説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な変速部を備える車両用動力伝達装置において、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制する。
【解決手段】モータ走行の際に、無段変速機20の変速応答性に基づいて最大変速比γmaxが変更されたり、走行路面の摩擦係数μに基づいて最大変速比γmaxが変更されたり、蓄電装置68の出力制限に基づいて最大変速比γmaxが変更されたり、或いは無段変速機20の出力軸回転速度NOUTに基づいて最大変速比γmaxが変更されるので、モータ走行の際にエンジン8が始動させられる場合にモータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われたり、或いはまた無段変速機20の効率を向上できると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの動力が入力される変速部の出力側に電動機が連結される車両用動力伝達装置の制御装置に係り、特に、電動機によるモータ走行時の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な変速部と、その変速部とエンジンとの間の動力伝達経路を断接可能な係合装置と、変速部の出力側回転部材に動力伝達可能に連結された電動機を備えた車両用動力伝達装置がよく知られている。例えば、特許文献1に記載された車両がそれである。この車両においては、エンジンの出力軸に前後進切換装置を介して無段変速機が連結され、無段変速機の出力側にモータジェネレータが設けられており、車両を一時的に停止する際には、エンジンを停止し、無段変速機の変速比を最大変速比すなわち最低速側変速比として次の発進に備えている。このようなエンジン停止時に無段変速機の変速比を最低速側変速比とする制御に関し、特許文献2、3には、エンジンを停止して電動機によるモータ走行を行う際に上述した無段変速機を最低速側変速比とする制御を適用した場合の問題点として、モータ走行中にエンジンによるエンジン走行に切り換えたときにエンジン回転速度が最低速側変速比により不必要に上昇して、燃費やドライバビリティが損なわれることが提起されている。また、このような問題とは別に、特許文献2には、モータ走行中にエンジンと駆動輪との間の動力伝達経路が動力伝達可能状態とされているとエンジン側における引き摺りトルクが発生して、電動機に余分な駆動トルクが必要となり、駆動効率が低下するという問題も提起されている。
【0003】
そこで、特許文献2、3には、モータ走行時には、エンジンと無段変速機との間に介在された前後進切換機構内の前進クラッチ及び後進ブレーキを解放することによりエンジン側における引き摺りトルクの発生を防止すると共に、無段変速機の変速比をそのときの運転状態に対応する値に設定することにより例えば無段変速機の目標変速比を車速が大きくなる程小さくする(高速側へ変更する)ことによりエンジン再始動時にエンジン回転速度が吹き上がることなくスムーズにモータ走行からエンジン走行へ移行させることが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−132321号公報
【特許文献2】特開2001−200920号公報
【特許文献3】特開2001−208177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、モータ走行から車両を停止する際には、上記と同様に、次の発進に備える為に変速部の変速比を最低速側変速比とすることが望まれる。しかしながら、モータ走行中に変速部の変速比が最低速側変速比よりも高速側に変更されていると、車両が急減速(急制動)された場合には車両停止するまでに変速部の変速比を最低速側変速比とすることができず、再発進する際に発進性能が低下する可能性があった。このような課題は、変速部が例えばベルト式無段変速機やトロイダル型無段変速機のような所定の回転部材が回転していない状態では(例えば車両が停止している状態では)変速比の変更が不可能な変速機である場合に顕著に生じる可能性があった。また、モータ走行時に変速部とエンジンとの間の動力伝達経路を断接可能な係合装置を解放することにより変速部への入力トルクが低減されることから、変速部の変速比維持や変速部の潤滑の為の仕事を低減して燃費を向上させることが考えられるが、このような変速部への仕事を低減することでも車両急制動(停止)時に変速部の変速比を最低速側変速比とすることができず、上記課題が顕著に生じる可能性があった。尚、上述したような課題は未公知である。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な変速部を備える車両用動力伝達装置において、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な変速部と、その変速部とエンジンとの間の動力伝達経路を断接可能な係合装置とを備え、前記変速部を介して前記エンジンの動力が駆動輪へ伝達されると共に、前記変速部の出力側回転部材に動力伝達可能に電動機が連結される車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 前記電動機を用いて走行するモータ走行の際に、前記係合装置を解放し、前記変速部の変速比を所定の低速側変速比とするものであり、(c) 前記変速部の変速応答性に基づいて前記所定の低速側変速比を変更することにある。
【0008】
また、好適には、前記変速部の変速応答性は、その変速部の変速作動に用いられる作動油の温度に基づいて判断されるものであり、前記作動油の温度が高い程、前記変速応答性が早くなり、前記変速応答性が早い程、前記所定の低速側変速比を高速側へ変更する。
【0009】
また、前記目的を達成するための他の発明の要旨とするところは、(a) 所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な変速部と、その変速部とエンジンとの間の動力伝達経路を断接可能な係合装置とを備え、前記変速部を介して前記エンジンの動力が駆動輪へ伝達されると共に、前記変速部の出力側回転部材に動力伝達可能に電動機が連結される車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 前記電動機を用いて走行するモータ走行の際に、前記係合装置を解放し、前記変速部の変速比を所定の低速側変速比とするものであり、(c) 走行路面の摩擦係数に基づいて前記所定の低速側変速比を変更することにある。
【0010】
また、好適には、前記走行路面の摩擦係数が高い程、前記所定の低速側変速比を高速側へ変更する。
【0011】
また、前記目的を達成するための更に他の発明の要旨とするところは、(a) 所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な変速部と、その変速部とエンジンとの間の動力伝達経路を断接可能な係合装置とを備え、前記変速部を介して前記エンジンの動力が駆動輪へ伝達されると共に、前記変速部の出力側回転部材に動力伝達可能に電動機が連結される車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 前記電動機を用いて走行するモータ走行の際に、前記係合装置を解放し、前記変速部の変速比を所定の低速側変速比とするものであり、(c) 前記電動機の電力源の出力制限に基づいて前記所定の低速側変速比を変更することにある。
【0012】
また、好適には、前記電動機の電力源の出力制限は、その電動機へ電力を供給する蓄電装置の充電容量に基づいて判断されるものであり、前記充電容量が大きい程、前記出力制限が緩和され、前記出力制限が緩和される程、前記所定の低速側変速比を高速側へ変更する。
【発明の効果】
【0013】
このようにすれば、モータ走行の際に、係合装置が解放されて、変速部の変速比が所定の低速側変速比とされるので、モータ走行中にエンジン側における引き摺りトルクが発生せず駆動効率の低下が防止されると共に、所定の低速側変速比例えば最低速側変速比により再発進時の発進性能が確保される。また、そのモータ走行の際に、変速部の変速応答性に基づいて所定の低速側変速比が変更されるので、例えば変速応答性が早くて、車両減速(制動)時に変速比を所定の低速側変速比例えば再発進に備える為の最低速側変速比へ早く戻せるようなときには、所定の低速側変速比を例えばエンジンを用いて走行するエンジン走行の際の車両状態に応じた高速側の変速比へ変更することができると共に、モータ走行から車両停止する場合にその高速側へ変更された変速比を所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ戻すことができる。よって、係合装置が係合されてエンジン走行へ切り換えられる場合にモータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる制御装置が提供される。
【0014】
また、変速部の変速作動に用いられる作動油の温度が高い程、変速部の変速応答性が早くなり、変速応答性が早い程、所定の低速側変速比が高速側へ変更されるので、モータ走行からエンジン走行への切換えが車両状態に応じて適切に行うことができる。また、所定の低速側変速比が高速側へ変更されたとしても変速応答性が早いことから、モータ走行から車両停止する場合に変速比を所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ適切に戻すことができる。
【0015】
