説明

車両用エンジンの制御装置

【課題】停止時吸気行程気筒でのプリイグニションを防止する。
【解決手段】燃焼制御部101は、停止時吸気行程気筒12Cのピストン停止位置が下死点から所定範囲にある第1の停止範囲においては、燃料供給を停止する。第1の停止範囲よりも上死点側から所定範囲にある第2の停止範囲では、空燃比をリッチ化するとともに、燃料噴射タイミングを複数回に分割する。第2の停止範囲よりも上死点側から上死点までの第3の停止範囲では、空燃比のリッチ度合いを小さくする。電動駆動装置制御部103は、少なくとも停止時吸気行程気筒12Cのピストン停止位置が第1の停止範囲にあるときには、スタータ36を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させる車両用エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のエンジンの制御装置において、自動停止時に吸気行程にある停止時吸気行程気筒は、強制再始動時においては、吸気温度が高い傾向にあり、圧縮行程において圧縮上死点を超える迄に自着火(Autoignition)やプリイグニションを来しやすい状況にある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、停止時吸気行程気筒が最初の圧縮行程を迎える時に、燃料を停止時吸気行程気筒に噴射し、当該停止時吸気行程気筒における圧縮行程での自着火やプリイグニションを回避するものが提案されている。
【特許文献1】特開2005−180208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本件発明者らが停止時吸気行程気筒でのプリイグニション防止を研究した結果、再始動条件が成立したときのピストンの停止位置によっては、異なる対策を要することが分かってきた。
【0005】
すなわち、停止時吸気行程気筒のピストン停止位置が、極端に下死点側にあるときは、空気量が多いため、燃料噴射によって空燃比をリッチにしても、プリイグニションを充分に防止することができない。他方、停止時吸気行程気筒のピストン停止位置が、上死点側にある場合には、プリイグニションを防止できるもののスモークが発生しやすくなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記不具合に鑑みてなされたものであり、自動停止したエンジンを再始動する際に、再始動条件が成立したときのピストンの停止位置に応じて停止時吸気行程気筒での不具合を回避することのできる車両用エンジンの制御装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させるとともに、所定の再始動条件が成立した際に自動停止後のエンジンを再始動する車両用エンジンの制御装置において、前記エンジンが自動停止しているときのピストン停止位置を判定するピストン位置判定部と、前記ピストン位置判定部の判定に基づいて、エンジンの燃焼制御を司る燃焼制御部とを備え、前記燃焼制御部は、自動停止時に吸気行程にある停止時吸気行程気筒のピストン停止位置が下死点から所定範囲にある第1の停止範囲においては、前記停止時吸気行程気筒に対する燃料供給を停止し、前記第1の停止範囲よりも上死点側から所定範囲にある第2の停止範囲では、空燃比をリッチ化するとともに、燃料噴射タイミングを複数回に分割し、前記第2の停止範囲よりも上死点側から上死点までの第3の停止範囲では、空燃比のリッチ度合いを小さくするものであることを特徴とする車両用エンジンの制御装置である。この態様では、ピストン停止位置に応じて好適な燃料供給が実行される。すなわち、第1の停止範囲では、エンジンの自動停止時に受熱した筒内の空気量が多いため、燃料噴射によって空燃比をリッチにする方法ではプリイグニションを充分に防止できないことから、燃料供給を停止することによってプリイグニションを確実に防止するようにしている。また、第2の停止範囲では、燃料が停止時吸気行程気筒内に分割噴射されることにより、気化潜熱による冷却効果と、スモークを防止しつつプリイグニションの発生を抑制することができるとともに、燃焼時間を短縮することができ、高い出力と燃費の向上を図ることが可能になる。さらに、第3の停止範囲では、空燃比がリーン側に補正されるので、不必要な燃料増加によるスモークの発生を抑制することができる。
【0008】
