説明

窒化物半導体装置およびその製造方法

【課題】GaNを用いた窒化物半導体装置において、電流が流れる経路に、再結晶成長などによる界面が存在することがない状態で、十分な耐圧が得られるようにする。
【解決手段】GaNからなるチャネル層(第2半導体層)101と、チャネル層101の一方の面であるN極性面に形成された第1障壁層(第1半導体層)102と、チャネル層101の他方の面であるIII族極性面に形成された第2障壁層(第3半導体層)103とを備える。第1障壁層102および第2障壁層103は、例えば、AlGaNから構成されている。また、ドレイン電極(第1電極)104が、第1障壁層102の上に形成され、ゲート電極105が、ドレイン電極104に対向して第2障壁層103の上に形成されている。ソース電極(第2電極)106は、ゲート電極105と離間して第2障壁層103の上に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN系半導体を用いた縦型の窒化物半導体装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GaN系半導体は、高耐圧で高移動度を有する半導体であることから、高耐圧で高速に動作可能な半導体装置が実現できる材料として注目されている。例えば、高電力が印加されても絶縁破壊しない高耐圧が要求される電力制御用トランジスタとして、GaN系半導体を用いた窒化物半導体装置である縦型電界効果トランジスタがある。縦型とすることで、素子面積を大きくすることなく、ソース・ドレイン間の距離を大きくしてオン抵抗を下げることが可能となる。例えば、2つのn型GaN層に挟まれたp型GaN層に開口部を形成することで、縦方向(層厚方向)にチャネルを形成した縦型電界効果トランジスタがある(非特許文献1参照)。
【0003】
上述した縦型電界効果トランジスタの製造について簡単に説明すると、まず、図9Aに示すように、n型のGaNもしくはn型のSiCの基板901上に、n型のGaNからなる第1チャネル層902,p型のGaNからなる第1半導体層903,AlNからなる第2半導体層904,ノンドープのGaNからなる第3半導体層905を、順に結晶成長して形成する。
【0004】
次に、図9Bに示すように、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術により、第1半導体層903,第2半導体層904,第3半導体層905に開口部906を形成する。開口部906において、第1チャネル層902の表面を露出させる。
【0005】
次に、図9Cに示すように、第3半導体層905の上に、n型のGaNからなる第2チャネル層907およびAlGaNからなる障壁層908を順に結晶成長する。第2チャネル層907は、開口部906に露出する第1チャネル層902の表面より再成長させることで結晶成長させる。
【0006】
次に、図9Dに示すように、開口部906の位置に合わせて障壁層908の上にショットキー接続するゲート電極910を形成する。また、ゲート電極910の周囲に離間してソース電極911を形成する。ソース電極911は、オーミック接続させて形成する。また、基板901の裏面にドレイン電極912を形成する。
【0007】
この縦型電界効果トランジスタは、ソース電極911とドレイン電極912とが、第1チャネル層902,第2チャネル層907を介して電気的に接続している。ソース電極911を接地電位とし、ドレイン電極912に正のバイアス電圧(ドレイン電圧)を印加した状態で、ゲート電極910に印加するゲート電極で、上記バイアス電圧を制御することにより、ソース・ドレイン間の電気伝導を制御する。
【0008】
この縦型電界効果トランジスタでは、しきい値電圧以上のゲート電圧の印加により、ソース電極911−開口部906−ドレイン電極912というパスで電子が移動することでドレイン電流が流れる。アルミニウムを含む第2半導体層904が存在している領域では、二次元電子ガスの発生が抑制されるため、電子が流れるパスは、開口部906の箇所に制限されるようになる。なお、ゲート電圧がしきい値電圧以下である場合、ゲート電極910直下の第2チャネル層907より電子が出払うので、ソース・ドレイン間に電流は流れない。
【0009】
この縦型電界効果トランジスタでは、導電性の基板901の上に形成しているため、ドレイン電圧が素子全域に印加される構成となっているが、開口部906を有する第2半導体層904を備えているため、ドレイン電流の流れる経路が制限でき、ゲート電圧による制御を可能としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M. Kanechika et al. , "A Vertical Insulated Gate AlGaN/GaN Heterojunction Field-Effect Transistor",Japanese Journal of Applied Physics, Vol.46, No.21, pp.L503-L505, 2007.