また、他の発明では、モータ走行の際に、係合装置が解放されて、変速部の変速比が所定の低速側変速比とされるので、モータ走行中にエンジン側における引き摺りトルクが発生せず駆動効率の低下が防止されると共に、所定の低速側変速比例えば最低速側変速比により再発進時の発進性能が確保される。また、そのモータ走行の際に、走行路面の摩擦係数に基づいて所定の低速側変速比が変更されるので、例えば走行路面の摩擦係数が高くて、車両減速(制動)時に車輪がロックし難く、変速部の所定の回転部材が回転し続けて変速比を所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ戻すまでの時間が長くされるようなときには、所定の低速側変速比を例えばエンジン走行の際の車両状態に応じた高速側の変速比へ変更することができると共に、モータ走行から車両停止する場合にその高速側へ変更された変速比を所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ戻すことができる。よって、係合装置が係合されてエンジン走行へ切り換えられる場合にモータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる制御装置が提供される。
【0016】
また、走行路面の摩擦係数が高い程、所定の低速側変速比が高速側へ変更されるので、モータ走行からエンジン走行への切換えが車両状態に応じて適切に行うことができる。また、所定の低速側変速比が高速側へ変更されたとしても走行路面の摩擦係数が高いことから、モータ走行から車両停止する場合に変速比を所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ適切に戻すことができる。
【0017】
また、更に他の発明では、モータ走行の際に、係合装置が解放されて、変速部の変速比が所定の低速側変速比とされるので、モータ走行中にエンジン側における引き摺りトルクが発生せず駆動効率の低下が防止されると共に、所定の低速側変速比例えば最低速側変速比により再発進時の発進性能が確保される。また、そのモータ走行の際に、電動機の電力源の出力制限に基づいて所定の低速側変速比が変更されるので、例えば電動機の電力源の出力が十分にあって、車両減速(制動)時に変速比が所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ戻らなくとも電動機による駆動トルクで発進できるようなときには、所定の低速側変速比を例えばエンジン走行の際の車両状態に応じた高速側の変速比へ変更することができると共に、モータ走行から車両停止する場合にその高速側へ変更された変速比を所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ戻すことができなくとも電動機による駆動トルクで発進性能を確保することができる。よって、係合装置が係合されてエンジン走行へ切り換えられる場合にモータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる制御装置が提供される。
【0018】
また、電動機へ電力を供給する蓄電装置の充電容量が大きい程、電動機の電力源の出力制限が緩和され、出力制限が緩和される程、所定の低速側変速比が高速側へ変更されるので、モータ走行からエンジン走行への切換えが車両状態に応じて適切に行うことができる。また、所定の低速側変速比が高速側へ変更されたとしても電動機の電力源の出力が十分にあることから、モータ走行から車両停止する場合に変速比が所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ戻されなくとも発進性能が確保される。
【0019】
ここで、好適には、前記所定の低速側変速比は、前記エンジンを用いて走行するエンジン走行の際に車両状態に基づいて設定される変速比と比較して低速側に設定されるものであり、車両停止の際には、車両再発進時に用いる為の予め設定された最低速側変速比とされる。このようにすれば、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下が抑制される。
【0020】
また、好適には、前記変速部の出力側回転部材の回転速度関連値に基づいて前記所定の低速側変速比を変更する。このようにすれば、例えば出力側回転部材の回転速度関連値が高くて、車両減速(制動)時に変速比を所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ戻すまでの時間が長くされるようなときには、所定の低速側変速比を例えばエンジン走行の際の車両状態に応じた高速側の変速比へ変更することができると共に、モータ走行から車両停止する場合にその高速側へ変更された変速比を所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ戻すことができる。よって、係合装置が係合されてエンジン走行へ切り換えられる場合にモータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる。
【0021】
また、好適には、前記変速部の出力側回転部材の回転速度関連値が高い程、前記所定の低速側変速比を高速側へ変更する。このようにすれば、モータ走行からエンジン走行への切換えが車両状態に応じて適切に行うことができる。例えば、モータ走行が比較的高車速であっても、モータ走行中のエンジン始動時にエンジン回転速度が吹き上がることなくスムーズにモータ走行からエンジン走行へ移行させることできる。また、所定の低速側変速比が高速側へ変更されたとしても出力側回転部材の回転速度関連値が高いことから、モータ走行から車両停止する場合に変速比を所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ適切に戻すことができる。
【0022】
また、好適には、前記変速部は、変速比を連続的に変化させることが可能な無段変速機である。このようにすれば、所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な無段変速機を備える車両用動力伝達装置において、モータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下が抑制される。
【0023】
また、好適には、前記無段変速機は、入力ディスクと、出力ディスクと、前記ディスクの間で挟圧されてそのディスクを連動させるローラとを有し、前記ローラの傾きを変更して前記ディスク上におけるそのローラとの各接触点径の比で変速比を変更する変速機構である。このようにすれば、所定の回転部材が回転していない状態では変速比の変更が不可能な無段変速機を備える車両用動力伝達装置において、モータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下が抑制される。
【0024】
また、好適には、前記無段変速機は、入力プーリと、出力プーリと、前記プーリに巻き掛けられてそのプーリを連動させる動力伝達部材とを有し、前記プーリの各溝幅を変更してそのプーリ上における前記動力伝達部材との各接触径の比で変速比を変更する変速機構である。このようにすれば、所定の回転部材が回転していない状態では変速比の変更が不可能な無段変速機を備える車両用動力伝達装置において、モータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下が抑制される。
【0025】
また、好適には、モータ走行の際には、変速比維持及び潤滑の少なくとも何れかの為の前記変速部に対する仕事が低減される。このようにすれば、モータ走行時の燃費が向上される。また、変速部への仕事が低減されたことで車両制動(停止)時に変速部の変速比が所定の低速側変速比例えば最低速側変速比へ戻され難くされてモータ走行から車両停止した際の発進性能が低下するという課題が顕著に生じる可能性があるが、上述したような各制御により前記所定の低速側変速比が高速側へ変更されるので、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下が抑制される。
【0026】
また、好適には、前記変速部の出力側回転部材の回転速度関連値は、出力側回転部材の回転速度に1対1で対応する関連値であって、出力側回転部材の回転速度はもちろんのこと、車両の速度(車速)、駆動輪の回転速度、車軸の回転速度、差動歯車装置の回転部材の回転速度、減速歯車装置の回転部材の回転速度などが用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明が適用される車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」という)の構成を説明する骨子図である。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」という)内においてエンジンクランク軸14に動力伝達可能に作動的に連結された第2電動機M2と、エンジンクランク軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)を介して直接的に連結された前後進切換装置16と、入力側回転部材としての入力軸18を介して入力側が前後進切換装置16に連結されると共に入力軸18と入力軸18に平行な出力側回転部材としての出力軸22との間を動力伝達可能に連結する変速部としての無段変速機20と、出力軸22に動力伝達可能に作動的に連結された第1電動機M1等とを備えている。この動力伝達装置10は、ハイブリッド車両において横置きされるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、走行用の駆動力源としての例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8からの動力や第1電動機M1からの動力等を無段変速機20の出力側に出力軸22を介して連結されたデフドライブギヤ24と、それに噛み合うデフリングギヤ26を有する差動歯車装置(終減速機)28と、一対の車軸30等とを順次介して左右の駆動輪32へ伝達する。尚、ケース12には、無段変速機20を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、前後進切換装置16の係合装置を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン8により回転駆動されることにより発生する図示しない機械式オイルポンプがエンジンクランク軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結されている。
