説明

酸化亜鉛系基板及び酸化亜鉛系基板の製造方法

【課題】成長させた酸化亜鉛系半導体の不純物濃度を低減できる酸化亜鉛系基板を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛系基板2は、IV族元素であるSi、C、Ge、Sn及びPbの不純物濃度が、1×1017cm−3以下の条件を満たす。より好ましくは、酸化亜鉛系基板2は、I族元素であるLi、Na、K、Rb及びFrの不純物濃度が、1×1016cm−3以下の条件を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛系半導体を成長させるための酸化亜鉛系基板及びその基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
簡単な組成を持ち、安価であり、直接遷移のワイドギャップを有する酸化亜鉛系半導体が注目されている。このような酸化亜鉛系半導体は、TFT、表面弾性波デバイス、発光ダイオード及びレーザ等に採用されている。更に、非特許文献1及び非特許文献2に記載のように、酸化亜鉛系半導体による発光が確認されてからは、研究がより盛んになっている。
【0003】
ここで、酸化亜鉛系半導体は、様々な元素と化合物を形成でき、非常に化学活性の高い元素である酸素を有する。そのため、酸化亜鉛系半導体を製造する際に、LiやSi等の不純物濃度のコントロールが非常に難しいといった問題があった。特に、酸化亜鉛系半導体は、非常にn型になりやすい性質を有する。このため、意図しない不純物が電子供給体となって、p型化を困難にしたり、深い準位を作って、キャリア移動度を減少させたり、エピタキシャル成長中に拡散したりといった問題を誘発する。
【0004】
特に、酸化亜鉛系基板は、不純物濃度のコントロールが困難な水熱合成法により製造されることが多い。このため、酸化亜鉛系基板の不純物濃度が高くなり、必然的に成長させた酸化亜鉛系半導体層の不純物濃度が高くなるといった問題があった。特に、水熱合成法では、LiOH水溶液等に酸化亜鉛系材料を溶解させて酸化亜鉛系基板を製造するため、溶媒に含まれるLi等の不純物濃度が高くなることが知られている。
【0005】
そこで、酸化亜鉛系基板内の不純物濃度を低減することにより、酸化亜鉛系半導体の不純物濃度をコントロールする技術が知られている。
【0006】
特許文献1には、Li濃度(不純物濃度)が4×1016cm−3の酸化亜鉛基板に酸化亜鉛系半導体を成長させることによって、酸化亜鉛系半導体のLi濃度を低減することが可能な酸化亜鉛系半導体の製造方法が開示されている。しかしながら、本願の発明者が実験したところ、特許文献1に開示されているLi濃度の酸化亜鉛基板に酸化亜鉛系半導体を成長させた場合、Li濃度が充分に低減できないことがわかった。具体的には、Li濃度が約2×1016cm−3の酸化亜鉛基板に酸化亜鉛系半導体を成長させた場合、酸化亜鉛基板を加熱することによりLiが表面に移動して、成長させた酸化亜鉛系半導体中に拡散する。このため、成長させた酸化亜鉛系半導体層が5×1016cm−3〜1×1017cm−3のLi濃度を有し、充分に不純物濃度を低減できていないことが判明した。
【0007】
そこで、特許文献2には、Li濃度が1×1016cm−3以下の酸化亜鉛単結晶の製造方法が開示されている。これにより、特許文献2の技術により製造された酸化亜鉛単結晶上に成長させた酸化亜鉛系半導体層のLi濃度を低減できることが推測できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−1787号公報
【特許文献2】特開2007−204324号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.Tsukazaki et al., Japanese Journal of Applied Physics, Vol44, No21, (2005), pp.L643-L645.
