説明

電磁誘導式自動走行車の停止制御方式

【課題】 停止エリア外では高速での走行が可能であり、停止エリア内では、停止位置の精度に優れた電磁誘導式自動走行車の停止制御方式を提供する。
【解決手段】 電磁誘導式自動走行車が停止エリアに入ったことが検出された場合には、駆動モータ4の回生制動と、ドラムブレーキ10a〜dとを用いて減速し、その後に停止信号が検出された場合には、あらかじめ設定されている走行距離を走行した後に、電磁クラッチブレーキ15を用いて停止をする。そして、あらかじめ設定されている走行距離と、実際の走行距離とを比較し、その差が設定範囲を超えているような場合には、前記電磁クラッチブレーキを解除し、前進又は後退の微調整走行をした後に、再び前記電磁クラッチブレーキを用いて停止をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行路に沿って敷設されている誘導線に沿って、自動操舵をしながら走行する電磁誘導式自動走行車の停止制御方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場内の製造現場においては、部品等を自動搬送をする車両として、電磁誘導式の自動走行車が用いられている。ここで、工場内では、自動走行車の走行路の地中には、1ループになるように誘導線が敷設されている。そして、これらの電磁誘導式の自動走行車は、該誘導線に低周波の交流電流を流すことによって発生する磁界を、車両に設置したコイル等を用いて検出して、敷設されている誘導線に沿って自動操舵をしながら走行するものである。
【0003】
これらの電磁誘導式の自動走行車は、工場内を走行と停止とを繰り返しながら自動操舵をしながら走行する。そして、停止時にはブレーキをかけて自動走行車をほぼ一定の位置に停止させるとともに、ロボット等を用いて搭載している部品等の積み下ろしをし、その後に再び自動で次の停止位置まで走行するという走行・停止パターンを繰り返している。なお、電磁誘導式自動走行車のブレーキとしては、駆動モータを用いる回生制動と、ドラムブレーキと、電磁ブレーキの3種類のブレーキを併用して制動させる方式が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、誘導線に添って走行中の自動走行車に加速・減速信号や停止信号等を与える方式として、一般的にはマグネットが用いられている。すなわち、走行路の地中にあらかじめマグネットを埋め込んでおき、車輌に設置したマグネットセンサによって、走行中にマグネットによる加速・減速等の信号を検出する方式が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
【特許文献1】特許3596389号公報
【特許文献2】特開2001−34340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、工場内でロボット等を用い、搭載している部品等を自動で積み下ろしをするには、自動走行車をほぼ一定の位置、例えばプラス・マイナスで50mm程度の精度になるようにブレーキをかけて、自動走行車を確実に停止させる必要がある。しかしながら、従来使用していた停止制御方式では、停止する位置にバラツキが生じて、精度よく自動走行車を停止させることができないという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、停止位置の精度に優れた電磁誘導式自動走行車の停止制御方式を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係わる電磁誘導式自動走行車の停止制御方式は、自動走行車が停止エリアに入った場合には、減速して走行をさせ、その後に停止信号が検出された後には、一定の距離を走行した後に電磁クラッチブレーキを用いて停止させることを特徴とするものである。さらに、自動走行車の停止をした位置が、あらかじめ設定した範囲を超えているような場合には、電磁クラッチブレーキを解除し、前進又は後退の微調整走行をした後に、再び、電磁クラッチブレーキを用いて停止させることを特徴とするものである。
【0009】
すなわち、請求項1の発明は、駆動モータによる回生ブレーキ、ドラムブレーキ及び電磁クラッチブレーキを用いる電磁誘導式自動走行車の停止制御方式において、
前記自動走行車は、停止エリアに入ったことが検出された場合には、駆動モータの回生制動とドラムブレーキとを用いて減速し、
その後に停止信号が検出された場合には、あらかじめ設定されている走行距離を走行し、前記電磁クラッチブレーキを用いて停止することを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記停止をした後において、前記あらかじめ設定されている走行距離と、実際の走行距離とを比較し、