【0029】
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とシングルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、サンギヤ16sにエンジンクランク軸14(すなわちエンジン8及び第2電動機M2)が連結され、リングギヤ16rに入力軸18(すなわち無段変速機20の入力側)が連結される一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、キャリア16cは後進用ブレーキB1を介してケース12に選択的に固定されるようになっている。
【0030】
前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、無段変速機20とエンジン8との間の動力伝達経路を断接可能な断接装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。そして、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりエンジンクランク軸14が入力軸18に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機20側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸18はエンジンクランク軸14に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機20側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になり、無段変速機20とエンジン8との間の動力伝達経路が遮断(解放)される。
【0031】
無段変速機20は、入力軸18に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側プーリ(プライマリシーブ)40と、出力軸22に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側プーリ(セカンダリシーブ)42と、それ等一対のプーリ40、42に巻き掛けられその一対のプーリ40、42間を摩擦力により動力伝達可能に連結する動力伝達部材としてのベルト44とを備えており、その変速比γ(=入力軸18の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)を機械的作用により連続的に変化させることができる無段の自動変速機として機能する所謂ベルト式無段変速機(CVT)である。入力側プーリ40は、回転軸方向にスライド可能な円錐状の入力側スライドプーリ46とスライド不能に固定された円錐状の入力側フィックスプーリ48とから構成されており、入力側スライドプーリ46と入力側フィックスプーリ48が頂点を向けて相対向して組み合わされベルト44が接触するV字状の入力側プーリ溝50が形成されている。また出力側プーリ42も入力側プーリ40と同様の構造であり、出力側プーリ42は出力側スライドプーリ52と出力側フィックスプーリ54とから構成されており、両者の間にベルト44が接触するV字状の出力側プーリ溝56が形成されている。
【0032】
無段変速機20では、入力側プーリ40及び出力側プーリ42のそれぞれとベルト44との間で動力伝達のための摩擦力を得るためベルト44には張力が与えられており、入力側プーリ溝50と出力側プーリ溝56との何れでも各プーリ46,48,52,54の円錐面でベルト44と接触している。そのため、入力側プーリ40において入力側スライドプーリ46を入力側フィックスプーリ48側に近付けそれと同期して出力側プーリ42において出力側スライドプーリ52を出力側フィックスプーリ54側から離すほど、入力側プーリ40のベルト44との接触径(有効径)は大きくなり出力側プーリ42のベルト44との接触径(有効径)は小さくなって無段変速機20の変速比γは小さくなる。すなわち、油圧制御などによって入力側スライドプーリ46と出力側スライドプーリ52とが互いに同期してスライドされることにより無段変速機20の変速比γは連続的に変化する。より具体的には、プーリ40、42は、各プーリ溝50、56におけるV溝幅を変更する為の推力を付与する油圧アクチュエータとしての図示しない入力側油圧シリンダ(プライマリ側油圧シリンダ)及び出力側油圧シリンダ(セカンダリ側油圧シリンダ)を備えており、プライマリ側油圧シリンダへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路58(図4参照)によって制御されることにより、両プーリ40、42のV溝幅が変化してベルト44の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γが連続的に変化させられる。また、セカンダリ側油圧シリンダの油圧であるセカンダリ圧(ベルト挟圧)Poutが油圧制御回路58によって調圧制御されることにより、ベルト44が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。このような制御の結果として、プライマリ側油圧シリンダの油圧であるプライマリ圧(変速圧)Pinが生じる。尚、本実施例の無段変速機20は、所定の回転部材であるプーリ40、42の回転中に変速比γを変更可能な変速機、すなわち駆動輪32が回転していない例えば車両停車中には変速比γを変更することができない変速機である。
【0033】
図2は、動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8の出力制御、エンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、無段変速機20の変速制御及びベルト挟圧力制御等を実行するものである。
【0034】
電子制御装置80には、図3に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン8の冷却流体の温度であるエンジン水温THを示す信号、シフトレバー64(図3参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」という)及びその回転方向を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」という)及びその回転方向を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、入力軸18の回転速度NIN(以下、「入力軸回転速度NIN」という)を表す信号、出力軸22の回転速度NOUT(以下、「出力軸回転速度NOUT」という)に対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、CVT油温センサにより検出される無段変速機20の作動油温THCVTを示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、運転者の出力要求量に対応するアクセル開度Acc(アクセルペダルの操作量Acc)を示すアクセル開度信号、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度Gを示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各車輪の車輪速を示す車輪速信号、、各電動機M1,M2との間でインバータ66を介して充放電を行う蓄電装置68(図4参照)の充電容量(充電状態)SOCを表す信号、エンジン8の空燃比A/Fを示す信号、電子スロットル弁72(図4参照)の開度θTHを示す信号などが、それぞれ供給される。
【0035】
また、電子制御装置80からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置60(図4参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管70に備えられた電子スロットル弁72の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ74への駆動信号や燃料噴射装置76によるエンジン8の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置78によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1及びM2の作動を指令する指令信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、無段変速機20の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路58(図4参照)に含まれる電磁ソレノイド弁を作動させるバルブ指令信号例えば無段変速機20の変速比γを変化させる為のプライマリ側油圧シリンダへの作動油の流量を制御するソレノイド弁を駆動するための指令信号やベルト44の挟圧力を調整させる為のセカンダリ圧Poutを調圧するリニアソレノイド弁を駆動するための指令信号、その電磁ソレノイド弁に供給されるライン圧を調整するためのライン圧コントロールソレノイド弁を作動させるバルブ指令信号、油圧制御回路58の油圧源である電動オイルポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0036】
図3は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置62の一例を示す図である。このシフト操作装置62は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー64を備えている。
【0037】
