説明

車両制御システム

【課題】設定された車速を目標車速として車速を自動制御する場合の燃費を向上可能な車両制御システムを提供する。
【解決手段】車両の動力源と駆動輪との間で動力を伝達する流体伝達機構と、流体伝達機構と並列に設けられ、流体伝達機構を介さずに動力源と駆動輪とを機械的に接続する係合状態と、機械的に接続しない開放状態とに切替え可能で、かつ開放状態で車両の車速が第一車速以上となった場合に係合状態に切り替わるロックアップ装置とを備え、運転者により設定された第二車速を目標車速として車速を自動制御する所定走行制御(S1肯定)において、第二車速が第一車速よりも低い車速であり(S2肯定)、かつロックアップ装置が開放状態である(S3肯定)場合、車速を第一車速以上の車速まで上昇させる加速制御を実行し(S4)、加速制御によりロックアップ装置が係合状態に切替わった後に第二車速を目標車速として車速を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロックアップクラッチのようにトルクコンバータ(流体伝達機構)の動力源側と駆動輪側とを機械的に接続して動力を伝達することが可能なロックアップ装置を備える車両が知られている。ロックアップ装置は、係合状態において動力源と駆動輪とを機械的に接続し、開放状態では動力源と駆動輪との機械的な接続を行わないものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、車速が所定レベル以上にあるときオートドライブ走行が指示されると、ロックアップクラッチを強制的にオンせしめロックアップ状態を維持するよう構成した車両走行制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−72763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロックアップ装置の係合状態と開放状態とが車速に基づいて切り替わる車両において、運転者により設定された車速を目標車速として車両の車速が自動制御される場合、設定された車速によっては、ロックアップ装置が開放状態のままで走行することとなる。例えば、ロックアップ装置が、開放状態において車速が第一車速以上となった場合に係合状態に切り替わるものである場合、設定された車速が第一車速に満たないと、ロックアップ装置が係合状態とならず、動力の伝達効率が低いままで走行することとなる。燃費を向上させる観点からは、ロックアップ装置を係合状態として車両を走行させることができることが好ましい。
【0006】
本発明の目的は、流体伝達機構とロックアップ装置とを備えた車両において、運転者により設定された車速を目標車速として車両の車速を自動制御する場合の燃費を向上させることが可能な車両制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両制御システムは、車両の動力源と駆動輪との間で作動流体を介して動力を伝達する流体伝達機構と、前記流体伝達機構と並列に設けられ、前記流体伝達機構を介さずに前記動力源と前記駆動輪とを機械的に接続して動力を伝達する係合状態と、前記動力源と前記駆動輪とを機械的に接続しない開放状態とに切替え可能で、かつ前記開放状態において前記車両の車速が第一車速以上となった場合に前記係合状態に切り替わるロックアップ装置とを備え、運転者により設定された第二車速を目標車速として前記車両の車速を自動制御する所定走行制御を実行可能であり、前記所定走行制御において前記第二車速が前記第一車速よりも低い車速に設定されており、かつ前記ロックアップ装置が前記開放状態である場合、前記車両の車速を前記第一車速以上の車速まで上昇させる加速制御を実行し、前記加速制御により前記ロックアップ装置が前記係合状態に切替わった後に前記第二車速を目標車速として前記車両の車速を制御することを特徴とする。
【0008】
上記車両制御システムにおいて、前記所定走行制御の実行中であって、走行環境に基づいて前記第二車速よりも低い車速を目標車速として走行していた状態から走行環境の変化により加速する場合に前記加速制御を実行することが好ましい。
【0009】
上記車両制御システムにおいて、前記所定走行制御の実行中であって、前記車両が下り勾配の走路を走行している場合、あるいは前記車両に前後方向と異なる方向の振動が発生する走路を走行している場合の少なくともいずれか一方において前記加速制御を実行することが好ましい。
【0010】