好ましい態様において、前記燃焼制御部は、前記停止時吸気行程気筒のピストン停止位置が少なくとも第1、第2の停止範囲で停止している場合には、点火時期を、通常の再始動時における圧縮上死点経過後の点火時期よりもリタードするものである。この態様では、停止時吸気行程気筒でのプリイグニションを一層効果的に抑制することができる。すなわち、停止時吸気行程気筒が第1、第2の停止範囲で停止している場合には、停止時吸気行程気筒での受熱期間が長くなる傾向にあるが、点火時期を、通常の再始動時における圧縮上死点経過後の点火時期よりもさらにリタードすることによって、ピストン停止位置に応じて始動性を確保しつつ、自着火を防止することができる。
【0009】
好ましい態様において、停止中のエンジンを始動アシスト可能な電動駆動装置と、前記ピストン位置判定部の判定に基づく所定のアシスト条件が、前記再始動条件の成立時に成立した場合に前記電動駆動装置を駆動する電動駆動装置制御部とを備え、前記電動駆動装置制御部は、少なくとも前記停止時吸気行程気筒のピストン停止位置が前記第1の停止範囲にあるときには、前記電動駆動装置を駆動するものである。この態様では、停止時吸気行程気筒が第1の範囲に停止していたときに、電動駆動装置によってエンジンの駆動力を確保することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明は、再始動条件が成立したときのピストンの停止位置に応じて、好適な燃料供給が実行され、プリイグニションを防止しつつスモーク等の不具合も回避することができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0012】
図1および図2は本発明に係る車両用エンジン1の概略構成を示す。
【0013】
各図に示すエンジン1は、4サイクル火花点火式ガソリンエンジンであって、4つの気筒12A〜12D(図2参照)が設けられている。また、各気筒12A〜12Dの内部には、図略のコネクティングロッドによってクランクシャフト3に連結されたピストン13が嵌挿されることにより、当該ピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。各気筒12A〜12Dに設けられたピストン13は、所定の位相差をもってクランクシャフト3の回転に伴い上下運動を行うように構成されている。
【0014】
一般的に、多気筒4サイクルエンジンにおいては、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなる燃焼サイクルを行うようになっている。本実施形態の4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒12A、2番気筒12B、3番気筒12C、4番気筒12Dと呼ぶと、1番気筒(#1)、3番気筒(#3)、4番気筒(#4)、2番気筒(#2)の順にクランク角で180度ずつの位相差をもって燃焼が行われるようになっている。さらに本実施形態では、エンジンの自動停止中に圧縮行程にあった気筒を停止時圧縮行程気筒、膨脹行程にあった気筒を停止時膨脹行程気筒と称する(同様に吸気行程にあった気筒を停止時吸気行程気筒、排気行程にあった気筒を停止時排気行程気筒と称する)。
【0015】
シリンダヘッド10には、各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部に配置され、プラグ先端が燃焼室14内に臨むように点火プラグ15が設けられている。また、シリンダヘッド10には、燃焼室14の側方から内部に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図外のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、エンジン制御ユニット100の燃焼制御部101(図3参照)から入力されたパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を上記点火プラグ15の電極付近に向けて噴射するように構成されている。
【0016】