そのシフトレバー64は、車両用駆動装置10内の動力伝達経路が解放されたすなわち動力伝達装置10内の動力伝達が遮断されたニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸22の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)である「P(パーキング)」ポジション(レンジ)、出力軸22の回転方向を逆回転とする後進走行のための後進走行ポジションである「R(リバース)」ポジション、動力伝達装置10内の動力伝達が遮断された中立状態とするための中立ポジションである「N(ニュートラル)」ポジション、無段変速機20の変速可能な変速比γの変化範囲内で自動変速走行モードを成立させて自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジションである「D(ドライブ)」ポジション、又は手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速比を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジションである「M(マニュアル)」ポジションへ手動操作されるように設けられている。
【0038】
そして、シフトレバー64の手動操作により選択されたシフトポジションPSHに応じて例えば油圧制御回路58が電気的に切り換えられて、動力伝達装置10内の動力伝達経路が上記選択されたシフトポジションPSHに応じたものに変更される。例えば、シフトポジションPSHとして「P」ポジション又は「N」ポジションが選択された場合には前進用クラッチC1と後進用ブレーキB1とが共に解放され、動力伝達装置10内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態にされる。
【0039】
図4は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、ハイブリッド制御手段82は、エンジン8を用いて走行するエンジン走行においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させるように無段変速機20の変速比γ及びエンジン出力(例えばエンジントルクT)を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度(アクセルペダル操作量)Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、電動機M1、M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NとエンジントルクTとなるように無段変速機20及びエンジン8を制御する。
【0040】
より具体的には、ハイブリッド制御手段82は、その制御を動力性能や燃費向上などのために無段変速機20を制御する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Nと車速V及び無段変速機20の変速比γで定まる入力軸回転速度NINとが整合させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段82は、エンジン回転速度NとエンジントルクTとで構成される二次元座標内において運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた不図示のよく知られたエンジン8の動作曲線の一種である燃焼効率最適線(燃費最適動作点、最適燃費率曲線、燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば無段変速機20の最小変速比γminと最大変速比γmaxの範囲内において目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力Pを発生するためのエンジントルクTとエンジン回転速度Nとなるように、無段変速機20とエンジン8とを制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度N及びエンジントルクTなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
【0041】
ハイブリッド制御手段82は、例えばスロットル制御のためにスロットルアクチュエータ74により電子スロットル弁72を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置76による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置78による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置60に出力して必要なエンジン出力Pを発生するためのエンジントルクTが得られるようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段84を機能的に備えている。
【0042】
ハイブリッド制御手段82は、必要なエンジン出力Pを発生するためのエンジン回転速度Nすなわち入力軸回転速度NINの目標値(目標入力軸回転速度NIN)を定め、実入力軸回転速度NINが目標入力軸回転速度NINに到達するように実入力軸回転速度NINと目標入力軸回転速度NINとの回転偏差ΔNINに基づいて無段変速機20の変速比γを制御する変速制御手段86を機能的に備えている。つまり、変速制御手段86は、回転偏差ΔNINに基づいてプライマリ側油圧シリンダに対する作動油の流量を制御することにより両プーリ40、42のV溝幅を変化させるための変速制御指令信号(油圧指令)を決定し、その変速制御指令信号を油圧制御回路58へ出力して変速比γを連続的に変化させる。また、ハイブリッド制御手段82は、例えば伝達トルクに対応するアクセル開度Acc(或いはスロットル弁開度θTH、無段変速機20への入力トルクTINすなわちエンジントルクT等)をパラメータとして変速比γとベルト挟圧力に対応する必要セカンダリ圧Poutとのベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された関係(ベルト挟圧力マップ)から、実際の入力軸回転速度NIN及び出力軸回転速度NOUTに基づいて算出される実変速比γ及びアクセル開度Acc基づいて必要セカンダリ圧(ベルト挟圧力)Poutを設定し、設定した必要セカンダリ圧Poutが得られるようにセカンダリ側油圧シリンダのセカンダリ圧Poutを調圧する挟圧力制御指令信号を油圧制御回路58へ出力してベルト挟圧力を増減させるベルト挟圧力制御手段88を機能的に備えている。油圧制御回路58は、上記変速制御指令信号に従って無段変速機20の変速が実行されるように例えば各ソレノイド弁を作動させてプライマリ側油圧シリンダへの作動油の供給・排出量を制御すると共に、上記挟圧力制御指令信号に従ってベルト挟圧力が増減されるように例えばリニアソレノイド弁を作動させてセカンダリ圧Poutを調圧する。
【0043】
ハイブリッド制御手段82は、エンジン走行時には、エンジン8と無段変速機20との間の動力伝達経路を動力伝達可能状態とする。例えば、ハイブリッド制御手段82は、シフトポジションPSHとして「D」ポジション又は「M」ポジションが選択された場合には前進用クラッチC1を係合し且つ後進用ブレーキB1を解放する油圧制御指令信号を油圧制御回路58へ出力して動力伝達装置10内の動力伝達経路を前進走行用の動力伝達可能状態とする。また、ハイブリッド制御手段82は、シフトポジションPSHとして「R」ポジションが選択された場合には前進用クラッチC1を解放し且つ後進用ブレーキB1を係合する油圧制御指令信号を油圧制御回路58へ出力して動力伝達装置10内の動力伝達経路を後進走行用の動力伝達可能状態とする。
【0044】
また、ハイブリッド制御手段82は、エンジン8を停止させた状態で第1電動機M1を用いてモータ走行(EV走行)させることができる。例えば、ハイブリッド制御手段82によるモータ走行は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低アクセル開度Acc時すなわち低エンジントルクT時、比較的低車速時や定速走行時の低負荷域(低出力要求域)で実行される。ハイブリッド制御手段82は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上(燃料消費率を低減)させる為に、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1を共に解放する油圧制御指令信号を油圧制御回路58へ出力してエンジン8と無段変速機20との間の動力伝達経路を動力伝達遮断状態とする。従って、このモータ走行時には、機械式オイルポンプがエンジン8により回転駆動させられないことから、電動オイルポンプが作動させられて油圧制御回路58等の各部に作動油が供給される。
【0045】
ハイブリッド制御手段82は、エンジン走行とモータ走行とを選択的に切り換える為に、エンジン8の始動及び停止を行うエンジン始動停止制御手段90を機能的に備えている。エンジン始動停止制御手段90は、例えばエンジン走行中にアクセルペダルが戻されてアクセル開度Accが小さくなりモータ走行への切換えを判断した場合には、燃料噴射装置76による燃料供給を停止させることによりすなわちフューエルカットによりエンジン8の作動を停止させることにより、エンジン走行からモータ走行へ切り換える。また、エンジン始動停止制御手段90は、例えばモータ走行中にアクセルペダルが踏込操作されてアクセル開度Accが大きくなったり、或いは蓄電装置68の充電容量SOCが低下して第2電動機M2による発電が必要となりエンジン走行への切換えが判断された場合には、第2電動機M2に通電して第2電動機回転速度NM2を引き上げることですなわち第2電動機M2をスタータとして機能させることでエンジン回転速度Nを例えば自律回転可能な回転速度にまで引き上げ、点火装置78により点火させてエンジン8を始動することにより、モータ走行からエンジン走行へ切り換える。
【0046】
