説明

非水電解質電池、電池パック及び自動車

【課題】大電流での入出力特性の良好な非水電解質電池と、この非水電解質電池を備えた電池パック及び自動車を提供する。
【解決手段】正極3と、Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li+)以上の負極活物質を含む負極4と、前記正極3及び前記負極4の間に配置され、水銀圧入法による空隙率が50%以上で、空隙の水銀圧入法によるメディアン径がモード径よりも大きく、かつ前記モード径よりも前記負極の表面粗さが大きいセパレータ5と、非水電解質とを具備することを特徴とする非水電解質電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池と、非水電解質電池を用いた電池パックと、この電池パックを用いた自動車とに係わる。
【背景技術】
【0002】
パソコン、ビデオカメラ、携帯電話等の小型化に伴い、情報関連機器、通信機器の分野では、これらの機器に用いる電源として、高エネルギー密度であるという理由から、非水電解質電池が実用化され広く普及するに至っている。また一方で、自動車の分野においても、環境問題、資源問題から電気自動車の開発が急がれており、この電気自動車用の電源としても、非水電解質電池が検討されている。
【0003】
電気自動車用電源に用いられる二次電池は、その用途から、エネルギー密度が高いこと、つまり単位重量あるいは単位体積あたりの放電容量が大きいことが要求される。そして、減速時の運動エネルギーを回生するために、瞬時に大きな電流が電池に入力された場合であっても、効率的に充電が可能であることが要求されている。さらに、始動時、急発進時、急加速時等には、逆に、大きな出力、つまり大電流を瞬時に放電可能であることが要求されている。すなわち、電気自動車用電源としての二次電池には、大容量であることに加え、短時間における入出力特性が良好であることが望まれている。
【0004】
非水電解質電池の短時間における入出力特性を改善するための技術として、例えば特許文献1に示すような、非水電解質電池と電気二重層キャパシタとを組み合わせてハイブリッド素子を構成するという技術が知られている。この技術は、電気二重層キャパシタの容量成分によりハイブリッド素子の時定数を増加させ、短時間における電圧変化を小さくし、低温環境下での短時間における入出力特性を向上させるというものである。
【特許文献1】特開平10−294135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示す技術によると、短時間における入出力特性が向上される。しかしながら、非水電解質電池の他に、別途、電気二重層キャパシタを必要とし、素子の構成が複雑化し、また、そのコストも高いものとなってしまうという欠点を抱えている。
【0006】
本発明者は、鋭意研究および度重なる実験の結果、電気二重層キャパシタを非水電解質電池に組み合わせるのではなく、非水電解質電池自身が備える電気二重層容量を大きくすることによって、大電流での入出力特性が向上されることを見出した。
【0007】
本発明は、大電流での入出力特性の良好な非水電解質電池と、この非水電解質電池を備えた電池パック及び自動車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る非水電解質電池は、正極と、
Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li+)以上の負極活物質を含む負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置され、水銀圧入法による空隙率が50%以上で、空隙の水銀圧入法によるメディアン径がモード径よりも大きく、かつ前記モード径よりも前記負極の表面粗さが大きいセパレータと、
非水電解質と
を具備することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る電池パックは、複数の非水電解質電池を具備する電池パックであって、
前記複数の非水電解質電池は、正極と、
Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li+)以上の負極活物質を含む負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置され、水銀圧入法による空隙率が50%以上で、空隙の水銀圧入法によるメディアン径がモード径よりも大きく、かつ前記モード径よりも前記負極の表面粗さが大きいセパレータと、
非水電解質と
を具備することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る自動車は、複数の非水電解質電池を具備する電池パックを備え、
前記複数の非水電解質電池は、正極と、
Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li+)以上の負極活物質を含む負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置され、水銀圧入法による空隙率が50%以上で、空隙の水銀圧入法によるメディアン径がモード径よりも大きく、かつ前記モード径よりも前記負極の表面粗さが大きいセパレータと、
非水電解質と
を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、大電流での入出力特性の良好な非水電解質電池と、この非水電解質電池を備えた電池パック及び自動車を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
非水電解質電池の電気的特性を、図1に示す等価回路を用いて説明する。この等価回路では、電気二重層容量Cdlと反応抵抗Rctとの並列回路にオーム抵抗Rohmが直列に接続されている。この電池に電流Iを流したときの電圧の経時変化は、電流を流すと同時に略瞬間的に発生するオーム抵抗Rohmに起因した電圧変化ΔV0(=Rohm×I)と、それに加えて電気二重層容量Cdlと反応抵抗Rctとの積によって表される時定数τの大きさによって決定される時間に依存した電圧変化ΔV1との和で表される。なお、非水電解質電池では、正負極の活物質の種類あるいは非水電解質の濃度変化に起因した電圧変化も起こるが、数秒程度の短時間における入出力ではその影響が小さいことから、ここでは除外して考える。
【0013】
非水電解質電池のもつオーム抵抗Rohmおよび反応抵抗Rctの成分が大きい場合、同じ大きさの電流を流したときの電池電圧の変化は大きくなる。電池反応が不活性化する低温環境下においては、高温環境下に比べ、オーム抵抗Rohmおよび反応抵抗Rctが大きくなる。このため、電池電圧の変化が大きくなり、短時間における入出力特性が低下する。特に、非水電解質電池は、水系の電解液を用いた電池と比較して、その入出力特性の低下が顕著なものとなる。
【0014】
上記等価回路で示した電気二重層容量Cdlを大きくすることによって、電気二重層容量Cdlと反応抵抗Rctとの積によって表される時定数τが大きくなる。そして、時定数τを大きくすると、反応抵抗Rctに起因した電圧変化に時間的遅れが生じるため、充放電開始から数秒間程度の短時間における電池電圧の変化が抑制され、その結果として、大電流での入出力特性、特に、低温環境下における大電流での入出力特性が改善される。
【0015】
本発明は、Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li+)以上の負極活物質を含む負極と、水銀圧入法による空隙率が50%以上で、空隙の水銀圧入法によるメディアン径がモード径よりも大きく、かつ前記モード径よりも前記負極の表面粗さが大きいセパレータとを用いることにより、非水電解質電池の電気二重層容量が増加することを見出したことに基づくものである。
【0016】
セパレータの空隙率を50%以上にすると共に、空隙の水銀圧入法によるメディアン径をモード径よりも大きくすることによって、セパレータの非水電解質保持性を向上させることができる。また、モード径よりも負極の表面粗さを大きくすることによって、負極表面に対向するセパレータの空隙の密度(個数)を大きくすることができ、非水電解質の拡散性を向上させることができる。これらの結果、セパレータの濡れ面積と負極の反応面積が増加するため、大きな電気二重層容量が得られる。
【0017】
ここで、非水電解質電池の電気二重層容量には、電池の評価に一般的に用いられる交流インピーダンス法によって測定した値を採用する。この測定方法は、ポテンシオスタットと周波数応答解析装置とからなるインピーダンス測定システムを使用し、測定の対象となる非水電解質電池に微少な電圧振幅を与えて応答電流を解析するものである。測定対象とする非水電解質電池は、充電状態(SOC:state of charge)100%に45℃の環境温度下で初充電したものとする。測定条件は、25℃の環境温度下で、電圧振幅5mV、周波数範囲100kHz〜50mHzの電圧をかけるものとする。次いで、測定されたインピーダンスを複素平面上に表示し、これによって図2に示すような、Cole−Coleプロットを得る。Cole−Coleプロットに現れる円弧は、複数得られる場合もあるため、最も低い周波数域に表れる円弧を用い、その頂点の角周波数ω0と円弧の半径で表される反応抵抗Rctとから、1/(ω0×Rct)の式により、電気二重層容量を算出する。非水電解質電池の電気二重層容量には、このようにして得られた値を採用するものとする。