【非特許文献2】O.Ambacher et al. , "Two-dimensional electron gases induced by spontaneous and piezoelectric polarization charges in N- and Ga-face AlGaN/GaN heterostructures", JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, vol.85, no.6, pp.3222-3233, 1999.
【非特許文献3】D.M.Hoffman et al. , "Optical properties of pyrolytic boron nitride in the energy range 0.05-10 eV", PHYSICAL REVIEW B, vol.30, no.10, pp.6051-6056, 1984.
【非特許文献4】H. Kinoshita et al. , "Zirconium Diboride (0001) as an Electrically Conductive Lattice-Matched Substrate for Gallium Nitride", Jpn. J. Appl. Phys. , vol.40, pp. L1280-L1282, 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した縦型電界効果トランジスタでは、まず、第1チャネル層902と第2チャネル層907との再成長界面を介してソース・ドレイン間電流が流れるので、界面の結晶性の影響を受けるという問題がある。
【0012】
また、導電性基板上に形成されているため、高いドレイン電圧(バイアス電圧)を印加した場合、ゲート電圧がしきい値電圧以下であっても、ソース電極−第2チャネル層907−第3半導体層905−第2半導体層904−第1半導体層903−第1チャネル層902−基板901のパスで、リーク電流が流れる。このように、上述した縦型電界効果トランジスタでは、GaNを用いているにもかかわらず、オフ耐圧が不十分であるという問題がある。
【0013】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、GaNを用いた窒化物半導体装置において、電流が流れる経路に、再結晶成長などによる界面が存在することがない状態で、十分な耐圧が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る窒化物半導体装置の製造方法は、基板の上に六方晶系の窒化ホウ素からなる分離層を形成する工程と、分離層の上にアルミニウムを含む窒化物半導体からなる第1半導体層を結晶成長する工程と、第1半導体層の上にGaNからなる第2半導体層を結晶成長する工程と、第2半導体層の上に窒化物半導体からなる第3半導体層を結晶成長する工程と、第1半導体層,第2半導体層,および第3半導体層の積層構造と基板とを分離層で分離する工程と、積層構造と基板とを分離した後で、第1半導体層の第1電極形成領域に残る分離層を除去して第1半導体層に第1電極を形成する工程と、第3半導体層の上に第2電極を形成する工程とを少なくとも備える。
【0015】
上記窒化物半導体装置の製造方法において、第2電極を形成した後で、第1電極を形成すればよい。また、第1電極を形成した後で、第2電極を形成してもよい。また、積層構造と基板とを分離する前に、第2電極を形成してもよい。
【0016】
上記窒化物半導体装置の製造方法において、第3半導体層の上の第1電極に対向する箇所にゲート電極を形成する工程を備え、分離層の上には、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有する窒化物半導体からなる第1障壁層としての第1半導体層を結晶成長し、第1障壁層の上には、チャネル層としての第2半導体層を形成し、チャネル層の上には、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有する窒化物半導体からなる第2障壁層としての第3半導体層を結晶成長し、第1障壁層の第1電極形成領域にはドレイン電極となる第1電極を形成し、第2障壁層の上には、ソース電極となる第2電極をドレイン電極に対向する箇所以外の領域に形成することで、縦型の電界効果トランジスタが形成できる。なお、積層構造と基板とを分離する前に、ゲート電極を形成してもよい。
【0017】
上記窒化物半導体装置の製造方法において、第1半導体層の上には、n型のGaNからなる第2半導体層を形成し、第2半導体層の上には、p型のGaNからなる第3半導体層を形成することで、縦型のダイオードが形成できる。
【0018】