また、ハイブリッド制御手段82は、エンジン走行中に、蓄電装置68からの電気エネルギを第1電動機M1及び第2電動機M2の少なくとも一方の電動機へ供給し、その電動機を駆動してエンジン8の動力を補助するトルクアシストが可能である。本実施例ではエンジン8と電動機との両方を走行用の駆動力源とする車両の走行はモータ走行ではなくエンジン走行に含まれるものとする。
【0047】
また、ハイブリッド制御手段82は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させる為にエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪32から伝達される車両の運動エネルギを第1電動機M1及び第2電動機M2の少なくとも一方の電動機により電気エネルギに変換する回生制御を実行する回生制御手段92を機能的に備えている。例えば、回生制御手段92は、駆動輪32からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第1電動機M1を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第1電動機発電電流をインバータ66を介して蓄電装置68へ充電する回生制御を実行する。
【0048】
ここで、車両停止の際には、車両再発進に備えて無段変速機20の変速比γを最大変速比(最低速側変速比)γmax(最Lo)として発進性能を向上(確保)することが望ましい。但し、前述したように、本実施例の無段変速機20は車両停車中に変速比γを変更することができないことから、車両走行時には停止するまでに変速比γを最大変速比γmaxとする必要がある。これは、モータ走行の際にモータ走行のまま停止する場合も同様である。無段変速機20はモータ走行における動力伝達には何ら関与しないことから、ハイブリッド制御手段82は、モータ走行の際には、無段変速機20の変速比γを予め所定の低速側変速比例えば最大変速比γmaxとする。
【0049】
ところで、モータ走行の際に無段変速機20の変速比γを最大変速比γmaxとすると、モータ走行中にエンジン走行へ切り換えられるときにエンジン回転速度Nが最大変速比γmaxによりそのときの走行車速Vに応じて不必要に上昇して、燃費やドライバビリティが損なわれる可能性がある。そこで、ハイブリッド制御手段82は、モータ走行中のエンジン始動時にエンジン回転速度Nが吹き上がることなくスムーズにモータ走行からエンジン走行へ移行させる為に、出力軸回転速度NOUTに基づいてモータ走行時に設定する所定の低速側変速比としての最大変速比γmaxを変更する変速比変更制御手段94を機能的に備えている。ここで、出力軸回転速度NOUTが高い場合は車両減速(制動)が行われたときに変速比γを最大変速比γmaxへ戻すまでの時間が長くされるという観点から、例えば、変速比変更制御手段94は、出力軸回転速度NOUTと無段変速機20の変速比γとで構成される二次元座標内において、出力軸回転速度NOUTが高い程最大変速比γmaxが高速側(変速比が小さくなるHi側)へ変更されるように予め実験的に求められて記憶された図5に示すような関係(車速−変速比マップ)から、モータ走行中の出力軸回転速度NOUTに基づいて変速比γを決定して最大変速比γmaxをHi側へ変更する。この変速比変更制御手段94による変速比γを変更する制御は、例えば車両状態判定手段96によって最大変速比γmaxをHi側へ変更することが可能な出力軸回転速度NOUTとして予め求められて記憶された出力軸回転速度判定値NOUT’よりも実際の出力軸回転速度NOUTが高いと判定された場合に実施される。
【0050】
尚、モータ走行の際には、前述したように電動オイルポンプが作動させられて油圧制御回路58等の各部に作動油が供給されるが、無段変速機20へ入力トルクTINすなわちエンジントルクTが入力されないことから、ハイブリッド制御手段82は、モータ走行中の損失を低減して燃費を向上させる為に、変速比γの維持及び無段変速機20等の潤滑の為の無段変速機20に対する仕事すなわち電動オイルポンプの出力をエンジントルクTが入力されるときと比較して低減する。例えば、そのときに維持すべき変速比γにおいてベルト滑りが発生しない程度の油圧を発生したり、無段変速機20へ潤滑油を送る程度の油圧を発生する為だけの出力まで低減される。
【0051】
また、モータ走行の際に無段変速機20の変速比γを最大変速比γmaxとしたときに発生する上述したようなエンジン回転速度Nが不必要に上昇して燃費やドライバビリティが損なわれるという問題点とは別に、本実施例のようなベルト式無段変速機では、変速比γを最大変速比γmaxやその近傍、或いは最小変速比(最高速側変速比)γmin(最Hi)やその近傍とした場合には、効率が低下する。そこで、モータ走行の際には、出力軸回転速度NOUT(車速V)に拘わらず、ベルト44が巻き付く円弧の径が小さく効率が良くなる変速比γ例えば変速比1程度に最大変速比γmaxを変更することが望ましい。
【0052】
しかしながら、前述したように、モータ走行中に出力軸回転速度NOUTに基づいて或いは無段変速機20の効率の観点から無段変速機20の変速比γが最大変速比γmaxよりも高速側に変更されていると、車両停止するまでに例えば車両が急減速(急制動)されて車両停止するまでに無段変速機20の変速比γを最大変速比γmaxとすることができず、再発進する際に発進性能が低下する可能性がある。特に、変速比γの維持及び無段変速機20等の潤滑の為の電動オイルポンプの出力が低減されていると、変速比γが最大変速比γmaxへ戻し難くされてこのような発進性能が低下するという課題が顕著に生じる可能性がある。
【0053】
そこで、変速比変更制御手段94は、前記機能に加えて、モータ走行中に無段変速機20の変速比γを最大変速比γmaxよりも高速側に変更することと、発進性能の低下を抑制することとを両立させる為に、無段変速機20の変速応答性に基づいてモータ走行時に設定する所定の低速側変速比としての最大変速比γmaxを変更する。ここで、この無段変速機20の変速応答性は、例えば無段変速機20の変速作動に用いられる作動油の温度すなわちCVT油温センサにより検出される無段変速機20の作動油温THCVTに基づいて判断されるものであり、作動油温THCVTが高い程変速応答性が早くなる。そこで、変速応答性が早い場合は車両減速(制動)が行われたときに変速比γを最大変速比γmaxへ早く戻せるという観点から、例えば、変速比変更制御手段94は、作動油温THCVTと無段変速機20の変速比γとで構成される二次元座標内において、作動油温THCVTが高い程最大変速比γmaxが高速側(変速比が小さくなるHi側)へ変更されるように予め実験的に求められて記憶された図6に示すような関係(油温−変速比マップ)から、モータ走行中の作動油温THCVTに基づいて変速比γを決定して最大変速比γmaxをHi側へ変更する。この変速比変更制御手段94による変速比γを変更する制御は、例えば車両状態判定手段96によって最大変速比γmaxをHi側へ変更することが可能な作動油温THCVTとして予め求められて記憶された作動油温判定値THCVT’よりも実際の作動油温THCVTが高いと判定された場合すなわち変速応答性が速いと判定された場合に実施される。
【0054】
また、変速比変更制御手段94は、前記機能に加えて、モータ走行中に無段変速機20の変速比γを最大変速比γmaxよりも高速側に変更することと、発進性能の低下を抑制することとを両立させる為に、走行路面の摩擦係数μに基づいてモータ走行時に設定する所定の低速側変速比としての最大変速比γmaxを変更する。ここで、走行路面の摩擦係数μが大きい(高い)場合は車両減速(制動)が行われたときに車輪(駆動輪32)がロックし難く、両プーリ40、42が回転し続けて変速比γを最大変速比γmaxへ戻すまでの時間が長くされるという観点から、例えば、変速比変更制御手段94は、走行路面の摩擦係数μと無段変速機20の変速比γとで構成される二次元座標内において、走行路面の摩擦係数μが高い程最大変速比γmaxが高速側(変速比が小さくなるHi側)へ変更されるように予め実験的に求められて記憶された図7に示すような関係(摩擦係数−変速比マップ)から、モータ走行中の走行路面の摩擦係数μに基づいて変速比γを決定して最大変速比γmaxをHi側へ変更する。この変速比変更制御手段94による変速比γを変更する制御は、例えば車両状態判定手段96によって最大変速比γmaxをHi側へ変更することが可能な走行路面の摩擦係数μとして予め求められて記憶された摩擦係数判定値μ’よりも実際の走行路面の摩擦係数μが高いと判定された場合に実施される。尚、走行路面の摩擦係数μは、例えば車両駆動時の駆動力(エンジントルクTや第1電動機M1の出力トルク等に相当)と出力軸回転速度NOUT(或いは車速V、車輪速等)との関係から逐次算出されたり、或いは車両制動時の車両加速度Gと出力軸回転速度NOUT(或いは車速V、車輪速等)との関係から逐次算出されて逐次最新の値が記憶されている。
【0055】
また、変速比変更制御手段94は、前記機能に加えて、モータ走行中に無段変速機20の変速比γを最大変速比γmaxよりも高速側に変更することと、発進性能の低下を抑制することとを両立させる為に、電動機M1、M2の電力源である蓄電装置68の出力制限に基づいてモータ走行時に設定する所定の低速側変速比としての最大変速比γmaxを変更する。ここで、蓄電装置68の出力制限は、例えば蓄電装置68の充電容量SOCに基づいて判断されるものであり、充電容量SOCが大きい程出力制限が緩和される。そこで、蓄電装置68の出力制限が緩和される場合はすなわち蓄電装置68の出力が充分にある場合は車両減速(制動)が行われて車両停止したときに変速比γが最大変速比γmaxへ戻っていなくとも第1電動機M1の出力トルクで発進性能を確保できるという観点から、例えば、変速比変更制御手段94は、蓄電装置68の出力制限の緩和状態に対応する充電容量SOCと無段変速機20の変速比γとで構成される二次元座標内において、充電容量SOCが高い程(蓄電装置68の出力制限が緩和される程)最大変速比γmaxが高速側(変速比が小さくなるHi側)へ変更されるように予め実験的に求められて記憶された図8に示すような関係(出力制限−変速比マップ)から、モータ走行中の充電容量SOCに基づいて変速比γを決定して最大変速比γmaxをHi側へ変更する。この変速比変更制御手段94による変速比γを変更する制御は、例えば車両状態判定手段96によって最大変速比γmaxをHi側へ変更することが可能な充電容量SOCとして予め求められて記憶された充電容量判定値SOC’よりも実際の充電容量SOCが高いと判定された場合すなわち蓄電装置68の出力制限が緩和されていると判定された場合に実施される。
