説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】 DPFを通過するガス流量を適切に制御することで、DPF後部の温度上昇を抑えて過昇温を防ぎ、かつDPF前部の温度低下による燃費悪化を防止する。
【解決手段】 エンジン1の排気通路2に設置したDPF3を昇温制御するために、ECU6は、DPF3の温度を所望の再生目標温度に維持可能な熱の持ち去り量となるDPF通過ガスの目標ガス流量を算出する。吸気スロットル42開度による新気量制御等により、DPF通過ガスを目標ガス流量に制御し、ガス流量の増量を最小限とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気通路にパティキュレートフィルタを備えた内燃機関の排気浄化装置に関し、詳しくはパティキュレートフィルタ再生中の過昇温防止に関する。
【背景技術】
【0002】
環境対策として、内燃機関からの排出ガスを触媒やフィルタで処理し、有害成分の放出を抑制する排気浄化装置が重要となっている。一例として、ディーゼルエンジン排気管の途中にディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFと記載)を設置し、排出されるパティキュレート(以下、PMと記載)を捕集する排気浄化装置が知られている。DPFは、例えば、DPFの前後差圧から推定されるPM堆積量を基に、定期的に堆積したPMを焼却除去することで再生される。
【0003】
かかる排気浄化装置については、現在、DPFの過昇温が問題点として指摘されている(例えば特許文献1等)。これは、DPFに堆積したPMが急速に燃焼することによって生じ、DPF温度が急激に上昇して、DPFの破損および担時された触媒の劣化をまねくおそれがある。この過昇温は、特に、高負荷運転によりDPFへ流入する排気温度が高い場合、またはDPF再生中の昇温操作によりDPFが高温となっている状態から、車両の運転状態の変化によりDPF通過ガス流量が急減量する場合に発生しやすい。これは、図2(a)に示すように、ガスによる放熱量が急減少し、DPF温度が急上昇するためである。このような状況では、過昇温を防ぐために温度上昇を抑える必要がある。
【特許文献1】特開2004−068804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、温度上昇を抑えるためにDPFへ流入する熱量を減らす操作(例えば排気温度を下げる、未燃HC供給を停止する等)を行っても、DPF後部はその上流部の発熱量を通過ガスを媒介として受け取るため、上流部全てが冷えなければ温度は低下せず、過昇温の抑制が難しい。そこで、DPFを通過するガス流量を増量し、ガスによる放熱量を増やすことで迅速にDPF後部の温度上昇を抑える必要がある。例えば、特許文献1には、過昇温のおそれがある時に、DPFに流入するガス量を増大させる制御を行うことが記載されている。
【0005】
しかしながら、DPF再生中にガス流量を増量しすぎると、DPF前部の温度が大幅に低下する。このため、再度温度を上昇させるのに無駄な燃料を消費することになり、燃費悪化をまねくという不具合がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、DPFを通過するガス流量を適切に制御することで、DPF後部の温度上昇を抑えて過昇温を防ぎ、かつDPF前部の温度低下による燃費悪化を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するために、請求項1の内燃機関の排気浄化装置は、内燃機関の排気通路途中に排ガス中のパティキュレートを捕集するパティキュレートフィルタと、パティキュレートフィルタを昇温して所望の温度に維持する昇温制御手段を有する。上記昇温制御手段は、上記パティキュレートフィルタの温度を所望の温度に維持可能な熱の持ち去り量となるように、上記パティキュレートフィルタ通過ガスの目標ガス状態を算出する目標ガス状態算出手段と、上記目標ガス状態となるように上記パティキュレートフィルタ通過ガスのガス流量を制御するガス流量制御手段とを有している。
【0008】
運転状態の変化による過昇温は、ガス流量の急減により放熱量が急減少した場合に生じやすい。そこで本発明では、パティキュレートフィルタが所望の温度へ維持されるような熱の持ち去り量となるように、パティキュレートフィルタ通過ガスの目標ガス状態を算出し、この目標ガス状態となるようにガス状態を制御する。これにより排出ガスの増量を必要最小限に抑え、パティキュレートフィルタ後部の温度上昇を抑えて過昇温を防ぎ、かつ前部の温度低下による燃費悪化を防止することができる。
