説明

ハイブリッド電気自動車の回生制御装置

【課題】惰行運転時においてエンジン減速モードとモータ減速モードとの間の制動力の格差に起因する減速感の相違を解消した上で、モータ減速モードでは電動機の回生制御により最大限の発電量を実現できるハイブリッド電気自動車の回生制御装置を提供する。
【解決手段】モータ減速モードによる車両の蛇行運転時において、エンジンと電動機との間のクラッチを切断して、電動機の回生トルクを最大トルクライン上で制御することにより車両の減速エネルギの全てを回生発電に利用すると共に、最大トルクライン上におけるエンジンブレーキ近傍の回生トルクが得られる電動機の回転域でシフトダウンを実行することにより、エンジン減速モードと同様に減速感を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド電気自動車の回生制御装置に係り、詳しくはアクセルオフによる車両減速時(以下、惰行運転時という)にエンジン走行による減速と同様の減速感をもって効率的に回生発電を行うハイブリッド電気自動車の回生制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンと電動機とを車両に搭載し、エンジンの駆動力と電動機の駆動力とをそれぞれ車両の駆動輪に伝達可能とした、いわゆるパラレル型ハイブリッド電気自動車が開発され実用化されている。この種のパラレル型ハイブリッド電気自動車の一つとして、変速機を介して電動機を駆動輪に連結すると共に、電動機に対してクラッチを介してエンジンを連結したものが提案されている。当該ハイブリッド電気自動車では、クラッチの切断時に電動機の駆動力を変速機を経て駆動輪に伝達して車両を走行させる一方、クラッチの接続時にはエンジンの駆動力またはエンジン及び電動機の駆動力を変速機を経て駆動輪に伝達して車両を走行させている。
【0003】
ところで、ハイブリッド電気自動車の特徴の一つとして、電動機による回生制御を挙げることができる。回生制御は車両の惰行運転時に実行され、発電機に負のトルク(回生トルク)を発生させて駆動輪に制動力を作用させながら、電動機が発電した電力をバッテリに充電することにより車両の減速エネルギを有効利用して燃費節減を図るものである。
車両の惰行運転時の回生制御には種々の手法があり、例えば特許文献1に記載された技術を挙げることができる。当該特許文献1のハイブリッド電気自動車では、惰行運転時に電動機の回生制御による制動力に加えてエンジンのフリクションによる制動力(エンジンブレーキ)を駆動輪に作用させている。そして、このときに回生制動力とエンジンブレーキ力との和が所定値または要求制動力を超えない範囲で回生発電量が最大となるように変速機を制御しており、これによりシフトダウンに伴うエンジンブレーキの増大に起因して車両に作用する制動力が運転者の要求トルクを上回ってしまう事態を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4029592号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたハイブリッド電気自動車では、惰行運転時にエンジンブレーキを駆動輪に作用させているため、エンジンブレーキ相当分だけ電動機の回生制御による制動力が減少し、結果として回生制御による発電量が低下してしまうという問題がある。そこで、エンジンと電動機との間のクラッチを切断することによりエンジンブレーキの駆動輪側への伝達を遮断し、車両の減速エネルギを全て電動機の回生発電に利用することも考えられる(以下、このときの走行モードをモータ減速モードという)。
モータ減速モードによる回生制御では、最大限の発電量が得られるように電動機の回生トルクが制御される。
即ち、図2の電動機の出力特性に示すように、電動機のトルクを正側に制御する力行制御及び負側に制御する回生制御の何れでも、電動機は回転速度に略反比例する最大トルクラインを上限として力行トルクや回生トルクを発生し、低回転側では、過剰トルクを抑制する制御上の対策として設定されたトルク抑制ラインを上限として力行トルクや回生トルクが制限されている。そして、力行制御及び回生制御の何れでも最大トルクライン上では最大トルクが達成されると共に、回生制御時には最大トルクライン上で最大発電量が達成される。このため、惰行運転により電動機を回生制御する際には最大トルクラインに沿って回生トルクを制御することにより、可能な限り発電量を高めるように配慮している。
【0006】
ところで、この種のハイブリッド電気自動車は全ての惰行運転でモータ減速モードを実行するものではなく、エンジンのフリクションにより発生するエンジンブレーキのみを制動力として利用する場合もある(以下、このときの走行モードをエンジン減速モードという)。例えば走行用バッテリの残存充電率(以下、SOCという)が制御範囲の上限に達して充電が不要なときには電動機を回生制御せずに、電動機とエンジンとの間のクラッチを接続してエンジン減速モードへの切換を行う。
しかしながら、エンジンフリクションに起因するエンジンブレーキと電動機が発生する回生トルクとは共に、エンジンや電動機の仕様などに応じて定まる全く別個の要件であることから、エンジン減速モードとモータ減速モードとで車両に作用する制動力がかけ離れてしまう場合が多い。より具体的には、モータ減速モード時の電動機は最大トルクライン上で回生トルクを制御されることから、このときの回生トルクは、一般的にエンジンフリクションに起因するエンジンブレーキに比較して絶対値として格段に大きい場合が多く、このようなエンジン減速モードよりもモータ減速モードの方が大きな制動力が発生する。よって、モード間の制動力の格差により運転者が受ける減速感も相違し、結果として運転者に違和感を与えてしまうという問題があった。
