説明

薄膜トランジスタおよびその製造方法、並びにそれらを用いた液晶表示装置

【課題】安定した素子特性および良好な信頼性を実現する薄膜トランジスタおよびその製造方法、並びにそれらを用いた液晶表示装置を提供する。
【解決手段】薄膜トランジスタ14は、透光性基板1上において、多結晶シリコンの半導体層3上に積層するゲート絶縁膜4およびゲート電極6、及び、上記半導体層3のソース領域8、ドレイン領域9およびチャネル領域10を有する。そして、前記ゲート絶縁膜4は酸化シリコン膜4aからなり、ゲート電極6の底面と接する上記酸化シリコン膜4aの少なくとも表面は酸窒化シリコン層4bから成っている。ここで、ゲート電極6は、例えば500℃程度の比較的に低温で酸化シリコン膜と化学反応する高融点金属材料を含んで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタおよびその製造方法、並びにそれらを用いた液晶表示装置に係り、特に、アクティブマトリクス型液晶表示装置の画素部のスイッチング素子、あるいは周辺駆動回路を構成する回路素子に用いられる薄膜トランジスタの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の画素部におけるスイッチング素子としてだけでなく、その同一基板上の周辺駆動回路部における回路素子として形成された薄膜トランジスタを用いるアクティブマトリクス型液晶表示装置が種々に開発されている。この場合、上記駆動用回路素子の薄膜トランジスタには、画素用スイッチング素子の薄膜トランジスタに必要とされる性能より高いトランジスタ特性が要求される。そこで、上記薄膜トランジスタでは、そのチャネル領域となる半導体層として、非晶質シリコンの場合よりもチャネル領域のキャリア移動度が大きくなる、膜中に結晶を含む多結晶シリコンが用いられる。
【0003】
この多結晶シリコンを半導体層とする薄膜トランジスタについて、図6を参照して説明する。図6は、この薄膜トランジスタの製造方法を示す工程別素子断面図である。ここで、薄膜トランジスタは、半導体層上にゲート絶縁膜及びゲート電極を形成したpチャネル型であって、トップゲート型の構造の薄膜トランジスタである。
【0004】
高耐熱ガラス基板である透光性基板101の上にアンダーコート薄膜の絶縁層102、その上に半導体層103を形成する。ここで、半導体層103の形成では、非晶質シリコン薄膜をプラズマ励起化学気相成長(PECVD)法により成膜し、窒素雰囲気中において450℃程度の熱処理を施し非晶質シリコン薄膜中の水素を脱気する。その後、この非晶質シリコン薄膜にエキシマレーザ光を照射し、非晶質シリコン薄膜を結晶化して多結晶シリコン薄膜にする。そして、フォトリソグラフィ等を用いた加工技術により、この多結晶シリコン薄膜を島状にパターニングし、半導体層103を形成する。続いて、上記島状の半導体層103および絶縁層102を被覆するように、例えば膜厚100nm程度の酸化シリコン膜を例えばPECVD法により堆積させ、ゲート絶縁膜104を形成する(図6(a))。
【0005】
次に、ゲート絶縁膜104の上に、例えばスパッタリング法による高融点金属材料(Mo、W等)の成膜と加工技術により、ゲート電極105を形成する(図6(b))。そして、このゲート電極105をマスクとし、イオンドーピング装置を用いて、不純物イオン106としてホウ素(B)をドーピングする。更に、注入した不純物の活性化処理として500〜600℃で数時間のアニール処理を施し、ソース領域107およびドレイン領域108を形成する。ここで、ソース領域107およびドレイン領域108間はチャネル領域109となる(図6(c))。
【0006】
次に、例えばPECVDにより酸化シリコン膜を堆積し層間絶縁膜110を形成する。そして、フォトリソグラフィおよびドライエッチングの加工技術により、層間絶縁膜110の所定の領域にコンタクトホールを設け、更にソース領域107に接続するソース電極111、ドレイン領域108に接続するドレイン電極112を形成する。そして、全体を被覆するように、例えばPECVD法により窒化シリコン薄膜を成膜し保護絶縁膜113とする。最後に、水素雰囲気で400℃、2時間程度の熱処理を施す。このようにして、多結晶シリコンの半導体層103上に積層するゲート絶縁膜104およびゲート電極105、上記半導体層103のソース領域107、ドレイン領域108およびチャネル領域109を有する薄膜トランジスタが完成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、薄膜トランジスタの活性領域となる半導体層を多結晶シリコンにより形成することで、チャネル領域でのキャリア移動度は、半導体層が非晶質シリコンの場合のそれの100倍以上に増大する。このため、その初期性能としてみると、従来LSIにより構成されていた液晶表示装置の周辺駆動回路も、画素部のスイッチング素子と共に同一基板に形成される上記薄膜トランジスタによって構成することができるようになる。