【0009】
請求項2において、上記目標ガス状態算出手段は、パティキュレートフィルタを所望の温度に維持するために必要な過不足熱量を算出し、該過不足熱量と上記パティキュレートフィルタ通過ガスへの熱の授受量が等しくなるように、上記パティキュレートフィルタ通過ガスの目標ガス状態を算出する。
【0010】
具体的には、パティキュレートフィルタの温度は、パティキュレートフィルタ通過ガスによる入放熱量とパティキュレートフィルタ内部の発熱量とによって決まる(図2)。そこで、パティキュレートフィルタに供給される総熱量とこれを所望の温度に維持するために必要な熱量とから過不足熱量を算出し、この過不足熱量が、パティキュレートフィルタ通過ガスによって授受される熱量と一致するガス状態、例えばガス流量を目標値とすることで、パティキュレートフィルタ温度を維持し過昇温の防止と燃費悪化抑制を両立させることができる。
【0011】
請求項3において、上記目標ガス状態算出手段は、上記パティキュレートフィルタ温度分布情報に基づき、上記パティキュレートフィルタ内の最高温度が維持されるように、上記パティキュレートフィルタ通過ガスの目標ガス状態を算出する。
【0012】
パティキュレートフィルタはガス流れ方向に温度分布を有するので、この内部温度分布から、パティキュレートフィルタ内の最高温度が維持されるように目標ガス状態を算出してもよい。これにより、DPFを集中定数系で扱っている方法に対して、より精度よく目標ガス状態を算出できる。
【0013】
請求項4において、上記目標ガス状態は、目標ガス流量または目標ガス温度を含む。
【0014】
具体的には、目標ガス状態として、パティキュレートフィルタを通過するガス流量の目標値を設定する。あるいは、パティキュレートフィルタを通過するガス温度の目標値その他のガス状態を表す値を用いることもできる。
【0015】
請求項5において、上記目標ガス状態は目標ガス流量であり、上記目標ガス状態算出手段は、現在までの運転状態の履歴を基に、内燃機関の回転数および負荷のうち少なくとも一方が高い側から低い側へ移行した場合に、上記パティキュレートフィルタ通過ガスの目標ガス流量に対して増量補正を行う。
【0016】
あるいは、現在までの運転状態の履歴から、パティキュレートフィルタを所望の温度に維持するために必要な目標ガス流量を算出することもできる。具体的には、高回転数または高負荷の運転状態から低い側へ変化した時に、パティキュレートフィルタの温度が急上昇しやすいので、目標ガス流量を増量することで、温度上昇を速やかに抑制できる。
【0017】
請求項6において、上記目標ガス状態は目標ガス流量であり、上記ガス流量制御手段は、上記パティキュレートフィルタ通過ガス流量が上記目標ガス流量となるように、内燃機関からの排出ガス量を操作する。
【0018】
上記パティキュレートフィルタを通過するガス流量は、内燃機関からの排出ガス量によって決まるので、これが所望の流量となるように流量操作を行うことによって、パティキュレートフィルタを所望の温度に維持することができる。
【0019】
請求項7において、上記ガス流量制御手段は、吸気通路の吸気スロットル開度の調整量、EGR装置のEGR制御弁開度の調整量、および、排気タービン過給機のタービン回転力の調整量のうちの1つまたは複数の調整量の増減制御を組み合わせて新気量をフィードバック制御することことにより、内燃機関からの排出ガス量を操作する。
【0020】
具体的には、内燃機関からの排出ガス量は、吸気スロットル開度やEGR制御弁開度またはタービン回転力を変化させることにより制御できる。排気タービン過給機は、通常、ノズルベーン開度を変化させてタービン回転力を増減制御する。また、排気タービン過給機が電動機を備える電動機付タービン過給機の場合は、電動機の駆動力を増減制御してタービンを強制駆動することにより排ガス量を操作してもよい。この場合、排気エネルギーの少ない低回転領域で電動機によりタービンを強制駆動することで、速やかに排出ガス量を制御できる。また、パティキュレートフィルタ通過ガスの流量は、吸気通路に導入される新気量と等しいため、これをフィードバックして、新気量と目標ガス流量との偏差に応じて吸気スロットル等の開度を制御することで、パティキュレートフィルタ通過ガス流量を目標ガス流量近傍に維持できる。
【0021】
請求項8において、上記ガス流量制御手段は、請求項6の新気量制御において吸気通路の吸気圧が所定値以下とならないようなガードを設定する。
【0022】