その差が設定範囲を超えている場合には、前記電磁クラッチブレーキを解除し、前進又は後退の微調整走行をした後に、再び前記電磁クラッチブレーキを用いて停止をすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係わる停止制御方式を用いると、停止エリア以外では、比較的高速での走行が可能であり、停止エリア内では、停止位置の精度に優れた電磁誘導式自動走行車の停止制御方式を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する(図1〜3)。図2は、本発明の一実施例を示す電磁誘導式の自動走行車の構成を示すブロック図である。図3は、電磁誘導式自動走行車の構成のうちで、主要部である走行制御部のブロック図である。
【0013】
すなわち、自動走行車に搭載されている操作パネル24の自動/手動モード選択スイッチ27を、手動モードに設定すると、ステアリングハンドル7を用いた手動による運転ができる。一方、自動モードに切換えると走行路の地中に敷設されている誘導線に沿った自動運転が可能となる。なお、手動モードでの運転は、主に、誘導線が設置されている走行路を外れて走行したい場合などの特別な場合に用いられている。以下においては、本発明に係わる自動モードでの運転時における停止制御方式についての詳細な説明をする。
【0014】
1.電磁誘導式自動走行車の構成及び一般的な停止方式
図2に示すように、この自動走行車は、車体の前方中央に配置されている操舵モータ12の回転によりステアリング軸35を回転させ、舵取り機構25を動かして前車輪6c、dを自動で操舵をすることができる。そして、舵取り機構25の前方には、アーム34が装着されている。アーム34は、舵取り機構25及び前車輪6c、dとともに、連動して左右方向に動くことができる。
【0015】
アーム34の左右には、例えばコイルを用いた一対の誘導センサ16a、bが備えられている。走行路の地中に敷設されている図示されていない誘導線に、低周波の交流電流、例えば1000Hzの交流を流すことによって誘導線の上方に磁界を発生させる。そして、発生した磁界を、前記誘導線センサ16a、bで検出し、検出された誘導信号により、コントローラ2、操舵モータドライバ11を介して操舵モータ12を駆動し、ステアリング軸35を回転させて自動操舵をしている。
【0016】
自動走行中の自動走行車の走行速度も、コントローラ2で制御がされる。すなわち、後述するように、走行路の各エリアに応じてコントローラ2に設定されている目標速度となるような速度指令が、駆動モータドライバ3に出力され、駆動モータ4を回転させ、トランスミッション5を介して後車輪6a、bを回転させることによって車両が走行する。ここで、自動走行車の走行速度は、車速センサ20で測定され、コントローラ2に出力される。なお、車両の走行時には、駆動モータ4の回転軸に取り付けられた電磁クラッチブレーキ15に通電をすることによって、電磁ブレーキを開放した状態にしている。
【0017】
自動走行車が自動で減速や停止をする場合には、詳細には走行速度や走行路の傾斜状況などに依存するものの、駆動モータ4の回生制動によるブレーキや、車輪6a〜dのおのおのに取り付けられた油圧式のドラムブレーキ10a〜dを作動させて制動をかける。すなわち、コントローラ2は、制動指令を駆動モータドライバ3とブレーキモータドライバ14とに出力して車輌に制動をかける。
【0018】
駆動モータドライバ3は、駆動モータ4を用いて回生制動によるブレーキをかけ、その際に発生する回生電流によってバッテリ1が充電される。一方、ブレーキモータドライバ13は、ブレーキモータ14の回転により油圧シリンダ22を加圧して、油圧式のドラムブレーキ10a〜dを作動させて制動をかける。
【0019】
そして、上述した特許文献1に記載されているように、工場等の停止位置の精度を要求されないような通常の走行、例えばゴルフ場などでの走行では、駆動モータ4の回転を検出する車速センサ20の検出速度がゼロになると、コントローラ2は電磁クラッチブレーキ15を閉じることによって、後の車輪6a、bがロックされて、自動走行車は停止して駐車状態となる。すなわち、上述した特許文献1に記載されているように、車輌が完全に停止をしたことを確認した後に、電磁クラッチブレーキ15を閉じて駐車状態としている。
【0020】
2.本発明に係わる自動走行車の停止制御方式
