説明

高い交換結合エネルギーを有する交換結合膜、それを用いた磁気抵抗効果ヘッド、磁気センサおよび磁気メモリ、並びにその製造方法

【課題】
積層された反強磁性層と固定層からなる交換結合膜、それを有する磁気抵抗効果ヘッド、磁気センサおよび磁気メモリにおいて、反強磁性層と固定層間の交換結合エネルギーを増大し、固定層の磁化の安定性を高める。
【解決手段】
反強磁性層12と固定層13とが積層され、前記反強磁性層12により前記固定層13の磁化方向が一方向に磁気的に固定されている交換結合膜10、それを有する磁気抵抗効果ヘッド、磁気センサおよび磁気メモリにおいて、前記反強磁性層12をMn-X(X=Ir,Rh,Ru)で構成するとともに、前記固定層13の主成分をCo-Fe-Mnで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反強磁性層と固定層とからなる交換結合膜、それを用いた磁気抵抗効果ヘッド、磁気センサおよび磁気メモリに関するものである。本発明は、特に、高記録密度磁気記録再生装置用磁気抵抗効果ヘッドおよび大容量磁気ランダムアクセスメモリへの応用に適している。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブを主体とする磁気記録装置では年々高記録密度化が進んでおり、再生ヘッドとして用いられる磁気抵抗効果ヘッドの高感度化および小型化が求められている。磁気抵抗効果ヘッドとしては、例えば巨大磁気抵抗効果(Giant Magnetoresistance)型磁気抵抗効果ヘッドやトンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magnetoresistance)型磁気抵抗効果ヘッドがある。これらの磁気抵抗効果ヘッドは、通常外部磁場により自由に磁化の角度を変えられる強磁性自由層(以下、自由層)と、反強磁性層により磁気的に一方向に磁化の角度が固定され外部磁場に対して安定な強磁性固定層(以下、固定層)とで構成される。このような構成はスピンバルブ構造と呼ばれている。そして、反強磁性層と固定層の間に働くエネルギーは交換結合エネルギー(Jk)で表される。
【0003】
ところで、スピンバルブ型磁気抵抗効果ヘッド(以下、スピンバルブ膜)では、磁気的に固定された固定層と外部磁場により応答する自由層との磁化の相対角の差により抵抗が変わることで情報を読み出している。すなわち、固定層が外部磁場に対して十分に強固に固定されていない場合、相対磁化角度のずれによる出力の不安定性や固定層起因のノイズの増大が生じ、記録ビット情報の読出しエラーを引き起こす原因となってしまう。さらに、記録密度向上により磁気抵抗効果ヘッドは小型化することになり、これに伴う熱揺らぎの増大に対して、固定層の磁気的な安定性確保、すなわち交換結合エネルギーの増大が重要な課題となっている。また、スピンバルブ型の磁気抵抗効果を利用した角度センサなどの磁気センサや磁気メモリについても同様に高い固定層の安定性と固定力が求められている。
【0004】
また、反強磁性層および固定層に求められる別な課題として、その膜厚を減少させることが挙げられる。これは、磁気抵抗効果ヘッドとしてはより狭い磁気ギャップ内に配置可能にして高い分解能を実現するためである。また、磁気センサとしては感知電流の分流を減らしてセンサの出力を高めるためである。しかしながら、一般に反強磁性層は一定の臨界膜厚以下では膜厚の減少に伴い交換結合エネルギーが極端に減少してしまう。従って、反強磁性層においては、薄い膜厚でも交換結合エネルギーを向上することが求められている。
【0005】
固定層の交換結合エネルギーを増大する方法としては、反強磁性層と固定層の界面に薄い界面層を挿入することが報告されている。例えば特許文献1には反強磁性層と体心立方格子を有する固定層との間に薄い面心立方構造を有する強磁性層を挿入する構造が記載されている。また、特許文献2にはMnを挿入する構造が記載されている。また、特許文献3には薄いアモルファス層を挿入する方法が記載されている。
【0006】
また、加熱プロセスにより交換結合エネルギーを増大する方法も報告されている。例えば特許文献4および5では、反強磁性層を加熱しながら成膜するプロセスにより反強磁性層の結晶構造を規則化することができ、交換結合エネルギーを増大できることが開示されている。特許文献6および7には固定層中に拡散防止層を形成することで、交換結合エネルギーの劣化なくMnの拡散を抑えられることが記載されている。また、非特許文献1には、250℃での約100時間の長時間ポストアニールにより交換結合エネルギーを増大できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-103806号公報
【特許文献2】特開2008-192632号公報
【特許文献3】特開2009-4784号公報
【特許文献4】特開2002-198585号公報
【特許文献5】特開2005-333106号公報
【特許文献6】特開2006-147947号公報
【特許文献7】特開2009-170926号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Applied Physics Letters vol.84,No.25,5222(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術においては、交換結合エネルギーの増大は十分とはいえない。本発明は上記事情を鑑みて、高い交換結合力と安定性を有した交換結合膜を提供することを目的とする。また、量産可能な熱処理時間で高い交換結合力と安定性を有した交換結合膜を搭載した磁気抵抗効果ヘッドを実現し、高い安定性と低ノイズを実現した磁気抵抗効果ヘッドを提供することを目的としている。さらに、高い交換結合力と安定性を有した交換結合膜を搭載した磁気センサあるいは磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の交換結合膜は、反強磁性層と固定層とが積層され、前記反強磁性層により前記固定層の磁化方向が一方向に磁気的に固定されている交換結合膜において、前記反強磁性層は面心立方構造を有し、且つ前記固定層は体心立方構造を有する強磁性材料で構成され、前記固定層の少なくとも一部の層がCo-Fe-Mnからなることを特徴とするものである。