パティキュレートフィルタ通過ガス流量を目標ガス流量に維持するために、新気量を過剰に減量すると、吸気圧が過剰に負圧となってシリンダ内にオイルパンからオイルが上がりやすくなる。これを防ぐために、吸気圧に応じて吸気スロットル等の開度を制限することで、シリンダ内の燃焼の悪化やオイル消費量の増大を回避することができる。
【0023】
請求項9において、上記ガス流量制御手段は、内燃機関の出力軸と駆動軸との間のスリップ率と車速に応じて機関回転数を変化させて、内燃機関からの排出ガス量を増量操作する。
【0024】
パティキュレートフィルタ通過ガス流量の増量量はエンジン回転数によって制限される。このため、アイドル運転時といった低回転の運転領域でガス流量を目標ガス流量まで増量できずに、過昇温が発生するおそれがある。このような場合には、これを回避するため、エンジン出力軸と車両の駆動軸のスリップ率に応じてエンジン回転数を上げて、必要なガス流量を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を適用したディーゼルエンジンの排気浄化装置について図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態のシステム構成図である。図中、ディーゼルエンジン1の排気通路2を構成する排気管2a、2b間にディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)3が設置されている。DPF3は公知の構造のセラミック製フィルタであり、例えば、コーディエライト等の耐熱性セラミックスをハニカム構造に成形して、ガス流路となる多数のセルを入口側または出口側が互い違いとなるように目封じしてなる。エンジン1から排出された排気ガスは、DPF3の多孔性の隔壁を通過しながら下流へ流れ、その間にパティキュレート(PM)が捕集されて次第に堆積する。
【0026】
DPF3には、通常、酸化触媒が担持される。これにより、排気通路2に供給される炭化水素(HC)が触媒燃焼し、排気温度が上昇してDPF3を昇温する。触媒反応を利用すると、少ない燃料で効率の良い昇温を行なえる利点がある。なお、DPF3に酸化触媒が担持しない構成としたり、酸化触媒を別体としてDPF3の上流に配置する構成とすることもできる。
【0027】
DPF3の上流側の排気管2aおよび下流側の排気管2bには、それぞれ温度検出手段となる排気温センサ51、52が設置される。排気温センサ51、52はECU6に接続されており、DPF3の入ガス温度または出ガス温度を検出して、ECU6に出力する。エンジン1の吸気管4には、エアフローメータ(吸気センサ)41が設置されて吸気量をECU6に出力するようになっている。エアフローメータ41下流の吸気管4には、吸気スロットル42が設置されており、ECU6の指令で吸気量を増減する。また、吸気圧センサ43にて吸気スロットル42下流の吸気の圧力を検出するようになっている。
【0028】
エンジン1の吸気管4は、EGRバルブ7を備えたEGR配管71によって、上流側の排気管2aと連通しており、EGRバルブ7はECU6の指令で吸気に還流する排気量(EGR量)を増減する。また、エアフローメータ41と吸気スロットル42の間に、可変容量ターボチャージャ(排気タービン過給機)の吸気コンプレッサ91が設けられ、排気管2aに設けられる排気タービン92と図示しないタービン軸を介して連結される。可変容量ターボチャージャは公知の構造で、排気ガスにて回転駆動される排気タービン92と吸気コンプレッサ91を同軸に結合し、吸気コンプレッサ91にて吸気を圧縮してエンジン1に供給する。排気タービン92は、導入排気流速を調整するための可変ノズル(図略)を有し、エンジン1の運転状態に応じた所定の過給圧が得られるように、ECU6の指令でノズルベーン(VNT)開度を制御する。
【0029】
排気管2a、2bには、DPF3にて捕集されたパティキュレートの量(PM堆積量)を知るために、DPF3の前後差圧を検出する差圧センサ8が接続される。差圧センサ8の一端側はDPF3上流の排気管2aに、他端側はDPF3下流の排気管2bにそれぞれ圧力導入管81、82を介して接続されており、DPF3の前後差圧に応じた信号をECU6に出力する。
【0030】
ECU6には、また、アクセル開度センサや回転数センサといった図示しない各種センサが接続されている。ECU6は、これらセンサからの検出信号を基に運転状態を検出し、運転状態に応じた最適な燃料噴射量、噴射時期、噴射圧等を算出して、エンジン1への燃料噴射を制御する。ECU6は、さらに、DPF3の再生制御を行ない、DPF3へのPM堆積量が予め設定した所定量を超えた時に、昇温手段を操作してDPF3を昇温し、堆積したPMを焼却除去する。このDPF3の再生制御について、次に説明する。
