下端部をナット保持部材84に挿入した状態で、上下方向に延びるように上部チューブ62内に配設されており、上端部においてモータ軸72に固着されている。そのねじロッド80の下端部には、ねじロッド80の径より少し大きなロッドヘッド部86が設けられている。
【0036】
また、上部チューブ62には、その内壁面に上下方向に延びるようにして1対のガイド溝90が設けられるとともに、それらのガイド溝90の各々には、ナット保持部材84の上端部に付設された1対のキー92の各々が嵌まるようにされており、それらガイド溝90およびキー92によって、ナット保持部材84と上部チューブ62、つまり、下部チューブ60と上部チューブ62とが、相対回転不能、かつ、上下方向に相対移動可能とされている。
【0037】
また、ナット保持部材84の内壁面の下端部に、”く”の字形に屈曲された板ばね100が1対設けられている。図4に、それら1対の板ばね100の拡大断面図を、図5に、アクチュエータ52の径方向におけるA−A’断面図を示す。ナット保持部材84の壁面は、図5に示すように、ねじロッド80を中心として対称的な1対の平面部を有しており、1対の板ばね100は、1対の平面部に対称的に配置されており、互いに同じ構造とされている。1対の板ばね100は、それぞれ、自身の下端部をナット保持部材84に形成されたスリット102からナット保持部材84の外部に突出させた状態で、自身の上端部においてナット保持部材84の内壁面に固着されている。ナット保持部材84の外部に突出した板ばね100の下端部には、ナット保持部材84に形成されたスリット102より大きな板状の引掛部材104が固着されており、その引掛部材104とナット保持部材84の外壁面との間には、環状のシリコンゲル106が設けられている。板ばね100は、自身の弾性力によって、ナット保持部材84の内壁面とは反対に向って付勢されており、シリコンゲル106が、その弾性力によって、引掛部材104とナット保持部材84の外壁面との間で圧縮された状態で変形させられている。また、ナット保持部材84の内壁面の上端部にも、それら1対の板ばね100と同じ構造の1対の板ばね108が、上下を反転させた状態で設けられており、1対の板ばね100と同様に、引掛部材,シリコンゲル等が設けられている。
【0038】
下部チューブ60には、その外周部に環状の下部リテーナ120が固定されており、マウント部54の下面側には、防振ゴムを介して、環状の上部リテーナ122が付設されている。コイルスプリング50は、それら下部リテーナ120と上部リテーナ122とによって、それらに挟まれる状態で支持されている。また、下部チューブ60の上端部内面には環状の緩衝ゴム124が貼着されており、モータケース68の下端部には緩衝ゴム126が貼着されている。
【0039】
また、本サスペンションシステム10では、図1に示すように、4つのアクチュエータ52に対応する電子制御ユニット(ECU)130が設けられている。ECU130は、各アクチュエータ52、詳しくは、各電磁モータ66の作動を制御する制御装置であり、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されるコントローラ132と、各電磁モータ66に対応する駆動回路としての4つのインバータ136とを有している。インバータ136の各々は、コンバータ138を介してバッテリ140に接続されており、対応するアクチュエータ52の電磁モータ66に接続されている。電磁モータ66は定電圧駆動され、電磁モータ66への供給電力は、供給電流量を変更することによって変更される。供給電流量の変更は、インバータ136がPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
【0040】
コントローラ132には、上記モータ回転角センサ78とともに、車両走行速度(以下、「車速」と略す場合がある)を検出するための車速センサ140,操舵量としてのステアリングホイールの操作角を検出するためのステアリングセンサ142,車体に実際に発生している横加速度である実横加速度を検出する横加速度センサ144,車体に発生している前後加速度を検出する前後加速度センサ146,車体のマウント部54に設けられてばね上縦加速度を検出するばね上縦加速度センサ148,ばね上ばね下間距離を検出するストロークセンサ150が接続されている(図1では、それぞれ「ω」,「v」,「δ」,「Gy」,「Gzg」,「Gu」,「St」と表されている)。さらに、コントローラ132は、各インバータ136にも接続され、それらを制御することで、各電磁モータ66を制御するものとされている。なお、コントローラ132のコンピュータが備えるROMには、アクチュエータ52の制御に関するプログラム,各種のデータ等が記憶されている。