上記車両制御システムにおいて、前記ロックアップ装置は、前記係合状態において、前記車両の車速が、前記第一車速よりも低い第三車速以下となると前記開放状態に切り替わるものであって、前記車両制御システムは、前記第二車速が前記第三車速よりも高い車速に設定されている場合に前記加速制御を実行することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる車両制御システムは、運転者により設定された第二車速を目標車速として車両の車速を自動制御する所定走行制御を実行可能であり、所定走行制御において第二車速が第一車速よりも低い車速に設定されており、かつロックアップ装置が開放状態である場合、車両の車速を第一車速以上の車速まで上昇させる加速制御を実行し、加速制御によりロックアップ装置が係合状態に切替わった後に第二車速を目標車速として車両の車速を制御する。これにより、所定走行制御において、ロックアップ装置を係合状態として車両を走行させることが可能となる。よって、本発明にかかる車両制御システムによれば、運転者により設定された車速を目標車速として車両の車速を自動制御する場合の燃費を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、第1実施形態にかかる車両制御システムの動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態にかかる車両の概略構成を示す図である。
【図3】図3は、ロックアップクラッチの係合/開放状態と車速との関係を示す図である。
【図4】図4は、実施形態の車速制御を示すタイムチャートである。
【図5】図5は、第2実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図6】図6は、条件Aあるいは条件Bが成立した場合におけるロックアップクラッチを係合させる加速制御を示すタイムチャートである。
【図7】図7は、条件Cあるいは条件Dが成立した場合におけるロックアップクラッチを係合させる加速制御を示すタイムチャートである。
【図8】図8は、従来の自動走行制御の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる車両制御システムの一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
(第1実施形態)
図1から図4を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、車両の動力源と駆動輪との間で動力を伝達する流体伝達機構と、ロックアップ装置とを備える車両制御システムに関する。図1は、本発明の第1実施形態にかかる車両制御システムの動作を示すフローチャート、図2は、本実施形態にかかる車両の概略構成を示す図である。
【0015】
ロックアップクラッチのロックアップの有無が、車速のみによって決定される車両において、ACC制御の設定車速がちょうどロックアップのヒス領域内(図3の領域C参照)にある場合、設定車速に向けて単調に加速していくと、ロックアップせずに走行を続けることとなり、燃費の低下を招く。
【0016】
本実施形態の車両制御システムは、ACC制御の設定車速がロックアップ制御のヒス領域内にあり、かつロックアップクラッチが係合状態でない場合には、ロックアップクラッチを係合させるように設定車速よりも多少車速を増加させる。ロックアップクラッチが係合すると、設定車速まで減速させて設定車速を維持する車速制御を実行する。これにより、ロックアップONの状態でACC制御を実行可能となり、トルクコンバータの損失の低減により燃費が向上する。
【0017】
本実施形態は、以下の(1)から(4)を備えることを前提とする。
(1)設定車速信号に基づいて定速走行を行わせる走行制御装置。
(2)ロックアップクラッチ付き自動変速機。
(3)設定車速が、ロックアップのON−OFF線の間(ヒス内)に存在するか否かを判定する手段。
(4)ロックアップ状態(ONかOFFか)を判定する手段。
【0018】
図2は、本実施形態に係る車両の概略構成図である。車両1には、エンジン11が設けられている。エンジン11には、トルクコンバータ12を有する自動変速機13が連結されている。エンジン11の駆動力は、トルクコンバータ12を介して自動変速機13に入力され、デファレンシャルギヤ14及びドライブシャフト15を介して駆動輪16に伝達される。自動変速機13は、A/T油圧制御装置17により車両1の運転状態に応じて変速比が自動的に制御される。ブレーキ装置18は、ブレーキ油圧制御装置19によって制御されて、車両1を制動する。
【0019】
トルクコンバータ12は、エンジン11と駆動輪16との間に設けられて動力を伝達するものであり、図示しない公知の流体伝達機構およびロックアップクラッチ(ロックアップ装置)を有する。流体伝達機構は、作動流体を介してエンジン11と駆動輪16との動力の伝達を行う。ロックアップクラッチは、流体伝達機構と並列に設けられ、流体伝達機構を介さずにエンジン11と駆動輪16とを機械的に接続して動力を伝達する係合状態と、エンジン11と駆動輪16とを機械的に接続しない開放状態とに切替え可能なものである。係合状態では、ロックアップクラッチは、流体伝達機構よりもエンジン11側と流体伝達機構よりも駆動輪16側とを機械的に接続する。ロックアップクラッチとしては、例えば、摩擦係合式のクラッチ装置を用いることができる。ロックアップクラッチの係合状態では、作動流体を介さずに動力を伝達可能となるため、開放状態よりもトルクコンバータ12の伝達効率が高くなる。ロックアップクラッチは、例えば、特開昭58−72763号公報に開示されているようにトルクコンバータの入力軸とトルクコンバータの出力軸とを機械的に接続可能なものとすることができる。