また、各気筒12A〜12Dの上部には、燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17および排気ポート18が設けられている。そして、これらのポート17、18と燃焼室14との連結部分には、吸気バルブ19および排気バルブ20がそれぞれ装備されている。この吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aに分岐しており、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられている。この共通吸気通路21cには、スロットルボディ24が設けられている。スロットルボディ24には、各気筒12A〜12Dに流入する空気量を調整可能なスロットル弁24aとこのスロットル弁24aを駆動するアクチュエータ24bと、アイドリング回転速度制御装置(ISC:Idling Speed Control device)24cとが設けられている。図示の実施形態において、ISC24cは、エンジン制御ユニット100の燃焼制御部101(図3参照)によって開弁量を変更可能な電磁駆動式のものである。スロットル弁24aの上流側および下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ25と、吸気圧力を検出する吸気圧センサ26とが設置されている。
【0017】
また、上記エンジン1には、図1に示すように、タイミングベルト等によりクランクシャフト3に連結されたオルタネータ28が付設されている。このオルタネータ28は、図略のフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路28aを内蔵し、このレギュレータ回路28aに入力されるエンジン制御ユニット100(図3参照)からの制御信号に基づき、車両の車両電気負荷および車載されたバッテリの電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
【0018】
またエンジン1には、電動駆動装置としてのスタータ36が設けられている。このスタータ36は、モータ36a(電気モータ)とピニオンギア36dとを有し、エンジン1を駆動するものである。ピニオンギア36dの回転軸は、モータ36aの出力軸と同軸で、その回転軸に沿って往復移動する。またクランクシャフト3には、図略のフライホイールと、このフライホイールに固定されたリングギア35が、回転中心に対して同心に設けられている。そして、このスタータ36を用いてエンジンを始動する場合には、ピニオンギア36dが所定の噛合位置に移動して、リングギア35に噛合することにより、クランクシャフト3が回転駆動されるようになっている(クランキング)。
【0019】
スタータ36によってエンジンを始動させる形態には2通りある。第1の形態は運転者が図略のイグニションキースイッチを回してスタータ36を駆動させ、それによってエンジン1を始動させるものであり、キー始動と呼ばれるものである。第2の形態は、エンジンの自動停止後の再始動時に、エンジン制御ユニット100のスタータ制御部103(図3参照)が自動的にスタータ36を駆動させ、それによってエンジン1を始動させるものである。
【0020】
またエンジン1には、クランクシャフト3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30、31が設けられている。一方のクランク角センサ30から出力される検出信号(パルス信号)に基づいてエンジン回転速度Neが検出されるとともに、この両クランク角センサ30、31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフト3の回転角度が検出されるようになっている。さらに、エンジン1には、吸気側カムシャフトの回転位置を検出するカム角センサ32と、冷却水温度を検出する水温センサ33と、運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34とが設けられている。
【0021】
図3は、本発明に係る車両のエンジン制御ユニット100を中心とする制御ブロック図である。図3では、特に本実施形態の説明に必要な部分のみを抽出して示している。
【0022】
エンジン制御ユニット100には、上述した各種のセンサやスイッチ類、すなわちエアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角センサ30、31、カム角センサ32、水温センサ33、並びにアクセル開度センサ34等の入力要素からの信号が入力される。
【0023】
またエンジン制御ユニット100は、その制御対象である燃料噴射弁16、スロットル弁24a、点火装置27、オルタネータ28、スタータ36等の出力要素に対して制御信号を出力する。
【0024】