【0007】
なお、その対策として、モータ減速モードでは電動機の回生トルクを最大トルクラインよりも制限する(絶対値として小さな値とする)ことも考えられるが、それに応じて発電量が低下してしまう。このため、モード切換に応じた減速感の相違と電動機の回生制御で得られる発電量とはトレードオフの関係になり、双方の要件を共に満足することは困難なため、従来より抜本的な対策が望まれていた。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両の惰行運転時においてエンジン減速モードとモータ減速モードとの間の制動力の格差に起因する減速感の相違を解消した上で、モータ減速モードでは電動機の回生制御により最大限の発電量を実現することができるハイブリッド電気自動車の回生制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、変速機を介して電動機を車両の駆動輪に連結すると共に、電動機に対してクラッチを介してエンジンを連結して構成され、アクセルオフにより車両が減速する惰行運転時に、クラッチを接続してエンジンによるエンジンブレーキを変速機を経て駆動輪に伝達して車両を減速させるエンジン減速モード、または電動機による回生トルクを変速機を経て駆動輪に伝達して車両を減速させるモータ減速モードの何れかを選択的に実行するハイブリッド電気自動車において、車両の惰行運転を判定する惰行運転判定手段と、惰行運転判定手段により惰行運転中と判定され、且つモータ減速モードが選択されているとき、電動機とエンジンとの間のクラッチを切断すると共に、電動機の回生トルクを最大発電量が得られる負側の最大トルクライン上で制御する回生制御手段と、モータ減速モードによる惰行運転時において車速低下に伴って変速機をシフトダウンするとき、最大トルクライン上におけるエンジン減速モードによるエンジンブレーキ近傍の回生トルクが得られる電動機の回転域で変速機のシフトダウンを実行する変速制御手段とを備えたものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、回生制御手段が、変速機の現変速段と低速ギヤ側の次変速段との離間に起因して最大トルクライン上での制御により電動機の回生トルクがエンジンブレーキに比較して過剰に増加するときには、次変速段へのシフトダウンまで回生トルクを一定に維持するものである。
請求項3の発明は、請求項1または2において、車両の重量を検出する車両重量検出手段を備え、変速制御手段が、車両重量検出手段により検出された車両重量が大きいほどシフトダウンのタイミングを低車速側に補正し、補正後のタイミングに基づきシフトダウンを実行するものである。
請求項4の発明は、請求項1乃至3において、車両が走行中の路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、変速制御手段が、路面勾配検出手段により検出された路面勾配が降板路側であるとき、降板路の勾配が急であるほどシフトダウンのタイミングを低車速側に補正し、補正後のタイミングに基づきシフトダウンを実行するものである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至4において、車両の速度を検出する車速検出手段を備え、変速制御手段が、車速検出手段により検出された車速が高いほどシフトダウンのタイミングを低車速側に補正し、補正後のタイミングに基づきシフトダウンを実行するものである。
請求項6の発明は、請求項1乃至4において、車両の駆動輪のスリップを判定するスリップ判定手段を備え、変速制御手段が、スリップ判定手段によりスリップが判定されたときには、シフトダウンのタイミングに達していない場合でもシフトダウンを実行するものである。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド電気自動車の回生制御装置によれば、モータ減速モードによる車両の惰行運転時にクラッチを切断すると共に負側の最大トルクライン上で電動機を回生制御することから、車両の減速エネルギの全てを電動機の回生発電に利用して最大発電量を得ることができる。そして、最大発電量は最大トルクライン上であれば何れの回転域でも達成可能であるが、本発明では、最大トルクライン上におけるエンジン減速モードによるエンジンブレーキ近傍の回生トルクが得られる電動機の回転域でシフトダウンを実行する。このため、モータ減速モードによる惰行運転中の電動機は、何れの変速段でもエンジン減速モードによるエンジンブレーキ近傍の回生トルクを発生して車両を制動し、エンジン減速モードと同様の減速感を実現することができる。
【0012】
請求項2の発明のハイブリッド電気自動車の回生制御装置によれば、請求項1に加えて、最大トルクライン上での制御により車速の低下に伴って電動機の回生トルクが過剰に増加するときには、次変速段へのシフトダウンまで回生トルクを一定に維持するようにした。
従って、回生トルクが過剰に増加したときには、シフトダウン前後での回生トルクの落差が増大して大きな変速ショックが発生するが、このような事態を未然に防止することができる。
請求項3の発明のハイブリッド電気自動車の回生制御装置によれば、請求項1または2に加えて、車両重量検出手段により検出された車両重量が大きいほどシフトダウンのタイミングを低車速側に補正するようにした。