【0011】
固定層の少なくとも一部に体心立方構造を有するCo-Fe-Mnを具備することにより、従来よりも高い交換結合エネルギーを提供することができ、固定層起因のノイズ発生を抑え安定性を向上させることができる。
【0012】
本発明の交換結合膜において、前記反強磁性層と前記固定層の一部の層であるCo-Fe-Mn層の間に、面心立方構造を有する強磁性材料よりなる界面層を有してもよい。そして、前記界面層は、Coでよい。
【0013】
本発明の交換結合膜において、前記固定層は、積層フェリ構造でよい。また、前記固定層は、少なくとも一部の層がCo-Fe-Mn層である第一の固定層と、反強磁性結合膜と、第二の固定層とからなる積層フェリ構造でよい。
【0014】
本発明の交換結合膜において、前記反強磁性層は、Mn-X(X=Ir,Rh,Ru)で構成されてよい。
【0015】
本発明の交換結合膜において、前記固定層の一部であるCo-Fe-Mn層のMn組成は、5 at.%<Mn<20 at.%でよい。
【0016】
本発明の交換結合膜において、前記固定層であるCo-Fe-Mn層のCo-Feの組成比はCo1-xFex (0.4<x<0.7)でよい。
【0017】
本発明の交換結合膜において、前記Co-Fe-Mn層は、膜厚方向にMn濃度が変調されているものでよい。そして、前記Co-Fe-Mn層は、前記反強磁性層側がMn濃度が低くその逆方向は濃度が高い、または、前記反強磁性層側がMn濃度が高くその逆方向は濃度が低いものでよい。
【0018】
本発明の交換結合膜の製造方法は、反強磁性層と固定層とが積層され、前記反強磁性層により前記固定層の磁化方向が一方向に磁気的に固定されている交換結合膜の製造方法において、前記反強磁性層として面心立方構造のMn-X(X=Ir,Rh,Ru)を積層する工程と、固定層として少なくとも一層の体心立方構造のCo-Fe-Mn合金を積層する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の交換結合膜の製造方法は、反強磁性層と固定層とが積層され、前記反強磁性層により前記固定層の磁化方向が一方向に磁気的に固定されている交換結合膜の製造方法において、前記反強磁性層として面心立方構造のMn-X(X=Ir,Rh,Ru)を積層する工程と、固定層にMnを含有しない少なくとも一層の体心立方構造のCo-Fe合金を積層する工程と、前記固定層形成直後にin-situ熱処理する工程とを有し、前記熱処理により、前記Mn-XのMnを固定層に拡散させCo-Fe-Mn層を形成することを特徴とするものである。
固定層形成直後にin-situ熱処理する工程とにより、前記Mn-IrのMnを固定層に拡散させCo-Fe-Mn層を形成した場合にも高い交換結合エネルギーを提供することができる。
【0020】
本発明の磁気抵抗効果ヘッドは、反強磁性層、固定層、中間層、および自由層を有するスピンバルブ型磁気抵抗効果ヘッドであって、反強磁性層および固定層からなる交換結合膜が前記の交換結合膜より構成されているものである。
【0021】
また、本発明の磁気センサは、反強磁性層、固定層、中間層、および自由層を有するスピンバルブ型磁気抵抗効果センサであって、反強磁性層および固定層からなる交換結合膜が前記の交換結合膜より構成されているものである。
【0022】
また、本発明の磁気メモリは、反強磁性層、固定層、中間層、および自由層を有するスピンバルブ型の磁気抵抗効果メモリであって、反強磁性層および固定層からなる交換結合膜が前記の交換結合膜より構成されているものである。
【0023】
また、本発明の磁気抵抗効果ヘッドの製造方法は、反強磁性層、固定層、中間層、および自由層を有するスピンバルブ型磁気抵抗効果ヘッドの製造方法であって、前記反強磁性層として面心立方構造のMn-X(X=Ir,Rh,Ru)を積層する工程と、前記固定層として少なくとも一層のMnを含有しない体心立方構造のCo-Fe合金を積層する工程と、前記固定層形成直後にin-situ熱処理する工程とを含み、前記熱処理により、前記Mn-X(X=Ir,Rh,Ru)のMnを固定層に拡散させCo-Fe-Mn層を形成するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、反強磁性層と固定層とからなる交換結合膜において、従来よりも高い交換結合エネルギーを実現できる。また、それを用いた磁気抵抗効果ヘッドでは、固定層起因のノイズを低減でき、磁気抵抗効果ヘッドのシグナルノイズ比(SN比)と安定性を向上できる。また、本発明の交換結合膜を有する磁気メモリと磁気センサでは、隣接ビットセルもしくは外部磁場による固定層への影響を減らすことができ、安定した磁気メモリおよび磁気センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の交換結合膜の交換結合エネルギーを評価する方法を示す図である。
【図2】本発明の代表的な交換結合膜の積層構造を示す図である。
【図3】本発明の代表的なスピンバルブ膜の積層構造を示す図である。
【図4】本発明の代表的な交換結合膜における交換結合エネルギーの固定層中Mn濃度依存性を示した図である。
【図5】Mn-IrとCo-Feを積層させたときの面内方向の格子定数の差を示した図である。
【図6】本発明のCo-Fe-Mn固定層の格子定数とMn濃度の関係を示した図である。
【図7】本発明の交換結合膜の交換結合エネルギーとin-situ熱処理温度の関係を示した図である。