エンジン制御ユニット100は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェースおよびこれらを接続するバスを有するマイクロプロセッサで構成されている。そしてエンジン制御ユニット100は、燃焼制御部101、ピストン位置判定部102、およびスタータ制御部103を論理的に構成している。
【0025】
燃焼制御部101は、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角センサ30、31、カム角センサ32、水温センサ33およびアクセル開度センサ34からのセンサ信号に基き、エンジン1の適正なスロットル開度(吸気量)、燃料噴射量とその噴射タイミング、および適正点火時期を設定し、その制御信号を燃料噴射弁16、スロットル弁24a(のアクチュエータ24b)、点火装置27に出力する。
【0026】
本実施形態においては、所定の自動停止条件が成立したときにエンジン1を自動停止させ、停止後、所定の再始動条件が成立したときに、エンジン1を自動的に再始動させるように構成されている。本実施形態に係る再始動制御は、再始動条件が成立したときに、スタータ36を併用するスタータ併用再始動制御が実行される。
【0027】
ピストン位置判定部102は、クランク角センサ30、31の信号に基づきピストン13の位置を演算するものである。このピストン位置判定部102は、エンジン1が自動停止時しているときにおけるピストン13の停止位置を判定するものでもある。
【0028】
スタータ制御部103は、キー始動時およびエンジン自動停止制御における再始動においてスタータ36の駆動が必要とされたときにスタータ36に駆動信号を送りスタータ36を駆動させる。
【0029】
次に、エンジン制御ユニット100のメモリに記憶されている制御マップについて説明する。
【0030】
図4は、本実施形態に係る燃料噴射量、燃料噴射段、および点火時期とクランク角度との関係を示すグラフである。
【0031】
図4を参照して、本実施形態においては、図4に示すグラフに基づいて、ピストン停止位置に基づき、燃料噴射量、燃料噴射段、および点火時期がマップ化されてメモリに記憶されている。
【0032】
本実施形態に係る停止時吸気行程気筒のピストン停止位置は、下死点から所定範囲にある第1の停止範囲と、第1の停止範囲よりも上死点側から所定範囲にある第2の停止範囲と、第2の停止範囲よりも上死点側から上死点までの第3の停止範囲とに分割されている。そして、第1の停止範囲にピストン13が停止している場合には、燃料噴射をカットする燃料カット制御が実行されるように設定されている。これは、第1の停止範囲では、空気量が多いため、燃料噴射によって空燃比をリッチにする方法ではプリイグニションを充分に防止できないことから、燃料供給を停止することによってプリイグニションを確実に防止するようにしているのである。
【0033】
次に、第2の停止範囲にピストン13が停止している場合には、燃料噴射量を比較的リッチ(例えば、A/Fで略13くらい)に設定するとともに、燃料噴射段を2回に分割する分割噴射を実行するように設定されている。これは、第2の停止範囲でピストン13が停止した停止時吸気行程気筒において、気化潜熱による冷却効果を及ぼし、プリイグニションを防止するに当たり、燃料噴射段を2段とすることで、燃焼室内に弱成層の混合気を形成し、スモークの発生をも抑制するようにしているのである。さらに、ピストン13が第2の停止範囲で停止した場合には、点火時期もリタードされる。通常、アイドルストップ方式のエンジンにおいて、停止時吸気行程気筒での混合気の燃焼を実行する際には、逆トルクの発生防止等の観点から、点火時期を圧縮上死点経過後にリタードするのであるが、その点火時期をさらにリタードすることによって、一層確実なプリイグニション防止を図るようにしているのである。
【0034】
さらに、第3の範囲では、燃料噴射量が低減され、燃料噴射段も1段に変更される。第3の範囲でピストン13が停止した場合、停止時吸気行程気筒12Cにおいては、筒内の空気量が少ないため、停止時吸気行程気筒12Cでの受熱期間が長くなった場合でも、新気による冷却効果により、プリイグニションは生じにくくなる。そこで、第3の範囲で停止時吸気行程気筒12Cのピストン13が停止した場合には、空燃比をリーン側(例えば、A/Fで略12〜略16)に設定して、スモークの発生を防止するようにしている。
【0035】
なお、本実施形態において、第2の範囲と第3の範囲との境界部分ついては、燃料噴射量が上死点側にいくほど低減するように設定されている。また、点火時期について、この第2の範囲と第3の範囲との境界部分については、吹き上がり防止等の観点から点火時期をリタードするようにしている。