最大トルクライン上での制御により車速の低下に伴って回生トルクは負側に増加することから、シフトダウンタイミングが低車速側になるほど回生トルクの増加により車両に大きな制動力が作用する。ここで、車両重量が大きいほど駆動輪がスリップし難くなると共に、減速のために大きな制動力が必要になるが、それに応じて制動力が増加することから、車両重量に関わらず常に適切な制動力を実現でき、もって過剰な制動力による駆動輪のスリップを防止した上で車両を確実に減速させることができる。
【0013】
請求項4の発明のハイブリッド電気自動車の回生制御装置によれば、請求項1乃至3に加えて、路面勾配検出手段により検出された路面勾配が降板路側であるとき、降板路の勾配が急であるほどシフトダウンのタイミングを低車速側に補正するようにした。
最大トルクライン上での制御により車速の低下に伴って回生トルクは負側に増加することから、シフトダウンタイミングが低車速側になるほど回生トルクの増加により車両に大きな制動力が作用する。ここで、降板路の勾配が急であるほど減速のために大きな制動力が必要になるが、それに応じて制動力が増加することから、路面勾配に関わらず常に適切な制動力を実現でき、もって過剰な制動力による駆動輪のスリップを防止した上で車両を確実に減速させることができる。
【0014】
請求項5の発明のハイブリッド電気自動車の回生制御装置によれば、請求項1乃至4に加えて、車速検出手段により検出された車速が高いほどシフトダウンのタイミングを低車速側に補正するようにした。
最大トルクライン上での制御により車速の低下に伴って回生トルクは負側に増加することから、シフトダウンタイミングが低車速側になるほど回生トルクの増加により車両に大きな制動力が作用する。ここで、車速が高いほど減速のために大きな制動力が必要になるが、それに応じて制動力が増加することから、車速に関わらず常に適切な制動力を実現でき、もって過剰な制動力による駆動輪のスリップを防止した上で車両を確実に減速させることができる。
【0015】
請求項6の発明のハイブリッド電気自動車の回生制御装置によれば、請求項1乃至5に加えて、スリップ検出手段によりスリップが判定されたときに、シフトダウンのタイミングに達していない場合でもシフトダウンを実行するようにした。
例えば図3に示すように、電動機の回生トルクはシフトダウン時に減少方向にステップ的に移行することから、スリップ判定に応じてシフトダウンが実行されることによりスリップを抑制でき、スリップにより不安定に陥った車両の走行を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態のハイブリッド電気自動車の回生制御装置を示す全体構成図である。
【図2】電動機の出力特性と発電特性との関係を示す図である。
【図3】モータ減速モードによる電動機の回生トルクの制御状況をエンジン減速モードでのエンジンブレーキの変動状況と比較した説明図である。
【図4】モータ減速モードを実行するための車両ECUの制御ブロック図である。
【図5】補正値算出用のマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車の回生制御装置の一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のハイブリッド電気自動車1の回生制御装置を示す全体構成図である。
ハイブリッド電気自動車1はいわゆるパラレル型ハイブリッド車両であり、本実施形態ではトラックとして構成されている。なお、以下の説明では、ハイブリッド電気自動車1を車両と称する場合もある。
ディーゼルエンジン(以下、エンジンという)2の出力軸にはクラッチ4の入力軸が連結されており、クラッチ4の出力軸には例えば永久磁石式同期電動機のように発電も可能な電動機6の回転軸を介して自動変速機8の入力軸が連結されている。自動変速機8は一般的な手動変速機をベースとしてクラッチ4の断接操作及び変速段の切換操作を自動化したものであり、本実施形態では、前進6速後退1速の変速段を有し、発進段としては第2速が設定されている。当然ながら、変速機8の変速段はこれに限るものではなく、任意に変更可能である。
【0018】
また、変速機8の出力軸はプロペラシャフト10、差動装置12及び駆動軸14を介して左右の駆動輪16に接続されている。従って、クラッチ4の切断時には電動機6のみが変速機8を介して駆動輪16側と連結され、クラッチ4の接続時にはエンジン2及び電動機6が共に変速機8を介して駆動輪16側と連結される。
電動機6は、走行用バッテリ18に蓄えられた直流電力がインバータ20によって交流電力に変換されて供給されることによりモータとして作動し、その駆動力が変速機8により適宜変速された後に駆動輪16に伝達されることにより車両1を走行させる。また、アクセルオフにより車両が減速する惰行運転時には、電動機6が発電機として作動して交流電力を発電すると共に、回生トルクを発生させて駆動輪16に制動力を作用させながら車両1を減速させる。そして、発電された交流電力はインバータ20によって直流電力に変換された後にバッテリ18に充電され、これにより車両1の減速エネルギが電気エネルギとして回収されて、その後に電動機6による走行に有効利用される。
【0019】
そして、後に詳述するが、惰行運転時の回生制御では可能な限り発電量を高めるために、エンジン2と電動機6との間のクラッチ4を切断してモータ減速モードに切り換えると共に、電動機6の回生トルクを最大発電量が達成される最大トルクラインに沿って制御している(回生制御手段)。