【0041】
<車両電磁式アクチュエータの機能等>
上述のような構造から、アクチュエータ52は、上部チューブ62,モータケース68,ねじロッド80等を含んでマウント部54に連結されるばね上部側ユニットが構成されるとともに、下部チューブ60,ナット保持部材84,ナット82等を含んで第2ロアアーム36に連結されるばね下部側ユニットが構成される構造のものとなっている。ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとは、ばね上部とばね下部との接近離間に伴って、相対移動可能とされており、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対移動に伴って、アクチュエータ52が伸長収縮するものとされている。
【0042】
アクチュエータ52の伸長収縮に伴って、ねじロッド80が回転するとともにばね下部側ユニットに対して上下方向に移動するものとされている。アクチュエータ52の備える電磁モータ66は、ねじロッド80に回転力を付与することが可能とされていることから、アクチュエータ52は、その回転力に依拠して自身を伸長収縮させる方向の力(以下、「アクチュエータ力」という場合がある)を発生させることが可能とされている。本アクチュエータ52では、そのアクチュエータ力によって、ばね上部とばね下部との上下方向における距離であるばね上ばね下間距離を変更することが可能とされている。また、本アクチュエータ52では、アクチュエータ力をばね上部とばね下部との相対振動に対する減衰力として作用させることが可能とされている。つまり、ばね上部とばね下部との相対振動を減衰する機能、所謂、ショックアブソーバとしての機能をも有しているのである。さらに、アクチュエータ力をばね上部とばね下部との相対動作に対する推進力として作用させることが可能とされており、いわゆるスカイフックダンパ理論等に基づく制御を実行すること、旋回時の車体のロール,加速・減速時の車体のピッチ等を効果的に抑制することが可能とされているのである。
【0043】
また、ばね上部とばね下部とが接近してアクチュエータ52がある程度収縮した場合には、下部チューブ60の上端部が、緩衝ゴム126を介してモータケース68の下端部に当接し、逆に、ばね上部とばね下部とが離間してアクチュエータ52がある程度伸長した場合には、上部チューブ62の下端部外周面に設けられた環状部材127が、緩衝ゴム124を介して下部チューブ60の上端部に当接するようになっている。つまり、アクチュエータ52は、ばね上部とばね下部との接近離間に対するストッパ、いわゆるバウンドストッパ、および、リバウンドストッパを有しているのである。
【0044】
本アクチュエータ52は、上述のように、電磁モータ66に電力を供給することで、アクチュエータ力によってばね上ばね下間距離を変更することが可能であり、さらに、電磁モータ66に電力を供給し続けることで、アクチュエータ力によってばね上ばね下間距離を変更後の距離に維持することが可能である。しかし、アクチュエータ力のみに依拠して、ばね上ばね下間距離を変更しその変更後の距離に維持しようとすると、その変更した距離に維持するために電磁モータ66に電力を供給し続けなければならないことになる。そこで、本アクチュエータ52においては、ばね上ばね下間距離を設定距離に変更するとともに、ねじロッド80の先端部に設けられたロッドヘッド部86を、ナット保持部材84の内壁面の上端部に設けられた1対の板ばね108、若しくは、下端部に設けられた1対の板ばね100に係止させることで、ばね上ばね下間距離を設定距離に維持する。つまり、アクチュエータ力に依拠してばね上ばね下間距離を設定距離に維持するのではなく、ねじロッド80とナット保持部材84とを互いに係止させることで、ばね上ばね下間距離を設定距離に維持するのである。
【0045】
詳しくいえば、例えば、ロッドヘッド部86を1対の板ばね100に係止させる場合には、アクチュエータ52を収縮させることで、図6に示すように、第1係合部としての板ばね100と第2係合部としてのロッドヘッド部86とが係合する。ロッドヘッド部86と係合する板ばね100の上方の部分は、傾斜面128とされており、その傾斜面128においてそれらが係合することで、ロッドヘッド部86が、板ばね100をナット保持部材84の内壁面に向って押圧した状態で板ばね100と摺接しつつ下方に移動する。その際、板ばね100の下方の部分が、ナット保持部材84に形成されたスリット102から押し出されて、板ばね100がロッドヘッド部86に対して後退するようになっている。