【0036】
次に、本実施形態に基づく自動停止/再始動制御について説明する。
【0037】
図5および図6は、エンジン制御ユニット100による制御、特に自動停止制御を中心とするフローチャートである。図5はエンジン1が停止するまでの制御、図6はその後の再始動の制御を示す。
【0038】
まず、図5を参照して、エンジン制御ユニット100は、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立するのを待機する(ステップS10)。具体的には、ブレーキの作動状態が所定時間継続し、車速が所定値以下であるといった場合には、エンジンの自動停止条件が成立したと判定される。
【0039】
ステップS10において、自動停止条件が成立したと判定した場合には、オルタネータ制御を含むエンジン回転速度調整制御を開始する(ステップS12)。
具体的には、エンジン回転速度Neを停止前回転速度N1(例えば760rpm)に調節する。そして、エンジン回転速度NeがこのN1になった後(ステップS13でYES)、燃料噴射弁16からの燃料供給を停止する(ステップS14)。
【0040】
続いてエンジン制御ユニット100は、スロットル弁24aを開弁し(ステップS15)、エンジン回転速度Neが所定の回転速度N2(例えば約500rpm)よりも低くなるのを待機する(ステップS16)。ステップS16においてYESの場合、エンジン制御ユニット100は、スロットル弁24aを閉弁する(ステップS17)。その後もエンジン制御ユニット100はオルタネータ制御を継続してピストン13の停止位置調整を実行し続け、クランク角センサ30、31の検出値に基づいてエンジン1が完全に停止するのを待機する(ステップS18)。エンジン1が完全に停止するまで、エンジン制御ユニット100は、ピストン13の停止位置調整を制御し続けるとともに、エンジン1が完全に停止した場合には、オルタネータ制御を終了し(ステップS19)、クランク角センサ30、31の検出によってピストン位置判定部102が判定したピストン13の停止位置を記憶する(ステップS20)。
【0041】
次に、図6を参照して、エンジンの再始動について説明する。エンジン制御ユニット100は、エンジン1が停止した後、再始動条件が成立するのを待機する(ステップS21)。再始動条件としては、例えば、運転者によるアクセル操作等が例示される。この再始動条件が成立すると、エンジン制御ユニット100は、燃焼再始動運転領域であるか否か、すなわちスタータ36によるアシスト条件の成否を判定する(ステップS22)。具体的には、ピストン位置判定部102の判定結果に基づき、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン停止位置が所定のピストン停止範囲(例えば、圧縮上死点前80°から圧縮上死点前40°)にあれば、燃焼再始動運転領域と判定し、それ以外は、スタータ併用運転領域(アシスト条件の成立)と判定する。仮に、燃焼再始動運転領域であれば、燃焼再始動サブルーチンを実行し(ステップS23)、さらに通常運転制御サブルーチン(ステップS24)を実行して、処理を終了する。燃焼再始動サブルーチンは、例えば、本件出願人が先に提案している特開2005−2847号公報等に開示されたものをそのまま適用することが可能であるので、その詳細については説明を省略する。
【0042】
他方、ステップS22において、スタータ併用運転領域と判定(アシスト条件が成立したと判定)した場合、エンジン制御ユニット100は、ピストン13の停止位置から、図4のグラフに基づくマップからデータを読み取り、停止時吸気行程気筒12Cの燃料噴射量(空燃比)、燃料噴射段、および点火時期を算出する(ステップS25)。この演算により、ピストン停止位置の状態に基づき、停止時吸気行程気筒12Cでの燃焼制御が実行されることになる。
【0043】
次いで、エンジン制御ユニット100は、スタータ36を駆動し(ステップS26)、停止時膨張行程気筒12Bの燃料噴射制御を実行する(ステップS27)。その後、エンジン制御ユニット100は、停止時膨張行程気筒12Bでの点火制御を実行する(ステップS28)。次に、エンジン制御ユニット100は、停止時圧縮行程気筒12Aに燃料を噴射する(ステップS29)。この燃料噴射制御により、停止時圧縮行程気筒12Aでの気化潜熱により温度と圧力が低下するので、停止時圧縮行程気筒12Aでの圧縮反力を低減し、エンジン1の再始動をスムーズにすることができる。