【0031】
DPF3へのPM堆積量は、例えば、差圧センサ8により検出されるDPF前後差圧から推定されるPM堆積量を基に推定する。排気流量が一定の場合には、PM堆積量が多いほどDPF前後差圧が増加するので、この関係を予め調べておくことでPM堆積量を知ることができる。あるいは、各種センサ出力から知られるエンジン運転条件を基にPM排出量を算出し、これを積算してPM堆積量を推定することもできる。これらの方法を組み合わせることもできる。
【0032】
昇温手段として、具体的には、ポスト噴射、燃料噴射時期遅角(リタード)、吸気スロットル42による吸気絞り、あるいは、EGR制御弁7によるEGR増量等が挙げられる。また、吸気用インタクーラを備えるエンジンにおいてインタクーラバイパスを行うこともできる。これらの操作により、排気通路2に供給される未燃HCが酸化反応により発熱し、または、エンジン1から排出される排気温度が上昇して、DPF3に高温の排気を供給する。昇温手段としては、これらのうちいずれか1つの操作を行っても、複数の操作を組み合わせてもよい。
【0033】
ECU6は、これら昇温手段を操作して、DPF3を所望の温度に維持することによりDPF3を再生する(昇温制御手段)。DPF3の再生に必要な温度(目標再生温度)は、一定の所定値(例えば650℃)としても、PM堆積量等に応じて多段階に変更してもよい。この場合、PM堆積量が多い再生初期は、目標再生温度を所定値より低くして安全性を確保し、燃焼によりPM堆積量が少なくなったら目標再生温度を大きな値とすることで、効率的な再生が可能である。
【0034】
ここで、昇温制御手段は、昇温操作量を制御するとともに、DPF3を通過するガス流量を制御して、DPF3を目標再生温度に維持する。すなわち、DPF3を目標再生温度に維持するために必要な熱の持ち去り量となるように、目標ガス状態算出手段が、DPF通過ガスの目標ガス状態、具体的には目標ガス流量を算出し(以降、目標ガス流量算出手段と称する)、DPF通過ガスのガス流量がこの目標ガス流量となるように制御する(ガス流量制御手段)。
【0035】
図2(a)に示すように、従来の制御方法では、DPF3の再生中に運転状態が変化して(例えば減速運転)、ガス流量が急減すると、DPF3の温度が急上昇して過昇温に至ることがある。これは、再生温度一定(DPF通過ガスによる入熱量+DPF内部の発熱量=DPF通過ガスへの放熱量)の状態から、流量減によりDPF通過ガスによって持ち去られる熱量が急減少するためで、入熱量と発熱量の和が放熱量を上回って温度が上昇する。これを回避するには、図2(b)に示すように、運転状態が変化しても、
入熱量+発熱量=放熱量
の関係が維持されるように、つまり、所望の再生温度に維持できる熱の持ち去り量となるように、DPF通過ガスのガス流量を制御するのがよい。
【0036】
そこで、目標ガス流量算出手段は、DPF3の温度を維持するための過不足熱量を算出し、DPF通過ガスによって授受される熱量が、この過不足熱量と等しくなる目標ガス流量を算出する。具体的には、図3に示すように、過不足分熱量ΔQは、DPF内部のHC燃焼やPM燃焼による発熱等による総熱量Qrと、DPF温度を流入ガス温度から目標再生温度(例えば650℃)まで上昇させるのに必要な熱量Qbから、
ΔQ=Qr−Qb
と算出する。また、DPF通過ガスへの放熱量Qout は、DPF3から排出されたガスの持つ熱量QinとDPF3へ流入したガスの持つ熱量Qexから、
Qout =Qex−Qin
と算出する。ここで、流入ガス温度をTin、流出ガス温度をTex、ガス量をMgas 、ガス比熱をCpとすると
Qex=Cp×Mgas ×Tex
Qin=Cp×Mgas ×Tin
の関係があるので、この放熱量Qout が過不足熱量ΔQに等しくなるガス量Mtrg は
Mtrg =ΔQ/{Cp×( Tex−Tin)}
と算出でき、これを目標ガス流量とする。
【0037】
この目標ガス流量を用い、DPF通過ガス流量が目標ガス流量となるように制御することで、熱の授受量が過不足熱量と等しくなる。よって、DPF3を目標再生温度以上に上昇させる余剰の熱量を、DPF通過ガスによってDPF3外へ放出できるので、DPF3の温度は目標温度に維持される。目標ガス流量の代わりに目標ガス温度(流入ガス温度、流出ガス温度など)を設定するようにしてもよい。
【0038】