【0046】
そして、アクチュエータ52の長さが設定長を超えた場合に、図7に示すように、板ばね100が、自身の弾性力によって、ねじロッド80に向って進出することで、板ばね100とロッドヘッド部86とが互いに係止し合うのである。板ばね100とロッドヘッド部86との係止によってねじロッド80の上方への移動が禁止、つまり、アクチュエータ52の伸長が禁止されることで、電磁モータ66への電力の供給を停止しても、ばね上ばね下間距離が設定長に対応した設定距離に維持されるのである。つまり、アクチュエータ52は、ロッドヘッド部86と1対の板ばね100等とで構成されるストッパ装置、さらに言えば、アクチュエータ52の収縮時に対応した収縮時対応ストッパ装置を備えるものとされている。
【0047】
また、板ばね100とロッドヘッド部86とが互いに係止し合った状態において、ばね上ばね下間距離を上記設定距離から変更する場合には、板ばね100とロッドヘッド部86との係止を解除する必要がある。このような場合には、アクチュエータ力によってアクチュエータ52を強制的に伸長させることで、板ばね100とロッドヘッド部86との係止を解除するのである。詳しく言えば、アクチュエータ力によってアクチュエータ52を強制的に伸長させることで、図8に示すように、ロッドヘッド部86が、板ばね100をナット保持部材84の内壁面に向って押圧した状態で板ばね100と摺接しつつ上方に移動する。その際、板ばね100の下方の部分が、ナット保持部材84に形成されたスリット102から押し出されて、板ばね100がロッドヘッド部86に対して後退することで、板ばね100とロッドヘッド部86との係止が解除させられるのである。
【0048】
また、本アクチュエータ52は設定長を超えて収縮すると、板ばね100とロッドヘッド部86とが互いに係止し合うようになっている。このため、ばね上ばね下間距離を設定距離に維持するつもりが無くても、例えば、ばね上部とばね下部との相対振動等に伴ってアクチュエータが収縮すると、上記ストッパ装置によってばね上ばね下間距離が上記設定距離に維持される場合がある。つまり、アクチュエータ52が収縮した状態で維持され、アクチュエータ52が伸長しなくなってしまう虞がある。上記ストッパ装置においては、上述のように、引掛部材104とナット保持部材84の外壁面との間には、板ばね100の弾性力によって圧縮された状態で変形させられたシリコンゲル106が設けられており、図6に示すように、ロッドヘッド部86によって板ばね100の下方の部分がスリット102から押し出されることで、そのシリコンゲル106が、引掛部材104とナット保持部材84の外壁面との間で、本来の形状に復元する。このため、アクチュエータ52が設定長を超えて収縮しても、板ばね100のねじロッド80に向っての進出が、シリコンゲル106によって遅延する。つまり、シリコンゲル106によって、板ばね100の進出するタイミングが遅れ、さらに、進出速度が低下する。相対振動等に伴うアクチュエータ52の伸長と収縮とは比較的短い時間間隔で繰り返されるものであることから、板ばね100の進出の遅延によって、板ばね100とロッドヘッド部86とが係止し合う前にアクチュエータ52が伸長して、それらの係止が回避されるのである。つまり、ストッパ装置は、板ばね100の進出を遅延させる進出遅延機構を有しており、相対振動等に伴うアクチュエータの収縮時における板ばね100とロッドヘッド部86との係止を回避することが可能となっている。
【0049】
ちなみに、本アクチュエータ52においては、アクチュエータ52を伸長させることで、ナット保持部材84の内壁面の上端部に設けられた板ばね108とロッドヘッド部86とを互いに係止させ合うことで、ばね上ばね下間距離を上記設定距離とは別の距離に維持することが可能とされている。つまり、アクチュエータ52は、ロッドヘッド部86と1対の板ばね108等とで構成されるストッパ装置、つまり、アクチュエータ52の伸長時に対応した伸長時対応ストッパ装置を備えるものとされている。なお、伸長時対応ストッパ装置は、収縮時対応ストッパ装置と同様に作動するものとされている。
【0050】
なお、収縮時対応ストッパ装置、若しくは、伸長時対応ストッパ装置によってばね上ばね下間距離を維持する場合は、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対移動が禁止されていることから、コイルスプリング50がばねとして機能しない状態となる。このことから、収縮時対応ストッパ装置、若しくは、伸長時対応ストッパ装置によるばね上ばね下間距離の維持は、車両が停止している際にのみ実行される。