【図8】本発明の交換結合膜のSIMSによるMnプロファイルを示した図である。
【図9】本発明の交換結合膜の、交換結合エネルギーとin-situ熱処理温度の関係を示した図である。
【図10】本発明のスピンバルブ膜の、交換結合エネルギーとin-situ熱処理温度の関係を示した図である。
【図11】本発明のスピンバルブ膜の、MR比とin-situ熱処理温度の関係を示した図である。
【図12】本発明の磁気抵抗効果ヘッドの断面構造を示す図である。
【図13】本発明の磁気抵抗効果ヘッドを搭載した垂直記録用記録再生分離型磁気抵抗効果ヘッドの概念図である。
【図14】本発明の磁気抵抗効果ヘッドを用いた磁気記録再生装置の構成例を示した図である。
【図15】本発明の磁気センサの構成例を示した図である。
【図16】本発明の磁気メモリの構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
はじめに、本発明の交換結合膜およびそれを有するスピンバルブ膜の作製方法について説明する。本発明の交換結合膜およびスピンバルブ膜は、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、セラミックス基板上に作製した。作製した交換結合膜およびスピンバルブ膜は、真空磁場中で250℃、3時間の熱処理を行い、MnIr反強磁性膜の誘導磁気異方性を付与した。作製した交換結合膜およびスピンバルブ膜の磁化測定と構造評価には、振動試料型磁力計とX線装置を用いた。ここで、数1に示すように、本発明の交換結合エネルギーJkの導出には、図1に示したように固定層のヒステレシスループのシフト量Hexに飽和磁化Bsを積算することで求めた。(図1参照)
【0027】
【数1】

【0028】
ここで、Jkは交換結合エネルギーを、Bsは固定層の飽和磁束密度を、tは固定層の膜厚を、Hexは交換結合磁場を表す。
【0029】
図2に、本発明の代表的な交換結合膜の断面構造を示す。本発明の交換結合膜10は、下地層11と、反強磁性層12と、固定層13とを積層されてなり、酸化防止層としてキャップ層16を有している。また、図2に、本発明の代表的なスピンバルブ膜の断面構造を示す。スピンバルブ膜1は、上記交換結合膜10と、中間層14と、自由層15とを積層されてなり、同じく酸化防止層としてキャップ層16を有している。
【0030】
下地層11は、反強磁性層12の結晶成長制御層として好ましい構成例であり、2層以上からなる積層膜や磁性層から構成されていても良い。結晶制御層として用いられる下地層は、例えばTaとRuからなる積層膜から構成される。
【0031】
上記反強磁性層は、固定層の磁化を一方向に磁気的に固定する役割を有し、この固定力が高いほど固定層が外乱に対して強固になるため好適である。一般的にはMnを含む面心立方格子のMn-X (X=Ir, Rh, Ru)で構成され、(111)配向させて用いる。
【0032】
上記固定層は、反強磁性層12によって磁気的に固定され、感知すべき磁界に対して実質的に磁化が固定されてなる。また、固定層に第一の強磁性固定層と、反平行結合層と、第二の強磁性固定層からなる反平行結合固定層を用いた場合、外部磁場に対してより安定になるので、本発明においても好ましい構成例である。また、上記固定層は2層以上の磁性層から構成される積層膜であってもよい。
【0033】
中間層14は、固定層13と自由層15との間を磁気的に分離するとともに、固定層13と自由層15との間を通過する電子を固定層13と自由層15の磁化状態に応じて散乱・透過・または反射させ、磁気抵抗効果を生じさせる役割を有する。中間層14は、Cu、Cr、Ag、Auなどの巨大磁気抵抗効果を発現する非磁性導電層の他、Cu、Ag、Auなどのメタル材料とAl-Ox、MgOなどの絶縁材料の混合層から形成される電流狭窄層、あるいはMgO、Al-Ox、Ti-Ox、ZnOなどのトンネルバリア絶縁層であってもよい。
【0034】
自由層15は、図示していないが2種類あるいはそれ以上の薄膜の積層体であってもよい。また、自由層15は中間層側から順に第一の強磁性自由層と、反平行結合中間層と、第二の強磁性自由層と、からなる反平行結合自由層であってもよい。
【0035】
ここで本発明の特徴的な構成について述べる。本発明によれば、交換結合膜およびそれを有する磁気抵抗効果ヘッドにおいて、固定層の少なくとも一部に、体心立方構造を有するCo-Fe-Mn合金を用いることで従来よりも交換結合エネルギーを増大することができ、固定層起因の安定性の低下およびノイズの発生を抑えることができる。
【0036】
なお、本発明で得られる効果は、スピンバルブ型磁気抵抗効果ヘッドだけではなく、磁気センサおよび磁気メモリへの応用も可能である。
【0037】
上記特許文献1〜5では、主に反強磁性層と固定層の間に界面極薄層の挿入ならびに加熱成膜プロセスによるMnIrの規則化により、交換結合エネルギーの増大を可能にしている。しかしながら、本発明の構成では固定層の磁性材料の構成によって交換結合エネルギーの増大が得られる。一方、特許文献6〜7では、拡散防止層を挿入し、磁気抵抗効果の劣化を防ぐ方法が提示されているが、本発明ではMnの拡散を利用して交換結合エネルギーを増大することができる。また、非特許文献1では100時間と長い加熱時間を要するが、本発明では交換結合の増大が短時間で得られ、量産に好適である。
【0038】
以下、具体的な本発明の実施例を挙げ、詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
表1に、本発明の代表的な構成のひとつである交換結合膜の積層構造と各膜厚を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