【0008】
しかしながら、現状における薄膜トランジスタは、上記LSIの回路素子と同等の信頼性を有しているとは言い難い。特に、薄膜トランジスタの信頼性加速試験であるBT(Bias Temperature)ストレスでの閾値電圧(Vth)の変動が大きくなる。このために、上記薄膜トランジスタにより構成されるアクティブマトリクス型液晶表示装置の周辺駆動回路部の信頼性に大きな問題があった。
【0009】
図7は、図6で説明した従来の薄膜トランジスタのBTストレスによる電流−電圧特性の変化を示す図である。ここで、図7(a)は、100分間のBTストレス前後における、pチャネル型の薄膜トランジスタの電流−電圧特性のグラフであり、図7(b)は、BTストレスの条件を示すための模式的断面図である。この電流−電圧特性は、例えばソース電圧を5V、ドレイン電圧を0Vにし、ドレイン電流Idとゲート電圧Vgの関係で示している。
【0010】
信頼性加速試験のBTストレスにより、薄膜トランジスタの電流−電圧特性では、図中の矢印のようにゲート電圧Vgが負方向にシフトするようになる。図7(a)では、100分後においては約3V程度のシフト量になっている。この負方向のシフトは、トランジスタの閾値電圧が負側に増大することを意味する。ここで、図7(b)に示すように、BTストレス条件では、ソース電極111およびドレイン電極112が接地電位、高融点金属(例えばMo−W合金)から成るゲート電極105の印加電圧が正電圧20V、ストレス温度が90℃になっている。
【0011】
上記BTストレスによる薄膜トランジスタの閾値電圧の負側への増大は、pチャネル型の薄膜トランジスタと同様にnチャネル型の薄膜トランジスタにおいても生じる。このために、上記薄膜トランジスタで構成される周辺駆動回路では、長時間の動作により大きく経時変化し、長期信頼性に問題が生じる。
【0012】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、安定した素子特性および良好な信頼性を実現する薄膜トランジスタおよびその製造方法、並びにそれらを用いた液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記薄膜トランジスタにおける閾値電圧の負方向へのシフトの原因について調べてきた。詳細な検討の結果、上記負方向へのシフトは、ゲート電極の高融点金属とゲート絶縁膜中の主に水酸基(OH)とが低温で反応して上記高融点金属が酸化されることに起因することを突き止めた。そして、この酸化反応により、OHの水素が解離して水素イオン(プロトン)が発生し、この可動イオンが閾値電圧シフトの要因になることを初めて見出した。本発明は、上記新知見に基づいてなされている。
【0014】
すなわち、上記目的を達成するために、本発明にかかる薄膜トランジスタは、絶縁性基板上に多結晶シリコン膜によって形成されたチャネル領域、ソース領域およびドレイン領域を有する半導体層と、該半導体層上に形成されたゲート絶縁膜と、該ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極とを備えた薄膜トランジスタであって、前記ゲート絶縁膜は酸化シリコンからなり、前記ゲート電極の底面と接する前記ゲート絶縁膜の少なくとも表面は酸窒化シリコンからなる、という構成になっている。
【0015】
そして、本発明にかかる薄膜トランジスタの製造方法は、絶縁性基板上に多結晶シリコン膜を形成してチャネル領域、ソース領域およびドレイン領域を有する半導体層を形成し、前記半導体層上に酸化シリコン膜を形成し、前記酸化シリコン膜を窒素の活性種に曝露し、少なくともその表面を酸窒化シリコンに改質し、前記改質した酸化シリコン膜上にゲート電極を形成する、という構成になっている。
【0016】