【0018】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0019】
(第一の実施の形態)
第一の実施形態に係る非水電解質電池の一例について、図3乃至図5を参照して詳細に説明する。図3は、第一の実施形態に係る非水電解質電池の一例であるリチウムイオン二次電池を示す断面図、図4は図3のA部を示す拡大断面図、図5は図3の二次電池における正極活物質含有層、多孔質性のセパレータ及び負極活物質含有層の境界付近を示す模式図である。
【0020】
図3に示すように、例えばフィルムからなる外装部材1内には、電極群2が収納されている。電極群2は、正極3と負極4がセパレータ5を介して偏平形状に捲回された構造を有する。図4に示すように、正極3は、正極集電体3aと、正極集電体3aの少なくとも片面に形成された正極活物質含有層3bとを含む。また、負極4は、負極集電体4aと、負極集電体4aの少なくとも片面に形成された負極活物質含有層4bとを含む。セパレータ5は、正極活物質含有層3bと負極活物質含有層4bの間に介在されている。
【0021】
図5に示すように、正極活物質含有層3b、負極活物質含有層4b及びセパレータ5は、いずれも多孔質である。非水電解質は、正極活物質含有層3b中の正極活物質粒子P1間に位置する空隙3cと、負極活物質含有層4b中の負極活物質粒子P2間に位置する空隙4cと、セパレータ5の空隙5aとに保持される。空隙5aに非水電解質を保持したセパレータ5は電解質板として機能する。これら空隙3c,4c,5aには、非水電解質と併せて接着性を有する高分子が保持されていても良い。
【0022】
帯状の正極端子6は、電極群6の正極集電体3aに接続されており、先端が外装部材1の外部に引き出されている。また、帯状の負極端子7は、電極群6の負極集電体4aに接続されており、先端が外装部材1の外部に引き出されている。正極端子6と負極端子7は、外装部材1の同じ辺から引き出されており、正極端子6の引き出し方向と負極端子7の引き出し方向が同一になっている。
【0023】
電極群2の最外層に負極集電体4aを位置させ、この最外層の表面の少なくとも一部を接着部で被覆しても良い。これにより、電極群2を外装部材1に接着することができる。
【0024】
以下、正極、負極、セパレータ、非水電解質及び外装部材について説明する。
【0025】
1)負極
この負極は、負極集電体と、負極集電体の片面もしくは両面に担持され、Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li+)以上の負極活物質を含有する負極活物質含有層を含む。
【0026】
負極活物質のリチウム吸蔵電位を前述した範囲に規定する理由を説明する。0.4V(vs. Li/Li+)よりも卑な電位でリチウムを吸蔵する活物質(例えば、黒鉛、リチウム金属など)では、大電流での入出力を繰り返すと負極表面上で金属リチウムが析出し、デンドライド状に成長する。空隙率が50%以上で、かつメディアン径がモード径よりも大きいセパレータには、大きな径を有する空隙が存在するため、デンドライド状に成長した金属リチウムがセパレータを貫通しやすい。よって、Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li+)未満の負極活物質を使用すると、大電流での入出力の際に内部短絡を生じる。
【0027】
リチウム吸蔵電位が0.4V(vs.Li/Li+)よりも貴な負極活物質を用いることによって、セパレータに大きな径の空隙が存在していても、負極表面上における金属リチウムの析出を抑制することができ、大電流での入出力の際の内部短絡を回避することができる。従って、負極活物質のリチウム吸蔵電位は、0.4V(vs. Li/Li+)以上であることが好ましく、上限値としては、3V(vs. Li/Li+)が好ましく、より好ましくは2V(vs. Li/Li+)である。
【0028】
0.4〜3V(vs. Li/Li+)の範囲でリチウムを吸蔵することが可能な負極活物質は、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、あるいは合金であることが好ましい。
【0029】
このような金属酸化物としては、例えば、チタン含有金属複合酸化物、例えばSnB0.40.63.1やSnSiO3などのスズ系酸化物、例えばSiOなどのケイ素系酸化物、例えばWO3などのタングステン系酸化物などが挙げられる。中でも、チタン含有金属複合酸化物が好ましい。
【0030】
チタン含有金属複合酸化物としては、例えば、酸化物合成時はリチウムを含まないチタン系酸化物、リチウムチタン酸化物、リチウムチタン酸化物の構成元素の一部を異種元素で置換したリチウムチタン複合酸化物などを挙げることができる。リチウムチタン酸化物としては、例えば、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(例えばLi4+xTi512(xは充放電により変化する値で、0≦x≦3))、ラムステライド型のチタン酸リチウム(例えばLi2+yTi37(yは充放電により変化する値で、0≦y≦3)などを挙げることができる。
【0031】
チタン系酸化物としては、TiO2、TiとP、V、Sn、Cu、Ni、Co及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する金属複合酸化物などが挙げられる。TiO2はアナターゼ型で熱処理温度が300〜500℃の低結晶性のものが好ましい。TiとP、V、Sn、Cu、Ni、Co及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する金属複合酸化物としては、例えば、TiO2−P25、TiO2−V25、TiO2−P25−SnO2、TiO2−P25−MeO(MeはCu、Ni、Co及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素)などを挙げることができる。この金属複合酸化物は、結晶相とアモルファス相が共存もしくは、アモルファス相単独で存在したミクロ構造であることが好ましい。このようなミクロ構造であることによりサイクル性能を大幅に向上することができる。中でも、リチウムチタン酸化物、TiとP、V、Sn、Cu、Ni、Co及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する金属複合酸化物が好ましい。特に、スピネル構造を有するリチウムチタン酸化物が好ましい。
【0032】
金属硫化物としては、例えば、例えばTiS2などのチタン系硫化物、例えばMoS2などのモリブデン系硫化物、例えば、FeS、FeS2、LixFeS2(0≦x≦4)などの鉄系硫化物などが挙げられる。
【0033】
金属窒化物としては、例えば、リチウム系窒化物(例えば、(Li,Me)3N{Meは遷移金属元素})などが挙げられる。
【0034】
負極活物質の平均粒径は1μm以下にすることが望ましい。また、負極活物質のN2吸着によるBET法での比表面積が1〜10m2/gであることが好ましい。平均粒子径が1μmより大きい、あるいは比表面積が1m2/g未満であると電極反応に寄与する有効面積が小さく、大電流放電特性が低下する恐れがある。また、比表面積が10m2/gを超えると、負極と非水電解質との反応量が増加するため、充放電効率の低下や、貯蔵時のガス発生を誘発する恐れがでてくる。なお、平均粒径が小さ過ぎると、非水電解質の分布が負極側に偏り、正極での電解質の枯渇を招く恐れがあるため、その下限値は0.001μmにすることが好ましい。
【0035】
負極の表面粗さRa(-)は、セパレータの空隙の水銀圧入法によるモード径よりも大きい。負極の表面粗さRa(-)をモード径よりも小さくすると、非水電解質の拡散性が低下するため、セパレータと負極の界面の電気二重層容量が低下し、大電流での入出力特性が改善されない。また、負極の表面粗さRa(-)は、0.1μm以上、0.6μm以下にすることが好ましい。これにより、非水電解質による副反応を抑えつつ、非水電解質との濡れ面積を十分に確保することができるため、入出力特性と併せてサイクル特性を改善することができる。負極の表面粗さRa(-)のより好ましい範囲は、0.15〜0.40μmである。
【0036】
負極の表面粗さRa(-)のモード径に対する比を2倍以下にすることが望ましい。これにより、負極とセパレータの界面の抵抗を低くすることができるため、大電流での入出力特性をより向上することができる。同時に、毛細管現象による非水電解質の拡散を促進することができるため、非水電解質の枯渇によるサイクル劣化を抑制することができる。
【0037】
負極の表面粗さRa(-)を、セパレータの空隙の水銀圧入法によるモード径及びメディアン径よりも大きくすることが望ましい。このような条件を満足するセパレータは、空隙の大きさの均一性がより高く、負極表面と対向する空隙の数をより多くすることができるため、大電流での入出力特性をより改善することができる。
【0038】
負極密度は、2g/cc以上にすることが望ましい。これは、負極密度を2g/cc未満にすると、0.1μm以上、0.6μm以下の表面粗さRa(-)を有する負極を得られない恐れがあるからである。さらに、平均粒径が1μm以下の負極活物質を使用することによって、0.1μm以上、0.6μm以下の表面粗さRa(-)を有する負極をより簡単な方法で得ることができる。負極密度のより好ましい範囲は、2〜2.5g/ccである。
【0039】
負極は、例えば、負極活物質に導電剤と結着剤を適当な溶媒に懸濁し、この懸濁物をアルミニウム箔などの集電体に塗布、乾燥、プレスして帯状電極にすることにより作製される。