また、本発明に係る半導体装置は、アルミニウムを含む窒化物半導体から構成された第1半導体層と、第1半導体層のIII族極性面に形成されたGaNからなる第2半導体層と、第2半導体層のIII族極性面に形成された窒化物半導体からなる第3半導体層と、第1半導体層のN極性面に形成された第1電極と、第3半導体層のIII族極性面に形成された第2電極と少なくとも備える。
【0019】
上記窒化物半導体装置において、第3半導体層のIII族極性面上の第1電極に対向する箇所に形成されたゲート電極を備え、第1半導体層は、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有する窒化物半導体からなる第1障壁層であり、第2半導体層は、チャネル層であり、第3半導体層は、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有する窒化物半導体からなる第2障壁層であり、第1障壁層のN極性面には、ドレイン電極となる第1電極が形成され、第2障壁層のIII族極性面には、ドレイン電極に対向する箇所以外の領域にソース電極となる第2電極が形成されているようにし、縦型電界効果トランジスタとしてもよい。
【0020】
また、上記窒化物半導体装置において、第2半導体層は、n型のGaNから構成され、第3半導体層は、p型のGaNから構成されているようにし、縦型のダイオードとしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したことにより、本発明によれば、GaNを用いた窒化物半導体装置において、電流が流れる経路に、再結晶成長などによる界面が存在することがない状態で、十分な耐圧が得られるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における窒化物半導体装置としての縦型電界効果トランジスタの構成を示す構成図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施の形態における窒化物半導体装置としての縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施の形態における窒化物半導体装置としての縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2C】図2Cは、本発明の実施の形態における窒化物半導体装置としての縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2D】図2Dは、本発明の実施の形態における窒化物半導体装置としての縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2E】図2Eは、本発明の実施の形態における窒化物半導体装置としての縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態における窒化物半導体装置としての縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための途中工程における状態を示す断面図である。
【図4】図4は、サファイア基板の上に窒化ホウ素層およびAlGaN層を介して形成したGaNの層の表面状態を金属顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
【図5】図5は、サファイア基板の上に窒化ホウ素層およびAlGaN層を介して形成したGaNのX線回折分析の結果を示す特性図である。
【図6】図6は、剥離基板の上に剥離・転写されたGaN層およびAlGaN層のX線回折分析の結果を示す特性図である。
【図7】図7は、剥離基板の上に剥離・転写されたGaN層のラマン散乱スペクトルを示す特性図である。
【図8】図8は、剥離基板の上に剥離・転写されたGaN層およびAlGaN層のカソードルミネッセンススペクトルを示す特性図である。
【図9A】図9Aは、縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図9B】図9Bは、縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図9C】図9Cは、縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図9D】図9Dは、縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における窒化物半導体装置の構成を示す構成図である。ここでは、縦型電界効果トランジスタを例に説明する。この縦型電界効果トランジスタは、GaNからなるチャネル層(第2半導体層)101と、チャネル層101の一方の面であるN極性面に形成された第1障壁層(第1半導体層)102と、チャネル層101の他方の面であるIII族極性面に形成された第2障壁層(第3半導体層)103とを備える。言い換えると、第1障壁層102のIII族極性面にチャネル層101が形成され、チャネル層101のIII族極性面に第2障壁層103が形成されている。なお、GaNなどの窒化物半導体の(0001)面である+c面がIII族極性面であり、これに対向する−c面がN極性面である。