そして、本発明にかかる液晶表示装置は、一主面上の行方向に配列された走査線、これら走査線に直交するように列方向に配列された信号線、前記走査線と信号線の交差部に配置されたスイッチング素子、該スイッチング素子に電気的に接続された画素電極、及び、前記走査線及び信号線に所定の信号電圧を供給する駆動用回路素子を有する第1の基板と、一主面上に配置された対向電極を有する第2の基板と、前記第1の基板と第2の基板との間に挟持された液晶組成物と、を備えた液晶表示装置において、前記スイッチング素子及び駆動用回路素子の少なくとも一方は、前記第1の基板上に多結晶シリコン膜によって形成されたチャネル領域、ソース領域およびドレイン領域を有する半導体層と、該半導体層上に形成されたゲート絶縁膜と、該ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極とを備えた薄膜トランジスタであって、前記ゲート絶縁膜は酸化シリコンからなり、前記ゲート電極の底面と接する前記ゲート絶縁膜の少なくとも表面は酸窒化シリコンからなる薄膜トランジスタによって構成されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の構成により、安定した素子特性および良好な信頼性を実現する薄膜トランジスタおよびその製造方法、並びにそれらを用いた液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付している。以下の説明では、pチャネル型の薄膜トランジスタの場合について示しているが、特にpチャネル型に限定されるものではなく、nチャネル型の薄膜トランジスタにも同様に適用できる。但し、この場合には、薄膜トランジスタの活性領域に導入される不純物は逆導電型になる。
【0019】
図1は、本実施形態にかかる薄膜トランジスタの一例を示すものであり、上記薄膜トランジスタの製造方法を示す工程別素子断面図となっている。以下、図1を参照して薄膜トランジスタの製造方法について説明するが、この説明の中で薄膜トランジスタの構造は示される。
【0020】
図1(a)に示すように、例えば絶縁性基板である高耐熱ガラスの透光性基板1の上に可動イオンを阻止する絶縁層2を設け、その上に例えば膜厚が50nm程度の半導体層3を形成する。ここで、絶縁層2はPECVDによる酸窒化シリコン膜が好適である。
【0021】
上記半導体層3の形成では、初めに非晶質シリコン薄膜をPECVD法により成膜し、窒素雰囲気中において例えば450℃、90分程度の熱処理を施して上記非晶質シリコン薄膜中の水素を脱気する。その後、この非晶質シリコン薄膜にエキシマレーザ光を照射し、非晶質シリコン薄膜を結晶化して多結晶シリコン薄膜にする。そして、フォトリソグラフィ、ドライエッチング等の加工技術により、この多結晶シリコン薄膜を島状にパターニングし、半導体層3を形成する。多結晶シリコン薄膜の形成は、レーザ光を照射するものの他に、ランプアニールなども適用可能である。
【0022】
このようにした後、上記島状の半導体層3および絶縁層2を被覆するように、例えば膜厚100nm程度の酸化シリコン膜4aをPECVD法により堆積させる。このPECVDによる酸化シリコン膜4aは、テトラエトキシシラン(TEOS)を含む原料ガスをプラズマ励起して成膜すると好適である。ここで、上記PECVDの典型的な条件として、例えば、原料ガスを酸素(O)流量/TEOS流量比45程度の混合ガスとする。そして、例えば20MHz〜50MHzの高周波(RF)のパワー密度を0.5W/cm程度、成膜室のガス圧力を175Pa程度、成膜温度を400℃程度にする。
【0023】
あるいは、上記酸化シリコン膜4aは、シラン(SiH)と亜酸化窒素(NO)の混合ガスからなる原料ガスをプラズマ励起して成膜してもよい。いずれにしても、酸化シリコン膜4aは、酸化シリコン(SiOx)により構成される。
【0024】
続いて、図1(b)に示すように、上記酸化シリコン膜4aの表面に対して窒素活性種を曝露させ、表面を酸窒化シリコン層4bに改質する。例えば、上記酸化シリコン膜4aの成膜装置と同一の装置内で、アンモニア(NH)ガス、窒素(N)ガスあるいはヒドラジン(N)ガスをプラズマ励起し、窒素プラズマ5を生成する。この窒素プラズマ5中には、窒素イオンおよび窒素の中性ラジカルから成る窒素活性種が多量に存在する。そして、この生成した窒素活性種により、酸化シリコン膜4aの表面を酸窒化シリコン層4bに改質する。ここで、上記酸窒化シリコン層4bへの改質における典型的な条件として、例えば、プラズマ励起の原料ガスをNH流量/N流量比が1程度の混合ガスとする。そして、例えば上記RFのパワー密度を1W/cm程度、成膜室のガス圧力を310Pa程度、成膜温度を400℃程度にする。
【0025】