【0040】
前記導電剤としては、コークスなどの炭素質物が用いられる。炭素質物の平均粒径は、ガス発生を効果的に抑制するためには、0.1μm以上であることが好ましく、良好な導電ネットワークを構築するために、10μm以下であることが好ましい。同様に、炭素質物の比表面積は、良好な導電ネットワークを構築するために、10m2/g以上であることが好ましく、ガス発生を効果的に抑制するためには、100m2/g以下であることが好ましい。
【0041】
前記結着剤としては、平均分子量が4×105以上20×105以下のポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いることができる。分子量がこの範囲にあるPVdFを用いることによって、負極集電体と負極活物質層の剥離強度を0.005N/mm以上にすることが可能となり、大電流特性が改善される。なお、平均分子量が20×105を超えると、十分な剥離強度は得られるが、塗液粘度が高くなりすぎて、塗工を適正に行うことが不可能となる。より好ましい平均分子量は、5×105以上、10×105以下である。
【0042】
前記負極活物質、導電剤及び結着剤の配合比は、負極活物質67〜97.5重量%、導電剤2〜28重量%、結着剤0.5〜5重量%の範囲にすることが好ましい。導電剤量を2重量%以上にすることによって、高い集電性能を得られるため、優れた大電流特性が得られる。一方、高容量化の観点からは、導電剤量は28重量%以下であることが好ましい。また、結着剤量を0.5重量%以上にすることによって、剥離強度を0.005N/mm以上にすることができる。一方、結着剤量を5重量%以下にすることによって、適切な塗液粘度が得られ、良好な塗工が可能となる。
【0043】
負極集電体は、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔であることが好ましい。負極集電体は、平均結晶粒径が50μm以下であることが好ましい。これにより、集電体の強度を飛躍的に増大させることができるため、負極を高いプレス圧で高密度化することが可能となり、電池容量を増大させることができる。また、高温環境下(40℃以上)における過放電サイクルでの負極集電体の溶解・腐食劣化を防ぐことができるため、負極インピーダンスの上昇を抑制することができる。さらに、出力特性、急速充電、充放電サイクル特性も向上させることができる。平均結晶粒径のより好ましい範囲は30μm以下であり、更に好ましい範囲は5μm以下である。
【0044】
平均結晶粒径は次のようにして求められる。集電体表面の組織を光学顕微鏡で組織観察し、1mm×1mm内に存在する結晶粒の数nを求める。このnを用いてS=1x106/n(μm2)から平均結晶粒子面積Sを求める。得られたSの値から下記(1)式により平均結晶粒子径d(μm)を算出する。
【0045】
d=2(S/π)1/2 (1)
前記平均結晶粒子径の範囲が50μm以下の範囲にあるアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔は、材料組成、不純物、加工条件、熱処理履歴ならび焼なましの加熱条件など多くの因子に複雑に影響され、前記結晶粒子径(直径)は、製造工程の中で、前記諸因子を組み合わせて調整される。
【0046】
アルミニウム箔およびアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。
【0047】
2)正極
この正極は、正極集電体と、前記正極集電体の片面もしくは両面に担持され、活物質及び結着剤を含む正極活物質含有層とを有する。
【0048】
前記正極活物質には、種々の酸化物、硫化物、ポリマー等を使用することができる。例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCoy2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiMnyCo1-y2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(LixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4など)、硫酸鉄(Fe2(SO43)、バナジウム酸化物(例えばV25)などが挙げられる。また、ポリアニリンやポリピロールなどの導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料、イオウ(S)、フッ化カーボンなどの有機材料および無機材料も挙げられる。
【0049】
より好ましい二次電池用の正極活物質として、高い電池電圧を得られるものを挙げることができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(LixMn24)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LixNi1-yCoy2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LixMnyCo1-y2)、リチウムリン酸鉄(LixFePO4)などが挙げられる。なお、x,yは0〜1の範囲であることが好ましい。
【0050】
また、正極活物質には、組成がLiaNibCocMnd2(但し、モル比a,b,c及びdは0≦a≦1.1、0.1≦b≦0.5、0≦c≦0.9、0.1≦d≦0.5)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いることが可能である。
【0051】
常温溶融塩を含む非水電解質を用いる際には、リチウムリン酸鉄、LixVPO4F、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物を用いることが、サイクル寿命の観点から好ましい。これは、上記正極活物質と常温溶融塩との反応性が少なくなるためである。
【0052】
正極は、例えば、正極活物質、正極導電剤及び結着剤を適当な溶媒に懸濁し、この懸濁し作製したスラリーを、正極集電体に塗布し、乾燥し、正極活物質含有層を作製した後、プレスを施すことにより作製される。その他、正極活物質、正極導電剤及び結着剤をペレット状に形成し、正極活物質含有層として用いても良い。
【0053】
前記導電剤としては、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等を挙げることができる。
【0054】
前記結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴムなどが挙げられる。
【0055】
前記正極活物質と導電剤と結着剤の配合比は、正極活物質80〜95重量%、導電剤3〜18重量%、結着剤2〜17重量%の範囲にすることが好ましい。
【0056】
前記正極集電体は、アルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましく、負極集電体と同様にその平均結晶粒径は50μm以下であることが好ましい。より好ましくは、30μm以下である。更に好ましくは5μm以下である。前記平均結晶粒径が50μm以下であることにより、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔の強度を飛躍的に増大させることができ、正極を高いプレス圧で高密度化することが可能になり、電池容量を増大させることができる。
【0057】
前記平均結晶粒径の範囲が50μm以下の範囲にあるアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔は、材料組織、不純物、加工条件、熱処理履歴、ならびに焼鈍条件など複数の因子に複雑に影響され、前記結晶粒径は製造工程の中で、前記諸因子を組合せて調整される。
【0058】
アルミニウム箔およびアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素、などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。
【0059】
正極の表面粗さRa(+)は、セパレータの空隙の水銀圧入法によるモード径より大きくすることが望ましい。これにより、正極表面に面するセパレータの空隙の個数を増加させて非水電解質との濡れ面積を大きくすることができるため、セパレータと正極の界面の電気二重層容量を大きくすることができる。その結果、時定数が大きくなるため、大電流での入出力特性をさらに向上させることが可能となる。
【0060】
正極の表面粗さRa(+)は、0.1μm以上、0.6μm以下にすることが好ましい。これにより、非水電解質による副反応を抑えつつ、非水電解質との濡れ面積を十分に確保することができるため、入出力特性だけでなくサイクル特性をも改善することができる。正極の表面粗さRa(+)のより好ましい範囲は、0.15〜0.40μmである。
【0061】
正極の表面粗さRa(+)を、セパレータの空隙の水銀圧入法によるモード径及びメディアン径よりも大きくすることが望ましい。このような条件を満足するセパレータは、空隙の大きさの均一性がより高く、正極表面と対向する空隙の数をより多くすることができるため、大電流での入出力特性をより改善することができる。
【0062】
正極の表面粗さRa(+)のモード径に対する比を2倍以下にすることが望ましい。これにより、正極とセパレータの界面の抵抗を低くすることができるため、大電流での入出力特性をより向上することができる。同時に、毛細管現象による非水電解質の拡散を促進することができるため、非水電解質の枯渇によるサイクル劣化を抑制することができる。