【0056】
図9は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちモータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0057】
先ず、ハイブリッド制御手段82に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、モータ走行を実施しているか否かが判断される。モータ走行されておらずこのS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、モータ走行されておりS10の判断が肯定される場合は同じくハイブリッド制御手段82に対応するS20において、無段変速機20の変速比γが予め所定の低速側変速比例えば最大変速比γmaxとされる。次いで、同じくハイブリッド制御手段82に対応するS30において、無段変速機20の変速比γの維持及び潤滑の為の無段変速機20に対する仕事すなわち電動オイルポンプの出力がエンジントルクTが入力されるときと比較して低減される。
【0058】
次いで、車両状態判定手段96に対応するS40において、最大変速比γmaxをHi側へ変更することが可能な出力軸回転速度NOUTとして予め求められて記憶された出力軸回転速度判定値NOUT’よりも実際の出力軸回転速度NOUTが高いか否かが判定される。実際の出力軸回転速度NOUTが出力軸回転速度判定値NOUT’よりも高くS40の判断が肯定される場合は変速比変更制御手段94に対応するS50において、図5に示すような車速−変速比マップからモータ走行中の出力軸回転速度NOUTに基づいて変速比γが決定されて最大変速比γmaxがHi側へ変更(移動)される。このように、出力軸回転速度NOUTが高い場合は車両減速(制動)が行われたときに変速比γを最大変速比γmaxへ戻すまでの時間が長くとれるので、出力軸回転速度NOUTが高い場合は変速比が小さくされる。
【0059】
実際の出力軸回転速度NOUTが出力軸回転速度判定値NOUT’よりも低くS40の判断が否定される場合は、或いは上記S50に続いて、車両状態判定手段96に対応するS60において、最大変速比γmaxをHi側へ変更することが可能な作動油温THCVTとして予め求められて記憶された作動油温判定値THCVT’よりも実際の作動油温THCVTが高いか否かすなわち変速応答性が速いか否かが判定される。実際の作動油温THCVTが作動油温判定値THCVT’よりも高くS60の判断が肯定される場合は変速比変更制御手段94に対応するS70において、図6に示すような油温−変速比マップからモータ走行中の作動油温THCVTに基づいて変速比γが決定されて最大変速比γmaxがHi側へ変更(移動)される。このように、変速応答性が早い場合は車両減速(制動)が行われたときに変速比γを最大変速比γmaxへ早く戻せるので、作動油温THCVTが高く変速応答性が早い場合は変速比が小さくされる。
【0060】
実際の作動油温THCVTが作動油温判定値THCVT’よりも低くS60の判断が否定される場合は、或いは上記S70に続いて、車両状態判定手段96に対応するS80において、最大変速比γmaxをHi側へ変更することが可能な走行路面の摩擦係数μとして予め求められて記憶された摩擦係数判定値μ’よりも実際の走行路面の摩擦係数μが高いか否かが判定される。実際の走行路面の摩擦係数μが摩擦係数判定値μ’よりも高くS80の判断が肯定される場合は変速比変更制御手段94に対応するS90において、図7に示すような摩擦係数−変速比マップからモータ走行中の走行路面の摩擦係数μに基づいて変速比γが決定されて最大変速比γmaxがHi側へ変更(移動)される。このように、走行路面の摩擦係数μが大きい(高い)場合は車両減速(制動)が行われたときに車輪(駆動輪32)がロックし難く、両プーリ40、42が回転し続けて変速比γを最大変速比γmaxへ戻すまでの時間が長くとれるので、走行路面の摩擦係数μが高い場合は変速比が小さくされる。
【0061】
実際の走行路面の摩擦係数μが摩擦係数判定値μ’よりも低くS80の判断が否定される場合は、或いは上記S90に続いて、車両状態判定手段96に対応するS100において、最大変速比γmaxをHi側へ変更することが可能な充電容量SOCとして予め求められて記憶された充電容量判定値SOC’よりも実際の充電容量SOCが高いか否かすなわち蓄電装置68の出力制限が緩和されているか否かが判定される。実際の充電容量SOCが充電容量判定値SOC’よりも高くS100の判断が肯定される場合は変速比変更制御手段94に対応するS110において、図8に示すような出力制限−変速比マップからモータ走行中の充電容量SOCに基づいて変速比γが決定されて最大変速比γmaxがHi側へ変更(移動)される。このように、蓄電装置68の出力制限が緩和される場合はすなわち蓄電装置68の出力が充分(十分)にある場合は車両減速(制動)が行われて車両停止したときに変速比γが最大変速比γmaxへ戻らなくとも第1電動機M1の出力トルクで発進性能を確保できるため、蓄電装置68の出力が十分にある場合は変速比が小さくされる。尚、実際の充電容量SOCが充電容量判定値SOC’よりも低くS100の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。
【0062】
尚、図9のフローチャートにおいて、S70〜S120は、S60における最大変速比γmaxのHi側への変更を制限するものであるともいえる。また、S70〜S120は、出力軸回転速度NOUTに拘わらず最大変速比γmaxをHi側へ変更するものであるともいえる。
【0063】
上述のように、本実施例によれば、モータ走行の際に、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放され、無段変速機20の変速比γが最大変速比(最低速側変速比)γmax(最Lo)とされるので、モータ走行中にエンジン8側における引き摺りトルクが発生せず駆動効率の低下が防止されると共に、最大変速比γmaxにより再発進時の発進性能が確保される、すなわち車両停止の際には最大変速比γmaxとされてモータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下が抑制される。
【0064】
また、本実施例によれば、モータ走行の際に、無段変速機20の変速応答性に基づいて最大変速比γmaxが変更されるので、例えば変速応答性が早くて、車両減速(制動)時に変速比γを最大変速比γmaxへ早く戻せるようなときには、最大変速比γmaxを例えばエンジン走行の際の車両状態に応じた高速側の変速比γへ変更することができたり、或いはまた無段変速機20を効率の良い変速比γとすることができると共に、モータ走行から車両停止する場合にその高速側へ変更された変速比γを最大変速比γmaxへ戻すことができる。よって、モータ走行の際にエンジン8が始動させられる場合にモータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われたり、或いはまた無段変速機20の効率を向上できると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる。具体的には、無段変速機20の変速作動に用いられる作動油の温度THCVTが高い程無段変速機20の変速応答性が早くなり、変速応答性が早い程最大変速比γmaxが高速側へ変更されるので、モータ走行からエンジン走行への切換えが車両状態に応じて適切に行うことができる。また、無段変速機20の効率を向上できる。また、最大変速比γmaxが高速側へ変更されたとしても変速応答性が早いことから、モータ走行から車両停止する場合に変速比γを最大変速比γmaxへ適切に戻すことができる。
【0065】
また、本実施例によれば、モータ走行の際に、走行路面の摩擦係数μに基づいて最大変速比γmaxが変更されるので、例えば走行路面の摩擦係数μが高くて、車両減速(制動)時に車輪がロックし難く、両プーリ40、42が回転し続けて変速比γを最大変速比γmaxへ戻すまでの時間が長くされるようなときには、最大変速比γmaxを例えばエンジン走行の際の車両状態に応じた高速側の変速比γへ変更することができたり、或いはまた無段変速機20を効率の良い変速比γとすることができると共に、モータ走行から車両停止する場合にその高速側へ変更された変速比γを最大変速比γmaxへ戻すことができる。よって、モータ走行の際にエンジン8が始動させられる場合にモータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われたり、或いはまた無段変速機20の効率を向上できると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる。具体的には、走行路面の摩擦係数μが高い程最大変速比γmaxが高速側へ変更されるので、モータ走行からエンジン走行への切換えが車両状態に応じて適切に行うことができる。また、無段変速機20の効率を向上できる。また、最大変速比γmaxが高速側へ変更されたとしても走行路面の摩擦係数μが高いことから、モータ走行から車両停止する場合に変速比γを最大変速比γmaxへ適切に戻すことができる。
【0066】