【0051】
<車両用サスペンションシステムの制御>
i)姿勢変化抑制制御
本サスペンションシステム10では、各アクチュエータ52が発生させるアクチュエータ力をそれぞれ独立して制御することによって、車体の姿勢変化を抑制する姿勢変化抑制制御が実行可能とされている。詳しく言えば、各サスペンション装置20ごとのばね上振動を減衰するための制御(以下、「振動減衰制御」という場合がある),車体のロールを抑制する制御(以下「ロール抑制制御」という場合がある),車体のピッチを抑制する制御(以下、「ピッチ抑制制御」という場合がある)が実行可能とされている。振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御は、アクチュエータ力を、それぞれ、減衰力,ロール抑制力,ピッチ抑制力として作用させることによって実行される。詳しく言えば、振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御の各制御ごとのアクチュエータ力である減衰アクチュエータ力成分(減衰成分),ロール抑制アクチュエータ力成分(ロール抑制成分),ピッチ抑制アクチュエータ力成分(ピッチ抑制成分)を合計した目標アクチュエータ力を決定し、アクチュエータ52が、その目標アクチュエータ力を発生させるように制御されることで一元的に実行される。
【0052】
振動減衰制御では、アクチュエータ力を、ばね上絶対速度に応じた大きさの減衰力として発生させており、いわゆるスカイフックダンパ理論に基づいた制御が実行される。具体的には、ばね上絶対速度に応じた大きさのアクチュエータ力を発生させるべく、車体のマウント部54に設けられたばね上縦加速度センサ148によって検出されるばね上縦加速度Guに基づき、ばね上絶対速度Vuが計算され、次式に従って、減衰成分FGが演算される。
G=Cs・Vu (Cs:スカイフック理論に基づく減衰係数)
【0053】
ロール抑制制御では、車両の旋回時において、その旋回に起因するロールモーメントに応じて、旋回内輪側のアクチュエータ52にバウンド方向のアクチュエータ力を、旋回外輪側のアクチュエータ52にリバウンド方向のアクチュエータ力を、それぞれ、ロール抑制力として発生させる。具体的に言えば、まず、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度として、ステアリングホイールの操舵角δと車両走行速度vに基づいて推定された推定横加速度Gycと、実測された実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定され、
Gy*=KA・Gyc+KB・Gyr (KA,KB:ゲイン)
そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール抑制成分FRが決定される。ECU130内には制御横加速度Gy*をパラメータとするロール抑制成分FRのマップデータが格納されており、そのマップデータを参照して、ロール抑制成分FRが決定される。
【0054】
ピッチ抑制制御では、車体の制動時に発生する車体のノーズダイブに対しては、そのノーズダイブを生じさせるピッチモーメントに応じて、前輪側のアクチュエータ52にリバウンド方向のアクチュエータ力を、後輪側のアクチュエータ52にバウンド方向のアクチュエータ力をそれぞれピッチ抑制力として発生させる。また、車体の加速時に発生する車体のスクワットに対しては、そのスクワットを生じさせるピッチモーメントに応じて、後輪側のアクチュエータ52にリバウンド方向のアクチュエータ力を、前輪側のアクチュエータ52にバウンド方向のアクチュエータ力をピッチ抑制力として発生させる。具体的には、車体が受けるピッチモーメントを指標する前後加速度として、実測された前後加速度Gzgが採用され、その実前後加速度Gzgに基づいて、ピッチ抑制成分FPが、次式に従って決定される。
P=KC・Gzg (KC:ゲイン)
【0055】
上述のように減衰成分FG,ロール抑制成分FR,ピッチ抑制成分FPが決定されると、振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御を一元化すべく、次式に従って目標アクチュエータ力Fが決定される。
F=FG+FR+FP
そして、この決定された目標アクチュエータ力Fを発生させるように電磁モータ66が制御される。
【0056】