【0020】
ロックアップクラッチの係合状態と開放状態とは、車両1の車速に応じて切り替わる。図3は、ロックアップクラッチの係合/開放状態と車速との関係を示す図である。図3において、符号Vonは、ロックアップON車速(第一車速)を示し、符号Voffは、ロックアップOFF車速(第三車速)を示す。ロックアップクラッチの係合状態および開放状態の切替え判定および切替えの指令は、後述するECU20によってなされる。
【0021】
ECU20は、車速がロックアップON車速Von以上であると、ロックアップクラッチを係合状態とする。言い換えると、ロックアップクラッチは、開放状態において、車両1の車速が第一車速以上となった場合に係合状態に切り替わるものである。図3に示す領域Aは、常にロックアップクラッチが係合状態となるロックアップON領域である。一方、ECU20は、車速がロックアップOFF車速Voff以下であると、ロックアップクラッチを開放状態とする。言い換えると、ロックアップクラッチは、係合状態において、車両1の車速が、第一車速よりも低い第三車速以下となると開放状態に切り替わるものである。図3に示す領域Bは、常にロックアップクラッチが開放状態となるロックアップOFF領域である。また、領域Cは、ヒス領域である。ヒス領域Cは、車速がロックアップOFF車速Voffよりも大きく、かつロックアップON車速Von未満の領域である。
【0022】
ヒス領域Cでは、ロックアップクラッチにおいて係合状態および開放状態のいずれの状態も許容される。ロックアップON領域Aから車速が低下してヒス領域Cに入った場合、ヒス領域Cでは、ロックアップクラッチの係合状態が維持される。つまり、係合状態のロックアップクラッチは、ヒス領域Cでは開放されない。これに対して、ロックアップOFF領域Bから車速が上昇してヒス領域Cに入った場合、ヒス領域Cでは、ロックアップクラッチの開放状態が維持される。つまり、開放状態のロックアップクラッチは、ヒス領域Cでは係合されない。
【0023】
車両1には、エンジン11やトルクコンバータ12や自動変速機13やブレーキ装置18などを制御する電子制御ユニット(ECU)20が設けられている。ECU20は、エンジン11、トルクコンバータ12、自動変速機13(A/T油圧制御装置17)及びブレーキ装置18(ブレーキ油圧制御装置19)の総合的な制御を行う。本実施形態の車両制御システム1−1は、トルクコンバータ12およびECU20を備える。
【0024】
車両1には、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセルポジションセンサ21が設けられている。アクセルポジションセンサ21により検出されたアクセル開度を示す信号は、ECU20に出力される。エンジン11の吸気管22に設けられたスロットルコントロールバルブ23は、スロットルアクチュエータ24により開閉可能とされている。ECU20は、アクセル開度にかかわらずスロットルアクチュエータ24によりスロットルコントロールバルブ23のスロットル開度を制御することができる。
【0025】
車両1には、スロットルコントロールバルブ23の全閉状態(アイドル状態)及びスロットル開度を検出するアイドルスイッチ付スロットル開度センサ27が設けられている。アイドルスイッチ付スロットル開度センサ27によって検出されたアイドル状態及びスロットル開度のそれぞれを示す信号は、ECU20に出力される。
【0026】
エンジン11には、エンジン回転数(エンジン回転速度)を検出するエンジン回転数センサ28が設けられている。車速センサ29は、車両1の車速を検出する。シフトポジションセンサ30は、運転者が操作するシフトレバーの位置(シフトポジション)を検出する。ブレーキ操作量センサ32は、ブレーキ装置18の操作量を検出する。ステアリング舵角センサ33は、運転者により操作されるステアリングの舵角を検出する。
【0027】
また、車両1には、車間距離センサ37が設けられている。車間距離センサ37は、例えば、車両前部に搭載されたレーザーレーダーセンサ又はミリ波レーダーセンサなどのセンサとすることができる。車間距離センサ37は、先行車両との車間距離および先行車両との相対車速を検出する。各センサ28,29,30,32,33,37の検出結果を示す信号は、ECU20に出力される。