このようにして、酸化シリコン膜4aの表面を例えば膜厚が10nm以下の酸窒化シリコン層4bに改質したゲート絶縁膜4を形成する。ここで、酸窒化シリコン層4bは酸窒化シリコン(SiONx)により形成される。
【0026】
次に、図1(c)に示すように、上記ゲート絶縁膜4上に、例えば高融点金属材料から成るゲート電極6を形成する。ここで、上記ゲート電極6は、スパッタリングによる成膜と、フォトリソグラフィおよびドライエッチングの加工技術により形成され、例えば、膜厚が300nm程度のMo−W合金から成る。高融点金属材料から成るゲート電極6としては、その抵抗、加工性等の観点からMo−W合金が好ましいが、この他にもTi、Taあるいはこれら合金なども利用可能である。
【0027】
次に、図1(d)に示すように、このゲート電極6をマスクとし、いわゆるプラズマドーピング装置を用いて、導電型がp型となるホウ素の不純物イオン7をドーピングする。このイオンドーピングでは、例えば、RFによるプラズマ励起の原料ガスをジボラン(B)/水素(H)流量比が0.2程度の混合ガスとする。そして、これ等の励起ガス中のホウ素イオンを質量分離することなく、加速電圧70kV、注入ドーズ量1×1015イオン/cm程度でドーピングする。
【0028】
そして、上記注入した不純物の活性化処理として水素雰囲気でのアニール処理を施し、ソース領域8およびドレイン領域9を形成する。ここで、ソース領域8およびドレイン領域9間はチャネル領域10となる。この水素雰囲気でのアニール処理は、例えば550℃程度の温度で1時間程度である。
【0029】
次に、図1(e)に示すように、PECVDにより酸窒化シリコン膜を堆積し層間絶縁膜11を形成する。そして、フォトリソグラフィおよびドライエッチングにより、層間絶縁膜11の所定の領域にコンタクトホールを設ける。ここで、上記層間絶縁膜のドライエッチングにおける典型的な条件として、ドライエッチングの原料ガスを四弗化炭素(CF)と三弗化炭素(CHF)の混合ガスとする。そして、例えば、RFのパワー密度を1W/cm程度、エッチング室のガス圧力を10Pa程度にする。
【0030】
引続いて、上記コンタクトホールを通してソース領域8に接続するソース電極12、ドレイン領域9に接続するドレイン電極13を形成する。ここで、ソース電極12およびドレイン電極13は、チタン(Ti)薄膜とアルミニウム(Al)膜の積層膜から成る。更に、全体を被覆するようにPECVD法により酸窒化シリコン膜を成膜し保護絶縁膜(不図示)を形成してもよい。最後に、水素雰囲気で400℃、1時間程度の熱処理を施す。
【0031】
このようにして、多結晶シリコンの半導体層3上に積層するゲート絶縁膜4およびゲート電極6、上記半導体層3のソース領域8、ドレイン領域9およびチャネル領域10を有する本実施形態の薄膜トランジスタ14が完成する。ここで、ゲート絶縁膜4は、上述したように酸化シリコン膜4aの表面が酸窒化シリコン層4bに改質されている。そして、ゲート電極6は、例えば500℃程度の比較的に低温で酸化シリコン膜と化学反応する高融点金属材料を含んで成る。
【0032】
本発明者等は、上述したような薄膜トランジスタ14において、酸化シリコン膜4aの表面を改質し酸窒化シリコン層4bを形成する効果について、酸化シリコン膜4aの表面のプラズマ窒化の条件を種々に変えて詳細に行った。ここで、上記酸窒化シリコン層4bの効果は、薄膜トランジスタの信頼性加速試験であるBTストレスにおける閾値電圧(Vth)の変動に関して調べた。このBTストレスの条件は図7(b)で説明したのと同じである。
【0033】
以下、これ等の結果について図2および図3を参照して説明する。薄膜トランジスタの製造においては、酸化シリコン膜4aは、OとTEOSの混合ガスを原料ガスとしPECVD法で一定の条件にして成膜した。また、ゲート電極6は、Mo含有率が35atm.%のMo−W合金により形成してある。その他の製造条件は図1で説明した通りになっている。
【0034】
図2は、上述した薄膜トランジスタの酸化シリコン膜4a表面を改質するとき、プラズマ励起の原料ガス(プラズマ励起ガス)を種々に変えて調べた結果をまとめたものである。なお、プラズマ励起のRF周波数は30MHzに固定している。上述したBTストレス(ストレス電圧20V、ストレス温度90℃、ストレス時間100分)後のVthシフト量は、酸化シリコン膜4aを改質するプラズマ処理を施さない場合には、略−8Vであった。これは、図2のプラズマ励起ガスがなしの場合に対応している。
【0035】