また、例えば惰行運転時においてバッテリ18のSOCが制御範囲の上限(例えば70%)近傍であり充電が不要なときには、電動機6を回生制御せずにクラッチ4を接続してエンジン減速モードへの切換を行い、電動機の回生トルクに代えてエンジンブレーキを制動力として駆動輪16に作用させながら車両1を減速させる。なお、エンジン減速モードへの切換は必ずしもバッテリ18のSOCに基づく必要はなく、他の要件に応じてモード切換を行うようにしてもよい。
一方、エンジン2の駆動力は、クラッチ4が接続されているときに電動機6の回転軸を経由して変速機8に伝達され、適宜変速された後に駆動輪16に伝達される。従って、エンジン2の駆動力が駆動輪16に伝達されているとき、電動機6がモータとして作動しない場合には、エンジン2の駆動力のみが変速機8を介して駆動輪16に伝達され、電動機6がモータとして作動する場合には、エンジン2及び電動機6の駆動力が共に変速機8を介して駆動輪16に伝達されることになる。
【0020】
また、バッテリ18のSOCが低下してバッテリ18の充電が必要になると、車両の走行中であっても電動機6が発電機として作動すると共に、エンジン2の駆動力の一部を用いて電動機6を作動することにより発電が行われ、発電された交流電力をインバータ20によって直流電力に変換した後にバッテリ18に充電するようにしている。
車両ECU22は、車両やエンジン2の運転状態、及びエンジンECU24、インバータECU26並びにバッテリECU28からの情報などに応じて、図示しないアクチュエータを駆動制御してクラッチ4の接続・切断制御及び変速機8の変速段切換制御を行うと共に、これらの制御状態や車両の発進、加速、減速など様々な運転状態に合わせてエンジン2や電動機6を適切に運転するための統合制御を行う。
【0021】
そして車両ECU22は、このような制御を行う際に、アクセルペダル30の踏込量Accを検出するアクセル開度センサ32や、車両の速度Vを検出する車速センサ34(車速検出手段)、電動機6ひいてはエンジン2の回転速度Nを変速機8の入力回転速度として検出する回転速度センサ36、及びブレーキペダル39の踏込操作を検出するブレーキセンサ40などの検出結果に基づき、車両の走行に必要な要求トルクを演算し、この要求トルクから、エンジン2が発生するトルク及び電動機6が発生するトルクを設定している。
エンジンECU24は、エンジン2自体の運転に必要な各種制御を行うと共に、車両ECU22によって設定されたトルクをエンジン2が発生するよう、エンジン2の燃料の噴射量や噴射時期などを制御する。
一方、インバータECU26は、車両ECU22によって設定された電動機6が発生すべきトルクに基づきインバータ20を制御することにより、電動機6をモータ作動または発電機作動させて運転制御する。
【0022】
また、バッテリECU28は、バッテリ18の温度、バッテリ18の電圧、インバータ20とバッテリ18との間に流れる電流などを検出すると共に、これらの検出結果からバッテリ18のSOCを求め、求めたSOCを検出結果と共に車両ECU22に送っている。
ところで、上記したように車両1の惰行運転時においてバッテリ18のSOCが制御範囲の上限近傍に達しておらず充電する余地があるときには、モータ減速モードが選択されクラッチ4が切断される。そして、[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、このときの電動機6の回生トルクは最大発電量を得るべく最大トルクライン上で制御させたいが、エンジン減速モードに比較してかけ離れた制動力、多くの場合にはエンジン減速モードよりも格段に大きな制動力を発生させてしまう。このモード間の制動力の格差により運転者が受ける減速感が相違してしまい、その対策として電動機6の回生トルクを制限すれば発電量が低下してしまうという問題がある。
【0023】
ここで、本発明者は、電動機6の最大トルクライン上では常に最大発電量が得られることから、発電量の観点からは電動機6の回生トルクを最大トルクライン上で制御することが望ましく、かつこの最大トルクライン上においてエンジンブレーキに近い回生トルクが得られる回転域に電動機6の回転速度Nを制御すれば、最大発電量を維持したままエンジンブレーキの場合と同様の制動力を達成できること、及び惰行運転中の電動機6の回転速度Nは、変速機8のシフトダウンタイミングに応じてある程度の範囲内で変更可能なことに着目した。
そこで、このような認識の下に、本実施形態ではモータ減速モードによる車両1の惰行運転時において、最大発電量を維持したまま電動機6の回生トルクをエンジンブレーキに近い値に制御する対策を講じており、以下、当該対策のために車両ECU22がモータ減速モードで実行する制御について説明する。
【0024】
まず、車両ECU22によるモータ減速モードでの制御の説明に先立ち、本実施形態の電動機6の回生トルクの特性をエンジンブレーキの特性と比較して説明する。
図2は電動機6の出力特性と発電特性との関係を示す図である。なお、パラレル型ハイブリッド車両1では、エンジン2及び電動機6の回転が変速機8の各変速段を介して常に等しい条件で駆動輪16側に伝達されることから、図2ではエンジンブレーキと回生トルクとを同一の回転スケールで比較している。
力行制御時の電動機6は、回転速度Nに略反比例する正側の最大トルクラインを上限として力行トルクを発生し、低回転側では、過剰トルクを抑制する制御上の対策として設定されたトルク抑制ラインを上限として力行トルクが制限されている。この力行制御時の出力特性に対して、回生制御ではトルクを正側から負側に反転させた出力特性となり、負側に最大トルクライン及びトルク抑制ラインが設定されている。よって、これらの最大トルクライン及びトルク抑制ラインを上限として、その範囲内で力行トルクや回生トルクを任意に制御可能となっている。