【0028】
ECU20は、変速マップを有しており、スロットル開度、車速などに基づいて、自動変速機13の変速段を決定し、この決定された変速段を成立させるようにA/T油圧制御装置17を制御することができる。
【0029】
ナビゲーション装置50は、自車両を所定の目的地に誘導することを基本的な機能としており、ECU60と、操作部51と、表示部52と、スピーカ53と、位置検出部54と、地図データベース55と、運転履歴記録部56とを備えている。ナビゲーション装置50のECU60は、ECU20と双方向の通信が可能である。
【0030】
ECU60のCPU61は、入力された情報に基づいて、ナビゲーション処理等の各種演算処理を行う。ECU60のROM62には、目的地までの経路の検索、経路中の走行案内、特定区間の決定等を行うための各種プログラムが格納されている。RAM63は、読み書き可能なメモリである。
【0031】
位置検出部54は、GPSレシーバ、地磁気センサ、距離センサ、ビーコンセンサ、及びジャイロセンサを備えている。位置検出部54は、自車の位置を検出し、その検出した自車の位置を示すデータをECU60に出力する。
【0032】
地図データベース55には、車両1の走行に必要な情報(地図、直線路、カーブ、登降坂、高速道路など)が記憶されている。地図データベース55は、地図データファイル、交差点データファイル、ノードデータファイル、道路データファイルを備えている。ECU60は、地図データベース55を参照して、必要な情報を読み出す。
【0033】
ECU20は、ACC(Adaptive Cruise Control)制御(所定走行制御)を実行可能である。ACC制御では、レーダー等により先行車を検出し、先行車に合わせ一定の車間距離を保つように追従走行する追従制御、および、車両1の車速が一定車速となるように車両1を走行させる定速走行制御を実行可能である。定速走行制御では、運転者により設定された設定車速(第二車速)を目標車速として車速が自動制御される。ECU20は、例えば、ACC制御の実行中に先行車が存在しない場合、設定車速を維持して走行するように車両1の走行制御を行う。また、ECU20は、設定車速よりも低速で走行する先行車が検出されている場合、その先行車との車間距離を予め定められた所定距離に保つように追従制御を行う。ECU20は、車間距離センサ37の検出結果に基づいて、自車と同一の車線上の先行車を検出することができる。ECU20は、その先行車との車間距離が所定距離よりも小さくならないように車両1の車速を制御する。従って、ECU20は、先行車の車速が設定車速よりも低速である場合、自車の車速を低下させて車間距離を保つようにする。
【0034】
車両1には、ACCコントロールスイッチ35が設けられている。ACCコントロールスイッチ35は、ACC制御に関する各種の操作を行うための操作部材である。運転者は、このACCコントロールスイッチ35により、ACC制御のON/OFFの切替えや、設定車速のセット、追従制御において維持する車間距離(所定距離)等の設定を行うことができる。
【0035】
上述したように、トルクコンバータ12のロックアップクラッチは、車速によって開放状態あるいは係合状態に切替えられるものであり、ヒス領域Cでは、それまでの走行状態によって開放状態となるかあるいは係合状態となるかが決定される。このため、以下に図8を参照して説明するように、ACC制御の設定車速によっては、ロックアップクラッチの係合状態も許容されるヒス領域Cにおいてロックアップクラッチを開放状態としたままで走行することとなる。図8は、従来の自動走行制御の一例を示す図である。
【0036】
図8において、横軸は時間、縦軸は車速をそれぞれ示す。ACC制御のように設定車速を維持するように走行させる自動走行制御では、設定車速に向けて車速を変化させる場合、実車速を速やかに設定車速と一致させ、かつオーバーシュートやアンダーシュートが基準内でおさまるようにすることを目的としている。従って、設定車速がロックアップOFF車速VoffとロックアップON車速Vonの間の車速であり、この設定車速に向けて車両1が加速される場合、実車速がロックアップON車速Vonを超えないまま、すなわちロックアップクラッチが開放状態のままで設定車速での定速走行に移行することとなる。また、ACC制御では、設定速度を保って巡航を続けるため、運転者による加速要求や下り勾配(=速度増加)などの要因がない限り、ロックアップON線(ロックアップON車速Von)を超えるような車速変動は行われない。その結果、ACC制御においてロックアップクラッチが係合されないで走行する頻度が多くなってしまっている。ロックアップクラッチが開放されたままで走行することで、トルクコンバータ12の損失が大きなものとなり、自動走行制御における燃費向上の観点からはなお改善の余地がある。
【0037】