これに対して、図2に示すように、プラズマ励起ガスがNHおよびNの場合には、BTストレス後の薄膜トランジスタのVthシフト量はほぼ零になる。この場合には、プラズマ励起により図1において説明した窒素活性種が生成され、その窒素活性種が酸化シリコン膜4aの表面を照射し、酸窒化シリコン層4bに改質するようになる。このように、酸化シリコン膜4aの表面に酸窒化シリコン層4bを形成することにより、信頼性加速試験前後で特性変動はみられず、トランジスタの信頼性が大幅に向上することが判る。
【0036】
一方、図2に示すように、プラズマ励起ガスとしてNOを使用する場合には、Vthシフト量は約―11Vとなり、上記プラズマ処理を施さない場合よりもシフト量は増大している。この場合、酸化シリコン膜4aの表面はプラズマ窒化よりもプラズマ酸化が優勢になり、逆に信頼性加速試験前後の特性変動が大きくなったものと考えられる。
【0037】
以上に説明したように、薄膜トランジスタの製造において、酸化シリコン膜4aをプラズマ窒化し、その表面を酸窒化シリコン層4bに改質することにより、薄膜トランジスタの信頼性を大幅に向上させることができる。
【0038】
そして、図3は、上述した酸化シリコン膜4aの表面の改質において、酸窒化シリコン層4b表面領域の窒素(N)量を種々に変えて調べた結果をまとめたものである。ここで、プラズマ励起ガスはNHガスとし、プラズマ窒化の時間を変化させることにより、酸窒化シリコン層4b表面のN濃度を変化させた。このN濃度はX線光分光分析法(X-ray photo Spectroscopy;XPS)により計測した。図3に示した横軸は、上記酸窒化シリコン層4b表面領域のN濃度がその領域のSiとの比として示され、N/Si組成比となっている。そして、左側の縦軸は、上述したBTストレス(ストレス電圧20V、ストレス温度90℃、ストレス時間100分)後のVthシフト量である。また、右側の縦軸は、薄膜トランジスタのBTストレス前のVthの初期値となっている。
【0039】
図3の●印で示すように、N/Si組成比が0では、BTストレス後のVthシフト量は、略−8Vである。これは、図2で示したように酸化シリコン膜4aをプラズマ窒化しない場合に相当している。プラズマ窒化が進み、N/Si組成比が0.1に達すると、BTストレス後のVthシフト量はほぼ零になる。そして、N/Si組成比が0.1以上においては、Vthシフト量は零のままになる。ここで、上記XPSによる深さプロファイル測定により、酸窒化シリコン層4bの膜厚は10nm以下になっている。
【0040】
これに対して、薄膜トランジスタのVthの初期値は、N/Si組成比が0〜0.5の範囲において、ほぼ一定(約−3V)であるが、上記組成比が0.5を超えて0.6になると、急激にその値が低下するようになる。このVth初期値の低下は、酸化シリコン膜4a中に生じてくる窒素による正の固定電荷、あるいは酸化シリコン膜4aと半導体層3との界面に生じるドナー型の界面準位によるものと考えられる。
【0041】
以上のことから、酸窒化シリコン層4bの表面領域における窒素濃度は、図3に示した二点鎖線の領域、すなわちN/Si組成比0.1〜0.5の範囲が好適になることが判る。また、酸化シリコン膜4aの上記半導体層3との界面領域における窒素のXPSによる測定から、この界面領域のN/Si組成比は、0.01以下であることが望ましい。この領域のN/Si組成比が0.01を超えてくると、薄膜トランジスタのVthの初期値が低下するようになることが判明した。
【0042】
上記薄膜トランジスタのBTストレスにおける、酸化シリコン膜4a表面の酸窒化シリコン層4bの効果は、高融点金属から成るゲート電極6と酸化シリコン膜4aとの界面反応を効果的に阻止することにより生じる。上記反応阻止があると、高融点金属と酸化シリコン膜4aとの界面反応による可動イオンの水素イオン発生が抑制され、Vthシフトが大幅に低減するようになる。
【0043】
同様の理由から、図1で説明したように、ゲート電極6の側面および上面を被覆する層間絶縁膜11を酸窒化シリコンあるいは窒化シリコン(SiNx)により形成することが好ましい。BTストレスによる薄膜トランジスタのVthシフトは、PECVD法により酸窒化シリコン膜あるいは窒化シリコン膜を層間絶縁膜11として成膜することにより、低減することが判明した。更に、ゲート電極6の側面のスペーサ絶縁膜あるいはその上面のキャップ膜として、それぞれ酸窒化シリコン膜あるいは窒化シリコン膜を形成しても同様な効果の生じることも明らかになっている。
【0044】