【0025】
そして、回生制御時において、電動機6の回生トルクを最大トルクラインに沿って制御すれば、最大トルクラインの全回転領域(例えば800〜2000rpm)で電動機6は最大発電量を達成し、電動機6の回転が低下して最大トルクラインの下限を経てトルク抑制ラインの領域に進入すると、その発電量は回転低下に伴って次第に低下する。即ち、最大トルクラインの回転領域内である限り、回生トルクを最大トルクライン上に制御すれば電動機6は回転変化に関わらず常に最大発電量を達成可能である一方、最大トルクライン上で電動機6の回転速度Nを調整することにより回生トルクを所定の範囲内(最大トルクラインの上下限と対応する範囲内)で任意に調整可能となる。
このような電動機6の出力特性に基づきモータ減速モードでは回生トルクが制御されるが、本実施形態では、回生トルクに比較してエンジン減速モードで発生するエンジンブレーキが格段に小さなものとなっている。より具体的には、エンジンブレーキの大きさは、電動機6が最大トルクラインの高回転域で発生する下限近傍の小さな回生トルクと近似する値として発生する。
【0026】
これは、エンジンフリクションに起因して自ずと発生するエンジンブレーキに対して、回生トルクは車両1の減速エネルギを電気エネルギとして回収すべく積極的な制御により発生する性質のためである。但し、双方の大小関係にはエンジン2や電動機6の仕様などの種々の要因が影響することから、必ずしも上記関係に限定されるものではない。よって、例えば最大トルクラインの低回転域で発生する上限近傍の大きな回生トルクと近似するようにエンジンブレーキが発生する場合を想定してもよく、この場合でも以下に述べるように問題なく対応可能である。
図3はモータ減速モードによる電動機6の回生トルクの制御状況をエンジン減速モードでのエンジンブレーキの変動状況と比較した説明図である。
エンジン減速モードによる車両1の惰行運転時には、車両ECU22によりクラッチ4が接続されてエンジンブレーキが駆動輪16側に伝達される。これと並行して所定の変速マップに設定された車速Vを基準とする各変速段のシフトダウンタイミングに基づき、車速低下に応じて変速機8が順次シフトダウンされる。なお、本実施形態の変速マップではシフトダウンタイミングが車速Vとして記憶されているが、車速Vに代えて各変速段毎の電動機6の回転速度Nとしてもよい。
【0027】
エンジンブレーキはシフトダウンによる低速ギヤ側への切換毎に絶対値としてステップ的に増加し、その後は車速Vの低下に伴って次第に低下し、以上の変動をシフトダウン毎に繰り返す。車速Vが十分に低下した時点(図では第2速選択時)でエンスト防止のためにクラッチ4が切断され、エンジン減速モードが終了する。エンジンブレーキは変速機8の各変速段を介して駆動輪16側に伝達されるため、惰行運転の開始から終了までの間にエンジンブレーキはシフトダウン毎に変動しながら全体として徐々に増加方向に変移する。
一方、モータ減速モードによる惰行運転時にも同様に順次変速機8のシフトダウンが行われるが、そのシフトダウンは、上記エンジン減速モード用の変速マップとは別に設定された変速マップに基づき実行される。なお、これらの変速マップは予め車両ECU22に記憶されている。
【0028】
モータ減速モード用の変速マップのシフトダウンタイミングは、以下の知見の下に予め設定されている。端的に表現すると、変速マップ上の各変速段のシフトダウンタイミングは、図2に示す最大トルクライン上のエンジンブレーキに近似する回生トルクが得られる回転域に電動機6の回転速度Nを保持するように設定されている。
即ち、モータ減速モードでは最大発電量を達成すべく電動機6の回生トルクが最大トルクライン上で制御されており、図3に示すように、各変速段では最大トルクラインに従って電動機6の回生トルクが車速Vの低下(電動機6の回転低下)に伴って次第に増加すると共に、シフトダウンによる低速ギヤ側への切換毎に絶対値としてステップ的に低下し(回転上昇で回生トルク減のため)、以上の変動をシフトダウン毎に繰り返している。
【0029】
そして、例えばシフトダウンタイミングを早めれば、現変速段での回生トルクが十分に増加する以前に低速ギヤ側への切換によりステップ的に低下することから、全体として回生トルクは低下傾向となり、逆にシフトダウンタイミングを遅延させれば、現変速段での回生トルクが十分に増加した後に低速ギヤ側への切換によりステップ的に低下することから、全体として回生トルクは増加傾向となる。このように各変速段でのシフトダウンタイミングに応じて電動機6の回転速度N、ひいては最大トルクライン上での回生トルクをある程度の範囲内で変更可能であり、一方、最大トルクラインの回転領域内である限り電動機6は最大発電量を達成し続ける。
【0030】
そこで、モータ減速モードにおける各変速段のシフトダウンタイミングは、シフトダウンの前後の回生トルクが共に、その時点の車速Vに対応するエンジンブレーキに対して近似する値となるように設定されている。図3では第6速から第5速へのシフトダウンタイミングの設定例を示しているが、シフトダウンタイミングは、図中にaで示す現変速段による回生トルクの終了点(換言すれば最大値)を決定する一方、図中にbで示す次変速段(低速ギヤ側の変速段)による回生トルクの開始点(換言すれば最小値)をも決定していることが判る。このため、例えば同一車速Vにおいてエンジン減速モードで得られるエンジンブレーキを基準として、回生トルクの最大値aが若干高トルク側となり、回生トルクの最小値bが若干高トルク側となるタイミングとしてシフトダウンタイミングが予め設定されている。他の変速段についても同様の観点からシフトダウンタイミングが予め設定されている(変速制御手段)。