本実施形態の車両制御システム1−1は、設定車速がロックアップクラッチのヒス領域Cにある場合、意図的にロックアップ線(ロックアップON車速Von)を越えるように車速を制御する。図4は、本実施形態の車速制御を示すタイムチャートである。ECU20は、図4に示すように、設定車速がロックアップOFF車速Voffよりも大きく、かつロックアップON車速Von未満であり、ロックアップクラッチが開放状態(OFF)である場合、実車速をロックアップON車速Von以上の車速まで増加させる加速制御を行う。ロックアップクラッチが係合状態となると、車速を設定車速まで低下させ、設定車速での定速走行に移行する。
【0038】
このように、所定走行制御において設定車速がロックアップON車速Vonよりも低い車速に設定されており、かつロックアップクラッチが開放状態である場合に、車速をロックアップON車速Von以上の車速まで上昇させる加速制御が実行され、加速制御によりロックアップクラッチが係合状態に切り替わった後に設定車速を目標車速として車両1の車速が制御されることで、ロックアップクラッチを係合状態とさせて車両1を走行させることができ、燃費の向上が可能となる。
【0039】
図1を参照して、本実施形態の車速制御について説明する。図1の制御フローは、車両1の走行中に所定の間隔で繰り返し実行される。
【0040】
まず、ステップS1では、ECU20により、ACCで走行中か否かが判定される。ECU20は、ACC制御による車速制御を実行中であるか否かを判定する。その判定の結果、ACCで走行中であると判定された場合(ステップS1−Y)にはステップS2に進み、そうでない場合(ステップS1−N)には本制御フローは終了する。
【0041】
ステップS2では、ECU20により、下記式(1)の条件式が成立しているか否かが判定される。
ロックアップOFF車速 < 設定車速 < ロックアップON車速…(1)
本実施形態では、式(1)の条件式が成立、すなわち、設定車速がロックアップ制御のヒステリシス領域内にある場合のみ、ロックアップクラッチを係合させるための車速上昇制御が行われる。設定車速が、ロックアップON領域Aにある場合、設定車速を実現するように車速制御がなされれば、特別な制御を必要とせずにロックアップクラッチが係合状態となる。一方、設定車速がロックアップOFF領域Bにある場合、車速をロックアップON車速Von以上に上昇させてロックアップクラッチが係合状態になったとしても、その後に設定車速まで車速を低下させたときに、ロックアップクラッチが再び開放されてしまうため、メリットが少ない。
【0042】
このように、本実施形態では、設定車速がロックアップOFF車速Voffよりも高い車速に設定されている場合にロックアップクラッチを係合させる加速制御がなされ、設定車速がロックアップOFF車速Voff以下である場合には上記加速制御が許可されないことで、その後に燃費向上効果が見込まれる場合に限定してロックアップクラッチを係合させる加速制御が実行される。ステップS2の判定の結果、式(1)の条件式が成立していると判定された場合(ステップS2−Y)にはステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)にはステップS5に進む。
【0043】
ステップS3では、ECU20により、ロックアップOFFであるか否かが判定される。ECU20は、トルクコンバータ12のロックアップクラッチが、開放状態(ロックアップOFF)であるか否かを判定する。その判定の結果、ロックアップOFFであると判定された場合(ステップS3−Y)にはステップS4に進み、そうでない場合(ステップS3−N)にはステップS5に進む。
【0044】
ステップS4では、ECU20により、ロックアップ線を越えるまで車速が増加される。ECU20は、目標車速をロックアップON車速Vonよりも大きな車速に設定し、車両1を加速させる(ロックアップクラッチを係合させる加速制御)。ECU20は、車速がロックアップON車速Von以上となり、ロックアップクラッチが係合状態となると、目標車速を設定車速に変更する。これにより、ロックアップONの状態において、設定車速を維持する所定走行制御を実行することができ、燃費を向上させることができる。ステップS4が実行されると、本制御フローは終了する。
【0045】
ステップS5では、ECU20により、現車速が設定車速となるように、車速が制御される。ECU20は、設定車速に対して現車速がオーバーシュートやアンダーシュートしないように車速を変化させ、設定車速まで車速が変化すると、設定車速を維持するように駆動力を制御する。ステップS5が実行されると、本制御フローは終了する。
【0046】
このように、本実施形態の車両制御システム1−1によれば、ACC制御の設定車速がロックアップON車速Von未満の車速であっても、ロックアップクラッチを係合状態として車両1を走行させることが可能となる。よって、トルクコンバータ12の損失を低減させ、燃費を向上させることができる。