【非特許文献2】A.Tsukazaki et al., Nature Materials, Vol4, (2005) p42.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、酸化亜鉛系半導体にはLi以外の色々な不純物も含まれ、デバイス動作等に影響を与える。即ち、酸化亜鉛系基板内のLi濃度を低減するだけでは、成長させる酸化亜鉛系半導体内の不純物濃度を十分に低減できないといった課題がある。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、成長させた酸化亜鉛系半導体の不純物濃度を低減できる酸化亜鉛系基板及び酸化亜鉛系基板の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、IV族元素であるSi、C、Ge、Sn及びPbの不純物濃度が、1×1017cm−3以下であることを特徴とする酸化亜鉛系基板である。尚、酸化亜鉛系とは、ZnO及びMgZnOを含む概念である。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、I族元素であるLi、Na、K、Rb及びFrの不純物濃度が、1×1016cm−3以下であり、且つ、IV族元素であるSi、C、Ge、Sn及びPbの不純物濃度が、1×1017cm−3以下であることを特徴とする酸化亜鉛系基板である。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、前記I族元素は、Liであって、前記IV族元素は、Siであることを特徴とする請求項2に記載の酸化亜鉛系基板である。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、MgZn1−XO(0≦X≦0.5)からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の酸化亜鉛系基板である。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、Siの重量比が100ppm以下である酸化亜鉛系材料を用いた水熱合成法により酸化亜鉛系半導体からなるインゴットを作製する工程を備えたことを特徴とする酸化亜鉛系基板の製造方法である。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、酸化亜鉛系基板を1300℃以上で熱処理する工程を備えたことを特徴とする請求項5に記載の酸化亜鉛系基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Si等の不純物濃度の低い酸化亜鉛系基板を採用することによって、意図しない不純物が成長させた酸化亜鉛系半導体層にドープされることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態による酸化亜鉛系半導体素子の断面図を示す。
【図2】六方晶構造のユニットセルを示す模式図である。
【図3】MBE装置の概略の全体図である。
【図4】界面のSiの不純物濃度と膜中のSiの不純物濃度との関係を調べた実験の結果を示す図である。
【図5】第1実施例による酸化亜鉛基板に成長させた酸化亜鉛系半導体層の不純物濃度を調べた実験の結果を示す図である。
【図6】酸化亜鉛基板を加熱することによりLiの主面への偏析について行った実験の結果を示す図である。
【図7】酸化亜鉛基板の表面近傍に偏析したLiの酸化亜鉛系半導体層内への拡散について調べた実験の結果を示す図である。
【図8】第2実施例による酸化亜鉛基板に成長させた酸化亜鉛系半導体層の不純物濃度を調べた実験の結果を示す図である。
【図9】第1比較例による酸化亜鉛基板に成長させた酸化亜鉛系半導体層の不純物濃度を調べた実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態による酸化亜鉛系半導体素子の断面図を示す。尚、酸化亜鉛系とは、ZnO及びMgZnOを含む概念である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態による酸化亜鉛系半導体素子1は、酸化亜鉛系基板2と、酸化亜鉛系半導体層3とを備えている。酸化亜鉛系半導体層3には、ZnO半導体層5、MgZnO半導体層6及びZnO半導体層7が順にエピタキシャル成長されている。