【0024】
第1障壁層102は、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有してアルミニウムを含む窒化物半導体から構成されている。また、第2障壁層103は、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有する窒化物半導体から構成されている。例えば、第1障壁層102および第2障壁層103は、AlGaNから構成すればよい。また、第1障壁層102は、AlGaNから構成し、第2障壁層103は、InAlNから構成してもよい。
【0025】
また、ドレイン電極(第1電極)104が、第1障壁層102の上(N極性面)に形成され、ゲート電極105が、ドレイン電極104に対向して第2障壁層103の上(III族極性面)に形成されている。ソース電極(第2電極)106は、ゲート電極105と離間して第2障壁層103の上(III族極性面)に形成されている。例えば、ゲート電極105を挟んで2つのソース電極106が形成されている。また、例えば、ゲート電極105を中心に配置して、リング状にソース電極106が形成されている。
【0026】
上述した本実施の形態における縦型電界効果トランジスタでは、まず、所望とする局所的な領域にドレイン電極104が形成できる。また、チャネル層101は第1障壁層102のIII族極性面上に結晶成長されるため、チャネル層101と第1障壁層102の界面のドレイン電極104の形成領域以外の部分に、チャネル層101と第1障壁層102との分極差に起因する2次元ホールガスが発生し、電子が出払う状態となる(非特許文献2参照)。これらの結果、本実施の形態によれば、ドレイン電圧が印加される領域を、ドレイン電極104の形成領域に制限できるようになる。
【0027】
このように、本実施の形態によれば、ドレイン電流の流れる経路を制限するための層を用いる必要がなく、ソース・ドレイン間電流が流れる経路に、再結晶成長などによる界面が存在しない状態とすることができる。また、ドレイン電流の流れる経路を制限するための層を用いる必要がなく、連続した一体のGaN層で構成することが可能となり、十分なオフ耐圧が得られるようになる。
【0028】
次に、本発明の実施の形態における窒化物半導体装置の製造方法について、図2A〜図2Eを用いて説明する。ここでも、縦型電界効果トランジスタを例に説明する。図2A〜図2Eは、本発明の実施の形態における縦型電界効果トランジスタの製造方法を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【0029】
まず、図2Aに示すように、基板201の上に六方晶系の窒化ホウ素からなる分離層202を形成する。例えば、サファイア(コランダム:Al23)からなる基板201の上に、よく知られた有機金属気相成長法により、トリエチルボロンおよびアンモニアをソースガスとして窒化ホウ素を堆積させればよい。このとき、基板温度条件は1080℃とすればよい。なお、分離層202の形成前に、基板201の表面を、有機金属気相成長装置の反応炉内の圧力を39999.6Pa(300Torr)とした水素ガス雰囲気で、基板温度を1080℃に加熱することによるサーマルクリーニングを行っておくとよい。
【0030】
次に、図2Bに示すように、分離層202の上に、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有してアルミニウムを含む窒化物半導体からなる第1障壁層102、GaNからなるチャネル層101、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有する窒化物半導体からなる第2障壁層103を、順次に結晶成長する。例えば、有機金属気相成長法により、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、およびアンモニアをソースガスとしてAl0.2Ga0.8Nを結晶成長することで、第1障壁層102が形成できる。Al0.2Ga0.8Nは、バンドギャップエネルギーが3.8eVであり、GaN(3.42eV)より大きい(非特許文献2参照)。
【0031】
また、トリメチルガリウムおよびアンモニアをソースガスとしてGaNを結晶成長することで、第1障壁層102の上にチャネル層101が形成できる。また、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、およびアンモニアをソースガスとしてAl0.2Ga0.8Nを結晶成長することで、チャネル層101の上に第2障壁層103が形成できる。これらの結晶成長において、基板温度条件は1050℃とすればよい。