または、図4、5に示すように、DPF3の内部温度分布から、DPF3内の最高温度が維持されるように、目標ガス流量を算出してもよい。この方法では、DPF3を集中定数系で扱っている上記図3の方法に対して、より精度よく目標ガス流量を算出できる。この場合、図4に示すように、DPF3内の最高温度の位置(図5中にPmaxで示す)における過不足熱量ΔQmax は、位置PmaxにおけるHC燃焼やPM燃焼による発熱量と熱伝導量の総熱量Qrmax、位置Pmaxに流入するガスの熱量Qfr、および位置Pmaxの温度を目標再生温度に維持する熱量Qbmaxから算出する。そして、ΔQmax とそのPmaxの上下流位置(図5中にPfr、Prr で示す)のガス温度(図5中Tfr、Trrで示す)から、Pmaxの温度を維持するようなガス流量を算出する。
【0039】
この場合も、DPF通過ガス流量がこの目標ガス流量と一致するように制御することで、DPF3内の最高温度を目標再生温度に維持し、DPF3が過昇温となるのを確実に防止することができる。あるいは、現在までの運転条件の履歴、例えば図2(b)に示すような高負荷から低負荷、あるいは高回転から低回転への減速運転が発生した際にも、パティキュレートフィルタを所望の温度に維持するために必要な目標ガス流量を算出し、これに基づいてDPF通過ガス流量を制御することもできる。
【0040】
ガス流量制御手段は、具体的には、DPF通過ガス流量が目標ガス流量になるように、エンジン1からの排出ガス量を制御する。例えば、図1に示した排気浄化装置構成では、排出ガス量=DPF通過ガス流量+EGR量=新気量+EGR量であるため、DPF通過ガス流量は新気量に等しい。従って、新気量をフィードバックし、新気量と目標ガス流量との偏差に応じて、
吸気スロットル42開度を操作して吸気管の圧損を変化させる、
または、EGR制御弁71開度を操作して、EGR量を変化させる、
または、タービン92のノズルベーン開度を操作して、タービン回転力を増減調整し、排気圧損および過給圧を変化させる、
等により吸気圧を操作して、新気量を目標ガス流量近傍に維持させる。また、排気タービン過給機が電動機を備える電動機付タービン過給機の場合は、電動機の駆動力を増減制御してタービンを強制駆動することにより吸気圧を操作してもよい。電動機付タービン過給機を備える場合は、排気エネルギーの少ない低回転領域で電動機によりタービンを強制駆動することで、速やかに排出ガス量を制御できる。または、上記操作の複数の組み合わせにより、DPF通過ガス流量の制御を行ってもよい。
【0041】
ここで、新気量を過剰に減量すると、吸気圧が過剰に負圧となりシリンダ内にオイルパンからオイルが上がりシリンダ内の燃焼の悪化やオイル消費量の増大といった問題が生じる。これを防ぐために、吸気圧に応じて、吸気スロットル42開度、EGRバルブ71開度、ノズルベーン開度を制限することで、吸気圧が過剰な負圧になることを避けるのがよい。
【0042】
さらに、DPF通過ガス流量の増量量は、エンジン回転数によって制限される。従って、アイドル運転時といった低回転の運転領域では、ガス流量を目標ガス流量まで増量できず、過昇温が発生してしまう場合がある。これを回避するためには、エンジン出力軸と車両の駆動軸のスリップ率に応じてエンジン回転数を上げて、必要なガス流量を確保するとよい。図6に示すように、スリップ率100% 近傍(出力軸と駆動軸が独立した状態。例えばMT車でクラッチOFFの状況)の場合は、目標ガス流量に到達しうる回転数までエンジン回転数を増やし、必要なガス流量を確保する。これにより、必要なガス流量を確保して過昇温を防止することができる。ただし、現在の車速に対して過剰に回転数を上げると、ドライバーの操作によりクラッチが繋がりスリップ率が0%になった場合に車両が暴走するおそれがあり、車速に応じて回転数の上限を設定して、この範囲内で回転数を変化させる。
【0043】
図7〜12に本実施形態によるECU6の動作フローを示す。
図7は、DPF3の昇温制御の基本動作を示すフローチャートであり、まず、ステップ100でDPF3内部の温度分布を推定する。本実施形態では、DPF3のガス流れ方向に10点の温度推定点を設定し、DPF3を10個の領域(セル)に分割して、各セルの温度を推定することで温度分布を求める。図8(a)は温度分布を推定するための処理で、ステップ101〜110の各ステップで各セルの熱収支を計算する。各セルの熱収支は、図8(b)に示すセルの熱収支モデルを用いて計算する。
【0044】