【0063】
正極密度は、3g/cc以上にすることが望ましい。これは、正極密度を3g/cc未満にすると、0.1μm以上、0.6μm以下の表面粗さRa(+)を有する正極を得られない恐れがあるからである。
【0064】
負極の表面粗さRa(-)及び正極の表面粗さRa(+)には、JIS B 0601(1994)またはJIS B 0031(1994)で規定される算術平均粗さRaが使用される。
【0065】
3)セパレータ
セパレータには多孔質セパレータを用いる。
【0066】
多孔質セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、またはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、合成樹脂製不織布等を挙げることができる。中でも、ポリエチレンか、あるいはポリプロピレン、または両者からなる多孔質フィルムは、二次電池の安全性を向上できるため、好ましい。
【0067】
セパレータの水銀圧入法による空隙率は50%以上であることが好ましい。非水電解質の保持性を向上させ、入出力密度を向上させるという観点から、50%以上であることが好ましい。また、電池の安全性を保持するという観点から空隙率は70%以下であることが好ましい。空隙率のより好ましい範囲は、50〜65%である。
【0068】
セパレータの水銀圧入法による細孔径分布からメディアン径及びモード径を求めることができる。ここで、モード径とは、横軸に細孔径を設け、縦軸に頻度を設けた細孔径分布曲線のピークトップを指す。また、メディアン径は、累積体積頻度が50%での細孔径である。
【0069】
セパレータの空隙の水銀圧入法によるメディアン径をモード径よりも大きくする。このようなセパレータは、大きな径の空隙が多く存在するため、セパレータの抵抗を小さくすることができる。
【0070】
セパレータは高温環境下に晒されるほど、高電位(酸化雰囲気)環境に晒されるほど、抵抗が増加する。すなわち、セパレータ自身の変質、電極表面で生じる副反応に伴う、反応生成物の堆積(セパレータの目詰まり)により、セパレータの抵抗が増加し、電池性能を低下させる。このとき、負極電位が低いと、正極と非水電解質の界面で生じる分解生成物の一部が、負極表面に堆積し易くなる。
【0071】
Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li+)以上の負極活物質を含む負極は、電位が高いため、分解生成物が負極側に析出し難く、セパレータの負極と接する空隙が閉塞されるのを抑えることができると共に、セパレータ自身の変質による空隙の閉塞も抑制することができる。このため、充電状態で高温環境に長時間晒されても、大電流性能の低下を格段に抑制することが可能となる。
【0072】
セパレータは、空隙の水銀圧入法によるモード径が0.05μm以上0.4μm以下であることが好ましい。モード径を0.05μm未満にすると、セパレータの膜抵抗が大きくなり、さらに高温・高電圧環境下でセパレータが変質して空隙が潰れるため、出力低下が懸念される。また、モード径が0.4μmより大きいと、セパレータのシャットダウンが均等に起こらずに、安全性が低下してしまう恐れがある。より好ましい範囲は0.10μm以上0.35μm以下である。
【0073】
セパレータは、空隙の水銀圧入法によるメディアン径が0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましい。メディアン径が0.1μmより小さいと、セパレータの膜抵抗が大きくなり、さらに高温・高電圧環境下でセパレータが変質して空隙が潰れ、出力が低下する恐れがある。また、メディアン径が0.5μmより大きいと、セパレータのシャットダウンが均等に起こらずに、安全性が低下するほか、毛細管現象による電解液の拡散が起こりにくくなり、電解液の枯渇によるサイクル劣化を誘発する。より好ましい範囲は0.12μm以上0.40μm以下である。
【0074】
4)非水電解質
この非水電解質には、液状非水電解質を使用することができる。
【0075】
液状非水電解質は、例えば、電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される。
【0076】
前記電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミトリチウム[LiN(CF3SO22]などのリチウム塩が挙げられる。
【0077】
前記電解質は、有機溶媒に対して、0.5〜2.5mol/Lの範囲で溶解させることが好ましい。
【0078】
前記有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)などの環状エーテル、ジメトキシエタン(DME)などの鎖状エーテル、γ−ブチロラクトン(BL)アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)等を挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独または2種以上の混合物の形態で用いることができる。
【0079】
また、液状非水電解質として、リチウムイオンを含有した常温溶融塩を用いることができる。
【0080】
常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電源が通常作動すると想定される温度範囲をいう。電源が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては60℃程度であり、下限は−40℃程度、場合によっては−20℃程度である。
【0081】
リチウム塩としては、非水電解質電池に一般的に利用されているような、広い電位窓を有するリチウム塩が用いられる。たとえば、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22,LiN(C25SO2),LiN(CF3SC(C25SO23などを挙げられるが、これらの限定されるものではない。これらは、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。
【0082】
リチウム塩の含有量は、0.1〜3.0mol/Lであること、特に、1.0〜2.0mol/Lであることが好ましい。リチウム塩の含有量を0.1mol/L以上にすることによって、電解質の抵抗を小さくすることができるため、大電流・低温放電特性を向上することができる。リチウム塩の含有量を3.0mol/L以下にすることによって、電解質の融点を低く抑えて常温で液状を保つことが可能となる。
【0083】
常温溶融塩は、たとえば、式(1)で示される骨格を有する4級アンモニウム有機物カチオンを有するもの、あるいは、式(2)で示される骨格を有するイミダゾリウムカチオンを有するものである。
【0084】
【化1】

【0085】
【化2】

【0086】
但し、R1,R2は、Cn2n+1(n=1〜6)、R3はHまたはCn2n+1(n=1〜6)である。
【0087】
式(1)で示される骨格を有する4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、式(2)で示される骨格を有するイミダゾリウムカチオンが好ましい。
【0088】
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
また、アルキルピリジウムイオンとしては、N−メチルピリジウムイオン、N−エチルピリジニウムイオン、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、1−エチルー2メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0090】
なお、これらのカチオンを有する常温溶融塩は、単独で用いてもよく、または2種以上混合して用いても良い。
【0091】
式(2)で示される骨格を有するイミダゾリウムカチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0092】
ジアルキルイミダゾリウムイオンとしては、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
トリアルキルイミダゾリウムイオンとしては、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0094】
なお、これらのカチオンを有する常温溶融塩は、単独で用いてもよく、または2種以上を混合して用いても良い。
【0095】
5)外装部材
前記外装部材としては、板厚0.5mm以下の金属製容器や、板厚0.2mm以下のラミネートフィルム製容器を用いることができる。前記金属製容器としてアルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ステンレスなどからなる金属缶で角形、円筒形の形状のものが使用できる。金属製容器の板厚は0.2mm以下にすることがより望ましい。
【0096】
ラミネートフィルムには、金属箔が樹脂フィルムで被覆された多層フィルムを使用することができる。樹脂として、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子を用いることができる。
【0097】