図1は、本発明に係わる停止制御方式を示すフローチャートである。本発明を用いると、工場内での自動走行車のように、プラス・マイナスで50mm以内で停止させたいような、高い停止位置精度を要求されるような場合でも、目標とする停止位置に、確実に車輌を停止させることができる。以下において、本発明に係わる自動走行車の停止制御方式を、図1のフローチャート、及び、図3の自動走行車の走行制御部のブロック図を用いて詳細に説明する。
【0021】
ステップ10では、自動走行車がスタートすると、通常走行モードでの走行、例えば、6.5km/hの速度で走行を開始する。すなわち、後述するような停止エリア以外の通常のエリアでは、比較的高速での自動走行をしている。
【0022】
ステップ20では、自動走行車が停止エリア、例えば、自動走行車が停止して積荷を下ろしたり、さらに積み込んだりするエリアに入ったかどうかが判断される。ここで、上述した特許文献2に記載されているように、自動走行車の走行路の地中には、あらかじめマグネットを埋め込んでおき、その上方を自動走行車が通過すると、コントローラ2は、マグネットセンサ17からの信号によって特定エリア、例えば、停止エリアに入ったかどうかを判断することができる。ここで、特許文献2に記載されているように、複数個のマグネットを埋め込むことによって、きめ細かな速度制御をすることができる。
【0023】
そして、自動走行車が停止エリアに入っていない場合には、そのまま通常走行モードでの走行を続ける。一方、マグネットセンサ17からの信号によって、自動走行車が停止エリアに入ったと判断された場合には、ステップ30へ行く。
【0024】
ステップ30では、自動走行車の速度を減速させる減速走行モード、例えば、1km/hの速度で走行するように速度制御がされる。なお、通常走行モードから減速走行モードに入るには、コントローラ2は、駆動モータ4を用いる回生ブレーキと、ドラムブレーキ10a〜dとを併用して車輌を減速することができる。ここで、コントローラ2は、傾斜センサ18からの信号によって、下り坂の場合には、駆動モータ4を用いる回生ブレーキやドラムブレーキ10a〜dの制動を強くし、逆に、上り坂の場合には、駆動モータ4を用いる回生ブレーキやドラムブレーキ10a〜dの制動を弱く制御するようにした。
【0025】
ステップ40では、自動走行車に停止信号が入力されたかどうかが判断させる。この場合にも、上述した場合と同様に、マグネットセンサ17からの信号が用いられる。自動走行車に停止信号が入力されていない場合には、上述した減速走行モードのままで走行を続ける。一方、自動走行車に停止信号が入力された場合にはステップ50へ行く。
【0026】
ステップ50では、停止信号が入力された位置から、自動走行車が停止するまでの走行距離の設定値、すなわち、「あらかじめ設定されている走行距離」がコントローラ2に設定される(図1において、走行距離設定と記載している。)。例えば、コントローラ2には、あらかじめ設定されている走行距離として400mmと記憶される。
【0027】
ステップ60では、自動走行車の速度をさらに減速させて走行する停止走行モード、例えば、0.5km/hの速度で走行するようにした。この場合においても、コントローラ2は、駆動モータ4を用いる回生ブレーキと、ドラムブレーキ10a〜dとを併用して制動をかけるようにした。
【0028】
ステップ70では、走行距離として、停止信号が入力された位置からの自動走行車の実際の走行距離と、ステップ50で設定された「あらかじめ設定されている走行距離」とが比較される。ここで、自動走行車の走行距離は、車速センサ20で計測される自動走行車の走行速度(km/h)を、時間積分をする手法で算出することができる。なお、0.5km/h程度の遅い速度で走行する場合には、0.002秒ごとに自動走行車の走行速度(km/h)を計測して積算して距離と、それぞれ時間ごとの距離を加算していく通常の手法で自動走行車の走行距離を求めることができる。
【0029】
そして、自動走行車の走行距離が図1の設定値(すなわち、あらかじめ設定されている走行距離。)に達していない場合には、停止走行モードでの速度のままで走行を続ける。一方、自動走行車の走行距離が設定値に達した場合にはステップ80へ行く。
【0030】
ステップ80では、コントローラ2は電磁クラッチブレーキ15を閉じることによって、後の車輪6a、bをロックさせて、自動走行車は停止させるようにした。ここで、電磁クラッチブレーキ15を閉じ、後の車輪6a、bをロックさせて停止しているために、多少積荷の質量が変動をしたような場合でも、停止位置の精度を向上させて停止することができる。
【0031】
なお、停止走行モードでの走行速度は低速であり、本実施例の場合には0.5km/hであるので、電磁クラッチブレーキ15を閉じて後車輪6a、bをロックさせても停止の際のショックは、ほとんど感じなくすることができる。また、停止する際に電磁クラッチブレーキ15に加えて、駆動モータ4を用いる回生ブレーキやドラムブレーキ10a〜dを併用させて車輌に制動をかけることもできる。