図8(b)のセル熱収支モデルにより、各セル毎に、セル内のDPF基材とガスの熱伝達量、HC発熱量、PM発熱量、上流側および下流側のセル基材温度を基に熱伝導量を算出し、セルが授受した熱量を算出する。この授受した熱量とセルの熱容量から温度上昇量を算出しセル基材温度を算出する。同時にHC減少量、PM減少量、O2 消費量を計算する。この熱収支計算を10個のセル1〜セル10について行なって、セル基材温度T1〜T10を算出する。T1がDPF3最前端の、T10が最後端の温度推定値である。ガス流量はエアフロメータ41の検出値から、セル1の上流ガス温度は上流側排気温センサ51から、セル1の上流HC量は、運転条件を基に検出する。
【0045】
図7のステップ200では、DPF3の前後差圧および排気流量からPM堆積量を推定する。DPF前後差圧は差圧センサ8の検出値から、排気流量はエアフローメータ41の検出値を基に算出される。続くステップ300では、DPF3が再生中かどうかを判定する。再生中かどうかの判定は、例えば、図示しないDPF3の昇温制御ルーチンにおける再生判定結果を基に行う。昇温制御ルーチンでは、通常、DPF3へのPM堆積量を予め設定した再生開始PM堆積量と比較し、再生開始PM堆積量を超えたら再生の必要があると判定して再生実施フラグをオンにし、昇温操作を開始する。再生実施フラグがオンであり、DPF3が再生中と判断した場合にはステップ400に進み、以降のステップに従ってガス流量制御を行う。DPF3が再生中でなけれ本処理を終了する。
【0046】
ステップ400では、ステップ100のDPF温度分布情報からDPF3内の最高温度を再生目標温度に維持するために必要なガス流量である再生中目標ガス流量GATRGを算出する。図9に再生中目標ガス流量算出ルーチンのブロック図を示す。このルーチンでは、まず、ステップ100で算出したDPF3のセル基材温度T1〜T10、運転条件から算出したDPF3に流入するHC量情報、ステップ200で算出したDPF3へのPM堆積量を基に、DPF3内の最高温度の位置Pmax (図6参照)のHC燃焼による発熱量やPM燃焼による発熱量、熱伝導量を算出し、これら熱量を加算して総熱量Qrmaxを算出する。
【0047】
次いで、過不足熱量ΔQmax を算出する。過不足熱量ΔQmax は、DPF3内の最高温度の位置Pmax の上流位置Pfrのガス温度から再生目標温度まで上昇させるのに必要な熱量Qbmaxと総熱量Qrmaxから、
ΔQmax =Qrmax−Qbmax・・・(1)
と算出することができる(図4参照)。また、放熱量Qout は、DPF3内の最高温度の位置Pmax の下流位置Prrのガスの持つ熱量Qrrと上流位置位置Pfrのガスの持つ熱量Qfrから、
Qout =Qrr−Qfr・・・(2)
と算出する。
ここで、DPF3内の最高温度の位置Pmax の上流位置Pfrのガス温度をTfr、下流位置Prrのガス温度をTrr、ガス量をMgas 、ガス比熱をCpとすると、
Qrr=Cp×Mgas ×Trr・・・(3)
Qfr=Cp×Mgas ×Tfr・・・(4)
の関係があるので、この放熱量Qout が過不足熱量ΔQmax に等しくなるガス量Mtrg は、
Mtrg =ΔQmax /{Cp×(Trr−Tfr) }・・・(5)
と算出できる。これを単位時間あたりのガス流量に換算して再生中目標ガス流量GATRGを算出する。
【0048】
ステップ500では、新気量をフィードバックして、吸気スロットル42開度を変化させ、新気量をステップ400で算出した再生中目標ガス流量近傍に維持する。エンジン1への吸気量(新気量+EGRガス量)=排気量(EGRガス量+DPF通過ガス流量)であり、EGRガス量は等量であるので、DPF3を通過する排気ガス流量は新気量と等しい。従って、吸気スロットル42を操作して新気量を制御することでDPF通過ガス量を制御可能となる。
【0049】
図10は、新気量のフィードバック制御処理の詳細を示すもので、ステップ501ではエアフロメータ41から新気量GAを、ステップ502では吸気圧センサ43から吸気圧PIMを読み込む。続くステップ503では、吸気圧PIMを予め設定した所定値と比較し、吸気圧PIMが所定値以下ならば、過剰な負圧と判定して、ステップ504に進む。ステップ504では、吸気圧PIMが過剰な負圧となることによる不具合を防止するために、吸気スロットル開度THRを前回値THROLDに維持し、吸気スロットル42操作を行わずに本処理を終了する。
【0050】
次いで、ステップ505で、エンジン回転数、要求トルクから、ベーススロットル開度THRBASEを算出する。ベーススロットル開度THRBASEの算出には、例えば、予め実験等を行って作成したマップ等を用いる。このベーススロットル開度THRBASEを、公知のPID制御により補正してスロットル開度THRを算出する。
【0051】
具体的には、まず、ステップ506で、ステップ501で読み込んだ新気量GAとステップ400で算出した再生中目標ガス流量GATRGの偏差EGAを算出する。