【0031】
但し、元々の変速機8の各変速段は、エンジン2及び電動機6の出力特性や車両重量などの走行性能に直接的に影響する要件を優先して決定されていることから、適切なシフトダウンタイミングを設定できない場合もある。図3では第4速の選択時を例示しており、第4速と第3速との変速比が離間している(いわゆるワイドレシオである)ため、一点鎖線で示すように、シフトダウン前後の回生トルクがエンジンブレーキの上下に位置するようにシフトダウンタイミングを設定すると、第4速での回生トルクが最大トルクラインに従って過剰に増加して終了点が過大になると共に、第3速での回生トルクが同じく最大トルクラインに従って過剰に減少して開始点が過小になってしまう。よって、このときにはシフトダウン前後での回生トルクの落差により大きな変速ショックが生じるという別の問題が発生する。
【0032】
そこで、このような場合を想定して、例えば第3速へのシフトダウン後に回生トルクが過小とならない位置にシフトダウンタイミングが設定されると共に、第4速での回生トルクの過剰な増加を制限して一定トルクを維持するためのトルク制限値がエンジンブレーキより若干高トルク側に設定されている(回生制御手段)。
以上のようにして車速Vに応じた各変速段のシフトダウンタイミング、及び必要に応じてトルク制限値が設定されており、これらの設定値は予め車両ECU22に記憶されている。
【0033】
次に、モータ減速モードで実際に車両ECU22が実行する制御について説明する。
図4はモータ減速モードを実行するための車両ECU22の制御ブロック図である。
例えばアクセル開度センサ32により検出されたアクセル踏込量Accが0、ブレーキセンサ40によりブレーキペダル39の踏込操作が検出されず、且つ車速センサ34に検出された車速Vが所定値以上のときに車両1が惰行運転中であると推定される(惰行運転判定手段)。そして、このような車両の惰行運転時においてバッテリ18のSOCが制御範囲の上限近傍に達しておらず充電する余地があると判定したときに、車両ECU22は上記モータ減速モードを開始する。
このモータ減速モードの開始と同時に車両ECU22はクラッチ4を切断し、モータ減速モードが終了するまでクラッチ4の切断状態を保持する。このためモータ減速モード中にはエンジン2が駆動輪16側から切り離されてエンジンブレーキの伝達が遮断され、駆動輪16には電動機6の回生トルクのみが伝達されることになる。
なお、惰行運転か否かの判定及びモータ減速モードの開始判定は上記要件に限ることはなく、例えば惰行運転の要件であるアクセル踏込量Accは完全な0のみならず、0近傍も含めるようにしてもよい。また、惰行運転の要件として、現在の変速段が所定変速段よりも高速ギヤ側であるなどの要件を追加したり、或いはバッテリ18のSOCに関する要件を省略したりしてもよい。
【0034】
モータ減速モードが開始されると、図4の車両重量算出部42では貨物の積載量に応じて変動する車両1の重量Wが算出され(車両重量検出手段)、路面勾配算出部44では現在車両1が走行中の路面の勾配θが算出され(路面勾配検出手段)、スリップ判定部46では駆動輪16のスリップの有無が判定される(スリップ判定手段)。
なお、車両重量Wや路面勾配θの算出処理、駆動輪16のスリップの有無の判定処理は周知技術であるため詳細は述べないが、例えば車両重量Wは、特開2001−304948号公報に記載のように、エンジントルクにより発生する車両1の駆動力を空気抵抗などで補正した上で、車速Vから求めた車両1の実加速度を路面勾配θにより補正した値で除算することにより算出できる。
【0035】
また、路面勾配θは、例えば特開2003−097945号公報に記載のように、加速度センサにより検出された前後加速度から車輪速センサにより検出された実際の前後加速度を減算することで路面勾配θに起因する加速度を求め、この路面勾配θによる加速度を角度換算して求めることができる。また、駆動輪16のスリップの有無は、例えば駆動輪16の回転速度を左右の従動輪の平均回転速度と比較することにより判別でき、駆動輪16の回転速度が従動輪の平均回転速度よりも所定値以上大きい場合にスリップ判定を下せばよい。
シフトタイミング補正部48には車両重量算出部42から車両重量Wが入力されると共に、路面勾配算出部44から路面勾配θが入力され、さらに車速センサ34により検出された車速Vが入力される。シフトタイミング補正部48では、上記知見に基づき設定された変速マップから車速Vに対応する次変速段へのシフトダウンタイミングが読み出され、そのシフトダウンタイミングが上記各入力情報に基づき補正される。この補正処理のために、予め車両ECU22は各入力情報毎に補正値kを算出するためのマップが記憶されている。
【0036】
図5は補正値算出用のマップを示す図である。ここで、路面勾配θについては降板路の場合のみが考慮され、登坂路の場合には考慮せずに補正は行われない。図に示すように、車両重量Wが大きいほど、降板路の勾配θが急であるほど、車速Vが高いほど、マップから補正値kが小さな値として算出される。読み出された各補正値kはシフトダウンタイミング(=車速V)に乗算され、これにより車両重量Wが大きいほど、降板路の勾配θが急であるほど、車速Vが高いほどシフトダウンタイミングは低車速側に補正される。なお、この例では共通のマップから各補正値kを算出しているが、入力情報毎に別特性のマップを設定してもよい。
【0037】
このようにしてシフトダウンタイミングが補正されると共に、このシフトダウンタイミングに基づきその時点の電動機6の目標回生トルクが算出される。