反強磁性層にはMn78Ir22を用い、(111)の配向性を高めるために下地層としてTaとRuを用いた。また、キャップ層はRuとTaとした。ここで、キャップ層の材料や膜厚を変えると強磁性固定層に導入される歪みが変わり交換結合エネルギーの大きさに違いが現れるが、種々のキャップ層を検討した結果、本発明の構成による交換結合エネルギーは、どのキャップ層の構成においても特性向上が得られることを確認している。また、固定層はCo-FeにMnを添加したCo-Fe-Mn単層膜、およびCo-Fe-Mn層とCo界面層から構成される積層膜の2種類の構成とした。また、ここではCoとFeの組成比は1:1とした。全ての交換結合膜は成膜後、250℃で磁場中熱処理を行った。
【0042】
図4に表1記載の構成で作製した交換結合膜の実験例、およびMnが含まれないCo-Feを用いた比較例を示す。Co界面層の有無に関わらず、Mnの添加とともに交換結合エネルギーJkが増大し、Mnの添加量が約20 at.%を超えると減少した。交換結合エネルギーはMnが含まれないものと比較して、Co界面層有では最大で約1割、Co界面層無では約2割の向上が見られた。
【0043】
これは次に説明する要因によるものと推察される。通常、面心立方構造の反強磁性層は(111)配向し、この(111)配向した面心立方構造の反強磁性層上にはCo-Feなどの体心立方構造の強磁性層が(110)配向して形成される。この場合、面心立方構造と体心立方構造との間には、結晶構造の違いによりミスフィットを最小限に抑えるように、ある方向には結晶格子が縮み、ある方向には伸びるような一方向のひずみが発生する。図5は近年磁気抵抗効果ヘッド用再生ヘッドで用いられる反強磁性層である面心立方構造のMn-Irと、固定層である体心立方構造のCo-Feを一例に、これらが積層されたときの界面での原子配列と歪みの様子を面直方向からの視点で示す。図中のx方向は歪みが小さいものの、y方向にはCo-Feに強い引っ張り応力が発生しており、このとき体積変化が小さくなるように面直方向の面間隔が減少することで、交換結合エネルギーを減少させてしまうものと考えられる。特許文献1で記載されている、面心立方構造を有する強磁性層を界面に挿入することで交換結合エネルギーが増大できる要因は、上記の視点から考察すると、同一の原理に基づいて反強磁性層と固定層の間に発生した歪みを界面層の挿入により部分的に減少できるためと推察される。また、本発明の交換結合膜に体心立方構造を有するCo-Fe-Mnを固定層に用いることで交換結合エネルギーを増大できるのは、Co-FeにMnを添加することで図6に示すように固定層の格子定数を添加量に応じて変化させ、図5のxおよびy方向の歪みの差分を減らして膜面直方向に寄与する応力を減らすことができるためである。
【0044】
また、本発明でMnを添加する利点はMnが磁性を担う元素であるためであると推察される。一方、磁性を担わないIrなどを添加した場合には歪みの減少には有効であるが、交換結合エネルギーは減少してしまう。これは磁性を担わない元素が増えたために反強磁性層の実効的な交換結合エネルギーが反強磁性層と固定層の界面で薄まったためと考えられる。つまり、添加元素は磁性を担い、かつ格子定数を広げられる材料であるMnであることが望ましい。
【0045】
このように、磁性を担うMn添加による交換結合エネルギーの増大は、面心立方構造を有する反強磁性層と体心立方構造を有する強磁性体間の歪みを減らすことにあるので、Co-Feの組成比が1:1の場合だけではなく、Co-Feが体心立方構造を有する組成範囲(30 at.%<Fe<100 at.%)であれば、同様の増大効果が得られる。特に、Co-FeにおけるFeの組成比率が40 at.%<Fe<70のとき、交換結合エネルギーが増大するので、この組成の構成とすることが望ましい。また、界面に、例えばCoからなる、面心立方構造の極薄強磁性層を挿入した場合にも、または固定層を反平行結合固定層とした場合にも同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0046】
表2に本発明の代表的な構成のひとつである交換結合膜の積層構造とプロセス、および膜厚を示す。
【0047】
反強磁性層にはMn78Ir22を用い、(111)の配向性を高めるために下地層としてTaとRuを用いた。また、キャップ層はRuとTaとした。ここで、キャップ層の材料や膜厚を変えると強磁性固定層に導入される歪みが変わり交換結合エネルギーの大きさに違いが現れるが、種々のキャップ層を検討した結果、本発明の構成による交換結合エネルギーは、どのキャップ層の構成においても特性向上が得られることを確認している。また、固定層はCo-Fe単層膜、もしくはCo-Fe層とCo界面層から構成される積層膜の2種類の構成とした。また、ここではCoとFeの組成比は1:1とした結果を示す。固定層もしくはキャップ層形成後には180〜450℃のin-situ熱処理(成膜チャンバー内熱処理)を行い、Mn-IrのMnを固定層中に拡散させた。さらに、全ての交換結合膜は成膜後、250℃で磁場中熱処理を行った。
【0048】
【表2】

【0049】
図7に交換結合エネルギーJkとin-situ 熱処理A (固定層成膜直後のin-situ熱処理)温度との関係を示す。Co界面層の有無に関わらず、どちらの場合も固定層成膜後のin-situ熱処理により交換結合エネルギーが増大し、Co界面層を有する場合には最大で0.92 erg/cm2と、加熱無のものに比較して約2割の向上が見られた。
【0050】