【0022】
酸化亜鉛系基板2は、酸化亜鉛系半導体層3をエピタキシャル成長させるためのものである。酸化亜鉛系基板2は、MgZn1−XOからなる。ここで、Xは、0≦X<1、好ましくは、0≦X≦0.5である。X=0の場合は、Mgが含まれていないことを意味する。また、Xが大きすぎると、結晶構造が変わるため、Xは0.5以下が好ましい。
【0023】
酸化亜鉛系基板2は、Li等のI族元素の不純物濃度が1×1016cm−3以下である。尚、他のI族元素として、Na、K、Rb、Frを上げることができる。また、酸化亜鉛系基板2は、Si等のIV族元素の不純物濃度が1×1017cm−3以下である。尚、他のIV族元素として、C、Ge、Sn、Pbを上げることができる。酸化亜鉛系基板2の主面9は、略c面となるように構成されている。
【0024】
次に、上述した酸化亜鉛系基板2を構成するウルツァイトと呼ばれる六方晶構造を説明する。図2は、六方晶構造のユニットセルを示す模式図である。
【0025】
図2に示すように、六方晶構造は、六角柱形状である。六角柱の中心軸をc軸[0001]とし、c軸に垂直で且つ平面視にて六角形の隣接しない頂点を通る方向にa軸[1000]、a軸[0100]、a軸[0010]とする。ミラー指数を用いると+c面を(0001)、−c面を(000−1)と表すことができる。更に、ミラー指数を用いて、六角柱の側面であるm面を(10−10)と表示し、隣り合わない一対の稜線を通る面であるa面を(11−20)と表示し、それぞれの法線ベクトルをm軸及びa軸とする。六角形状の+c面の各頂点及び中心には、MgまたはZnのII族原子が配置されるとともに、−c面の各頂点及び中心には、酸素原子が配置される。
【0026】
次に、酸化亜鉛系基板2上に酸化亜鉛系半導体層3を製造するためのMBE装置11について、図3を参照して説明する。図3は、MBE装置の概略の全体図である。
【0027】
図3に示すように、MBE装置11は、複数のセル12〜15と、基板ホルダー16と、ヒータ17と、チャンバ18と、温度測定装置(サーモグラフィー)19と、真空ポンプ(図示略)とを備えている。
【0028】
クヌーセンセル12は、マグネシウムの金属単体を分子線にして供給するためのものである。クヌーセンセル12は、高純度(例えば、6N:99.9999%)のマグネシウムの金属単体を保持するためのPBN製の坩堝21と、坩堝21を加熱するヒータ22と、シャッター30とを備えている。
【0029】
クヌーセンセル13は、亜鉛の金属単体を分子線にして供給するためのものである。クヌーセンセル13は、高純度(例えば、7N:99.99999%)の亜鉛の金属単体を保持するためのPBN製の坩堝23と、坩堝23を加熱するヒータ24と、シャッター36とを備えている。
【0030】
ラジカルセル14は、酸素ラジカルを供給するためのものである。ラジカルセル14は、RFプラズマを発生させて酸素を酸素ラジカルとするためのコイル25と、基板ホルダー16側の一部が開口された石英からなる放電管26と、不要なイオンをトラップするための並行電極27と、酸素ラジカルを供給及び遮断するためのシャッター28とを備えている。尚、ラジカルセル14には、酸素源ガスを供給するための酸素源29が接続されている。ここで酸素源ガスには、Oガス、Oガスを適用することができる。尚、Oガスを酸素源ガスとして適用する場合には、プラズマにすることを省略できる。
【0031】
ラジカルセル15は、酸化亜鉛系半導体層3をp型化するための窒素ラジカルを供給するためのものである。ラジカルセル15は、コイル31と、放電管32と、並行電極33と、シャッター34とを備えている。尚、各構成31〜34は、ラジカルセル14の構成25〜28と略同じであるので説明を省略する。また、ラジカルセル15には、窒素ガスを供給するための窒素源35が接続されている。ここでいう窒素源ガスには、Nガス、NOガス、NOガス、NOガス、またはNHを単独で出すことを適用することができる。
【0032】