金属製容器を構成するアルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性、放熱性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0098】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属缶は、平均結晶粒径が50μm以下であることが好ましい。より好ましくは30μm以下である。更に好ましくは5μm以下である。前記平均結晶粒径を50μm以下とすることによって、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属缶の強度を飛躍的に増大させることができ、より缶の薄肉化が可能になる。その結果、軽量かつ高出力で長期信頼性に優れた車載に適切な電池を実現することができる。
【0099】
6)負極端子
負極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が0.4V以上3V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から形成することができる。具体的には、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金、アルミニウムが挙げられる。接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料が好ましい。
【0100】
7)正極端子
正極端子は、リチウムイオン金属に対する電位が3V以上5V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料から形成することができる。具体的には、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金、アルミニウムが挙げられる。接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料が好ましい。
【0101】
第一の実施形態に係る非水電解質電池は、前述した図3乃至図5に示す構成のものに限らず、例えば、図6及び図7に示す構成にすることができる。図6は第一の実施形態に係る別の扁平型非水電解質二次電池を模式的に示す部分切欠斜視図で、図7は図6のB部の拡大断面図である。
【0102】
図6に示すように、ラミネートフィルム製の外装部材1内には、積層型電極群2が収納されている。積層型電極群2は、図7に示すように、正極3と負極4とをその間にセパレータ5を介在させながら交互に積層した構造を有する。正極3は複数枚存在し、それぞれが正極集電体3aと、正極集電体3aの両面に担持された正極活物質含有層3bとを備える。負極4は複数枚存在し、それぞれが負極集電体4aと、負極集電体4aの両面に担持された負極活物質含有層4bとを備える。それぞれの負極4の負極集電体4aは、一辺が正極3から突出している。正極3から突出した負極集電体4aは、帯状の負極端子7に電気的に接続されている。帯状の負極端子7の先端は、外装部材1から外部に引き出されている。また、ここでは図示しないが、正極3の正極集電体3aは、負極集電体4aの突出辺と反対側に位置する辺が負極4から突出している。負極4から突出した正極集電体3aは、帯状の正極端子6に電気的に接続されている。帯状の正極端子6の先端は、外装部材1の辺から外部に引き出されている。正極端子6が外装部材1から引き出されている方向は、負極端子7が外装部材1から引き出されている方向と反対向きである。
【0103】
電極群の構造として、前述した図3〜図5に示すような捲回構造、前述した図6,7に示す積層構造を挙げたが、優れた入出力特性に加え、高い安全性と信頼性を兼ね備えるために、電極群の構造を積層構造とすることが好ましい。更に、長期間使用した際にも高い大電流性能を実現させるためには、正極と負極を含む電極群が積層構造であって、図8に示されるようにセパレータを九十九に折って使用することが好ましい。帯状のセパレータ5は、九十九に折り重ねられている。九十九に折り重なったセパレータ5の最上層に短冊状の負極41が積層されている。セパレータ5同士が重なった部分に上から順番に短冊状の正極31、短冊状の負極42、短冊状の正極32、短冊状の負極43が挿入されている。このように九十九に折り重なったセパレータ5の間に正極3と負極4を交互に配置することによって、積層構造の電極群を得る。
【0104】
積層構造、さらにはセパレータを九十九折状にすることの理由を説明する。
【0105】
優れた大電流特性を実現させるためにセパレータのメディアン径をモード径よりも大きくしている。すなわち、セパレータ中に大きな細孔を存在させている。このため、セパレータ自身の突き刺し強度は低下することになる。正極及び負極をセパレータを介して渦巻き状に捲回した後、扁平形状に成型して捲回構造の電極群を得ると、エッジ部で電極が鋭角に曲げられることになり、活物質含有層が折れ、折れた活物質含有層がセパレータを突き破る頻度が高まる。すなわち、電池製造時の内部短絡により不良となる電池の頻度が大きくなってしまう。したがって、電極群は電極を曲げる必要がない積層構造とすることが好ましい。
【0106】
さらに、電極群を積層構造にした場合であっても、セパレータを九十九折状に配置させることが好ましい。セパレータのメディアン径をモード径よりも大きくし、セパレータ中に大きな細孔を存在させると、毛細管現象によるセパレータ内の非水電解質の移動度が低下する。セパレータが九十九に折られていると、正極および負極それぞれの3辺がセパレータを介さず直接非水電解質と触れるため、電極への非水電解質の移動がスムーズに行われる。よって長期間使用して電極表面で非水電解質が消費されても、非水電解質がスムーズに供給され、長期間に亘って優れた大電流特性(出入力特性)を実現することが可能となる。同じ積層構造であってもセパレータを袋状にするなどの構造を採用した場合、袋内に配された電極が非水電解質と直接触れるのは1辺のみであり、非水電解質をスムーズに供給することが難しい。よって、長期間の使用によって電極表面で非水電解質が消費された場合、非水電解質がスムーズに供給されず、使用頻度が高まるに伴い、大電流特性(出入力特性)が徐々に低下してしまう。
【0107】
以上のことより、正極と負極を含む電極群は積層構造であって、正極と負極を空間的に隔離するセパレータは九十九折状に配されることが好ましい。
【0108】
(第二の実施の形態)
第二の実施形態に係る電池パックは、第一の実施形態に係る非水電解質電池を複数有する。第一の実施形態に係る非水電解質電池を単電池とし、単電池を電気的に直列もしくは並列に接続し、組電池を構成することが望ましい。
【0109】
第一の実施の形態に係る非水電解質電池は組電池化に適しており、第二の実施の形態に係る電池パックは、サイクル特性に優れる。このことについて、説明する。
【0110】
非水電解質の保持性が向上すると、負極活物質表面全体を非水電解質と接触させることが可能となり、負極活物質内のリチウムイオン濃度が均等化し易くなる。その結果、過電圧がかかり難くなる、すなわち、局所的な過充電・過放電が起こり難くなるため、負極活物質の利用率を均等にすることができる。このことによって、電池の容量個体差やインピーダンスの個体差を極めて小さくすることが可能となる。その結果、例えば、直列接続の組電池において、電池容量の個体差にともなう満充電時の電池電圧ばらつきを減少できる。このため、第二の実施の形態に係る電池パックは、組電池の制御性に優れ、サイクル特性を向上できる。
【0111】
図9の電池パックにおける単電池21は、例えば、図3に示す扁平型非水電解質電池から構成されているが、特に限定されるものではない。図6に示すような扁平型非水電解質電池を使用しても良い。複数の単電池21は、正極端子6と負極端子7が突出している向きを一つに揃えて積層されている。図10に示すように、単電池21は、直列に接続されて組電池22をなしている。組電池22は、図9に示すように、粘着テープ23によって一体化されている。
【0112】
正極端子6および負極端子7が突出する側面に対しては、プリント配線基板24が配置されている。プリント配線基板24には、図10に示すように、サーミスタ25、保護回路26および外部機器への通電用の端子27が搭載されている。
【0113】
図9及び図10に示すように、組電池22の正極側配線28は、プリント配線基板24の保護回路26の正極側コネクタ29に電気的に接続されている。組電池22の負極側配線30は、プリント配線基板24の保護回路26の負極側コネクタ31に電気的に接続されている。
【0114】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検知するためのもので、検知信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路と外部機器への通電用端子との間のプラス側配線31a及びマイナス側配線31bを遮断できる。所定の条件とは、例えば、サーミスタの検出温度が所定温度以上になったとき、単電池21の過充電、過放電、過電流等を検知したとき等である。この検知方法は、個々の単電池21もしくは単電池21全体について行われる。個々の単電池21を検知する場合、電池電圧を検知してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検知してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図10の場合、単電池21それぞれに電圧検知のための配線32を接続し、これら配線32を通して検知信号が保護回路26に送信される。