この交換結合エネルギー増大のメカニズムは実施例1の原理と同様に、反強磁性層および固定層の歪みの緩和によるものと推察される。図8に370℃でin-situ熱処理を施したときのSIMSによるMn組成の膜厚方向プロファイルを示す。本発明の体心立方構造を有するCo-Fe上でin-situ熱処理を施した場合には、反強磁性中のMnが固定層へ拡散する。つまり、in-situ熱処理により、実施例1と同様に固定層がMnを含有することで格子定数が増大した結果、歪みが緩和し交換結合エネルギーが増大するのである。さらに、図8より、Mn組成は膜厚方向に変調しており、特にMn濃度が固定層上部、すなわち、反強磁性膜から遠い側で高いことがわかる。このような変調構造は、in-situ熱処理によって生じるMnの拡散が、応力が大きい箇所にMnがより拡散することで歪の影響を効果的に減少させるためと考えられ、この変調構造が、交換エネルギーを増大するのに効果的なのである。in-situ熱処理無しの場合には固定層にはMnの強度が弱く、Mnが固定層中に拡散していない。図中で50%より弱く強度がみられる部分はラフネスやエッチングレートの面内ばらつきの影響によるノイズである。
【0051】
このように、Mn添加による交換結合エネルギーの増大は、面心立方構造を有する反強磁性層と体心立方構造を有する強磁性体間の歪みを減らすことにあるので、Co-Feの組成比が1:1の場合だけではなく、Co-Feが体心立方構造を有する組成範囲(30 at.%<Fe<100 at.%)であれば、同様の増大効果が得られる。特に、Co-FeにおけるFeの組成比率が40 at.%<Fe<70のとき、交換結合エネルギーが増大するので、この組成の構成とすることが望ましい。
【0052】
次にキャップ上でin-situ熱処理Bを行った結果を図9に示す。キャップ上で加熱した場合にもMnの拡散が起こり交換結合エネルギーは増大するものの、その増大率は4%と小さい。また、Mnは固定層より上部にも拡散しCPP-GMRやTMRなどの特性を劣化させてしまうため、磁気抵抗効果ヘッドにキャップ上で加熱するプロセスを用いるメリットは少ない。
【0053】
このin-situ熱処理を施す箇所の違いにより増大率が異なる原因は、固定層上部に他の層が形成される前の状態で熱処理するか否かで、その層の応力によりMnの拡散挙動が変わり、固定層歪みの開放されやすさが異なるためであると推察される。この際、固定層上部が開放された状態でin-situ熱処理を施した場合には、応力が減少するようにMn組成が膜厚方向により効果的に変調するため、交換結合エネルギーを増大することができると考えられる。
【0054】
以上の結果を踏まえると、固定層直上でin-situ熱処理を施す製造方法が重要であり、反強磁性層からMnを固定層へ拡散させることで固定層の歪みが効果的に緩和し、結果として交換結合エネルギーを増大できると考えられる。
【0055】
以上のように、固定層上をin-situ熱処理することで交換結合エネルギーを増大できるが、加熱中の真空度が低い装置の場合、固定層表面が酸化してしまう場合がある。この場合、固定層表面をArやXeなどの不活性ガスでクリーニングすることにより、交換結合エネルギーを減少させることなく、酸化汚染層を取り除くことができる。また、膜厚が減少した分をCo-Feなどで埋め戻した場合にも交換結合エネルギーを減少することなく固定層表面を清浄にできるため好適な方法である。
【実施例3】
【0056】
表3に本発明の代表的な構成のひとつである交換結合膜の積層構造および膜厚を示す。
【0057】
反強磁性層にはMn78Ir22を用い、(111)配向性を高めるために下地層としてTaとRuを用いた。また、キャップ層はRuとTaとした。ここで、キャップ層の材料や膜厚を変えると強磁性固定層に導入される歪みが変わり交換結合エネルギーの大きさに違いが現れるが、種々のキャップ層を検討した結果、本発明の構成による交換結合エネルギーは、どのキャップ層の構成においても特性向上が得られることを確認している。また、固定層はMn濃度を膜厚方向に変調させたCo-Fe-Mn層、もしくは上記Mn濃度変調Co-Fe-Mn層とCo界面層から構成される積層膜の2種類の構成とした。また、ここではCoとFeの組成比は1:1とした結果を示す。全ての交換結合膜は成膜後、250℃で磁場中熱処理を行った。
【0058】
【表3】

【0059】
次に、表3記載の固定層の詳細な構成と、その構成で得られる交換結合エネルギーを表4に示す。Mn濃度変調Co-Fe-Mn層は、反強磁性層側から順にバルク第一層、バルク第二層、バルク第三層の三層で構成し、Mn濃度を一方向に傾斜させた。同じ平均Mn濃度で比較した場合、例えば実験例1-1のように単層のCo47Fe46Mn7を用いるよりも、実験例1-2および1-3で示すようにMnの濃度を変調させた場合には交換結合エネルギーの増大が確認された。同様に、実験例1-4〜1-12で示すように平均Mn濃度や界面層の有無に依らず、Mnの濃度を変調させることで交換結合エネルギーが増大した。
【0060】
【表4】

【0061】
この交換結合エネルギー増大のメカニズムは実施例1の原理と同様に、反強磁性層および固定層の歪みの緩和によるものと推察される。本発明の体心立方構造を有するCo-FeにMn濃度を変調させて添加することで、反強磁性層と固定層間、および固定層とキャップ層間の歪みを傾斜的に減らすことができる。これにより、固定層に単純に均質にMnを添加する場合よりも交換結合エネルギーを増大できるのである。また、ここでは示していないが、固定層の反強磁性に接する側およびキャップ層側の両方でMn添加量を大きくした場合でも交換結合エネルギーを増大できることを確認している。これは、反強磁性層と固定層間、および固定層とキャップ層間の歪みを傾斜的、段階的に減らすことができるためであると考えられる。また、歪みを傾斜的に減少させることが交換結合エネルギーの増大に有効であるので、Mnの変調構造として、積層数や膜厚を変更したものでも同様効果が期待できる。
【0062】
このように、面心立方構造を有する反強磁性層と体心立方構造を有する強磁性体間の歪みを減らすことで交換結合エネルギーが増大することから、Mn濃度変調Co-Fe-Mn層のCo-Fe組成比は1:1の場合だけではなく、Co-Feが体心立方構造を有する組成範囲(30 at.%<Fe<100 at.%)であれば、同様の増大効果が得られる。特に、Co-FeにおけるFeの組成比率が40 at.%<Fe<70のとき、交換結合エネルギーが増大するので、この組成の構成とすることが望ましい。