基板ホルダー16は、酸化亜鉛系基板2を保持するためのものである。基板ホルダー16は、回転可能にチャンバ18内の中央部に支持されている。ヒータ17は、酸化亜鉛系基板2を加熱するためのものであり、酸化を防ぐためにSiCコートされたカーボンヒータからなる。温度測定装置19は、チャンバ18の窓18aを介して酸化亜鉛系基板2から放射される赤外線によって酸化亜鉛系基板2の温度を測定するものである。温度測定装置19は、パイロメータまたはサーモビューアからなる。窓18aを構成する材料は、サーモビューアの場合、8μm〜14μmの波長の光を透過可能なBaF製のものを適用する必要がある。温度測定装置19により正確な温度を測定するために、酸化亜鉛系基板2の裏面(主面9と反対側の面)には、基板ホルダー16またはヒータ17からの赤外線を遮蔽するために赤外線遮蔽膜37が設けられる。一例として、赤外線遮蔽膜37には、約10nmの厚みのチタン(Ti)層と約100nmの厚みの白金(Pt)層とが積層されている。
【0033】
次に、上述した本実施形態による酸化亜鉛系半導体素子1の製造方法について説明する。
【0034】
まず、ZnOまたはMgZnOからなる酸化亜鉛材料をLiOH及びKOHを含む水溶液に溶解させ、水熱合成法により酸化亜鉛系材料からなるインゴットを製造する。ここで用いられる酸化亜鉛系材料は、酸化亜鉛系基板内のSi濃度を1×1017cm−3にするためには、Siの重量比が100ppm以下であることが好ましい。次に、インゴットを所望の厚みにスライスして酸化亜鉛系基板を作製する。ここで、酸化亜鉛系基板の厚みは、特に限定されるものではないが、後述する熱処理によるI族元素の不純物の排出を容易にするためには、約300μm〜約500μmの厚みが好ましい。
【0035】
その後、1300℃以上の温度で、酸化亜鉛系基板を熱処理することにより、I族元素の不純物濃度が上述した条件を満たすまで、当該元素を酸化亜鉛系基板から排出させる。ここで熱処理の温度は、1300℃以上であればよいが、ZnOまたはMgZnOの昇華温度(約1600℃)以下であることも必要である。最後に、主面9が略c面となるようにCMP(化学的機械的研磨)法を行うことによって、酸化亜鉛系基板2が完成する。
【0036】
次に、上述した酸化亜鉛系基板2の+c面を塩酸でエッチングした後、純水洗浄及びドライ窒素で乾燥する。その後、基板ホルダー16に赤外線遮蔽膜37とともに取り付けられた酸化亜鉛系基板2を、ロードロック(図示略)を通じてMBE装置11のチャンバ18内に導入する。
【0037】
次に、チャンバ18内を約1×10−7Paになるまで排気して真空とする。その後、真空を保った状態で、酸化亜鉛系基板2を約900℃で約30分間加熱する。酸化亜鉛系基板2の温度は、パイロメータの場合はε=0.18、サーモビューアの場合はε=0.71で測定したものである(以下、同様)。
【0038】
次に、酸化亜鉛系基板2の温度を所望の温度に下げる。ここで、所望の温度とは、n型不純物が酸化亜鉛系半導体層3に含まれることを抑制するために、酸化亜鉛系基板2の主面9及び酸化亜鉛系半導体層3の成長面を平坦に保つために必要な温度のことである。例えば、Yが約0.2のMgZn1−YO系半導体層を成長させる場合には、約800℃以上に酸化亜鉛系基板2の温度を設定する。尚、Y≦0.2の場合は、800℃以下、好ましくは、750℃以上に酸化亜鉛系基板2の温度を設定し、Y>0.2の場合には酸化亜鉛系基板2の温度を800℃以上に設定することが好ましい。
【0039】
次に、クヌーセンセル12を約300℃〜約400℃に加熱して、マグネシウムの金属単体を昇華させてマグネシウムの分子線を酸化亜鉛系基板2の+c面に供給する。また、クヌーセンセル13を約260℃〜約280℃に加熱して、亜鉛の金属単体を昇華させて亜鉛の分子線を酸化亜鉛系基板2に供給する。また、ラジカルセル14、15にRFプラズマを発生させる。RFプラズマにより酸素源ガス及び窒素源ガスをスパッタリングして酸素ラジカル及び窒素ラジカルを生成する。そして、供給量を調整しつつ酸素ラジカル及び窒素ラジカルを酸化亜鉛系基板2に供給する。
【0040】
ここで、酸化亜鉛系半導体層3は、価電子帯が真空準位から約7.5eVという非常に深い所に位置しており、これは、価電子帯にホールをつくるのに大きなエネルギーがいることを意味するので、価電子帯にホールが形成されることは結晶を不安定化させるため、ホールを補償するドナーが形成される自己補償効果が非常に強い。尚、自己補償効果は、アクセプタとなるp型不純物が含まれることによる点欠陥の誘発がその起源であることが多い。このような自己補償効果が強い酸化亜鉛系半導体層3を、石英からなる放電管26、32内でRFプラズマを発生させるMBE装置11により形成する場合、シリコン、アルミニウム及びボロン等のn型不純物が放電管26、32から飛来して取り込まれやすい。しかし、本実施形態では、上述したように酸化亜鉛系基板2の温度を設定することにより、酸化亜鉛系半導体層3の成長面の平坦性を保ち、n型不純物が取り込まれることを抑制することができる。尚、成長面を平坦にすることによりn型不純物が取り込まれ難くなる理由は明らかではないが、窒素が+c面で取り込まれやすいことを考慮すると、本発明で主に使用している+c面はカチオンを排除する機構(例えば、+に帯電するように分極電荷が存在していること)があると思われる。