通常、薄膜トランジスタにおけるVthの負方向シフトは、液晶表示装置の製造工程で生じ易いNaあるいはKaの可動イオンの汚染によるものと考えられ易い。これは、液晶表示装置が大画面化しそれに対応できるゲート電極材料のスパッタリングターゲットの高純度化に課題があり、ターゲット中のNaあるいはKaのような不純物除去が不充分な現状にあるからである。
【0045】
しかし、上述したような詳細な検討の結果、Vthの負方向シフトは、ゲート電極を構成する高融点金属が酸化シリコン膜と低温で反応し酸化することに大きく関係することが明らかになった。そこで、本実施形態では、上記酸化反応を防止するために、ゲート電極の周りを酸窒化シリコンで被覆する。例えば、ゲート電極とゲート絶縁膜の界面、あるいはゲート電極の側面および上面に、それぞれ酸窒化シリコン(SiONx)から成る酸窒化シリコン層あるいは層間絶縁膜を形成する。
【0046】
ここで、層間絶縁膜としては窒化シリコン(SiNx)で形成してもよいが、後述する液晶表示装置の画素電極の領域における光干渉を防止する点からは、酸窒化シリコンで形成する方が好ましくなる。なお、ゲート電極と酸化シリコン膜の界面に窒化シリコンの層を介在させることは好ましくない。それは、上記窒化シリコンの層/酸化シリコン膜の界面において電荷が蓄積するようになり、薄膜トランジスタの特性、特にVthのバラツキ、シフト等に悪影響を及ぼすようになるからである。
【0047】
以上のようにすることにより、ゲート電極の周りに形成される酸窒化シリコンあるいは窒化シリコンの窒素が高融点金属と酸素との反応を抑止するようになる。そして、上記酸化反応に起因するところの、可動イオンである水素イオンの発生が効果的に抑制されるようになる。このようにして、本実施形態の薄膜トランジスタ14の長期信頼性は大幅に向上するようになる。
【0048】
図1で説明した酸窒化シリコン層4bの形成では、酸化シリコン膜4aのプラズマ窒化の方法が用いられていた。その他、例えば窒素のリモートプラズマにより生成される窒素の中性ラジカルのみで上記酸窒化シリコン層4bを形成するようにしてもよい。あるいは、この酸窒化シリコン層4bは、例えば、シランガス、亜酸化窒素ガスおよび窒素ガスの混合ガスを原料ガスとしたPECVD法で成膜するようにしてもよい。この場合、酸窒化シリコン層4bは酸化シリコン膜4aを成膜後に引続いて同一装置内で成膜すると好適である。
【0049】
次に、上記実施形態にかかる液晶表示装置の構造の一例について図4および図5を参照して説明する。この液晶表示装置では、上記薄膜トランジスタが画素部のスイッチング素子および周辺駆動回路を構成する回路素子として使用される。ここで、図4はアクティブマトリクス型液晶表示装置の一部画素部の断面図であり、図5は画素部の等価回路と、アクティブマトリクス基板の回路レイアウト構成を示す図である。
【0050】
図4に示すように、アクティブマトリクス型液晶表示装置15は、画素部のスイッチング素子として上述した薄膜トランジスタ14を用い、第1の基板であるアクティブマトリクス基板16および第2の基板である対向基板17を有している。そして、これ等の基板間には、液晶組成物18が配向膜19を介して挾持され、その外側には偏光板20が形成されている。
【0051】
アクティブマトリクス基板16では、透光性基板1上に薄膜トランジスタ14が形成され、そのゲート電極6は、液晶表示装置の後述する走査線Xと一体的に形成されている。そして、そのソース電極12は、液晶表示装置の後述する信号線Yと一体的に形成され、ドレイン電極13は、画素電極21に接続している。また、透光性基板1上には、酸化シリコン膜4aと酸窒化シリコン層4bとから成るゲート絶縁膜4、酸窒化シリコンからなる層間絶縁膜11が積層して形成されている。そして、画素電極21は、透光性のインジウム錫酸化物(ITO)からなり、酸化シリコンから成る平坦化絶縁膜22上にパターン形成されている。
【0052】
このようにして、画素電極21の領域における透光性基板1、ゲート絶縁膜4、層間絶縁膜11および平坦化絶縁膜22等は、いずれもその屈折率が1.46〜1.6とほぼ同程度になり、これらを透過する光の干渉は抑制される。そして、上記領域での実質的な光の透過率の低減は防止される。また、上記積層する透明膜が光フィルタとして機能することはなく、例えばバックライトの光波長分布を変化させることもない。
【0053】
一方、対向基板17では、例えば透明なガラスからなる絶縁基板23上にカラーフィルタ24、上記薄膜トランジスタ14の領域に対応した遮光膜25がそれぞれ形成されている。そして、カラーフィルタ24および遮光膜25を被覆するようにITOからなる対向電極26が形成されている。