【0032】
上述した有機金属気相成長法によれば、窒化物半導体の各層は、+c軸方向に結晶成長し、成長している表面がIII族極性面となる。このため、第1障壁層102は、表面をIII族極性面として結晶成長し、第1障壁層102のIII族極性面上に、チャネル層101が結晶成長することになる。言い換えると、第1障壁層102は、チャネル層101のN極性面に形成された状態となる。同様に、チャネル層101のIII族極性面上に第2障壁層103が結晶成長することとなり、言い換えると、チャネル層102は、第2障壁層103のN極性面に形成された状態となる。
【0033】
次に、図2Cに示すように、第1障壁層102,チャネル層101,および第2障壁層103の積層構造と基板201とを、分離層202で分離する。六方晶系の窒化ホウ素は、グラファイトと同様に、六角形の頂点にホウ素と窒素とが交互に配置されて構成された六角網面の層が積層された構造を有し、各層間は、弱いファンデルワールス力で結合されている。このため、六方晶系の窒化ホウ素は、機械加工が容易であり、分離層202で分離が可能である。例えば、剥離用の基板を第2障壁層103に貼り付け、剥離用の基板を基板201側より引き離すことで、積層構造と基板201とが、分離層202で容易に分離する。
【0034】
次に、上述したように積層構造と基板201とを分離した後で、図2Dに示すように、第1障壁層102の上のドレイン電極形成領域に残る分離層202を除去して第1障壁層102のN極性面にドレイン電極104を形成する。例えば、公知のフォトリソグラフィー技術により、ドレイン電極形成領域に開口部を備えるレジストパターンを形成する。次いで、形成したレジストパターンをマスクとし、分離後に残る分離層202のドレイン電極形成領域を選択的にエッチング除去し、第1障壁層102を露出させる。次に、レジストパターンを残した状態で、例えば、蒸着法などにより所定の電極材料を堆積する。この後、レジストパターンを除去(リフトオフ)することで、ドレイン電極形成領域に、ドレイン電極104が形成できる。なお、ドレイン電極104の周囲に分離層202を残しておくことで、この後で行われる熱処理における保護膜として作用させることができる。また、窒化ホウ素はバンドギャップエネルギーが、5.2eV程度と大きく、グラファイトと比較して著しく絶縁性が高いため、絶縁保護膜としても作用する(非特許文献3参照)。
【0035】
次に、図2Eに示すように、まず、第2障壁層103のIII族極性面にドレイン電極104に対向する箇所以外の領域にソース電極106を形成する。例えば、ソース電極形成領域に開口部を備えるレジストパターンを形成する。次に、蒸着法などにより所定の電極材料を堆積する。この後、レジストパターンを除去(リフトオフ)することで、ソース電極形成領域に、ソース電極106が形成できる。このようにしてソース電極106を形成した後、例えば、アニールすることで、既に形成してあるドレイン電極104を第1障壁層102にオーミック接続させるとともに、ソース電極106を第2障壁層103にオーミック接続させる。
【0036】
以上のようにしてソース電極106を形成した後、第2障壁層103のIII族極性面のドレイン電極104に対向する箇所にゲート電極105を形成する。例えば、ゲート電極形成領域に開口部を備えるレジストパターンを形成する。次に、蒸着法などにより所定の電極材料を堆積する。この後、レジストパターンを除去(リフトオフ)することで、ゲート電極形成領域に、ショットキー接続するゲート電極105が形成できる。
【0037】
ここで、上述した剥離用の基板は、ソース電極106およびゲート電極105の形成においては取り除いておくことが必要となる。この剥離用の基板の除去や上述したソース電極106およびゲート電極105の形成は、図3に示すように、チャネル層101のドレイン電極104形成側(N極性面の側)を、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)の結晶からなる支持基板301に貼り付けて支持された状態で行うとよい。ホウ化ジルコニウムは、GaNとの間に格子定数で0.6%、膨張率で5%の違いしかなく、様々な熱処理工程において、熱膨張差によるチャネル層101の変形や、剥離などを招くことがない。また、ホウ化ジルコニウムは、Moなどの金属と同程度の熱伝導性を有し、放熱性に優れているため、この点においても、支持基板として有用である(非特許文献4参照)。
【0038】
なお、ソース電極106を形成した後にドレイン電極104を形成してもよい。例えば、分離層202で分離する前に、ソース電極106を形成しておけばよい。また、耐熱金属によりゲート電極105を形成する場合、分離層202で分離する前に、ゲート電極105を形成しておくことも可能である。また、ゲート絶縁層を用いてもよく、この場合においても、分離層202で分離する前に、ゲート電極105を形成しておくことが可能である。