【実施例4】
【0063】
表5に本発明のひとつである交換結合膜で、固定層を積層フェリ構成とした場合の代表的な積層構造および膜厚を示す。
【0064】
反強磁性層にはMn78Ir22を用い、(111)の配向性を高めるために下地層としてTaとRuを用いた。また、キャップ層はRuとTaとした。ここで、キャップ層の材料や膜厚を変えると強磁性固定層に導入される歪みが変わり交換結合エネルギーの大きさに違いが現れるが、種々のキャップ層を検討した結果、本発明の構成による交換結合エネルギーは、どのキャップ層の構成においても特性向上が得られることを確認している。また、固定層は第一の固定層と、反強磁性結合膜と、第二の固定層とから構成される積層フェリ構造とした。ここで第一の固定層は、反強磁性側からCo界面層、Co-Fe-Mn、Co50Fe50とした。また、Co-Fe-MnのCoとFeの組成比は1:1とした。全ての交換結合膜は成膜後、250℃で磁場中熱処理を行った。
【0065】
【表5】

【0066】
表6に、表5に記載構成で作製した交換結合膜の磁化曲線から反強磁性層と第一の固定層間の交換結合エネルギーと反強磁性結合膜を介して第一の固定層と第二の固定層間にはたらく反平行結合エネルギーとを考慮し、フィッティングにより得られた交換結合エネルギーを示す。Co界面層の有無に関わらず、固定層を積層フェリ構成とした場合にもCo-FeへMnを添加することにより交換結合エネルギーが増大した。これは表1記載の構成で得られる交換結合エネルギーと同様の傾向であり、積層フェリ構成とした場合でもMn添加により反強磁性層と固定層間の歪みを緩和でき、結果として交換結合エネルギーを増大できるのである。このとき、Co-Feの組成比は1:1の場合だけではなく、Co-Feが体心立方構造を有する組成範囲(30 at.%<Fe<100 at.%)であれば、同様にMn添加により交換結合エネルギーを増大することができる。特に、Co-FeにおけるFeの組成比率が40 at.%<Fe<70のとき、交換結合エネルギーが増大するので、この組成の構成とすることが望ましい。
【0067】
また、ここでは示していないが、第一の固定層を形成後in-situ熱処理を施した交換結合膜やMn濃度変調Co-Fe-Mnを用いた積層フェリ構成の交換結合膜においても交換結合エネルギーの増大が確認できており、固定層より上側の構成に依らず、同様の効果を得ることができる。
【0068】
【表6】

【実施例5】
【0069】
表7は本発明の代表的なスピンバルブ膜の膜構成を示す。反強磁性層にはMn78Ir22を用い、(111)配向性を高めるために下地層としてTaとRuを用いた。固定層は第一の固定層と、反強磁性結合膜と、第二の固定層とからなる積層フェリ構成とし、第一の固定層にはin-situ熱処理を施した。また、酸化汚染層の清浄化のため、固定層を0.5nm分クリーニングを行った後、さらに0.5nmのCo-Feを形成した。このクリーニング工程は必ずしも必要というわけではないが、界面汚染による特性劣化を防ぐために好適な方法である。中間層にはCuを用い、自由層はCoFe層、Co-Mn-Ge層、CoFe層の3層構造とし、キャップ層にはCuとRuを用いた。
【0070】
図10に、表7記載の構成で、in-situ熱処理温度を変えて作製したスピンバルブ膜の交換結合エネルギーJkとin-situ熱処理温度の関係を示す。ここで交換結合エネルギーは、スピンバルブ膜の磁化曲線から反強磁性層と第一の固定層間の交換結合エネルギーと、反強磁性結合膜を介して第一の固定層と第二の固定層間にはたらく反平行結合エネルギーとを考慮し、フィッティングにより算出した。交換結合エネルギーJkはin-situ熱処理温度Tとともに増大し、最大で0.86 erg/cm2となった。この傾向は実施例2で示したものと同等の結果であり、スピンバルブ構成であってもin-situ熱処理により交換結合エネルギーを増大でき、またin-situ熱処理およびクリーニングを施しても特性劣化がないことを示している。
【0071】
【表7】

【0072】
この交換結合エネルギー増大のメカニズムは実施例1の原理と同様に、反強磁性層および固定層の歪みの緩和によるものと推察される。これは、実施例2に示したように本発明の体心立方構造を有するCo-Fe上でin-situ熱処理を施した際に、反強磁性中のMnが固定層へ拡散し固定層の格子定数が増大した結果、歪みが緩和して交換結合エネルギーが増大したのである。
【0073】
このように、スピンバルブ構成であっても、Mn添加により面心立方構造を有する反強磁性層と体心立方構造を有する強磁性体間の歪みを減らすことで交換結合エネルギーを増大できるので、Co-Feの組成比が1:1の場合だけではなく、Co-Feが体心立方構造を有する組成範囲(30 at.%<Fe<100 at.%)であれば、同様の増大効果が得られる。特に、Co-FeにおけるFeの組成比率が40 at.%<Fe<70のとき、交換結合エネルギーが増大するので、この組成の構成とすることが望ましい。
【0074】
図11に、表7のスピンバルブ膜のMR比とin-situ熱処理温度の関係を示す。MR比はin-situ 熱処理により劣化することなくほぼ一定の値を維持している。これは、in-situ熱処理を第一の固定層上で施しており、Mnが中間層まで拡散しないためである。このように、反強磁性層と固定層の歪みを緩和することによりMR比を劣化させることなく、交換結合エネルギーを増大することができる。
【0075】