上記目標アクチュエータ力Fを発生させるための電磁モータ66の作動制御は、インバータ136によって行われる。詳しく言えば、決定された目標アクチュエータ力Fに基づいて、モータ力の発生方向およびモータ力の大きさに応じたデューティ比についての指令が、インバータ136に発令される。インバータ136は、自身が備えるスイッチング素子をその指令に基づいて切り換えることで、電磁モータ66を駆動し、電磁モータ66は、その発令されたモータ力方向、および、デューティ比に応じた大きさのアクチュエータ力を発生させるのである。
【0057】
ii)車高変更制御
さらに、本システム10では、各アクチュエータ52が発生させるアクチュエータ力をそれぞれ独立して制御することによって、車高を変更する車高変更制御が実行可能とされている。本システム10における車高変更制御は、乗員の車両への乗降の容易性を考慮したものであり、乗降時の車高として通常の車高より低い車高である「乗降時車高」が設定されている。車高変更制御においては、車両の停止時にのみ、車高が「通常車高」と「乗降時車高」と間で変更されるのである。
【0058】
具体的に言えば、本システム10が配備されている車両は、電子キーを採用しており、車両に設けられたセンサ(図示省略)は、その電子キーが車両から所定範囲内に存在する場合にその電子キーを検知可能とされている。運転者の乗降や荷物の積み降ろしを容易にするために、電子キーを携帯しているものがセンサで検知できる範囲内に入った場合に車高を「乗降時車高」に変更し、そして、イグニッションスイッチがONとされた場合に車高を「通常車高」に変更する。また、イグニッションスイッチがOFFとされた場合に、車高を「乗降時車高」に変更し、電子キーを携帯しているものがセンサで検知できる範囲外に移動した場合に車高を「通常車高」に変更する。
【0059】
車高を「乗降時車高」に変更する場合には、アクチュエータ52が上記設定長を超えて収縮するように、電磁モータ66の作動を制御する。詳しく言えば、上記設定長に相当する電磁モータ66のモータ回転角より僅かに大きなモータ回転角が設定されており、実際の電磁モータ66のモータ回転角である実モータ回転角θがその設定モータ回転角θsになるように、電磁モータ66が制御される。電磁モータ66の制御において、電磁モータ66に供給される電力は、実モータ回転角θの設定モータ回転角θsに対する偏差であるモータ回転角偏差Δθ(=θs−θ)に基づいて決定される。詳しく言えば、モータ回転角偏差Δθに基づくフィードバック制御の手法に従って決定される。具体的には、まず、電磁モータ66が備えるモータ回転角センサ78の検出値に基づいて、上記モータ回転角偏差Δθが認定され、次いで、それをパラメータとして、次式に従って、供給電流iが決定される。
i=KP・Δθ+KI・Int(Δθ)
この式は、PI制御則に従う式であり、第1項,第2項は、それぞれ、比例項、積分項を、KP,KIは、それぞれ、比例ゲイン,積分ゲインを意味する。また、Int(Δθ)は、モータ回転角偏差Δθの積分値に相当する。
【0060】
ちなみに、電磁モータ66の作動制御にあたっては、上記供給電流iに基づいて、モータ力の発生方向およびモータ力の大きさに応じたデューティ比についての指令が、ECU130によってインバータ136に発令される。インバータ136は、自身が備えるスイッチング素子を指令に基づいて切り換えることで、電磁モータ66を駆動し、電磁モータ66は、その発令されたモータ力方向、および、デューティ比に応じた大きさのアクチュエータ力を発生させるのである。そして、ストロークセンサ150によって検出される実際のばね上ばね下間距離が上記設定長に対応する設定距離を僅かに越えた距離に変更した後に、電磁モータ66の作動を停止するのである。このように電磁モータ66の作動を制御することで、車高を「乗降時車高」に変更するとともに、板ばね100とロッドヘッド部86とを係止させて、車高を「乗降時車高」に維持するのである。
【0061】
また、車高を「乗降時車高」から「通常車高」に変更する場合には、板ばね100とロッドヘッド部86との係止状態においてアクチュエータ52を強制的に伸長可能に設定された力である設定力FSをアクチュエータ52によって発生させることで、板ばね100とロッドヘッド部86との係止を解除して、車高を「通常車高」に変更する。
【0062】
ちなみに、本システム10では、車高変更制御における「乗降時車高」は「通常車高」より低く設定されているが、本システム10が搭載される車両によっては、「乗降時車高」を「通常車高」より高く設定することも可能である。具体的に言えば、例えば、スポーツカー等は通常の車高が比較的低くされていることから、そのような車両においては、通常の車高より高い車高の方が乗降しやすいからである。このように、「乗降時車高」が「通常車高」より高く設定される場合には、アクチュエータ52を伸長させることで、ナット保持部材84の内壁面の上端部に設けられた板ばね108とロッドヘッド部86とを互いに係止させ合うように、電磁モータ66の作動が制御される。