【0044】
次いで、エンジン制御ユニット100は、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が圧縮上死点を経過するのを待機し(ステップS30)、経過した場合には、停止時圧縮行程気筒12Aの点火プラグ15を作動させて、混合気を燃焼させる。これにより、停止時圧縮行程気筒12Aでもトルクを出力し、エンジン1の再始動が加勢される。
【0045】
次いで、エンジン制御ユニット100は、ステップS25の演算結果に基づき、停止時吸気行程気筒12Cでの噴射制御を実行する(ステップS32)。
【0046】
図4に示したように、停止時吸気行程気筒12Cでのピストン停止位置が第1の範囲であった場合、燃料噴射がカットされ、従って、点火もされないことになる。この燃料カットによって、筒内の容積が大きく且つ受熱期間が長い停止状態においても、プリイグニションを確実に防止することができる。
【0047】
また、停止時吸気行程気筒12Cでのピストン停止位置が第2の範囲であった場合、比較的リッチ(例えば、A/Fで略13くらい)な燃料が2段階に分割噴射される。
【0048】
さらに、停止時吸気行程気筒12Cでのピストン停止位置が第3の範囲であった場合、燃料噴射量はリーン側に戻され、燃料噴射段も1段階に設定される。
【0049】
ステップS32での燃料噴射制御が終了した後、エンジン制御ユニット100は、停止時吸気行程気筒12Cのピストン13が圧縮上死点を経過するのを待機する(ステップS33)。そして、停止時吸気行程気筒12Cのピストン13が圧縮上死点を経過すると、エンジン制御ユニット100は、停止時吸気行程気筒12Cの点火制御を実行する(ステップS34)。この点火制御において、停止時吸気行程気筒12Cでのピストン停止位置が第1の範囲であった場合、点火はされず、そのまま次のステップに移行する。
【0050】
また、停止時吸気行程気筒12Cでのピストン停止位置が第2の範囲であった場合、吹き上がり防止のために設定される圧縮上死点経過後の点火時期よりもさらにリタードされる。
【0051】
さらに、停止時吸気行程気筒12Cでのピストン停止位置が第3の範囲であった場合、点火時期は、吹き上がり防止のために設定される圧縮上死点経過後の点火時期にリタードされる。
【0052】
次いで、エンジン制御ユニット100は、吹き上がり制御を実行する(ステップS35)。この吹き上がり制御は、停止時吸気行程気筒12Cの次に吸気行程に移行する停止時排気行程気筒12Dと、その後、順番に吸気行程を迎える各気筒12B、12A、12Cのそれぞれに、吸気通路21から大気圧に近い状態の空気が吸入されて、比較的高い空気充填状態になることを考慮し、吸気管負圧が比較的小さい間(吸気圧力が高い間)は、各気筒12A〜12Dの点火時期をリタードさせることによって、過度なトルクの増大を抑制する制御である。
【0053】
吸気管負圧が比較的大きくなると、エンジン制御ユニット100は、ステップS23に移行し、処理を終了する。
【0054】
以上説明したように本実施形態では、ピストン停止位置に応じて好適な燃料供給が実行される。すなわち、第1の停止範囲では、エンジン1の自動停止時に受熱した筒内の空気量が多いため、燃料噴射によって空燃比をリッチにする方法ではプリイグニションを充分に防止できないことから、燃料供給を停止することによってプリイグニションを確実に防止するようにしている。また、第2の停止範囲では、燃料が停止時吸気行程気筒12C内に分割噴射されることにより、気化潜熱による冷却効果と、スモークを防止しつつプリイグニションの発生を抑制することができるとともに、燃焼時間を短縮することができ、高い出力と燃費の向上を図ることが可能になる。さらに、第3の停止範囲では、空燃比がリーン側に補正されるので、不必要な燃料増加によるスモークの発生を抑制することができる。
【0055】
また本実施形態では、燃焼制御部101は、停止時吸気行程気筒12Cのピストン停止位置が少なくとも第1、第2の停止範囲で停止している場合には、点火時期を、通常の再始動時における圧縮上死点経過後の点火時期よりもリタードするものである。このため本実施形態では、停止時吸気行程気筒12Cでのプリイグニションを一層効果的に抑制することができる。すなわち、停止時吸気行程気筒12Cが第1、第2の停止範囲で停止している場合には、停止時吸気行程気筒12Cでの受熱期間が長くなる傾向にあるが、点火時期を、通常の再始動時における圧縮上死点経過後の点火時期よりもリタードすることによって、ピストン停止位置に応じて始動性を確保しつつ、自着火を防止することができる。