【0039】
以上に説明したように、本実施の形態における製造方法によれば、六方晶系の窒化ホウ素層およびこの上に結晶成長させることが可能なAlを含む窒化物半導体層を用い、結晶成長させる基板より容易にGaNの層を分離できるようにした。このため、ドレイン電極(第1電極)とソース電極(第2電極)との間を、一体に形成したGaNの層で構成できるようになる。この結果、第1電極と第2電極との間に流れる電流経路に、再結晶成長などによる界面が存在しないので、界面の結晶性の影響を受けることがない。また、2つの電極間を、全てGaNで構成することが可能となり、十分なオフ耐圧が得られるようになる。
【0040】
ところで、上述では、縦型電界効果トランジスタを例に本発明の窒化物半導体装置およびその製造方法について説明したが、これに限るものではない。本発明の窒化物半導体装置は、アルミニウムを含む窒化物半導体から構成された第1半導体層と、第1半導体層の上に形成されたGaNからなる第2半導体層と、第1半導体層の上に形成された窒化物半導体からなる第3半導体層と第1半導体層の上に形成された第1電極と第3半導体層の上に形成された第2電極とを少なくとも備えることが特徴である。
【0041】
従って、例えば、第2半導体層を、n型のGaNから構成し、第3半導体層を、p型のGaNから構成すれば、第1電極をカソードとし、第2電極をアノードとする縦型のダイオードとなる。
【0042】
また、本発明の窒化物半導体装置の製造方法は、まず、基板の上に六方晶系の窒化ホウ素からなる分離層を形成し、次に、分離層の上にアルミニウムを含む窒化物半導体からなる第1半導体層を結晶成長し、次に、第1半導体層のIII族極性面にGaNからなる第2半導体層を結晶成長し、次に、第2半導体層のIII族極性面に窒化物半導体からなる第3半導体層を結晶成長し、第1半導体層,第2半導体層,および第3半導体層の積層構造と基板とを分離層で分離し、積層構造と基板とを分離した後で、第1半導体層の第1電極形成領域に残る分離層を除去して第1半導体層に第1電極を形成する。また、第3半導体層を形成した後で、第3半導体層のIII族極性面に第2電極を形成するようにしたところに特徴がある。
【0043】
従って、例えば、第1半導体層の上には、n型のGaNからなる第2半導体層を形成し、第2半導体層の上には、p型のGaNからなる第3半導体層を形成することで、第1電極をカソードとし、第2電極をアノードとする縦型のダイオードが製造できる。このダイオードによれば、第1電極と第2電極との間の電流経路に、再結晶成長などによる界面が存在しない状態とすることができる。また、連続した一体のGaN層で構成することが可能となり、十分な耐圧が得られるようになる。
【0044】
次に、分離層として用いた六方晶系の窒化ホウ素について説明する。六方晶系の窒化ホウ素は、よく知られているように、グラファイトと同様の結晶構造を有している。発明者らの鋭意研究の結果、六方晶系の窒化ホウ素の層の上には、GaNは層として結晶成長させることができないが、Alを含む窒化物半導体であれば、層(膜)として結晶成長させることができることを見いだした。
【0045】
六方晶系の窒化ホウ素は、例えばサファイア基板の上に結晶成長させることができ、このように形成した窒化ホウ素層の上に、AlGaNの層であれば形成できるので、窒化ホウ素層の上に、AlGaN層を形成すれば、この上にGaN層が形成できる。このようにして、窒化ホウ素層の上にAlGaN層を介して形成したGaNの層は、図4の写真に示すように、極めて平坦な表面状態で形成できる。なお、図4は、光学顕微鏡による観察結果である。
【0046】
また、この状態をX線回折分析すると、図5に示すように、GaN層の(0002)からの回折、およびAlGaN層の(0002)からの回折が、各々明瞭に観察された。GaN層のc軸格子定数は、0.5187nmであり、無歪みのGaNのc軸格子定数0.51855nmに近く、形成されたGaN層のc軸格子歪みは、+0.0289%と求められた。また、AlGaN層のc軸格子定数は、0.5154nmであり、Al0.16Ga0.84Nの組成となっていることがわかった。なお、AlGaNに限らず、AlNも六方晶系の窒化ホウ素の上に結晶成長できることがわかっている。発明者らの検討により、AlxGa1-xN(0.1≦x≦1)であれば、六方晶系の窒化ホウ素の層の上に結晶成長できることが判明している。
【0047】
以上のことより、サファイア基板の上に、六方晶系の窒化ホウ素の層を形成し、この上にAlGaNなどのAlを含む窒化物半導体の層を介することで、結晶性のよいGaN層が結晶成長できることがわかる。
【0048】