具体的には、上記したように車両1の惰行運転中の目標回生トルクは基本的に最大発電量を達成可能な最大トルクライン上で設定されるため、シフトダウンタイミング以外のときには電動機6の回転速度Nに対応する値として目標回生トルクが設定される。また、各変速段のシフトダウン時にはギヤ同期のために瞬間的に目標回生トルクが正側の値に反転される一方、上記のようにワイドレシオなどに起因する過剰な回生トルクを制限するトルク制限値が設定されている変速段では、このトルク制限値に基づき目標回生トルクが制限される。
シフトダウンタイミング補正部48からは目標回生トルクが回生制御部50に出力されると共に、シフトダウンタイミングが変速制御部52に出力される。回生制御部50では入力された目標回生トルクが電動機6を駆動制御するための指令値としてインバータECU26に出力され、インバータECU26の駆動制御により電動機6が目標回生トルクを達成するように運転される。
【0038】
また、変速制御部52にはシフトダウンタイミング補正部48からのシフトダウンタイミングと共に、上記したスリップ判定部46からスリップ判定情報が入力される。変速制御部52では、スリップ判定情報を考慮した上で実際のシフトダウンタイミングが決定され、そのシフトダウンタイミングに従って変速機8のアクチュエータが駆動制御されて現変速段が低速ギヤ側の次変速段へと切り換えられる。
具体的には、スリップ判定情報に基づき駆動輪16にスリップ無しと見なしたときには、シフトダウンタイミング補正部48から入力されたシフトダウンタイミングに従って時変速段への変速が実行される。これに対してスリップ判定情報からスリップ有りと見なしたときには、未だシフトダウンタイミングに至っていなくても直ちに変速が実行される。
なお、回生制御部50からは変速制御部52にも目標回生トルクが出力され、当該値が正常範囲の上限値を超えるときには変速制御部52により直ちにシフトダウンが実行されて回生トルクの制限が図られる。
これらの電動機6の回生制御と変速機8の変速制御が協調して実行されることで、図3に示すように、モータ減速モードによる車両1の惰行運転中には電動機6の回生トルクが最大トルクラインに沿って制御されながら、車速Vの低下に伴って変速機8が順次低速ギヤ側の変速段へとシフトダウンされる。図中に破線で示すように、車速Vが十分に低下した時点でエンジン減速モードは終了する。
【0039】
このように惰行運転時には電動機6が最大トルクライン上で回生制御されると共に、このときクラッチ4が切断されていることから、車両1の減速エネルギの全てを電動機6の回生発電に利用して最大発電量を実現できる。よって、回生電流をバッテリ18に充電してその後の電動機6による走行に有効利用でき、もって燃費節減に大きく貢献させることができる。
そして、上記したように変速マップ上の各変速段のシフトダウンタイミングは、シフトダウンの前後の回生トルクが共にエンジン減速モードで車速Vに応じて発生するエンジンブレーキと近似する値となるようなタイミングに設定されている。このため、モータ減速モードによる惰行運転中の電動機6はエンジンブレーキ近傍のトルクが得られる回転域に保持され、結果として電動機6は何れの変速段でもエンジンブレーキ近傍のトルクを発生して車両1を制動し、エンジン減速モードと同様の減速感を実現することができる。このためエンジン減速モードとモータ減速モードとの間の制動力の格差に起因する減速感の相違を解消でき、もって運転者の違和感を未然に防止することができる。
【0040】
また、図3に示す第4速選択時のように、ワイドレシオの変速段については、トルク制限値に基づき第4速での回生トルクの過剰な増加を制限するようにした。よって、シフトダウン前後での回生トルクの落差の増大を抑制でき、もって変速ショックの発生を未然に防止することができる。なお、トルク制限値の制限により電動機6の回生トルクが最大トルクラインを外れて発電量が低下するが、発電量の低下は一時的なものに過ぎないため、より重要事項である変速ショックの防止を優先しているのである。
また、変速マップから読み出した各変速段のシフトダウンタイミングを、車両重量Wが大きいほど、降板路の勾配θが急であるほど、車速Vが高いほど低車速側に補正し、補正後のシフトダウンタイミングに基づき変速機8を変速制御するようにした。図3に示すように、各変速段では最大トルクラインに沿って車速Vの低下と共に回生トルクが次第に増加して車両1に大きな制動力が作用する。
車両重量Wが大きいほど駆動輪16がスリップし難くなると共に、減速のために大きな制動力が必要になり、降板路の勾配θが急であるほど減速のために大きな制動力が必要になり、車速Vが高いほど減速のために大きな制動力が必要になるが、これらの要求に応じてシフトダウンタイミングが低車速側に補正されて制動力が増加する。よって、車両重量W、降板路の勾配θ、或いは車速Vに関わらず常に適切な制動力を実現でき、もって過剰な制動力による駆動輪16のスリップを防止した上で車両1を確実に減速させることができる。
【0041】