EGA←GA−GATRG・・・(6)
この偏差EGAを用い、ステップ507で偏差の積分量IEGAを、ステップ508では微分量DEGAを、それぞれ前回値(i−1)を用いて算出する。
IEGA(i)←IEGA(i−1)+EGA(i)・・・(7)
DEGA(i)←EGA(i) −EGA(i−1)・・・(8)
ステップ509では現在の吸気スロットル開度THRを吸気スロットル開度の前回値THROLDとし、ステップ510で、比例項ゲインKP、積分項ゲインKI、微分項ゲインKDからスロットル開度THRを算出する。
THR←THRBASE+KP・EGA+KI・IEGA+KD・DEGA・・・(9)
【0052】
さらに、図7のステップ600で、エンジン回転数を上げてガス流量を増やす必要があるかを判定する。具体的には、図11に示すように、ステップ601で、クラッチが断絶しているかを判定し、断絶していると判定されたならばステップ602に進む。ステップ602では、ステップ510で算出した吸気スロットル開度THRが全開しているかどうかを判定し、全開(THR=THRMAX)ならばステップ603に進む。ステップ601でクラッチが断絶していない場合、ステップ602で吸気スロットル開度THRが全開でない場合にはステップ606に進む。
【0053】
ステップ603では、新気量GAと再生中目標ガス流量GATRGの偏差ΔGAを算出する。次いで、ステップ604で、ΔGAが負、つまりガス流量が不足しているかどうかを判定する。ΔGAが負である場合は、エンジン回転数増量の必要ありと判断してステップ605に進み、エンジン回転数増量フラグXNEUPをオンにする。ΔGAが負でない場合は、エンジン回転数増量の必要なしと判断してステップ606に進み、エンジン回転数増量フラグXNEUPをオフにする。
【0054】
図7のステップ700では、エンジン回転数増量フラグXNEUPがオンかどうかを判定し、エンジン回転数増量フラグXNEUPをオフの場合は、そのまま本処理を終了する。エンジン回転数を増加させる必要がある場合は、ステップ800に進み、車速に応じてエンジン回転数を上げることにより、ガス流量を増量する。図12に示すように、まず、ステップ801で、車速SPDを読み込み、ステップ802で、目標回転数NETRGを算出する。目標回転数NETRGは充填効率をη、エンジン排気量をLとして、
ETRG=GATRG/ (η×V)・・・(10)
のように算出する。
【0055】
ステップ803では、クラッチを繋げても車両が加速しない許容最大回転数NEMAXを算出する。具体的には、車両の最も小さいギヤ比で、現在の車両の車速となる回転数を算出する。ステップ804では、目標回転数NETRGを許容最大回転数NEMAXと比較し、目標回転数NETRGが許容最大回転数NEMAXより大きい場合は、ステップ805に進む。ステップ805では、許容最大回転数NEMAXを目標回転数NETRGとして回転数を制限し、ステップ806へ進む。目標回転数NETRGが許容最大回転数NEMAX以下である場合は、そのままステップ806に進む。ステップ806では、エンジン回転数が目標回転数NETRGとなるように、噴射量を制御する。
【0056】
以上により、DPF通過ガス流量を再生中目標ガス流量GATRGに制御することができる。よって、過不足熱量ΔQに相当する熱量を、DPF通過ガスによる放熱量Qout としてDPF3外へ放出できるので、DPF3を再生目標温度に維持して過昇温を防止し、また燃費の悪化を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明を適用した内燃機関の排気浄化装置のシステム構成図である。
【図2】(a)は従来の制御方法によるガス流量と再生温度変化を示す図であり、(b)は本発明の制御方法によるガス流量と再生温度変化を示す図で、最適なガス流量に制御することで、DPF温度を維持できることを示す図である。
【図3】DPF温度を維持するために過不足する熱量の算出方法を説明する図である。
【図4】DPF内の最高温度を維持するために過不足する熱量の算出方法を説明する図である。
【図5】DPF内部温度分布を示す図である。
【図6】車速とスリップ率に応じて回転数を上げてDPF通過ガス流量を増量する制御方法を説明するための図である。
【図7】ECUによるDPF通過ガス流量の制御方法を示すフローチャートである。
【図8】(a)はDPF温度分布推定方法を示すフローチャートであり、(b)はセル熱収支計算モデル図である。
【図9】目標ガス流量を算出するためのブロック図である。
【図10】新気量フィードバック制御方法を示すフローチャートである。