また、本実施例によれば、モータ走行の際に、電動機M1、M2の電力源である蓄電装置68の出力制限に基づいて最大変速比γmaxが変更されるので、例えば蓄電装置68の出力が十分にあって、車両減速(制動)時に変速比γが最大変速比γmaxへ戻らなくとも第1電動機M1の出力トルクすなわち第1電動機M1による駆動トルクで発進できるようなときには、最大変速比γmaxを例えばエンジン走行の際の車両状態に応じた高速側の変速比γへ変更することができたり、或いはまた無段変速機20を効率の良い変速比γとすることができると共に、モータ走行から車両停止する場合にその高速側へ変更された変速比γを最大変速比γmaxへ戻すことができなくとも第1電動機M1による駆動トルクで発進性能を確保することができる。よって、モータ走行の際にエンジン8が始動させられる場合にモータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われたり、或いはまた無段変速機20の効率を向上できると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる。具体的には、蓄電装置68の充電容量SOCが大きい程蓄電装置68の出力制限が緩和され、出力制限が緩和される程最大変速比γmaxが高速側へ変更されるので、モータ走行からエンジン走行への切換えが車両状態に応じて適切に行うことができる。また、無段変速機20の効率を向上できる。また、最大変速比γmaxが高速側へ変更されたとしても蓄電装置68の出力が十分にあることから、モータ走行から車両停止する場合に変速比γが最大変速比γmaxへ戻されなくとも発進性能が確保される。
【0067】
また、本実施例によれば、無段変速機20の出力軸回転速度NOUTに基づいて最大変速比γmaxが変更されるので、例えば出力軸回転速度NOUTが高くて、車両減速(制動)時に変速比γを最大変速比γmaxへ戻すまでの時間が長くされるようなときには、最大変速比γmaxを例えばエンジン走行の際の車両状態に応じた高速側の変速比γへ変更することができたり、或いはまた無段変速機20を効率の良い変速比γとすることができると共に、モータ走行から車両停止する場合にその高速側へ変更された変速比γを最大変速比γmaxへ戻すことができる。よって、モータ走行の際にエンジン8が始動させられる場合にモータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われたり、或いはまた無段変速機20の効率を向上できると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる。具体的には、出力軸回転速度NOUTが高い程最大変速比γmaxが高速側へ変更されるので、モータ走行からエンジン走行への切換えが車両状態に応じて適切に行うことができる。例えば、モータ走行が比較的高車速であっても、モータ走行中のエンジン始動時にエンジン回転速度Nが吹き上がることなくスムーズにモータ走行からエンジン走行へ移行させることできる。また、無段変速機20の効率を向上できる。また、最大変速比γmaxが高速側へ変更されたとしても出力軸回転速度NOUTが高いことから、モータ走行から車両停止する場合に変速比γを最大変速比γmaxへ適切に戻すことができる。
【0068】
また、本実施例によれば、無段変速機20はベルト式無段変速機であり、このような両プーリ40、42の回転中に変速比γを変更可能な無段変速機20すなわち両プーリ40、42が回転していない状態では変速比γの変更が不可能な無段変速機20を備える動力伝達装置10において、モータ走行の際にエンジン8が始動させられる場合にモータ走行からエンジン走行への切換えがスムーズ(速やか)に行われたり、或いはまた無段変速機20の効率を向上できると共に、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる。
【0069】
また、本実施例によれば、モータ走行の際には、変速比γの維持及び無段変速機20の少なくとも何れかの為の無段変速機20に対する仕事すなわち電動オイルポンプの出力がエンジントルクTが入力されるときと比較して低減されるので、モータ走行時の燃費が一層向上される。また、無段変速機20への仕事が低減されることで車両制動(停止)時に無段変速機20の変速比γが最大変速比γmaxへ戻され難くされてモータ走行から車両停止した際の発進性能が低下するという課題が顕著に生じる可能性があるが、上述したような各制御により最大変速比γmaxが高速側へ変更されるので、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下が抑制される。
【0070】
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0071】
図10は、第2実施例の動力伝達装置110を説明する骨子図である。図10では第1実施例の骨子図である図1に対し、ベルト式CVT変速装置である無段変速機20がトロイダル式CVT変速装置である無段変速機120に置き換わっている点が異なる。以下、その相違点について主に説明する。尚、本実施例の機能ブロック線図及びフローチャートは第1実施例のそれと同じである。
【0072】
図10において、動力伝達装置110は、ハイブリッド車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものである。そして、無段変速機120はその変速比γを機械的作用により連続的に変化させることができる無段の自動変速機として機能する所謂トロイダル式無段変速機である。この無段変速機120は、入力軸18に連結されその回転軸上で相対向する2つの入力ディスク122a,122b(以下、特に区別しない場合には「入力ディスク122」という)と、その2つ入力ディスク122a,122bの間において入力ディスク122a,122bのそれぞれに相対向して同軸上に設けられ出力軸22に作動的に連結された2つの出力ディスク124a,124b(以下、特に区別しない場合には「出力ディスク124」という)と、相対向するそれぞれの入力ディスク122a,122bと出力ディスク124a,124bとの間にその回転軸を対称軸として2つずつ合計4つ設けられたパワーローラ126a,126b,126c,126d(以下、特に区別しない場合には「パワーローラ126」という)とを備えている。そして、相対向する入力ディスク122と出力ディスク124とは互いが近付く方向に押圧され、それらの対向面はその間に設けられ入力軸18の回転軸と交差する回転軸を有する2つのパワーローラ126の外周面と摩擦力を発生して接触し、その接触を維持しつつパワーローラ126の回転軸が揺動可能となるように入力ディスク122及び出力ディスク124の相対向するパワーローラ126との接触面は円弧状断面を有している。このように構成された無段変速機120では、第1の動力伝達経路をなす一組の入力ディスク122a、パワーローラ126a,126b、出力ディスク124aと、第2の動力伝達経路をなす一組の入力ディスク122b、パワーローラ126c,126d、出力ディスク124bとが機械的配置としては入力軸18の回転軸上に直列に、動力伝達経路としては並列に設けられており、入力軸18から入力された駆動トルクは無段変速機120内の並列な2つの動流伝達経路でそれぞれ入力ディスク122、パワーローラ126、出力ディスク124の順に伝達され出力ディスク124に連結された出力軸22を経て駆動輪32へ伝達される。
【0073】
無段変速機120では、入力ディスク122と出力ディスク124とのそれぞれと外周面で摩擦接触するパワーローラ126の回転軸と入力軸18の回転軸とのなす角度θPRを4つのパワーローラ126で同時に同じ角度に変化させることによって、入力ディスク122におけるパワーローラ126との接触点の半径(有効径)と出力ディスク124におけるパワーローラ126との接触点の半径(有効径)との比が変化し無段変速機120の変速比γが連続的に変化する。具体的には、上記角度θPRが小さくされるほど、入力ディスク122における上記接触点の半径は大きくなるとともに出力ディスク124における上記接触点の半径は小さくなり、無段変速機120の変速比γは小さくなってハイギヤ側へ変化する。
【0074】
本実施例によれば、第1実施例に対し無段変速機120の機械的構造が異なるだけであるので、第1実施例の効果と同様の効果が得られる。
【0075】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0076】
例えば、前述の実施例では、無段変速機20とエンジン8との間の動力伝達経路を断接可能な係合装置として前後進切換装置16が有する前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1を例示したが、これに限らず、例えば前後進切換装置16は別に、無段変速機20とエンジン8との間に介在させられてその間の動力伝達経路を断接可能な係合装置であっても良い。
【0077】
また、前述の実施例では、所定の低速側変速比として最大変速比γmaxを例示したが、モータ走行から車両停止した際の再発進性能が確保されれば良く、例えば所定の低速側変速比は、エンジンを用いて走行するエンジン走行の際にハイブリッド制御手段82により車両状態に基づいて設定される目標のエンジン回転速度Nに対応する変速比γと比較して低速側に設定されるものであっても良い。
【0078】
また、前述の実施例では、モータ走行の際には、無段変速機20の変速比γの維持及び潤滑の為の無段変速機20に対する仕事すなわち電動オイルポンプの出力をエンジントルクTが入力されるときと比較して低減したが、モータ走行の際に必ずしも電動オイルポンプの出力を低減しなくとも良い。例えば、図9のフローチャートにおけるS30は必ずしも実施されなくとも良い。このようにしても、本実施例の一応の効果は得られる。
【0079】
また、前述の実施例では、車両用動力伝達装置10、110が備える変速部として無段変速機20、120を例示したが、他の種類の変速機例えば両プーリ40、42に巻き掛けられる動力伝達部材がベルト44ではなくチェーンである無段変速機、係合装置の係合と解放とにより変速段が切り換えられる良く知られた遊星歯車式の多段(有段)変速機等であっても本実施例は適用され得る。また、この有段変速機が油圧式摩擦係合装置以外の例えば電磁式係合装置等で変速段が切り換えられる変速機である場合には、変速機に対する仕事としては電動オイルポンプの出力ではなく例えば電磁式係合装置を作動させる為の電磁弁装置へ電力を供給する電力源の出力(具体的には例えば電流値)が対応し、モータ走行の際にはその電磁弁装置への電流量が減少させられる。