また、車両1の惰行運転中に駆動輪16にスリップが発生したときには、未だシフトダウンタイミングに至っていなくても直ちに変速を実行するようにした。図3に示すように、電動機6の回生トルクはシフトダウン時に減少方向にステップ的に移行することから、スリップ判定に応じてシフトダウンが実行されることによりスリップを抑制でき、スリップにより不安定に陥った車両1の走行を安定させることができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、ハイブリッド電気自動車1をトラックとして構成したが、これに限ることはなく、例えば乗用車に具体化してもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、一般的な手動変速機をベースとしてクラッチ4の断接操作及び変速段の切換操作を自動化した変速機8を用いたが、いわゆるデュアルクラッチ式変速機を用いてもよい。当該デュアルクラッチ式変速機は、奇数段と偶数段とに分けた歯車機構をそれぞれクラッチを介して電動機6側と連結して構成され、一方の歯車機構のクラッチを接続して動力伝達しているとき、他方の歯車機構のクラッチを切断して次に予測されるギヤ段に予め切り換えておき、変速タイミングになると両クラッチの断接状態を逆転させて他方の歯車機構による動力伝達を開始するものである。このようなデュアルクラッチ式変速機においても、上記実施形態で述べた対策を行うことにより同様の作用効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、変速マップから読み出したシフトダウンタイミングを車両重量W、路面勾配θ、車速Vに基づき補正し、且つスリップ発生時にはシフトダウンタイミングに関わらず直ちにシフトダウンを行ったが、これらに限るものではない。例えば何れかの要件を省略してもよいし、或いは全ての要件を省略して、変速マップから読み出したシフトダウンタイミングをそのまま変速制御に適用してもよい。
【符号の説明】
【0043】
2 エンジン
4 クラッチ
6 電動機
8 変速機
16 駆動輪
22 車両ECU
(惰行運転判定手段、回生制御手段、変速制御手段、
車両重量検出手段、路面勾配検出手段、スリップ判定手段)
34 車速センサ(車速検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機を介して電動機を車両の駆動輪に連結すると共に、該電動機に対してクラッチを介してエンジンを連結して構成され、アクセルオフにより上記車両が減速する惰行運転時に、上記クラッチを接続して上記エンジンによるエンジンブレーキを変速機を経て駆動輪に伝達して車両を減速させるエンジン減速モード、または上記電動機による回生トルクを変速機を経て駆動輪に伝達して車両を減速させるモータ減速モードの何れかを選択的に実行するハイブリッド電気自動車において、
上記車両の惰行運転を判定する惰行運転判定手段と、
上記惰行運転判定手段により惰行運転中と判定され、且つ上記モータ減速モードが選択されているとき、上記電動機とエンジンとの間のクラッチを切断すると共に、上記電動機の回生トルクを最大発電量が得られる負側の最大トルクライン上で制御する回生制御手段と、
上記モータ減速モードによる惰行運転時において車速低下に伴って上記変速機をシフトダウンするとき、上記最大トルクライン上における上記エンジン減速モードによるエンジンブレーキ近傍の回生トルクが得られる上記電動機の回転域で上記変速機のシフトダウンを実行する変速制御手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の回生制御装置。
【請求項2】
上記回生制御手段は、上記変速機の現変速段と低速ギヤ側の次変速段との離間に起因して上記最大トルクライン上での制御により上記電動機の回生トルクが上記エンジンブレーキに比較して過剰に増加するときには、上記次変速段へのシフトダウンまで上記回生トルクを一定に維持することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の回生制御装置。
【請求項3】
上記車両の重量を検出する車両重量検出手段を備え、
上記変速制御手段は、上記車両重量検出手段により検出された車両重量が大きいほど上記シフトダウンのタイミングを低車速側に補正し、該補正後のタイミングに基づきシフトダウンを実行することを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド電気自動車の回生制御装置。
【請求項4】
上記車両が走行中の路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備え、
上記変速制御手段は、上記路面勾配検出手段により検出された路面勾配が降板路側であるとき、該降板路の勾配が急であるほど上記シフトダウンのタイミングを低車速側に補正し、該補正後のタイミングに基づきシフトダウンを実行することを特徴とする請求項1乃至3の何れか記載のハイブリッド電気自動車の回生制御装置。
【請求項5】
上記車両の速度を検出する車速検出手段を備え、
上記変速制御手段は、上記車速検出手段により検出された車速が高いほど上記シフトダウンのタイミングを低車速側に補正し、該補正後のタイミングに基づきシフトダウンを実行することを特徴とする請求項1乃至4の何れか記載のハイブリッド電気自動車の回生制御装置。
【請求項6】
上記車両の駆動輪のスリップを判定するスリップ判定手段を備え、
上記変速制御手段は、上記スリップ判定手段によりスリップが判定されたときには、上記シフトダウンのタイミングに達していない場合でもシフトダウンを実行することを特徴とする請求項1乃至5の何れか記載のハイブリッド電気自動車の回生制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−116272(P2012−116272A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266583(P2010−266583)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】