【0047】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態の変形例について説明する。上記実施形態のロックアップクラッチを係合させる加速制御において、現車速が設定車速以下である場合と、設定車速を超えている場合とで、加速の態様を異ならせるようにしてもよい。例えば、現車速が設定車速を超えた場合には、現車速が設定車速以下である場合よりも、加速度を小さくしてもよい。このようにすれば、設定車速を超えて加速することで運転者に与える違和感を抑制することができる。設定車速を超えたときに加速を緩めるようにすれば、その後に定速走行に移行することが予測でき、一定の加速度で加速を続ける場合よりも、運転者に違和感を与えにくいと考えられる。例えば、現車速が設定車速よりも高速となるほど加速度を低下させるようにすることができる。
【0048】
(第2実施形態)
図5から図7を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図5は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。
【0049】
本実施形態では、車両制御システム1−1は、設定車速がロックアップのヒス領域Cにある場合であっても、予め定められた所定の条件が成立しない場合には、ロックアップクラッチを係合させる加速制御を実施しない。この所定の条件とは、速度を自然と上げることができるシーンを判定する条件である。言い換えると、所定の条件とは、ロックアップクラッチを係合させるための加速制御が運転者によって許容されやすい(あるいは加速自体が気づかれにくい)と考えられる走行条件である。具体的には、ACC制御の実行中であって、以下の4つの条件のいずれかが成立する場合、ロックアップクラッチを係合させる加速制御が許可される。
(A)先行車に対して追従制御を行い、その後、先行車が離脱(先行車が他車を追い越しor先行車が車線変更)したために設定車速に復帰(再加速)するとき。
(B)カーブで減速し、カーブから抜けた後に設定車速まで再加速するとき。
(C)一定速走行しており、勾配が下りであるとき。
(D)一定速走行しており、段差等による強い振動をある一定時間検知したとき。
【0050】
本実施形態は、上記第1実施形態に加え、以下の(5)から(8)を備えることを前提とする。
(5)先行車検出手段。
(6)カーブ検出手段。
(7)勾配検出手段。
(8)車両振動検出手段。
【0051】
図6は、条件Aあるいは条件Bが成立した場合におけるロックアップクラッチを係合させる加速制御を示すタイムチャート、図7は、条件Cあるいは条件Dが成立した場合におけるロックアップクラッチを係合させる加速制御を示すタイムチャートである。
【0052】
図6に示すように、先行車に対する追従制御が実行されているときには、実車速が設定車速を下回る状態となることが多い。時刻t1において追従制御を開始し、設定車速を下回る車速で走行しているときに先行車が離脱する(時刻t2)と、ECU20は、再加速を行う。この再加速時(条件A成立)に、ECU20は、実車速をロックアップON車速Von以上の車速まで上昇させてロックアップクラッチを係合させ(時刻t3)、その後に実車速を設定車速まで減速させる(時刻t4)。先行車が離脱して再加速する場合であれば、加速自体に対して運転者は違和感を覚えず、また、追従制御によって加減速が繰り返されていたため、設定車速を超えることがあっても運転者が違和感を覚えにくい。
【0053】
なお、先行車が離脱したときに設定車速で走行していたとしても、そこから加速してロックアップクラッチを係合させるようにしてもよい。先行車が存在しなくなったという環境の変化や、加減速が繰り返されていたことなどにより、加速が運転者に受け入れられやすいと考えられるためである。ECU20は、例えば、追従制御において先行車が離脱したときに、ロックアップクラッチを係合させる加速制御の許可フラグをONとするようにすればよい。
【0054】
また、ECU20は、図6に示すように、カーブから抜けるときに元の設定車速まで加速するシーン(条件B成立)でロックアップクラッチを係合させる加速制御を実施する。カーブ走行のために減速制御がなされ、時刻t5においてロックアップクラッチが開放状態となる。カーブから抜ける再加速時において、ECU20は、ロックアップON車速Von以上の車速まで加速を続ける。時刻t6においてロックアップクラッチが係合すると、その後に車速を低下させ、設定車速での定速走行に移行する(時刻t7)。カーブからの脱出時に加速をすることは自然なものであり、設定車速よりも多少高車速まで加速がなされても運転者に違和感を与えにくいと考えられる。カーブ走行時の車速制御は、例えば、ナビゲーション装置50から取得する現在位置情報や地図情報に基づいて行われる。ECU20は、これらの情報に基づいて、車両1がカーブから抜ける加速シーンであるかを判定するようにすればよい。