【0056】
さらに、本実施形態では、停止中のエンジン1を始動アシスト可能なスタータ36と、ピストン位置判定部102の判定に基づく所定のアシスト条件が、再始動条件の成立時に成立した場合にスタータ36を駆動するスタータ制御部103とを備え、スタータ制御部103は、少なくとも停止時吸気行程気筒12Cのピストン停止位置が第1の停止範囲にあるときには、スタータ36を駆動するものである。このため本実施形態では、停止時吸気行程気筒12Cが第1の範囲に停止していたときに、スタータ36によってエンジン1の駆動力を確保することができる。
【0057】
上述した実施形態は、本発明の好ましい具体例に過ぎず、本発明は上述した実施形態に限定されない。本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る車両用エンジンの概略構成を示す断面略図である。
【図2】本発明に係る車両用エンジンの概略構成を示す平面略図である。
【図3】本発明に係る車両の制御ユニットを中心とする制御ブロック図である。
【図4】本実施形態に係る燃料噴射量、燃料噴射段、および点火時期とクランク角度との関係を示すグラフである。
【図5】制御ユニットによる制御、特に自動停止制御を中心とするフローチャートである。
【図6】制御ユニットによる制御、特に再始動制御を中心とするフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 車両用エンジン
12A 停止時圧縮行程気筒
12B 停止時膨張行程気筒
12C 停止時吸気行程気筒
12D 停止時排気行程気筒
13 ピストン
15 点火プラグ
16 燃料噴射弁
27 点火装置
28 オルタネータ
30、31 クランク角センサ
36 スタータ
100 エンジン制御ユニット
101 燃焼制御部
102 ピストン位置判定部
103 スタータ制御部(電動駆動装置制御部の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の自動停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させるとともに、所定の再始動条件が成立した際に自動停止後のエンジンを再始動する車両用エンジンの制御装置において、
前記エンジンが自動停止しているときのピストン停止位置を判定するピストン位置判定部と、
前記ピストン位置判定部の判定に基づいて、エンジンの燃焼制御を司る燃焼制御部と
を備え、前記燃焼制御部は、
自動停止時に吸気行程にある停止時吸気行程気筒のピストン停止位置が下死点から所定範囲にある第1の停止範囲においては、前記停止時吸気行程気筒に対する燃料供給を停止し、前記第1の停止範囲よりも上死点側から所定範囲にある第2の停止範囲では、空燃比をリッチ化するとともに、燃料噴射タイミングを複数回に分割し、前記第2の停止範囲よりも上死点側から上死点までの第3の停止範囲では、空燃比のリッチ度合いを小さくするものである
ことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用エンジンの制御装置において、
前記燃焼制御部は、前記停止時吸気行程気筒のピストン停止位置が少なくとも第1、第2の停止範囲で停止している場合には、点火時期を、通常の再始動時における圧縮上死点経過後の点火時期よりもリタードするものである
ことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両用エンジンの制御装置において、
停止中のエンジンを始動アシスト可能な電動駆動装置と、
前記ピストン位置判定部の判定に基づく所定のアシスト条件が、前記再始動条件の成立時に成立した場合に前記電動駆動装置を駆動する電動駆動装置制御部と
を備え、
前記電動駆動装置制御部は、少なくとも前記停止時吸気行程気筒のピストン停止位置が前記第1の停止範囲にあるときには、前記電動駆動装置を駆動するものである
ことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−274821(P2008−274821A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118124(P2007−118124)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】