【0115】
組電池22について、正極端子6および負極端子7が突出する側面以外の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート33が配置される。正極端子6および負極端子7が突出する側面とプリント配線基板24との間には、ゴムもしくは樹脂からなるブロック状の保護ブロック34が配置される。
【0116】
この組電池22は、各保護シート33、保護ブロック34およびプリント配線基板24と共に収納容器35に収納される。すなわち、収納容器35の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート33が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池22は、保護シート33及びプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。収納容器35の上面には、蓋36が取り付けられる。
【0117】
なお、組電池22の固定には、粘着テープ23に代えて、熱収縮テープを用いても良い。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮チューブを周回させた後、該熱収縮チューブを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0118】
なお、図9,10に示した単電池21は直列に接続されているが、電池容量を増大させるためには並列に接続しても良い。無論、組み上がった電池パックを直列、並列に接続することもできる。
【0119】
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。
【0120】
第二の実施の形態の電池パックの用途としては、大電流特性でのサイクル特性が望まれるものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。特に、車載用が好適である。
【0121】
なお、非水電解質としてプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびγ−ブチロラクトン(GBL)からなる群のうち、少なくとも2種以上を混合した混合溶媒、あるいはγ−ブチロラクトン(GBL)を含んだ場合、高温特性が望まれる用途が好ましい。具体的には、上述の車載用が挙げられる。
【0122】
(第三の実施形態)
第三の実施形態に係る自動車は、第二の実施形態に係る電池パックを備える。ここでいう自動車としては、二輪〜四輪のハイブリッド電気自動車、二輪〜四輪の電気自動車、アシスト自転車などが挙げられる。
【0123】
図11〜13は、内燃機関と電池駆動の電動機とを組み合わせて走行動力源としたハイブリッドタイプの自動車を示している。自動車の駆動力には、その走行条件に応じ、広範囲な回転数及びトルクの動力源が必要となる。一般的に内燃機関は理想的なエネルギー効率を示すトルク・回転数が限られているため、それ以外の運転条件ではエネルギー効率が低下する。ハイブリッドタイプの自動車は、内燃機関を最適条件で稼動させて発電すると共に、車輪を高効率な電動機にて駆動することによって、あるいは内燃機関と電動機の動力を合わせて駆動したりすることによって、自動車全体のエネルギー効率を向上できるという特徴を有する。また、減速時に車両のもつ運動エネルギーを電力として回生することによって、通常の内燃機関単独走行の自動車に比較して、単位燃料当りの走行距離を飛躍的に増大させることができる。
【0124】
ハイブリッド自動車は、内燃機関と電動機の組み合わせ方によって、大きく3つに分類することができる。
【0125】
図11には、一般にシリーズハイブリッド自動車と呼ばれるハイブリッド自動車50が示されている。内燃機関51の動力を一旦すべて発電機52で電力に変換し、この電力をインバータ53を通じて電池パック54に蓄える。電池パック54には本発明の第4の実施形態に係る電池パックが使用される。電池パック54の電力はインバータ53を通じて電動機55に供給され、電動機55により車輪56が駆動する。電気自動車に発電機が複合されたようなシステムである。内燃機関は高効率な条件で運転でき、電力回生も可能である。その反面、車輪の駆動は電動機のみによって行われるため、高出力な電動機が必要となる。また、電池パックも比較的大容量のものが必要となる。電池パックの定格容量は、5〜50Ahの範囲にすることが望ましい。より好ましい範囲は10〜20Ahである。ここで、定格容量とは、0.2Cレートで放電した時の容量を意味する。
【0126】
図12には、パラレルハイブリッド自動車と呼ばれるハイブリッド自動車57が示されている。付番58は、発電機を兼ねた電動機を示す。内燃機関51は主に車輪56を駆動し、場合によりその動力の一部を発電機58で電力に変換し、その電力で電池パック54が充電される。負荷が重くなる発進や加速時には電動機58により駆動力を補助する。通常の自動車がベースになっており、内燃機関51の負荷変動を少なくして高効率化を図り、電力回生なども合わせて行うシステムである。車輪56の駆動は主に内燃機関51によって行うため、電動機58の出力は必要な補助の割合によって任意に決定することができる。比較的小さな電動機58及び電池パック54を用いてもシステムを構成することができる。電池パックの定格容量は、1〜20Ahの範囲にすることができる。より好ましい範囲は5〜10Ahである。
【0127】
図13には、シリーズ・パラレルハイブリッド車と呼ばれるハイブリッド自動車59が示されている。シリーズとパラレルの両方を組み合わせた方式である。動力分割機構60は、内燃機関51の出力を、発電用と車輪駆動用とに分割する。パラレル方式よりもきめ細かくエンジンの負荷制御を行い、エネルギー効率を高めることができる。
【0128】
電池パックの定格容量は、1〜20Ahの範囲にすることが望ましい。より好ましい範囲は5〜10Ahである。
【0129】
上述した図11〜図13に示すようなハイブリッド自動車に搭載される電池パックの公称電圧は、200〜600Vの範囲にすることが望ましい。
【0130】
本発明の実施形態に係る電池パックは、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド自動車での使用に特に適している。
【0131】
電池パック54は、一般に外気温度変化の影響を受けにくく、衝突時などに衝撃を受けにくい場所に配置されるのが好ましい。例えば図14に示すようなセダンタイプの自動車では、後部座席61後方のトランクルーム62内などに配置することができる。また、座席61の下や後ろに配置することができる。電池重量が大きい場合には、車両全体を低重心化するため、座席の下や床下などに配置するのが好ましい。
【0132】
電気自動車(EV)は、自動車外部から電力を供給して充電された電池パックに蓄えられたエネルギーで走行する。よって、電気自動車は、他の発電設備などを用いて高効率に発電された電気エネルギーを利用することが可能である。また、減速時には自動車の運動エネルギーを電力として回生できるため、走行時のエネルギー効率を高くすることができる。電気自動車は二酸化炭素その他の排気ガスを全く排出しないため、クリーンな自動車である。その反面、走行時の動力はすべて電動機であるため、高出力の電動機が必要である。一般には一回の走行に必要なすべてのエネルギーを一度の充電で電池パックに蓄えて走行する必要があるため、非常に大きな容量の電池が必要である。電池パックの定格容量は、100〜500Ahの範囲にすることが望ましい。より好ましい範囲は200〜400Ahである。
【0133】
また、車両の重量に占める電池重量の割合が大きいため、電池パックは床下に敷き詰めるなど、低い位置に、かつ車両の重心から大きく離れない位置に配置することが好ましい。1回の走行に相当する大きな電力量を短時間のうちに充電するためには、大容量の充電器と充電ケーブルが必要である。このため、電気自動車は、それらを接続する充電コネクタを備えることが望ましい。充電コネクタには、電気接点による通常のコネクタを用いることができるが、電磁結合による非接触式の充電コネクタを用いても良い。
【0134】
図15には、ハイブリッドバイク63の一例を示す。二輪車の場合においても、ハイブリッド自動車と同様に、内燃機関64、電動機65、電池パック54を備えたエネルギー効率の高いハイブリッドバイクを構成することができる。内燃機関64は主に車輪66を駆動し、場合によりその動力の一部で電池パック54が充電される。負荷が重くなる発進や加速時には電動機65により駆動力を補助する。車輪66の駆動は主に内燃機関64によって行うため、電動機65の出力は必要な補助の割合によって任意に決定することができる。比較的小さな電動機65及び電池パック54を用いてもシステムを構成することができる。電池パックの定格容量は、1〜20Ahの範囲にすることができる。より好ましい範囲は3〜10Ahである。
【0135】
図16には、電動バイク67の一例を示す。電動バイク67は、外部から電力を供給して充電された電池パック54に蓄えられたエネルギーで走行する。走行時の動力はすべて電動機65であるため、高出力の電動機65が必要である。一般には一回の走行に必要なすべてのエネルギーを一度の充電で電池パックに蓄えて走行する必要があるため、比較的大きな容量の電池が必要である。電池パックの定格容量は、10〜50Ahの範囲にすることが望ましい。より好ましい範囲は15〜30Ahである。
【0136】