【0063】
なお、上述のように、アクチュエータ力を車体の姿勢変化を抑制する力として作用させている場合には、ストッパ装置が上記進出遅延機構を備えていても、板ばね100,108とロッドヘッド部86とが互いに係止し合う場合がある。このような場合には、板ばね100,108とロッドヘッド部86との係止を解除するとともに、振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御を一元的に実行するべく、次式に従って目標アクチュエータ力Fが決定される。
F=FG+FR+FP+FS
このように、アクチュエータ力を発生させることで、姿勢変化抑制制御実行時に板ばね100,108とロッドヘッド部86とが互いに係止し合っても、アクチュエータ52を伸縮させて車体の姿勢変化を抑制することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】請求可能発明の車両用電磁式アクチュエータを備えた車両用サスペンションシステムを概念的に示す図である。
【図2】図1の車両用サスペンションシステムの備えるサスペンション装置を示す模式図である。
【図3】サスペンション装置の備える電磁式アクチュエータを示す概略断面図である。
【図4】電磁式アクチュエータの備えるストッパ装置を示す拡大断面図である。
【図5】図3に示すAA’線における断面図である。
【図6】図4に示す状態からねじロッドが下方に移動した状態を示す図である。
【図7】図6に示す状態からねじロッドがさらに下方に移動しねじロッドと板ばねとが互いに係止し合った状態を示す図である。
【図8】図7に示す状態からねじロッドが上方に移動しねじロッドと板ばねとの係止が解除された状態を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
36:第2ロアアーム(ばね下部) 52:車両用電磁式アクチュエータ 54:マウント部(ばね上部) 60:下部チューブ(ばね下部側ユニット) 62:上部チューブ(ばね上部側ユニット) 66:電磁モータ 68:モータケース(ばね上部側ユニット) 80:ねじロッド(ねじ機構)(ばね上部側ユニット) 82:ナット(ねじ機構) 84ナット保持部材(ナット保持部)(ばね下部側ユニット) 86:ロッドヘッド部(第2係合部)(ストッパ装置) 100:板ばね(第1係合部)(収縮時対応ストッパ装置) 106:シリコンゲル(進出遅延機構) 108:板ばね(第1係合部)(伸長時対応ストッパ装置) 128:傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばね上部に連結されるばね上部側ユニットとばね下部に連結されるばね下部側ユニットとを有し、ばね上部とばね下部との接近離間に伴ってそれらばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとが相対移動することで、その接近離間に伴う伸長収縮が可能に構成され、かつ、電磁モータを有し、その電磁モータの力に依拠して伸長収縮するように構成された車両用電磁式アクチュエータであって、
当該車両用電磁式アクチュエータが、
(a)前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの一方に、前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの他方に対しての進出後退が許容された状態で設けられ、その他方に向って弾性力によって付勢された第1係合部と、(b)前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に設けられ、当該車両用電磁式アクチュエータの伸長と収縮との一方の際に前記第1係合部と係合する第2係合部とを有し、前記弾性力によって前記第1係合部が前記第2係合部を押圧する状態でのそれら第1係合部と第2係合部との摺接を許容するとともに、前記伸長と収縮との一方が設定長を超えて行われた場合において、その設定長を超える前よりも大きな前記第1係合部の進出を許容する構造とされ、その進出が許容されることで、前記第1係合部と前記第2係合部とが互いに係止し合って、当該車両用電磁式アクチュエータの前記設定長を超えた伸長と収縮との他方を禁止するストッパ装置を備えた車両用電磁式アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1係合部と前記第2係合部との一方が、前記伸長と収縮との一方の際に前記第1係合部と前記第2係合部との他方と係合する傾斜面を有し、