実施例5では、第二の固定層および自由層にCoFeとCo-Mn-Ge、中間層にはCuを用いた結果を示したが、固定層の交換結合エネルギーはこれらの材料構成に限定されることなく本発明の固定層構成とすることで同様の特性向上が得られる。また、Cu、Ag、Auなどのメタル材料とAl-Ox、MgOなどの絶縁材料の混合層から形成される電流狭窄層を有する面直通電型巨大磁気抵抗膜、あるいはMgO、Al-Ox、Ti-Ox、ZnOなどのトンネルバリア絶縁層を有するトンネル接合膜などにおいて、本発明の交換結合膜を具備した場合にも同様の特性向上が得られることは自明である。
【実施例6】
【0076】
図12は、本発明の交換結合膜10を備えたスピンバルブ膜1からなる磁気抵抗効果ヘッド2の断面構造である。ここで形状や膜厚は必ずしも図示した通りである必要はない。本発明の磁気抵抗効果ヘッドは、下部シールド電極100および上部シールド電極103に挟み込まれるように配置され、下地層11、反強磁性層12、固定層13、中間層14、自由層15、キャップ層16を積層してなる。絶縁層101によってスピンバルブ膜1と電気的に分離されたハードバイアス層102は、自由層にトラック幅方向のバイアス磁界を印加し、自由層の磁化を単磁区化するために用いられる。ハードバイアス層102には、例えばCo-Cr-Pt合金などが用いられる。絶縁層101には、例えばAl2O3やSiO2などを用いることができる。
【0077】
図13は本発明の交換結合膜10を備えたスピンバルブ膜1から形成された磁気抵抗効果ヘッド2を搭載した垂直記録用記録再生分離型磁気抵抗効果ヘッドの概念図である。スライダーを兼ねる基体20上に下部磁気シールド兼電極100、磁気抵抗効果ヘッド2、上部磁気シールド兼電極103、副磁極30、コイル31、主磁極32を形成してなり、記録媒体に対向する対向面40を形成してなる。図12記載の絶縁層101およびハードバイアス層102に相当する構造については本図では記載を省略した。本発明の磁気抵抗効果ヘッドは再生部分の能力を高めるものであるので、垂直記録及び従来の面内記録の双方に対応できる技術であるが、特に垂直磁気記録ヘッドと組み合わせることでより高い記録密度を実現することができる。
【0078】
図14は、本発明の磁気抵抗効果ヘッドを用いた磁気記録再生装置の構成例である。磁気的に情報を記録する記録媒体51を備えたディスク55をスピンドルモーター53にて回転させ、アクチュエーター52によってヘッドスライダー50をディスク55のトラック上に誘導する。即ち磁気ディスク装置においては、ヘッドスライダー50上に形成した再生ヘッド、及び記録ヘッドがこの機構に依ってディスク55上の所定の記録位置に近接して相対運動し、信号を順次書き込み、及び読み取る。アクチュエーター52はロータリーアクチュエーターであることが望ましい。記録信号は信号処理系54を通じて記録ヘッドにて媒体上に記録し、再生ヘッドの出力を、信号処理系54を経て信号として得る。さらに再生ヘッドを所望の記録トラック上へ移動せしめるに際して、本再生ヘッドからの高感度な出力を用いてトラック上の位置を検出し、アクチュエーターを制御して、ヘッドスライダーの位置決めを行うことができる。本図ではヘッドスライダー50、ディスク55を各1個示したが、これらは複数であっても構わない。またディスク55は両面に記録媒体51を有して情報を記録してもよい。情報の記録がディスク両面の場合ヘッドスライダー50はディスクの両面に配置する。
【0079】
上述したような構成について、本発明の交換結合膜を備えたスピンバルブ膜からなる磁気抵抗効果ヘッド及びこれを搭載した磁気記録再生装置を試験した結果、従来よりも高い安定性と高いシグナルノイズ比が確認され、また作製時の歩留まりも良好であった。
【実施例7】
【0080】
図15は、磁気センサのひとつである磁気式エンコーダに本発明の交換結合膜を有するスピンバルブ膜を配置した構成例である。磁気式エンコーダは、等間隔に着磁された磁気ドラム501と磁気センサ502の組み合わせよりなり、着磁パターンの境界で反転する磁界により自由層の相対角が変化することを利用して角度変化を読み出す磁気センサである。磁気センサ502は、交換結合膜10と自由層15からなるスピンバルブ膜を備えている。磁気センサ502に高い交換結合力を有する本発明の交換結合膜10を用いた場合、磁気ドラム501からの外部磁場に対し固定層がより安定になるので、出力のバラツキを抑えることができるため好ましい構成例である。
【実施例8】
【0081】
図16は、本発明の交換結合膜を有する磁気メモリMRAM(Magnetic Random Access Memory)の構成例である。本発明の交換結合膜10を有するスピンバルブ膜1はビット線601と素子配線602とに接続されており、ゲート電極603を有する選択用トランジスタ604で読み出しセルを選択して通電し、抵抗の大小で記録情報を読み出す。また、セルへの書き込み用には書き込み用ワード線605を具備している。ここで、書き込み用ワード線605は必須の構成ではなく、例えばスピン注入磁化反転などの技術を使って書き込みを行うこともできる。
【0082】
上述したような構成について、本発明の交換結合膜を備えた磁気メモリを試作、検証した結果、外部磁場や衝撃に対する安定性の向上が確認され、また作製時の歩留まりも良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の交換結合膜は、スピンバルブ構造を備えた磁気抵抗効果ヘッドに用いることができ、高い安定性と低ノイズを実現できる。また、スピンバルブ型磁気抵抗効果ヘッドだけではなく、磁気センサおよび磁気メモリへの応用も可能である。
【符号の説明】
【0084】
1…スピンバルブ膜、2…磁気抵抗効果ヘッド、10…交換結合膜、11…下地層、12…反強磁性層、13…固定層、14…中間層、15…自由層、16…キャップ層、
20…基体、30…副磁極、31…コイル、32…主磁極、40…対向面、50…ヘッドスライダー、51…記録媒体、52…アクチュエーター、53…スピンドル、54…信号処理系、55…磁気ディスク、
100…下部磁気シールド兼電極、101…絶縁層、102…磁区制御バイアス膜、103…上部磁気シールド兼電極、