図17には、第三の実施形態に係る充電式掃除機の一例を示す。充電式掃除機は、掃除機の筐体70内に第2の実施形態に係る電池パックが収容されている。また、充電式掃除機は、置き台兼用の充電器71を備えている。電池パックの定格容量は、2〜10Ahの範囲にすることが望ましい。より好ましい範囲は2〜4Ahである。また、電池パックの公称電圧は、40〜80Vの範囲にすることが望ましい。
【0137】
[実施例]
以下に例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、発明の主旨を超えない限り本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
【0138】
(実施例1)
<正極の作製>
まず、正極活物質としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)粉末90重量%、アセチレンブラック3重量%、グラファイト3重量%及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)4重量%をN−メチルピロリドン(NMP)に加えて混合してスラリーとした。このスラリーを、厚さ15μmで、平均結晶粒子径が30μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布した後、乾燥し、プレスすることにより、電極密度が3.0g/cm3で、かつ表面粗さRa(+)が0.15μmの正極を作製した。
【0139】
<負極の作製>
負極活物質として、平均粒子径が0.7μmで、Li4Ti512で表され、Li吸蔵電位が1.55V(vs. Li/Li+)であるスピネル構造のチタン酸リチウムを用意した。この負極活物質と、導電材としてアセチレンブラックと、平均分子量4×105のポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを重量比95:2.5:2.5になるようにN−メチルピロリドン(NMP)溶液に加えて混合し、スラリーを調製した。得られたスラリーを、厚さが15μmで、平均結晶粒子径が30μmのアルミニウム箔に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより電極密度が2.2g/cm3である負極を作製した。なお、負極の表面粗さRa(-)は0.3μmであった。
【0140】
負極活物質の粒径測定は、レーザー回折式分布測定装置(島津SALD-300)を用い、まず、ビーカーに試料を約0.1gと界面活性剤と1〜2mLの蒸留水を添加して十分に攪拌した後、攪拌水槽に注入し、2秒間隔で64回光度分布を測定し、粒度分布データを解析するという方法にて測定した。
【0141】
また、Li吸蔵電位は以下に説明する方法で測定した。
【0142】
負極を2cm×2cmの大きさに切り出し、作用極とした。作用極と2.2cm×2.2cmのリチウム金属箔からなる対極とをグラスフィルター(セパレータ)を介して対向させ、作用極と対極とに触れぬようにリチウム金属を参照極として挿入した。これら電極を3極式ガラスセルに入れ、作用極、対極、参照極の夫々をガラスセルの端子に接続し、電解液(電解液の組成はエチレンカーボネートとγ-ブチロラクトンを1:2の体積比で混合した溶媒に1.5M/Lの四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)を溶解させたもの)を25mL注ぎ、セパレータと電極に充分に電解液が含浸された状態にし、ガラス容器を密閉した。作製したガラスセルを25℃の恒温槽内に配置し、0.1mA/cm2の電流密度で充電した際の作用極のリチウムイオン吸蔵電位を測定した。
【0143】
<セパレータ>
セパレータには、厚さ20μm、水銀圧入法による空隙率55%、空隙の水銀圧入法によるモード径0.18μm、メディアン径0.21μmのポリエチレン製の多孔質フィルムを用意した。
【0144】
セパレータの水銀圧入法による細孔径分布から、空隙率(気孔率)と、空隙のモード径及びメディアン径を求めた。細孔径分布の測定装置は、島津オートポア9520形を用いた。試料は、セパレータを約25×25mm2サイズに切断し、これを折りたたんで測定セルに採り、初期圧20kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)の条件で測定した。データ整理に当り、細孔比表面積は、細孔の形状を円筒形として計算した。
【0145】
なお、水銀圧入法の解析原理はWashburnの式(1)に基づく。
【0146】
D=−4γcosθ/P (1)式
ここで、Pは加える圧力、Dは細孔直径、γは水銀の表面張力(480dyne・cm-1)、θは水銀と細孔壁面の接触角で140°である。γ、θは定数であるからWashburnの式より、加えた圧力Pと細孔径Dの関係が求められ、そのときの水銀侵入容積を測定することにより、細孔径とその容積分布を導くことができる。測定法・原理等の詳細は、神保元ニら:「微粒子ハンドブック」朝倉書店、(1991)、早川宗八郎編:「粉体物性測定法」朝倉書店(1978)などを参照されたい。
【0147】
得られた細孔径分布を図17に示す。図17の右側の縦軸がlog微分分布(log differential intrusion)、左側の縦軸が累積分布(cumulative intrusion)を示す。モード径は、log微分分布のピークトップでの細孔径で、図17の場合、0.18μmである。また、メディアン径は、累積分布曲線における累積体積頻度が50%での細孔径で、図17の場合、0.21μmである。
【0148】
<電極群の作製>
正極、セパレータ、負極、セパレータの順番に積層され、セパレータが九十九折状に配置されるように電極群を構成した。これを90℃で加熱プレスすることにより、70×100mmで、厚さが3.0mmの偏平状電極群を作製した。得られた電極群を、厚さが40μmのアルミニウム箔とアルミニウム箔の両面に形成されたポリプロピレン層とから構成された厚さが0.1mmのラミネートフィルムからなるパックに収納し、80℃で24時間真空乾燥を施した。
【0149】
<液状非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)とγ−ブチロラクトン(BL)の混合溶媒(体積比率25:75)に電解質としての四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)を1.5mol/L溶解することにより液状非水電解質(非水電解液)を調製した。
【0150】
前記電極群を収納したラミネートフィルムパック内に前記液状非水電解質を注入した後、前記パックをヒートシールにより完全密閉し、前述した図6に示す構造を有し、80×120mmで、厚さが3.0mmの非水電解質二次電池を作製した。
【0151】
また、電気二重層容量を測定するため、以下に説明する方法で3極式セルを作製した。
【0152】
正極、負極をそれぞれ2cm×2cmに打ち抜いた。また、セパレータを3cm×3cmに打ち抜いた。正極と負極をその間にセパレータを挟んで対向させ、80℃で24時間真空乾燥を施し、3極式セル用電極群を得た。
【0153】
この3極式セル用電極群の近傍に、金属リチウムを参照電極として備えさせ、前記液状非水電解質とともに密閉容器に完全密閉し、3極式セルを作製した。
【0154】
(実施例2〜11、比較例1〜4,6)
正極と負極の表面粗さと、セパレータの空隙率、水銀圧入法によるモード径及びメディアン径を表1に示したものを用いる以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池及び3極式セルを作製した。
【0155】
(比較例5)
<負極の作製>
負極活物質として、平均粒子径が3μmで、Li吸蔵電位が0.15V(vs. Li/Li+)のグラファイトを用意した。この負極活物質と、導電材としてのアセチレンブラックと、平均分子量4×105のポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを重量比95:2.5:2.5になるようにN−メチルピロリドン(NMP)溶液に加えて混合し、スラリーを調製した。得られたスラリーを厚さが10μmの銅箔に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより電極密度が1.5g/cm3である負極を作製した。なお、このときの電極表面粗さは0.85μmであった。
【0156】
上述した負極と、表1に示した表面粗さの正極と、表1に示した空隙率、水銀圧入法によるモード径及びメディアン径を有するセパレータを用いる以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池及び3極式セルを作製した。
【0157】
作製した3極式セルを用いて、45℃初充電後、SOC100%で正極、負極それぞれの交流インピーダンス測定を行うことにより、それぞれの電気二重層容量を測定した。
【0158】
さらに、作製した二次電池を25℃環境下においてSOC50%まで5秒間で充電し、その際の入力密度(W/kg)を測定した。また、二次電池をSOC50%の状態に揃え、25℃環境下において5秒間で放電した際の出力密度(W/kg)を測定した。以上の結果を表1にまとめた。
【0159】
【表1】

【0160】
表1から明らかなように、実施例1〜11の電池は、電極の二重層容量が大きく、大電流での入出力特性に優れることが分かる。
【0161】