前記ストッパ装置が、
前記伸長と収縮との一方の際に、前記弾性力によって前記第1係合部が前記第2係合部を押圧する状態での前記傾斜面における前記第1係合部と第2係合部との摺接を許容するとともに、前記傾斜面において前記第1係合部と前記第2係合部とが摺接することで前記第1係合部の後退を許容し、かつ、
前記伸長と収縮との一方が設定長を超えて行われた場合において、前記傾斜面における前記第1係合部と第2係合部との摺接が解除されて、前記設定長を超える前よりも大きな前記第1係合部の進出を許容する構造とされた請求項1に記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【請求項3】
当該車両用電磁式アクチュエータが、
当該車両用電磁式アクチュエータの伸長と収縮とのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが前記ストッパ装置である伸長時対応ストッパ装置と収縮時対応ストッパ装置との少なくとも一方を備えた請求項1または請求項2に記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【請求項4】
前記ストッパ装置が、当該車両用電磁式アクチュエータの前記伸長と収縮との他方を禁止している状態であっても、設定力を超える力の作用によってその伸長と収縮との他方が強制された場合には、その伸長と収縮との他方を許容する構造とされた請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【請求項5】
前記ストッパ装置が、前記伸長と収縮との一方が設定長を超えて行われた場合の前記第1係合部の進出を遅延させる進出遅延機構を有する請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【請求項6】
当該車両用電磁式アクチュエータが、
一端部が前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方に設けられて外周面に雄ねじが形成されたねじロッドと、前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方に設けられて前記ねじロッドと螺合するナットとを有し、ばね上部とばね下部との接近離間に伴って、前記ねじロッドと前記ナットとの一方が回転するとともに前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの一方と前記ねじロッドとが相対移動する構造とされたねじ機構を備え、
前記電磁モータが前記ねじロッドとナットとの一方の回転に対して力を発生させることで、当該車両用電磁式アクチュエータが伸長収縮するように構成され、
前記ねじロッドが、前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方を構成するものとされ、
前記第2係合部が、前記ねじロッドに設けられた請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【請求項7】
前記ばね上部側ユニットと前記ばね下部側ユニットとの一方が、
一端部において前記ナットを保持するとともに、前記ねじロッドの他端部を挿入する筒状のナット保持部を有し、
前記第1係合部が、前記ナット保持部の内壁面に設けられた請求項6に記載の車両用電磁式アクチュエータ。
【請求項8】
当該車両用電磁式アクチュエータが、
前記ねじロッドが前記ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの他方としての前記ばね上部側ユニットに回転可能に保持されるとともに、前記電磁モータが前記ねじロッドの回転に対して力を発生させる構造とされた請求項6または請求項7に記載の車両用電磁式アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−137333(P2009−137333A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313082(P2007−313082)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】