【0041】
また、酸化亜鉛系半導体層3を成長させる前に、酸化亜鉛系基板2を熱処理してLi等の不純物濃度を低減しているので、酸化亜鉛系半導体層3内にLi等の不純物が拡散することを抑制できる。この結果、酸化亜鉛系半導体層3内の意図しない不純物濃度を低減できる。
【0042】
そして、所望の厚みとなるまで上述の原料を所定の時間供給することによって、上述したLi等の不純物濃度が抑制された酸化亜鉛系半導体層3を形成する。これにより酸化亜鉛系半導体素子1が完成する。
【0043】
上述したように、本実施形態では、酸化亜鉛系基板2のIV族元素の不純物濃度を1×10−17cm−3以下にすることによって、成長させた酸化亜鉛系半導体層3内のIV族元素の不純物濃度を低減することができる。また、酸化亜鉛系基板2のI族元素による不純物濃度を1×1016cm−3以下にすることによって、成長させた酸化亜鉛系半導体層3内のI族元素による不純物濃度を低減することができる。
【0044】
これらの結果、酸化亜鉛系半導体層3を所望の不純物濃度にすることが容易になり、特に困難であった酸化亜鉛系半導体層3のp型化を容易に実現できる。
【0045】
(界面と膜中のSiの不純物濃度に関する実験)
酸化亜鉛系半導体の界面のSiの不純物濃度と膜中のSiの不純物濃度との関係を調べた実験について説明する。
【0046】
本実験では、酸化亜鉛系半導体の界面のSiの不純物濃度と、酸化亜鉛系半導体の膜中のSiの不純物濃度をSIMS法により測定した。その結果を図4に示す。図4において、横軸は界面のSiの不純物濃度(単位:cm−3)を示し、縦軸は膜中のSiの不純物濃度(単位:cm−3)を示す。図4に示すように、界面のSiの不純物濃度が高いと、膜中のSiの不純物濃度が高くなることがわかる。このことより、界面のSiが膜中へと拡散していることがわかる。従って、酸化亜鉛系基板のSiの不純物濃度を低減することにより、酸化亜鉛系半導体層へのSiの拡散を抑制して、Siの不純物濃度を低減することができることがわかる。
【0047】
(酸化亜鉛系基板内のSiの不純物濃度に関する実験)
次に、酸化亜鉛系基板内のSi濃度と、酸化亜鉛系基板上に成長させた酸化亜鉛系半導体層内の不純物濃度との関係を調べた実験について説明する。
【0048】
本実験では、Siの重量比が100ppm以下の酸化亜鉛系材料を用いて水熱合成法によって酸化亜鉛系基板(ZnO基板)を作製した。その酸化亜鉛系基板上にMBE装置により酸化亜鉛系半導体層をエピタキシャル成長させて試料(以下、第1実施例)を作製した。成長させた酸化亜鉛系半導体層は、基板側からMgZnO半導体層、ZnO半導体層が順に積層された構造を有する。そして、第1実施例のSi濃度、B濃度及びMgOの二次イオン強度をSIMS法により調べた。第1実施例の実験結果を図5に示す。図5において、左側の縦軸はSi及びBの濃度(単位:cm−3)を示し、右側の縦軸はMgOの二次イオン濃度(単位:counts/sec)を示し、横軸は表面からの深さを示す。尚、MgO二次イオン強度が大きくなっている領域が、成長させた酸化亜鉛系半導体層のMgZnO半導体層に相当する。
【0049】
図5より、第1実施例による酸化亜鉛系基板内のSi濃度が1×1017cm−3以下であることがわかる。そして、酸化亜鉛系基板上に酸化亜鉛系半導体層内のSi濃度も略1×1017cm−3以下であることがわかる。このことから、酸化亜鉛系基板内のSi濃度を1×1017cm−3以下にすることによって、酸化亜鉛系半導体層へのSiの拡散を抑制して、Si濃度を1×1017cm−3以下にすることができることがわかる。これらの結果から、他のIV族元素であるC、Ge、Sn及びPbによる酸化亜鉛系基板内の不純物濃度も1×1017cm−3以下が必要であることは容易に推測できる。
【0050】
また、本願発明者の他の実験によって、酸化亜鉛系半導体層内のSi濃度が1×1017cm−3以下であれば、酸化亜鉛系半導体層に窒素等のp型不純物をドープすることによりp型化できることがわかっている。更に、このp型化された酸化亜鉛系半導体層を採用することにより、発光可能な酸化亜鉛系半導体素子を実現することができることもわかっている。