上述したように、窒化ホウ素層およびAlGaN層を介してサファイア基板の上に形成したGaN層は、窒化ホウ素層の部分で、サファイア基板より容易に分離できる。例えば、剥離用基板を用意し、この剥離用基板に導電性両面粘着テープを用いてGaN層を貼り付ける。この状態では、サファイア基板、AlGaN層、GaN層、および剥離基板の順に積層された状態となっている。この状態より、サファイア基板の側より剥離基板を離間させると、AlGaN層,GaN層からなる積層構造が、窒化ホウ素層の部分でサファイア基板より分離する。
【0049】
前述したように、六方晶系の窒化ホウ素は、積層されている六角網面の各層間は、弱いファンデルワールス力で結合されており、この層間の結合力は、粘着テープの粘着力より弱い。このため、上述したようにすることで、上記積層構造は、窒化ホウ素層の部分でサファイア基板より容易に分離させることができる。
【0050】
このように分離して剥離基板の上に転写されたGaN層およびAlGaN層をX線回折分析すると、図6に示すように、転写前のX線回折同様に、GaN層の(0002)からの回折およびAlGaN層の(0002)からの回折が、各々明瞭に観測された。転写されたGaN層のc軸格子定数は、0.51855nmであり、無歪みのGaNのc軸格子定数0.51855nmに近く、転写することにより、GaN層は無歪みとなっていることがわかった。
【0051】
次に、剥離基板の上に転写されたGaN層のラマン散乱スペクトルを図7に示す。GaN層のE2モードが567cm-1に明瞭に観測され、また、GaN層のA1モードが733cm-1に明瞭に観測された。この結果は、無歪みのGaNのE2モード567cm-1、A1モード733cm-1とほぼ一致している。これらのことより、GaN層は、転写により無歪みとなることがわかった。
【0052】
次に、分離して剥離基板の上に転写されたGaN層およびAlGaN層のカソードルミネッセンススペクトルを図8に示す。カソードルミネッセンスの測定は、室温(23℃程度)で、加速電圧は10kVである。AlGaN層からの発光が、332nmに明瞭に観測され、またGaN層からの発光も、363nm付近に観測される。
【0053】
以上に説明したことから明らかなように、六方晶系の窒化ホウ素層およびこの上に結晶成長させることが可能なAlを含む窒化物半導体の層を利用することで形成したGaN層は、高品質な結晶性を保持した状態で、成長基板より分離させることができることがわかる。
【0054】
なお、分離のために用いた剥離基板は、サファイア基板を用いてもよく、また、ガラスなどの透明な絶縁性基板、シリコン、シリコンカーバイト、GaN、AlNなどの半導体基板、銅、銀などの高い熱伝導率を有する金属、プラスチック、紙などの折り曲げ可能な基板であってもよいことはいうまでもない。
【0055】
また、上述では、導電性両面粘着テープにより剥離基板に貼り付けるようにしたが、これに限るものではなく、金属シート、低温はんだ、また、導電性接着材を用いて剥離基板に貼り付けるようにしてもよい。例えば、金属シートや低温はんだを用いる場合、これら材料の融点近傍まで加熱することで、剥離基板に融着させることができる。
【0056】
以上に説明したように、本発明によれば、GaNを用いた窒化物半導体装置において、電流が流れる層厚方向の経路に再結晶成長などによる界面が存在することがない構造を実現し、十分な耐圧が得られるようになる。
【0057】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、チャネル層101の上に第2障壁層103を結晶成長した後、第2障壁層103の上に六方晶系の窒化ホウ素からなる表面保護層を形成してもよい。六方晶系の窒化ホウ素は、融点が3000℃と高く、熱処理時に第2障壁層103の表面が保護できる。また、前述のとおり六方晶系の窒化ホウ素は高い絶縁性を有するので、第2障壁層103の絶縁保護膜としての機能も実現できる。
【0058】
また、ドレイン電極形成領域の第1障壁層102を局所的にエッチングし、ここにドレイン電極104を形成してもよい。また、ドレイン電極104およびソース電極106の形成領域に、n型不純物をイオン注入して不純物領域を形成しておき、コンタクト抵抗を下げるようにしてもよい。また、ゲート電極105を耐熱金属で形成することにより、ゲート電極を形成した後でソース電極形成領域にn型不純物をイオン注入し熱処理することで、ゲート電極と自己整合する位置にソース電極形成領域が形成でき、ソース抵抗を著しく低減することができる。
【符号の説明】
【0059】
101…チャネル層(第2半導体層)、102…第1障壁層(第1半導体層)、103…第2障壁層(第3半導体層)、104…ドレイン電極(第1電極)、105…ゲート電極、106…ソース電極(第2電極)、201…基板、202…分離層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に六方晶系の窒化ホウ素からなる分離層を形成する工程と、
前記分離層の上にアルミニウムを含む窒化物半導体からなる第1半導体層を結晶成長する工程と、
前記第1半導体層の上にGaNからなる第2半導体層を結晶成長する工程と、