【0032】
ステップ90では、停止後において、停止信号が入力されてから停止をするまでの自動走行車の実際の走行距離と、上述した設定値(すなわち、あらかじめ設定されている走行距離。)とが比較される。そして、それらの差が設定範囲内(例えば、プラス・マイナスで50mm以内。)であればストップをして終了する。一方、その差が設定範囲を超えているような場合には、ステップ100へ行く。自動走行車の走行路の傾斜角度や積載重量の多少によって、設定範囲を超えて停止をするような場合もあるためである。
【0033】
ステップ100では、コントローラ2は、電磁クラッチブレーキ15を解除した後に、自動走行車の走行距離が、設定範囲内(例えば、プラス・マイナスで50mm以内。)になるように、駆動モータ4を回転させ、低速での前進又は後退させる微調整走行をした後にストップをして終了するようにした。
【0034】
また、上述した実施例では、通常走行速度として、工場内での速度としては比較的高速な6.5km/hとしている。一方、これよりも遅い速度で通常走行をするような場合、例えば、通常走行速度として2km/h程度の場合には、停止エリアに入ったことの信号、減速信号、走行距離設定等を、ほぼ同時にコントローラ2に入力をするような制御をすることもできる。
【0035】
加えて、減速走行モードと停止走行モードの速度を一定値、例えば、0.5km/hになるように統一し、減速した走行とすることもできる。
【0036】
なお、自動走行車の走行路内に、人やその他の障害物の存在が障害物検出センサ36によって検出されたような場合には、停止エリアか否かに係わらず、駆動モータ4を用いる回生ブレーキ、ドラムブレーキ10a〜d及び電磁クラッチブレーキ15を併用させて緊急停止をすることは言うまでもない。
【0037】
上述したように、本発明に係わる自動走行車の停止制御方式を用いると、停止エリア以外では高速での走行が可能であり、停止エリア内では停止位置の精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係わる停止制御方式は、誘導線に沿って自動で走行する電磁誘導式自動走行車などの車両において利用をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係わる停止制御方式のフローチャートである。
【図2】自動走行車の構成を示すブロック図である。
【図3】自動走行車の走行制御部のブロックである。
【符号の説明】
【0040】
1:バッテリ、2:コントローラ、3:駆動モータドライバ、4:駆動モータ、
5:トランスミッション、6a,b:後車輪、6c,d:前車輪、
7:ステアリングハンドル、8:アクセルペダル、9:ブレーキペダル、
10a〜d:ドラムブレーキ、11:操舵モータドライバ、12:操舵モータ、
13:ブレーキモータドライバ、14:ブレーキモータ、15:電磁クラッチブレーキ、
16a、b:誘導センサ、17:マグネットセンサ、18:傾斜センサ、
19:ステアリングギアユニット、20:車速センサ、21:ギア、22:油圧シリンダ、
23:ブレーキモータドライバスイッチ、24:操作パネル、25:舵取り機構、
27:自動/手動モード選択スイッチ、34:アーム、35:ステアリング軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータによる回生ブレーキ、ドラムブレーキ及び電磁クラッチブレーキを用いる電磁誘導式自動走行車の停止制御方式において、
前記自動走行車は、停止エリアに入ったことが検出された場合には、駆動モータの回生制動とドラムブレーキとを用いて減速し、
その後に停止信号が検出された場合には、あらかじめ設定されている走行距離を走行し、前記電磁クラッチブレーキを用いて停止することを特徴とする電磁誘導式自動走行車の停止制御方式。
【請求項2】
前記停止をした後において、前記あらかじめ設定されている走行距離と、実際の走行距離とを比較し、
その差が設定範囲を超えている場合には、前記電磁クラッチブレーキを解除し、前進又は後退の微調整走行をした後に、
再び前記電磁クラッチブレーキを用いて停止をすることを特徴とする請求項1記載の電磁誘導式自動走行車の停止制御方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−126874(P2008−126874A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315037(P2006−315037)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】