【図11】ガス流量増量判定方法を示すフローチャートである。
【図12】ガス流量増量方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1 ディーゼルエンジン(内燃機関)
2 排気通路
2a、2b 排気管
3 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
4 吸気通路
41 エアフロメータ
42 吸気スロットル
43 吸気圧センサ
51、52 排気温センサ
6 ECU
7 EGR制御弁
71 EGR通路
8 差圧センサ
91 タービン
92 コンプレッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路途中に排ガス中のパティキュレートを捕集するパティキュレートフィルタを備える内燃機関の排気浄化装置において、
上記パティキュレートフィルタを昇温して所望の温度に維持する昇温制御手段が、
上記パティキュレートフィルタを所望の温度に維持可能な熱の持ち去り量となるように、上記パティキュレートフィルタ通過ガスの目標ガス状態を算出する目標ガス状態算出手段と、
上記目標ガス状態となるように上記パティキュレートフィルタ通過ガスのガス流量を制御するガス流量制御手段とを有することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
上記目標ガス状態算出手段は、上記パティキュレートフィルタを所望の温度に維持するために必要な過不足熱量を算出し、該過不足熱量と上記パティキュレートフィルタ通過ガスへの熱の授受量が等しくなるように、上記パティキュレートフィルタ通過ガスの目標ガス状態を算出する請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
上記目標ガス状態算出手段は、上記パティキュレートフィルタ温度分布情報に基づき、上記パティキュレートフィルタ内の最高温度が維持されるように、上記パティキュレートフィルタ通過ガスの目標ガス状態を算出する請求項1または2記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
上記目標ガス状態は、目標ガス流量または目標ガス温度を含む請求項1ないし3のいずれか記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
上記目標ガス状態は目標ガス流量であり、上記目標ガス流量算出手段は、現在までの運転状態の履歴を基に、内燃機関の回転数および負荷のうち少なくとも一方が高い側から低い側へ移行した場合に、上記パティキュレートフィルタ通過ガスの目標ガス流量に対して増量補正を行う請求項1または4記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
上記目標ガス状態は目標ガス流量であり、上記ガス流量制御手段は、上記パティキュレートフィルタ通過ガス流量が上記目標ガス流量となるように、内燃機関からの排出ガス量を操作する請求項1ないし5のいずれか記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
上記ガス流量制御手段は、吸気通路の吸気スロットル開度の調整量、EGR装置のEGR制御弁開度の調整量、および、排気タービン過給機のタービン回転力の調整量のうちの1つまたは複数の調整量の増減制御を組み合わせて新気量をフィードバック制御することにより、内燃機関からの排出ガス量を操作する請求項6記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
上記ガス流量制御手段は、吸気通路の吸気圧が所定値以下とならないようなガードを設定する請求項7記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項9】
上記ガス流量制御手段は、内燃機関の出力軸と駆動軸との間のスリップ率と車速に応じて機関回転数を変化させることにより、内燃機関からの排出ガス量を増量操作する請求項6ないし8のいずれか記載の内燃機関の排気浄化装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−189024(P2006−189024A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268162(P2005−268162)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】