前記第2半導体層の上に窒化物半導体からなる第3半導体層を結晶成長する工程と、
前記第1半導体層,前記第2半導体層,および前記第3半導体層の積層構造と前記基板とを前記分離層で分離する工程と、
前記積層構造と前記基板とを分離した後で、前記第1半導体層の第1電極形成領域に残る前記分離層を除去して前記第1半導体層に第1電極を形成する工程と、
前記第3半導体層の上に第2電極を形成する工程と
を少なくとも備えることを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の窒化物半導体装置の製造方法において、
前記第2電極を形成した後で、前記第1電極を形成することを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の窒化物半導体装置の製造方法において、
前記第1電極を形成した後で、前記第2電極を形成することを特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項4】
請求項2記載の窒化物半導体装置の製造方法において、
前記積層構造と前記基板とを分離する前に、前記第2電極を形成することを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法において、
前記第3半導体層の上の前記第1電極に対向する箇所にゲート電極を形成する工程を備え、
前記分離層の上には、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有する窒化物半導体からなる第1障壁層としての前記第1半導体層を結晶成長し、
前記第1障壁層の上には、チャネル層としての前記第2半導体層を形成し、
前記チャネル層の上には、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有する窒化物半導体からなる第2障壁層としての前記第3半導体層を結晶成長し、
前記第1障壁層の第1電極形成領域にはドレイン電極となる前記第1電極を形成し、
前記第2障壁層の上には、ソース電極となる前記第2電極を前記ドレイン電極に対向する箇所以外の領域に形成する
ことを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の窒化物半導体装置の製造方法において、
前記積層構造と前記基板とを分離する前に、前記ゲート電極を形成することを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法において、
前記第1半導体層の上には、n型のGaNからなる前記第2半導体層を形成し、
前記第2半導体層の上には、p型のGaNからなる前記第3半導体層を形成する
ことを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項8】
アルミニウムを含む窒化物半導体から構成された第1半導体層と、
前記第1半導体層のIII族極性面に形成されたGaNからなる第2半導体層と、
前記第2半導体層のIII族極性面に形成された窒化物半導体からなる第3半導体層と、
前記第1半導体層のN極性面に形成された第1電極と、
前記第3半導体層のIII族極性面に形成された第2電極と
を少なくとも備えることを特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項9】
請求項8記載の窒化物半導体装置において、
前記第3半導体層のIII族極性面の前記第1電極に対向する箇所に形成されたゲート電極を備え、
前記第1半導体層は、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有する窒化物半導体からなる第1障壁層であり、
前記第2半導体層は、チャネル層であり、
前記第3半導体層は、GaNより大きなバンドギャップエネルギーを有する窒化物半導体からなる第2障壁層であり、
前記第1障壁層のN極性面には、ドレイン電極となる前記第1電極が形成され、
前記第2障壁層のIII族極性面には、前記ドレイン電極に対向する箇所以外の領域にソース電極となる前記第2電極が形成されている
ことを特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項10】
請求項8記載の窒化物半導体装置において、
前記第2半導体層は、n型のGaNから構成され、
前記第3半導体層は、p型のGaNから構成されていることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−84782(P2013−84782A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223853(P2011−223853)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】