【0055】
このように、追従制御において先行車が離脱した再加速時や、カーブから抜けるときの再加速時など、走行環境に基づいて設定車速よりも低い車速を目標車速として走行していた状態から走行環境の変化により加速する場合にロックアップクラッチを係合させる加速制御が実行されることで、この加速制御に対する運転者の違和感を抑制することができる。なお、再加速を行う走行環境の変化は、追従制御において先行車が離脱した場合およびカーブから抜けるときには限定されない。これら以外の走行環境の変化により加速する場合にロックアップクラッチを係合させる加速制御が実行されてもよい。
【0056】
また、ECU20は、図7に示すように、設定車速での定速走行時に、車両1が下り勾配の走路を走行している場合(条件C成立)、ロックアップクラッチを係合させる加速制御を実施する。時刻t11において下り勾配となると、ECU20は、車両1を加速させ、ロックアップクラッチを係合させる(時刻t12)。その後に車速を設定車速まで減少させる(時刻t13)。一般に、下りで徐々に加速しても、運転者は違和感を覚えないと考えられる。走路の勾配が下り勾配に変化したときに加速を開始すると、環境が変化するタイミングと速度が変化し始めるタイミングとが一致するため、好ましい。ECU20は、例えば、ナビゲーション装置50から取得する情報に基づいて現在位置の走路の勾配を判定することができる。
【0057】
また、ECU20は、図7に示すように、振動を検知しているとき(条件D成立)に、ロックアップクラッチを係合させる加速制御を実施する。車両1が強い振動を繰り返しているときは、速度に対する人間の感度は鈍化しているため、車速を上げても違和感を覚えにくい。よって、振動を検知しているときに加速を行うようにすることで、運転者に違和感を与えることを抑制しつつロックアップクラッチを係合させることが可能である。ECU20は、車両1が振動を繰り返す状態が一定時間続くと、時刻t14において車両1を加速させ、ロックアップクラッチを係合させる(時刻t15)。その後に車速を設定車速まで減少させる(時刻t16)。なお、車両1の振動は、例えば、加速度センサにより検出することができる。
【0058】
このように、下り勾配の走路を走行している場合や、車両1に前後方向と異なる方向(上下方向に限らず、車幅方向であってもよい)の振動が発生する走路を走行している場合など、現在の走行環境が車両1の車速の増加に対して運転者が違和感を覚えにくい走行環境である場合にロックアップクラッチを係合させる加速制御が実行されることで、この加速制御に対する運転者の違和感を抑制することが可能である。なお、下り勾配であって、かつ車両1に前後方向と異なる方向の振動が発生する走路を走行している場合にロックアップクラッチを係合させる加速制御が実行されてもよい。また、車両1の車速の増加に対して運転者が違和感を覚えにくい走行環境は、下り勾配の走路や車両1に前後方向と異なる方向の振動が発生する走路には限定されない。
【0059】
車両制御システム1−1が、車両1の走行環境に基づいて、ロックアップクラッチを係合させる加速制御の実行の可否を決定することで、加速が許容されやすいシーンや、加速自体が気づかれにくいシーンに限定してロックアップクラッチを係合させる加速制御を行うことができる。よって、定速走行を期待している運転者に対して与える違和感を抑制しつつロックアップクラッチを係合状態とすることができる。
【0060】
図5を参照して、本実施形態の動作について説明する。図5に示す制御フローは、上記第1実施形態の制御フロー(図1参照)と同様に、車両1の走行中に所定の間隔で繰り返し実行される。
【0061】
まず、ステップS11では、ECU20により、ACCで走行中か否かが判定される。その判定の結果、ACCで走行中であると判定された場合(ステップS11−Y)にはステップS12に進み、そうでない場合(ステップS11−N)には本制御フローは終了する。
【0062】
ステップS12では、ECU20により、条件[A]から条件[D]のいずれかが成立するか否かが判定される。ECU20は、ロックアップクラッチを係合させる加速制御の実施条件である条件[A]から条件[D]の少なくとも一つが成立しているか否かを判定する。その判定の結果、条件[A]から条件[D]のいずれかが成立していると判定された場合(ステップS12−Y)にはステップS13に進み、そうでない場合(ステップS12−N)にはステップS16に進む。
【0063】
ステップS13では、ECU20により、上記式(1)の条件式が成立しているか否かが判定される。その判定の結果、条件式が成立していると判定された場合(ステップS13−Y)にはステップS14に進み、そうでない場合(ステップS13−N)にはステップS16に進む。