【0051】
(Liの偏析に関する実験)
次に、酸化亜鉛系基板を加熱することによりLiの主面(表面)への偏析について行った実験について説明する。本実験は、保護膜を形成し、1000℃で熱処理をした酸化亜鉛系基板(以下、サンプルA)の+c面、保護膜を形成し、1000℃で熱処理をした酸化亜鉛系基板(以下、サンプルB)の−c面、熱処理をしていない酸化亜鉛系基板(以下、サンプルC)の+c面のLi濃度をSIMS法により測定した。結果を図6に示す。図6において、左側の縦軸はLi濃度(単位:cm−3)を示し、横軸は酸化亜鉛系基板の主面からの深さ(単位:μm)を示す。
【0052】
図6に示すように、熱処理をしなかったサンプルCでは、主面のLi濃度にはほとんど変化がなく、偏析が見られないことがわかる。一方、熱処理をしたサンプルA及びサンプルBでは、主面(深さ約0.3μm以下)のLi濃度が高くなっていることがわかる。
【0053】
この実験から酸化亜鉛基板を熱処理することによって、主面にLiを高濃度で偏析させることができることがわかる。更に、Liの沸点近傍またはそれ以上の温度で酸化亜鉛基板を熱処理することにより、酸化亜鉛基板の主面にLiを偏析させるだけでなく、気化させて除去することができると推定できる。
【0054】
(Liの拡散に関する実験)
次に、酸化亜鉛系基板(ZnO基板)の主面近傍に偏析したLiの酸化亜鉛系半導体層内への拡散について調べた実験について説明する。本実験は、約1300℃で熱処理した酸化亜鉛系基板上に、MBE装置によってZnO半導体層、MgZnO半導体層及びZnO半導体層を順に積層したものである。このようにして作製した試料(以下、サンプルD)の各半導体層及び酸化亜鉛系基板内のLi濃度をSIMS法により測定した。結果を図7に示す。図7において、左側の縦軸はLi濃度(単位:cm−3)を示し、横軸は酸化亜鉛系半導体層の表面からの深さ(単位:μm)を示す。尚、約1.15μm以上の深さの領域が酸化亜鉛系基板であり、約1.15μm以下の深さの領域が酸化亜鉛系半導体層である。
【0055】
図7に示すように、サンプルDの酸化亜鉛系基板の主面にはLiが偏析して、Li濃度が高くなっていることがわかる。特に、酸化亜鉛系基板の主面に近い領域のLi濃度が非常に高いこと及び酸化亜鉛系基板の主面から離れるにつれて徐々にLi濃度が低くなっていることがわかる。これらのことを考慮すると、酸化亜鉛系基板の主面に高濃度で偏析したLiが、酸化亜鉛系半導体層内に拡散していることがわかる。
【0056】
これらのことから、酸化亜鉛系基板を不用意に熱処理することは、かえって酸化亜鉛系基板の表面にLiを偏析させて、成長させた酸化亜鉛系半導体層内へ多量のLiの拡散を引き起こすことがわかる。
【0057】
次に、上述した点を踏まえ、本発明による酸化亜鉛系基板の効果を証明するために行った実験について説明する。
【0058】
(酸化亜鉛系基板内のLiの不純物濃度に関する実験)
まず、酸化亜鉛系基板内のLi等の不純物濃度と、酸化亜鉛系基板上に成長させた酸化亜鉛系半導体層内のLi等の不純物濃度との関係を調べた実験について説明する。
【0059】
本実験では、酸化亜鉛系基板(ZnO基板)上にMBE装置により酸化亜鉛系半導体層をエピタキシャル成長させた。そして、酸化亜鉛系基板及び酸化亜鉛系半導体層内のLi濃度、Si濃度、Na濃度、Znの二次イオン強度及びKの二次イオン強度をSIMS法により調べた。本発明による試料を第2実施例とし、比較するための試料を第1比較例として作製した。第2実施例の実験結果を図8に示し、第1比較例の実験結果を図9に示す。図8及び図9において、左側の縦軸はLi、Na及びSiの濃度(単位:cm−3)を示し、右側の縦軸はZn及びKの二次イオン強度(単位:counts/sec)を示し、横軸は表面からの深さ(単位:μm)を示す。尚、図8及び図9において、深さ約0.5μm以上を酸化亜鉛系基板とし、深さ約0.5μm以下を成長させた酸化亜鉛系半導体層とする。
【0060】