【0054】
上記画素部の等価回路は、図5(a)に示すように、マトリクス状に配設された走査線Xiが薄膜トランジスタ14のゲートに接続し、信号線Yjがpチャネル型の薄膜トランジスタ14のソースに接続している。そして、この薄膜トランジスタがスイッチング素子として機能し、並列に形成された液晶容量CLC、補助容量Cを充放電する。ここで、画素電極21と、対向電極26との間に挟持された液晶組成物18により、液晶容量CLCを形成する。そして、補助容量Cは、画素電極21と同電位の補助容量電極27と、所定の電位に設定された補助容量線28との間に形成される電位差によって形成される。ここで、対向電極26および補助容量線28は共通電極となり配設される。
【0055】
そして、アクティブマトリクス型液晶表示装置では、上記画素部がアクティブマトリクス基板16上にマトリクス状に配置されている。それと共に同一基板上に、走査線駆動回路29および信号線駆動回路30が配置されている。ここで、これ等の周辺駆動回路は上記薄膜トランジスタ14をその回路素子とし構成される。このようにして、走査線駆動回路29により駆動され行方向に沿って形成されたm本の走査線X1〜Xm、信号線駆動回路30により駆動され列方向に沿って形成されたn本の信号線Y1〜Ynが配設される。そして、上記走査線X1〜Xmおよび信号線Y1〜Ynの交差位置近傍にスイッチング素子として薄膜トランジスタ14が配置される。ここで、走査線及び信号線は、アルミニウムやモリブデン−タングステン合金などの低抵抗材料によって形成される。
【0056】
また、上記液晶表示装置のアクティブマトリクス基板16には、周辺駆動回路として、上記薄膜トランジスタにより構成される静電保護回路、上記共通電極の駆動回路等、その他の論理回路を形成してもよい。
【0057】
上記実施形態において、液晶表示装置に搭載する周辺駆動回路の信頼性が大きく改善され、液晶表示装置の製品寿命が大幅に伸びるようになる。そして、信頼性に優れた大画面、高精細な液晶表示装置が可能になる。
【0058】
本発明は、上記実施形態に限定されるものでなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲でいろいろの変形を採ることができる。上記実施形態では薄膜トランジスタが正スタガ型の場合について説明しているが、本発明は、逆スタガ型の薄膜トランジスタの場合においても同様に適用できるものである。また、液晶表示装置は透過型であってもあるいは反射型であってもよいことにも言及しておく。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(a)ないし(e)は、本発明の実施形態にかかる薄膜トランジスタの一製造工程を示す工程別素子断面図。
【図2】本発明の実施形態にかかる薄膜トランジスタにおけるプラズマ処理の効果を示すグラフ。
【図3】本発明の実施形態にかかる薄膜トランジスタの閾値電圧の変動とN/Si組成比の関係を示すグラフ。
【図4】本発明の実施形態にかかるアクティブマトリクス型液晶表示装置の一部画素部の断面図。
【図5】本発明の実施形態にかかるアクティブマトリクス基板の回路構成図であって、(a)は画素部の等価回路図、(b)はアクティブマトリクス基板の回路レイアウト構成図。
【図6】(a)ないし(d)は、従来の技術における薄膜トランジスタの製造工程を示す工程別素子断面図。
【図7】従来の技術における薄膜トランジスタの信頼性を示すものであって、(a)はBTストレスによる薄膜トランジスタの電流−電圧特性の変化を示すグラフ、(b)はBTストレス条件を示す模式的断面図。
【符号の説明】
【0060】
1…透光性基板,2…絶縁層,3…半導体層,4…ゲート絶縁膜,4a…酸化シリコン膜,4b…酸窒化シリコン層,5…窒素プラズマ,6…ゲート電極,7…不純物イオン,8…ソース領域,9…ドレイン領域,10…チャネル領域,11…層間絶縁膜,12…ソース電極,13…ドレイン電極,14…薄膜トランジスタ,15…アクティブマトリクス型液晶表示装置,16…アクティブマトリクス基板,17…対向基板,18…液晶組成物,19…配向膜,20…偏光板,21…画素電極,22…平坦化絶縁膜,23…絶縁基板,24…カラーフィルタ,25…遮光膜,26…対向電極,27…補助容量電極,28…補助容量線,29…走査線駆動回路,30…信号線駆動回路,X1〜Xm…走査線,Y1〜Yn…信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板上に多結晶シリコン膜によって形成されたチャネル領域、ソース領域およびドレイン領域を有する半導体層と、該半導体層上に形成されたゲート絶縁膜と、該ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極とを備えた薄膜トランジスタであって、