501…磁気ドラム、502…磁気センサ、
601…ビット線、602…素子配線、603…ゲート電極、604…選択用トランジスタ、605…書き込み用ワード線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反強磁性層と固定層とが積層され、前記反強磁性層により前記固定層の磁化方向が一方向に磁気的に固定されている交換結合膜において、
前記反強磁性層は面心立方構造を有し、且つ前記固定層は体心立方構造を有する強磁性材料で構成され、前記固定層の少なくとも一部の層がCo-Fe-Mnからなることを特徴とする交換結合膜。
【請求項2】
請求項1記載の交換結合膜において、
前記反強磁性層と前記固定層の一部の層であるCo-Fe-Mn層の間に、面心立方構造を有する強磁性材料よりなる界面層を有することを特徴とする交換結合膜。
【請求項3】
請求項2記載の交換結合膜において、
前記界面層が、Coであることを特徴とする交換結合膜。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の交換結合膜において、
前記固定層を、積層フェリ構造としたことを特徴とする交換結合膜。
【請求項5】
請求項4に記載の交換結合膜において、
前記固定層を、少なくとも一部の層がCo-Fe-Mn層である第一の固定層と、反強磁性結合膜と、第二の固定層とからなる積層フェリ構造としたことを特徴とする交換結合膜。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の交換結合膜において、
前記反強磁性層が、Mn-X(X=Ir,Rh,Ru)で構成されていることを特徴とする交換結合膜。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載の交換結合膜において、
前記固定層の一部であるCo-Fe-Mn層のMn組成は、5 at.%<Mn<20 at.%であることを特徴とする交換結合膜。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一つに記載の交換結合膜において、
前記固定層であるCo-Fe-Mn層のCo-Feの組成比はCo1-xFex (0.4<x<0.7)であ
ることを特徴とする交換結合膜。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一つに記載の交換結合膜において、
前記Co-Fe-Mn層は、膜厚方向にMn濃度が変調していることを特徴とする交換結合膜。
【請求項10】
請求項9記載の交換結合膜において、
前記Co-Fe-Mn層は、前記反強磁性層側がMn濃度が低くその逆方向は濃度が高いことを特徴とする交換結合膜。
【請求項11】
請求項9記載の交換結合膜において、
前記Co-Fe-Mn層は、前記反強磁性層側がMn濃度が高くその逆方向は濃度が低いことを特徴とする交換結合膜。
【請求項12】
反強磁性層と固定層とが積層され、前記反強磁性層により前記固定層の磁化方向が一方向に磁気的に固定されている交換結合膜の製造方法において、
前記反強磁性層として面心立方構造のMn-X(X=Ir,Rh,Ru)を積層する工程と、固定層として少なくとも一層の体心立方構造のCo-Fe-Mn合金を積層する工程とを含むことを特徴とする交換結合膜の製造方法。
【請求項13】
反強磁性層と固定層とが積層され、前記反強磁性層により前記固定層の磁化方向が一方向に磁気的に固定されている交換結合膜の製造方法において、
前記反強磁性層として面心立方構造のMn-X(X=Ir,Rh,Ru)を積層する工程と、固定層にMnを含有しない少なくとも一層の体心立方構造のCo-Fe合金を積層する工程と、前記固定層形成直後にin-situ熱処理する工程とを有し、前記熱処理により、前記Mn-XのMnを固定層に拡散させCo-Fe-Mn層を形成することを特徴とする交換結合膜の製造方法。
【請求項14】
反強磁性層、固定層、中間層、および自由層を有するスピンバルブ型磁気抵抗効果ヘッドであって、
前記反強磁性層および固定層からなる交換結合膜が請求項1乃至11のいずれか一つに記載の交換結合膜より構成されていることを特徴とする磁気抵抗効果ヘッド。
【請求項15】
反強磁性層、固定層、中間層、および自由層を有するスピンバルブ型磁気抵抗効果センサであって、
前記反強磁性層および固定層からなる交換結合膜が請求項1乃至11のいずれか一つに記載の交換結合膜より構成されていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項16】
反強磁性層、固定層、中間層、および自由層を有するスピンバルブ型の磁気抵抗効果メモリであって、
前記反強磁性層および固定層からなる交換結合膜が請求項1乃至11のいずれか一つに記載の交換結合膜より構成されていることを特徴とする磁気メモリ。
【請求項17】
反強磁性層、固定層、中間層、および自由層を有するスピンバルブ型磁気抵抗効果ヘッドの製造方法であって、
前記反強磁性層として面心立方構造のMn-X(X=Ir,Rh,Ru)を積層する工程と、前記固定層として少なくとも一層のMnを含有しない体心立方構造のCo-Fe合金を積層する工程と、前記固定層形成直後にin-situ熱処理する工程とを含み、前記熱処理により、前記Mn-X(X=Ir,Rh,Ru)のMnを固定層に拡散させCo-Fe-Mn層を形成することを特徴とする磁気抵抗効果ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−114151(P2011−114151A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268982(P2009−268982)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】