図8に示すように、第2実施例による酸化亜鉛系基板は、Li濃度が約1×1015cm−3以下、Na濃度が約3×1014cm−3以下で、その信号強度は底を打っていることが殆どであることからも、SIMSの測定限界であることがわかる。そして、第2実施例による酸化亜鉛系基板上に成長させた酸化亜鉛系半導体層は、Li濃度が約1×1015cm−3以下、Na濃度が約3×1014cm−3以下で、これも基板と同じく、SIMSの測定限界以下であることがわかる。この結果、第2実施例による酸化亜鉛系基板上に成長させた酸化亜鉛系半導体層内のI族元素であるLi及びNaによる不純物濃度を充分に低減できていることがわかる。
【0061】
一方、図9に示すように、第1比較例による酸化亜鉛系基板は、Li濃度が約1×1016cm−3より大きいことがわかる。そして、第1比較例による酸化亜鉛系基板上に成長させた酸化亜鉛系半導体層は、Li濃度が約5×1016cm−3であることがわかる。また、酸化亜鉛系半導体層の表面ほどLi濃度が高くなっていることがわかる。この結果、第1比較例では、酸化亜鉛系基板上に成長させた酸化亜鉛系半導体層内のLi濃度を充分には低減できていないことがわかる。
【0062】
これらのことから、酸化亜鉛系基板内のLi及びNaの不純物濃度が、1×1016cm−3以下が必要であることがわかる。また、この結果から他のI族元素であるK、Rb及びFrによる酸化亜鉛系基板内の不純物濃度も1×1016cm−3以下が必要であることは容易に推測できる。Liはデバイス動作のような電圧がかかる状況では、可動イオンとして膜中を動くことが懸念されるため、もちろんLiは少なければ少ない程望ましく、1×1015cm−3以下、更に望ましくは5×1014cm−3以下がデバイス動作上好ましい。
【0063】
また、図8及び図9に示すように、酸化亜鉛系基板内のSi濃度が1×1017cm−3以上であると、酸化亜鉛系半導体層内のSi濃度も1×1017cm−3以上になることがわかる。この結果、第2実施例による酸化亜鉛系基板のSi濃度では充分に酸化亜鉛系半導体層のSi濃度を抑制できていないことがわかる。
【0064】
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。
【符号の説明】
【0065】
1 酸化亜鉛系半導体素子
2 酸化亜鉛系基板
3 酸化亜鉛系半導体層
3a 表面
5 ZnO半導体層
6 MgZnO半導体層
7 ZnO半導体層
9 主面
9a、9c テラス面
9b、9d ステップ面
11 MBE装置
12、13 クヌーセンセル
14、15 ラジカルセル
16 基板ホルダー
17 ヒータ
18 チャンバ
18a 窓
19 温度測定装置
21、23 坩堝
22、24 ヒータ
25、31 コイル
26、32 放電管
27、33 並行電極
28、30、34、36 シャッター
29 酸素源
35 窒素源
37 赤外線遮蔽膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IV族元素であるSi、C、Ge、Sn及びPbの不純物濃度が、1×1017cm−3以下であることを特徴とする酸化亜鉛系基板。
【請求項2】
I族元素であるLi、Na、K、Rb及びFrの不純物濃度が、1×1016cm−3以下であり、且つ、IV族元素であるSi、C、Ge、Sn及びPbの不純物濃度が、1×1017cm−3以下であることを特徴とする酸化亜鉛系基板。
【請求項3】
前記I族元素は、Liであって、
前記IV族元素は、Siであることを特徴とする請求項2に記載の酸化亜鉛系基板。
【請求項4】
MgZn1−XO(0≦X≦0.5)からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の酸化亜鉛系基板。
【請求項5】
Siの重量比が100ppm以下である酸化亜鉛系材料を用いた水熱合成法により酸化亜鉛系半導体からなるインゴットを作製する工程を備えたことを特徴とする酸化亜鉛系基板の製造方法。
【請求項6】
酸化亜鉛系基板を1300℃以上で熱処理する工程を備えたことを特徴とする請求項5に記載の酸化亜鉛系基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−49448(P2011−49448A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198161(P2009−198161)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000220664)東京電波株式会社 (22)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】