【0064】
ステップS14では、ECU20により、ロックアップOFFであるか否かが判定される。その判定の結果、ロックアップOFFであると判定された場合(ステップS14−Y)にはステップS15に進み、そうでない場合(ステップS14−N)にはステップS16に進む。
【0065】
ステップS15では、ECU20により、ロックアップ線を越えるまで車速が増加される(ロックアップクラッチを係合させる加速制御)。これにより、ロックアップONの状態において、設定車速を維持する所定走行制御を実行することが可能となる。ステップS15が実行されると、本制御フローは終了する。
【0066】
ステップS12からステップS14のいずれかにおいて否定判定がなされてステップS16に進むと、ステップS16では、現車速が設定車速となるように、車速が制御される。ECU20は、設定車速に対して現車速がオーバーシュートやアンダーシュートしないように車速を変化させ、設定車速まで車速が変化すると、設定車速を維持するように駆動力を制御する。ステップS16が実行されると、本制御フローは終了する。
【0067】
なお、ロックアップクラッチを係合させる加速制御を実施すると判定する条件は、条件[A]から条件[D]で示したものには限定されない。これらの条件に限らず、加速することに対して運転者が違和感を覚えにくい走行環境(の変化)や、加速自体を運転者が気づきにくい走行環境(の変化)が検出される場合にロックアップクラッチを係合させる加速制御を実施するようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明にかかる車両制御システムは、ロックアップ装置を備えた車両における自動走行制御に有用であり、特に、燃費の向上に適している。
【符号の説明】
【0069】
1−1 車両制御システム
1 車両
11 エンジン
12 トルクコンバータ
13 自動変速機
16 駆動輪
20 ECU
35 ACCコントロールスイッチ
37 車間距離センサ
50 ナビゲーション装置
A ロックアップON領域
B ロックアップOFF領域
C ヒス領域
Von ロックアップON車速
Voff ロックアップOFF車速

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源と駆動輪との間で作動流体を介して動力を伝達する流体伝達機構と、
前記流体伝達機構と並列に設けられ、前記流体伝達機構を介さずに前記動力源と前記駆動輪とを機械的に接続して動力を伝達する係合状態と、前記動力源と前記駆動輪とを機械的に接続しない開放状態とに切替え可能で、かつ前記開放状態において前記車両の車速が第一車速以上となった場合に前記係合状態に切り替わるロックアップ装置とを備え、
運転者により設定された第二車速を目標車速として前記車両の車速を自動制御する所定走行制御を実行可能であり、
前記所定走行制御において前記第二車速が前記第一車速よりも低い車速に設定されており、かつ前記ロックアップ装置が前記開放状態である場合、前記車両の車速を前記第一車速以上の車速まで上昇させる加速制御を実行し、前記加速制御により前記ロックアップ装置が前記係合状態に切替わった後に前記第二車速を目標車速として前記車両の車速を制御する
ことを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
前記所定走行制御の実行中であって、走行環境に基づいて前記第二車速よりも低い車速を目標車速として走行していた状態から走行環境の変化により加速する場合に前記加速制御を実行する
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記所定走行制御の実行中であって、前記車両が下り勾配の走路を走行している場合、あるいは前記車両に前後方向と異なる方向の振動が発生する走路を走行している場合の少なくともいずれか一方において前記加速制御を実行する
請求項1または2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記ロックアップ装置は、前記係合状態において、前記車両の車速が、前記第一車速よりも低い第三車速以下となると前記開放状態に切り替わるものであって、
前記車両制御システムは、前記第二車速が前記第三車速よりも高い車速に設定されている場合に前記加速制御を実行する
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−207410(P2011−207410A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78751(P2010−78751)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】