実施例1,9を比較すると、実施例1の電池の入出力特性が実施例9よりも優れており、負極の表面粗さRa(-)をメディアン径よりも大きくすることにより入出力特性が改善されることが理解できる。
【0162】
実施例1,4を比較すると、実施例4の電池の入出力特性が実施例1よりも優れており、正極の表面粗さRa(+)をモード径よりも大きくすることにより入出力特性が改善されることが理解できる。
【0163】
実施例1,4〜9,11を比較すると、実施例1,4〜9の電池の入出力特性が実施例11よりも優れており、負極の表面粗さRa(-)のモード径に対する比を2以下にすることにより入出力特性が改善されることが理解できる。
【0164】
また、正極表面粗さRa(+)と負極表面粗さRa(-)が0.1〜0.6μmの実施例1〜9,11の電池は、正極表面粗さRa(+)と負極表面粗さRa(-)が0.1μm未満の実施例10に比して入出力特性が優れており、入出力特性を改善するために正極表面粗さRa(+)と負極表面粗さRa(-)を0.1〜0.6μmにすることが望ましいことが理解できる。
【0165】
一方、空隙率が50%未満の比較例1、モード径が負極表面粗さRa(-)よりも大きい比較例2、空隙率が50%未満で、モード径が負極表面粗さRa(-)よりも大きい比較例3、モード径とメディアン径が等しい比較例4,6では、大電流での入出力特性が実施例1〜11に比して小さかった。
【0166】
また、0.4V(vs. Li/Li+)よりも卑な電位でリチウムを吸蔵する負極活物質である炭素質物を使用した比較例5では、空隙率が50%以上で、メディアン径がモード径よりも大きく、かつモード径よりも負極の表面粗さが大きいセパレータを使用しているにも拘わらず、大電流での入出力特性が実施例1〜11に比して小さかった。比較例5では、平均粒子径が3μmの炭素質物を負極活物質として使用しているため、負極製造時のプレス圧が低く、密度の低い負極が得られた。その結果、負極の表面粗さが0.6μmよりも大きくなり、負極表面からセパレータまでの距離が拡大し、負極とセパレータの密着性及び電解液の拡散性が低下し、入出力特性の低下に至った。さらに、入出力を繰り返した際、セパレータにリチウムが析出し、内部短絡を生じた。
【0167】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】非水電解質電池の電気的特性を説明するための等価回路図。
【図2】交流インピーダンス法によって測定されたインピーダンスを複素平面上に表示したCole−Coleプロットを示す特性図。
【図3】第一の実施形態に係わる扁平型非水電解質電池の断面模式図。
【図4】図3のAで示した円で囲われた部分を詳細に表す部分断面模式図。
【図5】図3の非水電解質電池における正極、セパレータ及び負極の境界付近を示す模式図。
【図6】第一の実施形態に係わる別の扁平型非水電解質二次電池を模式的に示した部分切欠斜視図。
【図7】図6のB部の拡大断面図。
【図8】第一の実施形態に係わる非水電解質電池で使用される積層構造の電極群を示す斜視図。
【図9】第二の実施形態に係る電池パックの分解斜視図。
【図10】図9の電池パックの電気回路を示すブロック図。
【図11】本発明の第三の実施形態に係るシリーズハイブリッド自動車を示す模式図。
【図12】本発明の第三の実施形態に係るパラレルハイブリッド自動車を示す模式図。
【図13】本発明の第三の実施形態に係るシリーズ・パラレルハイブリッド自動車を示す模式図。
【図14】本発明の第三の実施形態に係る自動車を示す模式図。
【図15】本発明の第三の実施形態に係るハイブリッドバイクを示す模式図。
【図16】本発明の第三の実施形態に係る電動バイクを示す模式図。
【図17】本発明の第三の実施形態に係る充電式掃除機を示す模式図。
【図18】実施例1の非水電解質電池で用いられるセパレータの水銀圧入法による細孔径分布を示す特性図。
【符号の説明】
【0169】
1…外装部材、2…電極群、3…正極、3a…正極集電体、3b…正極活物質含有層、3c…空隙、4…負極、4a…負極集電体、4b…負極活物質含有層、4c…空隙、5…セパレータ、6…正極端子、7…負極端子、P1…正極活物質粒子、P2…負極活物質粒子、21…単電池、22…組電池、23…粘着テープ、24…プリント配線基板、25…サーミスタ、26…保護回路、27…通電用端子、28…正極側配線、29…正極側コネクタ、30…負極側配線、31…負極側コネクタ、31a,31b,32…配線、33…保護ブロック、35…収納容器、36…蓋、50,57,59…ハイブリッド自動車、51,64…内燃機関、52…発電機、53…インバータ、54…電池パック、55,65…電動機、56,66…車輪、58…発電機を兼ねた電動機、60…動力分割機構、61…後部座席、62…トランクルーム、63…ハイブリッドバイク、67…電動バイク、70…筐体、71…置き台を兼ねた充電器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li+)以上の負極活物質を含む負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置され、水銀圧入法による空隙率が50%以上で、空隙の水銀圧入法によるメディアン径がモード径よりも大きく、かつ前記モード径よりも前記負極の表面粗さが大きいセパレータと、
非水電解質と
を具備することを特徴とする非水電解質電池。
【請求項2】
前記負極の表面粗さが前記メディアン径よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記負極の表面粗さの前記モード径に対する比が2以下であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記正極の表面粗さが前記モード径よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項5】
前記モード径が0.05μm以上、0.4μm以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の非水電解質電池。
【請求項6】
前記メディアン径が0.1μm以上、0.5μm以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の非水電解質電池。
【請求項7】
前記負極の表面粗さRaは0.1μm以上、0.6μm以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の非水電解質電池。
【請求項8】
前記セパレータの空隙率は、50%以上、70%以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の非水電解質電池。
【請求項9】
前記負極活物質は、リチウムチタン酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の非水電解質電池。
【請求項10】
前記リチウムチタン酸化物はスピネル構造を有することを特徴とする請求項9記載の非水電解質電池。
【請求項11】
前記負極活物質の平均粒径は1μm以下であることを特徴とする請求項9記載の非水電解質電池。
【請求項12】
前記負極は、50μm以下の平均結晶粒径を有するアルミニウムまたは50μm以下の平均結晶粒径を有するアルミニウム合金から形成された負極集電体を具備することを特徴とする請求項1〜11いずれか1項記載の非水電解質電池。
【請求項13】
前記正極と前記負極がその間に前記セパレータを介在させて交互に積層された積層構造を有することを特徴とする請求項1〜12いずれか1項記載の非水電解質電池。
【請求項14】
前記セパレータは帯状で、九十九に折り重ねられており、折り重なった部分の間に前記正極と前記負極が交互に挿入された積層構造を有することを特徴とする請求項1〜12いずれか1項記載の非水電解質電池。
【請求項15】
前記正極の一端部から引き出された正極端子と、前記負極の一端部から引き出された負極端子とを備え、前記正極端子の引き出し方向に対して前記負極端子の引き出し方向が反対向きであることを特徴とする請求項1〜14いずれか1項記載の非水電解質電池。
【請求項16】
複数の非水電解質電池を具備する電池パックであって、
前記複数の非水電解質電池は、正極と、
Li吸蔵電位が0.4V(vs. Li/Li+)以上の負極活物質を含む負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置され、水銀圧入法による空隙率が50%以上で、空隙の水銀圧入法によるメディアン径がモード径よりも大きく、かつ前記モード径よりも前記負極の表面粗さが大きいセパレータと、
非水電解質と
を具備することを特徴とする電池パック。
【請求項17】
前記負極の表面粗さが前記メディアン径よりも大きいことを特徴とする請求項16記載の電池パック。
【請求項18】
前記負極の表面粗さの前記モード径に対する比が2以下であることを特徴とする請求項16記載の電池パック。
【請求項19】
前記正極の表面粗さが前記モード径よりも大きいことを特徴とする請求項16記載の電池パック。
【請求項20】
請求項16記載の電池パックを備える自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−273143(P2007−273143A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94355(P2006−94355)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】