前記ゲート絶縁膜は酸化シリコンからなり、前記ゲート電極の底面と接する前記ゲート絶縁膜の少なくとも表面は酸窒化シリコンからなることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記酸窒化シリコンは、シリコン(Si)、窒素(N)、酸素(O)を主成分とし、窒素とシリコンとの組成比N/Siが0.1〜0.5の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記ゲート電極の側面あるいは上面は、酸窒化シリコン膜あるいは窒化シリコン膜により被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記ゲート絶縁膜の前記半導体層との界面領域における窒素とシリコンとの組成比N/Siが0.01を超えないことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記ゲート電極は、モリブデン(Mo)あるいはタングステン(W)を主成分とする金属材料からなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
絶縁性基板上に多結晶シリコン膜を形成してチャネル領域、ソース領域およびドレイン領域を有する半導体層を形成し、
前記半導体層上に酸化シリコン膜を形成し、
前記酸化シリコン膜を窒素の活性種に曝露し、少なくともその表面を酸窒化シリコンに改質し、
前記改質した酸化シリコン膜上にゲート電極を形成することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記酸化シリコン膜は、テトラエトキシシランを原料ガスに含むプラズマ励起気相成長法により形成し、前記窒素の活性種は、窒素、アンモニア(NH)あるいはヒドラジン(N)を主成分とする原料ガスのプラズマ励起により生成することを特徴とする請求項6に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記酸窒化シリコンは、シリコン(Si)、窒素(N)、酸素(O)を主成分とし、窒素とシリコンとの組成比N/Siが0.1〜0.5の範囲にあることを特徴とする請求項6又は7に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記ゲート電極は、モリブデン(Mo)あるいはタングステン(W)を主成分とする金属材料からなることを特徴とする請求項6、7又は8に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】
一主面上の行方向に配列された走査線、これら走査線に直交するように列方向に配列された信号線、前記走査線と信号線の交差部に配置されたスイッチング素子、該スイッチング素子に電気的に接続された画素電極、及び、前記走査線及び信号線に所定の信号電圧を供給する駆動用回路素子を有する第1の基板と、一主面上に配置された対向電極を有する第2の基板と、前記第1の基板と第2の基板との間に挟持された液晶組成物と、を備えた液晶表示装置において、
前記スイッチング素子及び駆動用回路素子の少なくとも一方は、前記第1の基板上に多結晶シリコン膜によって形成されたチャネル領域、ソース領域およびドレイン領域を有する半導体層と、該半導体層上に形成されたゲート絶縁膜と、該ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極とを備えた薄膜トランジスタであって、前記ゲート絶縁膜は酸化シリコンからなり、前記ゲート電極の底面と接する前記ゲート絶縁膜の少なくとも表面は酸窒化シリコンからなる薄膜トランジスタによって構成されていることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−130100(P2009−130100A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302972(P2007−302972)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】