【0080】
また、前述の実施例における入力軸回転速度NINやそれに関連する目標入力軸回転速度NINなどは、それら入力軸回転速度NINなどに替えて、エンジン回転速度Nやそれに関連する目標エンジン回転速度Nなど、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)やそれに関連する目標変速比γなど、変速比γを制御するための変数例えばプライマリ側油圧シリンダへの作動油の供給排出流量やプライマリ圧Pinやそれらに関連する目標値など、シーブ位置やそれに関連する目標シーブ位置などであっても良い。尚、上記シーブ位置は、例えば変速比γが1であるときの入力側スライドプーリ46の位置を基準位置すなわちシーブ位置が零として、軸と平行方向におけるその基準位置からの入力側スライドプーリ46の絶対位置を表すものである。
【0081】
また、前述の実施例において、前後進切換装置16の遊星歯車装置16pはシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0082】
また、前述の実施例において、第2電動機M2はエンジンクランク軸14に直接連結され、第1電動機M1は出力軸22に直接連結されているが、それに限定されず、歯車機構、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0083】
また前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
【0084】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明が適用される車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図3】車両用動力伝達装置を操作するためのシフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図4】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】出力軸回転速度と無段変速機の変速比とで構成される二次元座標内において、出力軸回転速度が高い程最大変速比が高速側へ変更されるように予め実験的に求められて記憶された関係(車速−変速比マップ)の一例を示す図である。
【図6】作動油温と無段変速機の変速比とで構成される二次元座標内において、作動油温が高い程最大変速比が高速側へ変更されるように予め実験的に求められて記憶された関係(油温−変速比マップ)の一例を示す図である。
【図7】走行路面の摩擦係数と無段変速機の変速比とで構成される二次元座標内において、走行路面の摩擦係数が高い程最大変速比が高速側へ変更されるように予め実験的に求められて記憶された関係(摩擦係数−変速比マップ)の一例を示す図である。
【図8】蓄電装置の出力制限の緩和状態に対応する充電容量と無段変速機の変速比とで構成される二次元座標内において、充電容量が高い程(蓄電装置の出力制限が緩和される程)最大変速比が高速側へ変更されるように予め実験的に求められて記憶された関係(出力制限−変速比マップ)の一例を示す図である。
【図9】電子制御装置の制御作動の要部すなわちモータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図10】図1の車両用動力伝達装置の無段変速機をそれとは異なる構造の無段変速機に置換した第2実施例の骨子図である。
【符号の説明】
【0086】
8:エンジン
10:車両用動力伝達装置
20:無段変速機(変速部)
22:出力軸(出力側回転部材)
32:駆動輪
40:入力側プーリ(入力プーリ)
42:出力側プーリ(出力プーリ)
44:ベルト(動力伝達部材)
68:蓄電装置(電力源)
80:電子制御装置
120:無段変速機(変速部)
122a、122b:入力ディスク
124a、124b:出力ディスク
126a、126b、126c、126d:パワーローラ
B1:後進用ブレーキ(係合装置)
C1:前進用クラッチ(係合装置)
M1:第1電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な変速部と、該変速部とエンジンとの間の動力伝達経路を断接可能な係合装置とを備え、前記変速部を介して前記エンジンの動力が駆動輪へ伝達されると共に、前記変速部の出力側回転部材に動力伝達可能に電動機が連結される車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記電動機を用いて走行するモータ走行の際に、
前記係合装置を解放し、前記変速部の変速比を所定の低速側変速比とするものであり、
前記変速部の変速応答性に基づいて前記所定の低速側変速比を変更することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記変速部の変速応答性は、該変速部の変速作動に用いられる作動油の温度に基づいて判断されるものであり、
前記作動油の温度が高い程、前記変速応答性が早くなり、
前記変速応答性が早い程、前記所定の低速側変速比を高速側へ変更することを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な変速部と、該変速部とエンジンとの間の動力伝達経路を断接可能な係合装置とを備え、前記変速部を介して前記エンジンの動力が駆動輪へ伝達されると共に、前記変速部の出力側回転部材に動力伝達可能に電動機が連結される車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記電動機を用いて走行するモータ走行の際に、
前記係合装置を解放し、前記変速部の変速比を所定の低速側変速比とするものであり、
走行路面の摩擦係数に基づいて前記所定の低速側変速比を変更することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記走行路面の摩擦係数が高い程、前記所定の低速側変速比を高速側へ変更することを特徴とする請求項3に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な変速部と、該変速部とエンジンとの間の動力伝達経路を断接可能な係合装置とを備え、前記変速部を介して前記エンジンの動力が駆動輪へ伝達されると共に、前記変速部の出力側回転部材に動力伝達可能に電動機が連結される車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記電動機を用いて走行するモータ走行の際に、
前記係合装置を解放し、前記変速部の変速比を所定の低速側変速比とするものであり、
前記電動機の電力源の出力制限に基づいて前記所定の低速側変速比を変更することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記電動機の電力源の出力制限は、該電動機へ電力を供給する蓄電装置の充電容量に基づいて判断されるものであり、
前記充電容量が大きい程、前記出力制限が緩和され、
前記出力制限が緩和される程、前記所定の低速側変速比を高速側へ変更することを特徴とする請求項5に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記所定の低速側変速比は、前記エンジンを用いて走行するエンジン走行の際に車両状態に基づいて設定される変速比と比較して低速側に設定されるものであり、
車両停止の際には、車両再発進時に用いる為の予め設定された最低速側変速比とされることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記変速部の出力側回転部材の回転速度関連値に基づいて前記所定の低速側変速比を変更することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項9】
前記変速部の出力側回転部材の回転速度関連値が高い程、前記所定の低速側変速比を高速側へ変更することを特徴とする請求項8に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項10】
前記変速部は、変速比を連続的に変化させることが可能な無段変速機であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項11】
前記無段変速機は、入力ディスクと、出力ディスクと、前記ディスクの間で挟圧されて該ディスクを連動させるローラとを有し、前記ローラの傾きを変更して前記ディスク上における該ローラとの各接触点径の比で変速比を変更する変速機構であることを特徴とする請求項10に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項12】
前記無段変速機は、入力プーリと、出力プーリと、前記プーリに巻き掛けられて該プーリを連動させる動力伝達部材とを有し、前記プーリの各溝幅を変更して該プーリ上における前記動力伝達部材との各接触径の比で変速比を変更する変速機構であることを特徴とする請求項10に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項13】
モータ走行の際には、変速比維持及び潤滑の少なくとも何れかの為の前記変速部に対する仕事が低減されることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−116120(P2010−116120A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292723(P2008−292723)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】